妻殺害の「講談社元次長」が二審有罪で“自主退職” 大学時代の仲間は「支援する会」を設立

「妻は自殺だった」と一貫して無罪を訴えながらも、一審に続き二審でも殺人罪で懲役11年の有罪判決を受け、上告中の朴鐘顕(パク・チョンヒョン)被告(45)の周囲で、新たな動きが起きている。2月、朴被告はこれまで全面的に支援を受けてきた講談社を退社。それからまもなくして、学生時代の友人たちが中心となって「支援する会」が起ち上がり、裁判のやり直しを求める署名活動を開始したのだ。「殺人罪」で有罪とされた友を支援する仲間たちの思いとはどのようなものなのか。会の代表に話を聞いた。
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【写真】朴被告を支援するため立ち上がった友人たち
会の名称は「朴鐘顕くんを支援する親族、友人たちの会」(以下、支援する会)。今年1月に東京高裁で控訴棄却の判決が出てから、朴被告の出身である京都大学時代のサークルのメンバーらが中心となり活動を始め、3月に正式に発足した。5月からはホームページやTwitterを起ち上げ、判決文やその問題点を訴える資料をアップし、公正な裁判のやり直しを求める署名を呼びかけている。
講談社の次長職だった朴被告を巡っては、雇用関係を維持してきた会社との関係が注目されてきた。講談社は朴被告が逮捕・起訴され、一審で有罪判決を受けた後も、休職扱いにして支援。広報室長が全公判を傍聴し、朴被告と面会するため拘置所に通い続けるなど、異例の対応を取ってきた。二審判決直後も「社員は上告の意向を表明しており、今後の推移を見守りつつ、社として慎重に対処してまいります」とコメントしていたが、1カ月後の2月末日、朴被告はついに退社したという。 講談社関係者が明かす。「社員には隠すこともなく『退社』と掲示されていました。解雇ではなく、就業規則に則り退職したという書き方。ただ、これは会社が彼を見捨てたことを意味するものではありません。会社としては無罪を訴える社員を信じるという立場を貫いてきましたが、最高裁で有罪が確定してしまえば、さすがに懲戒解雇せざるを得ない。だから、二審も有罪だった場合は、自主退職させることで話が決まっていたのです」 つまり、退職金が支払われる代わりに、このタイミングで縁を切らざるを得なかったというのだ。「このような温情ある対応は、ヒットメーカーとして会社に貢献してきた彼の実績も考慮されたと思います。朴被告は、健常者と聴覚障害者との恋愛を描いて映画化もされた『聲の形』や、累計3700万部を超えるファンタジー大作『七つの大罪』などを立ち上げた名物編集者として、会社に莫大な利益をもたらしてきました」(同前) 社内では朴被告が所属していた漫画部署などを中心に、今も無実を信じる社員が少なくないという。だが、社員でなくなった以上、これからは会社として支援することはできない。その代わりに、今度は学生時代の仲間たちが立ち上がったという話なのだ。「支援する会」の話に入る前に、事件と裁判の経過をおさらいしておく。密室内で起きた事件 事件の発生は5年前に遡る。16年8月9日午前3時頃、東京都文京区の一軒家から119番通報が入った。通報したのは朴被告本人。救急隊員が駆けつけると、玄関近くで心肺停止の状態で倒れている妻・佳菜子さん(当時38)が見つかり、病院に搬送されたが、まもなく死亡が確認された。 家の中にいたのは、夫妻と乳児も含む4人の子供たちだけだった。当初、警察の取り調べに対し、朴被告は「妻は階段から落ちた」と供述したが、やがて「首を吊って自殺した」と変遷させた。 検死の結果、死因は窒息死と特定された。1階寝室のマットレスやシーツからは、窒息死した際に出る、失禁した妻の尿や血液が混じった唾液が検出され、警視庁はこれらの証拠をもとに、朴被告が寝室で妻の首を絞めて殺害したと断定。発生から5ヶ月を経た17年1月に逮捕に踏み切ったのであった。 決定的な凶器や目撃証言がないこの事件の裁判では、現場に残されていた血痕や尿班、佳菜子さんの遺体にあった左前額部の挫裂創や、表皮剥脱などの証拠をもとに、「殺人」か「自殺」かで、検察側と弁護側が全面的に争ってきた。 検察側の主張は、朴被告が1階の寝室で佳菜子さんを腕で絞めて脳死状態に陥らせたというものだ。その後、殺人ではなかったと偽装するために、佳菜子さんを階段の途中まで担ぎ上げ、突き落とした過程において、佳菜子さんは息絶えたとされる。 一方、弁護側は、佳菜子さんが生後10カ月の末っ子に乱暴しようとしたことが原因で、1階寝室で朴被告と佳菜子さんがもみ合いになり、朴被告が腕を使って押さえ込んだことは認めつつも、殺していないと主張。押さえ込んだ後、佳菜子さんが一度、静かになったため、朴被告が末っ子の様子を見ていると、佳菜子さんが起き上がって包丁を持っていたので、末っ子を連れて2階の子供部屋に避難した。しばらくして、佳菜子さんも2階に上がってきてドアを開けようとしたが、危険を感じたため開けなかった。数十分後、子供部屋から出ると、階段の手すりに巻き付けたジャケットで首を吊って自死を遂げていた――という「自殺ストーリー」を展開した。 裁判員裁判となった19年3月の一審判決で、東京地裁は「(自殺ストーリーは)不自然な状況を想定しなければ説明できないか、そもそも合理的な説明が困難な事情ばかりが見られ、全体として見ると、現実的にあり得る可能性とは認められない」と弁護側の主張を退け、朴被告が寝室で妻の首を絞めて窒息死させたと認定し、懲役11年を言い渡した。「親友の言葉を信じたい」 今年1月の東京高裁判決も一審判決を支持し、控訴を棄却。この二審判決がきっかけとなり、朴被告が通っていた京都大学の同級生たちが中心になって、本格的な支援に向けて動き始めたという。呼びかけ人であり、共同代表の佐野大輔さん(44)が語る。「私は在学中から朴と仲良く、卒業後もお互い東京で仕事していた関係から、家族ぐるみで付き合いがありました。亡くなった佳菜子さんや子供たちのことも知っています。逮捕後は、残された4人の子供たちが心配で、1、2カ月おきに自宅を訪ねて、ご家族の様子を見守ってきました」(同前) 佐野さんは一貫して、朴被告の無罪を信じていたという。「逮捕前に、直接、彼から当日起きたことを事細かく説明を受けています。親友の言葉を信じる気持ちが揺らいだことはなく、一審で有罪判決が出た後も、二審でひっくり返るだろうと考えていました。ただ、裁判については、講談社が全面的にバックアップしていたので任せきりで、詳しい内容は知りませんでした」(同前) 支援する会を始めるきっかけとなったのが、二審判決後、朴被告を個人的に支援してきた講談社の同僚と出会いだった。「朴のお母さんの紹介でその方に会ってみると、彼も僕とまったく同じスタンスで、家族のサポートに徹してきた人でした。同僚の方は、『事件のことはよくわからないが、子供たちのためにできることをしてあげたい』、『お父さんの無実を信じている人がこんなにもいると伝えてあげたいという思いで、署名を集めている』と話すのです。それならば私もと思い、OBも参加しているサークルのフェイスブックで声がけをした。すると、同意してくれる仲間たちが次々と集まった。現在、会のメンバーは、サークルのOBが中心に36人。講談社の元同僚や朴の親族も入っています」(同前)一審判決にあった事実誤認 いざ正式に会を立ち上げ、活動していくにあたり、朴被告の担当弁護士の協力を得て、膨大な裁判資料を読み込んだという。すると、二審判決の“瑕疵”に気づいたという。「一審判決では、現場には15カ所、佳菜子さんの血痕があるとされ、その証拠に基づいて『自殺ストーリー』はありえないと退けられたのですが、二審では新証拠によって現場に28カ所の血痕があったことが判明しました。つまり、一審判決には重大な事実誤認があったのです。二審判決はその事実誤認を認めた上で、全く新しい理由をもって、自殺ストーリーを退け、有罪判決を下している」(同前) 血痕は自殺ストーリーが成立するか否かで、裁判で重要なポイントとなっていた。佳菜子さんの左前額部の挫裂創から流れ出たものとされているが、生きているうちのものだったか、もしくは脳死状態の時のものだったのかで、評価が変わるのである。なお、完全に死んだ状態だと心臓が止まり、血は流れない。判決では、この挫裂創は朴被告が佳菜子さんを階段から突き落とした際にできたもので、その時、佳菜子さんは脳死状態だったとされている。 確かに高裁判決には、「原判決の上記判断は、客観的事実及び経験則等に照らして不合理であり、上記のような現場の血痕の状況をもって、自殺ストーリーを排斥する根拠とすることはできない」と、一審の判断の誤りを指摘している箇所がある。 だが、新しい血痕の状況を検証し直し、遺体に血痕が付着していないのは不自然であること、首を括った際に利用したとされる階段の手すりの留め具にジャケットの繊維が検出されていないこと、首を締められた際に出る尿班が階段から検出されていないことなどを合わせ、改めて自殺ストーリーを排斥し、「原判決の判断理由には一部是認できないところがあるものの、本件殺人の事実を認定した原判決の判断は、結論において相当である」とした。 刑事裁判の経験が豊富な弁護士は、次のように解説する。「一般論として刑事事件の控訴審は、第一審の審理に不十分な点があると考えた場合、その点について自ら審理することも、事件を第一審裁判所に差し戻すこともできます。犯罪の成否自体に関する重要な事項は、本来、第一審で十分に審理すべきことですから、原則として差し戻すべきであり、このことは特に、裁判員裁判の対象となるような重大事件において強く当てはまるといえます。 今回のケースでは、朴被告の妻が自殺をしたという弁護側のストーリーを退けた第一審の判断について、控訴審は、前提事実を誤っているとした上で自ら審理し、自殺ストーリーはやはり排斥できるとしました。差戻しをしなかった理由としては、既に一定程度、自殺ストーリーについて裁判員を含む合議体で審理がされていたこともありますが、結局、結論は変わらないと判断されたことが大きかったと思われます」1カ月かけて準備したホームページ 佐野さんはこう訴える。「『市民を有罪にするのは市民の手で』が裁判員制度の大原則である以上、一審の判断に重要な誤りがあったことが判明した時点で、高裁は一審に差し戻すか、無罪判決を言い渡すべきです。一審の有罪理由を棄却し全く新しい理由をもって有罪判決を下すことは、高裁には許されていない。重大なルール違反だと我々は考えています」 こう語る佐野さんたちは、裁判を検証する膨大な資料を作成し、会のホームページにアップした。「朴鐘顕くんの裁判 2審判決文の構造と疑問点」というパワーポイントで作成された資料はA4用紙で18ページ、難解な法律用語などを平易な文章に直し、会の主張をまとめた「私たちが考える朴鐘顕くんの裁判に関しての重要な問題点」は、38ページにも及ぶ。「みな仕事をしながらでしたので、休日を費やしながらの大変な作業でした。ホームページを立ち上げたのが5月1日。署名は約600通集まっています。ホームページを見て賛同し、電話やメールで署名してくれる人が増えています。6月からは、署名サイト『change.org』を使用した、電子署名も始めました。目標としては、上告趣意書提出に添付するものとして、直筆で1000。もちろん、このような数字が裁判所にインパクトを与えられるものではないことはわかっています。まずは、このような公正ではない裁判の真実を多くの方に知っていただき、世論の動きを作りたいという思いです。お子さんたちもお父さんの無実を信じ、帰りを待っています」(同前)朴被告の様子は…… このような友人たちの動きを、朴被告はどのように受け止めているのだろうか。二審判決を記者も傍聴したが、朴被告の様子は極めて情緒不安定に見えた。主文言い渡しの後、「えっ、どうして」と叫び、その後も「してない! してない!」、「矛盾しているよ!」などと不規則発言を繰り返し、裁判長からたしなめられていた。「面会に行っているご家族や同僚によれば、今は落ち着いていると聞いています。最近、僕が受け取った手紙では、拘置所の中で本を読みながら健康的な生活を送っていると書いてありました。会の活動が始まったことについては感謝している様子でしたが、やはり子供たちのことを一番心配していて、とにかく早く家に戻りたい一心のようです。彼の法廷での様子をもって、心象が悪いと評する記事もありましたが、無実の罪によって子供たちの面倒を見られなくなってしまうことを恐れていると考えれば、当然のことでしょう」(同前) だが、一審に続き二審でも有罪判決が下った現実はやはり重い。公判を傍聴してきた司法記者はこう指摘する。「確かに一審の立証に問題があったのは事実だが、二審で改めて、証拠を精査し直して自殺ストーリーはちゃんと排斥されている。何よりも、一階寝室のマットなどに残されていた唾液混じりの血痕と尿班が、朴被告が妻を窒息死させた決定的な証拠です。弁護側は唾液混じりの血痕について、『歯磨きにより粘膜や歯茎から出血した可能性がある』と主張していますが、荒唐無稽過ぎます」 前出の弁護士も、上告審で覆る可能性については懐疑的だ。「最高裁は、『重大な事実の誤認』があるなど、高裁判決が著しく正義に反すると判断すれば、これを破棄することはできます。第一審に差し戻さずに排斥された自殺ストーリーについて、『重大な事実の誤認』や『法令の違反』があるとされるかがポイントとなりそうですが、ハードルは低くはないでしょう」デイリー新潮取材班2021年6月7日 掲載
講談社関係者が明かす。「社員には隠すこともなく『退社』と掲示されていました。解雇ではなく、就業規則に則り退職したという書き方。ただ、これは会社が彼を見捨てたことを意味するものではありません。会社としては無罪を訴える社員を信じるという立場を貫いてきましたが、最高裁で有罪が確定してしまえば、さすがに懲戒解雇せざるを得ない。だから、二審も有罪だった場合は、自主退職させることで話が決まっていたのです」 つまり、退職金が支払われる代わりに、このタイミングで縁を切らざるを得なかったというのだ。「このような温情ある対応は、ヒットメーカーとして会社に貢献してきた彼の実績も考慮されたと思います。朴被告は、健常者と聴覚障害者との恋愛を描いて映画化もされた『聲の形』や、累計3700万部を超えるファンタジー大作『七つの大罪』などを立ち上げた名物編集者として、会社に莫大な利益をもたらしてきました」(同前) 社内では朴被告が所属していた漫画部署などを中心に、今も無実を信じる社員が少なくないという。だが、社員でなくなった以上、これからは会社として支援することはできない。その代わりに、今度は学生時代の仲間たちが立ち上がったという話なのだ。「支援する会」の話に入る前に、事件と裁判の経過をおさらいしておく。密室内で起きた事件 事件の発生は5年前に遡る。16年8月9日午前3時頃、東京都文京区の一軒家から119番通報が入った。通報したのは朴被告本人。救急隊員が駆けつけると、玄関近くで心肺停止の状態で倒れている妻・佳菜子さん(当時38)が見つかり、病院に搬送されたが、まもなく死亡が確認された。 家の中にいたのは、夫妻と乳児も含む4人の子供たちだけだった。当初、警察の取り調べに対し、朴被告は「妻は階段から落ちた」と供述したが、やがて「首を吊って自殺した」と変遷させた。 検死の結果、死因は窒息死と特定された。1階寝室のマットレスやシーツからは、窒息死した際に出る、失禁した妻の尿や血液が混じった唾液が検出され、警視庁はこれらの証拠をもとに、朴被告が寝室で妻の首を絞めて殺害したと断定。発生から5ヶ月を経た17年1月に逮捕に踏み切ったのであった。 決定的な凶器や目撃証言がないこの事件の裁判では、現場に残されていた血痕や尿班、佳菜子さんの遺体にあった左前額部の挫裂創や、表皮剥脱などの証拠をもとに、「殺人」か「自殺」かで、検察側と弁護側が全面的に争ってきた。 検察側の主張は、朴被告が1階の寝室で佳菜子さんを腕で絞めて脳死状態に陥らせたというものだ。その後、殺人ではなかったと偽装するために、佳菜子さんを階段の途中まで担ぎ上げ、突き落とした過程において、佳菜子さんは息絶えたとされる。 一方、弁護側は、佳菜子さんが生後10カ月の末っ子に乱暴しようとしたことが原因で、1階寝室で朴被告と佳菜子さんがもみ合いになり、朴被告が腕を使って押さえ込んだことは認めつつも、殺していないと主張。押さえ込んだ後、佳菜子さんが一度、静かになったため、朴被告が末っ子の様子を見ていると、佳菜子さんが起き上がって包丁を持っていたので、末っ子を連れて2階の子供部屋に避難した。しばらくして、佳菜子さんも2階に上がってきてドアを開けようとしたが、危険を感じたため開けなかった。数十分後、子供部屋から出ると、階段の手すりに巻き付けたジャケットで首を吊って自死を遂げていた――という「自殺ストーリー」を展開した。 裁判員裁判となった19年3月の一審判決で、東京地裁は「(自殺ストーリーは)不自然な状況を想定しなければ説明できないか、そもそも合理的な説明が困難な事情ばかりが見られ、全体として見ると、現実的にあり得る可能性とは認められない」と弁護側の主張を退け、朴被告が寝室で妻の首を絞めて窒息死させたと認定し、懲役11年を言い渡した。「親友の言葉を信じたい」 今年1月の東京高裁判決も一審判決を支持し、控訴を棄却。この二審判決がきっかけとなり、朴被告が通っていた京都大学の同級生たちが中心になって、本格的な支援に向けて動き始めたという。呼びかけ人であり、共同代表の佐野大輔さん(44)が語る。「私は在学中から朴と仲良く、卒業後もお互い東京で仕事していた関係から、家族ぐるみで付き合いがありました。亡くなった佳菜子さんや子供たちのことも知っています。逮捕後は、残された4人の子供たちが心配で、1、2カ月おきに自宅を訪ねて、ご家族の様子を見守ってきました」(同前) 佐野さんは一貫して、朴被告の無罪を信じていたという。「逮捕前に、直接、彼から当日起きたことを事細かく説明を受けています。親友の言葉を信じる気持ちが揺らいだことはなく、一審で有罪判決が出た後も、二審でひっくり返るだろうと考えていました。ただ、裁判については、講談社が全面的にバックアップしていたので任せきりで、詳しい内容は知りませんでした」(同前) 支援する会を始めるきっかけとなったのが、二審判決後、朴被告を個人的に支援してきた講談社の同僚と出会いだった。「朴のお母さんの紹介でその方に会ってみると、彼も僕とまったく同じスタンスで、家族のサポートに徹してきた人でした。同僚の方は、『事件のことはよくわからないが、子供たちのためにできることをしてあげたい』、『お父さんの無実を信じている人がこんなにもいると伝えてあげたいという思いで、署名を集めている』と話すのです。それならば私もと思い、OBも参加しているサークルのフェイスブックで声がけをした。すると、同意してくれる仲間たちが次々と集まった。現在、会のメンバーは、サークルのOBが中心に36人。講談社の元同僚や朴の親族も入っています」(同前)一審判決にあった事実誤認 いざ正式に会を立ち上げ、活動していくにあたり、朴被告の担当弁護士の協力を得て、膨大な裁判資料を読み込んだという。すると、二審判決の“瑕疵”に気づいたという。「一審判決では、現場には15カ所、佳菜子さんの血痕があるとされ、その証拠に基づいて『自殺ストーリー』はありえないと退けられたのですが、二審では新証拠によって現場に28カ所の血痕があったことが判明しました。つまり、一審判決には重大な事実誤認があったのです。二審判決はその事実誤認を認めた上で、全く新しい理由をもって、自殺ストーリーを退け、有罪判決を下している」(同前) 血痕は自殺ストーリーが成立するか否かで、裁判で重要なポイントとなっていた。佳菜子さんの左前額部の挫裂創から流れ出たものとされているが、生きているうちのものだったか、もしくは脳死状態の時のものだったのかで、評価が変わるのである。なお、完全に死んだ状態だと心臓が止まり、血は流れない。判決では、この挫裂創は朴被告が佳菜子さんを階段から突き落とした際にできたもので、その時、佳菜子さんは脳死状態だったとされている。 確かに高裁判決には、「原判決の上記判断は、客観的事実及び経験則等に照らして不合理であり、上記のような現場の血痕の状況をもって、自殺ストーリーを排斥する根拠とすることはできない」と、一審の判断の誤りを指摘している箇所がある。 だが、新しい血痕の状況を検証し直し、遺体に血痕が付着していないのは不自然であること、首を括った際に利用したとされる階段の手すりの留め具にジャケットの繊維が検出されていないこと、首を締められた際に出る尿班が階段から検出されていないことなどを合わせ、改めて自殺ストーリーを排斥し、「原判決の判断理由には一部是認できないところがあるものの、本件殺人の事実を認定した原判決の判断は、結論において相当である」とした。 刑事裁判の経験が豊富な弁護士は、次のように解説する。「一般論として刑事事件の控訴審は、第一審の審理に不十分な点があると考えた場合、その点について自ら審理することも、事件を第一審裁判所に差し戻すこともできます。犯罪の成否自体に関する重要な事項は、本来、第一審で十分に審理すべきことですから、原則として差し戻すべきであり、このことは特に、裁判員裁判の対象となるような重大事件において強く当てはまるといえます。 今回のケースでは、朴被告の妻が自殺をしたという弁護側のストーリーを退けた第一審の判断について、控訴審は、前提事実を誤っているとした上で自ら審理し、自殺ストーリーはやはり排斥できるとしました。差戻しをしなかった理由としては、既に一定程度、自殺ストーリーについて裁判員を含む合議体で審理がされていたこともありますが、結局、結論は変わらないと判断されたことが大きかったと思われます」1カ月かけて準備したホームページ 佐野さんはこう訴える。「『市民を有罪にするのは市民の手で』が裁判員制度の大原則である以上、一審の判断に重要な誤りがあったことが判明した時点で、高裁は一審に差し戻すか、無罪判決を言い渡すべきです。一審の有罪理由を棄却し全く新しい理由をもって有罪判決を下すことは、高裁には許されていない。重大なルール違反だと我々は考えています」 こう語る佐野さんたちは、裁判を検証する膨大な資料を作成し、会のホームページにアップした。「朴鐘顕くんの裁判 2審判決文の構造と疑問点」というパワーポイントで作成された資料はA4用紙で18ページ、難解な法律用語などを平易な文章に直し、会の主張をまとめた「私たちが考える朴鐘顕くんの裁判に関しての重要な問題点」は、38ページにも及ぶ。「みな仕事をしながらでしたので、休日を費やしながらの大変な作業でした。ホームページを立ち上げたのが5月1日。署名は約600通集まっています。ホームページを見て賛同し、電話やメールで署名してくれる人が増えています。6月からは、署名サイト『change.org』を使用した、電子署名も始めました。目標としては、上告趣意書提出に添付するものとして、直筆で1000。もちろん、このような数字が裁判所にインパクトを与えられるものではないことはわかっています。まずは、このような公正ではない裁判の真実を多くの方に知っていただき、世論の動きを作りたいという思いです。お子さんたちもお父さんの無実を信じ、帰りを待っています」(同前)朴被告の様子は…… このような友人たちの動きを、朴被告はどのように受け止めているのだろうか。二審判決を記者も傍聴したが、朴被告の様子は極めて情緒不安定に見えた。主文言い渡しの後、「えっ、どうして」と叫び、その後も「してない! してない!」、「矛盾しているよ!」などと不規則発言を繰り返し、裁判長からたしなめられていた。「面会に行っているご家族や同僚によれば、今は落ち着いていると聞いています。最近、僕が受け取った手紙では、拘置所の中で本を読みながら健康的な生活を送っていると書いてありました。会の活動が始まったことについては感謝している様子でしたが、やはり子供たちのことを一番心配していて、とにかく早く家に戻りたい一心のようです。彼の法廷での様子をもって、心象が悪いと評する記事もありましたが、無実の罪によって子供たちの面倒を見られなくなってしまうことを恐れていると考えれば、当然のことでしょう」(同前) だが、一審に続き二審でも有罪判決が下った現実はやはり重い。公判を傍聴してきた司法記者はこう指摘する。「確かに一審の立証に問題があったのは事実だが、二審で改めて、証拠を精査し直して自殺ストーリーはちゃんと排斥されている。何よりも、一階寝室のマットなどに残されていた唾液混じりの血痕と尿班が、朴被告が妻を窒息死させた決定的な証拠です。弁護側は唾液混じりの血痕について、『歯磨きにより粘膜や歯茎から出血した可能性がある』と主張していますが、荒唐無稽過ぎます」 前出の弁護士も、上告審で覆る可能性については懐疑的だ。「最高裁は、『重大な事実の誤認』があるなど、高裁判決が著しく正義に反すると判断すれば、これを破棄することはできます。第一審に差し戻さずに排斥された自殺ストーリーについて、『重大な事実の誤認』や『法令の違反』があるとされるかがポイントとなりそうですが、ハードルは低くはないでしょう」デイリー新潮取材班2021年6月7日 掲載
「社員には隠すこともなく『退社』と掲示されていました。解雇ではなく、就業規則に則り退職したという書き方。ただ、これは会社が彼を見捨てたことを意味するものではありません。会社としては無罪を訴える社員を信じるという立場を貫いてきましたが、最高裁で有罪が確定してしまえば、さすがに懲戒解雇せざるを得ない。だから、二審も有罪だった場合は、自主退職させることで話が決まっていたのです」 つまり、退職金が支払われる代わりに、このタイミングで縁を切らざるを得なかったというのだ。「このような温情ある対応は、ヒットメーカーとして会社に貢献してきた彼の実績も考慮されたと思います。朴被告は、健常者と聴覚障害者との恋愛を描いて映画化もされた『聲の形』や、累計3700万部を超えるファンタジー大作『七つの大罪』などを立ち上げた名物編集者として、会社に莫大な利益をもたらしてきました」(同前) 社内では朴被告が所属していた漫画部署などを中心に、今も無実を信じる社員が少なくないという。だが、社員でなくなった以上、これからは会社として支援することはできない。その代わりに、今度は学生時代の仲間たちが立ち上がったという話なのだ。「支援する会」の話に入る前に、事件と裁判の経過をおさらいしておく。密室内で起きた事件 事件の発生は5年前に遡る。16年8月9日午前3時頃、東京都文京区の一軒家から119番通報が入った。通報したのは朴被告本人。救急隊員が駆けつけると、玄関近くで心肺停止の状態で倒れている妻・佳菜子さん(当時38)が見つかり、病院に搬送されたが、まもなく死亡が確認された。 家の中にいたのは、夫妻と乳児も含む4人の子供たちだけだった。当初、警察の取り調べに対し、朴被告は「妻は階段から落ちた」と供述したが、やがて「首を吊って自殺した」と変遷させた。 検死の結果、死因は窒息死と特定された。1階寝室のマットレスやシーツからは、窒息死した際に出る、失禁した妻の尿や血液が混じった唾液が検出され、警視庁はこれらの証拠をもとに、朴被告が寝室で妻の首を絞めて殺害したと断定。発生から5ヶ月を経た17年1月に逮捕に踏み切ったのであった。 決定的な凶器や目撃証言がないこの事件の裁判では、現場に残されていた血痕や尿班、佳菜子さんの遺体にあった左前額部の挫裂創や、表皮剥脱などの証拠をもとに、「殺人」か「自殺」かで、検察側と弁護側が全面的に争ってきた。 検察側の主張は、朴被告が1階の寝室で佳菜子さんを腕で絞めて脳死状態に陥らせたというものだ。その後、殺人ではなかったと偽装するために、佳菜子さんを階段の途中まで担ぎ上げ、突き落とした過程において、佳菜子さんは息絶えたとされる。 一方、弁護側は、佳菜子さんが生後10カ月の末っ子に乱暴しようとしたことが原因で、1階寝室で朴被告と佳菜子さんがもみ合いになり、朴被告が腕を使って押さえ込んだことは認めつつも、殺していないと主張。押さえ込んだ後、佳菜子さんが一度、静かになったため、朴被告が末っ子の様子を見ていると、佳菜子さんが起き上がって包丁を持っていたので、末っ子を連れて2階の子供部屋に避難した。しばらくして、佳菜子さんも2階に上がってきてドアを開けようとしたが、危険を感じたため開けなかった。数十分後、子供部屋から出ると、階段の手すりに巻き付けたジャケットで首を吊って自死を遂げていた――という「自殺ストーリー」を展開した。 裁判員裁判となった19年3月の一審判決で、東京地裁は「(自殺ストーリーは)不自然な状況を想定しなければ説明できないか、そもそも合理的な説明が困難な事情ばかりが見られ、全体として見ると、現実的にあり得る可能性とは認められない」と弁護側の主張を退け、朴被告が寝室で妻の首を絞めて窒息死させたと認定し、懲役11年を言い渡した。「親友の言葉を信じたい」 今年1月の東京高裁判決も一審判決を支持し、控訴を棄却。この二審判決がきっかけとなり、朴被告が通っていた京都大学の同級生たちが中心になって、本格的な支援に向けて動き始めたという。呼びかけ人であり、共同代表の佐野大輔さん(44)が語る。「私は在学中から朴と仲良く、卒業後もお互い東京で仕事していた関係から、家族ぐるみで付き合いがありました。亡くなった佳菜子さんや子供たちのことも知っています。逮捕後は、残された4人の子供たちが心配で、1、2カ月おきに自宅を訪ねて、ご家族の様子を見守ってきました」(同前) 佐野さんは一貫して、朴被告の無罪を信じていたという。「逮捕前に、直接、彼から当日起きたことを事細かく説明を受けています。親友の言葉を信じる気持ちが揺らいだことはなく、一審で有罪判決が出た後も、二審でひっくり返るだろうと考えていました。ただ、裁判については、講談社が全面的にバックアップしていたので任せきりで、詳しい内容は知りませんでした」(同前) 支援する会を始めるきっかけとなったのが、二審判決後、朴被告を個人的に支援してきた講談社の同僚と出会いだった。