デルタ株に効く? 安全性は? 「新型コロナのmRNAワクチン」…研究の第一人者に聞いてようやくわかった“本当の評価”

新型コロナウイルスのワクチン接種が日本で始まっておよそ半年が経ちました。ワクチン接種がいち早く進んだ70-80代の高齢者における感染者の増加が抑えられているなど、ワクチンの効果も出始めています。
接種に主に使われているのは「mRNAワクチン」という新しい種類のワクチンです。新型コロナの流行からわずか1年ほどで承認されたことなどもあり、安全性に懸念を持つ人も少なくありません。
しかし、実はこのワクチンは、ノーベル賞の有力な候補に挙げられるほどの画期的な発見によって実現したもので、20年以上にわたる地道な研究が生んだ成果です。
mRNAワクチンが体をウイルスから守る仕組みから変異株への効果や副反応について、さらにワクチン開発の裏側や国産のmRNAワクチンの開発状況まで、現時点で科学的に確かめられている情報をまとめました。(NHK「サイエンスZERO」取材班)
接種が進む新型コロナウイルスのワクチン/NHK提供

新型コロナウイルスが最初に見つかってわずか1年で実用化された「mRNAワクチン」。臨床試験で確認された発症予防効果はファイザー製で約95%、モデルナ製で約94%と、十分な有効性が認められています。
7月にアメリカのCDC(疾病対策センター)の研究者が発表したデータでは、1週間の10万人あたりの新型コロナウイルス関連の発生人数で見ると、2回接種済みの人は接種していない人に比べて、発症数は8分の1、入院や死亡数は25分の1だったことが示されました。 新型コロナ関連の発生人数/出典:アメリカCDCの資料拡大画像表示ワクチンはどのような仕組みでこれほど高い効果を生み出しているのでしょうか。それを理解するために知る必要があるのが「mRNA」についてです。「メッセンジャーRNA」を略したもので、私たちの体でも普段から使われています。ヒトの細胞の核の中には体の設計図であるDNAが入っていますが、DNAは大切なものなので直接使うことはせず、mRNAにコピーをして使っているのです。mRNAは細胞の核の中でDNAの情報をコピーすると、核から出て細胞質内の「リボソーム」にくっつきます。リボソームはいわばタンパク質の製造工場で、設計図であるmRNAの情報を読み取り、生命活動を維持するためのさまざまなタンパク質を作ります。つまり、私たちの体の中にはmRNAから自動的にタンパク質を作り出す機能が備わっているのです。mRNAの情報をもとにリボソームがタンパク質を作る/NHK提供拡大画像表示「mRNAワクチン」に入っているのは、ヒトのmRNAではなく、新型コロナウイルスのタンパク質の情報の一部に基づいて人工的に合成したmRNAです。ウイルスのどの部分の情報かというと、ヒトの細胞に侵入するときに必要なウイルスの表面の「突起」。この情報をもったmRNAを脂の膜で包んだものが新型コロナウイルスのmRNAワクチンなのです。突起のタンパク質の情報がウイルスの遺伝子の一部に入っている/NHK提供ワクチンが体の中に入ると、タンパク質の設計図であるmRNAが細胞の中のリボソームにくっつくことで、ウイルスの突起がたくさん作られます。そうして出来たウイルスの突起を細胞の外で待ち受けているのが、異物をやっつけるために働くさまざまな「免疫細胞」です。ワクチン接種で活性化する免疫細胞のイメージ/NHK提供拡大画像表示 免疫細胞の一種である「B細胞」は、突起にくっつく「抗体」を作り出します。「樹状細胞」はウイルスの突起を取り込み、突起の情報を「キラーT細胞」や「ヘルパーT細胞」に渡します。情報を受け取った「キラーT細胞」はこの突起が入り込んだ細胞を攻撃して殺すようになります。一方の「ヘルパーT細胞」は指令を出して、B細胞やキラーT細胞を活性化させるのです。免疫細胞の準備ができたところに本物のウイルスがやってくると、B細胞が作っておいた抗体がウイルスの突起にくっつきます。すると、ウイルスは細胞の中に入れなくなります。万が一、ウイルスが細胞に侵入しても、キラーT細胞が感染した細胞を素早く排除します。mRNAワクチン研究の第一人者で、ワクチン開発にも携わっている東京大学医科学研究所の石井健教授は、ワクチンの効果の高さの理由をこう説明します。「mRNAを体に入れて設計図通りにウイルスのタンパク質を作らせることで、ウイルスに対する免疫と同じものが全部作れるのです。抗体だけではなく、ヘルパーT細胞やキラーT細胞という、ウイルスをやっつける細胞を非常に強く誘導できることが大きいと考えています」(石井さん)mRNAワクチン研究の第一人者、石井健教授/NHK提供例えばインフルエンザで使われる「不活化ワクチン」の場合、ウイルスの抗原を体に入れるだけで、この2つのT細胞の働きは強く誘導できません。そのため、ワクチンの有効率も30~60%とされています。mRNAワクチンの効果の高さはこのT細胞の働きにあると考えられるのです。「副反応」は体の免疫反応で起きているワクチンに対して多くの人が持つ不安が、副反応や長期的な影響などその安全性についてです。mRNAワクチンが体の中でどう働くのかを知っておくことが、ワクチンの正しい理解につながります。副反応として起きる「接種部の痛み」「発熱」や「だるさ」「頭痛」などは、ワクチンが感染の“まね”をさせることで体に起こす免疫反応だと石井さんはいいます。「まさにウイルス感染と近いことが起きていて、mRNAワクチンが入ったときに起こる免疫反応が、打ったところの腫れや痛みです。その後、全身にその免疫反応を起こします。ウイルスに感染したら熱が出ますが、それと同じような反応だと思ってください。ただ、ワクチンの場合は免疫反応を起こすだけ、つまり“まね”をするだけで、病気は起こしません」(石井さん)mRNAワクチンの場合では、この免疫反応がB細胞だけではなくヘルパーT細胞やキラーT細胞でも起きるために、強い副反応が出ると石井さんは考えています。キラーT細胞(イメージ)/NHK提供 「mRNAワクチンを接種するとヘルパーT細胞やキラーT細胞がしっかり誘導されるので、本当にウイルスに感染したときの反応のように、痛かったり腫れたり、発熱がよく起きます。一方、T細胞を強く誘導しないインフルエンザワクチンではこうした副反応がほとんど起きません」(石井さん)ほかの副反応も基本的にはワクチンに入っている物質が問題となって起きるのではなく、ウイルス感染の“まね”をして起きた炎症反応が原因と考えられると石井さんは話します。「不安の声が上がっている若い男性に起きる『心筋炎』ですが、ワクチン接種後に起きる頻度は、100万回接種に約10例程度と非常にまれです。ワクチンによって心筋炎が起きたのかどうかについても検討が続いているところです。ただ、理論的に体の中で炎症は起きていますので、心筋に炎症が起きて病気になるということは100%否定できない状況です。もともと心筋炎のリスクがある方やワクチンを打った後に心臓が痛くなったなどの場合は気を付けたほうがいいと考えています」(石井さん)さらに、長期的な影響を心配する声に対しては、石井さんはこのような説明をします。「mRNAワクチンを多くの人に打ち始めて半年しか経っていませんので、長期にわたって起こる副反応はまだ予測できない状況です。ただ、動物実験などを含めて、遺伝子が体の中に入ってしまうとか、それが原因でガンになってしまうという論文はありませんので、それほど心配する必要はないのではないかというのが、多くの研究者の意見です」(石井さん)ワクチンのmRNAが自分の体のDNAに組み込まれてしまい遺伝情報が書き換わってしまうのではないかという不安の声もありますが、その心配は要らないと石井さんはいいます。「私たちの体の中にはいろんなウイルスがいて、ものすごい数のウイルスのRNAとやりとりをしています。ただ、ウイルスが私たちの細胞の中のDNAを書き換えるということが起こらないような免疫システムが進化上できています。だから、遺伝子が書き換わることはないと考えていいのです」(石井さん) そもそもmRNAは不安定で、私たちの体の中に入っても長期間残るわけではありません。石井さんによると、mRNAは数日から1週間程度で分解されるため、長く体に残って悪影響を及ぼすことはまずあり得ないとのことです。変異株に対しても“重症化”を防ぐ効果はあるデルタ株などが猛威を振るうなか、ワクチンの変異株に対する効果についてどう考えればいいのでしょうか。イスラエルのデータによると、ファイザー製のワクチンを2回接種した場合、デルタ株に対する感染予防や発症予防の効果は64%に下がっていますが、入院・死亡の予防効果は93%とそれほど変わっていません。このデータから、変異株であっても重症化を防ぐ効果がワクチンにあることが読み取れます。デルタ株に対する効果/出典:アメリカCDCの資料拡大画像表示 変異株に対しても効果を維持している理由は、mRNAワクチンがヘルパーT細胞とキラーT細胞という2種類のT細胞を強く誘導するからだと石井さんは考えています。「ウイルスをやっつけるT細胞を非常に強く誘導していますので、ウイルスが変異して抗体が少し認識できなくなったとしても、免疫反応は十分だと考えています。ワクチンを打った方がデルタ株で重症化するということは、低い確率だと言われていますので、(デルタ株に効果がないのではということについて)今はそれほど心配する必要はありません」(石井さん)さらに、石井さんが強調するのは、ワクチン接種は自分を守るためだけではないということです。「ワクチンを打てば、自分自身はかなりの確率で感染や重症化のリスクを減らすことができます。そして、重要なのは、自分だけではなく家族や身近な人を守れるということがワクチンの大きな利益だということです。ワクチンを打つか打たないか、ご自身でよく考えて判断していただきたいと思いますが、このことがその判断の助けになるのではないかと思います」(石井さん)mRNAワクチン実用化までの長い道のり新型コロナウイルスの流行を受けて短期間で実用化されたmRNAワクチンですが、その研究の歴史は長く、1980年代にはmRNAを医薬品に使おうという研究がすでに始まっていました。そして、mRNAをワクチンとして使うためのブレークスルーを成し遂げたのが、ビオンテック社のカタリン・カリコ博士と米ペンシルベニア大学教授のドリュー・ワイスマン博士です。この発見によってノーベル賞の有力な候補に挙げられています。1980年代に考えられていたのは、「mRNAを人工的に作って細胞の中に運べば、薬などに利用できるタンパク質を作ることができる」ということでした。しかし、実際にmRNAを細胞に与えると、拒絶反応として激しい炎症が起き、細胞が死んでしまうことも分かっていました。多くの研究者はこのままでは薬として使うことは無理だと思っていたのです。その常識を覆して、拒絶反応を起こさない方法を見つけ出したのがカリコ博士とワイスマン博士でした。mRNAを構成する物質の1つ「ウリジン」を、「化学修飾」といわれる化学構造の飾りが付いたものに変えて細胞に与えると炎症が起きないことを発見したのです。2005年のことでした。これによってmRNAを人の体に投与するめどが立ちました。「ウリジン」(左)と「化学修飾されたウリジン」(右)/NHK提供拡大画像表示 この発表は世界中の研究者に大きなインパクトを与えましたが、当時、mRNAは非常に不安定で壊れやすいことに加え、人工的に作るのにお金がかかることもあり、ワクチンに使えると想像した人はほとんどいませんでした。しかし、カリコ博士たちは、この壊れやすい特徴が体の中に残らないという薬としての利点になると考え、さらに研究を続けます。そして2008年、炎症を抑えるだけでなくタンパク質を大量に作る方法を見つけたのです。「実験結果が出たとき、これまで夢みていた治療法、ワクチンやタンパク質治療薬、遺伝子治療などの可能性が開かれたと感じました」(ワイスマン博士)その後、カリコ博士はドイツの製薬ベンチャーのビオンテック社に迎えられ、この技術を使ってインフルエンザ用の新ワクチンやがんに対するワクチンの研究を進めていたところ、新型コロナウイルスのパンデミックが起きたのです。ビオンテック社でカリコ博士(右)たちがmRNAワクチンの開発を続けた/画像提供:BioNTechビオンテック社は新型コロナウイルスの遺伝情報が公開されるとすぐにmRNAワクチンの開発に着手。アメリカの大手製薬会社ファイザー社と提携し、大規模な臨床試験を行うとともに、ワクチンの大量生産を開始しました。こうしてわずか1年足らずで新型コロナウイルス用のmRNAワクチンが世界に向けて供給されるようになったのです。「学術界も小さなバイオテクノロジー企業も大企業もそれぞれがベストを尽くしました。今回はそれぞれが協力し合うことで、短期間でのワクチン開発が実現できたのです」(カリコ博士)国産のmRNAワクチンも実用化に向けて進んでいる新型コロナウイルスとの闘いが続くなか、日本でもさまざまなタイプのワクチンの開発が進められています。石井さんが製薬企業とともに行う「国産のmRNAワクチン」の開発は、来年末の実用化を目指して臨床試験が進められています。石井さんは国産ワクチン開発の意義をこのように訴えます。国産mRNAワクチンの開発が進む/NHK提供 「すでに海外のワクチンが入ってきていて必要ないじゃないかという方もいらっしゃると思います。ただ、次のパンデミックが起きたとき、ワクチンが足りないとなっても輸入できる保証はありません。自国の人を守るという意味では、国産のワクチンが必要です。また、新型コロナのワクチンを今後も定期的に打たなくてはならなくなった場合、国産のワクチンがあるというのは、安心なのではないでしょうか」(石井さん)さらに、石井さんはmRNAの技術はさまざまな分野に応用できると考えています。「mRNAで作れるものはたくさんあって、ワクチンと呼ばれているものにどんどん応用されていくと思います。特に、がんワクチンは応用される時期が早いと思います。それ以外の感染症のワクチン、例えばインフルエンザのワクチンでは臨床試験が進んでいますが、いずれmRNAに取って代わられるのではないかといわれています」(石井さん)20年以上の研究の積み重ねによって人類が手にすることができたmRNAワクチン。新型コロナ収束につなげるために、その効果と安全性を一人一人が正しく理解することが、求められています。
新型コロナ関連の発生人数/出典:アメリカCDCの資料拡大画像表示ワクチンはどのような仕組みでこれほど高い効果を生み出しているのでしょうか。それを理解するために知る必要があるのが「mRNA」についてです。「メッセンジャーRNA」を略したもので、私たちの体でも普段から使われています。ヒトの細胞の核の中には体の設計図であるDNAが入っていますが、DNAは大切なものなので直接使うことはせず、mRNAにコピーをして使っているのです。mRNAは細胞の核の中でDNAの情報をコピーすると、核から出て細胞質内の「リボソーム」にくっつきます。リボソームはいわばタンパク質の製造工場で、設計図であるmRNAの情報を読み取り、生命活動を維持するためのさまざまなタンパク質を作ります。つまり、私たちの体の中にはmRNAから自動的にタンパク質を作り出す機能が備わっているのです。mRNAの情報をもとにリボソームがタンパク質を作る/NHK提供拡大画像表示「mRNAワクチン」に入っているのは、ヒトのmRNAではなく、新型コロナウイルスのタンパク質の情報の一部に基づいて人工的に合成したmRNAです。ウイルスのどの部分の情報かというと、ヒトの細胞に侵入するときに必要なウイルスの表面の「突起」。この情報をもったmRNAを脂の膜で包んだものが新型コロナウイルスのmRNAワクチンなのです。突起のタンパク質の情報がウイルスの遺伝子の一部に入っている/NHK提供ワクチンが体の中に入ると、タンパク質の設計図であるmRNAが細胞の中のリボソームにくっつくことで、ウイルスの突起がたくさん作られます。そうして出来たウイルスの突起を細胞の外で待ち受けているのが、異物をやっつけるために働くさまざまな「免疫細胞」です。ワクチン接種で活性化する免疫細胞のイメージ/NHK提供拡大画像表示 免疫細胞の一種である「B細胞」は、突起にくっつく「抗体」を作り出します。「樹状細胞」はウイルスの突起を取り込み、突起の情報を「キラーT細胞」や「ヘルパーT細胞」に渡します。情報を受け取った「キラーT細胞」はこの突起が入り込んだ細胞を攻撃して殺すようになります。一方の「ヘルパーT細胞」は指令を出して、B細胞やキラーT細胞を活性化させるのです。免疫細胞の準備ができたところに本物のウイルスがやってくると、B細胞が作っておいた抗体がウイルスの突起にくっつきます。すると、ウイルスは細胞の中に入れなくなります。万が一、ウイルスが細胞に侵入しても、キラーT細胞が感染した細胞を素早く排除します。mRNAワクチン研究の第一人者で、ワクチン開発にも携わっている東京大学医科学研究所の石井健教授は、ワクチンの効果の高さの理由をこう説明します。「mRNAを体に入れて設計図通りにウイルスのタンパク質を作らせることで、ウイルスに対する免疫と同じものが全部作れるのです。抗体だけではなく、ヘルパーT細胞やキラーT細胞という、ウイルスをやっつける細胞を非常に強く誘導できることが大きいと考えています」(石井さん)mRNAワクチン研究の第一人者、石井健教授/NHK提供例えばインフルエンザで使われる「不活化ワクチン」の場合、ウイルスの抗原を体に入れるだけで、この2つのT細胞の働きは強く誘導できません。そのため、ワクチンの有効率も30~60%とされています。mRNAワクチンの効果の高さはこのT細胞の働きにあると考えられるのです。「副反応」は体の免疫反応で起きているワクチンに対して多くの人が持つ不安が、副反応や長期的な影響などその安全性についてです。mRNAワクチンが体の中でどう働くのかを知っておくことが、ワクチンの正しい理解につながります。副反応として起きる「接種部の痛み」「発熱」や「だるさ」「頭痛」などは、ワクチンが感染の“まね”をさせることで体に起こす免疫反応だと石井さんはいいます。「まさにウイルス感染と近いことが起きていて、mRNAワクチンが入ったときに起こる免疫反応が、打ったところの腫れや痛みです。その後、全身にその免疫反応を起こします。ウイルスに感染したら熱が出ますが、それと同じような反応だと思ってください。ただ、ワクチンの場合は免疫反応を起こすだけ、つまり“まね”をするだけで、病気は起こしません」(石井さん)mRNAワクチンの場合では、この免疫反応がB細胞だけではなくヘルパーT細胞やキラーT細胞でも起きるために、強い副反応が出ると石井さんは考えています。キラーT細胞(イメージ)/NHK提供 「mRNAワクチンを接種するとヘルパーT細胞やキラーT細胞がしっかり誘導されるので、本当にウイルスに感染したときの反応のように、痛かったり腫れたり、発熱がよく起きます。一方、T細胞を強く誘導しないインフルエンザワクチンではこうした副反応がほとんど起きません」(石井さん)ほかの副反応も基本的にはワクチンに入っている物質が問題となって起きるのではなく、ウイルス感染の“まね”をして起きた炎症反応が原因と考えられると石井さんは話します。「不安の声が上がっている若い男性に起きる『心筋炎』ですが、ワクチン接種後に起きる頻度は、100万回接種に約10例程度と非常にまれです。ワクチンによって心筋炎が起きたのかどうかについても検討が続いているところです。ただ、理論的に体の中で炎症は起きていますので、心筋に炎症が起きて病気になるということは100%否定できない状況です。もともと心筋炎のリスクがある方やワクチンを打った後に心臓が痛くなったなどの場合は気を付けたほうがいいと考えています」(石井さん)さらに、長期的な影響を心配する声に対しては、石井さんはこのような説明をします。「mRNAワクチンを多くの人に打ち始めて半年しか経っていませんので、長期にわたって起こる副反応はまだ予測できない状況です。ただ、動物実験などを含めて、遺伝子が体の中に入ってしまうとか、それが原因でガンになってしまうという論文はありませんので、それほど心配する必要はないのではないかというのが、多くの研究者の意見です」(石井さん)ワクチンのmRNAが自分の体のDNAに組み込まれてしまい遺伝情報が書き換わってしまうのではないかという不安の声もありますが、その心配は要らないと石井さんはいいます。「私たちの体の中にはいろんなウイルスがいて、ものすごい数のウイルスのRNAとやりとりをしています。ただ、ウイルスが私たちの細胞の中のDNAを書き換えるということが起こらないような免疫システムが進化上できています。だから、遺伝子が書き換わることはないと考えていいのです」(石井さん) そもそもmRNAは不安定で、私たちの体の中に入っても長期間残るわけではありません。石井さんによると、mRNAは数日から1週間程度で分解されるため、長く体に残って悪影響を及ぼすことはまずあり得ないとのことです。変異株に対しても“重症化”を防ぐ効果はあるデルタ株などが猛威を振るうなか、ワクチンの変異株に対する効果についてどう考えればいいのでしょうか。イスラエルのデータによると、ファイザー製のワクチンを2回接種した場合、デルタ株に対する感染予防や発症予防の効果は64%に下がっていますが、入院・死亡の予防効果は93%とそれほど変わっていません。このデータから、変異株であっても重症化を防ぐ効果がワクチンにあることが読み取れます。デルタ株に対する効果/出典:アメリカCDCの資料拡大画像表示 変異株に対しても効果を維持している理由は、mRNAワクチンがヘルパーT細胞とキラーT細胞という2種類のT細胞を強く誘導するからだと石井さんは考えています。「ウイルスをやっつけるT細胞を非常に強く誘導していますので、ウイルスが変異して抗体が少し認識できなくなったとしても、免疫反応は十分だと考えています。ワクチンを打った方がデルタ株で重症化するということは、低い確率だと言われていますので、(デルタ株に効果がないのではということについて)今はそれほど心配する必要はありません」(石井さん)さらに、石井さんが強調するのは、ワクチン接種は自分を守るためだけではないということです。「ワクチンを打てば、自分自身はかなりの確率で感染や重症化のリスクを減らすことができます。そして、重要なのは、自分だけではなく家族や身近な人を守れるということがワクチンの大きな利益だということです。ワクチンを打つか打たないか、ご自身でよく考えて判断していただきたいと思いますが、このことがその判断の助けになるのではないかと思います」(石井さん)mRNAワクチン実用化までの長い道のり新型コロナウイルスの流行を受けて短期間で実用化されたmRNAワクチンですが、その研究の歴史は長く、1980年代にはmRNAを医薬品に使おうという研究がすでに始まっていました。そして、mRNAをワクチンとして使うためのブレークスルーを成し遂げたのが、ビオンテック社のカタリン・カリコ博士と米ペンシルベニア大学教授のドリュー・ワイスマン博士です。この発見によってノーベル賞の有力な候補に挙げられています。1980年代に考えられていたのは、「mRNAを人工的に作って細胞の中に運べば、薬などに利用できるタンパク質を作ることができる」ということでした。しかし、実際にmRNAを細胞に与えると、拒絶反応として激しい炎症が起き、細胞が死んでしまうことも分かっていました。多くの研究者はこのままでは薬として使うことは無理だと思っていたのです。その常識を覆して、拒絶反応を起こさない方法を見つけ出したのがカリコ博士とワイスマン博士でした。mRNAを構成する物質の1つ「ウリジン」を、「化学修飾」といわれる化学構造の飾りが付いたものに変えて細胞に与えると炎症が起きないことを発見したのです。2005年のことでした。これによってmRNAを人の体に投与するめどが立ちました。「ウリジン」(左)と「化学修飾されたウリジン」(右)/NHK提供拡大画像表示 この発表は世界中の研究者に大きなインパクトを与えましたが、当時、mRNAは非常に不安定で壊れやすいことに加え、人工的に作るのにお金がかかることもあり、ワクチンに使えると想像した人はほとんどいませんでした。しかし、カリコ博士たちは、この壊れやすい特徴が体の中に残らないという薬としての利点になると考え、さらに研究を続けます。そして2008年、炎症を抑えるだけでなくタンパク質を大量に作る方法を見つけたのです。「実験結果が出たとき、これまで夢みていた治療法、ワクチンやタンパク質治療薬、遺伝子治療などの可能性が開かれたと感じました」(ワイスマン博士)その後、カリコ博士はドイツの製薬ベンチャーのビオンテック社に迎えられ、この技術を使ってインフルエンザ用の新ワクチンやがんに対するワクチンの研究を進めていたところ、新型コロナウイルスのパンデミックが起きたのです。ビオンテック社でカリコ博士(右)たちがmRNAワクチンの開発を続けた/画像提供:BioNTechビオンテック社は新型コロナウイルスの遺伝情報が公開されるとすぐにmRNAワクチンの開発に着手。アメリカの大手製薬会社ファイザー社と提携し、大規模な臨床試験を行うとともに、ワクチンの大量生産を開始しました。こうしてわずか1年足らずで新型コロナウイルス用のmRNAワクチンが世界に向けて供給されるようになったのです。「学術界も小さなバイオテクノロジー企業も大企業もそれぞれがベストを尽くしました。今回はそれぞれが協力し合うことで、短期間でのワクチン開発が実現できたのです」(カリコ博士)国産のmRNAワクチンも実用化に向けて進んでいる新型コロナウイルスとの闘いが続くなか、日本でもさまざまなタイプのワクチンの開発が進められています。石井さんが製薬企業とともに行う「国産のmRNAワクチン」の開発は、来年末の実用化を目指して臨床試験が進められています。石井さんは国産ワクチン開発の意義をこのように訴えます。国産mRNAワクチンの開発が進む/NHK提供 「すでに海外のワクチンが入ってきていて必要ないじゃないかという方もいらっしゃると思います。ただ、次のパンデミックが起きたとき、ワクチンが足りないとなっても輸入できる保証はありません。自国の人を守るという意味では、国産のワクチンが必要です。また、新型コロナのワクチンを今後も定期的に打たなくてはならなくなった場合、国産のワクチンがあるというのは、安心なのではないでしょうか」(石井さん)さらに、石井さんはmRNAの技術はさまざまな分野に応用できると考えています。「mRNAで作れるものはたくさんあって、ワクチンと呼ばれているものにどんどん応用されていくと思います。特に、がんワクチンは応用される時期が早いと思います。それ以外の感染症のワクチン、例えばインフルエンザのワクチンでは臨床試験が進んでいますが、いずれmRNAに取って代わられるのではないかといわれています」(石井さん)20年以上の研究の積み重ねによって人類が手にすることができたmRNAワクチン。新型コロナ収束につなげるために、その効果と安全性を一人一人が正しく理解することが、求められています。
ワクチンはどのような仕組みでこれほど高い効果を生み出しているのでしょうか。それを理解するために知る必要があるのが「mRNA」についてです。「メッセンジャーRNA」を略したもので、私たちの体でも普段から使われています。ヒトの細胞の核の中には体の設計図であるDNAが入っていますが、DNAは大切なものなので直接使うことはせず、mRNAにコピーをして使っているのです。mRNAは細胞の核の中でDNAの情報をコピーすると、核から出て細胞質内の「リボソーム」にくっつきます。リボソームはいわばタンパク質の製造工場で、設計図であるmRNAの情報を読み取り、生命活動を維持するためのさまざまなタンパク質を作ります。つまり、私たちの体の中にはmRNAから自動的にタンパク質を作り出す機能が備わっているのです。mRNAの情報をもとにリボソームがタンパク質を作る/NHK提供拡大画像表示「mRNAワクチン」に入っているのは、ヒトのmRNAではなく、新型コロナウイルスのタンパク質の情報の一部に基づいて人工的に合成したmRNAです。ウイルスのどの部分の情報かというと、ヒトの細胞に侵入するときに必要なウイルスの表面の「突起」。この情報をもったmRNAを脂の膜で包んだものが新型コロナウイルスのmRNAワクチンなのです。突起のタンパク質の情報がウイルスの遺伝子の一部に入っている/NHK提供ワクチンが体の中に入ると、タンパク質の設計図であるmRNAが細胞の中のリボソームにくっつくことで、ウイルスの突起がたくさん作られます。そうして出来たウイルスの突起を細胞の外で待ち受けているのが、異物をやっつけるために働くさまざまな「免疫細胞」です。ワクチン接種で活性化する免疫細胞のイメージ/NHK提供拡大画像表示 免疫細胞の一種である「B細胞」は、突起にくっつく「抗体」を作り出します。「樹状細胞」はウイルスの突起を取り込み、突起の情報を「キラーT細胞」や「ヘルパーT細胞」に渡します。情報を受け取った「キラーT細胞」はこの突起が入り込んだ細胞を攻撃して殺すようになります。一方の「ヘルパーT細胞」は指令を出して、B細胞やキラーT細胞を活性化させるのです。免疫細胞の準備ができたところに本物のウイルスがやってくると、B細胞が作っておいた抗体がウイルスの突起にくっつきます。すると、ウイルスは細胞の中に入れなくなります。万が一、ウイルスが細胞に侵入しても、キラーT細胞が感染した細胞を素早く排除します。mRNAワクチン研究の第一人者で、ワクチン開発にも携わっている東京大学医科学研究所の石井健教授は、ワクチンの効果の高さの理由をこう説明します。「mRNAを体に入れて設計図通りにウイルスのタンパク質を作らせることで、ウイルスに対する免疫と同じものが全部作れるのです。抗体だけではなく、ヘルパーT細胞やキラーT細胞という、ウイルスをやっつける細胞を非常に強く誘導できることが大きいと考えています」(石井さん)mRNAワクチン研究の第一人者、石井健教授/NHK提供例えばインフルエンザで使われる「不活化ワクチン」の場合、ウイルスの抗原を体に入れるだけで、この2つのT細胞の働きは強く誘導できません。そのため、ワクチンの有効率も30~60%とされています。mRNAワクチンの効果の高さはこのT細胞の働きにあると考えられるのです。「副反応」は体の免疫反応で起きているワクチンに対して多くの人が持つ不安が、副反応や長期的な影響などその安全性についてです。mRNAワクチンが体の中でどう働くのかを知っておくことが、ワクチンの正しい理解につながります。副反応として起きる「接種部の痛み」「発熱」や「だるさ」「頭痛」などは、ワクチンが感染の“まね”をさせることで体に起こす免疫反応だと石井さんはいいます。「まさにウイルス感染と近いことが起きていて、mRNAワクチンが入ったときに起こる免疫反応が、打ったところの腫れや痛みです。その後、全身にその免疫反応を起こします。ウイルスに感染したら熱が出ますが、それと同じような反応だと思ってください。ただ、ワクチンの場合は免疫反応を起こすだけ、つまり“まね”をするだけで、病気は起こしません」(石井さん)mRNAワクチンの場合では、この免疫反応がB細胞だけではなくヘルパーT細胞やキラーT細胞でも起きるために、強い副反応が出ると石井さんは考えています。キラーT細胞(イメージ)/NHK提供 「mRNAワクチンを接種するとヘルパーT細胞やキラーT細胞がしっかり誘導されるので、本当にウイルスに感染したときの反応のように、痛かったり腫れたり、発熱がよく起きます。一方、T細胞を強く誘導しないインフルエンザワクチンではこうした副反応がほとんど起きません」(石井さん)ほかの副反応も基本的にはワクチンに入っている物質が問題となって起きるのではなく、ウイルス感染の“まね”をして起きた炎症反応が原因と考えられると石井さんは話します。「不安の声が上がっている若い男性に起きる『心筋炎』ですが、ワクチン接種後に起きる頻度は、100万回接種に約10例程度と非常にまれです。ワクチンによって心筋炎が起きたのかどうかについても検討が続いているところです。ただ、理論的に体の中で炎症は起きていますので、心筋に炎症が起きて病気になるということは100%否定できない状況です。もともと心筋炎のリスクがある方やワクチンを打った後に心臓が痛くなったなどの場合は気を付けたほうがいいと考えています」(石井さん)さらに、長期的な影響を心配する声に対しては、石井さんはこのような説明をします。「mRNAワクチンを多くの人に打ち始めて半年しか経っていませんので、長期にわたって起こる副反応はまだ予測できない状況です。ただ、動物実験などを含めて、遺伝子が体の中に入ってしまうとか、それが原因でガンになってしまうという論文はありませんので、それほど心配する必要はないのではないかというのが、多くの研究者の意見です」(石井さん)ワクチンのmRNAが自分の体のDNAに組み込まれてしまい遺伝情報が書き換わってしまうのではないかという不安の声もありますが、その心配は要らないと石井さんはいいます。「私たちの体の中にはいろんなウイルスがいて、ものすごい数のウイルスのRNAとやりとりをしています。ただ、ウイルスが私たちの細胞の中のDNAを書き換えるということが起こらないような免疫システムが進化上できています。だから、遺伝子が書き換わることはないと考えていいのです」(石井さん) そもそもmRNAは不安定で、私たちの体の中に入っても長期間残るわけではありません。石井さんによると、mRNAは数日から1週間程度で分解されるため、長く体に残って悪影響を及ぼすことはまずあり得ないとのことです。変異株に対しても“重症化”を防ぐ効果はあるデルタ株などが猛威を振るうなか、ワクチンの変異株に対する効果についてどう考えればいいのでしょうか。イスラエルのデータによると、ファイザー製のワクチンを2回接種した場合、デルタ株に対する感染予防や発症予防の効果は64%に下がっていますが、入院・死亡の予防効果は93%とそれほど変わっていません。このデータから、変異株であっても重症化を防ぐ効果がワクチンにあることが読み取れます。デルタ株に対する効果/出典:アメリカCDCの資料拡大画像表示 変異株に対しても効果を維持している理由は、mRNAワクチンがヘルパーT細胞とキラーT細胞という2種類のT細胞を強く誘導するからだと石井さんは考えています。「ウイルスをやっつけるT細胞を非常に強く誘導していますので、ウイルスが変異して抗体が少し認識できなくなったとしても、免疫反応は十分だと考えています。ワクチンを打った方がデルタ株で重症化するということは、低い確率だと言われていますので、(デルタ株に効果がないのではということについて)今はそれほど心配する必要はありません」(石井さん)さらに、石井さんが強調するのは、ワクチン接種は自分を守るためだけではないということです。「ワクチンを打てば、自分自身はかなりの確率で感染や重症化のリスクを減らすことができます。そして、重要なのは、自分だけではなく家族や身近な人を守れるということがワクチンの大きな利益だということです。ワクチンを打つか打たないか、ご自身でよく考えて判断していただきたいと思いますが、このことがその判断の助けになるのではないかと思います」(石井さん)mRNAワクチン実用化までの長い道のり新型コロナウイルスの流行を受けて短期間で実用化されたmRNAワクチンですが、その研究の歴史は長く、1980年代にはmRNAを医薬品に使おうという研究がすでに始まっていました。そして、mRNAをワクチンとして使うためのブレークスルーを成し遂げたのが、ビオンテック社のカタリン・カリコ博士と米ペンシルベニア大学教授のドリュー・ワイスマン博士です。この発見によってノーベル賞の有力な候補に挙げられています。1980年代に考えられていたのは、「mRNAを人工的に作って細胞の中に運べば、薬などに利用できるタンパク質を作ることができる」ということでした。しかし、実際にmRNAを細胞に与えると、拒絶反応として激しい炎症が起き、細胞が死んでしまうことも分かっていました。多くの研究者はこのままでは薬として使うことは無理だと思っていたのです。その常識を覆して、拒絶反応を起こさない方法を見つけ出したのがカリコ博士とワイスマン博士でした。mRNAを構成する物質の1つ「ウリジン」を、「化学修飾」といわれる化学構造の飾りが付いたものに変えて細胞に与えると炎症が起きないことを発見したのです。2005年のことでした。これによってmRNAを人の体に投与するめどが立ちました。「ウリジン」(左)と「化学修飾されたウリジン」(右)/NHK提供拡大画像表示 この発表は世界中の研究者に大きなインパクトを与えましたが、当時、mRNAは非常に不安定で壊れやすいことに加え、人工的に作るのにお金がかかることもあり、ワクチンに使えると想像した人はほとんどいませんでした。しかし、カリコ博士たちは、この壊れやすい特徴が体の中に残らないという薬としての利点になると考え、さらに研究を続けます。そして2008年、炎症を抑えるだけでなくタンパク質を大量に作る方法を見つけたのです。「実験結果が出たとき、これまで夢みていた治療法、ワクチンやタンパク質治療薬、遺伝子治療などの可能性が開かれたと感じました」(ワイスマン博士)その後、カリコ博士はドイツの製薬ベンチャーのビオンテック社に迎えられ、この技術を使ってインフルエンザ用の新ワクチンやがんに対するワクチンの研究を進めていたところ、新型コロナウイルスのパンデミックが起きたのです。ビオンテック社でカリコ博士(右)たちがmRNAワクチンの開発を続けた/画像提供:BioNTechビオンテック社は新型コロナウイルスの遺伝情報が公開されるとすぐにmRNAワクチンの開発に着手。アメリカの大手製薬会社ファイザー社と提携し、大規模な臨床試験を行うとともに、ワクチンの大量生産を開始しました。こうしてわずか1年足らずで新型コロナウイルス用のmRNAワクチンが世界に向けて供給されるようになったのです。「学術界も小さなバイオテクノロジー企業も大企業もそれぞれがベストを尽くしました。今回はそれぞれが協力し合うことで、短期間でのワクチン開発が実現できたのです」(カリコ博士)国産のmRNAワクチンも実用化に向けて進んでいる新型コロナウイルスとの闘いが続くなか、日本でもさまざまなタイプのワクチンの開発が進められています。石井さんが製薬企業とともに行う「国産のmRNAワクチン」の開発は、来年末の実用化を目指して臨床試験が進められています。石井さんは国産ワクチン開発の意義をこのように訴えます。国産mRNAワクチンの開発が進む/NHK提供 「すでに海外のワクチンが入ってきていて必要ないじゃないかという方もいらっしゃると思います。ただ、次のパンデミックが起きたとき、ワクチンが足りないとなっても輸入できる保証はありません。自国の人を守るという意味では、国産のワクチンが必要です。また、新型コロナのワクチンを今後も定期的に打たなくてはならなくなった場合、国産のワクチンがあるというのは、安心なのではないでしょうか」(石井さん)さらに、石井さんはmRNAの技術はさまざまな分野に応用できると考えています。「mRNAで作れるものはたくさんあって、ワクチンと呼ばれているものにどんどん応用されていくと思います。特に、がんワクチンは応用される時期が早いと思います。それ以外の感染症のワクチン、例えばインフルエンザのワクチンでは臨床試験が進んでいますが、いずれmRNAに取って代わられるのではないかといわれています」(石井さん)20年以上の研究の積み重ねによって人類が手にすることができたmRNAワクチン。新型コロナ収束につなげるために、その効果と安全性を一人一人が正しく理解することが、求められています。
それを理解するために知る必要があるのが「mRNA」についてです。「メッセンジャーRNA」を略したもので、私たちの体でも普段から使われています。ヒトの細胞の核の中には体の設計図であるDNAが入っていますが、DNAは大切なものなので直接使うことはせず、mRNAにコピーをして使っているのです。mRNAは細胞の核の中でDNAの情報をコピーすると、核から出て細胞質内の「リボソーム」にくっつきます。リボソームはいわばタンパク質の製造工場で、設計図であるmRNAの情報を読み取り、生命活動を維持するためのさまざまなタンパク質を作ります。つまり、私たちの体の中にはmRNAから自動的にタンパク質を作り出す機能が備わっているのです。mRNAの情報をもとにリボソームがタンパク質を作る/NHK提供拡大画像表示「mRNAワクチン」に入っているのは、ヒトのmRNAではなく、新型コロナウイルスのタンパク質の情報の一部に基づいて人工的に合成したmRNAです。ウイルスのどの部分の情報かというと、ヒトの細胞に侵入するときに必要なウイルスの表面の「突起」。この情報をもったmRNAを脂の膜で包んだものが新型コロナウイルスのmRNAワクチンなのです。突起のタンパク質の情報がウイルスの遺伝子の一部に入っている/NHK提供ワクチンが体の中に入ると、タンパク質の設計図であるmRNAが細胞の中のリボソームにくっつくことで、ウイルスの突起がたくさん作られます。そうして出来たウイルスの突起を細胞の外で待ち受けているのが、異物をやっつけるために働くさまざまな「免疫細胞」です。ワクチン接種で活性化する免疫細胞のイメージ/NHK提供拡大画像表示 免疫細胞の一種である「B細胞」は、突起にくっつく「抗体」を作り出します。「樹状細胞」はウイルスの突起を取り込み、突起の情報を「キラーT細胞」や「ヘルパーT細胞」に渡します。情報を受け取った「キラーT細胞」はこの突起が入り込んだ細胞を攻撃して殺すようになります。一方の「ヘルパーT細胞」は指令を出して、B細胞やキラーT細胞を活性化させるのです。免疫細胞の準備ができたところに本物のウイルスがやってくると、B細胞が作っておいた抗体がウイルスの突起にくっつきます。すると、ウイルスは細胞の中に入れなくなります。万が一、ウイルスが細胞に侵入しても、キラーT細胞が感染した細胞を素早く排除します。mRNAワクチン研究の第一人者で、ワクチン開発にも携わっている東京大学医科学研究所の石井健教授は、ワクチンの効果の高さの理由をこう説明します。「mRNAを体に入れて設計図通りにウイルスのタンパク質を作らせることで、ウイルスに対する免疫と同じものが全部作れるのです。抗体だけではなく、ヘルパーT細胞やキラーT細胞という、ウイルスをやっつける細胞を非常に強く誘導できることが大きいと考えています」(石井さん)mRNAワクチン研究の第一人者、石井健教授/NHK提供例えばインフルエンザで使われる「不活化ワクチン」の場合、ウイルスの抗原を体に入れるだけで、この2つのT細胞の働きは強く誘導できません。そのため、ワクチンの有効率も30~60%とされています。mRNAワクチンの効果の高さはこのT細胞の働きにあると考えられるのです。「副反応」は体の免疫反応で起きているワクチンに対して多くの人が持つ不安が、副反応や長期的な影響などその安全性についてです。mRNAワクチンが体の中でどう働くのかを知っておくことが、ワクチンの正しい理解につながります。副反応として起きる「接種部の痛み」「発熱」や「だるさ」「頭痛」などは、ワクチンが感染の“まね”をさせることで体に起こす免疫反応だと石井さんはいいます。「まさにウイルス感染と近いことが起きていて、mRNAワクチンが入ったときに起こる免疫反応が、打ったところの腫れや痛みです。その後、全身にその免疫反応を起こします。ウイルスに感染したら熱が出ますが、それと同じような反応だと思ってください。ただ、ワクチンの場合は免疫反応を起こすだけ、つまり“まね”をするだけで、病気は起こしません」(石井さん)mRNAワクチンの場合では、この免疫反応がB細胞だけではなくヘルパーT細胞やキラーT細胞でも起きるために、強い副反応が出ると石井さんは考えています。キラーT細胞(イメージ)/NHK提供 「mRNAワクチンを接種するとヘルパーT細胞やキラーT細胞がしっかり誘導されるので、本当にウイルスに感染したときの反応のように、痛かったり腫れたり、発熱がよく起きます。一方、T細胞を強く誘導しないインフルエンザワクチンではこうした副反応がほとんど起きません」(石井さん)ほかの副反応も基本的にはワクチンに入っている物質が問題となって起きるのではなく、ウイルス感染の“まね”をして起きた炎症反応が原因と考えられると石井さんは話します。「不安の声が上がっている若い男性に起きる『心筋炎』ですが、ワクチン接種後に起きる頻度は、100万回接種に約10例程度と非常にまれです。ワクチンによって心筋炎が起きたのかどうかについても検討が続いているところです。ただ、理論的に体の中で炎症は起きていますので、心筋に炎症が起きて病気になるということは100%否定できない状況です。もともと心筋炎のリスクがある方やワクチンを打った後に心臓が痛くなったなどの場合は気を付けたほうがいいと考えています」(石井さん)さらに、長期的な影響を心配する声に対しては、石井さんはこのような説明をします。「mRNAワクチンを多くの人に打ち始めて半年しか経っていませんので、長期にわたって起こる副反応はまだ予測できない状況です。ただ、動物実験などを含めて、遺伝子が体の中に入ってしまうとか、それが原因でガンになってしまうという論文はありませんので、それほど心配する必要はないのではないかというのが、多くの研究者の意見です」(石井さん)ワクチンのmRNAが自分の体のDNAに組み込まれてしまい遺伝情報が書き換わってしまうのではないかという不安の声もありますが、その心配は要らないと石井さんはいいます。「私たちの体の中にはいろんなウイルスがいて、ものすごい数のウイルスのRNAとやりとりをしています。ただ、ウイルスが私たちの細胞の中のDNAを書き換えるということが起こらないような免疫システムが進化上できています。だから、遺伝子が書き換わることはないと考えていいのです」(石井さん) そもそもmRNAは不安定で、私たちの体の中に入っても長期間残るわけではありません。石井さんによると、mRNAは数日から1週間程度で分解されるため、長く体に残って悪影響を及ぼすことはまずあり得ないとのことです。変異株に対しても“重症化”を防ぐ効果はあるデルタ株などが猛威を振るうなか、ワクチンの変異株に対する効果についてどう考えればいいのでしょうか。イスラエルのデータによると、ファイザー製のワクチンを2回接種した場合、デルタ株に対する感染予防や発症予防の効果は64%に下がっていますが、入院・死亡の予防効果は93%とそれほど変わっていません。このデータから、変異株であっても重症化を防ぐ効果がワクチンにあることが読み取れます。デルタ株に対する効果/出典:アメリカCDCの資料拡大画像表示 変異株に対しても効果を維持している理由は、mRNAワクチンがヘルパーT細胞とキラーT細胞という2種類のT細胞を強く誘導するからだと石井さんは考えています。「ウイルスをやっつけるT細胞を非常に強く誘導していますので、ウイルスが変異して抗体が少し認識できなくなったとしても、免疫反応は十分だと考えています。ワクチンを打った方がデルタ株で重症化するということは、低い確率だと言われていますので、(デルタ株に効果がないのではということについて)今はそれほど心配する必要はありません」(石井さん)さらに、石井さんが強調するのは、ワクチン接種は自分を守るためだけではないということです。「ワクチンを打てば、自分自身はかなりの確率で感染や重症化のリスクを減らすことができます。そして、重要なのは、自分だけではなく家族や身近な人を守れるということがワクチンの大きな利益だということです。ワクチンを打つか打たないか、ご自身でよく考えて判断していただきたいと思いますが、このことがその判断の助けになるのではないかと思います」(石井さん)mRNAワクチン実用化までの長い道のり新型コロナウイルスの流行を受けて短期間で実用化されたmRNAワクチンですが、その研究の歴史は長く、1980年代にはmRNAを医薬品に使おうという研究がすでに始まっていました。そして、mRNAをワクチンとして使うためのブレークスルーを成し遂げたのが、ビオンテック社のカタリン・カリコ博士と米ペンシルベニア大学教授のドリュー・ワイスマン博士です。この発見によってノーベル賞の有力な候補に挙げられています。1980年代に考えられていたのは、「mRNAを人工的に作って細胞の中に運べば、薬などに利用できるタンパク質を作ることができる」ということでした。しかし、実際にmRNAを細胞に与えると、拒絶反応として激しい炎症が起き、細胞が死んでしまうことも分かっていました。多くの研究者はこのままでは薬として使うことは無理だと思っていたのです。その常識を覆して、拒絶反応を起こさない方法を見つけ出したのがカリコ博士とワイスマン博士でした。mRNAを構成する物質の1つ「ウリジン」を、「化学修飾」といわれる化学構造の飾りが付いたものに変えて細胞に与えると炎症が起きないことを発見したのです。2005年のことでした。これによってmRNAを人の体に投与するめどが立ちました。「ウリジン」(左)と「化学修飾されたウリジン」(右)/NHK提供拡大画像表示 この発表は世界中の研究者に大きなインパクトを与えましたが、当時、mRNAは非常に不安定で壊れやすいことに加え、人工的に作るのにお金がかかることもあり、ワクチンに使えると想像した人はほとんどいませんでした。しかし、カリコ博士たちは、この壊れやすい特徴が体の中に残らないという薬としての利点になると考え、さらに研究を続けます。そして2008年、炎症を抑えるだけでなくタンパク質を大量に作る方法を見つけたのです。「実験結果が出たとき、これまで夢みていた治療法、ワクチンやタンパク質治療薬、遺伝子治療などの可能性が開かれたと感じました」(ワイスマン博士)その後、カリコ博士はドイツの製薬ベンチャーのビオンテック社に迎えられ、この技術を使ってインフルエンザ用の新ワクチンやがんに対するワクチンの研究を進めていたところ、新型コロナウイルスのパンデミックが起きたのです。ビオンテック社でカリコ博士(右)たちがmRNAワクチンの開発を続けた/画像提供:BioNTechビオンテック社は新型コロナウイルスの遺伝情報が公開されるとすぐにmRNAワクチンの開発に着手。アメリカの大手製薬会社ファイザー社と提携し、大規模な臨床試験を行うとともに、ワクチンの大量生産を開始しました。こうしてわずか1年足らずで新型コロナウイルス用のmRNAワクチンが世界に向けて供給されるようになったのです。「学術界も小さなバイオテクノロジー企業も大企業もそれぞれがベストを尽くしました。今回はそれぞれが協力し合うことで、短期間でのワクチン開発が実現できたのです」(カリコ博士)国産のmRNAワクチンも実用化に向けて進んでいる新型コロナウイルスとの闘いが続くなか、日本でもさまざまなタイプのワクチンの開発が進められています。石井さんが製薬企業とともに行う「国産のmRNAワクチン」の開発は、来年末の実用化を目指して臨床試験が進められています。石井さんは国産ワクチン開発の意義をこのように訴えます。国産mRNAワクチンの開発が進む/NHK提供 「すでに海外のワクチンが入ってきていて必要ないじゃないかという方もいらっしゃると思います。ただ、次のパンデミックが起きたとき、ワクチンが足りないとなっても輸入できる保証はありません。自国の人を守るという意味では、国産のワクチンが必要です。また、新型コロナのワクチンを今後も定期的に打たなくてはならなくなった場合、国産のワクチンがあるというのは、安心なのではないでしょうか」(石井さん)さらに、石井さんはmRNAの技術はさまざまな分野に応用できると考えています。「mRNAで作れるものはたくさんあって、ワクチンと呼ばれているものにどんどん応用されていくと思います。特に、がんワクチンは応用される時期が早いと思います。それ以外の感染症のワクチン、例えばインフルエンザのワクチンでは臨床試験が進んでいますが、いずれmRNAに取って代わられるのではないかといわれています」(石井さん)20年以上の研究の積み重ねによって人類が手にすることができたmRNAワクチン。新型コロナ収束につなげるために、その効果と安全性を一人一人が正しく理解することが、求められています。
