「実質的にはただの水洗い」洗たくマグちゃんは無意味だと言える”科学的な理由”

環境問題に関心を持ち、環境に負荷をかけないようにと、マグネシウム洗濯、洗濯ボールや洗濯リングなど、石けん・洗剤を使わないで洗濯する人たちがいます。
洗濯マグネシウムの「アルカリで洗う」という“科学的”な理屈に納得して使用していた人もいたでしょう。
ところが、マグネシウム洗濯製品には効果の根拠がないとして、消費者庁から景品表示法違反の措置命令が出されました。
洗濯の科学を含む界面化学を学生時代に専攻し、また暮らしのなかのニセ科学について啓発活動をしている立場から、このケースを考えてみることにしましょう。
消費者庁は4月27日、洗濯補助用品「洗たくマグちゃん」「ベビーマグちゃん」「ランドリーマグちゃん」は、洗濯機に入れると、マグネシウムの効果で洗剤を使わずに洗濯できると表示したのは根拠がなく、景品表示法違反(優良誤認)に当たるとして、販売した「宮本製作所」(茨城県)に再発防止を求める措置命令を出しました。
景品表示法(「不当景品類及び不当表示防止法」の略称)とは、商品・サービスを実際よりも優良にみせかける優良誤認表示などを禁じている法律です。
これらの製品は、布製の袋に粒状の金属マグネシウムが入っている商品です。同庁によると、宮本製作所は商品を洗濯機に入れると、「ご家庭の水道水がアルカリイオンの水素水に変身! 洗剤を使わなくても大丈夫なお洗濯」「除菌試験により99%以上の抑制効果」などの効果をうたっていました。しかし、消費者庁が根拠の提示を求めたところ、同社からの資料は、効果を裏付けるような根拠を示すものとして認められませんでした。■「洗濯ボール」「洗濯リング」にも効果はない4月27日付の東京新聞(*1)によると「1リットル未満の小さなビーカーでの実験結果しかなく、家庭用の洗濯機での効果は確認できなかった。」「宮本製作所は『多大な迷惑を掛け、心よりおわびする。命令を真摯に受け止め、再発防止に努める』とのコメントを出した。」とあります。洗浄力や使いやすさなどから洗濯用の合成洗剤の生産量は合成洗剤97%、石けん3%です(*2)。合成洗剤や柔軟剤に添加される香料の強い香りが苦手な人、できるだけ使用量を減らしたい人などを中心に、石けん・洗剤を使わない製品に関心が向きました。そのひとつに「洗濯ボール」があります。鉱石の粒が入った丸いプラスチック容器を洗濯のときに一緒に入れると、鉱石が出す静電気で水の分子集団を細かくし、水分子の動きが活発になるので洗濯ものに水が浸透して汚れが落ちるという効果をうたっていました。ですが、その説明は科学的におかしいものです。実際に、洗浄力テストをしてみると、水だけで洗ったときと同様の効果しか得られませんでした。「洗濯リング」と呼ばれている商品も同様です(*3)。こうして怪しい製品は消えていったり、消費者から支持されなくなったのですが、そのなかでもアルカリ剤(重曹、セスキ炭酸ソーダ、酸素系漂白剤)で洗う方法は一定の支持を得ています。(*1)効果なし「洗たくマグちゃん」 実験は小さなビーカーのみ、宮本製作所「心よりおわび」(*2)日本石鹸洗剤工業会 (JSDA) 洗浄剤等の製品販売統計表(2020年1~12月)(*3)洗剤要らずを謳う「洗濯ボール」はエコという名のぼったくり?■重曹を使って洗濯すると肌触りが悪くなるこれらの商品の効果は水洗いの効果と変わらず、油汚れやタンパク質汚れ、襟や袖の汚れなどには効果はありません。重曹熱分解水(成分は炭酸ナトリウム)を使うと皮脂汚れと汗の臭いには水よりも効果的です。ですが、マイナス面として風合い(肌触り)が悪くなるという側面もあります(*4)。写真=iStock.com/new look casting※写真はイメージです – 写真=iStock.com/new look casting「洗濯マグちゃん」という“洗濯マグネシウム”を使った商品も、アルカリ剤と同様に、石けん・洗剤を使いたくない消費者から支持されてきました。マグネシウムと水が反応して洗濯水がアルカリ性になることによる洗浄効果や、使用時に発生する水素も洗濯に効果があると期待されたのです。マグネシウムは銀色の金属で、水に入れると水と反応して、水素ガスを発生しながら水酸化マグネシウムに変わります。水酸化マグネシウム水溶液はアルカリ性を示します。ただし、冷水とはあまり反応しません。また、粒状では粉末状と比べてずっと反応が弱いです。宮本製作所は1リットル未満の水に入れた場合のデータを提出したようですが、実際の洗濯機に入れた場合とは効果が大きく異なります。以下は、かつて一緒に石けん・洗剤の本を書いたLSアカデミー(生活を科学する会)代表 田嶋晴彦(薬学博士)さんのサイトです。(*4)uki☆uki☆せっけんライフ アルカリ助剤を使った洗濯は効果あるの?■洗濯マグネシウムの洗浄効果は水洗いと変わらない1リットルの水の場合、水のpH(酸性・アルカリ性の物差し。7より小さければ小さいほど酸性が強く、より大きければ大きいほどアルカリ性が強い)は、洗濯マグネシウムを入れる前の7.4から9.0に上昇し、水はアルカリ性になっていました。この結果だけ見ると、マグネシウムは効果があるようにも見えます。ところが、洗濯マグネシウムを実際の洗濯機に入れて、標準モードで10分水洗いを行ってみると、pHはほとんど変わりませんでした。何十リットルもの水がありますから、1リットルの水の場合とは全然違うのです。溶け出したマグネシウムの量も通常のアルカリ洗濯で使うアルカリ剤の量の1000分の1以下でした(*5)。マグネシウムと水の反応はとてもゆっくりで、洗濯の時間程度ではほとんど反応しないのです。つまり、“洗濯マグネシウム”だけで洗うことは、水だけで洗うことと同様なのです。水素水になるからという理屈は化学的にはなんの意味もありません。pHが水とほとんど変わらなかったということは、臭い菌への効果は水洗いと同じくほとんどないと考えられます。(*5)uki☆uki☆せっけんライフ マグネシウムで洗う?■主観的な感想は効果の根拠にはならない洗濯マグネシウムに限らず、洗濯ボールにしてもアルカリ剤にしても、「洗剤なしで洗える」という根拠がかなり主観的です。それは汚れを落とすということを客観的にテストしていない、とくに水だけの場合とそれを比較していないことが多いからです。例えば、『食品と暮らしの安全』No.306に、モニター30名に洗濯マグネシウムを使って汚れ落ちの調査をしたものがあります。「タオル、Tシャツ」「下着」「靴下、ストッキング」「ワイシャツ、ブラウス」「ズボン、スカート」「その他」について、アンケートでよく落ちた 少し落ちた あまり落ちない まったく落ちない を集計したものです。これでと回答した人が各種布地で平均59.5%あったから、洗濯効果が十分あると結論づけています。ですが、実際には洗濯マグネシウムを使用した際の水素は発生量もわずかですし、頑固に繊維に絡みついた汚れには効果はありません。この雑誌は、環境問題をいうなら、水洗いでかなりの汚れが落ちること、あらかじめ水で洗っておくと、本洗の洗浄効果を高め、よりきれいに仕上がることを述べるべきだったでしょう。写真=iStock.com/FotoDuets※写真はイメージです – 写真=iStock.com/FotoDuets一般家庭のふだんの洗濯物なら油・脂肪系の汚れが少ないので、水洗いだけでも石けん・洗剤を入れて洗濯したものと比べてもわからないくらいにきれいになります。■効果を確かめたければ厳密な実験を行うべき筆者からの、『食品と暮らしの安全』へのアドバイスですが水で洗った場合と比較するとよいでしょう。これを対照実験(ある条件の効果を調べるために、他の条件は全く同じにして、その条件のみを除いて行う実験)といいます。また、より厳格なテストをされるとよいでしょう。分析機器が使えない場合は、先の注(*4)にあるような口紅や牛脂を使って水洗い、“洗濯マグネシウム”、石けん・洗剤の比較をするのです。正確には、人工汚垢布(おこうふ)(人工汚染布ともいう。油・泥・タンパク質などが混じったかなり頑固な汚れを塗布した布。頑固な襟汚れをモデルにしている)を縫い付けたテストクロスを使って実験するのがいいでしょう。写真=iStock.com/tzahiV※写真はイメージです – 写真=iStock.com/tzahiVふつうの洗濯と同様に他の洗濯物を加え、水位を「中」、洗い8分、すすぎ2回、脱水5分で3回行い、選択後の布の光の反射率をはかり、反射率から洗浄率を求める実験を3回行って平均値を出すことで厳密な結果が得られます。例えば、北海道消費者センターは、このような方法で「重曹で洗濯、洗浄率は?」というテスト結果を報告しています(*6)。水よりも重曹を用いた方が洗浄率の上昇が見られます。一方で、洗濯マグネシウムと水でできる水酸化マグネシウムというアルカリは、マグネシウムが水と反応するのに時間がかかります。また、できるアルカリの量がわずかなため、重曹を溶かしたよりもアルカリ性がずっと弱く、洗浄力は水だけで洗う場合とほとんど変わらないのです。(*6)重曹で洗濯、洗浄率は?~液体石けん以外との併用は効果なし~■「科学的な用語」に騙されてはいけないすでに述べたように、洗濯マグネシウムのアルカリ剤としての効果はないに等しいのです。それが化学としての結論です。現在、小学校の理科では対照実験が推薦されています。このケースも、水で洗うことと比べるのです。水という溶媒(ものを溶かす液体)にはわれわれが考えている以上に洗浄効果があるのです。しかし、水が苦手な汚れがあります。それが油や脂肪の汚れです。そこで、仲の悪い水と油・脂肪の間を取り持って、油・脂肪汚れに取りついて繊維から引き離し、再付着させないのが石けん・洗剤です。石けん・洗剤の中心は水と油を取り持つ界面活性剤。それに、洗浄力を高めるための助剤や酵素なども働きます。「アルカリで洗う」「水素も汚れ落としに一役」など、アルカリなり水素なりの化学の用語があると、つい、「この話は化学的(科学的)な根拠があるに違いない」と思いがちです。「水素水」も、一部には科学的によいイメージがあります。私たちのまわりには、人びとの科学への信頼感を利用して、科学っぽい雰囲気をして、実は科学的にはおかしな説明が満ちあふれています。筆者はそれをニセ科学として世に警鐘を鳴らしてきました。ニセ科学かどうか見抜くのは大変です。今回のケースでいえば「対照実験」の重要性がわかりました。また、客観的に調べられているかも大切です。「思い」のアンケート調査の結果では根拠として弱すぎます。■既存の石けんや洗剤も環境に配慮されている筆者は学生時代、界面化学という石けん・洗剤で汚れを落とすしくみなどを研究する研究室に所属していました。その後、長らく中高理科教員、大学教員をしながら科学啓発とニセ科学問題を追及してきました。拙著『暮らしのなかのニセ科学』(平凡社新書)は、健康系ニセ科学についてまとめたものです。こんな本を一読しておくのもニセ科学へのセンスを磨く一助になるでしょう。筆者の周りにも実際にマグちゃんを使っている人がいますが、「汚れ落ちについては確かに水洗いとほぼ変わらないと感じているが、臭いが『水だけ』と『マグあり』ではまったく違う。わずかなpH変化でも、臭い菌の殺菌には効果があるのではないか」と語っています。ですが、友人が語る効果はあまりにも主観的です。臭い菌の除去には50℃程度のお湯に30分程度つけておいてから、その水(お湯)もあわせて洗濯機に入れて洗うことをおすすめします。マグちゃんを熱心に使っている消費者は、マグちゃんの使用が環境負荷の軽減に寄与していると信じているようです。ですが、現在発売されている石けん・洗剤は、汚れを取るために開発され、環境への影響もできるだけ小さくなるようなものに改良されています。洗浄力・環境負荷・人体への安全性などについて、今後も間違いなく進化し続けていくことでしょう。その方向を定めるのは、消費者の正しい理解以外にありません。———-左巻 健男(さまき・たけお)東京大学非常勤講師東京大学教育学部附属中・高等学校、京都工芸繊維大学、同志社女子大学、法政大学生命科学部環境応用化学科教授、同教職課程センター教授などを経て現職。東京学芸大学大学院教育学研究科理科教育専攻物理化学講座を修了。『RikaTan(理科の探検)』誌編集長、中学校理科教科書(新しい科学)編集委員。法政大学を定年後、精力的に執筆活動や講演会の講師を務める。『面白くて眠れなくなる物理』『面白くて眠れなくなる化学』『面白くて眠れなくなる地学』『怖くて眠れなくなる化学』(PHP研究所)、『身近にあふれる「科学」が3時間でわかる本』『身近にあふれる「微生物」が3時間でわかる本』(明日香出版社)、『絶対に面白い化学入門 世界史は化学でできている』(ダイヤモンド社)など著書多数。———-(東京大学非常勤講師 左巻 健男)
同庁によると、宮本製作所は商品を洗濯機に入れると、「ご家庭の水道水がアルカリイオンの水素水に変身! 洗剤を使わなくても大丈夫なお洗濯」「除菌試験により99%以上の抑制効果」などの効果をうたっていました。しかし、消費者庁が根拠の提示を求めたところ、同社からの資料は、効果を裏付けるような根拠を示すものとして認められませんでした。■「洗濯ボール」「洗濯リング」にも効果はない4月27日付の東京新聞(*1)によると「1リットル未満の小さなビーカーでの実験結果しかなく、家庭用の洗濯機での効果は確認できなかった。」「宮本製作所は『多大な迷惑を掛け、心よりおわびする。命令を真摯に受け止め、再発防止に努める』とのコメントを出した。」とあります。洗浄力や使いやすさなどから洗濯用の合成洗剤の生産量は合成洗剤97%、石けん3%です(*2)。合成洗剤や柔軟剤に添加される香料の強い香りが苦手な人、できるだけ使用量を減らしたい人などを中心に、石けん・洗剤を使わない製品に関心が向きました。そのひとつに「洗濯ボール」があります。鉱石の粒が入った丸いプラスチック容器を洗濯のときに一緒に入れると、鉱石が出す静電気で水の分子集団を細かくし、水分子の動きが活発になるので洗濯ものに水が浸透して汚れが落ちるという効果をうたっていました。ですが、その説明は科学的におかしいものです。実際に、洗浄力テストをしてみると、水だけで洗ったときと同様の効果しか得られませんでした。「洗濯リング」と呼ばれている商品も同様です(*3)。こうして怪しい製品は消えていったり、消費者から支持されなくなったのですが、そのなかでもアルカリ剤(重曹、セスキ炭酸ソーダ、酸素系漂白剤)で洗う方法は一定の支持を得ています。(*1)効果なし「洗たくマグちゃん」 実験は小さなビーカーのみ、宮本製作所「心よりおわび」(*2)日本石鹸洗剤工業会 (JSDA) 洗浄剤等の製品販売統計表(2020年1~12月)(*3)洗剤要らずを謳う「洗濯ボール」はエコという名のぼったくり?■重曹を使って洗濯すると肌触りが悪くなるこれらの商品の効果は水洗いの効果と変わらず、油汚れやタンパク質汚れ、襟や袖の汚れなどには効果はありません。重曹熱分解水(成分は炭酸ナトリウム)を使うと皮脂汚れと汗の臭いには水よりも効果的です。ですが、マイナス面として風合い(肌触り)が悪くなるという側面もあります(*4)。写真=iStock.com/new look casting※写真はイメージです – 写真=iStock.com/new look casting「洗濯マグちゃん」という“洗濯マグネシウム”を使った商品も、アルカリ剤と同様に、石けん・洗剤を使いたくない消費者から支持されてきました。マグネシウムと水が反応して洗濯水がアルカリ性になることによる洗浄効果や、使用時に発生する水素も洗濯に効果があると期待されたのです。マグネシウムは銀色の金属で、水に入れると水と反応して、水素ガスを発生しながら水酸化マグネシウムに変わります。水酸化マグネシウム水溶液はアルカリ性を示します。ただし、冷水とはあまり反応しません。また、粒状では粉末状と比べてずっと反応が弱いです。宮本製作所は1リットル未満の水に入れた場合のデータを提出したようですが、実際の洗濯機に入れた場合とは効果が大きく異なります。以下は、かつて一緒に石けん・洗剤の本を書いたLSアカデミー(生活を科学する会)代表 田嶋晴彦(薬学博士)さんのサイトです。(*4)uki☆uki☆せっけんライフ アルカリ助剤を使った洗濯は効果あるの?■洗濯マグネシウムの洗浄効果は水洗いと変わらない1リットルの水の場合、水のpH(酸性・アルカリ性の物差し。7より小さければ小さいほど酸性が強く、より大きければ大きいほどアルカリ性が強い)は、洗濯マグネシウムを入れる前の7.4から9.0に上昇し、水はアルカリ性になっていました。この結果だけ見ると、マグネシウムは効果があるようにも見えます。ところが、洗濯マグネシウムを実際の洗濯機に入れて、標準モードで10分水洗いを行ってみると、pHはほとんど変わりませんでした。何十リットルもの水がありますから、1リットルの水の場合とは全然違うのです。溶け出したマグネシウムの量も通常のアルカリ洗濯で使うアルカリ剤の量の1000分の1以下でした(*5)。マグネシウムと水の反応はとてもゆっくりで、洗濯の時間程度ではほとんど反応しないのです。つまり、“洗濯マグネシウム”だけで洗うことは、水だけで洗うことと同様なのです。水素水になるからという理屈は化学的にはなんの意味もありません。pHが水とほとんど変わらなかったということは、臭い菌への効果は水洗いと同じくほとんどないと考えられます。(*5)uki☆uki☆せっけんライフ マグネシウムで洗う?■主観的な感想は効果の根拠にはならない洗濯マグネシウムに限らず、洗濯ボールにしてもアルカリ剤にしても、「洗剤なしで洗える」という根拠がかなり主観的です。それは汚れを落とすということを客観的にテストしていない、とくに水だけの場合とそれを比較していないことが多いからです。例えば、『食品と暮らしの安全』No.306に、モニター30名に洗濯マグネシウムを使って汚れ落ちの調査をしたものがあります。「タオル、Tシャツ」「下着」「靴下、ストッキング」「ワイシャツ、ブラウス」「ズボン、スカート」「その他」について、アンケートでよく落ちた 少し落ちた あまり落ちない まったく落ちない を集計したものです。これでと回答した人が各種布地で平均59.5%あったから、洗濯効果が十分あると結論づけています。ですが、実際には洗濯マグネシウムを使用した際の水素は発生量もわずかですし、頑固に繊維に絡みついた汚れには効果はありません。この雑誌は、環境問題をいうなら、水洗いでかなりの汚れが落ちること、あらかじめ水で洗っておくと、本洗の洗浄効果を高め、よりきれいに仕上がることを述べるべきだったでしょう。写真=iStock.com/FotoDuets※写真はイメージです – 写真=iStock.com/FotoDuets一般家庭のふだんの洗濯物なら油・脂肪系の汚れが少ないので、水洗いだけでも石けん・洗剤を入れて洗濯したものと比べてもわからないくらいにきれいになります。■効果を確かめたければ厳密な実験を行うべき筆者からの、『食品と暮らしの安全』へのアドバイスですが水で洗った場合と比較するとよいでしょう。これを対照実験(ある条件の効果を調べるために、他の条件は全く同じにして、その条件のみを除いて行う実験)といいます。また、より厳格なテストをされるとよいでしょう。分析機器が使えない場合は、先の注(*4)にあるような口紅や牛脂を使って水洗い、“洗濯マグネシウム”、石けん・洗剤の比較をするのです。正確には、人工汚垢布(おこうふ)(人工汚染布ともいう。油・泥・タンパク質などが混じったかなり頑固な汚れを塗布した布。頑固な襟汚れをモデルにしている)を縫い付けたテストクロスを使って実験するのがいいでしょう。写真=iStock.com/tzahiV※写真はイメージです – 写真=iStock.com/tzahiVふつうの洗濯と同様に他の洗濯物を加え、水位を「中」、洗い8分、すすぎ2回、脱水5分で3回行い、選択後の布の光の反射率をはかり、反射率から洗浄率を求める実験を3回行って平均値を出すことで厳密な結果が得られます。例えば、北海道消費者センターは、このような方法で「重曹で洗濯、洗浄率は?」というテスト結果を報告しています(*6)。水よりも重曹を用いた方が洗浄率の上昇が見られます。一方で、洗濯マグネシウムと水でできる水酸化マグネシウムというアルカリは、マグネシウムが水と反応するのに時間がかかります。また、できるアルカリの量がわずかなため、重曹を溶かしたよりもアルカリ性がずっと弱く、洗浄力は水だけで洗う場合とほとんど変わらないのです。(*6)重曹で洗濯、洗浄率は?~液体石けん以外との併用は効果なし~■「科学的な用語」に騙されてはいけないすでに述べたように、洗濯マグネシウムのアルカリ剤としての効果はないに等しいのです。それが化学としての結論です。現在、小学校の理科では対照実験が推薦されています。このケースも、水で洗うことと比べるのです。水という溶媒(ものを溶かす液体)にはわれわれが考えている以上に洗浄効果があるのです。しかし、水が苦手な汚れがあります。それが油や脂肪の汚れです。そこで、仲の悪い水と油・脂肪の間を取り持って、油・脂肪汚れに取りついて繊維から引き離し、再付着させないのが石けん・洗剤です。石けん・洗剤の中心は水と油を取り持つ界面活性剤。それに、洗浄力を高めるための助剤や酵素なども働きます。「アルカリで洗う」「水素も汚れ落としに一役」など、アルカリなり水素なりの化学の用語があると、つい、「この話は化学的(科学的)な根拠があるに違いない」と思いがちです。「水素水」も、一部には科学的によいイメージがあります。私たちのまわりには、人びとの科学への信頼感を利用して、科学っぽい雰囲気をして、実は科学的にはおかしな説明が満ちあふれています。筆者はそれをニセ科学として世に警鐘を鳴らしてきました。ニセ科学かどうか見抜くのは大変です。今回のケースでいえば「対照実験」の重要性がわかりました。また、客観的に調べられているかも大切です。「思い」のアンケート調査の結果では根拠として弱すぎます。■既存の石けんや洗剤も環境に配慮されている筆者は学生時代、界面化学という石けん・洗剤で汚れを落とすしくみなどを研究する研究室に所属していました。その後、長らく中高理科教員、大学教員をしながら科学啓発とニセ科学問題を追及してきました。拙著『暮らしのなかのニセ科学』(平凡社新書)は、健康系ニセ科学についてまとめたものです。こんな本を一読しておくのもニセ科学へのセンスを磨く一助になるでしょう。筆者の周りにも実際にマグちゃんを使っている人がいますが、「汚れ落ちについては確かに水洗いとほぼ変わらないと感じているが、臭いが『水だけ』と『マグあり』ではまったく違う。わずかなpH変化でも、臭い菌の殺菌には効果があるのではないか」と語っています。ですが、友人が語る効果はあまりにも主観的です。臭い菌の除去には50℃程度のお湯に30分程度つけておいてから、その水(お湯)もあわせて洗濯機に入れて洗うことをおすすめします。マグちゃんを熱心に使っている消費者は、マグちゃんの使用が環境負荷の軽減に寄与していると信じているようです。ですが、現在発売されている石けん・洗剤は、汚れを取るために開発され、環境への影響もできるだけ小さくなるようなものに改良されています。洗浄力・環境負荷・人体への安全性などについて、今後も間違いなく進化し続けていくことでしょう。その方向を定めるのは、消費者の正しい理解以外にありません。———-左巻 健男(さまき・たけお)東京大学非常勤講師東京大学教育学部附属中・高等学校、京都工芸繊維大学、同志社女子大学、法政大学生命科学部環境応用化学科教授、同教職課程センター教授などを経て現職。東京学芸大学大学院教育学研究科理科教育専攻物理化学講座を修了。『RikaTan(理科の探検)』誌編集長、中学校理科教科書(新しい科学)編集委員。法政大学を定年後、精力的に執筆活動や講演会の講師を務める。『面白くて眠れなくなる物理』『面白くて眠れなくなる化学』『面白くて眠れなくなる地学』『怖くて眠れなくなる化学』(PHP研究所)、『身近にあふれる「科学」が3時間でわかる本』『身近にあふれる「微生物」が3時間でわかる本』(明日香出版社)、『絶対に面白い化学入門 世界史は化学でできている』(ダイヤモンド社)など著書多数。———-(東京大学非常勤講師 左巻 健男)
しかし、消費者庁が根拠の提示を求めたところ、同社からの資料は、効果を裏付けるような根拠を示すものとして認められませんでした。■「洗濯ボール」「洗濯リング」にも効果はない4月27日付の東京新聞(*1)によると「1リットル未満の小さなビーカーでの実験結果しかなく、家庭用の洗濯機での効果は確認できなかった。」「宮本製作所は『多大な迷惑を掛け、心よりおわびする。命令を真摯に受け止め、再発防止に努める』とのコメントを出した。」とあります。洗浄力や使いやすさなどから洗濯用の合成洗剤の生産量は合成洗剤97%、石けん3%です(*2)。合成洗剤や柔軟剤に添加される香料の強い香りが苦手な人、できるだけ使用量を減らしたい人などを中心に、石けん・洗剤を使わない製品に関心が向きました。そのひとつに「洗濯ボール」があります。鉱石の粒が入った丸いプラスチック容器を洗濯のときに一緒に入れると、鉱石が出す静電気で水の分子集団を細かくし、水分子の動きが活発になるので洗濯ものに水が浸透して汚れが落ちるという効果をうたっていました。ですが、その説明は科学的におかしいものです。実際に、洗浄力テストをしてみると、水だけで洗ったときと同様の効果しか得られませんでした。「洗濯リング」と呼ばれている商品も同様です(*3)。こうして怪しい製品は消えていったり、消費者から支持されなくなったのですが、そのなかでもアルカリ剤(重曹、セスキ炭酸ソーダ、酸素系漂白剤)で洗う方法は一定の支持を得ています。(*1)効果なし「洗たくマグちゃん」 実験は小さなビーカーのみ、宮本製作所「心よりおわび」(*2)日本石鹸洗剤工業会 (JSDA) 洗浄剤等の製品販売統計表(2020年1~12月)(*3)洗剤要らずを謳う「洗濯ボール」はエコという名のぼったくり?■重曹を使って洗濯すると肌触りが悪くなるこれらの商品の効果は水洗いの効果と変わらず、油汚れやタンパク質汚れ、襟や袖の汚れなどには効果はありません。重曹熱分解水(成分は炭酸ナトリウム)を使うと皮脂汚れと汗の臭いには水よりも効果的です。ですが、マイナス面として風合い(肌触り)が悪くなるという側面もあります(*4)。写真=iStock.com/new look casting※写真はイメージです – 写真=iStock.com/new look casting「洗濯マグちゃん」という“洗濯マグネシウム”を使った商品も、アルカリ剤と同様に、石けん・洗剤を使いたくない消費者から支持されてきました。マグネシウムと水が反応して洗濯水がアルカリ性になることによる洗浄効果や、使用時に発生する水素も洗濯に効果があると期待されたのです。マグネシウムは銀色の金属で、水に入れると水と反応して、水素ガスを発生しながら水酸化マグネシウムに変わります。水酸化マグネシウム水溶液はアルカリ性を示します。ただし、冷水とはあまり反応しません。また、粒状では粉末状と比べてずっと反応が弱いです。宮本製作所は1リットル未満の水に入れた場合のデータを提出したようですが、実際の洗濯機に入れた場合とは効果が大きく異なります。以下は、かつて一緒に石けん・洗剤の本を書いたLSアカデミー(生活を科学する会)代表 田嶋晴彦(薬学博士)さんのサイトです。(*4)uki☆uki☆せっけんライフ アルカリ助剤を使った洗濯は効果あるの?■洗濯マグネシウムの洗浄効果は水洗いと変わらない1リットルの水の場合、水のpH(酸性・アルカリ性の物差し。7より小さければ小さいほど酸性が強く、より大きければ大きいほどアルカリ性が強い)は、洗濯マグネシウムを入れる前の7.4から9.0に上昇し、水はアルカリ性になっていました。この結果だけ見ると、マグネシウムは効果があるようにも見えます。ところが、洗濯マグネシウムを実際の洗濯機に入れて、標準モードで10分水洗いを行ってみると、pHはほとんど変わりませんでした。何十リットルもの水がありますから、1リットルの水の場合とは全然違うのです。溶け出したマグネシウムの量も通常のアルカリ洗濯で使うアルカリ剤の量の1000分の1以下でした(*5)。マグネシウムと水の反応はとてもゆっくりで、洗濯の時間程度ではほとんど反応しないのです。つまり、“洗濯マグネシウム”だけで洗うことは、水だけで洗うことと同様なのです。水素水になるからという理屈は化学的にはなんの意味もありません。pHが水とほとんど変わらなかったということは、臭い菌への効果は水洗いと同じくほとんどないと考えられます。(*5)uki☆uki☆せっけんライフ マグネシウムで洗う?■主観的な感想は効果の根拠にはならない洗濯マグネシウムに限らず、洗濯ボールにしてもアルカリ剤にしても、「洗剤なしで洗える」という根拠がかなり主観的です。それは汚れを落とすということを客観的にテストしていない、とくに水だけの場合とそれを比較していないことが多いからです。例えば、『食品と暮らしの安全』No.306に、モニター30名に洗濯マグネシウムを使って汚れ落ちの調査をしたものがあります。「タオル、Tシャツ」「下着」「靴下、ストッキング」「ワイシャツ、ブラウス」「ズボン、スカート」「その他」について、アンケートでよく落ちた 少し落ちた あまり落ちない まったく落ちない を集計したものです。これでと回答した人が各種布地で平均59.5%あったから、洗濯効果が十分あると結論づけています。ですが、実際には洗濯マグネシウムを使用した際の水素は発生量もわずかですし、頑固に繊維に絡みついた汚れには効果はありません。この雑誌は、環境問題をいうなら、水洗いでかなりの汚れが落ちること、あらかじめ水で洗っておくと、本洗の洗浄効果を高め、よりきれいに仕上がることを述べるべきだったでしょう。写真=iStock.com/FotoDuets※写真はイメージです – 写真=iStock.com/FotoDuets一般家庭のふだんの洗濯物なら油・脂肪系の汚れが少ないので、水洗いだけでも石けん・洗剤を入れて洗濯したものと比べてもわからないくらいにきれいになります。■効果を確かめたければ厳密な実験を行うべき筆者からの、『食品と暮らしの安全』へのアドバイスですが水で洗った場合と比較するとよいでしょう。これを対照実験(ある条件の効果を調べるために、他の条件は全く同じにして、その条件のみを除いて行う実験)といいます。また、より厳格なテストをされるとよいでしょう。分析機器が使えない場合は、先の注(*4)にあるような口紅や牛脂を使って水洗い、“洗濯マグネシウム”、石けん・洗剤の比較をするのです。正確には、人工汚垢布(おこうふ)(人工汚染布ともいう。油・泥・タンパク質などが混じったかなり頑固な汚れを塗布した布。頑固な襟汚れをモデルにしている)を縫い付けたテストクロスを使って実験するのがいいでしょう。写真=iStock.com/tzahiV※写真はイメージです – 写真=iStock.com/tzahiVふつうの洗濯と同様に他の洗濯物を加え、水位を「中」、洗い8分、すすぎ2回、脱水5分で3回行い、選択後の布の光の反射率をはかり、反射率から洗浄率を求める実験を3回行って平均値を出すことで厳密な結果が得られます。例えば、北海道消費者センターは、このような方法で「重曹で洗濯、洗浄率は?」というテスト結果を報告しています(*6)。水よりも重曹を用いた方が洗浄率の上昇が見られます。一方で、洗濯マグネシウムと水でできる水酸化マグネシウムというアルカリは、マグネシウムが水と反応するのに時間がかかります。また、できるアルカリの量がわずかなため、重曹を溶かしたよりもアルカリ性がずっと弱く、洗浄力は水だけで洗う場合とほとんど変わらないのです。(*6)重曹で洗濯、洗浄率は?~液体石けん以外との併用は効果なし~■「科学的な用語」に騙されてはいけないすでに述べたように、洗濯マグネシウムのアルカリ剤としての効果はないに等しいのです。それが化学としての結論です。現在、小学校の理科では対照実験が推薦されています。このケースも、水で洗うことと比べるのです。水という溶媒(ものを溶かす液体)にはわれわれが考えている以上に洗浄効果があるのです。しかし、水が苦手な汚れがあります。それが油や脂肪の汚れです。そこで、仲の悪い水と油・脂肪の間を取り持って、油・脂肪汚れに取りついて繊維から引き離し、再付着させないのが石けん・洗剤です。石けん・洗剤の中心は水と油を取り持つ界面活性剤。それに、洗浄力を高めるための助剤や酵素なども働きます。「アルカリで洗う」「水素も汚れ落としに一役」など、アルカリなり水素なりの化学の用語があると、つい、「この話は化学的(科学的)な根拠があるに違いない」と思いがちです。「水素水」も、一部には科学的によいイメージがあります。私たちのまわりには、人びとの科学への信頼感を利用して、科学っぽい雰囲気をして、実は科学的にはおかしな説明が満ちあふれています。筆者はそれをニセ科学として世に警鐘を鳴らしてきました。ニセ科学かどうか見抜くのは大変です。今回のケースでいえば「対照実験」の重要性がわかりました。また、客観的に調べられているかも大切です。「思い」のアンケート調査の結果では根拠として弱すぎます。■既存の石けんや洗剤も環境に配慮されている筆者は学生時代、界面化学という石けん・洗剤で汚れを落とすしくみなどを研究する研究室に所属していました。その後、長らく中高理科教員、大学教員をしながら科学啓発とニセ科学問題を追及してきました。拙著『暮らしのなかのニセ科学』(平凡社新書)は、健康系ニセ科学についてまとめたものです。こんな本を一読しておくのもニセ科学へのセンスを磨く一助になるでしょう。筆者の周りにも実際にマグちゃんを使っている人がいますが、「汚れ落ちについては確かに水洗いとほぼ変わらないと感じているが、臭いが『水だけ』と『マグあり』ではまったく違う。わずかなpH変化でも、臭い菌の殺菌には効果があるのではないか」と語っています。ですが、友人が語る効果はあまりにも主観的です。臭い菌の除去には50℃程度のお湯に30分程度つけておいてから、その水(お湯)もあわせて洗濯機に入れて洗うことをおすすめします。マグちゃんを熱心に使っている消費者は、マグちゃんの使用が環境負荷の軽減に寄与していると信じているようです。ですが、現在発売されている石けん・洗剤は、汚れを取るために開発され、環境への影響もできるだけ小さくなるようなものに改良されています。洗浄力・環境負荷・人体への安全性などについて、今後も間違いなく進化し続けていくことでしょう。その方向を定めるのは、消費者の正しい理解以外にありません。———-左巻 健男(さまき・たけお)東京大学非常勤講師東京大学教育学部附属中・高等学校、京都工芸繊維大学、同志社女子大学、法政大学生命科学部環境応用化学科教授、同教職課程センター教授などを経て現職。東京学芸大学大学院教育学研究科理科教育専攻物理化学講座を修了。『RikaTan(理科の探検)』誌編集長、中学校理科教科書(新しい科学)編集委員。法政大学を定年後、精力的に執筆活動や講演会の講師を務める。『面白くて眠れなくなる物理』『面白くて眠れなくなる化学』『面白くて眠れなくなる地学』『怖くて眠れなくなる化学』(PHP研究所)、『身近にあふれる「科学」が3時間でわかる本』『身近にあふれる「微生物」が3時間でわかる本』(明日香出版社)、『絶対に面白い化学入門 世界史は化学でできている』(ダイヤモンド社)など著書多数。———-(東京大学非常勤講師 左巻 健男)
