両親が不倫していた家庭で育った39歳男性 自身が「ママ友」と関係を持って起きた異変

育った環境と不倫のする・しないは関係があるのだろうか。もちろん、子どもは成長過程で、良くも悪くも親から多大な影響を受ける。だが大人になったとき、その環境をどう受け止め、どう考えていくかは本人の資質も大きい。
都内在住の岡本亮輔さん(39歳・仮名=以下同)は、大学を出て4年後の26歳の時、職場の後輩の成美さんと結婚した。成美さんは24歳。「思い返しても初々しい夫婦でした」と亮輔さんは笑う。
「周りからは、どうしてこんなに早く結婚するんだと言われましたが、僕は早く家庭がほしかったんです」
結婚して1年後には長女が、その2年後には長男が生まれた。20代にして2児の父となり、30歳で郊外に一戸建てを購入。着々と、そして堅実に自分の人生を築いていった。
「家庭という確固たる母港が必要だと思っていました。そうすれば僕は実直に生きていけるはずだった」
ところが上の子が小学校に入学したころ、亮輔さんの身内の虫が疼き出す。ときどき行くバーで顔なじみになった女性とホテルへ行ってしまったのだ。
「うち、妻が仕事を辞めたいと言ったし、すぐに子どももできたから、専業主婦だったんですよ。それでも僕も子どもがかわいくて、極力、仕事がらみ以外の飲み会などにも出ずに家庭優先で過ごしてきた。長女が入学してホッとしたとか、それまでのストレスが限界に来ていたとか、いろいろ理由はあったと思うんですが、なぜかその日、顔なじみの女性と話が盛り上がってそのまま……」 亮輔さんはこちらの表情をうかがったあと、「何を言っても、浮気のいいわけにしかなりませんけど」とつぶやいた。好みの異性と知り合って顔なじみになり、「ノリや勢いで」一晩を過ごしてしまうことは、それほど珍しくはない。独身のうちに、そういうことはありがちだが、亮輔さんは一度もそういうことをしたことがなかったという。 さらに聞いてみると、妻の成美さん以外には、大学生時代につきあった女性がひとりいるだけ。しかも半年という短い期間で、男女の関係をもったのは2回ほどだったという。真面目で晩熟な男性なのだ。 古い言い方をすれば、初のアヴァンチュール、そして人生初の浮気だった。本人は意識していないようだが、このとき、彼の中である種の開放感を得た可能性はあるのではないだろうか。「開放感がなかったといえば嘘になるし、ずっと夫として父親としてがんばってきたので、オレも男だったんだという気づきもあった。だけど、その時点では罪悪感のほうが強かった。自分自身に、亮輔よ、おまえもかと言いたかった」両親に家庭外のパートナーがいた じつは亮輔さんの両親は、それぞれに家庭以外に異性がいたという。幼い彼は父とともに愛人宅へ、母とはデート現場へと連れ回されていた。「うち、父も母もそれぞれ事業をやっていたんです。2歳上の姉がいるのに、不倫のカモフラージュに使われるのはいつも僕だった。幼稚園から帰ってくると、母がデパートにつれて行ってくれる。おもちゃを与えられて屋上でさんざん遊んで。その間、母は男の人と屋上でいちゃいちゃしているわけです。当時は『お仕事の話をしているの』と言われていましたが……。その後、お手伝いさんが迎えに来て、僕だけ家に帰る。起きているうちに父が帰ってきたら、今日はママとデパートに行った、今ママはお仕事をしていると報告する」 週末は父親が、「亮輔、釣りに行こう」と誘い出す。行き先は愛人宅だ。「きれいなおねえさん」がお菓子をくれた。お菓子をたらふく食べて眠くなり、起きると外は暗い。食卓にはお寿司やウナギがあったり、おねえさんが作るおいしいハンバーグがあったりした。帰りはいつも父が「今日のことは内緒だぞ」と言ってお小遣いをくれた。「小学校に入るとそういうことも減りましたが、僕はすぐに地元の野球チームに入ったので単につきあう時間がなくなっただけで、両親は変わらずそれぞれに相手がいたと思います。ただ、中学生になるころかな、バブルがはじけて父親の会社が傾いた。母の会社も危うかったんだと思います。一時期、姉と僕はばらばらに親戚に預けられていました」 高校受験の少し前に、家族4人はまた一緒に暮らすようになったが、「うちにはお金がないから、都立高校にしてね」と母親に何度も言われたという。「だけどうちの親は、どちらも転んでもただ起きないというエネルギッシュなタイプだったみたい。僕が大学に入るころには、それぞれまた愛人がいましたからね。新たな事業もうまくいっていたんじゃないでしょうか」 息子はもう大人だと判断したのだろうか、大学生時代には父から愛人を紹介されたこともあったそうだ。自分と年齢の変わらないような若い女性を、彼は嫌悪感をもって見つめたという。母も隠さなくなった。「お友だちなの」と引き合わされた男性は、父親と同世代だったがダンディで仕立てのいい服を着ていたのを覚えている。「若いときに両親の愛人に紹介されるなんてね……。中学生時代からの親友に当時、その話をしたら『面白いじゃないか』と言っていたけど、僕にとっては身内の恥だったし、ああいうふうにはなるまいという反面教師でもありました。ようやく親にそれぞれ愛人がいるとわかった姉は、ショックを受けたのか家を出てしまった。その後、すぐに結婚していました」“ママ友”とも関係を… そんな過去があるからこそ、結婚8年目にして自分がしでかした「一夜の過ち」について、亮輔さんは自分を許せないと感じていた。「妻に話そうと何度も思いました。妻に対して誠実であると決意して結婚したのだから。それに僕はおそらく、自分が親と同じようになることを恐れていたんだと思います。今、率直に話して罰せられればもう繰り返すこともないはずだと考えた。だけど妻が傷つくことを考えたら、やはり話せませんでした」 話せなかっただけではなく、それから1年あまり後、今度は子どもの友人の母親、つまり“ママ友”である美佳さんとも「過ち」をおかした。「美佳さんの場合は、ノリや勢いではなく、じっくり友だちづきあいをした上でもっと深い仲になりたいと僕から誘いました。子どもの友だちの母親だからバレやすいという危機感はあった。でも自分を止めることができなかった」 とはいえ、自分は親とは違う。子どもをカモフラージュにはしない。そうは思ったが、子どもをカモフラージュにしていた親の気持ちが、少しわかるような気がしたのも確かだと言う。「そのとき思ったんですよ。嫌らしい言い方かもしれないけど、僕は結婚したかったから妻を選んだ。妻は伴侶として最高の女性です。でも美佳とは、妻としてとか恋人としてとか、そういうカテゴライズされた関係ではない、人間同士、ただの男と女としてつきあいたかった」 つまりは初めて“恋”に落ちたのだ。美佳さんのすべてを知りたいと願ったが、そううまくはいかない。「せめてお茶でもと、何度かカフェには行きましたが、あくまで子どもの親同士としてでしたね」 美佳さんは共働きでバリバリのキャリアウーマンだ。外資系の企業をいくつか渡り歩いた「強者」だという。それでいて物腰は柔らかく、視野は広く、穏やかな性格で、亮輔さんから見ると、実業家の母とも専業主婦の妻とも違うタイプだった。だから惹かれたのかもしれない。 ある日、代休をとった亮輔さんは自転車で公園へ出かけた。美佳さんへの悶々とした気持ちを抱えて、公園のサイクリングロードをひた走った。そしてベンチで休んでいると、すぐ近くに美佳さんがいるのを見つけたのだ。「彼女はひとりで本を読んでいました。僕を見てびっくりしたみたい。彼女も多忙な日が続いてようやく一段落して休みをとったんだそうです。そのままカフェに行ってランチして……。今日を逃したくないという思いが強かった。僕はあなたがいないこれからの人生を考えることができないと言いました」 結婚しているのに何を言ってるのと笑われたが、彼はめげなかった。人の妻としてのあなたではない、あなた個人と僕個人の問題、関わっていきたいんだと真摯に訴えた。「彼女、呆れたように笑っていましたが、ふっと真顔になって『あなたは絶対に、誰にもバレないようにできるの?』と。もちろんだと言いました」 暗黙の共犯意識が生まれた瞬間だ。それから約3年、ふたりの関係は今も密かに続いている。「罪の意識というのは慣れとともに薄れていくんですね。今は罪悪感はほとんどありません。同時になぜかずっと心にあった親へのわだかまりも薄くなっていきました。あんな親だから、僕は浮気などしないと決めていたのに、その自分が結局、似たようなことをしている。親の淫らな血のせいかと思ったこともあるけど、そういうことじゃないんですね。人間、生きていればいろいろなことがある。恋したら止められないこともある。自分を正当化したいからかもしれないけど……」 今年の母の日、彼は大人になってから初めて母にプレゼントを贈った。古希を迎えた母は、今も元気に仕事に遊びにと飛び回っているようだ。母からのメッセージには、「ありがとう。亮輔はママの誇りだよ」の文字とともにハートマークが飛び散っていた。亀山早苗(かめやま・さなえ)フリーライター。男女関係、特に不倫について20年以上取材を続け、『不倫の恋で苦しむ男たち』『夫の不倫で苦しむ妻たち』『人はなぜ不倫をするのか』『復讐手帖─愛が狂気に変わるとき─』など著書多数。デイリー新潮取材班編集2021年6月2日 掲載
亮輔さんはこちらの表情をうかがったあと、「何を言っても、浮気のいいわけにしかなりませんけど」とつぶやいた。好みの異性と知り合って顔なじみになり、「ノリや勢いで」一晩を過ごしてしまうことは、それほど珍しくはない。独身のうちに、そういうことはありがちだが、亮輔さんは一度もそういうことをしたことがなかったという。 さらに聞いてみると、妻の成美さん以外には、大学生時代につきあった女性がひとりいるだけ。しかも半年という短い期間で、男女の関係をもったのは2回ほどだったという。真面目で晩熟な男性なのだ。 古い言い方をすれば、初のアヴァンチュール、そして人生初の浮気だった。本人は意識していないようだが、このとき、彼の中である種の開放感を得た可能性はあるのではないだろうか。「開放感がなかったといえば嘘になるし、ずっと夫として父親としてがんばってきたので、オレも男だったんだという気づきもあった。だけど、その時点では罪悪感のほうが強かった。自分自身に、亮輔よ、おまえもかと言いたかった」両親に家庭外のパートナーがいた じつは亮輔さんの両親は、それぞれに家庭以外に異性がいたという。幼い彼は父とともに愛人宅へ、母とはデート現場へと連れ回されていた。「うち、父も母もそれぞれ事業をやっていたんです。2歳上の姉がいるのに、不倫のカモフラージュに使われるのはいつも僕だった。幼稚園から帰ってくると、母がデパートにつれて行ってくれる。おもちゃを与えられて屋上でさんざん遊んで。その間、母は男の人と屋上でいちゃいちゃしているわけです。当時は『お仕事の話をしているの』と言われていましたが……。その後、お手伝いさんが迎えに来て、僕だけ家に帰る。起きているうちに父が帰ってきたら、今日はママとデパートに行った、今ママはお仕事をしていると報告する」 週末は父親が、「亮輔、釣りに行こう」と誘い出す。行き先は愛人宅だ。「きれいなおねえさん」がお菓子をくれた。お菓子をたらふく食べて眠くなり、起きると外は暗い。食卓にはお寿司やウナギがあったり、おねえさんが作るおいしいハンバーグがあったりした。帰りはいつも父が「今日のことは内緒だぞ」と言ってお小遣いをくれた。「小学校に入るとそういうことも減りましたが、僕はすぐに地元の野球チームに入ったので単につきあう時間がなくなっただけで、両親は変わらずそれぞれに相手がいたと思います。ただ、中学生になるころかな、バブルがはじけて父親の会社が傾いた。母の会社も危うかったんだと思います。一時期、姉と僕はばらばらに親戚に預けられていました」 高校受験の少し前に、家族4人はまた一緒に暮らすようになったが、「うちにはお金がないから、都立高校にしてね」と母親に何度も言われたという。「だけどうちの親は、どちらも転んでもただ起きないというエネルギッシュなタイプだったみたい。僕が大学に入るころには、それぞれまた愛人がいましたからね。新たな事業もうまくいっていたんじゃないでしょうか」 息子はもう大人だと判断したのだろうか、大学生時代には父から愛人を紹介されたこともあったそうだ。自分と年齢の変わらないような若い女性を、彼は嫌悪感をもって見つめたという。母も隠さなくなった。「お友だちなの」と引き合わされた男性は、父親と同世代だったがダンディで仕立てのいい服を着ていたのを覚えている。「若いときに両親の愛人に紹介されるなんてね……。中学生時代からの親友に当時、その話をしたら『面白いじゃないか』と言っていたけど、僕にとっては身内の恥だったし、ああいうふうにはなるまいという反面教師でもありました。ようやく親にそれぞれ愛人がいるとわかった姉は、ショックを受けたのか家を出てしまった。その後、すぐに結婚していました」“ママ友”とも関係を… そんな過去があるからこそ、結婚8年目にして自分がしでかした「一夜の過ち」について、亮輔さんは自分を許せないと感じていた。「妻に話そうと何度も思いました。妻に対して誠実であると決意して結婚したのだから。それに僕はおそらく、自分が親と同じようになることを恐れていたんだと思います。今、率直に話して罰せられればもう繰り返すこともないはずだと考えた。だけど妻が傷つくことを考えたら、やはり話せませんでした」 話せなかっただけではなく、それから1年あまり後、今度は子どもの友人の母親、つまり“ママ友”である美佳さんとも「過ち」をおかした。「美佳さんの場合は、ノリや勢いではなく、じっくり友だちづきあいをした上でもっと深い仲になりたいと僕から誘いました。子どもの友だちの母親だからバレやすいという危機感はあった。でも自分を止めることができなかった」 とはいえ、自分は親とは違う。子どもをカモフラージュにはしない。そうは思ったが、子どもをカモフラージュにしていた親の気持ちが、少しわかるような気がしたのも確かだと言う。「そのとき思ったんですよ。嫌らしい言い方かもしれないけど、僕は結婚したかったから妻を選んだ。妻は伴侶として最高の女性です。でも美佳とは、妻としてとか恋人としてとか、そういうカテゴライズされた関係ではない、人間同士、ただの男と女としてつきあいたかった」 つまりは初めて“恋”に落ちたのだ。美佳さんのすべてを知りたいと願ったが、そううまくはいかない。「せめてお茶でもと、何度かカフェには行きましたが、あくまで子どもの親同士としてでしたね」 美佳さんは共働きでバリバリのキャリアウーマンだ。外資系の企業をいくつか渡り歩いた「強者」だという。それでいて物腰は柔らかく、視野は広く、穏やかな性格で、亮輔さんから見ると、実業家の母とも専業主婦の妻とも違うタイプだった。だから惹かれたのかもしれない。 ある日、代休をとった亮輔さんは自転車で公園へ出かけた。美佳さんへの悶々とした気持ちを抱えて、公園のサイクリングロードをひた走った。そしてベンチで休んでいると、すぐ近くに美佳さんがいるのを見つけたのだ。「彼女はひとりで本を読んでいました。僕を見てびっくりしたみたい。彼女も多忙な日が続いてようやく一段落して休みをとったんだそうです。そのままカフェに行ってランチして……。今日を逃したくないという思いが強かった。僕はあなたがいないこれからの人生を考えることができないと言いました」 結婚しているのに何を言ってるのと笑われたが、彼はめげなかった。人の妻としてのあなたではない、あなた個人と僕個人の問題、関わっていきたいんだと真摯に訴えた。「彼女、呆れたように笑っていましたが、ふっと真顔になって『あなたは絶対に、誰にもバレないようにできるの?』と。もちろんだと言いました」 暗黙の共犯意識が生まれた瞬間だ。それから約3年、ふたりの関係は今も密かに続いている。「罪の意識というのは慣れとともに薄れていくんですね。今は罪悪感はほとんどありません。同時になぜかずっと心にあった親へのわだかまりも薄くなっていきました。あんな親だから、僕は浮気などしないと決めていたのに、その自分が結局、似たようなことをしている。親の淫らな血のせいかと思ったこともあるけど、そういうことじゃないんですね。人間、生きていればいろいろなことがある。恋したら止められないこともある。自分を正当化したいからかもしれないけど……」 今年の母の日、彼は大人になってから初めて母にプレゼントを贈った。古希を迎えた母は、今も元気に仕事に遊びにと飛び回っているようだ。母からのメッセージには、「ありがとう。亮輔はママの誇りだよ」の文字とともにハートマークが飛び散っていた。亀山早苗(かめやま・さなえ)フリーライター。男女関係、特に不倫について20年以上取材を続け、『不倫の恋で苦しむ男たち』『夫の不倫で苦しむ妻たち』『人はなぜ不倫をするのか』『復讐手帖─愛が狂気に変わるとき─』など著書多数。デイリー新潮取材班編集2021年6月2日 掲載