ヒトの細胞の核の中には体の設計図であるDNAが入っていますが、DNAは大切なものなので直接使うことはせず、mRNAにコピーをして使っているのです。mRNAは細胞の核の中でDNAの情報をコピーすると、核から出て細胞質内の「リボソーム」にくっつきます。リボソームはいわばタンパク質の製造工場で、設計図であるmRNAの情報を読み取り、生命活動を維持するためのさまざまなタンパク質を作ります。つまり、私たちの体の中にはmRNAから自動的にタンパク質を作り出す機能が備わっているのです。mRNAの情報をもとにリボソームがタンパク質を作る/NHK提供拡大画像表示「mRNAワクチン」に入っているのは、ヒトのmRNAではなく、新型コロナウイルスのタンパク質の情報の一部に基づいて人工的に合成したmRNAです。ウイルスのどの部分の情報かというと、ヒトの細胞に侵入するときに必要なウイルスの表面の「突起」。この情報をもったmRNAを脂の膜で包んだものが新型コロナウイルスのmRNAワクチンなのです。突起のタンパク質の情報がウイルスの遺伝子の一部に入っている/NHK提供ワクチンが体の中に入ると、タンパク質の設計図であるmRNAが細胞の中のリボソームにくっつくことで、ウイルスの突起がたくさん作られます。そうして出来たウイルスの突起を細胞の外で待ち受けているのが、異物をやっつけるために働くさまざまな「免疫細胞」です。ワクチン接種で活性化する免疫細胞のイメージ/NHK提供拡大画像表示 免疫細胞の一種である「B細胞」は、突起にくっつく「抗体」を作り出します。「樹状細胞」はウイルスの突起を取り込み、突起の情報を「キラーT細胞」や「ヘルパーT細胞」に渡します。情報を受け取った「キラーT細胞」はこの突起が入り込んだ細胞を攻撃して殺すようになります。一方の「ヘルパーT細胞」は指令を出して、B細胞やキラーT細胞を活性化させるのです。免疫細胞の準備ができたところに本物のウイルスがやってくると、B細胞が作っておいた抗体がウイルスの突起にくっつきます。すると、ウイルスは細胞の中に入れなくなります。万が一、ウイルスが細胞に侵入しても、キラーT細胞が感染した細胞を素早く排除します。mRNAワクチン研究の第一人者で、ワクチン開発にも携わっている東京大学医科学研究所の石井健教授は、ワクチンの効果の高さの理由をこう説明します。「mRNAを体に入れて設計図通りにウイルスのタンパク質を作らせることで、ウイルスに対する免疫と同じものが全部作れるのです。抗体だけではなく、ヘルパーT細胞やキラーT細胞という、ウイルスをやっつける細胞を非常に強く誘導できることが大きいと考えています」(石井さん)mRNAワクチン研究の第一人者、石井健教授/NHK提供例えばインフルエンザで使われる「不活化ワクチン」の場合、ウイルスの抗原を体に入れるだけで、この2つのT細胞の働きは強く誘導できません。そのため、ワクチンの有効率も30~60%とされています。mRNAワクチンの効果の高さはこのT細胞の働きにあると考えられるのです。「副反応」は体の免疫反応で起きているワクチンに対して多くの人が持つ不安が、副反応や長期的な影響などその安全性についてです。mRNAワクチンが体の中でどう働くのかを知っておくことが、ワクチンの正しい理解につながります。副反応として起きる「接種部の痛み」「発熱」や「だるさ」「頭痛」などは、ワクチンが感染の“まね”をさせることで体に起こす免疫反応だと石井さんはいいます。「まさにウイルス感染と近いことが起きていて、mRNAワクチンが入ったときに起こる免疫反応が、打ったところの腫れや痛みです。その後、全身にその免疫反応を起こします。ウイルスに感染したら熱が出ますが、それと同じような反応だと思ってください。ただ、ワクチンの場合は免疫反応を起こすだけ、つまり“まね”をするだけで、病気は起こしません」(石井さん)mRNAワクチンの場合では、この免疫反応がB細胞だけではなくヘルパーT細胞やキラーT細胞でも起きるために、強い副反応が出ると石井さんは考えています。キラーT細胞(イメージ)/NHK提供 「mRNAワクチンを接種するとヘルパーT細胞やキラーT細胞がしっかり誘導されるので、本当にウイルスに感染したときの反応のように、痛かったり腫れたり、発熱がよく起きます。一方、T細胞を強く誘導しないインフルエンザワクチンではこうした副反応がほとんど起きません」(石井さん)ほかの副反応も基本的にはワクチンに入っている物質が問題となって起きるのではなく、ウイルス感染の“まね”をして起きた炎症反応が原因と考えられると石井さんは話します。「不安の声が上がっている若い男性に起きる『心筋炎』ですが、ワクチン接種後に起きる頻度は、100万回接種に約10例程度と非常にまれです。ワクチンによって心筋炎が起きたのかどうかについても検討が続いているところです。ただ、理論的に体の中で炎症は起きていますので、心筋に炎症が起きて病気になるということは100%否定できない状況です。もともと心筋炎のリスクがある方やワクチンを打った後に心臓が痛くなったなどの場合は気を付けたほうがいいと考えています」(石井さん)さらに、長期的な影響を心配する声に対しては、石井さんはこのような説明をします。「mRNAワクチンを多くの人に打ち始めて半年しか経っていませんので、長期にわたって起こる副反応はまだ予測できない状況です。ただ、動物実験などを含めて、遺伝子が体の中に入ってしまうとか、それが原因でガンになってしまうという論文はありませんので、それほど心配する必要はないのではないかというのが、多くの研究者の意見です」(石井さん)ワクチンのmRNAが自分の体のDNAに組み込まれてしまい遺伝情報が書き換わってしまうのではないかという不安の声もありますが、その心配は要らないと石井さんはいいます。「私たちの体の中にはいろんなウイルスがいて、ものすごい数のウイルスのRNAとやりとりをしています。ただ、ウイルスが私たちの細胞の中のDNAを書き換えるということが起こらないような免疫システムが進化上できています。だから、遺伝子が書き換わることはないと考えていいのです」(石井さん) そもそもmRNAは不安定で、私たちの体の中に入っても長期間残るわけではありません。石井さんによると、mRNAは数日から1週間程度で分解されるため、長く体に残って悪影響を及ぼすことはまずあり得ないとのことです。変異株に対しても“重症化”を防ぐ効果はあるデルタ株などが猛威を振るうなか、ワクチンの変異株に対する効果についてどう考えればいいのでしょうか。イスラエルのデータによると、ファイザー製のワクチンを2回接種した場合、デルタ株に対する感染予防や発症予防の効果は64%に下がっていますが、入院・死亡の予防効果は93%とそれほど変わっていません。このデータから、変異株であっても重症化を防ぐ効果がワクチンにあることが読み取れます。デルタ株に対する効果/出典:アメリカCDCの資料拡大画像表示 変異株に対しても効果を維持している理由は、mRNAワクチンがヘルパーT細胞とキラーT細胞という2種類のT細胞を強く誘導するからだと石井さんは考えています。「ウイルスをやっつけるT細胞を非常に強く誘導していますので、ウイルスが変異して抗体が少し認識できなくなったとしても、免疫反応は十分だと考えています。ワクチンを打った方がデルタ株で重症化するということは、低い確率だと言われていますので、(デルタ株に効果がないのではということについて)今はそれほど心配する必要はありません」(石井さん)さらに、石井さんが強調するのは、ワクチン接種は自分を守るためだけではないということです。「ワクチンを打てば、自分自身はかなりの確率で感染や重症化のリスクを減らすことができます。そして、重要なのは、自分だけではなく家族や身近な人を守れるということがワクチンの大きな利益だということです。ワクチンを打つか打たないか、ご自身でよく考えて判断していただきたいと思いますが、このことがその判断の助けになるのではないかと思います」(石井さん)mRNAワクチン実用化までの長い道のり新型コロナウイルスの流行を受けて短期間で実用化されたmRNAワクチンですが、その研究の歴史は長く、1980年代にはmRNAを医薬品に使おうという研究がすでに始まっていました。そして、mRNAをワクチンとして使うためのブレークスルーを成し遂げたのが、ビオンテック社のカタリン・カリコ博士と米ペンシルベニア大学教授のドリュー・ワイスマン博士です。この発見によってノーベル賞の有力な候補に挙げられています。1980年代に考えられていたのは、「mRNAを人工的に作って細胞の中に運べば、薬などに利用できるタンパク質を作ることができる」ということでした。しかし、実際にmRNAを細胞に与えると、拒絶反応として激しい炎症が起き、細胞が死んでしまうことも分かっていました。多くの研究者はこのままでは薬として使うことは無理だと思っていたのです。その常識を覆して、拒絶反応を起こさない方法を見つけ出したのがカリコ博士とワイスマン博士でした。mRNAを構成する物質の1つ「ウリジン」を、「化学修飾」といわれる化学構造の飾りが付いたものに変えて細胞に与えると炎症が起きないことを発見したのです。2005年のことでした。これによってmRNAを人の体に投与するめどが立ちました。「ウリジン」(左)と「化学修飾されたウリジン」(右)/NHK提供拡大画像表示 この発表は世界中の研究者に大きなインパクトを与えましたが、当時、mRNAは非常に不安定で壊れやすいことに加え、人工的に作るのにお金がかかることもあり、ワクチンに使えると想像した人はほとんどいませんでした。しかし、カリコ博士たちは、この壊れやすい特徴が体の中に残らないという薬としての利点になると考え、さらに研究を続けます。そして2008年、炎症を抑えるだけでなくタンパク質を大量に作る方法を見つけたのです。「実験結果が出たとき、これまで夢みていた治療法、ワクチンやタンパク質治療薬、遺伝子治療などの可能性が開かれたと感じました」(ワイスマン博士)その後、カリコ博士はドイツの製薬ベンチャーのビオンテック社に迎えられ、この技術を使ってインフルエンザ用の新ワクチンやがんに対するワクチンの研究を進めていたところ、新型コロナウイルスのパンデミックが起きたのです。ビオンテック社でカリコ博士(右)たちがmRNAワクチンの開発を続けた/画像提供:BioNTechビオンテック社は新型コロナウイルスの遺伝情報が公開されるとすぐにmRNAワクチンの開発に着手。アメリカの大手製薬会社ファイザー社と提携し、大規模な臨床試験を行うとともに、ワクチンの大量生産を開始しました。こうしてわずか1年足らずで新型コロナウイルス用のmRNAワクチンが世界に向けて供給されるようになったのです。「学術界も小さなバイオテクノロジー企業も大企業もそれぞれがベストを尽くしました。今回はそれぞれが協力し合うことで、短期間でのワクチン開発が実現できたのです」(カリコ博士)国産のmRNAワクチンも実用化に向けて進んでいる新型コロナウイルスとの闘いが続くなか、日本でもさまざまなタイプのワクチンの開発が進められています。石井さんが製薬企業とともに行う「国産のmRNAワクチン」の開発は、来年末の実用化を目指して臨床試験が進められています。石井さんは国産ワクチン開発の意義をこのように訴えます。国産mRNAワクチンの開発が進む/NHK提供 「すでに海外のワクチンが入ってきていて必要ないじゃないかという方もいらっしゃると思います。ただ、次のパンデミックが起きたとき、ワクチンが足りないとなっても輸入できる保証はありません。自国の人を守るという意味では、国産のワクチンが必要です。また、新型コロナのワクチンを今後も定期的に打たなくてはならなくなった場合、国産のワクチンがあるというのは、安心なのではないでしょうか」(石井さん)さらに、石井さんはmRNAの技術はさまざまな分野に応用できると考えています。「mRNAで作れるものはたくさんあって、ワクチンと呼ばれているものにどんどん応用されていくと思います。特に、がんワクチンは応用される時期が早いと思います。それ以外の感染症のワクチン、例えばインフルエンザのワクチンでは臨床試験が進んでいますが、いずれmRNAに取って代わられるのではないかといわれています」(石井さん)20年以上の研究の積み重ねによって人類が手にすることができたmRNAワクチン。新型コロナ収束につなげるために、その効果と安全性を一人一人が正しく理解することが、求められています。
リボソームはいわばタンパク質の製造工場で、設計図であるmRNAの情報を読み取り、生命活動を維持するためのさまざまなタンパク質を作ります。つまり、私たちの体の中にはmRNAから自動的にタンパク質を作り出す機能が備わっているのです。mRNAの情報をもとにリボソームがタンパク質を作る/NHK提供拡大画像表示「mRNAワクチン」に入っているのは、ヒトのmRNAではなく、新型コロナウイルスのタンパク質の情報の一部に基づいて人工的に合成したmRNAです。ウイルスのどの部分の情報かというと、ヒトの細胞に侵入するときに必要なウイルスの表面の「突起」。この情報をもったmRNAを脂の膜で包んだものが新型コロナウイルスのmRNAワクチンなのです。突起のタンパク質の情報がウイルスの遺伝子の一部に入っている/NHK提供ワクチンが体の中に入ると、タンパク質の設計図であるmRNAが細胞の中のリボソームにくっつくことで、ウイルスの突起がたくさん作られます。そうして出来たウイルスの突起を細胞の外で待ち受けているのが、異物をやっつけるために働くさまざまな「免疫細胞」です。ワクチン接種で活性化する免疫細胞のイメージ/NHK提供拡大画像表示 免疫細胞の一種である「B細胞」は、突起にくっつく「抗体」を作り出します。「樹状細胞」はウイルスの突起を取り込み、突起の情報を「キラーT細胞」や「ヘルパーT細胞」に渡します。情報を受け取った「キラーT細胞」はこの突起が入り込んだ細胞を攻撃して殺すようになります。一方の「ヘルパーT細胞」は指令を出して、B細胞やキラーT細胞を活性化させるのです。免疫細胞の準備ができたところに本物のウイルスがやってくると、B細胞が作っておいた抗体がウイルスの突起にくっつきます。すると、ウイルスは細胞の中に入れなくなります。万が一、ウイルスが細胞に侵入しても、キラーT細胞が感染した細胞を素早く排除します。mRNAワクチン研究の第一人者で、ワクチン開発にも携わっている東京大学医科学研究所の石井健教授は、ワクチンの効果の高さの理由をこう説明します。「mRNAを体に入れて設計図通りにウイルスのタンパク質を作らせることで、ウイルスに対する免疫と同じものが全部作れるのです。抗体だけではなく、ヘルパーT細胞やキラーT細胞という、ウイルスをやっつける細胞を非常に強く誘導できることが大きいと考えています」(石井さん)mRNAワクチン研究の第一人者、石井健教授/NHK提供例えばインフルエンザで使われる「不活化ワクチン」の場合、ウイルスの抗原を体に入れるだけで、この2つのT細胞の働きは強く誘導できません。そのため、ワクチンの有効率も30~60%とされています。mRNAワクチンの効果の高さはこのT細胞の働きにあると考えられるのです。「副反応」は体の免疫反応で起きているワクチンに対して多くの人が持つ不安が、副反応や長期的な影響などその安全性についてです。mRNAワクチンが体の中でどう働くのかを知っておくことが、ワクチンの正しい理解につながります。副反応として起きる「接種部の痛み」「発熱」や「だるさ」「頭痛」などは、ワクチンが感染の“まね”をさせることで体に起こす免疫反応だと石井さんはいいます。「まさにウイルス感染と近いことが起きていて、mRNAワクチンが入ったときに起こる免疫反応が、打ったところの腫れや痛みです。その後、全身にその免疫反応を起こします。ウイルスに感染したら熱が出ますが、それと同じような反応だと思ってください。ただ、ワクチンの場合は免疫反応を起こすだけ、つまり“まね”をするだけで、病気は起こしません」(石井さん)mRNAワクチンの場合では、この免疫反応がB細胞だけではなくヘルパーT細胞やキラーT細胞でも起きるために、強い副反応が出ると石井さんは考えています。キラーT細胞(イメージ)/NHK提供 「mRNAワクチンを接種するとヘルパーT細胞やキラーT細胞がしっかり誘導されるので、本当にウイルスに感染したときの反応のように、痛かったり腫れたり、発熱がよく起きます。一方、T細胞を強く誘導しないインフルエンザワクチンではこうした副反応がほとんど起きません」(石井さん)ほかの副反応も基本的にはワクチンに入っている物質が問題となって起きるのではなく、ウイルス感染の“まね”をして起きた炎症反応が原因と考えられると石井さんは話します。「不安の声が上がっている若い男性に起きる『心筋炎』ですが、ワクチン接種後に起きる頻度は、100万回接種に約10例程度と非常にまれです。ワクチンによって心筋炎が起きたのかどうかについても検討が続いているところです。ただ、理論的に体の中で炎症は起きていますので、心筋に炎症が起きて病気になるということは100%否定できない状況です。もともと心筋炎のリスクがある方やワクチンを打った後に心臓が痛くなったなどの場合は気を付けたほうがいいと考えています」(石井さん)さらに、長期的な影響を心配する声に対しては、石井さんはこのような説明をします。「mRNAワクチンを多くの人に打ち始めて半年しか経っていませんので、長期にわたって起こる副反応はまだ予測できない状況です。ただ、動物実験などを含めて、遺伝子が体の中に入ってしまうとか、それが原因でガンになってしまうという論文はありませんので、それほど心配する必要はないのではないかというのが、多くの研究者の意見です」(石井さん)ワクチンのmRNAが自分の体のDNAに組み込まれてしまい遺伝情報が書き換わってしまうのではないかという不安の声もありますが、その心配は要らないと石井さんはいいます。「私たちの体の中にはいろんなウイルスがいて、ものすごい数のウイルスのRNAとやりとりをしています。ただ、ウイルスが私たちの細胞の中のDNAを書き換えるということが起こらないような免疫システムが進化上できています。だから、遺伝子が書き換わることはないと考えていいのです」(石井さん) そもそもmRNAは不安定で、私たちの体の中に入っても長期間残るわけではありません。石井さんによると、mRNAは数日から1週間程度で分解されるため、長く体に残って悪影響を及ぼすことはまずあり得ないとのことです。変異株に対しても“重症化”を防ぐ効果はあるデルタ株などが猛威を振るうなか、ワクチンの変異株に対する効果についてどう考えればいいのでしょうか。イスラエルのデータによると、ファイザー製のワクチンを2回接種した場合、デルタ株に対する感染予防や発症予防の効果は64%に下がっていますが、入院・死亡の予防効果は93%とそれほど変わっていません。このデータから、変異株であっても重症化を防ぐ効果がワクチンにあることが読み取れます。デルタ株に対する効果/出典:アメリカCDCの資料拡大画像表示 変異株に対しても効果を維持している理由は、mRNAワクチンがヘルパーT細胞とキラーT細胞という2種類のT細胞を強く誘導するからだと石井さんは考えています。「ウイルスをやっつけるT細胞を非常に強く誘導していますので、ウイルスが変異して抗体が少し認識できなくなったとしても、免疫反応は十分だと考えています。ワクチンを打った方がデルタ株で重症化するということは、低い確率だと言われていますので、(デルタ株に効果がないのではということについて)今はそれほど心配する必要はありません」(石井さん)さらに、石井さんが強調するのは、ワクチン接種は自分を守るためだけではないということです。「ワクチンを打てば、自分自身はかなりの確率で感染や重症化のリスクを減らすことができます。そして、重要なのは、自分だけではなく家族や身近な人を守れるということがワクチンの大きな利益だということです。ワクチンを打つか打たないか、ご自身でよく考えて判断していただきたいと思いますが、このことがその判断の助けになるのではないかと思います」(石井さん)mRNAワクチン実用化までの長い道のり新型コロナウイルスの流行を受けて短期間で実用化されたmRNAワクチンですが、その研究の歴史は長く、1980年代にはmRNAを医薬品に使おうという研究がすでに始まっていました。そして、mRNAをワクチンとして使うためのブレークスルーを成し遂げたのが、ビオンテック社のカタリン・カリコ博士と米ペンシルベニア大学教授のドリュー・ワイスマン博士です。この発見によってノーベル賞の有力な候補に挙げられています。1980年代に考えられていたのは、「mRNAを人工的に作って細胞の中に運べば、薬などに利用できるタンパク質を作ることができる」ということでした。しかし、実際にmRNAを細胞に与えると、拒絶反応として激しい炎症が起き、細胞が死んでしまうことも分かっていました。多くの研究者はこのままでは薬として使うことは無理だと思っていたのです。その常識を覆して、拒絶反応を起こさない方法を見つけ出したのがカリコ博士とワイスマン博士でした。mRNAを構成する物質の1つ「ウリジン」を、「化学修飾」といわれる化学構造の飾りが付いたものに変えて細胞に与えると炎症が起きないことを発見したのです。2005年のことでした。これによってmRNAを人の体に投与するめどが立ちました。「ウリジン」(左)と「化学修飾されたウリジン」(右)/NHK提供拡大画像表示 この発表は世界中の研究者に大きなインパクトを与えましたが、当時、mRNAは非常に不安定で壊れやすいことに加え、人工的に作るのにお金がかかることもあり、ワクチンに使えると想像した人はほとんどいませんでした。しかし、カリコ博士たちは、この壊れやすい特徴が体の中に残らないという薬としての利点になると考え、さらに研究を続けます。そして2008年、炎症を抑えるだけでなくタンパク質を大量に作る方法を見つけたのです。「実験結果が出たとき、これまで夢みていた治療法、ワクチンやタンパク質治療薬、遺伝子治療などの可能性が開かれたと感じました」(ワイスマン博士)その後、カリコ博士はドイツの製薬ベンチャーのビオンテック社に迎えられ、この技術を使ってインフルエンザ用の新ワクチンやがんに対するワクチンの研究を進めていたところ、新型コロナウイルスのパンデミックが起きたのです。ビオンテック社でカリコ博士(右)たちがmRNAワクチンの開発を続けた/画像提供:BioNTechビオンテック社は新型コロナウイルスの遺伝情報が公開されるとすぐにmRNAワクチンの開発に着手。アメリカの大手製薬会社ファイザー社と提携し、大規模な臨床試験を行うとともに、ワクチンの大量生産を開始しました。こうしてわずか1年足らずで新型コロナウイルス用のmRNAワクチンが世界に向けて供給されるようになったのです。「学術界も小さなバイオテクノロジー企業も大企業もそれぞれがベストを尽くしました。今回はそれぞれが協力し合うことで、短期間でのワクチン開発が実現できたのです」(カリコ博士)国産のmRNAワクチンも実用化に向けて進んでいる新型コロナウイルスとの闘いが続くなか、日本でもさまざまなタイプのワクチンの開発が進められています。石井さんが製薬企業とともに行う「国産のmRNAワクチン」の開発は、来年末の実用化を目指して臨床試験が進められています。石井さんは国産ワクチン開発の意義をこのように訴えます。国産mRNAワクチンの開発が進む/NHK提供 「すでに海外のワクチンが入ってきていて必要ないじゃないかという方もいらっしゃると思います。ただ、次のパンデミックが起きたとき、ワクチンが足りないとなっても輸入できる保証はありません。自国の人を守るという意味では、国産のワクチンが必要です。また、新型コロナのワクチンを今後も定期的に打たなくてはならなくなった場合、国産のワクチンがあるというのは、安心なのではないでしょうか」(石井さん)さらに、石井さんはmRNAの技術はさまざまな分野に応用できると考えています。「mRNAで作れるものはたくさんあって、ワクチンと呼ばれているものにどんどん応用されていくと思います。特に、がんワクチンは応用される時期が早いと思います。それ以外の感染症のワクチン、例えばインフルエンザのワクチンでは臨床試験が進んでいますが、いずれmRNAに取って代わられるのではないかといわれています」(石井さん)20年以上の研究の積み重ねによって人類が手にすることができたmRNAワクチン。新型コロナ収束につなげるために、その効果と安全性を一人一人が正しく理解することが、求められています。
mRNAの情報をもとにリボソームがタンパク質を作る/NHK提供拡大画像表示「mRNAワクチン」に入っているのは、ヒトのmRNAではなく、新型コロナウイルスのタンパク質の情報の一部に基づいて人工的に合成したmRNAです。ウイルスのどの部分の情報かというと、ヒトの細胞に侵入するときに必要なウイルスの表面の「突起」。この情報をもったmRNAを脂の膜で包んだものが新型コロナウイルスのmRNAワクチンなのです。突起のタンパク質の情報がウイルスの遺伝子の一部に入っている/NHK提供ワクチンが体の中に入ると、タンパク質の設計図であるmRNAが細胞の中のリボソームにくっつくことで、ウイルスの突起がたくさん作られます。そうして出来たウイルスの突起を細胞の外で待ち受けているのが、異物をやっつけるために働くさまざまな「免疫細胞」です。ワクチン接種で活性化する免疫細胞のイメージ/NHK提供拡大画像表示 免疫細胞の一種である「B細胞」は、突起にくっつく「抗体」を作り出します。「樹状細胞」はウイルスの突起を取り込み、突起の情報を「キラーT細胞」や「ヘルパーT細胞」に渡します。情報を受け取った「キラーT細胞」はこの突起が入り込んだ細胞を攻撃して殺すようになります。一方の「ヘルパーT細胞」は指令を出して、B細胞やキラーT細胞を活性化させるのです。免疫細胞の準備ができたところに本物のウイルスがやってくると、B細胞が作っておいた抗体がウイルスの突起にくっつきます。すると、ウイルスは細胞の中に入れなくなります。万が一、ウイルスが細胞に侵入しても、キラーT細胞が感染した細胞を素早く排除します。mRNAワクチン研究の第一人者で、ワクチン開発にも携わっている東京大学医科学研究所の石井健教授は、ワクチンの効果の高さの理由をこう説明します。「mRNAを体に入れて設計図通りにウイルスのタンパク質を作らせることで、ウイルスに対する免疫と同じものが全部作れるのです。抗体だけではなく、ヘルパーT細胞やキラーT細胞という、ウイルスをやっつける細胞を非常に強く誘導できることが大きいと考えています」(石井さん)mRNAワクチン研究の第一人者、石井健教授/NHK提供例えばインフルエンザで使われる「不活化ワクチン」の場合、ウイルスの抗原を体に入れるだけで、この2つのT細胞の働きは強く誘導できません。そのため、ワクチンの有効率も30~60%とされています。mRNAワクチンの効果の高さはこのT細胞の働きにあると考えられるのです。「副反応」は体の免疫反応で起きているワクチンに対して多くの人が持つ不安が、副反応や長期的な影響などその安全性についてです。mRNAワクチンが体の中でどう働くのかを知っておくことが、ワクチンの正しい理解につながります。副反応として起きる「接種部の痛み」「発熱」や「だるさ」「頭痛」などは、ワクチンが感染の“まね”をさせることで体に起こす免疫反応だと石井さんはいいます。「まさにウイルス感染と近いことが起きていて、mRNAワクチンが入ったときに起こる免疫反応が、打ったところの腫れや痛みです。その後、全身にその免疫反応を起こします。ウイルスに感染したら熱が出ますが、それと同じような反応だと思ってください。ただ、ワクチンの場合は免疫反応を起こすだけ、つまり“まね”をするだけで、病気は起こしません」(石井さん)mRNAワクチンの場合では、この免疫反応がB細胞だけではなくヘルパーT細胞やキラーT細胞でも起きるために、強い副反応が出ると石井さんは考えています。キラーT細胞(イメージ)/NHK提供 「mRNAワクチンを接種するとヘルパーT細胞やキラーT細胞がしっかり誘導されるので、本当にウイルスに感染したときの反応のように、痛かったり腫れたり、発熱がよく起きます。一方、T細胞を強く誘導しないインフルエンザワクチンではこうした副反応がほとんど起きません」(石井さん)ほかの副反応も基本的にはワクチンに入っている物質が問題となって起きるのではなく、ウイルス感染の“まね”をして起きた炎症反応が原因と考えられると石井さんは話します。「不安の声が上がっている若い男性に起きる『心筋炎』ですが、ワクチン接種後に起きる頻度は、100万回接種に約10例程度と非常にまれです。ワクチンによって心筋炎が起きたのかどうかについても検討が続いているところです。ただ、理論的に体の中で炎症は起きていますので、心筋に炎症が起きて病気になるということは100%否定できない状況です。もともと心筋炎のリスクがある方やワクチンを打った後に心臓が痛くなったなどの場合は気を付けたほうがいいと考えています」(石井さん)さらに、長期的な影響を心配する声に対しては、石井さんはこのような説明をします。「mRNAワクチンを多くの人に打ち始めて半年しか経っていませんので、長期にわたって起こる副反応はまだ予測できない状況です。ただ、動物実験などを含めて、遺伝子が体の中に入ってしまうとか、それが原因でガンになってしまうという論文はありませんので、それほど心配する必要はないのではないかというのが、多くの研究者の意見です」(石井さん)ワクチンのmRNAが自分の体のDNAに組み込まれてしまい遺伝情報が書き換わってしまうのではないかという不安の声もありますが、その心配は要らないと石井さんはいいます。「私たちの体の中にはいろんなウイルスがいて、ものすごい数のウイルスのRNAとやりとりをしています。ただ、ウイルスが私たちの細胞の中のDNAを書き換えるということが起こらないような免疫システムが進化上できています。だから、遺伝子が書き換わることはないと考えていいのです」(石井さん) そもそもmRNAは不安定で、私たちの体の中に入っても長期間残るわけではありません。石井さんによると、mRNAは数日から1週間程度で分解されるため、長く体に残って悪影響を及ぼすことはまずあり得ないとのことです。変異株に対しても“重症化”を防ぐ効果はあるデルタ株などが猛威を振るうなか、ワクチンの変異株に対する効果についてどう考えればいいのでしょうか。イスラエルのデータによると、ファイザー製のワクチンを2回接種した場合、デルタ株に対する感染予防や発症予防の効果は64%に下がっていますが、入院・死亡の予防効果は93%とそれほど変わっていません。このデータから、変異株であっても重症化を防ぐ効果がワクチンにあることが読み取れます。デルタ株に対する効果/出典:アメリカCDCの資料拡大画像表示 変異株に対しても効果を維持している理由は、mRNAワクチンがヘルパーT細胞とキラーT細胞という2種類のT細胞を強く誘導するからだと石井さんは考えています。「ウイルスをやっつけるT細胞を非常に強く誘導していますので、ウイルスが変異して抗体が少し認識できなくなったとしても、免疫反応は十分だと考えています。ワクチンを打った方がデルタ株で重症化するということは、低い確率だと言われていますので、(デルタ株に効果がないのではということについて)今はそれほど心配する必要はありません」(石井さん)さらに、石井さんが強調するのは、ワクチン接種は自分を守るためだけではないということです。「ワクチンを打てば、自分自身はかなりの確率で感染や重症化のリスクを減らすことができます。そして、重要なのは、自分だけではなく家族や身近な人を守れるということがワクチンの大きな利益だということです。ワクチンを打つか打たないか、ご自身でよく考えて判断していただきたいと思いますが、このことがその判断の助けになるのではないかと思います」(石井さん)mRNAワクチン実用化までの長い道のり新型コロナウイルスの流行を受けて短期間で実用化されたmRNAワクチンですが、その研究の歴史は長く、1980年代にはmRNAを医薬品に使おうという研究がすでに始まっていました。そして、mRNAをワクチンとして使うためのブレークスルーを成し遂げたのが、ビオンテック社のカタリン・カリコ博士と米ペンシルベニア大学教授のドリュー・ワイスマン博士です。この発見によってノーベル賞の有力な候補に挙げられています。1980年代に考えられていたのは、「mRNAを人工的に作って細胞の中に運べば、薬などに利用できるタンパク質を作ることができる」ということでした。しかし、実際にmRNAを細胞に与えると、拒絶反応として激しい炎症が起き、細胞が死んでしまうことも分かっていました。多くの研究者はこのままでは薬として使うことは無理だと思っていたのです。その常識を覆して、拒絶反応を起こさない方法を見つけ出したのがカリコ博士とワイスマン博士でした。mRNAを構成する物質の1つ「ウリジン」を、「化学修飾」といわれる化学構造の飾りが付いたものに変えて細胞に与えると炎症が起きないことを発見したのです。2005年のことでした。これによってmRNAを人の体に投与するめどが立ちました。「ウリジン」(左)と「化学修飾されたウリジン」(右)/NHK提供拡大画像表示 この発表は世界中の研究者に大きなインパクトを与えましたが、当時、mRNAは非常に不安定で壊れやすいことに加え、人工的に作るのにお金がかかることもあり、ワクチンに使えると想像した人はほとんどいませんでした。しかし、カリコ博士たちは、この壊れやすい特徴が体の中に残らないという薬としての利点になると考え、さらに研究を続けます。そして2008年、炎症を抑えるだけでなくタンパク質を大量に作る方法を見つけたのです。「実験結果が出たとき、これまで夢みていた治療法、ワクチンやタンパク質治療薬、遺伝子治療などの可能性が開かれたと感じました」(ワイスマン博士)その後、カリコ博士はドイツの製薬ベンチャーのビオンテック社に迎えられ、この技術を使ってインフルエンザ用の新ワクチンやがんに対するワクチンの研究を進めていたところ、新型コロナウイルスのパンデミックが起きたのです。ビオンテック社でカリコ博士(右)たちがmRNAワクチンの開発を続けた/画像提供:BioNTechビオンテック社は新型コロナウイルスの遺伝情報が公開されるとすぐにmRNAワクチンの開発に着手。アメリカの大手製薬会社ファイザー社と提携し、大規模な臨床試験を行うとともに、ワクチンの大量生産を開始しました。こうしてわずか1年足らずで新型コロナウイルス用のmRNAワクチンが世界に向けて供給されるようになったのです。「学術界も小さなバイオテクノロジー企業も大企業もそれぞれがベストを尽くしました。今回はそれぞれが協力し合うことで、短期間でのワクチン開発が実現できたのです」(カリコ博士)国産のmRNAワクチンも実用化に向けて進んでいる新型コロナウイルスとの闘いが続くなか、日本でもさまざまなタイプのワクチンの開発が進められています。石井さんが製薬企業とともに行う「国産のmRNAワクチン」の開発は、来年末の実用化を目指して臨床試験が進められています。石井さんは国産ワクチン開発の意義をこのように訴えます。国産mRNAワクチンの開発が進む/NHK提供 「すでに海外のワクチンが入ってきていて必要ないじゃないかという方もいらっしゃると思います。ただ、次のパンデミックが起きたとき、ワクチンが足りないとなっても輸入できる保証はありません。自国の人を守るという意味では、国産のワクチンが必要です。また、新型コロナのワクチンを今後も定期的に打たなくてはならなくなった場合、国産のワクチンがあるというのは、安心なのではないでしょうか」(石井さん)さらに、石井さんはmRNAの技術はさまざまな分野に応用できると考えています。「mRNAで作れるものはたくさんあって、ワクチンと呼ばれているものにどんどん応用されていくと思います。特に、がんワクチンは応用される時期が早いと思います。それ以外の感染症のワクチン、例えばインフルエンザのワクチンでは臨床試験が進んでいますが、いずれmRNAに取って代わられるのではないかといわれています」(石井さん)20年以上の研究の積み重ねによって人類が手にすることができたmRNAワクチン。新型コロナ収束につなげるために、その効果と安全性を一人一人が正しく理解することが、求められています。
「mRNAワクチン」に入っているのは、ヒトのmRNAではなく、新型コロナウイルスのタンパク質の情報の一部に基づいて人工的に合成したmRNAです。ウイルスのどの部分の情報かというと、ヒトの細胞に侵入するときに必要なウイルスの表面の「突起」。この情報をもったmRNAを脂の膜で包んだものが新型コロナウイルスのmRNAワクチンなのです。突起のタンパク質の情報がウイルスの遺伝子の一部に入っている/NHK提供ワクチンが体の中に入ると、タンパク質の設計図であるmRNAが細胞の中のリボソームにくっつくことで、ウイルスの突起がたくさん作られます。そうして出来たウイルスの突起を細胞の外で待ち受けているのが、異物をやっつけるために働くさまざまな「免疫細胞」です。ワクチン接種で活性化する免疫細胞のイメージ/NHK提供拡大画像表示 免疫細胞の一種である「B細胞」は、突起にくっつく「抗体」を作り出します。「樹状細胞」はウイルスの突起を取り込み、突起の情報を「キラーT細胞」や「ヘルパーT細胞」に渡します。情報を受け取った「キラーT細胞」はこの突起が入り込んだ細胞を攻撃して殺すようになります。一方の「ヘルパーT細胞」は指令を出して、B細胞やキラーT細胞を活性化させるのです。免疫細胞の準備ができたところに本物のウイルスがやってくると、B細胞が作っておいた抗体がウイルスの突起にくっつきます。すると、ウイルスは細胞の中に入れなくなります。万が一、ウイルスが細胞に侵入しても、キラーT細胞が感染した細胞を素早く排除します。mRNAワクチン研究の第一人者で、ワクチン開発にも携わっている東京大学医科学研究所の石井健教授は、ワクチンの効果の高さの理由をこう説明します。「mRNAを体に入れて設計図通りにウイルスのタンパク質を作らせることで、ウイルスに対する免疫と同じものが全部作れるのです。抗体だけではなく、ヘルパーT細胞やキラーT細胞という、ウイルスをやっつける細胞を非常に強く誘導できることが大きいと考えています」(石井さん)mRNAワクチン研究の第一人者、石井健教授/NHK提供例えばインフルエンザで使われる「不活化ワクチン」の場合、ウイルスの抗原を体に入れるだけで、この2つのT細胞の働きは強く誘導できません。そのため、ワクチンの有効率も30~60%とされています。mRNAワクチンの効果の高さはこのT細胞の働きにあると考えられるのです。「副反応」は体の免疫反応で起きているワクチンに対して多くの人が持つ不安が、副反応や長期的な影響などその安全性についてです。mRNAワクチンが体の中でどう働くのかを知っておくことが、ワクチンの正しい理解につながります。副反応として起きる「接種部の痛み」「発熱」や「だるさ」「頭痛」などは、ワクチンが感染の“まね”をさせることで体に起こす免疫反応だと石井さんはいいます。「まさにウイルス感染と近いことが起きていて、mRNAワクチンが入ったときに起こる免疫反応が、打ったところの腫れや痛みです。その後、全身にその免疫反応を起こします。ウイルスに感染したら熱が出ますが、それと同じような反応だと思ってください。ただ、ワクチンの場合は免疫反応を起こすだけ、つまり“まね”をするだけで、病気は起こしません」(石井さん)mRNAワクチンの場合では、この免疫反応がB細胞だけではなくヘルパーT細胞やキラーT細胞でも起きるために、強い副反応が出ると石井さんは考えています。キラーT細胞(イメージ)/NHK提供 「mRNAワクチンを接種するとヘルパーT細胞やキラーT細胞がしっかり誘導されるので、本当にウイルスに感染したときの反応のように、痛かったり腫れたり、発熱がよく起きます。一方、T細胞を強く誘導しないインフルエンザワクチンではこうした副反応がほとんど起きません」(石井さん)ほかの副反応も基本的にはワクチンに入っている物質が問題となって起きるのではなく、ウイルス感染の“まね”をして起きた炎症反応が原因と考えられると石井さんは話します。「不安の声が上がっている若い男性に起きる『心筋炎』ですが、ワクチン接種後に起きる頻度は、100万回接種に約10例程度と非常にまれです。ワクチンによって心筋炎が起きたのかどうかについても検討が続いているところです。ただ、理論的に体の中で炎症は起きていますので、心筋に炎症が起きて病気になるということは100%否定できない状況です。もともと心筋炎のリスクがある方やワクチンを打った後に心臓が痛くなったなどの場合は気を付けたほうがいいと考えています」(石井さん)さらに、長期的な影響を心配する声に対しては、石井さんはこのような説明をします。「mRNAワクチンを多くの人に打ち始めて半年しか経っていませんので、長期にわたって起こる副反応はまだ予測できない状況です。ただ、動物実験などを含めて、遺伝子が体の中に入ってしまうとか、それが原因でガンになってしまうという論文はありませんので、それほど心配する必要はないのではないかというのが、多くの研究者の意見です」(石井さん)ワクチンのmRNAが自分の体のDNAに組み込まれてしまい遺伝情報が書き換わってしまうのではないかという不安の声もありますが、その心配は要らないと石井さんはいいます。「私たちの体の中にはいろんなウイルスがいて、ものすごい数のウイルスのRNAとやりとりをしています。ただ、ウイルスが私たちの細胞の中のDNAを書き換えるということが起こらないような免疫システムが進化上できています。だから、遺伝子が書き換わることはないと考えていいのです」(石井さん) そもそもmRNAは不安定で、私たちの体の中に入っても長期間残るわけではありません。石井さんによると、mRNAは数日から1週間程度で分解されるため、長く体に残って悪影響を及ぼすことはまずあり得ないとのことです。変異株に対しても“重症化”を防ぐ効果はあるデルタ株などが猛威を振るうなか、ワクチンの変異株に対する効果についてどう考えればいいのでしょうか。イスラエルのデータによると、ファイザー製のワクチンを2回接種した場合、デルタ株に対する感染予防や発症予防の効果は64%に下がっていますが、入院・死亡の予防効果は93%とそれほど変わっていません。このデータから、変異株であっても重症化を防ぐ効果がワクチンにあることが読み取れます。デルタ株に対する効果/出典:アメリカCDCの資料拡大画像表示 変異株に対しても効果を維持している理由は、mRNAワクチンがヘルパーT細胞とキラーT細胞という2種類のT細胞を強く誘導するからだと石井さんは考えています。「ウイルスをやっつけるT細胞を非常に強く誘導していますので、ウイルスが変異して抗体が少し認識できなくなったとしても、免疫反応は十分だと考えています。ワクチンを打った方がデルタ株で重症化するということは、低い確率だと言われていますので、(デルタ株に効果がないのではということについて)今はそれほど心配する必要はありません」(石井さん)さらに、石井さんが強調するのは、ワクチン接種は自分を守るためだけではないということです。「ワクチンを打てば、自分自身はかなりの確率で感染や重症化のリスクを減らすことができます。そして、重要なのは、自分だけではなく家族や身近な人を守れるということがワクチンの大きな利益だということです。ワクチンを打つか打たないか、ご自身でよく考えて判断していただきたいと思いますが、このことがその判断の助けになるのではないかと思います」(石井さん)mRNAワクチン実用化までの長い道のり新型コロナウイルスの流行を受けて短期間で実用化されたmRNAワクチンですが、その研究の歴史は長く、1980年代にはmRNAを医薬品に使おうという研究がすでに始まっていました。そして、mRNAをワクチンとして使うためのブレークスルーを成し遂げたのが、ビオンテック社のカタリン・カリコ博士と米ペンシルベニア大学教授のドリュー・ワイスマン博士です。この発見によってノーベル賞の有力な候補に挙げられています。1980年代に考えられていたのは、「mRNAを人工的に作って細胞の中に運べば、薬などに利用できるタンパク質を作ることができる」ということでした。しかし、実際にmRNAを細胞に与えると、拒絶反応として激しい炎症が起き、細胞が死んでしまうことも分かっていました。多くの研究者はこのままでは薬として使うことは無理だと思っていたのです。その常識を覆して、拒絶反応を起こさない方法を見つけ出したのがカリコ博士とワイスマン博士でした。mRNAを構成する物質の1つ「ウリジン」を、「化学修飾」といわれる化学構造の飾りが付いたものに変えて細胞に与えると炎症が起きないことを発見したのです。2005年のことでした。これによってmRNAを人の体に投与するめどが立ちました。「ウリジン」(左)と「化学修飾されたウリジン」(右)/NHK提供拡大画像表示 この発表は世界中の研究者に大きなインパクトを与えましたが、当時、mRNAは非常に不安定で壊れやすいことに加え、人工的に作るのにお金がかかることもあり、ワクチンに使えると想像した人はほとんどいませんでした。しかし、カリコ博士たちは、この壊れやすい特徴が体の中に残らないという薬としての利点になると考え、さらに研究を続けます。そして2008年、炎症を抑えるだけでなくタンパク質を大量に作る方法を見つけたのです。「実験結果が出たとき、これまで夢みていた治療法、ワクチンやタンパク質治療薬、遺伝子治療などの可能性が開かれたと感じました」(ワイスマン博士)その後、カリコ博士はドイツの製薬ベンチャーのビオンテック社に迎えられ、この技術を使ってインフルエンザ用の新ワクチンやがんに対するワクチンの研究を進めていたところ、新型コロナウイルスのパンデミックが起きたのです。ビオンテック社でカリコ博士(右)たちがmRNAワクチンの開発を続けた/画像提供:BioNTechビオンテック社は新型コロナウイルスの遺伝情報が公開されるとすぐにmRNAワクチンの開発に着手。アメリカの大手製薬会社ファイザー社と提携し、大規模な臨床試験を行うとともに、ワクチンの大量生産を開始しました。こうしてわずか1年足らずで新型コロナウイルス用のmRNAワクチンが世界に向けて供給されるようになったのです。「学術界も小さなバイオテクノロジー企業も大企業もそれぞれがベストを尽くしました。今回はそれぞれが協力し合うことで、短期間でのワクチン開発が実現できたのです」(カリコ博士)国産のmRNAワクチンも実用化に向けて進んでいる新型コロナウイルスとの闘いが続くなか、日本でもさまざまなタイプのワクチンの開発が進められています。石井さんが製薬企業とともに行う「国産のmRNAワクチン」の開発は、来年末の実用化を目指して臨床試験が進められています。石井さんは国産ワクチン開発の意義をこのように訴えます。国産mRNAワクチンの開発が進む/NHK提供 「すでに海外のワクチンが入ってきていて必要ないじゃないかという方もいらっしゃると思います。ただ、次のパンデミックが起きたとき、ワクチンが足りないとなっても輸入できる保証はありません。自国の人を守るという意味では、国産のワクチンが必要です。また、新型コロナのワクチンを今後も定期的に打たなくてはならなくなった場合、国産のワクチンがあるというのは、安心なのではないでしょうか」(石井さん)さらに、石井さんはmRNAの技術はさまざまな分野に応用できると考えています。「mRNAで作れるものはたくさんあって、ワクチンと呼ばれているものにどんどん応用されていくと思います。特に、がんワクチンは応用される時期が早いと思います。それ以外の感染症のワクチン、例えばインフルエンザのワクチンでは臨床試験が進んでいますが、いずれmRNAに取って代わられるのではないかといわれています」(石井さん)20年以上の研究の積み重ねによって人類が手にすることができたmRNAワクチン。新型コロナ収束につなげるために、その効果と安全性を一人一人が正しく理解することが、求められています。
ウイルスのどの部分の情報かというと、ヒトの細胞に侵入するときに必要なウイルスの表面の「突起」。この情報をもったmRNAを脂の膜で包んだものが新型コロナウイルスのmRNAワクチンなのです。突起のタンパク質の情報がウイルスの遺伝子の一部に入っている/NHK提供ワクチンが体の中に入ると、タンパク質の設計図であるmRNAが細胞の中のリボソームにくっつくことで、ウイルスの突起がたくさん作られます。そうして出来たウイルスの突起を細胞の外で待ち受けているのが、異物をやっつけるために働くさまざまな「免疫細胞」です。ワクチン接種で活性化する免疫細胞のイメージ/NHK提供拡大画像表示 免疫細胞の一種である「B細胞」は、突起にくっつく「抗体」を作り出します。「樹状細胞」はウイルスの突起を取り込み、突起の情報を「キラーT細胞」や「ヘルパーT細胞」に渡します。情報を受け取った「キラーT細胞」はこの突起が入り込んだ細胞を攻撃して殺すようになります。一方の「ヘルパーT細胞」は指令を出して、B細胞やキラーT細胞を活性化させるのです。免疫細胞の準備ができたところに本物のウイルスがやってくると、B細胞が作っておいた抗体がウイルスの突起にくっつきます。すると、ウイルスは細胞の中に入れなくなります。万が一、ウイルスが細胞に侵入しても、キラーT細胞が感染した細胞を素早く排除します。mRNAワクチン研究の第一人者で、ワクチン開発にも携わっている東京大学医科学研究所の石井健教授は、ワクチンの効果の高さの理由をこう説明します。「mRNAを体に入れて設計図通りにウイルスのタンパク質を作らせることで、ウイルスに対する免疫と同じものが全部作れるのです。抗体だけではなく、ヘルパーT細胞やキラーT細胞という、ウイルスをやっつける細胞を非常に強く誘導できることが大きいと考えています」(石井さん)mRNAワクチン研究の第一人者、石井健教授/NHK提供例えばインフルエンザで使われる「不活化ワクチン」の場合、ウイルスの抗原を体に入れるだけで、この2つのT細胞の働きは強く誘導できません。そのため、ワクチンの有効率も30~60%とされています。mRNAワクチンの効果の高さはこのT細胞の働きにあると考えられるのです。「副反応」は体の免疫反応で起きているワクチンに対して多くの人が持つ不安が、副反応や長期的な影響などその安全性についてです。mRNAワクチンが体の中でどう働くのかを知っておくことが、ワクチンの正しい理解につながります。副反応として起きる「接種部の痛み」「発熱」や「だるさ」「頭痛」などは、ワクチンが感染の“まね”をさせることで体に起こす免疫反応だと石井さんはいいます。「まさにウイルス感染と近いことが起きていて、mRNAワクチンが入ったときに起こる免疫反応が、打ったところの腫れや痛みです。その後、全身にその免疫反応を起こします。ウイルスに感染したら熱が出ますが、それと同じような反応だと思ってください。ただ、ワクチンの場合は免疫反応を起こすだけ、つまり“まね”をするだけで、病気は起こしません」(石井さん)mRNAワクチンの場合では、この免疫反応がB細胞だけではなくヘルパーT細胞やキラーT細胞でも起きるために、強い副反応が出ると石井さんは考えています。キラーT細胞(イメージ)/NHK提供 「mRNAワクチンを接種するとヘルパーT細胞やキラーT細胞がしっかり誘導されるので、本当にウイルスに感染したときの反応のように、痛かったり腫れたり、発熱がよく起きます。一方、T細胞を強く誘導しないインフルエンザワクチンではこうした副反応がほとんど起きません」(石井さん)ほかの副反応も基本的にはワクチンに入っている物質が問題となって起きるのではなく、ウイルス感染の“まね”をして起きた炎症反応が原因と考えられると石井さんは話します。「不安の声が上がっている若い男性に起きる『心筋炎』ですが、ワクチン接種後に起きる頻度は、100万回接種に約10例程度と非常にまれです。ワクチンによって心筋炎が起きたのかどうかについても検討が続いているところです。ただ、理論的に体の中で炎症は起きていますので、心筋に炎症が起きて病気になるということは100%否定できない状況です。もともと心筋炎のリスクがある方やワクチンを打った後に心臓が痛くなったなどの場合は気を付けたほうがいいと考えています」(石井さん)さらに、長期的な影響を心配する声に対しては、石井さんはこのような説明をします。「mRNAワクチンを多くの人に打ち始めて半年しか経っていませんので、長期にわたって起こる副反応はまだ予測できない状況です。ただ、動物実験などを含めて、遺伝子が体の中に入ってしまうとか、それが原因でガンになってしまうという論文はありませんので、それほど心配する必要はないのではないかというのが、多くの研究者の意見です」(石井さん)ワクチンのmRNAが自分の体のDNAに組み込まれてしまい遺伝情報が書き換わってしまうのではないかという不安の声もありますが、その心配は要らないと石井さんはいいます。「私たちの体の中にはいろんなウイルスがいて、ものすごい数のウイルスのRNAとやりとりをしています。ただ、ウイルスが私たちの細胞の中のDNAを書き換えるということが起こらないような免疫システムが進化上できています。だから、遺伝子が書き換わることはないと考えていいのです」(石井さん) そもそもmRNAは不安定で、私たちの体の中に入っても長期間残るわけではありません。石井さんによると、mRNAは数日から1週間程度で分解されるため、長く体に残って悪影響を及ぼすことはまずあり得ないとのことです。変異株に対しても“重症化”を防ぐ効果はあるデルタ株などが猛威を振るうなか、ワクチンの変異株に対する効果についてどう考えればいいのでしょうか。イスラエルのデータによると、ファイザー製のワクチンを2回接種した場合、デルタ株に対する感染予防や発症予防の効果は64%に下がっていますが、入院・死亡の予防効果は93%とそれほど変わっていません。このデータから、変異株であっても重症化を防ぐ効果がワクチンにあることが読み取れます。デルタ株に対する効果/出典:アメリカCDCの資料拡大画像表示 変異株に対しても効果を維持している理由は、mRNAワクチンがヘルパーT細胞とキラーT細胞という2種類のT細胞を強く誘導するからだと石井さんは考えています。「ウイルスをやっつけるT細胞を非常に強く誘導していますので、ウイルスが変異して抗体が少し認識できなくなったとしても、免疫反応は十分だと考えています。ワクチンを打った方がデルタ株で重症化するということは、低い確率だと言われていますので、(デルタ株に効果がないのではということについて)今はそれほど心配する必要はありません」(石井さん)さらに、石井さんが強調するのは、ワクチン接種は自分を守るためだけではないということです。「ワクチンを打てば、自分自身はかなりの確率で感染や重症化のリスクを減らすことができます。そして、重要なのは、自分だけではなく家族や身近な人を守れるということがワクチンの大きな利益だということです。ワクチンを打つか打たないか、ご自身でよく考えて判断していただきたいと思いますが、このことがその判断の助けになるのではないかと思います」(石井さん)mRNAワクチン実用化までの長い道のり新型コロナウイルスの流行を受けて短期間で実用化されたmRNAワクチンですが、その研究の歴史は長く、1980年代にはmRNAを医薬品に使おうという研究がすでに始まっていました。そして、mRNAをワクチンとして使うためのブレークスルーを成し遂げたのが、ビオンテック社のカタリン・カリコ博士と米ペンシルベニア大学教授のドリュー・ワイスマン博士です。この発見によってノーベル賞の有力な候補に挙げられています。1980年代に考えられていたのは、「mRNAを人工的に作って細胞の中に運べば、薬などに利用できるタンパク質を作ることができる」ということでした。しかし、実際にmRNAを細胞に与えると、拒絶反応として激しい炎症が起き、細胞が死んでしまうことも分かっていました。多くの研究者はこのままでは薬として使うことは無理だと思っていたのです。その常識を覆して、拒絶反応を起こさない方法を見つけ出したのがカリコ博士とワイスマン博士でした。mRNAを構成する物質の1つ「ウリジン」を、「化学修飾」といわれる化学構造の飾りが付いたものに変えて細胞に与えると炎症が起きないことを発見したのです。2005年のことでした。これによってmRNAを人の体に投与するめどが立ちました。「ウリジン」(左)と「化学修飾されたウリジン」(右)/NHK提供拡大画像表示 この発表は世界中の研究者に大きなインパクトを与えましたが、当時、mRNAは非常に不安定で壊れやすいことに加え、人工的に作るのにお金がかかることもあり、ワクチンに使えると想像した人はほとんどいませんでした。しかし、カリコ博士たちは、この壊れやすい特徴が体の中に残らないという薬としての利点になると考え、さらに研究を続けます。そして2008年、炎症を抑えるだけでなくタンパク質を大量に作る方法を見つけたのです。「実験結果が出たとき、これまで夢みていた治療法、ワクチンやタンパク質治療薬、遺伝子治療などの可能性が開かれたと感じました」(ワイスマン博士)その後、カリコ博士はドイツの製薬ベンチャーのビオンテック社に迎えられ、この技術を使ってインフルエンザ用の新ワクチンやがんに対するワクチンの研究を進めていたところ、新型コロナウイルスのパンデミックが起きたのです。ビオンテック社でカリコ博士(右)たちがmRNAワクチンの開発を続けた/画像提供:BioNTechビオンテック社は新型コロナウイルスの遺伝情報が公開されるとすぐにmRNAワクチンの開発に着手。アメリカの大手製薬会社ファイザー社と提携し、大規模な臨床試験を行うとともに、ワクチンの大量生産を開始しました。こうしてわずか1年足らずで新型コロナウイルス用のmRNAワクチンが世界に向けて供給されるようになったのです。「学術界も小さなバイオテクノロジー企業も大企業もそれぞれがベストを尽くしました。今回はそれぞれが協力し合うことで、短期間でのワクチン開発が実現できたのです」(カリコ博士)国産のmRNAワクチンも実用化に向けて進んでいる新型コロナウイルスとの闘いが続くなか、日本でもさまざまなタイプのワクチンの開発が進められています。石井さんが製薬企業とともに行う「国産のmRNAワクチン」の開発は、来年末の実用化を目指して臨床試験が進められています。石井さんは国産ワクチン開発の意義をこのように訴えます。国産mRNAワクチンの開発が進む/NHK提供 「すでに海外のワクチンが入ってきていて必要ないじゃないかという方もいらっしゃると思います。ただ、次のパンデミックが起きたとき、ワクチンが足りないとなっても輸入できる保証はありません。自国の人を守るという意味では、国産のワクチンが必要です。また、新型コロナのワクチンを今後も定期的に打たなくてはならなくなった場合、国産のワクチンがあるというのは、安心なのではないでしょうか」(石井さん)さらに、石井さんはmRNAの技術はさまざまな分野に応用できると考えています。「mRNAで作れるものはたくさんあって、ワクチンと呼ばれているものにどんどん応用されていくと思います。特に、がんワクチンは応用される時期が早いと思います。それ以外の感染症のワクチン、例えばインフルエンザのワクチンでは臨床試験が進んでいますが、いずれmRNAに取って代わられるのではないかといわれています」(石井さん)20年以上の研究の積み重ねによって人類が手にすることができたmRNAワクチン。新型コロナ収束につなげるために、その効果と安全性を一人一人が正しく理解することが、求められています。