「朴のお母さんの紹介でその方に会ってみると、彼も僕とまったく同じスタンスで、家族のサポートに徹してきた人でした。同僚の方は、『事件のことはよくわからないが、子供たちのためにできることをしてあげたい』、『お父さんの無実を信じている人がこんなにもいると伝えてあげたいという思いで、署名を集めている』と話すのです。それならば私もと思い、OBも参加しているサークルのフェイスブックで声がけをした。すると、同意してくれる仲間たちが次々と集まった。現在、会のメンバーは、サークルのOBが中心に36人。講談社の元同僚や朴の親族も入っています」(同前)一審判決にあった事実誤認 いざ正式に会を立ち上げ、活動していくにあたり、朴被告の担当弁護士の協力を得て、膨大な裁判資料を読み込んだという。すると、二審判決の“瑕疵”に気づいたという。「一審判決では、現場には15カ所、佳菜子さんの血痕があるとされ、その証拠に基づいて『自殺ストーリー』はありえないと退けられたのですが、二審では新証拠によって現場に28カ所の血痕があったことが判明しました。つまり、一審判決には重大な事実誤認があったのです。二審判決はその事実誤認を認めた上で、全く新しい理由をもって、自殺ストーリーを退け、有罪判決を下している」(同前) 血痕は自殺ストーリーが成立するか否かで、裁判で重要なポイントとなっていた。佳菜子さんの左前額部の挫裂創から流れ出たものとされているが、生きているうちのものだったか、もしくは脳死状態の時のものだったのかで、評価が変わるのである。なお、完全に死んだ状態だと心臓が止まり、血は流れない。判決では、この挫裂創は朴被告が佳菜子さんを階段から突き落とした際にできたもので、その時、佳菜子さんは脳死状態だったとされている。 確かに高裁判決には、「原判決の上記判断は、客観的事実及び経験則等に照らして不合理であり、上記のような現場の血痕の状況をもって、自殺ストーリーを排斥する根拠とすることはできない」と、一審の判断の誤りを指摘している箇所がある。 だが、新しい血痕の状況を検証し直し、遺体に血痕が付着していないのは不自然であること、首を括った際に利用したとされる階段の手すりの留め具にジャケットの繊維が検出されていないこと、首を締められた際に出る尿班が階段から検出されていないことなどを合わせ、改めて自殺ストーリーを排斥し、「原判決の判断理由には一部是認できないところがあるものの、本件殺人の事実を認定した原判決の判断は、結論において相当である」とした。 刑事裁判の経験が豊富な弁護士は、次のように解説する。「一般論として刑事事件の控訴審は、第一審の審理に不十分な点があると考えた場合、その点について自ら審理することも、事件を第一審裁判所に差し戻すこともできます。犯罪の成否自体に関する重要な事項は、本来、第一審で十分に審理すべきことですから、原則として差し戻すべきであり、このことは特に、裁判員裁判の対象となるような重大事件において強く当てはまるといえます。 今回のケースでは、朴被告の妻が自殺をしたという弁護側のストーリーを退けた第一審の判断について、控訴審は、前提事実を誤っているとした上で自ら審理し、自殺ストーリーはやはり排斥できるとしました。差戻しをしなかった理由としては、既に一定程度、自殺ストーリーについて裁判員を含む合議体で審理がされていたこともありますが、結局、結論は変わらないと判断されたことが大きかったと思われます」1カ月かけて準備したホームページ 佐野さんはこう訴える。「『市民を有罪にするのは市民の手で』が裁判員制度の大原則である以上、一審の判断に重要な誤りがあったことが判明した時点で、高裁は一審に差し戻すか、無罪判決を言い渡すべきです。一審の有罪理由を棄却し全く新しい理由をもって有罪判決を下すことは、高裁には許されていない。重大なルール違反だと我々は考えています」 こう語る佐野さんたちは、裁判を検証する膨大な資料を作成し、会のホームページにアップした。「朴鐘顕くんの裁判 2審判決文の構造と疑問点」というパワーポイントで作成された資料はA4用紙で18ページ、難解な法律用語などを平易な文章に直し、会の主張をまとめた「私たちが考える朴鐘顕くんの裁判に関しての重要な問題点」は、38ページにも及ぶ。「みな仕事をしながらでしたので、休日を費やしながらの大変な作業でした。ホームページを立ち上げたのが5月1日。署名は約600通集まっています。ホームページを見て賛同し、電話やメールで署名してくれる人が増えています。6月からは、署名サイト『change.org』を使用した、電子署名も始めました。目標としては、上告趣意書提出に添付するものとして、直筆で1000。もちろん、このような数字が裁判所にインパクトを与えられるものではないことはわかっています。まずは、このような公正ではない裁判の真実を多くの方に知っていただき、世論の動きを作りたいという思いです。お子さんたちもお父さんの無実を信じ、帰りを待っています」(同前)朴被告の様子は…… このような友人たちの動きを、朴被告はどのように受け止めているのだろうか。二審判決を記者も傍聴したが、朴被告の様子は極めて情緒不安定に見えた。主文言い渡しの後、「えっ、どうして」と叫び、その後も「してない! してない!」、「矛盾しているよ!」などと不規則発言を繰り返し、裁判長からたしなめられていた。「面会に行っているご家族や同僚によれば、今は落ち着いていると聞いています。最近、僕が受け取った手紙では、拘置所の中で本を読みながら健康的な生活を送っていると書いてありました。会の活動が始まったことについては感謝している様子でしたが、やはり子供たちのことを一番心配していて、とにかく早く家に戻りたい一心のようです。彼の法廷での様子をもって、心象が悪いと評する記事もありましたが、無実の罪によって子供たちの面倒を見られなくなってしまうことを恐れていると考えれば、当然のことでしょう」(同前) だが、一審に続き二審でも有罪判決が下った現実はやはり重い。公判を傍聴してきた司法記者はこう指摘する。「確かに一審の立証に問題があったのは事実だが、二審で改めて、証拠を精査し直して自殺ストーリーはちゃんと排斥されている。何よりも、一階寝室のマットなどに残されていた唾液混じりの血痕と尿班が、朴被告が妻を窒息死させた決定的な証拠です。弁護側は唾液混じりの血痕について、『歯磨きにより粘膜や歯茎から出血した可能性がある』と主張していますが、荒唐無稽過ぎます」 前出の弁護士も、上告審で覆る可能性については懐疑的だ。「最高裁は、『重大な事実の誤認』があるなど、高裁判決が著しく正義に反すると判断すれば、これを破棄することはできます。第一審に差し戻さずに排斥された自殺ストーリーについて、『重大な事実の誤認』や『法令の違反』があるとされるかがポイントとなりそうですが、ハードルは低くはないでしょう」デイリー新潮取材班2021年6月7日 掲載
つまり、退職金が支払われる代わりに、このタイミングで縁を切らざるを得なかったというのだ。「このような温情ある対応は、ヒットメーカーとして会社に貢献してきた彼の実績も考慮されたと思います。朴被告は、健常者と聴覚障害者との恋愛を描いて映画化もされた『聲の形』や、累計3700万部を超えるファンタジー大作『七つの大罪』などを立ち上げた名物編集者として、会社に莫大な利益をもたらしてきました」(同前) 社内では朴被告が所属していた漫画部署などを中心に、今も無実を信じる社員が少なくないという。だが、社員でなくなった以上、これからは会社として支援することはできない。その代わりに、今度は学生時代の仲間たちが立ち上がったという話なのだ。「支援する会」の話に入る前に、事件と裁判の経過をおさらいしておく。密室内で起きた事件 事件の発生は5年前に遡る。16年8月9日午前3時頃、東京都文京区の一軒家から119番通報が入った。通報したのは朴被告本人。救急隊員が駆けつけると、玄関近くで心肺停止の状態で倒れている妻・佳菜子さん(当時38)が見つかり、病院に搬送されたが、まもなく死亡が確認された。 家の中にいたのは、夫妻と乳児も含む4人の子供たちだけだった。当初、警察の取り調べに対し、朴被告は「妻は階段から落ちた」と供述したが、やがて「首を吊って自殺した」と変遷させた。 検死の結果、死因は窒息死と特定された。1階寝室のマットレスやシーツからは、窒息死した際に出る、失禁した妻の尿や血液が混じった唾液が検出され、警視庁はこれらの証拠をもとに、朴被告が寝室で妻の首を絞めて殺害したと断定。発生から5ヶ月を経た17年1月に逮捕に踏み切ったのであった。 決定的な凶器や目撃証言がないこの事件の裁判では、現場に残されていた血痕や尿班、佳菜子さんの遺体にあった左前額部の挫裂創や、表皮剥脱などの証拠をもとに、「殺人」か「自殺」かで、検察側と弁護側が全面的に争ってきた。 検察側の主張は、朴被告が1階の寝室で佳菜子さんを腕で絞めて脳死状態に陥らせたというものだ。その後、殺人ではなかったと偽装するために、佳菜子さんを階段の途中まで担ぎ上げ、突き落とした過程において、佳菜子さんは息絶えたとされる。 一方、弁護側は、佳菜子さんが生後10カ月の末っ子に乱暴しようとしたことが原因で、1階寝室で朴被告と佳菜子さんがもみ合いになり、朴被告が腕を使って押さえ込んだことは認めつつも、殺していないと主張。押さえ込んだ後、佳菜子さんが一度、静かになったため、朴被告が末っ子の様子を見ていると、佳菜子さんが起き上がって包丁を持っていたので、末っ子を連れて2階の子供部屋に避難した。しばらくして、佳菜子さんも2階に上がってきてドアを開けようとしたが、危険を感じたため開けなかった。数十分後、子供部屋から出ると、階段の手すりに巻き付けたジャケットで首を吊って自死を遂げていた――という「自殺ストーリー」を展開した。 裁判員裁判となった19年3月の一審判決で、東京地裁は「(自殺ストーリーは)不自然な状況を想定しなければ説明できないか、そもそも合理的な説明が困難な事情ばかりが見られ、全体として見ると、現実的にあり得る可能性とは認められない」と弁護側の主張を退け、朴被告が寝室で妻の首を絞めて窒息死させたと認定し、懲役11年を言い渡した。「親友の言葉を信じたい」 今年1月の東京高裁判決も一審判決を支持し、控訴を棄却。この二審判決がきっかけとなり、朴被告が通っていた京都大学の同級生たちが中心になって、本格的な支援に向けて動き始めたという。呼びかけ人であり、共同代表の佐野大輔さん(44)が語る。「私は在学中から朴と仲良く、卒業後もお互い東京で仕事していた関係から、家族ぐるみで付き合いがありました。亡くなった佳菜子さんや子供たちのことも知っています。逮捕後は、残された4人の子供たちが心配で、1、2カ月おきに自宅を訪ねて、ご家族の様子を見守ってきました」(同前) 佐野さんは一貫して、朴被告の無罪を信じていたという。「逮捕前に、直接、彼から当日起きたことを事細かく説明を受けています。親友の言葉を信じる気持ちが揺らいだことはなく、一審で有罪判決が出た後も、二審でひっくり返るだろうと考えていました。ただ、裁判については、講談社が全面的にバックアップしていたので任せきりで、詳しい内容は知りませんでした」(同前) 支援する会を始めるきっかけとなったのが、二審判決後、朴被告を個人的に支援してきた講談社の同僚と出会いだった。「朴のお母さんの紹介でその方に会ってみると、彼も僕とまったく同じスタンスで、家族のサポートに徹してきた人でした。同僚の方は、『事件のことはよくわからないが、子供たちのためにできることをしてあげたい』、『お父さんの無実を信じている人がこんなにもいると伝えてあげたいという思いで、署名を集めている』と話すのです。それならば私もと思い、OBも参加しているサークルのフェイスブックで声がけをした。すると、同意してくれる仲間たちが次々と集まった。現在、会のメンバーは、サークルのOBが中心に36人。講談社の元同僚や朴の親族も入っています」(同前)一審判決にあった事実誤認 いざ正式に会を立ち上げ、活動していくにあたり、朴被告の担当弁護士の協力を得て、膨大な裁判資料を読み込んだという。すると、二審判決の“瑕疵”に気づいたという。「一審判決では、現場には15カ所、佳菜子さんの血痕があるとされ、その証拠に基づいて『自殺ストーリー』はありえないと退けられたのですが、二審では新証拠によって現場に28カ所の血痕があったことが判明しました。つまり、一審判決には重大な事実誤認があったのです。二審判決はその事実誤認を認めた上で、全く新しい理由をもって、自殺ストーリーを退け、有罪判決を下している」(同前) 血痕は自殺ストーリーが成立するか否かで、裁判で重要なポイントとなっていた。佳菜子さんの左前額部の挫裂創から流れ出たものとされているが、生きているうちのものだったか、もしくは脳死状態の時のものだったのかで、評価が変わるのである。なお、完全に死んだ状態だと心臓が止まり、血は流れない。判決では、この挫裂創は朴被告が佳菜子さんを階段から突き落とした際にできたもので、その時、佳菜子さんは脳死状態だったとされている。 確かに高裁判決には、「原判決の上記判断は、客観的事実及び経験則等に照らして不合理であり、上記のような現場の血痕の状況をもって、自殺ストーリーを排斥する根拠とすることはできない」と、一審の判断の誤りを指摘している箇所がある。 だが、新しい血痕の状況を検証し直し、遺体に血痕が付着していないのは不自然であること、首を括った際に利用したとされる階段の手すりの留め具にジャケットの繊維が検出されていないこと、首を締められた際に出る尿班が階段から検出されていないことなどを合わせ、改めて自殺ストーリーを排斥し、「原判決の判断理由には一部是認できないところがあるものの、本件殺人の事実を認定した原判決の判断は、結論において相当である」とした。 刑事裁判の経験が豊富な弁護士は、次のように解説する。「一般論として刑事事件の控訴審は、第一審の審理に不十分な点があると考えた場合、その点について自ら審理することも、事件を第一審裁判所に差し戻すこともできます。犯罪の成否自体に関する重要な事項は、本来、第一審で十分に審理すべきことですから、原則として差し戻すべきであり、このことは特に、裁判員裁判の対象となるような重大事件において強く当てはまるといえます。 今回のケースでは、朴被告の妻が自殺をしたという弁護側のストーリーを退けた第一審の判断について、控訴審は、前提事実を誤っているとした上で自ら審理し、自殺ストーリーはやはり排斥できるとしました。差戻しをしなかった理由としては、既に一定程度、自殺ストーリーについて裁判員を含む合議体で審理がされていたこともありますが、結局、結論は変わらないと判断されたことが大きかったと思われます」1カ月かけて準備したホームページ 佐野さんはこう訴える。「『市民を有罪にするのは市民の手で』が裁判員制度の大原則である以上、一審の判断に重要な誤りがあったことが判明した時点で、高裁は一審に差し戻すか、無罪判決を言い渡すべきです。一審の有罪理由を棄却し全く新しい理由をもって有罪判決を下すことは、高裁には許されていない。重大なルール違反だと我々は考えています」 こう語る佐野さんたちは、裁判を検証する膨大な資料を作成し、会のホームページにアップした。「朴鐘顕くんの裁判 2審判決文の構造と疑問点」というパワーポイントで作成された資料はA4用紙で18ページ、難解な法律用語などを平易な文章に直し、会の主張をまとめた「私たちが考える朴鐘顕くんの裁判に関しての重要な問題点」は、38ページにも及ぶ。「みな仕事をしながらでしたので、休日を費やしながらの大変な作業でした。ホームページを立ち上げたのが5月1日。署名は約600通集まっています。ホームページを見て賛同し、電話やメールで署名してくれる人が増えています。6月からは、署名サイト『change.org』を使用した、電子署名も始めました。目標としては、上告趣意書提出に添付するものとして、直筆で1000。もちろん、このような数字が裁判所にインパクトを与えられるものではないことはわかっています。まずは、このような公正ではない裁判の真実を多くの方に知っていただき、世論の動きを作りたいという思いです。お子さんたちもお父さんの無実を信じ、帰りを待っています」(同前)朴被告の様子は…… このような友人たちの動きを、朴被告はどのように受け止めているのだろうか。二審判決を記者も傍聴したが、朴被告の様子は極めて情緒不安定に見えた。主文言い渡しの後、「えっ、どうして」と叫び、その後も「してない! してない!」、「矛盾しているよ!」などと不規則発言を繰り返し、裁判長からたしなめられていた。「面会に行っているご家族や同僚によれば、今は落ち着いていると聞いています。最近、僕が受け取った手紙では、拘置所の中で本を読みながら健康的な生活を送っていると書いてありました。会の活動が始まったことについては感謝している様子でしたが、やはり子供たちのことを一番心配していて、とにかく早く家に戻りたい一心のようです。彼の法廷での様子をもって、心象が悪いと評する記事もありましたが、無実の罪によって子供たちの面倒を見られなくなってしまうことを恐れていると考えれば、当然のことでしょう」(同前) だが、一審に続き二審でも有罪判決が下った現実はやはり重い。公判を傍聴してきた司法記者はこう指摘する。「確かに一審の立証に問題があったのは事実だが、二審で改めて、証拠を精査し直して自殺ストーリーはちゃんと排斥されている。何よりも、一階寝室のマットなどに残されていた唾液混じりの血痕と尿班が、朴被告が妻を窒息死させた決定的な証拠です。弁護側は唾液混じりの血痕について、『歯磨きにより粘膜や歯茎から出血した可能性がある』と主張していますが、荒唐無稽過ぎます」 前出の弁護士も、上告審で覆る可能性については懐疑的だ。「最高裁は、『重大な事実の誤認』があるなど、高裁判決が著しく正義に反すると判断すれば、これを破棄することはできます。第一審に差し戻さずに排斥された自殺ストーリーについて、『重大な事実の誤認』や『法令の違反』があるとされるかがポイントとなりそうですが、ハードルは低くはないでしょう」デイリー新潮取材班2021年6月7日 掲載
「このような温情ある対応は、ヒットメーカーとして会社に貢献してきた彼の実績も考慮されたと思います。朴被告は、健常者と聴覚障害者との恋愛を描いて映画化もされた『聲の形』や、累計3700万部を超えるファンタジー大作『七つの大罪』などを立ち上げた名物編集者として、会社に莫大な利益をもたらしてきました」(同前) 社内では朴被告が所属していた漫画部署などを中心に、今も無実を信じる社員が少なくないという。だが、社員でなくなった以上、これからは会社として支援することはできない。その代わりに、今度は学生時代の仲間たちが立ち上がったという話なのだ。「支援する会」の話に入る前に、事件と裁判の経過をおさらいしておく。密室内で起きた事件 事件の発生は5年前に遡る。16年8月9日午前3時頃、東京都文京区の一軒家から119番通報が入った。通報したのは朴被告本人。救急隊員が駆けつけると、玄関近くで心肺停止の状態で倒れている妻・佳菜子さん(当時38)が見つかり、病院に搬送されたが、まもなく死亡が確認された。 家の中にいたのは、夫妻と乳児も含む4人の子供たちだけだった。当初、警察の取り調べに対し、朴被告は「妻は階段から落ちた」と供述したが、やがて「首を吊って自殺した」と変遷させた。 検死の結果、死因は窒息死と特定された。1階寝室のマットレスやシーツからは、窒息死した際に出る、失禁した妻の尿や血液が混じった唾液が検出され、警視庁はこれらの証拠をもとに、朴被告が寝室で妻の首を絞めて殺害したと断定。発生から5ヶ月を経た17年1月に逮捕に踏み切ったのであった。 決定的な凶器や目撃証言がないこの事件の裁判では、現場に残されていた血痕や尿班、佳菜子さんの遺体にあった左前額部の挫裂創や、表皮剥脱などの証拠をもとに、「殺人」か「自殺」かで、検察側と弁護側が全面的に争ってきた。 検察側の主張は、朴被告が1階の寝室で佳菜子さんを腕で絞めて脳死状態に陥らせたというものだ。その後、殺人ではなかったと偽装するために、佳菜子さんを階段の途中まで担ぎ上げ、突き落とした過程において、佳菜子さんは息絶えたとされる。 一方、弁護側は、佳菜子さんが生後10カ月の末っ子に乱暴しようとしたことが原因で、1階寝室で朴被告と佳菜子さんがもみ合いになり、朴被告が腕を使って押さえ込んだことは認めつつも、殺していないと主張。押さえ込んだ後、佳菜子さんが一度、静かになったため、朴被告が末っ子の様子を見ていると、佳菜子さんが起き上がって包丁を持っていたので、末っ子を連れて2階の子供部屋に避難した。しばらくして、佳菜子さんも2階に上がってきてドアを開けようとしたが、危険を感じたため開けなかった。数十分後、子供部屋から出ると、階段の手すりに巻き付けたジャケットで首を吊って自死を遂げていた――という「自殺ストーリー」を展開した。 裁判員裁判となった19年3月の一審判決で、東京地裁は「(自殺ストーリーは)不自然な状況を想定しなければ説明できないか、そもそも合理的な説明が困難な事情ばかりが見られ、全体として見ると、現実的にあり得る可能性とは認められない」と弁護側の主張を退け、朴被告が寝室で妻の首を絞めて窒息死させたと認定し、懲役11年を言い渡した。「親友の言葉を信じたい」 今年1月の東京高裁判決も一審判決を支持し、控訴を棄却。この二審判決がきっかけとなり、朴被告が通っていた京都大学の同級生たちが中心になって、本格的な支援に向けて動き始めたという。呼びかけ人であり、共同代表の佐野大輔さん(44)が語る。「私は在学中から朴と仲良く、卒業後もお互い東京で仕事していた関係から、家族ぐるみで付き合いがありました。亡くなった佳菜子さんや子供たちのことも知っています。逮捕後は、残された4人の子供たちが心配で、1、2カ月おきに自宅を訪ねて、ご家族の様子を見守ってきました」(同前) 佐野さんは一貫して、朴被告の無罪を信じていたという。「逮捕前に、直接、彼から当日起きたことを事細かく説明を受けています。親友の言葉を信じる気持ちが揺らいだことはなく、一審で有罪判決が出た後も、二審でひっくり返るだろうと考えていました。ただ、裁判については、講談社が全面的にバックアップしていたので任せきりで、詳しい内容は知りませんでした」(同前) 支援する会を始めるきっかけとなったのが、二審判決後、朴被告を個人的に支援してきた講談社の同僚と出会いだった。「朴のお母さんの紹介でその方に会ってみると、彼も僕とまったく同じスタンスで、家族のサポートに徹してきた人でした。同僚の方は、『事件のことはよくわからないが、子供たちのためにできることをしてあげたい』、『お父さんの無実を信じている人がこんなにもいると伝えてあげたいという思いで、署名を集めている』と話すのです。それならば私もと思い、OBも参加しているサークルのフェイスブックで声がけをした。すると、同意してくれる仲間たちが次々と集まった。現在、会のメンバーは、サークルのOBが中心に36人。講談社の元同僚や朴の親族も入っています」(同前)一審判決にあった事実誤認 いざ正式に会を立ち上げ、活動していくにあたり、朴被告の担当弁護士の協力を得て、膨大な裁判資料を読み込んだという。すると、二審判決の“瑕疵”に気づいたという。「一審判決では、現場には15カ所、佳菜子さんの血痕があるとされ、その証拠に基づいて『自殺ストーリー』はありえないと退けられたのですが、二審では新証拠によって現場に28カ所の血痕があったことが判明しました。つまり、一審判決には重大な事実誤認があったのです。二審判決はその事実誤認を認めた上で、全く新しい理由をもって、自殺ストーリーを退け、有罪判決を下している」(同前) 血痕は自殺ストーリーが成立するか否かで、裁判で重要なポイントとなっていた。佳菜子さんの左前額部の挫裂創から流れ出たものとされているが、生きているうちのものだったか、もしくは脳死状態の時のものだったのかで、評価が変わるのである。なお、完全に死んだ状態だと心臓が止まり、血は流れない。判決では、この挫裂創は朴被告が佳菜子さんを階段から突き落とした際にできたもので、その時、佳菜子さんは脳死状態だったとされている。 確かに高裁判決には、「原判決の上記判断は、客観的事実及び経験則等に照らして不合理であり、上記のような現場の血痕の状況をもって、自殺ストーリーを排斥する根拠とすることはできない」と、一審の判断の誤りを指摘している箇所がある。 だが、新しい血痕の状況を検証し直し、遺体に血痕が付着していないのは不自然であること、首を括った際に利用したとされる階段の手すりの留め具にジャケットの繊維が検出されていないこと、首を締められた際に出る尿班が階段から検出されていないことなどを合わせ、改めて自殺ストーリーを排斥し、「原判決の判断理由には一部是認できないところがあるものの、本件殺人の事実を認定した原判決の判断は、結論において相当である」とした。 刑事裁判の経験が豊富な弁護士は、次のように解説する。「一般論として刑事事件の控訴審は、第一審の審理に不十分な点があると考えた場合、その点について自ら審理することも、事件を第一審裁判所に差し戻すこともできます。犯罪の成否自体に関する重要な事項は、本来、第一審で十分に審理すべきことですから、原則として差し戻すべきであり、このことは特に、裁判員裁判の対象となるような重大事件において強く当てはまるといえます。 今回のケースでは、朴被告の妻が自殺をしたという弁護側のストーリーを退けた第一審の判断について、控訴審は、前提事実を誤っているとした上で自ら審理し、自殺ストーリーはやはり排斥できるとしました。差戻しをしなかった理由としては、既に一定程度、自殺ストーリーについて裁判員を含む合議体で審理がされていたこともありますが、結局、結論は変わらないと判断されたことが大きかったと思われます」1カ月かけて準備したホームページ 佐野さんはこう訴える。「『市民を有罪にするのは市民の手で』が裁判員制度の大原則である以上、一審の判断に重要な誤りがあったことが判明した時点で、高裁は一審に差し戻すか、無罪判決を言い渡すべきです。一審の有罪理由を棄却し全く新しい理由をもって有罪判決を下すことは、高裁には許されていない。重大なルール違反だと我々は考えています」 こう語る佐野さんたちは、裁判を検証する膨大な資料を作成し、会のホームページにアップした。「朴鐘顕くんの裁判 2審判決文の構造と疑問点」というパワーポイントで作成された資料はA4用紙で18ページ、難解な法律用語などを平易な文章に直し、会の主張をまとめた「私たちが考える朴鐘顕くんの裁判に関しての重要な問題点」は、38ページにも及ぶ。「みな仕事をしながらでしたので、休日を費やしながらの大変な作業でした。ホームページを立ち上げたのが5月1日。署名は約600通集まっています。ホームページを見て賛同し、電話やメールで署名してくれる人が増えています。6月からは、署名サイト『change.org』を使用した、電子署名も始めました。目標としては、上告趣意書提出に添付するものとして、直筆で1000。もちろん、このような数字が裁判所にインパクトを与えられるものではないことはわかっています。まずは、このような公正ではない裁判の真実を多くの方に知っていただき、世論の動きを作りたいという思いです。お子さんたちもお父さんの無実を信じ、帰りを待っています」(同前)朴被告の様子は…… このような友人たちの動きを、朴被告はどのように受け止めているのだろうか。二審判決を記者も傍聴したが、朴被告の様子は極めて情緒不安定に見えた。主文言い渡しの後、「えっ、どうして」と叫び、その後も「してない! してない!」、「矛盾しているよ!」などと不規則発言を繰り返し、裁判長からたしなめられていた。「面会に行っているご家族や同僚によれば、今は落ち着いていると聞いています。最近、僕が受け取った手紙では、拘置所の中で本を読みながら健康的な生活を送っていると書いてありました。会の活動が始まったことについては感謝している様子でしたが、やはり子供たちのことを一番心配していて、とにかく早く家に戻りたい一心のようです。彼の法廷での様子をもって、心象が悪いと評する記事もありましたが、無実の罪によって子供たちの面倒を見られなくなってしまうことを恐れていると考えれば、当然のことでしょう」(同前) だが、一審に続き二審でも有罪判決が下った現実はやはり重い。公判を傍聴してきた司法記者はこう指摘する。「確かに一審の立証に問題があったのは事実だが、二審で改めて、証拠を精査し直して自殺ストーリーはちゃんと排斥されている。何よりも、一階寝室のマットなどに残されていた唾液混じりの血痕と尿班が、朴被告が妻を窒息死させた決定的な証拠です。弁護側は唾液混じりの血痕について、『歯磨きにより粘膜や歯茎から出血した可能性がある』と主張していますが、荒唐無稽過ぎます」 前出の弁護士も、上告審で覆る可能性については懐疑的だ。「最高裁は、『重大な事実の誤認』があるなど、高裁判決が著しく正義に反すると判断すれば、これを破棄することはできます。第一審に差し戻さずに排斥された自殺ストーリーについて、『重大な事実の誤認』や『法令の違反』があるとされるかがポイントとなりそうですが、ハードルは低くはないでしょう」デイリー新潮取材班2021年6月7日 掲載
