「金くれる人がいい人に決まってる」 組長が証言する“ヤクザと原発利権”

「ヤクザもそれを使う企業も、感覚的には昭和のまま」 原発潜入記者が見た、ヤクザとの“ズブズブ”の歴史 から続く
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30年近くヤクザを取材してきたジャーナリストの鈴木智彦氏は、あるとき原発と暴力団には接点があることを知る。そして2011年3月11日、東日本大震災が発生し、鈴木氏は福島第一原発(1F)に潜入取材することを決めた。7月中旬、1F勤務した様子を『ヤクザと原発 福島第一潜入記』(文春文庫)より、一部を転載する。(全2回の2回目/前編を読む)
いちいち値打ちを付けて話す親分に対し、これ以上の取材は無駄と判断して撤収した。
(写真はイメージ) iStock.com
原発利権を具体的に証言してくれたのは、広域指定暴力団の3次団体組長である。ナーバスな話だけあって、地域は“関東”としか明かせない。
暴力団関連の土木建築会社が狙うのは、原発の新規建設らしい。
「ずっと前から発電所関係だけじゃなくて……ああいうのはプラント工事っていうんだけど、化学工場とか、食品会社の設備とか、もともとそういう仕事にうちらの会社が入ってたわけだ。当時はヤクザの会社だってうるさく言われなかった。みんな仲良くやってたんだよ。労働組合っていうのか、労働基準協会の会員になることもできた。原発の仕事の場合、そこから『資格を取りませんか?』って誘ってくれる。急場のときは講師の資格を持った人を派遣してもらって資格を取らせたりすることもあった。

ただ狙うのは新規工事限定だ。一発工事のほうがはるかにラクだし、ヤクザに向いてる。面倒がないからな。民間会社なら定修(定期修理工事)、原発でいうなら定検(定期点検)ってのは2カ月くらいで終わってしまうし、ずっと営業しなきゃならないだろ。新規に入れば最低、2年くらい仕事が続く。その間はなにもせずに飯が食える。新規の工事に入り込めれば、うちらが顔を出す必要なんてない。現場の責任者に金渡して、月に1回くらい上の人間と飯でも食ってこい、と言っておけばいい。
それぞれの地域に必ず同業者の会社がある。そういったネットワークを使うこともあるが、自分たちで営業する時もあるよ。
ちょっとした大手の依頼で、たとえば製鉄所のメンテナンスに入ったとする。そこで偶然一緒になった人とか、そういうがりで『次になんかあったらお願いしますよ』って声をかけておくわけだ。もちろん俺たちは表に出ない。それは従業員にやらせる」
組長の会社は合計40人ほどの職人を抱えているという。ヤクザのフロントとすれば、かなりまともな会社といっていい。もちろん登記簿に暴力団員の名前は載っていない。親族すら会社にはいない。ここまで偽装されたら、フロント認定は難しい。
「俺に言わせればヤクザの看板は邪魔なんだ。まともに仕事していくなら、なんのメリットにもならねぇ。カタギをいじめるなんて論外だ。地元ではとくにそうだ。カタギにはよその土地のヤクザとトラブルを起こしてもらうのが一番ありがたい。話を丸くおさめて感謝され、恩を売れる。若い衆を懲役に行かせる必要もない。ただ、相手がこっちがヤクザだと忘れちまわないよう、社長連中を相手に野球賭博だけは続けてる。儲けはほとんどないんだけど、胴元をやってることで、みんなに俺がヤクザである意識を刷り込んでおくわけだ。野球(賭博)だけで食ってる組織とは違い、すべてみんなに還元してるよ。俺たちなりのサービスってことだ」

私が1Fで働いていた際も、業者間での野球賭博があった。
夏の甲子園のもので、ときおり旅館に顔を出すとオッズがプリントされたコピー用紙が部屋に置かれていた。同僚の親方たちは博奕に興味がないらしく、テーブルの片隅に放置されていたが、胴元が暴力団という可能性はある。
「そんな感じで普段の付き合いを大事にしておく。あちこちに種をまいて『こういう仕事があるんだけど、どうする?』という感じで話が来るのを待つ。きっかけは人夫出しが多い。いろんな会社から、誰かいないか? と頼まれて、自分のところで出来るならうけるし、出来ないなら他の職人を紹介する。
仕事はほとんど、資格や技術のいらない職種だ。重機のオペレーターがいれば、掃除したり、穴掘ったりするのは誰でもいい。元気で動けるヤツなら誰でも。そういった仕事の要員は、どこの会社でも自分のところでは抱えないんだ。社員を雇えば、保証などもきっちりしなきゃならないから面倒っていうことだ。だから単純な仕事……土木が多いんだけど、そういう人間はどの会社もアルバイトでいいじゃないか、となる。かといって、人を探すのもけっこう手間だし苦労する。大手が嫌がるこういった仕事が、俺たちのシノギのきっかけになる。

