「選手村の外は感染対策ユルユル」海外メディアが報じたコロナ禍の東京五輪の姿

開会式寸前まで混乱が続いたが、無観客でなんとか開催された東京五輪。もちろん、我が家でもテレビに向かって声援を送ったし、参加した選手たちの頑張りには、本当に感動した。普段、スポーツにほとんど興味を持たない高校生の娘は、新種目のスケートボードに釘付け。五輪は多くの人をとりこにする、4年に一度のスポーツの祭典なのかもしれない。
24日には、パラリンピックが開幕した。開会式は、「WE HAVE WINGS(私たちには翼がある)」をテーマにして統一感があり、「オリンピックよりもよかった」との声が、ネットのトレンドワードにもなった。
さて、海外のメディアは今回の五輪をどう報じたのだろうか。そこから、今開かれているパラリンピック、そして今後に生かされるべきことを考えてみたい。
「観客も拍手もまばらな閉会式。空中に浮かび上がった光の粒が五輪のマークに変わった。しかし、国立競技場にいた人には、それは見えなかった」という描写で五輪の締めくくりを伝えたのは、ニューヨークタイムズ。今大会を「近年の歴史で一番奇妙なオリンピックの一つ(One of the strangest Olympics in recent memory)」と表現した。
「それは、無観客で開催された、今までで一番奇妙なオリンピックだったのだろうか?」と報じたのはAP通信だ。ホスト国の日本人の多くが反対した「今までで一番怒りが大きかったオリンピック(angriest Olympics)」だったのか、コロナにおびえた「一番恐ろしいオリンピック(scariest Olympics)」だったのだろうかと問いかけた。■「復興五輪」だったのに多くの海外メディアは、東京大会が「2011年の東日本大震災からの復興を象徴するものになる」と喧伝されていたにも関わらず、いつの間にかコロナとの闘いにすり替わっていたと指摘する。安倍晋三首相(当時)が、2013年9月に五輪招致に向けた国際オリンピック委員会(IOC)総会で、「福島原発の状況は『Under control(制御下にある)』」と語ったことは、今でも多くの人の記憶に残っているはずだ。「次々に起こる大惨事の中で始まった日本のオリンピック(Japan’s Olympics kick off amid a cascade of disasters)」という見出しで、五輪関連のCMを流さないと決めたトヨタ自動車の話や、開会式の演出を担当する小林賢太郎氏が、過去のコントでホロコーストをネタにしていたため開会式前日に解任されたことなどを報じたのは、ワシントン・ポストだ。森喜朗オリンピック・パラリンピック組織委員会前会長の辞任から始まった一連のドタバタは、国際的なイベントだからこそさらに問題視されたという側面もあるだろう。日本の中だけの内輪の論理は、そろそろ終わりにしなくてはならない。■権力者は誰なのか(Who’s actually in power?)「オリンピックをフォークにのせ、嫌がる幼児に無理やり食べさせているのがIOCだ」と書いたのは、ワシントン・ポストのコラムニストのバリー・スバルガ氏だ。東京が、もし五輪を中止しようとしても、IOCはそれを許さない。つまり一番権力を持っているのはIOCだと指摘する。さらに、無観客であってもテレビ放映権の収入が入り、結果的に一番得をするのもIOCだという厳しい主張を展開した。■手を挙げる都市は減っている記事の中で、五輪招致に詳しいスミスカレッジの経済学者、アンドリュー・ジンバリストは、開催を希望する都市の需要と供給の構図は、過去20年の間に様変わりしたと語っている。最近では、開催地候補に名乗りを上げるも、途中で降りる都市が続出。たとえば、来年の冬季五輪の開催地北京の対抗馬には当初、オスロ、ストックホルム、ポーランドのクラクフなど6都市が立候補していたが、国内の支持を得られず4都市が途中で断念している。また、オーストラリアのブリスベンが2032年夏季五輪の開催地に選ばれているが、そもそもほかに立候補した都市があったのかすら明らかにされていない。その2年前に行われる2030年冬季五輪の開催地はまだ決まっていない。調べてみると、2004年のアテネ夏季大会の時に立候補表明したのは11都市。しかし、2016年のリオデジャネイロ大会では7都市に減り、2020年東京大会では6都市に。2024年パリ大会では、パリ、ハンブルグ、ローマ、ロサンゼルスの5都市が立候補していたが、相次いで撤退。残ったのはパリとロサンゼルスのみだった。結局IOCは、将来の開催地を確保する意味もあり、2024年大会をパリで、その次の2028年大会をロサンゼルスで開催するという異例の同時決定をした。開催地には財政負担が重くのしかかり、国民の賛同を得にくい。よほど財政的に余裕がなければ開催できなくなってきているのではないか。前述のジンバリスト氏は、五輪は「スポーツの祭典」ではなく、巨額公共事業投資のための「建設イベント(construction events)だ」と言う。100年前と違い、通信環境も整っている中、わざわざ世界中の都市をまわる必要はなく、いっそこれからは、一つの都市で開催すればよいのではと提言する。■日本が払う“コスト”(Japan will pay the price.)最後まで開催にこだわった菅義偉首相。感染者数が増大する中、「この首相の賭けが、人気取りに寄与したとは思えない」という主張が、海外メディアには多かった。選手村の「バブル」の中では厳しいコロナ対策が行われていたが、「それを取り囲んでいる巨大な首都の中では、全くそのようなことはなかった」「フェンスの外では、パンデミックが日常であるかのような生活を送っている」と伝えたのは、ロイター通信だ。厳しい対策にもかかわらず、大会終了の8月8日までに、五輪関係者だけでも458人が感染。開催都市である東京全体では、感染者が爆発的に増加し、1日の感染者数が4000人を超えるまでになった。ブルームバーグニュースは、開会式の2日後に発表された内閣支持率が、昨年9月の就任以来最低の34%だったと報じている。海外からの要人はほとんど訪れず、「菅首相は、外交上の評価を上げる機会を失った」という。写真=iStock.com/kanzilyou※写真はイメージです – 写真=iStock.com/kanzilyou■膨れ上がった五輪費用東京開催が決まった時には、費用はパラリンピックと合わせて7340億円と見積もられていたが、昨年12月の時点では1.6兆円まで膨れ上がってしまった。自治体の中でも優等生だったはずの東京都の財布は、コロナによって厳しいものになりつつある。2020年3月には9345億円あった都の財政調整基金は、今年3月には2511億円まで減っている。相次ぐコロナ対策で、さらに取り崩さなくてはならず、今年度末には21億円に激減する見通しだ。チケット収入として見込まれていた900億円のうち9割は、無観客になったため消滅した今、五輪の経費負担がさらに都民にのしかかる。■傷ついたメンタルヘルス(mental health strains)アスリートのメンタルヘルスに、これだけ注目が集まった大会は初めてではないだろうか。海外メディアで大きく報道されたのは、体操女子で金メダルが期待されていたアメリカ代表のシモーネ・バイルズ選手の決勝戦棄権だ。バイルズ選手は、前回のリオデジャネイロ大会で女子団体と個人総合など4つの金メダルを獲得したアメリカのエースだった。バイルズ選手は棄権の理由を説明しながら泣き崩れ、「ストレスが高い状況に置かれるたびに、パニックのような状態になる」「私は心の健康に集中しなければならない。自分の健康と幸福を損なうわけにはいかない」と記者団に語り、「自分自身の頭と戦ってるって最悪」と付け加えた。フィナンシャルタイムズ紙は、7月31日の社説で、「メダル獲得のために各国が莫大な資金を投入し、その見返りを求める。彼女の突然の退場は、こうして高まったアスリートへのプレッシャーについて、議論を促すものとなる」と書いている。同紙によると、英国スポーツ研究所ではストレス対策のため、選手、コーチ、スタッフに、スポーツ精神科医のプログラムを受けてもらったという。これは、人質から解放された人の社会復帰を手助けするカウンセリングで、ロックダウンや五輪などのストレスを軽減するのに、最も効果的とみられるプログラムだったそうだ。選手のメンタルヘルスは、今後スポーツ界が真剣に取り組むべき課題の一つだ。この問題が今回、世界の大きな舞台で取り上げられたのは、歓迎すべきことだったのかもしれない。■メダルを確実に増やす方法(Surefire way to boost your Olympic medal count)「オリンピックという世界最大のスポーツイベントは、開催国にとって経済的な大惨事だ。メダルの数以外は!」と報じたのはブルームバーグ通信だ。今大会の日本の金メダル獲得数は27で、アメリカの39と中国の38に次ぐ。過去の研究から、五輪開催国は多くのメダルを獲得し、自国開催の次の大会でも多くのメダルを獲得していると記事は伝えている。■開催国はメダルラッシュにたとえば1992年のバルセロナ大会で、スペインは、全金メダルの5%を獲得し、世界のランキングでは6位。オーストラリアは、自国開催の前の大会の3.3%から2000年のシドニー大会では5.3%に躍進、そして、次のアテネ大会では5.7%と、さらメダル数を増やした。しかし、その後の北京大会では、4.6%に落ちているとのこと。ブラジルも似たような傾向を示しており、リオ大会の前では全体の1%しか獲得できなかった金メダルをリオでは2.3%に増やし、今回の東京大会では2.1%を獲得した。この法則に当てはめると、日本は次のパリ大会でもかなりのメダルが期待できるというわけだ。しかし、メダル獲得数にばかり注目するのは問題だという声も上がり始めている。日本オリンピック・アカデミーは、東京大会の組織委員会が公式ウェブサイトにチーム別(ほとんどが国別のチーム)のメダル獲得順位表を掲載しているのは、オリンピック憲章違反にもなりかねないと、有志による意見書を組織委員会に提出している。■「国対抗メダル競争」でいいのかオリンピック憲章には、「大会は個人間の競技であり、国家間のものではない」とする記述がある。スポーツによる国際平和を希求するには、国別対抗による過度なナショナリズムの高揚や国家間の対立を避けるべきという考え方が根底にある。五輪では、実は、メダルを一つも取れない国の方が多い。しかし、参加することに意義がある。今回初参加した難民選手団を見て、厳しい情勢の中でも力強く頑張っている人達に勇気づけられた人もいるだろう。私が印象に残っているのは、走り高跳びで、カタールの選手とイタリアの選手が、金メダルを分け合ったシーンだ。審判に優勝決定戦を勧められたが、カタールのムタズエサ・バルシム選手が「私たちに金メダルを2つもらえないか?」と提案し、2人の金メダリストが誕生した。金メダルは1つだけでなくてもよい。分かち合うことの喜びを世界に示した、素晴らしい出来事だったと思う。■「ジェンダー」「性の多様性」が大きなテーマに今回の五輪は、森前会長の女性蔑視発言もあり、ジェンダー意識、「性の多様性」や「性の扱い」も大きなテーマになった。体操競技予選で、ドイツ女子代表チームがビキニカットのレオタードに代わり、足首までの脚全体を覆う「ユニタード」を着用して競技を行ったことが話題になった。これには、スポーツを性の対象とすることに対する抗議の意味があった。性的マイノリティーの選手の活躍にも注目が集まった。ニュージーランドの重量挙げの選手であるローレル・ハバード選手は、トランスジェンダー選手として史上初のオリンピック出場を果たした。さまざまな批判がある中で、自分が自認する性でプレーすることが実現した画期的な出来事だ。■差別的な構造が五輪で表面化今大会に参加したLGBTQの選手は、公表されているだけで史上最多の182人。これは、2016年のリオ大会の56人の3倍にあたる。ただ、日本でのマイノリティーや多様性に対する理解については疑問が残る。「これまで、『スポーツの世界は別だから』とか『日本は違うから』という、なぞのロジックで封じ込められてきた、日本の社会やスポーツ界の差別的な構造が、五輪を機に表面化した」と話すのは、LGBTQの権利擁護団体であるプライドハウス東京の松中権さんだ。松中さんは、組織委員会の人権労働ワーキンググループの委員も務め、さまざまなアドバイスをしてきた。たとえば、ボランティアの着るユニフォームも、トランスジェンダーの人にサンプル段階で着てもらい、助言をもらい変更を加えたそうだ。また、組織委員会のダイバーシティ&インクルージョンのガイドブックを作り、職員の研修も手伝ってきた。組織委員会の内部にこうしたチームがいる一方、「人権や差別の問題は、そのチームだけの担当分野だ」と見なされ、問題意識が組織委員会全体に広がるまでには至らなかったという。「LGBTQの理解を深めてもらうため、本当はメディア向けに勉強会を開きたかったんですが、組織委員会に、それは難しいと言われました。一方、IOCとは直接話すことができ、ガイドブックを渡すこともできました。また、ハバードさんの試合前日には、国際重量挙げ連盟の人がプライドハウスに来てくれ、ガイドブックのURLの入ったポストカードをメディアの皆さんに配ってくれました」と、松中さんは言う。グローバルな組織と日本の組織の意識の差を感じたという。■「LGBTQ法見送り」「同性婚禁止」の国の五輪ブルームバーグ通信は、東京オリンピックが掲げる多様性と調和のビジョンに関連して、「東京オリンピックは、LGBTQの理解促進のための法案を通すことができず、同性婚に反対する勢力が権力の中枢に根付いている国で開催されている」と記事の中で皮肉った。松中さんによると、五輪期間中、プライドハウスには30社以上のグローバルメディアが取材にきたそうだ。彼らは大会の話だけでなく、前国会で与党の反対で提出に至らなかったLGBTQの法案についても、かなり関心を持って聞いてきたという。現在開催されているパラリンピックは、五輪以上に多様性と調和が重視されるべき大会だ。「LGBTQのことも、『自分のまわりにはいない』という誤った認識から、差別、偏見がなくならない構造がある。パラリンピックに関しても、『自分たちの家族や友人の中にも起こりうることなんだ』と感じられるよう、皆さんが意識を向けられればよいと思っています」と松中さんは話す。世界人口の15%に障害があると言われる中、今度はパラリンピックを通じ、日本はどんなメッセージを世界に発信することができるのだろうか。そして、今回の五輪、パラリンピックから、日本人は何を学ぶのだろう。東京大会の終了後、私たちの手元に残るのは、日本社会の変革という大きな宿題だ。———-大門 小百合(だいもん・さゆり)ジャーナリスト、元ジャパンタイムズ執行役員・論説委員上智大学外国語学部卒業後、1991年ジャパンタイムズ入社。政治、経済担当の記者を経て、2006年より報道部長。2013年より執行役員。同10月には同社117年の歴史で女性として初めての編集最高責任者となる。2000年、ニーマン特別研究員として米・ハーバード大学でジャーナリズム、アメリカ政治を研究。2005年、キングファイサル研究所研究員としてサウジアラビアのリヤドに滞在し、現地の女性たちについて取材、研究する。著書に『The Japan Times報道デスク発グローバル社会を生きる女性のための情報力』(ジャパンタイムズ)、国際情勢解説者である田中宇との共著『ハーバード大学で語られる世界戦略』(光文社)など。———-(ジャーナリスト、元ジャパンタイムズ執行役員・論説委員 大門 小百合)
多くの海外メディアは、東京大会が「2011年の東日本大震災からの復興を象徴するものになる」と喧伝されていたにも関わらず、いつの間にかコロナとの闘いにすり替わっていたと指摘する。安倍晋三首相(当時)が、2013年9月に五輪招致に向けた国際オリンピック委員会(IOC)総会で、「福島原発の状況は『Under control(制御下にある)』」と語ったことは、今でも多くの人の記憶に残っているはずだ。「次々に起こる大惨事の中で始まった日本のオリンピック(Japan’s Olympics kick off amid a cascade of disasters)」という見出しで、五輪関連のCMを流さないと決めたトヨタ自動車の話や、開会式の演出を担当する小林賢太郎氏が、過去のコントでホロコーストをネタにしていたため開会式前日に解任されたことなどを報じたのは、ワシントン・ポストだ。森喜朗オリンピック・パラリンピック組織委員会前会長の辞任から始まった一連のドタバタは、国際的なイベントだからこそさらに問題視されたという側面もあるだろう。日本の中だけの内輪の論理は、そろそろ終わりにしなくてはならない。■権力者は誰なのか(Who’s actually in power?)「オリンピックをフォークにのせ、嫌がる幼児に無理やり食べさせているのがIOCだ」と書いたのは、ワシントン・ポストのコラムニストのバリー・スバルガ氏だ。東京が、もし五輪を中止しようとしても、IOCはそれを許さない。つまり一番権力を持っているのはIOCだと指摘する。さらに、無観客であってもテレビ放映権の収入が入り、結果的に一番得をするのもIOCだという厳しい主張を展開した。■手を挙げる都市は減っている記事の中で、五輪招致に詳しいスミスカレッジの経済学者、アンドリュー・ジンバリストは、開催を希望する都市の需要と供給の構図は、過去20年の間に様変わりしたと語っている。最近では、開催地候補に名乗りを上げるも、途中で降りる都市が続出。たとえば、来年の冬季五輪の開催地北京の対抗馬には当初、オスロ、ストックホルム、ポーランドのクラクフなど6都市が立候補していたが、国内の支持を得られず4都市が途中で断念している。また、オーストラリアのブリスベンが2032年夏季五輪の開催地に選ばれているが、そもそもほかに立候補した都市があったのかすら明らかにされていない。その2年前に行われる2030年冬季五輪の開催地はまだ決まっていない。調べてみると、2004年のアテネ夏季大会の時に立候補表明したのは11都市。しかし、2016年のリオデジャネイロ大会では7都市に減り、2020年東京大会では6都市に。2024年パリ大会では、パリ、ハンブルグ、ローマ、ロサンゼルスの5都市が立候補していたが、相次いで撤退。残ったのはパリとロサンゼルスのみだった。結局IOCは、将来の開催地を確保する意味もあり、2024年大会をパリで、その次の2028年大会をロサンゼルスで開催するという異例の同時決定をした。開催地には財政負担が重くのしかかり、国民の賛同を得にくい。よほど財政的に余裕がなければ開催できなくなってきているのではないか。前述のジンバリスト氏は、五輪は「スポーツの祭典」ではなく、巨額公共事業投資のための「建設イベント(construction events)だ」と言う。100年前と違い、通信環境も整っている中、わざわざ世界中の都市をまわる必要はなく、いっそこれからは、一つの都市で開催すればよいのではと提言する。■日本が払う“コスト”(Japan will pay the price.)最後まで開催にこだわった菅義偉首相。感染者数が増大する中、「この首相の賭けが、人気取りに寄与したとは思えない」という主張が、海外メディアには多かった。選手村の「バブル」の中では厳しいコロナ対策が行われていたが、「それを取り囲んでいる巨大な首都の中では、全くそのようなことはなかった」「フェンスの外では、パンデミックが日常であるかのような生活を送っている」と伝えたのは、ロイター通信だ。厳しい対策にもかかわらず、大会終了の8月8日までに、五輪関係者だけでも458人が感染。開催都市である東京全体では、感染者が爆発的に増加し、1日の感染者数が4000人を超えるまでになった。ブルームバーグニュースは、開会式の2日後に発表された内閣支持率が、昨年9月の就任以来最低の34%だったと報じている。海外からの要人はほとんど訪れず、「菅首相は、外交上の評価を上げる機会を失った」という。写真=iStock.com/kanzilyou※写真はイメージです – 写真=iStock.com/kanzilyou■膨れ上がった五輪費用東京開催が決まった時には、費用はパラリンピックと合わせて7340億円と見積もられていたが、昨年12月の時点では1.6兆円まで膨れ上がってしまった。自治体の中でも優等生だったはずの東京都の財布は、コロナによって厳しいものになりつつある。2020年3月には9345億円あった都の財政調整基金は、今年3月には2511億円まで減っている。相次ぐコロナ対策で、さらに取り崩さなくてはならず、今年度末には21億円に激減する見通しだ。チケット収入として見込まれていた900億円のうち9割は、無観客になったため消滅した今、五輪の経費負担がさらに都民にのしかかる。■傷ついたメンタルヘルス(mental health strains)アスリートのメンタルヘルスに、これだけ注目が集まった大会は初めてではないだろうか。海外メディアで大きく報道されたのは、体操女子で金メダルが期待されていたアメリカ代表のシモーネ・バイルズ選手の決勝戦棄権だ。バイルズ選手は、前回のリオデジャネイロ大会で女子団体と個人総合など4つの金メダルを獲得したアメリカのエースだった。バイルズ選手は棄権の理由を説明しながら泣き崩れ、「ストレスが高い状況に置かれるたびに、パニックのような状態になる」「私は心の健康に集中しなければならない。自分の健康と幸福を損なうわけにはいかない」と記者団に語り、「自分自身の頭と戦ってるって最悪」と付け加えた。フィナンシャルタイムズ紙は、7月31日の社説で、「メダル獲得のために各国が莫大な資金を投入し、その見返りを求める。彼女の突然の退場は、こうして高まったアスリートへのプレッシャーについて、議論を促すものとなる」と書いている。同紙によると、英国スポーツ研究所ではストレス対策のため、選手、コーチ、スタッフに、スポーツ精神科医のプログラムを受けてもらったという。これは、人質から解放された人の社会復帰を手助けするカウンセリングで、ロックダウンや五輪などのストレスを軽減するのに、最も効果的とみられるプログラムだったそうだ。選手のメンタルヘルスは、今後スポーツ界が真剣に取り組むべき課題の一つだ。この問題が今回、世界の大きな舞台で取り上げられたのは、歓迎すべきことだったのかもしれない。■メダルを確実に増やす方法(Surefire way to boost your Olympic medal count)「オリンピックという世界最大のスポーツイベントは、開催国にとって経済的な大惨事だ。メダルの数以外は!」と報じたのはブルームバーグ通信だ。今大会の日本の金メダル獲得数は27で、アメリカの39と中国の38に次ぐ。過去の研究から、五輪開催国は多くのメダルを獲得し、自国開催の次の大会でも多くのメダルを獲得していると記事は伝えている。■開催国はメダルラッシュにたとえば1992年のバルセロナ大会で、スペインは、全金メダルの5%を獲得し、世界のランキングでは6位。オーストラリアは、自国開催の前の大会の3.3%から2000年のシドニー大会では5.3%に躍進、そして、次のアテネ大会では5.7%と、さらメダル数を増やした。しかし、その後の北京大会では、4.6%に落ちているとのこと。ブラジルも似たような傾向を示しており、リオ大会の前では全体の1%しか獲得できなかった金メダルをリオでは2.3%に増やし、今回の東京大会では2.1%を獲得した。この法則に当てはめると、日本は次のパリ大会でもかなりのメダルが期待できるというわけだ。しかし、メダル獲得数にばかり注目するのは問題だという声も上がり始めている。日本オリンピック・アカデミーは、東京大会の組織委員会が公式ウェブサイトにチーム別(ほとんどが国別のチーム)のメダル獲得順位表を掲載しているのは、オリンピック憲章違反にもなりかねないと、有志による意見書を組織委員会に提出している。■「国対抗メダル競争」でいいのかオリンピック憲章には、「大会は個人間の競技であり、国家間のものではない」とする記述がある。スポーツによる国際平和を希求するには、国別対抗による過度なナショナリズムの高揚や国家間の対立を避けるべきという考え方が根底にある。五輪では、実は、メダルを一つも取れない国の方が多い。しかし、参加することに意義がある。今回初参加した難民選手団を見て、厳しい情勢の中でも力強く頑張っている人達に勇気づけられた人もいるだろう。私が印象に残っているのは、走り高跳びで、カタールの選手とイタリアの選手が、金メダルを分け合ったシーンだ。審判に優勝決定戦を勧められたが、カタールのムタズエサ・バルシム選手が「私たちに金メダルを2つもらえないか?」と提案し、2人の金メダリストが誕生した。金メダルは1つだけでなくてもよい。分かち合うことの喜びを世界に示した、素晴らしい出来事だったと思う。■「ジェンダー」「性の多様性」が大きなテーマに今回の五輪は、森前会長の女性蔑視発言もあり、ジェンダー意識、「性の多様性」や「性の扱い」も大きなテーマになった。体操競技予選で、ドイツ女子代表チームがビキニカットのレオタードに代わり、足首までの脚全体を覆う「ユニタード」を着用して競技を行ったことが話題になった。これには、スポーツを性の対象とすることに対する抗議の意味があった。性的マイノリティーの選手の活躍にも注目が集まった。ニュージーランドの重量挙げの選手であるローレル・ハバード選手は、トランスジェンダー選手として史上初のオリンピック出場を果たした。さまざまな批判がある中で、自分が自認する性でプレーすることが実現した画期的な出来事だ。■差別的な構造が五輪で表面化今大会に参加したLGBTQの選手は、公表されているだけで史上最多の182人。これは、2016年のリオ大会の56人の3倍にあたる。ただ、日本でのマイノリティーや多様性に対する理解については疑問が残る。「これまで、『スポーツの世界は別だから』とか『日本は違うから』という、なぞのロジックで封じ込められてきた、日本の社会やスポーツ界の差別的な構造が、五輪を機に表面化した」と話すのは、LGBTQの権利擁護団体であるプライドハウス東京の松中権さんだ。松中さんは、組織委員会の人権労働ワーキンググループの委員も務め、さまざまなアドバイスをしてきた。たとえば、ボランティアの着るユニフォームも、トランスジェンダーの人にサンプル段階で着てもらい、助言をもらい変更を加えたそうだ。また、組織委員会のダイバーシティ&インクルージョンのガイドブックを作り、職員の研修も手伝ってきた。組織委員会の内部にこうしたチームがいる一方、「人権や差別の問題は、そのチームだけの担当分野だ」と見なされ、問題意識が組織委員会全体に広がるまでには至らなかったという。「LGBTQの理解を深めてもらうため、本当はメディア向けに勉強会を開きたかったんですが、組織委員会に、それは難しいと言われました。一方、IOCとは直接話すことができ、ガイドブックを渡すこともできました。また、ハバードさんの試合前日には、国際重量挙げ連盟の人がプライドハウスに来てくれ、ガイドブックのURLの入ったポストカードをメディアの皆さんに配ってくれました」と、松中さんは言う。グローバルな組織と日本の組織の意識の差を感じたという。■「LGBTQ法見送り」「同性婚禁止」の国の五輪ブルームバーグ通信は、東京オリンピックが掲げる多様性と調和のビジョンに関連して、「東京オリンピックは、LGBTQの理解促進のための法案を通すことができず、同性婚に反対する勢力が権力の中枢に根付いている国で開催されている」と記事の中で皮肉った。松中さんによると、五輪期間中、プライドハウスには30社以上のグローバルメディアが取材にきたそうだ。彼らは大会の話だけでなく、前国会で与党の反対で提出に至らなかったLGBTQの法案についても、かなり関心を持って聞いてきたという。現在開催されているパラリンピックは、五輪以上に多様性と調和が重視されるべき大会だ。「LGBTQのことも、『自分のまわりにはいない』という誤った認識から、差別、偏見がなくならない構造がある。パラリンピックに関しても、『自分たちの家族や友人の中にも起こりうることなんだ』と感じられるよう、皆さんが意識を向けられればよいと思っています」と松中さんは話す。世界人口の15%に障害があると言われる中、今度はパラリンピックを通じ、日本はどんなメッセージを世界に発信することができるのだろうか。そして、今回の五輪、パラリンピックから、日本人は何を学ぶのだろう。東京大会の終了後、私たちの手元に残るのは、日本社会の変革という大きな宿題だ。———-大門 小百合(だいもん・さゆり)ジャーナリスト、元ジャパンタイムズ執行役員・論説委員上智大学外国語学部卒業後、1991年ジャパンタイムズ入社。政治、経済担当の記者を経て、2006年より報道部長。2013年より執行役員。同10月には同社117年の歴史で女性として初めての編集最高責任者となる。2000年、ニーマン特別研究員として米・ハーバード大学でジャーナリズム、アメリカ政治を研究。2005年、キングファイサル研究所研究員としてサウジアラビアのリヤドに滞在し、現地の女性たちについて取材、研究する。著書に『The Japan Times報道デスク発グローバル社会を生きる女性のための情報力』(ジャパンタイムズ)、国際情勢解説者である田中宇との共著『ハーバード大学で語られる世界戦略』(光文社)など。———-(ジャーナリスト、元ジャパンタイムズ執行役員・論説委員 大門 小百合)