社内では朴被告が所属していた漫画部署などを中心に、今も無実を信じる社員が少なくないという。だが、社員でなくなった以上、これからは会社として支援することはできない。その代わりに、今度は学生時代の仲間たちが立ち上がったという話なのだ。「支援する会」の話に入る前に、事件と裁判の経過をおさらいしておく。密室内で起きた事件 事件の発生は5年前に遡る。16年8月9日午前3時頃、東京都文京区の一軒家から119番通報が入った。通報したのは朴被告本人。救急隊員が駆けつけると、玄関近くで心肺停止の状態で倒れている妻・佳菜子さん(当時38)が見つかり、病院に搬送されたが、まもなく死亡が確認された。 家の中にいたのは、夫妻と乳児も含む4人の子供たちだけだった。当初、警察の取り調べに対し、朴被告は「妻は階段から落ちた」と供述したが、やがて「首を吊って自殺した」と変遷させた。 検死の結果、死因は窒息死と特定された。1階寝室のマットレスやシーツからは、窒息死した際に出る、失禁した妻の尿や血液が混じった唾液が検出され、警視庁はこれらの証拠をもとに、朴被告が寝室で妻の首を絞めて殺害したと断定。発生から5ヶ月を経た17年1月に逮捕に踏み切ったのであった。 決定的な凶器や目撃証言がないこの事件の裁判では、現場に残されていた血痕や尿班、佳菜子さんの遺体にあった左前額部の挫裂創や、表皮剥脱などの証拠をもとに、「殺人」か「自殺」かで、検察側と弁護側が全面的に争ってきた。 検察側の主張は、朴被告が1階の寝室で佳菜子さんを腕で絞めて脳死状態に陥らせたというものだ。その後、殺人ではなかったと偽装するために、佳菜子さんを階段の途中まで担ぎ上げ、突き落とした過程において、佳菜子さんは息絶えたとされる。 一方、弁護側は、佳菜子さんが生後10カ月の末っ子に乱暴しようとしたことが原因で、1階寝室で朴被告と佳菜子さんがもみ合いになり、朴被告が腕を使って押さえ込んだことは認めつつも、殺していないと主張。押さえ込んだ後、佳菜子さんが一度、静かになったため、朴被告が末っ子の様子を見ていると、佳菜子さんが起き上がって包丁を持っていたので、末っ子を連れて2階の子供部屋に避難した。しばらくして、佳菜子さんも2階に上がってきてドアを開けようとしたが、危険を感じたため開けなかった。数十分後、子供部屋から出ると、階段の手すりに巻き付けたジャケットで首を吊って自死を遂げていた――という「自殺ストーリー」を展開した。 裁判員裁判となった19年3月の一審判決で、東京地裁は「(自殺ストーリーは)不自然な状況を想定しなければ説明できないか、そもそも合理的な説明が困難な事情ばかりが見られ、全体として見ると、現実的にあり得る可能性とは認められない」と弁護側の主張を退け、朴被告が寝室で妻の首を絞めて窒息死させたと認定し、懲役11年を言い渡した。「親友の言葉を信じたい」 今年1月の東京高裁判決も一審判決を支持し、控訴を棄却。この二審判決がきっかけとなり、朴被告が通っていた京都大学の同級生たちが中心になって、本格的な支援に向けて動き始めたという。呼びかけ人であり、共同代表の佐野大輔さん(44)が語る。「私は在学中から朴と仲良く、卒業後もお互い東京で仕事していた関係から、家族ぐるみで付き合いがありました。亡くなった佳菜子さんや子供たちのことも知っています。逮捕後は、残された4人の子供たちが心配で、1、2カ月おきに自宅を訪ねて、ご家族の様子を見守ってきました」(同前) 佐野さんは一貫して、朴被告の無罪を信じていたという。「逮捕前に、直接、彼から当日起きたことを事細かく説明を受けています。親友の言葉を信じる気持ちが揺らいだことはなく、一審で有罪判決が出た後も、二審でひっくり返るだろうと考えていました。ただ、裁判については、講談社が全面的にバックアップしていたので任せきりで、詳しい内容は知りませんでした」(同前) 支援する会を始めるきっかけとなったのが、二審判決後、朴被告を個人的に支援してきた講談社の同僚と出会いだった。「朴のお母さんの紹介でその方に会ってみると、彼も僕とまったく同じスタンスで、家族のサポートに徹してきた人でした。同僚の方は、『事件のことはよくわからないが、子供たちのためにできることをしてあげたい』、『お父さんの無実を信じている人がこんなにもいると伝えてあげたいという思いで、署名を集めている』と話すのです。それならば私もと思い、OBも参加しているサークルのフェイスブックで声がけをした。すると、同意してくれる仲間たちが次々と集まった。現在、会のメンバーは、サークルのOBが中心に36人。講談社の元同僚や朴の親族も入っています」(同前)一審判決にあった事実誤認 いざ正式に会を立ち上げ、活動していくにあたり、朴被告の担当弁護士の協力を得て、膨大な裁判資料を読み込んだという。すると、二審判決の“瑕疵”に気づいたという。「一審判決では、現場には15カ所、佳菜子さんの血痕があるとされ、その証拠に基づいて『自殺ストーリー』はありえないと退けられたのですが、二審では新証拠によって現場に28カ所の血痕があったことが判明しました。つまり、一審判決には重大な事実誤認があったのです。二審判決はその事実誤認を認めた上で、全く新しい理由をもって、自殺ストーリーを退け、有罪判決を下している」(同前) 血痕は自殺ストーリーが成立するか否かで、裁判で重要なポイントとなっていた。佳菜子さんの左前額部の挫裂創から流れ出たものとされているが、生きているうちのものだったか、もしくは脳死状態の時のものだったのかで、評価が変わるのである。なお、完全に死んだ状態だと心臓が止まり、血は流れない。判決では、この挫裂創は朴被告が佳菜子さんを階段から突き落とした際にできたもので、その時、佳菜子さんは脳死状態だったとされている。 確かに高裁判決には、「原判決の上記判断は、客観的事実及び経験則等に照らして不合理であり、上記のような現場の血痕の状況をもって、自殺ストーリーを排斥する根拠とすることはできない」と、一審の判断の誤りを指摘している箇所がある。 だが、新しい血痕の状況を検証し直し、遺体に血痕が付着していないのは不自然であること、首を括った際に利用したとされる階段の手すりの留め具にジャケットの繊維が検出されていないこと、首を締められた際に出る尿班が階段から検出されていないことなどを合わせ、改めて自殺ストーリーを排斥し、「原判決の判断理由には一部是認できないところがあるものの、本件殺人の事実を認定した原判決の判断は、結論において相当である」とした。 刑事裁判の経験が豊富な弁護士は、次のように解説する。「一般論として刑事事件の控訴審は、第一審の審理に不十分な点があると考えた場合、その点について自ら審理することも、事件を第一審裁判所に差し戻すこともできます。犯罪の成否自体に関する重要な事項は、本来、第一審で十分に審理すべきことですから、原則として差し戻すべきであり、このことは特に、裁判員裁判の対象となるような重大事件において強く当てはまるといえます。 今回のケースでは、朴被告の妻が自殺をしたという弁護側のストーリーを退けた第一審の判断について、控訴審は、前提事実を誤っているとした上で自ら審理し、自殺ストーリーはやはり排斥できるとしました。差戻しをしなかった理由としては、既に一定程度、自殺ストーリーについて裁判員を含む合議体で審理がされていたこともありますが、結局、結論は変わらないと判断されたことが大きかったと思われます」1カ月かけて準備したホームページ 佐野さんはこう訴える。「『市民を有罪にするのは市民の手で』が裁判員制度の大原則である以上、一審の判断に重要な誤りがあったことが判明した時点で、高裁は一審に差し戻すか、無罪判決を言い渡すべきです。一審の有罪理由を棄却し全く新しい理由をもって有罪判決を下すことは、高裁には許されていない。重大なルール違反だと我々は考えています」 こう語る佐野さんたちは、裁判を検証する膨大な資料を作成し、会のホームページにアップした。「朴鐘顕くんの裁判 2審判決文の構造と疑問点」というパワーポイントで作成された資料はA4用紙で18ページ、難解な法律用語などを平易な文章に直し、会の主張をまとめた「私たちが考える朴鐘顕くんの裁判に関しての重要な問題点」は、38ページにも及ぶ。「みな仕事をしながらでしたので、休日を費やしながらの大変な作業でした。ホームページを立ち上げたのが5月1日。署名は約600通集まっています。ホームページを見て賛同し、電話やメールで署名してくれる人が増えています。6月からは、署名サイト『change.org』を使用した、電子署名も始めました。目標としては、上告趣意書提出に添付するものとして、直筆で1000。もちろん、このような数字が裁判所にインパクトを与えられるものではないことはわかっています。まずは、このような公正ではない裁判の真実を多くの方に知っていただき、世論の動きを作りたいという思いです。お子さんたちもお父さんの無実を信じ、帰りを待っています」(同前)朴被告の様子は…… このような友人たちの動きを、朴被告はどのように受け止めているのだろうか。二審判決を記者も傍聴したが、朴被告の様子は極めて情緒不安定に見えた。主文言い渡しの後、「えっ、どうして」と叫び、その後も「してない! してない!」、「矛盾しているよ!」などと不規則発言を繰り返し、裁判長からたしなめられていた。「面会に行っているご家族や同僚によれば、今は落ち着いていると聞いています。最近、僕が受け取った手紙では、拘置所の中で本を読みながら健康的な生活を送っていると書いてありました。会の活動が始まったことについては感謝している様子でしたが、やはり子供たちのことを一番心配していて、とにかく早く家に戻りたい一心のようです。彼の法廷での様子をもって、心象が悪いと評する記事もありましたが、無実の罪によって子供たちの面倒を見られなくなってしまうことを恐れていると考えれば、当然のことでしょう」(同前) だが、一審に続き二審でも有罪判決が下った現実はやはり重い。公判を傍聴してきた司法記者はこう指摘する。「確かに一審の立証に問題があったのは事実だが、二審で改めて、証拠を精査し直して自殺ストーリーはちゃんと排斥されている。何よりも、一階寝室のマットなどに残されていた唾液混じりの血痕と尿班が、朴被告が妻を窒息死させた決定的な証拠です。弁護側は唾液混じりの血痕について、『歯磨きにより粘膜や歯茎から出血した可能性がある』と主張していますが、荒唐無稽過ぎます」 前出の弁護士も、上告審で覆る可能性については懐疑的だ。「最高裁は、『重大な事実の誤認』があるなど、高裁判決が著しく正義に反すると判断すれば、これを破棄することはできます。第一審に差し戻さずに排斥された自殺ストーリーについて、『重大な事実の誤認』や『法令の違反』があるとされるかがポイントとなりそうですが、ハードルは低くはないでしょう」デイリー新潮取材班2021年6月7日 掲載
事件の発生は5年前に遡る。16年8月9日午前3時頃、東京都文京区の一軒家から119番通報が入った。通報したのは朴被告本人。救急隊員が駆けつけると、玄関近くで心肺停止の状態で倒れている妻・佳菜子さん(当時38)が見つかり、病院に搬送されたが、まもなく死亡が確認された。 家の中にいたのは、夫妻と乳児も含む4人の子供たちだけだった。当初、警察の取り調べに対し、朴被告は「妻は階段から落ちた」と供述したが、やがて「首を吊って自殺した」と変遷させた。 検死の結果、死因は窒息死と特定された。1階寝室のマットレスやシーツからは、窒息死した際に出る、失禁した妻の尿や血液が混じった唾液が検出され、警視庁はこれらの証拠をもとに、朴被告が寝室で妻の首を絞めて殺害したと断定。発生から5ヶ月を経た17年1月に逮捕に踏み切ったのであった。 決定的な凶器や目撃証言がないこの事件の裁判では、現場に残されていた血痕や尿班、佳菜子さんの遺体にあった左前額部の挫裂創や、表皮剥脱などの証拠をもとに、「殺人」か「自殺」かで、検察側と弁護側が全面的に争ってきた。 検察側の主張は、朴被告が1階の寝室で佳菜子さんを腕で絞めて脳死状態に陥らせたというものだ。その後、殺人ではなかったと偽装するために、佳菜子さんを階段の途中まで担ぎ上げ、突き落とした過程において、佳菜子さんは息絶えたとされる。 一方、弁護側は、佳菜子さんが生後10カ月の末っ子に乱暴しようとしたことが原因で、1階寝室で朴被告と佳菜子さんがもみ合いになり、朴被告が腕を使って押さえ込んだことは認めつつも、殺していないと主張。押さえ込んだ後、佳菜子さんが一度、静かになったため、朴被告が末っ子の様子を見ていると、佳菜子さんが起き上がって包丁を持っていたので、末っ子を連れて2階の子供部屋に避難した。しばらくして、佳菜子さんも2階に上がってきてドアを開けようとしたが、危険を感じたため開けなかった。数十分後、子供部屋から出ると、階段の手すりに巻き付けたジャケットで首を吊って自死を遂げていた――という「自殺ストーリー」を展開した。 裁判員裁判となった19年3月の一審判決で、東京地裁は「(自殺ストーリーは)不自然な状況を想定しなければ説明できないか、そもそも合理的な説明が困難な事情ばかりが見られ、全体として見ると、現実的にあり得る可能性とは認められない」と弁護側の主張を退け、朴被告が寝室で妻の首を絞めて窒息死させたと認定し、懲役11年を言い渡した。「親友の言葉を信じたい」 今年1月の東京高裁判決も一審判決を支持し、控訴を棄却。この二審判決がきっかけとなり、朴被告が通っていた京都大学の同級生たちが中心になって、本格的な支援に向けて動き始めたという。呼びかけ人であり、共同代表の佐野大輔さん(44)が語る。「私は在学中から朴と仲良く、卒業後もお互い東京で仕事していた関係から、家族ぐるみで付き合いがありました。亡くなった佳菜子さんや子供たちのことも知っています。逮捕後は、残された4人の子供たちが心配で、1、2カ月おきに自宅を訪ねて、ご家族の様子を見守ってきました」(同前) 佐野さんは一貫して、朴被告の無罪を信じていたという。「逮捕前に、直接、彼から当日起きたことを事細かく説明を受けています。親友の言葉を信じる気持ちが揺らいだことはなく、一審で有罪判決が出た後も、二審でひっくり返るだろうと考えていました。ただ、裁判については、講談社が全面的にバックアップしていたので任せきりで、詳しい内容は知りませんでした」(同前) 支援する会を始めるきっかけとなったのが、二審判決後、朴被告を個人的に支援してきた講談社の同僚と出会いだった。「朴のお母さんの紹介でその方に会ってみると、彼も僕とまったく同じスタンスで、家族のサポートに徹してきた人でした。同僚の方は、『事件のことはよくわからないが、子供たちのためにできることをしてあげたい』、『お父さんの無実を信じている人がこんなにもいると伝えてあげたいという思いで、署名を集めている』と話すのです。それならば私もと思い、OBも参加しているサークルのフェイスブックで声がけをした。すると、同意してくれる仲間たちが次々と集まった。現在、会のメンバーは、サークルのOBが中心に36人。講談社の元同僚や朴の親族も入っています」(同前)一審判決にあった事実誤認 いざ正式に会を立ち上げ、活動していくにあたり、朴被告の担当弁護士の協力を得て、膨大な裁判資料を読み込んだという。すると、二審判決の“瑕疵”に気づいたという。「一審判決では、現場には15カ所、佳菜子さんの血痕があるとされ、その証拠に基づいて『自殺ストーリー』はありえないと退けられたのですが、二審では新証拠によって現場に28カ所の血痕があったことが判明しました。つまり、一審判決には重大な事実誤認があったのです。二審判決はその事実誤認を認めた上で、全く新しい理由をもって、自殺ストーリーを退け、有罪判決を下している」(同前) 血痕は自殺ストーリーが成立するか否かで、裁判で重要なポイントとなっていた。佳菜子さんの左前額部の挫裂創から流れ出たものとされているが、生きているうちのものだったか、もしくは脳死状態の時のものだったのかで、評価が変わるのである。なお、完全に死んだ状態だと心臓が止まり、血は流れない。判決では、この挫裂創は朴被告が佳菜子さんを階段から突き落とした際にできたもので、その時、佳菜子さんは脳死状態だったとされている。 確かに高裁判決には、「原判決の上記判断は、客観的事実及び経験則等に照らして不合理であり、上記のような現場の血痕の状況をもって、自殺ストーリーを排斥する根拠とすることはできない」と、一審の判断の誤りを指摘している箇所がある。 だが、新しい血痕の状況を検証し直し、遺体に血痕が付着していないのは不自然であること、首を括った際に利用したとされる階段の手すりの留め具にジャケットの繊維が検出されていないこと、首を締められた際に出る尿班が階段から検出されていないことなどを合わせ、改めて自殺ストーリーを排斥し、「原判決の判断理由には一部是認できないところがあるものの、本件殺人の事実を認定した原判決の判断は、結論において相当である」とした。 刑事裁判の経験が豊富な弁護士は、次のように解説する。「一般論として刑事事件の控訴審は、第一審の審理に不十分な点があると考えた場合、その点について自ら審理することも、事件を第一審裁判所に差し戻すこともできます。犯罪の成否自体に関する重要な事項は、本来、第一審で十分に審理すべきことですから、原則として差し戻すべきであり、このことは特に、裁判員裁判の対象となるような重大事件において強く当てはまるといえます。 今回のケースでは、朴被告の妻が自殺をしたという弁護側のストーリーを退けた第一審の判断について、控訴審は、前提事実を誤っているとした上で自ら審理し、自殺ストーリーはやはり排斥できるとしました。差戻しをしなかった理由としては、既に一定程度、自殺ストーリーについて裁判員を含む合議体で審理がされていたこともありますが、結局、結論は変わらないと判断されたことが大きかったと思われます」1カ月かけて準備したホームページ 佐野さんはこう訴える。「『市民を有罪にするのは市民の手で』が裁判員制度の大原則である以上、一審の判断に重要な誤りがあったことが判明した時点で、高裁は一審に差し戻すか、無罪判決を言い渡すべきです。一審の有罪理由を棄却し全く新しい理由をもって有罪判決を下すことは、高裁には許されていない。重大なルール違反だと我々は考えています」 こう語る佐野さんたちは、裁判を検証する膨大な資料を作成し、会のホームページにアップした。「朴鐘顕くんの裁判 2審判決文の構造と疑問点」というパワーポイントで作成された資料はA4用紙で18ページ、難解な法律用語などを平易な文章に直し、会の主張をまとめた「私たちが考える朴鐘顕くんの裁判に関しての重要な問題点」は、38ページにも及ぶ。「みな仕事をしながらでしたので、休日を費やしながらの大変な作業でした。ホームページを立ち上げたのが5月1日。署名は約600通集まっています。ホームページを見て賛同し、電話やメールで署名してくれる人が増えています。6月からは、署名サイト『change.org』を使用した、電子署名も始めました。目標としては、上告趣意書提出に添付するものとして、直筆で1000。もちろん、このような数字が裁判所にインパクトを与えられるものではないことはわかっています。まずは、このような公正ではない裁判の真実を多くの方に知っていただき、世論の動きを作りたいという思いです。お子さんたちもお父さんの無実を信じ、帰りを待っています」(同前)朴被告の様子は…… このような友人たちの動きを、朴被告はどのように受け止めているのだろうか。二審判決を記者も傍聴したが、朴被告の様子は極めて情緒不安定に見えた。主文言い渡しの後、「えっ、どうして」と叫び、その後も「してない! してない!」、「矛盾しているよ!」などと不規則発言を繰り返し、裁判長からたしなめられていた。「面会に行っているご家族や同僚によれば、今は落ち着いていると聞いています。最近、僕が受け取った手紙では、拘置所の中で本を読みながら健康的な生活を送っていると書いてありました。会の活動が始まったことについては感謝している様子でしたが、やはり子供たちのことを一番心配していて、とにかく早く家に戻りたい一心のようです。彼の法廷での様子をもって、心象が悪いと評する記事もありましたが、無実の罪によって子供たちの面倒を見られなくなってしまうことを恐れていると考えれば、当然のことでしょう」(同前) だが、一審に続き二審でも有罪判決が下った現実はやはり重い。公判を傍聴してきた司法記者はこう指摘する。「確かに一審の立証に問題があったのは事実だが、二審で改めて、証拠を精査し直して自殺ストーリーはちゃんと排斥されている。何よりも、一階寝室のマットなどに残されていた唾液混じりの血痕と尿班が、朴被告が妻を窒息死させた決定的な証拠です。弁護側は唾液混じりの血痕について、『歯磨きにより粘膜や歯茎から出血した可能性がある』と主張していますが、荒唐無稽過ぎます」 前出の弁護士も、上告審で覆る可能性については懐疑的だ。「最高裁は、『重大な事実の誤認』があるなど、高裁判決が著しく正義に反すると判断すれば、これを破棄することはできます。第一審に差し戻さずに排斥された自殺ストーリーについて、『重大な事実の誤認』や『法令の違反』があるとされるかがポイントとなりそうですが、ハードルは低くはないでしょう」デイリー新潮取材班2021年6月7日 掲載
家の中にいたのは、夫妻と乳児も含む4人の子供たちだけだった。当初、警察の取り調べに対し、朴被告は「妻は階段から落ちた」と供述したが、やがて「首を吊って自殺した」と変遷させた。 検死の結果、死因は窒息死と特定された。1階寝室のマットレスやシーツからは、窒息死した際に出る、失禁した妻の尿や血液が混じった唾液が検出され、警視庁はこれらの証拠をもとに、朴被告が寝室で妻の首を絞めて殺害したと断定。発生から5ヶ月を経た17年1月に逮捕に踏み切ったのであった。 決定的な凶器や目撃証言がないこの事件の裁判では、現場に残されていた血痕や尿班、佳菜子さんの遺体にあった左前額部の挫裂創や、表皮剥脱などの証拠をもとに、「殺人」か「自殺」かで、検察側と弁護側が全面的に争ってきた。 検察側の主張は、朴被告が1階の寝室で佳菜子さんを腕で絞めて脳死状態に陥らせたというものだ。その後、殺人ではなかったと偽装するために、佳菜子さんを階段の途中まで担ぎ上げ、突き落とした過程において、佳菜子さんは息絶えたとされる。 一方、弁護側は、佳菜子さんが生後10カ月の末っ子に乱暴しようとしたことが原因で、1階寝室で朴被告と佳菜子さんがもみ合いになり、朴被告が腕を使って押さえ込んだことは認めつつも、殺していないと主張。押さえ込んだ後、佳菜子さんが一度、静かになったため、朴被告が末っ子の様子を見ていると、佳菜子さんが起き上がって包丁を持っていたので、末っ子を連れて2階の子供部屋に避難した。しばらくして、佳菜子さんも2階に上がってきてドアを開けようとしたが、危険を感じたため開けなかった。数十分後、子供部屋から出ると、階段の手すりに巻き付けたジャケットで首を吊って自死を遂げていた――という「自殺ストーリー」を展開した。 裁判員裁判となった19年3月の一審判決で、東京地裁は「(自殺ストーリーは)不自然な状況を想定しなければ説明できないか、そもそも合理的な説明が困難な事情ばかりが見られ、全体として見ると、現実的にあり得る可能性とは認められない」と弁護側の主張を退け、朴被告が寝室で妻の首を絞めて窒息死させたと認定し、懲役11年を言い渡した。「親友の言葉を信じたい」 今年1月の東京高裁判決も一審判決を支持し、控訴を棄却。この二審判決がきっかけとなり、朴被告が通っていた京都大学の同級生たちが中心になって、本格的な支援に向けて動き始めたという。呼びかけ人であり、共同代表の佐野大輔さん(44)が語る。「私は在学中から朴と仲良く、卒業後もお互い東京で仕事していた関係から、家族ぐるみで付き合いがありました。亡くなった佳菜子さんや子供たちのことも知っています。逮捕後は、残された4人の子供たちが心配で、1、2カ月おきに自宅を訪ねて、ご家族の様子を見守ってきました」(同前) 佐野さんは一貫して、朴被告の無罪を信じていたという。「逮捕前に、直接、彼から当日起きたことを事細かく説明を受けています。親友の言葉を信じる気持ちが揺らいだことはなく、一審で有罪判決が出た後も、二審でひっくり返るだろうと考えていました。ただ、裁判については、講談社が全面的にバックアップしていたので任せきりで、詳しい内容は知りませんでした」(同前) 支援する会を始めるきっかけとなったのが、二審判決後、朴被告を個人的に支援してきた講談社の同僚と出会いだった。「朴のお母さんの紹介でその方に会ってみると、彼も僕とまったく同じスタンスで、家族のサポートに徹してきた人でした。同僚の方は、『事件のことはよくわからないが、子供たちのためにできることをしてあげたい』、『お父さんの無実を信じている人がこんなにもいると伝えてあげたいという思いで、署名を集めている』と話すのです。それならば私もと思い、OBも参加しているサークルのフェイスブックで声がけをした。すると、同意してくれる仲間たちが次々と集まった。現在、会のメンバーは、サークルのOBが中心に36人。講談社の元同僚や朴の親族も入っています」(同前)一審判決にあった事実誤認 いざ正式に会を立ち上げ、活動していくにあたり、朴被告の担当弁護士の協力を得て、膨大な裁判資料を読み込んだという。すると、二審判決の“瑕疵”に気づいたという。「一審判決では、現場には15カ所、佳菜子さんの血痕があるとされ、その証拠に基づいて『自殺ストーリー』はありえないと退けられたのですが、二審では新証拠によって現場に28カ所の血痕があったことが判明しました。つまり、一審判決には重大な事実誤認があったのです。二審判決はその事実誤認を認めた上で、全く新しい理由をもって、自殺ストーリーを退け、有罪判決を下している」(同前) 血痕は自殺ストーリーが成立するか否かで、裁判で重要なポイントとなっていた。佳菜子さんの左前額部の挫裂創から流れ出たものとされているが、生きているうちのものだったか、もしくは脳死状態の時のものだったのかで、評価が変わるのである。なお、完全に死んだ状態だと心臓が止まり、血は流れない。判決では、この挫裂創は朴被告が佳菜子さんを階段から突き落とした際にできたもので、その時、佳菜子さんは脳死状態だったとされている。 確かに高裁判決には、「原判決の上記判断は、客観的事実及び経験則等に照らして不合理であり、上記のような現場の血痕の状況をもって、自殺ストーリーを排斥する根拠とすることはできない」と、一審の判断の誤りを指摘している箇所がある。 だが、新しい血痕の状況を検証し直し、遺体に血痕が付着していないのは不自然であること、首を括った際に利用したとされる階段の手すりの留め具にジャケットの繊維が検出されていないこと、首を締められた際に出る尿班が階段から検出されていないことなどを合わせ、改めて自殺ストーリーを排斥し、「原判決の判断理由には一部是認できないところがあるものの、本件殺人の事実を認定した原判決の判断は、結論において相当である」とした。 刑事裁判の経験が豊富な弁護士は、次のように解説する。「一般論として刑事事件の控訴審は、第一審の審理に不十分な点があると考えた場合、その点について自ら審理することも、事件を第一審裁判所に差し戻すこともできます。犯罪の成否自体に関する重要な事項は、本来、第一審で十分に審理すべきことですから、原則として差し戻すべきであり、このことは特に、裁判員裁判の対象となるような重大事件において強く当てはまるといえます。 今回のケースでは、朴被告の妻が自殺をしたという弁護側のストーリーを退けた第一審の判断について、控訴審は、前提事実を誤っているとした上で自ら審理し、自殺ストーリーはやはり排斥できるとしました。差戻しをしなかった理由としては、既に一定程度、自殺ストーリーについて裁判員を含む合議体で審理がされていたこともありますが、結局、結論は変わらないと判断されたことが大きかったと思われます」1カ月かけて準備したホームページ 佐野さんはこう訴える。「『市民を有罪にするのは市民の手で』が裁判員制度の大原則である以上、一審の判断に重要な誤りがあったことが判明した時点で、高裁は一審に差し戻すか、無罪判決を言い渡すべきです。一審の有罪理由を棄却し全く新しい理由をもって有罪判決を下すことは、高裁には許されていない。重大なルール違反だと我々は考えています」 こう語る佐野さんたちは、裁判を検証する膨大な資料を作成し、会のホームページにアップした。「朴鐘顕くんの裁判 2審判決文の構造と疑問点」というパワーポイントで作成された資料はA4用紙で18ページ、難解な法律用語などを平易な文章に直し、会の主張をまとめた「私たちが考える朴鐘顕くんの裁判に関しての重要な問題点」は、38ページにも及ぶ。「みな仕事をしながらでしたので、休日を費やしながらの大変な作業でした。ホームページを立ち上げたのが5月1日。署名は約600通集まっています。ホームページを見て賛同し、電話やメールで署名してくれる人が増えています。6月からは、署名サイト『change.org』を使用した、電子署名も始めました。目標としては、上告趣意書提出に添付するものとして、直筆で1000。もちろん、このような数字が裁判所にインパクトを与えられるものではないことはわかっています。まずは、このような公正ではない裁判の真実を多くの方に知っていただき、世論の動きを作りたいという思いです。お子さんたちもお父さんの無実を信じ、帰りを待っています」(同前)朴被告の様子は…… このような友人たちの動きを、朴被告はどのように受け止めているのだろうか。二審判決を記者も傍聴したが、朴被告の様子は極めて情緒不安定に見えた。主文言い渡しの後、「えっ、どうして」と叫び、その後も「してない! してない!」、「矛盾しているよ!」などと不規則発言を繰り返し、裁判長からたしなめられていた。「面会に行っているご家族や同僚によれば、今は落ち着いていると聞いています。最近、僕が受け取った手紙では、拘置所の中で本を読みながら健康的な生活を送っていると書いてありました。会の活動が始まったことについては感謝している様子でしたが、やはり子供たちのことを一番心配していて、とにかく早く家に戻りたい一心のようです。彼の法廷での様子をもって、心象が悪いと評する記事もありましたが、無実の罪によって子供たちの面倒を見られなくなってしまうことを恐れていると考えれば、当然のことでしょう」(同前) だが、一審に続き二審でも有罪判決が下った現実はやはり重い。公判を傍聴してきた司法記者はこう指摘する。「確かに一審の立証に問題があったのは事実だが、二審で改めて、証拠を精査し直して自殺ストーリーはちゃんと排斥されている。何よりも、一階寝室のマットなどに残されていた唾液混じりの血痕と尿班が、朴被告が妻を窒息死させた決定的な証拠です。弁護側は唾液混じりの血痕について、『歯磨きにより粘膜や歯茎から出血した可能性がある』と主張していますが、荒唐無稽過ぎます」 前出の弁護士も、上告審で覆る可能性については懐疑的だ。「最高裁は、『重大な事実の誤認』があるなど、高裁判決が著しく正義に反すると判断すれば、これを破棄することはできます。第一審に差し戻さずに排斥された自殺ストーリーについて、『重大な事実の誤認』や『法令の違反』があるとされるかがポイントとなりそうですが、ハードルは低くはないでしょう」デイリー新潮取材班2021年6月7日 掲載