さらに聞いてみると、妻の成美さん以外には、大学生時代につきあった女性がひとりいるだけ。しかも半年という短い期間で、男女の関係をもったのは2回ほどだったという。真面目で晩熟な男性なのだ。 古い言い方をすれば、初のアヴァンチュール、そして人生初の浮気だった。本人は意識していないようだが、このとき、彼の中である種の開放感を得た可能性はあるのではないだろうか。「開放感がなかったといえば嘘になるし、ずっと夫として父親としてがんばってきたので、オレも男だったんだという気づきもあった。だけど、その時点では罪悪感のほうが強かった。自分自身に、亮輔よ、おまえもかと言いたかった」両親に家庭外のパートナーがいた じつは亮輔さんの両親は、それぞれに家庭以外に異性がいたという。幼い彼は父とともに愛人宅へ、母とはデート現場へと連れ回されていた。「うち、父も母もそれぞれ事業をやっていたんです。2歳上の姉がいるのに、不倫のカモフラージュに使われるのはいつも僕だった。幼稚園から帰ってくると、母がデパートにつれて行ってくれる。おもちゃを与えられて屋上でさんざん遊んで。その間、母は男の人と屋上でいちゃいちゃしているわけです。当時は『お仕事の話をしているの』と言われていましたが……。その後、お手伝いさんが迎えに来て、僕だけ家に帰る。起きているうちに父が帰ってきたら、今日はママとデパートに行った、今ママはお仕事をしていると報告する」 週末は父親が、「亮輔、釣りに行こう」と誘い出す。行き先は愛人宅だ。「きれいなおねえさん」がお菓子をくれた。お菓子をたらふく食べて眠くなり、起きると外は暗い。食卓にはお寿司やウナギがあったり、おねえさんが作るおいしいハンバーグがあったりした。帰りはいつも父が「今日のことは内緒だぞ」と言ってお小遣いをくれた。「小学校に入るとそういうことも減りましたが、僕はすぐに地元の野球チームに入ったので単につきあう時間がなくなっただけで、両親は変わらずそれぞれに相手がいたと思います。ただ、中学生になるころかな、バブルがはじけて父親の会社が傾いた。母の会社も危うかったんだと思います。一時期、姉と僕はばらばらに親戚に預けられていました」 高校受験の少し前に、家族4人はまた一緒に暮らすようになったが、「うちにはお金がないから、都立高校にしてね」と母親に何度も言われたという。「だけどうちの親は、どちらも転んでもただ起きないというエネルギッシュなタイプだったみたい。僕が大学に入るころには、それぞれまた愛人がいましたからね。新たな事業もうまくいっていたんじゃないでしょうか」 息子はもう大人だと判断したのだろうか、大学生時代には父から愛人を紹介されたこともあったそうだ。自分と年齢の変わらないような若い女性を、彼は嫌悪感をもって見つめたという。母も隠さなくなった。「お友だちなの」と引き合わされた男性は、父親と同世代だったがダンディで仕立てのいい服を着ていたのを覚えている。「若いときに両親の愛人に紹介されるなんてね……。中学生時代からの親友に当時、その話をしたら『面白いじゃないか』と言っていたけど、僕にとっては身内の恥だったし、ああいうふうにはなるまいという反面教師でもありました。ようやく親にそれぞれ愛人がいるとわかった姉は、ショックを受けたのか家を出てしまった。その後、すぐに結婚していました」“ママ友”とも関係を… そんな過去があるからこそ、結婚8年目にして自分がしでかした「一夜の過ち」について、亮輔さんは自分を許せないと感じていた。「妻に話そうと何度も思いました。妻に対して誠実であると決意して結婚したのだから。それに僕はおそらく、自分が親と同じようになることを恐れていたんだと思います。今、率直に話して罰せられればもう繰り返すこともないはずだと考えた。だけど妻が傷つくことを考えたら、やはり話せませんでした」 話せなかっただけではなく、それから1年あまり後、今度は子どもの友人の母親、つまり“ママ友”である美佳さんとも「過ち」をおかした。「美佳さんの場合は、ノリや勢いではなく、じっくり友だちづきあいをした上でもっと深い仲になりたいと僕から誘いました。子どもの友だちの母親だからバレやすいという危機感はあった。でも自分を止めることができなかった」 とはいえ、自分は親とは違う。子どもをカモフラージュにはしない。そうは思ったが、子どもをカモフラージュにしていた親の気持ちが、少しわかるような気がしたのも確かだと言う。「そのとき思ったんですよ。嫌らしい言い方かもしれないけど、僕は結婚したかったから妻を選んだ。妻は伴侶として最高の女性です。でも美佳とは、妻としてとか恋人としてとか、そういうカテゴライズされた関係ではない、人間同士、ただの男と女としてつきあいたかった」 つまりは初めて“恋”に落ちたのだ。美佳さんのすべてを知りたいと願ったが、そううまくはいかない。「せめてお茶でもと、何度かカフェには行きましたが、あくまで子どもの親同士としてでしたね」 美佳さんは共働きでバリバリのキャリアウーマンだ。外資系の企業をいくつか渡り歩いた「強者」だという。それでいて物腰は柔らかく、視野は広く、穏やかな性格で、亮輔さんから見ると、実業家の母とも専業主婦の妻とも違うタイプだった。だから惹かれたのかもしれない。 ある日、代休をとった亮輔さんは自転車で公園へ出かけた。美佳さんへの悶々とした気持ちを抱えて、公園のサイクリングロードをひた走った。そしてベンチで休んでいると、すぐ近くに美佳さんがいるのを見つけたのだ。「彼女はひとりで本を読んでいました。僕を見てびっくりしたみたい。彼女も多忙な日が続いてようやく一段落して休みをとったんだそうです。そのままカフェに行ってランチして……。今日を逃したくないという思いが強かった。僕はあなたがいないこれからの人生を考えることができないと言いました」 結婚しているのに何を言ってるのと笑われたが、彼はめげなかった。人の妻としてのあなたではない、あなた個人と僕個人の問題、関わっていきたいんだと真摯に訴えた。「彼女、呆れたように笑っていましたが、ふっと真顔になって『あなたは絶対に、誰にもバレないようにできるの?』と。もちろんだと言いました」 暗黙の共犯意識が生まれた瞬間だ。それから約3年、ふたりの関係は今も密かに続いている。「罪の意識というのは慣れとともに薄れていくんですね。今は罪悪感はほとんどありません。同時になぜかずっと心にあった親へのわだかまりも薄くなっていきました。あんな親だから、僕は浮気などしないと決めていたのに、その自分が結局、似たようなことをしている。親の淫らな血のせいかと思ったこともあるけど、そういうことじゃないんですね。人間、生きていればいろいろなことがある。恋したら止められないこともある。自分を正当化したいからかもしれないけど……」 今年の母の日、彼は大人になってから初めて母にプレゼントを贈った。古希を迎えた母は、今も元気に仕事に遊びにと飛び回っているようだ。母からのメッセージには、「ありがとう。亮輔はママの誇りだよ」の文字とともにハートマークが飛び散っていた。亀山早苗(かめやま・さなえ)フリーライター。男女関係、特に不倫について20年以上取材を続け、『不倫の恋で苦しむ男たち』『夫の不倫で苦しむ妻たち』『人はなぜ不倫をするのか』『復讐手帖─愛が狂気に変わるとき─』など著書多数。デイリー新潮取材班編集2021年6月2日 掲載
古い言い方をすれば、初のアヴァンチュール、そして人生初の浮気だった。本人は意識していないようだが、このとき、彼の中である種の開放感を得た可能性はあるのではないだろうか。「開放感がなかったといえば嘘になるし、ずっと夫として父親としてがんばってきたので、オレも男だったんだという気づきもあった。だけど、その時点では罪悪感のほうが強かった。自分自身に、亮輔よ、おまえもかと言いたかった」両親に家庭外のパートナーがいた じつは亮輔さんの両親は、それぞれに家庭以外に異性がいたという。幼い彼は父とともに愛人宅へ、母とはデート現場へと連れ回されていた。「うち、父も母もそれぞれ事業をやっていたんです。2歳上の姉がいるのに、不倫のカモフラージュに使われるのはいつも僕だった。幼稚園から帰ってくると、母がデパートにつれて行ってくれる。おもちゃを与えられて屋上でさんざん遊んで。その間、母は男の人と屋上でいちゃいちゃしているわけです。当時は『お仕事の話をしているの』と言われていましたが……。その後、お手伝いさんが迎えに来て、僕だけ家に帰る。起きているうちに父が帰ってきたら、今日はママとデパートに行った、今ママはお仕事をしていると報告する」 週末は父親が、「亮輔、釣りに行こう」と誘い出す。行き先は愛人宅だ。「きれいなおねえさん」がお菓子をくれた。お菓子をたらふく食べて眠くなり、起きると外は暗い。食卓にはお寿司やウナギがあったり、おねえさんが作るおいしいハンバーグがあったりした。帰りはいつも父が「今日のことは内緒だぞ」と言ってお小遣いをくれた。「小学校に入るとそういうことも減りましたが、僕はすぐに地元の野球チームに入ったので単につきあう時間がなくなっただけで、両親は変わらずそれぞれに相手がいたと思います。ただ、中学生になるころかな、バブルがはじけて父親の会社が傾いた。母の会社も危うかったんだと思います。一時期、姉と僕はばらばらに親戚に預けられていました」 高校受験の少し前に、家族4人はまた一緒に暮らすようになったが、「うちにはお金がないから、都立高校にしてね」と母親に何度も言われたという。「だけどうちの親は、どちらも転んでもただ起きないというエネルギッシュなタイプだったみたい。僕が大学に入るころには、それぞれまた愛人がいましたからね。新たな事業もうまくいっていたんじゃないでしょうか」 息子はもう大人だと判断したのだろうか、大学生時代には父から愛人を紹介されたこともあったそうだ。自分と年齢の変わらないような若い女性を、彼は嫌悪感をもって見つめたという。母も隠さなくなった。「お友だちなの」と引き合わされた男性は、父親と同世代だったがダンディで仕立てのいい服を着ていたのを覚えている。「若いときに両親の愛人に紹介されるなんてね……。中学生時代からの親友に当時、その話をしたら『面白いじゃないか』と言っていたけど、僕にとっては身内の恥だったし、ああいうふうにはなるまいという反面教師でもありました。ようやく親にそれぞれ愛人がいるとわかった姉は、ショックを受けたのか家を出てしまった。その後、すぐに結婚していました」“ママ友”とも関係を… そんな過去があるからこそ、結婚8年目にして自分がしでかした「一夜の過ち」について、亮輔さんは自分を許せないと感じていた。「妻に話そうと何度も思いました。妻に対して誠実であると決意して結婚したのだから。それに僕はおそらく、自分が親と同じようになることを恐れていたんだと思います。今、率直に話して罰せられればもう繰り返すこともないはずだと考えた。だけど妻が傷つくことを考えたら、やはり話せませんでした」 話せなかっただけではなく、それから1年あまり後、今度は子どもの友人の母親、つまり“ママ友”である美佳さんとも「過ち」をおかした。「美佳さんの場合は、ノリや勢いではなく、じっくり友だちづきあいをした上でもっと深い仲になりたいと僕から誘いました。子どもの友だちの母親だからバレやすいという危機感はあった。でも自分を止めることができなかった」 とはいえ、自分は親とは違う。子どもをカモフラージュにはしない。そうは思ったが、子どもをカモフラージュにしていた親の気持ちが、少しわかるような気がしたのも確かだと言う。「そのとき思ったんですよ。嫌らしい言い方かもしれないけど、僕は結婚したかったから妻を選んだ。妻は伴侶として最高の女性です。でも美佳とは、妻としてとか恋人としてとか、そういうカテゴライズされた関係ではない、人間同士、ただの男と女としてつきあいたかった」 つまりは初めて“恋”に落ちたのだ。美佳さんのすべてを知りたいと願ったが、そううまくはいかない。「せめてお茶でもと、何度かカフェには行きましたが、あくまで子どもの親同士としてでしたね」 美佳さんは共働きでバリバリのキャリアウーマンだ。外資系の企業をいくつか渡り歩いた「強者」だという。それでいて物腰は柔らかく、視野は広く、穏やかな性格で、亮輔さんから見ると、実業家の母とも専業主婦の妻とも違うタイプだった。だから惹かれたのかもしれない。 ある日、代休をとった亮輔さんは自転車で公園へ出かけた。美佳さんへの悶々とした気持ちを抱えて、公園のサイクリングロードをひた走った。そしてベンチで休んでいると、すぐ近くに美佳さんがいるのを見つけたのだ。「彼女はひとりで本を読んでいました。僕を見てびっくりしたみたい。彼女も多忙な日が続いてようやく一段落して休みをとったんだそうです。そのままカフェに行ってランチして……。今日を逃したくないという思いが強かった。僕はあなたがいないこれからの人生を考えることができないと言いました」 結婚しているのに何を言ってるのと笑われたが、彼はめげなかった。人の妻としてのあなたではない、あなた個人と僕個人の問題、関わっていきたいんだと真摯に訴えた。「彼女、呆れたように笑っていましたが、ふっと真顔になって『あなたは絶対に、誰にもバレないようにできるの?』と。もちろんだと言いました」 暗黙の共犯意識が生まれた瞬間だ。それから約3年、ふたりの関係は今も密かに続いている。「罪の意識というのは慣れとともに薄れていくんですね。今は罪悪感はほとんどありません。同時になぜかずっと心にあった親へのわだかまりも薄くなっていきました。あんな親だから、僕は浮気などしないと決めていたのに、その自分が結局、似たようなことをしている。親の淫らな血のせいかと思ったこともあるけど、そういうことじゃないんですね。人間、生きていればいろいろなことがある。恋したら止められないこともある。自分を正当化したいからかもしれないけど……」 今年の母の日、彼は大人になってから初めて母にプレゼントを贈った。古希を迎えた母は、今も元気に仕事に遊びにと飛び回っているようだ。母からのメッセージには、「ありがとう。亮輔はママの誇りだよ」の文字とともにハートマークが飛び散っていた。亀山早苗(かめやま・さなえ)フリーライター。男女関係、特に不倫について20年以上取材を続け、『不倫の恋で苦しむ男たち』『夫の不倫で苦しむ妻たち』『人はなぜ不倫をするのか』『復讐手帖─愛が狂気に変わるとき─』など著書多数。デイリー新潮取材班編集2021年6月2日 掲載