安倍晋三首相(当時)が、2013年9月に五輪招致に向けた国際オリンピック委員会(IOC)総会で、「福島原発の状況は『Under control(制御下にある)』」と語ったことは、今でも多くの人の記憶に残っているはずだ。「次々に起こる大惨事の中で始まった日本のオリンピック(Japan’s Olympics kick off amid a cascade of disasters)」という見出しで、五輪関連のCMを流さないと決めたトヨタ自動車の話や、開会式の演出を担当する小林賢太郎氏が、過去のコントでホロコーストをネタにしていたため開会式前日に解任されたことなどを報じたのは、ワシントン・ポストだ。森喜朗オリンピック・パラリンピック組織委員会前会長の辞任から始まった一連のドタバタは、国際的なイベントだからこそさらに問題視されたという側面もあるだろう。日本の中だけの内輪の論理は、そろそろ終わりにしなくてはならない。■権力者は誰なのか(Who’s actually in power?)「オリンピックをフォークにのせ、嫌がる幼児に無理やり食べさせているのがIOCだ」と書いたのは、ワシントン・ポストのコラムニストのバリー・スバルガ氏だ。東京が、もし五輪を中止しようとしても、IOCはそれを許さない。つまり一番権力を持っているのはIOCだと指摘する。さらに、無観客であってもテレビ放映権の収入が入り、結果的に一番得をするのもIOCだという厳しい主張を展開した。■手を挙げる都市は減っている記事の中で、五輪招致に詳しいスミスカレッジの経済学者、アンドリュー・ジンバリストは、開催を希望する都市の需要と供給の構図は、過去20年の間に様変わりしたと語っている。最近では、開催地候補に名乗りを上げるも、途中で降りる都市が続出。たとえば、来年の冬季五輪の開催地北京の対抗馬には当初、オスロ、ストックホルム、ポーランドのクラクフなど6都市が立候補していたが、国内の支持を得られず4都市が途中で断念している。また、オーストラリアのブリスベンが2032年夏季五輪の開催地に選ばれているが、そもそもほかに立候補した都市があったのかすら明らかにされていない。その2年前に行われる2030年冬季五輪の開催地はまだ決まっていない。調べてみると、2004年のアテネ夏季大会の時に立候補表明したのは11都市。しかし、2016年のリオデジャネイロ大会では7都市に減り、2020年東京大会では6都市に。2024年パリ大会では、パリ、ハンブルグ、ローマ、ロサンゼルスの5都市が立候補していたが、相次いで撤退。残ったのはパリとロサンゼルスのみだった。結局IOCは、将来の開催地を確保する意味もあり、2024年大会をパリで、その次の2028年大会をロサンゼルスで開催するという異例の同時決定をした。開催地には財政負担が重くのしかかり、国民の賛同を得にくい。よほど財政的に余裕がなければ開催できなくなってきているのではないか。前述のジンバリスト氏は、五輪は「スポーツの祭典」ではなく、巨額公共事業投資のための「建設イベント(construction events)だ」と言う。100年前と違い、通信環境も整っている中、わざわざ世界中の都市をまわる必要はなく、いっそこれからは、一つの都市で開催すればよいのではと提言する。■日本が払う“コスト”(Japan will pay the price.)最後まで開催にこだわった菅義偉首相。感染者数が増大する中、「この首相の賭けが、人気取りに寄与したとは思えない」という主張が、海外メディアには多かった。選手村の「バブル」の中では厳しいコロナ対策が行われていたが、「それを取り囲んでいる巨大な首都の中では、全くそのようなことはなかった」「フェンスの外では、パンデミックが日常であるかのような生活を送っている」と伝えたのは、ロイター通信だ。厳しい対策にもかかわらず、大会終了の8月8日までに、五輪関係者だけでも458人が感染。開催都市である東京全体では、感染者が爆発的に増加し、1日の感染者数が4000人を超えるまでになった。ブルームバーグニュースは、開会式の2日後に発表された内閣支持率が、昨年9月の就任以来最低の34%だったと報じている。海外からの要人はほとんど訪れず、「菅首相は、外交上の評価を上げる機会を失った」という。写真=iStock.com/kanzilyou※写真はイメージです – 写真=iStock.com/kanzilyou■膨れ上がった五輪費用東京開催が決まった時には、費用はパラリンピックと合わせて7340億円と見積もられていたが、昨年12月の時点では1.6兆円まで膨れ上がってしまった。自治体の中でも優等生だったはずの東京都の財布は、コロナによって厳しいものになりつつある。2020年3月には9345億円あった都の財政調整基金は、今年3月には2511億円まで減っている。相次ぐコロナ対策で、さらに取り崩さなくてはならず、今年度末には21億円に激減する見通しだ。チケット収入として見込まれていた900億円のうち9割は、無観客になったため消滅した今、五輪の経費負担がさらに都民にのしかかる。■傷ついたメンタルヘルス(mental health strains)アスリートのメンタルヘルスに、これだけ注目が集まった大会は初めてではないだろうか。海外メディアで大きく報道されたのは、体操女子で金メダルが期待されていたアメリカ代表のシモーネ・バイルズ選手の決勝戦棄権だ。バイルズ選手は、前回のリオデジャネイロ大会で女子団体と個人総合など4つの金メダルを獲得したアメリカのエースだった。バイルズ選手は棄権の理由を説明しながら泣き崩れ、「ストレスが高い状況に置かれるたびに、パニックのような状態になる」「私は心の健康に集中しなければならない。自分の健康と幸福を損なうわけにはいかない」と記者団に語り、「自分自身の頭と戦ってるって最悪」と付け加えた。フィナンシャルタイムズ紙は、7月31日の社説で、「メダル獲得のために各国が莫大な資金を投入し、その見返りを求める。彼女の突然の退場は、こうして高まったアスリートへのプレッシャーについて、議論を促すものとなる」と書いている。同紙によると、英国スポーツ研究所ではストレス対策のため、選手、コーチ、スタッフに、スポーツ精神科医のプログラムを受けてもらったという。これは、人質から解放された人の社会復帰を手助けするカウンセリングで、ロックダウンや五輪などのストレスを軽減するのに、最も効果的とみられるプログラムだったそうだ。選手のメンタルヘルスは、今後スポーツ界が真剣に取り組むべき課題の一つだ。この問題が今回、世界の大きな舞台で取り上げられたのは、歓迎すべきことだったのかもしれない。■メダルを確実に増やす方法(Surefire way to boost your Olympic medal count)「オリンピックという世界最大のスポーツイベントは、開催国にとって経済的な大惨事だ。メダルの数以外は!」と報じたのはブルームバーグ通信だ。今大会の日本の金メダル獲得数は27で、アメリカの39と中国の38に次ぐ。過去の研究から、五輪開催国は多くのメダルを獲得し、自国開催の次の大会でも多くのメダルを獲得していると記事は伝えている。■開催国はメダルラッシュにたとえば1992年のバルセロナ大会で、スペインは、全金メダルの5%を獲得し、世界のランキングでは6位。オーストラリアは、自国開催の前の大会の3.3%から2000年のシドニー大会では5.3%に躍進、そして、次のアテネ大会では5.7%と、さらメダル数を増やした。しかし、その後の北京大会では、4.6%に落ちているとのこと。ブラジルも似たような傾向を示しており、リオ大会の前では全体の1%しか獲得できなかった金メダルをリオでは2.3%に増やし、今回の東京大会では2.1%を獲得した。この法則に当てはめると、日本は次のパリ大会でもかなりのメダルが期待できるというわけだ。しかし、メダル獲得数にばかり注目するのは問題だという声も上がり始めている。日本オリンピック・アカデミーは、東京大会の組織委員会が公式ウェブサイトにチーム別(ほとんどが国別のチーム)のメダル獲得順位表を掲載しているのは、オリンピック憲章違反にもなりかねないと、有志による意見書を組織委員会に提出している。■「国対抗メダル競争」でいいのかオリンピック憲章には、「大会は個人間の競技であり、国家間のものではない」とする記述がある。スポーツによる国際平和を希求するには、国別対抗による過度なナショナリズムの高揚や国家間の対立を避けるべきという考え方が根底にある。五輪では、実は、メダルを一つも取れない国の方が多い。しかし、参加することに意義がある。今回初参加した難民選手団を見て、厳しい情勢の中でも力強く頑張っている人達に勇気づけられた人もいるだろう。私が印象に残っているのは、走り高跳びで、カタールの選手とイタリアの選手が、金メダルを分け合ったシーンだ。審判に優勝決定戦を勧められたが、カタールのムタズエサ・バルシム選手が「私たちに金メダルを2つもらえないか?」と提案し、2人の金メダリストが誕生した。金メダルは1つだけでなくてもよい。分かち合うことの喜びを世界に示した、素晴らしい出来事だったと思う。■「ジェンダー」「性の多様性」が大きなテーマに今回の五輪は、森前会長の女性蔑視発言もあり、ジェンダー意識、「性の多様性」や「性の扱い」も大きなテーマになった。体操競技予選で、ドイツ女子代表チームがビキニカットのレオタードに代わり、足首までの脚全体を覆う「ユニタード」を着用して競技を行ったことが話題になった。これには、スポーツを性の対象とすることに対する抗議の意味があった。性的マイノリティーの選手の活躍にも注目が集まった。ニュージーランドの重量挙げの選手であるローレル・ハバード選手は、トランスジェンダー選手として史上初のオリンピック出場を果たした。さまざまな批判がある中で、自分が自認する性でプレーすることが実現した画期的な出来事だ。■差別的な構造が五輪で表面化今大会に参加したLGBTQの選手は、公表されているだけで史上最多の182人。これは、2016年のリオ大会の56人の3倍にあたる。ただ、日本でのマイノリティーや多様性に対する理解については疑問が残る。「これまで、『スポーツの世界は別だから』とか『日本は違うから』という、なぞのロジックで封じ込められてきた、日本の社会やスポーツ界の差別的な構造が、五輪を機に表面化した」と話すのは、LGBTQの権利擁護団体であるプライドハウス東京の松中権さんだ。松中さんは、組織委員会の人権労働ワーキンググループの委員も務め、さまざまなアドバイスをしてきた。たとえば、ボランティアの着るユニフォームも、トランスジェンダーの人にサンプル段階で着てもらい、助言をもらい変更を加えたそうだ。また、組織委員会のダイバーシティ&インクルージョンのガイドブックを作り、職員の研修も手伝ってきた。組織委員会の内部にこうしたチームがいる一方、「人権や差別の問題は、そのチームだけの担当分野だ」と見なされ、問題意識が組織委員会全体に広がるまでには至らなかったという。「LGBTQの理解を深めてもらうため、本当はメディア向けに勉強会を開きたかったんですが、組織委員会に、それは難しいと言われました。一方、IOCとは直接話すことができ、ガイドブックを渡すこともできました。また、ハバードさんの試合前日には、国際重量挙げ連盟の人がプライドハウスに来てくれ、ガイドブックのURLの入ったポストカードをメディアの皆さんに配ってくれました」と、松中さんは言う。グローバルな組織と日本の組織の意識の差を感じたという。■「LGBTQ法見送り」「同性婚禁止」の国の五輪ブルームバーグ通信は、東京オリンピックが掲げる多様性と調和のビジョンに関連して、「東京オリンピックは、LGBTQの理解促進のための法案を通すことができず、同性婚に反対する勢力が権力の中枢に根付いている国で開催されている」と記事の中で皮肉った。松中さんによると、五輪期間中、プライドハウスには30社以上のグローバルメディアが取材にきたそうだ。彼らは大会の話だけでなく、前国会で与党の反対で提出に至らなかったLGBTQの法案についても、かなり関心を持って聞いてきたという。現在開催されているパラリンピックは、五輪以上に多様性と調和が重視されるべき大会だ。「LGBTQのことも、『自分のまわりにはいない』という誤った認識から、差別、偏見がなくならない構造がある。パラリンピックに関しても、『自分たちの家族や友人の中にも起こりうることなんだ』と感じられるよう、皆さんが意識を向けられればよいと思っています」と松中さんは話す。世界人口の15%に障害があると言われる中、今度はパラリンピックを通じ、日本はどんなメッセージを世界に発信することができるのだろうか。そして、今回の五輪、パラリンピックから、日本人は何を学ぶのだろう。東京大会の終了後、私たちの手元に残るのは、日本社会の変革という大きな宿題だ。———-大門 小百合(だいもん・さゆり)ジャーナリスト、元ジャパンタイムズ執行役員・論説委員上智大学外国語学部卒業後、1991年ジャパンタイムズ入社。政治、経済担当の記者を経て、2006年より報道部長。2013年より執行役員。同10月には同社117年の歴史で女性として初めての編集最高責任者となる。2000年、ニーマン特別研究員として米・ハーバード大学でジャーナリズム、アメリカ政治を研究。2005年、キングファイサル研究所研究員としてサウジアラビアのリヤドに滞在し、現地の女性たちについて取材、研究する。著書に『The Japan Times報道デスク発グローバル社会を生きる女性のための情報力』(ジャパンタイムズ)、国際情勢解説者である田中宇との共著『ハーバード大学で語られる世界戦略』(光文社)など。———-(ジャーナリスト、元ジャパンタイムズ執行役員・論説委員 大門 小百合)
「次々に起こる大惨事の中で始まった日本のオリンピック(Japan’s Olympics kick off amid a cascade of disasters)」という見出しで、五輪関連のCMを流さないと決めたトヨタ自動車の話や、開会式の演出を担当する小林賢太郎氏が、過去のコントでホロコーストをネタにしていたため開会式前日に解任されたことなどを報じたのは、ワシントン・ポストだ。森喜朗オリンピック・パラリンピック組織委員会前会長の辞任から始まった一連のドタバタは、国際的なイベントだからこそさらに問題視されたという側面もあるだろう。日本の中だけの内輪の論理は、そろそろ終わりにしなくてはならない。■権力者は誰なのか(Who’s actually in power?)「オリンピックをフォークにのせ、嫌がる幼児に無理やり食べさせているのがIOCだ」と書いたのは、ワシントン・ポストのコラムニストのバリー・スバルガ氏だ。東京が、もし五輪を中止しようとしても、IOCはそれを許さない。つまり一番権力を持っているのはIOCだと指摘する。さらに、無観客であってもテレビ放映権の収入が入り、結果的に一番得をするのもIOCだという厳しい主張を展開した。■手を挙げる都市は減っている記事の中で、五輪招致に詳しいスミスカレッジの経済学者、アンドリュー・ジンバリストは、開催を希望する都市の需要と供給の構図は、過去20年の間に様変わりしたと語っている。最近では、開催地候補に名乗りを上げるも、途中で降りる都市が続出。たとえば、来年の冬季五輪の開催地北京の対抗馬には当初、オスロ、ストックホルム、ポーランドのクラクフなど6都市が立候補していたが、国内の支持を得られず4都市が途中で断念している。また、オーストラリアのブリスベンが2032年夏季五輪の開催地に選ばれているが、そもそもほかに立候補した都市があったのかすら明らかにされていない。その2年前に行われる2030年冬季五輪の開催地はまだ決まっていない。調べてみると、2004年のアテネ夏季大会の時に立候補表明したのは11都市。しかし、2016年のリオデジャネイロ大会では7都市に減り、2020年東京大会では6都市に。2024年パリ大会では、パリ、ハンブルグ、ローマ、ロサンゼルスの5都市が立候補していたが、相次いで撤退。残ったのはパリとロサンゼルスのみだった。結局IOCは、将来の開催地を確保する意味もあり、2024年大会をパリで、その次の2028年大会をロサンゼルスで開催するという異例の同時決定をした。開催地には財政負担が重くのしかかり、国民の賛同を得にくい。よほど財政的に余裕がなければ開催できなくなってきているのではないか。前述のジンバリスト氏は、五輪は「スポーツの祭典」ではなく、巨額公共事業投資のための「建設イベント(construction events)だ」と言う。100年前と違い、通信環境も整っている中、わざわざ世界中の都市をまわる必要はなく、いっそこれからは、一つの都市で開催すればよいのではと提言する。■日本が払う“コスト”(Japan will pay the price.)最後まで開催にこだわった菅義偉首相。感染者数が増大する中、「この首相の賭けが、人気取りに寄与したとは思えない」という主張が、海外メディアには多かった。選手村の「バブル」の中では厳しいコロナ対策が行われていたが、「それを取り囲んでいる巨大な首都の中では、全くそのようなことはなかった」「フェンスの外では、パンデミックが日常であるかのような生活を送っている」と伝えたのは、ロイター通信だ。厳しい対策にもかかわらず、大会終了の8月8日までに、五輪関係者だけでも458人が感染。開催都市である東京全体では、感染者が爆発的に増加し、1日の感染者数が4000人を超えるまでになった。ブルームバーグニュースは、開会式の2日後に発表された内閣支持率が、昨年9月の就任以来最低の34%だったと報じている。海外からの要人はほとんど訪れず、「菅首相は、外交上の評価を上げる機会を失った」という。写真=iStock.com/kanzilyou※写真はイメージです – 写真=iStock.com/kanzilyou■膨れ上がった五輪費用東京開催が決まった時には、費用はパラリンピックと合わせて7340億円と見積もられていたが、昨年12月の時点では1.6兆円まで膨れ上がってしまった。自治体の中でも優等生だったはずの東京都の財布は、コロナによって厳しいものになりつつある。2020年3月には9345億円あった都の財政調整基金は、今年3月には2511億円まで減っている。相次ぐコロナ対策で、さらに取り崩さなくてはならず、今年度末には21億円に激減する見通しだ。チケット収入として見込まれていた900億円のうち9割は、無観客になったため消滅した今、五輪の経費負担がさらに都民にのしかかる。■傷ついたメンタルヘルス(mental health strains)アスリートのメンタルヘルスに、これだけ注目が集まった大会は初めてではないだろうか。海外メディアで大きく報道されたのは、体操女子で金メダルが期待されていたアメリカ代表のシモーネ・バイルズ選手の決勝戦棄権だ。バイルズ選手は、前回のリオデジャネイロ大会で女子団体と個人総合など4つの金メダルを獲得したアメリカのエースだった。バイルズ選手は棄権の理由を説明しながら泣き崩れ、「ストレスが高い状況に置かれるたびに、パニックのような状態になる」「私は心の健康に集中しなければならない。自分の健康と幸福を損なうわけにはいかない」と記者団に語り、「自分自身の頭と戦ってるって最悪」と付け加えた。フィナンシャルタイムズ紙は、7月31日の社説で、「メダル獲得のために各国が莫大な資金を投入し、その見返りを求める。彼女の突然の退場は、こうして高まったアスリートへのプレッシャーについて、議論を促すものとなる」と書いている。同紙によると、英国スポーツ研究所ではストレス対策のため、選手、コーチ、スタッフに、スポーツ精神科医のプログラムを受けてもらったという。これは、人質から解放された人の社会復帰を手助けするカウンセリングで、ロックダウンや五輪などのストレスを軽減するのに、最も効果的とみられるプログラムだったそうだ。選手のメンタルヘルスは、今後スポーツ界が真剣に取り組むべき課題の一つだ。この問題が今回、世界の大きな舞台で取り上げられたのは、歓迎すべきことだったのかもしれない。■メダルを確実に増やす方法(Surefire way to boost your Olympic medal count)「オリンピックという世界最大のスポーツイベントは、開催国にとって経済的な大惨事だ。メダルの数以外は!」と報じたのはブルームバーグ通信だ。今大会の日本の金メダル獲得数は27で、アメリカの39と中国の38に次ぐ。過去の研究から、五輪開催国は多くのメダルを獲得し、自国開催の次の大会でも多くのメダルを獲得していると記事は伝えている。■開催国はメダルラッシュにたとえば1992年のバルセロナ大会で、スペインは、全金メダルの5%を獲得し、世界のランキングでは6位。オーストラリアは、自国開催の前の大会の3.3%から2000年のシドニー大会では5.3%に躍進、そして、次のアテネ大会では5.7%と、さらメダル数を増やした。しかし、その後の北京大会では、4.6%に落ちているとのこと。ブラジルも似たような傾向を示しており、リオ大会の前では全体の1%しか獲得できなかった金メダルをリオでは2.3%に増やし、今回の東京大会では2.1%を獲得した。この法則に当てはめると、日本は次のパリ大会でもかなりのメダルが期待できるというわけだ。しかし、メダル獲得数にばかり注目するのは問題だという声も上がり始めている。日本オリンピック・アカデミーは、東京大会の組織委員会が公式ウェブサイトにチーム別(ほとんどが国別のチーム)のメダル獲得順位表を掲載しているのは、オリンピック憲章違反にもなりかねないと、有志による意見書を組織委員会に提出している。■「国対抗メダル競争」でいいのかオリンピック憲章には、「大会は個人間の競技であり、国家間のものではない」とする記述がある。スポーツによる国際平和を希求するには、国別対抗による過度なナショナリズムの高揚や国家間の対立を避けるべきという考え方が根底にある。五輪では、実は、メダルを一つも取れない国の方が多い。しかし、参加することに意義がある。今回初参加した難民選手団を見て、厳しい情勢の中でも力強く頑張っている人達に勇気づけられた人もいるだろう。私が印象に残っているのは、走り高跳びで、カタールの選手とイタリアの選手が、金メダルを分け合ったシーンだ。審判に優勝決定戦を勧められたが、カタールのムタズエサ・バルシム選手が「私たちに金メダルを2つもらえないか?」と提案し、2人の金メダリストが誕生した。金メダルは1つだけでなくてもよい。分かち合うことの喜びを世界に示した、素晴らしい出来事だったと思う。■「ジェンダー」「性の多様性」が大きなテーマに今回の五輪は、森前会長の女性蔑視発言もあり、ジェンダー意識、「性の多様性」や「性の扱い」も大きなテーマになった。体操競技予選で、ドイツ女子代表チームがビキニカットのレオタードに代わり、足首までの脚全体を覆う「ユニタード」を着用して競技を行ったことが話題になった。これには、スポーツを性の対象とすることに対する抗議の意味があった。性的マイノリティーの選手の活躍にも注目が集まった。ニュージーランドの重量挙げの選手であるローレル・ハバード選手は、トランスジェンダー選手として史上初のオリンピック出場を果たした。さまざまな批判がある中で、自分が自認する性でプレーすることが実現した画期的な出来事だ。■差別的な構造が五輪で表面化今大会に参加したLGBTQの選手は、公表されているだけで史上最多の182人。これは、2016年のリオ大会の56人の3倍にあたる。ただ、日本でのマイノリティーや多様性に対する理解については疑問が残る。「これまで、『スポーツの世界は別だから』とか『日本は違うから』という、なぞのロジックで封じ込められてきた、日本の社会やスポーツ界の差別的な構造が、五輪を機に表面化した」と話すのは、LGBTQの権利擁護団体であるプライドハウス東京の松中権さんだ。松中さんは、組織委員会の人権労働ワーキンググループの委員も務め、さまざまなアドバイスをしてきた。たとえば、ボランティアの着るユニフォームも、トランスジェンダーの人にサンプル段階で着てもらい、助言をもらい変更を加えたそうだ。また、組織委員会のダイバーシティ&インクルージョンのガイドブックを作り、職員の研修も手伝ってきた。組織委員会の内部にこうしたチームがいる一方、「人権や差別の問題は、そのチームだけの担当分野だ」と見なされ、問題意識が組織委員会全体に広がるまでには至らなかったという。「LGBTQの理解を深めてもらうため、本当はメディア向けに勉強会を開きたかったんですが、組織委員会に、それは難しいと言われました。一方、IOCとは直接話すことができ、ガイドブックを渡すこともできました。また、ハバードさんの試合前日には、国際重量挙げ連盟の人がプライドハウスに来てくれ、ガイドブックのURLの入ったポストカードをメディアの皆さんに配ってくれました」と、松中さんは言う。グローバルな組織と日本の組織の意識の差を感じたという。■「LGBTQ法見送り」「同性婚禁止」の国の五輪ブルームバーグ通信は、東京オリンピックが掲げる多様性と調和のビジョンに関連して、「東京オリンピックは、LGBTQの理解促進のための法案を通すことができず、同性婚に反対する勢力が権力の中枢に根付いている国で開催されている」と記事の中で皮肉った。松中さんによると、五輪期間中、プライドハウスには30社以上のグローバルメディアが取材にきたそうだ。彼らは大会の話だけでなく、前国会で与党の反対で提出に至らなかったLGBTQの法案についても、かなり関心を持って聞いてきたという。現在開催されているパラリンピックは、五輪以上に多様性と調和が重視されるべき大会だ。「LGBTQのことも、『自分のまわりにはいない』という誤った認識から、差別、偏見がなくならない構造がある。パラリンピックに関しても、『自分たちの家族や友人の中にも起こりうることなんだ』と感じられるよう、皆さんが意識を向けられればよいと思っています」と松中さんは話す。世界人口の15%に障害があると言われる中、今度はパラリンピックを通じ、日本はどんなメッセージを世界に発信することができるのだろうか。そして、今回の五輪、パラリンピックから、日本人は何を学ぶのだろう。東京大会の終了後、私たちの手元に残るのは、日本社会の変革という大きな宿題だ。———-大門 小百合(だいもん・さゆり)ジャーナリスト、元ジャパンタイムズ執行役員・論説委員上智大学外国語学部卒業後、1991年ジャパンタイムズ入社。政治、経済担当の記者を経て、2006年より報道部長。2013年より執行役員。同10月には同社117年の歴史で女性として初めての編集最高責任者となる。2000年、ニーマン特別研究員として米・ハーバード大学でジャーナリズム、アメリカ政治を研究。2005年、キングファイサル研究所研究員としてサウジアラビアのリヤドに滞在し、現地の女性たちについて取材、研究する。著書に『The Japan Times報道デスク発グローバル社会を生きる女性のための情報力』(ジャパンタイムズ)、国際情勢解説者である田中宇との共著『ハーバード大学で語られる世界戦略』(光文社)など。———-(ジャーナリスト、元ジャパンタイムズ執行役員・論説委員 大門 小百合)
森喜朗オリンピック・パラリンピック組織委員会前会長の辞任から始まった一連のドタバタは、国際的なイベントだからこそさらに問題視されたという側面もあるだろう。日本の中だけの内輪の論理は、そろそろ終わりにしなくてはならない。■権力者は誰なのか(Who’s actually in power?)「オリンピックをフォークにのせ、嫌がる幼児に無理やり食べさせているのがIOCだ」と書いたのは、ワシントン・ポストのコラムニストのバリー・スバルガ氏だ。東京が、もし五輪を中止しようとしても、IOCはそれを許さない。つまり一番権力を持っているのはIOCだと指摘する。さらに、無観客であってもテレビ放映権の収入が入り、結果的に一番得をするのもIOCだという厳しい主張を展開した。■手を挙げる都市は減っている記事の中で、五輪招致に詳しいスミスカレッジの経済学者、アンドリュー・ジンバリストは、開催を希望する都市の需要と供給の構図は、過去20年の間に様変わりしたと語っている。最近では、開催地候補に名乗りを上げるも、途中で降りる都市が続出。たとえば、来年の冬季五輪の開催地北京の対抗馬には当初、オスロ、ストックホルム、ポーランドのクラクフなど6都市が立候補していたが、国内の支持を得られず4都市が途中で断念している。また、オーストラリアのブリスベンが2032年夏季五輪の開催地に選ばれているが、そもそもほかに立候補した都市があったのかすら明らかにされていない。その2年前に行われる2030年冬季五輪の開催地はまだ決まっていない。調べてみると、2004年のアテネ夏季大会の時に立候補表明したのは11都市。しかし、2016年のリオデジャネイロ大会では7都市に減り、2020年東京大会では6都市に。2024年パリ大会では、パリ、ハンブルグ、ローマ、ロサンゼルスの5都市が立候補していたが、相次いで撤退。残ったのはパリとロサンゼルスのみだった。結局IOCは、将来の開催地を確保する意味もあり、2024年大会をパリで、その次の2028年大会をロサンゼルスで開催するという異例の同時決定をした。開催地には財政負担が重くのしかかり、国民の賛同を得にくい。よほど財政的に余裕がなければ開催できなくなってきているのではないか。前述のジンバリスト氏は、五輪は「スポーツの祭典」ではなく、巨額公共事業投資のための「建設イベント(construction events)だ」と言う。100年前と違い、通信環境も整っている中、わざわざ世界中の都市をまわる必要はなく、いっそこれからは、一つの都市で開催すればよいのではと提言する。■日本が払う“コスト”(Japan will pay the price.)最後まで開催にこだわった菅義偉首相。感染者数が増大する中、「この首相の賭けが、人気取りに寄与したとは思えない」という主張が、海外メディアには多かった。選手村の「バブル」の中では厳しいコロナ対策が行われていたが、「それを取り囲んでいる巨大な首都の中では、全くそのようなことはなかった」「フェンスの外では、パンデミックが日常であるかのような生活を送っている」と伝えたのは、ロイター通信だ。厳しい対策にもかかわらず、大会終了の8月8日までに、五輪関係者だけでも458人が感染。開催都市である東京全体では、感染者が爆発的に増加し、1日の感染者数が4000人を超えるまでになった。ブルームバーグニュースは、開会式の2日後に発表された内閣支持率が、昨年9月の就任以来最低の34%だったと報じている。海外からの要人はほとんど訪れず、「菅首相は、外交上の評価を上げる機会を失った」という。写真=iStock.com/kanzilyou※写真はイメージです – 写真=iStock.com/kanzilyou■膨れ上がった五輪費用東京開催が決まった時には、費用はパラリンピックと合わせて7340億円と見積もられていたが、昨年12月の時点では1.6兆円まで膨れ上がってしまった。自治体の中でも優等生だったはずの東京都の財布は、コロナによって厳しいものになりつつある。2020年3月には9345億円あった都の財政調整基金は、今年3月には2511億円まで減っている。相次ぐコロナ対策で、さらに取り崩さなくてはならず、今年度末には21億円に激減する見通しだ。チケット収入として見込まれていた900億円のうち9割は、無観客になったため消滅した今、五輪の経費負担がさらに都民にのしかかる。■傷ついたメンタルヘルス(mental health strains)アスリートのメンタルヘルスに、これだけ注目が集まった大会は初めてではないだろうか。海外メディアで大きく報道されたのは、体操女子で金メダルが期待されていたアメリカ代表のシモーネ・バイルズ選手の決勝戦棄権だ。バイルズ選手は、前回のリオデジャネイロ大会で女子団体と個人総合など4つの金メダルを獲得したアメリカのエースだった。バイルズ選手は棄権の理由を説明しながら泣き崩れ、「ストレスが高い状況に置かれるたびに、パニックのような状態になる」「私は心の健康に集中しなければならない。自分の健康と幸福を損なうわけにはいかない」と記者団に語り、「自分自身の頭と戦ってるって最悪」と付け加えた。フィナンシャルタイムズ紙は、7月31日の社説で、「メダル獲得のために各国が莫大な資金を投入し、その見返りを求める。彼女の突然の退場は、こうして高まったアスリートへのプレッシャーについて、議論を促すものとなる」と書いている。同紙によると、英国スポーツ研究所ではストレス対策のため、選手、コーチ、スタッフに、スポーツ精神科医のプログラムを受けてもらったという。これは、人質から解放された人の社会復帰を手助けするカウンセリングで、ロックダウンや五輪などのストレスを軽減するのに、最も効果的とみられるプログラムだったそうだ。選手のメンタルヘルスは、今後スポーツ界が真剣に取り組むべき課題の一つだ。この問題が今回、世界の大きな舞台で取り上げられたのは、歓迎すべきことだったのかもしれない。■メダルを確実に増やす方法(Surefire way to boost your Olympic medal count)「オリンピックという世界最大のスポーツイベントは、開催国にとって経済的な大惨事だ。メダルの数以外は!」と報じたのはブルームバーグ通信だ。今大会の日本の金メダル獲得数は27で、アメリカの39と中国の38に次ぐ。過去の研究から、五輪開催国は多くのメダルを獲得し、自国開催の次の大会でも多くのメダルを獲得していると記事は伝えている。■開催国はメダルラッシュにたとえば1992年のバルセロナ大会で、スペインは、全金メダルの5%を獲得し、世界のランキングでは6位。オーストラリアは、自国開催の前の大会の3.3%から2000年のシドニー大会では5.3%に躍進、そして、次のアテネ大会では5.7%と、さらメダル数を増やした。しかし、その後の北京大会では、4.6%に落ちているとのこと。ブラジルも似たような傾向を示しており、リオ大会の前では全体の1%しか獲得できなかった金メダルをリオでは2.3%に増やし、今回の東京大会では2.1%を獲得した。この法則に当てはめると、日本は次のパリ大会でもかなりのメダルが期待できるというわけだ。しかし、メダル獲得数にばかり注目するのは問題だという声も上がり始めている。日本オリンピック・アカデミーは、東京大会の組織委員会が公式ウェブサイトにチーム別(ほとんどが国別のチーム)のメダル獲得順位表を掲載しているのは、オリンピック憲章違反にもなりかねないと、有志による意見書を組織委員会に提出している。■「国対抗メダル競争」でいいのかオリンピック憲章には、「大会は個人間の競技であり、国家間のものではない」とする記述がある。スポーツによる国際平和を希求するには、国別対抗による過度なナショナリズムの高揚や国家間の対立を避けるべきという考え方が根底にある。五輪では、実は、メダルを一つも取れない国の方が多い。しかし、参加することに意義がある。今回初参加した難民選手団を見て、厳しい情勢の中でも力強く頑張っている人達に勇気づけられた人もいるだろう。私が印象に残っているのは、走り高跳びで、カタールの選手とイタリアの選手が、金メダルを分け合ったシーンだ。審判に優勝決定戦を勧められたが、カタールのムタズエサ・バルシム選手が「私たちに金メダルを2つもらえないか?」と提案し、2人の金メダリストが誕生した。金メダルは1つだけでなくてもよい。分かち合うことの喜びを世界に示した、素晴らしい出来事だったと思う。■「ジェンダー」「性の多様性」が大きなテーマに今回の五輪は、森前会長の女性蔑視発言もあり、ジェンダー意識、「性の多様性」や「性の扱い」も大きなテーマになった。体操競技予選で、ドイツ女子代表チームがビキニカットのレオタードに代わり、足首までの脚全体を覆う「ユニタード」を着用して競技を行ったことが話題になった。これには、スポーツを性の対象とすることに対する抗議の意味があった。性的マイノリティーの選手の活躍にも注目が集まった。ニュージーランドの重量挙げの選手であるローレル・ハバード選手は、トランスジェンダー選手として史上初のオリンピック出場を果たした。さまざまな批判がある中で、自分が自認する性でプレーすることが実現した画期的な出来事だ。■差別的な構造が五輪で表面化今大会に参加したLGBTQの選手は、公表されているだけで史上最多の182人。これは、2016年のリオ大会の56人の3倍にあたる。ただ、日本でのマイノリティーや多様性に対する理解については疑問が残る。「これまで、『スポーツの世界は別だから』とか『日本は違うから』という、なぞのロジックで封じ込められてきた、日本の社会やスポーツ界の差別的な構造が、五輪を機に表面化した」と話すのは、LGBTQの権利擁護団体であるプライドハウス東京の松中権さんだ。松中さんは、組織委員会の人権労働ワーキンググループの委員も務め、さまざまなアドバイスをしてきた。たとえば、ボランティアの着るユニフォームも、トランスジェンダーの人にサンプル段階で着てもらい、助言をもらい変更を加えたそうだ。また、組織委員会のダイバーシティ&インクルージョンのガイドブックを作り、職員の研修も手伝ってきた。組織委員会の内部にこうしたチームがいる一方、「人権や差別の問題は、そのチームだけの担当分野だ」と見なされ、問題意識が組織委員会全体に広がるまでには至らなかったという。「LGBTQの理解を深めてもらうため、本当はメディア向けに勉強会を開きたかったんですが、組織委員会に、それは難しいと言われました。一方、IOCとは直接話すことができ、ガイドブックを渡すこともできました。また、ハバードさんの試合前日には、国際重量挙げ連盟の人がプライドハウスに来てくれ、ガイドブックのURLの入ったポストカードをメディアの皆さんに配ってくれました」と、松中さんは言う。グローバルな組織と日本の組織の意識の差を感じたという。■「LGBTQ法見送り」「同性婚禁止」の国の五輪ブルームバーグ通信は、東京オリンピックが掲げる多様性と調和のビジョンに関連して、「東京オリンピックは、LGBTQの理解促進のための法案を通すことができず、同性婚に反対する勢力が権力の中枢に根付いている国で開催されている」と記事の中で皮肉った。松中さんによると、五輪期間中、プライドハウスには30社以上のグローバルメディアが取材にきたそうだ。彼らは大会の話だけでなく、前国会で与党の反対で提出に至らなかったLGBTQの法案についても、かなり関心を持って聞いてきたという。現在開催されているパラリンピックは、五輪以上に多様性と調和が重視されるべき大会だ。「LGBTQのことも、『自分のまわりにはいない』という誤った認識から、差別、偏見がなくならない構造がある。パラリンピックに関しても、『自分たちの家族や友人の中にも起こりうることなんだ』と感じられるよう、皆さんが意識を向けられればよいと思っています」と松中さんは話す。世界人口の15%に障害があると言われる中、今度はパラリンピックを通じ、日本はどんなメッセージを世界に発信することができるのだろうか。そして、今回の五輪、パラリンピックから、日本人は何を学ぶのだろう。東京大会の終了後、私たちの手元に残るのは、日本社会の変革という大きな宿題だ。———-大門 小百合(だいもん・さゆり)ジャーナリスト、元ジャパンタイムズ執行役員・論説委員上智大学外国語学部卒業後、1991年ジャパンタイムズ入社。政治、経済担当の記者を経て、2006年より報道部長。2013年より執行役員。同10月には同社117年の歴史で女性として初めての編集最高責任者となる。2000年、ニーマン特別研究員として米・ハーバード大学でジャーナリズム、アメリカ政治を研究。2005年、キングファイサル研究所研究員としてサウジアラビアのリヤドに滞在し、現地の女性たちについて取材、研究する。著書に『The Japan Times報道デスク発グローバル社会を生きる女性のための情報力』(ジャパンタイムズ)、国際情勢解説者である田中宇との共著『ハーバード大学で語られる世界戦略』(光文社)など。———-(ジャーナリスト、元ジャパンタイムズ執行役員・論説委員 大門 小百合)