4月27日付の東京新聞(*1)によると「1リットル未満の小さなビーカーでの実験結果しかなく、家庭用の洗濯機での効果は確認できなかった。」「宮本製作所は『多大な迷惑を掛け、心よりおわびする。命令を真摯に受け止め、再発防止に努める』とのコメントを出した。」とあります。洗浄力や使いやすさなどから洗濯用の合成洗剤の生産量は合成洗剤97%、石けん3%です(*2)。合成洗剤や柔軟剤に添加される香料の強い香りが苦手な人、できるだけ使用量を減らしたい人などを中心に、石けん・洗剤を使わない製品に関心が向きました。そのひとつに「洗濯ボール」があります。鉱石の粒が入った丸いプラスチック容器を洗濯のときに一緒に入れると、鉱石が出す静電気で水の分子集団を細かくし、水分子の動きが活発になるので洗濯ものに水が浸透して汚れが落ちるという効果をうたっていました。ですが、その説明は科学的におかしいものです。実際に、洗浄力テストをしてみると、水だけで洗ったときと同様の効果しか得られませんでした。「洗濯リング」と呼ばれている商品も同様です(*3)。こうして怪しい製品は消えていったり、消費者から支持されなくなったのですが、そのなかでもアルカリ剤(重曹、セスキ炭酸ソーダ、酸素系漂白剤)で洗う方法は一定の支持を得ています。(*1)効果なし「洗たくマグちゃん」 実験は小さなビーカーのみ、宮本製作所「心よりおわび」(*2)日本石鹸洗剤工業会 (JSDA) 洗浄剤等の製品販売統計表(2020年1~12月)(*3)洗剤要らずを謳う「洗濯ボール」はエコという名のぼったくり?■重曹を使って洗濯すると肌触りが悪くなるこれらの商品の効果は水洗いの効果と変わらず、油汚れやタンパク質汚れ、襟や袖の汚れなどには効果はありません。重曹熱分解水(成分は炭酸ナトリウム)を使うと皮脂汚れと汗の臭いには水よりも効果的です。ですが、マイナス面として風合い(肌触り)が悪くなるという側面もあります(*4)。写真=iStock.com/new look casting※写真はイメージです – 写真=iStock.com/new look casting「洗濯マグちゃん」という“洗濯マグネシウム”を使った商品も、アルカリ剤と同様に、石けん・洗剤を使いたくない消費者から支持されてきました。マグネシウムと水が反応して洗濯水がアルカリ性になることによる洗浄効果や、使用時に発生する水素も洗濯に効果があると期待されたのです。マグネシウムは銀色の金属で、水に入れると水と反応して、水素ガスを発生しながら水酸化マグネシウムに変わります。水酸化マグネシウム水溶液はアルカリ性を示します。ただし、冷水とはあまり反応しません。また、粒状では粉末状と比べてずっと反応が弱いです。宮本製作所は1リットル未満の水に入れた場合のデータを提出したようですが、実際の洗濯機に入れた場合とは効果が大きく異なります。以下は、かつて一緒に石けん・洗剤の本を書いたLSアカデミー(生活を科学する会)代表 田嶋晴彦(薬学博士)さんのサイトです。(*4)uki☆uki☆せっけんライフ アルカリ助剤を使った洗濯は効果あるの?■洗濯マグネシウムの洗浄効果は水洗いと変わらない1リットルの水の場合、水のpH(酸性・アルカリ性の物差し。7より小さければ小さいほど酸性が強く、より大きければ大きいほどアルカリ性が強い)は、洗濯マグネシウムを入れる前の7.4から9.0に上昇し、水はアルカリ性になっていました。この結果だけ見ると、マグネシウムは効果があるようにも見えます。ところが、洗濯マグネシウムを実際の洗濯機に入れて、標準モードで10分水洗いを行ってみると、pHはほとんど変わりませんでした。何十リットルもの水がありますから、1リットルの水の場合とは全然違うのです。溶け出したマグネシウムの量も通常のアルカリ洗濯で使うアルカリ剤の量の1000分の1以下でした(*5)。マグネシウムと水の反応はとてもゆっくりで、洗濯の時間程度ではほとんど反応しないのです。つまり、“洗濯マグネシウム”だけで洗うことは、水だけで洗うことと同様なのです。水素水になるからという理屈は化学的にはなんの意味もありません。pHが水とほとんど変わらなかったということは、臭い菌への効果は水洗いと同じくほとんどないと考えられます。(*5)uki☆uki☆せっけんライフ マグネシウムで洗う?■主観的な感想は効果の根拠にはならない洗濯マグネシウムに限らず、洗濯ボールにしてもアルカリ剤にしても、「洗剤なしで洗える」という根拠がかなり主観的です。それは汚れを落とすということを客観的にテストしていない、とくに水だけの場合とそれを比較していないことが多いからです。例えば、『食品と暮らしの安全』No.306に、モニター30名に洗濯マグネシウムを使って汚れ落ちの調査をしたものがあります。「タオル、Tシャツ」「下着」「靴下、ストッキング」「ワイシャツ、ブラウス」「ズボン、スカート」「その他」について、アンケートでよく落ちた 少し落ちた あまり落ちない まったく落ちない を集計したものです。これでと回答した人が各種布地で平均59.5%あったから、洗濯効果が十分あると結論づけています。ですが、実際には洗濯マグネシウムを使用した際の水素は発生量もわずかですし、頑固に繊維に絡みついた汚れには効果はありません。この雑誌は、環境問題をいうなら、水洗いでかなりの汚れが落ちること、あらかじめ水で洗っておくと、本洗の洗浄効果を高め、よりきれいに仕上がることを述べるべきだったでしょう。写真=iStock.com/FotoDuets※写真はイメージです – 写真=iStock.com/FotoDuets一般家庭のふだんの洗濯物なら油・脂肪系の汚れが少ないので、水洗いだけでも石けん・洗剤を入れて洗濯したものと比べてもわからないくらいにきれいになります。■効果を確かめたければ厳密な実験を行うべき筆者からの、『食品と暮らしの安全』へのアドバイスですが水で洗った場合と比較するとよいでしょう。これを対照実験(ある条件の効果を調べるために、他の条件は全く同じにして、その条件のみを除いて行う実験)といいます。また、より厳格なテストをされるとよいでしょう。分析機器が使えない場合は、先の注(*4)にあるような口紅や牛脂を使って水洗い、“洗濯マグネシウム”、石けん・洗剤の比較をするのです。正確には、人工汚垢布(おこうふ)(人工汚染布ともいう。油・泥・タンパク質などが混じったかなり頑固な汚れを塗布した布。頑固な襟汚れをモデルにしている)を縫い付けたテストクロスを使って実験するのがいいでしょう。写真=iStock.com/tzahiV※写真はイメージです – 写真=iStock.com/tzahiVふつうの洗濯と同様に他の洗濯物を加え、水位を「中」、洗い8分、すすぎ2回、脱水5分で3回行い、選択後の布の光の反射率をはかり、反射率から洗浄率を求める実験を3回行って平均値を出すことで厳密な結果が得られます。例えば、北海道消費者センターは、このような方法で「重曹で洗濯、洗浄率は?」というテスト結果を報告しています(*6)。水よりも重曹を用いた方が洗浄率の上昇が見られます。一方で、洗濯マグネシウムと水でできる水酸化マグネシウムというアルカリは、マグネシウムが水と反応するのに時間がかかります。また、できるアルカリの量がわずかなため、重曹を溶かしたよりもアルカリ性がずっと弱く、洗浄力は水だけで洗う場合とほとんど変わらないのです。(*6)重曹で洗濯、洗浄率は?~液体石けん以外との併用は効果なし~■「科学的な用語」に騙されてはいけないすでに述べたように、洗濯マグネシウムのアルカリ剤としての効果はないに等しいのです。それが化学としての結論です。現在、小学校の理科では対照実験が推薦されています。このケースも、水で洗うことと比べるのです。水という溶媒(ものを溶かす液体)にはわれわれが考えている以上に洗浄効果があるのです。しかし、水が苦手な汚れがあります。それが油や脂肪の汚れです。そこで、仲の悪い水と油・脂肪の間を取り持って、油・脂肪汚れに取りついて繊維から引き離し、再付着させないのが石けん・洗剤です。石けん・洗剤の中心は水と油を取り持つ界面活性剤。それに、洗浄力を高めるための助剤や酵素なども働きます。「アルカリで洗う」「水素も汚れ落としに一役」など、アルカリなり水素なりの化学の用語があると、つい、「この話は化学的(科学的)な根拠があるに違いない」と思いがちです。「水素水」も、一部には科学的によいイメージがあります。私たちのまわりには、人びとの科学への信頼感を利用して、科学っぽい雰囲気をして、実は科学的にはおかしな説明が満ちあふれています。筆者はそれをニセ科学として世に警鐘を鳴らしてきました。ニセ科学かどうか見抜くのは大変です。今回のケースでいえば「対照実験」の重要性がわかりました。また、客観的に調べられているかも大切です。「思い」のアンケート調査の結果では根拠として弱すぎます。■既存の石けんや洗剤も環境に配慮されている筆者は学生時代、界面化学という石けん・洗剤で汚れを落とすしくみなどを研究する研究室に所属していました。その後、長らく中高理科教員、大学教員をしながら科学啓発とニセ科学問題を追及してきました。拙著『暮らしのなかのニセ科学』(平凡社新書)は、健康系ニセ科学についてまとめたものです。こんな本を一読しておくのもニセ科学へのセンスを磨く一助になるでしょう。筆者の周りにも実際にマグちゃんを使っている人がいますが、「汚れ落ちについては確かに水洗いとほぼ変わらないと感じているが、臭いが『水だけ』と『マグあり』ではまったく違う。わずかなpH変化でも、臭い菌の殺菌には効果があるのではないか」と語っています。ですが、友人が語る効果はあまりにも主観的です。臭い菌の除去には50℃程度のお湯に30分程度つけておいてから、その水(お湯)もあわせて洗濯機に入れて洗うことをおすすめします。マグちゃんを熱心に使っている消費者は、マグちゃんの使用が環境負荷の軽減に寄与していると信じているようです。ですが、現在発売されている石けん・洗剤は、汚れを取るために開発され、環境への影響もできるだけ小さくなるようなものに改良されています。洗浄力・環境負荷・人体への安全性などについて、今後も間違いなく進化し続けていくことでしょう。その方向を定めるのは、消費者の正しい理解以外にありません。———-左巻 健男(さまき・たけお)東京大学非常勤講師東京大学教育学部附属中・高等学校、京都工芸繊維大学、同志社女子大学、法政大学生命科学部環境応用化学科教授、同教職課程センター教授などを経て現職。東京学芸大学大学院教育学研究科理科教育専攻物理化学講座を修了。『RikaTan(理科の探検)』誌編集長、中学校理科教科書(新しい科学)編集委員。法政大学を定年後、精力的に執筆活動や講演会の講師を務める。『面白くて眠れなくなる物理』『面白くて眠れなくなる化学』『面白くて眠れなくなる地学』『怖くて眠れなくなる化学』(PHP研究所)、『身近にあふれる「科学」が3時間でわかる本』『身近にあふれる「微生物」が3時間でわかる本』(明日香出版社)、『絶対に面白い化学入門 世界史は化学でできている』(ダイヤモンド社)など著書多数。———-(東京大学非常勤講師 左巻 健男)
洗浄力や使いやすさなどから洗濯用の合成洗剤の生産量は合成洗剤97%、石けん3%です(*2)。合成洗剤や柔軟剤に添加される香料の強い香りが苦手な人、できるだけ使用量を減らしたい人などを中心に、石けん・洗剤を使わない製品に関心が向きました。そのひとつに「洗濯ボール」があります。鉱石の粒が入った丸いプラスチック容器を洗濯のときに一緒に入れると、鉱石が出す静電気で水の分子集団を細かくし、水分子の動きが活発になるので洗濯ものに水が浸透して汚れが落ちるという効果をうたっていました。ですが、その説明は科学的におかしいものです。実際に、洗浄力テストをしてみると、水だけで洗ったときと同様の効果しか得られませんでした。「洗濯リング」と呼ばれている商品も同様です(*3)。こうして怪しい製品は消えていったり、消費者から支持されなくなったのですが、そのなかでもアルカリ剤(重曹、セスキ炭酸ソーダ、酸素系漂白剤)で洗う方法は一定の支持を得ています。(*1)効果なし「洗たくマグちゃん」 実験は小さなビーカーのみ、宮本製作所「心よりおわび」(*2)日本石鹸洗剤工業会 (JSDA) 洗浄剤等の製品販売統計表(2020年1~12月)(*3)洗剤要らずを謳う「洗濯ボール」はエコという名のぼったくり?■重曹を使って洗濯すると肌触りが悪くなるこれらの商品の効果は水洗いの効果と変わらず、油汚れやタンパク質汚れ、襟や袖の汚れなどには効果はありません。重曹熱分解水(成分は炭酸ナトリウム)を使うと皮脂汚れと汗の臭いには水よりも効果的です。ですが、マイナス面として風合い(肌触り)が悪くなるという側面もあります(*4)。写真=iStock.com/new look casting※写真はイメージです – 写真=iStock.com/new look casting「洗濯マグちゃん」という“洗濯マグネシウム”を使った商品も、アルカリ剤と同様に、石けん・洗剤を使いたくない消費者から支持されてきました。マグネシウムと水が反応して洗濯水がアルカリ性になることによる洗浄効果や、使用時に発生する水素も洗濯に効果があると期待されたのです。マグネシウムは銀色の金属で、水に入れると水と反応して、水素ガスを発生しながら水酸化マグネシウムに変わります。水酸化マグネシウム水溶液はアルカリ性を示します。ただし、冷水とはあまり反応しません。また、粒状では粉末状と比べてずっと反応が弱いです。宮本製作所は1リットル未満の水に入れた場合のデータを提出したようですが、実際の洗濯機に入れた場合とは効果が大きく異なります。以下は、かつて一緒に石けん・洗剤の本を書いたLSアカデミー(生活を科学する会)代表 田嶋晴彦(薬学博士)さんのサイトです。(*4)uki☆uki☆せっけんライフ アルカリ助剤を使った洗濯は効果あるの?■洗濯マグネシウムの洗浄効果は水洗いと変わらない1リットルの水の場合、水のpH(酸性・アルカリ性の物差し。7より小さければ小さいほど酸性が強く、より大きければ大きいほどアルカリ性が強い)は、洗濯マグネシウムを入れる前の7.4から9.0に上昇し、水はアルカリ性になっていました。この結果だけ見ると、マグネシウムは効果があるようにも見えます。ところが、洗濯マグネシウムを実際の洗濯機に入れて、標準モードで10分水洗いを行ってみると、pHはほとんど変わりませんでした。何十リットルもの水がありますから、1リットルの水の場合とは全然違うのです。溶け出したマグネシウムの量も通常のアルカリ洗濯で使うアルカリ剤の量の1000分の1以下でした(*5)。マグネシウムと水の反応はとてもゆっくりで、洗濯の時間程度ではほとんど反応しないのです。つまり、“洗濯マグネシウム”だけで洗うことは、水だけで洗うことと同様なのです。水素水になるからという理屈は化学的にはなんの意味もありません。pHが水とほとんど変わらなかったということは、臭い菌への効果は水洗いと同じくほとんどないと考えられます。(*5)uki☆uki☆せっけんライフ マグネシウムで洗う?■主観的な感想は効果の根拠にはならない洗濯マグネシウムに限らず、洗濯ボールにしてもアルカリ剤にしても、「洗剤なしで洗える」という根拠がかなり主観的です。それは汚れを落とすということを客観的にテストしていない、とくに水だけの場合とそれを比較していないことが多いからです。例えば、『食品と暮らしの安全』No.306に、モニター30名に洗濯マグネシウムを使って汚れ落ちの調査をしたものがあります。「タオル、Tシャツ」「下着」「靴下、ストッキング」「ワイシャツ、ブラウス」「ズボン、スカート」「その他」について、アンケートでよく落ちた 少し落ちた あまり落ちない まったく落ちない を集計したものです。これでと回答した人が各種布地で平均59.5%あったから、洗濯効果が十分あると結論づけています。ですが、実際には洗濯マグネシウムを使用した際の水素は発生量もわずかですし、頑固に繊維に絡みついた汚れには効果はありません。この雑誌は、環境問題をいうなら、水洗いでかなりの汚れが落ちること、あらかじめ水で洗っておくと、本洗の洗浄効果を高め、よりきれいに仕上がることを述べるべきだったでしょう。写真=iStock.com/FotoDuets※写真はイメージです – 写真=iStock.com/FotoDuets一般家庭のふだんの洗濯物なら油・脂肪系の汚れが少ないので、水洗いだけでも石けん・洗剤を入れて洗濯したものと比べてもわからないくらいにきれいになります。■効果を確かめたければ厳密な実験を行うべき筆者からの、『食品と暮らしの安全』へのアドバイスですが水で洗った場合と比較するとよいでしょう。これを対照実験(ある条件の効果を調べるために、他の条件は全く同じにして、その条件のみを除いて行う実験)といいます。また、より厳格なテストをされるとよいでしょう。分析機器が使えない場合は、先の注(*4)にあるような口紅や牛脂を使って水洗い、“洗濯マグネシウム”、石けん・洗剤の比較をするのです。正確には、人工汚垢布(おこうふ)(人工汚染布ともいう。油・泥・タンパク質などが混じったかなり頑固な汚れを塗布した布。頑固な襟汚れをモデルにしている)を縫い付けたテストクロスを使って実験するのがいいでしょう。写真=iStock.com/tzahiV※写真はイメージです – 写真=iStock.com/tzahiVふつうの洗濯と同様に他の洗濯物を加え、水位を「中」、洗い8分、すすぎ2回、脱水5分で3回行い、選択後の布の光の反射率をはかり、反射率から洗浄率を求める実験を3回行って平均値を出すことで厳密な結果が得られます。例えば、北海道消費者センターは、このような方法で「重曹で洗濯、洗浄率は?」というテスト結果を報告しています(*6)。水よりも重曹を用いた方が洗浄率の上昇が見られます。一方で、洗濯マグネシウムと水でできる水酸化マグネシウムというアルカリは、マグネシウムが水と反応するのに時間がかかります。また、できるアルカリの量がわずかなため、重曹を溶かしたよりもアルカリ性がずっと弱く、洗浄力は水だけで洗う場合とほとんど変わらないのです。(*6)重曹で洗濯、洗浄率は?~液体石けん以外との併用は効果なし~■「科学的な用語」に騙されてはいけないすでに述べたように、洗濯マグネシウムのアルカリ剤としての効果はないに等しいのです。それが化学としての結論です。現在、小学校の理科では対照実験が推薦されています。このケースも、水で洗うことと比べるのです。水という溶媒(ものを溶かす液体)にはわれわれが考えている以上に洗浄効果があるのです。しかし、水が苦手な汚れがあります。それが油や脂肪の汚れです。そこで、仲の悪い水と油・脂肪の間を取り持って、油・脂肪汚れに取りついて繊維から引き離し、再付着させないのが石けん・洗剤です。石けん・洗剤の中心は水と油を取り持つ界面活性剤。それに、洗浄力を高めるための助剤や酵素なども働きます。「アルカリで洗う」「水素も汚れ落としに一役」など、アルカリなり水素なりの化学の用語があると、つい、「この話は化学的(科学的)な根拠があるに違いない」と思いがちです。「水素水」も、一部には科学的によいイメージがあります。私たちのまわりには、人びとの科学への信頼感を利用して、科学っぽい雰囲気をして、実は科学的にはおかしな説明が満ちあふれています。筆者はそれをニセ科学として世に警鐘を鳴らしてきました。ニセ科学かどうか見抜くのは大変です。今回のケースでいえば「対照実験」の重要性がわかりました。また、客観的に調べられているかも大切です。「思い」のアンケート調査の結果では根拠として弱すぎます。■既存の石けんや洗剤も環境に配慮されている筆者は学生時代、界面化学という石けん・洗剤で汚れを落とすしくみなどを研究する研究室に所属していました。その後、長らく中高理科教員、大学教員をしながら科学啓発とニセ科学問題を追及してきました。拙著『暮らしのなかのニセ科学』(平凡社新書)は、健康系ニセ科学についてまとめたものです。こんな本を一読しておくのもニセ科学へのセンスを磨く一助になるでしょう。筆者の周りにも実際にマグちゃんを使っている人がいますが、「汚れ落ちについては確かに水洗いとほぼ変わらないと感じているが、臭いが『水だけ』と『マグあり』ではまったく違う。わずかなpH変化でも、臭い菌の殺菌には効果があるのではないか」と語っています。ですが、友人が語る効果はあまりにも主観的です。臭い菌の除去には50℃程度のお湯に30分程度つけておいてから、その水(お湯)もあわせて洗濯機に入れて洗うことをおすすめします。マグちゃんを熱心に使っている消費者は、マグちゃんの使用が環境負荷の軽減に寄与していると信じているようです。ですが、現在発売されている石けん・洗剤は、汚れを取るために開発され、環境への影響もできるだけ小さくなるようなものに改良されています。洗浄力・環境負荷・人体への安全性などについて、今後も間違いなく進化し続けていくことでしょう。その方向を定めるのは、消費者の正しい理解以外にありません。———-左巻 健男(さまき・たけお)東京大学非常勤講師東京大学教育学部附属中・高等学校、京都工芸繊維大学、同志社女子大学、法政大学生命科学部環境応用化学科教授、同教職課程センター教授などを経て現職。東京学芸大学大学院教育学研究科理科教育専攻物理化学講座を修了。『RikaTan(理科の探検)』誌編集長、中学校理科教科書(新しい科学)編集委員。法政大学を定年後、精力的に執筆活動や講演会の講師を務める。『面白くて眠れなくなる物理』『面白くて眠れなくなる化学』『面白くて眠れなくなる地学』『怖くて眠れなくなる化学』(PHP研究所)、『身近にあふれる「科学」が3時間でわかる本』『身近にあふれる「微生物」が3時間でわかる本』(明日香出版社)、『絶対に面白い化学入門 世界史は化学でできている』(ダイヤモンド社)など著書多数。———-(東京大学非常勤講師 左巻 健男)
そのひとつに「洗濯ボール」があります。鉱石の粒が入った丸いプラスチック容器を洗濯のときに一緒に入れると、鉱石が出す静電気で水の分子集団を細かくし、水分子の動きが活発になるので洗濯ものに水が浸透して汚れが落ちるという効果をうたっていました。ですが、その説明は科学的におかしいものです。実際に、洗浄力テストをしてみると、水だけで洗ったときと同様の効果しか得られませんでした。「洗濯リング」と呼ばれている商品も同様です(*3)。こうして怪しい製品は消えていったり、消費者から支持されなくなったのですが、そのなかでもアルカリ剤(重曹、セスキ炭酸ソーダ、酸素系漂白剤)で洗う方法は一定の支持を得ています。(*1)効果なし「洗たくマグちゃん」 実験は小さなビーカーのみ、宮本製作所「心よりおわび」(*2)日本石鹸洗剤工業会 (JSDA) 洗浄剤等の製品販売統計表(2020年1~12月)(*3)洗剤要らずを謳う「洗濯ボール」はエコという名のぼったくり?■重曹を使って洗濯すると肌触りが悪くなるこれらの商品の効果は水洗いの効果と変わらず、油汚れやタンパク質汚れ、襟や袖の汚れなどには効果はありません。重曹熱分解水(成分は炭酸ナトリウム)を使うと皮脂汚れと汗の臭いには水よりも効果的です。ですが、マイナス面として風合い(肌触り)が悪くなるという側面もあります(*4)。写真=iStock.com/new look casting※写真はイメージです – 写真=iStock.com/new look casting「洗濯マグちゃん」という“洗濯マグネシウム”を使った商品も、アルカリ剤と同様に、石けん・洗剤を使いたくない消費者から支持されてきました。マグネシウムと水が反応して洗濯水がアルカリ性になることによる洗浄効果や、使用時に発生する水素も洗濯に効果があると期待されたのです。マグネシウムは銀色の金属で、水に入れると水と反応して、水素ガスを発生しながら水酸化マグネシウムに変わります。水酸化マグネシウム水溶液はアルカリ性を示します。ただし、冷水とはあまり反応しません。また、粒状では粉末状と比べてずっと反応が弱いです。宮本製作所は1リットル未満の水に入れた場合のデータを提出したようですが、実際の洗濯機に入れた場合とは効果が大きく異なります。以下は、かつて一緒に石けん・洗剤の本を書いたLSアカデミー(生活を科学する会)代表 田嶋晴彦(薬学博士)さんのサイトです。(*4)uki☆uki☆せっけんライフ アルカリ助剤を使った洗濯は効果あるの?■洗濯マグネシウムの洗浄効果は水洗いと変わらない1リットルの水の場合、水のpH(酸性・アルカリ性の物差し。7より小さければ小さいほど酸性が強く、より大きければ大きいほどアルカリ性が強い)は、洗濯マグネシウムを入れる前の7.4から9.0に上昇し、水はアルカリ性になっていました。この結果だけ見ると、マグネシウムは効果があるようにも見えます。ところが、洗濯マグネシウムを実際の洗濯機に入れて、標準モードで10分水洗いを行ってみると、pHはほとんど変わりませんでした。何十リットルもの水がありますから、1リットルの水の場合とは全然違うのです。溶け出したマグネシウムの量も通常のアルカリ洗濯で使うアルカリ剤の量の1000分の1以下でした(*5)。マグネシウムと水の反応はとてもゆっくりで、洗濯の時間程度ではほとんど反応しないのです。つまり、“洗濯マグネシウム”だけで洗うことは、水だけで洗うことと同様なのです。水素水になるからという理屈は化学的にはなんの意味もありません。pHが水とほとんど変わらなかったということは、臭い菌への効果は水洗いと同じくほとんどないと考えられます。(*5)uki☆uki☆せっけんライフ マグネシウムで洗う?■主観的な感想は効果の根拠にはならない洗濯マグネシウムに限らず、洗濯ボールにしてもアルカリ剤にしても、「洗剤なしで洗える」という根拠がかなり主観的です。それは汚れを落とすということを客観的にテストしていない、とくに水だけの場合とそれを比較していないことが多いからです。例えば、『食品と暮らしの安全』No.306に、モニター30名に洗濯マグネシウムを使って汚れ落ちの調査をしたものがあります。「タオル、Tシャツ」「下着」「靴下、ストッキング」「ワイシャツ、ブラウス」「ズボン、スカート」「その他」について、アンケートでよく落ちた 少し落ちた あまり落ちない まったく落ちない を集計したものです。これでと回答した人が各種布地で平均59.5%あったから、洗濯効果が十分あると結論づけています。ですが、実際には洗濯マグネシウムを使用した際の水素は発生量もわずかですし、頑固に繊維に絡みついた汚れには効果はありません。この雑誌は、環境問題をいうなら、水洗いでかなりの汚れが落ちること、あらかじめ水で洗っておくと、本洗の洗浄効果を高め、よりきれいに仕上がることを述べるべきだったでしょう。写真=iStock.com/FotoDuets※写真はイメージです – 写真=iStock.com/FotoDuets一般家庭のふだんの洗濯物なら油・脂肪系の汚れが少ないので、水洗いだけでも石けん・洗剤を入れて洗濯したものと比べてもわからないくらいにきれいになります。■効果を確かめたければ厳密な実験を行うべき筆者からの、『食品と暮らしの安全』へのアドバイスですが水で洗った場合と比較するとよいでしょう。これを対照実験(ある条件の効果を調べるために、他の条件は全く同じにして、その条件のみを除いて行う実験)といいます。また、より厳格なテストをされるとよいでしょう。分析機器が使えない場合は、先の注(*4)にあるような口紅や牛脂を使って水洗い、“洗濯マグネシウム”、石けん・洗剤の比較をするのです。正確には、人工汚垢布(おこうふ)(人工汚染布ともいう。油・泥・タンパク質などが混じったかなり頑固な汚れを塗布した布。頑固な襟汚れをモデルにしている)を縫い付けたテストクロスを使って実験するのがいいでしょう。写真=iStock.com/tzahiV※写真はイメージです – 写真=iStock.com/tzahiVふつうの洗濯と同様に他の洗濯物を加え、水位を「中」、洗い8分、すすぎ2回、脱水5分で3回行い、選択後の布の光の反射率をはかり、反射率から洗浄率を求める実験を3回行って平均値を出すことで厳密な結果が得られます。例えば、北海道消費者センターは、このような方法で「重曹で洗濯、洗浄率は?」というテスト結果を報告しています(*6)。水よりも重曹を用いた方が洗浄率の上昇が見られます。一方で、洗濯マグネシウムと水でできる水酸化マグネシウムというアルカリは、マグネシウムが水と反応するのに時間がかかります。また、できるアルカリの量がわずかなため、重曹を溶かしたよりもアルカリ性がずっと弱く、洗浄力は水だけで洗う場合とほとんど変わらないのです。(*6)重曹で洗濯、洗浄率は?~液体石けん以外との併用は効果なし~■「科学的な用語」に騙されてはいけないすでに述べたように、洗濯マグネシウムのアルカリ剤としての効果はないに等しいのです。それが化学としての結論です。現在、小学校の理科では対照実験が推薦されています。このケースも、水で洗うことと比べるのです。水という溶媒(ものを溶かす液体)にはわれわれが考えている以上に洗浄効果があるのです。しかし、水が苦手な汚れがあります。それが油や脂肪の汚れです。そこで、仲の悪い水と油・脂肪の間を取り持って、油・脂肪汚れに取りついて繊維から引き離し、再付着させないのが石けん・洗剤です。石けん・洗剤の中心は水と油を取り持つ界面活性剤。それに、洗浄力を高めるための助剤や酵素なども働きます。「アルカリで洗う」「水素も汚れ落としに一役」など、アルカリなり水素なりの化学の用語があると、つい、「この話は化学的(科学的)な根拠があるに違いない」と思いがちです。「水素水」も、一部には科学的によいイメージがあります。私たちのまわりには、人びとの科学への信頼感を利用して、科学っぽい雰囲気をして、実は科学的にはおかしな説明が満ちあふれています。筆者はそれをニセ科学として世に警鐘を鳴らしてきました。ニセ科学かどうか見抜くのは大変です。今回のケースでいえば「対照実験」の重要性がわかりました。また、客観的に調べられているかも大切です。「思い」のアンケート調査の結果では根拠として弱すぎます。■既存の石けんや洗剤も環境に配慮されている筆者は学生時代、界面化学という石けん・洗剤で汚れを落とすしくみなどを研究する研究室に所属していました。その後、長らく中高理科教員、大学教員をしながら科学啓発とニセ科学問題を追及してきました。拙著『暮らしのなかのニセ科学』(平凡社新書)は、健康系ニセ科学についてまとめたものです。こんな本を一読しておくのもニセ科学へのセンスを磨く一助になるでしょう。筆者の周りにも実際にマグちゃんを使っている人がいますが、「汚れ落ちについては確かに水洗いとほぼ変わらないと感じているが、臭いが『水だけ』と『マグあり』ではまったく違う。わずかなpH変化でも、臭い菌の殺菌には効果があるのではないか」と語っています。ですが、友人が語る効果はあまりにも主観的です。臭い菌の除去には50℃程度のお湯に30分程度つけておいてから、その水(お湯)もあわせて洗濯機に入れて洗うことをおすすめします。マグちゃんを熱心に使っている消費者は、マグちゃんの使用が環境負荷の軽減に寄与していると信じているようです。ですが、現在発売されている石けん・洗剤は、汚れを取るために開発され、環境への影響もできるだけ小さくなるようなものに改良されています。洗浄力・環境負荷・人体への安全性などについて、今後も間違いなく進化し続けていくことでしょう。その方向を定めるのは、消費者の正しい理解以外にありません。———-左巻 健男(さまき・たけお)東京大学非常勤講師東京大学教育学部附属中・高等学校、京都工芸繊維大学、同志社女子大学、法政大学生命科学部環境応用化学科教授、同教職課程センター教授などを経て現職。東京学芸大学大学院教育学研究科理科教育専攻物理化学講座を修了。『RikaTan(理科の探検)』誌編集長、中学校理科教科書(新しい科学)編集委員。法政大学を定年後、精力的に執筆活動や講演会の講師を務める。『面白くて眠れなくなる物理』『面白くて眠れなくなる化学』『面白くて眠れなくなる地学』『怖くて眠れなくなる化学』(PHP研究所)、『身近にあふれる「科学」が3時間でわかる本』『身近にあふれる「微生物」が3時間でわかる本』(明日香出版社)、『絶対に面白い化学入門 世界史は化学でできている』(ダイヤモンド社)など著書多数。———-(東京大学非常勤講師 左巻 健男)