検死の結果、死因は窒息死と特定された。1階寝室のマットレスやシーツからは、窒息死した際に出る、失禁した妻の尿や血液が混じった唾液が検出され、警視庁はこれらの証拠をもとに、朴被告が寝室で妻の首を絞めて殺害したと断定。発生から5ヶ月を経た17年1月に逮捕に踏み切ったのであった。 決定的な凶器や目撃証言がないこの事件の裁判では、現場に残されていた血痕や尿班、佳菜子さんの遺体にあった左前額部の挫裂創や、表皮剥脱などの証拠をもとに、「殺人」か「自殺」かで、検察側と弁護側が全面的に争ってきた。 検察側の主張は、朴被告が1階の寝室で佳菜子さんを腕で絞めて脳死状態に陥らせたというものだ。その後、殺人ではなかったと偽装するために、佳菜子さんを階段の途中まで担ぎ上げ、突き落とした過程において、佳菜子さんは息絶えたとされる。 一方、弁護側は、佳菜子さんが生後10カ月の末っ子に乱暴しようとしたことが原因で、1階寝室で朴被告と佳菜子さんがもみ合いになり、朴被告が腕を使って押さえ込んだことは認めつつも、殺していないと主張。押さえ込んだ後、佳菜子さんが一度、静かになったため、朴被告が末っ子の様子を見ていると、佳菜子さんが起き上がって包丁を持っていたので、末っ子を連れて2階の子供部屋に避難した。しばらくして、佳菜子さんも2階に上がってきてドアを開けようとしたが、危険を感じたため開けなかった。数十分後、子供部屋から出ると、階段の手すりに巻き付けたジャケットで首を吊って自死を遂げていた――という「自殺ストーリー」を展開した。 裁判員裁判となった19年3月の一審判決で、東京地裁は「(自殺ストーリーは)不自然な状況を想定しなければ説明できないか、そもそも合理的な説明が困難な事情ばかりが見られ、全体として見ると、現実的にあり得る可能性とは認められない」と弁護側の主張を退け、朴被告が寝室で妻の首を絞めて窒息死させたと認定し、懲役11年を言い渡した。「親友の言葉を信じたい」 今年1月の東京高裁判決も一審判決を支持し、控訴を棄却。この二審判決がきっかけとなり、朴被告が通っていた京都大学の同級生たちが中心になって、本格的な支援に向けて動き始めたという。呼びかけ人であり、共同代表の佐野大輔さん(44)が語る。「私は在学中から朴と仲良く、卒業後もお互い東京で仕事していた関係から、家族ぐるみで付き合いがありました。亡くなった佳菜子さんや子供たちのことも知っています。逮捕後は、残された4人の子供たちが心配で、1、2カ月おきに自宅を訪ねて、ご家族の様子を見守ってきました」(同前) 佐野さんは一貫して、朴被告の無罪を信じていたという。「逮捕前に、直接、彼から当日起きたことを事細かく説明を受けています。親友の言葉を信じる気持ちが揺らいだことはなく、一審で有罪判決が出た後も、二審でひっくり返るだろうと考えていました。ただ、裁判については、講談社が全面的にバックアップしていたので任せきりで、詳しい内容は知りませんでした」(同前) 支援する会を始めるきっかけとなったのが、二審判決後、朴被告を個人的に支援してきた講談社の同僚と出会いだった。「朴のお母さんの紹介でその方に会ってみると、彼も僕とまったく同じスタンスで、家族のサポートに徹してきた人でした。同僚の方は、『事件のことはよくわからないが、子供たちのためにできることをしてあげたい』、『お父さんの無実を信じている人がこんなにもいると伝えてあげたいという思いで、署名を集めている』と話すのです。それならば私もと思い、OBも参加しているサークルのフェイスブックで声がけをした。すると、同意してくれる仲間たちが次々と集まった。現在、会のメンバーは、サークルのOBが中心に36人。講談社の元同僚や朴の親族も入っています」(同前)一審判決にあった事実誤認 いざ正式に会を立ち上げ、活動していくにあたり、朴被告の担当弁護士の協力を得て、膨大な裁判資料を読み込んだという。すると、二審判決の“瑕疵”に気づいたという。「一審判決では、現場には15カ所、佳菜子さんの血痕があるとされ、その証拠に基づいて『自殺ストーリー』はありえないと退けられたのですが、二審では新証拠によって現場に28カ所の血痕があったことが判明しました。つまり、一審判決には重大な事実誤認があったのです。二審判決はその事実誤認を認めた上で、全く新しい理由をもって、自殺ストーリーを退け、有罪判決を下している」(同前) 血痕は自殺ストーリーが成立するか否かで、裁判で重要なポイントとなっていた。佳菜子さんの左前額部の挫裂創から流れ出たものとされているが、生きているうちのものだったか、もしくは脳死状態の時のものだったのかで、評価が変わるのである。なお、完全に死んだ状態だと心臓が止まり、血は流れない。判決では、この挫裂創は朴被告が佳菜子さんを階段から突き落とした際にできたもので、その時、佳菜子さんは脳死状態だったとされている。 確かに高裁判決には、「原判決の上記判断は、客観的事実及び経験則等に照らして不合理であり、上記のような現場の血痕の状況をもって、自殺ストーリーを排斥する根拠とすることはできない」と、一審の判断の誤りを指摘している箇所がある。 だが、新しい血痕の状況を検証し直し、遺体に血痕が付着していないのは不自然であること、首を括った際に利用したとされる階段の手すりの留め具にジャケットの繊維が検出されていないこと、首を締められた際に出る尿班が階段から検出されていないことなどを合わせ、改めて自殺ストーリーを排斥し、「原判決の判断理由には一部是認できないところがあるものの、本件殺人の事実を認定した原判決の判断は、結論において相当である」とした。 刑事裁判の経験が豊富な弁護士は、次のように解説する。「一般論として刑事事件の控訴審は、第一審の審理に不十分な点があると考えた場合、その点について自ら審理することも、事件を第一審裁判所に差し戻すこともできます。犯罪の成否自体に関する重要な事項は、本来、第一審で十分に審理すべきことですから、原則として差し戻すべきであり、このことは特に、裁判員裁判の対象となるような重大事件において強く当てはまるといえます。 今回のケースでは、朴被告の妻が自殺をしたという弁護側のストーリーを退けた第一審の判断について、控訴審は、前提事実を誤っているとした上で自ら審理し、自殺ストーリーはやはり排斥できるとしました。差戻しをしなかった理由としては、既に一定程度、自殺ストーリーについて裁判員を含む合議体で審理がされていたこともありますが、結局、結論は変わらないと判断されたことが大きかったと思われます」1カ月かけて準備したホームページ 佐野さんはこう訴える。「『市民を有罪にするのは市民の手で』が裁判員制度の大原則である以上、一審の判断に重要な誤りがあったことが判明した時点で、高裁は一審に差し戻すか、無罪判決を言い渡すべきです。一審の有罪理由を棄却し全く新しい理由をもって有罪判決を下すことは、高裁には許されていない。重大なルール違反だと我々は考えています」 こう語る佐野さんたちは、裁判を検証する膨大な資料を作成し、会のホームページにアップした。「朴鐘顕くんの裁判 2審判決文の構造と疑問点」というパワーポイントで作成された資料はA4用紙で18ページ、難解な法律用語などを平易な文章に直し、会の主張をまとめた「私たちが考える朴鐘顕くんの裁判に関しての重要な問題点」は、38ページにも及ぶ。「みな仕事をしながらでしたので、休日を費やしながらの大変な作業でした。ホームページを立ち上げたのが5月1日。署名は約600通集まっています。ホームページを見て賛同し、電話やメールで署名してくれる人が増えています。6月からは、署名サイト『change.org』を使用した、電子署名も始めました。目標としては、上告趣意書提出に添付するものとして、直筆で1000。もちろん、このような数字が裁判所にインパクトを与えられるものではないことはわかっています。まずは、このような公正ではない裁判の真実を多くの方に知っていただき、世論の動きを作りたいという思いです。お子さんたちもお父さんの無実を信じ、帰りを待っています」(同前)朴被告の様子は…… このような友人たちの動きを、朴被告はどのように受け止めているのだろうか。二審判決を記者も傍聴したが、朴被告の様子は極めて情緒不安定に見えた。主文言い渡しの後、「えっ、どうして」と叫び、その後も「してない! してない!」、「矛盾しているよ!」などと不規則発言を繰り返し、裁判長からたしなめられていた。「面会に行っているご家族や同僚によれば、今は落ち着いていると聞いています。最近、僕が受け取った手紙では、拘置所の中で本を読みながら健康的な生活を送っていると書いてありました。会の活動が始まったことについては感謝している様子でしたが、やはり子供たちのことを一番心配していて、とにかく早く家に戻りたい一心のようです。彼の法廷での様子をもって、心象が悪いと評する記事もありましたが、無実の罪によって子供たちの面倒を見られなくなってしまうことを恐れていると考えれば、当然のことでしょう」(同前) だが、一審に続き二審でも有罪判決が下った現実はやはり重い。公判を傍聴してきた司法記者はこう指摘する。「確かに一審の立証に問題があったのは事実だが、二審で改めて、証拠を精査し直して自殺ストーリーはちゃんと排斥されている。何よりも、一階寝室のマットなどに残されていた唾液混じりの血痕と尿班が、朴被告が妻を窒息死させた決定的な証拠です。弁護側は唾液混じりの血痕について、『歯磨きにより粘膜や歯茎から出血した可能性がある』と主張していますが、荒唐無稽過ぎます」 前出の弁護士も、上告審で覆る可能性については懐疑的だ。「最高裁は、『重大な事実の誤認』があるなど、高裁判決が著しく正義に反すると判断すれば、これを破棄することはできます。第一審に差し戻さずに排斥された自殺ストーリーについて、『重大な事実の誤認』や『法令の違反』があるとされるかがポイントとなりそうですが、ハードルは低くはないでしょう」デイリー新潮取材班2021年6月7日 掲載
決定的な凶器や目撃証言がないこの事件の裁判では、現場に残されていた血痕や尿班、佳菜子さんの遺体にあった左前額部の挫裂創や、表皮剥脱などの証拠をもとに、「殺人」か「自殺」かで、検察側と弁護側が全面的に争ってきた。 検察側の主張は、朴被告が1階の寝室で佳菜子さんを腕で絞めて脳死状態に陥らせたというものだ。その後、殺人ではなかったと偽装するために、佳菜子さんを階段の途中まで担ぎ上げ、突き落とした過程において、佳菜子さんは息絶えたとされる。 一方、弁護側は、佳菜子さんが生後10カ月の末っ子に乱暴しようとしたことが原因で、1階寝室で朴被告と佳菜子さんがもみ合いになり、朴被告が腕を使って押さえ込んだことは認めつつも、殺していないと主張。押さえ込んだ後、佳菜子さんが一度、静かになったため、朴被告が末っ子の様子を見ていると、佳菜子さんが起き上がって包丁を持っていたので、末っ子を連れて2階の子供部屋に避難した。しばらくして、佳菜子さんも2階に上がってきてドアを開けようとしたが、危険を感じたため開けなかった。数十分後、子供部屋から出ると、階段の手すりに巻き付けたジャケットで首を吊って自死を遂げていた――という「自殺ストーリー」を展開した。 裁判員裁判となった19年3月の一審判決で、東京地裁は「(自殺ストーリーは)不自然な状況を想定しなければ説明できないか、そもそも合理的な説明が困難な事情ばかりが見られ、全体として見ると、現実的にあり得る可能性とは認められない」と弁護側の主張を退け、朴被告が寝室で妻の首を絞めて窒息死させたと認定し、懲役11年を言い渡した。「親友の言葉を信じたい」 今年1月の東京高裁判決も一審判決を支持し、控訴を棄却。この二審判決がきっかけとなり、朴被告が通っていた京都大学の同級生たちが中心になって、本格的な支援に向けて動き始めたという。呼びかけ人であり、共同代表の佐野大輔さん(44)が語る。「私は在学中から朴と仲良く、卒業後もお互い東京で仕事していた関係から、家族ぐるみで付き合いがありました。亡くなった佳菜子さんや子供たちのことも知っています。逮捕後は、残された4人の子供たちが心配で、1、2カ月おきに自宅を訪ねて、ご家族の様子を見守ってきました」(同前) 佐野さんは一貫して、朴被告の無罪を信じていたという。「逮捕前に、直接、彼から当日起きたことを事細かく説明を受けています。親友の言葉を信じる気持ちが揺らいだことはなく、一審で有罪判決が出た後も、二審でひっくり返るだろうと考えていました。ただ、裁判については、講談社が全面的にバックアップしていたので任せきりで、詳しい内容は知りませんでした」(同前) 支援する会を始めるきっかけとなったのが、二審判決後、朴被告を個人的に支援してきた講談社の同僚と出会いだった。「朴のお母さんの紹介でその方に会ってみると、彼も僕とまったく同じスタンスで、家族のサポートに徹してきた人でした。同僚の方は、『事件のことはよくわからないが、子供たちのためにできることをしてあげたい』、『お父さんの無実を信じている人がこんなにもいると伝えてあげたいという思いで、署名を集めている』と話すのです。それならば私もと思い、OBも参加しているサークルのフェイスブックで声がけをした。すると、同意してくれる仲間たちが次々と集まった。現在、会のメンバーは、サークルのOBが中心に36人。講談社の元同僚や朴の親族も入っています」(同前)一審判決にあった事実誤認 いざ正式に会を立ち上げ、活動していくにあたり、朴被告の担当弁護士の協力を得て、膨大な裁判資料を読み込んだという。すると、二審判決の“瑕疵”に気づいたという。「一審判決では、現場には15カ所、佳菜子さんの血痕があるとされ、その証拠に基づいて『自殺ストーリー』はありえないと退けられたのですが、二審では新証拠によって現場に28カ所の血痕があったことが判明しました。つまり、一審判決には重大な事実誤認があったのです。二審判決はその事実誤認を認めた上で、全く新しい理由をもって、自殺ストーリーを退け、有罪判決を下している」(同前) 血痕は自殺ストーリーが成立するか否かで、裁判で重要なポイントとなっていた。佳菜子さんの左前額部の挫裂創から流れ出たものとされているが、生きているうちのものだったか、もしくは脳死状態の時のものだったのかで、評価が変わるのである。なお、完全に死んだ状態だと心臓が止まり、血は流れない。判決では、この挫裂創は朴被告が佳菜子さんを階段から突き落とした際にできたもので、その時、佳菜子さんは脳死状態だったとされている。 確かに高裁判決には、「原判決の上記判断は、客観的事実及び経験則等に照らして不合理であり、上記のような現場の血痕の状況をもって、自殺ストーリーを排斥する根拠とすることはできない」と、一審の判断の誤りを指摘している箇所がある。 だが、新しい血痕の状況を検証し直し、遺体に血痕が付着していないのは不自然であること、首を括った際に利用したとされる階段の手すりの留め具にジャケットの繊維が検出されていないこと、首を締められた際に出る尿班が階段から検出されていないことなどを合わせ、改めて自殺ストーリーを排斥し、「原判決の判断理由には一部是認できないところがあるものの、本件殺人の事実を認定した原判決の判断は、結論において相当である」とした。 刑事裁判の経験が豊富な弁護士は、次のように解説する。「一般論として刑事事件の控訴審は、第一審の審理に不十分な点があると考えた場合、その点について自ら審理することも、事件を第一審裁判所に差し戻すこともできます。犯罪の成否自体に関する重要な事項は、本来、第一審で十分に審理すべきことですから、原則として差し戻すべきであり、このことは特に、裁判員裁判の対象となるような重大事件において強く当てはまるといえます。 今回のケースでは、朴被告の妻が自殺をしたという弁護側のストーリーを退けた第一審の判断について、控訴審は、前提事実を誤っているとした上で自ら審理し、自殺ストーリーはやはり排斥できるとしました。差戻しをしなかった理由としては、既に一定程度、自殺ストーリーについて裁判員を含む合議体で審理がされていたこともありますが、結局、結論は変わらないと判断されたことが大きかったと思われます」1カ月かけて準備したホームページ 佐野さんはこう訴える。「『市民を有罪にするのは市民の手で』が裁判員制度の大原則である以上、一審の判断に重要な誤りがあったことが判明した時点で、高裁は一審に差し戻すか、無罪判決を言い渡すべきです。一審の有罪理由を棄却し全く新しい理由をもって有罪判決を下すことは、高裁には許されていない。重大なルール違反だと我々は考えています」 こう語る佐野さんたちは、裁判を検証する膨大な資料を作成し、会のホームページにアップした。「朴鐘顕くんの裁判 2審判決文の構造と疑問点」というパワーポイントで作成された資料はA4用紙で18ページ、難解な法律用語などを平易な文章に直し、会の主張をまとめた「私たちが考える朴鐘顕くんの裁判に関しての重要な問題点」は、38ページにも及ぶ。「みな仕事をしながらでしたので、休日を費やしながらの大変な作業でした。ホームページを立ち上げたのが5月1日。署名は約600通集まっています。ホームページを見て賛同し、電話やメールで署名してくれる人が増えています。6月からは、署名サイト『change.org』を使用した、電子署名も始めました。目標としては、上告趣意書提出に添付するものとして、直筆で1000。もちろん、このような数字が裁判所にインパクトを与えられるものではないことはわかっています。まずは、このような公正ではない裁判の真実を多くの方に知っていただき、世論の動きを作りたいという思いです。お子さんたちもお父さんの無実を信じ、帰りを待っています」(同前)朴被告の様子は…… このような友人たちの動きを、朴被告はどのように受け止めているのだろうか。二審判決を記者も傍聴したが、朴被告の様子は極めて情緒不安定に見えた。主文言い渡しの後、「えっ、どうして」と叫び、その後も「してない! してない!」、「矛盾しているよ!」などと不規則発言を繰り返し、裁判長からたしなめられていた。「面会に行っているご家族や同僚によれば、今は落ち着いていると聞いています。最近、僕が受け取った手紙では、拘置所の中で本を読みながら健康的な生活を送っていると書いてありました。会の活動が始まったことについては感謝している様子でしたが、やはり子供たちのことを一番心配していて、とにかく早く家に戻りたい一心のようです。彼の法廷での様子をもって、心象が悪いと評する記事もありましたが、無実の罪によって子供たちの面倒を見られなくなってしまうことを恐れていると考えれば、当然のことでしょう」(同前) だが、一審に続き二審でも有罪判決が下った現実はやはり重い。公判を傍聴してきた司法記者はこう指摘する。「確かに一審の立証に問題があったのは事実だが、二審で改めて、証拠を精査し直して自殺ストーリーはちゃんと排斥されている。何よりも、一階寝室のマットなどに残されていた唾液混じりの血痕と尿班が、朴被告が妻を窒息死させた決定的な証拠です。弁護側は唾液混じりの血痕について、『歯磨きにより粘膜や歯茎から出血した可能性がある』と主張していますが、荒唐無稽過ぎます」 前出の弁護士も、上告審で覆る可能性については懐疑的だ。「最高裁は、『重大な事実の誤認』があるなど、高裁判決が著しく正義に反すると判断すれば、これを破棄することはできます。第一審に差し戻さずに排斥された自殺ストーリーについて、『重大な事実の誤認』や『法令の違反』があるとされるかがポイントとなりそうですが、ハードルは低くはないでしょう」デイリー新潮取材班2021年6月7日 掲載
検察側の主張は、朴被告が1階の寝室で佳菜子さんを腕で絞めて脳死状態に陥らせたというものだ。その後、殺人ではなかったと偽装するために、佳菜子さんを階段の途中まで担ぎ上げ、突き落とした過程において、佳菜子さんは息絶えたとされる。 一方、弁護側は、佳菜子さんが生後10カ月の末っ子に乱暴しようとしたことが原因で、1階寝室で朴被告と佳菜子さんがもみ合いになり、朴被告が腕を使って押さえ込んだことは認めつつも、殺していないと主張。押さえ込んだ後、佳菜子さんが一度、静かになったため、朴被告が末っ子の様子を見ていると、佳菜子さんが起き上がって包丁を持っていたので、末っ子を連れて2階の子供部屋に避難した。しばらくして、佳菜子さんも2階に上がってきてドアを開けようとしたが、危険を感じたため開けなかった。数十分後、子供部屋から出ると、階段の手すりに巻き付けたジャケットで首を吊って自死を遂げていた――という「自殺ストーリー」を展開した。 裁判員裁判となった19年3月の一審判決で、東京地裁は「(自殺ストーリーは)不自然な状況を想定しなければ説明できないか、そもそも合理的な説明が困難な事情ばかりが見られ、全体として見ると、現実的にあり得る可能性とは認められない」と弁護側の主張を退け、朴被告が寝室で妻の首を絞めて窒息死させたと認定し、懲役11年を言い渡した。「親友の言葉を信じたい」 今年1月の東京高裁判決も一審判決を支持し、控訴を棄却。この二審判決がきっかけとなり、朴被告が通っていた京都大学の同級生たちが中心になって、本格的な支援に向けて動き始めたという。呼びかけ人であり、共同代表の佐野大輔さん(44)が語る。「私は在学中から朴と仲良く、卒業後もお互い東京で仕事していた関係から、家族ぐるみで付き合いがありました。亡くなった佳菜子さんや子供たちのことも知っています。逮捕後は、残された4人の子供たちが心配で、1、2カ月おきに自宅を訪ねて、ご家族の様子を見守ってきました」(同前) 佐野さんは一貫して、朴被告の無罪を信じていたという。「逮捕前に、直接、彼から当日起きたことを事細かく説明を受けています。親友の言葉を信じる気持ちが揺らいだことはなく、一審で有罪判決が出た後も、二審でひっくり返るだろうと考えていました。ただ、裁判については、講談社が全面的にバックアップしていたので任せきりで、詳しい内容は知りませんでした」(同前) 支援する会を始めるきっかけとなったのが、二審判決後、朴被告を個人的に支援してきた講談社の同僚と出会いだった。「朴のお母さんの紹介でその方に会ってみると、彼も僕とまったく同じスタンスで、家族のサポートに徹してきた人でした。同僚の方は、『事件のことはよくわからないが、子供たちのためにできることをしてあげたい』、『お父さんの無実を信じている人がこんなにもいると伝えてあげたいという思いで、署名を集めている』と話すのです。それならば私もと思い、OBも参加しているサークルのフェイスブックで声がけをした。すると、同意してくれる仲間たちが次々と集まった。現在、会のメンバーは、サークルのOBが中心に36人。講談社の元同僚や朴の親族も入っています」(同前)一審判決にあった事実誤認 いざ正式に会を立ち上げ、活動していくにあたり、朴被告の担当弁護士の協力を得て、膨大な裁判資料を読み込んだという。すると、二審判決の“瑕疵”に気づいたという。「一審判決では、現場には15カ所、佳菜子さんの血痕があるとされ、その証拠に基づいて『自殺ストーリー』はありえないと退けられたのですが、二審では新証拠によって現場に28カ所の血痕があったことが判明しました。つまり、一審判決には重大な事実誤認があったのです。二審判決はその事実誤認を認めた上で、全く新しい理由をもって、自殺ストーリーを退け、有罪判決を下している」(同前) 血痕は自殺ストーリーが成立するか否かで、裁判で重要なポイントとなっていた。佳菜子さんの左前額部の挫裂創から流れ出たものとされているが、生きているうちのものだったか、もしくは脳死状態の時のものだったのかで、評価が変わるのである。なお、完全に死んだ状態だと心臓が止まり、血は流れない。判決では、この挫裂創は朴被告が佳菜子さんを階段から突き落とした際にできたもので、その時、佳菜子さんは脳死状態だったとされている。 確かに高裁判決には、「原判決の上記判断は、客観的事実及び経験則等に照らして不合理であり、上記のような現場の血痕の状況をもって、自殺ストーリーを排斥する根拠とすることはできない」と、一審の判断の誤りを指摘している箇所がある。 だが、新しい血痕の状況を検証し直し、遺体に血痕が付着していないのは不自然であること、首を括った際に利用したとされる階段の手すりの留め具にジャケットの繊維が検出されていないこと、首を締められた際に出る尿班が階段から検出されていないことなどを合わせ、改めて自殺ストーリーを排斥し、「原判決の判断理由には一部是認できないところがあるものの、本件殺人の事実を認定した原判決の判断は、結論において相当である」とした。 刑事裁判の経験が豊富な弁護士は、次のように解説する。「一般論として刑事事件の控訴審は、第一審の審理に不十分な点があると考えた場合、その点について自ら審理することも、事件を第一審裁判所に差し戻すこともできます。犯罪の成否自体に関する重要な事項は、本来、第一審で十分に審理すべきことですから、原則として差し戻すべきであり、このことは特に、裁判員裁判の対象となるような重大事件において強く当てはまるといえます。 今回のケースでは、朴被告の妻が自殺をしたという弁護側のストーリーを退けた第一審の判断について、控訴審は、前提事実を誤っているとした上で自ら審理し、自殺ストーリーはやはり排斥できるとしました。差戻しをしなかった理由としては、既に一定程度、自殺ストーリーについて裁判員を含む合議体で審理がされていたこともありますが、結局、結論は変わらないと判断されたことが大きかったと思われます」1カ月かけて準備したホームページ 佐野さんはこう訴える。「『市民を有罪にするのは市民の手で』が裁判員制度の大原則である以上、一審の判断に重要な誤りがあったことが判明した時点で、高裁は一審に差し戻すか、無罪判決を言い渡すべきです。一審の有罪理由を棄却し全く新しい理由をもって有罪判決を下すことは、高裁には許されていない。重大なルール違反だと我々は考えています」 こう語る佐野さんたちは、裁判を検証する膨大な資料を作成し、会のホームページにアップした。「朴鐘顕くんの裁判 2審判決文の構造と疑問点」というパワーポイントで作成された資料はA4用紙で18ページ、難解な法律用語などを平易な文章に直し、会の主張をまとめた「私たちが考える朴鐘顕くんの裁判に関しての重要な問題点」は、38ページにも及ぶ。「みな仕事をしながらでしたので、休日を費やしながらの大変な作業でした。ホームページを立ち上げたのが5月1日。署名は約600通集まっています。ホームページを見て賛同し、電話やメールで署名してくれる人が増えています。6月からは、署名サイト『change.org』を使用した、電子署名も始めました。目標としては、上告趣意書提出に添付するものとして、直筆で1000。もちろん、このような数字が裁判所にインパクトを与えられるものではないことはわかっています。まずは、このような公正ではない裁判の真実を多くの方に知っていただき、世論の動きを作りたいという思いです。お子さんたちもお父さんの無実を信じ、帰りを待っています」(同前)朴被告の様子は…… このような友人たちの動きを、朴被告はどのように受け止めているのだろうか。二審判決を記者も傍聴したが、朴被告の様子は極めて情緒不安定に見えた。主文言い渡しの後、「えっ、どうして」と叫び、その後も「してない! してない!」、「矛盾しているよ!」などと不規則発言を繰り返し、裁判長からたしなめられていた。「面会に行っているご家族や同僚によれば、今は落ち着いていると聞いています。最近、僕が受け取った手紙では、拘置所の中で本を読みながら健康的な生活を送っていると書いてありました。会の活動が始まったことについては感謝している様子でしたが、やはり子供たちのことを一番心配していて、とにかく早く家に戻りたい一心のようです。彼の法廷での様子をもって、心象が悪いと評する記事もありましたが、無実の罪によって子供たちの面倒を見られなくなってしまうことを恐れていると考えれば、当然のことでしょう」(同前) だが、一審に続き二審でも有罪判決が下った現実はやはり重い。公判を傍聴してきた司法記者はこう指摘する。「確かに一審の立証に問題があったのは事実だが、二審で改めて、証拠を精査し直して自殺ストーリーはちゃんと排斥されている。何よりも、一階寝室のマットなどに残されていた唾液混じりの血痕と尿班が、朴被告が妻を窒息死させた決定的な証拠です。弁護側は唾液混じりの血痕について、『歯磨きにより粘膜や歯茎から出血した可能性がある』と主張していますが、荒唐無稽過ぎます」 前出の弁護士も、上告審で覆る可能性については懐疑的だ。「最高裁は、『重大な事実の誤認』があるなど、高裁判決が著しく正義に反すると判断すれば、これを破棄することはできます。第一審に差し戻さずに排斥された自殺ストーリーについて、『重大な事実の誤認』や『法令の違反』があるとされるかがポイントとなりそうですが、ハードルは低くはないでしょう」デイリー新潮取材班2021年6月7日 掲載