「開放感がなかったといえば嘘になるし、ずっと夫として父親としてがんばってきたので、オレも男だったんだという気づきもあった。だけど、その時点では罪悪感のほうが強かった。自分自身に、亮輔よ、おまえもかと言いたかった」両親に家庭外のパートナーがいた じつは亮輔さんの両親は、それぞれに家庭以外に異性がいたという。幼い彼は父とともに愛人宅へ、母とはデート現場へと連れ回されていた。「うち、父も母もそれぞれ事業をやっていたんです。2歳上の姉がいるのに、不倫のカモフラージュに使われるのはいつも僕だった。幼稚園から帰ってくると、母がデパートにつれて行ってくれる。おもちゃを与えられて屋上でさんざん遊んで。その間、母は男の人と屋上でいちゃいちゃしているわけです。当時は『お仕事の話をしているの』と言われていましたが……。その後、お手伝いさんが迎えに来て、僕だけ家に帰る。起きているうちに父が帰ってきたら、今日はママとデパートに行った、今ママはお仕事をしていると報告する」 週末は父親が、「亮輔、釣りに行こう」と誘い出す。行き先は愛人宅だ。「きれいなおねえさん」がお菓子をくれた。お菓子をたらふく食べて眠くなり、起きると外は暗い。食卓にはお寿司やウナギがあったり、おねえさんが作るおいしいハンバーグがあったりした。帰りはいつも父が「今日のことは内緒だぞ」と言ってお小遣いをくれた。「小学校に入るとそういうことも減りましたが、僕はすぐに地元の野球チームに入ったので単につきあう時間がなくなっただけで、両親は変わらずそれぞれに相手がいたと思います。ただ、中学生になるころかな、バブルがはじけて父親の会社が傾いた。母の会社も危うかったんだと思います。一時期、姉と僕はばらばらに親戚に預けられていました」 高校受験の少し前に、家族4人はまた一緒に暮らすようになったが、「うちにはお金がないから、都立高校にしてね」と母親に何度も言われたという。「だけどうちの親は、どちらも転んでもただ起きないというエネルギッシュなタイプだったみたい。僕が大学に入るころには、それぞれまた愛人がいましたからね。新たな事業もうまくいっていたんじゃないでしょうか」 息子はもう大人だと判断したのだろうか、大学生時代には父から愛人を紹介されたこともあったそうだ。自分と年齢の変わらないような若い女性を、彼は嫌悪感をもって見つめたという。母も隠さなくなった。「お友だちなの」と引き合わされた男性は、父親と同世代だったがダンディで仕立てのいい服を着ていたのを覚えている。「若いときに両親の愛人に紹介されるなんてね……。中学生時代からの親友に当時、その話をしたら『面白いじゃないか』と言っていたけど、僕にとっては身内の恥だったし、ああいうふうにはなるまいという反面教師でもありました。ようやく親にそれぞれ愛人がいるとわかった姉は、ショックを受けたのか家を出てしまった。その後、すぐに結婚していました」“ママ友”とも関係を… そんな過去があるからこそ、結婚8年目にして自分がしでかした「一夜の過ち」について、亮輔さんは自分を許せないと感じていた。「妻に話そうと何度も思いました。妻に対して誠実であると決意して結婚したのだから。それに僕はおそらく、自分が親と同じようになることを恐れていたんだと思います。今、率直に話して罰せられればもう繰り返すこともないはずだと考えた。だけど妻が傷つくことを考えたら、やはり話せませんでした」 話せなかっただけではなく、それから1年あまり後、今度は子どもの友人の母親、つまり“ママ友”である美佳さんとも「過ち」をおかした。「美佳さんの場合は、ノリや勢いではなく、じっくり友だちづきあいをした上でもっと深い仲になりたいと僕から誘いました。子どもの友だちの母親だからバレやすいという危機感はあった。でも自分を止めることができなかった」 とはいえ、自分は親とは違う。子どもをカモフラージュにはしない。そうは思ったが、子どもをカモフラージュにしていた親の気持ちが、少しわかるような気がしたのも確かだと言う。「そのとき思ったんですよ。嫌らしい言い方かもしれないけど、僕は結婚したかったから妻を選んだ。妻は伴侶として最高の女性です。でも美佳とは、妻としてとか恋人としてとか、そういうカテゴライズされた関係ではない、人間同士、ただの男と女としてつきあいたかった」 つまりは初めて“恋”に落ちたのだ。美佳さんのすべてを知りたいと願ったが、そううまくはいかない。「せめてお茶でもと、何度かカフェには行きましたが、あくまで子どもの親同士としてでしたね」 美佳さんは共働きでバリバリのキャリアウーマンだ。外資系の企業をいくつか渡り歩いた「強者」だという。それでいて物腰は柔らかく、視野は広く、穏やかな性格で、亮輔さんから見ると、実業家の母とも専業主婦の妻とも違うタイプだった。だから惹かれたのかもしれない。 ある日、代休をとった亮輔さんは自転車で公園へ出かけた。美佳さんへの悶々とした気持ちを抱えて、公園のサイクリングロードをひた走った。そしてベンチで休んでいると、すぐ近くに美佳さんがいるのを見つけたのだ。「彼女はひとりで本を読んでいました。僕を見てびっくりしたみたい。彼女も多忙な日が続いてようやく一段落して休みをとったんだそうです。そのままカフェに行ってランチして……。今日を逃したくないという思いが強かった。僕はあなたがいないこれからの人生を考えることができないと言いました」 結婚しているのに何を言ってるのと笑われたが、彼はめげなかった。人の妻としてのあなたではない、あなた個人と僕個人の問題、関わっていきたいんだと真摯に訴えた。「彼女、呆れたように笑っていましたが、ふっと真顔になって『あなたは絶対に、誰にもバレないようにできるの?』と。もちろんだと言いました」 暗黙の共犯意識が生まれた瞬間だ。それから約3年、ふたりの関係は今も密かに続いている。「罪の意識というのは慣れとともに薄れていくんですね。今は罪悪感はほとんどありません。同時になぜかずっと心にあった親へのわだかまりも薄くなっていきました。あんな親だから、僕は浮気などしないと決めていたのに、その自分が結局、似たようなことをしている。親の淫らな血のせいかと思ったこともあるけど、そういうことじゃないんですね。人間、生きていればいろいろなことがある。恋したら止められないこともある。自分を正当化したいからかもしれないけど……」 今年の母の日、彼は大人になってから初めて母にプレゼントを贈った。古希を迎えた母は、今も元気に仕事に遊びにと飛び回っているようだ。母からのメッセージには、「ありがとう。亮輔はママの誇りだよ」の文字とともにハートマークが飛び散っていた。亀山早苗(かめやま・さなえ)フリーライター。男女関係、特に不倫について20年以上取材を続け、『不倫の恋で苦しむ男たち』『夫の不倫で苦しむ妻たち』『人はなぜ不倫をするのか』『復讐手帖─愛が狂気に変わるとき─』など著書多数。デイリー新潮取材班編集2021年6月2日 掲載
じつは亮輔さんの両親は、それぞれに家庭以外に異性がいたという。幼い彼は父とともに愛人宅へ、母とはデート現場へと連れ回されていた。「うち、父も母もそれぞれ事業をやっていたんです。2歳上の姉がいるのに、不倫のカモフラージュに使われるのはいつも僕だった。幼稚園から帰ってくると、母がデパートにつれて行ってくれる。おもちゃを与えられて屋上でさんざん遊んで。その間、母は男の人と屋上でいちゃいちゃしているわけです。当時は『お仕事の話をしているの』と言われていましたが……。その後、お手伝いさんが迎えに来て、僕だけ家に帰る。起きているうちに父が帰ってきたら、今日はママとデパートに行った、今ママはお仕事をしていると報告する」 週末は父親が、「亮輔、釣りに行こう」と誘い出す。行き先は愛人宅だ。「きれいなおねえさん」がお菓子をくれた。お菓子をたらふく食べて眠くなり、起きると外は暗い。食卓にはお寿司やウナギがあったり、おねえさんが作るおいしいハンバーグがあったりした。帰りはいつも父が「今日のことは内緒だぞ」と言ってお小遣いをくれた。「小学校に入るとそういうことも減りましたが、僕はすぐに地元の野球チームに入ったので単につきあう時間がなくなっただけで、両親は変わらずそれぞれに相手がいたと思います。ただ、中学生になるころかな、バブルがはじけて父親の会社が傾いた。母の会社も危うかったんだと思います。一時期、姉と僕はばらばらに親戚に預けられていました」 高校受験の少し前に、家族4人はまた一緒に暮らすようになったが、「うちにはお金がないから、都立高校にしてね」と母親に何度も言われたという。「だけどうちの親は、どちらも転んでもただ起きないというエネルギッシュなタイプだったみたい。僕が大学に入るころには、それぞれまた愛人がいましたからね。新たな事業もうまくいっていたんじゃないでしょうか」 息子はもう大人だと判断したのだろうか、大学生時代には父から愛人を紹介されたこともあったそうだ。自分と年齢の変わらないような若い女性を、彼は嫌悪感をもって見つめたという。母も隠さなくなった。「お友だちなの」と引き合わされた男性は、父親と同世代だったがダンディで仕立てのいい服を着ていたのを覚えている。「若いときに両親の愛人に紹介されるなんてね……。中学生時代からの親友に当時、その話をしたら『面白いじゃないか』と言っていたけど、僕にとっては身内の恥だったし、ああいうふうにはなるまいという反面教師でもありました。ようやく親にそれぞれ愛人がいるとわかった姉は、ショックを受けたのか家を出てしまった。その後、すぐに結婚していました」“ママ友”とも関係を… そんな過去があるからこそ、結婚8年目にして自分がしでかした「一夜の過ち」について、亮輔さんは自分を許せないと感じていた。「妻に話そうと何度も思いました。妻に対して誠実であると決意して結婚したのだから。それに僕はおそらく、自分が親と同じようになることを恐れていたんだと思います。今、率直に話して罰せられればもう繰り返すこともないはずだと考えた。だけど妻が傷つくことを考えたら、やはり話せませんでした」 話せなかっただけではなく、それから1年あまり後、今度は子どもの友人の母親、つまり“ママ友”である美佳さんとも「過ち」をおかした。「美佳さんの場合は、ノリや勢いではなく、じっくり友だちづきあいをした上でもっと深い仲になりたいと僕から誘いました。子どもの友だちの母親だからバレやすいという危機感はあった。でも自分を止めることができなかった」 とはいえ、自分は親とは違う。子どもをカモフラージュにはしない。そうは思ったが、子どもをカモフラージュにしていた親の気持ちが、少しわかるような気がしたのも確かだと言う。「そのとき思ったんですよ。嫌らしい言い方かもしれないけど、僕は結婚したかったから妻を選んだ。妻は伴侶として最高の女性です。でも美佳とは、妻としてとか恋人としてとか、そういうカテゴライズされた関係ではない、人間同士、ただの男と女としてつきあいたかった」 つまりは初めて“恋”に落ちたのだ。美佳さんのすべてを知りたいと願ったが、そううまくはいかない。「せめてお茶でもと、何度かカフェには行きましたが、あくまで子どもの親同士としてでしたね」 美佳さんは共働きでバリバリのキャリアウーマンだ。外資系の企業をいくつか渡り歩いた「強者」だという。それでいて物腰は柔らかく、視野は広く、穏やかな性格で、亮輔さんから見ると、実業家の母とも専業主婦の妻とも違うタイプだった。だから惹かれたのかもしれない。 ある日、代休をとった亮輔さんは自転車で公園へ出かけた。美佳さんへの悶々とした気持ちを抱えて、公園のサイクリングロードをひた走った。そしてベンチで休んでいると、すぐ近くに美佳さんがいるのを見つけたのだ。「彼女はひとりで本を読んでいました。僕を見てびっくりしたみたい。彼女も多忙な日が続いてようやく一段落して休みをとったんだそうです。そのままカフェに行ってランチして……。今日を逃したくないという思いが強かった。僕はあなたがいないこれからの人生を考えることができないと言いました」 結婚しているのに何を言ってるのと笑われたが、彼はめげなかった。人の妻としてのあなたではない、あなた個人と僕個人の問題、関わっていきたいんだと真摯に訴えた。「彼女、呆れたように笑っていましたが、ふっと真顔になって『あなたは絶対に、誰にもバレないようにできるの?』と。もちろんだと言いました」 暗黙の共犯意識が生まれた瞬間だ。それから約3年、ふたりの関係は今も密かに続いている。「罪の意識というのは慣れとともに薄れていくんですね。今は罪悪感はほとんどありません。同時になぜかずっと心にあった親へのわだかまりも薄くなっていきました。あんな親だから、僕は浮気などしないと決めていたのに、その自分が結局、似たようなことをしている。親の淫らな血のせいかと思ったこともあるけど、そういうことじゃないんですね。人間、生きていればいろいろなことがある。恋したら止められないこともある。自分を正当化したいからかもしれないけど……」 今年の母の日、彼は大人になってから初めて母にプレゼントを贈った。古希を迎えた母は、今も元気に仕事に遊びにと飛び回っているようだ。母からのメッセージには、「ありがとう。亮輔はママの誇りだよ」の文字とともにハートマークが飛び散っていた。亀山早苗(かめやま・さなえ)フリーライター。男女関係、特に不倫について20年以上取材を続け、『不倫の恋で苦しむ男たち』『夫の不倫で苦しむ妻たち』『人はなぜ不倫をするのか』『復讐手帖─愛が狂気に変わるとき─』など著書多数。デイリー新潮取材班編集2021年6月2日 掲載