ですが、その説明は科学的におかしいものです。実際に、洗浄力テストをしてみると、水だけで洗ったときと同様の効果しか得られませんでした。「洗濯リング」と呼ばれている商品も同様です(*3)。こうして怪しい製品は消えていったり、消費者から支持されなくなったのですが、そのなかでもアルカリ剤(重曹、セスキ炭酸ソーダ、酸素系漂白剤)で洗う方法は一定の支持を得ています。(*1)効果なし「洗たくマグちゃん」 実験は小さなビーカーのみ、宮本製作所「心よりおわび」(*2)日本石鹸洗剤工業会 (JSDA) 洗浄剤等の製品販売統計表(2020年1~12月)(*3)洗剤要らずを謳う「洗濯ボール」はエコという名のぼったくり?■重曹を使って洗濯すると肌触りが悪くなるこれらの商品の効果は水洗いの効果と変わらず、油汚れやタンパク質汚れ、襟や袖の汚れなどには効果はありません。重曹熱分解水(成分は炭酸ナトリウム)を使うと皮脂汚れと汗の臭いには水よりも効果的です。ですが、マイナス面として風合い(肌触り)が悪くなるという側面もあります(*4)。写真=iStock.com/new look casting※写真はイメージです – 写真=iStock.com/new look casting「洗濯マグちゃん」という“洗濯マグネシウム”を使った商品も、アルカリ剤と同様に、石けん・洗剤を使いたくない消費者から支持されてきました。マグネシウムと水が反応して洗濯水がアルカリ性になることによる洗浄効果や、使用時に発生する水素も洗濯に効果があると期待されたのです。マグネシウムは銀色の金属で、水に入れると水と反応して、水素ガスを発生しながら水酸化マグネシウムに変わります。水酸化マグネシウム水溶液はアルカリ性を示します。ただし、冷水とはあまり反応しません。また、粒状では粉末状と比べてずっと反応が弱いです。宮本製作所は1リットル未満の水に入れた場合のデータを提出したようですが、実際の洗濯機に入れた場合とは効果が大きく異なります。以下は、かつて一緒に石けん・洗剤の本を書いたLSアカデミー(生活を科学する会)代表 田嶋晴彦(薬学博士)さんのサイトです。(*4)uki☆uki☆せっけんライフ アルカリ助剤を使った洗濯は効果あるの?■洗濯マグネシウムの洗浄効果は水洗いと変わらない1リットルの水の場合、水のpH(酸性・アルカリ性の物差し。7より小さければ小さいほど酸性が強く、より大きければ大きいほどアルカリ性が強い)は、洗濯マグネシウムを入れる前の7.4から9.0に上昇し、水はアルカリ性になっていました。この結果だけ見ると、マグネシウムは効果があるようにも見えます。ところが、洗濯マグネシウムを実際の洗濯機に入れて、標準モードで10分水洗いを行ってみると、pHはほとんど変わりませんでした。何十リットルもの水がありますから、1リットルの水の場合とは全然違うのです。溶け出したマグネシウムの量も通常のアルカリ洗濯で使うアルカリ剤の量の1000分の1以下でした(*5)。マグネシウムと水の反応はとてもゆっくりで、洗濯の時間程度ではほとんど反応しないのです。つまり、“洗濯マグネシウム”だけで洗うことは、水だけで洗うことと同様なのです。水素水になるからという理屈は化学的にはなんの意味もありません。pHが水とほとんど変わらなかったということは、臭い菌への効果は水洗いと同じくほとんどないと考えられます。(*5)uki☆uki☆せっけんライフ マグネシウムで洗う?■主観的な感想は効果の根拠にはならない洗濯マグネシウムに限らず、洗濯ボールにしてもアルカリ剤にしても、「洗剤なしで洗える」という根拠がかなり主観的です。それは汚れを落とすということを客観的にテストしていない、とくに水だけの場合とそれを比較していないことが多いからです。例えば、『食品と暮らしの安全』No.306に、モニター30名に洗濯マグネシウムを使って汚れ落ちの調査をしたものがあります。「タオル、Tシャツ」「下着」「靴下、ストッキング」「ワイシャツ、ブラウス」「ズボン、スカート」「その他」について、アンケートでよく落ちた 少し落ちた あまり落ちない まったく落ちない を集計したものです。これでと回答した人が各種布地で平均59.5%あったから、洗濯効果が十分あると結論づけています。ですが、実際には洗濯マグネシウムを使用した際の水素は発生量もわずかですし、頑固に繊維に絡みついた汚れには効果はありません。この雑誌は、環境問題をいうなら、水洗いでかなりの汚れが落ちること、あらかじめ水で洗っておくと、本洗の洗浄効果を高め、よりきれいに仕上がることを述べるべきだったでしょう。写真=iStock.com/FotoDuets※写真はイメージです – 写真=iStock.com/FotoDuets一般家庭のふだんの洗濯物なら油・脂肪系の汚れが少ないので、水洗いだけでも石けん・洗剤を入れて洗濯したものと比べてもわからないくらいにきれいになります。■効果を確かめたければ厳密な実験を行うべき筆者からの、『食品と暮らしの安全』へのアドバイスですが水で洗った場合と比較するとよいでしょう。これを対照実験(ある条件の効果を調べるために、他の条件は全く同じにして、その条件のみを除いて行う実験)といいます。また、より厳格なテストをされるとよいでしょう。分析機器が使えない場合は、先の注(*4)にあるような口紅や牛脂を使って水洗い、“洗濯マグネシウム”、石けん・洗剤の比較をするのです。正確には、人工汚垢布(おこうふ)(人工汚染布ともいう。油・泥・タンパク質などが混じったかなり頑固な汚れを塗布した布。頑固な襟汚れをモデルにしている)を縫い付けたテストクロスを使って実験するのがいいでしょう。写真=iStock.com/tzahiV※写真はイメージです – 写真=iStock.com/tzahiVふつうの洗濯と同様に他の洗濯物を加え、水位を「中」、洗い8分、すすぎ2回、脱水5分で3回行い、選択後の布の光の反射率をはかり、反射率から洗浄率を求める実験を3回行って平均値を出すことで厳密な結果が得られます。例えば、北海道消費者センターは、このような方法で「重曹で洗濯、洗浄率は?」というテスト結果を報告しています(*6)。水よりも重曹を用いた方が洗浄率の上昇が見られます。一方で、洗濯マグネシウムと水でできる水酸化マグネシウムというアルカリは、マグネシウムが水と反応するのに時間がかかります。また、できるアルカリの量がわずかなため、重曹を溶かしたよりもアルカリ性がずっと弱く、洗浄力は水だけで洗う場合とほとんど変わらないのです。(*6)重曹で洗濯、洗浄率は?~液体石けん以外との併用は効果なし~■「科学的な用語」に騙されてはいけないすでに述べたように、洗濯マグネシウムのアルカリ剤としての効果はないに等しいのです。それが化学としての結論です。現在、小学校の理科では対照実験が推薦されています。このケースも、水で洗うことと比べるのです。水という溶媒(ものを溶かす液体)にはわれわれが考えている以上に洗浄効果があるのです。しかし、水が苦手な汚れがあります。それが油や脂肪の汚れです。そこで、仲の悪い水と油・脂肪の間を取り持って、油・脂肪汚れに取りついて繊維から引き離し、再付着させないのが石けん・洗剤です。石けん・洗剤の中心は水と油を取り持つ界面活性剤。それに、洗浄力を高めるための助剤や酵素なども働きます。「アルカリで洗う」「水素も汚れ落としに一役」など、アルカリなり水素なりの化学の用語があると、つい、「この話は化学的(科学的)な根拠があるに違いない」と思いがちです。「水素水」も、一部には科学的によいイメージがあります。私たちのまわりには、人びとの科学への信頼感を利用して、科学っぽい雰囲気をして、実は科学的にはおかしな説明が満ちあふれています。筆者はそれをニセ科学として世に警鐘を鳴らしてきました。ニセ科学かどうか見抜くのは大変です。今回のケースでいえば「対照実験」の重要性がわかりました。また、客観的に調べられているかも大切です。「思い」のアンケート調査の結果では根拠として弱すぎます。■既存の石けんや洗剤も環境に配慮されている筆者は学生時代、界面化学という石けん・洗剤で汚れを落とすしくみなどを研究する研究室に所属していました。その後、長らく中高理科教員、大学教員をしながら科学啓発とニセ科学問題を追及してきました。拙著『暮らしのなかのニセ科学』(平凡社新書)は、健康系ニセ科学についてまとめたものです。こんな本を一読しておくのもニセ科学へのセンスを磨く一助になるでしょう。筆者の周りにも実際にマグちゃんを使っている人がいますが、「汚れ落ちについては確かに水洗いとほぼ変わらないと感じているが、臭いが『水だけ』と『マグあり』ではまったく違う。わずかなpH変化でも、臭い菌の殺菌には効果があるのではないか」と語っています。ですが、友人が語る効果はあまりにも主観的です。臭い菌の除去には50℃程度のお湯に30分程度つけておいてから、その水(お湯)もあわせて洗濯機に入れて洗うことをおすすめします。マグちゃんを熱心に使っている消費者は、マグちゃんの使用が環境負荷の軽減に寄与していると信じているようです。ですが、現在発売されている石けん・洗剤は、汚れを取るために開発され、環境への影響もできるだけ小さくなるようなものに改良されています。洗浄力・環境負荷・人体への安全性などについて、今後も間違いなく進化し続けていくことでしょう。その方向を定めるのは、消費者の正しい理解以外にありません。———-左巻 健男(さまき・たけお)東京大学非常勤講師東京大学教育学部附属中・高等学校、京都工芸繊維大学、同志社女子大学、法政大学生命科学部環境応用化学科教授、同教職課程センター教授などを経て現職。東京学芸大学大学院教育学研究科理科教育専攻物理化学講座を修了。『RikaTan(理科の探検)』誌編集長、中学校理科教科書(新しい科学)編集委員。法政大学を定年後、精力的に執筆活動や講演会の講師を務める。『面白くて眠れなくなる物理』『面白くて眠れなくなる化学』『面白くて眠れなくなる地学』『怖くて眠れなくなる化学』(PHP研究所)、『身近にあふれる「科学」が3時間でわかる本』『身近にあふれる「微生物」が3時間でわかる本』(明日香出版社)、『絶対に面白い化学入門 世界史は化学でできている』(ダイヤモンド社)など著書多数。———-(東京大学非常勤講師 左巻 健男)
こうして怪しい製品は消えていったり、消費者から支持されなくなったのですが、そのなかでもアルカリ剤(重曹、セスキ炭酸ソーダ、酸素系漂白剤)で洗う方法は一定の支持を得ています。(*1)効果なし「洗たくマグちゃん」 実験は小さなビーカーのみ、宮本製作所「心よりおわび」(*2)日本石鹸洗剤工業会 (JSDA) 洗浄剤等の製品販売統計表(2020年1~12月)(*3)洗剤要らずを謳う「洗濯ボール」はエコという名のぼったくり?■重曹を使って洗濯すると肌触りが悪くなるこれらの商品の効果は水洗いの効果と変わらず、油汚れやタンパク質汚れ、襟や袖の汚れなどには効果はありません。重曹熱分解水(成分は炭酸ナトリウム)を使うと皮脂汚れと汗の臭いには水よりも効果的です。ですが、マイナス面として風合い(肌触り)が悪くなるという側面もあります(*4)。写真=iStock.com/new look casting※写真はイメージです – 写真=iStock.com/new look casting「洗濯マグちゃん」という“洗濯マグネシウム”を使った商品も、アルカリ剤と同様に、石けん・洗剤を使いたくない消費者から支持されてきました。マグネシウムと水が反応して洗濯水がアルカリ性になることによる洗浄効果や、使用時に発生する水素も洗濯に効果があると期待されたのです。マグネシウムは銀色の金属で、水に入れると水と反応して、水素ガスを発生しながら水酸化マグネシウムに変わります。水酸化マグネシウム水溶液はアルカリ性を示します。ただし、冷水とはあまり反応しません。また、粒状では粉末状と比べてずっと反応が弱いです。宮本製作所は1リットル未満の水に入れた場合のデータを提出したようですが、実際の洗濯機に入れた場合とは効果が大きく異なります。以下は、かつて一緒に石けん・洗剤の本を書いたLSアカデミー(生活を科学する会)代表 田嶋晴彦(薬学博士)さんのサイトです。(*4)uki☆uki☆せっけんライフ アルカリ助剤を使った洗濯は効果あるの?■洗濯マグネシウムの洗浄効果は水洗いと変わらない1リットルの水の場合、水のpH(酸性・アルカリ性の物差し。7より小さければ小さいほど酸性が強く、より大きければ大きいほどアルカリ性が強い)は、洗濯マグネシウムを入れる前の7.4から9.0に上昇し、水はアルカリ性になっていました。この結果だけ見ると、マグネシウムは効果があるようにも見えます。ところが、洗濯マグネシウムを実際の洗濯機に入れて、標準モードで10分水洗いを行ってみると、pHはほとんど変わりませんでした。何十リットルもの水がありますから、1リットルの水の場合とは全然違うのです。溶け出したマグネシウムの量も通常のアルカリ洗濯で使うアルカリ剤の量の1000分の1以下でした(*5)。マグネシウムと水の反応はとてもゆっくりで、洗濯の時間程度ではほとんど反応しないのです。つまり、“洗濯マグネシウム”だけで洗うことは、水だけで洗うことと同様なのです。水素水になるからという理屈は化学的にはなんの意味もありません。pHが水とほとんど変わらなかったということは、臭い菌への効果は水洗いと同じくほとんどないと考えられます。(*5)uki☆uki☆せっけんライフ マグネシウムで洗う?■主観的な感想は効果の根拠にはならない洗濯マグネシウムに限らず、洗濯ボールにしてもアルカリ剤にしても、「洗剤なしで洗える」という根拠がかなり主観的です。それは汚れを落とすということを客観的にテストしていない、とくに水だけの場合とそれを比較していないことが多いからです。例えば、『食品と暮らしの安全』No.306に、モニター30名に洗濯マグネシウムを使って汚れ落ちの調査をしたものがあります。「タオル、Tシャツ」「下着」「靴下、ストッキング」「ワイシャツ、ブラウス」「ズボン、スカート」「その他」について、アンケートでよく落ちた 少し落ちた あまり落ちない まったく落ちない を集計したものです。これでと回答した人が各種布地で平均59.5%あったから、洗濯効果が十分あると結論づけています。ですが、実際には洗濯マグネシウムを使用した際の水素は発生量もわずかですし、頑固に繊維に絡みついた汚れには効果はありません。この雑誌は、環境問題をいうなら、水洗いでかなりの汚れが落ちること、あらかじめ水で洗っておくと、本洗の洗浄効果を高め、よりきれいに仕上がることを述べるべきだったでしょう。写真=iStock.com/FotoDuets※写真はイメージです – 写真=iStock.com/FotoDuets一般家庭のふだんの洗濯物なら油・脂肪系の汚れが少ないので、水洗いだけでも石けん・洗剤を入れて洗濯したものと比べてもわからないくらいにきれいになります。■効果を確かめたければ厳密な実験を行うべき筆者からの、『食品と暮らしの安全』へのアドバイスですが水で洗った場合と比較するとよいでしょう。これを対照実験(ある条件の効果を調べるために、他の条件は全く同じにして、その条件のみを除いて行う実験)といいます。また、より厳格なテストをされるとよいでしょう。分析機器が使えない場合は、先の注(*4)にあるような口紅や牛脂を使って水洗い、“洗濯マグネシウム”、石けん・洗剤の比較をするのです。正確には、人工汚垢布(おこうふ)(人工汚染布ともいう。油・泥・タンパク質などが混じったかなり頑固な汚れを塗布した布。頑固な襟汚れをモデルにしている)を縫い付けたテストクロスを使って実験するのがいいでしょう。写真=iStock.com/tzahiV※写真はイメージです – 写真=iStock.com/tzahiVふつうの洗濯と同様に他の洗濯物を加え、水位を「中」、洗い8分、すすぎ2回、脱水5分で3回行い、選択後の布の光の反射率をはかり、反射率から洗浄率を求める実験を3回行って平均値を出すことで厳密な結果が得られます。例えば、北海道消費者センターは、このような方法で「重曹で洗濯、洗浄率は?」というテスト結果を報告しています(*6)。水よりも重曹を用いた方が洗浄率の上昇が見られます。一方で、洗濯マグネシウムと水でできる水酸化マグネシウムというアルカリは、マグネシウムが水と反応するのに時間がかかります。また、できるアルカリの量がわずかなため、重曹を溶かしたよりもアルカリ性がずっと弱く、洗浄力は水だけで洗う場合とほとんど変わらないのです。(*6)重曹で洗濯、洗浄率は?~液体石けん以外との併用は効果なし~■「科学的な用語」に騙されてはいけないすでに述べたように、洗濯マグネシウムのアルカリ剤としての効果はないに等しいのです。それが化学としての結論です。現在、小学校の理科では対照実験が推薦されています。このケースも、水で洗うことと比べるのです。水という溶媒(ものを溶かす液体)にはわれわれが考えている以上に洗浄効果があるのです。しかし、水が苦手な汚れがあります。それが油や脂肪の汚れです。そこで、仲の悪い水と油・脂肪の間を取り持って、油・脂肪汚れに取りついて繊維から引き離し、再付着させないのが石けん・洗剤です。石けん・洗剤の中心は水と油を取り持つ界面活性剤。それに、洗浄力を高めるための助剤や酵素なども働きます。「アルカリで洗う」「水素も汚れ落としに一役」など、アルカリなり水素なりの化学の用語があると、つい、「この話は化学的(科学的)な根拠があるに違いない」と思いがちです。「水素水」も、一部には科学的によいイメージがあります。私たちのまわりには、人びとの科学への信頼感を利用して、科学っぽい雰囲気をして、実は科学的にはおかしな説明が満ちあふれています。筆者はそれをニセ科学として世に警鐘を鳴らしてきました。ニセ科学かどうか見抜くのは大変です。今回のケースでいえば「対照実験」の重要性がわかりました。また、客観的に調べられているかも大切です。「思い」のアンケート調査の結果では根拠として弱すぎます。■既存の石けんや洗剤も環境に配慮されている筆者は学生時代、界面化学という石けん・洗剤で汚れを落とすしくみなどを研究する研究室に所属していました。その後、長らく中高理科教員、大学教員をしながら科学啓発とニセ科学問題を追及してきました。拙著『暮らしのなかのニセ科学』(平凡社新書)は、健康系ニセ科学についてまとめたものです。こんな本を一読しておくのもニセ科学へのセンスを磨く一助になるでしょう。筆者の周りにも実際にマグちゃんを使っている人がいますが、「汚れ落ちについては確かに水洗いとほぼ変わらないと感じているが、臭いが『水だけ』と『マグあり』ではまったく違う。わずかなpH変化でも、臭い菌の殺菌には効果があるのではないか」と語っています。ですが、友人が語る効果はあまりにも主観的です。臭い菌の除去には50℃程度のお湯に30分程度つけておいてから、その水(お湯)もあわせて洗濯機に入れて洗うことをおすすめします。マグちゃんを熱心に使っている消費者は、マグちゃんの使用が環境負荷の軽減に寄与していると信じているようです。ですが、現在発売されている石けん・洗剤は、汚れを取るために開発され、環境への影響もできるだけ小さくなるようなものに改良されています。洗浄力・環境負荷・人体への安全性などについて、今後も間違いなく進化し続けていくことでしょう。その方向を定めるのは、消費者の正しい理解以外にありません。———-左巻 健男(さまき・たけお)東京大学非常勤講師東京大学教育学部附属中・高等学校、京都工芸繊維大学、同志社女子大学、法政大学生命科学部環境応用化学科教授、同教職課程センター教授などを経て現職。東京学芸大学大学院教育学研究科理科教育専攻物理化学講座を修了。『RikaTan(理科の探検)』誌編集長、中学校理科教科書(新しい科学)編集委員。法政大学を定年後、精力的に執筆活動や講演会の講師を務める。『面白くて眠れなくなる物理』『面白くて眠れなくなる化学』『面白くて眠れなくなる地学』『怖くて眠れなくなる化学』(PHP研究所)、『身近にあふれる「科学」が3時間でわかる本』『身近にあふれる「微生物」が3時間でわかる本』(明日香出版社)、『絶対に面白い化学入門 世界史は化学でできている』(ダイヤモンド社)など著書多数。———-(東京大学非常勤講師 左巻 健男)
(*1)効果なし「洗たくマグちゃん」 実験は小さなビーカーのみ、宮本製作所「心よりおわび」(*2)日本石鹸洗剤工業会 (JSDA) 洗浄剤等の製品販売統計表(2020年1~12月)(*3)洗剤要らずを謳う「洗濯ボール」はエコという名のぼったくり?■重曹を使って洗濯すると肌触りが悪くなるこれらの商品の効果は水洗いの効果と変わらず、油汚れやタンパク質汚れ、襟や袖の汚れなどには効果はありません。重曹熱分解水(成分は炭酸ナトリウム)を使うと皮脂汚れと汗の臭いには水よりも効果的です。ですが、マイナス面として風合い(肌触り)が悪くなるという側面もあります(*4)。写真=iStock.com/new look casting※写真はイメージです – 写真=iStock.com/new look casting「洗濯マグちゃん」という“洗濯マグネシウム”を使った商品も、アルカリ剤と同様に、石けん・洗剤を使いたくない消費者から支持されてきました。マグネシウムと水が反応して洗濯水がアルカリ性になることによる洗浄効果や、使用時に発生する水素も洗濯に効果があると期待されたのです。マグネシウムは銀色の金属で、水に入れると水と反応して、水素ガスを発生しながら水酸化マグネシウムに変わります。水酸化マグネシウム水溶液はアルカリ性を示します。ただし、冷水とはあまり反応しません。また、粒状では粉末状と比べてずっと反応が弱いです。宮本製作所は1リットル未満の水に入れた場合のデータを提出したようですが、実際の洗濯機に入れた場合とは効果が大きく異なります。以下は、かつて一緒に石けん・洗剤の本を書いたLSアカデミー(生活を科学する会)代表 田嶋晴彦(薬学博士)さんのサイトです。(*4)uki☆uki☆せっけんライフ アルカリ助剤を使った洗濯は効果あるの?■洗濯マグネシウムの洗浄効果は水洗いと変わらない1リットルの水の場合、水のpH(酸性・アルカリ性の物差し。7より小さければ小さいほど酸性が強く、より大きければ大きいほどアルカリ性が強い)は、洗濯マグネシウムを入れる前の7.4から9.0に上昇し、水はアルカリ性になっていました。この結果だけ見ると、マグネシウムは効果があるようにも見えます。ところが、洗濯マグネシウムを実際の洗濯機に入れて、標準モードで10分水洗いを行ってみると、pHはほとんど変わりませんでした。何十リットルもの水がありますから、1リットルの水の場合とは全然違うのです。溶け出したマグネシウムの量も通常のアルカリ洗濯で使うアルカリ剤の量の1000分の1以下でした(*5)。マグネシウムと水の反応はとてもゆっくりで、洗濯の時間程度ではほとんど反応しないのです。つまり、“洗濯マグネシウム”だけで洗うことは、水だけで洗うことと同様なのです。水素水になるからという理屈は化学的にはなんの意味もありません。pHが水とほとんど変わらなかったということは、臭い菌への効果は水洗いと同じくほとんどないと考えられます。(*5)uki☆uki☆せっけんライフ マグネシウムで洗う?■主観的な感想は効果の根拠にはならない洗濯マグネシウムに限らず、洗濯ボールにしてもアルカリ剤にしても、「洗剤なしで洗える」という根拠がかなり主観的です。それは汚れを落とすということを客観的にテストしていない、とくに水だけの場合とそれを比較していないことが多いからです。例えば、『食品と暮らしの安全』No.306に、モニター30名に洗濯マグネシウムを使って汚れ落ちの調査をしたものがあります。「タオル、Tシャツ」「下着」「靴下、ストッキング」「ワイシャツ、ブラウス」「ズボン、スカート」「その他」について、アンケートでよく落ちた 少し落ちた あまり落ちない まったく落ちない を集計したものです。これでと回答した人が各種布地で平均59.5%あったから、洗濯効果が十分あると結論づけています。ですが、実際には洗濯マグネシウムを使用した際の水素は発生量もわずかですし、頑固に繊維に絡みついた汚れには効果はありません。この雑誌は、環境問題をいうなら、水洗いでかなりの汚れが落ちること、あらかじめ水で洗っておくと、本洗の洗浄効果を高め、よりきれいに仕上がることを述べるべきだったでしょう。写真=iStock.com/FotoDuets※写真はイメージです – 写真=iStock.com/FotoDuets一般家庭のふだんの洗濯物なら油・脂肪系の汚れが少ないので、水洗いだけでも石けん・洗剤を入れて洗濯したものと比べてもわからないくらいにきれいになります。■効果を確かめたければ厳密な実験を行うべき筆者からの、『食品と暮らしの安全』へのアドバイスですが水で洗った場合と比較するとよいでしょう。これを対照実験(ある条件の効果を調べるために、他の条件は全く同じにして、その条件のみを除いて行う実験)といいます。また、より厳格なテストをされるとよいでしょう。分析機器が使えない場合は、先の注(*4)にあるような口紅や牛脂を使って水洗い、“洗濯マグネシウム”、石けん・洗剤の比較をするのです。正確には、人工汚垢布(おこうふ)(人工汚染布ともいう。油・泥・タンパク質などが混じったかなり頑固な汚れを塗布した布。頑固な襟汚れをモデルにしている)を縫い付けたテストクロスを使って実験するのがいいでしょう。写真=iStock.com/tzahiV※写真はイメージです – 写真=iStock.com/tzahiVふつうの洗濯と同様に他の洗濯物を加え、水位を「中」、洗い8分、すすぎ2回、脱水5分で3回行い、選択後の布の光の反射率をはかり、反射率から洗浄率を求める実験を3回行って平均値を出すことで厳密な結果が得られます。例えば、北海道消費者センターは、このような方法で「重曹で洗濯、洗浄率は?」というテスト結果を報告しています(*6)。水よりも重曹を用いた方が洗浄率の上昇が見られます。一方で、洗濯マグネシウムと水でできる水酸化マグネシウムというアルカリは、マグネシウムが水と反応するのに時間がかかります。また、できるアルカリの量がわずかなため、重曹を溶かしたよりもアルカリ性がずっと弱く、洗浄力は水だけで洗う場合とほとんど変わらないのです。(*6)重曹で洗濯、洗浄率は?~液体石けん以外との併用は効果なし~■「科学的な用語」に騙されてはいけないすでに述べたように、洗濯マグネシウムのアルカリ剤としての効果はないに等しいのです。それが化学としての結論です。現在、小学校の理科では対照実験が推薦されています。このケースも、水で洗うことと比べるのです。水という溶媒(ものを溶かす液体)にはわれわれが考えている以上に洗浄効果があるのです。しかし、水が苦手な汚れがあります。それが油や脂肪の汚れです。そこで、仲の悪い水と油・脂肪の間を取り持って、油・脂肪汚れに取りついて繊維から引き離し、再付着させないのが石けん・洗剤です。石けん・洗剤の中心は水と油を取り持つ界面活性剤。それに、洗浄力を高めるための助剤や酵素なども働きます。「アルカリで洗う」「水素も汚れ落としに一役」など、アルカリなり水素なりの化学の用語があると、つい、「この話は化学的(科学的)な根拠があるに違いない」と思いがちです。「水素水」も、一部には科学的によいイメージがあります。私たちのまわりには、人びとの科学への信頼感を利用して、科学っぽい雰囲気をして、実は科学的にはおかしな説明が満ちあふれています。筆者はそれをニセ科学として世に警鐘を鳴らしてきました。ニセ科学かどうか見抜くのは大変です。今回のケースでいえば「対照実験」の重要性がわかりました。また、客観的に調べられているかも大切です。「思い」のアンケート調査の結果では根拠として弱すぎます。■既存の石けんや洗剤も環境に配慮されている筆者は学生時代、界面化学という石けん・洗剤で汚れを落とすしくみなどを研究する研究室に所属していました。その後、長らく中高理科教員、大学教員をしながら科学啓発とニセ科学問題を追及してきました。拙著『暮らしのなかのニセ科学』(平凡社新書)は、健康系ニセ科学についてまとめたものです。こんな本を一読しておくのもニセ科学へのセンスを磨く一助になるでしょう。筆者の周りにも実際にマグちゃんを使っている人がいますが、「汚れ落ちについては確かに水洗いとほぼ変わらないと感じているが、臭いが『水だけ』と『マグあり』ではまったく違う。わずかなpH変化でも、臭い菌の殺菌には効果があるのではないか」と語っています。ですが、友人が語る効果はあまりにも主観的です。臭い菌の除去には50℃程度のお湯に30分程度つけておいてから、その水(お湯)もあわせて洗濯機に入れて洗うことをおすすめします。マグちゃんを熱心に使っている消費者は、マグちゃんの使用が環境負荷の軽減に寄与していると信じているようです。ですが、現在発売されている石けん・洗剤は、汚れを取るために開発され、環境への影響もできるだけ小さくなるようなものに改良されています。洗浄力・環境負荷・人体への安全性などについて、今後も間違いなく進化し続けていくことでしょう。その方向を定めるのは、消費者の正しい理解以外にありません。———-左巻 健男(さまき・たけお)東京大学非常勤講師東京大学教育学部附属中・高等学校、京都工芸繊維大学、同志社女子大学、法政大学生命科学部環境応用化学科教授、同教職課程センター教授などを経て現職。東京学芸大学大学院教育学研究科理科教育専攻物理化学講座を修了。『RikaTan(理科の探検)』誌編集長、中学校理科教科書(新しい科学)編集委員。法政大学を定年後、精力的に執筆活動や講演会の講師を務める。『面白くて眠れなくなる物理』『面白くて眠れなくなる化学』『面白くて眠れなくなる地学』『怖くて眠れなくなる化学』(PHP研究所)、『身近にあふれる「科学」が3時間でわかる本』『身近にあふれる「微生物」が3時間でわかる本』(明日香出版社)、『絶対に面白い化学入門 世界史は化学でできている』(ダイヤモンド社)など著書多数。———-(東京大学非常勤講師 左巻 健男)
これらの商品の効果は水洗いの効果と変わらず、油汚れやタンパク質汚れ、襟や袖の汚れなどには効果はありません。重曹熱分解水(成分は炭酸ナトリウム)を使うと皮脂汚れと汗の臭いには水よりも効果的です。ですが、マイナス面として風合い(肌触り)が悪くなるという側面もあります(*4)。写真=iStock.com/new look casting※写真はイメージです – 写真=iStock.com/new look casting「洗濯マグちゃん」という“洗濯マグネシウム”を使った商品も、アルカリ剤と同様に、石けん・洗剤を使いたくない消費者から支持されてきました。マグネシウムと水が反応して洗濯水がアルカリ性になることによる洗浄効果や、使用時に発生する水素も洗濯に効果があると期待されたのです。マグネシウムは銀色の金属で、水に入れると水と反応して、水素ガスを発生しながら水酸化マグネシウムに変わります。水酸化マグネシウム水溶液はアルカリ性を示します。ただし、冷水とはあまり反応しません。また、粒状では粉末状と比べてずっと反応が弱いです。宮本製作所は1リットル未満の水に入れた場合のデータを提出したようですが、実際の洗濯機に入れた場合とは効果が大きく異なります。以下は、かつて一緒に石けん・洗剤の本を書いたLSアカデミー(生活を科学する会)代表 田嶋晴彦(薬学博士)さんのサイトです。(*4)uki☆uki☆せっけんライフ アルカリ助剤を使った洗濯は効果あるの?■洗濯マグネシウムの洗浄効果は水洗いと変わらない1リットルの水の場合、水のpH(酸性・アルカリ性の物差し。7より小さければ小さいほど酸性が強く、より大きければ大きいほどアルカリ性が強い)は、洗濯マグネシウムを入れる前の7.4から9.0に上昇し、水はアルカリ性になっていました。この結果だけ見ると、マグネシウムは効果があるようにも見えます。ところが、洗濯マグネシウムを実際の洗濯機に入れて、標準モードで10分水洗いを行ってみると、pHはほとんど変わりませんでした。何十リットルもの水がありますから、1リットルの水の場合とは全然違うのです。溶け出したマグネシウムの量も通常のアルカリ洗濯で使うアルカリ剤の量の1000分の1以下でした(*5)。マグネシウムと水の反応はとてもゆっくりで、洗濯の時間程度ではほとんど反応しないのです。つまり、“洗濯マグネシウム”だけで洗うことは、水だけで洗うことと同様なのです。水素水になるからという理屈は化学的にはなんの意味もありません。pHが水とほとんど変わらなかったということは、臭い菌への効果は水洗いと同じくほとんどないと考えられます。(*5)uki☆uki☆せっけんライフ マグネシウムで洗う?■主観的な感想は効果の根拠にはならない洗濯マグネシウムに限らず、洗濯ボールにしてもアルカリ剤にしても、「洗剤なしで洗える」という根拠がかなり主観的です。それは汚れを落とすということを客観的にテストしていない、とくに水だけの場合とそれを比較していないことが多いからです。例えば、『食品と暮らしの安全』No.306に、モニター30名に洗濯マグネシウムを使って汚れ落ちの調査をしたものがあります。「タオル、Tシャツ」「下着」「靴下、ストッキング」「ワイシャツ、ブラウス」「ズボン、スカート」「その他」について、アンケートでよく落ちた 少し落ちた あまり落ちない まったく落ちない を集計したものです。これでと回答した人が各種布地で平均59.5%あったから、洗濯効果が十分あると結論づけています。ですが、実際には洗濯マグネシウムを使用した際の水素は発生量もわずかですし、頑固に繊維に絡みついた汚れには効果はありません。この雑誌は、環境問題をいうなら、水洗いでかなりの汚れが落ちること、あらかじめ水で洗っておくと、本洗の洗浄効果を高め、よりきれいに仕上がることを述べるべきだったでしょう。写真=iStock.com/FotoDuets※写真はイメージです – 写真=iStock.com/FotoDuets一般家庭のふだんの洗濯物なら油・脂肪系の汚れが少ないので、水洗いだけでも石けん・洗剤を入れて洗濯したものと比べてもわからないくらいにきれいになります。■効果を確かめたければ厳密な実験を行うべき筆者からの、『食品と暮らしの安全』へのアドバイスですが水で洗った場合と比較するとよいでしょう。これを対照実験(ある条件の効果を調べるために、他の条件は全く同じにして、その条件のみを除いて行う実験)といいます。また、より厳格なテストをされるとよいでしょう。分析機器が使えない場合は、先の注(*4)にあるような口紅や牛脂を使って水洗い、“洗濯マグネシウム”、石けん・洗剤の比較をするのです。正確には、人工汚垢布(おこうふ)(人工汚染布ともいう。油・泥・タンパク質などが混じったかなり頑固な汚れを塗布した布。頑固な襟汚れをモデルにしている)を縫い付けたテストクロスを使って実験するのがいいでしょう。写真=iStock.com/tzahiV※写真はイメージです – 写真=iStock.com/tzahiVふつうの洗濯と同様に他の洗濯物を加え、水位を「中」、洗い8分、すすぎ2回、脱水5分で3回行い、選択後の布の光の反射率をはかり、反射率から洗浄率を求める実験を3回行って平均値を出すことで厳密な結果が得られます。例えば、北海道消費者センターは、このような方法で「重曹で洗濯、洗浄率は?」というテスト結果を報告しています(*6)。水よりも重曹を用いた方が洗浄率の上昇が見られます。一方で、洗濯マグネシウムと水でできる水酸化マグネシウムというアルカリは、マグネシウムが水と反応するのに時間がかかります。また、できるアルカリの量がわずかなため、重曹を溶かしたよりもアルカリ性がずっと弱く、洗浄力は水だけで洗う場合とほとんど変わらないのです。(*6)重曹で洗濯、洗浄率は?~液体石けん以外との併用は効果なし~■「科学的な用語」に騙されてはいけないすでに述べたように、洗濯マグネシウムのアルカリ剤としての効果はないに等しいのです。それが化学としての結論です。現在、小学校の理科では対照実験が推薦されています。このケースも、水で洗うことと比べるのです。水という溶媒(ものを溶かす液体)にはわれわれが考えている以上に洗浄効果があるのです。しかし、水が苦手な汚れがあります。それが油や脂肪の汚れです。そこで、仲の悪い水と油・脂肪の間を取り持って、油・脂肪汚れに取りついて繊維から引き離し、再付着させないのが石けん・洗剤です。石けん・洗剤の中心は水と油を取り持つ界面活性剤。それに、洗浄力を高めるための助剤や酵素なども働きます。「アルカリで洗う」「水素も汚れ落としに一役」など、アルカリなり水素なりの化学の用語があると、つい、「この話は化学的(科学的)な根拠があるに違いない」と思いがちです。「水素水」も、一部には科学的によいイメージがあります。私たちのまわりには、人びとの科学への信頼感を利用して、科学っぽい雰囲気をして、実は科学的にはおかしな説明が満ちあふれています。筆者はそれをニセ科学として世に警鐘を鳴らしてきました。ニセ科学かどうか見抜くのは大変です。今回のケースでいえば「対照実験」の重要性がわかりました。また、客観的に調べられているかも大切です。「思い」のアンケート調査の結果では根拠として弱すぎます。■既存の石けんや洗剤も環境に配慮されている筆者は学生時代、界面化学という石けん・洗剤で汚れを落とすしくみなどを研究する研究室に所属していました。その後、長らく中高理科教員、大学教員をしながら科学啓発とニセ科学問題を追及してきました。拙著『暮らしのなかのニセ科学』(平凡社新書)は、健康系ニセ科学についてまとめたものです。こんな本を一読しておくのもニセ科学へのセンスを磨く一助になるでしょう。筆者の周りにも実際にマグちゃんを使っている人がいますが、「汚れ落ちについては確かに水洗いとほぼ変わらないと感じているが、臭いが『水だけ』と『マグあり』ではまったく違う。わずかなpH変化でも、臭い菌の殺菌には効果があるのではないか」と語っています。ですが、友人が語る効果はあまりにも主観的です。臭い菌の除去には50℃程度のお湯に30分程度つけておいてから、その水(お湯)もあわせて洗濯機に入れて洗うことをおすすめします。マグちゃんを熱心に使っている消費者は、マグちゃんの使用が環境負荷の軽減に寄与していると信じているようです。ですが、現在発売されている石けん・洗剤は、汚れを取るために開発され、環境への影響もできるだけ小さくなるようなものに改良されています。洗浄力・環境負荷・人体への安全性などについて、今後も間違いなく進化し続けていくことでしょう。その方向を定めるのは、消費者の正しい理解以外にありません。———-左巻 健男(さまき・たけお)東京大学非常勤講師東京大学教育学部附属中・高等学校、京都工芸繊維大学、同志社女子大学、法政大学生命科学部環境応用化学科教授、同教職課程センター教授などを経て現職。東京学芸大学大学院教育学研究科理科教育専攻物理化学講座を修了。『RikaTan(理科の探検)』誌編集長、中学校理科教科書(新しい科学)編集委員。法政大学を定年後、精力的に執筆活動や講演会の講師を務める。『面白くて眠れなくなる物理』『面白くて眠れなくなる化学』『面白くて眠れなくなる地学』『怖くて眠れなくなる化学』(PHP研究所)、『身近にあふれる「科学」が3時間でわかる本』『身近にあふれる「微生物」が3時間でわかる本』(明日香出版社)、『絶対に面白い化学入門 世界史は化学でできている』(ダイヤモンド社)など著書多数。———-(東京大学非常勤講師 左巻 健男)