突起のタンパク質の情報がウイルスの遺伝子の一部に入っている/NHK提供ワクチンが体の中に入ると、タンパク質の設計図であるmRNAが細胞の中のリボソームにくっつくことで、ウイルスの突起がたくさん作られます。そうして出来たウイルスの突起を細胞の外で待ち受けているのが、異物をやっつけるために働くさまざまな「免疫細胞」です。ワクチン接種で活性化する免疫細胞のイメージ/NHK提供拡大画像表示 免疫細胞の一種である「B細胞」は、突起にくっつく「抗体」を作り出します。「樹状細胞」はウイルスの突起を取り込み、突起の情報を「キラーT細胞」や「ヘルパーT細胞」に渡します。情報を受け取った「キラーT細胞」はこの突起が入り込んだ細胞を攻撃して殺すようになります。一方の「ヘルパーT細胞」は指令を出して、B細胞やキラーT細胞を活性化させるのです。免疫細胞の準備ができたところに本物のウイルスがやってくると、B細胞が作っておいた抗体がウイルスの突起にくっつきます。すると、ウイルスは細胞の中に入れなくなります。万が一、ウイルスが細胞に侵入しても、キラーT細胞が感染した細胞を素早く排除します。mRNAワクチン研究の第一人者で、ワクチン開発にも携わっている東京大学医科学研究所の石井健教授は、ワクチンの効果の高さの理由をこう説明します。「mRNAを体に入れて設計図通りにウイルスのタンパク質を作らせることで、ウイルスに対する免疫と同じものが全部作れるのです。抗体だけではなく、ヘルパーT細胞やキラーT細胞という、ウイルスをやっつける細胞を非常に強く誘導できることが大きいと考えています」(石井さん)mRNAワクチン研究の第一人者、石井健教授/NHK提供例えばインフルエンザで使われる「不活化ワクチン」の場合、ウイルスの抗原を体に入れるだけで、この2つのT細胞の働きは強く誘導できません。そのため、ワクチンの有効率も30~60%とされています。mRNAワクチンの効果の高さはこのT細胞の働きにあると考えられるのです。「副反応」は体の免疫反応で起きているワクチンに対して多くの人が持つ不安が、副反応や長期的な影響などその安全性についてです。mRNAワクチンが体の中でどう働くのかを知っておくことが、ワクチンの正しい理解につながります。副反応として起きる「接種部の痛み」「発熱」や「だるさ」「頭痛」などは、ワクチンが感染の“まね”をさせることで体に起こす免疫反応だと石井さんはいいます。「まさにウイルス感染と近いことが起きていて、mRNAワクチンが入ったときに起こる免疫反応が、打ったところの腫れや痛みです。その後、全身にその免疫反応を起こします。ウイルスに感染したら熱が出ますが、それと同じような反応だと思ってください。ただ、ワクチンの場合は免疫反応を起こすだけ、つまり“まね”をするだけで、病気は起こしません」(石井さん)mRNAワクチンの場合では、この免疫反応がB細胞だけではなくヘルパーT細胞やキラーT細胞でも起きるために、強い副反応が出ると石井さんは考えています。キラーT細胞(イメージ)/NHK提供 「mRNAワクチンを接種するとヘルパーT細胞やキラーT細胞がしっかり誘導されるので、本当にウイルスに感染したときの反応のように、痛かったり腫れたり、発熱がよく起きます。一方、T細胞を強く誘導しないインフルエンザワクチンではこうした副反応がほとんど起きません」(石井さん)ほかの副反応も基本的にはワクチンに入っている物質が問題となって起きるのではなく、ウイルス感染の“まね”をして起きた炎症反応が原因と考えられると石井さんは話します。「不安の声が上がっている若い男性に起きる『心筋炎』ですが、ワクチン接種後に起きる頻度は、100万回接種に約10例程度と非常にまれです。ワクチンによって心筋炎が起きたのかどうかについても検討が続いているところです。ただ、理論的に体の中で炎症は起きていますので、心筋に炎症が起きて病気になるということは100%否定できない状況です。もともと心筋炎のリスクがある方やワクチンを打った後に心臓が痛くなったなどの場合は気を付けたほうがいいと考えています」(石井さん)さらに、長期的な影響を心配する声に対しては、石井さんはこのような説明をします。「mRNAワクチンを多くの人に打ち始めて半年しか経っていませんので、長期にわたって起こる副反応はまだ予測できない状況です。ただ、動物実験などを含めて、遺伝子が体の中に入ってしまうとか、それが原因でガンになってしまうという論文はありませんので、それほど心配する必要はないのではないかというのが、多くの研究者の意見です」(石井さん)ワクチンのmRNAが自分の体のDNAに組み込まれてしまい遺伝情報が書き換わってしまうのではないかという不安の声もありますが、その心配は要らないと石井さんはいいます。「私たちの体の中にはいろんなウイルスがいて、ものすごい数のウイルスのRNAとやりとりをしています。ただ、ウイルスが私たちの細胞の中のDNAを書き換えるということが起こらないような免疫システムが進化上できています。だから、遺伝子が書き換わることはないと考えていいのです」(石井さん) そもそもmRNAは不安定で、私たちの体の中に入っても長期間残るわけではありません。石井さんによると、mRNAは数日から1週間程度で分解されるため、長く体に残って悪影響を及ぼすことはまずあり得ないとのことです。変異株に対しても“重症化”を防ぐ効果はあるデルタ株などが猛威を振るうなか、ワクチンの変異株に対する効果についてどう考えればいいのでしょうか。イスラエルのデータによると、ファイザー製のワクチンを2回接種した場合、デルタ株に対する感染予防や発症予防の効果は64%に下がっていますが、入院・死亡の予防効果は93%とそれほど変わっていません。このデータから、変異株であっても重症化を防ぐ効果がワクチンにあることが読み取れます。デルタ株に対する効果/出典:アメリカCDCの資料拡大画像表示 変異株に対しても効果を維持している理由は、mRNAワクチンがヘルパーT細胞とキラーT細胞という2種類のT細胞を強く誘導するからだと石井さんは考えています。「ウイルスをやっつけるT細胞を非常に強く誘導していますので、ウイルスが変異して抗体が少し認識できなくなったとしても、免疫反応は十分だと考えています。ワクチンを打った方がデルタ株で重症化するということは、低い確率だと言われていますので、(デルタ株に効果がないのではということについて)今はそれほど心配する必要はありません」(石井さん)さらに、石井さんが強調するのは、ワクチン接種は自分を守るためだけではないということです。「ワクチンを打てば、自分自身はかなりの確率で感染や重症化のリスクを減らすことができます。そして、重要なのは、自分だけではなく家族や身近な人を守れるということがワクチンの大きな利益だということです。ワクチンを打つか打たないか、ご自身でよく考えて判断していただきたいと思いますが、このことがその判断の助けになるのではないかと思います」(石井さん)mRNAワクチン実用化までの長い道のり新型コロナウイルスの流行を受けて短期間で実用化されたmRNAワクチンですが、その研究の歴史は長く、1980年代にはmRNAを医薬品に使おうという研究がすでに始まっていました。そして、mRNAをワクチンとして使うためのブレークスルーを成し遂げたのが、ビオンテック社のカタリン・カリコ博士と米ペンシルベニア大学教授のドリュー・ワイスマン博士です。この発見によってノーベル賞の有力な候補に挙げられています。1980年代に考えられていたのは、「mRNAを人工的に作って細胞の中に運べば、薬などに利用できるタンパク質を作ることができる」ということでした。しかし、実際にmRNAを細胞に与えると、拒絶反応として激しい炎症が起き、細胞が死んでしまうことも分かっていました。多くの研究者はこのままでは薬として使うことは無理だと思っていたのです。その常識を覆して、拒絶反応を起こさない方法を見つけ出したのがカリコ博士とワイスマン博士でした。mRNAを構成する物質の1つ「ウリジン」を、「化学修飾」といわれる化学構造の飾りが付いたものに変えて細胞に与えると炎症が起きないことを発見したのです。2005年のことでした。これによってmRNAを人の体に投与するめどが立ちました。「ウリジン」(左)と「化学修飾されたウリジン」(右)/NHK提供拡大画像表示 この発表は世界中の研究者に大きなインパクトを与えましたが、当時、mRNAは非常に不安定で壊れやすいことに加え、人工的に作るのにお金がかかることもあり、ワクチンに使えると想像した人はほとんどいませんでした。しかし、カリコ博士たちは、この壊れやすい特徴が体の中に残らないという薬としての利点になると考え、さらに研究を続けます。そして2008年、炎症を抑えるだけでなくタンパク質を大量に作る方法を見つけたのです。「実験結果が出たとき、これまで夢みていた治療法、ワクチンやタンパク質治療薬、遺伝子治療などの可能性が開かれたと感じました」(ワイスマン博士)その後、カリコ博士はドイツの製薬ベンチャーのビオンテック社に迎えられ、この技術を使ってインフルエンザ用の新ワクチンやがんに対するワクチンの研究を進めていたところ、新型コロナウイルスのパンデミックが起きたのです。ビオンテック社でカリコ博士(右)たちがmRNAワクチンの開発を続けた/画像提供:BioNTechビオンテック社は新型コロナウイルスの遺伝情報が公開されるとすぐにmRNAワクチンの開発に着手。アメリカの大手製薬会社ファイザー社と提携し、大規模な臨床試験を行うとともに、ワクチンの大量生産を開始しました。こうしてわずか1年足らずで新型コロナウイルス用のmRNAワクチンが世界に向けて供給されるようになったのです。「学術界も小さなバイオテクノロジー企業も大企業もそれぞれがベストを尽くしました。今回はそれぞれが協力し合うことで、短期間でのワクチン開発が実現できたのです」(カリコ博士)国産のmRNAワクチンも実用化に向けて進んでいる新型コロナウイルスとの闘いが続くなか、日本でもさまざまなタイプのワクチンの開発が進められています。石井さんが製薬企業とともに行う「国産のmRNAワクチン」の開発は、来年末の実用化を目指して臨床試験が進められています。石井さんは国産ワクチン開発の意義をこのように訴えます。国産mRNAワクチンの開発が進む/NHK提供 「すでに海外のワクチンが入ってきていて必要ないじゃないかという方もいらっしゃると思います。ただ、次のパンデミックが起きたとき、ワクチンが足りないとなっても輸入できる保証はありません。自国の人を守るという意味では、国産のワクチンが必要です。また、新型コロナのワクチンを今後も定期的に打たなくてはならなくなった場合、国産のワクチンがあるというのは、安心なのではないでしょうか」(石井さん)さらに、石井さんはmRNAの技術はさまざまな分野に応用できると考えています。「mRNAで作れるものはたくさんあって、ワクチンと呼ばれているものにどんどん応用されていくと思います。特に、がんワクチンは応用される時期が早いと思います。それ以外の感染症のワクチン、例えばインフルエンザのワクチンでは臨床試験が進んでいますが、いずれmRNAに取って代わられるのではないかといわれています」(石井さん)20年以上の研究の積み重ねによって人類が手にすることができたmRNAワクチン。新型コロナ収束につなげるために、その効果と安全性を一人一人が正しく理解することが、求められています。
ワクチンが体の中に入ると、タンパク質の設計図であるmRNAが細胞の中のリボソームにくっつくことで、ウイルスの突起がたくさん作られます。そうして出来たウイルスの突起を細胞の外で待ち受けているのが、異物をやっつけるために働くさまざまな「免疫細胞」です。ワクチン接種で活性化する免疫細胞のイメージ/NHK提供拡大画像表示 免疫細胞の一種である「B細胞」は、突起にくっつく「抗体」を作り出します。「樹状細胞」はウイルスの突起を取り込み、突起の情報を「キラーT細胞」や「ヘルパーT細胞」に渡します。情報を受け取った「キラーT細胞」はこの突起が入り込んだ細胞を攻撃して殺すようになります。一方の「ヘルパーT細胞」は指令を出して、B細胞やキラーT細胞を活性化させるのです。免疫細胞の準備ができたところに本物のウイルスがやってくると、B細胞が作っておいた抗体がウイルスの突起にくっつきます。すると、ウイルスは細胞の中に入れなくなります。万が一、ウイルスが細胞に侵入しても、キラーT細胞が感染した細胞を素早く排除します。mRNAワクチン研究の第一人者で、ワクチン開発にも携わっている東京大学医科学研究所の石井健教授は、ワクチンの効果の高さの理由をこう説明します。「mRNAを体に入れて設計図通りにウイルスのタンパク質を作らせることで、ウイルスに対する免疫と同じものが全部作れるのです。抗体だけではなく、ヘルパーT細胞やキラーT細胞という、ウイルスをやっつける細胞を非常に強く誘導できることが大きいと考えています」(石井さん)mRNAワクチン研究の第一人者、石井健教授/NHK提供例えばインフルエンザで使われる「不活化ワクチン」の場合、ウイルスの抗原を体に入れるだけで、この2つのT細胞の働きは強く誘導できません。そのため、ワクチンの有効率も30~60%とされています。mRNAワクチンの効果の高さはこのT細胞の働きにあると考えられるのです。「副反応」は体の免疫反応で起きているワクチンに対して多くの人が持つ不安が、副反応や長期的な影響などその安全性についてです。mRNAワクチンが体の中でどう働くのかを知っておくことが、ワクチンの正しい理解につながります。副反応として起きる「接種部の痛み」「発熱」や「だるさ」「頭痛」などは、ワクチンが感染の“まね”をさせることで体に起こす免疫反応だと石井さんはいいます。「まさにウイルス感染と近いことが起きていて、mRNAワクチンが入ったときに起こる免疫反応が、打ったところの腫れや痛みです。その後、全身にその免疫反応を起こします。ウイルスに感染したら熱が出ますが、それと同じような反応だと思ってください。ただ、ワクチンの場合は免疫反応を起こすだけ、つまり“まね”をするだけで、病気は起こしません」(石井さん)mRNAワクチンの場合では、この免疫反応がB細胞だけではなくヘルパーT細胞やキラーT細胞でも起きるために、強い副反応が出ると石井さんは考えています。キラーT細胞(イメージ)/NHK提供 「mRNAワクチンを接種するとヘルパーT細胞やキラーT細胞がしっかり誘導されるので、本当にウイルスに感染したときの反応のように、痛かったり腫れたり、発熱がよく起きます。一方、T細胞を強く誘導しないインフルエンザワクチンではこうした副反応がほとんど起きません」(石井さん)ほかの副反応も基本的にはワクチンに入っている物質が問題となって起きるのではなく、ウイルス感染の“まね”をして起きた炎症反応が原因と考えられると石井さんは話します。「不安の声が上がっている若い男性に起きる『心筋炎』ですが、ワクチン接種後に起きる頻度は、100万回接種に約10例程度と非常にまれです。ワクチンによって心筋炎が起きたのかどうかについても検討が続いているところです。ただ、理論的に体の中で炎症は起きていますので、心筋に炎症が起きて病気になるということは100%否定できない状況です。もともと心筋炎のリスクがある方やワクチンを打った後に心臓が痛くなったなどの場合は気を付けたほうがいいと考えています」(石井さん)さらに、長期的な影響を心配する声に対しては、石井さんはこのような説明をします。「mRNAワクチンを多くの人に打ち始めて半年しか経っていませんので、長期にわたって起こる副反応はまだ予測できない状況です。ただ、動物実験などを含めて、遺伝子が体の中に入ってしまうとか、それが原因でガンになってしまうという論文はありませんので、それほど心配する必要はないのではないかというのが、多くの研究者の意見です」(石井さん)ワクチンのmRNAが自分の体のDNAに組み込まれてしまい遺伝情報が書き換わってしまうのではないかという不安の声もありますが、その心配は要らないと石井さんはいいます。「私たちの体の中にはいろんなウイルスがいて、ものすごい数のウイルスのRNAとやりとりをしています。ただ、ウイルスが私たちの細胞の中のDNAを書き換えるということが起こらないような免疫システムが進化上できています。だから、遺伝子が書き換わることはないと考えていいのです」(石井さん) そもそもmRNAは不安定で、私たちの体の中に入っても長期間残るわけではありません。石井さんによると、mRNAは数日から1週間程度で分解されるため、長く体に残って悪影響を及ぼすことはまずあり得ないとのことです。変異株に対しても“重症化”を防ぐ効果はあるデルタ株などが猛威を振るうなか、ワクチンの変異株に対する効果についてどう考えればいいのでしょうか。イスラエルのデータによると、ファイザー製のワクチンを2回接種した場合、デルタ株に対する感染予防や発症予防の効果は64%に下がっていますが、入院・死亡の予防効果は93%とそれほど変わっていません。このデータから、変異株であっても重症化を防ぐ効果がワクチンにあることが読み取れます。デルタ株に対する効果/出典:アメリカCDCの資料拡大画像表示 変異株に対しても効果を維持している理由は、mRNAワクチンがヘルパーT細胞とキラーT細胞という2種類のT細胞を強く誘導するからだと石井さんは考えています。「ウイルスをやっつけるT細胞を非常に強く誘導していますので、ウイルスが変異して抗体が少し認識できなくなったとしても、免疫反応は十分だと考えています。ワクチンを打った方がデルタ株で重症化するということは、低い確率だと言われていますので、(デルタ株に効果がないのではということについて)今はそれほど心配する必要はありません」(石井さん)さらに、石井さんが強調するのは、ワクチン接種は自分を守るためだけではないということです。「ワクチンを打てば、自分自身はかなりの確率で感染や重症化のリスクを減らすことができます。そして、重要なのは、自分だけではなく家族や身近な人を守れるということがワクチンの大きな利益だということです。ワクチンを打つか打たないか、ご自身でよく考えて判断していただきたいと思いますが、このことがその判断の助けになるのではないかと思います」(石井さん)mRNAワクチン実用化までの長い道のり新型コロナウイルスの流行を受けて短期間で実用化されたmRNAワクチンですが、その研究の歴史は長く、1980年代にはmRNAを医薬品に使おうという研究がすでに始まっていました。そして、mRNAをワクチンとして使うためのブレークスルーを成し遂げたのが、ビオンテック社のカタリン・カリコ博士と米ペンシルベニア大学教授のドリュー・ワイスマン博士です。この発見によってノーベル賞の有力な候補に挙げられています。1980年代に考えられていたのは、「mRNAを人工的に作って細胞の中に運べば、薬などに利用できるタンパク質を作ることができる」ということでした。しかし、実際にmRNAを細胞に与えると、拒絶反応として激しい炎症が起き、細胞が死んでしまうことも分かっていました。多くの研究者はこのままでは薬として使うことは無理だと思っていたのです。その常識を覆して、拒絶反応を起こさない方法を見つけ出したのがカリコ博士とワイスマン博士でした。mRNAを構成する物質の1つ「ウリジン」を、「化学修飾」といわれる化学構造の飾りが付いたものに変えて細胞に与えると炎症が起きないことを発見したのです。2005年のことでした。これによってmRNAを人の体に投与するめどが立ちました。「ウリジン」(左)と「化学修飾されたウリジン」(右)/NHK提供拡大画像表示 この発表は世界中の研究者に大きなインパクトを与えましたが、当時、mRNAは非常に不安定で壊れやすいことに加え、人工的に作るのにお金がかかることもあり、ワクチンに使えると想像した人はほとんどいませんでした。しかし、カリコ博士たちは、この壊れやすい特徴が体の中に残らないという薬としての利点になると考え、さらに研究を続けます。そして2008年、炎症を抑えるだけでなくタンパク質を大量に作る方法を見つけたのです。「実験結果が出たとき、これまで夢みていた治療法、ワクチンやタンパク質治療薬、遺伝子治療などの可能性が開かれたと感じました」(ワイスマン博士)その後、カリコ博士はドイツの製薬ベンチャーのビオンテック社に迎えられ、この技術を使ってインフルエンザ用の新ワクチンやがんに対するワクチンの研究を進めていたところ、新型コロナウイルスのパンデミックが起きたのです。ビオンテック社でカリコ博士(右)たちがmRNAワクチンの開発を続けた/画像提供:BioNTechビオンテック社は新型コロナウイルスの遺伝情報が公開されるとすぐにmRNAワクチンの開発に着手。アメリカの大手製薬会社ファイザー社と提携し、大規模な臨床試験を行うとともに、ワクチンの大量生産を開始しました。こうしてわずか1年足らずで新型コロナウイルス用のmRNAワクチンが世界に向けて供給されるようになったのです。「学術界も小さなバイオテクノロジー企業も大企業もそれぞれがベストを尽くしました。今回はそれぞれが協力し合うことで、短期間でのワクチン開発が実現できたのです」(カリコ博士)国産のmRNAワクチンも実用化に向けて進んでいる新型コロナウイルスとの闘いが続くなか、日本でもさまざまなタイプのワクチンの開発が進められています。石井さんが製薬企業とともに行う「国産のmRNAワクチン」の開発は、来年末の実用化を目指して臨床試験が進められています。石井さんは国産ワクチン開発の意義をこのように訴えます。国産mRNAワクチンの開発が進む/NHK提供 「すでに海外のワクチンが入ってきていて必要ないじゃないかという方もいらっしゃると思います。ただ、次のパンデミックが起きたとき、ワクチンが足りないとなっても輸入できる保証はありません。自国の人を守るという意味では、国産のワクチンが必要です。また、新型コロナのワクチンを今後も定期的に打たなくてはならなくなった場合、国産のワクチンがあるというのは、安心なのではないでしょうか」(石井さん)さらに、石井さんはmRNAの技術はさまざまな分野に応用できると考えています。「mRNAで作れるものはたくさんあって、ワクチンと呼ばれているものにどんどん応用されていくと思います。特に、がんワクチンは応用される時期が早いと思います。それ以外の感染症のワクチン、例えばインフルエンザのワクチンでは臨床試験が進んでいますが、いずれmRNAに取って代わられるのではないかといわれています」(石井さん)20年以上の研究の積み重ねによって人類が手にすることができたmRNAワクチン。新型コロナ収束につなげるために、その効果と安全性を一人一人が正しく理解することが、求められています。
ワクチン接種で活性化する免疫細胞のイメージ/NHK提供拡大画像表示 免疫細胞の一種である「B細胞」は、突起にくっつく「抗体」を作り出します。「樹状細胞」はウイルスの突起を取り込み、突起の情報を「キラーT細胞」や「ヘルパーT細胞」に渡します。情報を受け取った「キラーT細胞」はこの突起が入り込んだ細胞を攻撃して殺すようになります。一方の「ヘルパーT細胞」は指令を出して、B細胞やキラーT細胞を活性化させるのです。免疫細胞の準備ができたところに本物のウイルスがやってくると、B細胞が作っておいた抗体がウイルスの突起にくっつきます。すると、ウイルスは細胞の中に入れなくなります。万が一、ウイルスが細胞に侵入しても、キラーT細胞が感染した細胞を素早く排除します。mRNAワクチン研究の第一人者で、ワクチン開発にも携わっている東京大学医科学研究所の石井健教授は、ワクチンの効果の高さの理由をこう説明します。「mRNAを体に入れて設計図通りにウイルスのタンパク質を作らせることで、ウイルスに対する免疫と同じものが全部作れるのです。抗体だけではなく、ヘルパーT細胞やキラーT細胞という、ウイルスをやっつける細胞を非常に強く誘導できることが大きいと考えています」(石井さん)mRNAワクチン研究の第一人者、石井健教授/NHK提供例えばインフルエンザで使われる「不活化ワクチン」の場合、ウイルスの抗原を体に入れるだけで、この2つのT細胞の働きは強く誘導できません。そのため、ワクチンの有効率も30~60%とされています。mRNAワクチンの効果の高さはこのT細胞の働きにあると考えられるのです。「副反応」は体の免疫反応で起きているワクチンに対して多くの人が持つ不安が、副反応や長期的な影響などその安全性についてです。mRNAワクチンが体の中でどう働くのかを知っておくことが、ワクチンの正しい理解につながります。副反応として起きる「接種部の痛み」「発熱」や「だるさ」「頭痛」などは、ワクチンが感染の“まね”をさせることで体に起こす免疫反応だと石井さんはいいます。「まさにウイルス感染と近いことが起きていて、mRNAワクチンが入ったときに起こる免疫反応が、打ったところの腫れや痛みです。その後、全身にその免疫反応を起こします。ウイルスに感染したら熱が出ますが、それと同じような反応だと思ってください。ただ、ワクチンの場合は免疫反応を起こすだけ、つまり“まね”をするだけで、病気は起こしません」(石井さん)mRNAワクチンの場合では、この免疫反応がB細胞だけではなくヘルパーT細胞やキラーT細胞でも起きるために、強い副反応が出ると石井さんは考えています。キラーT細胞(イメージ)/NHK提供 「mRNAワクチンを接種するとヘルパーT細胞やキラーT細胞がしっかり誘導されるので、本当にウイルスに感染したときの反応のように、痛かったり腫れたり、発熱がよく起きます。一方、T細胞を強く誘導しないインフルエンザワクチンではこうした副反応がほとんど起きません」(石井さん)ほかの副反応も基本的にはワクチンに入っている物質が問題となって起きるのではなく、ウイルス感染の“まね”をして起きた炎症反応が原因と考えられると石井さんは話します。「不安の声が上がっている若い男性に起きる『心筋炎』ですが、ワクチン接種後に起きる頻度は、100万回接種に約10例程度と非常にまれです。ワクチンによって心筋炎が起きたのかどうかについても検討が続いているところです。ただ、理論的に体の中で炎症は起きていますので、心筋に炎症が起きて病気になるということは100%否定できない状況です。もともと心筋炎のリスクがある方やワクチンを打った後に心臓が痛くなったなどの場合は気を付けたほうがいいと考えています」(石井さん)さらに、長期的な影響を心配する声に対しては、石井さんはこのような説明をします。「mRNAワクチンを多くの人に打ち始めて半年しか経っていませんので、長期にわたって起こる副反応はまだ予測できない状況です。ただ、動物実験などを含めて、遺伝子が体の中に入ってしまうとか、それが原因でガンになってしまうという論文はありませんので、それほど心配する必要はないのではないかというのが、多くの研究者の意見です」(石井さん)ワクチンのmRNAが自分の体のDNAに組み込まれてしまい遺伝情報が書き換わってしまうのではないかという不安の声もありますが、その心配は要らないと石井さんはいいます。「私たちの体の中にはいろんなウイルスがいて、ものすごい数のウイルスのRNAとやりとりをしています。ただ、ウイルスが私たちの細胞の中のDNAを書き換えるということが起こらないような免疫システムが進化上できています。だから、遺伝子が書き換わることはないと考えていいのです」(石井さん) そもそもmRNAは不安定で、私たちの体の中に入っても長期間残るわけではありません。石井さんによると、mRNAは数日から1週間程度で分解されるため、長く体に残って悪影響を及ぼすことはまずあり得ないとのことです。変異株に対しても“重症化”を防ぐ効果はあるデルタ株などが猛威を振るうなか、ワクチンの変異株に対する効果についてどう考えればいいのでしょうか。イスラエルのデータによると、ファイザー製のワクチンを2回接種した場合、デルタ株に対する感染予防や発症予防の効果は64%に下がっていますが、入院・死亡の予防効果は93%とそれほど変わっていません。このデータから、変異株であっても重症化を防ぐ効果がワクチンにあることが読み取れます。デルタ株に対する効果/出典:アメリカCDCの資料拡大画像表示 変異株に対しても効果を維持している理由は、mRNAワクチンがヘルパーT細胞とキラーT細胞という2種類のT細胞を強く誘導するからだと石井さんは考えています。「ウイルスをやっつけるT細胞を非常に強く誘導していますので、ウイルスが変異して抗体が少し認識できなくなったとしても、免疫反応は十分だと考えています。ワクチンを打った方がデルタ株で重症化するということは、低い確率だと言われていますので、(デルタ株に効果がないのではということについて)今はそれほど心配する必要はありません」(石井さん)さらに、石井さんが強調するのは、ワクチン接種は自分を守るためだけではないということです。「ワクチンを打てば、自分自身はかなりの確率で感染や重症化のリスクを減らすことができます。そして、重要なのは、自分だけではなく家族や身近な人を守れるということがワクチンの大きな利益だということです。ワクチンを打つか打たないか、ご自身でよく考えて判断していただきたいと思いますが、このことがその判断の助けになるのではないかと思います」(石井さん)mRNAワクチン実用化までの長い道のり新型コロナウイルスの流行を受けて短期間で実用化されたmRNAワクチンですが、その研究の歴史は長く、1980年代にはmRNAを医薬品に使おうという研究がすでに始まっていました。そして、mRNAをワクチンとして使うためのブレークスルーを成し遂げたのが、ビオンテック社のカタリン・カリコ博士と米ペンシルベニア大学教授のドリュー・ワイスマン博士です。この発見によってノーベル賞の有力な候補に挙げられています。1980年代に考えられていたのは、「mRNAを人工的に作って細胞の中に運べば、薬などに利用できるタンパク質を作ることができる」ということでした。しかし、実際にmRNAを細胞に与えると、拒絶反応として激しい炎症が起き、細胞が死んでしまうことも分かっていました。多くの研究者はこのままでは薬として使うことは無理だと思っていたのです。その常識を覆して、拒絶反応を起こさない方法を見つけ出したのがカリコ博士とワイスマン博士でした。mRNAを構成する物質の1つ「ウリジン」を、「化学修飾」といわれる化学構造の飾りが付いたものに変えて細胞に与えると炎症が起きないことを発見したのです。2005年のことでした。これによってmRNAを人の体に投与するめどが立ちました。「ウリジン」(左)と「化学修飾されたウリジン」(右)/NHK提供拡大画像表示 この発表は世界中の研究者に大きなインパクトを与えましたが、当時、mRNAは非常に不安定で壊れやすいことに加え、人工的に作るのにお金がかかることもあり、ワクチンに使えると想像した人はほとんどいませんでした。しかし、カリコ博士たちは、この壊れやすい特徴が体の中に残らないという薬としての利点になると考え、さらに研究を続けます。そして2008年、炎症を抑えるだけでなくタンパク質を大量に作る方法を見つけたのです。「実験結果が出たとき、これまで夢みていた治療法、ワクチンやタンパク質治療薬、遺伝子治療などの可能性が開かれたと感じました」(ワイスマン博士)その後、カリコ博士はドイツの製薬ベンチャーのビオンテック社に迎えられ、この技術を使ってインフルエンザ用の新ワクチンやがんに対するワクチンの研究を進めていたところ、新型コロナウイルスのパンデミックが起きたのです。ビオンテック社でカリコ博士(右)たちがmRNAワクチンの開発を続けた/画像提供:BioNTechビオンテック社は新型コロナウイルスの遺伝情報が公開されるとすぐにmRNAワクチンの開発に着手。アメリカの大手製薬会社ファイザー社と提携し、大規模な臨床試験を行うとともに、ワクチンの大量生産を開始しました。こうしてわずか1年足らずで新型コロナウイルス用のmRNAワクチンが世界に向けて供給されるようになったのです。「学術界も小さなバイオテクノロジー企業も大企業もそれぞれがベストを尽くしました。今回はそれぞれが協力し合うことで、短期間でのワクチン開発が実現できたのです」(カリコ博士)国産のmRNAワクチンも実用化に向けて進んでいる新型コロナウイルスとの闘いが続くなか、日本でもさまざまなタイプのワクチンの開発が進められています。石井さんが製薬企業とともに行う「国産のmRNAワクチン」の開発は、来年末の実用化を目指して臨床試験が進められています。石井さんは国産ワクチン開発の意義をこのように訴えます。国産mRNAワクチンの開発が進む/NHK提供 「すでに海外のワクチンが入ってきていて必要ないじゃないかという方もいらっしゃると思います。ただ、次のパンデミックが起きたとき、ワクチンが足りないとなっても輸入できる保証はありません。自国の人を守るという意味では、国産のワクチンが必要です。また、新型コロナのワクチンを今後も定期的に打たなくてはならなくなった場合、国産のワクチンがあるというのは、安心なのではないでしょうか」(石井さん)さらに、石井さんはmRNAの技術はさまざまな分野に応用できると考えています。「mRNAで作れるものはたくさんあって、ワクチンと呼ばれているものにどんどん応用されていくと思います。特に、がんワクチンは応用される時期が早いと思います。それ以外の感染症のワクチン、例えばインフルエンザのワクチンでは臨床試験が進んでいますが、いずれmRNAに取って代わられるのではないかといわれています」(石井さん)20年以上の研究の積み重ねによって人類が手にすることができたmRNAワクチン。新型コロナ収束につなげるために、その効果と安全性を一人一人が正しく理解することが、求められています。
免疫細胞の一種である「B細胞」は、突起にくっつく「抗体」を作り出します。「樹状細胞」はウイルスの突起を取り込み、突起の情報を「キラーT細胞」や「ヘルパーT細胞」に渡します。情報を受け取った「キラーT細胞」はこの突起が入り込んだ細胞を攻撃して殺すようになります。一方の「ヘルパーT細胞」は指令を出して、B細胞やキラーT細胞を活性化させるのです。免疫細胞の準備ができたところに本物のウイルスがやってくると、B細胞が作っておいた抗体がウイルスの突起にくっつきます。すると、ウイルスは細胞の中に入れなくなります。万が一、ウイルスが細胞に侵入しても、キラーT細胞が感染した細胞を素早く排除します。mRNAワクチン研究の第一人者で、ワクチン開発にも携わっている東京大学医科学研究所の石井健教授は、ワクチンの効果の高さの理由をこう説明します。「mRNAを体に入れて設計図通りにウイルスのタンパク質を作らせることで、ウイルスに対する免疫と同じものが全部作れるのです。抗体だけではなく、ヘルパーT細胞やキラーT細胞という、ウイルスをやっつける細胞を非常に強く誘導できることが大きいと考えています」(石井さん)mRNAワクチン研究の第一人者、石井健教授/NHK提供例えばインフルエンザで使われる「不活化ワクチン」の場合、ウイルスの抗原を体に入れるだけで、この2つのT細胞の働きは強く誘導できません。そのため、ワクチンの有効率も30~60%とされています。mRNAワクチンの効果の高さはこのT細胞の働きにあると考えられるのです。「副反応」は体の免疫反応で起きているワクチンに対して多くの人が持つ不安が、副反応や長期的な影響などその安全性についてです。mRNAワクチンが体の中でどう働くのかを知っておくことが、ワクチンの正しい理解につながります。副反応として起きる「接種部の痛み」「発熱」や「だるさ」「頭痛」などは、ワクチンが感染の“まね”をさせることで体に起こす免疫反応だと石井さんはいいます。「まさにウイルス感染と近いことが起きていて、mRNAワクチンが入ったときに起こる免疫反応が、打ったところの腫れや痛みです。その後、全身にその免疫反応を起こします。ウイルスに感染したら熱が出ますが、それと同じような反応だと思ってください。ただ、ワクチンの場合は免疫反応を起こすだけ、つまり“まね”をするだけで、病気は起こしません」(石井さん)mRNAワクチンの場合では、この免疫反応がB細胞だけではなくヘルパーT細胞やキラーT細胞でも起きるために、強い副反応が出ると石井さんは考えています。キラーT細胞(イメージ)/NHK提供 「mRNAワクチンを接種するとヘルパーT細胞やキラーT細胞がしっかり誘導されるので、本当にウイルスに感染したときの反応のように、痛かったり腫れたり、発熱がよく起きます。一方、T細胞を強く誘導しないインフルエンザワクチンではこうした副反応がほとんど起きません」(石井さん)ほかの副反応も基本的にはワクチンに入っている物質が問題となって起きるのではなく、ウイルス感染の“まね”をして起きた炎症反応が原因と考えられると石井さんは話します。「不安の声が上がっている若い男性に起きる『心筋炎』ですが、ワクチン接種後に起きる頻度は、100万回接種に約10例程度と非常にまれです。ワクチンによって心筋炎が起きたのかどうかについても検討が続いているところです。ただ、理論的に体の中で炎症は起きていますので、心筋に炎症が起きて病気になるということは100%否定できない状況です。もともと心筋炎のリスクがある方やワクチンを打った後に心臓が痛くなったなどの場合は気を付けたほうがいいと考えています」(石井さん)さらに、長期的な影響を心配する声に対しては、石井さんはこのような説明をします。「mRNAワクチンを多くの人に打ち始めて半年しか経っていませんので、長期にわたって起こる副反応はまだ予測できない状況です。ただ、動物実験などを含めて、遺伝子が体の中に入ってしまうとか、それが原因でガンになってしまうという論文はありませんので、それほど心配する必要はないのではないかというのが、多くの研究者の意見です」(石井さん)ワクチンのmRNAが自分の体のDNAに組み込まれてしまい遺伝情報が書き換わってしまうのではないかという不安の声もありますが、その心配は要らないと石井さんはいいます。「私たちの体の中にはいろんなウイルスがいて、ものすごい数のウイルスのRNAとやりとりをしています。ただ、ウイルスが私たちの細胞の中のDNAを書き換えるということが起こらないような免疫システムが進化上できています。だから、遺伝子が書き換わることはないと考えていいのです」(石井さん) そもそもmRNAは不安定で、私たちの体の中に入っても長期間残るわけではありません。石井さんによると、mRNAは数日から1週間程度で分解されるため、長く体に残って悪影響を及ぼすことはまずあり得ないとのことです。変異株に対しても“重症化”を防ぐ効果はあるデルタ株などが猛威を振るうなか、ワクチンの変異株に対する効果についてどう考えればいいのでしょうか。イスラエルのデータによると、ファイザー製のワクチンを2回接種した場合、デルタ株に対する感染予防や発症予防の効果は64%に下がっていますが、入院・死亡の予防効果は93%とそれほど変わっていません。このデータから、変異株であっても重症化を防ぐ効果がワクチンにあることが読み取れます。デルタ株に対する効果/出典:アメリカCDCの資料拡大画像表示 変異株に対しても効果を維持している理由は、mRNAワクチンがヘルパーT細胞とキラーT細胞という2種類のT細胞を強く誘導するからだと石井さんは考えています。「ウイルスをやっつけるT細胞を非常に強く誘導していますので、ウイルスが変異して抗体が少し認識できなくなったとしても、免疫反応は十分だと考えています。ワクチンを打った方がデルタ株で重症化するということは、低い確率だと言われていますので、(デルタ株に効果がないのではということについて)今はそれほど心配する必要はありません」(石井さん)さらに、石井さんが強調するのは、ワクチン接種は自分を守るためだけではないということです。「ワクチンを打てば、自分自身はかなりの確率で感染や重症化のリスクを減らすことができます。そして、重要なのは、自分だけではなく家族や身近な人を守れるということがワクチンの大きな利益だということです。ワクチンを打つか打たないか、ご自身でよく考えて判断していただきたいと思いますが、このことがその判断の助けになるのではないかと思います」(石井さん)mRNAワクチン実用化までの長い道のり新型コロナウイルスの流行を受けて短期間で実用化されたmRNAワクチンですが、その研究の歴史は長く、1980年代にはmRNAを医薬品に使おうという研究がすでに始まっていました。そして、mRNAをワクチンとして使うためのブレークスルーを成し遂げたのが、ビオンテック社のカタリン・カリコ博士と米ペンシルベニア大学教授のドリュー・ワイスマン博士です。この発見によってノーベル賞の有力な候補に挙げられています。1980年代に考えられていたのは、「mRNAを人工的に作って細胞の中に運べば、薬などに利用できるタンパク質を作ることができる」ということでした。しかし、実際にmRNAを細胞に与えると、拒絶反応として激しい炎症が起き、細胞が死んでしまうことも分かっていました。多くの研究者はこのままでは薬として使うことは無理だと思っていたのです。その常識を覆して、拒絶反応を起こさない方法を見つけ出したのがカリコ博士とワイスマン博士でした。mRNAを構成する物質の1つ「ウリジン」を、「化学修飾」といわれる化学構造の飾りが付いたものに変えて細胞に与えると炎症が起きないことを発見したのです。2005年のことでした。これによってmRNAを人の体に投与するめどが立ちました。「ウリジン」(左)と「化学修飾されたウリジン」(右)/NHK提供拡大画像表示 この発表は世界中の研究者に大きなインパクトを与えましたが、当時、mRNAは非常に不安定で壊れやすいことに加え、人工的に作るのにお金がかかることもあり、ワクチンに使えると想像した人はほとんどいませんでした。しかし、カリコ博士たちは、この壊れやすい特徴が体の中に残らないという薬としての利点になると考え、さらに研究を続けます。そして2008年、炎症を抑えるだけでなくタンパク質を大量に作る方法を見つけたのです。「実験結果が出たとき、これまで夢みていた治療法、ワクチンやタンパク質治療薬、遺伝子治療などの可能性が開かれたと感じました」(ワイスマン博士)その後、カリコ博士はドイツの製薬ベンチャーのビオンテック社に迎えられ、この技術を使ってインフルエンザ用の新ワクチンやがんに対するワクチンの研究を進めていたところ、新型コロナウイルスのパンデミックが起きたのです。ビオンテック社でカリコ博士(右)たちがmRNAワクチンの開発を続けた/画像提供:BioNTechビオンテック社は新型コロナウイルスの遺伝情報が公開されるとすぐにmRNAワクチンの開発に着手。アメリカの大手製薬会社ファイザー社と提携し、大規模な臨床試験を行うとともに、ワクチンの大量生産を開始しました。こうしてわずか1年足らずで新型コロナウイルス用のmRNAワクチンが世界に向けて供給されるようになったのです。「学術界も小さなバイオテクノロジー企業も大企業もそれぞれがベストを尽くしました。今回はそれぞれが協力し合うことで、短期間でのワクチン開発が実現できたのです」(カリコ博士)国産のmRNAワクチンも実用化に向けて進んでいる新型コロナウイルスとの闘いが続くなか、日本でもさまざまなタイプのワクチンの開発が進められています。石井さんが製薬企業とともに行う「国産のmRNAワクチン」の開発は、来年末の実用化を目指して臨床試験が進められています。石井さんは国産ワクチン開発の意義をこのように訴えます。国産mRNAワクチンの開発が進む/NHK提供 「すでに海外のワクチンが入ってきていて必要ないじゃないかという方もいらっしゃると思います。ただ、次のパンデミックが起きたとき、ワクチンが足りないとなっても輸入できる保証はありません。自国の人を守るという意味では、国産のワクチンが必要です。また、新型コロナのワクチンを今後も定期的に打たなくてはならなくなった場合、国産のワクチンがあるというのは、安心なのではないでしょうか」(石井さん)さらに、石井さんはmRNAの技術はさまざまな分野に応用できると考えています。「mRNAで作れるものはたくさんあって、ワクチンと呼ばれているものにどんどん応用されていくと思います。特に、がんワクチンは応用される時期が早いと思います。それ以外の感染症のワクチン、例えばインフルエンザのワクチンでは臨床試験が進んでいますが、いずれmRNAに取って代わられるのではないかといわれています」(石井さん)20年以上の研究の積み重ねによって人類が手にすることができたmRNAワクチン。新型コロナ収束につなげるために、その効果と安全性を一人一人が正しく理解することが、求められています。