「うち、父も母もそれぞれ事業をやっていたんです。2歳上の姉がいるのに、不倫のカモフラージュに使われるのはいつも僕だった。幼稚園から帰ってくると、母がデパートにつれて行ってくれる。おもちゃを与えられて屋上でさんざん遊んで。その間、母は男の人と屋上でいちゃいちゃしているわけです。当時は『お仕事の話をしているの』と言われていましたが……。その後、お手伝いさんが迎えに来て、僕だけ家に帰る。起きているうちに父が帰ってきたら、今日はママとデパートに行った、今ママはお仕事をしていると報告する」 週末は父親が、「亮輔、釣りに行こう」と誘い出す。行き先は愛人宅だ。「きれいなおねえさん」がお菓子をくれた。お菓子をたらふく食べて眠くなり、起きると外は暗い。食卓にはお寿司やウナギがあったり、おねえさんが作るおいしいハンバーグがあったりした。帰りはいつも父が「今日のことは内緒だぞ」と言ってお小遣いをくれた。「小学校に入るとそういうことも減りましたが、僕はすぐに地元の野球チームに入ったので単につきあう時間がなくなっただけで、両親は変わらずそれぞれに相手がいたと思います。ただ、中学生になるころかな、バブルがはじけて父親の会社が傾いた。母の会社も危うかったんだと思います。一時期、姉と僕はばらばらに親戚に預けられていました」 高校受験の少し前に、家族4人はまた一緒に暮らすようになったが、「うちにはお金がないから、都立高校にしてね」と母親に何度も言われたという。「だけどうちの親は、どちらも転んでもただ起きないというエネルギッシュなタイプだったみたい。僕が大学に入るころには、それぞれまた愛人がいましたからね。新たな事業もうまくいっていたんじゃないでしょうか」 息子はもう大人だと判断したのだろうか、大学生時代には父から愛人を紹介されたこともあったそうだ。自分と年齢の変わらないような若い女性を、彼は嫌悪感をもって見つめたという。母も隠さなくなった。「お友だちなの」と引き合わされた男性は、父親と同世代だったがダンディで仕立てのいい服を着ていたのを覚えている。「若いときに両親の愛人に紹介されるなんてね……。中学生時代からの親友に当時、その話をしたら『面白いじゃないか』と言っていたけど、僕にとっては身内の恥だったし、ああいうふうにはなるまいという反面教師でもありました。ようやく親にそれぞれ愛人がいるとわかった姉は、ショックを受けたのか家を出てしまった。その後、すぐに結婚していました」“ママ友”とも関係を… そんな過去があるからこそ、結婚8年目にして自分がしでかした「一夜の過ち」について、亮輔さんは自分を許せないと感じていた。「妻に話そうと何度も思いました。妻に対して誠実であると決意して結婚したのだから。それに僕はおそらく、自分が親と同じようになることを恐れていたんだと思います。今、率直に話して罰せられればもう繰り返すこともないはずだと考えた。だけど妻が傷つくことを考えたら、やはり話せませんでした」 話せなかっただけではなく、それから1年あまり後、今度は子どもの友人の母親、つまり“ママ友”である美佳さんとも「過ち」をおかした。「美佳さんの場合は、ノリや勢いではなく、じっくり友だちづきあいをした上でもっと深い仲になりたいと僕から誘いました。子どもの友だちの母親だからバレやすいという危機感はあった。でも自分を止めることができなかった」 とはいえ、自分は親とは違う。子どもをカモフラージュにはしない。そうは思ったが、子どもをカモフラージュにしていた親の気持ちが、少しわかるような気がしたのも確かだと言う。「そのとき思ったんですよ。嫌らしい言い方かもしれないけど、僕は結婚したかったから妻を選んだ。妻は伴侶として最高の女性です。でも美佳とは、妻としてとか恋人としてとか、そういうカテゴライズされた関係ではない、人間同士、ただの男と女としてつきあいたかった」 つまりは初めて“恋”に落ちたのだ。美佳さんのすべてを知りたいと願ったが、そううまくはいかない。「せめてお茶でもと、何度かカフェには行きましたが、あくまで子どもの親同士としてでしたね」 美佳さんは共働きでバリバリのキャリアウーマンだ。外資系の企業をいくつか渡り歩いた「強者」だという。それでいて物腰は柔らかく、視野は広く、穏やかな性格で、亮輔さんから見ると、実業家の母とも専業主婦の妻とも違うタイプだった。だから惹かれたのかもしれない。 ある日、代休をとった亮輔さんは自転車で公園へ出かけた。美佳さんへの悶々とした気持ちを抱えて、公園のサイクリングロードをひた走った。そしてベンチで休んでいると、すぐ近くに美佳さんがいるのを見つけたのだ。「彼女はひとりで本を読んでいました。僕を見てびっくりしたみたい。彼女も多忙な日が続いてようやく一段落して休みをとったんだそうです。そのままカフェに行ってランチして……。今日を逃したくないという思いが強かった。僕はあなたがいないこれからの人生を考えることができないと言いました」 結婚しているのに何を言ってるのと笑われたが、彼はめげなかった。人の妻としてのあなたではない、あなた個人と僕個人の問題、関わっていきたいんだと真摯に訴えた。「彼女、呆れたように笑っていましたが、ふっと真顔になって『あなたは絶対に、誰にもバレないようにできるの?』と。もちろんだと言いました」 暗黙の共犯意識が生まれた瞬間だ。それから約3年、ふたりの関係は今も密かに続いている。「罪の意識というのは慣れとともに薄れていくんですね。今は罪悪感はほとんどありません。同時になぜかずっと心にあった親へのわだかまりも薄くなっていきました。あんな親だから、僕は浮気などしないと決めていたのに、その自分が結局、似たようなことをしている。親の淫らな血のせいかと思ったこともあるけど、そういうことじゃないんですね。人間、生きていればいろいろなことがある。恋したら止められないこともある。自分を正当化したいからかもしれないけど……」 今年の母の日、彼は大人になってから初めて母にプレゼントを贈った。古希を迎えた母は、今も元気に仕事に遊びにと飛び回っているようだ。母からのメッセージには、「ありがとう。亮輔はママの誇りだよ」の文字とともにハートマークが飛び散っていた。亀山早苗(かめやま・さなえ)フリーライター。男女関係、特に不倫について20年以上取材を続け、『不倫の恋で苦しむ男たち』『夫の不倫で苦しむ妻たち』『人はなぜ不倫をするのか』『復讐手帖─愛が狂気に変わるとき─』など著書多数。デイリー新潮取材班編集2021年6月2日 掲載
週末は父親が、「亮輔、釣りに行こう」と誘い出す。行き先は愛人宅だ。「きれいなおねえさん」がお菓子をくれた。お菓子をたらふく食べて眠くなり、起きると外は暗い。食卓にはお寿司やウナギがあったり、おねえさんが作るおいしいハンバーグがあったりした。帰りはいつも父が「今日のことは内緒だぞ」と言ってお小遣いをくれた。「小学校に入るとそういうことも減りましたが、僕はすぐに地元の野球チームに入ったので単につきあう時間がなくなっただけで、両親は変わらずそれぞれに相手がいたと思います。ただ、中学生になるころかな、バブルがはじけて父親の会社が傾いた。母の会社も危うかったんだと思います。一時期、姉と僕はばらばらに親戚に預けられていました」 高校受験の少し前に、家族4人はまた一緒に暮らすようになったが、「うちにはお金がないから、都立高校にしてね」と母親に何度も言われたという。「だけどうちの親は、どちらも転んでもただ起きないというエネルギッシュなタイプだったみたい。僕が大学に入るころには、それぞれまた愛人がいましたからね。新たな事業もうまくいっていたんじゃないでしょうか」 息子はもう大人だと判断したのだろうか、大学生時代には父から愛人を紹介されたこともあったそうだ。自分と年齢の変わらないような若い女性を、彼は嫌悪感をもって見つめたという。母も隠さなくなった。「お友だちなの」と引き合わされた男性は、父親と同世代だったがダンディで仕立てのいい服を着ていたのを覚えている。「若いときに両親の愛人に紹介されるなんてね……。中学生時代からの親友に当時、その話をしたら『面白いじゃないか』と言っていたけど、僕にとっては身内の恥だったし、ああいうふうにはなるまいという反面教師でもありました。ようやく親にそれぞれ愛人がいるとわかった姉は、ショックを受けたのか家を出てしまった。その後、すぐに結婚していました」“ママ友”とも関係を… そんな過去があるからこそ、結婚8年目にして自分がしでかした「一夜の過ち」について、亮輔さんは自分を許せないと感じていた。「妻に話そうと何度も思いました。妻に対して誠実であると決意して結婚したのだから。それに僕はおそらく、自分が親と同じようになることを恐れていたんだと思います。今、率直に話して罰せられればもう繰り返すこともないはずだと考えた。だけど妻が傷つくことを考えたら、やはり話せませんでした」 話せなかっただけではなく、それから1年あまり後、今度は子どもの友人の母親、つまり“ママ友”である美佳さんとも「過ち」をおかした。「美佳さんの場合は、ノリや勢いではなく、じっくり友だちづきあいをした上でもっと深い仲になりたいと僕から誘いました。子どもの友だちの母親だからバレやすいという危機感はあった。でも自分を止めることができなかった」 とはいえ、自分は親とは違う。子どもをカモフラージュにはしない。そうは思ったが、子どもをカモフラージュにしていた親の気持ちが、少しわかるような気がしたのも確かだと言う。「そのとき思ったんですよ。嫌らしい言い方かもしれないけど、僕は結婚したかったから妻を選んだ。妻は伴侶として最高の女性です。でも美佳とは、妻としてとか恋人としてとか、そういうカテゴライズされた関係ではない、人間同士、ただの男と女としてつきあいたかった」 つまりは初めて“恋”に落ちたのだ。美佳さんのすべてを知りたいと願ったが、そううまくはいかない。「せめてお茶でもと、何度かカフェには行きましたが、あくまで子どもの親同士としてでしたね」 美佳さんは共働きでバリバリのキャリアウーマンだ。外資系の企業をいくつか渡り歩いた「強者」だという。それでいて物腰は柔らかく、視野は広く、穏やかな性格で、亮輔さんから見ると、実業家の母とも専業主婦の妻とも違うタイプだった。だから惹かれたのかもしれない。 ある日、代休をとった亮輔さんは自転車で公園へ出かけた。美佳さんへの悶々とした気持ちを抱えて、公園のサイクリングロードをひた走った。そしてベンチで休んでいると、すぐ近くに美佳さんがいるのを見つけたのだ。「彼女はひとりで本を読んでいました。僕を見てびっくりしたみたい。彼女も多忙な日が続いてようやく一段落して休みをとったんだそうです。そのままカフェに行ってランチして……。今日を逃したくないという思いが強かった。僕はあなたがいないこれからの人生を考えることができないと言いました」 結婚しているのに何を言ってるのと笑われたが、彼はめげなかった。人の妻としてのあなたではない、あなた個人と僕個人の問題、関わっていきたいんだと真摯に訴えた。「彼女、呆れたように笑っていましたが、ふっと真顔になって『あなたは絶対に、誰にもバレないようにできるの?』と。もちろんだと言いました」 暗黙の共犯意識が生まれた瞬間だ。それから約3年、ふたりの関係は今も密かに続いている。「罪の意識というのは慣れとともに薄れていくんですね。今は罪悪感はほとんどありません。同時になぜかずっと心にあった親へのわだかまりも薄くなっていきました。あんな親だから、僕は浮気などしないと決めていたのに、その自分が結局、似たようなことをしている。親の淫らな血のせいかと思ったこともあるけど、そういうことじゃないんですね。人間、生きていればいろいろなことがある。恋したら止められないこともある。自分を正当化したいからかもしれないけど……」 今年の母の日、彼は大人になってから初めて母にプレゼントを贈った。古希を迎えた母は、今も元気に仕事に遊びにと飛び回っているようだ。母からのメッセージには、「ありがとう。亮輔はママの誇りだよ」の文字とともにハートマークが飛び散っていた。亀山早苗(かめやま・さなえ)フリーライター。男女関係、特に不倫について20年以上取材を続け、『不倫の恋で苦しむ男たち』『夫の不倫で苦しむ妻たち』『人はなぜ不倫をするのか』『復讐手帖─愛が狂気に変わるとき─』など著書多数。デイリー新潮取材班編集2021年6月2日 掲載
「小学校に入るとそういうことも減りましたが、僕はすぐに地元の野球チームに入ったので単につきあう時間がなくなっただけで、両親は変わらずそれぞれに相手がいたと思います。ただ、中学生になるころかな、バブルがはじけて父親の会社が傾いた。母の会社も危うかったんだと思います。一時期、姉と僕はばらばらに親戚に預けられていました」 高校受験の少し前に、家族4人はまた一緒に暮らすようになったが、「うちにはお金がないから、都立高校にしてね」と母親に何度も言われたという。「だけどうちの親は、どちらも転んでもただ起きないというエネルギッシュなタイプだったみたい。僕が大学に入るころには、それぞれまた愛人がいましたからね。新たな事業もうまくいっていたんじゃないでしょうか」 息子はもう大人だと判断したのだろうか、大学生時代には父から愛人を紹介されたこともあったそうだ。自分と年齢の変わらないような若い女性を、彼は嫌悪感をもって見つめたという。母も隠さなくなった。「お友だちなの」と引き合わされた男性は、父親と同世代だったがダンディで仕立てのいい服を着ていたのを覚えている。「若いときに両親の愛人に紹介されるなんてね……。中学生時代からの親友に当時、その話をしたら『面白いじゃないか』と言っていたけど、僕にとっては身内の恥だったし、ああいうふうにはなるまいという反面教師でもありました。ようやく親にそれぞれ愛人がいるとわかった姉は、ショックを受けたのか家を出てしまった。その後、すぐに結婚していました」“ママ友”とも関係を… そんな過去があるからこそ、結婚8年目にして自分がしでかした「一夜の過ち」について、亮輔さんは自分を許せないと感じていた。「妻に話そうと何度も思いました。妻に対して誠実であると決意して結婚したのだから。それに僕はおそらく、自分が親と同じようになることを恐れていたんだと思います。今、率直に話して罰せられればもう繰り返すこともないはずだと考えた。だけど妻が傷つくことを考えたら、やはり話せませんでした」 話せなかっただけではなく、それから1年あまり後、今度は子どもの友人の母親、つまり“ママ友”である美佳さんとも「過ち」をおかした。「美佳さんの場合は、ノリや勢いではなく、じっくり友だちづきあいをした上でもっと深い仲になりたいと僕から誘いました。子どもの友だちの母親だからバレやすいという危機感はあった。でも自分を止めることができなかった」 とはいえ、自分は親とは違う。子どもをカモフラージュにはしない。そうは思ったが、子どもをカモフラージュにしていた親の気持ちが、少しわかるような気がしたのも確かだと言う。「そのとき思ったんですよ。嫌らしい言い方かもしれないけど、僕は結婚したかったから妻を選んだ。妻は伴侶として最高の女性です。でも美佳とは、妻としてとか恋人としてとか、そういうカテゴライズされた関係ではない、人間同士、ただの男と女としてつきあいたかった」 つまりは初めて“恋”に落ちたのだ。美佳さんのすべてを知りたいと願ったが、そううまくはいかない。