「オリンピックをフォークにのせ、嫌がる幼児に無理やり食べさせているのがIOCだ」と書いたのは、ワシントン・ポストのコラムニストのバリー・スバルガ氏だ。東京が、もし五輪を中止しようとしても、IOCはそれを許さない。つまり一番権力を持っているのはIOCだと指摘する。さらに、無観客であってもテレビ放映権の収入が入り、結果的に一番得をするのもIOCだという厳しい主張を展開した。■手を挙げる都市は減っている記事の中で、五輪招致に詳しいスミスカレッジの経済学者、アンドリュー・ジンバリストは、開催を希望する都市の需要と供給の構図は、過去20年の間に様変わりしたと語っている。最近では、開催地候補に名乗りを上げるも、途中で降りる都市が続出。たとえば、来年の冬季五輪の開催地北京の対抗馬には当初、オスロ、ストックホルム、ポーランドのクラクフなど6都市が立候補していたが、国内の支持を得られず4都市が途中で断念している。また、オーストラリアのブリスベンが2032年夏季五輪の開催地に選ばれているが、そもそもほかに立候補した都市があったのかすら明らかにされていない。その2年前に行われる2030年冬季五輪の開催地はまだ決まっていない。調べてみると、2004年のアテネ夏季大会の時に立候補表明したのは11都市。しかし、2016年のリオデジャネイロ大会では7都市に減り、2020年東京大会では6都市に。2024年パリ大会では、パリ、ハンブルグ、ローマ、ロサンゼルスの5都市が立候補していたが、相次いで撤退。残ったのはパリとロサンゼルスのみだった。結局IOCは、将来の開催地を確保する意味もあり、2024年大会をパリで、その次の2028年大会をロサンゼルスで開催するという異例の同時決定をした。開催地には財政負担が重くのしかかり、国民の賛同を得にくい。よほど財政的に余裕がなければ開催できなくなってきているのではないか。前述のジンバリスト氏は、五輪は「スポーツの祭典」ではなく、巨額公共事業投資のための「建設イベント(construction events)だ」と言う。100年前と違い、通信環境も整っている中、わざわざ世界中の都市をまわる必要はなく、いっそこれからは、一つの都市で開催すればよいのではと提言する。■日本が払う“コスト”(Japan will pay the price.)最後まで開催にこだわった菅義偉首相。感染者数が増大する中、「この首相の賭けが、人気取りに寄与したとは思えない」という主張が、海外メディアには多かった。選手村の「バブル」の中では厳しいコロナ対策が行われていたが、「それを取り囲んでいる巨大な首都の中では、全くそのようなことはなかった」「フェンスの外では、パンデミックが日常であるかのような生活を送っている」と伝えたのは、ロイター通信だ。厳しい対策にもかかわらず、大会終了の8月8日までに、五輪関係者だけでも458人が感染。開催都市である東京全体では、感染者が爆発的に増加し、1日の感染者数が4000人を超えるまでになった。ブルームバーグニュースは、開会式の2日後に発表された内閣支持率が、昨年9月の就任以来最低の34%だったと報じている。海外からの要人はほとんど訪れず、「菅首相は、外交上の評価を上げる機会を失った」という。写真=iStock.com/kanzilyou※写真はイメージです – 写真=iStock.com/kanzilyou■膨れ上がった五輪費用東京開催が決まった時には、費用はパラリンピックと合わせて7340億円と見積もられていたが、昨年12月の時点では1.6兆円まで膨れ上がってしまった。自治体の中でも優等生だったはずの東京都の財布は、コロナによって厳しいものになりつつある。2020年3月には9345億円あった都の財政調整基金は、今年3月には2511億円まで減っている。相次ぐコロナ対策で、さらに取り崩さなくてはならず、今年度末には21億円に激減する見通しだ。チケット収入として見込まれていた900億円のうち9割は、無観客になったため消滅した今、五輪の経費負担がさらに都民にのしかかる。■傷ついたメンタルヘルス(mental health strains)アスリートのメンタルヘルスに、これだけ注目が集まった大会は初めてではないだろうか。海外メディアで大きく報道されたのは、体操女子で金メダルが期待されていたアメリカ代表のシモーネ・バイルズ選手の決勝戦棄権だ。バイルズ選手は、前回のリオデジャネイロ大会で女子団体と個人総合など4つの金メダルを獲得したアメリカのエースだった。バイルズ選手は棄権の理由を説明しながら泣き崩れ、「ストレスが高い状況に置かれるたびに、パニックのような状態になる」「私は心の健康に集中しなければならない。自分の健康と幸福を損なうわけにはいかない」と記者団に語り、「自分自身の頭と戦ってるって最悪」と付け加えた。フィナンシャルタイムズ紙は、7月31日の社説で、「メダル獲得のために各国が莫大な資金を投入し、その見返りを求める。彼女の突然の退場は、こうして高まったアスリートへのプレッシャーについて、議論を促すものとなる」と書いている。同紙によると、英国スポーツ研究所ではストレス対策のため、選手、コーチ、スタッフに、スポーツ精神科医のプログラムを受けてもらったという。これは、人質から解放された人の社会復帰を手助けするカウンセリングで、ロックダウンや五輪などのストレスを軽減するのに、最も効果的とみられるプログラムだったそうだ。選手のメンタルヘルスは、今後スポーツ界が真剣に取り組むべき課題の一つだ。この問題が今回、世界の大きな舞台で取り上げられたのは、歓迎すべきことだったのかもしれない。■メダルを確実に増やす方法(Surefire way to boost your Olympic medal count)「オリンピックという世界最大のスポーツイベントは、開催国にとって経済的な大惨事だ。メダルの数以外は!」と報じたのはブルームバーグ通信だ。今大会の日本の金メダル獲得数は27で、アメリカの39と中国の38に次ぐ。過去の研究から、五輪開催国は多くのメダルを獲得し、自国開催の次の大会でも多くのメダルを獲得していると記事は伝えている。■開催国はメダルラッシュにたとえば1992年のバルセロナ大会で、スペインは、全金メダルの5%を獲得し、世界のランキングでは6位。オーストラリアは、自国開催の前の大会の3.3%から2000年のシドニー大会では5.3%に躍進、そして、次のアテネ大会では5.7%と、さらメダル数を増やした。しかし、その後の北京大会では、4.6%に落ちているとのこと。ブラジルも似たような傾向を示しており、リオ大会の前では全体の1%しか獲得できなかった金メダルをリオでは2.3%に増やし、今回の東京大会では2.1%を獲得した。この法則に当てはめると、日本は次のパリ大会でもかなりのメダルが期待できるというわけだ。しかし、メダル獲得数にばかり注目するのは問題だという声も上がり始めている。日本オリンピック・アカデミーは、東京大会の組織委員会が公式ウェブサイトにチーム別(ほとんどが国別のチーム)のメダル獲得順位表を掲載しているのは、オリンピック憲章違反にもなりかねないと、有志による意見書を組織委員会に提出している。■「国対抗メダル競争」でいいのかオリンピック憲章には、「大会は個人間の競技であり、国家間のものではない」とする記述がある。スポーツによる国際平和を希求するには、国別対抗による過度なナショナリズムの高揚や国家間の対立を避けるべきという考え方が根底にある。五輪では、実は、メダルを一つも取れない国の方が多い。しかし、参加することに意義がある。今回初参加した難民選手団を見て、厳しい情勢の中でも力強く頑張っている人達に勇気づけられた人もいるだろう。私が印象に残っているのは、走り高跳びで、カタールの選手とイタリアの選手が、金メダルを分け合ったシーンだ。審判に優勝決定戦を勧められたが、カタールのムタズエサ・バルシム選手が「私たちに金メダルを2つもらえないか?」と提案し、2人の金メダリストが誕生した。金メダルは1つだけでなくてもよい。分かち合うことの喜びを世界に示した、素晴らしい出来事だったと思う。■「ジェンダー」「性の多様性」が大きなテーマに今回の五輪は、森前会長の女性蔑視発言もあり、ジェンダー意識、「性の多様性」や「性の扱い」も大きなテーマになった。体操競技予選で、ドイツ女子代表チームがビキニカットのレオタードに代わり、足首までの脚全体を覆う「ユニタード」を着用して競技を行ったことが話題になった。これには、スポーツを性の対象とすることに対する抗議の意味があった。性的マイノリティーの選手の活躍にも注目が集まった。ニュージーランドの重量挙げの選手であるローレル・ハバード選手は、トランスジェンダー選手として史上初のオリンピック出場を果たした。さまざまな批判がある中で、自分が自認する性でプレーすることが実現した画期的な出来事だ。■差別的な構造が五輪で表面化今大会に参加したLGBTQの選手は、公表されているだけで史上最多の182人。これは、2016年のリオ大会の56人の3倍にあたる。ただ、日本でのマイノリティーや多様性に対する理解については疑問が残る。「これまで、『スポーツの世界は別だから』とか『日本は違うから』という、なぞのロジックで封じ込められてきた、日本の社会やスポーツ界の差別的な構造が、五輪を機に表面化した」と話すのは、LGBTQの権利擁護団体であるプライドハウス東京の松中権さんだ。松中さんは、組織委員会の人権労働ワーキンググループの委員も務め、さまざまなアドバイスをしてきた。たとえば、ボランティアの着るユニフォームも、トランスジェンダーの人にサンプル段階で着てもらい、助言をもらい変更を加えたそうだ。また、組織委員会のダイバーシティ&インクルージョンのガイドブックを作り、職員の研修も手伝ってきた。組織委員会の内部にこうしたチームがいる一方、「人権や差別の問題は、そのチームだけの担当分野だ」と見なされ、問題意識が組織委員会全体に広がるまでには至らなかったという。「LGBTQの理解を深めてもらうため、本当はメディア向けに勉強会を開きたかったんですが、組織委員会に、それは難しいと言われました。一方、IOCとは直接話すことができ、ガイドブックを渡すこともできました。また、ハバードさんの試合前日には、国際重量挙げ連盟の人がプライドハウスに来てくれ、ガイドブックのURLの入ったポストカードをメディアの皆さんに配ってくれました」と、松中さんは言う。グローバルな組織と日本の組織の意識の差を感じたという。■「LGBTQ法見送り」「同性婚禁止」の国の五輪ブルームバーグ通信は、東京オリンピックが掲げる多様性と調和のビジョンに関連して、「東京オリンピックは、LGBTQの理解促進のための法案を通すことができず、同性婚に反対する勢力が権力の中枢に根付いている国で開催されている」と記事の中で皮肉った。松中さんによると、五輪期間中、プライドハウスには30社以上のグローバルメディアが取材にきたそうだ。彼らは大会の話だけでなく、前国会で与党の反対で提出に至らなかったLGBTQの法案についても、かなり関心を持って聞いてきたという。現在開催されているパラリンピックは、五輪以上に多様性と調和が重視されるべき大会だ。「LGBTQのことも、『自分のまわりにはいない』という誤った認識から、差別、偏見がなくならない構造がある。パラリンピックに関しても、『自分たちの家族や友人の中にも起こりうることなんだ』と感じられるよう、皆さんが意識を向けられればよいと思っています」と松中さんは話す。世界人口の15%に障害があると言われる中、今度はパラリンピックを通じ、日本はどんなメッセージを世界に発信することができるのだろうか。そして、今回の五輪、パラリンピックから、日本人は何を学ぶのだろう。東京大会の終了後、私たちの手元に残るのは、日本社会の変革という大きな宿題だ。———-大門 小百合(だいもん・さゆり)ジャーナリスト、元ジャパンタイムズ執行役員・論説委員上智大学外国語学部卒業後、1991年ジャパンタイムズ入社。政治、経済担当の記者を経て、2006年より報道部長。2013年より執行役員。同10月には同社117年の歴史で女性として初めての編集最高責任者となる。2000年、ニーマン特別研究員として米・ハーバード大学でジャーナリズム、アメリカ政治を研究。2005年、キングファイサル研究所研究員としてサウジアラビアのリヤドに滞在し、現地の女性たちについて取材、研究する。著書に『The Japan Times報道デスク発グローバル社会を生きる女性のための情報力』(ジャパンタイムズ)、国際情勢解説者である田中宇との共著『ハーバード大学で語られる世界戦略』(光文社)など。———-(ジャーナリスト、元ジャパンタイムズ執行役員・論説委員 大門 小百合)
東京が、もし五輪を中止しようとしても、IOCはそれを許さない。つまり一番権力を持っているのはIOCだと指摘する。さらに、無観客であってもテレビ放映権の収入が入り、結果的に一番得をするのもIOCだという厳しい主張を展開した。■手を挙げる都市は減っている記事の中で、五輪招致に詳しいスミスカレッジの経済学者、アンドリュー・ジンバリストは、開催を希望する都市の需要と供給の構図は、過去20年の間に様変わりしたと語っている。最近では、開催地候補に名乗りを上げるも、途中で降りる都市が続出。たとえば、来年の冬季五輪の開催地北京の対抗馬には当初、オスロ、ストックホルム、ポーランドのクラクフなど6都市が立候補していたが、国内の支持を得られず4都市が途中で断念している。また、オーストラリアのブリスベンが2032年夏季五輪の開催地に選ばれているが、そもそもほかに立候補した都市があったのかすら明らかにされていない。その2年前に行われる2030年冬季五輪の開催地はまだ決まっていない。調べてみると、2004年のアテネ夏季大会の時に立候補表明したのは11都市。しかし、2016年のリオデジャネイロ大会では7都市に減り、2020年東京大会では6都市に。2024年パリ大会では、パリ、ハンブルグ、ローマ、ロサンゼルスの5都市が立候補していたが、相次いで撤退。残ったのはパリとロサンゼルスのみだった。結局IOCは、将来の開催地を確保する意味もあり、2024年大会をパリで、その次の2028年大会をロサンゼルスで開催するという異例の同時決定をした。開催地には財政負担が重くのしかかり、国民の賛同を得にくい。よほど財政的に余裕がなければ開催できなくなってきているのではないか。前述のジンバリスト氏は、五輪は「スポーツの祭典」ではなく、巨額公共事業投資のための「建設イベント(construction events)だ」と言う。100年前と違い、通信環境も整っている中、わざわざ世界中の都市をまわる必要はなく、いっそこれからは、一つの都市で開催すればよいのではと提言する。■日本が払う“コスト”(Japan will pay the price.)最後まで開催にこだわった菅義偉首相。感染者数が増大する中、「この首相の賭けが、人気取りに寄与したとは思えない」という主張が、海外メディアには多かった。選手村の「バブル」の中では厳しいコロナ対策が行われていたが、「それを取り囲んでいる巨大な首都の中では、全くそのようなことはなかった」「フェンスの外では、パンデミックが日常であるかのような生活を送っている」と伝えたのは、ロイター通信だ。厳しい対策にもかかわらず、大会終了の8月8日までに、五輪関係者だけでも458人が感染。開催都市である東京全体では、感染者が爆発的に増加し、1日の感染者数が4000人を超えるまでになった。ブルームバーグニュースは、開会式の2日後に発表された内閣支持率が、昨年9月の就任以来最低の34%だったと報じている。海外からの要人はほとんど訪れず、「菅首相は、外交上の評価を上げる機会を失った」という。写真=iStock.com/kanzilyou※写真はイメージです – 写真=iStock.com/kanzilyou■膨れ上がった五輪費用東京開催が決まった時には、費用はパラリンピックと合わせて7340億円と見積もられていたが、昨年12月の時点では1.6兆円まで膨れ上がってしまった。自治体の中でも優等生だったはずの東京都の財布は、コロナによって厳しいものになりつつある。2020年3月には9345億円あった都の財政調整基金は、今年3月には2511億円まで減っている。相次ぐコロナ対策で、さらに取り崩さなくてはならず、今年度末には21億円に激減する見通しだ。チケット収入として見込まれていた900億円のうち9割は、無観客になったため消滅した今、五輪の経費負担がさらに都民にのしかかる。■傷ついたメンタルヘルス(mental health strains)アスリートのメンタルヘルスに、これだけ注目が集まった大会は初めてではないだろうか。海外メディアで大きく報道されたのは、体操女子で金メダルが期待されていたアメリカ代表のシモーネ・バイルズ選手の決勝戦棄権だ。バイルズ選手は、前回のリオデジャネイロ大会で女子団体と個人総合など4つの金メダルを獲得したアメリカのエースだった。バイルズ選手は棄権の理由を説明しながら泣き崩れ、「ストレスが高い状況に置かれるたびに、パニックのような状態になる」「私は心の健康に集中しなければならない。自分の健康と幸福を損なうわけにはいかない」と記者団に語り、「自分自身の頭と戦ってるって最悪」と付け加えた。フィナンシャルタイムズ紙は、7月31日の社説で、「メダル獲得のために各国が莫大な資金を投入し、その見返りを求める。彼女の突然の退場は、こうして高まったアスリートへのプレッシャーについて、議論を促すものとなる」と書いている。同紙によると、英国スポーツ研究所ではストレス対策のため、選手、コーチ、スタッフに、スポーツ精神科医のプログラムを受けてもらったという。これは、人質から解放された人の社会復帰を手助けするカウンセリングで、ロックダウンや五輪などのストレスを軽減するのに、最も効果的とみられるプログラムだったそうだ。選手のメンタルヘルスは、今後スポーツ界が真剣に取り組むべき課題の一つだ。この問題が今回、世界の大きな舞台で取り上げられたのは、歓迎すべきことだったのかもしれない。■メダルを確実に増やす方法(Surefire way to boost your Olympic medal count)「オリンピックという世界最大のスポーツイベントは、開催国にとって経済的な大惨事だ。メダルの数以外は!」と報じたのはブルームバーグ通信だ。今大会の日本の金メダル獲得数は27で、アメリカの39と中国の38に次ぐ。過去の研究から、五輪開催国は多くのメダルを獲得し、自国開催の次の大会でも多くのメダルを獲得していると記事は伝えている。■開催国はメダルラッシュにたとえば1992年のバルセロナ大会で、スペインは、全金メダルの5%を獲得し、世界のランキングでは6位。オーストラリアは、自国開催の前の大会の3.3%から2000年のシドニー大会では5.3%に躍進、そして、次のアテネ大会では5.7%と、さらメダル数を増やした。しかし、その後の北京大会では、4.6%に落ちているとのこと。ブラジルも似たような傾向を示しており、リオ大会の前では全体の1%しか獲得できなかった金メダルをリオでは2.3%に増やし、今回の東京大会では2.1%を獲得した。この法則に当てはめると、日本は次のパリ大会でもかなりのメダルが期待できるというわけだ。しかし、メダル獲得数にばかり注目するのは問題だという声も上がり始めている。日本オリンピック・アカデミーは、東京大会の組織委員会が公式ウェブサイトにチーム別(ほとんどが国別のチーム)のメダル獲得順位表を掲載しているのは、オリンピック憲章違反にもなりかねないと、有志による意見書を組織委員会に提出している。■「国対抗メダル競争」でいいのかオリンピック憲章には、「大会は個人間の競技であり、国家間のものではない」とする記述がある。スポーツによる国際平和を希求するには、国別対抗による過度なナショナリズムの高揚や国家間の対立を避けるべきという考え方が根底にある。五輪では、実は、メダルを一つも取れない国の方が多い。しかし、参加することに意義がある。今回初参加した難民選手団を見て、厳しい情勢の中でも力強く頑張っている人達に勇気づけられた人もいるだろう。私が印象に残っているのは、走り高跳びで、カタールの選手とイタリアの選手が、金メダルを分け合ったシーンだ。審判に優勝決定戦を勧められたが、カタールのムタズエサ・バルシム選手が「私たちに金メダルを2つもらえないか?」と提案し、2人の金メダリストが誕生した。金メダルは1つだけでなくてもよい。分かち合うことの喜びを世界に示した、素晴らしい出来事だったと思う。■「ジェンダー」「性の多様性」が大きなテーマに今回の五輪は、森前会長の女性蔑視発言もあり、ジェンダー意識、「性の多様性」や「性の扱い」も大きなテーマになった。体操競技予選で、ドイツ女子代表チームがビキニカットのレオタードに代わり、足首までの脚全体を覆う「ユニタード」を着用して競技を行ったことが話題になった。これには、スポーツを性の対象とすることに対する抗議の意味があった。性的マイノリティーの選手の活躍にも注目が集まった。ニュージーランドの重量挙げの選手であるローレル・ハバード選手は、トランスジェンダー選手として史上初のオリンピック出場を果たした。さまざまな批判がある中で、自分が自認する性でプレーすることが実現した画期的な出来事だ。■差別的な構造が五輪で表面化今大会に参加したLGBTQの選手は、公表されているだけで史上最多の182人。これは、2016年のリオ大会の56人の3倍にあたる。ただ、日本でのマイノリティーや多様性に対する理解については疑問が残る。「これまで、『スポーツの世界は別だから』とか『日本は違うから』という、なぞのロジックで封じ込められてきた、日本の社会やスポーツ界の差別的な構造が、五輪を機に表面化した」と話すのは、LGBTQの権利擁護団体であるプライドハウス東京の松中権さんだ。松中さんは、組織委員会の人権労働ワーキンググループの委員も務め、さまざまなアドバイスをしてきた。たとえば、ボランティアの着るユニフォームも、トランスジェンダーの人にサンプル段階で着てもらい、助言をもらい変更を加えたそうだ。また、組織委員会のダイバーシティ&インクルージョンのガイドブックを作り、職員の研修も手伝ってきた。組織委員会の内部にこうしたチームがいる一方、「人権や差別の問題は、そのチームだけの担当分野だ」と見なされ、問題意識が組織委員会全体に広がるまでには至らなかったという。「LGBTQの理解を深めてもらうため、本当はメディア向けに勉強会を開きたかったんですが、組織委員会に、それは難しいと言われました。一方、IOCとは直接話すことができ、ガイドブックを渡すこともできました。また、ハバードさんの試合前日には、国際重量挙げ連盟の人がプライドハウスに来てくれ、ガイドブックのURLの入ったポストカードをメディアの皆さんに配ってくれました」と、松中さんは言う。グローバルな組織と日本の組織の意識の差を感じたという。■「LGBTQ法見送り」「同性婚禁止」の国の五輪ブルームバーグ通信は、東京オリンピックが掲げる多様性と調和のビジョンに関連して、「東京オリンピックは、LGBTQの理解促進のための法案を通すことができず、同性婚に反対する勢力が権力の中枢に根付いている国で開催されている」と記事の中で皮肉った。松中さんによると、五輪期間中、プライドハウスには30社以上のグローバルメディアが取材にきたそうだ。彼らは大会の話だけでなく、前国会で与党の反対で提出に至らなかったLGBTQの法案についても、かなり関心を持って聞いてきたという。現在開催されているパラリンピックは、五輪以上に多様性と調和が重視されるべき大会だ。「LGBTQのことも、『自分のまわりにはいない』という誤った認識から、差別、偏見がなくならない構造がある。パラリンピックに関しても、『自分たちの家族や友人の中にも起こりうることなんだ』と感じられるよう、皆さんが意識を向けられればよいと思っています」と松中さんは話す。世界人口の15%に障害があると言われる中、今度はパラリンピックを通じ、日本はどんなメッセージを世界に発信することができるのだろうか。そして、今回の五輪、パラリンピックから、日本人は何を学ぶのだろう。東京大会の終了後、私たちの手元に残るのは、日本社会の変革という大きな宿題だ。———-大門 小百合(だいもん・さゆり)ジャーナリスト、元ジャパンタイムズ執行役員・論説委員上智大学外国語学部卒業後、1991年ジャパンタイムズ入社。政治、経済担当の記者を経て、2006年より報道部長。2013年より執行役員。同10月には同社117年の歴史で女性として初めての編集最高責任者となる。2000年、ニーマン特別研究員として米・ハーバード大学でジャーナリズム、アメリカ政治を研究。2005年、キングファイサル研究所研究員としてサウジアラビアのリヤドに滞在し、現地の女性たちについて取材、研究する。著書に『The Japan Times報道デスク発グローバル社会を生きる女性のための情報力』(ジャパンタイムズ)、国際情勢解説者である田中宇との共著『ハーバード大学で語られる世界戦略』(光文社)など。———-(ジャーナリスト、元ジャパンタイムズ執行役員・論説委員 大門 小百合)