免疫細胞の一種である「B細胞」は、突起にくっつく「抗体」を作り出します。「樹状細胞」はウイルスの突起を取り込み、突起の情報を「キラーT細胞」や「ヘルパーT細胞」に渡します。情報を受け取った「キラーT細胞」はこの突起が入り込んだ細胞を攻撃して殺すようになります。一方の「ヘルパーT細胞」は指令を出して、B細胞やキラーT細胞を活性化させるのです。免疫細胞の準備ができたところに本物のウイルスがやってくると、B細胞が作っておいた抗体がウイルスの突起にくっつきます。すると、ウイルスは細胞の中に入れなくなります。万が一、ウイルスが細胞に侵入しても、キラーT細胞が感染した細胞を素早く排除します。mRNAワクチン研究の第一人者で、ワクチン開発にも携わっている東京大学医科学研究所の石井健教授は、ワクチンの効果の高さの理由をこう説明します。「mRNAを体に入れて設計図通りにウイルスのタンパク質を作らせることで、ウイルスに対する免疫と同じものが全部作れるのです。抗体だけではなく、ヘルパーT細胞やキラーT細胞という、ウイルスをやっつける細胞を非常に強く誘導できることが大きいと考えています」(石井さん)mRNAワクチン研究の第一人者、石井健教授/NHK提供例えばインフルエンザで使われる「不活化ワクチン」の場合、ウイルスの抗原を体に入れるだけで、この2つのT細胞の働きは強く誘導できません。そのため、ワクチンの有効率も30~60%とされています。mRNAワクチンの効果の高さはこのT細胞の働きにあると考えられるのです。「副反応」は体の免疫反応で起きているワクチンに対して多くの人が持つ不安が、副反応や長期的な影響などその安全性についてです。mRNAワクチンが体の中でどう働くのかを知っておくことが、ワクチンの正しい理解につながります。副反応として起きる「接種部の痛み」「発熱」や「だるさ」「頭痛」などは、ワクチンが感染の“まね”をさせることで体に起こす免疫反応だと石井さんはいいます。「まさにウイルス感染と近いことが起きていて、mRNAワクチンが入ったときに起こる免疫反応が、打ったところの腫れや痛みです。その後、全身にその免疫反応を起こします。ウイルスに感染したら熱が出ますが、それと同じような反応だと思ってください。ただ、ワクチンの場合は免疫反応を起こすだけ、つまり“まね”をするだけで、病気は起こしません」(石井さん)mRNAワクチンの場合では、この免疫反応がB細胞だけではなくヘルパーT細胞やキラーT細胞でも起きるために、強い副反応が出ると石井さんは考えています。キラーT細胞(イメージ)/NHK提供 「mRNAワクチンを接種するとヘルパーT細胞やキラーT細胞がしっかり誘導されるので、本当にウイルスに感染したときの反応のように、痛かったり腫れたり、発熱がよく起きます。一方、T細胞を強く誘導しないインフルエンザワクチンではこうした副反応がほとんど起きません」(石井さん)ほかの副反応も基本的にはワクチンに入っている物質が問題となって起きるのではなく、ウイルス感染の“まね”をして起きた炎症反応が原因と考えられると石井さんは話します。「不安の声が上がっている若い男性に起きる『心筋炎』ですが、ワクチン接種後に起きる頻度は、100万回接種に約10例程度と非常にまれです。ワクチンによって心筋炎が起きたのかどうかについても検討が続いているところです。ただ、理論的に体の中で炎症は起きていますので、心筋に炎症が起きて病気になるということは100%否定できない状況です。もともと心筋炎のリスクがある方やワクチンを打った後に心臓が痛くなったなどの場合は気を付けたほうがいいと考えています」(石井さん)さらに、長期的な影響を心配する声に対しては、石井さんはこのような説明をします。「mRNAワクチンを多くの人に打ち始めて半年しか経っていませんので、長期にわたって起こる副反応はまだ予測できない状況です。ただ、動物実験などを含めて、遺伝子が体の中に入ってしまうとか、それが原因でガンになってしまうという論文はありませんので、それほど心配する必要はないのではないかというのが、多くの研究者の意見です」(石井さん)ワクチンのmRNAが自分の体のDNAに組み込まれてしまい遺伝情報が書き換わってしまうのではないかという不安の声もありますが、その心配は要らないと石井さんはいいます。「私たちの体の中にはいろんなウイルスがいて、ものすごい数のウイルスのRNAとやりとりをしています。ただ、ウイルスが私たちの細胞の中のDNAを書き換えるということが起こらないような免疫システムが進化上できています。だから、遺伝子が書き換わることはないと考えていいのです」(石井さん) そもそもmRNAは不安定で、私たちの体の中に入っても長期間残るわけではありません。石井さんによると、mRNAは数日から1週間程度で分解されるため、長く体に残って悪影響を及ぼすことはまずあり得ないとのことです。変異株に対しても“重症化”を防ぐ効果はあるデルタ株などが猛威を振るうなか、ワクチンの変異株に対する効果についてどう考えればいいのでしょうか。イスラエルのデータによると、ファイザー製のワクチンを2回接種した場合、デルタ株に対する感染予防や発症予防の効果は64%に下がっていますが、入院・死亡の予防効果は93%とそれほど変わっていません。このデータから、変異株であっても重症化を防ぐ効果がワクチンにあることが読み取れます。デルタ株に対する効果/出典:アメリカCDCの資料拡大画像表示 変異株に対しても効果を維持している理由は、mRNAワクチンがヘルパーT細胞とキラーT細胞という2種類のT細胞を強く誘導するからだと石井さんは考えています。「ウイルスをやっつけるT細胞を非常に強く誘導していますので、ウイルスが変異して抗体が少し認識できなくなったとしても、免疫反応は十分だと考えています。ワクチンを打った方がデルタ株で重症化するということは、低い確率だと言われていますので、(デルタ株に効果がないのではということについて)今はそれほど心配する必要はありません」(石井さん)さらに、石井さんが強調するのは、ワクチン接種は自分を守るためだけではないということです。「ワクチンを打てば、自分自身はかなりの確率で感染や重症化のリスクを減らすことができます。そして、重要なのは、自分だけではなく家族や身近な人を守れるということがワクチンの大きな利益だということです。ワクチンを打つか打たないか、ご自身でよく考えて判断していただきたいと思いますが、このことがその判断の助けになるのではないかと思います」(石井さん)mRNAワクチン実用化までの長い道のり新型コロナウイルスの流行を受けて短期間で実用化されたmRNAワクチンですが、その研究の歴史は長く、1980年代にはmRNAを医薬品に使おうという研究がすでに始まっていました。そして、mRNAをワクチンとして使うためのブレークスルーを成し遂げたのが、ビオンテック社のカタリン・カリコ博士と米ペンシルベニア大学教授のドリュー・ワイスマン博士です。この発見によってノーベル賞の有力な候補に挙げられています。1980年代に考えられていたのは、「mRNAを人工的に作って細胞の中に運べば、薬などに利用できるタンパク質を作ることができる」ということでした。しかし、実際にmRNAを細胞に与えると、拒絶反応として激しい炎症が起き、細胞が死んでしまうことも分かっていました。多くの研究者はこのままでは薬として使うことは無理だと思っていたのです。その常識を覆して、拒絶反応を起こさない方法を見つけ出したのがカリコ博士とワイスマン博士でした。mRNAを構成する物質の1つ「ウリジン」を、「化学修飾」といわれる化学構造の飾りが付いたものに変えて細胞に与えると炎症が起きないことを発見したのです。2005年のことでした。これによってmRNAを人の体に投与するめどが立ちました。「ウリジン」(左)と「化学修飾されたウリジン」(右)/NHK提供拡大画像表示 この発表は世界中の研究者に大きなインパクトを与えましたが、当時、mRNAは非常に不安定で壊れやすいことに加え、人工的に作るのにお金がかかることもあり、ワクチンに使えると想像した人はほとんどいませんでした。しかし、カリコ博士たちは、この壊れやすい特徴が体の中に残らないという薬としての利点になると考え、さらに研究を続けます。そして2008年、炎症を抑えるだけでなくタンパク質を大量に作る方法を見つけたのです。「実験結果が出たとき、これまで夢みていた治療法、ワクチンやタンパク質治療薬、遺伝子治療などの可能性が開かれたと感じました」(ワイスマン博士)その後、カリコ博士はドイツの製薬ベンチャーのビオンテック社に迎えられ、この技術を使ってインフルエンザ用の新ワクチンやがんに対するワクチンの研究を進めていたところ、新型コロナウイルスのパンデミックが起きたのです。ビオンテック社でカリコ博士(右)たちがmRNAワクチンの開発を続けた/画像提供:BioNTechビオンテック社は新型コロナウイルスの遺伝情報が公開されるとすぐにmRNAワクチンの開発に着手。アメリカの大手製薬会社ファイザー社と提携し、大規模な臨床試験を行うとともに、ワクチンの大量生産を開始しました。こうしてわずか1年足らずで新型コロナウイルス用のmRNAワクチンが世界に向けて供給されるようになったのです。「学術界も小さなバイオテクノロジー企業も大企業もそれぞれがベストを尽くしました。今回はそれぞれが協力し合うことで、短期間でのワクチン開発が実現できたのです」(カリコ博士)国産のmRNAワクチンも実用化に向けて進んでいる新型コロナウイルスとの闘いが続くなか、日本でもさまざまなタイプのワクチンの開発が進められています。石井さんが製薬企業とともに行う「国産のmRNAワクチン」の開発は、来年末の実用化を目指して臨床試験が進められています。石井さんは国産ワクチン開発の意義をこのように訴えます。国産mRNAワクチンの開発が進む/NHK提供 「すでに海外のワクチンが入ってきていて必要ないじゃないかという方もいらっしゃると思います。ただ、次のパンデミックが起きたとき、ワクチンが足りないとなっても輸入できる保証はありません。自国の人を守るという意味では、国産のワクチンが必要です。また、新型コロナのワクチンを今後も定期的に打たなくてはならなくなった場合、国産のワクチンがあるというのは、安心なのではないでしょうか」(石井さん)さらに、石井さんはmRNAの技術はさまざまな分野に応用できると考えています。「mRNAで作れるものはたくさんあって、ワクチンと呼ばれているものにどんどん応用されていくと思います。特に、がんワクチンは応用される時期が早いと思います。それ以外の感染症のワクチン、例えばインフルエンザのワクチンでは臨床試験が進んでいますが、いずれmRNAに取って代わられるのではないかといわれています」(石井さん)20年以上の研究の積み重ねによって人類が手にすることができたmRNAワクチン。新型コロナ収束につなげるために、その効果と安全性を一人一人が正しく理解することが、求められています。
免疫細胞の準備ができたところに本物のウイルスがやってくると、B細胞が作っておいた抗体がウイルスの突起にくっつきます。すると、ウイルスは細胞の中に入れなくなります。万が一、ウイルスが細胞に侵入しても、キラーT細胞が感染した細胞を素早く排除します。mRNAワクチン研究の第一人者で、ワクチン開発にも携わっている東京大学医科学研究所の石井健教授は、ワクチンの効果の高さの理由をこう説明します。「mRNAを体に入れて設計図通りにウイルスのタンパク質を作らせることで、ウイルスに対する免疫と同じものが全部作れるのです。抗体だけではなく、ヘルパーT細胞やキラーT細胞という、ウイルスをやっつける細胞を非常に強く誘導できることが大きいと考えています」(石井さん)mRNAワクチン研究の第一人者、石井健教授/NHK提供例えばインフルエンザで使われる「不活化ワクチン」の場合、ウイルスの抗原を体に入れるだけで、この2つのT細胞の働きは強く誘導できません。そのため、ワクチンの有効率も30~60%とされています。mRNAワクチンの効果の高さはこのT細胞の働きにあると考えられるのです。「副反応」は体の免疫反応で起きているワクチンに対して多くの人が持つ不安が、副反応や長期的な影響などその安全性についてです。mRNAワクチンが体の中でどう働くのかを知っておくことが、ワクチンの正しい理解につながります。副反応として起きる「接種部の痛み」「発熱」や「だるさ」「頭痛」などは、ワクチンが感染の“まね”をさせることで体に起こす免疫反応だと石井さんはいいます。「まさにウイルス感染と近いことが起きていて、mRNAワクチンが入ったときに起こる免疫反応が、打ったところの腫れや痛みです。その後、全身にその免疫反応を起こします。ウイルスに感染したら熱が出ますが、それと同じような反応だと思ってください。ただ、ワクチンの場合は免疫反応を起こすだけ、つまり“まね”をするだけで、病気は起こしません」(石井さん)mRNAワクチンの場合では、この免疫反応がB細胞だけではなくヘルパーT細胞やキラーT細胞でも起きるために、強い副反応が出ると石井さんは考えています。キラーT細胞(イメージ)/NHK提供 「mRNAワクチンを接種するとヘルパーT細胞やキラーT細胞がしっかり誘導されるので、本当にウイルスに感染したときの反応のように、痛かったり腫れたり、発熱がよく起きます。一方、T細胞を強く誘導しないインフルエンザワクチンではこうした副反応がほとんど起きません」(石井さん)ほかの副反応も基本的にはワクチンに入っている物質が問題となって起きるのではなく、ウイルス感染の“まね”をして起きた炎症反応が原因と考えられると石井さんは話します。「不安の声が上がっている若い男性に起きる『心筋炎』ですが、ワクチン接種後に起きる頻度は、100万回接種に約10例程度と非常にまれです。ワクチンによって心筋炎が起きたのかどうかについても検討が続いているところです。ただ、理論的に体の中で炎症は起きていますので、心筋に炎症が起きて病気になるということは100%否定できない状況です。もともと心筋炎のリスクがある方やワクチンを打った後に心臓が痛くなったなどの場合は気を付けたほうがいいと考えています」(石井さん)さらに、長期的な影響を心配する声に対しては、石井さんはこのような説明をします。「mRNAワクチンを多くの人に打ち始めて半年しか経っていませんので、長期にわたって起こる副反応はまだ予測できない状況です。ただ、動物実験などを含めて、遺伝子が体の中に入ってしまうとか、それが原因でガンになってしまうという論文はありませんので、それほど心配する必要はないのではないかというのが、多くの研究者の意見です」(石井さん)ワクチンのmRNAが自分の体のDNAに組み込まれてしまい遺伝情報が書き換わってしまうのではないかという不安の声もありますが、その心配は要らないと石井さんはいいます。「私たちの体の中にはいろんなウイルスがいて、ものすごい数のウイルスのRNAとやりとりをしています。ただ、ウイルスが私たちの細胞の中のDNAを書き換えるということが起こらないような免疫システムが進化上できています。だから、遺伝子が書き換わることはないと考えていいのです」(石井さん) そもそもmRNAは不安定で、私たちの体の中に入っても長期間残るわけではありません。石井さんによると、mRNAは数日から1週間程度で分解されるため、長く体に残って悪影響を及ぼすことはまずあり得ないとのことです。変異株に対しても“重症化”を防ぐ効果はあるデルタ株などが猛威を振るうなか、ワクチンの変異株に対する効果についてどう考えればいいのでしょうか。イスラエルのデータによると、ファイザー製のワクチンを2回接種した場合、デルタ株に対する感染予防や発症予防の効果は64%に下がっていますが、入院・死亡の予防効果は93%とそれほど変わっていません。このデータから、変異株であっても重症化を防ぐ効果がワクチンにあることが読み取れます。デルタ株に対する効果/出典:アメリカCDCの資料拡大画像表示 変異株に対しても効果を維持している理由は、mRNAワクチンがヘルパーT細胞とキラーT細胞という2種類のT細胞を強く誘導するからだと石井さんは考えています。「ウイルスをやっつけるT細胞を非常に強く誘導していますので、ウイルスが変異して抗体が少し認識できなくなったとしても、免疫反応は十分だと考えています。ワクチンを打った方がデルタ株で重症化するということは、低い確率だと言われていますので、(デルタ株に効果がないのではということについて)今はそれほど心配する必要はありません」(石井さん)さらに、石井さんが強調するのは、ワクチン接種は自分を守るためだけではないということです。「ワクチンを打てば、自分自身はかなりの確率で感染や重症化のリスクを減らすことができます。そして、重要なのは、自分だけではなく家族や身近な人を守れるということがワクチンの大きな利益だということです。ワクチンを打つか打たないか、ご自身でよく考えて判断していただきたいと思いますが、このことがその判断の助けになるのではないかと思います」(石井さん)mRNAワクチン実用化までの長い道のり新型コロナウイルスの流行を受けて短期間で実用化されたmRNAワクチンですが、その研究の歴史は長く、1980年代にはmRNAを医薬品に使おうという研究がすでに始まっていました。そして、mRNAをワクチンとして使うためのブレークスルーを成し遂げたのが、ビオンテック社のカタリン・カリコ博士と米ペンシルベニア大学教授のドリュー・ワイスマン博士です。この発見によってノーベル賞の有力な候補に挙げられています。1980年代に考えられていたのは、「mRNAを人工的に作って細胞の中に運べば、薬などに利用できるタンパク質を作ることができる」ということでした。しかし、実際にmRNAを細胞に与えると、拒絶反応として激しい炎症が起き、細胞が死んでしまうことも分かっていました。多くの研究者はこのままでは薬として使うことは無理だと思っていたのです。その常識を覆して、拒絶反応を起こさない方法を見つけ出したのがカリコ博士とワイスマン博士でした。mRNAを構成する物質の1つ「ウリジン」を、「化学修飾」といわれる化学構造の飾りが付いたものに変えて細胞に与えると炎症が起きないことを発見したのです。2005年のことでした。これによってmRNAを人の体に投与するめどが立ちました。「ウリジン」(左)と「化学修飾されたウリジン」(右)/NHK提供拡大画像表示 この発表は世界中の研究者に大きなインパクトを与えましたが、当時、mRNAは非常に不安定で壊れやすいことに加え、人工的に作るのにお金がかかることもあり、ワクチンに使えると想像した人はほとんどいませんでした。しかし、カリコ博士たちは、この壊れやすい特徴が体の中に残らないという薬としての利点になると考え、さらに研究を続けます。そして2008年、炎症を抑えるだけでなくタンパク質を大量に作る方法を見つけたのです。「実験結果が出たとき、これまで夢みていた治療法、ワクチンやタンパク質治療薬、遺伝子治療などの可能性が開かれたと感じました」(ワイスマン博士)その後、カリコ博士はドイツの製薬ベンチャーのビオンテック社に迎えられ、この技術を使ってインフルエンザ用の新ワクチンやがんに対するワクチンの研究を進めていたところ、新型コロナウイルスのパンデミックが起きたのです。ビオンテック社でカリコ博士(右)たちがmRNAワクチンの開発を続けた/画像提供:BioNTechビオンテック社は新型コロナウイルスの遺伝情報が公開されるとすぐにmRNAワクチンの開発に着手。アメリカの大手製薬会社ファイザー社と提携し、大規模な臨床試験を行うとともに、ワクチンの大量生産を開始しました。こうしてわずか1年足らずで新型コロナウイルス用のmRNAワクチンが世界に向けて供給されるようになったのです。「学術界も小さなバイオテクノロジー企業も大企業もそれぞれがベストを尽くしました。今回はそれぞれが協力し合うことで、短期間でのワクチン開発が実現できたのです」(カリコ博士)国産のmRNAワクチンも実用化に向けて進んでいる新型コロナウイルスとの闘いが続くなか、日本でもさまざまなタイプのワクチンの開発が進められています。石井さんが製薬企業とともに行う「国産のmRNAワクチン」の開発は、来年末の実用化を目指して臨床試験が進められています。石井さんは国産ワクチン開発の意義をこのように訴えます。国産mRNAワクチンの開発が進む/NHK提供 「すでに海外のワクチンが入ってきていて必要ないじゃないかという方もいらっしゃると思います。ただ、次のパンデミックが起きたとき、ワクチンが足りないとなっても輸入できる保証はありません。自国の人を守るという意味では、国産のワクチンが必要です。また、新型コロナのワクチンを今後も定期的に打たなくてはならなくなった場合、国産のワクチンがあるというのは、安心なのではないでしょうか」(石井さん)さらに、石井さんはmRNAの技術はさまざまな分野に応用できると考えています。「mRNAで作れるものはたくさんあって、ワクチンと呼ばれているものにどんどん応用されていくと思います。特に、がんワクチンは応用される時期が早いと思います。それ以外の感染症のワクチン、例えばインフルエンザのワクチンでは臨床試験が進んでいますが、いずれmRNAに取って代わられるのではないかといわれています」(石井さん)20年以上の研究の積み重ねによって人類が手にすることができたmRNAワクチン。新型コロナ収束につなげるために、その効果と安全性を一人一人が正しく理解することが、求められています。
mRNAワクチン研究の第一人者で、ワクチン開発にも携わっている東京大学医科学研究所の石井健教授は、ワクチンの効果の高さの理由をこう説明します。「mRNAを体に入れて設計図通りにウイルスのタンパク質を作らせることで、ウイルスに対する免疫と同じものが全部作れるのです。抗体だけではなく、ヘルパーT細胞やキラーT細胞という、ウイルスをやっつける細胞を非常に強く誘導できることが大きいと考えています」(石井さん)mRNAワクチン研究の第一人者、石井健教授/NHK提供例えばインフルエンザで使われる「不活化ワクチン」の場合、ウイルスの抗原を体に入れるだけで、この2つのT細胞の働きは強く誘導できません。そのため、ワクチンの有効率も30~60%とされています。mRNAワクチンの効果の高さはこのT細胞の働きにあると考えられるのです。「副反応」は体の免疫反応で起きているワクチンに対して多くの人が持つ不安が、副反応や長期的な影響などその安全性についてです。mRNAワクチンが体の中でどう働くのかを知っておくことが、ワクチンの正しい理解につながります。副反応として起きる「接種部の痛み」「発熱」や「だるさ」「頭痛」などは、ワクチンが感染の“まね”をさせることで体に起こす免疫反応だと石井さんはいいます。「まさにウイルス感染と近いことが起きていて、mRNAワクチンが入ったときに起こる免疫反応が、打ったところの腫れや痛みです。その後、全身にその免疫反応を起こします。ウイルスに感染したら熱が出ますが、それと同じような反応だと思ってください。ただ、ワクチンの場合は免疫反応を起こすだけ、つまり“まね”をするだけで、病気は起こしません」(石井さん)mRNAワクチンの場合では、この免疫反応がB細胞だけではなくヘルパーT細胞やキラーT細胞でも起きるために、強い副反応が出ると石井さんは考えています。キラーT細胞(イメージ)/NHK提供 「mRNAワクチンを接種するとヘルパーT細胞やキラーT細胞がしっかり誘導されるので、本当にウイルスに感染したときの反応のように、痛かったり腫れたり、発熱がよく起きます。一方、T細胞を強く誘導しないインフルエンザワクチンではこうした副反応がほとんど起きません」(石井さん)ほかの副反応も基本的にはワクチンに入っている物質が問題となって起きるのではなく、ウイルス感染の“まね”をして起きた炎症反応が原因と考えられると石井さんは話します。「不安の声が上がっている若い男性に起きる『心筋炎』ですが、ワクチン接種後に起きる頻度は、100万回接種に約10例程度と非常にまれです。ワクチンによって心筋炎が起きたのかどうかについても検討が続いているところです。ただ、理論的に体の中で炎症は起きていますので、心筋に炎症が起きて病気になるということは100%否定できない状況です。もともと心筋炎のリスクがある方やワクチンを打った後に心臓が痛くなったなどの場合は気を付けたほうがいいと考えています」(石井さん)さらに、長期的な影響を心配する声に対しては、石井さんはこのような説明をします。「mRNAワクチンを多くの人に打ち始めて半年しか経っていませんので、長期にわたって起こる副反応はまだ予測できない状況です。ただ、動物実験などを含めて、遺伝子が体の中に入ってしまうとか、それが原因でガンになってしまうという論文はありませんので、それほど心配する必要はないのではないかというのが、多くの研究者の意見です」(石井さん)ワクチンのmRNAが自分の体のDNAに組み込まれてしまい遺伝情報が書き換わってしまうのではないかという不安の声もありますが、その心配は要らないと石井さんはいいます。「私たちの体の中にはいろんなウイルスがいて、ものすごい数のウイルスのRNAとやりとりをしています。ただ、ウイルスが私たちの細胞の中のDNAを書き換えるということが起こらないような免疫システムが進化上できています。だから、遺伝子が書き換わることはないと考えていいのです」(石井さん) そもそもmRNAは不安定で、私たちの体の中に入っても長期間残るわけではありません。石井さんによると、mRNAは数日から1週間程度で分解されるため、長く体に残って悪影響を及ぼすことはまずあり得ないとのことです。変異株に対しても“重症化”を防ぐ効果はあるデルタ株などが猛威を振るうなか、ワクチンの変異株に対する効果についてどう考えればいいのでしょうか。イスラエルのデータによると、ファイザー製のワクチンを2回接種した場合、デルタ株に対する感染予防や発症予防の効果は64%に下がっていますが、入院・死亡の予防効果は93%とそれほど変わっていません。このデータから、変異株であっても重症化を防ぐ効果がワクチンにあることが読み取れます。デルタ株に対する効果/出典:アメリカCDCの資料拡大画像表示 変異株に対しても効果を維持している理由は、mRNAワクチンがヘルパーT細胞とキラーT細胞という2種類のT細胞を強く誘導するからだと石井さんは考えています。「ウイルスをやっつけるT細胞を非常に強く誘導していますので、ウイルスが変異して抗体が少し認識できなくなったとしても、免疫反応は十分だと考えています。ワクチンを打った方がデルタ株で重症化するということは、低い確率だと言われていますので、(デルタ株に効果がないのではということについて)今はそれほど心配する必要はありません」(石井さん)さらに、石井さんが強調するのは、ワクチン接種は自分を守るためだけではないということです。「ワクチンを打てば、自分自身はかなりの確率で感染や重症化のリスクを減らすことができます。そして、重要なのは、自分だけではなく家族や身近な人を守れるということがワクチンの大きな利益だということです。ワクチンを打つか打たないか、ご自身でよく考えて判断していただきたいと思いますが、このことがその判断の助けになるのではないかと思います」(石井さん)mRNAワクチン実用化までの長い道のり新型コロナウイルスの流行を受けて短期間で実用化されたmRNAワクチンですが、その研究の歴史は長く、1980年代にはmRNAを医薬品に使おうという研究がすでに始まっていました。そして、mRNAをワクチンとして使うためのブレークスルーを成し遂げたのが、ビオンテック社のカタリン・カリコ博士と米ペンシルベニア大学教授のドリュー・ワイスマン博士です。この発見によってノーベル賞の有力な候補に挙げられています。1980年代に考えられていたのは、「mRNAを人工的に作って細胞の中に運べば、薬などに利用できるタンパク質を作ることができる」ということでした。しかし、実際にmRNAを細胞に与えると、拒絶反応として激しい炎症が起き、細胞が死んでしまうことも分かっていました。多くの研究者はこのままでは薬として使うことは無理だと思っていたのです。その常識を覆して、拒絶反応を起こさない方法を見つけ出したのがカリコ博士とワイスマン博士でした。mRNAを構成する物質の1つ「ウリジン」を、「化学修飾」といわれる化学構造の飾りが付いたものに変えて細胞に与えると炎症が起きないことを発見したのです。2005年のことでした。これによってmRNAを人の体に投与するめどが立ちました。「ウリジン」(左)と「化学修飾されたウリジン」(右)/NHK提供拡大画像表示 この発表は世界中の研究者に大きなインパクトを与えましたが、当時、mRNAは非常に不安定で壊れやすいことに加え、人工的に作るのにお金がかかることもあり、ワクチンに使えると想像した人はほとんどいませんでした。しかし、カリコ博士たちは、この壊れやすい特徴が体の中に残らないという薬としての利点になると考え、さらに研究を続けます。そして2008年、炎症を抑えるだけでなくタンパク質を大量に作る方法を見つけたのです。「実験結果が出たとき、これまで夢みていた治療法、ワクチンやタンパク質治療薬、遺伝子治療などの可能性が開かれたと感じました」(ワイスマン博士)その後、カリコ博士はドイツの製薬ベンチャーのビオンテック社に迎えられ、この技術を使ってインフルエンザ用の新ワクチンやがんに対するワクチンの研究を進めていたところ、新型コロナウイルスのパンデミックが起きたのです。ビオンテック社でカリコ博士(右)たちがmRNAワクチンの開発を続けた/画像提供:BioNTechビオンテック社は新型コロナウイルスの遺伝情報が公開されるとすぐにmRNAワクチンの開発に着手。アメリカの大手製薬会社ファイザー社と提携し、大規模な臨床試験を行うとともに、ワクチンの大量生産を開始しました。こうしてわずか1年足らずで新型コロナウイルス用のmRNAワクチンが世界に向けて供給されるようになったのです。「学術界も小さなバイオテクノロジー企業も大企業もそれぞれがベストを尽くしました。今回はそれぞれが協力し合うことで、短期間でのワクチン開発が実現できたのです」(カリコ博士)国産のmRNAワクチンも実用化に向けて進んでいる新型コロナウイルスとの闘いが続くなか、日本でもさまざまなタイプのワクチンの開発が進められています。石井さんが製薬企業とともに行う「国産のmRNAワクチン」の開発は、来年末の実用化を目指して臨床試験が進められています。石井さんは国産ワクチン開発の意義をこのように訴えます。国産mRNAワクチンの開発が進む/NHK提供 「すでに海外のワクチンが入ってきていて必要ないじゃないかという方もいらっしゃると思います。ただ、次のパンデミックが起きたとき、ワクチンが足りないとなっても輸入できる保証はありません。自国の人を守るという意味では、国産のワクチンが必要です。また、新型コロナのワクチンを今後も定期的に打たなくてはならなくなった場合、国産のワクチンがあるというのは、安心なのではないでしょうか」(石井さん)さらに、石井さんはmRNAの技術はさまざまな分野に応用できると考えています。「mRNAで作れるものはたくさんあって、ワクチンと呼ばれているものにどんどん応用されていくと思います。特に、がんワクチンは応用される時期が早いと思います。それ以外の感染症のワクチン、例えばインフルエンザのワクチンでは臨床試験が進んでいますが、いずれmRNAに取って代わられるのではないかといわれています」(石井さん)20年以上の研究の積み重ねによって人類が手にすることができたmRNAワクチン。新型コロナ収束につなげるために、その効果と安全性を一人一人が正しく理解することが、求められています。
「mRNAを体に入れて設計図通りにウイルスのタンパク質を作らせることで、ウイルスに対する免疫と同じものが全部作れるのです。抗体だけではなく、ヘルパーT細胞やキラーT細胞という、ウイルスをやっつける細胞を非常に強く誘導できることが大きいと考えています」(石井さん)mRNAワクチン研究の第一人者、石井健教授/NHK提供例えばインフルエンザで使われる「不活化ワクチン」の場合、ウイルスの抗原を体に入れるだけで、この2つのT細胞の働きは強く誘導できません。そのため、ワクチンの有効率も30~60%とされています。mRNAワクチンの効果の高さはこのT細胞の働きにあると考えられるのです。「副反応」は体の免疫反応で起きているワクチンに対して多くの人が持つ不安が、副反応や長期的な影響などその安全性についてです。mRNAワクチンが体の中でどう働くのかを知っておくことが、ワクチンの正しい理解につながります。副反応として起きる「接種部の痛み」「発熱」や「だるさ」「頭痛」などは、ワクチンが感染の“まね”をさせることで体に起こす免疫反応だと石井さんはいいます。「まさにウイルス感染と近いことが起きていて、mRNAワクチンが入ったときに起こる免疫反応が、打ったところの腫れや痛みです。その後、全身にその免疫反応を起こします。ウイルスに感染したら熱が出ますが、それと同じような反応だと思ってください。ただ、ワクチンの場合は免疫反応を起こすだけ、つまり“まね”をするだけで、病気は起こしません」(石井さん)mRNAワクチンの場合では、この免疫反応がB細胞だけではなくヘルパーT細胞やキラーT細胞でも起きるために、強い副反応が出ると石井さんは考えています。キラーT細胞(イメージ)/NHK提供 「mRNAワクチンを接種するとヘルパーT細胞やキラーT細胞がしっかり誘導されるので、本当にウイルスに感染したときの反応のように、痛かったり腫れたり、発熱がよく起きます。一方、T細胞を強く誘導しないインフルエンザワクチンではこうした副反応がほとんど起きません」(石井さん)ほかの副反応も基本的にはワクチンに入っている物質が問題となって起きるのではなく、ウイルス感染の“まね”をして起きた炎症反応が原因と考えられると石井さんは話します。「不安の声が上がっている若い男性に起きる『心筋炎』ですが、ワクチン接種後に起きる頻度は、100万回接種に約10例程度と非常にまれです。ワクチンによって心筋炎が起きたのかどうかについても検討が続いているところです。ただ、理論的に体の中で炎症は起きていますので、心筋に炎症が起きて病気になるということは100%否定できない状況です。もともと心筋炎のリスクがある方やワクチンを打った後に心臓が痛くなったなどの場合は気を付けたほうがいいと考えています」(石井さん)さらに、長期的な影響を心配する声に対しては、石井さんはこのような説明をします。「mRNAワクチンを多くの人に打ち始めて半年しか経っていませんので、長期にわたって起こる副反応はまだ予測できない状況です。ただ、動物実験などを含めて、遺伝子が体の中に入ってしまうとか、それが原因でガンになってしまうという論文はありませんので、それほど心配する必要はないのではないかというのが、多くの研究者の意見です」(石井さん)ワクチンのmRNAが自分の体のDNAに組み込まれてしまい遺伝情報が書き換わってしまうのではないかという不安の声もありますが、その心配は要らないと石井さんはいいます。「私たちの体の中にはいろんなウイルスがいて、ものすごい数のウイルスのRNAとやりとりをしています。ただ、ウイルスが私たちの細胞の中のDNAを書き換えるということが起こらないような免疫システムが進化上できています。だから、遺伝子が書き換わることはないと考えていいのです」(石井さん) そもそもmRNAは不安定で、私たちの体の中に入っても長期間残るわけではありません。石井さんによると、mRNAは数日から1週間程度で分解されるため、長く体に残って悪影響を及ぼすことはまずあり得ないとのことです。変異株に対しても“重症化”を防ぐ効果はあるデルタ株などが猛威を振るうなか、ワクチンの変異株に対する効果についてどう考えればいいのでしょうか。イスラエルのデータによると、ファイザー製のワクチンを2回接種した場合、デルタ株に対する感染予防や発症予防の効果は64%に下がっていますが、入院・死亡の予防効果は93%とそれほど変わっていません。このデータから、変異株であっても重症化を防ぐ効果がワクチンにあることが読み取れます。デルタ株に対する効果/出典:アメリカCDCの資料拡大画像表示 変異株に対しても効果を維持している理由は、mRNAワクチンがヘルパーT細胞とキラーT細胞という2種類のT細胞を強く誘導するからだと石井さんは考えています。「ウイルスをやっつけるT細胞を非常に強く誘導していますので、ウイルスが変異して抗体が少し認識できなくなったとしても、免疫反応は十分だと考えています。ワクチンを打った方がデルタ株で重症化するということは、低い確率だと言われていますので、(デルタ株に効果がないのではということについて)今はそれほど心配する必要はありません」(石井さん)さらに、石井さんが強調するのは、ワクチン接種は自分を守るためだけではないということです。「ワクチンを打てば、自分自身はかなりの確率で感染や重症化のリスクを減らすことができます。そして、重要なのは、自分だけではなく家族や身近な人を守れるということがワクチンの大きな利益だということです。ワクチンを打つか打たないか、ご自身でよく考えて判断していただきたいと思いますが、このことがその判断の助けになるのではないかと思います」(石井さん)mRNAワクチン実用化までの長い道のり新型コロナウイルスの流行を受けて短期間で実用化されたmRNAワクチンですが、その研究の歴史は長く、1980年代にはmRNAを医薬品に使おうという研究がすでに始まっていました。そして、mRNAをワクチンとして使うためのブレークスルーを成し遂げたのが、ビオンテック社のカタリン・カリコ博士と米ペンシルベニア大学教授のドリュー・ワイスマン博士です。この発見によってノーベル賞の有力な候補に挙げられています。1980年代に考えられていたのは、「mRNAを人工的に作って細胞の中に運べば、薬などに利用できるタンパク質を作ることができる」ということでした。しかし、実際にmRNAを細胞に与えると、拒絶反応として激しい炎症が起き、細胞が死んでしまうことも分かっていました。多くの研究者はこのままでは薬として使うことは無理だと思っていたのです。その常識を覆して、拒絶反応を起こさない方法を見つけ出したのがカリコ博士とワイスマン博士でした。mRNAを構成する物質の1つ「ウリジン」を、「化学修飾」といわれる化学構造の飾りが付いたものに変えて細胞に与えると炎症が起きないことを発見したのです。2005年のことでした。これによってmRNAを人の体に投与するめどが立ちました。「ウリジン」(左)と「化学修飾されたウリジン」(右)/NHK提供拡大画像表示 この発表は世界中の研究者に大きなインパクトを与えましたが、当時、mRNAは非常に不安定で壊れやすいことに加え、人工的に作るのにお金がかかることもあり、ワクチンに使えると想像した人はほとんどいませんでした。しかし、カリコ博士たちは、この壊れやすい特徴が体の中に残らないという薬としての利点になると考え、さらに研究を続けます。そして2008年、炎症を抑えるだけでなくタンパク質を大量に作る方法を見つけたのです。「実験結果が出たとき、これまで夢みていた治療法、ワクチンやタンパク質治療薬、遺伝子治療などの可能性が開かれたと感じました」(ワイスマン博士)その後、カリコ博士はドイツの製薬ベンチャーのビオンテック社に迎えられ、この技術を使ってインフルエンザ用の新ワクチンやがんに対するワクチンの研究を進めていたところ、新型コロナウイルスのパンデミックが起きたのです。ビオンテック社でカリコ博士(右)たちがmRNAワクチンの開発を続けた/画像提供:BioNTechビオンテック社は新型コロナウイルスの遺伝情報が公開されるとすぐにmRNAワクチンの開発に着手。アメリカの大手製薬会社ファイザー社と提携し、大規模な臨床試験を行うとともに、ワクチンの大量生産を開始しました。こうしてわずか1年足らずで新型コロナウイルス用のmRNAワクチンが世界に向けて供給されるようになったのです。「学術界も小さなバイオテクノロジー企業も大企業もそれぞれがベストを尽くしました。今回はそれぞれが協力し合うことで、短期間でのワクチン開発が実現できたのです」(カリコ博士)国産のmRNAワクチンも実用化に向けて進んでいる新型コロナウイルスとの闘いが続くなか、日本でもさまざまなタイプのワクチンの開発が進められています。石井さんが製薬企業とともに行う「国産のmRNAワクチン」の開発は、来年末の実用化を目指して臨床試験が進められています。石井さんは国産ワクチン開発の意義をこのように訴えます。国産mRNAワクチンの開発が進む/NHK提供 「すでに海外のワクチンが入ってきていて必要ないじゃないかという方もいらっしゃると思います。ただ、次のパンデミックが起きたとき、ワクチンが足りないとなっても輸入できる保証はありません。自国の人を守るという意味では、国産のワクチンが必要です。また、新型コロナのワクチンを今後も定期的に打たなくてはならなくなった場合、国産のワクチンがあるというのは、安心なのではないでしょうか」(石井さん)さらに、石井さんはmRNAの技術はさまざまな分野に応用できると考えています。「mRNAで作れるものはたくさんあって、ワクチンと呼ばれているものにどんどん応用されていくと思います。特に、がんワクチンは応用される時期が早いと思います。それ以外の感染症のワクチン、例えばインフルエンザのワクチンでは臨床試験が進んでいますが、いずれmRNAに取って代わられるのではないかといわれています」(石井さん)20年以上の研究の積み重ねによって人類が手にすることができたmRNAワクチン。新型コロナ収束につなげるために、その効果と安全性を一人一人が正しく理解することが、求められています。
mRNAワクチン研究の第一人者、石井健教授/NHK提供例えばインフルエンザで使われる「不活化ワクチン」の場合、ウイルスの抗原を体に入れるだけで、この2つのT細胞の働きは強く誘導できません。そのため、ワクチンの有効率も30~60%とされています。mRNAワクチンの効果の高さはこのT細胞の働きにあると考えられるのです。「副反応」は体の免疫反応で起きているワクチンに対して多くの人が持つ不安が、副反応や長期的な影響などその安全性についてです。mRNAワクチンが体の中でどう働くのかを知っておくことが、ワクチンの正しい理解につながります。副反応として起きる「接種部の痛み」「発熱」や「だるさ」「頭痛」などは、ワクチンが感染の“まね”をさせることで体に起こす免疫反応だと石井さんはいいます。「まさにウイルス感染と近いことが起きていて、mRNAワクチンが入ったときに起こる免疫反応が、打ったところの腫れや痛みです。その後、全身にその免疫反応を起こします。ウイルスに感染したら熱が出ますが、それと同じような反応だと思ってください。ただ、ワクチンの場合は免疫反応を起こすだけ、つまり“まね”をするだけで、病気は起こしません」(石井さん)mRNAワクチンの場合では、この免疫反応がB細胞だけではなくヘルパーT細胞やキラーT細胞でも起きるために、強い副反応が出ると石井さんは考えています。キラーT細胞(イメージ)/NHK提供 「mRNAワクチンを接種するとヘルパーT細胞やキラーT細胞がしっかり誘導されるので、本当にウイルスに感染したときの反応のように、痛かったり腫れたり、発熱がよく起きます。一方、T細胞を強く誘導しないインフルエンザワクチンではこうした副反応がほとんど起きません」(石井さん)ほかの副反応も基本的にはワクチンに入っている物質が問題となって起きるのではなく、ウイルス感染の“まね”をして起きた炎症反応が原因と考えられると石井さんは話します。「不安の声が上がっている若い男性に起きる『心筋炎』ですが、ワクチン接種後に起きる頻度は、100万回接種に約10例程度と非常にまれです。ワクチンによって心筋炎が起きたのかどうかについても検討が続いているところです。ただ、理論的に体の中で炎症は起きていますので、心筋に炎症が起きて病気になるということは100%否定できない状況です。もともと心筋炎のリスクがある方やワクチンを打った後に心臓が痛くなったなどの場合は気を付けたほうがいいと考えています」(石井さん)さらに、長期的な影響を心配する声に対しては、石井さんはこのような説明をします。「mRNAワクチンを多くの人に打ち始めて半年しか経っていませんので、長期にわたって起こる副反応はまだ予測できない状況です。ただ、動物実験などを含めて、遺伝子が体の中に入ってしまうとか、それが原因でガンになってしまうという論文はありませんので、それほど心配する必要はないのではないかというのが、多くの研究者の意見です」(石井さん)ワクチンのmRNAが自分の体のDNAに組み込まれてしまい遺伝情報が書き換わってしまうのではないかという不安の声もありますが、その心配は要らないと石井さんはいいます。「私たちの体の中にはいろんなウイルスがいて、ものすごい数のウイルスのRNAとやりとりをしています。ただ、ウイルスが私たちの細胞の中のDNAを書き換えるということが起こらないような免疫システムが進化上できています。だから、遺伝子が書き換わることはないと考えていいのです」(石井さん) そもそもmRNAは不安定で、私たちの体の中に入っても長期間残るわけではありません。石井さんによると、mRNAは数日から1週間程度で分解されるため、長く体に残って悪影響を及ぼすことはまずあり得ないとのことです。変異株に対しても“重症化”を防ぐ効果はあるデルタ株などが猛威を振るうなか、ワクチンの変異株に対する効果についてどう考えればいいのでしょうか。イスラエルのデータによると、ファイザー製のワクチンを2回接種した場合、デルタ株に対する感染予防や発症予防の効果は64%に下がっていますが、入院・死亡の予防効果は93%とそれほど変わっていません。このデータから、変異株であっても重症化を防ぐ効果がワクチンにあることが読み取れます。デルタ株に対する効果/出典:アメリカCDCの資料拡大画像表示 変異株に対しても効果を維持している理由は、mRNAワクチンがヘルパーT細胞とキラーT細胞という2種類のT細胞を強く誘導するからだと石井さんは考えています。「ウイルスをやっつけるT細胞を非常に強く誘導していますので、ウイルスが変異して抗体が少し認識できなくなったとしても、免疫反応は十分だと考えています。ワクチンを打った方がデルタ株で重症化するということは、低い確率だと言われていますので、(デルタ株に効果がないのではということについて)今はそれほど心配する必要はありません」(石井さん)さらに、石井さんが強調するのは、ワクチン接種は自分を守るためだけではないということです。「ワクチンを打てば、自分自身はかなりの確率で感染や重症化のリスクを減らすことができます。そして、重要なのは、自分だけではなく家族や身近な人を守れるということがワクチンの大きな利益だということです。ワクチンを打つか打たないか、ご自身でよく考えて判断していただきたいと思いますが、このことがその判断の助けになるのではないかと思います」(石井さん)mRNAワクチン実用化までの長い道のり新型コロナウイルスの流行を受けて短期間で実用化されたmRNAワクチンですが、その研究の歴史は長く、1980年代にはmRNAを医薬品に使おうという研究がすでに始まっていました。そして、mRNAをワクチンとして使うためのブレークスルーを成し遂げたのが、ビオンテック社のカタリン・カリコ博士と米ペンシルベニア大学教授のドリュー・ワイスマン博士です。この発見によってノーベル賞の有力な候補に挙げられています。1980年代に考えられていたのは、「mRNAを人工的に作って細胞の中に運べば、薬などに利用できるタンパク質を作ることができる」ということでした。しかし、実際にmRNAを細胞に与えると、拒絶反応として激しい炎症が起き、細胞が死んでしまうことも分かっていました。多くの研究者はこのままでは薬として使うことは無理だと思っていたのです。その常識を覆して、拒絶反応を起こさない方法を見つけ出したのがカリコ博士とワイスマン博士でした。mRNAを構成する物質の1つ「ウリジン」を、「化学修飾」といわれる化学構造の飾りが付いたものに変えて細胞に与えると炎症が起きないことを発見したのです。2005年のことでした。これによってmRNAを人の体に投与するめどが立ちました。「ウリジン」(左)と「化学修飾されたウリジン」(右)/NHK提供拡大画像表示 この発表は世界中の研究者に大きなインパクトを与えましたが、当時、mRNAは非常に不安定で壊れやすいことに加え、人工的に作るのにお金がかかることもあり、ワクチンに使えると想像した人はほとんどいませんでした。しかし、カリコ博士たちは、この壊れやすい特徴が体の中に残らないという薬としての利点になると考え、さらに研究を続けます。そして2008年、炎症を抑えるだけでなくタンパク質を大量に作る方法を見つけたのです。「実験結果が出たとき、これまで夢みていた治療法、ワクチンやタンパク質治療薬、遺伝子治療などの可能性が開かれたと感じました」(ワイスマン博士)その後、カリコ博士はドイツの製薬ベンチャーのビオンテック社に迎えられ、この技術を使ってインフルエンザ用の新ワクチンやがんに対するワクチンの研究を進めていたところ、新型コロナウイルスのパンデミックが起きたのです。ビオンテック社でカリコ博士(右)たちがmRNAワクチンの開発を続けた/画像提供:BioNTechビオンテック社は新型コロナウイルスの遺伝情報が公開されるとすぐにmRNAワクチンの開発に着手。アメリカの大手製薬会社ファイザー社と提携し、大規模な臨床試験を行うとともに、ワクチンの大量生産を開始しました。こうしてわずか1年足らずで新型コロナウイルス用のmRNAワクチンが世界に向けて供給されるようになったのです。「学術界も小さなバイオテクノロジー企業も大企業もそれぞれがベストを尽くしました。今回はそれぞれが協力し合うことで、短期間でのワクチン開発が実現できたのです」(カリコ博士)国産のmRNAワクチンも実用化に向けて進んでいる新型コロナウイルスとの闘いが続くなか、日本でもさまざまなタイプのワクチンの開発が進められています。石井さんが製薬企業とともに行う「国産のmRNAワクチン」の開発は、来年末の実用化を目指して臨床試験が進められています。石井さんは国産ワクチン開発の意義をこのように訴えます。国産mRNAワクチンの開発が進む/NHK提供 「すでに海外のワクチンが入ってきていて必要ないじゃないかという方もいらっしゃると思います。ただ、次のパンデミックが起きたとき、ワクチンが足りないとなっても輸入できる保証はありません。自国の人を守るという意味では、国産のワクチンが必要です。また、新型コロナのワクチンを今後も定期的に打たなくてはならなくなった場合、国産のワクチンがあるというのは、安心なのではないでしょうか」(石井さん)さらに、石井さんはmRNAの技術はさまざまな分野に応用できると考えています。「mRNAで作れるものはたくさんあって、ワクチンと呼ばれているものにどんどん応用されていくと思います。特に、がんワクチンは応用される時期が早いと思います。それ以外の感染症のワクチン、例えばインフルエンザのワクチンでは臨床試験が進んでいますが、いずれmRNAに取って代わられるのではないかといわれています」(石井さん)20年以上の研究の積み重ねによって人類が手にすることができたmRNAワクチン。新型コロナ収束につなげるために、その効果と安全性を一人一人が正しく理解することが、求められています。
例えばインフルエンザで使われる「不活化ワクチン」の場合、ウイルスの抗原を体に入れるだけで、この2つのT細胞の働きは強く誘導できません。そのため、ワクチンの有効率も30~60%とされています。mRNAワクチンの効果の高さはこのT細胞の働きにあると考えられるのです。「副反応」は体の免疫反応で起きているワクチンに対して多くの人が持つ不安が、副反応や長期的な影響などその安全性についてです。mRNAワクチンが体の中でどう働くのかを知っておくことが、ワクチンの正しい理解につながります。副反応として起きる「接種部の痛み」「発熱」や「だるさ」「頭痛」などは、ワクチンが感染の“まね”をさせることで体に起こす免疫反応だと石井さんはいいます。「まさにウイルス感染と近いことが起きていて、mRNAワクチンが入ったときに起こる免疫反応が、打ったところの腫れや痛みです。その後、全身にその免疫反応を起こします。ウイルスに感染したら熱が出ますが、それと同じような反応だと思ってください。ただ、ワクチンの場合は免疫反応を起こすだけ、つまり“まね”をするだけで、病気は起こしません」(石井さん)mRNAワクチンの場合では、この免疫反応がB細胞だけではなくヘルパーT細胞やキラーT細胞でも起きるために、強い副反応が出ると石井さんは考えています。キラーT細胞(イメージ)/NHK提供 「mRNAワクチンを接種するとヘルパーT細胞やキラーT細胞がしっかり誘導されるので、本当にウイルスに感染したときの反応のように、痛かったり腫れたり、発熱がよく起きます。一方、T細胞を強く誘導しないインフルエンザワクチンではこうした副反応がほとんど起きません」(石井さん)ほかの副反応も基本的にはワクチンに入っている物質が問題となって起きるのではなく、ウイルス感染の“まね”をして起きた炎症反応が原因と考えられると石井さんは話します。「不安の声が上がっている若い男性に起きる『心筋炎』ですが、ワクチン接種後に起きる頻度は、100万回接種に約10例程度と非常にまれです。ワクチンによって心筋炎が起きたのかどうかについても検討が続いているところです。ただ、理論的に体の中で炎症は起きていますので、心筋に炎症が起きて病気になるということは100%否定できない状況です。もともと心筋炎のリスクがある方やワクチンを打った後に心臓が痛くなったなどの場合は気を付けたほうがいいと考えています」(石井さん)さらに、長期的な影響を心配する声に対しては、石井さんはこのような説明をします。「mRNAワクチンを多くの人に打ち始めて半年しか経っていませんので、長期にわたって起こる副反応はまだ予測できない状況です。ただ、動物実験などを含めて、遺伝子が体の中に入ってしまうとか、それが原因でガンになってしまうという論文はありませんので、それほど心配する必要はないのではないかというのが、多くの研究者の意見です」(石井さん)ワクチンのmRNAが自分の体のDNAに組み込まれてしまい遺伝情報が書き換わってしまうのではないかという不安の声もありますが、その心配は要らないと石井さんはいいます。「私たちの体の中にはいろんなウイルスがいて、ものすごい数のウイルスのRNAとやりとりをしています。ただ、ウイルスが私たちの細胞の中のDNAを書き換えるということが起こらないような免疫システムが進化上できています。だから、遺伝子が書き換わることはないと考えていいのです」(石井さん) そもそもmRNAは不安定で、私たちの体の中に入っても長期間残るわけではありません。石井さんによると、mRNAは数日から1週間程度で分解されるため、長く体に残って悪影響を及ぼすことはまずあり得ないとのことです。変異株に対しても“重症化”を防ぐ効果はあるデルタ株などが猛威を振るうなか、ワクチンの変異株に対する効果についてどう考えればいいのでしょうか。イスラエルのデータによると、ファイザー製のワクチンを2回接種した場合、デルタ株に対する感染予防や発症予防の効果は64%に下がっていますが、入院・死亡の予防効果は93%とそれほど変わっていません。このデータから、変異株であっても重症化を防ぐ効果がワクチンにあることが読み取れます。デルタ株に対する効果/出典:アメリカCDCの資料拡大画像表示 変異株に対しても効果を維持している理由は、mRNAワクチンがヘルパーT細胞とキラーT細胞という2種類のT細胞を強く誘導するからだと石井さんは考えています。「ウイルスをやっつけるT細胞を非常に強く誘導していますので、ウイルスが変異して抗体が少し認識できなくなったとしても、免疫反応は十分だと考えています。ワクチンを打った方がデルタ株で重症化するということは、低い確率だと言われていますので、(デルタ株に効果がないのではということについて)今はそれほど心配する必要はありません」(石井さん)さらに、石井さんが強調するのは、ワクチン接種は自分を守るためだけではないということです。「ワクチンを打てば、自分自身はかなりの確率で感染や重症化のリスクを減らすことができます。そして、重要なのは、自分だけではなく家族や身近な人を守れるということがワクチンの大きな利益だということです。ワクチンを打つか打たないか、ご自身でよく考えて判断していただきたいと思いますが、このことがその判断の助けになるのではないかと思います」(石井さん)mRNAワクチン実用化までの長い道のり新型コロナウイルスの流行を受けて短期間で実用化されたmRNAワクチンですが、その研究の歴史は長く、1980年代にはmRNAを医薬品に使おうという研究がすでに始まっていました。そして、mRNAをワクチンとして使うためのブレークスルーを成し遂げたのが、ビオンテック社のカタリン・カリコ博士と米ペンシルベニア大学教授のドリュー・ワイスマン博士です。この発見によってノーベル賞の有力な候補に挙げられています。1980年代に考えられていたのは、「mRNAを人工的に作って細胞の中に運べば、薬などに利用できるタンパク質を作ることができる」ということでした。しかし、実際にmRNAを細胞に与えると、拒絶反応として激しい炎症が起き、細胞が死んでしまうことも分かっていました。多くの研究者はこのままでは薬として使うことは無理だと思っていたのです。その常識を覆して、拒絶反応を起こさない方法を見つけ出したのがカリコ博士とワイスマン博士でした。mRNAを構成する物質の1つ「ウリジン」を、「化学修飾」といわれる化学構造の飾りが付いたものに変えて細胞に与えると炎症が起きないことを発見したのです。2005年のことでした。これによってmRNAを人の体に投与するめどが立ちました。「ウリジン」(左)と「化学修飾されたウリジン」(右)/NHK提供拡大画像表示 この発表は世界中の研究者に大きなインパクトを与えましたが、当時、mRNAは非常に不安定で壊れやすいことに加え、人工的に作るのにお金がかかることもあり、ワクチンに使えると想像した人はほとんどいませんでした。しかし、カリコ博士たちは、この壊れやすい特徴が体の中に残らないという薬としての利点になると考え、さらに研究を続けます。そして2008年、炎症を抑えるだけでなくタンパク質を大量に作る方法を見つけたのです。「実験結果が出たとき、これまで夢みていた治療法、ワクチンやタンパク質治療薬、遺伝子治療などの可能性が開かれたと感じました」(ワイスマン博士)その後、カリコ博士はドイツの製薬ベンチャーのビオンテック社に迎えられ、この技術を使ってインフルエンザ用の新ワクチンやがんに対するワクチンの研究を進めていたところ、新型コロナウイルスのパンデミックが起きたのです。ビオンテック社でカリコ博士(右)たちがmRNAワクチンの開発を続けた/画像提供:BioNTechビオンテック社は新型コロナウイルスの遺伝情報が公開されるとすぐにmRNAワクチンの開発に着手。アメリカの大手製薬会社ファイザー社と提携し、大規模な臨床試験を行うとともに、ワクチンの大量生産を開始しました。こうしてわずか1年足らずで新型コロナウイルス用のmRNAワクチンが世界に向けて供給されるようになったのです。「学術界も小さなバイオテクノロジー企業も大企業もそれぞれがベストを尽くしました。今回はそれぞれが協力し合うことで、短期間でのワクチン開発が実現できたのです」(カリコ博士)国産のmRNAワクチンも実用化に向けて進んでいる新型コロナウイルスとの闘いが続くなか、日本でもさまざまなタイプのワクチンの開発が進められています。石井さんが製薬企業とともに行う「国産のmRNAワクチン」の開発は、来年末の実用化を目指して臨床試験が進められています。石井さんは国産ワクチン開発の意義をこのように訴えます。国産mRNAワクチンの開発が進む/NHK提供 「すでに海外のワクチンが入ってきていて必要ないじゃないかという方もいらっしゃると思います。ただ、次のパンデミックが起きたとき、ワクチンが足りないとなっても輸入できる保証はありません。自国の人を守るという意味では、国産のワクチンが必要です。また、新型コロナのワクチンを今後も定期的に打たなくてはならなくなった場合、国産のワクチンがあるというのは、安心なのではないでしょうか」(石井さん)さらに、石井さんはmRNAの技術はさまざまな分野に応用できると考えています。「mRNAで作れるものはたくさんあって、ワクチンと呼ばれているものにどんどん応用されていくと思います。特に、がんワクチンは応用される時期が早いと思います。それ以外の感染症のワクチン、例えばインフルエンザのワクチンでは臨床試験が進んでいますが、いずれmRNAに取って代わられるのではないかといわれています」(石井さん)20年以上の研究の積み重ねによって人類が手にすることができたmRNAワクチン。新型コロナ収束につなげるために、その効果と安全性を一人一人が正しく理解することが、求められています。