「洗濯マグちゃん」という“洗濯マグネシウム”を使った商品も、アルカリ剤と同様に、石けん・洗剤を使いたくない消費者から支持されてきました。マグネシウムと水が反応して洗濯水がアルカリ性になることによる洗浄効果や、使用時に発生する水素も洗濯に効果があると期待されたのです。マグネシウムは銀色の金属で、水に入れると水と反応して、水素ガスを発生しながら水酸化マグネシウムに変わります。水酸化マグネシウム水溶液はアルカリ性を示します。ただし、冷水とはあまり反応しません。また、粒状では粉末状と比べてずっと反応が弱いです。宮本製作所は1リットル未満の水に入れた場合のデータを提出したようですが、実際の洗濯機に入れた場合とは効果が大きく異なります。以下は、かつて一緒に石けん・洗剤の本を書いたLSアカデミー(生活を科学する会)代表 田嶋晴彦(薬学博士)さんのサイトです。(*4)uki☆uki☆せっけんライフ アルカリ助剤を使った洗濯は効果あるの?■洗濯マグネシウムの洗浄効果は水洗いと変わらない1リットルの水の場合、水のpH(酸性・アルカリ性の物差し。7より小さければ小さいほど酸性が強く、より大きければ大きいほどアルカリ性が強い)は、洗濯マグネシウムを入れる前の7.4から9.0に上昇し、水はアルカリ性になっていました。この結果だけ見ると、マグネシウムは効果があるようにも見えます。ところが、洗濯マグネシウムを実際の洗濯機に入れて、標準モードで10分水洗いを行ってみると、pHはほとんど変わりませんでした。何十リットルもの水がありますから、1リットルの水の場合とは全然違うのです。溶け出したマグネシウムの量も通常のアルカリ洗濯で使うアルカリ剤の量の1000分の1以下でした(*5)。マグネシウムと水の反応はとてもゆっくりで、洗濯の時間程度ではほとんど反応しないのです。つまり、“洗濯マグネシウム”だけで洗うことは、水だけで洗うことと同様なのです。水素水になるからという理屈は化学的にはなんの意味もありません。pHが水とほとんど変わらなかったということは、臭い菌への効果は水洗いと同じくほとんどないと考えられます。(*5)uki☆uki☆せっけんライフ マグネシウムで洗う?■主観的な感想は効果の根拠にはならない洗濯マグネシウムに限らず、洗濯ボールにしてもアルカリ剤にしても、「洗剤なしで洗える」という根拠がかなり主観的です。それは汚れを落とすということを客観的にテストしていない、とくに水だけの場合とそれを比較していないことが多いからです。例えば、『食品と暮らしの安全』No.306に、モニター30名に洗濯マグネシウムを使って汚れ落ちの調査をしたものがあります。「タオル、Tシャツ」「下着」「靴下、ストッキング」「ワイシャツ、ブラウス」「ズボン、スカート」「その他」について、アンケートでよく落ちた 少し落ちた あまり落ちない まったく落ちない を集計したものです。これでと回答した人が各種布地で平均59.5%あったから、洗濯効果が十分あると結論づけています。ですが、実際には洗濯マグネシウムを使用した際の水素は発生量もわずかですし、頑固に繊維に絡みついた汚れには効果はありません。この雑誌は、環境問題をいうなら、水洗いでかなりの汚れが落ちること、あらかじめ水で洗っておくと、本洗の洗浄効果を高め、よりきれいに仕上がることを述べるべきだったでしょう。写真=iStock.com/FotoDuets※写真はイメージです – 写真=iStock.com/FotoDuets一般家庭のふだんの洗濯物なら油・脂肪系の汚れが少ないので、水洗いだけでも石けん・洗剤を入れて洗濯したものと比べてもわからないくらいにきれいになります。■効果を確かめたければ厳密な実験を行うべき筆者からの、『食品と暮らしの安全』へのアドバイスですが水で洗った場合と比較するとよいでしょう。これを対照実験(ある条件の効果を調べるために、他の条件は全く同じにして、その条件のみを除いて行う実験)といいます。また、より厳格なテストをされるとよいでしょう。分析機器が使えない場合は、先の注(*4)にあるような口紅や牛脂を使って水洗い、“洗濯マグネシウム”、石けん・洗剤の比較をするのです。正確には、人工汚垢布(おこうふ)(人工汚染布ともいう。油・泥・タンパク質などが混じったかなり頑固な汚れを塗布した布。頑固な襟汚れをモデルにしている)を縫い付けたテストクロスを使って実験するのがいいでしょう。写真=iStock.com/tzahiV※写真はイメージです – 写真=iStock.com/tzahiVふつうの洗濯と同様に他の洗濯物を加え、水位を「中」、洗い8分、すすぎ2回、脱水5分で3回行い、選択後の布の光の反射率をはかり、反射率から洗浄率を求める実験を3回行って平均値を出すことで厳密な結果が得られます。例えば、北海道消費者センターは、このような方法で「重曹で洗濯、洗浄率は?」というテスト結果を報告しています(*6)。水よりも重曹を用いた方が洗浄率の上昇が見られます。一方で、洗濯マグネシウムと水でできる水酸化マグネシウムというアルカリは、マグネシウムが水と反応するのに時間がかかります。また、できるアルカリの量がわずかなため、重曹を溶かしたよりもアルカリ性がずっと弱く、洗浄力は水だけで洗う場合とほとんど変わらないのです。(*6)重曹で洗濯、洗浄率は?~液体石けん以外との併用は効果なし~■「科学的な用語」に騙されてはいけないすでに述べたように、洗濯マグネシウムのアルカリ剤としての効果はないに等しいのです。それが化学としての結論です。現在、小学校の理科では対照実験が推薦されています。このケースも、水で洗うことと比べるのです。水という溶媒(ものを溶かす液体)にはわれわれが考えている以上に洗浄効果があるのです。しかし、水が苦手な汚れがあります。それが油や脂肪の汚れです。そこで、仲の悪い水と油・脂肪の間を取り持って、油・脂肪汚れに取りついて繊維から引き離し、再付着させないのが石けん・洗剤です。石けん・洗剤の中心は水と油を取り持つ界面活性剤。それに、洗浄力を高めるための助剤や酵素なども働きます。「アルカリで洗う」「水素も汚れ落としに一役」など、アルカリなり水素なりの化学の用語があると、つい、「この話は化学的(科学的)な根拠があるに違いない」と思いがちです。「水素水」も、一部には科学的によいイメージがあります。私たちのまわりには、人びとの科学への信頼感を利用して、科学っぽい雰囲気をして、実は科学的にはおかしな説明が満ちあふれています。筆者はそれをニセ科学として世に警鐘を鳴らしてきました。ニセ科学かどうか見抜くのは大変です。今回のケースでいえば「対照実験」の重要性がわかりました。また、客観的に調べられているかも大切です。「思い」のアンケート調査の結果では根拠として弱すぎます。■既存の石けんや洗剤も環境に配慮されている筆者は学生時代、界面化学という石けん・洗剤で汚れを落とすしくみなどを研究する研究室に所属していました。その後、長らく中高理科教員、大学教員をしながら科学啓発とニセ科学問題を追及してきました。拙著『暮らしのなかのニセ科学』(平凡社新書)は、健康系ニセ科学についてまとめたものです。こんな本を一読しておくのもニセ科学へのセンスを磨く一助になるでしょう。筆者の周りにも実際にマグちゃんを使っている人がいますが、「汚れ落ちについては確かに水洗いとほぼ変わらないと感じているが、臭いが『水だけ』と『マグあり』ではまったく違う。わずかなpH変化でも、臭い菌の殺菌には効果があるのではないか」と語っています。ですが、友人が語る効果はあまりにも主観的です。臭い菌の除去には50℃程度のお湯に30分程度つけておいてから、その水(お湯)もあわせて洗濯機に入れて洗うことをおすすめします。マグちゃんを熱心に使っている消費者は、マグちゃんの使用が環境負荷の軽減に寄与していると信じているようです。ですが、現在発売されている石けん・洗剤は、汚れを取るために開発され、環境への影響もできるだけ小さくなるようなものに改良されています。洗浄力・環境負荷・人体への安全性などについて、今後も間違いなく進化し続けていくことでしょう。その方向を定めるのは、消費者の正しい理解以外にありません。———-左巻 健男(さまき・たけお)東京大学非常勤講師東京大学教育学部附属中・高等学校、京都工芸繊維大学、同志社女子大学、法政大学生命科学部環境応用化学科教授、同教職課程センター教授などを経て現職。東京学芸大学大学院教育学研究科理科教育専攻物理化学講座を修了。『RikaTan(理科の探検)』誌編集長、中学校理科教科書(新しい科学)編集委員。法政大学を定年後、精力的に執筆活動や講演会の講師を務める。『面白くて眠れなくなる物理』『面白くて眠れなくなる化学』『面白くて眠れなくなる地学』『怖くて眠れなくなる化学』(PHP研究所)、『身近にあふれる「科学」が3時間でわかる本』『身近にあふれる「微生物」が3時間でわかる本』(明日香出版社)、『絶対に面白い化学入門 世界史は化学でできている』(ダイヤモンド社)など著書多数。———-(東京大学非常勤講師 左巻 健男)
マグネシウムは銀色の金属で、水に入れると水と反応して、水素ガスを発生しながら水酸化マグネシウムに変わります。水酸化マグネシウム水溶液はアルカリ性を示します。ただし、冷水とはあまり反応しません。また、粒状では粉末状と比べてずっと反応が弱いです。宮本製作所は1リットル未満の水に入れた場合のデータを提出したようですが、実際の洗濯機に入れた場合とは効果が大きく異なります。以下は、かつて一緒に石けん・洗剤の本を書いたLSアカデミー(生活を科学する会)代表 田嶋晴彦(薬学博士)さんのサイトです。(*4)uki☆uki☆せっけんライフ アルカリ助剤を使った洗濯は効果あるの?■洗濯マグネシウムの洗浄効果は水洗いと変わらない1リットルの水の場合、水のpH(酸性・アルカリ性の物差し。7より小さければ小さいほど酸性が強く、より大きければ大きいほどアルカリ性が強い)は、洗濯マグネシウムを入れる前の7.4から9.0に上昇し、水はアルカリ性になっていました。この結果だけ見ると、マグネシウムは効果があるようにも見えます。ところが、洗濯マグネシウムを実際の洗濯機に入れて、標準モードで10分水洗いを行ってみると、pHはほとんど変わりませんでした。何十リットルもの水がありますから、1リットルの水の場合とは全然違うのです。溶け出したマグネシウムの量も通常のアルカリ洗濯で使うアルカリ剤の量の1000分の1以下でした(*5)。マグネシウムと水の反応はとてもゆっくりで、洗濯の時間程度ではほとんど反応しないのです。つまり、“洗濯マグネシウム”だけで洗うことは、水だけで洗うことと同様なのです。水素水になるからという理屈は化学的にはなんの意味もありません。pHが水とほとんど変わらなかったということは、臭い菌への効果は水洗いと同じくほとんどないと考えられます。(*5)uki☆uki☆せっけんライフ マグネシウムで洗う?■主観的な感想は効果の根拠にはならない洗濯マグネシウムに限らず、洗濯ボールにしてもアルカリ剤にしても、「洗剤なしで洗える」という根拠がかなり主観的です。それは汚れを落とすということを客観的にテストしていない、とくに水だけの場合とそれを比較していないことが多いからです。例えば、『食品と暮らしの安全』No.306に、モニター30名に洗濯マグネシウムを使って汚れ落ちの調査をしたものがあります。「タオル、Tシャツ」「下着」「靴下、ストッキング」「ワイシャツ、ブラウス」「ズボン、スカート」「その他」について、アンケートでよく落ちた 少し落ちた あまり落ちない まったく落ちない を集計したものです。これでと回答した人が各種布地で平均59.5%あったから、洗濯効果が十分あると結論づけています。ですが、実際には洗濯マグネシウムを使用した際の水素は発生量もわずかですし、頑固に繊維に絡みついた汚れには効果はありません。この雑誌は、環境問題をいうなら、水洗いでかなりの汚れが落ちること、あらかじめ水で洗っておくと、本洗の洗浄効果を高め、よりきれいに仕上がることを述べるべきだったでしょう。写真=iStock.com/FotoDuets※写真はイメージです – 写真=iStock.com/FotoDuets一般家庭のふだんの洗濯物なら油・脂肪系の汚れが少ないので、水洗いだけでも石けん・洗剤を入れて洗濯したものと比べてもわからないくらいにきれいになります。■効果を確かめたければ厳密な実験を行うべき筆者からの、『食品と暮らしの安全』へのアドバイスですが水で洗った場合と比較するとよいでしょう。これを対照実験(ある条件の効果を調べるために、他の条件は全く同じにして、その条件のみを除いて行う実験)といいます。また、より厳格なテストをされるとよいでしょう。分析機器が使えない場合は、先の注(*4)にあるような口紅や牛脂を使って水洗い、“洗濯マグネシウム”、石けん・洗剤の比較をするのです。正確には、人工汚垢布(おこうふ)(人工汚染布ともいう。油・泥・タンパク質などが混じったかなり頑固な汚れを塗布した布。頑固な襟汚れをモデルにしている)を縫い付けたテストクロスを使って実験するのがいいでしょう。写真=iStock.com/tzahiV※写真はイメージです – 写真=iStock.com/tzahiVふつうの洗濯と同様に他の洗濯物を加え、水位を「中」、洗い8分、すすぎ2回、脱水5分で3回行い、選択後の布の光の反射率をはかり、反射率から洗浄率を求める実験を3回行って平均値を出すことで厳密な結果が得られます。例えば、北海道消費者センターは、このような方法で「重曹で洗濯、洗浄率は?」というテスト結果を報告しています(*6)。水よりも重曹を用いた方が洗浄率の上昇が見られます。一方で、洗濯マグネシウムと水でできる水酸化マグネシウムというアルカリは、マグネシウムが水と反応するのに時間がかかります。また、できるアルカリの量がわずかなため、重曹を溶かしたよりもアルカリ性がずっと弱く、洗浄力は水だけで洗う場合とほとんど変わらないのです。(*6)重曹で洗濯、洗浄率は?~液体石けん以外との併用は効果なし~■「科学的な用語」に騙されてはいけないすでに述べたように、洗濯マグネシウムのアルカリ剤としての効果はないに等しいのです。それが化学としての結論です。現在、小学校の理科では対照実験が推薦されています。このケースも、水で洗うことと比べるのです。水という溶媒(ものを溶かす液体)にはわれわれが考えている以上に洗浄効果があるのです。しかし、水が苦手な汚れがあります。それが油や脂肪の汚れです。そこで、仲の悪い水と油・脂肪の間を取り持って、油・脂肪汚れに取りついて繊維から引き離し、再付着させないのが石けん・洗剤です。石けん・洗剤の中心は水と油を取り持つ界面活性剤。それに、洗浄力を高めるための助剤や酵素なども働きます。「アルカリで洗う」「水素も汚れ落としに一役」など、アルカリなり水素なりの化学の用語があると、つい、「この話は化学的(科学的)な根拠があるに違いない」と思いがちです。「水素水」も、一部には科学的によいイメージがあります。私たちのまわりには、人びとの科学への信頼感を利用して、科学っぽい雰囲気をして、実は科学的にはおかしな説明が満ちあふれています。筆者はそれをニセ科学として世に警鐘を鳴らしてきました。ニセ科学かどうか見抜くのは大変です。今回のケースでいえば「対照実験」の重要性がわかりました。また、客観的に調べられているかも大切です。「思い」のアンケート調査の結果では根拠として弱すぎます。■既存の石けんや洗剤も環境に配慮されている筆者は学生時代、界面化学という石けん・洗剤で汚れを落とすしくみなどを研究する研究室に所属していました。その後、長らく中高理科教員、大学教員をしながら科学啓発とニセ科学問題を追及してきました。拙著『暮らしのなかのニセ科学』(平凡社新書)は、健康系ニセ科学についてまとめたものです。こんな本を一読しておくのもニセ科学へのセンスを磨く一助になるでしょう。筆者の周りにも実際にマグちゃんを使っている人がいますが、「汚れ落ちについては確かに水洗いとほぼ変わらないと感じているが、臭いが『水だけ』と『マグあり』ではまったく違う。わずかなpH変化でも、臭い菌の殺菌には効果があるのではないか」と語っています。ですが、友人が語る効果はあまりにも主観的です。臭い菌の除去には50℃程度のお湯に30分程度つけておいてから、その水(お湯)もあわせて洗濯機に入れて洗うことをおすすめします。マグちゃんを熱心に使っている消費者は、マグちゃんの使用が環境負荷の軽減に寄与していると信じているようです。ですが、現在発売されている石けん・洗剤は、汚れを取るために開発され、環境への影響もできるだけ小さくなるようなものに改良されています。洗浄力・環境負荷・人体への安全性などについて、今後も間違いなく進化し続けていくことでしょう。その方向を定めるのは、消費者の正しい理解以外にありません。———-左巻 健男(さまき・たけお)東京大学非常勤講師東京大学教育学部附属中・高等学校、京都工芸繊維大学、同志社女子大学、法政大学生命科学部環境応用化学科教授、同教職課程センター教授などを経て現職。東京学芸大学大学院教育学研究科理科教育専攻物理化学講座を修了。『RikaTan(理科の探検)』誌編集長、中学校理科教科書(新しい科学)編集委員。法政大学を定年後、精力的に執筆活動や講演会の講師を務める。『面白くて眠れなくなる物理』『面白くて眠れなくなる化学』『面白くて眠れなくなる地学』『怖くて眠れなくなる化学』(PHP研究所)、『身近にあふれる「科学」が3時間でわかる本』『身近にあふれる「微生物」が3時間でわかる本』(明日香出版社)、『絶対に面白い化学入門 世界史は化学でできている』(ダイヤモンド社)など著書多数。———-(東京大学非常勤講師 左巻 健男)
宮本製作所は1リットル未満の水に入れた場合のデータを提出したようですが、実際の洗濯機に入れた場合とは効果が大きく異なります。以下は、かつて一緒に石けん・洗剤の本を書いたLSアカデミー(生活を科学する会)代表 田嶋晴彦(薬学博士)さんのサイトです。(*4)uki☆uki☆せっけんライフ アルカリ助剤を使った洗濯は効果あるの?■洗濯マグネシウムの洗浄効果は水洗いと変わらない1リットルの水の場合、水のpH(酸性・アルカリ性の物差し。7より小さければ小さいほど酸性が強く、より大きければ大きいほどアルカリ性が強い)は、洗濯マグネシウムを入れる前の7.4から9.0に上昇し、水はアルカリ性になっていました。この結果だけ見ると、マグネシウムは効果があるようにも見えます。ところが、洗濯マグネシウムを実際の洗濯機に入れて、標準モードで10分水洗いを行ってみると、pHはほとんど変わりませんでした。何十リットルもの水がありますから、1リットルの水の場合とは全然違うのです。溶け出したマグネシウムの量も通常のアルカリ洗濯で使うアルカリ剤の量の1000分の1以下でした(*5)。マグネシウムと水の反応はとてもゆっくりで、洗濯の時間程度ではほとんど反応しないのです。つまり、“洗濯マグネシウム”だけで洗うことは、水だけで洗うことと同様なのです。水素水になるからという理屈は化学的にはなんの意味もありません。pHが水とほとんど変わらなかったということは、臭い菌への効果は水洗いと同じくほとんどないと考えられます。(*5)uki☆uki☆せっけんライフ マグネシウムで洗う?■主観的な感想は効果の根拠にはならない洗濯マグネシウムに限らず、洗濯ボールにしてもアルカリ剤にしても、「洗剤なしで洗える」という根拠がかなり主観的です。それは汚れを落とすということを客観的にテストしていない、とくに水だけの場合とそれを比較していないことが多いからです。例えば、『食品と暮らしの安全』No.306に、モニター30名に洗濯マグネシウムを使って汚れ落ちの調査をしたものがあります。「タオル、Tシャツ」「下着」「靴下、ストッキング」「ワイシャツ、ブラウス」「ズボン、スカート」「その他」について、アンケートでよく落ちた 少し落ちた あまり落ちない まったく落ちない を集計したものです。これでと回答した人が各種布地で平均59.5%あったから、洗濯効果が十分あると結論づけています。ですが、実際には洗濯マグネシウムを使用した際の水素は発生量もわずかですし、頑固に繊維に絡みついた汚れには効果はありません。この雑誌は、環境問題をいうなら、水洗いでかなりの汚れが落ちること、あらかじめ水で洗っておくと、本洗の洗浄効果を高め、よりきれいに仕上がることを述べるべきだったでしょう。写真=iStock.com/FotoDuets※写真はイメージです – 写真=iStock.com/FotoDuets一般家庭のふだんの洗濯物なら油・脂肪系の汚れが少ないので、水洗いだけでも石けん・洗剤を入れて洗濯したものと比べてもわからないくらいにきれいになります。■効果を確かめたければ厳密な実験を行うべき筆者からの、『食品と暮らしの安全』へのアドバイスですが水で洗った場合と比較するとよいでしょう。これを対照実験(ある条件の効果を調べるために、他の条件は全く同じにして、その条件のみを除いて行う実験)といいます。また、より厳格なテストをされるとよいでしょう。分析機器が使えない場合は、先の注(*4)にあるような口紅や牛脂を使って水洗い、“洗濯マグネシウム”、石けん・洗剤の比較をするのです。正確には、人工汚垢布(おこうふ)(人工汚染布ともいう。油・泥・タンパク質などが混じったかなり頑固な汚れを塗布した布。頑固な襟汚れをモデルにしている)を縫い付けたテストクロスを使って実験するのがいいでしょう。写真=iStock.com/tzahiV※写真はイメージです – 写真=iStock.com/tzahiVふつうの洗濯と同様に他の洗濯物を加え、水位を「中」、洗い8分、すすぎ2回、脱水5分で3回行い、選択後の布の光の反射率をはかり、反射率から洗浄率を求める実験を3回行って平均値を出すことで厳密な結果が得られます。例えば、北海道消費者センターは、このような方法で「重曹で洗濯、洗浄率は?」というテスト結果を報告しています(*6)。水よりも重曹を用いた方が洗浄率の上昇が見られます。一方で、洗濯マグネシウムと水でできる水酸化マグネシウムというアルカリは、マグネシウムが水と反応するのに時間がかかります。また、できるアルカリの量がわずかなため、重曹を溶かしたよりもアルカリ性がずっと弱く、洗浄力は水だけで洗う場合とほとんど変わらないのです。(*6)重曹で洗濯、洗浄率は?~液体石けん以外との併用は効果なし~■「科学的な用語」に騙されてはいけないすでに述べたように、洗濯マグネシウムのアルカリ剤としての効果はないに等しいのです。それが化学としての結論です。現在、小学校の理科では対照実験が推薦されています。このケースも、水で洗うことと比べるのです。水という溶媒(ものを溶かす液体)にはわれわれが考えている以上に洗浄効果があるのです。しかし、水が苦手な汚れがあります。それが油や脂肪の汚れです。そこで、仲の悪い水と油・脂肪の間を取り持って、油・脂肪汚れに取りついて繊維から引き離し、再付着させないのが石けん・洗剤です。石けん・洗剤の中心は水と油を取り持つ界面活性剤。それに、洗浄力を高めるための助剤や酵素なども働きます。「アルカリで洗う」「水素も汚れ落としに一役」など、アルカリなり水素なりの化学の用語があると、つい、「この話は化学的(科学的)な根拠があるに違いない」と思いがちです。「水素水」も、一部には科学的によいイメージがあります。私たちのまわりには、人びとの科学への信頼感を利用して、科学っぽい雰囲気をして、実は科学的にはおかしな説明が満ちあふれています。筆者はそれをニセ科学として世に警鐘を鳴らしてきました。ニセ科学かどうか見抜くのは大変です。今回のケースでいえば「対照実験」の重要性がわかりました。また、客観的に調べられているかも大切です。「思い」のアンケート調査の結果では根拠として弱すぎます。■既存の石けんや洗剤も環境に配慮されている筆者は学生時代、界面化学という石けん・洗剤で汚れを落とすしくみなどを研究する研究室に所属していました。その後、長らく中高理科教員、大学教員をしながら科学啓発とニセ科学問題を追及してきました。拙著『暮らしのなかのニセ科学』(平凡社新書)は、健康系ニセ科学についてまとめたものです。こんな本を一読しておくのもニセ科学へのセンスを磨く一助になるでしょう。筆者の周りにも実際にマグちゃんを使っている人がいますが、「汚れ落ちについては確かに水洗いとほぼ変わらないと感じているが、臭いが『水だけ』と『マグあり』ではまったく違う。わずかなpH変化でも、臭い菌の殺菌には効果があるのではないか」と語っています。ですが、友人が語る効果はあまりにも主観的です。臭い菌の除去には50℃程度のお湯に30分程度つけておいてから、その水(お湯)もあわせて洗濯機に入れて洗うことをおすすめします。マグちゃんを熱心に使っている消費者は、マグちゃんの使用が環境負荷の軽減に寄与していると信じているようです。ですが、現在発売されている石けん・洗剤は、汚れを取るために開発され、環境への影響もできるだけ小さくなるようなものに改良されています。洗浄力・環境負荷・人体への安全性などについて、今後も間違いなく進化し続けていくことでしょう。その方向を定めるのは、消費者の正しい理解以外にありません。———-左巻 健男(さまき・たけお)東京大学非常勤講師東京大学教育学部附属中・高等学校、京都工芸繊維大学、同志社女子大学、法政大学生命科学部環境応用化学科教授、同教職課程センター教授などを経て現職。東京学芸大学大学院教育学研究科理科教育専攻物理化学講座を修了。『RikaTan(理科の探検)』誌編集長、中学校理科教科書(新しい科学)編集委員。法政大学を定年後、精力的に執筆活動や講演会の講師を務める。『面白くて眠れなくなる物理』『面白くて眠れなくなる化学』『面白くて眠れなくなる地学』『怖くて眠れなくなる化学』(PHP研究所)、『身近にあふれる「科学」が3時間でわかる本』『身近にあふれる「微生物」が3時間でわかる本』(明日香出版社)、『絶対に面白い化学入門 世界史は化学でできている』(ダイヤモンド社)など著書多数。———-(東京大学非常勤講師 左巻 健男)
以下は、かつて一緒に石けん・洗剤の本を書いたLSアカデミー(生活を科学する会)代表 田嶋晴彦(薬学博士)さんのサイトです。(*4)uki☆uki☆せっけんライフ アルカリ助剤を使った洗濯は効果あるの?■洗濯マグネシウムの洗浄効果は水洗いと変わらない1リットルの水の場合、水のpH(酸性・アルカリ性の物差し。7より小さければ小さいほど酸性が強く、より大きければ大きいほどアルカリ性が強い)は、洗濯マグネシウムを入れる前の7.4から9.0に上昇し、水はアルカリ性になっていました。この結果だけ見ると、マグネシウムは効果があるようにも見えます。ところが、洗濯マグネシウムを実際の洗濯機に入れて、標準モードで10分水洗いを行ってみると、pHはほとんど変わりませんでした。何十リットルもの水がありますから、1リットルの水の場合とは全然違うのです。溶け出したマグネシウムの量も通常のアルカリ洗濯で使うアルカリ剤の量の1000分の1以下でした(*5)。マグネシウムと水の反応はとてもゆっくりで、洗濯の時間程度ではほとんど反応しないのです。つまり、“洗濯マグネシウム”だけで洗うことは、水だけで洗うことと同様なのです。水素水になるからという理屈は化学的にはなんの意味もありません。pHが水とほとんど変わらなかったということは、臭い菌への効果は水洗いと同じくほとんどないと考えられます。(*5)uki☆uki☆せっけんライフ マグネシウムで洗う?■主観的な感想は効果の根拠にはならない洗濯マグネシウムに限らず、洗濯ボールにしてもアルカリ剤にしても、「洗剤なしで洗える」という根拠がかなり主観的です。それは汚れを落とすということを客観的にテストしていない、とくに水だけの場合とそれを比較していないことが多いからです。例えば、『食品と暮らしの安全』No.306に、モニター30名に洗濯マグネシウムを使って汚れ落ちの調査をしたものがあります。「タオル、Tシャツ」「下着」「靴下、ストッキング」「ワイシャツ、ブラウス」「ズボン、スカート」「その他」について、アンケートでよく落ちた 少し落ちた あまり落ちない まったく落ちない を集計したものです。これでと回答した人が各種布地で平均59.5%あったから、洗濯効果が十分あると結論づけています。ですが、実際には洗濯マグネシウムを使用した際の水素は発生量もわずかですし、頑固に繊維に絡みついた汚れには効果はありません。この雑誌は、環境問題をいうなら、水洗いでかなりの汚れが落ちること、あらかじめ水で洗っておくと、本洗の洗浄効果を高め、よりきれいに仕上がることを述べるべきだったでしょう。写真=iStock.com/FotoDuets※写真はイメージです – 写真=iStock.com/FotoDuets一般家庭のふだんの洗濯物なら油・脂肪系の汚れが少ないので、水洗いだけでも石けん・洗剤を入れて洗濯したものと比べてもわからないくらいにきれいになります。■効果を確かめたければ厳密な実験を行うべき筆者からの、『食品と暮らしの安全』へのアドバイスですが水で洗った場合と比較するとよいでしょう。これを対照実験(ある条件の効果を調べるために、他の条件は全く同じにして、その条件のみを除いて行う実験)といいます。また、より厳格なテストをされるとよいでしょう。分析機器が使えない場合は、先の注(*4)にあるような口紅や牛脂を使って水洗い、“洗濯マグネシウム”、石けん・洗剤の比較をするのです。正確には、人工汚垢布(おこうふ)(人工汚染布ともいう。油・泥・タンパク質などが混じったかなり頑固な汚れを塗布した布。頑固な襟汚れをモデルにしている)を縫い付けたテストクロスを使って実験するのがいいでしょう。写真=iStock.com/tzahiV※写真はイメージです – 写真=iStock.com/tzahiVふつうの洗濯と同様に他の洗濯物を加え、水位を「中」、洗い8分、すすぎ2回、脱水5分で3回行い、選択後の布の光の反射率をはかり、反射率から洗浄率を求める実験を3回行って平均値を出すことで厳密な結果が得られます。例えば、北海道消費者センターは、このような方法で「重曹で洗濯、洗浄率は?」というテスト結果を報告しています(*6)。水よりも重曹を用いた方が洗浄率の上昇が見られます。一方で、洗濯マグネシウムと水でできる水酸化マグネシウムというアルカリは、マグネシウムが水と反応するのに時間がかかります。また、できるアルカリの量がわずかなため、重曹を溶かしたよりもアルカリ性がずっと弱く、洗浄力は水だけで洗う場合とほとんど変わらないのです。(*6)重曹で洗濯、洗浄率は?~液体石けん以外との併用は効果なし~■「科学的な用語」に騙されてはいけないすでに述べたように、洗濯マグネシウムのアルカリ剤としての効果はないに等しいのです。それが化学としての結論です。現在、小学校の理科では対照実験が推薦されています。このケースも、水で洗うことと比べるのです。水という溶媒(ものを溶かす液体)にはわれわれが考えている以上に洗浄効果があるのです。しかし、水が苦手な汚れがあります。それが油や脂肪の汚れです。そこで、仲の悪い水と油・脂肪の間を取り持って、油・脂肪汚れに取りついて繊維から引き離し、再付着させないのが石けん・洗剤です。石けん・洗剤の中心は水と油を取り持つ界面活性剤。それに、洗浄力を高めるための助剤や酵素なども働きます。「アルカリで洗う」「水素も汚れ落としに一役」など、アルカリなり水素なりの化学の用語があると、つい、「この話は化学的(科学的)な根拠があるに違いない」と思いがちです。「水素水」も、一部には科学的によいイメージがあります。私たちのまわりには、人びとの科学への信頼感を利用して、科学っぽい雰囲気をして、実は科学的にはおかしな説明が満ちあふれています。筆者はそれをニセ科学として世に警鐘を鳴らしてきました。ニセ科学かどうか見抜くのは大変です。今回のケースでいえば「対照実験」の重要性がわかりました。また、客観的に調べられているかも大切です。「思い」のアンケート調査の結果では根拠として弱すぎます。■既存の石けんや洗剤も環境に配慮されている筆者は学生時代、界面化学という石けん・洗剤で汚れを落とすしくみなどを研究する研究室に所属していました。その後、長らく中高理科教員、大学教員をしながら科学啓発とニセ科学問題を追及してきました。拙著『暮らしのなかのニセ科学』(平凡社新書)は、健康系ニセ科学についてまとめたものです。こんな本を一読しておくのもニセ科学へのセンスを磨く一助になるでしょう。筆者の周りにも実際にマグちゃんを使っている人がいますが、「汚れ落ちについては確かに水洗いとほぼ変わらないと感じているが、臭いが『水だけ』と『マグあり』ではまったく違う。わずかなpH変化でも、臭い菌の殺菌には効果があるのではないか」と語っています。ですが、友人が語る効果はあまりにも主観的です。臭い菌の除去には50℃程度のお湯に30分程度つけておいてから、その水(お湯)もあわせて洗濯機に入れて洗うことをおすすめします。マグちゃんを熱心に使っている消費者は、マグちゃんの使用が環境負荷の軽減に寄与していると信じているようです。ですが、現在発売されている石けん・洗剤は、汚れを取るために開発され、環境への影響もできるだけ小さくなるようなものに改良されています。洗浄力・環境負荷・人体への安全性などについて、今後も間違いなく進化し続けていくことでしょう。その方向を定めるのは、消費者の正しい理解以外にありません。———-左巻 健男(さまき・たけお)東京大学非常勤講師東京大学教育学部附属中・高等学校、京都工芸繊維大学、同志社女子大学、法政大学生命科学部環境応用化学科教授、同教職課程センター教授などを経て現職。東京学芸大学大学院教育学研究科理科教育専攻物理化学講座を修了。『RikaTan(理科の探検)』誌編集長、中学校理科教科書(新しい科学)編集委員。法政大学を定年後、精力的に執筆活動や講演会の講師を務める。『面白くて眠れなくなる物理』『面白くて眠れなくなる化学』『面白くて眠れなくなる地学』『怖くて眠れなくなる化学』(PHP研究所)、『身近にあふれる「科学」が3時間でわかる本』『身近にあふれる「微生物」が3時間でわかる本』(明日香出版社)、『絶対に面白い化学入門 世界史は化学でできている』(ダイヤモンド社)など著書多数。———-(東京大学非常勤講師 左巻 健男)