記事の中で、五輪招致に詳しいスミスカレッジの経済学者、アンドリュー・ジンバリストは、開催を希望する都市の需要と供給の構図は、過去20年の間に様変わりしたと語っている。最近では、開催地候補に名乗りを上げるも、途中で降りる都市が続出。たとえば、来年の冬季五輪の開催地北京の対抗馬には当初、オスロ、ストックホルム、ポーランドのクラクフなど6都市が立候補していたが、国内の支持を得られず4都市が途中で断念している。また、オーストラリアのブリスベンが2032年夏季五輪の開催地に選ばれているが、そもそもほかに立候補した都市があったのかすら明らかにされていない。その2年前に行われる2030年冬季五輪の開催地はまだ決まっていない。調べてみると、2004年のアテネ夏季大会の時に立候補表明したのは11都市。しかし、2016年のリオデジャネイロ大会では7都市に減り、2020年東京大会では6都市に。2024年パリ大会では、パリ、ハンブルグ、ローマ、ロサンゼルスの5都市が立候補していたが、相次いで撤退。残ったのはパリとロサンゼルスのみだった。結局IOCは、将来の開催地を確保する意味もあり、2024年大会をパリで、その次の2028年大会をロサンゼルスで開催するという異例の同時決定をした。開催地には財政負担が重くのしかかり、国民の賛同を得にくい。よほど財政的に余裕がなければ開催できなくなってきているのではないか。前述のジンバリスト氏は、五輪は「スポーツの祭典」ではなく、巨額公共事業投資のための「建設イベント(construction events)だ」と言う。100年前と違い、通信環境も整っている中、わざわざ世界中の都市をまわる必要はなく、いっそこれからは、一つの都市で開催すればよいのではと提言する。■日本が払う“コスト”(Japan will pay the price.)最後まで開催にこだわった菅義偉首相。感染者数が増大する中、「この首相の賭けが、人気取りに寄与したとは思えない」という主張が、海外メディアには多かった。選手村の「バブル」の中では厳しいコロナ対策が行われていたが、「それを取り囲んでいる巨大な首都の中では、全くそのようなことはなかった」「フェンスの外では、パンデミックが日常であるかのような生活を送っている」と伝えたのは、ロイター通信だ。厳しい対策にもかかわらず、大会終了の8月8日までに、五輪関係者だけでも458人が感染。開催都市である東京全体では、感染者が爆発的に増加し、1日の感染者数が4000人を超えるまでになった。ブルームバーグニュースは、開会式の2日後に発表された内閣支持率が、昨年9月の就任以来最低の34%だったと報じている。海外からの要人はほとんど訪れず、「菅首相は、外交上の評価を上げる機会を失った」という。写真=iStock.com/kanzilyou※写真はイメージです – 写真=iStock.com/kanzilyou■膨れ上がった五輪費用東京開催が決まった時には、費用はパラリンピックと合わせて7340億円と見積もられていたが、昨年12月の時点では1.6兆円まで膨れ上がってしまった。自治体の中でも優等生だったはずの東京都の財布は、コロナによって厳しいものになりつつある。2020年3月には9345億円あった都の財政調整基金は、今年3月には2511億円まで減っている。相次ぐコロナ対策で、さらに取り崩さなくてはならず、今年度末には21億円に激減する見通しだ。チケット収入として見込まれていた900億円のうち9割は、無観客になったため消滅した今、五輪の経費負担がさらに都民にのしかかる。■傷ついたメンタルヘルス(mental health strains)アスリートのメンタルヘルスに、これだけ注目が集まった大会は初めてではないだろうか。海外メディアで大きく報道されたのは、体操女子で金メダルが期待されていたアメリカ代表のシモーネ・バイルズ選手の決勝戦棄権だ。バイルズ選手は、前回のリオデジャネイロ大会で女子団体と個人総合など4つの金メダルを獲得したアメリカのエースだった。バイルズ選手は棄権の理由を説明しながら泣き崩れ、「ストレスが高い状況に置かれるたびに、パニックのような状態になる」「私は心の健康に集中しなければならない。自分の健康と幸福を損なうわけにはいかない」と記者団に語り、「自分自身の頭と戦ってるって最悪」と付け加えた。フィナンシャルタイムズ紙は、7月31日の社説で、「メダル獲得のために各国が莫大な資金を投入し、その見返りを求める。彼女の突然の退場は、こうして高まったアスリートへのプレッシャーについて、議論を促すものとなる」と書いている。同紙によると、英国スポーツ研究所ではストレス対策のため、選手、コーチ、スタッフに、スポーツ精神科医のプログラムを受けてもらったという。これは、人質から解放された人の社会復帰を手助けするカウンセリングで、ロックダウンや五輪などのストレスを軽減するのに、最も効果的とみられるプログラムだったそうだ。選手のメンタルヘルスは、今後スポーツ界が真剣に取り組むべき課題の一つだ。この問題が今回、世界の大きな舞台で取り上げられたのは、歓迎すべきことだったのかもしれない。■メダルを確実に増やす方法(Surefire way to boost your Olympic medal count)「オリンピックという世界最大のスポーツイベントは、開催国にとって経済的な大惨事だ。メダルの数以外は!」と報じたのはブルームバーグ通信だ。今大会の日本の金メダル獲得数は27で、アメリカの39と中国の38に次ぐ。過去の研究から、五輪開催国は多くのメダルを獲得し、自国開催の次の大会でも多くのメダルを獲得していると記事は伝えている。■開催国はメダルラッシュにたとえば1992年のバルセロナ大会で、スペインは、全金メダルの5%を獲得し、世界のランキングでは6位。オーストラリアは、自国開催の前の大会の3.3%から2000年のシドニー大会では5.3%に躍進、そして、次のアテネ大会では5.7%と、さらメダル数を増やした。しかし、その後の北京大会では、4.6%に落ちているとのこと。ブラジルも似たような傾向を示しており、リオ大会の前では全体の1%しか獲得できなかった金メダルをリオでは2.3%に増やし、今回の東京大会では2.1%を獲得した。この法則に当てはめると、日本は次のパリ大会でもかなりのメダルが期待できるというわけだ。しかし、メダル獲得数にばかり注目するのは問題だという声も上がり始めている。日本オリンピック・アカデミーは、東京大会の組織委員会が公式ウェブサイトにチーム別(ほとんどが国別のチーム)のメダル獲得順位表を掲載しているのは、オリンピック憲章違反にもなりかねないと、有志による意見書を組織委員会に提出している。■「国対抗メダル競争」でいいのかオリンピック憲章には、「大会は個人間の競技であり、国家間のものではない」とする記述がある。スポーツによる国際平和を希求するには、国別対抗による過度なナショナリズムの高揚や国家間の対立を避けるべきという考え方が根底にある。五輪では、実は、メダルを一つも取れない国の方が多い。しかし、参加することに意義がある。今回初参加した難民選手団を見て、厳しい情勢の中でも力強く頑張っている人達に勇気づけられた人もいるだろう。私が印象に残っているのは、走り高跳びで、カタールの選手とイタリアの選手が、金メダルを分け合ったシーンだ。審判に優勝決定戦を勧められたが、カタールのムタズエサ・バルシム選手が「私たちに金メダルを2つもらえないか?」と提案し、2人の金メダリストが誕生した。金メダルは1つだけでなくてもよい。分かち合うことの喜びを世界に示した、素晴らしい出来事だったと思う。■「ジェンダー」「性の多様性」が大きなテーマに今回の五輪は、森前会長の女性蔑視発言もあり、ジェンダー意識、「性の多様性」や「性の扱い」も大きなテーマになった。体操競技予選で、ドイツ女子代表チームがビキニカットのレオタードに代わり、足首までの脚全体を覆う「ユニタード」を着用して競技を行ったことが話題になった。これには、スポーツを性の対象とすることに対する抗議の意味があった。性的マイノリティーの選手の活躍にも注目が集まった。ニュージーランドの重量挙げの選手であるローレル・ハバード選手は、トランスジェンダー選手として史上初のオリンピック出場を果たした。さまざまな批判がある中で、自分が自認する性でプレーすることが実現した画期的な出来事だ。■差別的な構造が五輪で表面化今大会に参加したLGBTQの選手は、公表されているだけで史上最多の182人。これは、2016年のリオ大会の56人の3倍にあたる。ただ、日本でのマイノリティーや多様性に対する理解については疑問が残る。「これまで、『スポーツの世界は別だから』とか『日本は違うから』という、なぞのロジックで封じ込められてきた、日本の社会やスポーツ界の差別的な構造が、五輪を機に表面化した」と話すのは、LGBTQの権利擁護団体であるプライドハウス東京の松中権さんだ。松中さんは、組織委員会の人権労働ワーキンググループの委員も務め、さまざまなアドバイスをしてきた。たとえば、ボランティアの着るユニフォームも、トランスジェンダーの人にサンプル段階で着てもらい、助言をもらい変更を加えたそうだ。また、組織委員会のダイバーシティ&インクルージョンのガイドブックを作り、職員の研修も手伝ってきた。組織委員会の内部にこうしたチームがいる一方、「人権や差別の問題は、そのチームだけの担当分野だ」と見なされ、問題意識が組織委員会全体に広がるまでには至らなかったという。「LGBTQの理解を深めてもらうため、本当はメディア向けに勉強会を開きたかったんですが、組織委員会に、それは難しいと言われました。一方、IOCとは直接話すことができ、ガイドブックを渡すこともできました。また、ハバードさんの試合前日には、国際重量挙げ連盟の人がプライドハウスに来てくれ、ガイドブックのURLの入ったポストカードをメディアの皆さんに配ってくれました」と、松中さんは言う。グローバルな組織と日本の組織の意識の差を感じたという。■「LGBTQ法見送り」「同性婚禁止」の国の五輪ブルームバーグ通信は、東京オリンピックが掲げる多様性と調和のビジョンに関連して、「東京オリンピックは、LGBTQの理解促進のための法案を通すことができず、同性婚に反対する勢力が権力の中枢に根付いている国で開催されている」と記事の中で皮肉った。松中さんによると、五輪期間中、プライドハウスには30社以上のグローバルメディアが取材にきたそうだ。彼らは大会の話だけでなく、前国会で与党の反対で提出に至らなかったLGBTQの法案についても、かなり関心を持って聞いてきたという。現在開催されているパラリンピックは、五輪以上に多様性と調和が重視されるべき大会だ。「LGBTQのことも、『自分のまわりにはいない』という誤った認識から、差別、偏見がなくならない構造がある。パラリンピックに関しても、『自分たちの家族や友人の中にも起こりうることなんだ』と感じられるよう、皆さんが意識を向けられればよいと思っています」と松中さんは話す。世界人口の15%に障害があると言われる中、今度はパラリンピックを通じ、日本はどんなメッセージを世界に発信することができるのだろうか。そして、今回の五輪、パラリンピックから、日本人は何を学ぶのだろう。東京大会の終了後、私たちの手元に残るのは、日本社会の変革という大きな宿題だ。———-大門 小百合(だいもん・さゆり)ジャーナリスト、元ジャパンタイムズ執行役員・論説委員上智大学外国語学部卒業後、1991年ジャパンタイムズ入社。政治、経済担当の記者を経て、2006年より報道部長。2013年より執行役員。同10月には同社117年の歴史で女性として初めての編集最高責任者となる。2000年、ニーマン特別研究員として米・ハーバード大学でジャーナリズム、アメリカ政治を研究。2005年、キングファイサル研究所研究員としてサウジアラビアのリヤドに滞在し、現地の女性たちについて取材、研究する。著書に『The Japan Times報道デスク発グローバル社会を生きる女性のための情報力』(ジャパンタイムズ)、国際情勢解説者である田中宇との共著『ハーバード大学で語られる世界戦略』(光文社)など。———-(ジャーナリスト、元ジャパンタイムズ執行役員・論説委員 大門 小百合)
最近では、開催地候補に名乗りを上げるも、途中で降りる都市が続出。たとえば、来年の冬季五輪の開催地北京の対抗馬には当初、オスロ、ストックホルム、ポーランドのクラクフなど6都市が立候補していたが、国内の支持を得られず4都市が途中で断念している。また、オーストラリアのブリスベンが2032年夏季五輪の開催地に選ばれているが、そもそもほかに立候補した都市があったのかすら明らかにされていない。その2年前に行われる2030年冬季五輪の開催地はまだ決まっていない。調べてみると、2004年のアテネ夏季大会の時に立候補表明したのは11都市。しかし、2016年のリオデジャネイロ大会では7都市に減り、2020年東京大会では6都市に。2024年パリ大会では、パリ、ハンブルグ、ローマ、ロサンゼルスの5都市が立候補していたが、相次いで撤退。残ったのはパリとロサンゼルスのみだった。結局IOCは、将来の開催地を確保する意味もあり、2024年大会をパリで、その次の2028年大会をロサンゼルスで開催するという異例の同時決定をした。開催地には財政負担が重くのしかかり、国民の賛同を得にくい。よほど財政的に余裕がなければ開催できなくなってきているのではないか。前述のジンバリスト氏は、五輪は「スポーツの祭典」ではなく、巨額公共事業投資のための「建設イベント(construction events)だ」と言う。100年前と違い、通信環境も整っている中、わざわざ世界中の都市をまわる必要はなく、いっそこれからは、一つの都市で開催すればよいのではと提言する。■日本が払う“コスト”(Japan will pay the price.)最後まで開催にこだわった菅義偉首相。感染者数が増大する中、「この首相の賭けが、人気取りに寄与したとは思えない」という主張が、海外メディアには多かった。選手村の「バブル」の中では厳しいコロナ対策が行われていたが、「それを取り囲んでいる巨大な首都の中では、全くそのようなことはなかった」「フェンスの外では、パンデミックが日常であるかのような生活を送っている」と伝えたのは、ロイター通信だ。厳しい対策にもかかわらず、大会終了の8月8日までに、五輪関係者だけでも458人が感染。開催都市である東京全体では、感染者が爆発的に増加し、1日の感染者数が4000人を超えるまでになった。ブルームバーグニュースは、開会式の2日後に発表された内閣支持率が、昨年9月の就任以来最低の34%だったと報じている。海外からの要人はほとんど訪れず、「菅首相は、外交上の評価を上げる機会を失った」という。写真=iStock.com/kanzilyou※写真はイメージです – 写真=iStock.com/kanzilyou■膨れ上がった五輪費用東京開催が決まった時には、費用はパラリンピックと合わせて7340億円と見積もられていたが、昨年12月の時点では1.6兆円まで膨れ上がってしまった。自治体の中でも優等生だったはずの東京都の財布は、コロナによって厳しいものになりつつある。2020年3月には9345億円あった都の財政調整基金は、今年3月には2511億円まで減っている。相次ぐコロナ対策で、さらに取り崩さなくてはならず、今年度末には21億円に激減する見通しだ。チケット収入として見込まれていた900億円のうち9割は、無観客になったため消滅した今、五輪の経費負担がさらに都民にのしかかる。■傷ついたメンタルヘルス(mental health strains)アスリートのメンタルヘルスに、これだけ注目が集まった大会は初めてではないだろうか。海外メディアで大きく報道されたのは、体操女子で金メダルが期待されていたアメリカ代表のシモーネ・バイルズ選手の決勝戦棄権だ。バイルズ選手は、前回のリオデジャネイロ大会で女子団体と個人総合など4つの金メダルを獲得したアメリカのエースだった。バイルズ選手は棄権の理由を説明しながら泣き崩れ、「ストレスが高い状況に置かれるたびに、パニックのような状態になる」「私は心の健康に集中しなければならない。自分の健康と幸福を損なうわけにはいかない」と記者団に語り、「自分自身の頭と戦ってるって最悪」と付け加えた。フィナンシャルタイムズ紙は、7月31日の社説で、「メダル獲得のために各国が莫大な資金を投入し、その見返りを求める。彼女の突然の退場は、こうして高まったアスリートへのプレッシャーについて、議論を促すものとなる」と書いている。同紙によると、英国スポーツ研究所ではストレス対策のため、選手、コーチ、スタッフに、スポーツ精神科医のプログラムを受けてもらったという。これは、人質から解放された人の社会復帰を手助けするカウンセリングで、ロックダウンや五輪などのストレスを軽減するのに、最も効果的とみられるプログラムだったそうだ。選手のメンタルヘルスは、今後スポーツ界が真剣に取り組むべき課題の一つだ。この問題が今回、世界の大きな舞台で取り上げられたのは、歓迎すべきことだったのかもしれない。■メダルを確実に増やす方法(Surefire way to boost your Olympic medal count)「オリンピックという世界最大のスポーツイベントは、開催国にとって経済的な大惨事だ。メダルの数以外は!」と報じたのはブルームバーグ通信だ。今大会の日本の金メダル獲得数は27で、アメリカの39と中国の38に次ぐ。過去の研究から、五輪開催国は多くのメダルを獲得し、自国開催の次の大会でも多くのメダルを獲得していると記事は伝えている。■開催国はメダルラッシュにたとえば1992年のバルセロナ大会で、スペインは、全金メダルの5%を獲得し、世界のランキングでは6位。オーストラリアは、自国開催の前の大会の3.3%から2000年のシドニー大会では5.3%に躍進、そして、次のアテネ大会では5.7%と、さらメダル数を増やした。しかし、その後の北京大会では、4.6%に落ちているとのこと。ブラジルも似たような傾向を示しており、リオ大会の前では全体の1%しか獲得できなかった金メダルをリオでは2.3%に増やし、今回の東京大会では2.1%を獲得した。この法則に当てはめると、日本は次のパリ大会でもかなりのメダルが期待できるというわけだ。しかし、メダル獲得数にばかり注目するのは問題だという声も上がり始めている。日本オリンピック・アカデミーは、東京大会の組織委員会が公式ウェブサイトにチーム別(ほとんどが国別のチーム)のメダル獲得順位表を掲載しているのは、オリンピック憲章違反にもなりかねないと、有志による意見書を組織委員会に提出している。■「国対抗メダル競争」でいいのかオリンピック憲章には、「大会は個人間の競技であり、国家間のものではない」とする記述がある。スポーツによる国際平和を希求するには、国別対抗による過度なナショナリズムの高揚や国家間の対立を避けるべきという考え方が根底にある。五輪では、実は、メダルを一つも取れない国の方が多い。しかし、参加することに意義がある。今回初参加した難民選手団を見て、厳しい情勢の中でも力強く頑張っている人達に勇気づけられた人もいるだろう。私が印象に残っているのは、走り高跳びで、カタールの選手とイタリアの選手が、金メダルを分け合ったシーンだ。審判に優勝決定戦を勧められたが、カタールのムタズエサ・バルシム選手が「私たちに金メダルを2つもらえないか?」と提案し、2人の金メダリストが誕生した。金メダルは1つだけでなくてもよい。分かち合うことの喜びを世界に示した、素晴らしい出来事だったと思う。■「ジェンダー」「性の多様性」が大きなテーマに今回の五輪は、森前会長の女性蔑視発言もあり、ジェンダー意識、「性の多様性」や「性の扱い」も大きなテーマになった。体操競技予選で、ドイツ女子代表チームがビキニカットのレオタードに代わり、足首までの脚全体を覆う「ユニタード」を着用して競技を行ったことが話題になった。これには、スポーツを性の対象とすることに対する抗議の意味があった。性的マイノリティーの選手の活躍にも注目が集まった。ニュージーランドの重量挙げの選手であるローレル・ハバード選手は、トランスジェンダー選手として史上初のオリンピック出場を果たした。さまざまな批判がある中で、自分が自認する性でプレーすることが実現した画期的な出来事だ。■差別的な構造が五輪で表面化今大会に参加したLGBTQの選手は、公表されているだけで史上最多の182人。これは、2016年のリオ大会の56人の3倍にあたる。ただ、日本でのマイノリティーや多様性に対する理解については疑問が残る。「これまで、『スポーツの世界は別だから』とか『日本は違うから』という、なぞのロジックで封じ込められてきた、日本の社会やスポーツ界の差別的な構造が、五輪を機に表面化した」と話すのは、LGBTQの権利擁護団体であるプライドハウス東京の松中権さんだ。松中さんは、組織委員会の人権労働ワーキンググループの委員も務め、さまざまなアドバイスをしてきた。たとえば、ボランティアの着るユニフォームも、トランスジェンダーの人にサンプル段階で着てもらい、助言をもらい変更を加えたそうだ。また、組織委員会のダイバーシティ&インクルージョンのガイドブックを作り、職員の研修も手伝ってきた。組織委員会の内部にこうしたチームがいる一方、「人権や差別の問題は、そのチームだけの担当分野だ」と見なされ、問題意識が組織委員会全体に広がるまでには至らなかったという。「LGBTQの理解を深めてもらうため、本当はメディア向けに勉強会を開きたかったんですが、組織委員会に、それは難しいと言われました。一方、IOCとは直接話すことができ、ガイドブックを渡すこともできました。また、ハバードさんの試合前日には、国際重量挙げ連盟の人がプライドハウスに来てくれ、ガイドブックのURLの入ったポストカードをメディアの皆さんに配ってくれました」と、松中さんは言う。グローバルな組織と日本の組織の意識の差を感じたという。■「LGBTQ法見送り」「同性婚禁止」の国の五輪ブルームバーグ通信は、東京オリンピックが掲げる多様性と調和のビジョンに関連して、「東京オリンピックは、LGBTQの理解促進のための法案を通すことができず、同性婚に反対する勢力が権力の中枢に根付いている国で開催されている」と記事の中で皮肉った。松中さんによると、五輪期間中、プライドハウスには30社以上のグローバルメディアが取材にきたそうだ。彼らは大会の話だけでなく、前国会で与党の反対で提出に至らなかったLGBTQの法案についても、かなり関心を持って聞いてきたという。現在開催されているパラリンピックは、五輪以上に多様性と調和が重視されるべき大会だ。「LGBTQのことも、『自分のまわりにはいない』という誤った認識から、差別、偏見がなくならない構造がある。パラリンピックに関しても、『自分たちの家族や友人の中にも起こりうることなんだ』と感じられるよう、皆さんが意識を向けられればよいと思っています」と松中さんは話す。世界人口の15%に障害があると言われる中、今度はパラリンピックを通じ、日本はどんなメッセージを世界に発信することができるのだろうか。そして、今回の五輪、パラリンピックから、日本人は何を学ぶのだろう。東京大会の終了後、私たちの手元に残るのは、日本社会の変革という大きな宿題だ。———-大門 小百合(だいもん・さゆり)ジャーナリスト、元ジャパンタイムズ執行役員・論説委員上智大学外国語学部卒業後、1991年ジャパンタイムズ入社。政治、経済担当の記者を経て、2006年より報道部長。2013年より執行役員。同10月には同社117年の歴史で女性として初めての編集最高責任者となる。2000年、ニーマン特別研究員として米・ハーバード大学でジャーナリズム、アメリカ政治を研究。2005年、キングファイサル研究所研究員としてサウジアラビアのリヤドに滞在し、現地の女性たちについて取材、研究する。著書に『The Japan Times報道デスク発グローバル社会を生きる女性のための情報力』(ジャパンタイムズ)、国際情勢解説者である田中宇との共著『ハーバード大学で語られる世界戦略』(光文社)など。———-(ジャーナリスト、元ジャパンタイムズ執行役員・論説委員 大門 小百合)
調べてみると、2004年のアテネ夏季大会の時に立候補表明したのは11都市。しかし、2016年のリオデジャネイロ大会では7都市に減り、2020年東京大会では6都市に。2024年パリ大会では、パリ、ハンブルグ、ローマ、ロサンゼルスの5都市が立候補していたが、相次いで撤退。残ったのはパリとロサンゼルスのみだった。結局IOCは、将来の開催地を確保する意味もあり、2024年大会をパリで、その次の2028年大会をロサンゼルスで開催するという異例の同時決定をした。開催地には財政負担が重くのしかかり、国民の賛同を得にくい。よほど財政的に余裕がなければ開催できなくなってきているのではないか。前述のジンバリスト氏は、五輪は「スポーツの祭典」ではなく、巨額公共事業投資のための「建設イベント(construction events)だ」と言う。100年前と違い、通信環境も整っている中、わざわざ世界中の都市をまわる必要はなく、いっそこれからは、一つの都市で開催すればよいのではと提言する。■日本が払う“コスト”(Japan will pay the price.)最後まで開催にこだわった菅義偉首相。感染者数が増大する中、「この首相の賭けが、人気取りに寄与したとは思えない」という主張が、海外メディアには多かった。選手村の「バブル」の中では厳しいコロナ対策が行われていたが、「それを取り囲んでいる巨大な首都の中では、全くそのようなことはなかった」「フェンスの外では、パンデミックが日常であるかのような生活を送っている」と伝えたのは、ロイター通信だ。厳しい対策にもかかわらず、大会終了の8月8日までに、五輪関係者だけでも458人が感染。開催都市である東京全体では、感染者が爆発的に増加し、1日の感染者数が4000人を超えるまでになった。ブルームバーグニュースは、開会式の2日後に発表された内閣支持率が、昨年9月の就任以来最低の34%だったと報じている。海外からの要人はほとんど訪れず、「菅首相は、外交上の評価を上げる機会を失った」という。写真=iStock.com/kanzilyou※写真はイメージです – 写真=iStock.com/kanzilyou■膨れ上がった五輪費用東京開催が決まった時には、費用はパラリンピックと合わせて7340億円と見積もられていたが、昨年12月の時点では1.6兆円まで膨れ上がってしまった。自治体の中でも優等生だったはずの東京都の財布は、コロナによって厳しいものになりつつある。2020年3月には9345億円あった都の財政調整基金は、今年3月には2511億円まで減っている。相次ぐコロナ対策で、さらに取り崩さなくてはならず、今年度末には21億円に激減する見通しだ。チケット収入として見込まれていた900億円のうち9割は、無観客になったため消滅した今、五輪の経費負担がさらに都民にのしかかる。■傷ついたメンタルヘルス(mental health strains)アスリートのメンタルヘルスに、これだけ注目が集まった大会は初めてではないだろうか。海外メディアで大きく報道されたのは、体操女子で金メダルが期待されていたアメリカ代表のシモーネ・バイルズ選手の決勝戦棄権だ。バイルズ選手は、前回のリオデジャネイロ大会で女子団体と個人総合など4つの金メダルを獲得したアメリカのエースだった。バイルズ選手は棄権の理由を説明しながら泣き崩れ、「ストレスが高い状況に置かれるたびに、パニックのような状態になる」「私は心の健康に集中しなければならない。自分の健康と幸福を損なうわけにはいかない」と記者団に語り、「自分自身の頭と戦ってるって最悪」と付け加えた。フィナンシャルタイムズ紙は、7月31日の社説で、「メダル獲得のために各国が莫大な資金を投入し、その見返りを求める。彼女の突然の退場は、こうして高まったアスリートへのプレッシャーについて、議論を促すものとなる」と書いている。同紙によると、英国スポーツ研究所ではストレス対策のため、選手、コーチ、スタッフに、スポーツ精神科医のプログラムを受けてもらったという。これは、人質から解放された人の社会復帰を手助けするカウンセリングで、ロックダウンや五輪などのストレスを軽減するのに、最も効果的とみられるプログラムだったそうだ。選手のメンタルヘルスは、今後スポーツ界が真剣に取り組むべき課題の一つだ。この問題が今回、世界の大きな舞台で取り上げられたのは、歓迎すべきことだったのかもしれない。■メダルを確実に増やす方法(Surefire way to boost your Olympic medal count)「オリンピックという世界最大のスポーツイベントは、開催国にとって経済的な大惨事だ。メダルの数以外は!」と報じたのはブルームバーグ通信だ。今大会の日本の金メダル獲得数は27で、アメリカの39と中国の38に次ぐ。過去の研究から、五輪開催国は多くのメダルを獲得し、自国開催の次の大会でも多くのメダルを獲得していると記事は伝えている。■開催国はメダルラッシュにたとえば1992年のバルセロナ大会で、スペインは、全金メダルの5%を獲得し、世界のランキングでは6位。オーストラリアは、自国開催の前の大会の3.3%から2000年のシドニー大会では5.3%に躍進、そして、次のアテネ大会では5.7%と、さらメダル数を増やした。しかし、その後の北京大会では、4.6%に落ちているとのこと。ブラジルも似たような傾向を示しており、リオ大会の前では全体の1%しか獲得できなかった金メダルをリオでは2.3%に増やし、今回の東京大会では2.1%を獲得した。この法則に当てはめると、日本は次のパリ大会でもかなりのメダルが期待できるというわけだ。しかし、メダル獲得数にばかり注目するのは問題だという声も上がり始めている。日本オリンピック・アカデミーは、東京大会の組織委員会が公式ウェブサイトにチーム別(ほとんどが国別のチーム)のメダル獲得順位表を掲載しているのは、オリンピック憲章違反にもなりかねないと、有志による意見書を組織委員会に提出している。■「国対抗メダル競争」でいいのかオリンピック憲章には、「大会は個人間の競技であり、国家間のものではない」とする記述がある。スポーツによる国際平和を希求するには、国別対抗による過度なナショナリズムの高揚や国家間の対立を避けるべきという考え方が根底にある。五輪では、実は、メダルを一つも取れない国の方が多い。しかし、参加することに意義がある。今回初参加した難民選手団を見て、厳しい情勢の中でも力強く頑張っている人達に勇気づけられた人もいるだろう。私が印象に残っているのは、走り高跳びで、カタールの選手とイタリアの選手が、金メダルを分け合ったシーンだ。審判に優勝決定戦を勧められたが、カタールのムタズエサ・バルシム選手が「私たちに金メダルを2つもらえないか?」と提案し、2人の金メダリストが誕生した。金メダルは1つだけでなくてもよい。分かち合うことの喜びを世界に示した、素晴らしい出来事だったと思う。■「ジェンダー」「性の多様性」が大きなテーマに今回の五輪は、森前会長の女性蔑視発言もあり、ジェンダー意識、「性の多様性」や「性の扱い」も大きなテーマになった。体操競技予選で、ドイツ女子代表チームがビキニカットのレオタードに代わり、足首までの脚全体を覆う「ユニタード」を着用して競技を行ったことが話題になった。これには、スポーツを性の対象とすることに対する抗議の意味があった。性的マイノリティーの選手の活躍にも注目が集まった。ニュージーランドの重量挙げの選手であるローレル・ハバード選手は、トランスジェンダー選手として史上初のオリンピック出場を果たした。さまざまな批判がある中で、自分が自認する性でプレーすることが実現した画期的な出来事だ。■差別的な構造が五輪で表面化今大会に参加したLGBTQの選手は、公表されているだけで史上最多の182人。これは、2016年のリオ大会の56人の3倍にあたる。ただ、日本でのマイノリティーや多様性に対する理解については疑問が残る。「これまで、『スポーツの世界は別だから』とか『日本は違うから』という、なぞのロジックで封じ込められてきた、日本の社会やスポーツ界の差別的な構造が、五輪を機に表面化した」と話すのは、LGBTQの権利擁護団体であるプライドハウス東京の松中権さんだ。松中さんは、組織委員会の人権労働ワーキンググループの委員も務め、さまざまなアドバイスをしてきた。たとえば、ボランティアの着るユニフォームも、トランスジェンダーの人にサンプル段階で着てもらい、助言をもらい変更を加えたそうだ。また、組織委員会のダイバーシティ&インクルージョンのガイドブックを作り、職員の研修も手伝ってきた。組織委員会の内部にこうしたチームがいる一方、「人権や差別の問題は、そのチームだけの担当分野だ」と見なされ、問題意識が組織委員会全体に広がるまでには至らなかったという。「LGBTQの理解を深めてもらうため、本当はメディア向けに勉強会を開きたかったんですが、組織委員会に、それは難しいと言われました。一方、IOCとは直接話すことができ、ガイドブックを渡すこともできました。また、ハバードさんの試合前日には、国際重量挙げ連盟の人がプライドハウスに来てくれ、ガイドブックのURLの入ったポストカードをメディアの皆さんに配ってくれました」と、松中さんは言う。グローバルな組織と日本の組織の意識の差を感じたという。■「LGBTQ法見送り」「同性婚禁止」の国の五輪ブルームバーグ通信は、東京オリンピックが掲げる多様性と調和のビジョンに関連して、「東京オリンピックは、LGBTQの理解促進のための法案を通すことができず、同性婚に反対する勢力が権力の中枢に根付いている国で開催されている」と記事の中で皮肉った。松中さんによると、五輪期間中、プライドハウスには30社以上のグローバルメディアが取材にきたそうだ。彼らは大会の話だけでなく、前国会で与党の反対で提出に至らなかったLGBTQの法案についても、かなり関心を持って聞いてきたという。現在開催されているパラリンピックは、五輪以上に多様性と調和が重視されるべき大会だ。「LGBTQのことも、『自分のまわりにはいない』という誤った認識から、差別、偏見がなくならない構造がある。パラリンピックに関しても、『自分たちの家族や友人の中にも起こりうることなんだ』と感じられるよう、皆さんが意識を向けられればよいと思っています」と松中さんは話す。世界人口の15%に障害があると言われる中、今度はパラリンピックを通じ、日本はどんなメッセージを世界に発信することができるのだろうか。そして、今回の五輪、パラリンピックから、日本人は何を学ぶのだろう。東京大会の終了後、私たちの手元に残るのは、日本社会の変革という大きな宿題だ。———-大門 小百合(だいもん・さゆり)ジャーナリスト、元ジャパンタイムズ執行役員・論説委員上智大学外国語学部卒業後、1991年ジャパンタイムズ入社。政治、経済担当の記者を経て、2006年より報道部長。2013年より執行役員。同10月には同社117年の歴史で女性として初めての編集最高責任者となる。2000年、ニーマン特別研究員として米・ハーバード大学でジャーナリズム、アメリカ政治を研究。2005年、キングファイサル研究所研究員としてサウジアラビアのリヤドに滞在し、現地の女性たちについて取材、研究する。著書に『The Japan Times報道デスク発グローバル社会を生きる女性のための情報力』(ジャパンタイムズ)、国際情勢解説者である田中宇との共著『ハーバード大学で語られる世界戦略』(光文社)など。———-(ジャーナリスト、元ジャパンタイムズ執行役員・論説委員 大門 小百合)