ワクチンに対して多くの人が持つ不安が、副反応や長期的な影響などその安全性についてです。mRNAワクチンが体の中でどう働くのかを知っておくことが、ワクチンの正しい理解につながります。副反応として起きる「接種部の痛み」「発熱」や「だるさ」「頭痛」などは、ワクチンが感染の“まね”をさせることで体に起こす免疫反応だと石井さんはいいます。「まさにウイルス感染と近いことが起きていて、mRNAワクチンが入ったときに起こる免疫反応が、打ったところの腫れや痛みです。その後、全身にその免疫反応を起こします。ウイルスに感染したら熱が出ますが、それと同じような反応だと思ってください。ただ、ワクチンの場合は免疫反応を起こすだけ、つまり“まね”をするだけで、病気は起こしません」(石井さん)mRNAワクチンの場合では、この免疫反応がB細胞だけではなくヘルパーT細胞やキラーT細胞でも起きるために、強い副反応が出ると石井さんは考えています。キラーT細胞(イメージ)/NHK提供 「mRNAワクチンを接種するとヘルパーT細胞やキラーT細胞がしっかり誘導されるので、本当にウイルスに感染したときの反応のように、痛かったり腫れたり、発熱がよく起きます。一方、T細胞を強く誘導しないインフルエンザワクチンではこうした副反応がほとんど起きません」(石井さん)ほかの副反応も基本的にはワクチンに入っている物質が問題となって起きるのではなく、ウイルス感染の“まね”をして起きた炎症反応が原因と考えられると石井さんは話します。「不安の声が上がっている若い男性に起きる『心筋炎』ですが、ワクチン接種後に起きる頻度は、100万回接種に約10例程度と非常にまれです。ワクチンによって心筋炎が起きたのかどうかについても検討が続いているところです。ただ、理論的に体の中で炎症は起きていますので、心筋に炎症が起きて病気になるということは100%否定できない状況です。もともと心筋炎のリスクがある方やワクチンを打った後に心臓が痛くなったなどの場合は気を付けたほうがいいと考えています」(石井さん)さらに、長期的な影響を心配する声に対しては、石井さんはこのような説明をします。「mRNAワクチンを多くの人に打ち始めて半年しか経っていませんので、長期にわたって起こる副反応はまだ予測できない状況です。ただ、動物実験などを含めて、遺伝子が体の中に入ってしまうとか、それが原因でガンになってしまうという論文はありませんので、それほど心配する必要はないのではないかというのが、多くの研究者の意見です」(石井さん)ワクチンのmRNAが自分の体のDNAに組み込まれてしまい遺伝情報が書き換わってしまうのではないかという不安の声もありますが、その心配は要らないと石井さんはいいます。「私たちの体の中にはいろんなウイルスがいて、ものすごい数のウイルスのRNAとやりとりをしています。ただ、ウイルスが私たちの細胞の中のDNAを書き換えるということが起こらないような免疫システムが進化上できています。だから、遺伝子が書き換わることはないと考えていいのです」(石井さん) そもそもmRNAは不安定で、私たちの体の中に入っても長期間残るわけではありません。石井さんによると、mRNAは数日から1週間程度で分解されるため、長く体に残って悪影響を及ぼすことはまずあり得ないとのことです。変異株に対しても“重症化”を防ぐ効果はあるデルタ株などが猛威を振るうなか、ワクチンの変異株に対する効果についてどう考えればいいのでしょうか。イスラエルのデータによると、ファイザー製のワクチンを2回接種した場合、デルタ株に対する感染予防や発症予防の効果は64%に下がっていますが、入院・死亡の予防効果は93%とそれほど変わっていません。このデータから、変異株であっても重症化を防ぐ効果がワクチンにあることが読み取れます。デルタ株に対する効果/出典:アメリカCDCの資料拡大画像表示 変異株に対しても効果を維持している理由は、mRNAワクチンがヘルパーT細胞とキラーT細胞という2種類のT細胞を強く誘導するからだと石井さんは考えています。「ウイルスをやっつけるT細胞を非常に強く誘導していますので、ウイルスが変異して抗体が少し認識できなくなったとしても、免疫反応は十分だと考えています。ワクチンを打った方がデルタ株で重症化するということは、低い確率だと言われていますので、(デルタ株に効果がないのではということについて)今はそれほど心配する必要はありません」(石井さん)さらに、石井さんが強調するのは、ワクチン接種は自分を守るためだけではないということです。「ワクチンを打てば、自分自身はかなりの確率で感染や重症化のリスクを減らすことができます。そして、重要なのは、自分だけではなく家族や身近な人を守れるということがワクチンの大きな利益だということです。ワクチンを打つか打たないか、ご自身でよく考えて判断していただきたいと思いますが、このことがその判断の助けになるのではないかと思います」(石井さん)mRNAワクチン実用化までの長い道のり新型コロナウイルスの流行を受けて短期間で実用化されたmRNAワクチンですが、その研究の歴史は長く、1980年代にはmRNAを医薬品に使おうという研究がすでに始まっていました。そして、mRNAをワクチンとして使うためのブレークスルーを成し遂げたのが、ビオンテック社のカタリン・カリコ博士と米ペンシルベニア大学教授のドリュー・ワイスマン博士です。この発見によってノーベル賞の有力な候補に挙げられています。1980年代に考えられていたのは、「mRNAを人工的に作って細胞の中に運べば、薬などに利用できるタンパク質を作ることができる」ということでした。しかし、実際にmRNAを細胞に与えると、拒絶反応として激しい炎症が起き、細胞が死んでしまうことも分かっていました。多くの研究者はこのままでは薬として使うことは無理だと思っていたのです。その常識を覆して、拒絶反応を起こさない方法を見つけ出したのがカリコ博士とワイスマン博士でした。mRNAを構成する物質の1つ「ウリジン」を、「化学修飾」といわれる化学構造の飾りが付いたものに変えて細胞に与えると炎症が起きないことを発見したのです。2005年のことでした。これによってmRNAを人の体に投与するめどが立ちました。「ウリジン」(左)と「化学修飾されたウリジン」(右)/NHK提供拡大画像表示 この発表は世界中の研究者に大きなインパクトを与えましたが、当時、mRNAは非常に不安定で壊れやすいことに加え、人工的に作るのにお金がかかることもあり、ワクチンに使えると想像した人はほとんどいませんでした。しかし、カリコ博士たちは、この壊れやすい特徴が体の中に残らないという薬としての利点になると考え、さらに研究を続けます。そして2008年、炎症を抑えるだけでなくタンパク質を大量に作る方法を見つけたのです。「実験結果が出たとき、これまで夢みていた治療法、ワクチンやタンパク質治療薬、遺伝子治療などの可能性が開かれたと感じました」(ワイスマン博士)その後、カリコ博士はドイツの製薬ベンチャーのビオンテック社に迎えられ、この技術を使ってインフルエンザ用の新ワクチンやがんに対するワクチンの研究を進めていたところ、新型コロナウイルスのパンデミックが起きたのです。ビオンテック社でカリコ博士(右)たちがmRNAワクチンの開発を続けた/画像提供:BioNTechビオンテック社は新型コロナウイルスの遺伝情報が公開されるとすぐにmRNAワクチンの開発に着手。アメリカの大手製薬会社ファイザー社と提携し、大規模な臨床試験を行うとともに、ワクチンの大量生産を開始しました。こうしてわずか1年足らずで新型コロナウイルス用のmRNAワクチンが世界に向けて供給されるようになったのです。「学術界も小さなバイオテクノロジー企業も大企業もそれぞれがベストを尽くしました。今回はそれぞれが協力し合うことで、短期間でのワクチン開発が実現できたのです」(カリコ博士)国産のmRNAワクチンも実用化に向けて進んでいる新型コロナウイルスとの闘いが続くなか、日本でもさまざまなタイプのワクチンの開発が進められています。石井さんが製薬企業とともに行う「国産のmRNAワクチン」の開発は、来年末の実用化を目指して臨床試験が進められています。石井さんは国産ワクチン開発の意義をこのように訴えます。国産mRNAワクチンの開発が進む/NHK提供 「すでに海外のワクチンが入ってきていて必要ないじゃないかという方もいらっしゃると思います。ただ、次のパンデミックが起きたとき、ワクチンが足りないとなっても輸入できる保証はありません。自国の人を守るという意味では、国産のワクチンが必要です。また、新型コロナのワクチンを今後も定期的に打たなくてはならなくなった場合、国産のワクチンがあるというのは、安心なのではないでしょうか」(石井さん)さらに、石井さんはmRNAの技術はさまざまな分野に応用できると考えています。「mRNAで作れるものはたくさんあって、ワクチンと呼ばれているものにどんどん応用されていくと思います。特に、がんワクチンは応用される時期が早いと思います。それ以外の感染症のワクチン、例えばインフルエンザのワクチンでは臨床試験が進んでいますが、いずれmRNAに取って代わられるのではないかといわれています」(石井さん)20年以上の研究の積み重ねによって人類が手にすることができたmRNAワクチン。新型コロナ収束につなげるために、その効果と安全性を一人一人が正しく理解することが、求められています。
副反応として起きる「接種部の痛み」「発熱」や「だるさ」「頭痛」などは、ワクチンが感染の“まね”をさせることで体に起こす免疫反応だと石井さんはいいます。「まさにウイルス感染と近いことが起きていて、mRNAワクチンが入ったときに起こる免疫反応が、打ったところの腫れや痛みです。その後、全身にその免疫反応を起こします。ウイルスに感染したら熱が出ますが、それと同じような反応だと思ってください。ただ、ワクチンの場合は免疫反応を起こすだけ、つまり“まね”をするだけで、病気は起こしません」(石井さん)mRNAワクチンの場合では、この免疫反応がB細胞だけではなくヘルパーT細胞やキラーT細胞でも起きるために、強い副反応が出ると石井さんは考えています。キラーT細胞(イメージ)/NHK提供 「mRNAワクチンを接種するとヘルパーT細胞やキラーT細胞がしっかり誘導されるので、本当にウイルスに感染したときの反応のように、痛かったり腫れたり、発熱がよく起きます。一方、T細胞を強く誘導しないインフルエンザワクチンではこうした副反応がほとんど起きません」(石井さん)ほかの副反応も基本的にはワクチンに入っている物質が問題となって起きるのではなく、ウイルス感染の“まね”をして起きた炎症反応が原因と考えられると石井さんは話します。「不安の声が上がっている若い男性に起きる『心筋炎』ですが、ワクチン接種後に起きる頻度は、100万回接種に約10例程度と非常にまれです。ワクチンによって心筋炎が起きたのかどうかについても検討が続いているところです。ただ、理論的に体の中で炎症は起きていますので、心筋に炎症が起きて病気になるということは100%否定できない状況です。もともと心筋炎のリスクがある方やワクチンを打った後に心臓が痛くなったなどの場合は気を付けたほうがいいと考えています」(石井さん)さらに、長期的な影響を心配する声に対しては、石井さんはこのような説明をします。「mRNAワクチンを多くの人に打ち始めて半年しか経っていませんので、長期にわたって起こる副反応はまだ予測できない状況です。ただ、動物実験などを含めて、遺伝子が体の中に入ってしまうとか、それが原因でガンになってしまうという論文はありませんので、それほど心配する必要はないのではないかというのが、多くの研究者の意見です」(石井さん)ワクチンのmRNAが自分の体のDNAに組み込まれてしまい遺伝情報が書き換わってしまうのではないかという不安の声もありますが、その心配は要らないと石井さんはいいます。「私たちの体の中にはいろんなウイルスがいて、ものすごい数のウイルスのRNAとやりとりをしています。ただ、ウイルスが私たちの細胞の中のDNAを書き換えるということが起こらないような免疫システムが進化上できています。だから、遺伝子が書き換わることはないと考えていいのです」(石井さん) そもそもmRNAは不安定で、私たちの体の中に入っても長期間残るわけではありません。石井さんによると、mRNAは数日から1週間程度で分解されるため、長く体に残って悪影響を及ぼすことはまずあり得ないとのことです。変異株に対しても“重症化”を防ぐ効果はあるデルタ株などが猛威を振るうなか、ワクチンの変異株に対する効果についてどう考えればいいのでしょうか。イスラエルのデータによると、ファイザー製のワクチンを2回接種した場合、デルタ株に対する感染予防や発症予防の効果は64%に下がっていますが、入院・死亡の予防効果は93%とそれほど変わっていません。このデータから、変異株であっても重症化を防ぐ効果がワクチンにあることが読み取れます。デルタ株に対する効果/出典:アメリカCDCの資料拡大画像表示 変異株に対しても効果を維持している理由は、mRNAワクチンがヘルパーT細胞とキラーT細胞という2種類のT細胞を強く誘導するからだと石井さんは考えています。「ウイルスをやっつけるT細胞を非常に強く誘導していますので、ウイルスが変異して抗体が少し認識できなくなったとしても、免疫反応は十分だと考えています。ワクチンを打った方がデルタ株で重症化するということは、低い確率だと言われていますので、(デルタ株に効果がないのではということについて)今はそれほど心配する必要はありません」(石井さん)さらに、石井さんが強調するのは、ワクチン接種は自分を守るためだけではないということです。「ワクチンを打てば、自分自身はかなりの確率で感染や重症化のリスクを減らすことができます。そして、重要なのは、自分だけではなく家族や身近な人を守れるということがワクチンの大きな利益だということです。ワクチンを打つか打たないか、ご自身でよく考えて判断していただきたいと思いますが、このことがその判断の助けになるのではないかと思います」(石井さん)mRNAワクチン実用化までの長い道のり新型コロナウイルスの流行を受けて短期間で実用化されたmRNAワクチンですが、その研究の歴史は長く、1980年代にはmRNAを医薬品に使おうという研究がすでに始まっていました。そして、mRNAをワクチンとして使うためのブレークスルーを成し遂げたのが、ビオンテック社のカタリン・カリコ博士と米ペンシルベニア大学教授のドリュー・ワイスマン博士です。この発見によってノーベル賞の有力な候補に挙げられています。1980年代に考えられていたのは、「mRNAを人工的に作って細胞の中に運べば、薬などに利用できるタンパク質を作ることができる」ということでした。しかし、実際にmRNAを細胞に与えると、拒絶反応として激しい炎症が起き、細胞が死んでしまうことも分かっていました。多くの研究者はこのままでは薬として使うことは無理だと思っていたのです。その常識を覆して、拒絶反応を起こさない方法を見つけ出したのがカリコ博士とワイスマン博士でした。mRNAを構成する物質の1つ「ウリジン」を、「化学修飾」といわれる化学構造の飾りが付いたものに変えて細胞に与えると炎症が起きないことを発見したのです。2005年のことでした。これによってmRNAを人の体に投与するめどが立ちました。「ウリジン」(左)と「化学修飾されたウリジン」(右)/NHK提供拡大画像表示 この発表は世界中の研究者に大きなインパクトを与えましたが、当時、mRNAは非常に不安定で壊れやすいことに加え、人工的に作るのにお金がかかることもあり、ワクチンに使えると想像した人はほとんどいませんでした。しかし、カリコ博士たちは、この壊れやすい特徴が体の中に残らないという薬としての利点になると考え、さらに研究を続けます。そして2008年、炎症を抑えるだけでなくタンパク質を大量に作る方法を見つけたのです。「実験結果が出たとき、これまで夢みていた治療法、ワクチンやタンパク質治療薬、遺伝子治療などの可能性が開かれたと感じました」(ワイスマン博士)その後、カリコ博士はドイツの製薬ベンチャーのビオンテック社に迎えられ、この技術を使ってインフルエンザ用の新ワクチンやがんに対するワクチンの研究を進めていたところ、新型コロナウイルスのパンデミックが起きたのです。ビオンテック社でカリコ博士(右)たちがmRNAワクチンの開発を続けた/画像提供:BioNTechビオンテック社は新型コロナウイルスの遺伝情報が公開されるとすぐにmRNAワクチンの開発に着手。アメリカの大手製薬会社ファイザー社と提携し、大規模な臨床試験を行うとともに、ワクチンの大量生産を開始しました。こうしてわずか1年足らずで新型コロナウイルス用のmRNAワクチンが世界に向けて供給されるようになったのです。「学術界も小さなバイオテクノロジー企業も大企業もそれぞれがベストを尽くしました。今回はそれぞれが協力し合うことで、短期間でのワクチン開発が実現できたのです」(カリコ博士)国産のmRNAワクチンも実用化に向けて進んでいる新型コロナウイルスとの闘いが続くなか、日本でもさまざまなタイプのワクチンの開発が進められています。石井さんが製薬企業とともに行う「国産のmRNAワクチン」の開発は、来年末の実用化を目指して臨床試験が進められています。石井さんは国産ワクチン開発の意義をこのように訴えます。国産mRNAワクチンの開発が進む/NHK提供 「すでに海外のワクチンが入ってきていて必要ないじゃないかという方もいらっしゃると思います。ただ、次のパンデミックが起きたとき、ワクチンが足りないとなっても輸入できる保証はありません。自国の人を守るという意味では、国産のワクチンが必要です。また、新型コロナのワクチンを今後も定期的に打たなくてはならなくなった場合、国産のワクチンがあるというのは、安心なのではないでしょうか」(石井さん)さらに、石井さんはmRNAの技術はさまざまな分野に応用できると考えています。「mRNAで作れるものはたくさんあって、ワクチンと呼ばれているものにどんどん応用されていくと思います。特に、がんワクチンは応用される時期が早いと思います。それ以外の感染症のワクチン、例えばインフルエンザのワクチンでは臨床試験が進んでいますが、いずれmRNAに取って代わられるのではないかといわれています」(石井さん)20年以上の研究の積み重ねによって人類が手にすることができたmRNAワクチン。新型コロナ収束につなげるために、その効果と安全性を一人一人が正しく理解することが、求められています。
「まさにウイルス感染と近いことが起きていて、mRNAワクチンが入ったときに起こる免疫反応が、打ったところの腫れや痛みです。その後、全身にその免疫反応を起こします。ウイルスに感染したら熱が出ますが、それと同じような反応だと思ってください。ただ、ワクチンの場合は免疫反応を起こすだけ、つまり“まね”をするだけで、病気は起こしません」(石井さん)mRNAワクチンの場合では、この免疫反応がB細胞だけではなくヘルパーT細胞やキラーT細胞でも起きるために、強い副反応が出ると石井さんは考えています。キラーT細胞(イメージ)/NHK提供 「mRNAワクチンを接種するとヘルパーT細胞やキラーT細胞がしっかり誘導されるので、本当にウイルスに感染したときの反応のように、痛かったり腫れたり、発熱がよく起きます。一方、T細胞を強く誘導しないインフルエンザワクチンではこうした副反応がほとんど起きません」(石井さん)ほかの副反応も基本的にはワクチンに入っている物質が問題となって起きるのではなく、ウイルス感染の“まね”をして起きた炎症反応が原因と考えられると石井さんは話します。「不安の声が上がっている若い男性に起きる『心筋炎』ですが、ワクチン接種後に起きる頻度は、100万回接種に約10例程度と非常にまれです。ワクチンによって心筋炎が起きたのかどうかについても検討が続いているところです。ただ、理論的に体の中で炎症は起きていますので、心筋に炎症が起きて病気になるということは100%否定できない状況です。もともと心筋炎のリスクがある方やワクチンを打った後に心臓が痛くなったなどの場合は気を付けたほうがいいと考えています」(石井さん)さらに、長期的な影響を心配する声に対しては、石井さんはこのような説明をします。「mRNAワクチンを多くの人に打ち始めて半年しか経っていませんので、長期にわたって起こる副反応はまだ予測できない状況です。ただ、動物実験などを含めて、遺伝子が体の中に入ってしまうとか、それが原因でガンになってしまうという論文はありませんので、それほど心配する必要はないのではないかというのが、多くの研究者の意見です」(石井さん)ワクチンのmRNAが自分の体のDNAに組み込まれてしまい遺伝情報が書き換わってしまうのではないかという不安の声もありますが、その心配は要らないと石井さんはいいます。「私たちの体の中にはいろんなウイルスがいて、ものすごい数のウイルスのRNAとやりとりをしています。ただ、ウイルスが私たちの細胞の中のDNAを書き換えるということが起こらないような免疫システムが進化上できています。だから、遺伝子が書き換わることはないと考えていいのです」(石井さん) そもそもmRNAは不安定で、私たちの体の中に入っても長期間残るわけではありません。石井さんによると、mRNAは数日から1週間程度で分解されるため、長く体に残って悪影響を及ぼすことはまずあり得ないとのことです。変異株に対しても“重症化”を防ぐ効果はあるデルタ株などが猛威を振るうなか、ワクチンの変異株に対する効果についてどう考えればいいのでしょうか。イスラエルのデータによると、ファイザー製のワクチンを2回接種した場合、デルタ株に対する感染予防や発症予防の効果は64%に下がっていますが、入院・死亡の予防効果は93%とそれほど変わっていません。このデータから、変異株であっても重症化を防ぐ効果がワクチンにあることが読み取れます。デルタ株に対する効果/出典:アメリカCDCの資料拡大画像表示 変異株に対しても効果を維持している理由は、mRNAワクチンがヘルパーT細胞とキラーT細胞という2種類のT細胞を強く誘導するからだと石井さんは考えています。「ウイルスをやっつけるT細胞を非常に強く誘導していますので、ウイルスが変異して抗体が少し認識できなくなったとしても、免疫反応は十分だと考えています。ワクチンを打った方がデルタ株で重症化するということは、低い確率だと言われていますので、(デルタ株に効果がないのではということについて)今はそれほど心配する必要はありません」(石井さん)さらに、石井さんが強調するのは、ワクチン接種は自分を守るためだけではないということです。「ワクチンを打てば、自分自身はかなりの確率で感染や重症化のリスクを減らすことができます。そして、重要なのは、自分だけではなく家族や身近な人を守れるということがワクチンの大きな利益だということです。ワクチンを打つか打たないか、ご自身でよく考えて判断していただきたいと思いますが、このことがその判断の助けになるのではないかと思います」(石井さん)mRNAワクチン実用化までの長い道のり新型コロナウイルスの流行を受けて短期間で実用化されたmRNAワクチンですが、その研究の歴史は長く、1980年代にはmRNAを医薬品に使おうという研究がすでに始まっていました。そして、mRNAをワクチンとして使うためのブレークスルーを成し遂げたのが、ビオンテック社のカタリン・カリコ博士と米ペンシルベニア大学教授のドリュー・ワイスマン博士です。この発見によってノーベル賞の有力な候補に挙げられています。1980年代に考えられていたのは、「mRNAを人工的に作って細胞の中に運べば、薬などに利用できるタンパク質を作ることができる」ということでした。しかし、実際にmRNAを細胞に与えると、拒絶反応として激しい炎症が起き、細胞が死んでしまうことも分かっていました。多くの研究者はこのままでは薬として使うことは無理だと思っていたのです。その常識を覆して、拒絶反応を起こさない方法を見つけ出したのがカリコ博士とワイスマン博士でした。mRNAを構成する物質の1つ「ウリジン」を、「化学修飾」といわれる化学構造の飾りが付いたものに変えて細胞に与えると炎症が起きないことを発見したのです。2005年のことでした。これによってmRNAを人の体に投与するめどが立ちました。「ウリジン」(左)と「化学修飾されたウリジン」(右)/NHK提供拡大画像表示 この発表は世界中の研究者に大きなインパクトを与えましたが、当時、mRNAは非常に不安定で壊れやすいことに加え、人工的に作るのにお金がかかることもあり、ワクチンに使えると想像した人はほとんどいませんでした。しかし、カリコ博士たちは、この壊れやすい特徴が体の中に残らないという薬としての利点になると考え、さらに研究を続けます。そして2008年、炎症を抑えるだけでなくタンパク質を大量に作る方法を見つけたのです。「実験結果が出たとき、これまで夢みていた治療法、ワクチンやタンパク質治療薬、遺伝子治療などの可能性が開かれたと感じました」(ワイスマン博士)その後、カリコ博士はドイツの製薬ベンチャーのビオンテック社に迎えられ、この技術を使ってインフルエンザ用の新ワクチンやがんに対するワクチンの研究を進めていたところ、新型コロナウイルスのパンデミックが起きたのです。ビオンテック社でカリコ博士(右)たちがmRNAワクチンの開発を続けた/画像提供:BioNTechビオンテック社は新型コロナウイルスの遺伝情報が公開されるとすぐにmRNAワクチンの開発に着手。アメリカの大手製薬会社ファイザー社と提携し、大規模な臨床試験を行うとともに、ワクチンの大量生産を開始しました。こうしてわずか1年足らずで新型コロナウイルス用のmRNAワクチンが世界に向けて供給されるようになったのです。「学術界も小さなバイオテクノロジー企業も大企業もそれぞれがベストを尽くしました。今回はそれぞれが協力し合うことで、短期間でのワクチン開発が実現できたのです」(カリコ博士)国産のmRNAワクチンも実用化に向けて進んでいる新型コロナウイルスとの闘いが続くなか、日本でもさまざまなタイプのワクチンの開発が進められています。石井さんが製薬企業とともに行う「国産のmRNAワクチン」の開発は、来年末の実用化を目指して臨床試験が進められています。石井さんは国産ワクチン開発の意義をこのように訴えます。国産mRNAワクチンの開発が進む/NHK提供 「すでに海外のワクチンが入ってきていて必要ないじゃないかという方もいらっしゃると思います。ただ、次のパンデミックが起きたとき、ワクチンが足りないとなっても輸入できる保証はありません。自国の人を守るという意味では、国産のワクチンが必要です。また、新型コロナのワクチンを今後も定期的に打たなくてはならなくなった場合、国産のワクチンがあるというのは、安心なのではないでしょうか」(石井さん)さらに、石井さんはmRNAの技術はさまざまな分野に応用できると考えています。「mRNAで作れるものはたくさんあって、ワクチンと呼ばれているものにどんどん応用されていくと思います。特に、がんワクチンは応用される時期が早いと思います。それ以外の感染症のワクチン、例えばインフルエンザのワクチンでは臨床試験が進んでいますが、いずれmRNAに取って代わられるのではないかといわれています」(石井さん)20年以上の研究の積み重ねによって人類が手にすることができたmRNAワクチン。新型コロナ収束につなげるために、その効果と安全性を一人一人が正しく理解することが、求められています。
mRNAワクチンの場合では、この免疫反応がB細胞だけではなくヘルパーT細胞やキラーT細胞でも起きるために、強い副反応が出ると石井さんは考えています。キラーT細胞(イメージ)/NHK提供 「mRNAワクチンを接種するとヘルパーT細胞やキラーT細胞がしっかり誘導されるので、本当にウイルスに感染したときの反応のように、痛かったり腫れたり、発熱がよく起きます。一方、T細胞を強く誘導しないインフルエンザワクチンではこうした副反応がほとんど起きません」(石井さん)ほかの副反応も基本的にはワクチンに入っている物質が問題となって起きるのではなく、ウイルス感染の“まね”をして起きた炎症反応が原因と考えられると石井さんは話します。「不安の声が上がっている若い男性に起きる『心筋炎』ですが、ワクチン接種後に起きる頻度は、100万回接種に約10例程度と非常にまれです。ワクチンによって心筋炎が起きたのかどうかについても検討が続いているところです。ただ、理論的に体の中で炎症は起きていますので、心筋に炎症が起きて病気になるということは100%否定できない状況です。もともと心筋炎のリスクがある方やワクチンを打った後に心臓が痛くなったなどの場合は気を付けたほうがいいと考えています」(石井さん)さらに、長期的な影響を心配する声に対しては、石井さんはこのような説明をします。「mRNAワクチンを多くの人に打ち始めて半年しか経っていませんので、長期にわたって起こる副反応はまだ予測できない状況です。ただ、動物実験などを含めて、遺伝子が体の中に入ってしまうとか、それが原因でガンになってしまうという論文はありませんので、それほど心配する必要はないのではないかというのが、多くの研究者の意見です」(石井さん)ワクチンのmRNAが自分の体のDNAに組み込まれてしまい遺伝情報が書き換わってしまうのではないかという不安の声もありますが、その心配は要らないと石井さんはいいます。「私たちの体の中にはいろんなウイルスがいて、ものすごい数のウイルスのRNAとやりとりをしています。ただ、ウイルスが私たちの細胞の中のDNAを書き換えるということが起こらないような免疫システムが進化上できています。だから、遺伝子が書き換わることはないと考えていいのです」(石井さん) そもそもmRNAは不安定で、私たちの体の中に入っても長期間残るわけではありません。石井さんによると、mRNAは数日から1週間程度で分解されるため、長く体に残って悪影響を及ぼすことはまずあり得ないとのことです。変異株に対しても“重症化”を防ぐ効果はあるデルタ株などが猛威を振るうなか、ワクチンの変異株に対する効果についてどう考えればいいのでしょうか。イスラエルのデータによると、ファイザー製のワクチンを2回接種した場合、デルタ株に対する感染予防や発症予防の効果は64%に下がっていますが、入院・死亡の予防効果は93%とそれほど変わっていません。このデータから、変異株であっても重症化を防ぐ効果がワクチンにあることが読み取れます。デルタ株に対する効果/出典:アメリカCDCの資料拡大画像表示 変異株に対しても効果を維持している理由は、mRNAワクチンがヘルパーT細胞とキラーT細胞という2種類のT細胞を強く誘導するからだと石井さんは考えています。「ウイルスをやっつけるT細胞を非常に強く誘導していますので、ウイルスが変異して抗体が少し認識できなくなったとしても、免疫反応は十分だと考えています。ワクチンを打った方がデルタ株で重症化するということは、低い確率だと言われていますので、(デルタ株に効果がないのではということについて)今はそれほど心配する必要はありません」(石井さん)さらに、石井さんが強調するのは、ワクチン接種は自分を守るためだけではないということです。「ワクチンを打てば、自分自身はかなりの確率で感染や重症化のリスクを減らすことができます。そして、重要なのは、自分だけではなく家族や身近な人を守れるということがワクチンの大きな利益だということです。ワクチンを打つか打たないか、ご自身でよく考えて判断していただきたいと思いますが、このことがその判断の助けになるのではないかと思います」(石井さん)mRNAワクチン実用化までの長い道のり新型コロナウイルスの流行を受けて短期間で実用化されたmRNAワクチンですが、その研究の歴史は長く、1980年代にはmRNAを医薬品に使おうという研究がすでに始まっていました。そして、mRNAをワクチンとして使うためのブレークスルーを成し遂げたのが、ビオンテック社のカタリン・カリコ博士と米ペンシルベニア大学教授のドリュー・ワイスマン博士です。この発見によってノーベル賞の有力な候補に挙げられています。1980年代に考えられていたのは、「mRNAを人工的に作って細胞の中に運べば、薬などに利用できるタンパク質を作ることができる」ということでした。しかし、実際にmRNAを細胞に与えると、拒絶反応として激しい炎症が起き、細胞が死んでしまうことも分かっていました。多くの研究者はこのままでは薬として使うことは無理だと思っていたのです。その常識を覆して、拒絶反応を起こさない方法を見つけ出したのがカリコ博士とワイスマン博士でした。mRNAを構成する物質の1つ「ウリジン」を、「化学修飾」といわれる化学構造の飾りが付いたものに変えて細胞に与えると炎症が起きないことを発見したのです。2005年のことでした。これによってmRNAを人の体に投与するめどが立ちました。「ウリジン」(左)と「化学修飾されたウリジン」(右)/NHK提供拡大画像表示 この発表は世界中の研究者に大きなインパクトを与えましたが、当時、mRNAは非常に不安定で壊れやすいことに加え、人工的に作るのにお金がかかることもあり、ワクチンに使えると想像した人はほとんどいませんでした。しかし、カリコ博士たちは、この壊れやすい特徴が体の中に残らないという薬としての利点になると考え、さらに研究を続けます。そして2008年、炎症を抑えるだけでなくタンパク質を大量に作る方法を見つけたのです。「実験結果が出たとき、これまで夢みていた治療法、ワクチンやタンパク質治療薬、遺伝子治療などの可能性が開かれたと感じました」(ワイスマン博士)その後、カリコ博士はドイツの製薬ベンチャーのビオンテック社に迎えられ、この技術を使ってインフルエンザ用の新ワクチンやがんに対するワクチンの研究を進めていたところ、新型コロナウイルスのパンデミックが起きたのです。ビオンテック社でカリコ博士(右)たちがmRNAワクチンの開発を続けた/画像提供:BioNTechビオンテック社は新型コロナウイルスの遺伝情報が公開されるとすぐにmRNAワクチンの開発に着手。アメリカの大手製薬会社ファイザー社と提携し、大規模な臨床試験を行うとともに、ワクチンの大量生産を開始しました。こうしてわずか1年足らずで新型コロナウイルス用のmRNAワクチンが世界に向けて供給されるようになったのです。「学術界も小さなバイオテクノロジー企業も大企業もそれぞれがベストを尽くしました。今回はそれぞれが協力し合うことで、短期間でのワクチン開発が実現できたのです」(カリコ博士)国産のmRNAワクチンも実用化に向けて進んでいる新型コロナウイルスとの闘いが続くなか、日本でもさまざまなタイプのワクチンの開発が進められています。石井さんが製薬企業とともに行う「国産のmRNAワクチン」の開発は、来年末の実用化を目指して臨床試験が進められています。石井さんは国産ワクチン開発の意義をこのように訴えます。国産mRNAワクチンの開発が進む/NHK提供 「すでに海外のワクチンが入ってきていて必要ないじゃないかという方もいらっしゃると思います。ただ、次のパンデミックが起きたとき、ワクチンが足りないとなっても輸入できる保証はありません。自国の人を守るという意味では、国産のワクチンが必要です。また、新型コロナのワクチンを今後も定期的に打たなくてはならなくなった場合、国産のワクチンがあるというのは、安心なのではないでしょうか」(石井さん)さらに、石井さんはmRNAの技術はさまざまな分野に応用できると考えています。「mRNAで作れるものはたくさんあって、ワクチンと呼ばれているものにどんどん応用されていくと思います。特に、がんワクチンは応用される時期が早いと思います。それ以外の感染症のワクチン、例えばインフルエンザのワクチンでは臨床試験が進んでいますが、いずれmRNAに取って代わられるのではないかといわれています」(石井さん)20年以上の研究の積み重ねによって人類が手にすることができたmRNAワクチン。新型コロナ収束につなげるために、その効果と安全性を一人一人が正しく理解することが、求められています。
キラーT細胞(イメージ)/NHK提供 「mRNAワクチンを接種するとヘルパーT細胞やキラーT細胞がしっかり誘導されるので、本当にウイルスに感染したときの反応のように、痛かったり腫れたり、発熱がよく起きます。一方、T細胞を強く誘導しないインフルエンザワクチンではこうした副反応がほとんど起きません」(石井さん)ほかの副反応も基本的にはワクチンに入っている物質が問題となって起きるのではなく、ウイルス感染の“まね”をして起きた炎症反応が原因と考えられると石井さんは話します。「不安の声が上がっている若い男性に起きる『心筋炎』ですが、ワクチン接種後に起きる頻度は、100万回接種に約10例程度と非常にまれです。ワクチンによって心筋炎が起きたのかどうかについても検討が続いているところです。ただ、理論的に体の中で炎症は起きていますので、心筋に炎症が起きて病気になるということは100%否定できない状況です。もともと心筋炎のリスクがある方やワクチンを打った後に心臓が痛くなったなどの場合は気を付けたほうがいいと考えています」(石井さん)さらに、長期的な影響を心配する声に対しては、石井さんはこのような説明をします。「mRNAワクチンを多くの人に打ち始めて半年しか経っていませんので、長期にわたって起こる副反応はまだ予測できない状況です。ただ、動物実験などを含めて、遺伝子が体の中に入ってしまうとか、それが原因でガンになってしまうという論文はありませんので、それほど心配する必要はないのではないかというのが、多くの研究者の意見です」(石井さん)ワクチンのmRNAが自分の体のDNAに組み込まれてしまい遺伝情報が書き換わってしまうのではないかという不安の声もありますが、その心配は要らないと石井さんはいいます。「私たちの体の中にはいろんなウイルスがいて、ものすごい数のウイルスのRNAとやりとりをしています。ただ、ウイルスが私たちの細胞の中のDNAを書き換えるということが起こらないような免疫システムが進化上できています。だから、遺伝子が書き換わることはないと考えていいのです」(石井さん) そもそもmRNAは不安定で、私たちの体の中に入っても長期間残るわけではありません。石井さんによると、mRNAは数日から1週間程度で分解されるため、長く体に残って悪影響を及ぼすことはまずあり得ないとのことです。変異株に対しても“重症化”を防ぐ効果はあるデルタ株などが猛威を振るうなか、ワクチンの変異株に対する効果についてどう考えればいいのでしょうか。イスラエルのデータによると、ファイザー製のワクチンを2回接種した場合、デルタ株に対する感染予防や発症予防の効果は64%に下がっていますが、入院・死亡の予防効果は93%とそれほど変わっていません。このデータから、変異株であっても重症化を防ぐ効果がワクチンにあることが読み取れます。デルタ株に対する効果/出典:アメリカCDCの資料拡大画像表示 変異株に対しても効果を維持している理由は、mRNAワクチンがヘルパーT細胞とキラーT細胞という2種類のT細胞を強く誘導するからだと石井さんは考えています。「ウイルスをやっつけるT細胞を非常に強く誘導していますので、ウイルスが変異して抗体が少し認識できなくなったとしても、免疫反応は十分だと考えています。ワクチンを打った方がデルタ株で重症化するということは、低い確率だと言われていますので、(デルタ株に効果がないのではということについて)今はそれほど心配する必要はありません」(石井さん)さらに、石井さんが強調するのは、ワクチン接種は自分を守るためだけではないということです。「ワクチンを打てば、自分自身はかなりの確率で感染や重症化のリスクを減らすことができます。そして、重要なのは、自分だけではなく家族や身近な人を守れるということがワクチンの大きな利益だということです。ワクチンを打つか打たないか、ご自身でよく考えて判断していただきたいと思いますが、このことがその判断の助けになるのではないかと思います」(石井さん)mRNAワクチン実用化までの長い道のり新型コロナウイルスの流行を受けて短期間で実用化されたmRNAワクチンですが、その研究の歴史は長く、1980年代にはmRNAを医薬品に使おうという研究がすでに始まっていました。そして、mRNAをワクチンとして使うためのブレークスルーを成し遂げたのが、ビオンテック社のカタリン・カリコ博士と米ペンシルベニア大学教授のドリュー・ワイスマン博士です。この発見によってノーベル賞の有力な候補に挙げられています。1980年代に考えられていたのは、「mRNAを人工的に作って細胞の中に運べば、薬などに利用できるタンパク質を作ることができる」ということでした。しかし、実際にmRNAを細胞に与えると、拒絶反応として激しい炎症が起き、細胞が死んでしまうことも分かっていました。多くの研究者はこのままでは薬として使うことは無理だと思っていたのです。その常識を覆して、拒絶反応を起こさない方法を見つけ出したのがカリコ博士とワイスマン博士でした。mRNAを構成する物質の1つ「ウリジン」を、「化学修飾」といわれる化学構造の飾りが付いたものに変えて細胞に与えると炎症が起きないことを発見したのです。2005年のことでした。これによってmRNAを人の体に投与するめどが立ちました。「ウリジン」(左)と「化学修飾されたウリジン」(右)/NHK提供拡大画像表示 この発表は世界中の研究者に大きなインパクトを与えましたが、当時、mRNAは非常に不安定で壊れやすいことに加え、人工的に作るのにお金がかかることもあり、ワクチンに使えると想像した人はほとんどいませんでした。しかし、カリコ博士たちは、この壊れやすい特徴が体の中に残らないという薬としての利点になると考え、さらに研究を続けます。そして2008年、炎症を抑えるだけでなくタンパク質を大量に作る方法を見つけたのです。「実験結果が出たとき、これまで夢みていた治療法、ワクチンやタンパク質治療薬、遺伝子治療などの可能性が開かれたと感じました」(ワイスマン博士)その後、カリコ博士はドイツの製薬ベンチャーのビオンテック社に迎えられ、この技術を使ってインフルエンザ用の新ワクチンやがんに対するワクチンの研究を進めていたところ、新型コロナウイルスのパンデミックが起きたのです。ビオンテック社でカリコ博士(右)たちがmRNAワクチンの開発を続けた/画像提供:BioNTechビオンテック社は新型コロナウイルスの遺伝情報が公開されるとすぐにmRNAワクチンの開発に着手。アメリカの大手製薬会社ファイザー社と提携し、大規模な臨床試験を行うとともに、ワクチンの大量生産を開始しました。こうしてわずか1年足らずで新型コロナウイルス用のmRNAワクチンが世界に向けて供給されるようになったのです。「学術界も小さなバイオテクノロジー企業も大企業もそれぞれがベストを尽くしました。今回はそれぞれが協力し合うことで、短期間でのワクチン開発が実現できたのです」(カリコ博士)国産のmRNAワクチンも実用化に向けて進んでいる新型コロナウイルスとの闘いが続くなか、日本でもさまざまなタイプのワクチンの開発が進められています。石井さんが製薬企業とともに行う「国産のmRNAワクチン」の開発は、来年末の実用化を目指して臨床試験が進められています。石井さんは国産ワクチン開発の意義をこのように訴えます。国産mRNAワクチンの開発が進む/NHK提供 「すでに海外のワクチンが入ってきていて必要ないじゃないかという方もいらっしゃると思います。ただ、次のパンデミックが起きたとき、ワクチンが足りないとなっても輸入できる保証はありません。自国の人を守るという意味では、国産のワクチンが必要です。また、新型コロナのワクチンを今後も定期的に打たなくてはならなくなった場合、国産のワクチンがあるというのは、安心なのではないでしょうか」(石井さん)さらに、石井さんはmRNAの技術はさまざまな分野に応用できると考えています。「mRNAで作れるものはたくさんあって、ワクチンと呼ばれているものにどんどん応用されていくと思います。特に、がんワクチンは応用される時期が早いと思います。それ以外の感染症のワクチン、例えばインフルエンザのワクチンでは臨床試験が進んでいますが、いずれmRNAに取って代わられるのではないかといわれています」(石井さん)20年以上の研究の積み重ねによって人類が手にすることができたmRNAワクチン。新型コロナ収束につなげるために、その効果と安全性を一人一人が正しく理解することが、求められています。
「mRNAワクチンを接種するとヘルパーT細胞やキラーT細胞がしっかり誘導されるので、本当にウイルスに感染したときの反応のように、痛かったり腫れたり、発熱がよく起きます。一方、T細胞を強く誘導しないインフルエンザワクチンではこうした副反応がほとんど起きません」(石井さん)ほかの副反応も基本的にはワクチンに入っている物質が問題となって起きるのではなく、ウイルス感染の“まね”をして起きた炎症反応が原因と考えられると石井さんは話します。「不安の声が上がっている若い男性に起きる『心筋炎』ですが、ワクチン接種後に起きる頻度は、100万回接種に約10例程度と非常にまれです。ワクチンによって心筋炎が起きたのかどうかについても検討が続いているところです。ただ、理論的に体の中で炎症は起きていますので、心筋に炎症が起きて病気になるということは100%否定できない状況です。もともと心筋炎のリスクがある方やワクチンを打った後に心臓が痛くなったなどの場合は気を付けたほうがいいと考えています」(石井さん)さらに、長期的な影響を心配する声に対しては、石井さんはこのような説明をします。「mRNAワクチンを多くの人に打ち始めて半年しか経っていませんので、長期にわたって起こる副反応はまだ予測できない状況です。ただ、動物実験などを含めて、遺伝子が体の中に入ってしまうとか、それが原因でガンになってしまうという論文はありませんので、それほど心配する必要はないのではないかというのが、多くの研究者の意見です」(石井さん)ワクチンのmRNAが自分の体のDNAに組み込まれてしまい遺伝情報が書き換わってしまうのではないかという不安の声もありますが、その心配は要らないと石井さんはいいます。「私たちの体の中にはいろんなウイルスがいて、ものすごい数のウイルスのRNAとやりとりをしています。ただ、ウイルスが私たちの細胞の中のDNAを書き換えるということが起こらないような免疫システムが進化上できています。だから、遺伝子が書き換わることはないと考えていいのです」(石井さん) そもそもmRNAは不安定で、私たちの体の中に入っても長期間残るわけではありません。石井さんによると、mRNAは数日から1週間程度で分解されるため、長く体に残って悪影響を及ぼすことはまずあり得ないとのことです。変異株に対しても“重症化”を防ぐ効果はあるデルタ株などが猛威を振るうなか、ワクチンの変異株に対する効果についてどう考えればいいのでしょうか。イスラエルのデータによると、ファイザー製のワクチンを2回接種した場合、デルタ株に対する感染予防や発症予防の効果は64%に下がっていますが、入院・死亡の予防効果は93%とそれほど変わっていません。このデータから、変異株であっても重症化を防ぐ効果がワクチンにあることが読み取れます。デルタ株に対する効果/出典:アメリカCDCの資料拡大画像表示 変異株に対しても効果を維持している理由は、mRNAワクチンがヘルパーT細胞とキラーT細胞という2種類のT細胞を強く誘導するからだと石井さんは考えています。「ウイルスをやっつけるT細胞を非常に強く誘導していますので、ウイルスが変異して抗体が少し認識できなくなったとしても、免疫反応は十分だと考えています。ワクチンを打った方がデルタ株で重症化するということは、低い確率だと言われていますので、(デルタ株に効果がないのではということについて)今はそれほど心配する必要はありません」(石井さん)さらに、石井さんが強調するのは、ワクチン接種は自分を守るためだけではないということです。「ワクチンを打てば、自分自身はかなりの確率で感染や重症化のリスクを減らすことができます。そして、重要なのは、自分だけではなく家族や身近な人を守れるということがワクチンの大きな利益だということです。ワクチンを打つか打たないか、ご自身でよく考えて判断していただきたいと思いますが、このことがその判断の助けになるのではないかと思います」(石井さん)mRNAワクチン実用化までの長い道のり新型コロナウイルスの流行を受けて短期間で実用化されたmRNAワクチンですが、その研究の歴史は長く、1980年代にはmRNAを医薬品に使おうという研究がすでに始まっていました。そして、mRNAをワクチンとして使うためのブレークスルーを成し遂げたのが、ビオンテック社のカタリン・カリコ博士と米ペンシルベニア大学教授のドリュー・ワイスマン博士です。この発見によってノーベル賞の有力な候補に挙げられています。1980年代に考えられていたのは、「mRNAを人工的に作って細胞の中に運べば、薬などに利用できるタンパク質を作ることができる」ということでした。しかし、実際にmRNAを細胞に与えると、拒絶反応として激しい炎症が起き、細胞が死んでしまうことも分かっていました。多くの研究者はこのままでは薬として使うことは無理だと思っていたのです。その常識を覆して、拒絶反応を起こさない方法を見つけ出したのがカリコ博士とワイスマン博士でした。mRNAを構成する物質の1つ「ウリジン」を、「化学修飾」といわれる化学構造の飾りが付いたものに変えて細胞に与えると炎症が起きないことを発見したのです。2005年のことでした。これによってmRNAを人の体に投与するめどが立ちました。「ウリジン」(左)と「化学修飾されたウリジン」(右)/NHK提供拡大画像表示 この発表は世界中の研究者に大きなインパクトを与えましたが、当時、mRNAは非常に不安定で壊れやすいことに加え、人工的に作るのにお金がかかることもあり、ワクチンに使えると想像した人はほとんどいませんでした。しかし、カリコ博士たちは、この壊れやすい特徴が体の中に残らないという薬としての利点になると考え、さらに研究を続けます。そして2008年、炎症を抑えるだけでなくタンパク質を大量に作る方法を見つけたのです。「実験結果が出たとき、これまで夢みていた治療法、ワクチンやタンパク質治療薬、遺伝子治療などの可能性が開かれたと感じました」(ワイスマン博士)その後、カリコ博士はドイツの製薬ベンチャーのビオンテック社に迎えられ、この技術を使ってインフルエンザ用の新ワクチンやがんに対するワクチンの研究を進めていたところ、新型コロナウイルスのパンデミックが起きたのです。ビオンテック社でカリコ博士(右)たちがmRNAワクチンの開発を続けた/画像提供:BioNTechビオンテック社は新型コロナウイルスの遺伝情報が公開されるとすぐにmRNAワクチンの開発に着手。アメリカの大手製薬会社ファイザー社と提携し、大規模な臨床試験を行うとともに、ワクチンの大量生産を開始しました。こうしてわずか1年足らずで新型コロナウイルス用のmRNAワクチンが世界に向けて供給されるようになったのです。「学術界も小さなバイオテクノロジー企業も大企業もそれぞれがベストを尽くしました。今回はそれぞれが協力し合うことで、短期間でのワクチン開発が実現できたのです」(カリコ博士)国産のmRNAワクチンも実用化に向けて進んでいる新型コロナウイルスとの闘いが続くなか、日本でもさまざまなタイプのワクチンの開発が進められています。石井さんが製薬企業とともに行う「国産のmRNAワクチン」の開発は、来年末の実用化を目指して臨床試験が進められています。石井さんは国産ワクチン開発の意義をこのように訴えます。国産mRNAワクチンの開発が進む/NHK提供 「すでに海外のワクチンが入ってきていて必要ないじゃないかという方もいらっしゃると思います。ただ、次のパンデミックが起きたとき、ワクチンが足りないとなっても輸入できる保証はありません。自国の人を守るという意味では、国産のワクチンが必要です。また、新型コロナのワクチンを今後も定期的に打たなくてはならなくなった場合、国産のワクチンがあるというのは、安心なのではないでしょうか」(石井さん)さらに、石井さんはmRNAの技術はさまざまな分野に応用できると考えています。「mRNAで作れるものはたくさんあって、ワクチンと呼ばれているものにどんどん応用されていくと思います。特に、がんワクチンは応用される時期が早いと思います。それ以外の感染症のワクチン、例えばインフルエンザのワクチンでは臨床試験が進んでいますが、いずれmRNAに取って代わられるのではないかといわれています」(石井さん)20年以上の研究の積み重ねによって人類が手にすることができたmRNAワクチン。新型コロナ収束につなげるために、その効果と安全性を一人一人が正しく理解することが、求められています。