「せめてお茶でもと、何度かカフェには行きましたが、あくまで子どもの親同士としてでしたね」 美佳さんは共働きでバリバリのキャリアウーマンだ。外資系の企業をいくつか渡り歩いた「強者」だという。それでいて物腰は柔らかく、視野は広く、穏やかな性格で、亮輔さんから見ると、実業家の母とも専業主婦の妻とも違うタイプだった。だから惹かれたのかもしれない。 ある日、代休をとった亮輔さんは自転車で公園へ出かけた。美佳さんへの悶々とした気持ちを抱えて、公園のサイクリングロードをひた走った。そしてベンチで休んでいると、すぐ近くに美佳さんがいるのを見つけたのだ。「彼女はひとりで本を読んでいました。僕を見てびっくりしたみたい。彼女も多忙な日が続いてようやく一段落して休みをとったんだそうです。そのままカフェに行ってランチして……。今日を逃したくないという思いが強かった。僕はあなたがいないこれからの人生を考えることができないと言いました」 結婚しているのに何を言ってるのと笑われたが、彼はめげなかった。人の妻としてのあなたではない、あなた個人と僕個人の問題、関わっていきたいんだと真摯に訴えた。「彼女、呆れたように笑っていましたが、ふっと真顔になって『あなたは絶対に、誰にもバレないようにできるの?』と。もちろんだと言いました」 暗黙の共犯意識が生まれた瞬間だ。それから約3年、ふたりの関係は今も密かに続いている。「罪の意識というのは慣れとともに薄れていくんですね。今は罪悪感はほとんどありません。同時になぜかずっと心にあった親へのわだかまりも薄くなっていきました。あんな親だから、僕は浮気などしないと決めていたのに、その自分が結局、似たようなことをしている。親の淫らな血のせいかと思ったこともあるけど、そういうことじゃないんですね。人間、生きていればいろいろなことがある。恋したら止められないこともある。自分を正当化したいからかもしれないけど……」 今年の母の日、彼は大人になってから初めて母にプレゼントを贈った。古希を迎えた母は、今も元気に仕事に遊びにと飛び回っているようだ。母からのメッセージには、「ありがとう。亮輔はママの誇りだよ」の文字とともにハートマークが飛び散っていた。亀山早苗(かめやま・さなえ)フリーライター。男女関係、特に不倫について20年以上取材を続け、『不倫の恋で苦しむ男たち』『夫の不倫で苦しむ妻たち』『人はなぜ不倫をするのか』『復讐手帖─愛が狂気に変わるとき─』など著書多数。デイリー新潮取材班編集2021年6月2日 掲載
高校受験の少し前に、家族4人はまた一緒に暮らすようになったが、「うちにはお金がないから、都立高校にしてね」と母親に何度も言われたという。「だけどうちの親は、どちらも転んでもただ起きないというエネルギッシュなタイプだったみたい。僕が大学に入るころには、それぞれまた愛人がいましたからね。新たな事業もうまくいっていたんじゃないでしょうか」 息子はもう大人だと判断したのだろうか、大学生時代には父から愛人を紹介されたこともあったそうだ。自分と年齢の変わらないような若い女性を、彼は嫌悪感をもって見つめたという。母も隠さなくなった。「お友だちなの」と引き合わされた男性は、父親と同世代だったがダンディで仕立てのいい服を着ていたのを覚えている。「若いときに両親の愛人に紹介されるなんてね……。中学生時代からの親友に当時、その話をしたら『面白いじゃないか』と言っていたけど、僕にとっては身内の恥だったし、ああいうふうにはなるまいという反面教師でもありました。ようやく親にそれぞれ愛人がいるとわかった姉は、ショックを受けたのか家を出てしまった。その後、すぐに結婚していました」“ママ友”とも関係を… そんな過去があるからこそ、結婚8年目にして自分がしでかした「一夜の過ち」について、亮輔さんは自分を許せないと感じていた。「妻に話そうと何度も思いました。妻に対して誠実であると決意して結婚したのだから。それに僕はおそらく、自分が親と同じようになることを恐れていたんだと思います。今、率直に話して罰せられればもう繰り返すこともないはずだと考えた。だけど妻が傷つくことを考えたら、やはり話せませんでした」 話せなかっただけではなく、それから1年あまり後、今度は子どもの友人の母親、つまり“ママ友”である美佳さんとも「過ち」をおかした。「美佳さんの場合は、ノリや勢いではなく、じっくり友だちづきあいをした上でもっと深い仲になりたいと僕から誘いました。子どもの友だちの母親だからバレやすいという危機感はあった。でも自分を止めることができなかった」 とはいえ、自分は親とは違う。子どもをカモフラージュにはしない。そうは思ったが、子どもをカモフラージュにしていた親の気持ちが、少しわかるような気がしたのも確かだと言う。「そのとき思ったんですよ。嫌らしい言い方かもしれないけど、僕は結婚したかったから妻を選んだ。妻は伴侶として最高の女性です。でも美佳とは、妻としてとか恋人としてとか、そういうカテゴライズされた関係ではない、人間同士、ただの男と女としてつきあいたかった」 つまりは初めて“恋”に落ちたのだ。美佳さんのすべてを知りたいと願ったが、そううまくはいかない。「せめてお茶でもと、何度かカフェには行きましたが、あくまで子どもの親同士としてでしたね」 美佳さんは共働きでバリバリのキャリアウーマンだ。外資系の企業をいくつか渡り歩いた「強者」だという。それでいて物腰は柔らかく、視野は広く、穏やかな性格で、亮輔さんから見ると、実業家の母とも専業主婦の妻とも違うタイプだった。だから惹かれたのかもしれない。 ある日、代休をとった亮輔さんは自転車で公園へ出かけた。美佳さんへの悶々とした気持ちを抱えて、公園のサイクリングロードをひた走った。そしてベンチで休んでいると、すぐ近くに美佳さんがいるのを見つけたのだ。「彼女はひとりで本を読んでいました。僕を見てびっくりしたみたい。彼女も多忙な日が続いてようやく一段落して休みをとったんだそうです。そのままカフェに行ってランチして……。今日を逃したくないという思いが強かった。僕はあなたがいないこれからの人生を考えることができないと言いました」 結婚しているのに何を言ってるのと笑われたが、彼はめげなかった。人の妻としてのあなたではない、あなた個人と僕個人の問題、関わっていきたいんだと真摯に訴えた。「彼女、呆れたように笑っていましたが、ふっと真顔になって『あなたは絶対に、誰にもバレないようにできるの?』と。もちろんだと言いました」 暗黙の共犯意識が生まれた瞬間だ。それから約3年、ふたりの関係は今も密かに続いている。「罪の意識というのは慣れとともに薄れていくんですね。今は罪悪感はほとんどありません。同時になぜかずっと心にあった親へのわだかまりも薄くなっていきました。あんな親だから、僕は浮気などしないと決めていたのに、その自分が結局、似たようなことをしている。親の淫らな血のせいかと思ったこともあるけど、そういうことじゃないんですね。人間、生きていればいろいろなことがある。恋したら止められないこともある。自分を正当化したいからかもしれないけど……」 今年の母の日、彼は大人になってから初めて母にプレゼントを贈った。古希を迎えた母は、今も元気に仕事に遊びにと飛び回っているようだ。母からのメッセージには、「ありがとう。亮輔はママの誇りだよ」の文字とともにハートマークが飛び散っていた。亀山早苗(かめやま・さなえ)フリーライター。男女関係、特に不倫について20年以上取材を続け、『不倫の恋で苦しむ男たち』『夫の不倫で苦しむ妻たち』『人はなぜ不倫をするのか』『復讐手帖─愛が狂気に変わるとき─』など著書多数。デイリー新潮取材班編集2021年6月2日 掲載
「だけどうちの親は、どちらも転んでもただ起きないというエネルギッシュなタイプだったみたい。僕が大学に入るころには、それぞれまた愛人がいましたからね。新たな事業もうまくいっていたんじゃないでしょうか」 息子はもう大人だと判断したのだろうか、大学生時代には父から愛人を紹介されたこともあったそうだ。自分と年齢の変わらないような若い女性を、彼は嫌悪感をもって見つめたという。母も隠さなくなった。「お友だちなの」と引き合わされた男性は、父親と同世代だったがダンディで仕立てのいい服を着ていたのを覚えている。「若いときに両親の愛人に紹介されるなんてね……。中学生時代からの親友に当時、その話をしたら『面白いじゃないか』と言っていたけど、僕にとっては身内の恥だったし、ああいうふうにはなるまいという反面教師でもありました。ようやく親にそれぞれ愛人がいるとわかった姉は、ショックを受けたのか家を出てしまった。その後、すぐに結婚していました」“ママ友”とも関係を… そんな過去があるからこそ、結婚8年目にして自分がしでかした「一夜の過ち」について、亮輔さんは自分を許せないと感じていた。「妻に話そうと何度も思いました。妻に対して誠実であると決意して結婚したのだから。それに僕はおそらく、自分が親と同じようになることを恐れていたんだと思います。今、率直に話して罰せられればもう繰り返すこともないはずだと考えた。だけど妻が傷つくことを考えたら、やはり話せませんでした」 話せなかっただけではなく、それから1年あまり後、今度は子どもの友人の母親、つまり“ママ友”である美佳さんとも「過ち」をおかした。「美佳さんの場合は、ノリや勢いではなく、じっくり友だちづきあいをした上でもっと深い仲になりたいと僕から誘いました。子どもの友だちの母親だからバレやすいという危機感はあった。でも自分を止めることができなかった」 とはいえ、自分は親とは違う。子どもをカモフラージュにはしない。そうは思ったが、子どもをカモフラージュにしていた親の気持ちが、少しわかるような気がしたのも確かだと言う。「そのとき思ったんですよ。嫌らしい言い方かもしれないけど、僕は結婚したかったから妻を選んだ。妻は伴侶として最高の女性です。でも美佳とは、妻としてとか恋人としてとか、そういうカテゴライズされた関係ではない、人間同士、ただの男と女としてつきあいたかった」 つまりは初めて“恋”に落ちたのだ。美佳さんのすべてを知りたいと願ったが、そううまくはいかない。「せめてお茶でもと、何度かカフェには行きましたが、あくまで子どもの親同士としてでしたね」 美佳さんは共働きでバリバリのキャリアウーマンだ。外資系の企業をいくつか渡り歩いた「強者」だという。それでいて物腰は柔らかく、視野は広く、穏やかな性格で、亮輔さんから見ると、実業家の母とも専業主婦の妻とも違うタイプだった。だから惹かれたのかもしれない。 ある日、代休をとった亮輔さんは自転車で公園へ出かけた。美佳さんへの悶々とした気持ちを抱えて、公園のサイクリングロードをひた走った。そしてベンチで休んでいると、すぐ近くに美佳さんがいるのを見つけたのだ。「彼女はひとりで本を読んでいました。僕を見てびっくりしたみたい。彼女も多忙な日が続いてようやく一段落して休みをとったんだそうです。そのままカフェに行ってランチして……。今日を逃したくないという思いが強かった。僕はあなたがいないこれからの人生を考えることができないと言いました」 結婚しているのに何を言ってるのと笑われたが、彼はめげなかった。人の妻としてのあなたではない、あなた個人と僕個人の問題、関わっていきたいんだと真摯に訴えた。「彼女、呆れたように笑っていましたが、ふっと真顔になって『あなたは絶対に、誰にもバレないようにできるの?』と。もちろんだと言いました」 暗黙の共犯意識が生まれた瞬間だ。それから約3年、ふたりの関係は今も密かに続いている。「罪の意識というのは慣れとともに薄れていくんですね。今は罪悪感はほとんどありません。同時になぜかずっと心にあった親へのわだかまりも薄くなっていきました。あんな親だから、僕は浮気などしないと決めていたのに、その自分が結局、似たようなことをしている。親の淫らな血のせいかと思ったこともあるけど、そういうことじゃないんですね。人間、生きていればいろいろなことがある。恋したら止められないこともある。自分を正当化したいからかもしれないけど……」 今年の母の日、彼は大人になってから初めて母にプレゼントを贈った。古希を迎えた母は、今も元気に仕事に遊びにと飛び回っているようだ。母からのメッセージには、「ありがとう。亮輔はママの誇りだよ」の文字とともにハートマークが飛び散っていた。亀山早苗(かめやま・さなえ)フリーライター。男女関係、特に不倫について20年以上取材を続け、『不倫の恋で苦しむ男たち』『夫の不倫で苦しむ妻たち』『人はなぜ不倫をするのか』『復讐手帖─愛が狂気に変わるとき─』など著書多数。デイリー新潮取材班編集2021年6月2日 掲載
息子はもう大人だと判断したのだろうか、大学生時代には父から愛人を紹介されたこともあったそうだ。自分と年齢の変わらないような若い女性を、彼は嫌悪感をもって見つめたという。母も隠さなくなった。「お友だちなの」と引き合わされた男性は、父親と同世代だったがダンディで仕立てのいい服を着ていたのを覚えている。「若いときに両親の愛人に紹介されるなんてね……。中学生時代からの親友に当時、その話をしたら『面白いじゃないか』と言っていたけど、僕にとっては身内の恥だったし、ああいうふうにはなるまいという反面教師でもありました。ようやく親にそれぞれ愛人がいるとわかった姉は、ショックを受けたのか家を出てしまった。その後、すぐに結婚していました」“ママ友”とも関係を… そんな過去があるからこそ、結婚8年目にして自分がしでかした「一夜の過ち」について、亮輔さんは自分を許せないと感じていた。「妻に話そうと何度も思いました。妻に対して誠実であると決意して結婚したのだから。それに僕はおそらく、自分が親と同じようになることを恐れていたんだと思います。今、率直に話して罰せられればもう繰り返すこともないはずだと考えた。だけど妻が傷つくことを考えたら、やはり話せませんでした」 話せなかっただけではなく、それから1年あまり後、今度は子どもの友人の母親、つまり“ママ友”である美佳さんとも「過ち」をおかした。「美佳さんの場合は、ノリや勢いではなく、じっくり友だちづきあいをした上でもっと深い仲になりたいと僕から誘いました。子どもの友だちの母親だからバレやすいという危機感はあった。でも自分を止めることができなかった」 とはいえ、自分は親とは違う。子どもをカモフラージュにはしない。そうは思ったが、子どもをカモフラージュにしていた親の気持ちが、少しわかるような気がしたのも確かだと言う。「そのとき思ったんですよ。嫌らしい言い方かもしれないけど、僕は結婚したかったから妻を選んだ。妻は伴侶として最高の女性です。でも美佳とは、妻としてとか恋人としてとか、そういうカテゴライズされた関係ではない、人間同士、ただの男と女としてつきあいたかった」 つまりは初めて“恋”に落ちたのだ。美佳さんのすべてを知りたいと願ったが、そううまくはいかない。「せめてお茶でもと、何度かカフェには行きましたが、あくまで子どもの親同士としてでしたね」 美佳さんは共働きでバリバリのキャリアウーマンだ。外資系の企業をいくつか渡り歩いた「強者」だという。