開催地には財政負担が重くのしかかり、国民の賛同を得にくい。よほど財政的に余裕がなければ開催できなくなってきているのではないか。前述のジンバリスト氏は、五輪は「スポーツの祭典」ではなく、巨額公共事業投資のための「建設イベント(construction events)だ」と言う。100年前と違い、通信環境も整っている中、わざわざ世界中の都市をまわる必要はなく、いっそこれからは、一つの都市で開催すればよいのではと提言する。■日本が払う“コスト”(Japan will pay the price.)最後まで開催にこだわった菅義偉首相。感染者数が増大する中、「この首相の賭けが、人気取りに寄与したとは思えない」という主張が、海外メディアには多かった。選手村の「バブル」の中では厳しいコロナ対策が行われていたが、「それを取り囲んでいる巨大な首都の中では、全くそのようなことはなかった」「フェンスの外では、パンデミックが日常であるかのような生活を送っている」と伝えたのは、ロイター通信だ。厳しい対策にもかかわらず、大会終了の8月8日までに、五輪関係者だけでも458人が感染。開催都市である東京全体では、感染者が爆発的に増加し、1日の感染者数が4000人を超えるまでになった。ブルームバーグニュースは、開会式の2日後に発表された内閣支持率が、昨年9月の就任以来最低の34%だったと報じている。海外からの要人はほとんど訪れず、「菅首相は、外交上の評価を上げる機会を失った」という。写真=iStock.com/kanzilyou※写真はイメージです – 写真=iStock.com/kanzilyou■膨れ上がった五輪費用東京開催が決まった時には、費用はパラリンピックと合わせて7340億円と見積もられていたが、昨年12月の時点では1.6兆円まで膨れ上がってしまった。自治体の中でも優等生だったはずの東京都の財布は、コロナによって厳しいものになりつつある。2020年3月には9345億円あった都の財政調整基金は、今年3月には2511億円まで減っている。相次ぐコロナ対策で、さらに取り崩さなくてはならず、今年度末には21億円に激減する見通しだ。チケット収入として見込まれていた900億円のうち9割は、無観客になったため消滅した今、五輪の経費負担がさらに都民にのしかかる。■傷ついたメンタルヘルス(mental health strains)アスリートのメンタルヘルスに、これだけ注目が集まった大会は初めてではないだろうか。海外メディアで大きく報道されたのは、体操女子で金メダルが期待されていたアメリカ代表のシモーネ・バイルズ選手の決勝戦棄権だ。バイルズ選手は、前回のリオデジャネイロ大会で女子団体と個人総合など4つの金メダルを獲得したアメリカのエースだった。バイルズ選手は棄権の理由を説明しながら泣き崩れ、「ストレスが高い状況に置かれるたびに、パニックのような状態になる」「私は心の健康に集中しなければならない。自分の健康と幸福を損なうわけにはいかない」と記者団に語り、「自分自身の頭と戦ってるって最悪」と付け加えた。フィナンシャルタイムズ紙は、7月31日の社説で、「メダル獲得のために各国が莫大な資金を投入し、その見返りを求める。彼女の突然の退場は、こうして高まったアスリートへのプレッシャーについて、議論を促すものとなる」と書いている。同紙によると、英国スポーツ研究所ではストレス対策のため、選手、コーチ、スタッフに、スポーツ精神科医のプログラムを受けてもらったという。これは、人質から解放された人の社会復帰を手助けするカウンセリングで、ロックダウンや五輪などのストレスを軽減するのに、最も効果的とみられるプログラムだったそうだ。選手のメンタルヘルスは、今後スポーツ界が真剣に取り組むべき課題の一つだ。この問題が今回、世界の大きな舞台で取り上げられたのは、歓迎すべきことだったのかもしれない。■メダルを確実に増やす方法(Surefire way to boost your Olympic medal count)「オリンピックという世界最大のスポーツイベントは、開催国にとって経済的な大惨事だ。メダルの数以外は!」と報じたのはブルームバーグ通信だ。今大会の日本の金メダル獲得数は27で、アメリカの39と中国の38に次ぐ。過去の研究から、五輪開催国は多くのメダルを獲得し、自国開催の次の大会でも多くのメダルを獲得していると記事は伝えている。■開催国はメダルラッシュにたとえば1992年のバルセロナ大会で、スペインは、全金メダルの5%を獲得し、世界のランキングでは6位。オーストラリアは、自国開催の前の大会の3.3%から2000年のシドニー大会では5.3%に躍進、そして、次のアテネ大会では5.7%と、さらメダル数を増やした。しかし、その後の北京大会では、4.6%に落ちているとのこと。ブラジルも似たような傾向を示しており、リオ大会の前では全体の1%しか獲得できなかった金メダルをリオでは2.3%に増やし、今回の東京大会では2.1%を獲得した。この法則に当てはめると、日本は次のパリ大会でもかなりのメダルが期待できるというわけだ。しかし、メダル獲得数にばかり注目するのは問題だという声も上がり始めている。日本オリンピック・アカデミーは、東京大会の組織委員会が公式ウェブサイトにチーム別(ほとんどが国別のチーム)のメダル獲得順位表を掲載しているのは、オリンピック憲章違反にもなりかねないと、有志による意見書を組織委員会に提出している。■「国対抗メダル競争」でいいのかオリンピック憲章には、「大会は個人間の競技であり、国家間のものではない」とする記述がある。スポーツによる国際平和を希求するには、国別対抗による過度なナショナリズムの高揚や国家間の対立を避けるべきという考え方が根底にある。五輪では、実は、メダルを一つも取れない国の方が多い。しかし、参加することに意義がある。今回初参加した難民選手団を見て、厳しい情勢の中でも力強く頑張っている人達に勇気づけられた人もいるだろう。私が印象に残っているのは、走り高跳びで、カタールの選手とイタリアの選手が、金メダルを分け合ったシーンだ。審判に優勝決定戦を勧められたが、カタールのムタズエサ・バルシム選手が「私たちに金メダルを2つもらえないか?」と提案し、2人の金メダリストが誕生した。金メダルは1つだけでなくてもよい。分かち合うことの喜びを世界に示した、素晴らしい出来事だったと思う。■「ジェンダー」「性の多様性」が大きなテーマに今回の五輪は、森前会長の女性蔑視発言もあり、ジェンダー意識、「性の多様性」や「性の扱い」も大きなテーマになった。体操競技予選で、ドイツ女子代表チームがビキニカットのレオタードに代わり、足首までの脚全体を覆う「ユニタード」を着用して競技を行ったことが話題になった。これには、スポーツを性の対象とすることに対する抗議の意味があった。性的マイノリティーの選手の活躍にも注目が集まった。ニュージーランドの重量挙げの選手であるローレル・ハバード選手は、トランスジェンダー選手として史上初のオリンピック出場を果たした。さまざまな批判がある中で、自分が自認する性でプレーすることが実現した画期的な出来事だ。■差別的な構造が五輪で表面化今大会に参加したLGBTQの選手は、公表されているだけで史上最多の182人。これは、2016年のリオ大会の56人の3倍にあたる。ただ、日本でのマイノリティーや多様性に対する理解については疑問が残る。「これまで、『スポーツの世界は別だから』とか『日本は違うから』という、なぞのロジックで封じ込められてきた、日本の社会やスポーツ界の差別的な構造が、五輪を機に表面化した」と話すのは、LGBTQの権利擁護団体であるプライドハウス東京の松中権さんだ。松中さんは、組織委員会の人権労働ワーキンググループの委員も務め、さまざまなアドバイスをしてきた。たとえば、ボランティアの着るユニフォームも、トランスジェンダーの人にサンプル段階で着てもらい、助言をもらい変更を加えたそうだ。また、組織委員会のダイバーシティ&インクルージョンのガイドブックを作り、職員の研修も手伝ってきた。組織委員会の内部にこうしたチームがいる一方、「人権や差別の問題は、そのチームだけの担当分野だ」と見なされ、問題意識が組織委員会全体に広がるまでには至らなかったという。「LGBTQの理解を深めてもらうため、本当はメディア向けに勉強会を開きたかったんですが、組織委員会に、それは難しいと言われました。一方、IOCとは直接話すことができ、ガイドブックを渡すこともできました。また、ハバードさんの試合前日には、国際重量挙げ連盟の人がプライドハウスに来てくれ、ガイドブックのURLの入ったポストカードをメディアの皆さんに配ってくれました」と、松中さんは言う。グローバルな組織と日本の組織の意識の差を感じたという。■「LGBTQ法見送り」「同性婚禁止」の国の五輪ブルームバーグ通信は、東京オリンピックが掲げる多様性と調和のビジョンに関連して、「東京オリンピックは、LGBTQの理解促進のための法案を通すことができず、同性婚に反対する勢力が権力の中枢に根付いている国で開催されている」と記事の中で皮肉った。松中さんによると、五輪期間中、プライドハウスには30社以上のグローバルメディアが取材にきたそうだ。彼らは大会の話だけでなく、前国会で与党の反対で提出に至らなかったLGBTQの法案についても、かなり関心を持って聞いてきたという。現在開催されているパラリンピックは、五輪以上に多様性と調和が重視されるべき大会だ。「LGBTQのことも、『自分のまわりにはいない』という誤った認識から、差別、偏見がなくならない構造がある。パラリンピックに関しても、『自分たちの家族や友人の中にも起こりうることなんだ』と感じられるよう、皆さんが意識を向けられればよいと思っています」と松中さんは話す。世界人口の15%に障害があると言われる中、今度はパラリンピックを通じ、日本はどんなメッセージを世界に発信することができるのだろうか。そして、今回の五輪、パラリンピックから、日本人は何を学ぶのだろう。東京大会の終了後、私たちの手元に残るのは、日本社会の変革という大きな宿題だ。———-大門 小百合(だいもん・さゆり)ジャーナリスト、元ジャパンタイムズ執行役員・論説委員上智大学外国語学部卒業後、1991年ジャパンタイムズ入社。政治、経済担当の記者を経て、2006年より報道部長。2013年より執行役員。同10月には同社117年の歴史で女性として初めての編集最高責任者となる。2000年、ニーマン特別研究員として米・ハーバード大学でジャーナリズム、アメリカ政治を研究。2005年、キングファイサル研究所研究員としてサウジアラビアのリヤドに滞在し、現地の女性たちについて取材、研究する。著書に『The Japan Times報道デスク発グローバル社会を生きる女性のための情報力』(ジャパンタイムズ)、国際情勢解説者である田中宇との共著『ハーバード大学で語られる世界戦略』(光文社)など。———-(ジャーナリスト、元ジャパンタイムズ執行役員・論説委員 大門 小百合)
前述のジンバリスト氏は、五輪は「スポーツの祭典」ではなく、巨額公共事業投資のための「建設イベント(construction events)だ」と言う。100年前と違い、通信環境も整っている中、わざわざ世界中の都市をまわる必要はなく、いっそこれからは、一つの都市で開催すればよいのではと提言する。■日本が払う“コスト”(Japan will pay the price.)最後まで開催にこだわった菅義偉首相。感染者数が増大する中、「この首相の賭けが、人気取りに寄与したとは思えない」という主張が、海外メディアには多かった。選手村の「バブル」の中では厳しいコロナ対策が行われていたが、「それを取り囲んでいる巨大な首都の中では、全くそのようなことはなかった」「フェンスの外では、パンデミックが日常であるかのような生活を送っている」と伝えたのは、ロイター通信だ。厳しい対策にもかかわらず、大会終了の8月8日までに、五輪関係者だけでも458人が感染。開催都市である東京全体では、感染者が爆発的に増加し、1日の感染者数が4000人を超えるまでになった。ブルームバーグニュースは、開会式の2日後に発表された内閣支持率が、昨年9月の就任以来最低の34%だったと報じている。海外からの要人はほとんど訪れず、「菅首相は、外交上の評価を上げる機会を失った」という。写真=iStock.com/kanzilyou※写真はイメージです – 写真=iStock.com/kanzilyou■膨れ上がった五輪費用東京開催が決まった時には、費用はパラリンピックと合わせて7340億円と見積もられていたが、昨年12月の時点では1.6兆円まで膨れ上がってしまった。自治体の中でも優等生だったはずの東京都の財布は、コロナによって厳しいものになりつつある。2020年3月には9345億円あった都の財政調整基金は、今年3月には2511億円まで減っている。相次ぐコロナ対策で、さらに取り崩さなくてはならず、今年度末には21億円に激減する見通しだ。チケット収入として見込まれていた900億円のうち9割は、無観客になったため消滅した今、五輪の経費負担がさらに都民にのしかかる。■傷ついたメンタルヘルス(mental health strains)アスリートのメンタルヘルスに、これだけ注目が集まった大会は初めてではないだろうか。海外メディアで大きく報道されたのは、体操女子で金メダルが期待されていたアメリカ代表のシモーネ・バイルズ選手の決勝戦棄権だ。バイルズ選手は、前回のリオデジャネイロ大会で女子団体と個人総合など4つの金メダルを獲得したアメリカのエースだった。バイルズ選手は棄権の理由を説明しながら泣き崩れ、「ストレスが高い状況に置かれるたびに、パニックのような状態になる」「私は心の健康に集中しなければならない。自分の健康と幸福を損なうわけにはいかない」と記者団に語り、「自分自身の頭と戦ってるって最悪」と付け加えた。フィナンシャルタイムズ紙は、7月31日の社説で、「メダル獲得のために各国が莫大な資金を投入し、その見返りを求める。彼女の突然の退場は、こうして高まったアスリートへのプレッシャーについて、議論を促すものとなる」と書いている。同紙によると、英国スポーツ研究所ではストレス対策のため、選手、コーチ、スタッフに、スポーツ精神科医のプログラムを受けてもらったという。これは、人質から解放された人の社会復帰を手助けするカウンセリングで、ロックダウンや五輪などのストレスを軽減するのに、最も効果的とみられるプログラムだったそうだ。選手のメンタルヘルスは、今後スポーツ界が真剣に取り組むべき課題の一つだ。この問題が今回、世界の大きな舞台で取り上げられたのは、歓迎すべきことだったのかもしれない。■メダルを確実に増やす方法(Surefire way to boost your Olympic medal count)「オリンピックという世界最大のスポーツイベントは、開催国にとって経済的な大惨事だ。メダルの数以外は!」と報じたのはブルームバーグ通信だ。今大会の日本の金メダル獲得数は27で、アメリカの39と中国の38に次ぐ。過去の研究から、五輪開催国は多くのメダルを獲得し、自国開催の次の大会でも多くのメダルを獲得していると記事は伝えている。■開催国はメダルラッシュにたとえば1992年のバルセロナ大会で、スペインは、全金メダルの5%を獲得し、世界のランキングでは6位。オーストラリアは、自国開催の前の大会の3.3%から2000年のシドニー大会では5.3%に躍進、そして、次のアテネ大会では5.7%と、さらメダル数を増やした。しかし、その後の北京大会では、4.6%に落ちているとのこと。ブラジルも似たような傾向を示しており、リオ大会の前では全体の1%しか獲得できなかった金メダルをリオでは2.3%に増やし、今回の東京大会では2.1%を獲得した。この法則に当てはめると、日本は次のパリ大会でもかなりのメダルが期待できるというわけだ。しかし、メダル獲得数にばかり注目するのは問題だという声も上がり始めている。日本オリンピック・アカデミーは、東京大会の組織委員会が公式ウェブサイトにチーム別(ほとんどが国別のチーム)のメダル獲得順位表を掲載しているのは、オリンピック憲章違反にもなりかねないと、有志による意見書を組織委員会に提出している。■「国対抗メダル競争」でいいのかオリンピック憲章には、「大会は個人間の競技であり、国家間のものではない」とする記述がある。スポーツによる国際平和を希求するには、国別対抗による過度なナショナリズムの高揚や国家間の対立を避けるべきという考え方が根底にある。五輪では、実は、メダルを一つも取れない国の方が多い。しかし、参加することに意義がある。今回初参加した難民選手団を見て、厳しい情勢の中でも力強く頑張っている人達に勇気づけられた人もいるだろう。私が印象に残っているのは、走り高跳びで、カタールの選手とイタリアの選手が、金メダルを分け合ったシーンだ。審判に優勝決定戦を勧められたが、カタールのムタズエサ・バルシム選手が「私たちに金メダルを2つもらえないか?」と提案し、2人の金メダリストが誕生した。金メダルは1つだけでなくてもよい。分かち合うことの喜びを世界に示した、素晴らしい出来事だったと思う。■「ジェンダー」「性の多様性」が大きなテーマに今回の五輪は、森前会長の女性蔑視発言もあり、ジェンダー意識、「性の多様性」や「性の扱い」も大きなテーマになった。体操競技予選で、ドイツ女子代表チームがビキニカットのレオタードに代わり、足首までの脚全体を覆う「ユニタード」を着用して競技を行ったことが話題になった。これには、スポーツを性の対象とすることに対する抗議の意味があった。性的マイノリティーの選手の活躍にも注目が集まった。ニュージーランドの重量挙げの選手であるローレル・ハバード選手は、トランスジェンダー選手として史上初のオリンピック出場を果たした。さまざまな批判がある中で、自分が自認する性でプレーすることが実現した画期的な出来事だ。■差別的な構造が五輪で表面化今大会に参加したLGBTQの選手は、公表されているだけで史上最多の182人。これは、2016年のリオ大会の56人の3倍にあたる。ただ、日本でのマイノリティーや多様性に対する理解については疑問が残る。「これまで、『スポーツの世界は別だから』とか『日本は違うから』という、なぞのロジックで封じ込められてきた、日本の社会やスポーツ界の差別的な構造が、五輪を機に表面化した」と話すのは、LGBTQの権利擁護団体であるプライドハウス東京の松中権さんだ。松中さんは、組織委員会の人権労働ワーキンググループの委員も務め、さまざまなアドバイスをしてきた。たとえば、ボランティアの着るユニフォームも、トランスジェンダーの人にサンプル段階で着てもらい、助言をもらい変更を加えたそうだ。また、組織委員会のダイバーシティ&インクルージョンのガイドブックを作り、職員の研修も手伝ってきた。組織委員会の内部にこうしたチームがいる一方、「人権や差別の問題は、そのチームだけの担当分野だ」と見なされ、問題意識が組織委員会全体に広がるまでには至らなかったという。「LGBTQの理解を深めてもらうため、本当はメディア向けに勉強会を開きたかったんですが、組織委員会に、それは難しいと言われました。一方、IOCとは直接話すことができ、ガイドブックを渡すこともできました。また、ハバードさんの試合前日には、国際重量挙げ連盟の人がプライドハウスに来てくれ、ガイドブックのURLの入ったポストカードをメディアの皆さんに配ってくれました」と、松中さんは言う。グローバルな組織と日本の組織の意識の差を感じたという。■「LGBTQ法見送り」「同性婚禁止」の国の五輪ブルームバーグ通信は、東京オリンピックが掲げる多様性と調和のビジョンに関連して、「東京オリンピックは、LGBTQの理解促進のための法案を通すことができず、同性婚に反対する勢力が権力の中枢に根付いている国で開催されている」と記事の中で皮肉った。松中さんによると、五輪期間中、プライドハウスには30社以上のグローバルメディアが取材にきたそうだ。彼らは大会の話だけでなく、前国会で与党の反対で提出に至らなかったLGBTQの法案についても、かなり関心を持って聞いてきたという。現在開催されているパラリンピックは、五輪以上に多様性と調和が重視されるべき大会だ。「LGBTQのことも、『自分のまわりにはいない』という誤った認識から、差別、偏見がなくならない構造がある。パラリンピックに関しても、『自分たちの家族や友人の中にも起こりうることなんだ』と感じられるよう、皆さんが意識を向けられればよいと思っています」と松中さんは話す。世界人口の15%に障害があると言われる中、今度はパラリンピックを通じ、日本はどんなメッセージを世界に発信することができるのだろうか。そして、今回の五輪、パラリンピックから、日本人は何を学ぶのだろう。東京大会の終了後、私たちの手元に残るのは、日本社会の変革という大きな宿題だ。———-大門 小百合(だいもん・さゆり)ジャーナリスト、元ジャパンタイムズ執行役員・論説委員上智大学外国語学部卒業後、1991年ジャパンタイムズ入社。政治、経済担当の記者を経て、2006年より報道部長。2013年より執行役員。同10月には同社117年の歴史で女性として初めての編集最高責任者となる。2000年、ニーマン特別研究員として米・ハーバード大学でジャーナリズム、アメリカ政治を研究。2005年、キングファイサル研究所研究員としてサウジアラビアのリヤドに滞在し、現地の女性たちについて取材、研究する。著書に『The Japan Times報道デスク発グローバル社会を生きる女性のための情報力』(ジャパンタイムズ)、国際情勢解説者である田中宇との共著『ハーバード大学で語られる世界戦略』(光文社)など。———-(ジャーナリスト、元ジャパンタイムズ執行役員・論説委員 大門 小百合)
最後まで開催にこだわった菅義偉首相。感染者数が増大する中、「この首相の賭けが、人気取りに寄与したとは思えない」という主張が、海外メディアには多かった。選手村の「バブル」の中では厳しいコロナ対策が行われていたが、「それを取り囲んでいる巨大な首都の中では、全くそのようなことはなかった」「フェンスの外では、パンデミックが日常であるかのような生活を送っている」と伝えたのは、ロイター通信だ。厳しい対策にもかかわらず、大会終了の8月8日までに、五輪関係者だけでも458人が感染。開催都市である東京全体では、感染者が爆発的に増加し、1日の感染者数が4000人を超えるまでになった。ブルームバーグニュースは、開会式の2日後に発表された内閣支持率が、昨年9月の就任以来最低の34%だったと報じている。海外からの要人はほとんど訪れず、「菅首相は、外交上の評価を上げる機会を失った」という。写真=iStock.com/kanzilyou※写真はイメージです – 写真=iStock.com/kanzilyou■膨れ上がった五輪費用東京開催が決まった時には、費用はパラリンピックと合わせて7340億円と見積もられていたが、昨年12月の時点では1.6兆円まで膨れ上がってしまった。自治体の中でも優等生だったはずの東京都の財布は、コロナによって厳しいものになりつつある。2020年3月には9345億円あった都の財政調整基金は、今年3月には2511億円まで減っている。相次ぐコロナ対策で、さらに取り崩さなくてはならず、今年度末には21億円に激減する見通しだ。チケット収入として見込まれていた900億円のうち9割は、無観客になったため消滅した今、五輪の経費負担がさらに都民にのしかかる。■傷ついたメンタルヘルス(mental health strains)アスリートのメンタルヘルスに、これだけ注目が集まった大会は初めてではないだろうか。海外メディアで大きく報道されたのは、体操女子で金メダルが期待されていたアメリカ代表のシモーネ・バイルズ選手の決勝戦棄権だ。バイルズ選手は、前回のリオデジャネイロ大会で女子団体と個人総合など4つの金メダルを獲得したアメリカのエースだった。バイルズ選手は棄権の理由を説明しながら泣き崩れ、「ストレスが高い状況に置かれるたびに、パニックのような状態になる」「私は心の健康に集中しなければならない。自分の健康と幸福を損なうわけにはいかない」と記者団に語り、「自分自身の頭と戦ってるって最悪」と付け加えた。フィナンシャルタイムズ紙は、7月31日の社説で、「メダル獲得のために各国が莫大な資金を投入し、その見返りを求める。彼女の突然の退場は、こうして高まったアスリートへのプレッシャーについて、議論を促すものとなる」と書いている。同紙によると、英国スポーツ研究所ではストレス対策のため、選手、コーチ、スタッフに、スポーツ精神科医のプログラムを受けてもらったという。これは、人質から解放された人の社会復帰を手助けするカウンセリングで、ロックダウンや五輪などのストレスを軽減するのに、最も効果的とみられるプログラムだったそうだ。選手のメンタルヘルスは、今後スポーツ界が真剣に取り組むべき課題の一つだ。この問題が今回、世界の大きな舞台で取り上げられたのは、歓迎すべきことだったのかもしれない。■メダルを確実に増やす方法(Surefire way to boost your Olympic medal count)「オリンピックという世界最大のスポーツイベントは、開催国にとって経済的な大惨事だ。メダルの数以外は!」と報じたのはブルームバーグ通信だ。今大会の日本の金メダル獲得数は27で、アメリカの39と中国の38に次ぐ。過去の研究から、五輪開催国は多くのメダルを獲得し、自国開催の次の大会でも多くのメダルを獲得していると記事は伝えている。■開催国はメダルラッシュにたとえば1992年のバルセロナ大会で、スペインは、全金メダルの5%を獲得し、世界のランキングでは6位。オーストラリアは、自国開催の前の大会の3.3%から2000年のシドニー大会では5.3%に躍進、そして、次のアテネ大会では5.7%と、さらメダル数を増やした。しかし、その後の北京大会では、4.6%に落ちているとのこと。ブラジルも似たような傾向を示しており、リオ大会の前では全体の1%しか獲得できなかった金メダルをリオでは2.3%に増やし、今回の東京大会では2.1%を獲得した。この法則に当てはめると、日本は次のパリ大会でもかなりのメダルが期待できるというわけだ。しかし、メダル獲得数にばかり注目するのは問題だという声も上がり始めている。日本オリンピック・アカデミーは、東京大会の組織委員会が公式ウェブサイトにチーム別(ほとんどが国別のチーム)のメダル獲得順位表を掲載しているのは、オリンピック憲章違反にもなりかねないと、有志による意見書を組織委員会に提出している。■「国対抗メダル競争」でいいのかオリンピック憲章には、「大会は個人間の競技であり、国家間のものではない」とする記述がある。スポーツによる国際平和を希求するには、国別対抗による過度なナショナリズムの高揚や国家間の対立を避けるべきという考え方が根底にある。五輪では、実は、メダルを一つも取れない国の方が多い。しかし、参加することに意義がある。今回初参加した難民選手団を見て、厳しい情勢の中でも力強く頑張っている人達に勇気づけられた人もいるだろう。私が印象に残っているのは、走り高跳びで、カタールの選手とイタリアの選手が、金メダルを分け合ったシーンだ。審判に優勝決定戦を勧められたが、カタールのムタズエサ・バルシム選手が「私たちに金メダルを2つもらえないか?」と提案し、2人の金メダリストが誕生した。金メダルは1つだけでなくてもよい。分かち合うことの喜びを世界に示した、素晴らしい出来事だったと思う。■「ジェンダー」「性の多様性」が大きなテーマに今回の五輪は、森前会長の女性蔑視発言もあり、ジェンダー意識、「性の多様性」や「性の扱い」も大きなテーマになった。体操競技予選で、ドイツ女子代表チームがビキニカットのレオタードに代わり、足首までの脚全体を覆う「ユニタード」を着用して競技を行ったことが話題になった。これには、スポーツを性の対象とすることに対する抗議の意味があった。性的マイノリティーの選手の活躍にも注目が集まった。ニュージーランドの重量挙げの選手であるローレル・ハバード選手は、トランスジェンダー選手として史上初のオリンピック出場を果たした。さまざまな批判がある中で、自分が自認する性でプレーすることが実現した画期的な出来事だ。■差別的な構造が五輪で表面化今大会に参加したLGBTQの選手は、公表されているだけで史上最多の182人。これは、2016年のリオ大会の56人の3倍にあたる。ただ、日本でのマイノリティーや多様性に対する理解については疑問が残る。「これまで、『スポーツの世界は別だから』とか『日本は違うから』という、なぞのロジックで封じ込められてきた、日本の社会やスポーツ界の差別的な構造が、五輪を機に表面化した」と話すのは、LGBTQの権利擁護団体であるプライドハウス東京の松中権さんだ。松中さんは、組織委員会の人権労働ワーキンググループの委員も務め、さまざまなアドバイスをしてきた。たとえば、ボランティアの着るユニフォームも、トランスジェンダーの人にサンプル段階で着てもらい、助言をもらい変更を加えたそうだ。また、組織委員会のダイバーシティ&インクルージョンのガイドブックを作り、職員の研修も手伝ってきた。組織委員会の内部にこうしたチームがいる一方、「人権や差別の問題は、そのチームだけの担当分野だ」と見なされ、問題意識が組織委員会全体に広がるまでには至らなかったという。「LGBTQの理解を深めてもらうため、本当はメディア向けに勉強会を開きたかったんですが、組織委員会に、それは難しいと言われました。一方、IOCとは直接話すことができ、ガイドブックを渡すこともできました。また、ハバードさんの試合前日には、国際重量挙げ連盟の人がプライドハウスに来てくれ、ガイドブックのURLの入ったポストカードをメディアの皆さんに配ってくれました」と、松中さんは言う。グローバルな組織と日本の組織の意識の差を感じたという。■「LGBTQ法見送り」「同性婚禁止」の国の五輪ブルームバーグ通信は、東京オリンピックが掲げる多様性と調和のビジョンに関連して、「東京オリンピックは、LGBTQの理解促進のための法案を通すことができず、同性婚に反対する勢力が権力の中枢に根付いている国で開催されている」と記事の中で皮肉った。松中さんによると、五輪期間中、プライドハウスには30社以上のグローバルメディアが取材にきたそうだ。彼らは大会の話だけでなく、前国会で与党の反対で提出に至らなかったLGBTQの法案についても、かなり関心を持って聞いてきたという。現在開催されているパラリンピックは、五輪以上に多様性と調和が重視されるべき大会だ。「LGBTQのことも、『自分のまわりにはいない』という誤った認識から、差別、偏見がなくならない構造がある。パラリンピックに関しても、『自分たちの家族や友人の中にも起こりうることなんだ』と感じられるよう、皆さんが意識を向けられればよいと思っています」と松中さんは話す。世界人口の15%に障害があると言われる中、今度はパラリンピックを通じ、日本はどんなメッセージを世界に発信することができるのだろうか。そして、今回の五輪、パラリンピックから、日本人は何を学ぶのだろう。東京大会の終了後、私たちの手元に残るのは、日本社会の変革という大きな宿題だ。———-大門 小百合(だいもん・さゆり)ジャーナリスト、元ジャパンタイムズ執行役員・論説委員上智大学外国語学部卒業後、1991年ジャパンタイムズ入社。政治、経済担当の記者を経て、2006年より報道部長。2013年より執行役員。同10月には同社117年の歴史で女性として初めての編集最高責任者となる。2000年、ニーマン特別研究員として米・ハーバード大学でジャーナリズム、アメリカ政治を研究。2005年、キングファイサル研究所研究員としてサウジアラビアのリヤドに滞在し、現地の女性たちについて取材、研究する。著書に『The Japan Times報道デスク発グローバル社会を生きる女性のための情報力』(ジャパンタイムズ)、国際情勢解説者である田中宇との共著『ハーバード大学で語られる世界戦略』(光文社)など。———-(ジャーナリスト、元ジャパンタイムズ執行役員・論説委員 大門 小百合)