「mRNAワクチンを接種するとヘルパーT細胞やキラーT細胞がしっかり誘導されるので、本当にウイルスに感染したときの反応のように、痛かったり腫れたり、発熱がよく起きます。一方、T細胞を強く誘導しないインフルエンザワクチンではこうした副反応がほとんど起きません」(石井さん)ほかの副反応も基本的にはワクチンに入っている物質が問題となって起きるのではなく、ウイルス感染の“まね”をして起きた炎症反応が原因と考えられると石井さんは話します。「不安の声が上がっている若い男性に起きる『心筋炎』ですが、ワクチン接種後に起きる頻度は、100万回接種に約10例程度と非常にまれです。ワクチンによって心筋炎が起きたのかどうかについても検討が続いているところです。ただ、理論的に体の中で炎症は起きていますので、心筋に炎症が起きて病気になるということは100%否定できない状況です。もともと心筋炎のリスクがある方やワクチンを打った後に心臓が痛くなったなどの場合は気を付けたほうがいいと考えています」(石井さん)さらに、長期的な影響を心配する声に対しては、石井さんはこのような説明をします。「mRNAワクチンを多くの人に打ち始めて半年しか経っていませんので、長期にわたって起こる副反応はまだ予測できない状況です。ただ、動物実験などを含めて、遺伝子が体の中に入ってしまうとか、それが原因でガンになってしまうという論文はありませんので、それほど心配する必要はないのではないかというのが、多くの研究者の意見です」(石井さん)ワクチンのmRNAが自分の体のDNAに組み込まれてしまい遺伝情報が書き換わってしまうのではないかという不安の声もありますが、その心配は要らないと石井さんはいいます。「私たちの体の中にはいろんなウイルスがいて、ものすごい数のウイルスのRNAとやりとりをしています。ただ、ウイルスが私たちの細胞の中のDNAを書き換えるということが起こらないような免疫システムが進化上できています。だから、遺伝子が書き換わることはないと考えていいのです」(石井さん) そもそもmRNAは不安定で、私たちの体の中に入っても長期間残るわけではありません。石井さんによると、mRNAは数日から1週間程度で分解されるため、長く体に残って悪影響を及ぼすことはまずあり得ないとのことです。変異株に対しても“重症化”を防ぐ効果はあるデルタ株などが猛威を振るうなか、ワクチンの変異株に対する効果についてどう考えればいいのでしょうか。イスラエルのデータによると、ファイザー製のワクチンを2回接種した場合、デルタ株に対する感染予防や発症予防の効果は64%に下がっていますが、入院・死亡の予防効果は93%とそれほど変わっていません。このデータから、変異株であっても重症化を防ぐ効果がワクチンにあることが読み取れます。デルタ株に対する効果/出典:アメリカCDCの資料拡大画像表示 変異株に対しても効果を維持している理由は、mRNAワクチンがヘルパーT細胞とキラーT細胞という2種類のT細胞を強く誘導するからだと石井さんは考えています。「ウイルスをやっつけるT細胞を非常に強く誘導していますので、ウイルスが変異して抗体が少し認識できなくなったとしても、免疫反応は十分だと考えています。ワクチンを打った方がデルタ株で重症化するということは、低い確率だと言われていますので、(デルタ株に効果がないのではということについて)今はそれほど心配する必要はありません」(石井さん)さらに、石井さんが強調するのは、ワクチン接種は自分を守るためだけではないということです。「ワクチンを打てば、自分自身はかなりの確率で感染や重症化のリスクを減らすことができます。そして、重要なのは、自分だけではなく家族や身近な人を守れるということがワクチンの大きな利益だということです。ワクチンを打つか打たないか、ご自身でよく考えて判断していただきたいと思いますが、このことがその判断の助けになるのではないかと思います」(石井さん)mRNAワクチン実用化までの長い道のり新型コロナウイルスの流行を受けて短期間で実用化されたmRNAワクチンですが、その研究の歴史は長く、1980年代にはmRNAを医薬品に使おうという研究がすでに始まっていました。そして、mRNAをワクチンとして使うためのブレークスルーを成し遂げたのが、ビオンテック社のカタリン・カリコ博士と米ペンシルベニア大学教授のドリュー・ワイスマン博士です。この発見によってノーベル賞の有力な候補に挙げられています。1980年代に考えられていたのは、「mRNAを人工的に作って細胞の中に運べば、薬などに利用できるタンパク質を作ることができる」ということでした。しかし、実際にmRNAを細胞に与えると、拒絶反応として激しい炎症が起き、細胞が死んでしまうことも分かっていました。多くの研究者はこのままでは薬として使うことは無理だと思っていたのです。その常識を覆して、拒絶反応を起こさない方法を見つけ出したのがカリコ博士とワイスマン博士でした。mRNAを構成する物質の1つ「ウリジン」を、「化学修飾」といわれる化学構造の飾りが付いたものに変えて細胞に与えると炎症が起きないことを発見したのです。2005年のことでした。これによってmRNAを人の体に投与するめどが立ちました。「ウリジン」(左)と「化学修飾されたウリジン」(右)/NHK提供拡大画像表示 この発表は世界中の研究者に大きなインパクトを与えましたが、当時、mRNAは非常に不安定で壊れやすいことに加え、人工的に作るのにお金がかかることもあり、ワクチンに使えると想像した人はほとんどいませんでした。しかし、カリコ博士たちは、この壊れやすい特徴が体の中に残らないという薬としての利点になると考え、さらに研究を続けます。そして2008年、炎症を抑えるだけでなくタンパク質を大量に作る方法を見つけたのです。「実験結果が出たとき、これまで夢みていた治療法、ワクチンやタンパク質治療薬、遺伝子治療などの可能性が開かれたと感じました」(ワイスマン博士)その後、カリコ博士はドイツの製薬ベンチャーのビオンテック社に迎えられ、この技術を使ってインフルエンザ用の新ワクチンやがんに対するワクチンの研究を進めていたところ、新型コロナウイルスのパンデミックが起きたのです。ビオンテック社でカリコ博士(右)たちがmRNAワクチンの開発を続けた/画像提供:BioNTechビオンテック社は新型コロナウイルスの遺伝情報が公開されるとすぐにmRNAワクチンの開発に着手。アメリカの大手製薬会社ファイザー社と提携し、大規模な臨床試験を行うとともに、ワクチンの大量生産を開始しました。こうしてわずか1年足らずで新型コロナウイルス用のmRNAワクチンが世界に向けて供給されるようになったのです。「学術界も小さなバイオテクノロジー企業も大企業もそれぞれがベストを尽くしました。今回はそれぞれが協力し合うことで、短期間でのワクチン開発が実現できたのです」(カリコ博士)国産のmRNAワクチンも実用化に向けて進んでいる新型コロナウイルスとの闘いが続くなか、日本でもさまざまなタイプのワクチンの開発が進められています。石井さんが製薬企業とともに行う「国産のmRNAワクチン」の開発は、来年末の実用化を目指して臨床試験が進められています。石井さんは国産ワクチン開発の意義をこのように訴えます。国産mRNAワクチンの開発が進む/NHK提供 「すでに海外のワクチンが入ってきていて必要ないじゃないかという方もいらっしゃると思います。ただ、次のパンデミックが起きたとき、ワクチンが足りないとなっても輸入できる保証はありません。自国の人を守るという意味では、国産のワクチンが必要です。また、新型コロナのワクチンを今後も定期的に打たなくてはならなくなった場合、国産のワクチンがあるというのは、安心なのではないでしょうか」(石井さん)さらに、石井さんはmRNAの技術はさまざまな分野に応用できると考えています。「mRNAで作れるものはたくさんあって、ワクチンと呼ばれているものにどんどん応用されていくと思います。特に、がんワクチンは応用される時期が早いと思います。それ以外の感染症のワクチン、例えばインフルエンザのワクチンでは臨床試験が進んでいますが、いずれmRNAに取って代わられるのではないかといわれています」(石井さん)20年以上の研究の積み重ねによって人類が手にすることができたmRNAワクチン。新型コロナ収束につなげるために、その効果と安全性を一人一人が正しく理解することが、求められています。
ほかの副反応も基本的にはワクチンに入っている物質が問題となって起きるのではなく、ウイルス感染の“まね”をして起きた炎症反応が原因と考えられると石井さんは話します。「不安の声が上がっている若い男性に起きる『心筋炎』ですが、ワクチン接種後に起きる頻度は、100万回接種に約10例程度と非常にまれです。ワクチンによって心筋炎が起きたのかどうかについても検討が続いているところです。ただ、理論的に体の中で炎症は起きていますので、心筋に炎症が起きて病気になるということは100%否定できない状況です。もともと心筋炎のリスクがある方やワクチンを打った後に心臓が痛くなったなどの場合は気を付けたほうがいいと考えています」(石井さん)さらに、長期的な影響を心配する声に対しては、石井さんはこのような説明をします。「mRNAワクチンを多くの人に打ち始めて半年しか経っていませんので、長期にわたって起こる副反応はまだ予測できない状況です。ただ、動物実験などを含めて、遺伝子が体の中に入ってしまうとか、それが原因でガンになってしまうという論文はありませんので、それほど心配する必要はないのではないかというのが、多くの研究者の意見です」(石井さん)ワクチンのmRNAが自分の体のDNAに組み込まれてしまい遺伝情報が書き換わってしまうのではないかという不安の声もありますが、その心配は要らないと石井さんはいいます。「私たちの体の中にはいろんなウイルスがいて、ものすごい数のウイルスのRNAとやりとりをしています。ただ、ウイルスが私たちの細胞の中のDNAを書き換えるということが起こらないような免疫システムが進化上できています。だから、遺伝子が書き換わることはないと考えていいのです」(石井さん) そもそもmRNAは不安定で、私たちの体の中に入っても長期間残るわけではありません。石井さんによると、mRNAは数日から1週間程度で分解されるため、長く体に残って悪影響を及ぼすことはまずあり得ないとのことです。変異株に対しても“重症化”を防ぐ効果はあるデルタ株などが猛威を振るうなか、ワクチンの変異株に対する効果についてどう考えればいいのでしょうか。イスラエルのデータによると、ファイザー製のワクチンを2回接種した場合、デルタ株に対する感染予防や発症予防の効果は64%に下がっていますが、入院・死亡の予防効果は93%とそれほど変わっていません。このデータから、変異株であっても重症化を防ぐ効果がワクチンにあることが読み取れます。デルタ株に対する効果/出典:アメリカCDCの資料拡大画像表示 変異株に対しても効果を維持している理由は、mRNAワクチンがヘルパーT細胞とキラーT細胞という2種類のT細胞を強く誘導するからだと石井さんは考えています。「ウイルスをやっつけるT細胞を非常に強く誘導していますので、ウイルスが変異して抗体が少し認識できなくなったとしても、免疫反応は十分だと考えています。ワクチンを打った方がデルタ株で重症化するということは、低い確率だと言われていますので、(デルタ株に効果がないのではということについて)今はそれほど心配する必要はありません」(石井さん)さらに、石井さんが強調するのは、ワクチン接種は自分を守るためだけではないということです。「ワクチンを打てば、自分自身はかなりの確率で感染や重症化のリスクを減らすことができます。そして、重要なのは、自分だけではなく家族や身近な人を守れるということがワクチンの大きな利益だということです。ワクチンを打つか打たないか、ご自身でよく考えて判断していただきたいと思いますが、このことがその判断の助けになるのではないかと思います」(石井さん)mRNAワクチン実用化までの長い道のり新型コロナウイルスの流行を受けて短期間で実用化されたmRNAワクチンですが、その研究の歴史は長く、1980年代にはmRNAを医薬品に使おうという研究がすでに始まっていました。そして、mRNAをワクチンとして使うためのブレークスルーを成し遂げたのが、ビオンテック社のカタリン・カリコ博士と米ペンシルベニア大学教授のドリュー・ワイスマン博士です。この発見によってノーベル賞の有力な候補に挙げられています。1980年代に考えられていたのは、「mRNAを人工的に作って細胞の中に運べば、薬などに利用できるタンパク質を作ることができる」ということでした。しかし、実際にmRNAを細胞に与えると、拒絶反応として激しい炎症が起き、細胞が死んでしまうことも分かっていました。多くの研究者はこのままでは薬として使うことは無理だと思っていたのです。その常識を覆して、拒絶反応を起こさない方法を見つけ出したのがカリコ博士とワイスマン博士でした。mRNAを構成する物質の1つ「ウリジン」を、「化学修飾」といわれる化学構造の飾りが付いたものに変えて細胞に与えると炎症が起きないことを発見したのです。2005年のことでした。これによってmRNAを人の体に投与するめどが立ちました。「ウリジン」(左)と「化学修飾されたウリジン」(右)/NHK提供拡大画像表示 この発表は世界中の研究者に大きなインパクトを与えましたが、当時、mRNAは非常に不安定で壊れやすいことに加え、人工的に作るのにお金がかかることもあり、ワクチンに使えると想像した人はほとんどいませんでした。しかし、カリコ博士たちは、この壊れやすい特徴が体の中に残らないという薬としての利点になると考え、さらに研究を続けます。そして2008年、炎症を抑えるだけでなくタンパク質を大量に作る方法を見つけたのです。「実験結果が出たとき、これまで夢みていた治療法、ワクチンやタンパク質治療薬、遺伝子治療などの可能性が開かれたと感じました」(ワイスマン博士)その後、カリコ博士はドイツの製薬ベンチャーのビオンテック社に迎えられ、この技術を使ってインフルエンザ用の新ワクチンやがんに対するワクチンの研究を進めていたところ、新型コロナウイルスのパンデミックが起きたのです。ビオンテック社でカリコ博士(右)たちがmRNAワクチンの開発を続けた/画像提供:BioNTechビオンテック社は新型コロナウイルスの遺伝情報が公開されるとすぐにmRNAワクチンの開発に着手。アメリカの大手製薬会社ファイザー社と提携し、大規模な臨床試験を行うとともに、ワクチンの大量生産を開始しました。こうしてわずか1年足らずで新型コロナウイルス用のmRNAワクチンが世界に向けて供給されるようになったのです。「学術界も小さなバイオテクノロジー企業も大企業もそれぞれがベストを尽くしました。今回はそれぞれが協力し合うことで、短期間でのワクチン開発が実現できたのです」(カリコ博士)国産のmRNAワクチンも実用化に向けて進んでいる新型コロナウイルスとの闘いが続くなか、日本でもさまざまなタイプのワクチンの開発が進められています。石井さんが製薬企業とともに行う「国産のmRNAワクチン」の開発は、来年末の実用化を目指して臨床試験が進められています。石井さんは国産ワクチン開発の意義をこのように訴えます。国産mRNAワクチンの開発が進む/NHK提供 「すでに海外のワクチンが入ってきていて必要ないじゃないかという方もいらっしゃると思います。ただ、次のパンデミックが起きたとき、ワクチンが足りないとなっても輸入できる保証はありません。自国の人を守るという意味では、国産のワクチンが必要です。また、新型コロナのワクチンを今後も定期的に打たなくてはならなくなった場合、国産のワクチンがあるというのは、安心なのではないでしょうか」(石井さん)さらに、石井さんはmRNAの技術はさまざまな分野に応用できると考えています。「mRNAで作れるものはたくさんあって、ワクチンと呼ばれているものにどんどん応用されていくと思います。特に、がんワクチンは応用される時期が早いと思います。それ以外の感染症のワクチン、例えばインフルエンザのワクチンでは臨床試験が進んでいますが、いずれmRNAに取って代わられるのではないかといわれています」(石井さん)20年以上の研究の積み重ねによって人類が手にすることができたmRNAワクチン。新型コロナ収束につなげるために、その効果と安全性を一人一人が正しく理解することが、求められています。
「不安の声が上がっている若い男性に起きる『心筋炎』ですが、ワクチン接種後に起きる頻度は、100万回接種に約10例程度と非常にまれです。ワクチンによって心筋炎が起きたのかどうかについても検討が続いているところです。ただ、理論的に体の中で炎症は起きていますので、心筋に炎症が起きて病気になるということは100%否定できない状況です。もともと心筋炎のリスクがある方やワクチンを打った後に心臓が痛くなったなどの場合は気を付けたほうがいいと考えています」(石井さん)さらに、長期的な影響を心配する声に対しては、石井さんはこのような説明をします。「mRNAワクチンを多くの人に打ち始めて半年しか経っていませんので、長期にわたって起こる副反応はまだ予測できない状況です。ただ、動物実験などを含めて、遺伝子が体の中に入ってしまうとか、それが原因でガンになってしまうという論文はありませんので、それほど心配する必要はないのではないかというのが、多くの研究者の意見です」(石井さん)ワクチンのmRNAが自分の体のDNAに組み込まれてしまい遺伝情報が書き換わってしまうのではないかという不安の声もありますが、その心配は要らないと石井さんはいいます。「私たちの体の中にはいろんなウイルスがいて、ものすごい数のウイルスのRNAとやりとりをしています。ただ、ウイルスが私たちの細胞の中のDNAを書き換えるということが起こらないような免疫システムが進化上できています。だから、遺伝子が書き換わることはないと考えていいのです」(石井さん) そもそもmRNAは不安定で、私たちの体の中に入っても長期間残るわけではありません。石井さんによると、mRNAは数日から1週間程度で分解されるため、長く体に残って悪影響を及ぼすことはまずあり得ないとのことです。変異株に対しても“重症化”を防ぐ効果はあるデルタ株などが猛威を振るうなか、ワクチンの変異株に対する効果についてどう考えればいいのでしょうか。イスラエルのデータによると、ファイザー製のワクチンを2回接種した場合、デルタ株に対する感染予防や発症予防の効果は64%に下がっていますが、入院・死亡の予防効果は93%とそれほど変わっていません。このデータから、変異株であっても重症化を防ぐ効果がワクチンにあることが読み取れます。デルタ株に対する効果/出典:アメリカCDCの資料拡大画像表示 変異株に対しても効果を維持している理由は、mRNAワクチンがヘルパーT細胞とキラーT細胞という2種類のT細胞を強く誘導するからだと石井さんは考えています。「ウイルスをやっつけるT細胞を非常に強く誘導していますので、ウイルスが変異して抗体が少し認識できなくなったとしても、免疫反応は十分だと考えています。ワクチンを打った方がデルタ株で重症化するということは、低い確率だと言われていますので、(デルタ株に効果がないのではということについて)今はそれほど心配する必要はありません」(石井さん)さらに、石井さんが強調するのは、ワクチン接種は自分を守るためだけではないということです。「ワクチンを打てば、自分自身はかなりの確率で感染や重症化のリスクを減らすことができます。そして、重要なのは、自分だけではなく家族や身近な人を守れるということがワクチンの大きな利益だということです。ワクチンを打つか打たないか、ご自身でよく考えて判断していただきたいと思いますが、このことがその判断の助けになるのではないかと思います」(石井さん)mRNAワクチン実用化までの長い道のり新型コロナウイルスの流行を受けて短期間で実用化されたmRNAワクチンですが、その研究の歴史は長く、1980年代にはmRNAを医薬品に使おうという研究がすでに始まっていました。そして、mRNAをワクチンとして使うためのブレークスルーを成し遂げたのが、ビオンテック社のカタリン・カリコ博士と米ペンシルベニア大学教授のドリュー・ワイスマン博士です。この発見によってノーベル賞の有力な候補に挙げられています。1980年代に考えられていたのは、「mRNAを人工的に作って細胞の中に運べば、薬などに利用できるタンパク質を作ることができる」ということでした。しかし、実際にmRNAを細胞に与えると、拒絶反応として激しい炎症が起き、細胞が死んでしまうことも分かっていました。多くの研究者はこのままでは薬として使うことは無理だと思っていたのです。その常識を覆して、拒絶反応を起こさない方法を見つけ出したのがカリコ博士とワイスマン博士でした。mRNAを構成する物質の1つ「ウリジン」を、「化学修飾」といわれる化学構造の飾りが付いたものに変えて細胞に与えると炎症が起きないことを発見したのです。2005年のことでした。これによってmRNAを人の体に投与するめどが立ちました。「ウリジン」(左)と「化学修飾されたウリジン」(右)/NHK提供拡大画像表示 この発表は世界中の研究者に大きなインパクトを与えましたが、当時、mRNAは非常に不安定で壊れやすいことに加え、人工的に作るのにお金がかかることもあり、ワクチンに使えると想像した人はほとんどいませんでした。しかし、カリコ博士たちは、この壊れやすい特徴が体の中に残らないという薬としての利点になると考え、さらに研究を続けます。そして2008年、炎症を抑えるだけでなくタンパク質を大量に作る方法を見つけたのです。「実験結果が出たとき、これまで夢みていた治療法、ワクチンやタンパク質治療薬、遺伝子治療などの可能性が開かれたと感じました」(ワイスマン博士)その後、カリコ博士はドイツの製薬ベンチャーのビオンテック社に迎えられ、この技術を使ってインフルエンザ用の新ワクチンやがんに対するワクチンの研究を進めていたところ、新型コロナウイルスのパンデミックが起きたのです。ビオンテック社でカリコ博士(右)たちがmRNAワクチンの開発を続けた/画像提供:BioNTechビオンテック社は新型コロナウイルスの遺伝情報が公開されるとすぐにmRNAワクチンの開発に着手。アメリカの大手製薬会社ファイザー社と提携し、大規模な臨床試験を行うとともに、ワクチンの大量生産を開始しました。こうしてわずか1年足らずで新型コロナウイルス用のmRNAワクチンが世界に向けて供給されるようになったのです。「学術界も小さなバイオテクノロジー企業も大企業もそれぞれがベストを尽くしました。今回はそれぞれが協力し合うことで、短期間でのワクチン開発が実現できたのです」(カリコ博士)国産のmRNAワクチンも実用化に向けて進んでいる新型コロナウイルスとの闘いが続くなか、日本でもさまざまなタイプのワクチンの開発が進められています。石井さんが製薬企業とともに行う「国産のmRNAワクチン」の開発は、来年末の実用化を目指して臨床試験が進められています。石井さんは国産ワクチン開発の意義をこのように訴えます。国産mRNAワクチンの開発が進む/NHK提供 「すでに海外のワクチンが入ってきていて必要ないじゃないかという方もいらっしゃると思います。ただ、次のパンデミックが起きたとき、ワクチンが足りないとなっても輸入できる保証はありません。自国の人を守るという意味では、国産のワクチンが必要です。また、新型コロナのワクチンを今後も定期的に打たなくてはならなくなった場合、国産のワクチンがあるというのは、安心なのではないでしょうか」(石井さん)さらに、石井さんはmRNAの技術はさまざまな分野に応用できると考えています。「mRNAで作れるものはたくさんあって、ワクチンと呼ばれているものにどんどん応用されていくと思います。特に、がんワクチンは応用される時期が早いと思います。それ以外の感染症のワクチン、例えばインフルエンザのワクチンでは臨床試験が進んでいますが、いずれmRNAに取って代わられるのではないかといわれています」(石井さん)20年以上の研究の積み重ねによって人類が手にすることができたmRNAワクチン。新型コロナ収束につなげるために、その効果と安全性を一人一人が正しく理解することが、求められています。
ただ、理論的に体の中で炎症は起きていますので、心筋に炎症が起きて病気になるということは100%否定できない状況です。もともと心筋炎のリスクがある方やワクチンを打った後に心臓が痛くなったなどの場合は気を付けたほうがいいと考えています」(石井さん)さらに、長期的な影響を心配する声に対しては、石井さんはこのような説明をします。「mRNAワクチンを多くの人に打ち始めて半年しか経っていませんので、長期にわたって起こる副反応はまだ予測できない状況です。ただ、動物実験などを含めて、遺伝子が体の中に入ってしまうとか、それが原因でガンになってしまうという論文はありませんので、それほど心配する必要はないのではないかというのが、多くの研究者の意見です」(石井さん)ワクチンのmRNAが自分の体のDNAに組み込まれてしまい遺伝情報が書き換わってしまうのではないかという不安の声もありますが、その心配は要らないと石井さんはいいます。「私たちの体の中にはいろんなウイルスがいて、ものすごい数のウイルスのRNAとやりとりをしています。ただ、ウイルスが私たちの細胞の中のDNAを書き換えるということが起こらないような免疫システムが進化上できています。だから、遺伝子が書き換わることはないと考えていいのです」(石井さん) そもそもmRNAは不安定で、私たちの体の中に入っても長期間残るわけではありません。石井さんによると、mRNAは数日から1週間程度で分解されるため、長く体に残って悪影響を及ぼすことはまずあり得ないとのことです。変異株に対しても“重症化”を防ぐ効果はあるデルタ株などが猛威を振るうなか、ワクチンの変異株に対する効果についてどう考えればいいのでしょうか。イスラエルのデータによると、ファイザー製のワクチンを2回接種した場合、デルタ株に対する感染予防や発症予防の効果は64%に下がっていますが、入院・死亡の予防効果は93%とそれほど変わっていません。このデータから、変異株であっても重症化を防ぐ効果がワクチンにあることが読み取れます。デルタ株に対する効果/出典:アメリカCDCの資料拡大画像表示 変異株に対しても効果を維持している理由は、mRNAワクチンがヘルパーT細胞とキラーT細胞という2種類のT細胞を強く誘導するからだと石井さんは考えています。「ウイルスをやっつけるT細胞を非常に強く誘導していますので、ウイルスが変異して抗体が少し認識できなくなったとしても、免疫反応は十分だと考えています。ワクチンを打った方がデルタ株で重症化するということは、低い確率だと言われていますので、(デルタ株に効果がないのではということについて)今はそれほど心配する必要はありません」(石井さん)さらに、石井さんが強調するのは、ワクチン接種は自分を守るためだけではないということです。「ワクチンを打てば、自分自身はかなりの確率で感染や重症化のリスクを減らすことができます。そして、重要なのは、自分だけではなく家族や身近な人を守れるということがワクチンの大きな利益だということです。ワクチンを打つか打たないか、ご自身でよく考えて判断していただきたいと思いますが、このことがその判断の助けになるのではないかと思います」(石井さん)mRNAワクチン実用化までの長い道のり新型コロナウイルスの流行を受けて短期間で実用化されたmRNAワクチンですが、その研究の歴史は長く、1980年代にはmRNAを医薬品に使おうという研究がすでに始まっていました。そして、mRNAをワクチンとして使うためのブレークスルーを成し遂げたのが、ビオンテック社のカタリン・カリコ博士と米ペンシルベニア大学教授のドリュー・ワイスマン博士です。この発見によってノーベル賞の有力な候補に挙げられています。1980年代に考えられていたのは、「mRNAを人工的に作って細胞の中に運べば、薬などに利用できるタンパク質を作ることができる」ということでした。しかし、実際にmRNAを細胞に与えると、拒絶反応として激しい炎症が起き、細胞が死んでしまうことも分かっていました。多くの研究者はこのままでは薬として使うことは無理だと思っていたのです。その常識を覆して、拒絶反応を起こさない方法を見つけ出したのがカリコ博士とワイスマン博士でした。mRNAを構成する物質の1つ「ウリジン」を、「化学修飾」といわれる化学構造の飾りが付いたものに変えて細胞に与えると炎症が起きないことを発見したのです。2005年のことでした。これによってmRNAを人の体に投与するめどが立ちました。「ウリジン」(左)と「化学修飾されたウリジン」(右)/NHK提供拡大画像表示 この発表は世界中の研究者に大きなインパクトを与えましたが、当時、mRNAは非常に不安定で壊れやすいことに加え、人工的に作るのにお金がかかることもあり、ワクチンに使えると想像した人はほとんどいませんでした。しかし、カリコ博士たちは、この壊れやすい特徴が体の中に残らないという薬としての利点になると考え、さらに研究を続けます。そして2008年、炎症を抑えるだけでなくタンパク質を大量に作る方法を見つけたのです。「実験結果が出たとき、これまで夢みていた治療法、ワクチンやタンパク質治療薬、遺伝子治療などの可能性が開かれたと感じました」(ワイスマン博士)その後、カリコ博士はドイツの製薬ベンチャーのビオンテック社に迎えられ、この技術を使ってインフルエンザ用の新ワクチンやがんに対するワクチンの研究を進めていたところ、新型コロナウイルスのパンデミックが起きたのです。ビオンテック社でカリコ博士(右)たちがmRNAワクチンの開発を続けた/画像提供:BioNTechビオンテック社は新型コロナウイルスの遺伝情報が公開されるとすぐにmRNAワクチンの開発に着手。アメリカの大手製薬会社ファイザー社と提携し、大規模な臨床試験を行うとともに、ワクチンの大量生産を開始しました。こうしてわずか1年足らずで新型コロナウイルス用のmRNAワクチンが世界に向けて供給されるようになったのです。「学術界も小さなバイオテクノロジー企業も大企業もそれぞれがベストを尽くしました。今回はそれぞれが協力し合うことで、短期間でのワクチン開発が実現できたのです」(カリコ博士)国産のmRNAワクチンも実用化に向けて進んでいる新型コロナウイルスとの闘いが続くなか、日本でもさまざまなタイプのワクチンの開発が進められています。石井さんが製薬企業とともに行う「国産のmRNAワクチン」の開発は、来年末の実用化を目指して臨床試験が進められています。石井さんは国産ワクチン開発の意義をこのように訴えます。国産mRNAワクチンの開発が進む/NHK提供 「すでに海外のワクチンが入ってきていて必要ないじゃないかという方もいらっしゃると思います。ただ、次のパンデミックが起きたとき、ワクチンが足りないとなっても輸入できる保証はありません。自国の人を守るという意味では、国産のワクチンが必要です。また、新型コロナのワクチンを今後も定期的に打たなくてはならなくなった場合、国産のワクチンがあるというのは、安心なのではないでしょうか」(石井さん)さらに、石井さんはmRNAの技術はさまざまな分野に応用できると考えています。「mRNAで作れるものはたくさんあって、ワクチンと呼ばれているものにどんどん応用されていくと思います。特に、がんワクチンは応用される時期が早いと思います。それ以外の感染症のワクチン、例えばインフルエンザのワクチンでは臨床試験が進んでいますが、いずれmRNAに取って代わられるのではないかといわれています」(石井さん)20年以上の研究の積み重ねによって人類が手にすることができたmRNAワクチン。新型コロナ収束につなげるために、その効果と安全性を一人一人が正しく理解することが、求められています。
さらに、長期的な影響を心配する声に対しては、石井さんはこのような説明をします。「mRNAワクチンを多くの人に打ち始めて半年しか経っていませんので、長期にわたって起こる副反応はまだ予測できない状況です。ただ、動物実験などを含めて、遺伝子が体の中に入ってしまうとか、それが原因でガンになってしまうという論文はありませんので、それほど心配する必要はないのではないかというのが、多くの研究者の意見です」(石井さん)ワクチンのmRNAが自分の体のDNAに組み込まれてしまい遺伝情報が書き換わってしまうのではないかという不安の声もありますが、その心配は要らないと石井さんはいいます。「私たちの体の中にはいろんなウイルスがいて、ものすごい数のウイルスのRNAとやりとりをしています。ただ、ウイルスが私たちの細胞の中のDNAを書き換えるということが起こらないような免疫システムが進化上できています。だから、遺伝子が書き換わることはないと考えていいのです」(石井さん) そもそもmRNAは不安定で、私たちの体の中に入っても長期間残るわけではありません。石井さんによると、mRNAは数日から1週間程度で分解されるため、長く体に残って悪影響を及ぼすことはまずあり得ないとのことです。変異株に対しても“重症化”を防ぐ効果はあるデルタ株などが猛威を振るうなか、ワクチンの変異株に対する効果についてどう考えればいいのでしょうか。イスラエルのデータによると、ファイザー製のワクチンを2回接種した場合、デルタ株に対する感染予防や発症予防の効果は64%に下がっていますが、入院・死亡の予防効果は93%とそれほど変わっていません。このデータから、変異株であっても重症化を防ぐ効果がワクチンにあることが読み取れます。デルタ株に対する効果/出典:アメリカCDCの資料拡大画像表示 変異株に対しても効果を維持している理由は、mRNAワクチンがヘルパーT細胞とキラーT細胞という2種類のT細胞を強く誘導するからだと石井さんは考えています。「ウイルスをやっつけるT細胞を非常に強く誘導していますので、ウイルスが変異して抗体が少し認識できなくなったとしても、免疫反応は十分だと考えています。ワクチンを打った方がデルタ株で重症化するということは、低い確率だと言われていますので、(デルタ株に効果がないのではということについて)今はそれほど心配する必要はありません」(石井さん)さらに、石井さんが強調するのは、ワクチン接種は自分を守るためだけではないということです。「ワクチンを打てば、自分自身はかなりの確率で感染や重症化のリスクを減らすことができます。そして、重要なのは、自分だけではなく家族や身近な人を守れるということがワクチンの大きな利益だということです。ワクチンを打つか打たないか、ご自身でよく考えて判断していただきたいと思いますが、このことがその判断の助けになるのではないかと思います」(石井さん)mRNAワクチン実用化までの長い道のり新型コロナウイルスの流行を受けて短期間で実用化されたmRNAワクチンですが、その研究の歴史は長く、1980年代にはmRNAを医薬品に使おうという研究がすでに始まっていました。そして、mRNAをワクチンとして使うためのブレークスルーを成し遂げたのが、ビオンテック社のカタリン・カリコ博士と米ペンシルベニア大学教授のドリュー・ワイスマン博士です。この発見によってノーベル賞の有力な候補に挙げられています。1980年代に考えられていたのは、「mRNAを人工的に作って細胞の中に運べば、薬などに利用できるタンパク質を作ることができる」ということでした。しかし、実際にmRNAを細胞に与えると、拒絶反応として激しい炎症が起き、細胞が死んでしまうことも分かっていました。多くの研究者はこのままでは薬として使うことは無理だと思っていたのです。その常識を覆して、拒絶反応を起こさない方法を見つけ出したのがカリコ博士とワイスマン博士でした。mRNAを構成する物質の1つ「ウリジン」を、「化学修飾」といわれる化学構造の飾りが付いたものに変えて細胞に与えると炎症が起きないことを発見したのです。2005年のことでした。これによってmRNAを人の体に投与するめどが立ちました。「ウリジン」(左)と「化学修飾されたウリジン」(右)/NHK提供拡大画像表示 この発表は世界中の研究者に大きなインパクトを与えましたが、当時、mRNAは非常に不安定で壊れやすいことに加え、人工的に作るのにお金がかかることもあり、ワクチンに使えると想像した人はほとんどいませんでした。しかし、カリコ博士たちは、この壊れやすい特徴が体の中に残らないという薬としての利点になると考え、さらに研究を続けます。そして2008年、炎症を抑えるだけでなくタンパク質を大量に作る方法を見つけたのです。「実験結果が出たとき、これまで夢みていた治療法、ワクチンやタンパク質治療薬、遺伝子治療などの可能性が開かれたと感じました」(ワイスマン博士)その後、カリコ博士はドイツの製薬ベンチャーのビオンテック社に迎えられ、この技術を使ってインフルエンザ用の新ワクチンやがんに対するワクチンの研究を進めていたところ、新型コロナウイルスのパンデミックが起きたのです。ビオンテック社でカリコ博士(右)たちがmRNAワクチンの開発を続けた/画像提供:BioNTechビオンテック社は新型コロナウイルスの遺伝情報が公開されるとすぐにmRNAワクチンの開発に着手。アメリカの大手製薬会社ファイザー社と提携し、大規模な臨床試験を行うとともに、ワクチンの大量生産を開始しました。こうしてわずか1年足らずで新型コロナウイルス用のmRNAワクチンが世界に向けて供給されるようになったのです。「学術界も小さなバイオテクノロジー企業も大企業もそれぞれがベストを尽くしました。今回はそれぞれが協力し合うことで、短期間でのワクチン開発が実現できたのです」(カリコ博士)国産のmRNAワクチンも実用化に向けて進んでいる新型コロナウイルスとの闘いが続くなか、日本でもさまざまなタイプのワクチンの開発が進められています。石井さんが製薬企業とともに行う「国産のmRNAワクチン」の開発は、来年末の実用化を目指して臨床試験が進められています。石井さんは国産ワクチン開発の意義をこのように訴えます。国産mRNAワクチンの開発が進む/NHK提供 「すでに海外のワクチンが入ってきていて必要ないじゃないかという方もいらっしゃると思います。ただ、次のパンデミックが起きたとき、ワクチンが足りないとなっても輸入できる保証はありません。自国の人を守るという意味では、国産のワクチンが必要です。また、新型コロナのワクチンを今後も定期的に打たなくてはならなくなった場合、国産のワクチンがあるというのは、安心なのではないでしょうか」(石井さん)さらに、石井さんはmRNAの技術はさまざまな分野に応用できると考えています。「mRNAで作れるものはたくさんあって、ワクチンと呼ばれているものにどんどん応用されていくと思います。特に、がんワクチンは応用される時期が早いと思います。それ以外の感染症のワクチン、例えばインフルエンザのワクチンでは臨床試験が進んでいますが、いずれmRNAに取って代わられるのではないかといわれています」(石井さん)20年以上の研究の積み重ねによって人類が手にすることができたmRNAワクチン。新型コロナ収束につなげるために、その効果と安全性を一人一人が正しく理解することが、求められています。
「mRNAワクチンを多くの人に打ち始めて半年しか経っていませんので、長期にわたって起こる副反応はまだ予測できない状況です。ただ、動物実験などを含めて、遺伝子が体の中に入ってしまうとか、それが原因でガンになってしまうという論文はありませんので、それほど心配する必要はないのではないかというのが、多くの研究者の意見です」(石井さん)ワクチンのmRNAが自分の体のDNAに組み込まれてしまい遺伝情報が書き換わってしまうのではないかという不安の声もありますが、その心配は要らないと石井さんはいいます。「私たちの体の中にはいろんなウイルスがいて、ものすごい数のウイルスのRNAとやりとりをしています。ただ、ウイルスが私たちの細胞の中のDNAを書き換えるということが起こらないような免疫システムが進化上できています。だから、遺伝子が書き換わることはないと考えていいのです」(石井さん) そもそもmRNAは不安定で、私たちの体の中に入っても長期間残るわけではありません。石井さんによると、mRNAは数日から1週間程度で分解されるため、長く体に残って悪影響を及ぼすことはまずあり得ないとのことです。変異株に対しても“重症化”を防ぐ効果はあるデルタ株などが猛威を振るうなか、ワクチンの変異株に対する効果についてどう考えればいいのでしょうか。イスラエルのデータによると、ファイザー製のワクチンを2回接種した場合、デルタ株に対する感染予防や発症予防の効果は64%に下がっていますが、入院・死亡の予防効果は93%とそれほど変わっていません。このデータから、変異株であっても重症化を防ぐ効果がワクチンにあることが読み取れます。デルタ株に対する効果/出典:アメリカCDCの資料拡大画像表示 変異株に対しても効果を維持している理由は、mRNAワクチンがヘルパーT細胞とキラーT細胞という2種類のT細胞を強く誘導するからだと石井さんは考えています。「ウイルスをやっつけるT細胞を非常に強く誘導していますので、ウイルスが変異して抗体が少し認識できなくなったとしても、免疫反応は十分だと考えています。ワクチンを打った方がデルタ株で重症化するということは、低い確率だと言われていますので、(デルタ株に効果がないのではということについて)今はそれほど心配する必要はありません」(石井さん)さらに、石井さんが強調するのは、ワクチン接種は自分を守るためだけではないということです。「ワクチンを打てば、自分自身はかなりの確率で感染や重症化のリスクを減らすことができます。そして、重要なのは、自分だけではなく家族や身近な人を守れるということがワクチンの大きな利益だということです。ワクチンを打つか打たないか、ご自身でよく考えて判断していただきたいと思いますが、このことがその判断の助けになるのではないかと思います」(石井さん)mRNAワクチン実用化までの長い道のり新型コロナウイルスの流行を受けて短期間で実用化されたmRNAワクチンですが、その研究の歴史は長く、1980年代にはmRNAを医薬品に使おうという研究がすでに始まっていました。そして、mRNAをワクチンとして使うためのブレークスルーを成し遂げたのが、ビオンテック社のカタリン・カリコ博士と米ペンシルベニア大学教授のドリュー・ワイスマン博士です。この発見によってノーベル賞の有力な候補に挙げられています。1980年代に考えられていたのは、「mRNAを人工的に作って細胞の中に運べば、薬などに利用できるタンパク質を作ることができる」ということでした。しかし、実際にmRNAを細胞に与えると、拒絶反応として激しい炎症が起き、細胞が死んでしまうことも分かっていました。多くの研究者はこのままでは薬として使うことは無理だと思っていたのです。その常識を覆して、拒絶反応を起こさない方法を見つけ出したのがカリコ博士とワイスマン博士でした。mRNAを構成する物質の1つ「ウリジン」を、「化学修飾」といわれる化学構造の飾りが付いたものに変えて細胞に与えると炎症が起きないことを発見したのです。2005年のことでした。これによってmRNAを人の体に投与するめどが立ちました。「ウリジン」(左)と「化学修飾されたウリジン」(右)/NHK提供拡大画像表示 この発表は世界中の研究者に大きなインパクトを与えましたが、当時、mRNAは非常に不安定で壊れやすいことに加え、人工的に作るのにお金がかかることもあり、ワクチンに使えると想像した人はほとんどいませんでした。しかし、カリコ博士たちは、この壊れやすい特徴が体の中に残らないという薬としての利点になると考え、さらに研究を続けます。そして2008年、炎症を抑えるだけでなくタンパク質を大量に作る方法を見つけたのです。「実験結果が出たとき、これまで夢みていた治療法、ワクチンやタンパク質治療薬、遺伝子治療などの可能性が開かれたと感じました」(ワイスマン博士)その後、カリコ博士はドイツの製薬ベンチャーのビオンテック社に迎えられ、この技術を使ってインフルエンザ用の新ワクチンやがんに対するワクチンの研究を進めていたところ、新型コロナウイルスのパンデミックが起きたのです。ビオンテック社でカリコ博士(右)たちがmRNAワクチンの開発を続けた/画像提供:BioNTechビオンテック社は新型コロナウイルスの遺伝情報が公開されるとすぐにmRNAワクチンの開発に着手。アメリカの大手製薬会社ファイザー社と提携し、大規模な臨床試験を行うとともに、ワクチンの大量生産を開始しました。こうしてわずか1年足らずで新型コロナウイルス用のmRNAワクチンが世界に向けて供給されるようになったのです。「学術界も小さなバイオテクノロジー企業も大企業もそれぞれがベストを尽くしました。今回はそれぞれが協力し合うことで、短期間でのワクチン開発が実現できたのです」(カリコ博士)国産のmRNAワクチンも実用化に向けて進んでいる新型コロナウイルスとの闘いが続くなか、日本でもさまざまなタイプのワクチンの開発が進められています。石井さんが製薬企業とともに行う「国産のmRNAワクチン」の開発は、来年末の実用化を目指して臨床試験が進められています。石井さんは国産ワクチン開発の意義をこのように訴えます。国産mRNAワクチンの開発が進む/NHK提供 「すでに海外のワクチンが入ってきていて必要ないじゃないかという方もいらっしゃると思います。ただ、次のパンデミックが起きたとき、ワクチンが足りないとなっても輸入できる保証はありません。自国の人を守るという意味では、国産のワクチンが必要です。また、新型コロナのワクチンを今後も定期的に打たなくてはならなくなった場合、国産のワクチンがあるというのは、安心なのではないでしょうか」(石井さん)さらに、石井さんはmRNAの技術はさまざまな分野に応用できると考えています。「mRNAで作れるものはたくさんあって、ワクチンと呼ばれているものにどんどん応用されていくと思います。特に、がんワクチンは応用される時期が早いと思います。それ以外の感染症のワクチン、例えばインフルエンザのワクチンでは臨床試験が進んでいますが、いずれmRNAに取って代わられるのではないかといわれています」(石井さん)20年以上の研究の積み重ねによって人類が手にすることができたmRNAワクチン。新型コロナ収束につなげるために、その効果と安全性を一人一人が正しく理解することが、求められています。