一方、弁護側は、佳菜子さんが生後10カ月の末っ子に乱暴しようとしたことが原因で、1階寝室で朴被告と佳菜子さんがもみ合いになり、朴被告が腕を使って押さえ込んだことは認めつつも、殺していないと主張。押さえ込んだ後、佳菜子さんが一度、静かになったため、朴被告が末っ子の様子を見ていると、佳菜子さんが起き上がって包丁を持っていたので、末っ子を連れて2階の子供部屋に避難した。しばらくして、佳菜子さんも2階に上がってきてドアを開けようとしたが、危険を感じたため開けなかった。数十分後、子供部屋から出ると、階段の手すりに巻き付けたジャケットで首を吊って自死を遂げていた――という「自殺ストーリー」を展開した。 裁判員裁判となった19年3月の一審判決で、東京地裁は「(自殺ストーリーは)不自然な状況を想定しなければ説明できないか、そもそも合理的な説明が困難な事情ばかりが見られ、全体として見ると、現実的にあり得る可能性とは認められない」と弁護側の主張を退け、朴被告が寝室で妻の首を絞めて窒息死させたと認定し、懲役11年を言い渡した。「親友の言葉を信じたい」 今年1月の東京高裁判決も一審判決を支持し、控訴を棄却。この二審判決がきっかけとなり、朴被告が通っていた京都大学の同級生たちが中心になって、本格的な支援に向けて動き始めたという。呼びかけ人であり、共同代表の佐野大輔さん(44)が語る。「私は在学中から朴と仲良く、卒業後もお互い東京で仕事していた関係から、家族ぐるみで付き合いがありました。亡くなった佳菜子さんや子供たちのことも知っています。逮捕後は、残された4人の子供たちが心配で、1、2カ月おきに自宅を訪ねて、ご家族の様子を見守ってきました」(同前) 佐野さんは一貫して、朴被告の無罪を信じていたという。「逮捕前に、直接、彼から当日起きたことを事細かく説明を受けています。親友の言葉を信じる気持ちが揺らいだことはなく、一審で有罪判決が出た後も、二審でひっくり返るだろうと考えていました。ただ、裁判については、講談社が全面的にバックアップしていたので任せきりで、詳しい内容は知りませんでした」(同前) 支援する会を始めるきっかけとなったのが、二審判決後、朴被告を個人的に支援してきた講談社の同僚と出会いだった。「朴のお母さんの紹介でその方に会ってみると、彼も僕とまったく同じスタンスで、家族のサポートに徹してきた人でした。同僚の方は、『事件のことはよくわからないが、子供たちのためにできることをしてあげたい』、『お父さんの無実を信じている人がこんなにもいると伝えてあげたいという思いで、署名を集めている』と話すのです。それならば私もと思い、OBも参加しているサークルのフェイスブックで声がけをした。すると、同意してくれる仲間たちが次々と集まった。現在、会のメンバーは、サークルのOBが中心に36人。講談社の元同僚や朴の親族も入っています」(同前)一審判決にあった事実誤認 いざ正式に会を立ち上げ、活動していくにあたり、朴被告の担当弁護士の協力を得て、膨大な裁判資料を読み込んだという。すると、二審判決の“瑕疵”に気づいたという。「一審判決では、現場には15カ所、佳菜子さんの血痕があるとされ、その証拠に基づいて『自殺ストーリー』はありえないと退けられたのですが、二審では新証拠によって現場に28カ所の血痕があったことが判明しました。つまり、一審判決には重大な事実誤認があったのです。二審判決はその事実誤認を認めた上で、全く新しい理由をもって、自殺ストーリーを退け、有罪判決を下している」(同前) 血痕は自殺ストーリーが成立するか否かで、裁判で重要なポイントとなっていた。佳菜子さんの左前額部の挫裂創から流れ出たものとされているが、生きているうちのものだったか、もしくは脳死状態の時のものだったのかで、評価が変わるのである。なお、完全に死んだ状態だと心臓が止まり、血は流れない。判決では、この挫裂創は朴被告が佳菜子さんを階段から突き落とした際にできたもので、その時、佳菜子さんは脳死状態だったとされている。 確かに高裁判決には、「原判決の上記判断は、客観的事実及び経験則等に照らして不合理であり、上記のような現場の血痕の状況をもって、自殺ストーリーを排斥する根拠とすることはできない」と、一審の判断の誤りを指摘している箇所がある。 だが、新しい血痕の状況を検証し直し、遺体に血痕が付着していないのは不自然であること、首を括った際に利用したとされる階段の手すりの留め具にジャケットの繊維が検出されていないこと、首を締められた際に出る尿班が階段から検出されていないことなどを合わせ、改めて自殺ストーリーを排斥し、「原判決の判断理由には一部是認できないところがあるものの、本件殺人の事実を認定した原判決の判断は、結論において相当である」とした。 刑事裁判の経験が豊富な弁護士は、次のように解説する。「一般論として刑事事件の控訴審は、第一審の審理に不十分な点があると考えた場合、その点について自ら審理することも、事件を第一審裁判所に差し戻すこともできます。犯罪の成否自体に関する重要な事項は、本来、第一審で十分に審理すべきことですから、原則として差し戻すべきであり、このことは特に、裁判員裁判の対象となるような重大事件において強く当てはまるといえます。 今回のケースでは、朴被告の妻が自殺をしたという弁護側のストーリーを退けた第一審の判断について、控訴審は、前提事実を誤っているとした上で自ら審理し、自殺ストーリーはやはり排斥できるとしました。差戻しをしなかった理由としては、既に一定程度、自殺ストーリーについて裁判員を含む合議体で審理がされていたこともありますが、結局、結論は変わらないと判断されたことが大きかったと思われます」1カ月かけて準備したホームページ 佐野さんはこう訴える。「『市民を有罪にするのは市民の手で』が裁判員制度の大原則である以上、一審の判断に重要な誤りがあったことが判明した時点で、高裁は一審に差し戻すか、無罪判決を言い渡すべきです。一審の有罪理由を棄却し全く新しい理由をもって有罪判決を下すことは、高裁には許されていない。重大なルール違反だと我々は考えています」 こう語る佐野さんたちは、裁判を検証する膨大な資料を作成し、会のホームページにアップした。「朴鐘顕くんの裁判 2審判決文の構造と疑問点」というパワーポイントで作成された資料はA4用紙で18ページ、難解な法律用語などを平易な文章に直し、会の主張をまとめた「私たちが考える朴鐘顕くんの裁判に関しての重要な問題点」は、38ページにも及ぶ。「みな仕事をしながらでしたので、休日を費やしながらの大変な作業でした。ホームページを立ち上げたのが5月1日。署名は約600通集まっています。ホームページを見て賛同し、電話やメールで署名してくれる人が増えています。6月からは、署名サイト『change.org』を使用した、電子署名も始めました。目標としては、上告趣意書提出に添付するものとして、直筆で1000。もちろん、このような数字が裁判所にインパクトを与えられるものではないことはわかっています。まずは、このような公正ではない裁判の真実を多くの方に知っていただき、世論の動きを作りたいという思いです。お子さんたちもお父さんの無実を信じ、帰りを待っています」(同前)朴被告の様子は…… このような友人たちの動きを、朴被告はどのように受け止めているのだろうか。二審判決を記者も傍聴したが、朴被告の様子は極めて情緒不安定に見えた。主文言い渡しの後、「えっ、どうして」と叫び、その後も「してない! してない!」、「矛盾しているよ!」などと不規則発言を繰り返し、裁判長からたしなめられていた。「面会に行っているご家族や同僚によれば、今は落ち着いていると聞いています。最近、僕が受け取った手紙では、拘置所の中で本を読みながら健康的な生活を送っていると書いてありました。会の活動が始まったことについては感謝している様子でしたが、やはり子供たちのことを一番心配していて、とにかく早く家に戻りたい一心のようです。彼の法廷での様子をもって、心象が悪いと評する記事もありましたが、無実の罪によって子供たちの面倒を見られなくなってしまうことを恐れていると考えれば、当然のことでしょう」(同前) だが、一審に続き二審でも有罪判決が下った現実はやはり重い。公判を傍聴してきた司法記者はこう指摘する。「確かに一審の立証に問題があったのは事実だが、二審で改めて、証拠を精査し直して自殺ストーリーはちゃんと排斥されている。何よりも、一階寝室のマットなどに残されていた唾液混じりの血痕と尿班が、朴被告が妻を窒息死させた決定的な証拠です。弁護側は唾液混じりの血痕について、『歯磨きにより粘膜や歯茎から出血した可能性がある』と主張していますが、荒唐無稽過ぎます」 前出の弁護士も、上告審で覆る可能性については懐疑的だ。「最高裁は、『重大な事実の誤認』があるなど、高裁判決が著しく正義に反すると判断すれば、これを破棄することはできます。第一審に差し戻さずに排斥された自殺ストーリーについて、『重大な事実の誤認』や『法令の違反』があるとされるかがポイントとなりそうですが、ハードルは低くはないでしょう」デイリー新潮取材班2021年6月7日 掲載
裁判員裁判となった19年3月の一審判決で、東京地裁は「(自殺ストーリーは)不自然な状況を想定しなければ説明できないか、そもそも合理的な説明が困難な事情ばかりが見られ、全体として見ると、現実的にあり得る可能性とは認められない」と弁護側の主張を退け、朴被告が寝室で妻の首を絞めて窒息死させたと認定し、懲役11年を言い渡した。「親友の言葉を信じたい」 今年1月の東京高裁判決も一審判決を支持し、控訴を棄却。この二審判決がきっかけとなり、朴被告が通っていた京都大学の同級生たちが中心になって、本格的な支援に向けて動き始めたという。呼びかけ人であり、共同代表の佐野大輔さん(44)が語る。「私は在学中から朴と仲良く、卒業後もお互い東京で仕事していた関係から、家族ぐるみで付き合いがありました。亡くなった佳菜子さんや子供たちのことも知っています。逮捕後は、残された4人の子供たちが心配で、1、2カ月おきに自宅を訪ねて、ご家族の様子を見守ってきました」(同前) 佐野さんは一貫して、朴被告の無罪を信じていたという。「逮捕前に、直接、彼から当日起きたことを事細かく説明を受けています。親友の言葉を信じる気持ちが揺らいだことはなく、一審で有罪判決が出た後も、二審でひっくり返るだろうと考えていました。ただ、裁判については、講談社が全面的にバックアップしていたので任せきりで、詳しい内容は知りませんでした」(同前) 支援する会を始めるきっかけとなったのが、二審判決後、朴被告を個人的に支援してきた講談社の同僚と出会いだった。「朴のお母さんの紹介でその方に会ってみると、彼も僕とまったく同じスタンスで、家族のサポートに徹してきた人でした。同僚の方は、『事件のことはよくわからないが、子供たちのためにできることをしてあげたい』、『お父さんの無実を信じている人がこんなにもいると伝えてあげたいという思いで、署名を集めている』と話すのです。それならば私もと思い、OBも参加しているサークルのフェイスブックで声がけをした。すると、同意してくれる仲間たちが次々と集まった。現在、会のメンバーは、サークルのOBが中心に36人。講談社の元同僚や朴の親族も入っています」(同前)一審判決にあった事実誤認 いざ正式に会を立ち上げ、活動していくにあたり、朴被告の担当弁護士の協力を得て、膨大な裁判資料を読み込んだという。すると、二審判決の“瑕疵”に気づいたという。「一審判決では、現場には15カ所、佳菜子さんの血痕があるとされ、その証拠に基づいて『自殺ストーリー』はありえないと退けられたのですが、二審では新証拠によって現場に28カ所の血痕があったことが判明しました。つまり、一審判決には重大な事実誤認があったのです。二審判決はその事実誤認を認めた上で、全く新しい理由をもって、自殺ストーリーを退け、有罪判決を下している」(同前) 血痕は自殺ストーリーが成立するか否かで、裁判で重要なポイントとなっていた。佳菜子さんの左前額部の挫裂創から流れ出たものとされているが、生きているうちのものだったか、もしくは脳死状態の時のものだったのかで、評価が変わるのである。なお、完全に死んだ状態だと心臓が止まり、血は流れない。判決では、この挫裂創は朴被告が佳菜子さんを階段から突き落とした際にできたもので、その時、佳菜子さんは脳死状態だったとされている。 確かに高裁判決には、「原判決の上記判断は、客観的事実及び経験則等に照らして不合理であり、上記のような現場の血痕の状況をもって、自殺ストーリーを排斥する根拠とすることはできない」と、一審の判断の誤りを指摘している箇所がある。 だが、新しい血痕の状況を検証し直し、遺体に血痕が付着していないのは不自然であること、首を括った際に利用したとされる階段の手すりの留め具にジャケットの繊維が検出されていないこと、首を締められた際に出る尿班が階段から検出されていないことなどを合わせ、改めて自殺ストーリーを排斥し、「原判決の判断理由には一部是認できないところがあるものの、本件殺人の事実を認定した原判決の判断は、結論において相当である」とした。 刑事裁判の経験が豊富な弁護士は、次のように解説する。「一般論として刑事事件の控訴審は、第一審の審理に不十分な点があると考えた場合、その点について自ら審理することも、事件を第一審裁判所に差し戻すこともできます。犯罪の成否自体に関する重要な事項は、本来、第一審で十分に審理すべきことですから、原則として差し戻すべきであり、このことは特に、裁判員裁判の対象となるような重大事件において強く当てはまるといえます。 今回のケースでは、朴被告の妻が自殺をしたという弁護側のストーリーを退けた第一審の判断について、控訴審は、前提事実を誤っているとした上で自ら審理し、自殺ストーリーはやはり排斥できるとしました。差戻しをしなかった理由としては、既に一定程度、自殺ストーリーについて裁判員を含む合議体で審理がされていたこともありますが、結局、結論は変わらないと判断されたことが大きかったと思われます」1カ月かけて準備したホームページ 佐野さんはこう訴える。「『市民を有罪にするのは市民の手で』が裁判員制度の大原則である以上、一審の判断に重要な誤りがあったことが判明した時点で、高裁は一審に差し戻すか、無罪判決を言い渡すべきです。一審の有罪理由を棄却し全く新しい理由をもって有罪判決を下すことは、高裁には許されていない。重大なルール違反だと我々は考えています」 こう語る佐野さんたちは、裁判を検証する膨大な資料を作成し、会のホームページにアップした。「朴鐘顕くんの裁判 2審判決文の構造と疑問点」というパワーポイントで作成された資料はA4用紙で18ページ、難解な法律用語などを平易な文章に直し、会の主張をまとめた「私たちが考える朴鐘顕くんの裁判に関しての重要な問題点」は、38ページにも及ぶ。「みな仕事をしながらでしたので、休日を費やしながらの大変な作業でした。ホームページを立ち上げたのが5月1日。署名は約600通集まっています。ホームページを見て賛同し、電話やメールで署名してくれる人が増えています。6月からは、署名サイト『change.org』を使用した、電子署名も始めました。目標としては、上告趣意書提出に添付するものとして、直筆で1000。もちろん、このような数字が裁判所にインパクトを与えられるものではないことはわかっています。まずは、このような公正ではない裁判の真実を多くの方に知っていただき、世論の動きを作りたいという思いです。お子さんたちもお父さんの無実を信じ、帰りを待っています」(同前)朴被告の様子は…… このような友人たちの動きを、朴被告はどのように受け止めているのだろうか。二審判決を記者も傍聴したが、朴被告の様子は極めて情緒不安定に見えた。主文言い渡しの後、「えっ、どうして」と叫び、その後も「してない! してない!」、「矛盾しているよ!」などと不規則発言を繰り返し、裁判長からたしなめられていた。「面会に行っているご家族や同僚によれば、今は落ち着いていると聞いています。最近、僕が受け取った手紙では、拘置所の中で本を読みながら健康的な生活を送っていると書いてありました。会の活動が始まったことについては感謝している様子でしたが、やはり子供たちのことを一番心配していて、とにかく早く家に戻りたい一心のようです。彼の法廷での様子をもって、心象が悪いと評する記事もありましたが、無実の罪によって子供たちの面倒を見られなくなってしまうことを恐れていると考えれば、当然のことでしょう」(同前) だが、一審に続き二審でも有罪判決が下った現実はやはり重い。公判を傍聴してきた司法記者はこう指摘する。「確かに一審の立証に問題があったのは事実だが、二審で改めて、証拠を精査し直して自殺ストーリーはちゃんと排斥されている。何よりも、一階寝室のマットなどに残されていた唾液混じりの血痕と尿班が、朴被告が妻を窒息死させた決定的な証拠です。弁護側は唾液混じりの血痕について、『歯磨きにより粘膜や歯茎から出血した可能性がある』と主張していますが、荒唐無稽過ぎます」 前出の弁護士も、上告審で覆る可能性については懐疑的だ。「最高裁は、『重大な事実の誤認』があるなど、高裁判決が著しく正義に反すると判断すれば、これを破棄することはできます。第一審に差し戻さずに排斥された自殺ストーリーについて、『重大な事実の誤認』や『法令の違反』があるとされるかがポイントとなりそうですが、ハードルは低くはないでしょう」デイリー新潮取材班2021年6月7日 掲載
今年1月の東京高裁判決も一審判決を支持し、控訴を棄却。この二審判決がきっかけとなり、朴被告が通っていた京都大学の同級生たちが中心になって、本格的な支援に向けて動き始めたという。呼びかけ人であり、共同代表の佐野大輔さん(44)が語る。「私は在学中から朴と仲良く、卒業後もお互い東京で仕事していた関係から、家族ぐるみで付き合いがありました。亡くなった佳菜子さんや子供たちのことも知っています。逮捕後は、残された4人の子供たちが心配で、1、2カ月おきに自宅を訪ねて、ご家族の様子を見守ってきました」(同前) 佐野さんは一貫して、朴被告の無罪を信じていたという。「逮捕前に、直接、彼から当日起きたことを事細かく説明を受けています。親友の言葉を信じる気持ちが揺らいだことはなく、一審で有罪判決が出た後も、二審でひっくり返るだろうと考えていました。ただ、裁判については、講談社が全面的にバックアップしていたので任せきりで、詳しい内容は知りませんでした」(同前) 支援する会を始めるきっかけとなったのが、二審判決後、朴被告を個人的に支援してきた講談社の同僚と出会いだった。「朴のお母さんの紹介でその方に会ってみると、彼も僕とまったく同じスタンスで、家族のサポートに徹してきた人でした。同僚の方は、『事件のことはよくわからないが、子供たちのためにできることをしてあげたい』、『お父さんの無実を信じている人がこんなにもいると伝えてあげたいという思いで、署名を集めている』と話すのです。それならば私もと思い、OBも参加しているサークルのフェイスブックで声がけをした。すると、同意してくれる仲間たちが次々と集まった。現在、会のメンバーは、サークルのOBが中心に36人。講談社の元同僚や朴の親族も入っています」(同前)一審判決にあった事実誤認 いざ正式に会を立ち上げ、活動していくにあたり、朴被告の担当弁護士の協力を得て、膨大な裁判資料を読み込んだという。すると、二審判決の“瑕疵”に気づいたという。「一審判決では、現場には15カ所、佳菜子さんの血痕があるとされ、その証拠に基づいて『自殺ストーリー』はありえないと退けられたのですが、二審では新証拠によって現場に28カ所の血痕があったことが判明しました。つまり、一審判決には重大な事実誤認があったのです。二審判決はその事実誤認を認めた上で、全く新しい理由をもって、自殺ストーリーを退け、有罪判決を下している」(同前) 血痕は自殺ストーリーが成立するか否かで、裁判で重要なポイントとなっていた。佳菜子さんの左前額部の挫裂創から流れ出たものとされているが、生きているうちのものだったか、もしくは脳死状態の時のものだったのかで、評価が変わるのである。なお、完全に死んだ状態だと心臓が止まり、血は流れない。判決では、この挫裂創は朴被告が佳菜子さんを階段から突き落とした際にできたもので、その時、佳菜子さんは脳死状態だったとされている。 確かに高裁判決には、「原判決の上記判断は、客観的事実及び経験則等に照らして不合理であり、上記のような現場の血痕の状況をもって、自殺ストーリーを排斥する根拠とすることはできない」と、一審の判断の誤りを指摘している箇所がある。 だが、新しい血痕の状況を検証し直し、遺体に血痕が付着していないのは不自然であること、首を括った際に利用したとされる階段の手すりの留め具にジャケットの繊維が検出されていないこと、首を締められた際に出る尿班が階段から検出されていないことなどを合わせ、改めて自殺ストーリーを排斥し、「原判決の判断理由には一部是認できないところがあるものの、本件殺人の事実を認定した原判決の判断は、結論において相当である」とした。 刑事裁判の経験が豊富な弁護士は、次のように解説する。「一般論として刑事事件の控訴審は、第一審の審理に不十分な点があると考えた場合、その点について自ら審理することも、事件を第一審裁判所に差し戻すこともできます。犯罪の成否自体に関する重要な事項は、本来、第一審で十分に審理すべきことですから、原則として差し戻すべきであり、このことは特に、裁判員裁判の対象となるような重大事件において強く当てはまるといえます。 今回のケースでは、朴被告の妻が自殺をしたという弁護側のストーリーを退けた第一審の判断について、控訴審は、前提事実を誤っているとした上で自ら審理し、自殺ストーリーはやはり排斥できるとしました。差戻しをしなかった理由としては、既に一定程度、自殺ストーリーについて裁判員を含む合議体で審理がされていたこともありますが、結局、結論は変わらないと判断されたことが大きかったと思われます」1カ月かけて準備したホームページ 佐野さんはこう訴える。「『市民を有罪にするのは市民の手で』が裁判員制度の大原則である以上、一審の判断に重要な誤りがあったことが判明した時点で、高裁は一審に差し戻すか、無罪判決を言い渡すべきです。一審の有罪理由を棄却し全く新しい理由をもって有罪判決を下すことは、高裁には許されていない。重大なルール違反だと我々は考えています」 こう語る佐野さんたちは、裁判を検証する膨大な資料を作成し、会のホームページにアップした。「朴鐘顕くんの裁判 2審判決文の構造と疑問点」というパワーポイントで作成された資料はA4用紙で18ページ、難解な法律用語などを平易な文章に直し、会の主張をまとめた「私たちが考える朴鐘顕くんの裁判に関しての重要な問題点」は、38ページにも及ぶ。「みな仕事をしながらでしたので、休日を費やしながらの大変な作業でした。ホームページを立ち上げたのが5月1日。署名は約600通集まっています。ホームページを見て賛同し、電話やメールで署名してくれる人が増えています。6月からは、署名サイト『change.org』を使用した、電子署名も始めました。目標としては、上告趣意書提出に添付するものとして、直筆で1000。もちろん、このような数字が裁判所にインパクトを与えられるものではないことはわかっています。まずは、このような公正ではない裁判の真実を多くの方に知っていただき、世論の動きを作りたいという思いです。お子さんたちもお父さんの無実を信じ、帰りを待っています」(同前)朴被告の様子は…… このような友人たちの動きを、朴被告はどのように受け止めているのだろうか。二審判決を記者も傍聴したが、朴被告の様子は極めて情緒不安定に見えた。主文言い渡しの後、「えっ、どうして」と叫び、その後も「してない! してない!」、「矛盾しているよ!」などと不規則発言を繰り返し、裁判長からたしなめられていた。「面会に行っているご家族や同僚によれば、今は落ち着いていると聞いています。最近、僕が受け取った手紙では、拘置所の中で本を読みながら健康的な生活を送っていると書いてありました。会の活動が始まったことについては感謝している様子でしたが、やはり子供たちのことを一番心配していて、とにかく早く家に戻りたい一心のようです。彼の法廷での様子をもって、心象が悪いと評する記事もありましたが、無実の罪によって子供たちの面倒を見られなくなってしまうことを恐れていると考えれば、当然のことでしょう」(同前) だが、一審に続き二審でも有罪判決が下った現実はやはり重い。公判を傍聴してきた司法記者はこう指摘する。「確かに一審の立証に問題があったのは事実だが、二審で改めて、証拠を精査し直して自殺ストーリーはちゃんと排斥されている。何よりも、一階寝室のマットなどに残されていた唾液混じりの血痕と尿班が、朴被告が妻を窒息死させた決定的な証拠です。弁護側は唾液混じりの血痕について、『歯磨きにより粘膜や歯茎から出血した可能性がある』と主張していますが、荒唐無稽過ぎます」 前出の弁護士も、上告審で覆る可能性については懐疑的だ。「最高裁は、『重大な事実の誤認』があるなど、高裁判決が著しく正義に反すると判断すれば、これを破棄することはできます。第一審に差し戻さずに排斥された自殺ストーリーについて、『重大な事実の誤認』や『法令の違反』があるとされるかがポイントとなりそうですが、ハードルは低くはないでしょう」デイリー新潮取材班2021年6月7日 掲載
「私は在学中から朴と仲良く、卒業後もお互い東京で仕事していた関係から、家族ぐるみで付き合いがありました。亡くなった佳菜子さんや子供たちのことも知っています。逮捕後は、残された4人の子供たちが心配で、1、2カ月おきに自宅を訪ねて、ご家族の様子を見守ってきました」(同前) 佐野さんは一貫して、朴被告の無罪を信じていたという。「逮捕前に、直接、彼から当日起きたことを事細かく説明を受けています。親友の言葉を信じる気持ちが揺らいだことはなく、一審で有罪判決が出た後も、二審でひっくり返るだろうと考えていました。ただ、裁判については、講談社が全面的にバックアップしていたので任せきりで、詳しい内容は知りませんでした」(同前) 支援する会を始めるきっかけとなったのが、二審判決後、朴被告を個人的に支援してきた講談社の同僚と出会いだった。「朴のお母さんの紹介でその方に会ってみると、彼も僕とまったく同じスタンスで、家族のサポートに徹してきた人でした。同僚の方は、『事件のことはよくわからないが、子供たちのためにできることをしてあげたい』、『お父さんの無実を信じている人がこんなにもいると伝えてあげたいという思いで、署名を集めている』と話すのです。それならば私もと思い、OBも参加しているサークルのフェイスブックで声がけをした。すると、同意してくれる仲間たちが次々と集まった。現在、会のメンバーは、サークルのOBが中心に36人。講談社の元同僚や朴の親族も入っています」(同前)一審判決にあった事実誤認 いざ正式に会を立ち上げ、活動していくにあたり、朴被告の担当弁護士の協力を得て、膨大な裁判資料を読み込んだという。すると、二審判決の“瑕疵”に気づいたという。「一審判決では、現場には15カ所、佳菜子さんの血痕があるとされ、その証拠に基づいて『自殺ストーリー』はありえないと退けられたのですが、二審では新証拠によって現場に28カ所の血痕があったことが判明しました。つまり、一審判決には重大な事実誤認があったのです。二審判決はその事実誤認を認めた上で、全く新しい理由をもって、自殺ストーリーを退け、有罪判決を下している」(同前) 血痕は自殺ストーリーが成立するか否かで、裁判で重要なポイントとなっていた。佳菜子さんの左前額部の挫裂創から流れ出たものとされているが、生きているうちのものだったか、もしくは脳死状態の時のものだったのかで、評価が変わるのである。なお、完全に死んだ状態だと心臓が止まり、血は流れない。判決では、この挫裂創は朴被告が佳菜子さんを階段から突き落とした際にできたもので、その時、佳菜子さんは脳死状態だったとされている。 確かに高裁判決には、「原判決の上記判断は、客観的事実及び経験則等に照らして不合理であり、上記のような現場の血痕の状況をもって、自殺ストーリーを排斥する根拠とすることはできない」と、一審の判断の誤りを指摘している箇所がある。 だが、新しい血痕の状況を検証し直し、遺体に血痕が付着していないのは不自然であること、首を括った際に利用したとされる階段の手すりの留め具にジャケットの繊維が検出されていないこと、首を締められた際に出る尿班が階段から検出されていないことなどを合わせ、改めて自殺ストーリーを排斥し、「原判決の判断理由には一部是認できないところがあるものの、本件殺人の事実を認定した原判決の判断は、結論において相当である」とした。 刑事裁判の経験が豊富な弁護士は、次のように解説する。「一般論として刑事事件の控訴審は、第一審の審理に不十分な点があると考えた場合、その点について自ら審理することも、事件を第一審裁判所に差し戻すこともできます。犯罪の成否自体に関する重要な事項は、本来、第一審で十分に審理すべきことですから、原則として差し戻すべきであり、このことは特に、裁判員裁判の対象となるような重大事件において強く当てはまるといえます。 今回のケースでは、朴被告の妻が自殺をしたという弁護側のストーリーを退けた第一審の判断について、控訴審は、前提事実を誤っているとした上で自ら審理し、自殺ストーリーはやはり排斥できるとしました。差戻しをしなかった理由としては、既に一定程度、自殺ストーリーについて裁判員を含む合議体で審理がされていたこともありますが、結局、結論は変わらないと判断されたことが大きかったと思われます」1カ月かけて準備したホームページ 佐野さんはこう訴える。「『市民を有罪にするのは市民の手で』が裁判員制度の大原則である以上、一審の判断に重要な誤りがあったことが判明した時点で、高裁は一審に差し戻すか、無罪判決を言い渡すべきです。一審の有罪理由を棄却し全く新しい理由をもって有罪判決を下すことは、高裁には許されていない。重大なルール違反だと我々は考えています」 こう語る佐野さんたちは、裁判を検証する膨大な資料を作成し、会のホームページにアップした。「朴鐘顕くんの裁判 2審判決文の構造と疑問点」というパワーポイントで作成された資料はA4用紙で18ページ、難解な法律用語などを平易な文章に直し、会の主張をまとめた「私たちが考える朴鐘顕くんの裁判に関しての重要な問題点」は、38ページにも及ぶ。「みな仕事をしながらでしたので、休日を費やしながらの大変な作業でした。ホームページを立ち上げたのが5月1日。署名は約600通集まっています。ホームページを見て賛同し、電話やメールで署名してくれる人が増えています。6月からは、署名サイト『change.org』を使用した、電子署名も始めました。目標としては、上告趣意書提出に添付するものとして、直筆で1000。もちろん、このような数字が裁判所にインパクトを与えられるものではないことはわかっています。まずは、このような公正ではない裁判の真実を多くの方に知っていただき、世論の動きを作りたいという思いです。お子さんたちもお父さんの無実を信じ、帰りを待っています」(同前)朴被告の様子は…… このような友人たちの動きを、朴被告はどのように受け止めているのだろうか。二審判決を記者も傍聴したが、朴被告の様子は極めて情緒不安定に見えた。主文言い渡しの後、「えっ、どうして」と叫び、その後も「してない! してない!」、「矛盾しているよ!」などと不規則発言を繰り返し、裁判長からたしなめられていた。「面会に行っているご家族や同僚によれば、今は落ち着いていると聞いています。最近、僕が受け取った手紙では、拘置所の中で本を読みながら健康的な生活を送っていると書いてありました。会の活動が始まったことについては感謝している様子でしたが、やはり子供たちのことを一番心配していて、とにかく早く家に戻りたい一心のようです。彼の法廷での様子をもって、心象が悪いと評する記事もありましたが、無実の罪によって子供たちの面倒を見られなくなってしまうことを恐れていると考えれば、当然のことでしょう」(同前) だが、一審に続き二審でも有罪判決が下った現実はやはり重い。公判を傍聴してきた司法記者はこう指摘する。「確かに一審の立証に問題があったのは事実だが、二審で改めて、証拠を精査し直して自殺ストーリーはちゃんと排斥されている。何よりも、一階寝室のマットなどに残されていた唾液混じりの血痕と尿班が、朴被告が妻を窒息死させた決定的な証拠です。弁護側は唾液混じりの血痕について、『歯磨きにより粘膜や歯茎から出血した可能性がある』と主張していますが、荒唐無稽過ぎます」 前出の弁護士も、上告審で覆る可能性については懐疑的だ。「最高裁は、『重大な事実の誤認』があるなど、高裁判決が著しく正義に反すると判断すれば、これを破棄することはできます。第一審に差し戻さずに排斥された自殺ストーリーについて、『重大な事実の誤認』や『法令の違反』があるとされるかがポイントとなりそうですが、ハードルは低くはないでしょう」デイリー新潮取材班2021年6月7日 掲載