1リットルの水の場合、水のpH(酸性・アルカリ性の物差し。7より小さければ小さいほど酸性が強く、より大きければ大きいほどアルカリ性が強い)は、洗濯マグネシウムを入れる前の7.4から9.0に上昇し、水はアルカリ性になっていました。この結果だけ見ると、マグネシウムは効果があるようにも見えます。ところが、洗濯マグネシウムを実際の洗濯機に入れて、標準モードで10分水洗いを行ってみると、pHはほとんど変わりませんでした。何十リットルもの水がありますから、1リットルの水の場合とは全然違うのです。溶け出したマグネシウムの量も通常のアルカリ洗濯で使うアルカリ剤の量の1000分の1以下でした(*5)。マグネシウムと水の反応はとてもゆっくりで、洗濯の時間程度ではほとんど反応しないのです。つまり、“洗濯マグネシウム”だけで洗うことは、水だけで洗うことと同様なのです。水素水になるからという理屈は化学的にはなんの意味もありません。pHが水とほとんど変わらなかったということは、臭い菌への効果は水洗いと同じくほとんどないと考えられます。(*5)uki☆uki☆せっけんライフ マグネシウムで洗う?■主観的な感想は効果の根拠にはならない洗濯マグネシウムに限らず、洗濯ボールにしてもアルカリ剤にしても、「洗剤なしで洗える」という根拠がかなり主観的です。それは汚れを落とすということを客観的にテストしていない、とくに水だけの場合とそれを比較していないことが多いからです。例えば、『食品と暮らしの安全』No.306に、モニター30名に洗濯マグネシウムを使って汚れ落ちの調査をしたものがあります。「タオル、Tシャツ」「下着」「靴下、ストッキング」「ワイシャツ、ブラウス」「ズボン、スカート」「その他」について、アンケートでよく落ちた 少し落ちた あまり落ちない まったく落ちない を集計したものです。これでと回答した人が各種布地で平均59.5%あったから、洗濯効果が十分あると結論づけています。ですが、実際には洗濯マグネシウムを使用した際の水素は発生量もわずかですし、頑固に繊維に絡みついた汚れには効果はありません。この雑誌は、環境問題をいうなら、水洗いでかなりの汚れが落ちること、あらかじめ水で洗っておくと、本洗の洗浄効果を高め、よりきれいに仕上がることを述べるべきだったでしょう。写真=iStock.com/FotoDuets※写真はイメージです – 写真=iStock.com/FotoDuets一般家庭のふだんの洗濯物なら油・脂肪系の汚れが少ないので、水洗いだけでも石けん・洗剤を入れて洗濯したものと比べてもわからないくらいにきれいになります。■効果を確かめたければ厳密な実験を行うべき筆者からの、『食品と暮らしの安全』へのアドバイスですが水で洗った場合と比較するとよいでしょう。これを対照実験(ある条件の効果を調べるために、他の条件は全く同じにして、その条件のみを除いて行う実験)といいます。また、より厳格なテストをされるとよいでしょう。分析機器が使えない場合は、先の注(*4)にあるような口紅や牛脂を使って水洗い、“洗濯マグネシウム”、石けん・洗剤の比較をするのです。正確には、人工汚垢布(おこうふ)(人工汚染布ともいう。油・泥・タンパク質などが混じったかなり頑固な汚れを塗布した布。頑固な襟汚れをモデルにしている)を縫い付けたテストクロスを使って実験するのがいいでしょう。写真=iStock.com/tzahiV※写真はイメージです – 写真=iStock.com/tzahiVふつうの洗濯と同様に他の洗濯物を加え、水位を「中」、洗い8分、すすぎ2回、脱水5分で3回行い、選択後の布の光の反射率をはかり、反射率から洗浄率を求める実験を3回行って平均値を出すことで厳密な結果が得られます。例えば、北海道消費者センターは、このような方法で「重曹で洗濯、洗浄率は?」というテスト結果を報告しています(*6)。水よりも重曹を用いた方が洗浄率の上昇が見られます。一方で、洗濯マグネシウムと水でできる水酸化マグネシウムというアルカリは、マグネシウムが水と反応するのに時間がかかります。また、できるアルカリの量がわずかなため、重曹を溶かしたよりもアルカリ性がずっと弱く、洗浄力は水だけで洗う場合とほとんど変わらないのです。(*6)重曹で洗濯、洗浄率は?~液体石けん以外との併用は効果なし~■「科学的な用語」に騙されてはいけないすでに述べたように、洗濯マグネシウムのアルカリ剤としての効果はないに等しいのです。それが化学としての結論です。現在、小学校の理科では対照実験が推薦されています。このケースも、水で洗うことと比べるのです。水という溶媒(ものを溶かす液体)にはわれわれが考えている以上に洗浄効果があるのです。しかし、水が苦手な汚れがあります。それが油や脂肪の汚れです。そこで、仲の悪い水と油・脂肪の間を取り持って、油・脂肪汚れに取りついて繊維から引き離し、再付着させないのが石けん・洗剤です。石けん・洗剤の中心は水と油を取り持つ界面活性剤。それに、洗浄力を高めるための助剤や酵素なども働きます。「アルカリで洗う」「水素も汚れ落としに一役」など、アルカリなり水素なりの化学の用語があると、つい、「この話は化学的(科学的)な根拠があるに違いない」と思いがちです。「水素水」も、一部には科学的によいイメージがあります。私たちのまわりには、人びとの科学への信頼感を利用して、科学っぽい雰囲気をして、実は科学的にはおかしな説明が満ちあふれています。筆者はそれをニセ科学として世に警鐘を鳴らしてきました。ニセ科学かどうか見抜くのは大変です。今回のケースでいえば「対照実験」の重要性がわかりました。また、客観的に調べられているかも大切です。「思い」のアンケート調査の結果では根拠として弱すぎます。■既存の石けんや洗剤も環境に配慮されている筆者は学生時代、界面化学という石けん・洗剤で汚れを落とすしくみなどを研究する研究室に所属していました。その後、長らく中高理科教員、大学教員をしながら科学啓発とニセ科学問題を追及してきました。拙著『暮らしのなかのニセ科学』(平凡社新書)は、健康系ニセ科学についてまとめたものです。こんな本を一読しておくのもニセ科学へのセンスを磨く一助になるでしょう。筆者の周りにも実際にマグちゃんを使っている人がいますが、「汚れ落ちについては確かに水洗いとほぼ変わらないと感じているが、臭いが『水だけ』と『マグあり』ではまったく違う。わずかなpH変化でも、臭い菌の殺菌には効果があるのではないか」と語っています。ですが、友人が語る効果はあまりにも主観的です。臭い菌の除去には50℃程度のお湯に30分程度つけておいてから、その水(お湯)もあわせて洗濯機に入れて洗うことをおすすめします。マグちゃんを熱心に使っている消費者は、マグちゃんの使用が環境負荷の軽減に寄与していると信じているようです。ですが、現在発売されている石けん・洗剤は、汚れを取るために開発され、環境への影響もできるだけ小さくなるようなものに改良されています。洗浄力・環境負荷・人体への安全性などについて、今後も間違いなく進化し続けていくことでしょう。その方向を定めるのは、消費者の正しい理解以外にありません。———-左巻 健男(さまき・たけお)東京大学非常勤講師東京大学教育学部附属中・高等学校、京都工芸繊維大学、同志社女子大学、法政大学生命科学部環境応用化学科教授、同教職課程センター教授などを経て現職。東京学芸大学大学院教育学研究科理科教育専攻物理化学講座を修了。『RikaTan(理科の探検)』誌編集長、中学校理科教科書(新しい科学)編集委員。法政大学を定年後、精力的に執筆活動や講演会の講師を務める。『面白くて眠れなくなる物理』『面白くて眠れなくなる化学』『面白くて眠れなくなる地学』『怖くて眠れなくなる化学』(PHP研究所)、『身近にあふれる「科学」が3時間でわかる本』『身近にあふれる「微生物」が3時間でわかる本』(明日香出版社)、『絶対に面白い化学入門 世界史は化学でできている』(ダイヤモンド社)など著書多数。———-(東京大学非常勤講師 左巻 健男)
ところが、洗濯マグネシウムを実際の洗濯機に入れて、標準モードで10分水洗いを行ってみると、pHはほとんど変わりませんでした。何十リットルもの水がありますから、1リットルの水の場合とは全然違うのです。溶け出したマグネシウムの量も通常のアルカリ洗濯で使うアルカリ剤の量の1000分の1以下でした(*5)。マグネシウムと水の反応はとてもゆっくりで、洗濯の時間程度ではほとんど反応しないのです。つまり、“洗濯マグネシウム”だけで洗うことは、水だけで洗うことと同様なのです。水素水になるからという理屈は化学的にはなんの意味もありません。pHが水とほとんど変わらなかったということは、臭い菌への効果は水洗いと同じくほとんどないと考えられます。(*5)uki☆uki☆せっけんライフ マグネシウムで洗う?■主観的な感想は効果の根拠にはならない洗濯マグネシウムに限らず、洗濯ボールにしてもアルカリ剤にしても、「洗剤なしで洗える」という根拠がかなり主観的です。それは汚れを落とすということを客観的にテストしていない、とくに水だけの場合とそれを比較していないことが多いからです。例えば、『食品と暮らしの安全』No.306に、モニター30名に洗濯マグネシウムを使って汚れ落ちの調査をしたものがあります。「タオル、Tシャツ」「下着」「靴下、ストッキング」「ワイシャツ、ブラウス」「ズボン、スカート」「その他」について、アンケートでよく落ちた 少し落ちた あまり落ちない まったく落ちない を集計したものです。これでと回答した人が各種布地で平均59.5%あったから、洗濯効果が十分あると結論づけています。ですが、実際には洗濯マグネシウムを使用した際の水素は発生量もわずかですし、頑固に繊維に絡みついた汚れには効果はありません。この雑誌は、環境問題をいうなら、水洗いでかなりの汚れが落ちること、あらかじめ水で洗っておくと、本洗の洗浄効果を高め、よりきれいに仕上がることを述べるべきだったでしょう。写真=iStock.com/FotoDuets※写真はイメージです – 写真=iStock.com/FotoDuets一般家庭のふだんの洗濯物なら油・脂肪系の汚れが少ないので、水洗いだけでも石けん・洗剤を入れて洗濯したものと比べてもわからないくらいにきれいになります。■効果を確かめたければ厳密な実験を行うべき筆者からの、『食品と暮らしの安全』へのアドバイスですが水で洗った場合と比較するとよいでしょう。これを対照実験(ある条件の効果を調べるために、他の条件は全く同じにして、その条件のみを除いて行う実験)といいます。また、より厳格なテストをされるとよいでしょう。分析機器が使えない場合は、先の注(*4)にあるような口紅や牛脂を使って水洗い、“洗濯マグネシウム”、石けん・洗剤の比較をするのです。正確には、人工汚垢布(おこうふ)(人工汚染布ともいう。油・泥・タンパク質などが混じったかなり頑固な汚れを塗布した布。頑固な襟汚れをモデルにしている)を縫い付けたテストクロスを使って実験するのがいいでしょう。写真=iStock.com/tzahiV※写真はイメージです – 写真=iStock.com/tzahiVふつうの洗濯と同様に他の洗濯物を加え、水位を「中」、洗い8分、すすぎ2回、脱水5分で3回行い、選択後の布の光の反射率をはかり、反射率から洗浄率を求める実験を3回行って平均値を出すことで厳密な結果が得られます。例えば、北海道消費者センターは、このような方法で「重曹で洗濯、洗浄率は?」というテスト結果を報告しています(*6)。水よりも重曹を用いた方が洗浄率の上昇が見られます。一方で、洗濯マグネシウムと水でできる水酸化マグネシウムというアルカリは、マグネシウムが水と反応するのに時間がかかります。また、できるアルカリの量がわずかなため、重曹を溶かしたよりもアルカリ性がずっと弱く、洗浄力は水だけで洗う場合とほとんど変わらないのです。(*6)重曹で洗濯、洗浄率は?~液体石けん以外との併用は効果なし~■「科学的な用語」に騙されてはいけないすでに述べたように、洗濯マグネシウムのアルカリ剤としての効果はないに等しいのです。それが化学としての結論です。現在、小学校の理科では対照実験が推薦されています。このケースも、水で洗うことと比べるのです。水という溶媒(ものを溶かす液体)にはわれわれが考えている以上に洗浄効果があるのです。しかし、水が苦手な汚れがあります。それが油や脂肪の汚れです。そこで、仲の悪い水と油・脂肪の間を取り持って、油・脂肪汚れに取りついて繊維から引き離し、再付着させないのが石けん・洗剤です。石けん・洗剤の中心は水と油を取り持つ界面活性剤。それに、洗浄力を高めるための助剤や酵素なども働きます。「アルカリで洗う」「水素も汚れ落としに一役」など、アルカリなり水素なりの化学の用語があると、つい、「この話は化学的(科学的)な根拠があるに違いない」と思いがちです。「水素水」も、一部には科学的によいイメージがあります。私たちのまわりには、人びとの科学への信頼感を利用して、科学っぽい雰囲気をして、実は科学的にはおかしな説明が満ちあふれています。筆者はそれをニセ科学として世に警鐘を鳴らしてきました。ニセ科学かどうか見抜くのは大変です。今回のケースでいえば「対照実験」の重要性がわかりました。また、客観的に調べられているかも大切です。「思い」のアンケート調査の結果では根拠として弱すぎます。■既存の石けんや洗剤も環境に配慮されている筆者は学生時代、界面化学という石けん・洗剤で汚れを落とすしくみなどを研究する研究室に所属していました。その後、長らく中高理科教員、大学教員をしながら科学啓発とニセ科学問題を追及してきました。拙著『暮らしのなかのニセ科学』(平凡社新書)は、健康系ニセ科学についてまとめたものです。こんな本を一読しておくのもニセ科学へのセンスを磨く一助になるでしょう。筆者の周りにも実際にマグちゃんを使っている人がいますが、「汚れ落ちについては確かに水洗いとほぼ変わらないと感じているが、臭いが『水だけ』と『マグあり』ではまったく違う。わずかなpH変化でも、臭い菌の殺菌には効果があるのではないか」と語っています。ですが、友人が語る効果はあまりにも主観的です。臭い菌の除去には50℃程度のお湯に30分程度つけておいてから、その水(お湯)もあわせて洗濯機に入れて洗うことをおすすめします。マグちゃんを熱心に使っている消費者は、マグちゃんの使用が環境負荷の軽減に寄与していると信じているようです。ですが、現在発売されている石けん・洗剤は、汚れを取るために開発され、環境への影響もできるだけ小さくなるようなものに改良されています。洗浄力・環境負荷・人体への安全性などについて、今後も間違いなく進化し続けていくことでしょう。その方向を定めるのは、消費者の正しい理解以外にありません。———-左巻 健男(さまき・たけお)東京大学非常勤講師東京大学教育学部附属中・高等学校、京都工芸繊維大学、同志社女子大学、法政大学生命科学部環境応用化学科教授、同教職課程センター教授などを経て現職。東京学芸大学大学院教育学研究科理科教育専攻物理化学講座を修了。『RikaTan(理科の探検)』誌編集長、中学校理科教科書(新しい科学)編集委員。法政大学を定年後、精力的に執筆活動や講演会の講師を務める。『面白くて眠れなくなる物理』『面白くて眠れなくなる化学』『面白くて眠れなくなる地学』『怖くて眠れなくなる化学』(PHP研究所)、『身近にあふれる「科学」が3時間でわかる本』『身近にあふれる「微生物」が3時間でわかる本』(明日香出版社)、『絶対に面白い化学入門 世界史は化学でできている』(ダイヤモンド社)など著書多数。———-(東京大学非常勤講師 左巻 健男)
溶け出したマグネシウムの量も通常のアルカリ洗濯で使うアルカリ剤の量の1000分の1以下でした(*5)。マグネシウムと水の反応はとてもゆっくりで、洗濯の時間程度ではほとんど反応しないのです。つまり、“洗濯マグネシウム”だけで洗うことは、水だけで洗うことと同様なのです。水素水になるからという理屈は化学的にはなんの意味もありません。pHが水とほとんど変わらなかったということは、臭い菌への効果は水洗いと同じくほとんどないと考えられます。(*5)uki☆uki☆せっけんライフ マグネシウムで洗う?■主観的な感想は効果の根拠にはならない洗濯マグネシウムに限らず、洗濯ボールにしてもアルカリ剤にしても、「洗剤なしで洗える」という根拠がかなり主観的です。それは汚れを落とすということを客観的にテストしていない、とくに水だけの場合とそれを比較していないことが多いからです。例えば、『食品と暮らしの安全』No.306に、モニター30名に洗濯マグネシウムを使って汚れ落ちの調査をしたものがあります。「タオル、Tシャツ」「下着」「靴下、ストッキング」「ワイシャツ、ブラウス」「ズボン、スカート」「その他」について、アンケートでよく落ちた 少し落ちた あまり落ちない まったく落ちない を集計したものです。これでと回答した人が各種布地で平均59.5%あったから、洗濯効果が十分あると結論づけています。ですが、実際には洗濯マグネシウムを使用した際の水素は発生量もわずかですし、頑固に繊維に絡みついた汚れには効果はありません。この雑誌は、環境問題をいうなら、水洗いでかなりの汚れが落ちること、あらかじめ水で洗っておくと、本洗の洗浄効果を高め、よりきれいに仕上がることを述べるべきだったでしょう。写真=iStock.com/FotoDuets※写真はイメージです – 写真=iStock.com/FotoDuets一般家庭のふだんの洗濯物なら油・脂肪系の汚れが少ないので、水洗いだけでも石けん・洗剤を入れて洗濯したものと比べてもわからないくらいにきれいになります。■効果を確かめたければ厳密な実験を行うべき筆者からの、『食品と暮らしの安全』へのアドバイスですが水で洗った場合と比較するとよいでしょう。これを対照実験(ある条件の効果を調べるために、他の条件は全く同じにして、その条件のみを除いて行う実験)といいます。また、より厳格なテストをされるとよいでしょう。分析機器が使えない場合は、先の注(*4)にあるような口紅や牛脂を使って水洗い、“洗濯マグネシウム”、石けん・洗剤の比較をするのです。正確には、人工汚垢布(おこうふ)(人工汚染布ともいう。油・泥・タンパク質などが混じったかなり頑固な汚れを塗布した布。頑固な襟汚れをモデルにしている)を縫い付けたテストクロスを使って実験するのがいいでしょう。写真=iStock.com/tzahiV※写真はイメージです – 写真=iStock.com/tzahiVふつうの洗濯と同様に他の洗濯物を加え、水位を「中」、洗い8分、すすぎ2回、脱水5分で3回行い、選択後の布の光の反射率をはかり、反射率から洗浄率を求める実験を3回行って平均値を出すことで厳密な結果が得られます。例えば、北海道消費者センターは、このような方法で「重曹で洗濯、洗浄率は?」というテスト結果を報告しています(*6)。水よりも重曹を用いた方が洗浄率の上昇が見られます。一方で、洗濯マグネシウムと水でできる水酸化マグネシウムというアルカリは、マグネシウムが水と反応するのに時間がかかります。また、できるアルカリの量がわずかなため、重曹を溶かしたよりもアルカリ性がずっと弱く、洗浄力は水だけで洗う場合とほとんど変わらないのです。(*6)重曹で洗濯、洗浄率は?~液体石けん以外との併用は効果なし~■「科学的な用語」に騙されてはいけないすでに述べたように、洗濯マグネシウムのアルカリ剤としての効果はないに等しいのです。それが化学としての結論です。現在、小学校の理科では対照実験が推薦されています。このケースも、水で洗うことと比べるのです。水という溶媒(ものを溶かす液体)にはわれわれが考えている以上に洗浄効果があるのです。しかし、水が苦手な汚れがあります。それが油や脂肪の汚れです。そこで、仲の悪い水と油・脂肪の間を取り持って、油・脂肪汚れに取りついて繊維から引き離し、再付着させないのが石けん・洗剤です。石けん・洗剤の中心は水と油を取り持つ界面活性剤。それに、洗浄力を高めるための助剤や酵素なども働きます。「アルカリで洗う」「水素も汚れ落としに一役」など、アルカリなり水素なりの化学の用語があると、つい、「この話は化学的(科学的)な根拠があるに違いない」と思いがちです。「水素水」も、一部には科学的によいイメージがあります。私たちのまわりには、人びとの科学への信頼感を利用して、科学っぽい雰囲気をして、実は科学的にはおかしな説明が満ちあふれています。筆者はそれをニセ科学として世に警鐘を鳴らしてきました。ニセ科学かどうか見抜くのは大変です。今回のケースでいえば「対照実験」の重要性がわかりました。また、客観的に調べられているかも大切です。「思い」のアンケート調査の結果では根拠として弱すぎます。■既存の石けんや洗剤も環境に配慮されている筆者は学生時代、界面化学という石けん・洗剤で汚れを落とすしくみなどを研究する研究室に所属していました。その後、長らく中高理科教員、大学教員をしながら科学啓発とニセ科学問題を追及してきました。拙著『暮らしのなかのニセ科学』(平凡社新書)は、健康系ニセ科学についてまとめたものです。こんな本を一読しておくのもニセ科学へのセンスを磨く一助になるでしょう。筆者の周りにも実際にマグちゃんを使っている人がいますが、「汚れ落ちについては確かに水洗いとほぼ変わらないと感じているが、臭いが『水だけ』と『マグあり』ではまったく違う。わずかなpH変化でも、臭い菌の殺菌には効果があるのではないか」と語っています。ですが、友人が語る効果はあまりにも主観的です。臭い菌の除去には50℃程度のお湯に30分程度つけておいてから、その水(お湯)もあわせて洗濯機に入れて洗うことをおすすめします。マグちゃんを熱心に使っている消費者は、マグちゃんの使用が環境負荷の軽減に寄与していると信じているようです。ですが、現在発売されている石けん・洗剤は、汚れを取るために開発され、環境への影響もできるだけ小さくなるようなものに改良されています。洗浄力・環境負荷・人体への安全性などについて、今後も間違いなく進化し続けていくことでしょう。その方向を定めるのは、消費者の正しい理解以外にありません。———-左巻 健男(さまき・たけお)東京大学非常勤講師東京大学教育学部附属中・高等学校、京都工芸繊維大学、同志社女子大学、法政大学生命科学部環境応用化学科教授、同教職課程センター教授などを経て現職。東京学芸大学大学院教育学研究科理科教育専攻物理化学講座を修了。『RikaTan(理科の探検)』誌編集長、中学校理科教科書(新しい科学)編集委員。法政大学を定年後、精力的に執筆活動や講演会の講師を務める。『面白くて眠れなくなる物理』『面白くて眠れなくなる化学』『面白くて眠れなくなる地学』『怖くて眠れなくなる化学』(PHP研究所)、『身近にあふれる「科学」が3時間でわかる本』『身近にあふれる「微生物」が3時間でわかる本』(明日香出版社)、『絶対に面白い化学入門 世界史は化学でできている』(ダイヤモンド社)など著書多数。———-(東京大学非常勤講師 左巻 健男)
つまり、“洗濯マグネシウム”だけで洗うことは、水だけで洗うことと同様なのです。水素水になるからという理屈は化学的にはなんの意味もありません。pHが水とほとんど変わらなかったということは、臭い菌への効果は水洗いと同じくほとんどないと考えられます。(*5)uki☆uki☆せっけんライフ マグネシウムで洗う?■主観的な感想は効果の根拠にはならない洗濯マグネシウムに限らず、洗濯ボールにしてもアルカリ剤にしても、「洗剤なしで洗える」という根拠がかなり主観的です。それは汚れを落とすということを客観的にテストしていない、とくに水だけの場合とそれを比較していないことが多いからです。例えば、『食品と暮らしの安全』No.306に、モニター30名に洗濯マグネシウムを使って汚れ落ちの調査をしたものがあります。「タオル、Tシャツ」「下着」「靴下、ストッキング」「ワイシャツ、ブラウス」「ズボン、スカート」「その他」について、アンケートでよく落ちた 少し落ちた あまり落ちない まったく落ちない を集計したものです。これでと回答した人が各種布地で平均59.5%あったから、洗濯効果が十分あると結論づけています。ですが、実際には洗濯マグネシウムを使用した際の水素は発生量もわずかですし、頑固に繊維に絡みついた汚れには効果はありません。この雑誌は、環境問題をいうなら、水洗いでかなりの汚れが落ちること、あらかじめ水で洗っておくと、本洗の洗浄効果を高め、よりきれいに仕上がることを述べるべきだったでしょう。写真=iStock.com/FotoDuets※写真はイメージです – 写真=iStock.com/FotoDuets一般家庭のふだんの洗濯物なら油・脂肪系の汚れが少ないので、水洗いだけでも石けん・洗剤を入れて洗濯したものと比べてもわからないくらいにきれいになります。■効果を確かめたければ厳密な実験を行うべき筆者からの、『食品と暮らしの安全』へのアドバイスですが水で洗った場合と比較するとよいでしょう。これを対照実験(ある条件の効果を調べるために、他の条件は全く同じにして、その条件のみを除いて行う実験)といいます。また、より厳格なテストをされるとよいでしょう。分析機器が使えない場合は、先の注(*4)にあるような口紅や牛脂を使って水洗い、“洗濯マグネシウム”、石けん・洗剤の比較をするのです。正確には、人工汚垢布(おこうふ)(人工汚染布ともいう。油・泥・タンパク質などが混じったかなり頑固な汚れを塗布した布。頑固な襟汚れをモデルにしている)を縫い付けたテストクロスを使って実験するのがいいでしょう。写真=iStock.com/tzahiV※写真はイメージです – 写真=iStock.com/tzahiVふつうの洗濯と同様に他の洗濯物を加え、水位を「中」、洗い8分、すすぎ2回、脱水5分で3回行い、選択後の布の光の反射率をはかり、反射率から洗浄率を求める実験を3回行って平均値を出すことで厳密な結果が得られます。例えば、北海道消費者センターは、このような方法で「重曹で洗濯、洗浄率は?」というテスト結果を報告しています(*6)。水よりも重曹を用いた方が洗浄率の上昇が見られます。一方で、洗濯マグネシウムと水でできる水酸化マグネシウムというアルカリは、マグネシウムが水と反応するのに時間がかかります。また、できるアルカリの量がわずかなため、重曹を溶かしたよりもアルカリ性がずっと弱く、洗浄力は水だけで洗う場合とほとんど変わらないのです。(*6)重曹で洗濯、洗浄率は?~液体石けん以外との併用は効果なし~■「科学的な用語」に騙されてはいけないすでに述べたように、洗濯マグネシウムのアルカリ剤としての効果はないに等しいのです。それが化学としての結論です。現在、小学校の理科では対照実験が推薦されています。このケースも、水で洗うことと比べるのです。水という溶媒(ものを溶かす液体)にはわれわれが考えている以上に洗浄効果があるのです。しかし、水が苦手な汚れがあります。それが油や脂肪の汚れです。そこで、仲の悪い水と油・脂肪の間を取り持って、油・脂肪汚れに取りついて繊維から引き離し、再付着させないのが石けん・洗剤です。石けん・洗剤の中心は水と油を取り持つ界面活性剤。それに、洗浄力を高めるための助剤や酵素なども働きます。「アルカリで洗う」「水素も汚れ落としに一役」など、アルカリなり水素なりの化学の用語があると、つい、「この話は化学的(科学的)な根拠があるに違いない」と思いがちです。「水素水」も、一部には科学的によいイメージがあります。私たちのまわりには、人びとの科学への信頼感を利用して、科学っぽい雰囲気をして、実は科学的にはおかしな説明が満ちあふれています。筆者はそれをニセ科学として世に警鐘を鳴らしてきました。ニセ科学かどうか見抜くのは大変です。今回のケースでいえば「対照実験」の重要性がわかりました。また、客観的に調べられているかも大切です。「思い」のアンケート調査の結果では根拠として弱すぎます。■既存の石けんや洗剤も環境に配慮されている筆者は学生時代、界面化学という石けん・洗剤で汚れを落とすしくみなどを研究する研究室に所属していました。その後、長らく中高理科教員、大学教員をしながら科学啓発とニセ科学問題を追及してきました。拙著『暮らしのなかのニセ科学』(平凡社新書)は、健康系ニセ科学についてまとめたものです。こんな本を一読しておくのもニセ科学へのセンスを磨く一助になるでしょう。筆者の周りにも実際にマグちゃんを使っている人がいますが、「汚れ落ちについては確かに水洗いとほぼ変わらないと感じているが、臭いが『水だけ』と『マグあり』ではまったく違う。わずかなpH変化でも、臭い菌の殺菌には効果があるのではないか」と語っています。ですが、友人が語る効果はあまりにも主観的です。臭い菌の除去には50℃程度のお湯に30分程度つけておいてから、その水(お湯)もあわせて洗濯機に入れて洗うことをおすすめします。マグちゃんを熱心に使っている消費者は、マグちゃんの使用が環境負荷の軽減に寄与していると信じているようです。ですが、現在発売されている石けん・洗剤は、汚れを取るために開発され、環境への影響もできるだけ小さくなるようなものに改良されています。洗浄力・環境負荷・人体への安全性などについて、今後も間違いなく進化し続けていくことでしょう。その方向を定めるのは、消費者の正しい理解以外にありません。———-左巻 健男(さまき・たけお)東京大学非常勤講師東京大学教育学部附属中・高等学校、京都工芸繊維大学、同志社女子大学、法政大学生命科学部環境応用化学科教授、同教職課程センター教授などを経て現職。東京学芸大学大学院教育学研究科理科教育専攻物理化学講座を修了。『RikaTan(理科の探検)』誌編集長、中学校理科教科書(新しい科学)編集委員。法政大学を定年後、精力的に執筆活動や講演会の講師を務める。『面白くて眠れなくなる物理』『面白くて眠れなくなる化学』『面白くて眠れなくなる地学』『怖くて眠れなくなる化学』(PHP研究所)、『身近にあふれる「科学」が3時間でわかる本』『身近にあふれる「微生物」が3時間でわかる本』(明日香出版社)、『絶対に面白い化学入門 世界史は化学でできている』(ダイヤモンド社)など著書多数。———-(東京大学非常勤講師 左巻 健男)
(*5)uki☆uki☆せっけんライフ マグネシウムで洗う?■主観的な感想は効果の根拠にはならない洗濯マグネシウムに限らず、洗濯ボールにしてもアルカリ剤にしても、「洗剤なしで洗える」という根拠がかなり主観的です。それは汚れを落とすということを客観的にテストしていない、とくに水だけの場合とそれを比較していないことが多いからです。例えば、『食品と暮らしの安全』No.306に、モニター30名に洗濯マグネシウムを使って汚れ落ちの調査をしたものがあります。「タオル、Tシャツ」「下着」「靴下、ストッキング」「ワイシャツ、ブラウス」「ズボン、スカート」「その他」について、アンケートでよく落ちた 少し落ちた あまり落ちない まったく落ちない を集計したものです。これでと回答した人が各種布地で平均59.5%あったから、洗濯効果が十分あると結論づけています。ですが、実際には洗濯マグネシウムを使用した際の水素は発生量もわずかですし、頑固に繊維に絡みついた汚れには効果はありません。この雑誌は、環境問題をいうなら、水洗いでかなりの汚れが落ちること、あらかじめ水で洗っておくと、本洗の洗浄効果を高め、よりきれいに仕上がることを述べるべきだったでしょう。写真=iStock.com/FotoDuets※写真はイメージです – 写真=iStock.com/FotoDuets一般家庭のふだんの洗濯物なら油・脂肪系の汚れが少ないので、水洗いだけでも石けん・洗剤を入れて洗濯したものと比べてもわからないくらいにきれいになります。■効果を確かめたければ厳密な実験を行うべき筆者からの、『食品と暮らしの安全』へのアドバイスですが水で洗った場合と比較するとよいでしょう。これを対照実験(ある条件の効果を調べるために、他の条件は全く同じにして、その条件のみを除いて行う実験)といいます。また、より厳格なテストをされるとよいでしょう。分析機器が使えない場合は、先の注(*4)にあるような口紅や牛脂を使って水洗い、“洗濯マグネシウム”、石けん・洗剤の比較をするのです。正確には、人工汚垢布(おこうふ)(人工汚染布ともいう。油・泥・タンパク質などが混じったかなり頑固な汚れを塗布した布。頑固な襟汚れをモデルにしている)を縫い付けたテストクロスを使って実験するのがいいでしょう。写真=iStock.com/tzahiV※写真はイメージです – 写真=iStock.com/tzahiVふつうの洗濯と同様に他の洗濯物を加え、水位を「中」、洗い8分、すすぎ2回、脱水5分で3回行い、選択後の布の光の反射率をはかり、反射率から洗浄率を求める実験を3回行って平均値を出すことで厳密な結果が得られます。例えば、北海道消費者センターは、このような方法で「重曹で洗濯、洗浄率は?」というテスト結果を報告しています(*6)。水よりも重曹を用いた方が洗浄率の上昇が見られます。一方で、洗濯マグネシウムと水でできる水酸化マグネシウムというアルカリは、マグネシウムが水と反応するのに時間がかかります。また、できるアルカリの量がわずかなため、重曹を溶かしたよりもアルカリ性がずっと弱く、洗浄力は水だけで洗う場合とほとんど変わらないのです。(*6)重曹で洗濯、洗浄率は?~液体石けん以外との併用は効果なし~■「科学的な用語」に騙されてはいけないすでに述べたように、洗濯マグネシウムのアルカリ剤としての効果はないに等しいのです。それが化学としての結論です。現在、小学校の理科では対照実験が推薦されています。このケースも、水で洗うことと比べるのです。水という溶媒(ものを溶かす液体)にはわれわれが考えている以上に洗浄効果があるのです。しかし、水が苦手な汚れがあります。それが油や脂肪の汚れです。そこで、仲の悪い水と油・脂肪の間を取り持って、油・脂肪汚れに取りついて繊維から引き離し、再付着させないのが石けん・洗剤です。石けん・洗剤の中心は水と油を取り持つ界面活性剤。それに、洗浄力を高めるための助剤や酵素なども働きます。「アルカリで洗う」「水素も汚れ落としに一役」など、アルカリなり水素なりの化学の用語があると、つい、「この話は化学的(科学的)な根拠があるに違いない」と思いがちです。「水素水」も、一部には科学的によいイメージがあります。私たちのまわりには、人びとの科学への信頼感を利用して、科学っぽい雰囲気をして、実は科学的にはおかしな説明が満ちあふれています。筆者はそれをニセ科学として世に警鐘を鳴らしてきました。ニセ科学かどうか見抜くのは大変です。今回のケースでいえば「対照実験」の重要性がわかりました。また、客観的に調べられているかも大切です。「思い」のアンケート調査の結果では根拠として弱すぎます。■既存の石けんや洗剤も環境に配慮されている筆者は学生時代、界面化学という石けん・洗剤で汚れを落とすしくみなどを研究する研究室に所属していました。その後、長らく中高理科教員、大学教員をしながら科学啓発とニセ科学問題を追及してきました。拙著『暮らしのなかのニセ科学』(平凡社新書)は、健康系ニセ科学についてまとめたものです。こんな本を一読しておくのもニセ科学へのセンスを磨く一助になるでしょう。筆者の周りにも実際にマグちゃんを使っている人がいますが、「汚れ落ちについては確かに水洗いとほぼ変わらないと感じているが、臭いが『水だけ』と『マグあり』ではまったく違う。わずかなpH変化でも、臭い菌の殺菌には効果があるのではないか」と語っています。ですが、友人が語る効果はあまりにも主観的です。臭い菌の除去には50℃程度のお湯に30分程度つけておいてから、その水(お湯)もあわせて洗濯機に入れて洗うことをおすすめします。マグちゃんを熱心に使っている消費者は、マグちゃんの使用が環境負荷の軽減に寄与していると信じているようです。ですが、現在発売されている石けん・洗剤は、汚れを取るために開発され、環境への影響もできるだけ小さくなるようなものに改良されています。洗浄力・環境負荷・人体への安全性などについて、今後も間違いなく進化し続けていくことでしょう。その方向を定めるのは、消費者の正しい理解以外にありません。———-左巻 健男(さまき・たけお)東京大学非常勤講師東京大学教育学部附属中・高等学校、京都工芸繊維大学、同志社女子大学、法政大学生命科学部環境応用化学科教授、同教職課程センター教授などを経て現職。東京学芸大学大学院教育学研究科理科教育専攻物理化学講座を修了。『RikaTan(理科の探検)』誌編集長、中学校理科教科書(新しい科学)編集委員。法政大学を定年後、精力的に執筆活動や講演会の講師を務める。『面白くて眠れなくなる物理』『面白くて眠れなくなる化学』『面白くて眠れなくなる地学』『怖くて眠れなくなる化学』(PHP研究所)、『身近にあふれる「科学」が3時間でわかる本』『身近にあふれる「微生物」が3時間でわかる本』(明日香出版社)、『絶対に面白い化学入門 世界史は化学でできている』(ダイヤモンド社)など著書多数。———-(東京大学非常勤講師 左巻 健男)