それでいて物腰は柔らかく、視野は広く、穏やかな性格で、亮輔さんから見ると、実業家の母とも専業主婦の妻とも違うタイプだった。だから惹かれたのかもしれない。 ある日、代休をとった亮輔さんは自転車で公園へ出かけた。美佳さんへの悶々とした気持ちを抱えて、公園のサイクリングロードをひた走った。そしてベンチで休んでいると、すぐ近くに美佳さんがいるのを見つけたのだ。「彼女はひとりで本を読んでいました。僕を見てびっくりしたみたい。彼女も多忙な日が続いてようやく一段落して休みをとったんだそうです。そのままカフェに行ってランチして……。今日を逃したくないという思いが強かった。僕はあなたがいないこれからの人生を考えることができないと言いました」 結婚しているのに何を言ってるのと笑われたが、彼はめげなかった。人の妻としてのあなたではない、あなた個人と僕個人の問題、関わっていきたいんだと真摯に訴えた。「彼女、呆れたように笑っていましたが、ふっと真顔になって『あなたは絶対に、誰にもバレないようにできるの?』と。もちろんだと言いました」 暗黙の共犯意識が生まれた瞬間だ。それから約3年、ふたりの関係は今も密かに続いている。「罪の意識というのは慣れとともに薄れていくんですね。今は罪悪感はほとんどありません。同時になぜかずっと心にあった親へのわだかまりも薄くなっていきました。あんな親だから、僕は浮気などしないと決めていたのに、その自分が結局、似たようなことをしている。親の淫らな血のせいかと思ったこともあるけど、そういうことじゃないんですね。人間、生きていればいろいろなことがある。恋したら止められないこともある。自分を正当化したいからかもしれないけど……」 今年の母の日、彼は大人になってから初めて母にプレゼントを贈った。古希を迎えた母は、今も元気に仕事に遊びにと飛び回っているようだ。母からのメッセージには、「ありがとう。亮輔はママの誇りだよ」の文字とともにハートマークが飛び散っていた。亀山早苗(かめやま・さなえ)フリーライター。男女関係、特に不倫について20年以上取材を続け、『不倫の恋で苦しむ男たち』『夫の不倫で苦しむ妻たち』『人はなぜ不倫をするのか』『復讐手帖─愛が狂気に変わるとき─』など著書多数。デイリー新潮取材班編集2021年6月2日 掲載
「若いときに両親の愛人に紹介されるなんてね……。中学生時代からの親友に当時、その話をしたら『面白いじゃないか』と言っていたけど、僕にとっては身内の恥だったし、ああいうふうにはなるまいという反面教師でもありました。ようやく親にそれぞれ愛人がいるとわかった姉は、ショックを受けたのか家を出てしまった。その後、すぐに結婚していました」“ママ友”とも関係を… そんな過去があるからこそ、結婚8年目にして自分がしでかした「一夜の過ち」について、亮輔さんは自分を許せないと感じていた。「妻に話そうと何度も思いました。妻に対して誠実であると決意して結婚したのだから。それに僕はおそらく、自分が親と同じようになることを恐れていたんだと思います。今、率直に話して罰せられればもう繰り返すこともないはずだと考えた。だけど妻が傷つくことを考えたら、やはり話せませんでした」 話せなかっただけではなく、それから1年あまり後、今度は子どもの友人の母親、つまり“ママ友”である美佳さんとも「過ち」をおかした。「美佳さんの場合は、ノリや勢いではなく、じっくり友だちづきあいをした上でもっと深い仲になりたいと僕から誘いました。子どもの友だちの母親だからバレやすいという危機感はあった。でも自分を止めることができなかった」 とはいえ、自分は親とは違う。子どもをカモフラージュにはしない。そうは思ったが、子どもをカモフラージュにしていた親の気持ちが、少しわかるような気がしたのも確かだと言う。「そのとき思ったんですよ。嫌らしい言い方かもしれないけど、僕は結婚したかったから妻を選んだ。妻は伴侶として最高の女性です。でも美佳とは、妻としてとか恋人としてとか、そういうカテゴライズされた関係ではない、人間同士、ただの男と女としてつきあいたかった」 つまりは初めて“恋”に落ちたのだ。美佳さんのすべてを知りたいと願ったが、そううまくはいかない。「せめてお茶でもと、何度かカフェには行きましたが、あくまで子どもの親同士としてでしたね」 美佳さんは共働きでバリバリのキャリアウーマンだ。外資系の企業をいくつか渡り歩いた「強者」だという。それでいて物腰は柔らかく、視野は広く、穏やかな性格で、亮輔さんから見ると、実業家の母とも専業主婦の妻とも違うタイプだった。だから惹かれたのかもしれない。 ある日、代休をとった亮輔さんは自転車で公園へ出かけた。美佳さんへの悶々とした気持ちを抱えて、公園のサイクリングロードをひた走った。そしてベンチで休んでいると、すぐ近くに美佳さんがいるのを見つけたのだ。「彼女はひとりで本を読んでいました。僕を見てびっくりしたみたい。彼女も多忙な日が続いてようやく一段落して休みをとったんだそうです。そのままカフェに行ってランチして……。今日を逃したくないという思いが強かった。僕はあなたがいないこれからの人生を考えることができないと言いました」 結婚しているのに何を言ってるのと笑われたが、彼はめげなかった。人の妻としてのあなたではない、あなた個人と僕個人の問題、関わっていきたいんだと真摯に訴えた。「彼女、呆れたように笑っていましたが、ふっと真顔になって『あなたは絶対に、誰にもバレないようにできるの?』と。もちろんだと言いました」 暗黙の共犯意識が生まれた瞬間だ。それから約3年、ふたりの関係は今も密かに続いている。「罪の意識というのは慣れとともに薄れていくんですね。今は罪悪感はほとんどありません。同時になぜかずっと心にあった親へのわだかまりも薄くなっていきました。あんな親だから、僕は浮気などしないと決めていたのに、その自分が結局、似たようなことをしている。親の淫らな血のせいかと思ったこともあるけど、そういうことじゃないんですね。人間、生きていればいろいろなことがある。恋したら止められないこともある。自分を正当化したいからかもしれないけど……」 今年の母の日、彼は大人になってから初めて母にプレゼントを贈った。古希を迎えた母は、今も元気に仕事に遊びにと飛び回っているようだ。母からのメッセージには、「ありがとう。亮輔はママの誇りだよ」の文字とともにハートマークが飛び散っていた。亀山早苗(かめやま・さなえ)フリーライター。男女関係、特に不倫について20年以上取材を続け、『不倫の恋で苦しむ男たち』『夫の不倫で苦しむ妻たち』『人はなぜ不倫をするのか』『復讐手帖─愛が狂気に変わるとき─』など著書多数。デイリー新潮取材班編集2021年6月2日 掲載
そんな過去があるからこそ、結婚8年目にして自分がしでかした「一夜の過ち」について、亮輔さんは自分を許せないと感じていた。「妻に話そうと何度も思いました。妻に対して誠実であると決意して結婚したのだから。それに僕はおそらく、自分が親と同じようになることを恐れていたんだと思います。今、率直に話して罰せられればもう繰り返すこともないはずだと考えた。だけど妻が傷つくことを考えたら、やはり話せませんでした」 話せなかっただけではなく、それから1年あまり後、今度は子どもの友人の母親、つまり“ママ友”である美佳さんとも「過ち」をおかした。「美佳さんの場合は、ノリや勢いではなく、じっくり友だちづきあいをした上でもっと深い仲になりたいと僕から誘いました。子どもの友だちの母親だからバレやすいという危機感はあった。でも自分を止めることができなかった」 とはいえ、自分は親とは違う。子どもをカモフラージュにはしない。そうは思ったが、子どもをカモフラージュにしていた親の気持ちが、少しわかるような気がしたのも確かだと言う。「そのとき思ったんですよ。嫌らしい言い方かもしれないけど、僕は結婚したかったから妻を選んだ。妻は伴侶として最高の女性です。でも美佳とは、妻としてとか恋人としてとか、そういうカテゴライズされた関係ではない、人間同士、ただの男と女としてつきあいたかった」 つまりは初めて“恋”に落ちたのだ。美佳さんのすべてを知りたいと願ったが、そううまくはいかない。「せめてお茶でもと、何度かカフェには行きましたが、あくまで子どもの親同士としてでしたね」 美佳さんは共働きでバリバリのキャリアウーマンだ。外資系の企業をいくつか渡り歩いた「強者」だという。それでいて物腰は柔らかく、視野は広く、穏やかな性格で、亮輔さんから見ると、実業家の母とも専業主婦の妻とも違うタイプだった。だから惹かれたのかもしれない。 ある日、代休をとった亮輔さんは自転車で公園へ出かけた。美佳さんへの悶々とした気持ちを抱えて、公園のサイクリングロードをひた走った。そしてベンチで休んでいると、すぐ近くに美佳さんがいるのを見つけたのだ。「彼女はひとりで本を読んでいました。僕を見てびっくりしたみたい。彼女も多忙な日が続いてようやく一段落して休みをとったんだそうです。そのままカフェに行ってランチして……。今日を逃したくないという思いが強かった。僕はあなたがいないこれからの人生を考えることができないと言いました」 結婚しているのに何を言ってるのと笑われたが、彼はめげなかった。人の妻としてのあなたではない、あなた個人と僕個人の問題、関わっていきたいんだと真摯に訴えた。「彼女、呆れたように笑っていましたが、ふっと真顔になって『あなたは絶対に、誰にもバレないようにできるの?』と。もちろんだと言いました」 暗黙の共犯意識が生まれた瞬間だ。それから約3年、ふたりの関係は今も密かに続いている。「罪の意識というのは慣れとともに薄れていくんですね。今は罪悪感はほとんどありません。同時になぜかずっと心にあった親へのわだかまりも薄くなっていきました。あんな親だから、僕は浮気などしないと決めていたのに、その自分が結局、似たようなことをしている。親の淫らな血のせいかと思ったこともあるけど、そういうことじゃないんですね。人間、生きていればいろいろなことがある。恋したら止められないこともある。自分を正当化したいからかもしれないけど……」 今年の母の日、彼は大人になってから初めて母にプレゼントを贈った。古希を迎えた母は、今も元気に仕事に遊びにと飛び回っているようだ。母からのメッセージには、「ありがとう。亮輔はママの誇りだよ」の文字とともにハートマークが飛び散っていた。亀山早苗(かめやま・さなえ)フリーライター。男女関係、特に不倫について20年以上取材を続け、『不倫の恋で苦しむ男たち』『夫の不倫で苦しむ妻たち』『人はなぜ不倫をするのか』『復讐手帖─愛が狂気に変わるとき─』など著書多数。デイリー新潮取材班編集2021年6月2日 掲載
「妻に話そうと何度も思いました。妻に対して誠実であると決意して結婚したのだから。それに僕はおそらく、自分が親と同じようになることを恐れていたんだと思います。今、率直に話して罰せられればもう繰り返すこともないはずだと考えた。だけど妻が傷つくことを考えたら、やはり話せませんでした」 話せなかっただけではなく、それから1年あまり後、今度は子どもの友人の母親、つまり“ママ友”である美佳さんとも「過ち」をおかした。「美佳さんの場合は、ノリや勢いではなく、じっくり友だちづきあいをした上でもっと深い仲になりたいと僕から誘いました。子どもの友だちの母親だからバレやすいという危機感はあった。でも自分を止めることができなかった」 とはいえ、自分は親とは違う。子どもをカモフラージュにはしない。そうは思ったが、子どもをカモフラージュにしていた親の気持ちが、少しわかるような気がしたのも確かだと言う。「そのとき思ったんですよ。嫌らしい言い方かもしれないけど、僕は結婚したかったから妻を選んだ。妻は伴侶として最高の女性です。でも美佳とは、妻としてとか恋人としてとか、そういうカテゴライズされた関係ではない、人間同士、ただの男と女としてつきあいたかった」 つまりは初めて“恋”に落ちたのだ。美佳さんのすべてを知りたいと願ったが、そううまくはいかない。「せめてお茶でもと、何度かカフェには行きましたが、あくまで子どもの親同士としてでしたね」 美佳さんは共働きでバリバリのキャリアウーマンだ。外資系の企業をいくつか渡り歩いた「強者」だという。それでいて物腰は柔らかく、視野は広く、穏やかな性格で、亮輔さんから見ると、実業家の母とも専業主婦の妻とも違うタイプだった。だから惹かれたのかもしれない。 ある日、代休をとった亮輔さんは自転車で公園へ出かけた。美佳さんへの悶々とした気持ちを抱えて、公園のサイクリングロードをひた走った。そしてベンチで休んでいると、すぐ近くに美佳さんがいるのを見つけたのだ。「彼女はひとりで本を読んでいました。僕を見てびっくりしたみたい。彼女も多忙な日が続いてようやく一段落して休みをとったんだそうです。そのままカフェに行ってランチして……。今日を逃したくないという思いが強かった。僕はあなたがいないこれからの人生を考えることができないと言いました」 結婚しているのに何を言ってるのと笑われたが、彼はめげなかった。人の妻としてのあなたではない、あなた個人と僕個人の問題、関わっていきたいんだと真摯に訴えた。「彼女、呆れたように笑っていましたが、ふっと真顔になって『あなたは絶対に、誰にもバレないようにできるの?』と。もちろんだと言いました」 暗黙の共犯意識が生まれた瞬間だ。それから約3年、ふたりの関係は今も密かに続いている。「罪の意識というのは慣れとともに薄れていくんですね。今は罪悪感はほとんどありません。同時になぜかずっと心にあった親へのわだかまりも薄くなっていきました。あんな親だから、僕は浮気などしないと決めていたのに、その自分が結局、似たようなことをしている。親の淫らな血のせいかと思ったこともあるけど、そういうことじゃないんですね。人間、生きていればいろいろなことがある。恋したら止められないこともある。自分を正当化したいからかもしれないけど……」 今年の母の日、彼は大人になってから初めて母にプレゼントを贈った。古希を迎えた母は、今も元気に仕事に遊びにと飛び回っているようだ。母からのメッセージには、「ありがとう。亮輔はママの誇りだよ」の文字とともにハートマークが飛び散っていた。亀山早苗(かめやま・さなえ)フリーライター。男女関係、特に不倫について20年以上取材を続け、『不倫の恋で苦しむ男たち』『夫の不倫で苦しむ妻たち』『人はなぜ不倫をするのか』『復讐手帖─愛が狂気に変わるとき─』など著書多数。デイリー新潮取材班編集2021年6月2日 掲載