『急に10人ほど必要になったんだけど、誰かいないか? 1万円くらい出すから探してくれ』
という話が来たとする。俺たちなら、たちまちその要望に応えられる。職安に募集を出すより早いし、金もかからない。電話一本ですぐ人間が揃うから、業界にとっても便利なんだろう。
単価は安いね。でもアルバイトだから7000円くらいやっておけばいいじゃねぇか。これでも3000円は抜ける。10人もいれば1日当たり3万円になる。若いヤツなら十分飯は食えるだろう。でもその窓口になるためには、ちゃんとした書類の揃った会社じゃないとまずい。人夫出しをするだけならさほど問題ないけど、その橋渡しとして、うちらみたいなまともな会社がどうしても必要なんだ」
組長を擁護するわけではないが、彼が実質的な経営権を握っている会社は、どこをみても一般の土木建築業者と変わらない。まともという表現に虚偽や誇張はない。
わかりにくいかもしれないので解説する。
暴力団員の形態は個々によって多種多様だ。それぞれが個人事業主であり、同じ組織の組員でもシノギのやり方は違う。
一般的な暴力団はなんら生産的な活動をせず、他人が労働で得た金銭をガジる。不良や遊び人の延長に生きるこうした暴力団員は、正業を営んでいる場合でも経営にはほとんどタッチせず、暴力をちらつかせて強引にその上前をはねる。警察が盛んに喧伝するのはこの手の暴力団だ。が、これは都市部だから出来ることで、地縁・血縁をベースにした地方都市では、一方的な恐喝者として存在するケースはあまりない。暴力団と付き合う側にもなんらかのメリットはある。それは非合法サービスの提供だったり、表に出せないトラブルの解決だったり、裏社会の有名人とのパイプがステイタスだったりする。

この組長のように、反社会勢力と分類しにくい暴力団も多い。彼のように根が職人のヤクザがその代表格だ。地方都市ではいまだヤクザという看板が社会的効力を持っており、時に名誉なことと考えられる。たとえば土建業の社長がその名誉を手にするため、ヤクザ組織に加入したりする。
「ヤクザの看板が邪魔」とは言いながら、組長が暴力団を辞めないのは、地方によってそうした背景が現存するからだ。

この組長は自分の会社を20代の前半で立ち上げている。
起業当時、暴力団であっても正業を営んでいる分には、警察の取り締まり対象にはならなかった。犯罪行為が露呈すれば逮捕・起訴される。悪と正義の戦いは、極めてシンプルな論理で成り立っていた。が、社会の空気が変化し、博奕や売春斡旋、違法薬物売買、みかじめ料などの取り締まりが厳しくなるにつれ、伝統的資金源で稼いだアングラマネーはあらゆる産業に投資され、暴力団は社会のあちこちに根を張っていった。
「昔はどこも定修回りをしてたんだけどね。いまは警察がうるさいから地元の工事には入りにくい。だから東北の工事に関西のヤクザが来たり、関東の組織が入ったり、なにかと工夫が必要になる。
本来、定修も食い込めばいいシノギなんだよ。どの工場でもたいてい、1カ月くらいで終わっちまうが、そこが終わると同じ会社の別の場所に移る。サーカス団があちこちで公演していくようなもんで、それを専門にしてるヤクザもいた。なじみになると仕事がずーっとがっていくから、うまみはある。
でもいまはなかなかそれが出来ない。定期的な交際は警察の目に付きやすいからだ。いきなり会社を興し、こういった工事に入り込むのはまず不可能だろう。昔からの関係が続いていたとしても、社長の代が替われば切られるかもしれない。定修・定検に関しては、よほどちゃんとやらないと継続しない」
当時稼働していた九州の玄海原発についても質問した。
「東北のような場所……いまどきは珍しいだろうな。エアポケットというか、ヤクザ保護区というか。すぐに取り締まりが厳しくなるなんてことはないだろう。ヤクザは死にました、でも原発業者も死にました、ではまずい。殺したいのはヤクザだけなんだから、ピンポイントで効く抗がん剤を探さなきゃならない。

九州の原発……反対運動なんてないだろ。反対って、いったいどこが反対するのか分からない。電力会社っていうのはどこでも殿様商売っていうか、城下町を作ってる。なんだかんだで九州電力関連の仕事しているもんが多いんだろうから、反対運動はお約束ってことだ。
普通にサラリーマンしてる人たちなら、『放射能は嫌だ』っていうかもしれんが、金くれる人がいい人に決まってる。それに電気なかったら困るだろう。一般的に考えて。
『じゃあいいよ、電気は売ってやらない。電気停めますよ』そう居直られたらぐうの音もでない。俺たちから言わせれば、ヤクザのやり口と一緒だよ。暴力で脅すか、他の手段で威圧するか、それだけの違いだ」
九州の原発に企業進出する気はないか訊いてみた。
「世間が注目している場所に出張り、目立つなんて馬鹿のやることだ」

組長の見解はもっともだった。愚問だったかもしれない。
九州は地元組織が強く、おまけにヤクザの過密地帯だ。福岡県だけで指定暴力団が5団体もあり、他の独立組織や山口組系有力団体も多い。2006年6月に勃発した道仁会vs.九州誠道会の分裂抗争は、一触即発の緊張状態が続き、収束の気配が見えない。ヤクザ激戦区のため警察の取り締まりも厳しい。全国に普及した暴排運動は、九州から始まったのだ。
(鈴木 智彦/文春文庫)