洗濯マグネシウムに限らず、洗濯ボールにしてもアルカリ剤にしても、「洗剤なしで洗える」という根拠がかなり主観的です。それは汚れを落とすということを客観的にテストしていない、とくに水だけの場合とそれを比較していないことが多いからです。例えば、『食品と暮らしの安全』No.306に、モニター30名に洗濯マグネシウムを使って汚れ落ちの調査をしたものがあります。「タオル、Tシャツ」「下着」「靴下、ストッキング」「ワイシャツ、ブラウス」「ズボン、スカート」「その他」について、アンケートでよく落ちた 少し落ちた あまり落ちない まったく落ちない を集計したものです。これでと回答した人が各種布地で平均59.5%あったから、洗濯効果が十分あると結論づけています。ですが、実際には洗濯マグネシウムを使用した際の水素は発生量もわずかですし、頑固に繊維に絡みついた汚れには効果はありません。この雑誌は、環境問題をいうなら、水洗いでかなりの汚れが落ちること、あらかじめ水で洗っておくと、本洗の洗浄効果を高め、よりきれいに仕上がることを述べるべきだったでしょう。写真=iStock.com/FotoDuets※写真はイメージです – 写真=iStock.com/FotoDuets一般家庭のふだんの洗濯物なら油・脂肪系の汚れが少ないので、水洗いだけでも石けん・洗剤を入れて洗濯したものと比べてもわからないくらいにきれいになります。■効果を確かめたければ厳密な実験を行うべき筆者からの、『食品と暮らしの安全』へのアドバイスですが水で洗った場合と比較するとよいでしょう。これを対照実験(ある条件の効果を調べるために、他の条件は全く同じにして、その条件のみを除いて行う実験)といいます。また、より厳格なテストをされるとよいでしょう。分析機器が使えない場合は、先の注(*4)にあるような口紅や牛脂を使って水洗い、“洗濯マグネシウム”、石けん・洗剤の比較をするのです。正確には、人工汚垢布(おこうふ)(人工汚染布ともいう。油・泥・タンパク質などが混じったかなり頑固な汚れを塗布した布。頑固な襟汚れをモデルにしている)を縫い付けたテストクロスを使って実験するのがいいでしょう。写真=iStock.com/tzahiV※写真はイメージです – 写真=iStock.com/tzahiVふつうの洗濯と同様に他の洗濯物を加え、水位を「中」、洗い8分、すすぎ2回、脱水5分で3回行い、選択後の布の光の反射率をはかり、反射率から洗浄率を求める実験を3回行って平均値を出すことで厳密な結果が得られます。例えば、北海道消費者センターは、このような方法で「重曹で洗濯、洗浄率は?」というテスト結果を報告しています(*6)。水よりも重曹を用いた方が洗浄率の上昇が見られます。一方で、洗濯マグネシウムと水でできる水酸化マグネシウムというアルカリは、マグネシウムが水と反応するのに時間がかかります。また、できるアルカリの量がわずかなため、重曹を溶かしたよりもアルカリ性がずっと弱く、洗浄力は水だけで洗う場合とほとんど変わらないのです。(*6)重曹で洗濯、洗浄率は?~液体石けん以外との併用は効果なし~■「科学的な用語」に騙されてはいけないすでに述べたように、洗濯マグネシウムのアルカリ剤としての効果はないに等しいのです。それが化学としての結論です。現在、小学校の理科では対照実験が推薦されています。このケースも、水で洗うことと比べるのです。水という溶媒(ものを溶かす液体)にはわれわれが考えている以上に洗浄効果があるのです。しかし、水が苦手な汚れがあります。それが油や脂肪の汚れです。そこで、仲の悪い水と油・脂肪の間を取り持って、油・脂肪汚れに取りついて繊維から引き離し、再付着させないのが石けん・洗剤です。石けん・洗剤の中心は水と油を取り持つ界面活性剤。それに、洗浄力を高めるための助剤や酵素なども働きます。「アルカリで洗う」「水素も汚れ落としに一役」など、アルカリなり水素なりの化学の用語があると、つい、「この話は化学的(科学的)な根拠があるに違いない」と思いがちです。「水素水」も、一部には科学的によいイメージがあります。私たちのまわりには、人びとの科学への信頼感を利用して、科学っぽい雰囲気をして、実は科学的にはおかしな説明が満ちあふれています。筆者はそれをニセ科学として世に警鐘を鳴らしてきました。ニセ科学かどうか見抜くのは大変です。今回のケースでいえば「対照実験」の重要性がわかりました。また、客観的に調べられているかも大切です。「思い」のアンケート調査の結果では根拠として弱すぎます。■既存の石けんや洗剤も環境に配慮されている筆者は学生時代、界面化学という石けん・洗剤で汚れを落とすしくみなどを研究する研究室に所属していました。その後、長らく中高理科教員、大学教員をしながら科学啓発とニセ科学問題を追及してきました。拙著『暮らしのなかのニセ科学』(平凡社新書)は、健康系ニセ科学についてまとめたものです。こんな本を一読しておくのもニセ科学へのセンスを磨く一助になるでしょう。筆者の周りにも実際にマグちゃんを使っている人がいますが、「汚れ落ちについては確かに水洗いとほぼ変わらないと感じているが、臭いが『水だけ』と『マグあり』ではまったく違う。わずかなpH変化でも、臭い菌の殺菌には効果があるのではないか」と語っています。ですが、友人が語る効果はあまりにも主観的です。臭い菌の除去には50℃程度のお湯に30分程度つけておいてから、その水(お湯)もあわせて洗濯機に入れて洗うことをおすすめします。マグちゃんを熱心に使っている消費者は、マグちゃんの使用が環境負荷の軽減に寄与していると信じているようです。ですが、現在発売されている石けん・洗剤は、汚れを取るために開発され、環境への影響もできるだけ小さくなるようなものに改良されています。洗浄力・環境負荷・人体への安全性などについて、今後も間違いなく進化し続けていくことでしょう。その方向を定めるのは、消費者の正しい理解以外にありません。———-左巻 健男(さまき・たけお)東京大学非常勤講師東京大学教育学部附属中・高等学校、京都工芸繊維大学、同志社女子大学、法政大学生命科学部環境応用化学科教授、同教職課程センター教授などを経て現職。東京学芸大学大学院教育学研究科理科教育専攻物理化学講座を修了。『RikaTan(理科の探検)』誌編集長、中学校理科教科書(新しい科学)編集委員。法政大学を定年後、精力的に執筆活動や講演会の講師を務める。『面白くて眠れなくなる物理』『面白くて眠れなくなる化学』『面白くて眠れなくなる地学』『怖くて眠れなくなる化学』(PHP研究所)、『身近にあふれる「科学」が3時間でわかる本』『身近にあふれる「微生物」が3時間でわかる本』(明日香出版社)、『絶対に面白い化学入門 世界史は化学でできている』(ダイヤモンド社)など著書多数。———-(東京大学非常勤講師 左巻 健男)
例えば、『食品と暮らしの安全』No.306に、モニター30名に洗濯マグネシウムを使って汚れ落ちの調査をしたものがあります。「タオル、Tシャツ」「下着」「靴下、ストッキング」「ワイシャツ、ブラウス」「ズボン、スカート」「その他」について、アンケートでよく落ちた 少し落ちた あまり落ちない まったく落ちない を集計したものです。これでと回答した人が各種布地で平均59.5%あったから、洗濯効果が十分あると結論づけています。ですが、実際には洗濯マグネシウムを使用した際の水素は発生量もわずかですし、頑固に繊維に絡みついた汚れには効果はありません。この雑誌は、環境問題をいうなら、水洗いでかなりの汚れが落ちること、あらかじめ水で洗っておくと、本洗の洗浄効果を高め、よりきれいに仕上がることを述べるべきだったでしょう。写真=iStock.com/FotoDuets※写真はイメージです – 写真=iStock.com/FotoDuets一般家庭のふだんの洗濯物なら油・脂肪系の汚れが少ないので、水洗いだけでも石けん・洗剤を入れて洗濯したものと比べてもわからないくらいにきれいになります。■効果を確かめたければ厳密な実験を行うべき筆者からの、『食品と暮らしの安全』へのアドバイスですが水で洗った場合と比較するとよいでしょう。これを対照実験(ある条件の効果を調べるために、他の条件は全く同じにして、その条件のみを除いて行う実験)といいます。また、より厳格なテストをされるとよいでしょう。分析機器が使えない場合は、先の注(*4)にあるような口紅や牛脂を使って水洗い、“洗濯マグネシウム”、石けん・洗剤の比較をするのです。正確には、人工汚垢布(おこうふ)(人工汚染布ともいう。油・泥・タンパク質などが混じったかなり頑固な汚れを塗布した布。頑固な襟汚れをモデルにしている)を縫い付けたテストクロスを使って実験するのがいいでしょう。写真=iStock.com/tzahiV※写真はイメージです – 写真=iStock.com/tzahiVふつうの洗濯と同様に他の洗濯物を加え、水位を「中」、洗い8分、すすぎ2回、脱水5分で3回行い、選択後の布の光の反射率をはかり、反射率から洗浄率を求める実験を3回行って平均値を出すことで厳密な結果が得られます。例えば、北海道消費者センターは、このような方法で「重曹で洗濯、洗浄率は?」というテスト結果を報告しています(*6)。水よりも重曹を用いた方が洗浄率の上昇が見られます。一方で、洗濯マグネシウムと水でできる水酸化マグネシウムというアルカリは、マグネシウムが水と反応するのに時間がかかります。また、できるアルカリの量がわずかなため、重曹を溶かしたよりもアルカリ性がずっと弱く、洗浄力は水だけで洗う場合とほとんど変わらないのです。(*6)重曹で洗濯、洗浄率は?~液体石けん以外との併用は効果なし~■「科学的な用語」に騙されてはいけないすでに述べたように、洗濯マグネシウムのアルカリ剤としての効果はないに等しいのです。それが化学としての結論です。現在、小学校の理科では対照実験が推薦されています。このケースも、水で洗うことと比べるのです。水という溶媒(ものを溶かす液体)にはわれわれが考えている以上に洗浄効果があるのです。しかし、水が苦手な汚れがあります。それが油や脂肪の汚れです。そこで、仲の悪い水と油・脂肪の間を取り持って、油・脂肪汚れに取りついて繊維から引き離し、再付着させないのが石けん・洗剤です。石けん・洗剤の中心は水と油を取り持つ界面活性剤。それに、洗浄力を高めるための助剤や酵素なども働きます。「アルカリで洗う」「水素も汚れ落としに一役」など、アルカリなり水素なりの化学の用語があると、つい、「この話は化学的(科学的)な根拠があるに違いない」と思いがちです。「水素水」も、一部には科学的によいイメージがあります。私たちのまわりには、人びとの科学への信頼感を利用して、科学っぽい雰囲気をして、実は科学的にはおかしな説明が満ちあふれています。筆者はそれをニセ科学として世に警鐘を鳴らしてきました。ニセ科学かどうか見抜くのは大変です。今回のケースでいえば「対照実験」の重要性がわかりました。また、客観的に調べられているかも大切です。「思い」のアンケート調査の結果では根拠として弱すぎます。■既存の石けんや洗剤も環境に配慮されている筆者は学生時代、界面化学という石けん・洗剤で汚れを落とすしくみなどを研究する研究室に所属していました。その後、長らく中高理科教員、大学教員をしながら科学啓発とニセ科学問題を追及してきました。拙著『暮らしのなかのニセ科学』(平凡社新書)は、健康系ニセ科学についてまとめたものです。こんな本を一読しておくのもニセ科学へのセンスを磨く一助になるでしょう。筆者の周りにも実際にマグちゃんを使っている人がいますが、「汚れ落ちについては確かに水洗いとほぼ変わらないと感じているが、臭いが『水だけ』と『マグあり』ではまったく違う。わずかなpH変化でも、臭い菌の殺菌には効果があるのではないか」と語っています。ですが、友人が語る効果はあまりにも主観的です。臭い菌の除去には50℃程度のお湯に30分程度つけておいてから、その水(お湯)もあわせて洗濯機に入れて洗うことをおすすめします。マグちゃんを熱心に使っている消費者は、マグちゃんの使用が環境負荷の軽減に寄与していると信じているようです。ですが、現在発売されている石けん・洗剤は、汚れを取るために開発され、環境への影響もできるだけ小さくなるようなものに改良されています。洗浄力・環境負荷・人体への安全性などについて、今後も間違いなく進化し続けていくことでしょう。その方向を定めるのは、消費者の正しい理解以外にありません。———-左巻 健男(さまき・たけお)東京大学非常勤講師東京大学教育学部附属中・高等学校、京都工芸繊維大学、同志社女子大学、法政大学生命科学部環境応用化学科教授、同教職課程センター教授などを経て現職。東京学芸大学大学院教育学研究科理科教育専攻物理化学講座を修了。『RikaTan(理科の探検)』誌編集長、中学校理科教科書(新しい科学)編集委員。法政大学を定年後、精力的に執筆活動や講演会の講師を務める。『面白くて眠れなくなる物理』『面白くて眠れなくなる化学』『面白くて眠れなくなる地学』『怖くて眠れなくなる化学』(PHP研究所)、『身近にあふれる「科学」が3時間でわかる本』『身近にあふれる「微生物」が3時間でわかる本』(明日香出版社)、『絶対に面白い化学入門 世界史は化学でできている』(ダイヤモンド社)など著書多数。———-(東京大学非常勤講師 左巻 健男)
「タオル、Tシャツ」「下着」「靴下、ストッキング」「ワイシャツ、ブラウス」「ズボン、スカート」「その他」について、アンケートでよく落ちた 少し落ちた あまり落ちない まったく落ちない を集計したものです。これでと回答した人が各種布地で平均59.5%あったから、洗濯効果が十分あると結論づけています。ですが、実際には洗濯マグネシウムを使用した際の水素は発生量もわずかですし、頑固に繊維に絡みついた汚れには効果はありません。この雑誌は、環境問題をいうなら、水洗いでかなりの汚れが落ちること、あらかじめ水で洗っておくと、本洗の洗浄効果を高め、よりきれいに仕上がることを述べるべきだったでしょう。写真=iStock.com/FotoDuets※写真はイメージです – 写真=iStock.com/FotoDuets一般家庭のふだんの洗濯物なら油・脂肪系の汚れが少ないので、水洗いだけでも石けん・洗剤を入れて洗濯したものと比べてもわからないくらいにきれいになります。■効果を確かめたければ厳密な実験を行うべき筆者からの、『食品と暮らしの安全』へのアドバイスですが水で洗った場合と比較するとよいでしょう。これを対照実験(ある条件の効果を調べるために、他の条件は全く同じにして、その条件のみを除いて行う実験)といいます。また、より厳格なテストをされるとよいでしょう。分析機器が使えない場合は、先の注(*4)にあるような口紅や牛脂を使って水洗い、“洗濯マグネシウム”、石けん・洗剤の比較をするのです。正確には、人工汚垢布(おこうふ)(人工汚染布ともいう。油・泥・タンパク質などが混じったかなり頑固な汚れを塗布した布。頑固な襟汚れをモデルにしている)を縫い付けたテストクロスを使って実験するのがいいでしょう。写真=iStock.com/tzahiV※写真はイメージです – 写真=iStock.com/tzahiVふつうの洗濯と同様に他の洗濯物を加え、水位を「中」、洗い8分、すすぎ2回、脱水5分で3回行い、選択後の布の光の反射率をはかり、反射率から洗浄率を求める実験を3回行って平均値を出すことで厳密な結果が得られます。例えば、北海道消費者センターは、このような方法で「重曹で洗濯、洗浄率は?」というテスト結果を報告しています(*6)。水よりも重曹を用いた方が洗浄率の上昇が見られます。一方で、洗濯マグネシウムと水でできる水酸化マグネシウムというアルカリは、マグネシウムが水と反応するのに時間がかかります。また、できるアルカリの量がわずかなため、重曹を溶かしたよりもアルカリ性がずっと弱く、洗浄力は水だけで洗う場合とほとんど変わらないのです。(*6)重曹で洗濯、洗浄率は?~液体石けん以外との併用は効果なし~■「科学的な用語」に騙されてはいけないすでに述べたように、洗濯マグネシウムのアルカリ剤としての効果はないに等しいのです。それが化学としての結論です。現在、小学校の理科では対照実験が推薦されています。このケースも、水で洗うことと比べるのです。水という溶媒(ものを溶かす液体)にはわれわれが考えている以上に洗浄効果があるのです。しかし、水が苦手な汚れがあります。それが油や脂肪の汚れです。そこで、仲の悪い水と油・脂肪の間を取り持って、油・脂肪汚れに取りついて繊維から引き離し、再付着させないのが石けん・洗剤です。石けん・洗剤の中心は水と油を取り持つ界面活性剤。それに、洗浄力を高めるための助剤や酵素なども働きます。「アルカリで洗う」「水素も汚れ落としに一役」など、アルカリなり水素なりの化学の用語があると、つい、「この話は化学的(科学的)な根拠があるに違いない」と思いがちです。「水素水」も、一部には科学的によいイメージがあります。私たちのまわりには、人びとの科学への信頼感を利用して、科学っぽい雰囲気をして、実は科学的にはおかしな説明が満ちあふれています。筆者はそれをニセ科学として世に警鐘を鳴らしてきました。ニセ科学かどうか見抜くのは大変です。今回のケースでいえば「対照実験」の重要性がわかりました。また、客観的に調べられているかも大切です。「思い」のアンケート調査の結果では根拠として弱すぎます。■既存の石けんや洗剤も環境に配慮されている筆者は学生時代、界面化学という石けん・洗剤で汚れを落とすしくみなどを研究する研究室に所属していました。その後、長らく中高理科教員、大学教員をしながら科学啓発とニセ科学問題を追及してきました。拙著『暮らしのなかのニセ科学』(平凡社新書)は、健康系ニセ科学についてまとめたものです。こんな本を一読しておくのもニセ科学へのセンスを磨く一助になるでしょう。筆者の周りにも実際にマグちゃんを使っている人がいますが、「汚れ落ちについては確かに水洗いとほぼ変わらないと感じているが、臭いが『水だけ』と『マグあり』ではまったく違う。わずかなpH変化でも、臭い菌の殺菌には効果があるのではないか」と語っています。ですが、友人が語る効果はあまりにも主観的です。臭い菌の除去には50℃程度のお湯に30分程度つけておいてから、その水(お湯)もあわせて洗濯機に入れて洗うことをおすすめします。マグちゃんを熱心に使っている消費者は、マグちゃんの使用が環境負荷の軽減に寄与していると信じているようです。ですが、現在発売されている石けん・洗剤は、汚れを取るために開発され、環境への影響もできるだけ小さくなるようなものに改良されています。洗浄力・環境負荷・人体への安全性などについて、今後も間違いなく進化し続けていくことでしょう。その方向を定めるのは、消費者の正しい理解以外にありません。———-左巻 健男(さまき・たけお)東京大学非常勤講師東京大学教育学部附属中・高等学校、京都工芸繊維大学、同志社女子大学、法政大学生命科学部環境応用化学科教授、同教職課程センター教授などを経て現職。東京学芸大学大学院教育学研究科理科教育専攻物理化学講座を修了。『RikaTan(理科の探検)』誌編集長、中学校理科教科書(新しい科学)編集委員。法政大学を定年後、精力的に執筆活動や講演会の講師を務める。『面白くて眠れなくなる物理』『面白くて眠れなくなる化学』『面白くて眠れなくなる地学』『怖くて眠れなくなる化学』(PHP研究所)、『身近にあふれる「科学」が3時間でわかる本』『身近にあふれる「微生物」が3時間でわかる本』(明日香出版社)、『絶対に面白い化学入門 世界史は化学でできている』(ダイヤモンド社)など著書多数。———-(東京大学非常勤講師 左巻 健男)
これでと回答した人が各種布地で平均59.5%あったから、洗濯効果が十分あると結論づけています。ですが、実際には洗濯マグネシウムを使用した際の水素は発生量もわずかですし、頑固に繊維に絡みついた汚れには効果はありません。この雑誌は、環境問題をいうなら、水洗いでかなりの汚れが落ちること、あらかじめ水で洗っておくと、本洗の洗浄効果を高め、よりきれいに仕上がることを述べるべきだったでしょう。写真=iStock.com/FotoDuets※写真はイメージです – 写真=iStock.com/FotoDuets一般家庭のふだんの洗濯物なら油・脂肪系の汚れが少ないので、水洗いだけでも石けん・洗剤を入れて洗濯したものと比べてもわからないくらいにきれいになります。■効果を確かめたければ厳密な実験を行うべき筆者からの、『食品と暮らしの安全』へのアドバイスですが水で洗った場合と比較するとよいでしょう。これを対照実験(ある条件の効果を調べるために、他の条件は全く同じにして、その条件のみを除いて行う実験)といいます。また、より厳格なテストをされるとよいでしょう。分析機器が使えない場合は、先の注(*4)にあるような口紅や牛脂を使って水洗い、“洗濯マグネシウム”、石けん・洗剤の比較をするのです。正確には、人工汚垢布(おこうふ)(人工汚染布ともいう。油・泥・タンパク質などが混じったかなり頑固な汚れを塗布した布。頑固な襟汚れをモデルにしている)を縫い付けたテストクロスを使って実験するのがいいでしょう。写真=iStock.com/tzahiV※写真はイメージです – 写真=iStock.com/tzahiVふつうの洗濯と同様に他の洗濯物を加え、水位を「中」、洗い8分、すすぎ2回、脱水5分で3回行い、選択後の布の光の反射率をはかり、反射率から洗浄率を求める実験を3回行って平均値を出すことで厳密な結果が得られます。例えば、北海道消費者センターは、このような方法で「重曹で洗濯、洗浄率は?」というテスト結果を報告しています(*6)。水よりも重曹を用いた方が洗浄率の上昇が見られます。一方で、洗濯マグネシウムと水でできる水酸化マグネシウムというアルカリは、マグネシウムが水と反応するのに時間がかかります。また、できるアルカリの量がわずかなため、重曹を溶かしたよりもアルカリ性がずっと弱く、洗浄力は水だけで洗う場合とほとんど変わらないのです。(*6)重曹で洗濯、洗浄率は?~液体石けん以外との併用は効果なし~■「科学的な用語」に騙されてはいけないすでに述べたように、洗濯マグネシウムのアルカリ剤としての効果はないに等しいのです。それが化学としての結論です。現在、小学校の理科では対照実験が推薦されています。このケースも、水で洗うことと比べるのです。水という溶媒(ものを溶かす液体)にはわれわれが考えている以上に洗浄効果があるのです。しかし、水が苦手な汚れがあります。それが油や脂肪の汚れです。そこで、仲の悪い水と油・脂肪の間を取り持って、油・脂肪汚れに取りついて繊維から引き離し、再付着させないのが石けん・洗剤です。石けん・洗剤の中心は水と油を取り持つ界面活性剤。それに、洗浄力を高めるための助剤や酵素なども働きます。「アルカリで洗う」「水素も汚れ落としに一役」など、アルカリなり水素なりの化学の用語があると、つい、「この話は化学的(科学的)な根拠があるに違いない」と思いがちです。「水素水」も、一部には科学的によいイメージがあります。私たちのまわりには、人びとの科学への信頼感を利用して、科学っぽい雰囲気をして、実は科学的にはおかしな説明が満ちあふれています。筆者はそれをニセ科学として世に警鐘を鳴らしてきました。ニセ科学かどうか見抜くのは大変です。今回のケースでいえば「対照実験」の重要性がわかりました。また、客観的に調べられているかも大切です。「思い」のアンケート調査の結果では根拠として弱すぎます。■既存の石けんや洗剤も環境に配慮されている筆者は学生時代、界面化学という石けん・洗剤で汚れを落とすしくみなどを研究する研究室に所属していました。その後、長らく中高理科教員、大学教員をしながら科学啓発とニセ科学問題を追及してきました。拙著『暮らしのなかのニセ科学』(平凡社新書)は、健康系ニセ科学についてまとめたものです。こんな本を一読しておくのもニセ科学へのセンスを磨く一助になるでしょう。筆者の周りにも実際にマグちゃんを使っている人がいますが、「汚れ落ちについては確かに水洗いとほぼ変わらないと感じているが、臭いが『水だけ』と『マグあり』ではまったく違う。わずかなpH変化でも、臭い菌の殺菌には効果があるのではないか」と語っています。ですが、友人が語る効果はあまりにも主観的です。臭い菌の除去には50℃程度のお湯に30分程度つけておいてから、その水(お湯)もあわせて洗濯機に入れて洗うことをおすすめします。マグちゃんを熱心に使っている消費者は、マグちゃんの使用が環境負荷の軽減に寄与していると信じているようです。ですが、現在発売されている石けん・洗剤は、汚れを取るために開発され、環境への影響もできるだけ小さくなるようなものに改良されています。洗浄力・環境負荷・人体への安全性などについて、今後も間違いなく進化し続けていくことでしょう。その方向を定めるのは、消費者の正しい理解以外にありません。———-左巻 健男(さまき・たけお)東京大学非常勤講師東京大学教育学部附属中・高等学校、京都工芸繊維大学、同志社女子大学、法政大学生命科学部環境応用化学科教授、同教職課程センター教授などを経て現職。東京学芸大学大学院教育学研究科理科教育専攻物理化学講座を修了。『RikaTan(理科の探検)』誌編集長、中学校理科教科書(新しい科学)編集委員。法政大学を定年後、精力的に執筆活動や講演会の講師を務める。『面白くて眠れなくなる物理』『面白くて眠れなくなる化学』『面白くて眠れなくなる地学』『怖くて眠れなくなる化学』(PHP研究所)、『身近にあふれる「科学」が3時間でわかる本』『身近にあふれる「微生物」が3時間でわかる本』(明日香出版社)、『絶対に面白い化学入門 世界史は化学でできている』(ダイヤモンド社)など著書多数。———-(東京大学非常勤講師 左巻 健男)
この雑誌は、環境問題をいうなら、水洗いでかなりの汚れが落ちること、あらかじめ水で洗っておくと、本洗の洗浄効果を高め、よりきれいに仕上がることを述べるべきだったでしょう。写真=iStock.com/FotoDuets※写真はイメージです – 写真=iStock.com/FotoDuets一般家庭のふだんの洗濯物なら油・脂肪系の汚れが少ないので、水洗いだけでも石けん・洗剤を入れて洗濯したものと比べてもわからないくらいにきれいになります。■効果を確かめたければ厳密な実験を行うべき筆者からの、『食品と暮らしの安全』へのアドバイスですが水で洗った場合と比較するとよいでしょう。これを対照実験(ある条件の効果を調べるために、他の条件は全く同じにして、その条件のみを除いて行う実験)といいます。また、より厳格なテストをされるとよいでしょう。分析機器が使えない場合は、先の注(*4)にあるような口紅や牛脂を使って水洗い、“洗濯マグネシウム”、石けん・洗剤の比較をするのです。正確には、人工汚垢布(おこうふ)(人工汚染布ともいう。油・泥・タンパク質などが混じったかなり頑固な汚れを塗布した布。頑固な襟汚れをモデルにしている)を縫い付けたテストクロスを使って実験するのがいいでしょう。写真=iStock.com/tzahiV※写真はイメージです – 写真=iStock.com/tzahiVふつうの洗濯と同様に他の洗濯物を加え、水位を「中」、洗い8分、すすぎ2回、脱水5分で3回行い、選択後の布の光の反射率をはかり、反射率から洗浄率を求める実験を3回行って平均値を出すことで厳密な結果が得られます。例えば、北海道消費者センターは、このような方法で「重曹で洗濯、洗浄率は?」というテスト結果を報告しています(*6)。水よりも重曹を用いた方が洗浄率の上昇が見られます。一方で、洗濯マグネシウムと水でできる水酸化マグネシウムというアルカリは、マグネシウムが水と反応するのに時間がかかります。また、できるアルカリの量がわずかなため、重曹を溶かしたよりもアルカリ性がずっと弱く、洗浄力は水だけで洗う場合とほとんど変わらないのです。(*6)重曹で洗濯、洗浄率は?~液体石けん以外との併用は効果なし~■「科学的な用語」に騙されてはいけないすでに述べたように、洗濯マグネシウムのアルカリ剤としての効果はないに等しいのです。それが化学としての結論です。現在、小学校の理科では対照実験が推薦されています。このケースも、水で洗うことと比べるのです。水という溶媒(ものを溶かす液体)にはわれわれが考えている以上に洗浄効果があるのです。しかし、水が苦手な汚れがあります。それが油や脂肪の汚れです。そこで、仲の悪い水と油・脂肪の間を取り持って、油・脂肪汚れに取りついて繊維から引き離し、再付着させないのが石けん・洗剤です。石けん・洗剤の中心は水と油を取り持つ界面活性剤。それに、洗浄力を高めるための助剤や酵素なども働きます。「アルカリで洗う」「水素も汚れ落としに一役」など、アルカリなり水素なりの化学の用語があると、つい、「この話は化学的(科学的)な根拠があるに違いない」と思いがちです。「水素水」も、一部には科学的によいイメージがあります。私たちのまわりには、人びとの科学への信頼感を利用して、科学っぽい雰囲気をして、実は科学的にはおかしな説明が満ちあふれています。筆者はそれをニセ科学として世に警鐘を鳴らしてきました。ニセ科学かどうか見抜くのは大変です。今回のケースでいえば「対照実験」の重要性がわかりました。また、客観的に調べられているかも大切です。「思い」のアンケート調査の結果では根拠として弱すぎます。■既存の石けんや洗剤も環境に配慮されている筆者は学生時代、界面化学という石けん・洗剤で汚れを落とすしくみなどを研究する研究室に所属していました。その後、長らく中高理科教員、大学教員をしながら科学啓発とニセ科学問題を追及してきました。拙著『暮らしのなかのニセ科学』(平凡社新書)は、健康系ニセ科学についてまとめたものです。こんな本を一読しておくのもニセ科学へのセンスを磨く一助になるでしょう。筆者の周りにも実際にマグちゃんを使っている人がいますが、「汚れ落ちについては確かに水洗いとほぼ変わらないと感じているが、臭いが『水だけ』と『マグあり』ではまったく違う。わずかなpH変化でも、臭い菌の殺菌には効果があるのではないか」と語っています。ですが、友人が語る効果はあまりにも主観的です。臭い菌の除去には50℃程度のお湯に30分程度つけておいてから、その水(お湯)もあわせて洗濯機に入れて洗うことをおすすめします。マグちゃんを熱心に使っている消費者は、マグちゃんの使用が環境負荷の軽減に寄与していると信じているようです。ですが、現在発売されている石けん・洗剤は、汚れを取るために開発され、環境への影響もできるだけ小さくなるようなものに改良されています。洗浄力・環境負荷・人体への安全性などについて、今後も間違いなく進化し続けていくことでしょう。その方向を定めるのは、消費者の正しい理解以外にありません。———-左巻 健男(さまき・たけお)東京大学非常勤講師東京大学教育学部附属中・高等学校、京都工芸繊維大学、同志社女子大学、法政大学生命科学部環境応用化学科教授、同教職課程センター教授などを経て現職。東京学芸大学大学院教育学研究科理科教育専攻物理化学講座を修了。『RikaTan(理科の探検)』誌編集長、中学校理科教科書(新しい科学)編集委員。法政大学を定年後、精力的に執筆活動や講演会の講師を務める。『面白くて眠れなくなる物理』『面白くて眠れなくなる化学』『面白くて眠れなくなる地学』『怖くて眠れなくなる化学』(PHP研究所)、『身近にあふれる「科学」が3時間でわかる本』『身近にあふれる「微生物」が3時間でわかる本』(明日香出版社)、『絶対に面白い化学入門 世界史は化学でできている』(ダイヤモンド社)など著書多数。———-(東京大学非常勤講師 左巻 健男)
一般家庭のふだんの洗濯物なら油・脂肪系の汚れが少ないので、水洗いだけでも石けん・洗剤を入れて洗濯したものと比べてもわからないくらいにきれいになります。■効果を確かめたければ厳密な実験を行うべき筆者からの、『食品と暮らしの安全』へのアドバイスですが水で洗った場合と比較するとよいでしょう。これを対照実験(ある条件の効果を調べるために、他の条件は全く同じにして、その条件のみを除いて行う実験)といいます。また、より厳格なテストをされるとよいでしょう。分析機器が使えない場合は、先の注(*4)にあるような口紅や牛脂を使って水洗い、“洗濯マグネシウム”、石けん・洗剤の比較をするのです。正確には、人工汚垢布(おこうふ)(人工汚染布ともいう。油・泥・タンパク質などが混じったかなり頑固な汚れを塗布した布。頑固な襟汚れをモデルにしている)を縫い付けたテストクロスを使って実験するのがいいでしょう。写真=iStock.com/tzahiV※写真はイメージです – 写真=iStock.com/tzahiVふつうの洗濯と同様に他の洗濯物を加え、水位を「中」、洗い8分、すすぎ2回、脱水5分で3回行い、選択後の布の光の反射率をはかり、反射率から洗浄率を求める実験を3回行って平均値を出すことで厳密な結果が得られます。例えば、北海道消費者センターは、このような方法で「重曹で洗濯、洗浄率は?」というテスト結果を報告しています(*6)。水よりも重曹を用いた方が洗浄率の上昇が見られます。一方で、洗濯マグネシウムと水でできる水酸化マグネシウムというアルカリは、マグネシウムが水と反応するのに時間がかかります。また、できるアルカリの量がわずかなため、重曹を溶かしたよりもアルカリ性がずっと弱く、洗浄力は水だけで洗う場合とほとんど変わらないのです。(*6)重曹で洗濯、洗浄率は?~液体石けん以外との併用は効果なし~■「科学的な用語」に騙されてはいけないすでに述べたように、洗濯マグネシウムのアルカリ剤としての効果はないに等しいのです。それが化学としての結論です。現在、小学校の理科では対照実験が推薦されています。このケースも、水で洗うことと比べるのです。水という溶媒(ものを溶かす液体)にはわれわれが考えている以上に洗浄効果があるのです。しかし、水が苦手な汚れがあります。それが油や脂肪の汚れです。そこで、仲の悪い水と油・脂肪の間を取り持って、油・脂肪汚れに取りついて繊維から引き離し、再付着させないのが石けん・洗剤です。石けん・洗剤の中心は水と油を取り持つ界面活性剤。それに、洗浄力を高めるための助剤や酵素なども働きます。「アルカリで洗う」「水素も汚れ落としに一役」など、アルカリなり水素なりの化学の用語があると、つい、「この話は化学的(科学的)な根拠があるに違いない」と思いがちです。「水素水」も、一部には科学的によいイメージがあります。私たちのまわりには、人びとの科学への信頼感を利用して、科学っぽい雰囲気をして、実は科学的にはおかしな説明が満ちあふれています。筆者はそれをニセ科学として世に警鐘を鳴らしてきました。ニセ科学かどうか見抜くのは大変です。今回のケースでいえば「対照実験」の重要性がわかりました。また、客観的に調べられているかも大切です。「思い」のアンケート調査の結果では根拠として弱すぎます。■既存の石けんや洗剤も環境に配慮されている筆者は学生時代、界面化学という石けん・洗剤で汚れを落とすしくみなどを研究する研究室に所属していました。その後、長らく中高理科教員、大学教員をしながら科学啓発とニセ科学問題を追及してきました。拙著『暮らしのなかのニセ科学』(平凡社新書)は、健康系ニセ科学についてまとめたものです。こんな本を一読しておくのもニセ科学へのセンスを磨く一助になるでしょう。筆者の周りにも実際にマグちゃんを使っている人がいますが、「汚れ落ちについては確かに水洗いとほぼ変わらないと感じているが、臭いが『水だけ』と『マグあり』ではまったく違う。わずかなpH変化でも、臭い菌の殺菌には効果があるのではないか」と語っています。ですが、友人が語る効果はあまりにも主観的です。臭い菌の除去には50℃程度のお湯に30分程度つけておいてから、その水(お湯)もあわせて洗濯機に入れて洗うことをおすすめします。マグちゃんを熱心に使っている消費者は、マグちゃんの使用が環境負荷の軽減に寄与していると信じているようです。ですが、現在発売されている石けん・洗剤は、汚れを取るために開発され、環境への影響もできるだけ小さくなるようなものに改良されています。洗浄力・環境負荷・人体への安全性などについて、今後も間違いなく進化し続けていくことでしょう。その方向を定めるのは、消費者の正しい理解以外にありません。———-左巻 健男(さまき・たけお)東京大学非常勤講師東京大学教育学部附属中・高等学校、京都工芸繊維大学、同志社女子大学、法政大学生命科学部環境応用化学科教授、同教職課程センター教授などを経て現職。東京学芸大学大学院教育学研究科理科教育専攻物理化学講座を修了。『RikaTan(理科の探検)』誌編集長、中学校理科教科書(新しい科学)編集委員。法政大学を定年後、精力的に執筆活動や講演会の講師を務める。『面白くて眠れなくなる物理』『面白くて眠れなくなる化学』『面白くて眠れなくなる地学』『怖くて眠れなくなる化学』(PHP研究所)、『身近にあふれる「科学」が3時間でわかる本』『身近にあふれる「微生物」が3時間でわかる本』(明日香出版社)、『絶対に面白い化学入門 世界史は化学でできている』(ダイヤモンド社)など著書多数。———-(東京大学非常勤講師 左巻 健男)