佐野さんは一貫して、朴被告の無罪を信じていたという。「逮捕前に、直接、彼から当日起きたことを事細かく説明を受けています。親友の言葉を信じる気持ちが揺らいだことはなく、一審で有罪判決が出た後も、二審でひっくり返るだろうと考えていました。ただ、裁判については、講談社が全面的にバックアップしていたので任せきりで、詳しい内容は知りませんでした」(同前) 支援する会を始めるきっかけとなったのが、二審判決後、朴被告を個人的に支援してきた講談社の同僚と出会いだった。「朴のお母さんの紹介でその方に会ってみると、彼も僕とまったく同じスタンスで、家族のサポートに徹してきた人でした。同僚の方は、『事件のことはよくわからないが、子供たちのためにできることをしてあげたい』、『お父さんの無実を信じている人がこんなにもいると伝えてあげたいという思いで、署名を集めている』と話すのです。それならば私もと思い、OBも参加しているサークルのフェイスブックで声がけをした。すると、同意してくれる仲間たちが次々と集まった。現在、会のメンバーは、サークルのOBが中心に36人。講談社の元同僚や朴の親族も入っています」(同前)一審判決にあった事実誤認 いざ正式に会を立ち上げ、活動していくにあたり、朴被告の担当弁護士の協力を得て、膨大な裁判資料を読み込んだという。すると、二審判決の“瑕疵”に気づいたという。「一審判決では、現場には15カ所、佳菜子さんの血痕があるとされ、その証拠に基づいて『自殺ストーリー』はありえないと退けられたのですが、二審では新証拠によって現場に28カ所の血痕があったことが判明しました。つまり、一審判決には重大な事実誤認があったのです。二審判決はその事実誤認を認めた上で、全く新しい理由をもって、自殺ストーリーを退け、有罪判決を下している」(同前) 血痕は自殺ストーリーが成立するか否かで、裁判で重要なポイントとなっていた。佳菜子さんの左前額部の挫裂創から流れ出たものとされているが、生きているうちのものだったか、もしくは脳死状態の時のものだったのかで、評価が変わるのである。なお、完全に死んだ状態だと心臓が止まり、血は流れない。判決では、この挫裂創は朴被告が佳菜子さんを階段から突き落とした際にできたもので、その時、佳菜子さんは脳死状態だったとされている。 確かに高裁判決には、「原判決の上記判断は、客観的事実及び経験則等に照らして不合理であり、上記のような現場の血痕の状況をもって、自殺ストーリーを排斥する根拠とすることはできない」と、一審の判断の誤りを指摘している箇所がある。 だが、新しい血痕の状況を検証し直し、遺体に血痕が付着していないのは不自然であること、首を括った際に利用したとされる階段の手すりの留め具にジャケットの繊維が検出されていないこと、首を締められた際に出る尿班が階段から検出されていないことなどを合わせ、改めて自殺ストーリーを排斥し、「原判決の判断理由には一部是認できないところがあるものの、本件殺人の事実を認定した原判決の判断は、結論において相当である」とした。 刑事裁判の経験が豊富な弁護士は、次のように解説する。「一般論として刑事事件の控訴審は、第一審の審理に不十分な点があると考えた場合、その点について自ら審理することも、事件を第一審裁判所に差し戻すこともできます。犯罪の成否自体に関する重要な事項は、本来、第一審で十分に審理すべきことですから、原則として差し戻すべきであり、このことは特に、裁判員裁判の対象となるような重大事件において強く当てはまるといえます。 今回のケースでは、朴被告の妻が自殺をしたという弁護側のストーリーを退けた第一審の判断について、控訴審は、前提事実を誤っているとした上で自ら審理し、自殺ストーリーはやはり排斥できるとしました。差戻しをしなかった理由としては、既に一定程度、自殺ストーリーについて裁判員を含む合議体で審理がされていたこともありますが、結局、結論は変わらないと判断されたことが大きかったと思われます」1カ月かけて準備したホームページ 佐野さんはこう訴える。「『市民を有罪にするのは市民の手で』が裁判員制度の大原則である以上、一審の判断に重要な誤りがあったことが判明した時点で、高裁は一審に差し戻すか、無罪判決を言い渡すべきです。一審の有罪理由を棄却し全く新しい理由をもって有罪判決を下すことは、高裁には許されていない。重大なルール違反だと我々は考えています」 こう語る佐野さんたちは、裁判を検証する膨大な資料を作成し、会のホームページにアップした。「朴鐘顕くんの裁判 2審判決文の構造と疑問点」というパワーポイントで作成された資料はA4用紙で18ページ、難解な法律用語などを平易な文章に直し、会の主張をまとめた「私たちが考える朴鐘顕くんの裁判に関しての重要な問題点」は、38ページにも及ぶ。「みな仕事をしながらでしたので、休日を費やしながらの大変な作業でした。ホームページを立ち上げたのが5月1日。署名は約600通集まっています。ホームページを見て賛同し、電話やメールで署名してくれる人が増えています。6月からは、署名サイト『change.org』を使用した、電子署名も始めました。目標としては、上告趣意書提出に添付するものとして、直筆で1000。もちろん、このような数字が裁判所にインパクトを与えられるものではないことはわかっています。まずは、このような公正ではない裁判の真実を多くの方に知っていただき、世論の動きを作りたいという思いです。お子さんたちもお父さんの無実を信じ、帰りを待っています」(同前)朴被告の様子は…… このような友人たちの動きを、朴被告はどのように受け止めているのだろうか。二審判決を記者も傍聴したが、朴被告の様子は極めて情緒不安定に見えた。主文言い渡しの後、「えっ、どうして」と叫び、その後も「してない! してない!」、「矛盾しているよ!」などと不規則発言を繰り返し、裁判長からたしなめられていた。「面会に行っているご家族や同僚によれば、今は落ち着いていると聞いています。最近、僕が受け取った手紙では、拘置所の中で本を読みながら健康的な生活を送っていると書いてありました。会の活動が始まったことについては感謝している様子でしたが、やはり子供たちのことを一番心配していて、とにかく早く家に戻りたい一心のようです。彼の法廷での様子をもって、心象が悪いと評する記事もありましたが、無実の罪によって子供たちの面倒を見られなくなってしまうことを恐れていると考えれば、当然のことでしょう」(同前) だが、一審に続き二審でも有罪判決が下った現実はやはり重い。公判を傍聴してきた司法記者はこう指摘する。「確かに一審の立証に問題があったのは事実だが、二審で改めて、証拠を精査し直して自殺ストーリーはちゃんと排斥されている。何よりも、一階寝室のマットなどに残されていた唾液混じりの血痕と尿班が、朴被告が妻を窒息死させた決定的な証拠です。弁護側は唾液混じりの血痕について、『歯磨きにより粘膜や歯茎から出血した可能性がある』と主張していますが、荒唐無稽過ぎます」 前出の弁護士も、上告審で覆る可能性については懐疑的だ。「最高裁は、『重大な事実の誤認』があるなど、高裁判決が著しく正義に反すると判断すれば、これを破棄することはできます。第一審に差し戻さずに排斥された自殺ストーリーについて、『重大な事実の誤認』や『法令の違反』があるとされるかがポイントとなりそうですが、ハードルは低くはないでしょう」デイリー新潮取材班2021年6月7日 掲載
「逮捕前に、直接、彼から当日起きたことを事細かく説明を受けています。親友の言葉を信じる気持ちが揺らいだことはなく、一審で有罪判決が出た後も、二審でひっくり返るだろうと考えていました。ただ、裁判については、講談社が全面的にバックアップしていたので任せきりで、詳しい内容は知りませんでした」(同前) 支援する会を始めるきっかけとなったのが、二審判決後、朴被告を個人的に支援してきた講談社の同僚と出会いだった。「朴のお母さんの紹介でその方に会ってみると、彼も僕とまったく同じスタンスで、家族のサポートに徹してきた人でした。同僚の方は、『事件のことはよくわからないが、子供たちのためにできることをしてあげたい』、『お父さんの無実を信じている人がこんなにもいると伝えてあげたいという思いで、署名を集めている』と話すのです。それならば私もと思い、OBも参加しているサークルのフェイスブックで声がけをした。すると、同意してくれる仲間たちが次々と集まった。現在、会のメンバーは、サークルのOBが中心に36人。講談社の元同僚や朴の親族も入っています」(同前)一審判決にあった事実誤認 いざ正式に会を立ち上げ、活動していくにあたり、朴被告の担当弁護士の協力を得て、膨大な裁判資料を読み込んだという。すると、二審判決の“瑕疵”に気づいたという。「一審判決では、現場には15カ所、佳菜子さんの血痕があるとされ、その証拠に基づいて『自殺ストーリー』はありえないと退けられたのですが、二審では新証拠によって現場に28カ所の血痕があったことが判明しました。つまり、一審判決には重大な事実誤認があったのです。二審判決はその事実誤認を認めた上で、全く新しい理由をもって、自殺ストーリーを退け、有罪判決を下している」(同前) 血痕は自殺ストーリーが成立するか否かで、裁判で重要なポイントとなっていた。佳菜子さんの左前額部の挫裂創から流れ出たものとされているが、生きているうちのものだったか、もしくは脳死状態の時のものだったのかで、評価が変わるのである。なお、完全に死んだ状態だと心臓が止まり、血は流れない。判決では、この挫裂創は朴被告が佳菜子さんを階段から突き落とした際にできたもので、その時、佳菜子さんは脳死状態だったとされている。 確かに高裁判決には、「原判決の上記判断は、客観的事実及び経験則等に照らして不合理であり、上記のような現場の血痕の状況をもって、自殺ストーリーを排斥する根拠とすることはできない」と、一審の判断の誤りを指摘している箇所がある。 だが、新しい血痕の状況を検証し直し、遺体に血痕が付着していないのは不自然であること、首を括った際に利用したとされる階段の手すりの留め具にジャケットの繊維が検出されていないこと、首を締められた際に出る尿班が階段から検出されていないことなどを合わせ、改めて自殺ストーリーを排斥し、「原判決の判断理由には一部是認できないところがあるものの、本件殺人の事実を認定した原判決の判断は、結論において相当である」とした。 刑事裁判の経験が豊富な弁護士は、次のように解説する。「一般論として刑事事件の控訴審は、第一審の審理に不十分な点があると考えた場合、その点について自ら審理することも、事件を第一審裁判所に差し戻すこともできます。犯罪の成否自体に関する重要な事項は、本来、第一審で十分に審理すべきことですから、原則として差し戻すべきであり、このことは特に、裁判員裁判の対象となるような重大事件において強く当てはまるといえます。 今回のケースでは、朴被告の妻が自殺をしたという弁護側のストーリーを退けた第一審の判断について、控訴審は、前提事実を誤っているとした上で自ら審理し、自殺ストーリーはやはり排斥できるとしました。差戻しをしなかった理由としては、既に一定程度、自殺ストーリーについて裁判員を含む合議体で審理がされていたこともありますが、結局、結論は変わらないと判断されたことが大きかったと思われます」1カ月かけて準備したホームページ 佐野さんはこう訴える。「『市民を有罪にするのは市民の手で』が裁判員制度の大原則である以上、一審の判断に重要な誤りがあったことが判明した時点で、高裁は一審に差し戻すか、無罪判決を言い渡すべきです。一審の有罪理由を棄却し全く新しい理由をもって有罪判決を下すことは、高裁には許されていない。重大なルール違反だと我々は考えています」 こう語る佐野さんたちは、裁判を検証する膨大な資料を作成し、会のホームページにアップした。「朴鐘顕くんの裁判 2審判決文の構造と疑問点」というパワーポイントで作成された資料はA4用紙で18ページ、難解な法律用語などを平易な文章に直し、会の主張をまとめた「私たちが考える朴鐘顕くんの裁判に関しての重要な問題点」は、38ページにも及ぶ。「みな仕事をしながらでしたので、休日を費やしながらの大変な作業でした。ホームページを立ち上げたのが5月1日。署名は約600通集まっています。ホームページを見て賛同し、電話やメールで署名してくれる人が増えています。6月からは、署名サイト『change.org』を使用した、電子署名も始めました。目標としては、上告趣意書提出に添付するものとして、直筆で1000。もちろん、このような数字が裁判所にインパクトを与えられるものではないことはわかっています。まずは、このような公正ではない裁判の真実を多くの方に知っていただき、世論の動きを作りたいという思いです。お子さんたちもお父さんの無実を信じ、帰りを待っています」(同前)朴被告の様子は…… このような友人たちの動きを、朴被告はどのように受け止めているのだろうか。二審判決を記者も傍聴したが、朴被告の様子は極めて情緒不安定に見えた。主文言い渡しの後、「えっ、どうして」と叫び、その後も「してない! してない!」、「矛盾しているよ!」などと不規則発言を繰り返し、裁判長からたしなめられていた。「面会に行っているご家族や同僚によれば、今は落ち着いていると聞いています。最近、僕が受け取った手紙では、拘置所の中で本を読みながら健康的な生活を送っていると書いてありました。会の活動が始まったことについては感謝している様子でしたが、やはり子供たちのことを一番心配していて、とにかく早く家に戻りたい一心のようです。彼の法廷での様子をもって、心象が悪いと評する記事もありましたが、無実の罪によって子供たちの面倒を見られなくなってしまうことを恐れていると考えれば、当然のことでしょう」(同前) だが、一審に続き二審でも有罪判決が下った現実はやはり重い。公判を傍聴してきた司法記者はこう指摘する。「確かに一審の立証に問題があったのは事実だが、二審で改めて、証拠を精査し直して自殺ストーリーはちゃんと排斥されている。何よりも、一階寝室のマットなどに残されていた唾液混じりの血痕と尿班が、朴被告が妻を窒息死させた決定的な証拠です。弁護側は唾液混じりの血痕について、『歯磨きにより粘膜や歯茎から出血した可能性がある』と主張していますが、荒唐無稽過ぎます」 前出の弁護士も、上告審で覆る可能性については懐疑的だ。「最高裁は、『重大な事実の誤認』があるなど、高裁判決が著しく正義に反すると判断すれば、これを破棄することはできます。第一審に差し戻さずに排斥された自殺ストーリーについて、『重大な事実の誤認』や『法令の違反』があるとされるかがポイントとなりそうですが、ハードルは低くはないでしょう」デイリー新潮取材班2021年6月7日 掲載
支援する会を始めるきっかけとなったのが、二審判決後、朴被告を個人的に支援してきた講談社の同僚と出会いだった。「朴のお母さんの紹介でその方に会ってみると、彼も僕とまったく同じスタンスで、家族のサポートに徹してきた人でした。同僚の方は、『事件のことはよくわからないが、子供たちのためにできることをしてあげたい』、『お父さんの無実を信じている人がこんなにもいると伝えてあげたいという思いで、署名を集めている』と話すのです。それならば私もと思い、OBも参加しているサークルのフェイスブックで声がけをした。すると、同意してくれる仲間たちが次々と集まった。現在、会のメンバーは、サークルのOBが中心に36人。講談社の元同僚や朴の親族も入っています」(同前)一審判決にあった事実誤認 いざ正式に会を立ち上げ、活動していくにあたり、朴被告の担当弁護士の協力を得て、膨大な裁判資料を読み込んだという。すると、二審判決の“瑕疵”に気づいたという。「一審判決では、現場には15カ所、佳菜子さんの血痕があるとされ、その証拠に基づいて『自殺ストーリー』はありえないと退けられたのですが、二審では新証拠によって現場に28カ所の血痕があったことが判明しました。つまり、一審判決には重大な事実誤認があったのです。二審判決はその事実誤認を認めた上で、全く新しい理由をもって、自殺ストーリーを退け、有罪判決を下している」(同前) 血痕は自殺ストーリーが成立するか否かで、裁判で重要なポイントとなっていた。佳菜子さんの左前額部の挫裂創から流れ出たものとされているが、生きているうちのものだったか、もしくは脳死状態の時のものだったのかで、評価が変わるのである。なお、完全に死んだ状態だと心臓が止まり、血は流れない。判決では、この挫裂創は朴被告が佳菜子さんを階段から突き落とした際にできたもので、その時、佳菜子さんは脳死状態だったとされている。 確かに高裁判決には、「原判決の上記判断は、客観的事実及び経験則等に照らして不合理であり、上記のような現場の血痕の状況をもって、自殺ストーリーを排斥する根拠とすることはできない」と、一審の判断の誤りを指摘している箇所がある。 だが、新しい血痕の状況を検証し直し、遺体に血痕が付着していないのは不自然であること、首を括った際に利用したとされる階段の手すりの留め具にジャケットの繊維が検出されていないこと、首を締められた際に出る尿班が階段から検出されていないことなどを合わせ、改めて自殺ストーリーを排斥し、「原判決の判断理由には一部是認できないところがあるものの、本件殺人の事実を認定した原判決の判断は、結論において相当である」とした。 刑事裁判の経験が豊富な弁護士は、次のように解説する。「一般論として刑事事件の控訴審は、第一審の審理に不十分な点があると考えた場合、その点について自ら審理することも、事件を第一審裁判所に差し戻すこともできます。犯罪の成否自体に関する重要な事項は、本来、第一審で十分に審理すべきことですから、原則として差し戻すべきであり、このことは特に、裁判員裁判の対象となるような重大事件において強く当てはまるといえます。 今回のケースでは、朴被告の妻が自殺をしたという弁護側のストーリーを退けた第一審の判断について、控訴審は、前提事実を誤っているとした上で自ら審理し、自殺ストーリーはやはり排斥できるとしました。差戻しをしなかった理由としては、既に一定程度、自殺ストーリーについて裁判員を含む合議体で審理がされていたこともありますが、結局、結論は変わらないと判断されたことが大きかったと思われます」1カ月かけて準備したホームページ 佐野さんはこう訴える。「『市民を有罪にするのは市民の手で』が裁判員制度の大原則である以上、一審の判断に重要な誤りがあったことが判明した時点で、高裁は一審に差し戻すか、無罪判決を言い渡すべきです。一審の有罪理由を棄却し全く新しい理由をもって有罪判決を下すことは、高裁には許されていない。重大なルール違反だと我々は考えています」 こう語る佐野さんたちは、裁判を検証する膨大な資料を作成し、会のホームページにアップした。「朴鐘顕くんの裁判 2審判決文の構造と疑問点」というパワーポイントで作成された資料はA4用紙で18ページ、難解な法律用語などを平易な文章に直し、会の主張をまとめた「私たちが考える朴鐘顕くんの裁判に関しての重要な問題点」は、38ページにも及ぶ。「みな仕事をしながらでしたので、休日を費やしながらの大変な作業でした。ホームページを立ち上げたのが5月1日。署名は約600通集まっています。ホームページを見て賛同し、電話やメールで署名してくれる人が増えています。6月からは、署名サイト『change.org』を使用した、電子署名も始めました。目標としては、上告趣意書提出に添付するものとして、直筆で1000。もちろん、このような数字が裁判所にインパクトを与えられるものではないことはわかっています。まずは、このような公正ではない裁判の真実を多くの方に知っていただき、世論の動きを作りたいという思いです。お子さんたちもお父さんの無実を信じ、帰りを待っています」(同前)朴被告の様子は…… このような友人たちの動きを、朴被告はどのように受け止めているのだろうか。二審判決を記者も傍聴したが、朴被告の様子は極めて情緒不安定に見えた。主文言い渡しの後、「えっ、どうして」と叫び、その後も「してない! してない!」、「矛盾しているよ!」などと不規則発言を繰り返し、裁判長からたしなめられていた。「面会に行っているご家族や同僚によれば、今は落ち着いていると聞いています。最近、僕が受け取った手紙では、拘置所の中で本を読みながら健康的な生活を送っていると書いてありました。会の活動が始まったことについては感謝している様子でしたが、やはり子供たちのことを一番心配していて、とにかく早く家に戻りたい一心のようです。彼の法廷での様子をもって、心象が悪いと評する記事もありましたが、無実の罪によって子供たちの面倒を見られなくなってしまうことを恐れていると考えれば、当然のことでしょう」(同前) だが、一審に続き二審でも有罪判決が下った現実はやはり重い。公判を傍聴してきた司法記者はこう指摘する。「確かに一審の立証に問題があったのは事実だが、二審で改めて、証拠を精査し直して自殺ストーリーはちゃんと排斥されている。何よりも、一階寝室のマットなどに残されていた唾液混じりの血痕と尿班が、朴被告が妻を窒息死させた決定的な証拠です。弁護側は唾液混じりの血痕について、『歯磨きにより粘膜や歯茎から出血した可能性がある』と主張していますが、荒唐無稽過ぎます」 前出の弁護士も、上告審で覆る可能性については懐疑的だ。「最高裁は、『重大な事実の誤認』があるなど、高裁判決が著しく正義に反すると判断すれば、これを破棄することはできます。第一審に差し戻さずに排斥された自殺ストーリーについて、『重大な事実の誤認』や『法令の違反』があるとされるかがポイントとなりそうですが、ハードルは低くはないでしょう」デイリー新潮取材班2021年6月7日 掲載
「朴のお母さんの紹介でその方に会ってみると、彼も僕とまったく同じスタンスで、家族のサポートに徹してきた人でした。同僚の方は、『事件のことはよくわからないが、子供たちのためにできることをしてあげたい』、『お父さんの無実を信じている人がこんなにもいると伝えてあげたいという思いで、署名を集めている』と話すのです。それならば私もと思い、OBも参加しているサークルのフェイスブックで声がけをした。すると、同意してくれる仲間たちが次々と集まった。現在、会のメンバーは、サークルのOBが中心に36人。講談社の元同僚や朴の親族も入っています」(同前)一審判決にあった事実誤認 いざ正式に会を立ち上げ、活動していくにあたり、朴被告の担当弁護士の協力を得て、膨大な裁判資料を読み込んだという。すると、二審判決の“瑕疵”に気づいたという。「一審判決では、現場には15カ所、佳菜子さんの血痕があるとされ、その証拠に基づいて『自殺ストーリー』はありえないと退けられたのですが、二審では新証拠によって現場に28カ所の血痕があったことが判明しました。つまり、一審判決には重大な事実誤認があったのです。二審判決はその事実誤認を認めた上で、全く新しい理由をもって、自殺ストーリーを退け、有罪判決を下している」(同前) 血痕は自殺ストーリーが成立するか否かで、裁判で重要なポイントとなっていた。佳菜子さんの左前額部の挫裂創から流れ出たものとされているが、生きているうちのものだったか、もしくは脳死状態の時のものだったのかで、評価が変わるのである。なお、完全に死んだ状態だと心臓が止まり、血は流れない。判決では、この挫裂創は朴被告が佳菜子さんを階段から突き落とした際にできたもので、その時、佳菜子さんは脳死状態だったとされている。 確かに高裁判決には、「原判決の上記判断は、客観的事実及び経験則等に照らして不合理であり、上記のような現場の血痕の状況をもって、自殺ストーリーを排斥する根拠とすることはできない」と、一審の判断の誤りを指摘している箇所がある。 だが、新しい血痕の状況を検証し直し、遺体に血痕が付着していないのは不自然であること、首を括った際に利用したとされる階段の手すりの留め具にジャケットの繊維が検出されていないこと、首を締められた際に出る尿班が階段から検出されていないことなどを合わせ、改めて自殺ストーリーを排斥し、「原判決の判断理由には一部是認できないところがあるものの、本件殺人の事実を認定した原判決の判断は、結論において相当である」とした。 刑事裁判の経験が豊富な弁護士は、次のように解説する。「一般論として刑事事件の控訴審は、第一審の審理に不十分な点があると考えた場合、その点について自ら審理することも、事件を第一審裁判所に差し戻すこともできます。犯罪の成否自体に関する重要な事項は、本来、第一審で十分に審理すべきことですから、原則として差し戻すべきであり、このことは特に、裁判員裁判の対象となるような重大事件において強く当てはまるといえます。 今回のケースでは、朴被告の妻が自殺をしたという弁護側のストーリーを退けた第一審の判断について、控訴審は、前提事実を誤っているとした上で自ら審理し、自殺ストーリーはやはり排斥できるとしました。差戻しをしなかった理由としては、既に一定程度、自殺ストーリーについて裁判員を含む合議体で審理がされていたこともありますが、結局、結論は変わらないと判断されたことが大きかったと思われます」1カ月かけて準備したホームページ 佐野さんはこう訴える。「『市民を有罪にするのは市民の手で』が裁判員制度の大原則である以上、一審の判断に重要な誤りがあったことが判明した時点で、高裁は一審に差し戻すか、無罪判決を言い渡すべきです。一審の有罪理由を棄却し全く新しい理由をもって有罪判決を下すことは、高裁には許されていない。重大なルール違反だと我々は考えています」 こう語る佐野さんたちは、裁判を検証する膨大な資料を作成し、会のホームページにアップした。「朴鐘顕くんの裁判 2審判決文の構造と疑問点」というパワーポイントで作成された資料はA4用紙で18ページ、難解な法律用語などを平易な文章に直し、会の主張をまとめた「私たちが考える朴鐘顕くんの裁判に関しての重要な問題点」は、38ページにも及ぶ。「みな仕事をしながらでしたので、休日を費やしながらの大変な作業でした。ホームページを立ち上げたのが5月1日。署名は約600通集まっています。ホームページを見て賛同し、電話やメールで署名してくれる人が増えています。6月からは、署名サイト『change.org』を使用した、電子署名も始めました。目標としては、上告趣意書提出に添付するものとして、直筆で1000。もちろん、このような数字が裁判所にインパクトを与えられるものではないことはわかっています。まずは、このような公正ではない裁判の真実を多くの方に知っていただき、世論の動きを作りたいという思いです。お子さんたちもお父さんの無実を信じ、帰りを待っています」(同前)朴被告の様子は…… このような友人たちの動きを、朴被告はどのように受け止めているのだろうか。二審判決を記者も傍聴したが、朴被告の様子は極めて情緒不安定に見えた。主文言い渡しの後、「えっ、どうして」と叫び、その後も「してない! してない!」、「矛盾しているよ!」などと不規則発言を繰り返し、裁判長からたしなめられていた。「面会に行っているご家族や同僚によれば、今は落ち着いていると聞いています。最近、僕が受け取った手紙では、拘置所の中で本を読みながら健康的な生活を送っていると書いてありました。会の活動が始まったことについては感謝している様子でしたが、やはり子供たちのことを一番心配していて、とにかく早く家に戻りたい一心のようです。彼の法廷での様子をもって、心象が悪いと評する記事もありましたが、無実の罪によって子供たちの面倒を見られなくなってしまうことを恐れていると考えれば、当然のことでしょう」(同前) だが、一審に続き二審でも有罪判決が下った現実はやはり重い。公判を傍聴してきた司法記者はこう指摘する。「確かに一審の立証に問題があったのは事実だが、二審で改めて、証拠を精査し直して自殺ストーリーはちゃんと排斥されている。何よりも、一階寝室のマットなどに残されていた唾液混じりの血痕と尿班が、朴被告が妻を窒息死させた決定的な証拠です。弁護側は唾液混じりの血痕について、『歯磨きにより粘膜や歯茎から出血した可能性がある』と主張していますが、荒唐無稽過ぎます」 前出の弁護士も、上告審で覆る可能性については懐疑的だ。「最高裁は、『重大な事実の誤認』があるなど、高裁判決が著しく正義に反すると判断すれば、これを破棄することはできます。第一審に差し戻さずに排斥された自殺ストーリーについて、『重大な事実の誤認』や『法令の違反』があるとされるかがポイントとなりそうですが、ハードルは低くはないでしょう」デイリー新潮取材班2021年6月7日 掲載