話せなかっただけではなく、それから1年あまり後、今度は子どもの友人の母親、つまり“ママ友”である美佳さんとも「過ち」をおかした。「美佳さんの場合は、ノリや勢いではなく、じっくり友だちづきあいをした上でもっと深い仲になりたいと僕から誘いました。子どもの友だちの母親だからバレやすいという危機感はあった。でも自分を止めることができなかった」 とはいえ、自分は親とは違う。子どもをカモフラージュにはしない。そうは思ったが、子どもをカモフラージュにしていた親の気持ちが、少しわかるような気がしたのも確かだと言う。「そのとき思ったんですよ。嫌らしい言い方かもしれないけど、僕は結婚したかったから妻を選んだ。妻は伴侶として最高の女性です。でも美佳とは、妻としてとか恋人としてとか、そういうカテゴライズされた関係ではない、人間同士、ただの男と女としてつきあいたかった」 つまりは初めて“恋”に落ちたのだ。美佳さんのすべてを知りたいと願ったが、そううまくはいかない。「せめてお茶でもと、何度かカフェには行きましたが、あくまで子どもの親同士としてでしたね」 美佳さんは共働きでバリバリのキャリアウーマンだ。外資系の企業をいくつか渡り歩いた「強者」だという。それでいて物腰は柔らかく、視野は広く、穏やかな性格で、亮輔さんから見ると、実業家の母とも専業主婦の妻とも違うタイプだった。だから惹かれたのかもしれない。 ある日、代休をとった亮輔さんは自転車で公園へ出かけた。美佳さんへの悶々とした気持ちを抱えて、公園のサイクリングロードをひた走った。そしてベンチで休んでいると、すぐ近くに美佳さんがいるのを見つけたのだ。「彼女はひとりで本を読んでいました。僕を見てびっくりしたみたい。彼女も多忙な日が続いてようやく一段落して休みをとったんだそうです。そのままカフェに行ってランチして……。今日を逃したくないという思いが強かった。僕はあなたがいないこれからの人生を考えることができないと言いました」 結婚しているのに何を言ってるのと笑われたが、彼はめげなかった。人の妻としてのあなたではない、あなた個人と僕個人の問題、関わっていきたいんだと真摯に訴えた。「彼女、呆れたように笑っていましたが、ふっと真顔になって『あなたは絶対に、誰にもバレないようにできるの?』と。もちろんだと言いました」 暗黙の共犯意識が生まれた瞬間だ。それから約3年、ふたりの関係は今も密かに続いている。「罪の意識というのは慣れとともに薄れていくんですね。今は罪悪感はほとんどありません。同時になぜかずっと心にあった親へのわだかまりも薄くなっていきました。あんな親だから、僕は浮気などしないと決めていたのに、その自分が結局、似たようなことをしている。親の淫らな血のせいかと思ったこともあるけど、そういうことじゃないんですね。人間、生きていればいろいろなことがある。恋したら止められないこともある。自分を正当化したいからかもしれないけど……」 今年の母の日、彼は大人になってから初めて母にプレゼントを贈った。古希を迎えた母は、今も元気に仕事に遊びにと飛び回っているようだ。母からのメッセージには、「ありがとう。亮輔はママの誇りだよ」の文字とともにハートマークが飛び散っていた。亀山早苗(かめやま・さなえ)フリーライター。男女関係、特に不倫について20年以上取材を続け、『不倫の恋で苦しむ男たち』『夫の不倫で苦しむ妻たち』『人はなぜ不倫をするのか』『復讐手帖─愛が狂気に変わるとき─』など著書多数。デイリー新潮取材班編集2021年6月2日 掲載
「美佳さんの場合は、ノリや勢いではなく、じっくり友だちづきあいをした上でもっと深い仲になりたいと僕から誘いました。子どもの友だちの母親だからバレやすいという危機感はあった。でも自分を止めることができなかった」 とはいえ、自分は親とは違う。子どもをカモフラージュにはしない。そうは思ったが、子どもをカモフラージュにしていた親の気持ちが、少しわかるような気がしたのも確かだと言う。「そのとき思ったんですよ。嫌らしい言い方かもしれないけど、僕は結婚したかったから妻を選んだ。妻は伴侶として最高の女性です。でも美佳とは、妻としてとか恋人としてとか、そういうカテゴライズされた関係ではない、人間同士、ただの男と女としてつきあいたかった」 つまりは初めて“恋”に落ちたのだ。美佳さんのすべてを知りたいと願ったが、そううまくはいかない。「せめてお茶でもと、何度かカフェには行きましたが、あくまで子どもの親同士としてでしたね」 美佳さんは共働きでバリバリのキャリアウーマンだ。外資系の企業をいくつか渡り歩いた「強者」だという。それでいて物腰は柔らかく、視野は広く、穏やかな性格で、亮輔さんから見ると、実業家の母とも専業主婦の妻とも違うタイプだった。だから惹かれたのかもしれない。 ある日、代休をとった亮輔さんは自転車で公園へ出かけた。美佳さんへの悶々とした気持ちを抱えて、公園のサイクリングロードをひた走った。そしてベンチで休んでいると、すぐ近くに美佳さんがいるのを見つけたのだ。「彼女はひとりで本を読んでいました。僕を見てびっくりしたみたい。彼女も多忙な日が続いてようやく一段落して休みをとったんだそうです。そのままカフェに行ってランチして……。今日を逃したくないという思いが強かった。僕はあなたがいないこれからの人生を考えることができないと言いました」 結婚しているのに何を言ってるのと笑われたが、彼はめげなかった。人の妻としてのあなたではない、あなた個人と僕個人の問題、関わっていきたいんだと真摯に訴えた。「彼女、呆れたように笑っていましたが、ふっと真顔になって『あなたは絶対に、誰にもバレないようにできるの?』と。もちろんだと言いました」 暗黙の共犯意識が生まれた瞬間だ。それから約3年、ふたりの関係は今も密かに続いている。「罪の意識というのは慣れとともに薄れていくんですね。今は罪悪感はほとんどありません。同時になぜかずっと心にあった親へのわだかまりも薄くなっていきました。あんな親だから、僕は浮気などしないと決めていたのに、その自分が結局、似たようなことをしている。親の淫らな血のせいかと思ったこともあるけど、そういうことじゃないんですね。人間、生きていればいろいろなことがある。恋したら止められないこともある。自分を正当化したいからかもしれないけど……」 今年の母の日、彼は大人になってから初めて母にプレゼントを贈った。古希を迎えた母は、今も元気に仕事に遊びにと飛び回っているようだ。母からのメッセージには、「ありがとう。亮輔はママの誇りだよ」の文字とともにハートマークが飛び散っていた。亀山早苗(かめやま・さなえ)フリーライター。男女関係、特に不倫について20年以上取材を続け、『不倫の恋で苦しむ男たち』『夫の不倫で苦しむ妻たち』『人はなぜ不倫をするのか』『復讐手帖─愛が狂気に変わるとき─』など著書多数。デイリー新潮取材班編集2021年6月2日 掲載
とはいえ、自分は親とは違う。子どもをカモフラージュにはしない。そうは思ったが、子どもをカモフラージュにしていた親の気持ちが、少しわかるような気がしたのも確かだと言う。「そのとき思ったんですよ。嫌らしい言い方かもしれないけど、僕は結婚したかったから妻を選んだ。妻は伴侶として最高の女性です。でも美佳とは、妻としてとか恋人としてとか、そういうカテゴライズされた関係ではない、人間同士、ただの男と女としてつきあいたかった」 つまりは初めて“恋”に落ちたのだ。美佳さんのすべてを知りたいと願ったが、そううまくはいかない。「せめてお茶でもと、何度かカフェには行きましたが、あくまで子どもの親同士としてでしたね」 美佳さんは共働きでバリバリのキャリアウーマンだ。外資系の企業をいくつか渡り歩いた「強者」だという。それでいて物腰は柔らかく、視野は広く、穏やかな性格で、亮輔さんから見ると、実業家の母とも専業主婦の妻とも違うタイプだった。だから惹かれたのかもしれない。 ある日、代休をとった亮輔さんは自転車で公園へ出かけた。美佳さんへの悶々とした気持ちを抱えて、公園のサイクリングロードをひた走った。そしてベンチで休んでいると、すぐ近くに美佳さんがいるのを見つけたのだ。「彼女はひとりで本を読んでいました。僕を見てびっくりしたみたい。彼女も多忙な日が続いてようやく一段落して休みをとったんだそうです。そのままカフェに行ってランチして……。今日を逃したくないという思いが強かった。僕はあなたがいないこれからの人生を考えることができないと言いました」 結婚しているのに何を言ってるのと笑われたが、彼はめげなかった。人の妻としてのあなたではない、あなた個人と僕個人の問題、関わっていきたいんだと真摯に訴えた。「彼女、呆れたように笑っていましたが、ふっと真顔になって『あなたは絶対に、誰にもバレないようにできるの?』と。もちろんだと言いました」 暗黙の共犯意識が生まれた瞬間だ。それから約3年、ふたりの関係は今も密かに続いている。「罪の意識というのは慣れとともに薄れていくんですね。今は罪悪感はほとんどありません。同時になぜかずっと心にあった親へのわだかまりも薄くなっていきました。あんな親だから、僕は浮気などしないと決めていたのに、その自分が結局、似たようなことをしている。親の淫らな血のせいかと思ったこともあるけど、そういうことじゃないんですね。人間、生きていればいろいろなことがある。恋したら止められないこともある。自分を正当化したいからかもしれないけど……」 今年の母の日、彼は大人になってから初めて母にプレゼントを贈った。古希を迎えた母は、今も元気に仕事に遊びにと飛び回っているようだ。母からのメッセージには、「ありがとう。亮輔はママの誇りだよ」の文字とともにハートマークが飛び散っていた。亀山早苗(かめやま・さなえ)フリーライター。男女関係、特に不倫について20年以上取材を続け、『不倫の恋で苦しむ男たち』『夫の不倫で苦しむ妻たち』『人はなぜ不倫をするのか』『復讐手帖─愛が狂気に変わるとき─』など著書多数。デイリー新潮取材班編集2021年6月2日 掲載
「そのとき思ったんですよ。嫌らしい言い方かもしれないけど、僕は結婚したかったから妻を選んだ。妻は伴侶として最高の女性です。でも美佳とは、妻としてとか恋人としてとか、そういうカテゴライズされた関係ではない、人間同士、ただの男と女としてつきあいたかった」 つまりは初めて“恋”に落ちたのだ。美佳さんのすべてを知りたいと願ったが、そううまくはいかない。「せめてお茶でもと、何度かカフェには行きましたが、あくまで子どもの親同士としてでしたね」 美佳さんは共働きでバリバリのキャリアウーマンだ。外資系の企業をいくつか渡り歩いた「強者」だという。それでいて物腰は柔らかく、視野は広く、穏やかな性格で、亮輔さんから見ると、実業家の母とも専業主婦の妻とも違うタイプだった。だから惹かれたのかもしれない。 ある日、代休をとった亮輔さんは自転車で公園へ出かけた。美佳さんへの悶々とした気持ちを抱えて、公園のサイクリングロードをひた走った。そしてベンチで休んでいると、すぐ近くに美佳さんがいるのを見つけたのだ。「彼女はひとりで本を読んでいました。僕を見てびっくりしたみたい。彼女も多忙な日が続いてようやく一段落して休みをとったんだそうです。そのままカフェに行ってランチして……。今日を逃したくないという思いが強かった。僕はあなたがいないこれからの人生を考えることができないと言いました」 結婚しているのに何を言ってるのと笑われたが、彼はめげなかった。人の妻としてのあなたではない、あなた個人と僕個人の問題、関わっていきたいんだと真摯に訴えた。「彼女、呆れたように笑っていましたが、ふっと真顔になって『あなたは絶対に、誰にもバレないようにできるの?』と。もちろんだと言いました」 暗黙の共犯意識が生まれた瞬間だ。それから約3年、ふたりの関係は今も密かに続いている。「罪の意識というのは慣れとともに薄れていくんですね。今は罪悪感はほとんどありません。同時になぜかずっと心にあった親へのわだかまりも薄くなっていきました。あんな親だから、僕は浮気などしないと決めていたのに、その自分が結局、似たようなことをしている。親の淫らな血のせいかと思ったこともあるけど、そういうことじゃないんですね。人間、生きていればいろいろなことがある。恋したら止められないこともある。自分を正当化したいからかもしれないけど……」 今年の母の日、彼は大人になってから初めて母にプレゼントを贈った。古希を迎えた母は、今も元気に仕事に遊びにと飛び回っているようだ。母からのメッセージには、「ありがとう。亮輔はママの誇りだよ」の文字とともにハートマークが飛び散っていた。亀山早苗(かめやま・さなえ)フリーライター。男女関係、特に不倫について20年以上取材を続け、『不倫の恋で苦しむ男たち』『夫の不倫で苦しむ妻たち』『人はなぜ不倫をするのか』『復讐手帖─愛が狂気に変わるとき─』など著書多数。デイリー新潮取材班編集2021年6月2日 掲載
つまりは初めて“恋”に落ちたのだ。美佳さんのすべてを知りたいと願ったが、そううまくはいかない。「せめてお茶でもと、何度かカフェには行きましたが、あくまで子どもの親同士としてでしたね」 美佳さんは共働きでバリバリのキャリアウーマンだ。外資系の企業をいくつか渡り歩いた「強者」だという。それでいて物腰は柔らかく、視野は広く、穏やかな性格で、亮輔さんから見ると、実業家の母とも専業主婦の妻とも違うタイプだった。だから惹かれたのかもしれない。 ある日、代休をとった亮輔さんは自転車で公園へ出かけた。美佳さんへの悶々とした気持ちを抱えて、公園のサイクリングロードをひた走った。そしてベンチで休んでいると、すぐ近くに美佳さんがいるのを見つけたのだ。「彼女はひとりで本を読んでいました。僕を見てびっくりしたみたい。彼女も多忙な日が続いてようやく一段落して休みをとったんだそうです。そのままカフェに行ってランチして……。今日を逃したくないという思いが強かった。僕はあなたがいないこれからの人生を考えることができないと言いました」 結婚しているのに何を言ってるのと笑われたが、彼はめげなかった。人の妻としてのあなたではない、あなた個人と僕個人の問題、関わっていきたいんだと真摯に訴えた。「彼女、呆れたように笑っていましたが、ふっと真顔になって『あなたは絶対に、誰にもバレないようにできるの?』と。もちろんだと言いました」 暗黙の共犯意識が生まれた瞬間だ。それから約3年、ふたりの関係は今も密かに続いている。「罪の意識というのは慣れとともに薄れていくんですね。今は罪悪感はほとんどありません。同時になぜかずっと心にあった親へのわだかまりも薄くなっていきました。あんな親だから、僕は浮気などしないと決めていたのに、その自分が結局、似たようなことをしている。親の淫らな血のせいかと思ったこともあるけど、そういうことじゃないんですね。人間、生きていればいろいろなことがある。恋したら止められないこともある。自分を正当化したいからかもしれないけど……」 今年の母の日、彼は大人になってから初めて母にプレゼントを贈った。古希を迎えた母は、今も元気に仕事に遊びにと飛び回っているようだ。母からのメッセージには、「ありがとう。亮輔はママの誇りだよ」の文字とともにハートマークが飛び散っていた。亀山早苗(かめやま・さなえ)フリーライター。男女関係、特に不倫について20年以上取材を続け、『不倫の恋で苦しむ男たち』『夫の不倫で苦しむ妻たち』『人はなぜ不倫をするのか』『復讐手帖─愛が狂気に変わるとき─』など著書多数。デイリー新潮取材班編集2021年6月2日 掲載