筆者からの、『食品と暮らしの安全』へのアドバイスですが水で洗った場合と比較するとよいでしょう。これを対照実験(ある条件の効果を調べるために、他の条件は全く同じにして、その条件のみを除いて行う実験)といいます。また、より厳格なテストをされるとよいでしょう。分析機器が使えない場合は、先の注(*4)にあるような口紅や牛脂を使って水洗い、“洗濯マグネシウム”、石けん・洗剤の比較をするのです。正確には、人工汚垢布(おこうふ)(人工汚染布ともいう。油・泥・タンパク質などが混じったかなり頑固な汚れを塗布した布。頑固な襟汚れをモデルにしている)を縫い付けたテストクロスを使って実験するのがいいでしょう。写真=iStock.com/tzahiV※写真はイメージです – 写真=iStock.com/tzahiVふつうの洗濯と同様に他の洗濯物を加え、水位を「中」、洗い8分、すすぎ2回、脱水5分で3回行い、選択後の布の光の反射率をはかり、反射率から洗浄率を求める実験を3回行って平均値を出すことで厳密な結果が得られます。例えば、北海道消費者センターは、このような方法で「重曹で洗濯、洗浄率は?」というテスト結果を報告しています(*6)。水よりも重曹を用いた方が洗浄率の上昇が見られます。一方で、洗濯マグネシウムと水でできる水酸化マグネシウムというアルカリは、マグネシウムが水と反応するのに時間がかかります。また、できるアルカリの量がわずかなため、重曹を溶かしたよりもアルカリ性がずっと弱く、洗浄力は水だけで洗う場合とほとんど変わらないのです。(*6)重曹で洗濯、洗浄率は?~液体石けん以外との併用は効果なし~■「科学的な用語」に騙されてはいけないすでに述べたように、洗濯マグネシウムのアルカリ剤としての効果はないに等しいのです。それが化学としての結論です。現在、小学校の理科では対照実験が推薦されています。このケースも、水で洗うことと比べるのです。水という溶媒(ものを溶かす液体)にはわれわれが考えている以上に洗浄効果があるのです。しかし、水が苦手な汚れがあります。それが油や脂肪の汚れです。そこで、仲の悪い水と油・脂肪の間を取り持って、油・脂肪汚れに取りついて繊維から引き離し、再付着させないのが石けん・洗剤です。石けん・洗剤の中心は水と油を取り持つ界面活性剤。それに、洗浄力を高めるための助剤や酵素なども働きます。「アルカリで洗う」「水素も汚れ落としに一役」など、アルカリなり水素なりの化学の用語があると、つい、「この話は化学的(科学的)な根拠があるに違いない」と思いがちです。「水素水」も、一部には科学的によいイメージがあります。私たちのまわりには、人びとの科学への信頼感を利用して、科学っぽい雰囲気をして、実は科学的にはおかしな説明が満ちあふれています。筆者はそれをニセ科学として世に警鐘を鳴らしてきました。ニセ科学かどうか見抜くのは大変です。今回のケースでいえば「対照実験」の重要性がわかりました。また、客観的に調べられているかも大切です。「思い」のアンケート調査の結果では根拠として弱すぎます。■既存の石けんや洗剤も環境に配慮されている筆者は学生時代、界面化学という石けん・洗剤で汚れを落とすしくみなどを研究する研究室に所属していました。その後、長らく中高理科教員、大学教員をしながら科学啓発とニセ科学問題を追及してきました。拙著『暮らしのなかのニセ科学』(平凡社新書)は、健康系ニセ科学についてまとめたものです。こんな本を一読しておくのもニセ科学へのセンスを磨く一助になるでしょう。筆者の周りにも実際にマグちゃんを使っている人がいますが、「汚れ落ちについては確かに水洗いとほぼ変わらないと感じているが、臭いが『水だけ』と『マグあり』ではまったく違う。わずかなpH変化でも、臭い菌の殺菌には効果があるのではないか」と語っています。ですが、友人が語る効果はあまりにも主観的です。臭い菌の除去には50℃程度のお湯に30分程度つけておいてから、その水(お湯)もあわせて洗濯機に入れて洗うことをおすすめします。マグちゃんを熱心に使っている消費者は、マグちゃんの使用が環境負荷の軽減に寄与していると信じているようです。ですが、現在発売されている石けん・洗剤は、汚れを取るために開発され、環境への影響もできるだけ小さくなるようなものに改良されています。洗浄力・環境負荷・人体への安全性などについて、今後も間違いなく進化し続けていくことでしょう。その方向を定めるのは、消費者の正しい理解以外にありません。———-左巻 健男(さまき・たけお)東京大学非常勤講師東京大学教育学部附属中・高等学校、京都工芸繊維大学、同志社女子大学、法政大学生命科学部環境応用化学科教授、同教職課程センター教授などを経て現職。東京学芸大学大学院教育学研究科理科教育専攻物理化学講座を修了。『RikaTan(理科の探検)』誌編集長、中学校理科教科書(新しい科学)編集委員。法政大学を定年後、精力的に執筆活動や講演会の講師を務める。『面白くて眠れなくなる物理』『面白くて眠れなくなる化学』『面白くて眠れなくなる地学』『怖くて眠れなくなる化学』(PHP研究所)、『身近にあふれる「科学」が3時間でわかる本』『身近にあふれる「微生物」が3時間でわかる本』(明日香出版社)、『絶対に面白い化学入門 世界史は化学でできている』(ダイヤモンド社)など著書多数。———-(東京大学非常勤講師 左巻 健男)
また、より厳格なテストをされるとよいでしょう。分析機器が使えない場合は、先の注(*4)にあるような口紅や牛脂を使って水洗い、“洗濯マグネシウム”、石けん・洗剤の比較をするのです。正確には、人工汚垢布(おこうふ)(人工汚染布ともいう。油・泥・タンパク質などが混じったかなり頑固な汚れを塗布した布。頑固な襟汚れをモデルにしている)を縫い付けたテストクロスを使って実験するのがいいでしょう。写真=iStock.com/tzahiV※写真はイメージです – 写真=iStock.com/tzahiVふつうの洗濯と同様に他の洗濯物を加え、水位を「中」、洗い8分、すすぎ2回、脱水5分で3回行い、選択後の布の光の反射率をはかり、反射率から洗浄率を求める実験を3回行って平均値を出すことで厳密な結果が得られます。例えば、北海道消費者センターは、このような方法で「重曹で洗濯、洗浄率は?」というテスト結果を報告しています(*6)。水よりも重曹を用いた方が洗浄率の上昇が見られます。一方で、洗濯マグネシウムと水でできる水酸化マグネシウムというアルカリは、マグネシウムが水と反応するのに時間がかかります。また、できるアルカリの量がわずかなため、重曹を溶かしたよりもアルカリ性がずっと弱く、洗浄力は水だけで洗う場合とほとんど変わらないのです。(*6)重曹で洗濯、洗浄率は?~液体石けん以外との併用は効果なし~■「科学的な用語」に騙されてはいけないすでに述べたように、洗濯マグネシウムのアルカリ剤としての効果はないに等しいのです。それが化学としての結論です。現在、小学校の理科では対照実験が推薦されています。このケースも、水で洗うことと比べるのです。水という溶媒(ものを溶かす液体)にはわれわれが考えている以上に洗浄効果があるのです。しかし、水が苦手な汚れがあります。それが油や脂肪の汚れです。そこで、仲の悪い水と油・脂肪の間を取り持って、油・脂肪汚れに取りついて繊維から引き離し、再付着させないのが石けん・洗剤です。石けん・洗剤の中心は水と油を取り持つ界面活性剤。それに、洗浄力を高めるための助剤や酵素なども働きます。「アルカリで洗う」「水素も汚れ落としに一役」など、アルカリなり水素なりの化学の用語があると、つい、「この話は化学的(科学的)な根拠があるに違いない」と思いがちです。「水素水」も、一部には科学的によいイメージがあります。私たちのまわりには、人びとの科学への信頼感を利用して、科学っぽい雰囲気をして、実は科学的にはおかしな説明が満ちあふれています。筆者はそれをニセ科学として世に警鐘を鳴らしてきました。ニセ科学かどうか見抜くのは大変です。今回のケースでいえば「対照実験」の重要性がわかりました。また、客観的に調べられているかも大切です。「思い」のアンケート調査の結果では根拠として弱すぎます。■既存の石けんや洗剤も環境に配慮されている筆者は学生時代、界面化学という石けん・洗剤で汚れを落とすしくみなどを研究する研究室に所属していました。その後、長らく中高理科教員、大学教員をしながら科学啓発とニセ科学問題を追及してきました。拙著『暮らしのなかのニセ科学』(平凡社新書)は、健康系ニセ科学についてまとめたものです。こんな本を一読しておくのもニセ科学へのセンスを磨く一助になるでしょう。筆者の周りにも実際にマグちゃんを使っている人がいますが、「汚れ落ちについては確かに水洗いとほぼ変わらないと感じているが、臭いが『水だけ』と『マグあり』ではまったく違う。わずかなpH変化でも、臭い菌の殺菌には効果があるのではないか」と語っています。ですが、友人が語る効果はあまりにも主観的です。臭い菌の除去には50℃程度のお湯に30分程度つけておいてから、その水(お湯)もあわせて洗濯機に入れて洗うことをおすすめします。マグちゃんを熱心に使っている消費者は、マグちゃんの使用が環境負荷の軽減に寄与していると信じているようです。ですが、現在発売されている石けん・洗剤は、汚れを取るために開発され、環境への影響もできるだけ小さくなるようなものに改良されています。洗浄力・環境負荷・人体への安全性などについて、今後も間違いなく進化し続けていくことでしょう。その方向を定めるのは、消費者の正しい理解以外にありません。———-左巻 健男(さまき・たけお)東京大学非常勤講師東京大学教育学部附属中・高等学校、京都工芸繊維大学、同志社女子大学、法政大学生命科学部環境応用化学科教授、同教職課程センター教授などを経て現職。東京学芸大学大学院教育学研究科理科教育専攻物理化学講座を修了。『RikaTan(理科の探検)』誌編集長、中学校理科教科書(新しい科学)編集委員。法政大学を定年後、精力的に執筆活動や講演会の講師を務める。『面白くて眠れなくなる物理』『面白くて眠れなくなる化学』『面白くて眠れなくなる地学』『怖くて眠れなくなる化学』(PHP研究所)、『身近にあふれる「科学」が3時間でわかる本』『身近にあふれる「微生物」が3時間でわかる本』(明日香出版社)、『絶対に面白い化学入門 世界史は化学でできている』(ダイヤモンド社)など著書多数。———-(東京大学非常勤講師 左巻 健男)
正確には、人工汚垢布(おこうふ)(人工汚染布ともいう。油・泥・タンパク質などが混じったかなり頑固な汚れを塗布した布。頑固な襟汚れをモデルにしている)を縫い付けたテストクロスを使って実験するのがいいでしょう。写真=iStock.com/tzahiV※写真はイメージです – 写真=iStock.com/tzahiVふつうの洗濯と同様に他の洗濯物を加え、水位を「中」、洗い8分、すすぎ2回、脱水5分で3回行い、選択後の布の光の反射率をはかり、反射率から洗浄率を求める実験を3回行って平均値を出すことで厳密な結果が得られます。例えば、北海道消費者センターは、このような方法で「重曹で洗濯、洗浄率は?」というテスト結果を報告しています(*6)。水よりも重曹を用いた方が洗浄率の上昇が見られます。一方で、洗濯マグネシウムと水でできる水酸化マグネシウムというアルカリは、マグネシウムが水と反応するのに時間がかかります。また、できるアルカリの量がわずかなため、重曹を溶かしたよりもアルカリ性がずっと弱く、洗浄力は水だけで洗う場合とほとんど変わらないのです。(*6)重曹で洗濯、洗浄率は?~液体石けん以外との併用は効果なし~■「科学的な用語」に騙されてはいけないすでに述べたように、洗濯マグネシウムのアルカリ剤としての効果はないに等しいのです。それが化学としての結論です。現在、小学校の理科では対照実験が推薦されています。このケースも、水で洗うことと比べるのです。水という溶媒(ものを溶かす液体)にはわれわれが考えている以上に洗浄効果があるのです。しかし、水が苦手な汚れがあります。それが油や脂肪の汚れです。そこで、仲の悪い水と油・脂肪の間を取り持って、油・脂肪汚れに取りついて繊維から引き離し、再付着させないのが石けん・洗剤です。石けん・洗剤の中心は水と油を取り持つ界面活性剤。それに、洗浄力を高めるための助剤や酵素なども働きます。「アルカリで洗う」「水素も汚れ落としに一役」など、アルカリなり水素なりの化学の用語があると、つい、「この話は化学的(科学的)な根拠があるに違いない」と思いがちです。「水素水」も、一部には科学的によいイメージがあります。私たちのまわりには、人びとの科学への信頼感を利用して、科学っぽい雰囲気をして、実は科学的にはおかしな説明が満ちあふれています。筆者はそれをニセ科学として世に警鐘を鳴らしてきました。ニセ科学かどうか見抜くのは大変です。今回のケースでいえば「対照実験」の重要性がわかりました。また、客観的に調べられているかも大切です。「思い」のアンケート調査の結果では根拠として弱すぎます。■既存の石けんや洗剤も環境に配慮されている筆者は学生時代、界面化学という石けん・洗剤で汚れを落とすしくみなどを研究する研究室に所属していました。その後、長らく中高理科教員、大学教員をしながら科学啓発とニセ科学問題を追及してきました。拙著『暮らしのなかのニセ科学』(平凡社新書)は、健康系ニセ科学についてまとめたものです。こんな本を一読しておくのもニセ科学へのセンスを磨く一助になるでしょう。筆者の周りにも実際にマグちゃんを使っている人がいますが、「汚れ落ちについては確かに水洗いとほぼ変わらないと感じているが、臭いが『水だけ』と『マグあり』ではまったく違う。わずかなpH変化でも、臭い菌の殺菌には効果があるのではないか」と語っています。ですが、友人が語る効果はあまりにも主観的です。臭い菌の除去には50℃程度のお湯に30分程度つけておいてから、その水(お湯)もあわせて洗濯機に入れて洗うことをおすすめします。マグちゃんを熱心に使っている消費者は、マグちゃんの使用が環境負荷の軽減に寄与していると信じているようです。ですが、現在発売されている石けん・洗剤は、汚れを取るために開発され、環境への影響もできるだけ小さくなるようなものに改良されています。洗浄力・環境負荷・人体への安全性などについて、今後も間違いなく進化し続けていくことでしょう。その方向を定めるのは、消費者の正しい理解以外にありません。———-左巻 健男(さまき・たけお)東京大学非常勤講師東京大学教育学部附属中・高等学校、京都工芸繊維大学、同志社女子大学、法政大学生命科学部環境応用化学科教授、同教職課程センター教授などを経て現職。東京学芸大学大学院教育学研究科理科教育専攻物理化学講座を修了。『RikaTan(理科の探検)』誌編集長、中学校理科教科書(新しい科学)編集委員。法政大学を定年後、精力的に執筆活動や講演会の講師を務める。『面白くて眠れなくなる物理』『面白くて眠れなくなる化学』『面白くて眠れなくなる地学』『怖くて眠れなくなる化学』(PHP研究所)、『身近にあふれる「科学」が3時間でわかる本』『身近にあふれる「微生物」が3時間でわかる本』(明日香出版社)、『絶対に面白い化学入門 世界史は化学でできている』(ダイヤモンド社)など著書多数。———-(東京大学非常勤講師 左巻 健男)
ふつうの洗濯と同様に他の洗濯物を加え、水位を「中」、洗い8分、すすぎ2回、脱水5分で3回行い、選択後の布の光の反射率をはかり、反射率から洗浄率を求める実験を3回行って平均値を出すことで厳密な結果が得られます。例えば、北海道消費者センターは、このような方法で「重曹で洗濯、洗浄率は?」というテスト結果を報告しています(*6)。水よりも重曹を用いた方が洗浄率の上昇が見られます。一方で、洗濯マグネシウムと水でできる水酸化マグネシウムというアルカリは、マグネシウムが水と反応するのに時間がかかります。また、できるアルカリの量がわずかなため、重曹を溶かしたよりもアルカリ性がずっと弱く、洗浄力は水だけで洗う場合とほとんど変わらないのです。(*6)重曹で洗濯、洗浄率は?~液体石けん以外との併用は効果なし~■「科学的な用語」に騙されてはいけないすでに述べたように、洗濯マグネシウムのアルカリ剤としての効果はないに等しいのです。それが化学としての結論です。現在、小学校の理科では対照実験が推薦されています。このケースも、水で洗うことと比べるのです。水という溶媒(ものを溶かす液体)にはわれわれが考えている以上に洗浄効果があるのです。しかし、水が苦手な汚れがあります。それが油や脂肪の汚れです。そこで、仲の悪い水と油・脂肪の間を取り持って、油・脂肪汚れに取りついて繊維から引き離し、再付着させないのが石けん・洗剤です。石けん・洗剤の中心は水と油を取り持つ界面活性剤。それに、洗浄力を高めるための助剤や酵素なども働きます。「アルカリで洗う」「水素も汚れ落としに一役」など、アルカリなり水素なりの化学の用語があると、つい、「この話は化学的(科学的)な根拠があるに違いない」と思いがちです。「水素水」も、一部には科学的によいイメージがあります。私たちのまわりには、人びとの科学への信頼感を利用して、科学っぽい雰囲気をして、実は科学的にはおかしな説明が満ちあふれています。筆者はそれをニセ科学として世に警鐘を鳴らしてきました。ニセ科学かどうか見抜くのは大変です。今回のケースでいえば「対照実験」の重要性がわかりました。また、客観的に調べられているかも大切です。「思い」のアンケート調査の結果では根拠として弱すぎます。■既存の石けんや洗剤も環境に配慮されている筆者は学生時代、界面化学という石けん・洗剤で汚れを落とすしくみなどを研究する研究室に所属していました。その後、長らく中高理科教員、大学教員をしながら科学啓発とニセ科学問題を追及してきました。拙著『暮らしのなかのニセ科学』(平凡社新書)は、健康系ニセ科学についてまとめたものです。こんな本を一読しておくのもニセ科学へのセンスを磨く一助になるでしょう。筆者の周りにも実際にマグちゃんを使っている人がいますが、「汚れ落ちについては確かに水洗いとほぼ変わらないと感じているが、臭いが『水だけ』と『マグあり』ではまったく違う。わずかなpH変化でも、臭い菌の殺菌には効果があるのではないか」と語っています。ですが、友人が語る効果はあまりにも主観的です。臭い菌の除去には50℃程度のお湯に30分程度つけておいてから、その水(お湯)もあわせて洗濯機に入れて洗うことをおすすめします。マグちゃんを熱心に使っている消費者は、マグちゃんの使用が環境負荷の軽減に寄与していると信じているようです。ですが、現在発売されている石けん・洗剤は、汚れを取るために開発され、環境への影響もできるだけ小さくなるようなものに改良されています。洗浄力・環境負荷・人体への安全性などについて、今後も間違いなく進化し続けていくことでしょう。その方向を定めるのは、消費者の正しい理解以外にありません。———-左巻 健男(さまき・たけお)東京大学非常勤講師東京大学教育学部附属中・高等学校、京都工芸繊維大学、同志社女子大学、法政大学生命科学部環境応用化学科教授、同教職課程センター教授などを経て現職。東京学芸大学大学院教育学研究科理科教育専攻物理化学講座を修了。『RikaTan(理科の探検)』誌編集長、中学校理科教科書(新しい科学)編集委員。法政大学を定年後、精力的に執筆活動や講演会の講師を務める。『面白くて眠れなくなる物理』『面白くて眠れなくなる化学』『面白くて眠れなくなる地学』『怖くて眠れなくなる化学』(PHP研究所)、『身近にあふれる「科学」が3時間でわかる本』『身近にあふれる「微生物」が3時間でわかる本』(明日香出版社)、『絶対に面白い化学入門 世界史は化学でできている』(ダイヤモンド社)など著書多数。———-(東京大学非常勤講師 左巻 健男)
例えば、北海道消費者センターは、このような方法で「重曹で洗濯、洗浄率は?」というテスト結果を報告しています(*6)。水よりも重曹を用いた方が洗浄率の上昇が見られます。一方で、洗濯マグネシウムと水でできる水酸化マグネシウムというアルカリは、マグネシウムが水と反応するのに時間がかかります。また、できるアルカリの量がわずかなため、重曹を溶かしたよりもアルカリ性がずっと弱く、洗浄力は水だけで洗う場合とほとんど変わらないのです。(*6)重曹で洗濯、洗浄率は?~液体石けん以外との併用は効果なし~■「科学的な用語」に騙されてはいけないすでに述べたように、洗濯マグネシウムのアルカリ剤としての効果はないに等しいのです。それが化学としての結論です。現在、小学校の理科では対照実験が推薦されています。このケースも、水で洗うことと比べるのです。水という溶媒(ものを溶かす液体)にはわれわれが考えている以上に洗浄効果があるのです。しかし、水が苦手な汚れがあります。それが油や脂肪の汚れです。そこで、仲の悪い水と油・脂肪の間を取り持って、油・脂肪汚れに取りついて繊維から引き離し、再付着させないのが石けん・洗剤です。石けん・洗剤の中心は水と油を取り持つ界面活性剤。それに、洗浄力を高めるための助剤や酵素なども働きます。「アルカリで洗う」「水素も汚れ落としに一役」など、アルカリなり水素なりの化学の用語があると、つい、「この話は化学的(科学的)な根拠があるに違いない」と思いがちです。「水素水」も、一部には科学的によいイメージがあります。私たちのまわりには、人びとの科学への信頼感を利用して、科学っぽい雰囲気をして、実は科学的にはおかしな説明が満ちあふれています。筆者はそれをニセ科学として世に警鐘を鳴らしてきました。ニセ科学かどうか見抜くのは大変です。今回のケースでいえば「対照実験」の重要性がわかりました。また、客観的に調べられているかも大切です。「思い」のアンケート調査の結果では根拠として弱すぎます。■既存の石けんや洗剤も環境に配慮されている筆者は学生時代、界面化学という石けん・洗剤で汚れを落とすしくみなどを研究する研究室に所属していました。その後、長らく中高理科教員、大学教員をしながら科学啓発とニセ科学問題を追及してきました。拙著『暮らしのなかのニセ科学』(平凡社新書)は、健康系ニセ科学についてまとめたものです。こんな本を一読しておくのもニセ科学へのセンスを磨く一助になるでしょう。筆者の周りにも実際にマグちゃんを使っている人がいますが、「汚れ落ちについては確かに水洗いとほぼ変わらないと感じているが、臭いが『水だけ』と『マグあり』ではまったく違う。わずかなpH変化でも、臭い菌の殺菌には効果があるのではないか」と語っています。ですが、友人が語る効果はあまりにも主観的です。臭い菌の除去には50℃程度のお湯に30分程度つけておいてから、その水(お湯)もあわせて洗濯機に入れて洗うことをおすすめします。マグちゃんを熱心に使っている消費者は、マグちゃんの使用が環境負荷の軽減に寄与していると信じているようです。ですが、現在発売されている石けん・洗剤は、汚れを取るために開発され、環境への影響もできるだけ小さくなるようなものに改良されています。洗浄力・環境負荷・人体への安全性などについて、今後も間違いなく進化し続けていくことでしょう。その方向を定めるのは、消費者の正しい理解以外にありません。———-左巻 健男(さまき・たけお)東京大学非常勤講師東京大学教育学部附属中・高等学校、京都工芸繊維大学、同志社女子大学、法政大学生命科学部環境応用化学科教授、同教職課程センター教授などを経て現職。東京学芸大学大学院教育学研究科理科教育専攻物理化学講座を修了。『RikaTan(理科の探検)』誌編集長、中学校理科教科書(新しい科学)編集委員。法政大学を定年後、精力的に執筆活動や講演会の講師を務める。『面白くて眠れなくなる物理』『面白くて眠れなくなる化学』『面白くて眠れなくなる地学』『怖くて眠れなくなる化学』(PHP研究所)、『身近にあふれる「科学」が3時間でわかる本』『身近にあふれる「微生物」が3時間でわかる本』(明日香出版社)、『絶対に面白い化学入門 世界史は化学でできている』(ダイヤモンド社)など著書多数。———-(東京大学非常勤講師 左巻 健男)
水よりも重曹を用いた方が洗浄率の上昇が見られます。一方で、洗濯マグネシウムと水でできる水酸化マグネシウムというアルカリは、マグネシウムが水と反応するのに時間がかかります。また、できるアルカリの量がわずかなため、重曹を溶かしたよりもアルカリ性がずっと弱く、洗浄力は水だけで洗う場合とほとんど変わらないのです。(*6)重曹で洗濯、洗浄率は?~液体石けん以外との併用は効果なし~■「科学的な用語」に騙されてはいけないすでに述べたように、洗濯マグネシウムのアルカリ剤としての効果はないに等しいのです。それが化学としての結論です。現在、小学校の理科では対照実験が推薦されています。このケースも、水で洗うことと比べるのです。水という溶媒(ものを溶かす液体)にはわれわれが考えている以上に洗浄効果があるのです。しかし、水が苦手な汚れがあります。それが油や脂肪の汚れです。そこで、仲の悪い水と油・脂肪の間を取り持って、油・脂肪汚れに取りついて繊維から引き離し、再付着させないのが石けん・洗剤です。石けん・洗剤の中心は水と油を取り持つ界面活性剤。それに、洗浄力を高めるための助剤や酵素なども働きます。「アルカリで洗う」「水素も汚れ落としに一役」など、アルカリなり水素なりの化学の用語があると、つい、「この話は化学的(科学的)な根拠があるに違いない」と思いがちです。「水素水」も、一部には科学的によいイメージがあります。私たちのまわりには、人びとの科学への信頼感を利用して、科学っぽい雰囲気をして、実は科学的にはおかしな説明が満ちあふれています。筆者はそれをニセ科学として世に警鐘を鳴らしてきました。ニセ科学かどうか見抜くのは大変です。今回のケースでいえば「対照実験」の重要性がわかりました。また、客観的に調べられているかも大切です。「思い」のアンケート調査の結果では根拠として弱すぎます。■既存の石けんや洗剤も環境に配慮されている筆者は学生時代、界面化学という石けん・洗剤で汚れを落とすしくみなどを研究する研究室に所属していました。その後、長らく中高理科教員、大学教員をしながら科学啓発とニセ科学問題を追及してきました。拙著『暮らしのなかのニセ科学』(平凡社新書)は、健康系ニセ科学についてまとめたものです。こんな本を一読しておくのもニセ科学へのセンスを磨く一助になるでしょう。筆者の周りにも実際にマグちゃんを使っている人がいますが、「汚れ落ちについては確かに水洗いとほぼ変わらないと感じているが、臭いが『水だけ』と『マグあり』ではまったく違う。わずかなpH変化でも、臭い菌の殺菌には効果があるのではないか」と語っています。ですが、友人が語る効果はあまりにも主観的です。臭い菌の除去には50℃程度のお湯に30分程度つけておいてから、その水(お湯)もあわせて洗濯機に入れて洗うことをおすすめします。マグちゃんを熱心に使っている消費者は、マグちゃんの使用が環境負荷の軽減に寄与していると信じているようです。ですが、現在発売されている石けん・洗剤は、汚れを取るために開発され、環境への影響もできるだけ小さくなるようなものに改良されています。洗浄力・環境負荷・人体への安全性などについて、今後も間違いなく進化し続けていくことでしょう。その方向を定めるのは、消費者の正しい理解以外にありません。———-左巻 健男(さまき・たけお)東京大学非常勤講師東京大学教育学部附属中・高等学校、京都工芸繊維大学、同志社女子大学、法政大学生命科学部環境応用化学科教授、同教職課程センター教授などを経て現職。東京学芸大学大学院教育学研究科理科教育専攻物理化学講座を修了。『RikaTan(理科の探検)』誌編集長、中学校理科教科書(新しい科学)編集委員。法政大学を定年後、精力的に執筆活動や講演会の講師を務める。『面白くて眠れなくなる物理』『面白くて眠れなくなる化学』『面白くて眠れなくなる地学』『怖くて眠れなくなる化学』(PHP研究所)、『身近にあふれる「科学」が3時間でわかる本』『身近にあふれる「微生物」が3時間でわかる本』(明日香出版社)、『絶対に面白い化学入門 世界史は化学でできている』(ダイヤモンド社)など著書多数。———-(東京大学非常勤講師 左巻 健男)
また、できるアルカリの量がわずかなため、重曹を溶かしたよりもアルカリ性がずっと弱く、洗浄力は水だけで洗う場合とほとんど変わらないのです。(*6)重曹で洗濯、洗浄率は?~液体石けん以外との併用は効果なし~■「科学的な用語」に騙されてはいけないすでに述べたように、洗濯マグネシウムのアルカリ剤としての効果はないに等しいのです。それが化学としての結論です。現在、小学校の理科では対照実験が推薦されています。このケースも、水で洗うことと比べるのです。水という溶媒(ものを溶かす液体)にはわれわれが考えている以上に洗浄効果があるのです。しかし、水が苦手な汚れがあります。それが油や脂肪の汚れです。そこで、仲の悪い水と油・脂肪の間を取り持って、油・脂肪汚れに取りついて繊維から引き離し、再付着させないのが石けん・洗剤です。石けん・洗剤の中心は水と油を取り持つ界面活性剤。それに、洗浄力を高めるための助剤や酵素なども働きます。「アルカリで洗う」「水素も汚れ落としに一役」など、アルカリなり水素なりの化学の用語があると、つい、「この話は化学的(科学的)な根拠があるに違いない」と思いがちです。「水素水」も、一部には科学的によいイメージがあります。私たちのまわりには、人びとの科学への信頼感を利用して、科学っぽい雰囲気をして、実は科学的にはおかしな説明が満ちあふれています。筆者はそれをニセ科学として世に警鐘を鳴らしてきました。ニセ科学かどうか見抜くのは大変です。今回のケースでいえば「対照実験」の重要性がわかりました。また、客観的に調べられているかも大切です。「思い」のアンケート調査の結果では根拠として弱すぎます。■既存の石けんや洗剤も環境に配慮されている筆者は学生時代、界面化学という石けん・洗剤で汚れを落とすしくみなどを研究する研究室に所属していました。その後、長らく中高理科教員、大学教員をしながら科学啓発とニセ科学問題を追及してきました。拙著『暮らしのなかのニセ科学』(平凡社新書)は、健康系ニセ科学についてまとめたものです。こんな本を一読しておくのもニセ科学へのセンスを磨く一助になるでしょう。筆者の周りにも実際にマグちゃんを使っている人がいますが、「汚れ落ちについては確かに水洗いとほぼ変わらないと感じているが、臭いが『水だけ』と『マグあり』ではまったく違う。わずかなpH変化でも、臭い菌の殺菌には効果があるのではないか」と語っています。ですが、友人が語る効果はあまりにも主観的です。臭い菌の除去には50℃程度のお湯に30分程度つけておいてから、その水(お湯)もあわせて洗濯機に入れて洗うことをおすすめします。マグちゃんを熱心に使っている消費者は、マグちゃんの使用が環境負荷の軽減に寄与していると信じているようです。ですが、現在発売されている石けん・洗剤は、汚れを取るために開発され、環境への影響もできるだけ小さくなるようなものに改良されています。洗浄力・環境負荷・人体への安全性などについて、今後も間違いなく進化し続けていくことでしょう。その方向を定めるのは、消費者の正しい理解以外にありません。———-左巻 健男(さまき・たけお)東京大学非常勤講師東京大学教育学部附属中・高等学校、京都工芸繊維大学、同志社女子大学、法政大学生命科学部環境応用化学科教授、同教職課程センター教授などを経て現職。東京学芸大学大学院教育学研究科理科教育専攻物理化学講座を修了。『RikaTan(理科の探検)』誌編集長、中学校理科教科書(新しい科学)編集委員。法政大学を定年後、精力的に執筆活動や講演会の講師を務める。『面白くて眠れなくなる物理』『面白くて眠れなくなる化学』『面白くて眠れなくなる地学』『怖くて眠れなくなる化学』(PHP研究所)、『身近にあふれる「科学」が3時間でわかる本』『身近にあふれる「微生物」が3時間でわかる本』(明日香出版社)、『絶対に面白い化学入門 世界史は化学でできている』(ダイヤモンド社)など著書多数。———-(東京大学非常勤講師 左巻 健男)
(*6)重曹で洗濯、洗浄率は?~液体石けん以外との併用は効果なし~■「科学的な用語」に騙されてはいけないすでに述べたように、洗濯マグネシウムのアルカリ剤としての効果はないに等しいのです。それが化学としての結論です。現在、小学校の理科では対照実験が推薦されています。このケースも、水で洗うことと比べるのです。水という溶媒(ものを溶かす液体)にはわれわれが考えている以上に洗浄効果があるのです。しかし、水が苦手な汚れがあります。それが油や脂肪の汚れです。そこで、仲の悪い水と油・脂肪の間を取り持って、油・脂肪汚れに取りついて繊維から引き離し、再付着させないのが石けん・洗剤です。石けん・洗剤の中心は水と油を取り持つ界面活性剤。それに、洗浄力を高めるための助剤や酵素なども働きます。「アルカリで洗う」「水素も汚れ落としに一役」など、アルカリなり水素なりの化学の用語があると、つい、「この話は化学的(科学的)な根拠があるに違いない」と思いがちです。「水素水」も、一部には科学的によいイメージがあります。私たちのまわりには、人びとの科学への信頼感を利用して、科学っぽい雰囲気をして、実は科学的にはおかしな説明が満ちあふれています。筆者はそれをニセ科学として世に警鐘を鳴らしてきました。ニセ科学かどうか見抜くのは大変です。今回のケースでいえば「対照実験」の重要性がわかりました。また、客観的に調べられているかも大切です。「思い」のアンケート調査の結果では根拠として弱すぎます。■既存の石けんや洗剤も環境に配慮されている筆者は学生時代、界面化学という石けん・洗剤で汚れを落とすしくみなどを研究する研究室に所属していました。その後、長らく中高理科教員、大学教員をしながら科学啓発とニセ科学問題を追及してきました。拙著『暮らしのなかのニセ科学』(平凡社新書)は、健康系ニセ科学についてまとめたものです。こんな本を一読しておくのもニセ科学へのセンスを磨く一助になるでしょう。筆者の周りにも実際にマグちゃんを使っている人がいますが、「汚れ落ちについては確かに水洗いとほぼ変わらないと感じているが、臭いが『水だけ』と『マグあり』ではまったく違う。わずかなpH変化でも、臭い菌の殺菌には効果があるのではないか」と語っています。ですが、友人が語る効果はあまりにも主観的です。臭い菌の除去には50℃程度のお湯に30分程度つけておいてから、その水(お湯)もあわせて洗濯機に入れて洗うことをおすすめします。マグちゃんを熱心に使っている消費者は、マグちゃんの使用が環境負荷の軽減に寄与していると信じているようです。ですが、現在発売されている石けん・洗剤は、汚れを取るために開発され、環境への影響もできるだけ小さくなるようなものに改良されています。洗浄力・環境負荷・人体への安全性などについて、今後も間違いなく進化し続けていくことでしょう。その方向を定めるのは、消費者の正しい理解以外にありません。———-左巻 健男(さまき・たけお)東京大学非常勤講師東京大学教育学部附属中・高等学校、京都工芸繊維大学、同志社女子大学、法政大学生命科学部環境応用化学科教授、同教職課程センター教授などを経て現職。東京学芸大学大学院教育学研究科理科教育専攻物理化学講座を修了。『RikaTan(理科の探検)』誌編集長、中学校理科教科書(新しい科学)編集委員。法政大学を定年後、精力的に執筆活動や講演会の講師を務める。『面白くて眠れなくなる物理』『面白くて眠れなくなる化学』『面白くて眠れなくなる地学』『怖くて眠れなくなる化学』(PHP研究所)、『身近にあふれる「科学」が3時間でわかる本』『身近にあふれる「微生物」が3時間でわかる本』(明日香出版社)、『絶対に面白い化学入門 世界史は化学でできている』(ダイヤモンド社)など著書多数。———-(東京大学非常勤講師 左巻 健男)