いざ正式に会を立ち上げ、活動していくにあたり、朴被告の担当弁護士の協力を得て、膨大な裁判資料を読み込んだという。すると、二審判決の“瑕疵”に気づいたという。「一審判決では、現場には15カ所、佳菜子さんの血痕があるとされ、その証拠に基づいて『自殺ストーリー』はありえないと退けられたのですが、二審では新証拠によって現場に28カ所の血痕があったことが判明しました。つまり、一審判決には重大な事実誤認があったのです。二審判決はその事実誤認を認めた上で、全く新しい理由をもって、自殺ストーリーを退け、有罪判決を下している」(同前) 血痕は自殺ストーリーが成立するか否かで、裁判で重要なポイントとなっていた。佳菜子さんの左前額部の挫裂創から流れ出たものとされているが、生きているうちのものだったか、もしくは脳死状態の時のものだったのかで、評価が変わるのである。なお、完全に死んだ状態だと心臓が止まり、血は流れない。判決では、この挫裂創は朴被告が佳菜子さんを階段から突き落とした際にできたもので、その時、佳菜子さんは脳死状態だったとされている。 確かに高裁判決には、「原判決の上記判断は、客観的事実及び経験則等に照らして不合理であり、上記のような現場の血痕の状況をもって、自殺ストーリーを排斥する根拠とすることはできない」と、一審の判断の誤りを指摘している箇所がある。 だが、新しい血痕の状況を検証し直し、遺体に血痕が付着していないのは不自然であること、首を括った際に利用したとされる階段の手すりの留め具にジャケットの繊維が検出されていないこと、首を締められた際に出る尿班が階段から検出されていないことなどを合わせ、改めて自殺ストーリーを排斥し、「原判決の判断理由には一部是認できないところがあるものの、本件殺人の事実を認定した原判決の判断は、結論において相当である」とした。 刑事裁判の経験が豊富な弁護士は、次のように解説する。「一般論として刑事事件の控訴審は、第一審の審理に不十分な点があると考えた場合、その点について自ら審理することも、事件を第一審裁判所に差し戻すこともできます。犯罪の成否自体に関する重要な事項は、本来、第一審で十分に審理すべきことですから、原則として差し戻すべきであり、このことは特に、裁判員裁判の対象となるような重大事件において強く当てはまるといえます。 今回のケースでは、朴被告の妻が自殺をしたという弁護側のストーリーを退けた第一審の判断について、控訴審は、前提事実を誤っているとした上で自ら審理し、自殺ストーリーはやはり排斥できるとしました。差戻しをしなかった理由としては、既に一定程度、自殺ストーリーについて裁判員を含む合議体で審理がされていたこともありますが、結局、結論は変わらないと判断されたことが大きかったと思われます」1カ月かけて準備したホームページ 佐野さんはこう訴える。「『市民を有罪にするのは市民の手で』が裁判員制度の大原則である以上、一審の判断に重要な誤りがあったことが判明した時点で、高裁は一審に差し戻すか、無罪判決を言い渡すべきです。一審の有罪理由を棄却し全く新しい理由をもって有罪判決を下すことは、高裁には許されていない。重大なルール違反だと我々は考えています」 こう語る佐野さんたちは、裁判を検証する膨大な資料を作成し、会のホームページにアップした。「朴鐘顕くんの裁判 2審判決文の構造と疑問点」というパワーポイントで作成された資料はA4用紙で18ページ、難解な法律用語などを平易な文章に直し、会の主張をまとめた「私たちが考える朴鐘顕くんの裁判に関しての重要な問題点」は、38ページにも及ぶ。「みな仕事をしながらでしたので、休日を費やしながらの大変な作業でした。ホームページを立ち上げたのが5月1日。署名は約600通集まっています。ホームページを見て賛同し、電話やメールで署名してくれる人が増えています。6月からは、署名サイト『change.org』を使用した、電子署名も始めました。目標としては、上告趣意書提出に添付するものとして、直筆で1000。もちろん、このような数字が裁判所にインパクトを与えられるものではないことはわかっています。まずは、このような公正ではない裁判の真実を多くの方に知っていただき、世論の動きを作りたいという思いです。お子さんたちもお父さんの無実を信じ、帰りを待っています」(同前)朴被告の様子は…… このような友人たちの動きを、朴被告はどのように受け止めているのだろうか。二審判決を記者も傍聴したが、朴被告の様子は極めて情緒不安定に見えた。主文言い渡しの後、「えっ、どうして」と叫び、その後も「してない! してない!」、「矛盾しているよ!」などと不規則発言を繰り返し、裁判長からたしなめられていた。「面会に行っているご家族や同僚によれば、今は落ち着いていると聞いています。最近、僕が受け取った手紙では、拘置所の中で本を読みながら健康的な生活を送っていると書いてありました。会の活動が始まったことについては感謝している様子でしたが、やはり子供たちのことを一番心配していて、とにかく早く家に戻りたい一心のようです。彼の法廷での様子をもって、心象が悪いと評する記事もありましたが、無実の罪によって子供たちの面倒を見られなくなってしまうことを恐れていると考えれば、当然のことでしょう」(同前) だが、一審に続き二審でも有罪判決が下った現実はやはり重い。公判を傍聴してきた司法記者はこう指摘する。「確かに一審の立証に問題があったのは事実だが、二審で改めて、証拠を精査し直して自殺ストーリーはちゃんと排斥されている。何よりも、一階寝室のマットなどに残されていた唾液混じりの血痕と尿班が、朴被告が妻を窒息死させた決定的な証拠です。弁護側は唾液混じりの血痕について、『歯磨きにより粘膜や歯茎から出血した可能性がある』と主張していますが、荒唐無稽過ぎます」 前出の弁護士も、上告審で覆る可能性については懐疑的だ。「最高裁は、『重大な事実の誤認』があるなど、高裁判決が著しく正義に反すると判断すれば、これを破棄することはできます。第一審に差し戻さずに排斥された自殺ストーリーについて、『重大な事実の誤認』や『法令の違反』があるとされるかがポイントとなりそうですが、ハードルは低くはないでしょう」デイリー新潮取材班2021年6月7日 掲載
「一審判決では、現場には15カ所、佳菜子さんの血痕があるとされ、その証拠に基づいて『自殺ストーリー』はありえないと退けられたのですが、二審では新証拠によって現場に28カ所の血痕があったことが判明しました。つまり、一審判決には重大な事実誤認があったのです。二審判決はその事実誤認を認めた上で、全く新しい理由をもって、自殺ストーリーを退け、有罪判決を下している」(同前) 血痕は自殺ストーリーが成立するか否かで、裁判で重要なポイントとなっていた。佳菜子さんの左前額部の挫裂創から流れ出たものとされているが、生きているうちのものだったか、もしくは脳死状態の時のものだったのかで、評価が変わるのである。なお、完全に死んだ状態だと心臓が止まり、血は流れない。判決では、この挫裂創は朴被告が佳菜子さんを階段から突き落とした際にできたもので、その時、佳菜子さんは脳死状態だったとされている。 確かに高裁判決には、「原判決の上記判断は、客観的事実及び経験則等に照らして不合理であり、上記のような現場の血痕の状況をもって、自殺ストーリーを排斥する根拠とすることはできない」と、一審の判断の誤りを指摘している箇所がある。 だが、新しい血痕の状況を検証し直し、遺体に血痕が付着していないのは不自然であること、首を括った際に利用したとされる階段の手すりの留め具にジャケットの繊維が検出されていないこと、首を締められた際に出る尿班が階段から検出されていないことなどを合わせ、改めて自殺ストーリーを排斥し、「原判決の判断理由には一部是認できないところがあるものの、本件殺人の事実を認定した原判決の判断は、結論において相当である」とした。 刑事裁判の経験が豊富な弁護士は、次のように解説する。「一般論として刑事事件の控訴審は、第一審の審理に不十分な点があると考えた場合、その点について自ら審理することも、事件を第一審裁判所に差し戻すこともできます。犯罪の成否自体に関する重要な事項は、本来、第一審で十分に審理すべきことですから、原則として差し戻すべきであり、このことは特に、裁判員裁判の対象となるような重大事件において強く当てはまるといえます。 今回のケースでは、朴被告の妻が自殺をしたという弁護側のストーリーを退けた第一審の判断について、控訴審は、前提事実を誤っているとした上で自ら審理し、自殺ストーリーはやはり排斥できるとしました。差戻しをしなかった理由としては、既に一定程度、自殺ストーリーについて裁判員を含む合議体で審理がされていたこともありますが、結局、結論は変わらないと判断されたことが大きかったと思われます」1カ月かけて準備したホームページ 佐野さんはこう訴える。「『市民を有罪にするのは市民の手で』が裁判員制度の大原則である以上、一審の判断に重要な誤りがあったことが判明した時点で、高裁は一審に差し戻すか、無罪判決を言い渡すべきです。一審の有罪理由を棄却し全く新しい理由をもって有罪判決を下すことは、高裁には許されていない。重大なルール違反だと我々は考えています」 こう語る佐野さんたちは、裁判を検証する膨大な資料を作成し、会のホームページにアップした。「朴鐘顕くんの裁判 2審判決文の構造と疑問点」というパワーポイントで作成された資料はA4用紙で18ページ、難解な法律用語などを平易な文章に直し、会の主張をまとめた「私たちが考える朴鐘顕くんの裁判に関しての重要な問題点」は、38ページにも及ぶ。「みな仕事をしながらでしたので、休日を費やしながらの大変な作業でした。ホームページを立ち上げたのが5月1日。署名は約600通集まっています。ホームページを見て賛同し、電話やメールで署名してくれる人が増えています。6月からは、署名サイト『change.org』を使用した、電子署名も始めました。目標としては、上告趣意書提出に添付するものとして、直筆で1000。もちろん、このような数字が裁判所にインパクトを与えられるものではないことはわかっています。まずは、このような公正ではない裁判の真実を多くの方に知っていただき、世論の動きを作りたいという思いです。お子さんたちもお父さんの無実を信じ、帰りを待っています」(同前)朴被告の様子は…… このような友人たちの動きを、朴被告はどのように受け止めているのだろうか。二審判決を記者も傍聴したが、朴被告の様子は極めて情緒不安定に見えた。主文言い渡しの後、「えっ、どうして」と叫び、その後も「してない! してない!」、「矛盾しているよ!」などと不規則発言を繰り返し、裁判長からたしなめられていた。「面会に行っているご家族や同僚によれば、今は落ち着いていると聞いています。最近、僕が受け取った手紙では、拘置所の中で本を読みながら健康的な生活を送っていると書いてありました。会の活動が始まったことについては感謝している様子でしたが、やはり子供たちのことを一番心配していて、とにかく早く家に戻りたい一心のようです。彼の法廷での様子をもって、心象が悪いと評する記事もありましたが、無実の罪によって子供たちの面倒を見られなくなってしまうことを恐れていると考えれば、当然のことでしょう」(同前) だが、一審に続き二審でも有罪判決が下った現実はやはり重い。公判を傍聴してきた司法記者はこう指摘する。「確かに一審の立証に問題があったのは事実だが、二審で改めて、証拠を精査し直して自殺ストーリーはちゃんと排斥されている。何よりも、一階寝室のマットなどに残されていた唾液混じりの血痕と尿班が、朴被告が妻を窒息死させた決定的な証拠です。弁護側は唾液混じりの血痕について、『歯磨きにより粘膜や歯茎から出血した可能性がある』と主張していますが、荒唐無稽過ぎます」 前出の弁護士も、上告審で覆る可能性については懐疑的だ。「最高裁は、『重大な事実の誤認』があるなど、高裁判決が著しく正義に反すると判断すれば、これを破棄することはできます。第一審に差し戻さずに排斥された自殺ストーリーについて、『重大な事実の誤認』や『法令の違反』があるとされるかがポイントとなりそうですが、ハードルは低くはないでしょう」デイリー新潮取材班2021年6月7日 掲載
血痕は自殺ストーリーが成立するか否かで、裁判で重要なポイントとなっていた。佳菜子さんの左前額部の挫裂創から流れ出たものとされているが、生きているうちのものだったか、もしくは脳死状態の時のものだったのかで、評価が変わるのである。なお、完全に死んだ状態だと心臓が止まり、血は流れない。判決では、この挫裂創は朴被告が佳菜子さんを階段から突き落とした際にできたもので、その時、佳菜子さんは脳死状態だったとされている。 確かに高裁判決には、「原判決の上記判断は、客観的事実及び経験則等に照らして不合理であり、上記のような現場の血痕の状況をもって、自殺ストーリーを排斥する根拠とすることはできない」と、一審の判断の誤りを指摘している箇所がある。 だが、新しい血痕の状況を検証し直し、遺体に血痕が付着していないのは不自然であること、首を括った際に利用したとされる階段の手すりの留め具にジャケットの繊維が検出されていないこと、首を締められた際に出る尿班が階段から検出されていないことなどを合わせ、改めて自殺ストーリーを排斥し、「原判決の判断理由には一部是認できないところがあるものの、本件殺人の事実を認定した原判決の判断は、結論において相当である」とした。 刑事裁判の経験が豊富な弁護士は、次のように解説する。「一般論として刑事事件の控訴審は、第一審の審理に不十分な点があると考えた場合、その点について自ら審理することも、事件を第一審裁判所に差し戻すこともできます。犯罪の成否自体に関する重要な事項は、本来、第一審で十分に審理すべきことですから、原則として差し戻すべきであり、このことは特に、裁判員裁判の対象となるような重大事件において強く当てはまるといえます。 今回のケースでは、朴被告の妻が自殺をしたという弁護側のストーリーを退けた第一審の判断について、控訴審は、前提事実を誤っているとした上で自ら審理し、自殺ストーリーはやはり排斥できるとしました。差戻しをしなかった理由としては、既に一定程度、自殺ストーリーについて裁判員を含む合議体で審理がされていたこともありますが、結局、結論は変わらないと判断されたことが大きかったと思われます」1カ月かけて準備したホームページ 佐野さんはこう訴える。「『市民を有罪にするのは市民の手で』が裁判員制度の大原則である以上、一審の判断に重要な誤りがあったことが判明した時点で、高裁は一審に差し戻すか、無罪判決を言い渡すべきです。一審の有罪理由を棄却し全く新しい理由をもって有罪判決を下すことは、高裁には許されていない。重大なルール違反だと我々は考えています」 こう語る佐野さんたちは、裁判を検証する膨大な資料を作成し、会のホームページにアップした。「朴鐘顕くんの裁判 2審判決文の構造と疑問点」というパワーポイントで作成された資料はA4用紙で18ページ、難解な法律用語などを平易な文章に直し、会の主張をまとめた「私たちが考える朴鐘顕くんの裁判に関しての重要な問題点」は、38ページにも及ぶ。「みな仕事をしながらでしたので、休日を費やしながらの大変な作業でした。ホームページを立ち上げたのが5月1日。署名は約600通集まっています。ホームページを見て賛同し、電話やメールで署名してくれる人が増えています。6月からは、署名サイト『change.org』を使用した、電子署名も始めました。目標としては、上告趣意書提出に添付するものとして、直筆で1000。もちろん、このような数字が裁判所にインパクトを与えられるものではないことはわかっています。まずは、このような公正ではない裁判の真実を多くの方に知っていただき、世論の動きを作りたいという思いです。お子さんたちもお父さんの無実を信じ、帰りを待っています」(同前)朴被告の様子は…… このような友人たちの動きを、朴被告はどのように受け止めているのだろうか。二審判決を記者も傍聴したが、朴被告の様子は極めて情緒不安定に見えた。主文言い渡しの後、「えっ、どうして」と叫び、その後も「してない! してない!」、「矛盾しているよ!」などと不規則発言を繰り返し、裁判長からたしなめられていた。「面会に行っているご家族や同僚によれば、今は落ち着いていると聞いています。最近、僕が受け取った手紙では、拘置所の中で本を読みながら健康的な生活を送っていると書いてありました。会の活動が始まったことについては感謝している様子でしたが、やはり子供たちのことを一番心配していて、とにかく早く家に戻りたい一心のようです。彼の法廷での様子をもって、心象が悪いと評する記事もありましたが、無実の罪によって子供たちの面倒を見られなくなってしまうことを恐れていると考えれば、当然のことでしょう」(同前) だが、一審に続き二審でも有罪判決が下った現実はやはり重い。公判を傍聴してきた司法記者はこう指摘する。「確かに一審の立証に問題があったのは事実だが、二審で改めて、証拠を精査し直して自殺ストーリーはちゃんと排斥されている。何よりも、一階寝室のマットなどに残されていた唾液混じりの血痕と尿班が、朴被告が妻を窒息死させた決定的な証拠です。弁護側は唾液混じりの血痕について、『歯磨きにより粘膜や歯茎から出血した可能性がある』と主張していますが、荒唐無稽過ぎます」 前出の弁護士も、上告審で覆る可能性については懐疑的だ。「最高裁は、『重大な事実の誤認』があるなど、高裁判決が著しく正義に反すると判断すれば、これを破棄することはできます。第一審に差し戻さずに排斥された自殺ストーリーについて、『重大な事実の誤認』や『法令の違反』があるとされるかがポイントとなりそうですが、ハードルは低くはないでしょう」デイリー新潮取材班2021年6月7日 掲載
確かに高裁判決には、「原判決の上記判断は、客観的事実及び経験則等に照らして不合理であり、上記のような現場の血痕の状況をもって、自殺ストーリーを排斥する根拠とすることはできない」と、一審の判断の誤りを指摘している箇所がある。 だが、新しい血痕の状況を検証し直し、遺体に血痕が付着していないのは不自然であること、首を括った際に利用したとされる階段の手すりの留め具にジャケットの繊維が検出されていないこと、首を締められた際に出る尿班が階段から検出されていないことなどを合わせ、改めて自殺ストーリーを排斥し、「原判決の判断理由には一部是認できないところがあるものの、本件殺人の事実を認定した原判決の判断は、結論において相当である」とした。 刑事裁判の経験が豊富な弁護士は、次のように解説する。「一般論として刑事事件の控訴審は、第一審の審理に不十分な点があると考えた場合、その点について自ら審理することも、事件を第一審裁判所に差し戻すこともできます。犯罪の成否自体に関する重要な事項は、本来、第一審で十分に審理すべきことですから、原則として差し戻すべきであり、このことは特に、裁判員裁判の対象となるような重大事件において強く当てはまるといえます。 今回のケースでは、朴被告の妻が自殺をしたという弁護側のストーリーを退けた第一審の判断について、控訴審は、前提事実を誤っているとした上で自ら審理し、自殺ストーリーはやはり排斥できるとしました。差戻しをしなかった理由としては、既に一定程度、自殺ストーリーについて裁判員を含む合議体で審理がされていたこともありますが、結局、結論は変わらないと判断されたことが大きかったと思われます」1カ月かけて準備したホームページ 佐野さんはこう訴える。「『市民を有罪にするのは市民の手で』が裁判員制度の大原則である以上、一審の判断に重要な誤りがあったことが判明した時点で、高裁は一審に差し戻すか、無罪判決を言い渡すべきです。一審の有罪理由を棄却し全く新しい理由をもって有罪判決を下すことは、高裁には許されていない。重大なルール違反だと我々は考えています」 こう語る佐野さんたちは、裁判を検証する膨大な資料を作成し、会のホームページにアップした。「朴鐘顕くんの裁判 2審判決文の構造と疑問点」というパワーポイントで作成された資料はA4用紙で18ページ、難解な法律用語などを平易な文章に直し、会の主張をまとめた「私たちが考える朴鐘顕くんの裁判に関しての重要な問題点」は、38ページにも及ぶ。「みな仕事をしながらでしたので、休日を費やしながらの大変な作業でした。ホームページを立ち上げたのが5月1日。署名は約600通集まっています。ホームページを見て賛同し、電話やメールで署名してくれる人が増えています。6月からは、署名サイト『change.org』を使用した、電子署名も始めました。目標としては、上告趣意書提出に添付するものとして、直筆で1000。もちろん、このような数字が裁判所にインパクトを与えられるものではないことはわかっています。まずは、このような公正ではない裁判の真実を多くの方に知っていただき、世論の動きを作りたいという思いです。お子さんたちもお父さんの無実を信じ、帰りを待っています」(同前)朴被告の様子は…… このような友人たちの動きを、朴被告はどのように受け止めているのだろうか。二審判決を記者も傍聴したが、朴被告の様子は極めて情緒不安定に見えた。主文言い渡しの後、「えっ、どうして」と叫び、その後も「してない! してない!」、「矛盾しているよ!」などと不規則発言を繰り返し、裁判長からたしなめられていた。「面会に行っているご家族や同僚によれば、今は落ち着いていると聞いています。最近、僕が受け取った手紙では、拘置所の中で本を読みながら健康的な生活を送っていると書いてありました。会の活動が始まったことについては感謝している様子でしたが、やはり子供たちのことを一番心配していて、とにかく早く家に戻りたい一心のようです。彼の法廷での様子をもって、心象が悪いと評する記事もありましたが、無実の罪によって子供たちの面倒を見られなくなってしまうことを恐れていると考えれば、当然のことでしょう」(同前) だが、一審に続き二審でも有罪判決が下った現実はやはり重い。公判を傍聴してきた司法記者はこう指摘する。「確かに一審の立証に問題があったのは事実だが、二審で改めて、証拠を精査し直して自殺ストーリーはちゃんと排斥されている。何よりも、一階寝室のマットなどに残されていた唾液混じりの血痕と尿班が、朴被告が妻を窒息死させた決定的な証拠です。弁護側は唾液混じりの血痕について、『歯磨きにより粘膜や歯茎から出血した可能性がある』と主張していますが、荒唐無稽過ぎます」 前出の弁護士も、上告審で覆る可能性については懐疑的だ。「最高裁は、『重大な事実の誤認』があるなど、高裁判決が著しく正義に反すると判断すれば、これを破棄することはできます。第一審に差し戻さずに排斥された自殺ストーリーについて、『重大な事実の誤認』や『法令の違反』があるとされるかがポイントとなりそうですが、ハードルは低くはないでしょう」デイリー新潮取材班2021年6月7日 掲載
だが、新しい血痕の状況を検証し直し、遺体に血痕が付着していないのは不自然であること、首を括った際に利用したとされる階段の手すりの留め具にジャケットの繊維が検出されていないこと、首を締められた際に出る尿班が階段から検出されていないことなどを合わせ、改めて自殺ストーリーを排斥し、「原判決の判断理由には一部是認できないところがあるものの、本件殺人の事実を認定した原判決の判断は、結論において相当である」とした。 刑事裁判の経験が豊富な弁護士は、次のように解説する。「一般論として刑事事件の控訴審は、第一審の審理に不十分な点があると考えた場合、その点について自ら審理することも、事件を第一審裁判所に差し戻すこともできます。犯罪の成否自体に関する重要な事項は、本来、第一審で十分に審理すべきことですから、原則として差し戻すべきであり、このことは特に、裁判員裁判の対象となるような重大事件において強く当てはまるといえます。 今回のケースでは、朴被告の妻が自殺をしたという弁護側のストーリーを退けた第一審の判断について、控訴審は、前提事実を誤っているとした上で自ら審理し、自殺ストーリーはやはり排斥できるとしました。差戻しをしなかった理由としては、既に一定程度、自殺ストーリーについて裁判員を含む合議体で審理がされていたこともありますが、結局、結論は変わらないと判断されたことが大きかったと思われます」1カ月かけて準備したホームページ 佐野さんはこう訴える。「『市民を有罪にするのは市民の手で』が裁判員制度の大原則である以上、一審の判断に重要な誤りがあったことが判明した時点で、高裁は一審に差し戻すか、無罪判決を言い渡すべきです。一審の有罪理由を棄却し全く新しい理由をもって有罪判決を下すことは、高裁には許されていない。重大なルール違反だと我々は考えています」 こう語る佐野さんたちは、裁判を検証する膨大な資料を作成し、会のホームページにアップした。「朴鐘顕くんの裁判 2審判決文の構造と疑問点」というパワーポイントで作成された資料はA4用紙で18ページ、難解な法律用語などを平易な文章に直し、会の主張をまとめた「私たちが考える朴鐘顕くんの裁判に関しての重要な問題点」は、38ページにも及ぶ。「みな仕事をしながらでしたので、休日を費やしながらの大変な作業でした。ホームページを立ち上げたのが5月1日。署名は約600通集まっています。ホームページを見て賛同し、電話やメールで署名してくれる人が増えています。6月からは、署名サイト『change.org』を使用した、電子署名も始めました。目標としては、上告趣意書提出に添付するものとして、直筆で1000。もちろん、このような数字が裁判所にインパクトを与えられるものではないことはわかっています。まずは、このような公正ではない裁判の真実を多くの方に知っていただき、世論の動きを作りたいという思いです。お子さんたちもお父さんの無実を信じ、帰りを待っています」(同前)朴被告の様子は…… このような友人たちの動きを、朴被告はどのように受け止めているのだろうか。二審判決を記者も傍聴したが、朴被告の様子は極めて情緒不安定に見えた。主文言い渡しの後、「えっ、どうして」と叫び、その後も「してない! してない!」、「矛盾しているよ!」などと不規則発言を繰り返し、裁判長からたしなめられていた。「面会に行っているご家族や同僚によれば、今は落ち着いていると聞いています。最近、僕が受け取った手紙では、拘置所の中で本を読みながら健康的な生活を送っていると書いてありました。会の活動が始まったことについては感謝している様子でしたが、やはり子供たちのことを一番心配していて、とにかく早く家に戻りたい一心のようです。彼の法廷での様子をもって、心象が悪いと評する記事もありましたが、無実の罪によって子供たちの面倒を見られなくなってしまうことを恐れていると考えれば、当然のことでしょう」(同前) だが、一審に続き二審でも有罪判決が下った現実はやはり重い。公判を傍聴してきた司法記者はこう指摘する。「確かに一審の立証に問題があったのは事実だが、二審で改めて、証拠を精査し直して自殺ストーリーはちゃんと排斥されている。何よりも、一階寝室のマットなどに残されていた唾液混じりの血痕と尿班が、朴被告が妻を窒息死させた決定的な証拠です。弁護側は唾液混じりの血痕について、『歯磨きにより粘膜や歯茎から出血した可能性がある』と主張していますが、荒唐無稽過ぎます」 前出の弁護士も、上告審で覆る可能性については懐疑的だ。「最高裁は、『重大な事実の誤認』があるなど、高裁判決が著しく正義に反すると判断すれば、これを破棄することはできます。第一審に差し戻さずに排斥された自殺ストーリーについて、『重大な事実の誤認』や『法令の違反』があるとされるかがポイントとなりそうですが、ハードルは低くはないでしょう」デイリー新潮取材班2021年6月7日 掲載