選手村の「バブル」の中では厳しいコロナ対策が行われていたが、「それを取り囲んでいる巨大な首都の中では、全くそのようなことはなかった」「フェンスの外では、パンデミックが日常であるかのような生活を送っている」と伝えたのは、ロイター通信だ。厳しい対策にもかかわらず、大会終了の8月8日までに、五輪関係者だけでも458人が感染。開催都市である東京全体では、感染者が爆発的に増加し、1日の感染者数が4000人を超えるまでになった。ブルームバーグニュースは、開会式の2日後に発表された内閣支持率が、昨年9月の就任以来最低の34%だったと報じている。海外からの要人はほとんど訪れず、「菅首相は、外交上の評価を上げる機会を失った」という。写真=iStock.com/kanzilyou※写真はイメージです – 写真=iStock.com/kanzilyou■膨れ上がった五輪費用東京開催が決まった時には、費用はパラリンピックと合わせて7340億円と見積もられていたが、昨年12月の時点では1.6兆円まで膨れ上がってしまった。自治体の中でも優等生だったはずの東京都の財布は、コロナによって厳しいものになりつつある。2020年3月には9345億円あった都の財政調整基金は、今年3月には2511億円まで減っている。相次ぐコロナ対策で、さらに取り崩さなくてはならず、今年度末には21億円に激減する見通しだ。チケット収入として見込まれていた900億円のうち9割は、無観客になったため消滅した今、五輪の経費負担がさらに都民にのしかかる。■傷ついたメンタルヘルス(mental health strains)アスリートのメンタルヘルスに、これだけ注目が集まった大会は初めてではないだろうか。海外メディアで大きく報道されたのは、体操女子で金メダルが期待されていたアメリカ代表のシモーネ・バイルズ選手の決勝戦棄権だ。バイルズ選手は、前回のリオデジャネイロ大会で女子団体と個人総合など4つの金メダルを獲得したアメリカのエースだった。バイルズ選手は棄権の理由を説明しながら泣き崩れ、「ストレスが高い状況に置かれるたびに、パニックのような状態になる」「私は心の健康に集中しなければならない。自分の健康と幸福を損なうわけにはいかない」と記者団に語り、「自分自身の頭と戦ってるって最悪」と付け加えた。フィナンシャルタイムズ紙は、7月31日の社説で、「メダル獲得のために各国が莫大な資金を投入し、その見返りを求める。彼女の突然の退場は、こうして高まったアスリートへのプレッシャーについて、議論を促すものとなる」と書いている。同紙によると、英国スポーツ研究所ではストレス対策のため、選手、コーチ、スタッフに、スポーツ精神科医のプログラムを受けてもらったという。これは、人質から解放された人の社会復帰を手助けするカウンセリングで、ロックダウンや五輪などのストレスを軽減するのに、最も効果的とみられるプログラムだったそうだ。選手のメンタルヘルスは、今後スポーツ界が真剣に取り組むべき課題の一つだ。この問題が今回、世界の大きな舞台で取り上げられたのは、歓迎すべきことだったのかもしれない。■メダルを確実に増やす方法(Surefire way to boost your Olympic medal count)「オリンピックという世界最大のスポーツイベントは、開催国にとって経済的な大惨事だ。メダルの数以外は!」と報じたのはブルームバーグ通信だ。今大会の日本の金メダル獲得数は27で、アメリカの39と中国の38に次ぐ。過去の研究から、五輪開催国は多くのメダルを獲得し、自国開催の次の大会でも多くのメダルを獲得していると記事は伝えている。■開催国はメダルラッシュにたとえば1992年のバルセロナ大会で、スペインは、全金メダルの5%を獲得し、世界のランキングでは6位。オーストラリアは、自国開催の前の大会の3.3%から2000年のシドニー大会では5.3%に躍進、そして、次のアテネ大会では5.7%と、さらメダル数を増やした。しかし、その後の北京大会では、4.6%に落ちているとのこと。ブラジルも似たような傾向を示しており、リオ大会の前では全体の1%しか獲得できなかった金メダルをリオでは2.3%に増やし、今回の東京大会では2.1%を獲得した。この法則に当てはめると、日本は次のパリ大会でもかなりのメダルが期待できるというわけだ。しかし、メダル獲得数にばかり注目するのは問題だという声も上がり始めている。日本オリンピック・アカデミーは、東京大会の組織委員会が公式ウェブサイトにチーム別(ほとんどが国別のチーム)のメダル獲得順位表を掲載しているのは、オリンピック憲章違反にもなりかねないと、有志による意見書を組織委員会に提出している。■「国対抗メダル競争」でいいのかオリンピック憲章には、「大会は個人間の競技であり、国家間のものではない」とする記述がある。スポーツによる国際平和を希求するには、国別対抗による過度なナショナリズムの高揚や国家間の対立を避けるべきという考え方が根底にある。五輪では、実は、メダルを一つも取れない国の方が多い。しかし、参加することに意義がある。今回初参加した難民選手団を見て、厳しい情勢の中でも力強く頑張っている人達に勇気づけられた人もいるだろう。私が印象に残っているのは、走り高跳びで、カタールの選手とイタリアの選手が、金メダルを分け合ったシーンだ。審判に優勝決定戦を勧められたが、カタールのムタズエサ・バルシム選手が「私たちに金メダルを2つもらえないか?」と提案し、2人の金メダリストが誕生した。金メダルは1つだけでなくてもよい。分かち合うことの喜びを世界に示した、素晴らしい出来事だったと思う。■「ジェンダー」「性の多様性」が大きなテーマに今回の五輪は、森前会長の女性蔑視発言もあり、ジェンダー意識、「性の多様性」や「性の扱い」も大きなテーマになった。体操競技予選で、ドイツ女子代表チームがビキニカットのレオタードに代わり、足首までの脚全体を覆う「ユニタード」を着用して競技を行ったことが話題になった。これには、スポーツを性の対象とすることに対する抗議の意味があった。性的マイノリティーの選手の活躍にも注目が集まった。ニュージーランドの重量挙げの選手であるローレル・ハバード選手は、トランスジェンダー選手として史上初のオリンピック出場を果たした。さまざまな批判がある中で、自分が自認する性でプレーすることが実現した画期的な出来事だ。■差別的な構造が五輪で表面化今大会に参加したLGBTQの選手は、公表されているだけで史上最多の182人。これは、2016年のリオ大会の56人の3倍にあたる。ただ、日本でのマイノリティーや多様性に対する理解については疑問が残る。「これまで、『スポーツの世界は別だから』とか『日本は違うから』という、なぞのロジックで封じ込められてきた、日本の社会やスポーツ界の差別的な構造が、五輪を機に表面化した」と話すのは、LGBTQの権利擁護団体であるプライドハウス東京の松中権さんだ。松中さんは、組織委員会の人権労働ワーキンググループの委員も務め、さまざまなアドバイスをしてきた。たとえば、ボランティアの着るユニフォームも、トランスジェンダーの人にサンプル段階で着てもらい、助言をもらい変更を加えたそうだ。また、組織委員会のダイバーシティ&インクルージョンのガイドブックを作り、職員の研修も手伝ってきた。組織委員会の内部にこうしたチームがいる一方、「人権や差別の問題は、そのチームだけの担当分野だ」と見なされ、問題意識が組織委員会全体に広がるまでには至らなかったという。「LGBTQの理解を深めてもらうため、本当はメディア向けに勉強会を開きたかったんですが、組織委員会に、それは難しいと言われました。一方、IOCとは直接話すことができ、ガイドブックを渡すこともできました。また、ハバードさんの試合前日には、国際重量挙げ連盟の人がプライドハウスに来てくれ、ガイドブックのURLの入ったポストカードをメディアの皆さんに配ってくれました」と、松中さんは言う。グローバルな組織と日本の組織の意識の差を感じたという。■「LGBTQ法見送り」「同性婚禁止」の国の五輪ブルームバーグ通信は、東京オリンピックが掲げる多様性と調和のビジョンに関連して、「東京オリンピックは、LGBTQの理解促進のための法案を通すことができず、同性婚に反対する勢力が権力の中枢に根付いている国で開催されている」と記事の中で皮肉った。松中さんによると、五輪期間中、プライドハウスには30社以上のグローバルメディアが取材にきたそうだ。彼らは大会の話だけでなく、前国会で与党の反対で提出に至らなかったLGBTQの法案についても、かなり関心を持って聞いてきたという。現在開催されているパラリンピックは、五輪以上に多様性と調和が重視されるべき大会だ。「LGBTQのことも、『自分のまわりにはいない』という誤った認識から、差別、偏見がなくならない構造がある。パラリンピックに関しても、『自分たちの家族や友人の中にも起こりうることなんだ』と感じられるよう、皆さんが意識を向けられればよいと思っています」と松中さんは話す。世界人口の15%に障害があると言われる中、今度はパラリンピックを通じ、日本はどんなメッセージを世界に発信することができるのだろうか。そして、今回の五輪、パラリンピックから、日本人は何を学ぶのだろう。東京大会の終了後、私たちの手元に残るのは、日本社会の変革という大きな宿題だ。———-大門 小百合(だいもん・さゆり)ジャーナリスト、元ジャパンタイムズ執行役員・論説委員上智大学外国語学部卒業後、1991年ジャパンタイムズ入社。政治、経済担当の記者を経て、2006年より報道部長。2013年より執行役員。同10月には同社117年の歴史で女性として初めての編集最高責任者となる。2000年、ニーマン特別研究員として米・ハーバード大学でジャーナリズム、アメリカ政治を研究。2005年、キングファイサル研究所研究員としてサウジアラビアのリヤドに滞在し、現地の女性たちについて取材、研究する。著書に『The Japan Times報道デスク発グローバル社会を生きる女性のための情報力』(ジャパンタイムズ)、国際情勢解説者である田中宇との共著『ハーバード大学で語られる世界戦略』(光文社)など。———-(ジャーナリスト、元ジャパンタイムズ執行役員・論説委員 大門 小百合)
厳しい対策にもかかわらず、大会終了の8月8日までに、五輪関係者だけでも458人が感染。開催都市である東京全体では、感染者が爆発的に増加し、1日の感染者数が4000人を超えるまでになった。ブルームバーグニュースは、開会式の2日後に発表された内閣支持率が、昨年9月の就任以来最低の34%だったと報じている。海外からの要人はほとんど訪れず、「菅首相は、外交上の評価を上げる機会を失った」という。写真=iStock.com/kanzilyou※写真はイメージです – 写真=iStock.com/kanzilyou■膨れ上がった五輪費用東京開催が決まった時には、費用はパラリンピックと合わせて7340億円と見積もられていたが、昨年12月の時点では1.6兆円まで膨れ上がってしまった。自治体の中でも優等生だったはずの東京都の財布は、コロナによって厳しいものになりつつある。2020年3月には9345億円あった都の財政調整基金は、今年3月には2511億円まで減っている。相次ぐコロナ対策で、さらに取り崩さなくてはならず、今年度末には21億円に激減する見通しだ。チケット収入として見込まれていた900億円のうち9割は、無観客になったため消滅した今、五輪の経費負担がさらに都民にのしかかる。■傷ついたメンタルヘルス(mental health strains)アスリートのメンタルヘルスに、これだけ注目が集まった大会は初めてではないだろうか。海外メディアで大きく報道されたのは、体操女子で金メダルが期待されていたアメリカ代表のシモーネ・バイルズ選手の決勝戦棄権だ。バイルズ選手は、前回のリオデジャネイロ大会で女子団体と個人総合など4つの金メダルを獲得したアメリカのエースだった。バイルズ選手は棄権の理由を説明しながら泣き崩れ、「ストレスが高い状況に置かれるたびに、パニックのような状態になる」「私は心の健康に集中しなければならない。自分の健康と幸福を損なうわけにはいかない」と記者団に語り、「自分自身の頭と戦ってるって最悪」と付け加えた。フィナンシャルタイムズ紙は、7月31日の社説で、「メダル獲得のために各国が莫大な資金を投入し、その見返りを求める。彼女の突然の退場は、こうして高まったアスリートへのプレッシャーについて、議論を促すものとなる」と書いている。同紙によると、英国スポーツ研究所ではストレス対策のため、選手、コーチ、スタッフに、スポーツ精神科医のプログラムを受けてもらったという。これは、人質から解放された人の社会復帰を手助けするカウンセリングで、ロックダウンや五輪などのストレスを軽減するのに、最も効果的とみられるプログラムだったそうだ。選手のメンタルヘルスは、今後スポーツ界が真剣に取り組むべき課題の一つだ。この問題が今回、世界の大きな舞台で取り上げられたのは、歓迎すべきことだったのかもしれない。■メダルを確実に増やす方法(Surefire way to boost your Olympic medal count)「オリンピックという世界最大のスポーツイベントは、開催国にとって経済的な大惨事だ。メダルの数以外は!」と報じたのはブルームバーグ通信だ。今大会の日本の金メダル獲得数は27で、アメリカの39と中国の38に次ぐ。過去の研究から、五輪開催国は多くのメダルを獲得し、自国開催の次の大会でも多くのメダルを獲得していると記事は伝えている。■開催国はメダルラッシュにたとえば1992年のバルセロナ大会で、スペインは、全金メダルの5%を獲得し、世界のランキングでは6位。オーストラリアは、自国開催の前の大会の3.3%から2000年のシドニー大会では5.3%に躍進、そして、次のアテネ大会では5.7%と、さらメダル数を増やした。しかし、その後の北京大会では、4.6%に落ちているとのこと。ブラジルも似たような傾向を示しており、リオ大会の前では全体の1%しか獲得できなかった金メダルをリオでは2.3%に増やし、今回の東京大会では2.1%を獲得した。この法則に当てはめると、日本は次のパリ大会でもかなりのメダルが期待できるというわけだ。しかし、メダル獲得数にばかり注目するのは問題だという声も上がり始めている。日本オリンピック・アカデミーは、東京大会の組織委員会が公式ウェブサイトにチーム別(ほとんどが国別のチーム)のメダル獲得順位表を掲載しているのは、オリンピック憲章違反にもなりかねないと、有志による意見書を組織委員会に提出している。■「国対抗メダル競争」でいいのかオリンピック憲章には、「大会は個人間の競技であり、国家間のものではない」とする記述がある。スポーツによる国際平和を希求するには、国別対抗による過度なナショナリズムの高揚や国家間の対立を避けるべきという考え方が根底にある。五輪では、実は、メダルを一つも取れない国の方が多い。しかし、参加することに意義がある。今回初参加した難民選手団を見て、厳しい情勢の中でも力強く頑張っている人達に勇気づけられた人もいるだろう。私が印象に残っているのは、走り高跳びで、カタールの選手とイタリアの選手が、金メダルを分け合ったシーンだ。審判に優勝決定戦を勧められたが、カタールのムタズエサ・バルシム選手が「私たちに金メダルを2つもらえないか?」と提案し、2人の金メダリストが誕生した。金メダルは1つだけでなくてもよい。分かち合うことの喜びを世界に示した、素晴らしい出来事だったと思う。■「ジェンダー」「性の多様性」が大きなテーマに今回の五輪は、森前会長の女性蔑視発言もあり、ジェンダー意識、「性の多様性」や「性の扱い」も大きなテーマになった。体操競技予選で、ドイツ女子代表チームがビキニカットのレオタードに代わり、足首までの脚全体を覆う「ユニタード」を着用して競技を行ったことが話題になった。これには、スポーツを性の対象とすることに対する抗議の意味があった。性的マイノリティーの選手の活躍にも注目が集まった。ニュージーランドの重量挙げの選手であるローレル・ハバード選手は、トランスジェンダー選手として史上初のオリンピック出場を果たした。さまざまな批判がある中で、自分が自認する性でプレーすることが実現した画期的な出来事だ。■差別的な構造が五輪で表面化今大会に参加したLGBTQの選手は、公表されているだけで史上最多の182人。これは、2016年のリオ大会の56人の3倍にあたる。ただ、日本でのマイノリティーや多様性に対する理解については疑問が残る。「これまで、『スポーツの世界は別だから』とか『日本は違うから』という、なぞのロジックで封じ込められてきた、日本の社会やスポーツ界の差別的な構造が、五輪を機に表面化した」と話すのは、LGBTQの権利擁護団体であるプライドハウス東京の松中権さんだ。松中さんは、組織委員会の人権労働ワーキンググループの委員も務め、さまざまなアドバイスをしてきた。たとえば、ボランティアの着るユニフォームも、トランスジェンダーの人にサンプル段階で着てもらい、助言をもらい変更を加えたそうだ。また、組織委員会のダイバーシティ&インクルージョンのガイドブックを作り、職員の研修も手伝ってきた。組織委員会の内部にこうしたチームがいる一方、「人権や差別の問題は、そのチームだけの担当分野だ」と見なされ、問題意識が組織委員会全体に広がるまでには至らなかったという。「LGBTQの理解を深めてもらうため、本当はメディア向けに勉強会を開きたかったんですが、組織委員会に、それは難しいと言われました。一方、IOCとは直接話すことができ、ガイドブックを渡すこともできました。また、ハバードさんの試合前日には、国際重量挙げ連盟の人がプライドハウスに来てくれ、ガイドブックのURLの入ったポストカードをメディアの皆さんに配ってくれました」と、松中さんは言う。グローバルな組織と日本の組織の意識の差を感じたという。■「LGBTQ法見送り」「同性婚禁止」の国の五輪ブルームバーグ通信は、東京オリンピックが掲げる多様性と調和のビジョンに関連して、「東京オリンピックは、LGBTQの理解促進のための法案を通すことができず、同性婚に反対する勢力が権力の中枢に根付いている国で開催されている」と記事の中で皮肉った。松中さんによると、五輪期間中、プライドハウスには30社以上のグローバルメディアが取材にきたそうだ。彼らは大会の話だけでなく、前国会で与党の反対で提出に至らなかったLGBTQの法案についても、かなり関心を持って聞いてきたという。現在開催されているパラリンピックは、五輪以上に多様性と調和が重視されるべき大会だ。「LGBTQのことも、『自分のまわりにはいない』という誤った認識から、差別、偏見がなくならない構造がある。パラリンピックに関しても、『自分たちの家族や友人の中にも起こりうることなんだ』と感じられるよう、皆さんが意識を向けられればよいと思っています」と松中さんは話す。世界人口の15%に障害があると言われる中、今度はパラリンピックを通じ、日本はどんなメッセージを世界に発信することができるのだろうか。そして、今回の五輪、パラリンピックから、日本人は何を学ぶのだろう。東京大会の終了後、私たちの手元に残るのは、日本社会の変革という大きな宿題だ。———-大門 小百合(だいもん・さゆり)ジャーナリスト、元ジャパンタイムズ執行役員・論説委員上智大学外国語学部卒業後、1991年ジャパンタイムズ入社。政治、経済担当の記者を経て、2006年より報道部長。2013年より執行役員。同10月には同社117年の歴史で女性として初めての編集最高責任者となる。2000年、ニーマン特別研究員として米・ハーバード大学でジャーナリズム、アメリカ政治を研究。2005年、キングファイサル研究所研究員としてサウジアラビアのリヤドに滞在し、現地の女性たちについて取材、研究する。著書に『The Japan Times報道デスク発グローバル社会を生きる女性のための情報力』(ジャパンタイムズ)、国際情勢解説者である田中宇との共著『ハーバード大学で語られる世界戦略』(光文社)など。———-(ジャーナリスト、元ジャパンタイムズ執行役員・論説委員 大門 小百合)
ブルームバーグニュースは、開会式の2日後に発表された内閣支持率が、昨年9月の就任以来最低の34%だったと報じている。海外からの要人はほとんど訪れず、「菅首相は、外交上の評価を上げる機会を失った」という。写真=iStock.com/kanzilyou※写真はイメージです – 写真=iStock.com/kanzilyou■膨れ上がった五輪費用東京開催が決まった時には、費用はパラリンピックと合わせて7340億円と見積もられていたが、昨年12月の時点では1.6兆円まで膨れ上がってしまった。自治体の中でも優等生だったはずの東京都の財布は、コロナによって厳しいものになりつつある。2020年3月には9345億円あった都の財政調整基金は、今年3月には2511億円まで減っている。相次ぐコロナ対策で、さらに取り崩さなくてはならず、今年度末には21億円に激減する見通しだ。チケット収入として見込まれていた900億円のうち9割は、無観客になったため消滅した今、五輪の経費負担がさらに都民にのしかかる。■傷ついたメンタルヘルス(mental health strains)アスリートのメンタルヘルスに、これだけ注目が集まった大会は初めてではないだろうか。海外メディアで大きく報道されたのは、体操女子で金メダルが期待されていたアメリカ代表のシモーネ・バイルズ選手の決勝戦棄権だ。バイルズ選手は、前回のリオデジャネイロ大会で女子団体と個人総合など4つの金メダルを獲得したアメリカのエースだった。バイルズ選手は棄権の理由を説明しながら泣き崩れ、「ストレスが高い状況に置かれるたびに、パニックのような状態になる」「私は心の健康に集中しなければならない。自分の健康と幸福を損なうわけにはいかない」と記者団に語り、「自分自身の頭と戦ってるって最悪」と付け加えた。フィナンシャルタイムズ紙は、7月31日の社説で、「メダル獲得のために各国が莫大な資金を投入し、その見返りを求める。彼女の突然の退場は、こうして高まったアスリートへのプレッシャーについて、議論を促すものとなる」と書いている。同紙によると、英国スポーツ研究所ではストレス対策のため、選手、コーチ、スタッフに、スポーツ精神科医のプログラムを受けてもらったという。これは、人質から解放された人の社会復帰を手助けするカウンセリングで、ロックダウンや五輪などのストレスを軽減するのに、最も効果的とみられるプログラムだったそうだ。選手のメンタルヘルスは、今後スポーツ界が真剣に取り組むべき課題の一つだ。この問題が今回、世界の大きな舞台で取り上げられたのは、歓迎すべきことだったのかもしれない。■メダルを確実に増やす方法(Surefire way to boost your Olympic medal count)「オリンピックという世界最大のスポーツイベントは、開催国にとって経済的な大惨事だ。メダルの数以外は!」と報じたのはブルームバーグ通信だ。今大会の日本の金メダル獲得数は27で、アメリカの39と中国の38に次ぐ。過去の研究から、五輪開催国は多くのメダルを獲得し、自国開催の次の大会でも多くのメダルを獲得していると記事は伝えている。■開催国はメダルラッシュにたとえば1992年のバルセロナ大会で、スペインは、全金メダルの5%を獲得し、世界のランキングでは6位。オーストラリアは、自国開催の前の大会の3.3%から2000年のシドニー大会では5.3%に躍進、そして、次のアテネ大会では5.7%と、さらメダル数を増やした。しかし、その後の北京大会では、4.6%に落ちているとのこと。ブラジルも似たような傾向を示しており、リオ大会の前では全体の1%しか獲得できなかった金メダルをリオでは2.3%に増やし、今回の東京大会では2.1%を獲得した。この法則に当てはめると、日本は次のパリ大会でもかなりのメダルが期待できるというわけだ。しかし、メダル獲得数にばかり注目するのは問題だという声も上がり始めている。日本オリンピック・アカデミーは、東京大会の組織委員会が公式ウェブサイトにチーム別(ほとんどが国別のチーム)のメダル獲得順位表を掲載しているのは、オリンピック憲章違反にもなりかねないと、有志による意見書を組織委員会に提出している。■「国対抗メダル競争」でいいのかオリンピック憲章には、「大会は個人間の競技であり、国家間のものではない」とする記述がある。スポーツによる国際平和を希求するには、国別対抗による過度なナショナリズムの高揚や国家間の対立を避けるべきという考え方が根底にある。五輪では、実は、メダルを一つも取れない国の方が多い。しかし、参加することに意義がある。今回初参加した難民選手団を見て、厳しい情勢の中でも力強く頑張っている人達に勇気づけられた人もいるだろう。私が印象に残っているのは、走り高跳びで、カタールの選手とイタリアの選手が、金メダルを分け合ったシーンだ。審判に優勝決定戦を勧められたが、カタールのムタズエサ・バルシム選手が「私たちに金メダルを2つもらえないか?」と提案し、2人の金メダリストが誕生した。金メダルは1つだけでなくてもよい。分かち合うことの喜びを世界に示した、素晴らしい出来事だったと思う。■「ジェンダー」「性の多様性」が大きなテーマに今回の五輪は、森前会長の女性蔑視発言もあり、ジェンダー意識、「性の多様性」や「性の扱い」も大きなテーマになった。体操競技予選で、ドイツ女子代表チームがビキニカットのレオタードに代わり、足首までの脚全体を覆う「ユニタード」を着用して競技を行ったことが話題になった。これには、スポーツを性の対象とすることに対する抗議の意味があった。性的マイノリティーの選手の活躍にも注目が集まった。ニュージーランドの重量挙げの選手であるローレル・ハバード選手は、トランスジェンダー選手として史上初のオリンピック出場を果たした。さまざまな批判がある中で、自分が自認する性でプレーすることが実現した画期的な出来事だ。■差別的な構造が五輪で表面化今大会に参加したLGBTQの選手は、公表されているだけで史上最多の182人。これは、2016年のリオ大会の56人の3倍にあたる。ただ、日本でのマイノリティーや多様性に対する理解については疑問が残る。「これまで、『スポーツの世界は別だから』とか『日本は違うから』という、なぞのロジックで封じ込められてきた、日本の社会やスポーツ界の差別的な構造が、五輪を機に表面化した」と話すのは、LGBTQの権利擁護団体であるプライドハウス東京の松中権さんだ。松中さんは、組織委員会の人権労働ワーキンググループの委員も務め、さまざまなアドバイスをしてきた。たとえば、ボランティアの着るユニフォームも、トランスジェンダーの人にサンプル段階で着てもらい、助言をもらい変更を加えたそうだ。また、組織委員会のダイバーシティ&インクルージョンのガイドブックを作り、職員の研修も手伝ってきた。組織委員会の内部にこうしたチームがいる一方、「人権や差別の問題は、そのチームだけの担当分野だ」と見なされ、問題意識が組織委員会全体に広がるまでには至らなかったという。「LGBTQの理解を深めてもらうため、本当はメディア向けに勉強会を開きたかったんですが、組織委員会に、それは難しいと言われました。一方、IOCとは直接話すことができ、ガイドブックを渡すこともできました。また、ハバードさんの試合前日には、国際重量挙げ連盟の人がプライドハウスに来てくれ、ガイドブックのURLの入ったポストカードをメディアの皆さんに配ってくれました」と、松中さんは言う。グローバルな組織と日本の組織の意識の差を感じたという。■「LGBTQ法見送り」「同性婚禁止」の国の五輪ブルームバーグ通信は、東京オリンピックが掲げる多様性と調和のビジョンに関連して、「東京オリンピックは、LGBTQの理解促進のための法案を通すことができず、同性婚に反対する勢力が権力の中枢に根付いている国で開催されている」と記事の中で皮肉った。松中さんによると、五輪期間中、プライドハウスには30社以上のグローバルメディアが取材にきたそうだ。彼らは大会の話だけでなく、前国会で与党の反対で提出に至らなかったLGBTQの法案についても、かなり関心を持って聞いてきたという。現在開催されているパラリンピックは、五輪以上に多様性と調和が重視されるべき大会だ。「LGBTQのことも、『自分のまわりにはいない』という誤った認識から、差別、偏見がなくならない構造がある。パラリンピックに関しても、『自分たちの家族や友人の中にも起こりうることなんだ』と感じられるよう、皆さんが意識を向けられればよいと思っています」と松中さんは話す。世界人口の15%に障害があると言われる中、今度はパラリンピックを通じ、日本はどんなメッセージを世界に発信することができるのだろうか。そして、今回の五輪、パラリンピックから、日本人は何を学ぶのだろう。東京大会の終了後、私たちの手元に残るのは、日本社会の変革という大きな宿題だ。———-大門 小百合(だいもん・さゆり)ジャーナリスト、元ジャパンタイムズ執行役員・論説委員上智大学外国語学部卒業後、1991年ジャパンタイムズ入社。政治、経済担当の記者を経て、2006年より報道部長。2013年より執行役員。同10月には同社117年の歴史で女性として初めての編集最高責任者となる。2000年、ニーマン特別研究員として米・ハーバード大学でジャーナリズム、アメリカ政治を研究。2005年、キングファイサル研究所研究員としてサウジアラビアのリヤドに滞在し、現地の女性たちについて取材、研究する。著書に『The Japan Times報道デスク発グローバル社会を生きる女性のための情報力』(ジャパンタイムズ)、国際情勢解説者である田中宇との共著『ハーバード大学で語られる世界戦略』(光文社)など。———-(ジャーナリスト、元ジャパンタイムズ執行役員・論説委員 大門 小百合)