ワクチンのmRNAが自分の体のDNAに組み込まれてしまい遺伝情報が書き換わってしまうのではないかという不安の声もありますが、その心配は要らないと石井さんはいいます。「私たちの体の中にはいろんなウイルスがいて、ものすごい数のウイルスのRNAとやりとりをしています。ただ、ウイルスが私たちの細胞の中のDNAを書き換えるということが起こらないような免疫システムが進化上できています。だから、遺伝子が書き換わることはないと考えていいのです」(石井さん) そもそもmRNAは不安定で、私たちの体の中に入っても長期間残るわけではありません。石井さんによると、mRNAは数日から1週間程度で分解されるため、長く体に残って悪影響を及ぼすことはまずあり得ないとのことです。変異株に対しても“重症化”を防ぐ効果はあるデルタ株などが猛威を振るうなか、ワクチンの変異株に対する効果についてどう考えればいいのでしょうか。イスラエルのデータによると、ファイザー製のワクチンを2回接種した場合、デルタ株に対する感染予防や発症予防の効果は64%に下がっていますが、入院・死亡の予防効果は93%とそれほど変わっていません。このデータから、変異株であっても重症化を防ぐ効果がワクチンにあることが読み取れます。デルタ株に対する効果/出典:アメリカCDCの資料拡大画像表示 変異株に対しても効果を維持している理由は、mRNAワクチンがヘルパーT細胞とキラーT細胞という2種類のT細胞を強く誘導するからだと石井さんは考えています。「ウイルスをやっつけるT細胞を非常に強く誘導していますので、ウイルスが変異して抗体が少し認識できなくなったとしても、免疫反応は十分だと考えています。ワクチンを打った方がデルタ株で重症化するということは、低い確率だと言われていますので、(デルタ株に効果がないのではということについて)今はそれほど心配する必要はありません」(石井さん)さらに、石井さんが強調するのは、ワクチン接種は自分を守るためだけではないということです。「ワクチンを打てば、自分自身はかなりの確率で感染や重症化のリスクを減らすことができます。そして、重要なのは、自分だけではなく家族や身近な人を守れるということがワクチンの大きな利益だということです。ワクチンを打つか打たないか、ご自身でよく考えて判断していただきたいと思いますが、このことがその判断の助けになるのではないかと思います」(石井さん)mRNAワクチン実用化までの長い道のり新型コロナウイルスの流行を受けて短期間で実用化されたmRNAワクチンですが、その研究の歴史は長く、1980年代にはmRNAを医薬品に使おうという研究がすでに始まっていました。そして、mRNAをワクチンとして使うためのブレークスルーを成し遂げたのが、ビオンテック社のカタリン・カリコ博士と米ペンシルベニア大学教授のドリュー・ワイスマン博士です。この発見によってノーベル賞の有力な候補に挙げられています。1980年代に考えられていたのは、「mRNAを人工的に作って細胞の中に運べば、薬などに利用できるタンパク質を作ることができる」ということでした。しかし、実際にmRNAを細胞に与えると、拒絶反応として激しい炎症が起き、細胞が死んでしまうことも分かっていました。多くの研究者はこのままでは薬として使うことは無理だと思っていたのです。その常識を覆して、拒絶反応を起こさない方法を見つけ出したのがカリコ博士とワイスマン博士でした。mRNAを構成する物質の1つ「ウリジン」を、「化学修飾」といわれる化学構造の飾りが付いたものに変えて細胞に与えると炎症が起きないことを発見したのです。2005年のことでした。これによってmRNAを人の体に投与するめどが立ちました。「ウリジン」(左)と「化学修飾されたウリジン」(右)/NHK提供拡大画像表示 この発表は世界中の研究者に大きなインパクトを与えましたが、当時、mRNAは非常に不安定で壊れやすいことに加え、人工的に作るのにお金がかかることもあり、ワクチンに使えると想像した人はほとんどいませんでした。しかし、カリコ博士たちは、この壊れやすい特徴が体の中に残らないという薬としての利点になると考え、さらに研究を続けます。そして2008年、炎症を抑えるだけでなくタンパク質を大量に作る方法を見つけたのです。「実験結果が出たとき、これまで夢みていた治療法、ワクチンやタンパク質治療薬、遺伝子治療などの可能性が開かれたと感じました」(ワイスマン博士)その後、カリコ博士はドイツの製薬ベンチャーのビオンテック社に迎えられ、この技術を使ってインフルエンザ用の新ワクチンやがんに対するワクチンの研究を進めていたところ、新型コロナウイルスのパンデミックが起きたのです。ビオンテック社でカリコ博士(右)たちがmRNAワクチンの開発を続けた/画像提供:BioNTechビオンテック社は新型コロナウイルスの遺伝情報が公開されるとすぐにmRNAワクチンの開発に着手。アメリカの大手製薬会社ファイザー社と提携し、大規模な臨床試験を行うとともに、ワクチンの大量生産を開始しました。こうしてわずか1年足らずで新型コロナウイルス用のmRNAワクチンが世界に向けて供給されるようになったのです。「学術界も小さなバイオテクノロジー企業も大企業もそれぞれがベストを尽くしました。今回はそれぞれが協力し合うことで、短期間でのワクチン開発が実現できたのです」(カリコ博士)国産のmRNAワクチンも実用化に向けて進んでいる新型コロナウイルスとの闘いが続くなか、日本でもさまざまなタイプのワクチンの開発が進められています。石井さんが製薬企業とともに行う「国産のmRNAワクチン」の開発は、来年末の実用化を目指して臨床試験が進められています。石井さんは国産ワクチン開発の意義をこのように訴えます。国産mRNAワクチンの開発が進む/NHK提供 「すでに海外のワクチンが入ってきていて必要ないじゃないかという方もいらっしゃると思います。ただ、次のパンデミックが起きたとき、ワクチンが足りないとなっても輸入できる保証はありません。自国の人を守るという意味では、国産のワクチンが必要です。また、新型コロナのワクチンを今後も定期的に打たなくてはならなくなった場合、国産のワクチンがあるというのは、安心なのではないでしょうか」(石井さん)さらに、石井さんはmRNAの技術はさまざまな分野に応用できると考えています。「mRNAで作れるものはたくさんあって、ワクチンと呼ばれているものにどんどん応用されていくと思います。特に、がんワクチンは応用される時期が早いと思います。それ以外の感染症のワクチン、例えばインフルエンザのワクチンでは臨床試験が進んでいますが、いずれmRNAに取って代わられるのではないかといわれています」(石井さん)20年以上の研究の積み重ねによって人類が手にすることができたmRNAワクチン。新型コロナ収束につなげるために、その効果と安全性を一人一人が正しく理解することが、求められています。
「私たちの体の中にはいろんなウイルスがいて、ものすごい数のウイルスのRNAとやりとりをしています。ただ、ウイルスが私たちの細胞の中のDNAを書き換えるということが起こらないような免疫システムが進化上できています。だから、遺伝子が書き換わることはないと考えていいのです」(石井さん) そもそもmRNAは不安定で、私たちの体の中に入っても長期間残るわけではありません。石井さんによると、mRNAは数日から1週間程度で分解されるため、長く体に残って悪影響を及ぼすことはまずあり得ないとのことです。変異株に対しても“重症化”を防ぐ効果はあるデルタ株などが猛威を振るうなか、ワクチンの変異株に対する効果についてどう考えればいいのでしょうか。イスラエルのデータによると、ファイザー製のワクチンを2回接種した場合、デルタ株に対する感染予防や発症予防の効果は64%に下がっていますが、入院・死亡の予防効果は93%とそれほど変わっていません。このデータから、変異株であっても重症化を防ぐ効果がワクチンにあることが読み取れます。デルタ株に対する効果/出典:アメリカCDCの資料拡大画像表示 変異株に対しても効果を維持している理由は、mRNAワクチンがヘルパーT細胞とキラーT細胞という2種類のT細胞を強く誘導するからだと石井さんは考えています。「ウイルスをやっつけるT細胞を非常に強く誘導していますので、ウイルスが変異して抗体が少し認識できなくなったとしても、免疫反応は十分だと考えています。ワクチンを打った方がデルタ株で重症化するということは、低い確率だと言われていますので、(デルタ株に効果がないのではということについて)今はそれほど心配する必要はありません」(石井さん)さらに、石井さんが強調するのは、ワクチン接種は自分を守るためだけではないということです。「ワクチンを打てば、自分自身はかなりの確率で感染や重症化のリスクを減らすことができます。そして、重要なのは、自分だけではなく家族や身近な人を守れるということがワクチンの大きな利益だということです。ワクチンを打つか打たないか、ご自身でよく考えて判断していただきたいと思いますが、このことがその判断の助けになるのではないかと思います」(石井さん)mRNAワクチン実用化までの長い道のり新型コロナウイルスの流行を受けて短期間で実用化されたmRNAワクチンですが、その研究の歴史は長く、1980年代にはmRNAを医薬品に使おうという研究がすでに始まっていました。そして、mRNAをワクチンとして使うためのブレークスルーを成し遂げたのが、ビオンテック社のカタリン・カリコ博士と米ペンシルベニア大学教授のドリュー・ワイスマン博士です。この発見によってノーベル賞の有力な候補に挙げられています。1980年代に考えられていたのは、「mRNAを人工的に作って細胞の中に運べば、薬などに利用できるタンパク質を作ることができる」ということでした。しかし、実際にmRNAを細胞に与えると、拒絶反応として激しい炎症が起き、細胞が死んでしまうことも分かっていました。多くの研究者はこのままでは薬として使うことは無理だと思っていたのです。その常識を覆して、拒絶反応を起こさない方法を見つけ出したのがカリコ博士とワイスマン博士でした。mRNAを構成する物質の1つ「ウリジン」を、「化学修飾」といわれる化学構造の飾りが付いたものに変えて細胞に与えると炎症が起きないことを発見したのです。2005年のことでした。これによってmRNAを人の体に投与するめどが立ちました。「ウリジン」(左)と「化学修飾されたウリジン」(右)/NHK提供拡大画像表示 この発表は世界中の研究者に大きなインパクトを与えましたが、当時、mRNAは非常に不安定で壊れやすいことに加え、人工的に作るのにお金がかかることもあり、ワクチンに使えると想像した人はほとんどいませんでした。しかし、カリコ博士たちは、この壊れやすい特徴が体の中に残らないという薬としての利点になると考え、さらに研究を続けます。そして2008年、炎症を抑えるだけでなくタンパク質を大量に作る方法を見つけたのです。「実験結果が出たとき、これまで夢みていた治療法、ワクチンやタンパク質治療薬、遺伝子治療などの可能性が開かれたと感じました」(ワイスマン博士)その後、カリコ博士はドイツの製薬ベンチャーのビオンテック社に迎えられ、この技術を使ってインフルエンザ用の新ワクチンやがんに対するワクチンの研究を進めていたところ、新型コロナウイルスのパンデミックが起きたのです。ビオンテック社でカリコ博士(右)たちがmRNAワクチンの開発を続けた/画像提供:BioNTechビオンテック社は新型コロナウイルスの遺伝情報が公開されるとすぐにmRNAワクチンの開発に着手。アメリカの大手製薬会社ファイザー社と提携し、大規模な臨床試験を行うとともに、ワクチンの大量生産を開始しました。こうしてわずか1年足らずで新型コロナウイルス用のmRNAワクチンが世界に向けて供給されるようになったのです。「学術界も小さなバイオテクノロジー企業も大企業もそれぞれがベストを尽くしました。今回はそれぞれが協力し合うことで、短期間でのワクチン開発が実現できたのです」(カリコ博士)国産のmRNAワクチンも実用化に向けて進んでいる新型コロナウイルスとの闘いが続くなか、日本でもさまざまなタイプのワクチンの開発が進められています。石井さんが製薬企業とともに行う「国産のmRNAワクチン」の開発は、来年末の実用化を目指して臨床試験が進められています。石井さんは国産ワクチン開発の意義をこのように訴えます。国産mRNAワクチンの開発が進む/NHK提供 「すでに海外のワクチンが入ってきていて必要ないじゃないかという方もいらっしゃると思います。ただ、次のパンデミックが起きたとき、ワクチンが足りないとなっても輸入できる保証はありません。自国の人を守るという意味では、国産のワクチンが必要です。また、新型コロナのワクチンを今後も定期的に打たなくてはならなくなった場合、国産のワクチンがあるというのは、安心なのではないでしょうか」(石井さん)さらに、石井さんはmRNAの技術はさまざまな分野に応用できると考えています。「mRNAで作れるものはたくさんあって、ワクチンと呼ばれているものにどんどん応用されていくと思います。特に、がんワクチンは応用される時期が早いと思います。それ以外の感染症のワクチン、例えばインフルエンザのワクチンでは臨床試験が進んでいますが、いずれmRNAに取って代わられるのではないかといわれています」(石井さん)20年以上の研究の積み重ねによって人類が手にすることができたmRNAワクチン。新型コロナ収束につなげるために、その効果と安全性を一人一人が正しく理解することが、求められています。
そもそもmRNAは不安定で、私たちの体の中に入っても長期間残るわけではありません。石井さんによると、mRNAは数日から1週間程度で分解されるため、長く体に残って悪影響を及ぼすことはまずあり得ないとのことです。変異株に対しても“重症化”を防ぐ効果はあるデルタ株などが猛威を振るうなか、ワクチンの変異株に対する効果についてどう考えればいいのでしょうか。イスラエルのデータによると、ファイザー製のワクチンを2回接種した場合、デルタ株に対する感染予防や発症予防の効果は64%に下がっていますが、入院・死亡の予防効果は93%とそれほど変わっていません。このデータから、変異株であっても重症化を防ぐ効果がワクチンにあることが読み取れます。デルタ株に対する効果/出典:アメリカCDCの資料拡大画像表示 変異株に対しても効果を維持している理由は、mRNAワクチンがヘルパーT細胞とキラーT細胞という2種類のT細胞を強く誘導するからだと石井さんは考えています。「ウイルスをやっつけるT細胞を非常に強く誘導していますので、ウイルスが変異して抗体が少し認識できなくなったとしても、免疫反応は十分だと考えています。ワクチンを打った方がデルタ株で重症化するということは、低い確率だと言われていますので、(デルタ株に効果がないのではということについて)今はそれほど心配する必要はありません」(石井さん)さらに、石井さんが強調するのは、ワクチン接種は自分を守るためだけではないということです。「ワクチンを打てば、自分自身はかなりの確率で感染や重症化のリスクを減らすことができます。そして、重要なのは、自分だけではなく家族や身近な人を守れるということがワクチンの大きな利益だということです。ワクチンを打つか打たないか、ご自身でよく考えて判断していただきたいと思いますが、このことがその判断の助けになるのではないかと思います」(石井さん)mRNAワクチン実用化までの長い道のり新型コロナウイルスの流行を受けて短期間で実用化されたmRNAワクチンですが、その研究の歴史は長く、1980年代にはmRNAを医薬品に使おうという研究がすでに始まっていました。そして、mRNAをワクチンとして使うためのブレークスルーを成し遂げたのが、ビオンテック社のカタリン・カリコ博士と米ペンシルベニア大学教授のドリュー・ワイスマン博士です。この発見によってノーベル賞の有力な候補に挙げられています。1980年代に考えられていたのは、「mRNAを人工的に作って細胞の中に運べば、薬などに利用できるタンパク質を作ることができる」ということでした。しかし、実際にmRNAを細胞に与えると、拒絶反応として激しい炎症が起き、細胞が死んでしまうことも分かっていました。多くの研究者はこのままでは薬として使うことは無理だと思っていたのです。その常識を覆して、拒絶反応を起こさない方法を見つけ出したのがカリコ博士とワイスマン博士でした。mRNAを構成する物質の1つ「ウリジン」を、「化学修飾」といわれる化学構造の飾りが付いたものに変えて細胞に与えると炎症が起きないことを発見したのです。2005年のことでした。これによってmRNAを人の体に投与するめどが立ちました。「ウリジン」(左)と「化学修飾されたウリジン」(右)/NHK提供拡大画像表示 この発表は世界中の研究者に大きなインパクトを与えましたが、当時、mRNAは非常に不安定で壊れやすいことに加え、人工的に作るのにお金がかかることもあり、ワクチンに使えると想像した人はほとんどいませんでした。しかし、カリコ博士たちは、この壊れやすい特徴が体の中に残らないという薬としての利点になると考え、さらに研究を続けます。そして2008年、炎症を抑えるだけでなくタンパク質を大量に作る方法を見つけたのです。「実験結果が出たとき、これまで夢みていた治療法、ワクチンやタンパク質治療薬、遺伝子治療などの可能性が開かれたと感じました」(ワイスマン博士)その後、カリコ博士はドイツの製薬ベンチャーのビオンテック社に迎えられ、この技術を使ってインフルエンザ用の新ワクチンやがんに対するワクチンの研究を進めていたところ、新型コロナウイルスのパンデミックが起きたのです。ビオンテック社でカリコ博士(右)たちがmRNAワクチンの開発を続けた/画像提供:BioNTechビオンテック社は新型コロナウイルスの遺伝情報が公開されるとすぐにmRNAワクチンの開発に着手。アメリカの大手製薬会社ファイザー社と提携し、大規模な臨床試験を行うとともに、ワクチンの大量生産を開始しました。こうしてわずか1年足らずで新型コロナウイルス用のmRNAワクチンが世界に向けて供給されるようになったのです。「学術界も小さなバイオテクノロジー企業も大企業もそれぞれがベストを尽くしました。今回はそれぞれが協力し合うことで、短期間でのワクチン開発が実現できたのです」(カリコ博士)国産のmRNAワクチンも実用化に向けて進んでいる新型コロナウイルスとの闘いが続くなか、日本でもさまざまなタイプのワクチンの開発が進められています。石井さんが製薬企業とともに行う「国産のmRNAワクチン」の開発は、来年末の実用化を目指して臨床試験が進められています。石井さんは国産ワクチン開発の意義をこのように訴えます。国産mRNAワクチンの開発が進む/NHK提供 「すでに海外のワクチンが入ってきていて必要ないじゃないかという方もいらっしゃると思います。ただ、次のパンデミックが起きたとき、ワクチンが足りないとなっても輸入できる保証はありません。自国の人を守るという意味では、国産のワクチンが必要です。また、新型コロナのワクチンを今後も定期的に打たなくてはならなくなった場合、国産のワクチンがあるというのは、安心なのではないでしょうか」(石井さん)さらに、石井さんはmRNAの技術はさまざまな分野に応用できると考えています。「mRNAで作れるものはたくさんあって、ワクチンと呼ばれているものにどんどん応用されていくと思います。特に、がんワクチンは応用される時期が早いと思います。それ以外の感染症のワクチン、例えばインフルエンザのワクチンでは臨床試験が進んでいますが、いずれmRNAに取って代わられるのではないかといわれています」(石井さん)20年以上の研究の積み重ねによって人類が手にすることができたmRNAワクチン。新型コロナ収束につなげるために、その効果と安全性を一人一人が正しく理解することが、求められています。
デルタ株などが猛威を振るうなか、ワクチンの変異株に対する効果についてどう考えればいいのでしょうか。イスラエルのデータによると、ファイザー製のワクチンを2回接種した場合、デルタ株に対する感染予防や発症予防の効果は64%に下がっていますが、入院・死亡の予防効果は93%とそれほど変わっていません。このデータから、変異株であっても重症化を防ぐ効果がワクチンにあることが読み取れます。デルタ株に対する効果/出典:アメリカCDCの資料拡大画像表示 変異株に対しても効果を維持している理由は、mRNAワクチンがヘルパーT細胞とキラーT細胞という2種類のT細胞を強く誘導するからだと石井さんは考えています。「ウイルスをやっつけるT細胞を非常に強く誘導していますので、ウイルスが変異して抗体が少し認識できなくなったとしても、免疫反応は十分だと考えています。ワクチンを打った方がデルタ株で重症化するということは、低い確率だと言われていますので、(デルタ株に効果がないのではということについて)今はそれほど心配する必要はありません」(石井さん)さらに、石井さんが強調するのは、ワクチン接種は自分を守るためだけではないということです。「ワクチンを打てば、自分自身はかなりの確率で感染や重症化のリスクを減らすことができます。そして、重要なのは、自分だけではなく家族や身近な人を守れるということがワクチンの大きな利益だということです。ワクチンを打つか打たないか、ご自身でよく考えて判断していただきたいと思いますが、このことがその判断の助けになるのではないかと思います」(石井さん)mRNAワクチン実用化までの長い道のり新型コロナウイルスの流行を受けて短期間で実用化されたmRNAワクチンですが、その研究の歴史は長く、1980年代にはmRNAを医薬品に使おうという研究がすでに始まっていました。そして、mRNAをワクチンとして使うためのブレークスルーを成し遂げたのが、ビオンテック社のカタリン・カリコ博士と米ペンシルベニア大学教授のドリュー・ワイスマン博士です。この発見によってノーベル賞の有力な候補に挙げられています。1980年代に考えられていたのは、「mRNAを人工的に作って細胞の中に運べば、薬などに利用できるタンパク質を作ることができる」ということでした。しかし、実際にmRNAを細胞に与えると、拒絶反応として激しい炎症が起き、細胞が死んでしまうことも分かっていました。多くの研究者はこのままでは薬として使うことは無理だと思っていたのです。その常識を覆して、拒絶反応を起こさない方法を見つけ出したのがカリコ博士とワイスマン博士でした。mRNAを構成する物質の1つ「ウリジン」を、「化学修飾」といわれる化学構造の飾りが付いたものに変えて細胞に与えると炎症が起きないことを発見したのです。2005年のことでした。これによってmRNAを人の体に投与するめどが立ちました。「ウリジン」(左)と「化学修飾されたウリジン」(右)/NHK提供拡大画像表示 この発表は世界中の研究者に大きなインパクトを与えましたが、当時、mRNAは非常に不安定で壊れやすいことに加え、人工的に作るのにお金がかかることもあり、ワクチンに使えると想像した人はほとんどいませんでした。しかし、カリコ博士たちは、この壊れやすい特徴が体の中に残らないという薬としての利点になると考え、さらに研究を続けます。そして2008年、炎症を抑えるだけでなくタンパク質を大量に作る方法を見つけたのです。「実験結果が出たとき、これまで夢みていた治療法、ワクチンやタンパク質治療薬、遺伝子治療などの可能性が開かれたと感じました」(ワイスマン博士)その後、カリコ博士はドイツの製薬ベンチャーのビオンテック社に迎えられ、この技術を使ってインフルエンザ用の新ワクチンやがんに対するワクチンの研究を進めていたところ、新型コロナウイルスのパンデミックが起きたのです。ビオンテック社でカリコ博士(右)たちがmRNAワクチンの開発を続けた/画像提供:BioNTechビオンテック社は新型コロナウイルスの遺伝情報が公開されるとすぐにmRNAワクチンの開発に着手。アメリカの大手製薬会社ファイザー社と提携し、大規模な臨床試験を行うとともに、ワクチンの大量生産を開始しました。こうしてわずか1年足らずで新型コロナウイルス用のmRNAワクチンが世界に向けて供給されるようになったのです。「学術界も小さなバイオテクノロジー企業も大企業もそれぞれがベストを尽くしました。今回はそれぞれが協力し合うことで、短期間でのワクチン開発が実現できたのです」(カリコ博士)国産のmRNAワクチンも実用化に向けて進んでいる新型コロナウイルスとの闘いが続くなか、日本でもさまざまなタイプのワクチンの開発が進められています。石井さんが製薬企業とともに行う「国産のmRNAワクチン」の開発は、来年末の実用化を目指して臨床試験が進められています。石井さんは国産ワクチン開発の意義をこのように訴えます。国産mRNAワクチンの開発が進む/NHK提供 「すでに海外のワクチンが入ってきていて必要ないじゃないかという方もいらっしゃると思います。ただ、次のパンデミックが起きたとき、ワクチンが足りないとなっても輸入できる保証はありません。自国の人を守るという意味では、国産のワクチンが必要です。また、新型コロナのワクチンを今後も定期的に打たなくてはならなくなった場合、国産のワクチンがあるというのは、安心なのではないでしょうか」(石井さん)さらに、石井さんはmRNAの技術はさまざまな分野に応用できると考えています。「mRNAで作れるものはたくさんあって、ワクチンと呼ばれているものにどんどん応用されていくと思います。特に、がんワクチンは応用される時期が早いと思います。それ以外の感染症のワクチン、例えばインフルエンザのワクチンでは臨床試験が進んでいますが、いずれmRNAに取って代わられるのではないかといわれています」(石井さん)20年以上の研究の積み重ねによって人類が手にすることができたmRNAワクチン。新型コロナ収束につなげるために、その効果と安全性を一人一人が正しく理解することが、求められています。
イスラエルのデータによると、ファイザー製のワクチンを2回接種した場合、デルタ株に対する感染予防や発症予防の効果は64%に下がっていますが、入院・死亡の予防効果は93%とそれほど変わっていません。このデータから、変異株であっても重症化を防ぐ効果がワクチンにあることが読み取れます。デルタ株に対する効果/出典:アメリカCDCの資料拡大画像表示 変異株に対しても効果を維持している理由は、mRNAワクチンがヘルパーT細胞とキラーT細胞という2種類のT細胞を強く誘導するからだと石井さんは考えています。「ウイルスをやっつけるT細胞を非常に強く誘導していますので、ウイルスが変異して抗体が少し認識できなくなったとしても、免疫反応は十分だと考えています。ワクチンを打った方がデルタ株で重症化するということは、低い確率だと言われていますので、(デルタ株に効果がないのではということについて)今はそれほど心配する必要はありません」(石井さん)さらに、石井さんが強調するのは、ワクチン接種は自分を守るためだけではないということです。「ワクチンを打てば、自分自身はかなりの確率で感染や重症化のリスクを減らすことができます。そして、重要なのは、自分だけではなく家族や身近な人を守れるということがワクチンの大きな利益だということです。ワクチンを打つか打たないか、ご自身でよく考えて判断していただきたいと思いますが、このことがその判断の助けになるのではないかと思います」(石井さん)mRNAワクチン実用化までの長い道のり新型コロナウイルスの流行を受けて短期間で実用化されたmRNAワクチンですが、その研究の歴史は長く、1980年代にはmRNAを医薬品に使おうという研究がすでに始まっていました。そして、mRNAをワクチンとして使うためのブレークスルーを成し遂げたのが、ビオンテック社のカタリン・カリコ博士と米ペンシルベニア大学教授のドリュー・ワイスマン博士です。この発見によってノーベル賞の有力な候補に挙げられています。1980年代に考えられていたのは、「mRNAを人工的に作って細胞の中に運べば、薬などに利用できるタンパク質を作ることができる」ということでした。しかし、実際にmRNAを細胞に与えると、拒絶反応として激しい炎症が起き、細胞が死んでしまうことも分かっていました。多くの研究者はこのままでは薬として使うことは無理だと思っていたのです。その常識を覆して、拒絶反応を起こさない方法を見つけ出したのがカリコ博士とワイスマン博士でした。mRNAを構成する物質の1つ「ウリジン」を、「化学修飾」といわれる化学構造の飾りが付いたものに変えて細胞に与えると炎症が起きないことを発見したのです。2005年のことでした。これによってmRNAを人の体に投与するめどが立ちました。「ウリジン」(左)と「化学修飾されたウリジン」(右)/NHK提供拡大画像表示 この発表は世界中の研究者に大きなインパクトを与えましたが、当時、mRNAは非常に不安定で壊れやすいことに加え、人工的に作るのにお金がかかることもあり、ワクチンに使えると想像した人はほとんどいませんでした。しかし、カリコ博士たちは、この壊れやすい特徴が体の中に残らないという薬としての利点になると考え、さらに研究を続けます。そして2008年、炎症を抑えるだけでなくタンパク質を大量に作る方法を見つけたのです。「実験結果が出たとき、これまで夢みていた治療法、ワクチンやタンパク質治療薬、遺伝子治療などの可能性が開かれたと感じました」(ワイスマン博士)その後、カリコ博士はドイツの製薬ベンチャーのビオンテック社に迎えられ、この技術を使ってインフルエンザ用の新ワクチンやがんに対するワクチンの研究を進めていたところ、新型コロナウイルスのパンデミックが起きたのです。ビオンテック社でカリコ博士(右)たちがmRNAワクチンの開発を続けた/画像提供:BioNTechビオンテック社は新型コロナウイルスの遺伝情報が公開されるとすぐにmRNAワクチンの開発に着手。アメリカの大手製薬会社ファイザー社と提携し、大規模な臨床試験を行うとともに、ワクチンの大量生産を開始しました。こうしてわずか1年足らずで新型コロナウイルス用のmRNAワクチンが世界に向けて供給されるようになったのです。「学術界も小さなバイオテクノロジー企業も大企業もそれぞれがベストを尽くしました。今回はそれぞれが協力し合うことで、短期間でのワクチン開発が実現できたのです」(カリコ博士)国産のmRNAワクチンも実用化に向けて進んでいる新型コロナウイルスとの闘いが続くなか、日本でもさまざまなタイプのワクチンの開発が進められています。石井さんが製薬企業とともに行う「国産のmRNAワクチン」の開発は、来年末の実用化を目指して臨床試験が進められています。石井さんは国産ワクチン開発の意義をこのように訴えます。国産mRNAワクチンの開発が進む/NHK提供 「すでに海外のワクチンが入ってきていて必要ないじゃないかという方もいらっしゃると思います。ただ、次のパンデミックが起きたとき、ワクチンが足りないとなっても輸入できる保証はありません。自国の人を守るという意味では、国産のワクチンが必要です。また、新型コロナのワクチンを今後も定期的に打たなくてはならなくなった場合、国産のワクチンがあるというのは、安心なのではないでしょうか」(石井さん)さらに、石井さんはmRNAの技術はさまざまな分野に応用できると考えています。「mRNAで作れるものはたくさんあって、ワクチンと呼ばれているものにどんどん応用されていくと思います。特に、がんワクチンは応用される時期が早いと思います。それ以外の感染症のワクチン、例えばインフルエンザのワクチンでは臨床試験が進んでいますが、いずれmRNAに取って代わられるのではないかといわれています」(石井さん)20年以上の研究の積み重ねによって人類が手にすることができたmRNAワクチン。新型コロナ収束につなげるために、その効果と安全性を一人一人が正しく理解することが、求められています。
デルタ株に対する効果/出典:アメリカCDCの資料拡大画像表示 変異株に対しても効果を維持している理由は、mRNAワクチンがヘルパーT細胞とキラーT細胞という2種類のT細胞を強く誘導するからだと石井さんは考えています。「ウイルスをやっつけるT細胞を非常に強く誘導していますので、ウイルスが変異して抗体が少し認識できなくなったとしても、免疫反応は十分だと考えています。ワクチンを打った方がデルタ株で重症化するということは、低い確率だと言われていますので、(デルタ株に効果がないのではということについて)今はそれほど心配する必要はありません」(石井さん)さらに、石井さんが強調するのは、ワクチン接種は自分を守るためだけではないということです。「ワクチンを打てば、自分自身はかなりの確率で感染や重症化のリスクを減らすことができます。そして、重要なのは、自分だけではなく家族や身近な人を守れるということがワクチンの大きな利益だということです。ワクチンを打つか打たないか、ご自身でよく考えて判断していただきたいと思いますが、このことがその判断の助けになるのではないかと思います」(石井さん)mRNAワクチン実用化までの長い道のり新型コロナウイルスの流行を受けて短期間で実用化されたmRNAワクチンですが、その研究の歴史は長く、1980年代にはmRNAを医薬品に使おうという研究がすでに始まっていました。そして、mRNAをワクチンとして使うためのブレークスルーを成し遂げたのが、ビオンテック社のカタリン・カリコ博士と米ペンシルベニア大学教授のドリュー・ワイスマン博士です。この発見によってノーベル賞の有力な候補に挙げられています。1980年代に考えられていたのは、「mRNAを人工的に作って細胞の中に運べば、薬などに利用できるタンパク質を作ることができる」ということでした。しかし、実際にmRNAを細胞に与えると、拒絶反応として激しい炎症が起き、細胞が死んでしまうことも分かっていました。多くの研究者はこのままでは薬として使うことは無理だと思っていたのです。その常識を覆して、拒絶反応を起こさない方法を見つけ出したのがカリコ博士とワイスマン博士でした。mRNAを構成する物質の1つ「ウリジン」を、「化学修飾」といわれる化学構造の飾りが付いたものに変えて細胞に与えると炎症が起きないことを発見したのです。2005年のことでした。これによってmRNAを人の体に投与するめどが立ちました。「ウリジン」(左)と「化学修飾されたウリジン」(右)/NHK提供拡大画像表示 この発表は世界中の研究者に大きなインパクトを与えましたが、当時、mRNAは非常に不安定で壊れやすいことに加え、人工的に作るのにお金がかかることもあり、ワクチンに使えると想像した人はほとんどいませんでした。しかし、カリコ博士たちは、この壊れやすい特徴が体の中に残らないという薬としての利点になると考え、さらに研究を続けます。そして2008年、炎症を抑えるだけでなくタンパク質を大量に作る方法を見つけたのです。「実験結果が出たとき、これまで夢みていた治療法、ワクチンやタンパク質治療薬、遺伝子治療などの可能性が開かれたと感じました」(ワイスマン博士)その後、カリコ博士はドイツの製薬ベンチャーのビオンテック社に迎えられ、この技術を使ってインフルエンザ用の新ワクチンやがんに対するワクチンの研究を進めていたところ、新型コロナウイルスのパンデミックが起きたのです。ビオンテック社でカリコ博士(右)たちがmRNAワクチンの開発を続けた/画像提供:BioNTechビオンテック社は新型コロナウイルスの遺伝情報が公開されるとすぐにmRNAワクチンの開発に着手。アメリカの大手製薬会社ファイザー社と提携し、大規模な臨床試験を行うとともに、ワクチンの大量生産を開始しました。こうしてわずか1年足らずで新型コロナウイルス用のmRNAワクチンが世界に向けて供給されるようになったのです。「学術界も小さなバイオテクノロジー企業も大企業もそれぞれがベストを尽くしました。今回はそれぞれが協力し合うことで、短期間でのワクチン開発が実現できたのです」(カリコ博士)国産のmRNAワクチンも実用化に向けて進んでいる新型コロナウイルスとの闘いが続くなか、日本でもさまざまなタイプのワクチンの開発が進められています。石井さんが製薬企業とともに行う「国産のmRNAワクチン」の開発は、来年末の実用化を目指して臨床試験が進められています。石井さんは国産ワクチン開発の意義をこのように訴えます。国産mRNAワクチンの開発が進む/NHK提供 「すでに海外のワクチンが入ってきていて必要ないじゃないかという方もいらっしゃると思います。ただ、次のパンデミックが起きたとき、ワクチンが足りないとなっても輸入できる保証はありません。自国の人を守るという意味では、国産のワクチンが必要です。また、新型コロナのワクチンを今後も定期的に打たなくてはならなくなった場合、国産のワクチンがあるというのは、安心なのではないでしょうか」(石井さん)さらに、石井さんはmRNAの技術はさまざまな分野に応用できると考えています。「mRNAで作れるものはたくさんあって、ワクチンと呼ばれているものにどんどん応用されていくと思います。特に、がんワクチンは応用される時期が早いと思います。それ以外の感染症のワクチン、例えばインフルエンザのワクチンでは臨床試験が進んでいますが、いずれmRNAに取って代わられるのではないかといわれています」(石井さん)20年以上の研究の積み重ねによって人類が手にすることができたmRNAワクチン。新型コロナ収束につなげるために、その効果と安全性を一人一人が正しく理解することが、求められています。
変異株に対しても効果を維持している理由は、mRNAワクチンがヘルパーT細胞とキラーT細胞という2種類のT細胞を強く誘導するからだと石井さんは考えています。「ウイルスをやっつけるT細胞を非常に強く誘導していますので、ウイルスが変異して抗体が少し認識できなくなったとしても、免疫反応は十分だと考えています。ワクチンを打った方がデルタ株で重症化するということは、低い確率だと言われていますので、(デルタ株に効果がないのではということについて)今はそれほど心配する必要はありません」(石井さん)さらに、石井さんが強調するのは、ワクチン接種は自分を守るためだけではないということです。「ワクチンを打てば、自分自身はかなりの確率で感染や重症化のリスクを減らすことができます。そして、重要なのは、自分だけではなく家族や身近な人を守れるということがワクチンの大きな利益だということです。ワクチンを打つか打たないか、ご自身でよく考えて判断していただきたいと思いますが、このことがその判断の助けになるのではないかと思います」(石井さん)mRNAワクチン実用化までの長い道のり新型コロナウイルスの流行を受けて短期間で実用化されたmRNAワクチンですが、その研究の歴史は長く、1980年代にはmRNAを医薬品に使おうという研究がすでに始まっていました。そして、mRNAをワクチンとして使うためのブレークスルーを成し遂げたのが、ビオンテック社のカタリン・カリコ博士と米ペンシルベニア大学教授のドリュー・ワイスマン博士です。この発見によってノーベル賞の有力な候補に挙げられています。1980年代に考えられていたのは、「mRNAを人工的に作って細胞の中に運べば、薬などに利用できるタンパク質を作ることができる」ということでした。しかし、実際にmRNAを細胞に与えると、拒絶反応として激しい炎症が起き、細胞が死んでしまうことも分かっていました。多くの研究者はこのままでは薬として使うことは無理だと思っていたのです。その常識を覆して、拒絶反応を起こさない方法を見つけ出したのがカリコ博士とワイスマン博士でした。mRNAを構成する物質の1つ「ウリジン」を、「化学修飾」といわれる化学構造の飾りが付いたものに変えて細胞に与えると炎症が起きないことを発見したのです。2005年のことでした。これによってmRNAを人の体に投与するめどが立ちました。「ウリジン」(左)と「化学修飾されたウリジン」(右)/NHK提供拡大画像表示 この発表は世界中の研究者に大きなインパクトを与えましたが、当時、mRNAは非常に不安定で壊れやすいことに加え、人工的に作るのにお金がかかることもあり、ワクチンに使えると想像した人はほとんどいませんでした。しかし、カリコ博士たちは、この壊れやすい特徴が体の中に残らないという薬としての利点になると考え、さらに研究を続けます。そして2008年、炎症を抑えるだけでなくタンパク質を大量に作る方法を見つけたのです。「実験結果が出たとき、これまで夢みていた治療法、ワクチンやタンパク質治療薬、遺伝子治療などの可能性が開かれたと感じました」(ワイスマン博士)その後、カリコ博士はドイツの製薬ベンチャーのビオンテック社に迎えられ、この技術を使ってインフルエンザ用の新ワクチンやがんに対するワクチンの研究を進めていたところ、新型コロナウイルスのパンデミックが起きたのです。ビオンテック社でカリコ博士(右)たちがmRNAワクチンの開発を続けた/画像提供:BioNTechビオンテック社は新型コロナウイルスの遺伝情報が公開されるとすぐにmRNAワクチンの開発に着手。アメリカの大手製薬会社ファイザー社と提携し、大規模な臨床試験を行うとともに、ワクチンの大量生産を開始しました。こうしてわずか1年足らずで新型コロナウイルス用のmRNAワクチンが世界に向けて供給されるようになったのです。「学術界も小さなバイオテクノロジー企業も大企業もそれぞれがベストを尽くしました。今回はそれぞれが協力し合うことで、短期間でのワクチン開発が実現できたのです」(カリコ博士)国産のmRNAワクチンも実用化に向けて進んでいる新型コロナウイルスとの闘いが続くなか、日本でもさまざまなタイプのワクチンの開発が進められています。石井さんが製薬企業とともに行う「国産のmRNAワクチン」の開発は、来年末の実用化を目指して臨床試験が進められています。石井さんは国産ワクチン開発の意義をこのように訴えます。国産mRNAワクチンの開発が進む/NHK提供 「すでに海外のワクチンが入ってきていて必要ないじゃないかという方もいらっしゃると思います。ただ、次のパンデミックが起きたとき、ワクチンが足りないとなっても輸入できる保証はありません。自国の人を守るという意味では、国産のワクチンが必要です。また、新型コロナのワクチンを今後も定期的に打たなくてはならなくなった場合、国産のワクチンがあるというのは、安心なのではないでしょうか」(石井さん)さらに、石井さんはmRNAの技術はさまざまな分野に応用できると考えています。「mRNAで作れるものはたくさんあって、ワクチンと呼ばれているものにどんどん応用されていくと思います。特に、がんワクチンは応用される時期が早いと思います。それ以外の感染症のワクチン、例えばインフルエンザのワクチンでは臨床試験が進んでいますが、いずれmRNAに取って代わられるのではないかといわれています」(石井さん)20年以上の研究の積み重ねによって人類が手にすることができたmRNAワクチン。新型コロナ収束につなげるために、その効果と安全性を一人一人が正しく理解することが、求められています。
変異株に対しても効果を維持している理由は、mRNAワクチンがヘルパーT細胞とキラーT細胞という2種類のT細胞を強く誘導するからだと石井さんは考えています。「ウイルスをやっつけるT細胞を非常に強く誘導していますので、ウイルスが変異して抗体が少し認識できなくなったとしても、免疫反応は十分だと考えています。ワクチンを打った方がデルタ株で重症化するということは、低い確率だと言われていますので、(デルタ株に効果がないのではということについて)今はそれほど心配する必要はありません」(石井さん)さらに、石井さんが強調するのは、ワクチン接種は自分を守るためだけではないということです。「ワクチンを打てば、自分自身はかなりの確率で感染や重症化のリスクを減らすことができます。そして、重要なのは、自分だけではなく家族や身近な人を守れるということがワクチンの大きな利益だということです。ワクチンを打つか打たないか、ご自身でよく考えて判断していただきたいと思いますが、このことがその判断の助けになるのではないかと思います」(石井さん)mRNAワクチン実用化までの長い道のり新型コロナウイルスの流行を受けて短期間で実用化されたmRNAワクチンですが、その研究の歴史は長く、1980年代にはmRNAを医薬品に使おうという研究がすでに始まっていました。そして、mRNAをワクチンとして使うためのブレークスルーを成し遂げたのが、ビオンテック社のカタリン・カリコ博士と米ペンシルベニア大学教授のドリュー・ワイスマン博士です。この発見によってノーベル賞の有力な候補に挙げられています。1980年代に考えられていたのは、「mRNAを人工的に作って細胞の中に運べば、薬などに利用できるタンパク質を作ることができる」ということでした。しかし、実際にmRNAを細胞に与えると、拒絶反応として激しい炎症が起き、細胞が死んでしまうことも分かっていました。多くの研究者はこのままでは薬として使うことは無理だと思っていたのです。その常識を覆して、拒絶反応を起こさない方法を見つけ出したのがカリコ博士とワイスマン博士でした。mRNAを構成する物質の1つ「ウリジン」を、「化学修飾」といわれる化学構造の飾りが付いたものに変えて細胞に与えると炎症が起きないことを発見したのです。2005年のことでした。これによってmRNAを人の体に投与するめどが立ちました。「ウリジン」(左)と「化学修飾されたウリジン」(右)/NHK提供拡大画像表示 この発表は世界中の研究者に大きなインパクトを与えましたが、当時、mRNAは非常に不安定で壊れやすいことに加え、人工的に作るのにお金がかかることもあり、ワクチンに使えると想像した人はほとんどいませんでした。しかし、カリコ博士たちは、この壊れやすい特徴が体の中に残らないという薬としての利点になると考え、さらに研究を続けます。そして2008年、炎症を抑えるだけでなくタンパク質を大量に作る方法を見つけたのです。「実験結果が出たとき、これまで夢みていた治療法、ワクチンやタンパク質治療薬、遺伝子治療などの可能性が開かれたと感じました」(ワイスマン博士)その後、カリコ博士はドイツの製薬ベンチャーのビオンテック社に迎えられ、この技術を使ってインフルエンザ用の新ワクチンやがんに対するワクチンの研究を進めていたところ、新型コロナウイルスのパンデミックが起きたのです。ビオンテック社でカリコ博士(右)たちがmRNAワクチンの開発を続けた/画像提供:BioNTechビオンテック社は新型コロナウイルスの遺伝情報が公開されるとすぐにmRNAワクチンの開発に着手。アメリカの大手製薬会社ファイザー社と提携し、大規模な臨床試験を行うとともに、ワクチンの大量生産を開始しました。こうしてわずか1年足らずで新型コロナウイルス用のmRNAワクチンが世界に向けて供給されるようになったのです。「学術界も小さなバイオテクノロジー企業も大企業もそれぞれがベストを尽くしました。今回はそれぞれが協力し合うことで、短期間でのワクチン開発が実現できたのです」(カリコ博士)国産のmRNAワクチンも実用化に向けて進んでいる新型コロナウイルスとの闘いが続くなか、日本でもさまざまなタイプのワクチンの開発が進められています。石井さんが製薬企業とともに行う「国産のmRNAワクチン」の開発は、来年末の実用化を目指して臨床試験が進められています。石井さんは国産ワクチン開発の意義をこのように訴えます。国産mRNAワクチンの開発が進む/NHK提供 「すでに海外のワクチンが入ってきていて必要ないじゃないかという方もいらっしゃると思います。ただ、次のパンデミックが起きたとき、ワクチンが足りないとなっても輸入できる保証はありません。自国の人を守るという意味では、国産のワクチンが必要です。また、新型コロナのワクチンを今後も定期的に打たなくてはならなくなった場合、国産のワクチンがあるというのは、安心なのではないでしょうか」(石井さん)さらに、石井さんはmRNAの技術はさまざまな分野に応用できると考えています。「mRNAで作れるものはたくさんあって、ワクチンと呼ばれているものにどんどん応用されていくと思います。特に、がんワクチンは応用される時期が早いと思います。それ以外の感染症のワクチン、例えばインフルエンザのワクチンでは臨床試験が進んでいますが、いずれmRNAに取って代わられるのではないかといわれています」(石井さん)20年以上の研究の積み重ねによって人類が手にすることができたmRNAワクチン。新型コロナ収束につなげるために、その効果と安全性を一人一人が正しく理解することが、求められています。
「ウイルスをやっつけるT細胞を非常に強く誘導していますので、ウイルスが変異して抗体が少し認識できなくなったとしても、免疫反応は十分だと考えています。ワクチンを打った方がデルタ株で重症化するということは、低い確率だと言われていますので、(デルタ株に効果がないのではということについて)今はそれほど心配する必要はありません」(石井さん)さらに、石井さんが強調するのは、ワクチン接種は自分を守るためだけではないということです。「ワクチンを打てば、自分自身はかなりの確率で感染や重症化のリスクを減らすことができます。そして、重要なのは、自分だけではなく家族や身近な人を守れるということがワクチンの大きな利益だということです。ワクチンを打つか打たないか、ご自身でよく考えて判断していただきたいと思いますが、このことがその判断の助けになるのではないかと思います」(石井さん)mRNAワクチン実用化までの長い道のり新型コロナウイルスの流行を受けて短期間で実用化されたmRNAワクチンですが、その研究の歴史は長く、1980年代にはmRNAを医薬品に使おうという研究がすでに始まっていました。そして、mRNAをワクチンとして使うためのブレークスルーを成し遂げたのが、ビオンテック社のカタリン・カリコ博士と米ペンシルベニア大学教授のドリュー・ワイスマン博士です。この発見によってノーベル賞の有力な候補に挙げられています。1980年代に考えられていたのは、「mRNAを人工的に作って細胞の中に運べば、薬などに利用できるタンパク質を作ることができる」ということでした。しかし、実際にmRNAを細胞に与えると、拒絶反応として激しい炎症が起き、細胞が死んでしまうことも分かっていました。多くの研究者はこのままでは薬として使うことは無理だと思っていたのです。その常識を覆して、拒絶反応を起こさない方法を見つけ出したのがカリコ博士とワイスマン博士でした。mRNAを構成する物質の1つ「ウリジン」を、「化学修飾」といわれる化学構造の飾りが付いたものに変えて細胞に与えると炎症が起きないことを発見したのです。2005年のことでした。これによってmRNAを人の体に投与するめどが立ちました。「ウリジン」(左)と「化学修飾されたウリジン」(右)/NHK提供拡大画像表示 この発表は世界中の研究者に大きなインパクトを与えましたが、当時、mRNAは非常に不安定で壊れやすいことに加え、人工的に作るのにお金がかかることもあり、ワクチンに使えると想像した人はほとんどいませんでした。しかし、カリコ博士たちは、この壊れやすい特徴が体の中に残らないという薬としての利点になると考え、さらに研究を続けます。そして2008年、炎症を抑えるだけでなくタンパク質を大量に作る方法を見つけたのです。「実験結果が出たとき、これまで夢みていた治療法、ワクチンやタンパク質治療薬、遺伝子治療などの可能性が開かれたと感じました」(ワイスマン博士)その後、カリコ博士はドイツの製薬ベンチャーのビオンテック社に迎えられ、この技術を使ってインフルエンザ用の新ワクチンやがんに対するワクチンの研究を進めていたところ、新型コロナウイルスのパンデミックが起きたのです。ビオンテック社でカリコ博士(右)たちがmRNAワクチンの開発を続けた/画像提供:BioNTechビオンテック社は新型コロナウイルスの遺伝情報が公開されるとすぐにmRNAワクチンの開発に着手。アメリカの大手製薬会社ファイザー社と提携し、大規模な臨床試験を行うとともに、ワクチンの大量生産を開始しました。こうしてわずか1年足らずで新型コロナウイルス用のmRNAワクチンが世界に向けて供給されるようになったのです。「学術界も小さなバイオテクノロジー企業も大企業もそれぞれがベストを尽くしました。今回はそれぞれが協力し合うことで、短期間でのワクチン開発が実現できたのです」(カリコ博士)国産のmRNAワクチンも実用化に向けて進んでいる新型コロナウイルスとの闘いが続くなか、日本でもさまざまなタイプのワクチンの開発が進められています。石井さんが製薬企業とともに行う「国産のmRNAワクチン」の開発は、来年末の実用化を目指して臨床試験が進められています。石井さんは国産ワクチン開発の意義をこのように訴えます。国産mRNAワクチンの開発が進む/NHK提供 「すでに海外のワクチンが入ってきていて必要ないじゃないかという方もいらっしゃると思います。ただ、次のパンデミックが起きたとき、ワクチンが足りないとなっても輸入できる保証はありません。自国の人を守るという意味では、国産のワクチンが必要です。また、新型コロナのワクチンを今後も定期的に打たなくてはならなくなった場合、国産のワクチンがあるというのは、安心なのではないでしょうか」(石井さん)さらに、石井さんはmRNAの技術はさまざまな分野に応用できると考えています。「mRNAで作れるものはたくさんあって、ワクチンと呼ばれているものにどんどん応用されていくと思います。特に、がんワクチンは応用される時期が早いと思います。それ以外の感染症のワクチン、例えばインフルエンザのワクチンでは臨床試験が進んでいますが、いずれmRNAに取って代わられるのではないかといわれています」(石井さん)20年以上の研究の積み重ねによって人類が手にすることができたmRNAワクチン。新型コロナ収束につなげるために、その効果と安全性を一人一人が正しく理解することが、求められています。