刑事裁判の経験が豊富な弁護士は、次のように解説する。「一般論として刑事事件の控訴審は、第一審の審理に不十分な点があると考えた場合、その点について自ら審理することも、事件を第一審裁判所に差し戻すこともできます。犯罪の成否自体に関する重要な事項は、本来、第一審で十分に審理すべきことですから、原則として差し戻すべきであり、このことは特に、裁判員裁判の対象となるような重大事件において強く当てはまるといえます。 今回のケースでは、朴被告の妻が自殺をしたという弁護側のストーリーを退けた第一審の判断について、控訴審は、前提事実を誤っているとした上で自ら審理し、自殺ストーリーはやはり排斥できるとしました。差戻しをしなかった理由としては、既に一定程度、自殺ストーリーについて裁判員を含む合議体で審理がされていたこともありますが、結局、結論は変わらないと判断されたことが大きかったと思われます」1カ月かけて準備したホームページ 佐野さんはこう訴える。「『市民を有罪にするのは市民の手で』が裁判員制度の大原則である以上、一審の判断に重要な誤りがあったことが判明した時点で、高裁は一審に差し戻すか、無罪判決を言い渡すべきです。一審の有罪理由を棄却し全く新しい理由をもって有罪判決を下すことは、高裁には許されていない。重大なルール違反だと我々は考えています」 こう語る佐野さんたちは、裁判を検証する膨大な資料を作成し、会のホームページにアップした。「朴鐘顕くんの裁判 2審判決文の構造と疑問点」というパワーポイントで作成された資料はA4用紙で18ページ、難解な法律用語などを平易な文章に直し、会の主張をまとめた「私たちが考える朴鐘顕くんの裁判に関しての重要な問題点」は、38ページにも及ぶ。「みな仕事をしながらでしたので、休日を費やしながらの大変な作業でした。ホームページを立ち上げたのが5月1日。署名は約600通集まっています。ホームページを見て賛同し、電話やメールで署名してくれる人が増えています。6月からは、署名サイト『change.org』を使用した、電子署名も始めました。目標としては、上告趣意書提出に添付するものとして、直筆で1000。もちろん、このような数字が裁判所にインパクトを与えられるものではないことはわかっています。まずは、このような公正ではない裁判の真実を多くの方に知っていただき、世論の動きを作りたいという思いです。お子さんたちもお父さんの無実を信じ、帰りを待っています」(同前)朴被告の様子は…… このような友人たちの動きを、朴被告はどのように受け止めているのだろうか。二審判決を記者も傍聴したが、朴被告の様子は極めて情緒不安定に見えた。主文言い渡しの後、「えっ、どうして」と叫び、その後も「してない! してない!」、「矛盾しているよ!」などと不規則発言を繰り返し、裁判長からたしなめられていた。「面会に行っているご家族や同僚によれば、今は落ち着いていると聞いています。最近、僕が受け取った手紙では、拘置所の中で本を読みながら健康的な生活を送っていると書いてありました。会の活動が始まったことについては感謝している様子でしたが、やはり子供たちのことを一番心配していて、とにかく早く家に戻りたい一心のようです。彼の法廷での様子をもって、心象が悪いと評する記事もありましたが、無実の罪によって子供たちの面倒を見られなくなってしまうことを恐れていると考えれば、当然のことでしょう」(同前) だが、一審に続き二審でも有罪判決が下った現実はやはり重い。公判を傍聴してきた司法記者はこう指摘する。「確かに一審の立証に問題があったのは事実だが、二審で改めて、証拠を精査し直して自殺ストーリーはちゃんと排斥されている。何よりも、一階寝室のマットなどに残されていた唾液混じりの血痕と尿班が、朴被告が妻を窒息死させた決定的な証拠です。弁護側は唾液混じりの血痕について、『歯磨きにより粘膜や歯茎から出血した可能性がある』と主張していますが、荒唐無稽過ぎます」 前出の弁護士も、上告審で覆る可能性については懐疑的だ。「最高裁は、『重大な事実の誤認』があるなど、高裁判決が著しく正義に反すると判断すれば、これを破棄することはできます。第一審に差し戻さずに排斥された自殺ストーリーについて、『重大な事実の誤認』や『法令の違反』があるとされるかがポイントとなりそうですが、ハードルは低くはないでしょう」デイリー新潮取材班2021年6月7日 掲載
「一般論として刑事事件の控訴審は、第一審の審理に不十分な点があると考えた場合、その点について自ら審理することも、事件を第一審裁判所に差し戻すこともできます。犯罪の成否自体に関する重要な事項は、本来、第一審で十分に審理すべきことですから、原則として差し戻すべきであり、このことは特に、裁判員裁判の対象となるような重大事件において強く当てはまるといえます。 今回のケースでは、朴被告の妻が自殺をしたという弁護側のストーリーを退けた第一審の判断について、控訴審は、前提事実を誤っているとした上で自ら審理し、自殺ストーリーはやはり排斥できるとしました。差戻しをしなかった理由としては、既に一定程度、自殺ストーリーについて裁判員を含む合議体で審理がされていたこともありますが、結局、結論は変わらないと判断されたことが大きかったと思われます」1カ月かけて準備したホームページ 佐野さんはこう訴える。「『市民を有罪にするのは市民の手で』が裁判員制度の大原則である以上、一審の判断に重要な誤りがあったことが判明した時点で、高裁は一審に差し戻すか、無罪判決を言い渡すべきです。一審の有罪理由を棄却し全く新しい理由をもって有罪判決を下すことは、高裁には許されていない。重大なルール違反だと我々は考えています」 こう語る佐野さんたちは、裁判を検証する膨大な資料を作成し、会のホームページにアップした。「朴鐘顕くんの裁判 2審判決文の構造と疑問点」というパワーポイントで作成された資料はA4用紙で18ページ、難解な法律用語などを平易な文章に直し、会の主張をまとめた「私たちが考える朴鐘顕くんの裁判に関しての重要な問題点」は、38ページにも及ぶ。「みな仕事をしながらでしたので、休日を費やしながらの大変な作業でした。ホームページを立ち上げたのが5月1日。署名は約600通集まっています。ホームページを見て賛同し、電話やメールで署名してくれる人が増えています。6月からは、署名サイト『change.org』を使用した、電子署名も始めました。目標としては、上告趣意書提出に添付するものとして、直筆で1000。もちろん、このような数字が裁判所にインパクトを与えられるものではないことはわかっています。まずは、このような公正ではない裁判の真実を多くの方に知っていただき、世論の動きを作りたいという思いです。お子さんたちもお父さんの無実を信じ、帰りを待っています」(同前)朴被告の様子は…… このような友人たちの動きを、朴被告はどのように受け止めているのだろうか。二審判決を記者も傍聴したが、朴被告の様子は極めて情緒不安定に見えた。主文言い渡しの後、「えっ、どうして」と叫び、その後も「してない! してない!」、「矛盾しているよ!」などと不規則発言を繰り返し、裁判長からたしなめられていた。「面会に行っているご家族や同僚によれば、今は落ち着いていると聞いています。最近、僕が受け取った手紙では、拘置所の中で本を読みながら健康的な生活を送っていると書いてありました。会の活動が始まったことについては感謝している様子でしたが、やはり子供たちのことを一番心配していて、とにかく早く家に戻りたい一心のようです。彼の法廷での様子をもって、心象が悪いと評する記事もありましたが、無実の罪によって子供たちの面倒を見られなくなってしまうことを恐れていると考えれば、当然のことでしょう」(同前) だが、一審に続き二審でも有罪判決が下った現実はやはり重い。公判を傍聴してきた司法記者はこう指摘する。「確かに一審の立証に問題があったのは事実だが、二審で改めて、証拠を精査し直して自殺ストーリーはちゃんと排斥されている。何よりも、一階寝室のマットなどに残されていた唾液混じりの血痕と尿班が、朴被告が妻を窒息死させた決定的な証拠です。弁護側は唾液混じりの血痕について、『歯磨きにより粘膜や歯茎から出血した可能性がある』と主張していますが、荒唐無稽過ぎます」 前出の弁護士も、上告審で覆る可能性については懐疑的だ。「最高裁は、『重大な事実の誤認』があるなど、高裁判決が著しく正義に反すると判断すれば、これを破棄することはできます。第一審に差し戻さずに排斥された自殺ストーリーについて、『重大な事実の誤認』や『法令の違反』があるとされるかがポイントとなりそうですが、ハードルは低くはないでしょう」デイリー新潮取材班2021年6月7日 掲載
今回のケースでは、朴被告の妻が自殺をしたという弁護側のストーリーを退けた第一審の判断について、控訴審は、前提事実を誤っているとした上で自ら審理し、自殺ストーリーはやはり排斥できるとしました。差戻しをしなかった理由としては、既に一定程度、自殺ストーリーについて裁判員を含む合議体で審理がされていたこともありますが、結局、結論は変わらないと判断されたことが大きかったと思われます」1カ月かけて準備したホームページ 佐野さんはこう訴える。「『市民を有罪にするのは市民の手で』が裁判員制度の大原則である以上、一審の判断に重要な誤りがあったことが判明した時点で、高裁は一審に差し戻すか、無罪判決を言い渡すべきです。一審の有罪理由を棄却し全く新しい理由をもって有罪判決を下すことは、高裁には許されていない。重大なルール違反だと我々は考えています」 こう語る佐野さんたちは、裁判を検証する膨大な資料を作成し、会のホームページにアップした。「朴鐘顕くんの裁判 2審判決文の構造と疑問点」というパワーポイントで作成された資料はA4用紙で18ページ、難解な法律用語などを平易な文章に直し、会の主張をまとめた「私たちが考える朴鐘顕くんの裁判に関しての重要な問題点」は、38ページにも及ぶ。「みな仕事をしながらでしたので、休日を費やしながらの大変な作業でした。ホームページを立ち上げたのが5月1日。署名は約600通集まっています。ホームページを見て賛同し、電話やメールで署名してくれる人が増えています。6月からは、署名サイト『change.org』を使用した、電子署名も始めました。目標としては、上告趣意書提出に添付するものとして、直筆で1000。もちろん、このような数字が裁判所にインパクトを与えられるものではないことはわかっています。まずは、このような公正ではない裁判の真実を多くの方に知っていただき、世論の動きを作りたいという思いです。お子さんたちもお父さんの無実を信じ、帰りを待っています」(同前)朴被告の様子は…… このような友人たちの動きを、朴被告はどのように受け止めているのだろうか。二審判決を記者も傍聴したが、朴被告の様子は極めて情緒不安定に見えた。主文言い渡しの後、「えっ、どうして」と叫び、その後も「してない! してない!」、「矛盾しているよ!」などと不規則発言を繰り返し、裁判長からたしなめられていた。「面会に行っているご家族や同僚によれば、今は落ち着いていると聞いています。最近、僕が受け取った手紙では、拘置所の中で本を読みながら健康的な生活を送っていると書いてありました。会の活動が始まったことについては感謝している様子でしたが、やはり子供たちのことを一番心配していて、とにかく早く家に戻りたい一心のようです。彼の法廷での様子をもって、心象が悪いと評する記事もありましたが、無実の罪によって子供たちの面倒を見られなくなってしまうことを恐れていると考えれば、当然のことでしょう」(同前) だが、一審に続き二審でも有罪判決が下った現実はやはり重い。公判を傍聴してきた司法記者はこう指摘する。「確かに一審の立証に問題があったのは事実だが、二審で改めて、証拠を精査し直して自殺ストーリーはちゃんと排斥されている。何よりも、一階寝室のマットなどに残されていた唾液混じりの血痕と尿班が、朴被告が妻を窒息死させた決定的な証拠です。弁護側は唾液混じりの血痕について、『歯磨きにより粘膜や歯茎から出血した可能性がある』と主張していますが、荒唐無稽過ぎます」 前出の弁護士も、上告審で覆る可能性については懐疑的だ。「最高裁は、『重大な事実の誤認』があるなど、高裁判決が著しく正義に反すると判断すれば、これを破棄することはできます。第一審に差し戻さずに排斥された自殺ストーリーについて、『重大な事実の誤認』や『法令の違反』があるとされるかがポイントとなりそうですが、ハードルは低くはないでしょう」デイリー新潮取材班2021年6月7日 掲載
佐野さんはこう訴える。「『市民を有罪にするのは市民の手で』が裁判員制度の大原則である以上、一審の判断に重要な誤りがあったことが判明した時点で、高裁は一審に差し戻すか、無罪判決を言い渡すべきです。一審の有罪理由を棄却し全く新しい理由をもって有罪判決を下すことは、高裁には許されていない。重大なルール違反だと我々は考えています」 こう語る佐野さんたちは、裁判を検証する膨大な資料を作成し、会のホームページにアップした。「朴鐘顕くんの裁判 2審判決文の構造と疑問点」というパワーポイントで作成された資料はA4用紙で18ページ、難解な法律用語などを平易な文章に直し、会の主張をまとめた「私たちが考える朴鐘顕くんの裁判に関しての重要な問題点」は、38ページにも及ぶ。「みな仕事をしながらでしたので、休日を費やしながらの大変な作業でした。ホームページを立ち上げたのが5月1日。署名は約600通集まっています。ホームページを見て賛同し、電話やメールで署名してくれる人が増えています。6月からは、署名サイト『change.org』を使用した、電子署名も始めました。目標としては、上告趣意書提出に添付するものとして、直筆で1000。もちろん、このような数字が裁判所にインパクトを与えられるものではないことはわかっています。まずは、このような公正ではない裁判の真実を多くの方に知っていただき、世論の動きを作りたいという思いです。お子さんたちもお父さんの無実を信じ、帰りを待っています」(同前)朴被告の様子は…… このような友人たちの動きを、朴被告はどのように受け止めているのだろうか。二審判決を記者も傍聴したが、朴被告の様子は極めて情緒不安定に見えた。主文言い渡しの後、「えっ、どうして」と叫び、その後も「してない! してない!」、「矛盾しているよ!」などと不規則発言を繰り返し、裁判長からたしなめられていた。「面会に行っているご家族や同僚によれば、今は落ち着いていると聞いています。最近、僕が受け取った手紙では、拘置所の中で本を読みながら健康的な生活を送っていると書いてありました。会の活動が始まったことについては感謝している様子でしたが、やはり子供たちのことを一番心配していて、とにかく早く家に戻りたい一心のようです。彼の法廷での様子をもって、心象が悪いと評する記事もありましたが、無実の罪によって子供たちの面倒を見られなくなってしまうことを恐れていると考えれば、当然のことでしょう」(同前) だが、一審に続き二審でも有罪判決が下った現実はやはり重い。公判を傍聴してきた司法記者はこう指摘する。「確かに一審の立証に問題があったのは事実だが、二審で改めて、証拠を精査し直して自殺ストーリーはちゃんと排斥されている。何よりも、一階寝室のマットなどに残されていた唾液混じりの血痕と尿班が、朴被告が妻を窒息死させた決定的な証拠です。弁護側は唾液混じりの血痕について、『歯磨きにより粘膜や歯茎から出血した可能性がある』と主張していますが、荒唐無稽過ぎます」 前出の弁護士も、上告審で覆る可能性については懐疑的だ。「最高裁は、『重大な事実の誤認』があるなど、高裁判決が著しく正義に反すると判断すれば、これを破棄することはできます。第一審に差し戻さずに排斥された自殺ストーリーについて、『重大な事実の誤認』や『法令の違反』があるとされるかがポイントとなりそうですが、ハードルは低くはないでしょう」デイリー新潮取材班2021年6月7日 掲載
「『市民を有罪にするのは市民の手で』が裁判員制度の大原則である以上、一審の判断に重要な誤りがあったことが判明した時点で、高裁は一審に差し戻すか、無罪判決を言い渡すべきです。一審の有罪理由を棄却し全く新しい理由をもって有罪判決を下すことは、高裁には許されていない。重大なルール違反だと我々は考えています」 こう語る佐野さんたちは、裁判を検証する膨大な資料を作成し、会のホームページにアップした。「朴鐘顕くんの裁判 2審判決文の構造と疑問点」というパワーポイントで作成された資料はA4用紙で18ページ、難解な法律用語などを平易な文章に直し、会の主張をまとめた「私たちが考える朴鐘顕くんの裁判に関しての重要な問題点」は、38ページにも及ぶ。「みな仕事をしながらでしたので、休日を費やしながらの大変な作業でした。ホームページを立ち上げたのが5月1日。署名は約600通集まっています。ホームページを見て賛同し、電話やメールで署名してくれる人が増えています。6月からは、署名サイト『change.org』を使用した、電子署名も始めました。目標としては、上告趣意書提出に添付するものとして、直筆で1000。もちろん、このような数字が裁判所にインパクトを与えられるものではないことはわかっています。まずは、このような公正ではない裁判の真実を多くの方に知っていただき、世論の動きを作りたいという思いです。お子さんたちもお父さんの無実を信じ、帰りを待っています」(同前)朴被告の様子は…… このような友人たちの動きを、朴被告はどのように受け止めているのだろうか。二審判決を記者も傍聴したが、朴被告の様子は極めて情緒不安定に見えた。主文言い渡しの後、「えっ、どうして」と叫び、その後も「してない! してない!」、「矛盾しているよ!」などと不規則発言を繰り返し、裁判長からたしなめられていた。「面会に行っているご家族や同僚によれば、今は落ち着いていると聞いています。最近、僕が受け取った手紙では、拘置所の中で本を読みながら健康的な生活を送っていると書いてありました。会の活動が始まったことについては感謝している様子でしたが、やはり子供たちのことを一番心配していて、とにかく早く家に戻りたい一心のようです。彼の法廷での様子をもって、心象が悪いと評する記事もありましたが、無実の罪によって子供たちの面倒を見られなくなってしまうことを恐れていると考えれば、当然のことでしょう」(同前) だが、一審に続き二審でも有罪判決が下った現実はやはり重い。公判を傍聴してきた司法記者はこう指摘する。「確かに一審の立証に問題があったのは事実だが、二審で改めて、証拠を精査し直して自殺ストーリーはちゃんと排斥されている。何よりも、一階寝室のマットなどに残されていた唾液混じりの血痕と尿班が、朴被告が妻を窒息死させた決定的な証拠です。弁護側は唾液混じりの血痕について、『歯磨きにより粘膜や歯茎から出血した可能性がある』と主張していますが、荒唐無稽過ぎます」 前出の弁護士も、上告審で覆る可能性については懐疑的だ。「最高裁は、『重大な事実の誤認』があるなど、高裁判決が著しく正義に反すると判断すれば、これを破棄することはできます。第一審に差し戻さずに排斥された自殺ストーリーについて、『重大な事実の誤認』や『法令の違反』があるとされるかがポイントとなりそうですが、ハードルは低くはないでしょう」デイリー新潮取材班2021年6月7日 掲載
こう語る佐野さんたちは、裁判を検証する膨大な資料を作成し、会のホームページにアップした。「朴鐘顕くんの裁判 2審判決文の構造と疑問点」というパワーポイントで作成された資料はA4用紙で18ページ、難解な法律用語などを平易な文章に直し、会の主張をまとめた「私たちが考える朴鐘顕くんの裁判に関しての重要な問題点」は、38ページにも及ぶ。「みな仕事をしながらでしたので、休日を費やしながらの大変な作業でした。ホームページを立ち上げたのが5月1日。署名は約600通集まっています。ホームページを見て賛同し、電話やメールで署名してくれる人が増えています。6月からは、署名サイト『change.org』を使用した、電子署名も始めました。目標としては、上告趣意書提出に添付するものとして、直筆で1000。もちろん、このような数字が裁判所にインパクトを与えられるものではないことはわかっています。まずは、このような公正ではない裁判の真実を多くの方に知っていただき、世論の動きを作りたいという思いです。お子さんたちもお父さんの無実を信じ、帰りを待っています」(同前)朴被告の様子は…… このような友人たちの動きを、朴被告はどのように受け止めているのだろうか。二審判決を記者も傍聴したが、朴被告の様子は極めて情緒不安定に見えた。主文言い渡しの後、「えっ、どうして」と叫び、その後も「してない! してない!」、「矛盾しているよ!」などと不規則発言を繰り返し、裁判長からたしなめられていた。「面会に行っているご家族や同僚によれば、今は落ち着いていると聞いています。最近、僕が受け取った手紙では、拘置所の中で本を読みながら健康的な生活を送っていると書いてありました。会の活動が始まったことについては感謝している様子でしたが、やはり子供たちのことを一番心配していて、とにかく早く家に戻りたい一心のようです。彼の法廷での様子をもって、心象が悪いと評する記事もありましたが、無実の罪によって子供たちの面倒を見られなくなってしまうことを恐れていると考えれば、当然のことでしょう」(同前) だが、一審に続き二審でも有罪判決が下った現実はやはり重い。公判を傍聴してきた司法記者はこう指摘する。「確かに一審の立証に問題があったのは事実だが、二審で改めて、証拠を精査し直して自殺ストーリーはちゃんと排斥されている。何よりも、一階寝室のマットなどに残されていた唾液混じりの血痕と尿班が、朴被告が妻を窒息死させた決定的な証拠です。弁護側は唾液混じりの血痕について、『歯磨きにより粘膜や歯茎から出血した可能性がある』と主張していますが、荒唐無稽過ぎます」 前出の弁護士も、上告審で覆る可能性については懐疑的だ。「最高裁は、『重大な事実の誤認』があるなど、高裁判決が著しく正義に反すると判断すれば、これを破棄することはできます。第一審に差し戻さずに排斥された自殺ストーリーについて、『重大な事実の誤認』や『法令の違反』があるとされるかがポイントとなりそうですが、ハードルは低くはないでしょう」デイリー新潮取材班2021年6月7日 掲載
「みな仕事をしながらでしたので、休日を費やしながらの大変な作業でした。ホームページを立ち上げたのが5月1日。署名は約600通集まっています。ホームページを見て賛同し、電話やメールで署名してくれる人が増えています。6月からは、署名サイト『change.org』を使用した、電子署名も始めました。目標としては、上告趣意書提出に添付するものとして、直筆で1000。もちろん、このような数字が裁判所にインパクトを与えられるものではないことはわかっています。まずは、このような公正ではない裁判の真実を多くの方に知っていただき、世論の動きを作りたいという思いです。お子さんたちもお父さんの無実を信じ、帰りを待っています」(同前)朴被告の様子は…… このような友人たちの動きを、朴被告はどのように受け止めているのだろうか。二審判決を記者も傍聴したが、朴被告の様子は極めて情緒不安定に見えた。主文言い渡しの後、「えっ、どうして」と叫び、その後も「してない! してない!」、「矛盾しているよ!」などと不規則発言を繰り返し、裁判長からたしなめられていた。「面会に行っているご家族や同僚によれば、今は落ち着いていると聞いています。最近、僕が受け取った手紙では、拘置所の中で本を読みながら健康的な生活を送っていると書いてありました。会の活動が始まったことについては感謝している様子でしたが、やはり子供たちのことを一番心配していて、とにかく早く家に戻りたい一心のようです。彼の法廷での様子をもって、心象が悪いと評する記事もありましたが、無実の罪によって子供たちの面倒を見られなくなってしまうことを恐れていると考えれば、当然のことでしょう」(同前) だが、一審に続き二審でも有罪判決が下った現実はやはり重い。公判を傍聴してきた司法記者はこう指摘する。「確かに一審の立証に問題があったのは事実だが、二審で改めて、証拠を精査し直して自殺ストーリーはちゃんと排斥されている。何よりも、一階寝室のマットなどに残されていた唾液混じりの血痕と尿班が、朴被告が妻を窒息死させた決定的な証拠です。弁護側は唾液混じりの血痕について、『歯磨きにより粘膜や歯茎から出血した可能性がある』と主張していますが、荒唐無稽過ぎます」 前出の弁護士も、上告審で覆る可能性については懐疑的だ。「最高裁は、『重大な事実の誤認』があるなど、高裁判決が著しく正義に反すると判断すれば、これを破棄することはできます。第一審に差し戻さずに排斥された自殺ストーリーについて、『重大な事実の誤認』や『法令の違反』があるとされるかがポイントとなりそうですが、ハードルは低くはないでしょう」デイリー新潮取材班2021年6月7日 掲載
このような友人たちの動きを、朴被告はどのように受け止めているのだろうか。二審判決を記者も傍聴したが、朴被告の様子は極めて情緒不安定に見えた。主文言い渡しの後、「えっ、どうして」と叫び、その後も「してない! してない!」、「矛盾しているよ!」などと不規則発言を繰り返し、裁判長からたしなめられていた。「面会に行っているご家族や同僚によれば、今は落ち着いていると聞いています。最近、僕が受け取った手紙では、拘置所の中で本を読みながら健康的な生活を送っていると書いてありました。会の活動が始まったことについては感謝している様子でしたが、やはり子供たちのことを一番心配していて、とにかく早く家に戻りたい一心のようです。彼の法廷での様子をもって、心象が悪いと評する記事もありましたが、無実の罪によって子供たちの面倒を見られなくなってしまうことを恐れていると考えれば、当然のことでしょう」(同前) だが、一審に続き二審でも有罪判決が下った現実はやはり重い。公判を傍聴してきた司法記者はこう指摘する。「確かに一審の立証に問題があったのは事実だが、二審で改めて、証拠を精査し直して自殺ストーリーはちゃんと排斥されている。何よりも、一階寝室のマットなどに残されていた唾液混じりの血痕と尿班が、朴被告が妻を窒息死させた決定的な証拠です。弁護側は唾液混じりの血痕について、『歯磨きにより粘膜や歯茎から出血した可能性がある』と主張していますが、荒唐無稽過ぎます」 前出の弁護士も、上告審で覆る可能性については懐疑的だ。「最高裁は、『重大な事実の誤認』があるなど、高裁判決が著しく正義に反すると判断すれば、これを破棄することはできます。第一審に差し戻さずに排斥された自殺ストーリーについて、『重大な事実の誤認』や『法令の違反』があるとされるかがポイントとなりそうですが、ハードルは低くはないでしょう」デイリー新潮取材班2021年6月7日 掲載
「面会に行っているご家族や同僚によれば、今は落ち着いていると聞いています。最近、僕が受け取った手紙では、拘置所の中で本を読みながら健康的な生活を送っていると書いてありました。会の活動が始まったことについては感謝している様子でしたが、やはり子供たちのことを一番心配していて、とにかく早く家に戻りたい一心のようです。彼の法廷での様子をもって、心象が悪いと評する記事もありましたが、無実の罪によって子供たちの面倒を見られなくなってしまうことを恐れていると考えれば、当然のことでしょう」(同前) だが、一審に続き二審でも有罪判決が下った現実はやはり重い。公判を傍聴してきた司法記者はこう指摘する。「確かに一審の立証に問題があったのは事実だが、二審で改めて、証拠を精査し直して自殺ストーリーはちゃんと排斥されている。何よりも、一階寝室のマットなどに残されていた唾液混じりの血痕と尿班が、朴被告が妻を窒息死させた決定的な証拠です。弁護側は唾液混じりの血痕について、『歯磨きにより粘膜や歯茎から出血した可能性がある』と主張していますが、荒唐無稽過ぎます」 前出の弁護士も、上告審で覆る可能性については懐疑的だ。「最高裁は、『重大な事実の誤認』があるなど、高裁判決が著しく正義に反すると判断すれば、これを破棄することはできます。第一審に差し戻さずに排斥された自殺ストーリーについて、『重大な事実の誤認』や『法令の違反』があるとされるかがポイントとなりそうですが、ハードルは低くはないでしょう」デイリー新潮取材班2021年6月7日 掲載
だが、一審に続き二審でも有罪判決が下った現実はやはり重い。公判を傍聴してきた司法記者はこう指摘する。「確かに一審の立証に問題があったのは事実だが、二審で改めて、証拠を精査し直して自殺ストーリーはちゃんと排斥されている。何よりも、一階寝室のマットなどに残されていた唾液混じりの血痕と尿班が、朴被告が妻を窒息死させた決定的な証拠です。弁護側は唾液混じりの血痕について、『歯磨きにより粘膜や歯茎から出血した可能性がある』と主張していますが、荒唐無稽過ぎます」 前出の弁護士も、上告審で覆る可能性については懐疑的だ。「最高裁は、『重大な事実の誤認』があるなど、高裁判決が著しく正義に反すると判断すれば、これを破棄することはできます。第一審に差し戻さずに排斥された自殺ストーリーについて、『重大な事実の誤認』や『法令の違反』があるとされるかがポイントとなりそうですが、ハードルは低くはないでしょう」デイリー新潮取材班2021年6月7日 掲載
「確かに一審の立証に問題があったのは事実だが、二審で改めて、証拠を精査し直して自殺ストーリーはちゃんと排斥されている。何よりも、一階寝室のマットなどに残されていた唾液混じりの血痕と尿班が、朴被告が妻を窒息死させた決定的な証拠です。弁護側は唾液混じりの血痕について、『歯磨きにより粘膜や歯茎から出血した可能性がある』と主張していますが、荒唐無稽過ぎます」 前出の弁護士も、上告審で覆る可能性については懐疑的だ。「最高裁は、『重大な事実の誤認』があるなど、高裁判決が著しく正義に反すると判断すれば、これを破棄することはできます。第一審に差し戻さずに排斥された自殺ストーリーについて、『重大な事実の誤認』や『法令の違反』があるとされるかがポイントとなりそうですが、ハードルは低くはないでしょう」デイリー新潮取材班2021年6月7日 掲載
前出の弁護士も、上告審で覆る可能性については懐疑的だ。「最高裁は、『重大な事実の誤認』があるなど、高裁判決が著しく正義に反すると判断すれば、これを破棄することはできます。第一審に差し戻さずに排斥された自殺ストーリーについて、『重大な事実の誤認』や『法令の違反』があるとされるかがポイントとなりそうですが、ハードルは低くはないでしょう」デイリー新潮取材班2021年6月7日 掲載
「最高裁は、『重大な事実の誤認』があるなど、高裁判決が著しく正義に反すると判断すれば、これを破棄することはできます。第一審に差し戻さずに排斥された自殺ストーリーについて、『重大な事実の誤認』や『法令の違反』があるとされるかがポイントとなりそうですが、ハードルは低くはないでしょう」デイリー新潮取材班2021年6月7日 掲載
デイリー新潮取材班2021年6月7日 掲載
2021年6月7日 掲載