海外からの要人はほとんど訪れず、「菅首相は、外交上の評価を上げる機会を失った」という。写真=iStock.com/kanzilyou※写真はイメージです – 写真=iStock.com/kanzilyou■膨れ上がった五輪費用東京開催が決まった時には、費用はパラリンピックと合わせて7340億円と見積もられていたが、昨年12月の時点では1.6兆円まで膨れ上がってしまった。自治体の中でも優等生だったはずの東京都の財布は、コロナによって厳しいものになりつつある。2020年3月には9345億円あった都の財政調整基金は、今年3月には2511億円まで減っている。相次ぐコロナ対策で、さらに取り崩さなくてはならず、今年度末には21億円に激減する見通しだ。チケット収入として見込まれていた900億円のうち9割は、無観客になったため消滅した今、五輪の経費負担がさらに都民にのしかかる。■傷ついたメンタルヘルス(mental health strains)アスリートのメンタルヘルスに、これだけ注目が集まった大会は初めてではないだろうか。海外メディアで大きく報道されたのは、体操女子で金メダルが期待されていたアメリカ代表のシモーネ・バイルズ選手の決勝戦棄権だ。バイルズ選手は、前回のリオデジャネイロ大会で女子団体と個人総合など4つの金メダルを獲得したアメリカのエースだった。バイルズ選手は棄権の理由を説明しながら泣き崩れ、「ストレスが高い状況に置かれるたびに、パニックのような状態になる」「私は心の健康に集中しなければならない。自分の健康と幸福を損なうわけにはいかない」と記者団に語り、「自分自身の頭と戦ってるって最悪」と付け加えた。フィナンシャルタイムズ紙は、7月31日の社説で、「メダル獲得のために各国が莫大な資金を投入し、その見返りを求める。彼女の突然の退場は、こうして高まったアスリートへのプレッシャーについて、議論を促すものとなる」と書いている。同紙によると、英国スポーツ研究所ではストレス対策のため、選手、コーチ、スタッフに、スポーツ精神科医のプログラムを受けてもらったという。これは、人質から解放された人の社会復帰を手助けするカウンセリングで、ロックダウンや五輪などのストレスを軽減するのに、最も効果的とみられるプログラムだったそうだ。選手のメンタルヘルスは、今後スポーツ界が真剣に取り組むべき課題の一つだ。この問題が今回、世界の大きな舞台で取り上げられたのは、歓迎すべきことだったのかもしれない。■メダルを確実に増やす方法(Surefire way to boost your Olympic medal count)「オリンピックという世界最大のスポーツイベントは、開催国にとって経済的な大惨事だ。メダルの数以外は!」と報じたのはブルームバーグ通信だ。今大会の日本の金メダル獲得数は27で、アメリカの39と中国の38に次ぐ。過去の研究から、五輪開催国は多くのメダルを獲得し、自国開催の次の大会でも多くのメダルを獲得していると記事は伝えている。■開催国はメダルラッシュにたとえば1992年のバルセロナ大会で、スペインは、全金メダルの5%を獲得し、世界のランキングでは6位。オーストラリアは、自国開催の前の大会の3.3%から2000年のシドニー大会では5.3%に躍進、そして、次のアテネ大会では5.7%と、さらメダル数を増やした。しかし、その後の北京大会では、4.6%に落ちているとのこと。ブラジルも似たような傾向を示しており、リオ大会の前では全体の1%しか獲得できなかった金メダルをリオでは2.3%に増やし、今回の東京大会では2.1%を獲得した。この法則に当てはめると、日本は次のパリ大会でもかなりのメダルが期待できるというわけだ。しかし、メダル獲得数にばかり注目するのは問題だという声も上がり始めている。日本オリンピック・アカデミーは、東京大会の組織委員会が公式ウェブサイトにチーム別(ほとんどが国別のチーム)のメダル獲得順位表を掲載しているのは、オリンピック憲章違反にもなりかねないと、有志による意見書を組織委員会に提出している。■「国対抗メダル競争」でいいのかオリンピック憲章には、「大会は個人間の競技であり、国家間のものではない」とする記述がある。スポーツによる国際平和を希求するには、国別対抗による過度なナショナリズムの高揚や国家間の対立を避けるべきという考え方が根底にある。五輪では、実は、メダルを一つも取れない国の方が多い。しかし、参加することに意義がある。今回初参加した難民選手団を見て、厳しい情勢の中でも力強く頑張っている人達に勇気づけられた人もいるだろう。私が印象に残っているのは、走り高跳びで、カタールの選手とイタリアの選手が、金メダルを分け合ったシーンだ。審判に優勝決定戦を勧められたが、カタールのムタズエサ・バルシム選手が「私たちに金メダルを2つもらえないか?」と提案し、2人の金メダリストが誕生した。金メダルは1つだけでなくてもよい。分かち合うことの喜びを世界に示した、素晴らしい出来事だったと思う。■「ジェンダー」「性の多様性」が大きなテーマに今回の五輪は、森前会長の女性蔑視発言もあり、ジェンダー意識、「性の多様性」や「性の扱い」も大きなテーマになった。体操競技予選で、ドイツ女子代表チームがビキニカットのレオタードに代わり、足首までの脚全体を覆う「ユニタード」を着用して競技を行ったことが話題になった。これには、スポーツを性の対象とすることに対する抗議の意味があった。性的マイノリティーの選手の活躍にも注目が集まった。ニュージーランドの重量挙げの選手であるローレル・ハバード選手は、トランスジェンダー選手として史上初のオリンピック出場を果たした。さまざまな批判がある中で、自分が自認する性でプレーすることが実現した画期的な出来事だ。■差別的な構造が五輪で表面化今大会に参加したLGBTQの選手は、公表されているだけで史上最多の182人。これは、2016年のリオ大会の56人の3倍にあたる。ただ、日本でのマイノリティーや多様性に対する理解については疑問が残る。「これまで、『スポーツの世界は別だから』とか『日本は違うから』という、なぞのロジックで封じ込められてきた、日本の社会やスポーツ界の差別的な構造が、五輪を機に表面化した」と話すのは、LGBTQの権利擁護団体であるプライドハウス東京の松中権さんだ。松中さんは、組織委員会の人権労働ワーキンググループの委員も務め、さまざまなアドバイスをしてきた。たとえば、ボランティアの着るユニフォームも、トランスジェンダーの人にサンプル段階で着てもらい、助言をもらい変更を加えたそうだ。また、組織委員会のダイバーシティ&インクルージョンのガイドブックを作り、職員の研修も手伝ってきた。組織委員会の内部にこうしたチームがいる一方、「人権や差別の問題は、そのチームだけの担当分野だ」と見なされ、問題意識が組織委員会全体に広がるまでには至らなかったという。「LGBTQの理解を深めてもらうため、本当はメディア向けに勉強会を開きたかったんですが、組織委員会に、それは難しいと言われました。一方、IOCとは直接話すことができ、ガイドブックを渡すこともできました。また、ハバードさんの試合前日には、国際重量挙げ連盟の人がプライドハウスに来てくれ、ガイドブックのURLの入ったポストカードをメディアの皆さんに配ってくれました」と、松中さんは言う。グローバルな組織と日本の組織の意識の差を感じたという。■「LGBTQ法見送り」「同性婚禁止」の国の五輪ブルームバーグ通信は、東京オリンピックが掲げる多様性と調和のビジョンに関連して、「東京オリンピックは、LGBTQの理解促進のための法案を通すことができず、同性婚に反対する勢力が権力の中枢に根付いている国で開催されている」と記事の中で皮肉った。松中さんによると、五輪期間中、プライドハウスには30社以上のグローバルメディアが取材にきたそうだ。彼らは大会の話だけでなく、前国会で与党の反対で提出に至らなかったLGBTQの法案についても、かなり関心を持って聞いてきたという。現在開催されているパラリンピックは、五輪以上に多様性と調和が重視されるべき大会だ。「LGBTQのことも、『自分のまわりにはいない』という誤った認識から、差別、偏見がなくならない構造がある。パラリンピックに関しても、『自分たちの家族や友人の中にも起こりうることなんだ』と感じられるよう、皆さんが意識を向けられればよいと思っています」と松中さんは話す。世界人口の15%に障害があると言われる中、今度はパラリンピックを通じ、日本はどんなメッセージを世界に発信することができるのだろうか。そして、今回の五輪、パラリンピックから、日本人は何を学ぶのだろう。東京大会の終了後、私たちの手元に残るのは、日本社会の変革という大きな宿題だ。———-大門 小百合(だいもん・さゆり)ジャーナリスト、元ジャパンタイムズ執行役員・論説委員上智大学外国語学部卒業後、1991年ジャパンタイムズ入社。政治、経済担当の記者を経て、2006年より報道部長。2013年より執行役員。同10月には同社117年の歴史で女性として初めての編集最高責任者となる。2000年、ニーマン特別研究員として米・ハーバード大学でジャーナリズム、アメリカ政治を研究。2005年、キングファイサル研究所研究員としてサウジアラビアのリヤドに滞在し、現地の女性たちについて取材、研究する。著書に『The Japan Times報道デスク発グローバル社会を生きる女性のための情報力』(ジャパンタイムズ)、国際情勢解説者である田中宇との共著『ハーバード大学で語られる世界戦略』(光文社)など。———-(ジャーナリスト、元ジャパンタイムズ執行役員・論説委員 大門 小百合)
東京開催が決まった時には、費用はパラリンピックと合わせて7340億円と見積もられていたが、昨年12月の時点では1.6兆円まで膨れ上がってしまった。自治体の中でも優等生だったはずの東京都の財布は、コロナによって厳しいものになりつつある。2020年3月には9345億円あった都の財政調整基金は、今年3月には2511億円まで減っている。相次ぐコロナ対策で、さらに取り崩さなくてはならず、今年度末には21億円に激減する見通しだ。チケット収入として見込まれていた900億円のうち9割は、無観客になったため消滅した今、五輪の経費負担がさらに都民にのしかかる。■傷ついたメンタルヘルス(mental health strains)アスリートのメンタルヘルスに、これだけ注目が集まった大会は初めてではないだろうか。海外メディアで大きく報道されたのは、体操女子で金メダルが期待されていたアメリカ代表のシモーネ・バイルズ選手の決勝戦棄権だ。バイルズ選手は、前回のリオデジャネイロ大会で女子団体と個人総合など4つの金メダルを獲得したアメリカのエースだった。バイルズ選手は棄権の理由を説明しながら泣き崩れ、「ストレスが高い状況に置かれるたびに、パニックのような状態になる」「私は心の健康に集中しなければならない。自分の健康と幸福を損なうわけにはいかない」と記者団に語り、「自分自身の頭と戦ってるって最悪」と付け加えた。フィナンシャルタイムズ紙は、7月31日の社説で、「メダル獲得のために各国が莫大な資金を投入し、その見返りを求める。彼女の突然の退場は、こうして高まったアスリートへのプレッシャーについて、議論を促すものとなる」と書いている。同紙によると、英国スポーツ研究所ではストレス対策のため、選手、コーチ、スタッフに、スポーツ精神科医のプログラムを受けてもらったという。これは、人質から解放された人の社会復帰を手助けするカウンセリングで、ロックダウンや五輪などのストレスを軽減するのに、最も効果的とみられるプログラムだったそうだ。選手のメンタルヘルスは、今後スポーツ界が真剣に取り組むべき課題の一つだ。この問題が今回、世界の大きな舞台で取り上げられたのは、歓迎すべきことだったのかもしれない。■メダルを確実に増やす方法(Surefire way to boost your Olympic medal count)「オリンピックという世界最大のスポーツイベントは、開催国にとって経済的な大惨事だ。メダルの数以外は!」と報じたのはブルームバーグ通信だ。今大会の日本の金メダル獲得数は27で、アメリカの39と中国の38に次ぐ。過去の研究から、五輪開催国は多くのメダルを獲得し、自国開催の次の大会でも多くのメダルを獲得していると記事は伝えている。■開催国はメダルラッシュにたとえば1992年のバルセロナ大会で、スペインは、全金メダルの5%を獲得し、世界のランキングでは6位。オーストラリアは、自国開催の前の大会の3.3%から2000年のシドニー大会では5.3%に躍進、そして、次のアテネ大会では5.7%と、さらメダル数を増やした。しかし、その後の北京大会では、4.6%に落ちているとのこと。ブラジルも似たような傾向を示しており、リオ大会の前では全体の1%しか獲得できなかった金メダルをリオでは2.3%に増やし、今回の東京大会では2.1%を獲得した。この法則に当てはめると、日本は次のパリ大会でもかなりのメダルが期待できるというわけだ。しかし、メダル獲得数にばかり注目するのは問題だという声も上がり始めている。日本オリンピック・アカデミーは、東京大会の組織委員会が公式ウェブサイトにチーム別(ほとんどが国別のチーム)のメダル獲得順位表を掲載しているのは、オリンピック憲章違反にもなりかねないと、有志による意見書を組織委員会に提出している。■「国対抗メダル競争」でいいのかオリンピック憲章には、「大会は個人間の競技であり、国家間のものではない」とする記述がある。スポーツによる国際平和を希求するには、国別対抗による過度なナショナリズムの高揚や国家間の対立を避けるべきという考え方が根底にある。五輪では、実は、メダルを一つも取れない国の方が多い。しかし、参加することに意義がある。今回初参加した難民選手団を見て、厳しい情勢の中でも力強く頑張っている人達に勇気づけられた人もいるだろう。私が印象に残っているのは、走り高跳びで、カタールの選手とイタリアの選手が、金メダルを分け合ったシーンだ。審判に優勝決定戦を勧められたが、カタールのムタズエサ・バルシム選手が「私たちに金メダルを2つもらえないか?」と提案し、2人の金メダリストが誕生した。金メダルは1つだけでなくてもよい。分かち合うことの喜びを世界に示した、素晴らしい出来事だったと思う。■「ジェンダー」「性の多様性」が大きなテーマに今回の五輪は、森前会長の女性蔑視発言もあり、ジェンダー意識、「性の多様性」や「性の扱い」も大きなテーマになった。体操競技予選で、ドイツ女子代表チームがビキニカットのレオタードに代わり、足首までの脚全体を覆う「ユニタード」を着用して競技を行ったことが話題になった。これには、スポーツを性の対象とすることに対する抗議の意味があった。性的マイノリティーの選手の活躍にも注目が集まった。ニュージーランドの重量挙げの選手であるローレル・ハバード選手は、トランスジェンダー選手として史上初のオリンピック出場を果たした。さまざまな批判がある中で、自分が自認する性でプレーすることが実現した画期的な出来事だ。■差別的な構造が五輪で表面化今大会に参加したLGBTQの選手は、公表されているだけで史上最多の182人。これは、2016年のリオ大会の56人の3倍にあたる。ただ、日本でのマイノリティーや多様性に対する理解については疑問が残る。「これまで、『スポーツの世界は別だから』とか『日本は違うから』という、なぞのロジックで封じ込められてきた、日本の社会やスポーツ界の差別的な構造が、五輪を機に表面化した」と話すのは、LGBTQの権利擁護団体であるプライドハウス東京の松中権さんだ。松中さんは、組織委員会の人権労働ワーキンググループの委員も務め、さまざまなアドバイスをしてきた。たとえば、ボランティアの着るユニフォームも、トランスジェンダーの人にサンプル段階で着てもらい、助言をもらい変更を加えたそうだ。また、組織委員会のダイバーシティ&インクルージョンのガイドブックを作り、職員の研修も手伝ってきた。組織委員会の内部にこうしたチームがいる一方、「人権や差別の問題は、そのチームだけの担当分野だ」と見なされ、問題意識が組織委員会全体に広がるまでには至らなかったという。「LGBTQの理解を深めてもらうため、本当はメディア向けに勉強会を開きたかったんですが、組織委員会に、それは難しいと言われました。一方、IOCとは直接話すことができ、ガイドブックを渡すこともできました。また、ハバードさんの試合前日には、国際重量挙げ連盟の人がプライドハウスに来てくれ、ガイドブックのURLの入ったポストカードをメディアの皆さんに配ってくれました」と、松中さんは言う。グローバルな組織と日本の組織の意識の差を感じたという。■「LGBTQ法見送り」「同性婚禁止」の国の五輪ブルームバーグ通信は、東京オリンピックが掲げる多様性と調和のビジョンに関連して、「東京オリンピックは、LGBTQの理解促進のための法案を通すことができず、同性婚に反対する勢力が権力の中枢に根付いている国で開催されている」と記事の中で皮肉った。松中さんによると、五輪期間中、プライドハウスには30社以上のグローバルメディアが取材にきたそうだ。彼らは大会の話だけでなく、前国会で与党の反対で提出に至らなかったLGBTQの法案についても、かなり関心を持って聞いてきたという。現在開催されているパラリンピックは、五輪以上に多様性と調和が重視されるべき大会だ。「LGBTQのことも、『自分のまわりにはいない』という誤った認識から、差別、偏見がなくならない構造がある。パラリンピックに関しても、『自分たちの家族や友人の中にも起こりうることなんだ』と感じられるよう、皆さんが意識を向けられればよいと思っています」と松中さんは話す。世界人口の15%に障害があると言われる中、今度はパラリンピックを通じ、日本はどんなメッセージを世界に発信することができるのだろうか。そして、今回の五輪、パラリンピックから、日本人は何を学ぶのだろう。東京大会の終了後、私たちの手元に残るのは、日本社会の変革という大きな宿題だ。———-大門 小百合(だいもん・さゆり)ジャーナリスト、元ジャパンタイムズ執行役員・論説委員上智大学外国語学部卒業後、1991年ジャパンタイムズ入社。政治、経済担当の記者を経て、2006年より報道部長。2013年より執行役員。同10月には同社117年の歴史で女性として初めての編集最高責任者となる。2000年、ニーマン特別研究員として米・ハーバード大学でジャーナリズム、アメリカ政治を研究。2005年、キングファイサル研究所研究員としてサウジアラビアのリヤドに滞在し、現地の女性たちについて取材、研究する。著書に『The Japan Times報道デスク発グローバル社会を生きる女性のための情報力』(ジャパンタイムズ)、国際情勢解説者である田中宇との共著『ハーバード大学で語られる世界戦略』(光文社)など。———-(ジャーナリスト、元ジャパンタイムズ執行役員・論説委員 大門 小百合)
自治体の中でも優等生だったはずの東京都の財布は、コロナによって厳しいものになりつつある。2020年3月には9345億円あった都の財政調整基金は、今年3月には2511億円まで減っている。相次ぐコロナ対策で、さらに取り崩さなくてはならず、今年度末には21億円に激減する見通しだ。チケット収入として見込まれていた900億円のうち9割は、無観客になったため消滅した今、五輪の経費負担がさらに都民にのしかかる。■傷ついたメンタルヘルス(mental health strains)アスリートのメンタルヘルスに、これだけ注目が集まった大会は初めてではないだろうか。海外メディアで大きく報道されたのは、体操女子で金メダルが期待されていたアメリカ代表のシモーネ・バイルズ選手の決勝戦棄権だ。バイルズ選手は、前回のリオデジャネイロ大会で女子団体と個人総合など4つの金メダルを獲得したアメリカのエースだった。バイルズ選手は棄権の理由を説明しながら泣き崩れ、「ストレスが高い状況に置かれるたびに、パニックのような状態になる」「私は心の健康に集中しなければならない。自分の健康と幸福を損なうわけにはいかない」と記者団に語り、「自分自身の頭と戦ってるって最悪」と付け加えた。フィナンシャルタイムズ紙は、7月31日の社説で、「メダル獲得のために各国が莫大な資金を投入し、その見返りを求める。彼女の突然の退場は、こうして高まったアスリートへのプレッシャーについて、議論を促すものとなる」と書いている。同紙によると、英国スポーツ研究所ではストレス対策のため、選手、コーチ、スタッフに、スポーツ精神科医のプログラムを受けてもらったという。これは、人質から解放された人の社会復帰を手助けするカウンセリングで、ロックダウンや五輪などのストレスを軽減するのに、最も効果的とみられるプログラムだったそうだ。選手のメンタルヘルスは、今後スポーツ界が真剣に取り組むべき課題の一つだ。この問題が今回、世界の大きな舞台で取り上げられたのは、歓迎すべきことだったのかもしれない。■メダルを確実に増やす方法(Surefire way to boost your Olympic medal count)「オリンピックという世界最大のスポーツイベントは、開催国にとって経済的な大惨事だ。メダルの数以外は!」と報じたのはブルームバーグ通信だ。今大会の日本の金メダル獲得数は27で、アメリカの39と中国の38に次ぐ。過去の研究から、五輪開催国は多くのメダルを獲得し、自国開催の次の大会でも多くのメダルを獲得していると記事は伝えている。■開催国はメダルラッシュにたとえば1992年のバルセロナ大会で、スペインは、全金メダルの5%を獲得し、世界のランキングでは6位。オーストラリアは、自国開催の前の大会の3.3%から2000年のシドニー大会では5.3%に躍進、そして、次のアテネ大会では5.7%と、さらメダル数を増やした。しかし、その後の北京大会では、4.6%に落ちているとのこと。ブラジルも似たような傾向を示しており、リオ大会の前では全体の1%しか獲得できなかった金メダルをリオでは2.3%に増やし、今回の東京大会では2.1%を獲得した。この法則に当てはめると、日本は次のパリ大会でもかなりのメダルが期待できるというわけだ。しかし、メダル獲得数にばかり注目するのは問題だという声も上がり始めている。日本オリンピック・アカデミーは、東京大会の組織委員会が公式ウェブサイトにチーム別(ほとんどが国別のチーム)のメダル獲得順位表を掲載しているのは、オリンピック憲章違反にもなりかねないと、有志による意見書を組織委員会に提出している。■「国対抗メダル競争」でいいのかオリンピック憲章には、「大会は個人間の競技であり、国家間のものではない」とする記述がある。スポーツによる国際平和を希求するには、国別対抗による過度なナショナリズムの高揚や国家間の対立を避けるべきという考え方が根底にある。五輪では、実は、メダルを一つも取れない国の方が多い。しかし、参加することに意義がある。今回初参加した難民選手団を見て、厳しい情勢の中でも力強く頑張っている人達に勇気づけられた人もいるだろう。私が印象に残っているのは、走り高跳びで、カタールの選手とイタリアの選手が、金メダルを分け合ったシーンだ。審判に優勝決定戦を勧められたが、カタールのムタズエサ・バルシム選手が「私たちに金メダルを2つもらえないか?」と提案し、2人の金メダリストが誕生した。金メダルは1つだけでなくてもよい。分かち合うことの喜びを世界に示した、素晴らしい出来事だったと思う。■「ジェンダー」「性の多様性」が大きなテーマに今回の五輪は、森前会長の女性蔑視発言もあり、ジェンダー意識、「性の多様性」や「性の扱い」も大きなテーマになった。体操競技予選で、ドイツ女子代表チームがビキニカットのレオタードに代わり、足首までの脚全体を覆う「ユニタード」を着用して競技を行ったことが話題になった。これには、スポーツを性の対象とすることに対する抗議の意味があった。性的マイノリティーの選手の活躍にも注目が集まった。ニュージーランドの重量挙げの選手であるローレル・ハバード選手は、トランスジェンダー選手として史上初のオリンピック出場を果たした。さまざまな批判がある中で、自分が自認する性でプレーすることが実現した画期的な出来事だ。■差別的な構造が五輪で表面化今大会に参加したLGBTQの選手は、公表されているだけで史上最多の182人。これは、2016年のリオ大会の56人の3倍にあたる。ただ、日本でのマイノリティーや多様性に対する理解については疑問が残る。「これまで、『スポーツの世界は別だから』とか『日本は違うから』という、なぞのロジックで封じ込められてきた、日本の社会やスポーツ界の差別的な構造が、五輪を機に表面化した」と話すのは、LGBTQの権利擁護団体であるプライドハウス東京の松中権さんだ。松中さんは、組織委員会の人権労働ワーキンググループの委員も務め、さまざまなアドバイスをしてきた。たとえば、ボランティアの着るユニフォームも、トランスジェンダーの人にサンプル段階で着てもらい、助言をもらい変更を加えたそうだ。また、組織委員会のダイバーシティ&インクルージョンのガイドブックを作り、職員の研修も手伝ってきた。組織委員会の内部にこうしたチームがいる一方、「人権や差別の問題は、そのチームだけの担当分野だ」と見なされ、問題意識が組織委員会全体に広がるまでには至らなかったという。「LGBTQの理解を深めてもらうため、本当はメディア向けに勉強会を開きたかったんですが、組織委員会に、それは難しいと言われました。一方、IOCとは直接話すことができ、ガイドブックを渡すこともできました。また、ハバードさんの試合前日には、国際重量挙げ連盟の人がプライドハウスに来てくれ、ガイドブックのURLの入ったポストカードをメディアの皆さんに配ってくれました」と、松中さんは言う。グローバルな組織と日本の組織の意識の差を感じたという。■「LGBTQ法見送り」「同性婚禁止」の国の五輪ブルームバーグ通信は、東京オリンピックが掲げる多様性と調和のビジョンに関連して、「東京オリンピックは、LGBTQの理解促進のための法案を通すことができず、同性婚に反対する勢力が権力の中枢に根付いている国で開催されている」と記事の中で皮肉った。松中さんによると、五輪期間中、プライドハウスには30社以上のグローバルメディアが取材にきたそうだ。彼らは大会の話だけでなく、前国会で与党の反対で提出に至らなかったLGBTQの法案についても、かなり関心を持って聞いてきたという。現在開催されているパラリンピックは、五輪以上に多様性と調和が重視されるべき大会だ。「LGBTQのことも、『自分のまわりにはいない』という誤った認識から、差別、偏見がなくならない構造がある。パラリンピックに関しても、『自分たちの家族や友人の中にも起こりうることなんだ』と感じられるよう、皆さんが意識を向けられればよいと思っています」と松中さんは話す。世界人口の15%に障害があると言われる中、今度はパラリンピックを通じ、日本はどんなメッセージを世界に発信することができるのだろうか。そして、今回の五輪、パラリンピックから、日本人は何を学ぶのだろう。東京大会の終了後、私たちの手元に残るのは、日本社会の変革という大きな宿題だ。———-大門 小百合(だいもん・さゆり)ジャーナリスト、元ジャパンタイムズ執行役員・論説委員上智大学外国語学部卒業後、1991年ジャパンタイムズ入社。政治、経済担当の記者を経て、2006年より報道部長。2013年より執行役員。同10月には同社117年の歴史で女性として初めての編集最高責任者となる。2000年、ニーマン特別研究員として米・ハーバード大学でジャーナリズム、アメリカ政治を研究。2005年、キングファイサル研究所研究員としてサウジアラビアのリヤドに滞在し、現地の女性たちについて取材、研究する。著書に『The Japan Times報道デスク発グローバル社会を生きる女性のための情報力』(ジャパンタイムズ)、国際情勢解説者である田中宇との共著『ハーバード大学で語られる世界戦略』(光文社)など。———-(ジャーナリスト、元ジャパンタイムズ執行役員・論説委員 大門 小百合)
アスリートのメンタルヘルスに、これだけ注目が集まった大会は初めてではないだろうか。海外メディアで大きく報道されたのは、体操女子で金メダルが期待されていたアメリカ代表のシモーネ・バイルズ選手の決勝戦棄権だ。バイルズ選手は、前回のリオデジャネイロ大会で女子団体と個人総合など4つの金メダルを獲得したアメリカのエースだった。バイルズ選手は棄権の理由を説明しながら泣き崩れ、「ストレスが高い状況に置かれるたびに、パニックのような状態になる」「私は心の健康に集中しなければならない。自分の健康と幸福を損なうわけにはいかない」と記者団に語り、「自分自身の頭と戦ってるって最悪」と付け加えた。フィナンシャルタイムズ紙は、7月31日の社説で、「メダル獲得のために各国が莫大な資金を投入し、その見返りを求める。彼女の突然の退場は、こうして高まったアスリートへのプレッシャーについて、議論を促すものとなる」と書いている。同紙によると、英国スポーツ研究所ではストレス対策のため、選手、コーチ、スタッフに、スポーツ精神科医のプログラムを受けてもらったという。これは、人質から解放された人の社会復帰を手助けするカウンセリングで、ロックダウンや五輪などのストレスを軽減するのに、最も効果的とみられるプログラムだったそうだ。選手のメンタルヘルスは、今後スポーツ界が真剣に取り組むべき課題の一つだ。この問題が今回、世界の大きな舞台で取り上げられたのは、歓迎すべきことだったのかもしれない。■メダルを確実に増やす方法(Surefire way to boost your Olympic medal count)「オリンピックという世界最大のスポーツイベントは、開催国にとって経済的な大惨事だ。メダルの数以外は!」と報じたのはブルームバーグ通信だ。今大会の日本の金メダル獲得数は27で、アメリカの39と中国の38に次ぐ。過去の研究から、五輪開催国は多くのメダルを獲得し、自国開催の次の大会でも多くのメダルを獲得していると記事は伝えている。■開催国はメダルラッシュにたとえば1992年のバルセロナ大会で、スペインは、全金メダルの5%を獲得し、世界のランキングでは6位。オーストラリアは、自国開催の前の大会の3.3%から2000年のシドニー大会では5.3%に躍進、そして、次のアテネ大会では5.7%と、さらメダル数を増やした。しかし、その後の北京大会では、4.6%に落ちているとのこと。ブラジルも似たような傾向を示しており、リオ大会の前では全体の1%しか獲得できなかった金メダルをリオでは2.3%に増やし、今回の東京大会では2.1%を獲得した。この法則に当てはめると、日本は次のパリ大会でもかなりのメダルが期待できるというわけだ。しかし、メダル獲得数にばかり注目するのは問題だという声も上がり始めている。日本オリンピック・アカデミーは、東京大会の組織委員会が公式ウェブサイトにチーム別(ほとんどが国別のチーム)のメダル獲得順位表を掲載しているのは、オリンピック憲章違反にもなりかねないと、有志による意見書を組織委員会に提出している。■「国対抗メダル競争」でいいのかオリンピック憲章には、「大会は個人間の競技であり、国家間のものではない」とする記述がある。スポーツによる国際平和を希求するには、国別対抗による過度なナショナリズムの高揚や国家間の対立を避けるべきという考え方が根底にある。五輪では、実は、メダルを一つも取れない国の方が多い。しかし、参加することに意義がある。今回初参加した難民選手団を見て、厳しい情勢の中でも力強く頑張っている人達に勇気づけられた人もいるだろう。私が印象に残っているのは、走り高跳びで、カタールの選手とイタリアの選手が、金メダルを分け合ったシーンだ。審判に優勝決定戦を勧められたが、カタールのムタズエサ・バルシム選手が「私たちに金メダルを2つもらえないか?」と提案し、2人の金メダリストが誕生した。金メダルは1つだけでなくてもよい。分かち合うことの喜びを世界に示した、素晴らしい出来事だったと思う。■「ジェンダー」「性の多様性」が大きなテーマに今回の五輪は、森前会長の女性蔑視発言もあり、ジェンダー意識、「性の多様性」や「性の扱い」も大きなテーマになった。体操競技予選で、ドイツ女子代表チームがビキニカットのレオタードに代わり、足首までの脚全体を覆う「ユニタード」を着用して競技を行ったことが話題になった。これには、スポーツを性の対象とすることに対する抗議の意味があった。性的マイノリティーの選手の活躍にも注目が集まった。ニュージーランドの重量挙げの選手であるローレル・ハバード選手は、トランスジェンダー選手として史上初のオリンピック出場を果たした。さまざまな批判がある中で、自分が自認する性でプレーすることが実現した画期的な出来事だ。■差別的な構造が五輪で表面化今大会に参加したLGBTQの選手は、公表されているだけで史上最多の182人。これは、2016年のリオ大会の56人の3倍にあたる。ただ、日本でのマイノリティーや多様性に対する理解については疑問が残る。「これまで、『スポーツの世界は別だから』とか『日本は違うから』という、なぞのロジックで封じ込められてきた、日本の社会やスポーツ界の差別的な構造が、五輪を機に表面化した」と話すのは、LGBTQの権利擁護団体であるプライドハウス東京の松中権さんだ。松中さんは、組織委員会の人権労働ワーキンググループの委員も務め、さまざまなアドバイスをしてきた。たとえば、ボランティアの着るユニフォームも、トランスジェンダーの人にサンプル段階で着てもらい、助言をもらい変更を加えたそうだ。また、組織委員会のダイバーシティ&インクルージョンのガイドブックを作り、職員の研修も手伝ってきた。組織委員会の内部にこうしたチームがいる一方、「人権や差別の問題は、そのチームだけの担当分野だ」と見なされ、問題意識が組織委員会全体に広がるまでには至らなかったという。「LGBTQの理解を深めてもらうため、本当はメディア向けに勉強会を開きたかったんですが、組織委員会に、それは難しいと言われました。一方、IOCとは直接話すことができ、ガイドブックを渡すこともできました。また、ハバードさんの試合前日には、国際重量挙げ連盟の人がプライドハウスに来てくれ、ガイドブックのURLの入ったポストカードをメディアの皆さんに配ってくれました」と、松中さんは言う。グローバルな組織と日本の組織の意識の差を感じたという。■「LGBTQ法見送り」「同性婚禁止」の国の五輪ブルームバーグ通信は、東京オリンピックが掲げる多様性と調和のビジョンに関連して、「東京オリンピックは、LGBTQの理解促進のための法案を通すことができず、同性婚に反対する勢力が権力の中枢に根付いている国で開催されている」と記事の中で皮肉った。松中さんによると、五輪期間中、プライドハウスには30社以上のグローバルメディアが取材にきたそうだ。彼らは大会の話だけでなく、前国会で与党の反対で提出に至らなかったLGBTQの法案についても、かなり関心を持って聞いてきたという。現在開催されているパラリンピックは、五輪以上に多様性と調和が重視されるべき大会だ。「LGBTQのことも、『自分のまわりにはいない』という誤った認識から、差別、偏見がなくならない構造がある。パラリンピックに関しても、『自分たちの家族や友人の中にも起こりうることなんだ』と感じられるよう、皆さんが意識を向けられればよいと思っています」と松中さんは話す。世界人口の15%に障害があると言われる中、今度はパラリンピックを通じ、日本はどんなメッセージを世界に発信することができるのだろうか。そして、今回の五輪、パラリンピックから、日本人は何を学ぶのだろう。東京大会の終了後、私たちの手元に残るのは、日本社会の変革という大きな宿題だ。———-大門 小百合(だいもん・さゆり)ジャーナリスト、元ジャパンタイムズ執行役員・論説委員上智大学外国語学部卒業後、1991年ジャパンタイムズ入社。政治、経済担当の記者を経て、2006年より報道部長。2013年より執行役員。同10月には同社117年の歴史で女性として初めての編集最高責任者となる。2000年、ニーマン特別研究員として米・ハーバード大学でジャーナリズム、アメリカ政治を研究。2005年、キングファイサル研究所研究員としてサウジアラビアのリヤドに滞在し、現地の女性たちについて取材、研究する。著書に『The Japan Times報道デスク発グローバル社会を生きる女性のための情報力』(ジャパンタイムズ)、国際情勢解説者である田中宇との共著『ハーバード大学で語られる世界戦略』(光文社)など。———-(ジャーナリスト、元ジャパンタイムズ執行役員・論説委員 大門 小百合)