さらに、石井さんが強調するのは、ワクチン接種は自分を守るためだけではないということです。「ワクチンを打てば、自分自身はかなりの確率で感染や重症化のリスクを減らすことができます。そして、重要なのは、自分だけではなく家族や身近な人を守れるということがワクチンの大きな利益だということです。ワクチンを打つか打たないか、ご自身でよく考えて判断していただきたいと思いますが、このことがその判断の助けになるのではないかと思います」(石井さん)mRNAワクチン実用化までの長い道のり新型コロナウイルスの流行を受けて短期間で実用化されたmRNAワクチンですが、その研究の歴史は長く、1980年代にはmRNAを医薬品に使おうという研究がすでに始まっていました。そして、mRNAをワクチンとして使うためのブレークスルーを成し遂げたのが、ビオンテック社のカタリン・カリコ博士と米ペンシルベニア大学教授のドリュー・ワイスマン博士です。この発見によってノーベル賞の有力な候補に挙げられています。1980年代に考えられていたのは、「mRNAを人工的に作って細胞の中に運べば、薬などに利用できるタンパク質を作ることができる」ということでした。しかし、実際にmRNAを細胞に与えると、拒絶反応として激しい炎症が起き、細胞が死んでしまうことも分かっていました。多くの研究者はこのままでは薬として使うことは無理だと思っていたのです。その常識を覆して、拒絶反応を起こさない方法を見つけ出したのがカリコ博士とワイスマン博士でした。mRNAを構成する物質の1つ「ウリジン」を、「化学修飾」といわれる化学構造の飾りが付いたものに変えて細胞に与えると炎症が起きないことを発見したのです。2005年のことでした。これによってmRNAを人の体に投与するめどが立ちました。「ウリジン」(左)と「化学修飾されたウリジン」(右)/NHK提供拡大画像表示 この発表は世界中の研究者に大きなインパクトを与えましたが、当時、mRNAは非常に不安定で壊れやすいことに加え、人工的に作るのにお金がかかることもあり、ワクチンに使えると想像した人はほとんどいませんでした。しかし、カリコ博士たちは、この壊れやすい特徴が体の中に残らないという薬としての利点になると考え、さらに研究を続けます。そして2008年、炎症を抑えるだけでなくタンパク質を大量に作る方法を見つけたのです。「実験結果が出たとき、これまで夢みていた治療法、ワクチンやタンパク質治療薬、遺伝子治療などの可能性が開かれたと感じました」(ワイスマン博士)その後、カリコ博士はドイツの製薬ベンチャーのビオンテック社に迎えられ、この技術を使ってインフルエンザ用の新ワクチンやがんに対するワクチンの研究を進めていたところ、新型コロナウイルスのパンデミックが起きたのです。ビオンテック社でカリコ博士(右)たちがmRNAワクチンの開発を続けた/画像提供:BioNTechビオンテック社は新型コロナウイルスの遺伝情報が公開されるとすぐにmRNAワクチンの開発に着手。アメリカの大手製薬会社ファイザー社と提携し、大規模な臨床試験を行うとともに、ワクチンの大量生産を開始しました。こうしてわずか1年足らずで新型コロナウイルス用のmRNAワクチンが世界に向けて供給されるようになったのです。「学術界も小さなバイオテクノロジー企業も大企業もそれぞれがベストを尽くしました。今回はそれぞれが協力し合うことで、短期間でのワクチン開発が実現できたのです」(カリコ博士)国産のmRNAワクチンも実用化に向けて進んでいる新型コロナウイルスとの闘いが続くなか、日本でもさまざまなタイプのワクチンの開発が進められています。石井さんが製薬企業とともに行う「国産のmRNAワクチン」の開発は、来年末の実用化を目指して臨床試験が進められています。石井さんは国産ワクチン開発の意義をこのように訴えます。国産mRNAワクチンの開発が進む/NHK提供 「すでに海外のワクチンが入ってきていて必要ないじゃないかという方もいらっしゃると思います。ただ、次のパンデミックが起きたとき、ワクチンが足りないとなっても輸入できる保証はありません。自国の人を守るという意味では、国産のワクチンが必要です。また、新型コロナのワクチンを今後も定期的に打たなくてはならなくなった場合、国産のワクチンがあるというのは、安心なのではないでしょうか」(石井さん)さらに、石井さんはmRNAの技術はさまざまな分野に応用できると考えています。「mRNAで作れるものはたくさんあって、ワクチンと呼ばれているものにどんどん応用されていくと思います。特に、がんワクチンは応用される時期が早いと思います。それ以外の感染症のワクチン、例えばインフルエンザのワクチンでは臨床試験が進んでいますが、いずれmRNAに取って代わられるのではないかといわれています」(石井さん)20年以上の研究の積み重ねによって人類が手にすることができたmRNAワクチン。新型コロナ収束につなげるために、その効果と安全性を一人一人が正しく理解することが、求められています。
「ワクチンを打てば、自分自身はかなりの確率で感染や重症化のリスクを減らすことができます。そして、重要なのは、自分だけではなく家族や身近な人を守れるということがワクチンの大きな利益だということです。ワクチンを打つか打たないか、ご自身でよく考えて判断していただきたいと思いますが、このことがその判断の助けになるのではないかと思います」(石井さん)mRNAワクチン実用化までの長い道のり新型コロナウイルスの流行を受けて短期間で実用化されたmRNAワクチンですが、その研究の歴史は長く、1980年代にはmRNAを医薬品に使おうという研究がすでに始まっていました。そして、mRNAをワクチンとして使うためのブレークスルーを成し遂げたのが、ビオンテック社のカタリン・カリコ博士と米ペンシルベニア大学教授のドリュー・ワイスマン博士です。この発見によってノーベル賞の有力な候補に挙げられています。1980年代に考えられていたのは、「mRNAを人工的に作って細胞の中に運べば、薬などに利用できるタンパク質を作ることができる」ということでした。しかし、実際にmRNAを細胞に与えると、拒絶反応として激しい炎症が起き、細胞が死んでしまうことも分かっていました。多くの研究者はこのままでは薬として使うことは無理だと思っていたのです。その常識を覆して、拒絶反応を起こさない方法を見つけ出したのがカリコ博士とワイスマン博士でした。mRNAを構成する物質の1つ「ウリジン」を、「化学修飾」といわれる化学構造の飾りが付いたものに変えて細胞に与えると炎症が起きないことを発見したのです。2005年のことでした。これによってmRNAを人の体に投与するめどが立ちました。「ウリジン」(左)と「化学修飾されたウリジン」(右)/NHK提供拡大画像表示 この発表は世界中の研究者に大きなインパクトを与えましたが、当時、mRNAは非常に不安定で壊れやすいことに加え、人工的に作るのにお金がかかることもあり、ワクチンに使えると想像した人はほとんどいませんでした。しかし、カリコ博士たちは、この壊れやすい特徴が体の中に残らないという薬としての利点になると考え、さらに研究を続けます。そして2008年、炎症を抑えるだけでなくタンパク質を大量に作る方法を見つけたのです。「実験結果が出たとき、これまで夢みていた治療法、ワクチンやタンパク質治療薬、遺伝子治療などの可能性が開かれたと感じました」(ワイスマン博士)その後、カリコ博士はドイツの製薬ベンチャーのビオンテック社に迎えられ、この技術を使ってインフルエンザ用の新ワクチンやがんに対するワクチンの研究を進めていたところ、新型コロナウイルスのパンデミックが起きたのです。ビオンテック社でカリコ博士(右)たちがmRNAワクチンの開発を続けた/画像提供:BioNTechビオンテック社は新型コロナウイルスの遺伝情報が公開されるとすぐにmRNAワクチンの開発に着手。アメリカの大手製薬会社ファイザー社と提携し、大規模な臨床試験を行うとともに、ワクチンの大量生産を開始しました。こうしてわずか1年足らずで新型コロナウイルス用のmRNAワクチンが世界に向けて供給されるようになったのです。「学術界も小さなバイオテクノロジー企業も大企業もそれぞれがベストを尽くしました。今回はそれぞれが協力し合うことで、短期間でのワクチン開発が実現できたのです」(カリコ博士)国産のmRNAワクチンも実用化に向けて進んでいる新型コロナウイルスとの闘いが続くなか、日本でもさまざまなタイプのワクチンの開発が進められています。石井さんが製薬企業とともに行う「国産のmRNAワクチン」の開発は、来年末の実用化を目指して臨床試験が進められています。石井さんは国産ワクチン開発の意義をこのように訴えます。国産mRNAワクチンの開発が進む/NHK提供 「すでに海外のワクチンが入ってきていて必要ないじゃないかという方もいらっしゃると思います。ただ、次のパンデミックが起きたとき、ワクチンが足りないとなっても輸入できる保証はありません。自国の人を守るという意味では、国産のワクチンが必要です。また、新型コロナのワクチンを今後も定期的に打たなくてはならなくなった場合、国産のワクチンがあるというのは、安心なのではないでしょうか」(石井さん)さらに、石井さんはmRNAの技術はさまざまな分野に応用できると考えています。「mRNAで作れるものはたくさんあって、ワクチンと呼ばれているものにどんどん応用されていくと思います。特に、がんワクチンは応用される時期が早いと思います。それ以外の感染症のワクチン、例えばインフルエンザのワクチンでは臨床試験が進んでいますが、いずれmRNAに取って代わられるのではないかといわれています」(石井さん)20年以上の研究の積み重ねによって人類が手にすることができたmRNAワクチン。新型コロナ収束につなげるために、その効果と安全性を一人一人が正しく理解することが、求められています。
新型コロナウイルスの流行を受けて短期間で実用化されたmRNAワクチンですが、その研究の歴史は長く、1980年代にはmRNAを医薬品に使おうという研究がすでに始まっていました。そして、mRNAをワクチンとして使うためのブレークスルーを成し遂げたのが、ビオンテック社のカタリン・カリコ博士と米ペンシルベニア大学教授のドリュー・ワイスマン博士です。この発見によってノーベル賞の有力な候補に挙げられています。1980年代に考えられていたのは、「mRNAを人工的に作って細胞の中に運べば、薬などに利用できるタンパク質を作ることができる」ということでした。しかし、実際にmRNAを細胞に与えると、拒絶反応として激しい炎症が起き、細胞が死んでしまうことも分かっていました。多くの研究者はこのままでは薬として使うことは無理だと思っていたのです。その常識を覆して、拒絶反応を起こさない方法を見つけ出したのがカリコ博士とワイスマン博士でした。mRNAを構成する物質の1つ「ウリジン」を、「化学修飾」といわれる化学構造の飾りが付いたものに変えて細胞に与えると炎症が起きないことを発見したのです。2005年のことでした。これによってmRNAを人の体に投与するめどが立ちました。「ウリジン」(左)と「化学修飾されたウリジン」(右)/NHK提供拡大画像表示 この発表は世界中の研究者に大きなインパクトを与えましたが、当時、mRNAは非常に不安定で壊れやすいことに加え、人工的に作るのにお金がかかることもあり、ワクチンに使えると想像した人はほとんどいませんでした。しかし、カリコ博士たちは、この壊れやすい特徴が体の中に残らないという薬としての利点になると考え、さらに研究を続けます。そして2008年、炎症を抑えるだけでなくタンパク質を大量に作る方法を見つけたのです。「実験結果が出たとき、これまで夢みていた治療法、ワクチンやタンパク質治療薬、遺伝子治療などの可能性が開かれたと感じました」(ワイスマン博士)その後、カリコ博士はドイツの製薬ベンチャーのビオンテック社に迎えられ、この技術を使ってインフルエンザ用の新ワクチンやがんに対するワクチンの研究を進めていたところ、新型コロナウイルスのパンデミックが起きたのです。ビオンテック社でカリコ博士(右)たちがmRNAワクチンの開発を続けた/画像提供:BioNTechビオンテック社は新型コロナウイルスの遺伝情報が公開されるとすぐにmRNAワクチンの開発に着手。アメリカの大手製薬会社ファイザー社と提携し、大規模な臨床試験を行うとともに、ワクチンの大量生産を開始しました。こうしてわずか1年足らずで新型コロナウイルス用のmRNAワクチンが世界に向けて供給されるようになったのです。「学術界も小さなバイオテクノロジー企業も大企業もそれぞれがベストを尽くしました。今回はそれぞれが協力し合うことで、短期間でのワクチン開発が実現できたのです」(カリコ博士)国産のmRNAワクチンも実用化に向けて進んでいる新型コロナウイルスとの闘いが続くなか、日本でもさまざまなタイプのワクチンの開発が進められています。石井さんが製薬企業とともに行う「国産のmRNAワクチン」の開発は、来年末の実用化を目指して臨床試験が進められています。石井さんは国産ワクチン開発の意義をこのように訴えます。国産mRNAワクチンの開発が進む/NHK提供 「すでに海外のワクチンが入ってきていて必要ないじゃないかという方もいらっしゃると思います。ただ、次のパンデミックが起きたとき、ワクチンが足りないとなっても輸入できる保証はありません。自国の人を守るという意味では、国産のワクチンが必要です。また、新型コロナのワクチンを今後も定期的に打たなくてはならなくなった場合、国産のワクチンがあるというのは、安心なのではないでしょうか」(石井さん)さらに、石井さんはmRNAの技術はさまざまな分野に応用できると考えています。「mRNAで作れるものはたくさんあって、ワクチンと呼ばれているものにどんどん応用されていくと思います。特に、がんワクチンは応用される時期が早いと思います。それ以外の感染症のワクチン、例えばインフルエンザのワクチンでは臨床試験が進んでいますが、いずれmRNAに取って代わられるのではないかといわれています」(石井さん)20年以上の研究の積み重ねによって人類が手にすることができたmRNAワクチン。新型コロナ収束につなげるために、その効果と安全性を一人一人が正しく理解することが、求められています。
そして、mRNAをワクチンとして使うためのブレークスルーを成し遂げたのが、ビオンテック社のカタリン・カリコ博士と米ペンシルベニア大学教授のドリュー・ワイスマン博士です。この発見によってノーベル賞の有力な候補に挙げられています。1980年代に考えられていたのは、「mRNAを人工的に作って細胞の中に運べば、薬などに利用できるタンパク質を作ることができる」ということでした。しかし、実際にmRNAを細胞に与えると、拒絶反応として激しい炎症が起き、細胞が死んでしまうことも分かっていました。多くの研究者はこのままでは薬として使うことは無理だと思っていたのです。その常識を覆して、拒絶反応を起こさない方法を見つけ出したのがカリコ博士とワイスマン博士でした。mRNAを構成する物質の1つ「ウリジン」を、「化学修飾」といわれる化学構造の飾りが付いたものに変えて細胞に与えると炎症が起きないことを発見したのです。2005年のことでした。これによってmRNAを人の体に投与するめどが立ちました。「ウリジン」(左)と「化学修飾されたウリジン」(右)/NHK提供拡大画像表示 この発表は世界中の研究者に大きなインパクトを与えましたが、当時、mRNAは非常に不安定で壊れやすいことに加え、人工的に作るのにお金がかかることもあり、ワクチンに使えると想像した人はほとんどいませんでした。しかし、カリコ博士たちは、この壊れやすい特徴が体の中に残らないという薬としての利点になると考え、さらに研究を続けます。そして2008年、炎症を抑えるだけでなくタンパク質を大量に作る方法を見つけたのです。「実験結果が出たとき、これまで夢みていた治療法、ワクチンやタンパク質治療薬、遺伝子治療などの可能性が開かれたと感じました」(ワイスマン博士)その後、カリコ博士はドイツの製薬ベンチャーのビオンテック社に迎えられ、この技術を使ってインフルエンザ用の新ワクチンやがんに対するワクチンの研究を進めていたところ、新型コロナウイルスのパンデミックが起きたのです。ビオンテック社でカリコ博士(右)たちがmRNAワクチンの開発を続けた/画像提供:BioNTechビオンテック社は新型コロナウイルスの遺伝情報が公開されるとすぐにmRNAワクチンの開発に着手。アメリカの大手製薬会社ファイザー社と提携し、大規模な臨床試験を行うとともに、ワクチンの大量生産を開始しました。こうしてわずか1年足らずで新型コロナウイルス用のmRNAワクチンが世界に向けて供給されるようになったのです。「学術界も小さなバイオテクノロジー企業も大企業もそれぞれがベストを尽くしました。今回はそれぞれが協力し合うことで、短期間でのワクチン開発が実現できたのです」(カリコ博士)国産のmRNAワクチンも実用化に向けて進んでいる新型コロナウイルスとの闘いが続くなか、日本でもさまざまなタイプのワクチンの開発が進められています。石井さんが製薬企業とともに行う「国産のmRNAワクチン」の開発は、来年末の実用化を目指して臨床試験が進められています。石井さんは国産ワクチン開発の意義をこのように訴えます。国産mRNAワクチンの開発が進む/NHK提供 「すでに海外のワクチンが入ってきていて必要ないじゃないかという方もいらっしゃると思います。ただ、次のパンデミックが起きたとき、ワクチンが足りないとなっても輸入できる保証はありません。自国の人を守るという意味では、国産のワクチンが必要です。また、新型コロナのワクチンを今後も定期的に打たなくてはならなくなった場合、国産のワクチンがあるというのは、安心なのではないでしょうか」(石井さん)さらに、石井さんはmRNAの技術はさまざまな分野に応用できると考えています。「mRNAで作れるものはたくさんあって、ワクチンと呼ばれているものにどんどん応用されていくと思います。特に、がんワクチンは応用される時期が早いと思います。それ以外の感染症のワクチン、例えばインフルエンザのワクチンでは臨床試験が進んでいますが、いずれmRNAに取って代わられるのではないかといわれています」(石井さん)20年以上の研究の積み重ねによって人類が手にすることができたmRNAワクチン。新型コロナ収束につなげるために、その効果と安全性を一人一人が正しく理解することが、求められています。
1980年代に考えられていたのは、「mRNAを人工的に作って細胞の中に運べば、薬などに利用できるタンパク質を作ることができる」ということでした。しかし、実際にmRNAを細胞に与えると、拒絶反応として激しい炎症が起き、細胞が死んでしまうことも分かっていました。多くの研究者はこのままでは薬として使うことは無理だと思っていたのです。その常識を覆して、拒絶反応を起こさない方法を見つけ出したのがカリコ博士とワイスマン博士でした。mRNAを構成する物質の1つ「ウリジン」を、「化学修飾」といわれる化学構造の飾りが付いたものに変えて細胞に与えると炎症が起きないことを発見したのです。2005年のことでした。これによってmRNAを人の体に投与するめどが立ちました。「ウリジン」(左)と「化学修飾されたウリジン」(右)/NHK提供拡大画像表示 この発表は世界中の研究者に大きなインパクトを与えましたが、当時、mRNAは非常に不安定で壊れやすいことに加え、人工的に作るのにお金がかかることもあり、ワクチンに使えると想像した人はほとんどいませんでした。しかし、カリコ博士たちは、この壊れやすい特徴が体の中に残らないという薬としての利点になると考え、さらに研究を続けます。そして2008年、炎症を抑えるだけでなくタンパク質を大量に作る方法を見つけたのです。「実験結果が出たとき、これまで夢みていた治療法、ワクチンやタンパク質治療薬、遺伝子治療などの可能性が開かれたと感じました」(ワイスマン博士)その後、カリコ博士はドイツの製薬ベンチャーのビオンテック社に迎えられ、この技術を使ってインフルエンザ用の新ワクチンやがんに対するワクチンの研究を進めていたところ、新型コロナウイルスのパンデミックが起きたのです。ビオンテック社でカリコ博士(右)たちがmRNAワクチンの開発を続けた/画像提供:BioNTechビオンテック社は新型コロナウイルスの遺伝情報が公開されるとすぐにmRNAワクチンの開発に着手。アメリカの大手製薬会社ファイザー社と提携し、大規模な臨床試験を行うとともに、ワクチンの大量生産を開始しました。こうしてわずか1年足らずで新型コロナウイルス用のmRNAワクチンが世界に向けて供給されるようになったのです。「学術界も小さなバイオテクノロジー企業も大企業もそれぞれがベストを尽くしました。今回はそれぞれが協力し合うことで、短期間でのワクチン開発が実現できたのです」(カリコ博士)国産のmRNAワクチンも実用化に向けて進んでいる新型コロナウイルスとの闘いが続くなか、日本でもさまざまなタイプのワクチンの開発が進められています。石井さんが製薬企業とともに行う「国産のmRNAワクチン」の開発は、来年末の実用化を目指して臨床試験が進められています。石井さんは国産ワクチン開発の意義をこのように訴えます。国産mRNAワクチンの開発が進む/NHK提供 「すでに海外のワクチンが入ってきていて必要ないじゃないかという方もいらっしゃると思います。ただ、次のパンデミックが起きたとき、ワクチンが足りないとなっても輸入できる保証はありません。自国の人を守るという意味では、国産のワクチンが必要です。また、新型コロナのワクチンを今後も定期的に打たなくてはならなくなった場合、国産のワクチンがあるというのは、安心なのではないでしょうか」(石井さん)さらに、石井さんはmRNAの技術はさまざまな分野に応用できると考えています。「mRNAで作れるものはたくさんあって、ワクチンと呼ばれているものにどんどん応用されていくと思います。特に、がんワクチンは応用される時期が早いと思います。それ以外の感染症のワクチン、例えばインフルエンザのワクチンでは臨床試験が進んでいますが、いずれmRNAに取って代わられるのではないかといわれています」(石井さん)20年以上の研究の積み重ねによって人類が手にすることができたmRNAワクチン。新型コロナ収束につなげるために、その効果と安全性を一人一人が正しく理解することが、求められています。
その常識を覆して、拒絶反応を起こさない方法を見つけ出したのがカリコ博士とワイスマン博士でした。mRNAを構成する物質の1つ「ウリジン」を、「化学修飾」といわれる化学構造の飾りが付いたものに変えて細胞に与えると炎症が起きないことを発見したのです。2005年のことでした。これによってmRNAを人の体に投与するめどが立ちました。「ウリジン」(左)と「化学修飾されたウリジン」(右)/NHK提供拡大画像表示 この発表は世界中の研究者に大きなインパクトを与えましたが、当時、mRNAは非常に不安定で壊れやすいことに加え、人工的に作るのにお金がかかることもあり、ワクチンに使えると想像した人はほとんどいませんでした。しかし、カリコ博士たちは、この壊れやすい特徴が体の中に残らないという薬としての利点になると考え、さらに研究を続けます。そして2008年、炎症を抑えるだけでなくタンパク質を大量に作る方法を見つけたのです。「実験結果が出たとき、これまで夢みていた治療法、ワクチンやタンパク質治療薬、遺伝子治療などの可能性が開かれたと感じました」(ワイスマン博士)その後、カリコ博士はドイツの製薬ベンチャーのビオンテック社に迎えられ、この技術を使ってインフルエンザ用の新ワクチンやがんに対するワクチンの研究を進めていたところ、新型コロナウイルスのパンデミックが起きたのです。ビオンテック社でカリコ博士(右)たちがmRNAワクチンの開発を続けた/画像提供:BioNTechビオンテック社は新型コロナウイルスの遺伝情報が公開されるとすぐにmRNAワクチンの開発に着手。アメリカの大手製薬会社ファイザー社と提携し、大規模な臨床試験を行うとともに、ワクチンの大量生産を開始しました。こうしてわずか1年足らずで新型コロナウイルス用のmRNAワクチンが世界に向けて供給されるようになったのです。「学術界も小さなバイオテクノロジー企業も大企業もそれぞれがベストを尽くしました。今回はそれぞれが協力し合うことで、短期間でのワクチン開発が実現できたのです」(カリコ博士)国産のmRNAワクチンも実用化に向けて進んでいる新型コロナウイルスとの闘いが続くなか、日本でもさまざまなタイプのワクチンの開発が進められています。石井さんが製薬企業とともに行う「国産のmRNAワクチン」の開発は、来年末の実用化を目指して臨床試験が進められています。石井さんは国産ワクチン開発の意義をこのように訴えます。国産mRNAワクチンの開発が進む/NHK提供 「すでに海外のワクチンが入ってきていて必要ないじゃないかという方もいらっしゃると思います。ただ、次のパンデミックが起きたとき、ワクチンが足りないとなっても輸入できる保証はありません。自国の人を守るという意味では、国産のワクチンが必要です。また、新型コロナのワクチンを今後も定期的に打たなくてはならなくなった場合、国産のワクチンがあるというのは、安心なのではないでしょうか」(石井さん)さらに、石井さんはmRNAの技術はさまざまな分野に応用できると考えています。「mRNAで作れるものはたくさんあって、ワクチンと呼ばれているものにどんどん応用されていくと思います。特に、がんワクチンは応用される時期が早いと思います。それ以外の感染症のワクチン、例えばインフルエンザのワクチンでは臨床試験が進んでいますが、いずれmRNAに取って代わられるのではないかといわれています」(石井さん)20年以上の研究の積み重ねによって人類が手にすることができたmRNAワクチン。新型コロナ収束につなげるために、その効果と安全性を一人一人が正しく理解することが、求められています。
「ウリジン」(左)と「化学修飾されたウリジン」(右)/NHK提供拡大画像表示 この発表は世界中の研究者に大きなインパクトを与えましたが、当時、mRNAは非常に不安定で壊れやすいことに加え、人工的に作るのにお金がかかることもあり、ワクチンに使えると想像した人はほとんどいませんでした。しかし、カリコ博士たちは、この壊れやすい特徴が体の中に残らないという薬としての利点になると考え、さらに研究を続けます。そして2008年、炎症を抑えるだけでなくタンパク質を大量に作る方法を見つけたのです。「実験結果が出たとき、これまで夢みていた治療法、ワクチンやタンパク質治療薬、遺伝子治療などの可能性が開かれたと感じました」(ワイスマン博士)その後、カリコ博士はドイツの製薬ベンチャーのビオンテック社に迎えられ、この技術を使ってインフルエンザ用の新ワクチンやがんに対するワクチンの研究を進めていたところ、新型コロナウイルスのパンデミックが起きたのです。ビオンテック社でカリコ博士(右)たちがmRNAワクチンの開発を続けた/画像提供:BioNTechビオンテック社は新型コロナウイルスの遺伝情報が公開されるとすぐにmRNAワクチンの開発に着手。アメリカの大手製薬会社ファイザー社と提携し、大規模な臨床試験を行うとともに、ワクチンの大量生産を開始しました。こうしてわずか1年足らずで新型コロナウイルス用のmRNAワクチンが世界に向けて供給されるようになったのです。「学術界も小さなバイオテクノロジー企業も大企業もそれぞれがベストを尽くしました。今回はそれぞれが協力し合うことで、短期間でのワクチン開発が実現できたのです」(カリコ博士)国産のmRNAワクチンも実用化に向けて進んでいる新型コロナウイルスとの闘いが続くなか、日本でもさまざまなタイプのワクチンの開発が進められています。石井さんが製薬企業とともに行う「国産のmRNAワクチン」の開発は、来年末の実用化を目指して臨床試験が進められています。石井さんは国産ワクチン開発の意義をこのように訴えます。国産mRNAワクチンの開発が進む/NHK提供 「すでに海外のワクチンが入ってきていて必要ないじゃないかという方もいらっしゃると思います。ただ、次のパンデミックが起きたとき、ワクチンが足りないとなっても輸入できる保証はありません。自国の人を守るという意味では、国産のワクチンが必要です。また、新型コロナのワクチンを今後も定期的に打たなくてはならなくなった場合、国産のワクチンがあるというのは、安心なのではないでしょうか」(石井さん)さらに、石井さんはmRNAの技術はさまざまな分野に応用できると考えています。「mRNAで作れるものはたくさんあって、ワクチンと呼ばれているものにどんどん応用されていくと思います。特に、がんワクチンは応用される時期が早いと思います。それ以外の感染症のワクチン、例えばインフルエンザのワクチンでは臨床試験が進んでいますが、いずれmRNAに取って代わられるのではないかといわれています」(石井さん)20年以上の研究の積み重ねによって人類が手にすることができたmRNAワクチン。新型コロナ収束につなげるために、その効果と安全性を一人一人が正しく理解することが、求められています。
この発表は世界中の研究者に大きなインパクトを与えましたが、当時、mRNAは非常に不安定で壊れやすいことに加え、人工的に作るのにお金がかかることもあり、ワクチンに使えると想像した人はほとんどいませんでした。しかし、カリコ博士たちは、この壊れやすい特徴が体の中に残らないという薬としての利点になると考え、さらに研究を続けます。そして2008年、炎症を抑えるだけでなくタンパク質を大量に作る方法を見つけたのです。「実験結果が出たとき、これまで夢みていた治療法、ワクチンやタンパク質治療薬、遺伝子治療などの可能性が開かれたと感じました」(ワイスマン博士)その後、カリコ博士はドイツの製薬ベンチャーのビオンテック社に迎えられ、この技術を使ってインフルエンザ用の新ワクチンやがんに対するワクチンの研究を進めていたところ、新型コロナウイルスのパンデミックが起きたのです。ビオンテック社でカリコ博士(右)たちがmRNAワクチンの開発を続けた/画像提供:BioNTechビオンテック社は新型コロナウイルスの遺伝情報が公開されるとすぐにmRNAワクチンの開発に着手。アメリカの大手製薬会社ファイザー社と提携し、大規模な臨床試験を行うとともに、ワクチンの大量生産を開始しました。こうしてわずか1年足らずで新型コロナウイルス用のmRNAワクチンが世界に向けて供給されるようになったのです。「学術界も小さなバイオテクノロジー企業も大企業もそれぞれがベストを尽くしました。今回はそれぞれが協力し合うことで、短期間でのワクチン開発が実現できたのです」(カリコ博士)国産のmRNAワクチンも実用化に向けて進んでいる新型コロナウイルスとの闘いが続くなか、日本でもさまざまなタイプのワクチンの開発が進められています。石井さんが製薬企業とともに行う「国産のmRNAワクチン」の開発は、来年末の実用化を目指して臨床試験が進められています。石井さんは国産ワクチン開発の意義をこのように訴えます。国産mRNAワクチンの開発が進む/NHK提供 「すでに海外のワクチンが入ってきていて必要ないじゃないかという方もいらっしゃると思います。ただ、次のパンデミックが起きたとき、ワクチンが足りないとなっても輸入できる保証はありません。自国の人を守るという意味では、国産のワクチンが必要です。また、新型コロナのワクチンを今後も定期的に打たなくてはならなくなった場合、国産のワクチンがあるというのは、安心なのではないでしょうか」(石井さん)さらに、石井さんはmRNAの技術はさまざまな分野に応用できると考えています。「mRNAで作れるものはたくさんあって、ワクチンと呼ばれているものにどんどん応用されていくと思います。特に、がんワクチンは応用される時期が早いと思います。それ以外の感染症のワクチン、例えばインフルエンザのワクチンでは臨床試験が進んでいますが、いずれmRNAに取って代わられるのではないかといわれています」(石井さん)20年以上の研究の積み重ねによって人類が手にすることができたmRNAワクチン。新型コロナ収束につなげるために、その効果と安全性を一人一人が正しく理解することが、求められています。
この発表は世界中の研究者に大きなインパクトを与えましたが、当時、mRNAは非常に不安定で壊れやすいことに加え、人工的に作るのにお金がかかることもあり、ワクチンに使えると想像した人はほとんどいませんでした。しかし、カリコ博士たちは、この壊れやすい特徴が体の中に残らないという薬としての利点になると考え、さらに研究を続けます。そして2008年、炎症を抑えるだけでなくタンパク質を大量に作る方法を見つけたのです。「実験結果が出たとき、これまで夢みていた治療法、ワクチンやタンパク質治療薬、遺伝子治療などの可能性が開かれたと感じました」(ワイスマン博士)その後、カリコ博士はドイツの製薬ベンチャーのビオンテック社に迎えられ、この技術を使ってインフルエンザ用の新ワクチンやがんに対するワクチンの研究を進めていたところ、新型コロナウイルスのパンデミックが起きたのです。ビオンテック社でカリコ博士(右)たちがmRNAワクチンの開発を続けた/画像提供:BioNTechビオンテック社は新型コロナウイルスの遺伝情報が公開されるとすぐにmRNAワクチンの開発に着手。アメリカの大手製薬会社ファイザー社と提携し、大規模な臨床試験を行うとともに、ワクチンの大量生産を開始しました。こうしてわずか1年足らずで新型コロナウイルス用のmRNAワクチンが世界に向けて供給されるようになったのです。「学術界も小さなバイオテクノロジー企業も大企業もそれぞれがベストを尽くしました。今回はそれぞれが協力し合うことで、短期間でのワクチン開発が実現できたのです」(カリコ博士)国産のmRNAワクチンも実用化に向けて進んでいる新型コロナウイルスとの闘いが続くなか、日本でもさまざまなタイプのワクチンの開発が進められています。石井さんが製薬企業とともに行う「国産のmRNAワクチン」の開発は、来年末の実用化を目指して臨床試験が進められています。石井さんは国産ワクチン開発の意義をこのように訴えます。国産mRNAワクチンの開発が進む/NHK提供 「すでに海外のワクチンが入ってきていて必要ないじゃないかという方もいらっしゃると思います。ただ、次のパンデミックが起きたとき、ワクチンが足りないとなっても輸入できる保証はありません。自国の人を守るという意味では、国産のワクチンが必要です。また、新型コロナのワクチンを今後も定期的に打たなくてはならなくなった場合、国産のワクチンがあるというのは、安心なのではないでしょうか」(石井さん)さらに、石井さんはmRNAの技術はさまざまな分野に応用できると考えています。「mRNAで作れるものはたくさんあって、ワクチンと呼ばれているものにどんどん応用されていくと思います。特に、がんワクチンは応用される時期が早いと思います。それ以外の感染症のワクチン、例えばインフルエンザのワクチンでは臨床試験が進んでいますが、いずれmRNAに取って代わられるのではないかといわれています」(石井さん)20年以上の研究の積み重ねによって人類が手にすることができたmRNAワクチン。新型コロナ収束につなげるために、その効果と安全性を一人一人が正しく理解することが、求められています。
しかし、カリコ博士たちは、この壊れやすい特徴が体の中に残らないという薬としての利点になると考え、さらに研究を続けます。そして2008年、炎症を抑えるだけでなくタンパク質を大量に作る方法を見つけたのです。「実験結果が出たとき、これまで夢みていた治療法、ワクチンやタンパク質治療薬、遺伝子治療などの可能性が開かれたと感じました」(ワイスマン博士)その後、カリコ博士はドイツの製薬ベンチャーのビオンテック社に迎えられ、この技術を使ってインフルエンザ用の新ワクチンやがんに対するワクチンの研究を進めていたところ、新型コロナウイルスのパンデミックが起きたのです。ビオンテック社でカリコ博士(右)たちがmRNAワクチンの開発を続けた/画像提供:BioNTechビオンテック社は新型コロナウイルスの遺伝情報が公開されるとすぐにmRNAワクチンの開発に着手。アメリカの大手製薬会社ファイザー社と提携し、大規模な臨床試験を行うとともに、ワクチンの大量生産を開始しました。こうしてわずか1年足らずで新型コロナウイルス用のmRNAワクチンが世界に向けて供給されるようになったのです。「学術界も小さなバイオテクノロジー企業も大企業もそれぞれがベストを尽くしました。今回はそれぞれが協力し合うことで、短期間でのワクチン開発が実現できたのです」(カリコ博士)国産のmRNAワクチンも実用化に向けて進んでいる新型コロナウイルスとの闘いが続くなか、日本でもさまざまなタイプのワクチンの開発が進められています。石井さんが製薬企業とともに行う「国産のmRNAワクチン」の開発は、来年末の実用化を目指して臨床試験が進められています。石井さんは国産ワクチン開発の意義をこのように訴えます。国産mRNAワクチンの開発が進む/NHK提供 「すでに海外のワクチンが入ってきていて必要ないじゃないかという方もいらっしゃると思います。ただ、次のパンデミックが起きたとき、ワクチンが足りないとなっても輸入できる保証はありません。自国の人を守るという意味では、国産のワクチンが必要です。また、新型コロナのワクチンを今後も定期的に打たなくてはならなくなった場合、国産のワクチンがあるというのは、安心なのではないでしょうか」(石井さん)さらに、石井さんはmRNAの技術はさまざまな分野に応用できると考えています。「mRNAで作れるものはたくさんあって、ワクチンと呼ばれているものにどんどん応用されていくと思います。特に、がんワクチンは応用される時期が早いと思います。それ以外の感染症のワクチン、例えばインフルエンザのワクチンでは臨床試験が進んでいますが、いずれmRNAに取って代わられるのではないかといわれています」(石井さん)20年以上の研究の積み重ねによって人類が手にすることができたmRNAワクチン。新型コロナ収束につなげるために、その効果と安全性を一人一人が正しく理解することが、求められています。
「実験結果が出たとき、これまで夢みていた治療法、ワクチンやタンパク質治療薬、遺伝子治療などの可能性が開かれたと感じました」(ワイスマン博士)その後、カリコ博士はドイツの製薬ベンチャーのビオンテック社に迎えられ、この技術を使ってインフルエンザ用の新ワクチンやがんに対するワクチンの研究を進めていたところ、新型コロナウイルスのパンデミックが起きたのです。ビオンテック社でカリコ博士(右)たちがmRNAワクチンの開発を続けた/画像提供:BioNTechビオンテック社は新型コロナウイルスの遺伝情報が公開されるとすぐにmRNAワクチンの開発に着手。アメリカの大手製薬会社ファイザー社と提携し、大規模な臨床試験を行うとともに、ワクチンの大量生産を開始しました。こうしてわずか1年足らずで新型コロナウイルス用のmRNAワクチンが世界に向けて供給されるようになったのです。「学術界も小さなバイオテクノロジー企業も大企業もそれぞれがベストを尽くしました。今回はそれぞれが協力し合うことで、短期間でのワクチン開発が実現できたのです」(カリコ博士)国産のmRNAワクチンも実用化に向けて進んでいる新型コロナウイルスとの闘いが続くなか、日本でもさまざまなタイプのワクチンの開発が進められています。石井さんが製薬企業とともに行う「国産のmRNAワクチン」の開発は、来年末の実用化を目指して臨床試験が進められています。石井さんは国産ワクチン開発の意義をこのように訴えます。国産mRNAワクチンの開発が進む/NHK提供 「すでに海外のワクチンが入ってきていて必要ないじゃないかという方もいらっしゃると思います。ただ、次のパンデミックが起きたとき、ワクチンが足りないとなっても輸入できる保証はありません。自国の人を守るという意味では、国産のワクチンが必要です。また、新型コロナのワクチンを今後も定期的に打たなくてはならなくなった場合、国産のワクチンがあるというのは、安心なのではないでしょうか」(石井さん)さらに、石井さんはmRNAの技術はさまざまな分野に応用できると考えています。「mRNAで作れるものはたくさんあって、ワクチンと呼ばれているものにどんどん応用されていくと思います。特に、がんワクチンは応用される時期が早いと思います。それ以外の感染症のワクチン、例えばインフルエンザのワクチンでは臨床試験が進んでいますが、いずれmRNAに取って代わられるのではないかといわれています」(石井さん)20年以上の研究の積み重ねによって人類が手にすることができたmRNAワクチン。新型コロナ収束につなげるために、その効果と安全性を一人一人が正しく理解することが、求められています。
その後、カリコ博士はドイツの製薬ベンチャーのビオンテック社に迎えられ、この技術を使ってインフルエンザ用の新ワクチンやがんに対するワクチンの研究を進めていたところ、新型コロナウイルスのパンデミックが起きたのです。ビオンテック社でカリコ博士(右)たちがmRNAワクチンの開発を続けた/画像提供:BioNTechビオンテック社は新型コロナウイルスの遺伝情報が公開されるとすぐにmRNAワクチンの開発に着手。アメリカの大手製薬会社ファイザー社と提携し、大規模な臨床試験を行うとともに、ワクチンの大量生産を開始しました。こうしてわずか1年足らずで新型コロナウイルス用のmRNAワクチンが世界に向けて供給されるようになったのです。「学術界も小さなバイオテクノロジー企業も大企業もそれぞれがベストを尽くしました。今回はそれぞれが協力し合うことで、短期間でのワクチン開発が実現できたのです」(カリコ博士)国産のmRNAワクチンも実用化に向けて進んでいる新型コロナウイルスとの闘いが続くなか、日本でもさまざまなタイプのワクチンの開発が進められています。石井さんが製薬企業とともに行う「国産のmRNAワクチン」の開発は、来年末の実用化を目指して臨床試験が進められています。石井さんは国産ワクチン開発の意義をこのように訴えます。国産mRNAワクチンの開発が進む/NHK提供 「すでに海外のワクチンが入ってきていて必要ないじゃないかという方もいらっしゃると思います。ただ、次のパンデミックが起きたとき、ワクチンが足りないとなっても輸入できる保証はありません。自国の人を守るという意味では、国産のワクチンが必要です。また、新型コロナのワクチンを今後も定期的に打たなくてはならなくなった場合、国産のワクチンがあるというのは、安心なのではないでしょうか」(石井さん)さらに、石井さんはmRNAの技術はさまざまな分野に応用できると考えています。「mRNAで作れるものはたくさんあって、ワクチンと呼ばれているものにどんどん応用されていくと思います。特に、がんワクチンは応用される時期が早いと思います。それ以外の感染症のワクチン、例えばインフルエンザのワクチンでは臨床試験が進んでいますが、いずれmRNAに取って代わられるのではないかといわれています」(石井さん)20年以上の研究の積み重ねによって人類が手にすることができたmRNAワクチン。新型コロナ収束につなげるために、その効果と安全性を一人一人が正しく理解することが、求められています。
ビオンテック社でカリコ博士(右)たちがmRNAワクチンの開発を続けた/画像提供:BioNTechビオンテック社は新型コロナウイルスの遺伝情報が公開されるとすぐにmRNAワクチンの開発に着手。アメリカの大手製薬会社ファイザー社と提携し、大規模な臨床試験を行うとともに、ワクチンの大量生産を開始しました。こうしてわずか1年足らずで新型コロナウイルス用のmRNAワクチンが世界に向けて供給されるようになったのです。「学術界も小さなバイオテクノロジー企業も大企業もそれぞれがベストを尽くしました。今回はそれぞれが協力し合うことで、短期間でのワクチン開発が実現できたのです」(カリコ博士)国産のmRNAワクチンも実用化に向けて進んでいる新型コロナウイルスとの闘いが続くなか、日本でもさまざまなタイプのワクチンの開発が進められています。石井さんが製薬企業とともに行う「国産のmRNAワクチン」の開発は、来年末の実用化を目指して臨床試験が進められています。石井さんは国産ワクチン開発の意義をこのように訴えます。国産mRNAワクチンの開発が進む/NHK提供 「すでに海外のワクチンが入ってきていて必要ないじゃないかという方もいらっしゃると思います。ただ、次のパンデミックが起きたとき、ワクチンが足りないとなっても輸入できる保証はありません。自国の人を守るという意味では、国産のワクチンが必要です。また、新型コロナのワクチンを今後も定期的に打たなくてはならなくなった場合、国産のワクチンがあるというのは、安心なのではないでしょうか」(石井さん)さらに、石井さんはmRNAの技術はさまざまな分野に応用できると考えています。「mRNAで作れるものはたくさんあって、ワクチンと呼ばれているものにどんどん応用されていくと思います。特に、がんワクチンは応用される時期が早いと思います。それ以外の感染症のワクチン、例えばインフルエンザのワクチンでは臨床試験が進んでいますが、いずれmRNAに取って代わられるのではないかといわれています」(石井さん)20年以上の研究の積み重ねによって人類が手にすることができたmRNAワクチン。新型コロナ収束につなげるために、その効果と安全性を一人一人が正しく理解することが、求められています。
ビオンテック社は新型コロナウイルスの遺伝情報が公開されるとすぐにmRNAワクチンの開発に着手。アメリカの大手製薬会社ファイザー社と提携し、大規模な臨床試験を行うとともに、ワクチンの大量生産を開始しました。こうしてわずか1年足らずで新型コロナウイルス用のmRNAワクチンが世界に向けて供給されるようになったのです。「学術界も小さなバイオテクノロジー企業も大企業もそれぞれがベストを尽くしました。今回はそれぞれが協力し合うことで、短期間でのワクチン開発が実現できたのです」(カリコ博士)国産のmRNAワクチンも実用化に向けて進んでいる新型コロナウイルスとの闘いが続くなか、日本でもさまざまなタイプのワクチンの開発が進められています。石井さんが製薬企業とともに行う「国産のmRNAワクチン」の開発は、来年末の実用化を目指して臨床試験が進められています。石井さんは国産ワクチン開発の意義をこのように訴えます。国産mRNAワクチンの開発が進む/NHK提供 「すでに海外のワクチンが入ってきていて必要ないじゃないかという方もいらっしゃると思います。ただ、次のパンデミックが起きたとき、ワクチンが足りないとなっても輸入できる保証はありません。自国の人を守るという意味では、国産のワクチンが必要です。また、新型コロナのワクチンを今後も定期的に打たなくてはならなくなった場合、国産のワクチンがあるというのは、安心なのではないでしょうか」(石井さん)さらに、石井さんはmRNAの技術はさまざまな分野に応用できると考えています。「mRNAで作れるものはたくさんあって、ワクチンと呼ばれているものにどんどん応用されていくと思います。特に、がんワクチンは応用される時期が早いと思います。それ以外の感染症のワクチン、例えばインフルエンザのワクチンでは臨床試験が進んでいますが、いずれmRNAに取って代わられるのではないかといわれています」(石井さん)20年以上の研究の積み重ねによって人類が手にすることができたmRNAワクチン。新型コロナ収束につなげるために、その効果と安全性を一人一人が正しく理解することが、求められています。
「学術界も小さなバイオテクノロジー企業も大企業もそれぞれがベストを尽くしました。今回はそれぞれが協力し合うことで、短期間でのワクチン開発が実現できたのです」(カリコ博士)国産のmRNAワクチンも実用化に向けて進んでいる新型コロナウイルスとの闘いが続くなか、日本でもさまざまなタイプのワクチンの開発が進められています。石井さんが製薬企業とともに行う「国産のmRNAワクチン」の開発は、来年末の実用化を目指して臨床試験が進められています。石井さんは国産ワクチン開発の意義をこのように訴えます。国産mRNAワクチンの開発が進む/NHK提供 「すでに海外のワクチンが入ってきていて必要ないじゃないかという方もいらっしゃると思います。ただ、次のパンデミックが起きたとき、ワクチンが足りないとなっても輸入できる保証はありません。自国の人を守るという意味では、国産のワクチンが必要です。また、新型コロナのワクチンを今後も定期的に打たなくてはならなくなった場合、国産のワクチンがあるというのは、安心なのではないでしょうか」(石井さん)さらに、石井さんはmRNAの技術はさまざまな分野に応用できると考えています。「mRNAで作れるものはたくさんあって、ワクチンと呼ばれているものにどんどん応用されていくと思います。特に、がんワクチンは応用される時期が早いと思います。それ以外の感染症のワクチン、例えばインフルエンザのワクチンでは臨床試験が進んでいますが、いずれmRNAに取って代わられるのではないかといわれています」(石井さん)20年以上の研究の積み重ねによって人類が手にすることができたmRNAワクチン。新型コロナ収束につなげるために、その効果と安全性を一人一人が正しく理解することが、求められています。
新型コロナウイルスとの闘いが続くなか、日本でもさまざまなタイプのワクチンの開発が進められています。石井さんが製薬企業とともに行う「国産のmRNAワクチン」の開発は、来年末の実用化を目指して臨床試験が進められています。石井さんは国産ワクチン開発の意義をこのように訴えます。国産mRNAワクチンの開発が進む/NHK提供 「すでに海外のワクチンが入ってきていて必要ないじゃないかという方もいらっしゃると思います。ただ、次のパンデミックが起きたとき、ワクチンが足りないとなっても輸入できる保証はありません。自国の人を守るという意味では、国産のワクチンが必要です。また、新型コロナのワクチンを今後も定期的に打たなくてはならなくなった場合、国産のワクチンがあるというのは、安心なのではないでしょうか」(石井さん)さらに、石井さんはmRNAの技術はさまざまな分野に応用できると考えています。「mRNAで作れるものはたくさんあって、ワクチンと呼ばれているものにどんどん応用されていくと思います。特に、がんワクチンは応用される時期が早いと思います。それ以外の感染症のワクチン、例えばインフルエンザのワクチンでは臨床試験が進んでいますが、いずれmRNAに取って代わられるのではないかといわれています」(石井さん)20年以上の研究の積み重ねによって人類が手にすることができたmRNAワクチン。新型コロナ収束につなげるために、その効果と安全性を一人一人が正しく理解することが、求められています。
国産mRNAワクチンの開発が進む/NHK提供 「すでに海外のワクチンが入ってきていて必要ないじゃないかという方もいらっしゃると思います。ただ、次のパンデミックが起きたとき、ワクチンが足りないとなっても輸入できる保証はありません。自国の人を守るという意味では、国産のワクチンが必要です。また、新型コロナのワクチンを今後も定期的に打たなくてはならなくなった場合、国産のワクチンがあるというのは、安心なのではないでしょうか」(石井さん)さらに、石井さんはmRNAの技術はさまざまな分野に応用できると考えています。「mRNAで作れるものはたくさんあって、ワクチンと呼ばれているものにどんどん応用されていくと思います。特に、がんワクチンは応用される時期が早いと思います。それ以外の感染症のワクチン、例えばインフルエンザのワクチンでは臨床試験が進んでいますが、いずれmRNAに取って代わられるのではないかといわれています」(石井さん)20年以上の研究の積み重ねによって人類が手にすることができたmRNAワクチン。新型コロナ収束につなげるために、その効果と安全性を一人一人が正しく理解することが、求められています。
「すでに海外のワクチンが入ってきていて必要ないじゃないかという方もいらっしゃると思います。ただ、次のパンデミックが起きたとき、ワクチンが足りないとなっても輸入できる保証はありません。自国の人を守るという意味では、国産のワクチンが必要です。また、新型コロナのワクチンを今後も定期的に打たなくてはならなくなった場合、国産のワクチンがあるというのは、安心なのではないでしょうか」(石井さん)さらに、石井さんはmRNAの技術はさまざまな分野に応用できると考えています。「mRNAで作れるものはたくさんあって、ワクチンと呼ばれているものにどんどん応用されていくと思います。特に、がんワクチンは応用される時期が早いと思います。それ以外の感染症のワクチン、例えばインフルエンザのワクチンでは臨床試験が進んでいますが、いずれmRNAに取って代わられるのではないかといわれています」(石井さん)20年以上の研究の積み重ねによって人類が手にすることができたmRNAワクチン。新型コロナ収束につなげるために、その効果と安全性を一人一人が正しく理解することが、求められています。
「すでに海外のワクチンが入ってきていて必要ないじゃないかという方もいらっしゃると思います。ただ、次のパンデミックが起きたとき、ワクチンが足りないとなっても輸入できる保証はありません。自国の人を守るという意味では、国産のワクチンが必要です。また、新型コロナのワクチンを今後も定期的に打たなくてはならなくなった場合、国産のワクチンがあるというのは、安心なのではないでしょうか」(石井さん)さらに、石井さんはmRNAの技術はさまざまな分野に応用できると考えています。「mRNAで作れるものはたくさんあって、ワクチンと呼ばれているものにどんどん応用されていくと思います。特に、がんワクチンは応用される時期が早いと思います。それ以外の感染症のワクチン、例えばインフルエンザのワクチンでは臨床試験が進んでいますが、いずれmRNAに取って代わられるのではないかといわれています」(石井さん)20年以上の研究の積み重ねによって人類が手にすることができたmRNAワクチン。新型コロナ収束につなげるために、その効果と安全性を一人一人が正しく理解することが、求められています。
さらに、石井さんはmRNAの技術はさまざまな分野に応用できると考えています。「mRNAで作れるものはたくさんあって、ワクチンと呼ばれているものにどんどん応用されていくと思います。特に、がんワクチンは応用される時期が早いと思います。それ以外の感染症のワクチン、例えばインフルエンザのワクチンでは臨床試験が進んでいますが、いずれmRNAに取って代わられるのではないかといわれています」(石井さん)20年以上の研究の積み重ねによって人類が手にすることができたmRNAワクチン。新型コロナ収束につなげるために、その効果と安全性を一人一人が正しく理解することが、求められています。
「mRNAで作れるものはたくさんあって、ワクチンと呼ばれているものにどんどん応用されていくと思います。特に、がんワクチンは応用される時期が早いと思います。それ以外の感染症のワクチン、例えばインフルエンザのワクチンでは臨床試験が進んでいますが、いずれmRNAに取って代わられるのではないかといわれています」(石井さん)20年以上の研究の積み重ねによって人類が手にすることができたmRNAワクチン。新型コロナ収束につなげるために、その効果と安全性を一人一人が正しく理解することが、求められています。
20年以上の研究の積み重ねによって人類が手にすることができたmRNAワクチン。新型コロナ収束につなげるために、その効果と安全性を一人一人が正しく理解することが、求められています。