すでに述べたように、洗濯マグネシウムのアルカリ剤としての効果はないに等しいのです。それが化学としての結論です。現在、小学校の理科では対照実験が推薦されています。このケースも、水で洗うことと比べるのです。水という溶媒(ものを溶かす液体)にはわれわれが考えている以上に洗浄効果があるのです。しかし、水が苦手な汚れがあります。それが油や脂肪の汚れです。そこで、仲の悪い水と油・脂肪の間を取り持って、油・脂肪汚れに取りついて繊維から引き離し、再付着させないのが石けん・洗剤です。石けん・洗剤の中心は水と油を取り持つ界面活性剤。それに、洗浄力を高めるための助剤や酵素なども働きます。「アルカリで洗う」「水素も汚れ落としに一役」など、アルカリなり水素なりの化学の用語があると、つい、「この話は化学的(科学的)な根拠があるに違いない」と思いがちです。「水素水」も、一部には科学的によいイメージがあります。私たちのまわりには、人びとの科学への信頼感を利用して、科学っぽい雰囲気をして、実は科学的にはおかしな説明が満ちあふれています。筆者はそれをニセ科学として世に警鐘を鳴らしてきました。ニセ科学かどうか見抜くのは大変です。今回のケースでいえば「対照実験」の重要性がわかりました。また、客観的に調べられているかも大切です。「思い」のアンケート調査の結果では根拠として弱すぎます。■既存の石けんや洗剤も環境に配慮されている筆者は学生時代、界面化学という石けん・洗剤で汚れを落とすしくみなどを研究する研究室に所属していました。その後、長らく中高理科教員、大学教員をしながら科学啓発とニセ科学問題を追及してきました。拙著『暮らしのなかのニセ科学』(平凡社新書)は、健康系ニセ科学についてまとめたものです。こんな本を一読しておくのもニセ科学へのセンスを磨く一助になるでしょう。筆者の周りにも実際にマグちゃんを使っている人がいますが、「汚れ落ちについては確かに水洗いとほぼ変わらないと感じているが、臭いが『水だけ』と『マグあり』ではまったく違う。わずかなpH変化でも、臭い菌の殺菌には効果があるのではないか」と語っています。ですが、友人が語る効果はあまりにも主観的です。臭い菌の除去には50℃程度のお湯に30分程度つけておいてから、その水(お湯)もあわせて洗濯機に入れて洗うことをおすすめします。マグちゃんを熱心に使っている消費者は、マグちゃんの使用が環境負荷の軽減に寄与していると信じているようです。ですが、現在発売されている石けん・洗剤は、汚れを取るために開発され、環境への影響もできるだけ小さくなるようなものに改良されています。洗浄力・環境負荷・人体への安全性などについて、今後も間違いなく進化し続けていくことでしょう。その方向を定めるのは、消費者の正しい理解以外にありません。———-左巻 健男(さまき・たけお)東京大学非常勤講師東京大学教育学部附属中・高等学校、京都工芸繊維大学、同志社女子大学、法政大学生命科学部環境応用化学科教授、同教職課程センター教授などを経て現職。東京学芸大学大学院教育学研究科理科教育専攻物理化学講座を修了。『RikaTan(理科の探検)』誌編集長、中学校理科教科書(新しい科学)編集委員。法政大学を定年後、精力的に執筆活動や講演会の講師を務める。『面白くて眠れなくなる物理』『面白くて眠れなくなる化学』『面白くて眠れなくなる地学』『怖くて眠れなくなる化学』(PHP研究所)、『身近にあふれる「科学」が3時間でわかる本』『身近にあふれる「微生物」が3時間でわかる本』(明日香出版社)、『絶対に面白い化学入門 世界史は化学でできている』(ダイヤモンド社)など著書多数。———-(東京大学非常勤講師 左巻 健男)
それが化学としての結論です。現在、小学校の理科では対照実験が推薦されています。このケースも、水で洗うことと比べるのです。水という溶媒(ものを溶かす液体)にはわれわれが考えている以上に洗浄効果があるのです。しかし、水が苦手な汚れがあります。それが油や脂肪の汚れです。そこで、仲の悪い水と油・脂肪の間を取り持って、油・脂肪汚れに取りついて繊維から引き離し、再付着させないのが石けん・洗剤です。石けん・洗剤の中心は水と油を取り持つ界面活性剤。それに、洗浄力を高めるための助剤や酵素なども働きます。「アルカリで洗う」「水素も汚れ落としに一役」など、アルカリなり水素なりの化学の用語があると、つい、「この話は化学的(科学的)な根拠があるに違いない」と思いがちです。「水素水」も、一部には科学的によいイメージがあります。私たちのまわりには、人びとの科学への信頼感を利用して、科学っぽい雰囲気をして、実は科学的にはおかしな説明が満ちあふれています。筆者はそれをニセ科学として世に警鐘を鳴らしてきました。ニセ科学かどうか見抜くのは大変です。今回のケースでいえば「対照実験」の重要性がわかりました。また、客観的に調べられているかも大切です。「思い」のアンケート調査の結果では根拠として弱すぎます。■既存の石けんや洗剤も環境に配慮されている筆者は学生時代、界面化学という石けん・洗剤で汚れを落とすしくみなどを研究する研究室に所属していました。その後、長らく中高理科教員、大学教員をしながら科学啓発とニセ科学問題を追及してきました。拙著『暮らしのなかのニセ科学』(平凡社新書)は、健康系ニセ科学についてまとめたものです。こんな本を一読しておくのもニセ科学へのセンスを磨く一助になるでしょう。筆者の周りにも実際にマグちゃんを使っている人がいますが、「汚れ落ちについては確かに水洗いとほぼ変わらないと感じているが、臭いが『水だけ』と『マグあり』ではまったく違う。わずかなpH変化でも、臭い菌の殺菌には効果があるのではないか」と語っています。ですが、友人が語る効果はあまりにも主観的です。臭い菌の除去には50℃程度のお湯に30分程度つけておいてから、その水(お湯)もあわせて洗濯機に入れて洗うことをおすすめします。マグちゃんを熱心に使っている消費者は、マグちゃんの使用が環境負荷の軽減に寄与していると信じているようです。ですが、現在発売されている石けん・洗剤は、汚れを取るために開発され、環境への影響もできるだけ小さくなるようなものに改良されています。洗浄力・環境負荷・人体への安全性などについて、今後も間違いなく進化し続けていくことでしょう。その方向を定めるのは、消費者の正しい理解以外にありません。———-左巻 健男(さまき・たけお)東京大学非常勤講師東京大学教育学部附属中・高等学校、京都工芸繊維大学、同志社女子大学、法政大学生命科学部環境応用化学科教授、同教職課程センター教授などを経て現職。東京学芸大学大学院教育学研究科理科教育専攻物理化学講座を修了。『RikaTan(理科の探検)』誌編集長、中学校理科教科書(新しい科学)編集委員。法政大学を定年後、精力的に執筆活動や講演会の講師を務める。『面白くて眠れなくなる物理』『面白くて眠れなくなる化学』『面白くて眠れなくなる地学』『怖くて眠れなくなる化学』(PHP研究所)、『身近にあふれる「科学」が3時間でわかる本』『身近にあふれる「微生物」が3時間でわかる本』(明日香出版社)、『絶対に面白い化学入門 世界史は化学でできている』(ダイヤモンド社)など著書多数。———-(東京大学非常勤講師 左巻 健男)
現在、小学校の理科では対照実験が推薦されています。このケースも、水で洗うことと比べるのです。水という溶媒(ものを溶かす液体)にはわれわれが考えている以上に洗浄効果があるのです。しかし、水が苦手な汚れがあります。それが油や脂肪の汚れです。そこで、仲の悪い水と油・脂肪の間を取り持って、油・脂肪汚れに取りついて繊維から引き離し、再付着させないのが石けん・洗剤です。石けん・洗剤の中心は水と油を取り持つ界面活性剤。それに、洗浄力を高めるための助剤や酵素なども働きます。「アルカリで洗う」「水素も汚れ落としに一役」など、アルカリなり水素なりの化学の用語があると、つい、「この話は化学的(科学的)な根拠があるに違いない」と思いがちです。「水素水」も、一部には科学的によいイメージがあります。私たちのまわりには、人びとの科学への信頼感を利用して、科学っぽい雰囲気をして、実は科学的にはおかしな説明が満ちあふれています。筆者はそれをニセ科学として世に警鐘を鳴らしてきました。ニセ科学かどうか見抜くのは大変です。今回のケースでいえば「対照実験」の重要性がわかりました。また、客観的に調べられているかも大切です。「思い」のアンケート調査の結果では根拠として弱すぎます。■既存の石けんや洗剤も環境に配慮されている筆者は学生時代、界面化学という石けん・洗剤で汚れを落とすしくみなどを研究する研究室に所属していました。その後、長らく中高理科教員、大学教員をしながら科学啓発とニセ科学問題を追及してきました。拙著『暮らしのなかのニセ科学』(平凡社新書)は、健康系ニセ科学についてまとめたものです。こんな本を一読しておくのもニセ科学へのセンスを磨く一助になるでしょう。筆者の周りにも実際にマグちゃんを使っている人がいますが、「汚れ落ちについては確かに水洗いとほぼ変わらないと感じているが、臭いが『水だけ』と『マグあり』ではまったく違う。わずかなpH変化でも、臭い菌の殺菌には効果があるのではないか」と語っています。ですが、友人が語る効果はあまりにも主観的です。臭い菌の除去には50℃程度のお湯に30分程度つけておいてから、その水(お湯)もあわせて洗濯機に入れて洗うことをおすすめします。マグちゃんを熱心に使っている消費者は、マグちゃんの使用が環境負荷の軽減に寄与していると信じているようです。ですが、現在発売されている石けん・洗剤は、汚れを取るために開発され、環境への影響もできるだけ小さくなるようなものに改良されています。洗浄力・環境負荷・人体への安全性などについて、今後も間違いなく進化し続けていくことでしょう。その方向を定めるのは、消費者の正しい理解以外にありません。———-左巻 健男(さまき・たけお)東京大学非常勤講師東京大学教育学部附属中・高等学校、京都工芸繊維大学、同志社女子大学、法政大学生命科学部環境応用化学科教授、同教職課程センター教授などを経て現職。東京学芸大学大学院教育学研究科理科教育専攻物理化学講座を修了。『RikaTan(理科の探検)』誌編集長、中学校理科教科書(新しい科学)編集委員。法政大学を定年後、精力的に執筆活動や講演会の講師を務める。『面白くて眠れなくなる物理』『面白くて眠れなくなる化学』『面白くて眠れなくなる地学』『怖くて眠れなくなる化学』(PHP研究所)、『身近にあふれる「科学」が3時間でわかる本』『身近にあふれる「微生物」が3時間でわかる本』(明日香出版社)、『絶対に面白い化学入門 世界史は化学でできている』(ダイヤモンド社)など著書多数。———-(東京大学非常勤講師 左巻 健男)
しかし、水が苦手な汚れがあります。それが油や脂肪の汚れです。そこで、仲の悪い水と油・脂肪の間を取り持って、油・脂肪汚れに取りついて繊維から引き離し、再付着させないのが石けん・洗剤です。石けん・洗剤の中心は水と油を取り持つ界面活性剤。それに、洗浄力を高めるための助剤や酵素なども働きます。「アルカリで洗う」「水素も汚れ落としに一役」など、アルカリなり水素なりの化学の用語があると、つい、「この話は化学的(科学的)な根拠があるに違いない」と思いがちです。「水素水」も、一部には科学的によいイメージがあります。私たちのまわりには、人びとの科学への信頼感を利用して、科学っぽい雰囲気をして、実は科学的にはおかしな説明が満ちあふれています。筆者はそれをニセ科学として世に警鐘を鳴らしてきました。ニセ科学かどうか見抜くのは大変です。今回のケースでいえば「対照実験」の重要性がわかりました。また、客観的に調べられているかも大切です。「思い」のアンケート調査の結果では根拠として弱すぎます。■既存の石けんや洗剤も環境に配慮されている筆者は学生時代、界面化学という石けん・洗剤で汚れを落とすしくみなどを研究する研究室に所属していました。その後、長らく中高理科教員、大学教員をしながら科学啓発とニセ科学問題を追及してきました。拙著『暮らしのなかのニセ科学』(平凡社新書)は、健康系ニセ科学についてまとめたものです。こんな本を一読しておくのもニセ科学へのセンスを磨く一助になるでしょう。筆者の周りにも実際にマグちゃんを使っている人がいますが、「汚れ落ちについては確かに水洗いとほぼ変わらないと感じているが、臭いが『水だけ』と『マグあり』ではまったく違う。わずかなpH変化でも、臭い菌の殺菌には効果があるのではないか」と語っています。ですが、友人が語る効果はあまりにも主観的です。臭い菌の除去には50℃程度のお湯に30分程度つけておいてから、その水(お湯)もあわせて洗濯機に入れて洗うことをおすすめします。マグちゃんを熱心に使っている消費者は、マグちゃんの使用が環境負荷の軽減に寄与していると信じているようです。ですが、現在発売されている石けん・洗剤は、汚れを取るために開発され、環境への影響もできるだけ小さくなるようなものに改良されています。洗浄力・環境負荷・人体への安全性などについて、今後も間違いなく進化し続けていくことでしょう。その方向を定めるのは、消費者の正しい理解以外にありません。———-左巻 健男(さまき・たけお)東京大学非常勤講師東京大学教育学部附属中・高等学校、京都工芸繊維大学、同志社女子大学、法政大学生命科学部環境応用化学科教授、同教職課程センター教授などを経て現職。東京学芸大学大学院教育学研究科理科教育専攻物理化学講座を修了。『RikaTan(理科の探検)』誌編集長、中学校理科教科書(新しい科学)編集委員。法政大学を定年後、精力的に執筆活動や講演会の講師を務める。『面白くて眠れなくなる物理』『面白くて眠れなくなる化学』『面白くて眠れなくなる地学』『怖くて眠れなくなる化学』(PHP研究所)、『身近にあふれる「科学」が3時間でわかる本』『身近にあふれる「微生物」が3時間でわかる本』(明日香出版社)、『絶対に面白い化学入門 世界史は化学でできている』(ダイヤモンド社)など著書多数。———-(東京大学非常勤講師 左巻 健男)
そこで、仲の悪い水と油・脂肪の間を取り持って、油・脂肪汚れに取りついて繊維から引き離し、再付着させないのが石けん・洗剤です。石けん・洗剤の中心は水と油を取り持つ界面活性剤。それに、洗浄力を高めるための助剤や酵素なども働きます。「アルカリで洗う」「水素も汚れ落としに一役」など、アルカリなり水素なりの化学の用語があると、つい、「この話は化学的(科学的)な根拠があるに違いない」と思いがちです。「水素水」も、一部には科学的によいイメージがあります。私たちのまわりには、人びとの科学への信頼感を利用して、科学っぽい雰囲気をして、実は科学的にはおかしな説明が満ちあふれています。筆者はそれをニセ科学として世に警鐘を鳴らしてきました。ニセ科学かどうか見抜くのは大変です。今回のケースでいえば「対照実験」の重要性がわかりました。また、客観的に調べられているかも大切です。「思い」のアンケート調査の結果では根拠として弱すぎます。■既存の石けんや洗剤も環境に配慮されている筆者は学生時代、界面化学という石けん・洗剤で汚れを落とすしくみなどを研究する研究室に所属していました。その後、長らく中高理科教員、大学教員をしながら科学啓発とニセ科学問題を追及してきました。拙著『暮らしのなかのニセ科学』(平凡社新書)は、健康系ニセ科学についてまとめたものです。こんな本を一読しておくのもニセ科学へのセンスを磨く一助になるでしょう。筆者の周りにも実際にマグちゃんを使っている人がいますが、「汚れ落ちについては確かに水洗いとほぼ変わらないと感じているが、臭いが『水だけ』と『マグあり』ではまったく違う。わずかなpH変化でも、臭い菌の殺菌には効果があるのではないか」と語っています。ですが、友人が語る効果はあまりにも主観的です。臭い菌の除去には50℃程度のお湯に30分程度つけておいてから、その水(お湯)もあわせて洗濯機に入れて洗うことをおすすめします。マグちゃんを熱心に使っている消費者は、マグちゃんの使用が環境負荷の軽減に寄与していると信じているようです。ですが、現在発売されている石けん・洗剤は、汚れを取るために開発され、環境への影響もできるだけ小さくなるようなものに改良されています。洗浄力・環境負荷・人体への安全性などについて、今後も間違いなく進化し続けていくことでしょう。その方向を定めるのは、消費者の正しい理解以外にありません。———-左巻 健男(さまき・たけお)東京大学非常勤講師東京大学教育学部附属中・高等学校、京都工芸繊維大学、同志社女子大学、法政大学生命科学部環境応用化学科教授、同教職課程センター教授などを経て現職。東京学芸大学大学院教育学研究科理科教育専攻物理化学講座を修了。『RikaTan(理科の探検)』誌編集長、中学校理科教科書(新しい科学)編集委員。法政大学を定年後、精力的に執筆活動や講演会の講師を務める。『面白くて眠れなくなる物理』『面白くて眠れなくなる化学』『面白くて眠れなくなる地学』『怖くて眠れなくなる化学』(PHP研究所)、『身近にあふれる「科学」が3時間でわかる本』『身近にあふれる「微生物」が3時間でわかる本』(明日香出版社)、『絶対に面白い化学入門 世界史は化学でできている』(ダイヤモンド社)など著書多数。———-(東京大学非常勤講師 左巻 健男)
「アルカリで洗う」「水素も汚れ落としに一役」など、アルカリなり水素なりの化学の用語があると、つい、「この話は化学的(科学的)な根拠があるに違いない」と思いがちです。「水素水」も、一部には科学的によいイメージがあります。私たちのまわりには、人びとの科学への信頼感を利用して、科学っぽい雰囲気をして、実は科学的にはおかしな説明が満ちあふれています。筆者はそれをニセ科学として世に警鐘を鳴らしてきました。ニセ科学かどうか見抜くのは大変です。今回のケースでいえば「対照実験」の重要性がわかりました。また、客観的に調べられているかも大切です。「思い」のアンケート調査の結果では根拠として弱すぎます。■既存の石けんや洗剤も環境に配慮されている筆者は学生時代、界面化学という石けん・洗剤で汚れを落とすしくみなどを研究する研究室に所属していました。その後、長らく中高理科教員、大学教員をしながら科学啓発とニセ科学問題を追及してきました。拙著『暮らしのなかのニセ科学』(平凡社新書)は、健康系ニセ科学についてまとめたものです。こんな本を一読しておくのもニセ科学へのセンスを磨く一助になるでしょう。筆者の周りにも実際にマグちゃんを使っている人がいますが、「汚れ落ちについては確かに水洗いとほぼ変わらないと感じているが、臭いが『水だけ』と『マグあり』ではまったく違う。わずかなpH変化でも、臭い菌の殺菌には効果があるのではないか」と語っています。ですが、友人が語る効果はあまりにも主観的です。臭い菌の除去には50℃程度のお湯に30分程度つけておいてから、その水(お湯)もあわせて洗濯機に入れて洗うことをおすすめします。マグちゃんを熱心に使っている消費者は、マグちゃんの使用が環境負荷の軽減に寄与していると信じているようです。ですが、現在発売されている石けん・洗剤は、汚れを取るために開発され、環境への影響もできるだけ小さくなるようなものに改良されています。洗浄力・環境負荷・人体への安全性などについて、今後も間違いなく進化し続けていくことでしょう。その方向を定めるのは、消費者の正しい理解以外にありません。———-左巻 健男(さまき・たけお)東京大学非常勤講師東京大学教育学部附属中・高等学校、京都工芸繊維大学、同志社女子大学、法政大学生命科学部環境応用化学科教授、同教職課程センター教授などを経て現職。東京学芸大学大学院教育学研究科理科教育専攻物理化学講座を修了。『RikaTan(理科の探検)』誌編集長、中学校理科教科書(新しい科学)編集委員。法政大学を定年後、精力的に執筆活動や講演会の講師を務める。『面白くて眠れなくなる物理』『面白くて眠れなくなる化学』『面白くて眠れなくなる地学』『怖くて眠れなくなる化学』(PHP研究所)、『身近にあふれる「科学」が3時間でわかる本』『身近にあふれる「微生物」が3時間でわかる本』(明日香出版社)、『絶対に面白い化学入門 世界史は化学でできている』(ダイヤモンド社)など著書多数。———-(東京大学非常勤講師 左巻 健男)
私たちのまわりには、人びとの科学への信頼感を利用して、科学っぽい雰囲気をして、実は科学的にはおかしな説明が満ちあふれています。筆者はそれをニセ科学として世に警鐘を鳴らしてきました。ニセ科学かどうか見抜くのは大変です。今回のケースでいえば「対照実験」の重要性がわかりました。また、客観的に調べられているかも大切です。「思い」のアンケート調査の結果では根拠として弱すぎます。■既存の石けんや洗剤も環境に配慮されている筆者は学生時代、界面化学という石けん・洗剤で汚れを落とすしくみなどを研究する研究室に所属していました。その後、長らく中高理科教員、大学教員をしながら科学啓発とニセ科学問題を追及してきました。拙著『暮らしのなかのニセ科学』(平凡社新書)は、健康系ニセ科学についてまとめたものです。こんな本を一読しておくのもニセ科学へのセンスを磨く一助になるでしょう。筆者の周りにも実際にマグちゃんを使っている人がいますが、「汚れ落ちについては確かに水洗いとほぼ変わらないと感じているが、臭いが『水だけ』と『マグあり』ではまったく違う。わずかなpH変化でも、臭い菌の殺菌には効果があるのではないか」と語っています。ですが、友人が語る効果はあまりにも主観的です。臭い菌の除去には50℃程度のお湯に30分程度つけておいてから、その水(お湯)もあわせて洗濯機に入れて洗うことをおすすめします。マグちゃんを熱心に使っている消費者は、マグちゃんの使用が環境負荷の軽減に寄与していると信じているようです。ですが、現在発売されている石けん・洗剤は、汚れを取るために開発され、環境への影響もできるだけ小さくなるようなものに改良されています。洗浄力・環境負荷・人体への安全性などについて、今後も間違いなく進化し続けていくことでしょう。その方向を定めるのは、消費者の正しい理解以外にありません。———-左巻 健男(さまき・たけお)東京大学非常勤講師東京大学教育学部附属中・高等学校、京都工芸繊維大学、同志社女子大学、法政大学生命科学部環境応用化学科教授、同教職課程センター教授などを経て現職。東京学芸大学大学院教育学研究科理科教育専攻物理化学講座を修了。『RikaTan(理科の探検)』誌編集長、中学校理科教科書(新しい科学)編集委員。法政大学を定年後、精力的に執筆活動や講演会の講師を務める。『面白くて眠れなくなる物理』『面白くて眠れなくなる化学』『面白くて眠れなくなる地学』『怖くて眠れなくなる化学』(PHP研究所)、『身近にあふれる「科学」が3時間でわかる本』『身近にあふれる「微生物」が3時間でわかる本』(明日香出版社)、『絶対に面白い化学入門 世界史は化学でできている』(ダイヤモンド社)など著書多数。———-(東京大学非常勤講師 左巻 健男)
ニセ科学かどうか見抜くのは大変です。今回のケースでいえば「対照実験」の重要性がわかりました。また、客観的に調べられているかも大切です。「思い」のアンケート調査の結果では根拠として弱すぎます。■既存の石けんや洗剤も環境に配慮されている筆者は学生時代、界面化学という石けん・洗剤で汚れを落とすしくみなどを研究する研究室に所属していました。その後、長らく中高理科教員、大学教員をしながら科学啓発とニセ科学問題を追及してきました。拙著『暮らしのなかのニセ科学』(平凡社新書)は、健康系ニセ科学についてまとめたものです。こんな本を一読しておくのもニセ科学へのセンスを磨く一助になるでしょう。筆者の周りにも実際にマグちゃんを使っている人がいますが、「汚れ落ちについては確かに水洗いとほぼ変わらないと感じているが、臭いが『水だけ』と『マグあり』ではまったく違う。わずかなpH変化でも、臭い菌の殺菌には効果があるのではないか」と語っています。ですが、友人が語る効果はあまりにも主観的です。臭い菌の除去には50℃程度のお湯に30分程度つけておいてから、その水(お湯)もあわせて洗濯機に入れて洗うことをおすすめします。マグちゃんを熱心に使っている消費者は、マグちゃんの使用が環境負荷の軽減に寄与していると信じているようです。ですが、現在発売されている石けん・洗剤は、汚れを取るために開発され、環境への影響もできるだけ小さくなるようなものに改良されています。洗浄力・環境負荷・人体への安全性などについて、今後も間違いなく進化し続けていくことでしょう。その方向を定めるのは、消費者の正しい理解以外にありません。———-左巻 健男(さまき・たけお)東京大学非常勤講師東京大学教育学部附属中・高等学校、京都工芸繊維大学、同志社女子大学、法政大学生命科学部環境応用化学科教授、同教職課程センター教授などを経て現職。東京学芸大学大学院教育学研究科理科教育専攻物理化学講座を修了。『RikaTan(理科の探検)』誌編集長、中学校理科教科書(新しい科学)編集委員。法政大学を定年後、精力的に執筆活動や講演会の講師を務める。『面白くて眠れなくなる物理』『面白くて眠れなくなる化学』『面白くて眠れなくなる地学』『怖くて眠れなくなる化学』(PHP研究所)、『身近にあふれる「科学」が3時間でわかる本』『身近にあふれる「微生物」が3時間でわかる本』(明日香出版社)、『絶対に面白い化学入門 世界史は化学でできている』(ダイヤモンド社)など著書多数。———-(東京大学非常勤講師 左巻 健男)
筆者は学生時代、界面化学という石けん・洗剤で汚れを落とすしくみなどを研究する研究室に所属していました。その後、長らく中高理科教員、大学教員をしながら科学啓発とニセ科学問題を追及してきました。拙著『暮らしのなかのニセ科学』(平凡社新書)は、健康系ニセ科学についてまとめたものです。こんな本を一読しておくのもニセ科学へのセンスを磨く一助になるでしょう。筆者の周りにも実際にマグちゃんを使っている人がいますが、「汚れ落ちについては確かに水洗いとほぼ変わらないと感じているが、臭いが『水だけ』と『マグあり』ではまったく違う。わずかなpH変化でも、臭い菌の殺菌には効果があるのではないか」と語っています。ですが、友人が語る効果はあまりにも主観的です。臭い菌の除去には50℃程度のお湯に30分程度つけておいてから、その水(お湯)もあわせて洗濯機に入れて洗うことをおすすめします。マグちゃんを熱心に使っている消費者は、マグちゃんの使用が環境負荷の軽減に寄与していると信じているようです。ですが、現在発売されている石けん・洗剤は、汚れを取るために開発され、環境への影響もできるだけ小さくなるようなものに改良されています。洗浄力・環境負荷・人体への安全性などについて、今後も間違いなく進化し続けていくことでしょう。その方向を定めるのは、消費者の正しい理解以外にありません。———-左巻 健男(さまき・たけお)東京大学非常勤講師東京大学教育学部附属中・高等学校、京都工芸繊維大学、同志社女子大学、法政大学生命科学部環境応用化学科教授、同教職課程センター教授などを経て現職。東京学芸大学大学院教育学研究科理科教育専攻物理化学講座を修了。『RikaTan(理科の探検)』誌編集長、中学校理科教科書(新しい科学)編集委員。法政大学を定年後、精力的に執筆活動や講演会の講師を務める。『面白くて眠れなくなる物理』『面白くて眠れなくなる化学』『面白くて眠れなくなる地学』『怖くて眠れなくなる化学』(PHP研究所)、『身近にあふれる「科学」が3時間でわかる本』『身近にあふれる「微生物」が3時間でわかる本』(明日香出版社)、『絶対に面白い化学入門 世界史は化学でできている』(ダイヤモンド社)など著書多数。———-(東京大学非常勤講師 左巻 健男)
その後、長らく中高理科教員、大学教員をしながら科学啓発とニセ科学問題を追及してきました。拙著『暮らしのなかのニセ科学』(平凡社新書)は、健康系ニセ科学についてまとめたものです。こんな本を一読しておくのもニセ科学へのセンスを磨く一助になるでしょう。筆者の周りにも実際にマグちゃんを使っている人がいますが、「汚れ落ちについては確かに水洗いとほぼ変わらないと感じているが、臭いが『水だけ』と『マグあり』ではまったく違う。わずかなpH変化でも、臭い菌の殺菌には効果があるのではないか」と語っています。ですが、友人が語る効果はあまりにも主観的です。臭い菌の除去には50℃程度のお湯に30分程度つけておいてから、その水(お湯)もあわせて洗濯機に入れて洗うことをおすすめします。マグちゃんを熱心に使っている消費者は、マグちゃんの使用が環境負荷の軽減に寄与していると信じているようです。ですが、現在発売されている石けん・洗剤は、汚れを取るために開発され、環境への影響もできるだけ小さくなるようなものに改良されています。洗浄力・環境負荷・人体への安全性などについて、今後も間違いなく進化し続けていくことでしょう。その方向を定めるのは、消費者の正しい理解以外にありません。———-左巻 健男(さまき・たけお)東京大学非常勤講師東京大学教育学部附属中・高等学校、京都工芸繊維大学、同志社女子大学、法政大学生命科学部環境応用化学科教授、同教職課程センター教授などを経て現職。東京学芸大学大学院教育学研究科理科教育専攻物理化学講座を修了。『RikaTan(理科の探検)』誌編集長、中学校理科教科書(新しい科学)編集委員。法政大学を定年後、精力的に執筆活動や講演会の講師を務める。『面白くて眠れなくなる物理』『面白くて眠れなくなる化学』『面白くて眠れなくなる地学』『怖くて眠れなくなる化学』(PHP研究所)、『身近にあふれる「科学」が3時間でわかる本』『身近にあふれる「微生物」が3時間でわかる本』(明日香出版社)、『絶対に面白い化学入門 世界史は化学でできている』(ダイヤモンド社)など著書多数。———-(東京大学非常勤講師 左巻 健男)
筆者の周りにも実際にマグちゃんを使っている人がいますが、「汚れ落ちについては確かに水洗いとほぼ変わらないと感じているが、臭いが『水だけ』と『マグあり』ではまったく違う。わずかなpH変化でも、臭い菌の殺菌には効果があるのではないか」と語っています。ですが、友人が語る効果はあまりにも主観的です。臭い菌の除去には50℃程度のお湯に30分程度つけておいてから、その水(お湯)もあわせて洗濯機に入れて洗うことをおすすめします。マグちゃんを熱心に使っている消費者は、マグちゃんの使用が環境負荷の軽減に寄与していると信じているようです。ですが、現在発売されている石けん・洗剤は、汚れを取るために開発され、環境への影響もできるだけ小さくなるようなものに改良されています。洗浄力・環境負荷・人体への安全性などについて、今後も間違いなく進化し続けていくことでしょう。その方向を定めるのは、消費者の正しい理解以外にありません。———-左巻 健男(さまき・たけお)東京大学非常勤講師東京大学教育学部附属中・高等学校、京都工芸繊維大学、同志社女子大学、法政大学生命科学部環境応用化学科教授、同教職課程センター教授などを経て現職。東京学芸大学大学院教育学研究科理科教育専攻物理化学講座を修了。『RikaTan(理科の探検)』誌編集長、中学校理科教科書(新しい科学)編集委員。法政大学を定年後、精力的に執筆活動や講演会の講師を務める。『面白くて眠れなくなる物理』『面白くて眠れなくなる化学』『面白くて眠れなくなる地学』『怖くて眠れなくなる化学』(PHP研究所)、『身近にあふれる「科学」が3時間でわかる本』『身近にあふれる「微生物」が3時間でわかる本』(明日香出版社)、『絶対に面白い化学入門 世界史は化学でできている』(ダイヤモンド社)など著書多数。———-(東京大学非常勤講師 左巻 健男)
ですが、友人が語る効果はあまりにも主観的です。臭い菌の除去には50℃程度のお湯に30分程度つけておいてから、その水(お湯)もあわせて洗濯機に入れて洗うことをおすすめします。マグちゃんを熱心に使っている消費者は、マグちゃんの使用が環境負荷の軽減に寄与していると信じているようです。ですが、現在発売されている石けん・洗剤は、汚れを取るために開発され、環境への影響もできるだけ小さくなるようなものに改良されています。洗浄力・環境負荷・人体への安全性などについて、今後も間違いなく進化し続けていくことでしょう。その方向を定めるのは、消費者の正しい理解以外にありません。———-左巻 健男(さまき・たけお)東京大学非常勤講師東京大学教育学部附属中・高等学校、京都工芸繊維大学、同志社女子大学、法政大学生命科学部環境応用化学科教授、同教職課程センター教授などを経て現職。東京学芸大学大学院教育学研究科理科教育専攻物理化学講座を修了。『RikaTan(理科の探検)』誌編集長、中学校理科教科書(新しい科学)編集委員。法政大学を定年後、精力的に執筆活動や講演会の講師を務める。『面白くて眠れなくなる物理』『面白くて眠れなくなる化学』『面白くて眠れなくなる地学』『怖くて眠れなくなる化学』(PHP研究所)、『身近にあふれる「科学」が3時間でわかる本』『身近にあふれる「微生物」が3時間でわかる本』(明日香出版社)、『絶対に面白い化学入門 世界史は化学でできている』(ダイヤモンド社)など著書多数。———-(東京大学非常勤講師 左巻 健男)
マグちゃんを熱心に使っている消費者は、マグちゃんの使用が環境負荷の軽減に寄与していると信じているようです。ですが、現在発売されている石けん・洗剤は、汚れを取るために開発され、環境への影響もできるだけ小さくなるようなものに改良されています。洗浄力・環境負荷・人体への安全性などについて、今後も間違いなく進化し続けていくことでしょう。その方向を定めるのは、消費者の正しい理解以外にありません。———-左巻 健男(さまき・たけお)東京大学非常勤講師東京大学教育学部附属中・高等学校、京都工芸繊維大学、同志社女子大学、法政大学生命科学部環境応用化学科教授、同教職課程センター教授などを経て現職。東京学芸大学大学院教育学研究科理科教育専攻物理化学講座を修了。『RikaTan(理科の探検)』誌編集長、中学校理科教科書(新しい科学)編集委員。法政大学を定年後、精力的に執筆活動や講演会の講師を務める。『面白くて眠れなくなる物理』『面白くて眠れなくなる化学』『面白くて眠れなくなる地学』『怖くて眠れなくなる化学』(PHP研究所)、『身近にあふれる「科学」が3時間でわかる本』『身近にあふれる「微生物」が3時間でわかる本』(明日香出版社)、『絶対に面白い化学入門 世界史は化学でできている』(ダイヤモンド社)など著書多数。———-(東京大学非常勤講師 左巻 健男)
ですが、現在発売されている石けん・洗剤は、汚れを取るために開発され、環境への影響もできるだけ小さくなるようなものに改良されています。洗浄力・環境負荷・人体への安全性などについて、今後も間違いなく進化し続けていくことでしょう。その方向を定めるのは、消費者の正しい理解以外にありません。———-左巻 健男(さまき・たけお)東京大学非常勤講師東京大学教育学部附属中・高等学校、京都工芸繊維大学、同志社女子大学、法政大学生命科学部環境応用化学科教授、同教職課程センター教授などを経て現職。東京学芸大学大学院教育学研究科理科教育専攻物理化学講座を修了。『RikaTan(理科の探検)』誌編集長、中学校理科教科書(新しい科学)編集委員。法政大学を定年後、精力的に執筆活動や講演会の講師を務める。『面白くて眠れなくなる物理』『面白くて眠れなくなる化学』『面白くて眠れなくなる地学』『怖くて眠れなくなる化学』(PHP研究所)、『身近にあふれる「科学」が3時間でわかる本』『身近にあふれる「微生物」が3時間でわかる本』(明日香出版社)、『絶対に面白い化学入門 世界史は化学でできている』(ダイヤモンド社)など著書多数。———-(東京大学非常勤講師 左巻 健男)
———-左巻 健男(さまき・たけお)東京大学非常勤講師東京大学教育学部附属中・高等学校、京都工芸繊維大学、同志社女子大学、法政大学生命科学部環境応用化学科教授、同教職課程センター教授などを経て現職。東京学芸大学大学院教育学研究科理科教育専攻物理化学講座を修了。『RikaTan(理科の探検)』誌編集長、中学校理科教科書(新しい科学)編集委員。法政大学を定年後、精力的に執筆活動や講演会の講師を務める。『面白くて眠れなくなる物理』『面白くて眠れなくなる化学』『面白くて眠れなくなる地学』『怖くて眠れなくなる化学』(PHP研究所)、『身近にあふれる「科学」が3時間でわかる本』『身近にあふれる「微生物」が3時間でわかる本』(明日香出版社)、『絶対に面白い化学入門 世界史は化学でできている』(ダイヤモンド社)など著書多数。———-(東京大学非常勤講師 左巻 健男)
(東京大学非常勤講師 左巻 健男)