「せめてお茶でもと、何度かカフェには行きましたが、あくまで子どもの親同士としてでしたね」 美佳さんは共働きでバリバリのキャリアウーマンだ。外資系の企業をいくつか渡り歩いた「強者」だという。それでいて物腰は柔らかく、視野は広く、穏やかな性格で、亮輔さんから見ると、実業家の母とも専業主婦の妻とも違うタイプだった。だから惹かれたのかもしれない。 ある日、代休をとった亮輔さんは自転車で公園へ出かけた。美佳さんへの悶々とした気持ちを抱えて、公園のサイクリングロードをひた走った。そしてベンチで休んでいると、すぐ近くに美佳さんがいるのを見つけたのだ。「彼女はひとりで本を読んでいました。僕を見てびっくりしたみたい。彼女も多忙な日が続いてようやく一段落して休みをとったんだそうです。そのままカフェに行ってランチして……。今日を逃したくないという思いが強かった。僕はあなたがいないこれからの人生を考えることができないと言いました」 結婚しているのに何を言ってるのと笑われたが、彼はめげなかった。人の妻としてのあなたではない、あなた個人と僕個人の問題、関わっていきたいんだと真摯に訴えた。「彼女、呆れたように笑っていましたが、ふっと真顔になって『あなたは絶対に、誰にもバレないようにできるの?』と。もちろんだと言いました」 暗黙の共犯意識が生まれた瞬間だ。それから約3年、ふたりの関係は今も密かに続いている。「罪の意識というのは慣れとともに薄れていくんですね。今は罪悪感はほとんどありません。同時になぜかずっと心にあった親へのわだかまりも薄くなっていきました。あんな親だから、僕は浮気などしないと決めていたのに、その自分が結局、似たようなことをしている。親の淫らな血のせいかと思ったこともあるけど、そういうことじゃないんですね。人間、生きていればいろいろなことがある。恋したら止められないこともある。自分を正当化したいからかもしれないけど……」 今年の母の日、彼は大人になってから初めて母にプレゼントを贈った。古希を迎えた母は、今も元気に仕事に遊びにと飛び回っているようだ。母からのメッセージには、「ありがとう。亮輔はママの誇りだよ」の文字とともにハートマークが飛び散っていた。亀山早苗(かめやま・さなえ)フリーライター。男女関係、特に不倫について20年以上取材を続け、『不倫の恋で苦しむ男たち』『夫の不倫で苦しむ妻たち』『人はなぜ不倫をするのか』『復讐手帖─愛が狂気に変わるとき─』など著書多数。デイリー新潮取材班編集2021年6月2日 掲載
美佳さんは共働きでバリバリのキャリアウーマンだ。外資系の企業をいくつか渡り歩いた「強者」だという。それでいて物腰は柔らかく、視野は広く、穏やかな性格で、亮輔さんから見ると、実業家の母とも専業主婦の妻とも違うタイプだった。だから惹かれたのかもしれない。 ある日、代休をとった亮輔さんは自転車で公園へ出かけた。美佳さんへの悶々とした気持ちを抱えて、公園のサイクリングロードをひた走った。そしてベンチで休んでいると、すぐ近くに美佳さんがいるのを見つけたのだ。「彼女はひとりで本を読んでいました。僕を見てびっくりしたみたい。彼女も多忙な日が続いてようやく一段落して休みをとったんだそうです。そのままカフェに行ってランチして……。今日を逃したくないという思いが強かった。僕はあなたがいないこれからの人生を考えることができないと言いました」 結婚しているのに何を言ってるのと笑われたが、彼はめげなかった。人の妻としてのあなたではない、あなた個人と僕個人の問題、関わっていきたいんだと真摯に訴えた。「彼女、呆れたように笑っていましたが、ふっと真顔になって『あなたは絶対に、誰にもバレないようにできるの?』と。もちろんだと言いました」 暗黙の共犯意識が生まれた瞬間だ。それから約3年、ふたりの関係は今も密かに続いている。「罪の意識というのは慣れとともに薄れていくんですね。今は罪悪感はほとんどありません。同時になぜかずっと心にあった親へのわだかまりも薄くなっていきました。あんな親だから、僕は浮気などしないと決めていたのに、その自分が結局、似たようなことをしている。親の淫らな血のせいかと思ったこともあるけど、そういうことじゃないんですね。人間、生きていればいろいろなことがある。恋したら止められないこともある。自分を正当化したいからかもしれないけど……」 今年の母の日、彼は大人になってから初めて母にプレゼントを贈った。古希を迎えた母は、今も元気に仕事に遊びにと飛び回っているようだ。母からのメッセージには、「ありがとう。亮輔はママの誇りだよ」の文字とともにハートマークが飛び散っていた。亀山早苗(かめやま・さなえ)フリーライター。男女関係、特に不倫について20年以上取材を続け、『不倫の恋で苦しむ男たち』『夫の不倫で苦しむ妻たち』『人はなぜ不倫をするのか』『復讐手帖─愛が狂気に変わるとき─』など著書多数。デイリー新潮取材班編集2021年6月2日 掲載
ある日、代休をとった亮輔さんは自転車で公園へ出かけた。美佳さんへの悶々とした気持ちを抱えて、公園のサイクリングロードをひた走った。そしてベンチで休んでいると、すぐ近くに美佳さんがいるのを見つけたのだ。「彼女はひとりで本を読んでいました。僕を見てびっくりしたみたい。彼女も多忙な日が続いてようやく一段落して休みをとったんだそうです。そのままカフェに行ってランチして……。今日を逃したくないという思いが強かった。僕はあなたがいないこれからの人生を考えることができないと言いました」 結婚しているのに何を言ってるのと笑われたが、彼はめげなかった。人の妻としてのあなたではない、あなた個人と僕個人の問題、関わっていきたいんだと真摯に訴えた。「彼女、呆れたように笑っていましたが、ふっと真顔になって『あなたは絶対に、誰にもバレないようにできるの?』と。もちろんだと言いました」 暗黙の共犯意識が生まれた瞬間だ。それから約3年、ふたりの関係は今も密かに続いている。「罪の意識というのは慣れとともに薄れていくんですね。今は罪悪感はほとんどありません。同時になぜかずっと心にあった親へのわだかまりも薄くなっていきました。あんな親だから、僕は浮気などしないと決めていたのに、その自分が結局、似たようなことをしている。親の淫らな血のせいかと思ったこともあるけど、そういうことじゃないんですね。人間、生きていればいろいろなことがある。恋したら止められないこともある。自分を正当化したいからかもしれないけど……」 今年の母の日、彼は大人になってから初めて母にプレゼントを贈った。古希を迎えた母は、今も元気に仕事に遊びにと飛び回っているようだ。母からのメッセージには、「ありがとう。亮輔はママの誇りだよ」の文字とともにハートマークが飛び散っていた。亀山早苗(かめやま・さなえ)フリーライター。男女関係、特に不倫について20年以上取材を続け、『不倫の恋で苦しむ男たち』『夫の不倫で苦しむ妻たち』『人はなぜ不倫をするのか』『復讐手帖─愛が狂気に変わるとき─』など著書多数。デイリー新潮取材班編集2021年6月2日 掲載
「彼女はひとりで本を読んでいました。僕を見てびっくりしたみたい。彼女も多忙な日が続いてようやく一段落して休みをとったんだそうです。そのままカフェに行ってランチして……。今日を逃したくないという思いが強かった。僕はあなたがいないこれからの人生を考えることができないと言いました」 結婚しているのに何を言ってるのと笑われたが、彼はめげなかった。人の妻としてのあなたではない、あなた個人と僕個人の問題、関わっていきたいんだと真摯に訴えた。「彼女、呆れたように笑っていましたが、ふっと真顔になって『あなたは絶対に、誰にもバレないようにできるの?』と。もちろんだと言いました」 暗黙の共犯意識が生まれた瞬間だ。それから約3年、ふたりの関係は今も密かに続いている。「罪の意識というのは慣れとともに薄れていくんですね。今は罪悪感はほとんどありません。同時になぜかずっと心にあった親へのわだかまりも薄くなっていきました。あんな親だから、僕は浮気などしないと決めていたのに、その自分が結局、似たようなことをしている。親の淫らな血のせいかと思ったこともあるけど、そういうことじゃないんですね。人間、生きていればいろいろなことがある。恋したら止められないこともある。自分を正当化したいからかもしれないけど……」 今年の母の日、彼は大人になってから初めて母にプレゼントを贈った。古希を迎えた母は、今も元気に仕事に遊びにと飛び回っているようだ。母からのメッセージには、「ありがとう。亮輔はママの誇りだよ」の文字とともにハートマークが飛び散っていた。亀山早苗(かめやま・さなえ)フリーライター。男女関係、特に不倫について20年以上取材を続け、『不倫の恋で苦しむ男たち』『夫の不倫で苦しむ妻たち』『人はなぜ不倫をするのか』『復讐手帖─愛が狂気に変わるとき─』など著書多数。デイリー新潮取材班編集2021年6月2日 掲載
結婚しているのに何を言ってるのと笑われたが、彼はめげなかった。人の妻としてのあなたではない、あなた個人と僕個人の問題、関わっていきたいんだと真摯に訴えた。「彼女、呆れたように笑っていましたが、ふっと真顔になって『あなたは絶対に、誰にもバレないようにできるの?』と。もちろんだと言いました」 暗黙の共犯意識が生まれた瞬間だ。それから約3年、ふたりの関係は今も密かに続いている。「罪の意識というのは慣れとともに薄れていくんですね。今は罪悪感はほとんどありません。同時になぜかずっと心にあった親へのわだかまりも薄くなっていきました。あんな親だから、僕は浮気などしないと決めていたのに、その自分が結局、似たようなことをしている。親の淫らな血のせいかと思ったこともあるけど、そういうことじゃないんですね。人間、生きていればいろいろなことがある。恋したら止められないこともある。自分を正当化したいからかもしれないけど……」 今年の母の日、彼は大人になってから初めて母にプレゼントを贈った。古希を迎えた母は、今も元気に仕事に遊びにと飛び回っているようだ。母からのメッセージには、「ありがとう。亮輔はママの誇りだよ」の文字とともにハートマークが飛び散っていた。亀山早苗(かめやま・さなえ)フリーライター。男女関係、特に不倫について20年以上取材を続け、『不倫の恋で苦しむ男たち』『夫の不倫で苦しむ妻たち』『人はなぜ不倫をするのか』『復讐手帖─愛が狂気に変わるとき─』など著書多数。デイリー新潮取材班編集2021年6月2日 掲載
「彼女、呆れたように笑っていましたが、ふっと真顔になって『あなたは絶対に、誰にもバレないようにできるの?』と。もちろんだと言いました」 暗黙の共犯意識が生まれた瞬間だ。それから約3年、ふたりの関係は今も密かに続いている。「罪の意識というのは慣れとともに薄れていくんですね。今は罪悪感はほとんどありません。同時になぜかずっと心にあった親へのわだかまりも薄くなっていきました。あんな親だから、僕は浮気などしないと決めていたのに、その自分が結局、似たようなことをしている。親の淫らな血のせいかと思ったこともあるけど、そういうことじゃないんですね。人間、生きていればいろいろなことがある。恋したら止められないこともある。自分を正当化したいからかもしれないけど……」 今年の母の日、彼は大人になってから初めて母にプレゼントを贈った。古希を迎えた母は、今も元気に仕事に遊びにと飛び回っているようだ。母からのメッセージには、「ありがとう。亮輔はママの誇りだよ」の文字とともにハートマークが飛び散っていた。亀山早苗(かめやま・さなえ)フリーライター。男女関係、特に不倫について20年以上取材を続け、『不倫の恋で苦しむ男たち』『夫の不倫で苦しむ妻たち』『人はなぜ不倫をするのか』『復讐手帖─愛が狂気に変わるとき─』など著書多数。デイリー新潮取材班編集2021年6月2日 掲載
暗黙の共犯意識が生まれた瞬間だ。それから約3年、ふたりの関係は今も密かに続いている。「罪の意識というのは慣れとともに薄れていくんですね。今は罪悪感はほとんどありません。同時になぜかずっと心にあった親へのわだかまりも薄くなっていきました。あんな親だから、僕は浮気などしないと決めていたのに、その自分が結局、似たようなことをしている。親の淫らな血のせいかと思ったこともあるけど、そういうことじゃないんですね。人間、生きていればいろいろなことがある。恋したら止められないこともある。自分を正当化したいからかもしれないけど……」 今年の母の日、彼は大人になってから初めて母にプレゼントを贈った。古希を迎えた母は、今も元気に仕事に遊びにと飛び回っているようだ。母からのメッセージには、「ありがとう。亮輔はママの誇りだよ」の文字とともにハートマークが飛び散っていた。亀山早苗(かめやま・さなえ)フリーライター。男女関係、特に不倫について20年以上取材を続け、『不倫の恋で苦しむ男たち』『夫の不倫で苦しむ妻たち』『人はなぜ不倫をするのか』『復讐手帖─愛が狂気に変わるとき─』など著書多数。デイリー新潮取材班編集2021年6月2日 掲載
「罪の意識というのは慣れとともに薄れていくんですね。今は罪悪感はほとんどありません。同時になぜかずっと心にあった親へのわだかまりも薄くなっていきました。あんな親だから、僕は浮気などしないと決めていたのに、その自分が結局、似たようなことをしている。親の淫らな血のせいかと思ったこともあるけど、そういうことじゃないんですね。人間、生きていればいろいろなことがある。恋したら止められないこともある。自分を正当化したいからかもしれないけど……」 今年の母の日、彼は大人になってから初めて母にプレゼントを贈った。古希を迎えた母は、今も元気に仕事に遊びにと飛び回っているようだ。母からのメッセージには、「ありがとう。亮輔はママの誇りだよ」の文字とともにハートマークが飛び散っていた。亀山早苗(かめやま・さなえ)フリーライター。男女関係、特に不倫について20年以上取材を続け、『不倫の恋で苦しむ男たち』『夫の不倫で苦しむ妻たち』『人はなぜ不倫をするのか』『復讐手帖─愛が狂気に変わるとき─』など著書多数。デイリー新潮取材班編集2021年6月2日 掲載
今年の母の日、彼は大人になってから初めて母にプレゼントを贈った。古希を迎えた母は、今も元気に仕事に遊びにと飛び回っているようだ。母からのメッセージには、「ありがとう。亮輔はママの誇りだよ」の文字とともにハートマークが飛び散っていた。亀山早苗(かめやま・さなえ)フリーライター。男女関係、特に不倫について20年以上取材を続け、『不倫の恋で苦しむ男たち』『夫の不倫で苦しむ妻たち』『人はなぜ不倫をするのか』『復讐手帖─愛が狂気に変わるとき─』など著書多数。デイリー新潮取材班編集2021年6月2日 掲載
亀山早苗(かめやま・さなえ)フリーライター。男女関係、特に不倫について20年以上取材を続け、『不倫の恋で苦しむ男たち』『夫の不倫で苦しむ妻たち』『人はなぜ不倫をするのか』『復讐手帖─愛が狂気に変わるとき─』など著書多数。デイリー新潮取材班編集2021年6月2日 掲載
デイリー新潮取材班編集2021年6月2日 掲載
2021年6月2日 掲載