バイルズ選手は棄権の理由を説明しながら泣き崩れ、「ストレスが高い状況に置かれるたびに、パニックのような状態になる」「私は心の健康に集中しなければならない。自分の健康と幸福を損なうわけにはいかない」と記者団に語り、「自分自身の頭と戦ってるって最悪」と付け加えた。フィナンシャルタイムズ紙は、7月31日の社説で、「メダル獲得のために各国が莫大な資金を投入し、その見返りを求める。彼女の突然の退場は、こうして高まったアスリートへのプレッシャーについて、議論を促すものとなる」と書いている。同紙によると、英国スポーツ研究所ではストレス対策のため、選手、コーチ、スタッフに、スポーツ精神科医のプログラムを受けてもらったという。これは、人質から解放された人の社会復帰を手助けするカウンセリングで、ロックダウンや五輪などのストレスを軽減するのに、最も効果的とみられるプログラムだったそうだ。選手のメンタルヘルスは、今後スポーツ界が真剣に取り組むべき課題の一つだ。この問題が今回、世界の大きな舞台で取り上げられたのは、歓迎すべきことだったのかもしれない。■メダルを確実に増やす方法(Surefire way to boost your Olympic medal count)「オリンピックという世界最大のスポーツイベントは、開催国にとって経済的な大惨事だ。メダルの数以外は!」と報じたのはブルームバーグ通信だ。今大会の日本の金メダル獲得数は27で、アメリカの39と中国の38に次ぐ。過去の研究から、五輪開催国は多くのメダルを獲得し、自国開催の次の大会でも多くのメダルを獲得していると記事は伝えている。■開催国はメダルラッシュにたとえば1992年のバルセロナ大会で、スペインは、全金メダルの5%を獲得し、世界のランキングでは6位。オーストラリアは、自国開催の前の大会の3.3%から2000年のシドニー大会では5.3%に躍進、そして、次のアテネ大会では5.7%と、さらメダル数を増やした。しかし、その後の北京大会では、4.6%に落ちているとのこと。ブラジルも似たような傾向を示しており、リオ大会の前では全体の1%しか獲得できなかった金メダルをリオでは2.3%に増やし、今回の東京大会では2.1%を獲得した。この法則に当てはめると、日本は次のパリ大会でもかなりのメダルが期待できるというわけだ。しかし、メダル獲得数にばかり注目するのは問題だという声も上がり始めている。日本オリンピック・アカデミーは、東京大会の組織委員会が公式ウェブサイトにチーム別(ほとんどが国別のチーム)のメダル獲得順位表を掲載しているのは、オリンピック憲章違反にもなりかねないと、有志による意見書を組織委員会に提出している。■「国対抗メダル競争」でいいのかオリンピック憲章には、「大会は個人間の競技であり、国家間のものではない」とする記述がある。スポーツによる国際平和を希求するには、国別対抗による過度なナショナリズムの高揚や国家間の対立を避けるべきという考え方が根底にある。五輪では、実は、メダルを一つも取れない国の方が多い。しかし、参加することに意義がある。今回初参加した難民選手団を見て、厳しい情勢の中でも力強く頑張っている人達に勇気づけられた人もいるだろう。私が印象に残っているのは、走り高跳びで、カタールの選手とイタリアの選手が、金メダルを分け合ったシーンだ。審判に優勝決定戦を勧められたが、カタールのムタズエサ・バルシム選手が「私たちに金メダルを2つもらえないか?」と提案し、2人の金メダリストが誕生した。金メダルは1つだけでなくてもよい。分かち合うことの喜びを世界に示した、素晴らしい出来事だったと思う。■「ジェンダー」「性の多様性」が大きなテーマに今回の五輪は、森前会長の女性蔑視発言もあり、ジェンダー意識、「性の多様性」や「性の扱い」も大きなテーマになった。体操競技予選で、ドイツ女子代表チームがビキニカットのレオタードに代わり、足首までの脚全体を覆う「ユニタード」を着用して競技を行ったことが話題になった。これには、スポーツを性の対象とすることに対する抗議の意味があった。性的マイノリティーの選手の活躍にも注目が集まった。ニュージーランドの重量挙げの選手であるローレル・ハバード選手は、トランスジェンダー選手として史上初のオリンピック出場を果たした。さまざまな批判がある中で、自分が自認する性でプレーすることが実現した画期的な出来事だ。■差別的な構造が五輪で表面化今大会に参加したLGBTQの選手は、公表されているだけで史上最多の182人。これは、2016年のリオ大会の56人の3倍にあたる。ただ、日本でのマイノリティーや多様性に対する理解については疑問が残る。「これまで、『スポーツの世界は別だから』とか『日本は違うから』という、なぞのロジックで封じ込められてきた、日本の社会やスポーツ界の差別的な構造が、五輪を機に表面化した」と話すのは、LGBTQの権利擁護団体であるプライドハウス東京の松中権さんだ。松中さんは、組織委員会の人権労働ワーキンググループの委員も務め、さまざまなアドバイスをしてきた。たとえば、ボランティアの着るユニフォームも、トランスジェンダーの人にサンプル段階で着てもらい、助言をもらい変更を加えたそうだ。また、組織委員会のダイバーシティ&インクルージョンのガイドブックを作り、職員の研修も手伝ってきた。組織委員会の内部にこうしたチームがいる一方、「人権や差別の問題は、そのチームだけの担当分野だ」と見なされ、問題意識が組織委員会全体に広がるまでには至らなかったという。「LGBTQの理解を深めてもらうため、本当はメディア向けに勉強会を開きたかったんですが、組織委員会に、それは難しいと言われました。一方、IOCとは直接話すことができ、ガイドブックを渡すこともできました。また、ハバードさんの試合前日には、国際重量挙げ連盟の人がプライドハウスに来てくれ、ガイドブックのURLの入ったポストカードをメディアの皆さんに配ってくれました」と、松中さんは言う。グローバルな組織と日本の組織の意識の差を感じたという。■「LGBTQ法見送り」「同性婚禁止」の国の五輪ブルームバーグ通信は、東京オリンピックが掲げる多様性と調和のビジョンに関連して、「東京オリンピックは、LGBTQの理解促進のための法案を通すことができず、同性婚に反対する勢力が権力の中枢に根付いている国で開催されている」と記事の中で皮肉った。松中さんによると、五輪期間中、プライドハウスには30社以上のグローバルメディアが取材にきたそうだ。彼らは大会の話だけでなく、前国会で与党の反対で提出に至らなかったLGBTQの法案についても、かなり関心を持って聞いてきたという。現在開催されているパラリンピックは、五輪以上に多様性と調和が重視されるべき大会だ。「LGBTQのことも、『自分のまわりにはいない』という誤った認識から、差別、偏見がなくならない構造がある。パラリンピックに関しても、『自分たちの家族や友人の中にも起こりうることなんだ』と感じられるよう、皆さんが意識を向けられればよいと思っています」と松中さんは話す。世界人口の15%に障害があると言われる中、今度はパラリンピックを通じ、日本はどんなメッセージを世界に発信することができるのだろうか。そして、今回の五輪、パラリンピックから、日本人は何を学ぶのだろう。東京大会の終了後、私たちの手元に残るのは、日本社会の変革という大きな宿題だ。———-大門 小百合(だいもん・さゆり)ジャーナリスト、元ジャパンタイムズ執行役員・論説委員上智大学外国語学部卒業後、1991年ジャパンタイムズ入社。政治、経済担当の記者を経て、2006年より報道部長。2013年より執行役員。同10月には同社117年の歴史で女性として初めての編集最高責任者となる。2000年、ニーマン特別研究員として米・ハーバード大学でジャーナリズム、アメリカ政治を研究。2005年、キングファイサル研究所研究員としてサウジアラビアのリヤドに滞在し、現地の女性たちについて取材、研究する。著書に『The Japan Times報道デスク発グローバル社会を生きる女性のための情報力』(ジャパンタイムズ)、国際情勢解説者である田中宇との共著『ハーバード大学で語られる世界戦略』(光文社)など。———-(ジャーナリスト、元ジャパンタイムズ執行役員・論説委員 大門 小百合)
フィナンシャルタイムズ紙は、7月31日の社説で、「メダル獲得のために各国が莫大な資金を投入し、その見返りを求める。彼女の突然の退場は、こうして高まったアスリートへのプレッシャーについて、議論を促すものとなる」と書いている。同紙によると、英国スポーツ研究所ではストレス対策のため、選手、コーチ、スタッフに、スポーツ精神科医のプログラムを受けてもらったという。これは、人質から解放された人の社会復帰を手助けするカウンセリングで、ロックダウンや五輪などのストレスを軽減するのに、最も効果的とみられるプログラムだったそうだ。選手のメンタルヘルスは、今後スポーツ界が真剣に取り組むべき課題の一つだ。この問題が今回、世界の大きな舞台で取り上げられたのは、歓迎すべきことだったのかもしれない。■メダルを確実に増やす方法(Surefire way to boost your Olympic medal count)「オリンピックという世界最大のスポーツイベントは、開催国にとって経済的な大惨事だ。メダルの数以外は!」と報じたのはブルームバーグ通信だ。今大会の日本の金メダル獲得数は27で、アメリカの39と中国の38に次ぐ。過去の研究から、五輪開催国は多くのメダルを獲得し、自国開催の次の大会でも多くのメダルを獲得していると記事は伝えている。■開催国はメダルラッシュにたとえば1992年のバルセロナ大会で、スペインは、全金メダルの5%を獲得し、世界のランキングでは6位。オーストラリアは、自国開催の前の大会の3.3%から2000年のシドニー大会では5.3%に躍進、そして、次のアテネ大会では5.7%と、さらメダル数を増やした。しかし、その後の北京大会では、4.6%に落ちているとのこと。ブラジルも似たような傾向を示しており、リオ大会の前では全体の1%しか獲得できなかった金メダルをリオでは2.3%に増やし、今回の東京大会では2.1%を獲得した。この法則に当てはめると、日本は次のパリ大会でもかなりのメダルが期待できるというわけだ。しかし、メダル獲得数にばかり注目するのは問題だという声も上がり始めている。日本オリンピック・アカデミーは、東京大会の組織委員会が公式ウェブサイトにチーム別(ほとんどが国別のチーム)のメダル獲得順位表を掲載しているのは、オリンピック憲章違反にもなりかねないと、有志による意見書を組織委員会に提出している。■「国対抗メダル競争」でいいのかオリンピック憲章には、「大会は個人間の競技であり、国家間のものではない」とする記述がある。スポーツによる国際平和を希求するには、国別対抗による過度なナショナリズムの高揚や国家間の対立を避けるべきという考え方が根底にある。五輪では、実は、メダルを一つも取れない国の方が多い。しかし、参加することに意義がある。今回初参加した難民選手団を見て、厳しい情勢の中でも力強く頑張っている人達に勇気づけられた人もいるだろう。私が印象に残っているのは、走り高跳びで、カタールの選手とイタリアの選手が、金メダルを分け合ったシーンだ。審判に優勝決定戦を勧められたが、カタールのムタズエサ・バルシム選手が「私たちに金メダルを2つもらえないか?」と提案し、2人の金メダリストが誕生した。金メダルは1つだけでなくてもよい。分かち合うことの喜びを世界に示した、素晴らしい出来事だったと思う。■「ジェンダー」「性の多様性」が大きなテーマに今回の五輪は、森前会長の女性蔑視発言もあり、ジェンダー意識、「性の多様性」や「性の扱い」も大きなテーマになった。体操競技予選で、ドイツ女子代表チームがビキニカットのレオタードに代わり、足首までの脚全体を覆う「ユニタード」を着用して競技を行ったことが話題になった。これには、スポーツを性の対象とすることに対する抗議の意味があった。性的マイノリティーの選手の活躍にも注目が集まった。ニュージーランドの重量挙げの選手であるローレル・ハバード選手は、トランスジェンダー選手として史上初のオリンピック出場を果たした。さまざまな批判がある中で、自分が自認する性でプレーすることが実現した画期的な出来事だ。■差別的な構造が五輪で表面化今大会に参加したLGBTQの選手は、公表されているだけで史上最多の182人。これは、2016年のリオ大会の56人の3倍にあたる。ただ、日本でのマイノリティーや多様性に対する理解については疑問が残る。「これまで、『スポーツの世界は別だから』とか『日本は違うから』という、なぞのロジックで封じ込められてきた、日本の社会やスポーツ界の差別的な構造が、五輪を機に表面化した」と話すのは、LGBTQの権利擁護団体であるプライドハウス東京の松中権さんだ。松中さんは、組織委員会の人権労働ワーキンググループの委員も務め、さまざまなアドバイスをしてきた。たとえば、ボランティアの着るユニフォームも、トランスジェンダーの人にサンプル段階で着てもらい、助言をもらい変更を加えたそうだ。また、組織委員会のダイバーシティ&インクルージョンのガイドブックを作り、職員の研修も手伝ってきた。組織委員会の内部にこうしたチームがいる一方、「人権や差別の問題は、そのチームだけの担当分野だ」と見なされ、問題意識が組織委員会全体に広がるまでには至らなかったという。「LGBTQの理解を深めてもらうため、本当はメディア向けに勉強会を開きたかったんですが、組織委員会に、それは難しいと言われました。一方、IOCとは直接話すことができ、ガイドブックを渡すこともできました。また、ハバードさんの試合前日には、国際重量挙げ連盟の人がプライドハウスに来てくれ、ガイドブックのURLの入ったポストカードをメディアの皆さんに配ってくれました」と、松中さんは言う。グローバルな組織と日本の組織の意識の差を感じたという。■「LGBTQ法見送り」「同性婚禁止」の国の五輪ブルームバーグ通信は、東京オリンピックが掲げる多様性と調和のビジョンに関連して、「東京オリンピックは、LGBTQの理解促進のための法案を通すことができず、同性婚に反対する勢力が権力の中枢に根付いている国で開催されている」と記事の中で皮肉った。松中さんによると、五輪期間中、プライドハウスには30社以上のグローバルメディアが取材にきたそうだ。彼らは大会の話だけでなく、前国会で与党の反対で提出に至らなかったLGBTQの法案についても、かなり関心を持って聞いてきたという。現在開催されているパラリンピックは、五輪以上に多様性と調和が重視されるべき大会だ。「LGBTQのことも、『自分のまわりにはいない』という誤った認識から、差別、偏見がなくならない構造がある。パラリンピックに関しても、『自分たちの家族や友人の中にも起こりうることなんだ』と感じられるよう、皆さんが意識を向けられればよいと思っています」と松中さんは話す。世界人口の15%に障害があると言われる中、今度はパラリンピックを通じ、日本はどんなメッセージを世界に発信することができるのだろうか。そして、今回の五輪、パラリンピックから、日本人は何を学ぶのだろう。東京大会の終了後、私たちの手元に残るのは、日本社会の変革という大きな宿題だ。———-大門 小百合(だいもん・さゆり)ジャーナリスト、元ジャパンタイムズ執行役員・論説委員上智大学外国語学部卒業後、1991年ジャパンタイムズ入社。政治、経済担当の記者を経て、2006年より報道部長。2013年より執行役員。同10月には同社117年の歴史で女性として初めての編集最高責任者となる。2000年、ニーマン特別研究員として米・ハーバード大学でジャーナリズム、アメリカ政治を研究。2005年、キングファイサル研究所研究員としてサウジアラビアのリヤドに滞在し、現地の女性たちについて取材、研究する。著書に『The Japan Times報道デスク発グローバル社会を生きる女性のための情報力』(ジャパンタイムズ)、国際情勢解説者である田中宇との共著『ハーバード大学で語られる世界戦略』(光文社)など。———-(ジャーナリスト、元ジャパンタイムズ執行役員・論説委員 大門 小百合)
同紙によると、英国スポーツ研究所ではストレス対策のため、選手、コーチ、スタッフに、スポーツ精神科医のプログラムを受けてもらったという。これは、人質から解放された人の社会復帰を手助けするカウンセリングで、ロックダウンや五輪などのストレスを軽減するのに、最も効果的とみられるプログラムだったそうだ。選手のメンタルヘルスは、今後スポーツ界が真剣に取り組むべき課題の一つだ。この問題が今回、世界の大きな舞台で取り上げられたのは、歓迎すべきことだったのかもしれない。■メダルを確実に増やす方法(Surefire way to boost your Olympic medal count)「オリンピックという世界最大のスポーツイベントは、開催国にとって経済的な大惨事だ。メダルの数以外は!」と報じたのはブルームバーグ通信だ。今大会の日本の金メダル獲得数は27で、アメリカの39と中国の38に次ぐ。過去の研究から、五輪開催国は多くのメダルを獲得し、自国開催の次の大会でも多くのメダルを獲得していると記事は伝えている。■開催国はメダルラッシュにたとえば1992年のバルセロナ大会で、スペインは、全金メダルの5%を獲得し、世界のランキングでは6位。オーストラリアは、自国開催の前の大会の3.3%から2000年のシドニー大会では5.3%に躍進、そして、次のアテネ大会では5.7%と、さらメダル数を増やした。しかし、その後の北京大会では、4.6%に落ちているとのこと。ブラジルも似たような傾向を示しており、リオ大会の前では全体の1%しか獲得できなかった金メダルをリオでは2.3%に増やし、今回の東京大会では2.1%を獲得した。この法則に当てはめると、日本は次のパリ大会でもかなりのメダルが期待できるというわけだ。しかし、メダル獲得数にばかり注目するのは問題だという声も上がり始めている。日本オリンピック・アカデミーは、東京大会の組織委員会が公式ウェブサイトにチーム別(ほとんどが国別のチーム)のメダル獲得順位表を掲載しているのは、オリンピック憲章違反にもなりかねないと、有志による意見書を組織委員会に提出している。■「国対抗メダル競争」でいいのかオリンピック憲章には、「大会は個人間の競技であり、国家間のものではない」とする記述がある。スポーツによる国際平和を希求するには、国別対抗による過度なナショナリズムの高揚や国家間の対立を避けるべきという考え方が根底にある。五輪では、実は、メダルを一つも取れない国の方が多い。しかし、参加することに意義がある。今回初参加した難民選手団を見て、厳しい情勢の中でも力強く頑張っている人達に勇気づけられた人もいるだろう。私が印象に残っているのは、走り高跳びで、カタールの選手とイタリアの選手が、金メダルを分け合ったシーンだ。審判に優勝決定戦を勧められたが、カタールのムタズエサ・バルシム選手が「私たちに金メダルを2つもらえないか?」と提案し、2人の金メダリストが誕生した。金メダルは1つだけでなくてもよい。分かち合うことの喜びを世界に示した、素晴らしい出来事だったと思う。■「ジェンダー」「性の多様性」が大きなテーマに今回の五輪は、森前会長の女性蔑視発言もあり、ジェンダー意識、「性の多様性」や「性の扱い」も大きなテーマになった。体操競技予選で、ドイツ女子代表チームがビキニカットのレオタードに代わり、足首までの脚全体を覆う「ユニタード」を着用して競技を行ったことが話題になった。これには、スポーツを性の対象とすることに対する抗議の意味があった。性的マイノリティーの選手の活躍にも注目が集まった。ニュージーランドの重量挙げの選手であるローレル・ハバード選手は、トランスジェンダー選手として史上初のオリンピック出場を果たした。さまざまな批判がある中で、自分が自認する性でプレーすることが実現した画期的な出来事だ。■差別的な構造が五輪で表面化今大会に参加したLGBTQの選手は、公表されているだけで史上最多の182人。これは、2016年のリオ大会の56人の3倍にあたる。ただ、日本でのマイノリティーや多様性に対する理解については疑問が残る。「これまで、『スポーツの世界は別だから』とか『日本は違うから』という、なぞのロジックで封じ込められてきた、日本の社会やスポーツ界の差別的な構造が、五輪を機に表面化した」と話すのは、LGBTQの権利擁護団体であるプライドハウス東京の松中権さんだ。松中さんは、組織委員会の人権労働ワーキンググループの委員も務め、さまざまなアドバイスをしてきた。たとえば、ボランティアの着るユニフォームも、トランスジェンダーの人にサンプル段階で着てもらい、助言をもらい変更を加えたそうだ。また、組織委員会のダイバーシティ&インクルージョンのガイドブックを作り、職員の研修も手伝ってきた。組織委員会の内部にこうしたチームがいる一方、「人権や差別の問題は、そのチームだけの担当分野だ」と見なされ、問題意識が組織委員会全体に広がるまでには至らなかったという。「LGBTQの理解を深めてもらうため、本当はメディア向けに勉強会を開きたかったんですが、組織委員会に、それは難しいと言われました。一方、IOCとは直接話すことができ、ガイドブックを渡すこともできました。また、ハバードさんの試合前日には、国際重量挙げ連盟の人がプライドハウスに来てくれ、ガイドブックのURLの入ったポストカードをメディアの皆さんに配ってくれました」と、松中さんは言う。グローバルな組織と日本の組織の意識の差を感じたという。■「LGBTQ法見送り」「同性婚禁止」の国の五輪ブルームバーグ通信は、東京オリンピックが掲げる多様性と調和のビジョンに関連して、「東京オリンピックは、LGBTQの理解促進のための法案を通すことができず、同性婚に反対する勢力が権力の中枢に根付いている国で開催されている」と記事の中で皮肉った。松中さんによると、五輪期間中、プライドハウスには30社以上のグローバルメディアが取材にきたそうだ。彼らは大会の話だけでなく、前国会で与党の反対で提出に至らなかったLGBTQの法案についても、かなり関心を持って聞いてきたという。現在開催されているパラリンピックは、五輪以上に多様性と調和が重視されるべき大会だ。「LGBTQのことも、『自分のまわりにはいない』という誤った認識から、差別、偏見がなくならない構造がある。パラリンピックに関しても、『自分たちの家族や友人の中にも起こりうることなんだ』と感じられるよう、皆さんが意識を向けられればよいと思っています」と松中さんは話す。世界人口の15%に障害があると言われる中、今度はパラリンピックを通じ、日本はどんなメッセージを世界に発信することができるのだろうか。そして、今回の五輪、パラリンピックから、日本人は何を学ぶのだろう。東京大会の終了後、私たちの手元に残るのは、日本社会の変革という大きな宿題だ。———-大門 小百合(だいもん・さゆり)ジャーナリスト、元ジャパンタイムズ執行役員・論説委員上智大学外国語学部卒業後、1991年ジャパンタイムズ入社。政治、経済担当の記者を経て、2006年より報道部長。2013年より執行役員。同10月には同社117年の歴史で女性として初めての編集最高責任者となる。2000年、ニーマン特別研究員として米・ハーバード大学でジャーナリズム、アメリカ政治を研究。2005年、キングファイサル研究所研究員としてサウジアラビアのリヤドに滞在し、現地の女性たちについて取材、研究する。著書に『The Japan Times報道デスク発グローバル社会を生きる女性のための情報力』(ジャパンタイムズ)、国際情勢解説者である田中宇との共著『ハーバード大学で語られる世界戦略』(光文社)など。———-(ジャーナリスト、元ジャパンタイムズ執行役員・論説委員 大門 小百合)
選手のメンタルヘルスは、今後スポーツ界が真剣に取り組むべき課題の一つだ。この問題が今回、世界の大きな舞台で取り上げられたのは、歓迎すべきことだったのかもしれない。■メダルを確実に増やす方法(Surefire way to boost your Olympic medal count)「オリンピックという世界最大のスポーツイベントは、開催国にとって経済的な大惨事だ。メダルの数以外は!」と報じたのはブルームバーグ通信だ。今大会の日本の金メダル獲得数は27で、アメリカの39と中国の38に次ぐ。過去の研究から、五輪開催国は多くのメダルを獲得し、自国開催の次の大会でも多くのメダルを獲得していると記事は伝えている。■開催国はメダルラッシュにたとえば1992年のバルセロナ大会で、スペインは、全金メダルの5%を獲得し、世界のランキングでは6位。オーストラリアは、自国開催の前の大会の3.3%から2000年のシドニー大会では5.3%に躍進、そして、次のアテネ大会では5.7%と、さらメダル数を増やした。しかし、その後の北京大会では、4.6%に落ちているとのこと。ブラジルも似たような傾向を示しており、リオ大会の前では全体の1%しか獲得できなかった金メダルをリオでは2.3%に増やし、今回の東京大会では2.1%を獲得した。この法則に当てはめると、日本は次のパリ大会でもかなりのメダルが期待できるというわけだ。しかし、メダル獲得数にばかり注目するのは問題だという声も上がり始めている。日本オリンピック・アカデミーは、東京大会の組織委員会が公式ウェブサイトにチーム別(ほとんどが国別のチーム)のメダル獲得順位表を掲載しているのは、オリンピック憲章違反にもなりかねないと、有志による意見書を組織委員会に提出している。■「国対抗メダル競争」でいいのかオリンピック憲章には、「大会は個人間の競技であり、国家間のものではない」とする記述がある。スポーツによる国際平和を希求するには、国別対抗による過度なナショナリズムの高揚や国家間の対立を避けるべきという考え方が根底にある。五輪では、実は、メダルを一つも取れない国の方が多い。しかし、参加することに意義がある。今回初参加した難民選手団を見て、厳しい情勢の中でも力強く頑張っている人達に勇気づけられた人もいるだろう。私が印象に残っているのは、走り高跳びで、カタールの選手とイタリアの選手が、金メダルを分け合ったシーンだ。審判に優勝決定戦を勧められたが、カタールのムタズエサ・バルシム選手が「私たちに金メダルを2つもらえないか?」と提案し、2人の金メダリストが誕生した。金メダルは1つだけでなくてもよい。分かち合うことの喜びを世界に示した、素晴らしい出来事だったと思う。■「ジェンダー」「性の多様性」が大きなテーマに今回の五輪は、森前会長の女性蔑視発言もあり、ジェンダー意識、「性の多様性」や「性の扱い」も大きなテーマになった。体操競技予選で、ドイツ女子代表チームがビキニカットのレオタードに代わり、足首までの脚全体を覆う「ユニタード」を着用して競技を行ったことが話題になった。これには、スポーツを性の対象とすることに対する抗議の意味があった。性的マイノリティーの選手の活躍にも注目が集まった。ニュージーランドの重量挙げの選手であるローレル・ハバード選手は、トランスジェンダー選手として史上初のオリンピック出場を果たした。さまざまな批判がある中で、自分が自認する性でプレーすることが実現した画期的な出来事だ。■差別的な構造が五輪で表面化今大会に参加したLGBTQの選手は、公表されているだけで史上最多の182人。これは、2016年のリオ大会の56人の3倍にあたる。ただ、日本でのマイノリティーや多様性に対する理解については疑問が残る。「これまで、『スポーツの世界は別だから』とか『日本は違うから』という、なぞのロジックで封じ込められてきた、日本の社会やスポーツ界の差別的な構造が、五輪を機に表面化した」と話すのは、LGBTQの権利擁護団体であるプライドハウス東京の松中権さんだ。松中さんは、組織委員会の人権労働ワーキンググループの委員も務め、さまざまなアドバイスをしてきた。たとえば、ボランティアの着るユニフォームも、トランスジェンダーの人にサンプル段階で着てもらい、助言をもらい変更を加えたそうだ。また、組織委員会のダイバーシティ&インクルージョンのガイドブックを作り、職員の研修も手伝ってきた。組織委員会の内部にこうしたチームがいる一方、「人権や差別の問題は、そのチームだけの担当分野だ」と見なされ、問題意識が組織委員会全体に広がるまでには至らなかったという。「LGBTQの理解を深めてもらうため、本当はメディア向けに勉強会を開きたかったんですが、組織委員会に、それは難しいと言われました。一方、IOCとは直接話すことができ、ガイドブックを渡すこともできました。また、ハバードさんの試合前日には、国際重量挙げ連盟の人がプライドハウスに来てくれ、ガイドブックのURLの入ったポストカードをメディアの皆さんに配ってくれました」と、松中さんは言う。グローバルな組織と日本の組織の意識の差を感じたという。■「LGBTQ法見送り」「同性婚禁止」の国の五輪ブルームバーグ通信は、東京オリンピックが掲げる多様性と調和のビジョンに関連して、「東京オリンピックは、LGBTQの理解促進のための法案を通すことができず、同性婚に反対する勢力が権力の中枢に根付いている国で開催されている」と記事の中で皮肉った。松中さんによると、五輪期間中、プライドハウスには30社以上のグローバルメディアが取材にきたそうだ。彼らは大会の話だけでなく、前国会で与党の反対で提出に至らなかったLGBTQの法案についても、かなり関心を持って聞いてきたという。現在開催されているパラリンピックは、五輪以上に多様性と調和が重視されるべき大会だ。「LGBTQのことも、『自分のまわりにはいない』という誤った認識から、差別、偏見がなくならない構造がある。パラリンピックに関しても、『自分たちの家族や友人の中にも起こりうることなんだ』と感じられるよう、皆さんが意識を向けられればよいと思っています」と松中さんは話す。世界人口の15%に障害があると言われる中、今度はパラリンピックを通じ、日本はどんなメッセージを世界に発信することができるのだろうか。そして、今回の五輪、パラリンピックから、日本人は何を学ぶのだろう。東京大会の終了後、私たちの手元に残るのは、日本社会の変革という大きな宿題だ。———-大門 小百合(だいもん・さゆり)ジャーナリスト、元ジャパンタイムズ執行役員・論説委員上智大学外国語学部卒業後、1991年ジャパンタイムズ入社。政治、経済担当の記者を経て、2006年より報道部長。2013年より執行役員。同10月には同社117年の歴史で女性として初めての編集最高責任者となる。2000年、ニーマン特別研究員として米・ハーバード大学でジャーナリズム、アメリカ政治を研究。2005年、キングファイサル研究所研究員としてサウジアラビアのリヤドに滞在し、現地の女性たちについて取材、研究する。著書に『The Japan Times報道デスク発グローバル社会を生きる女性のための情報力』(ジャパンタイムズ)、国際情勢解説者である田中宇との共著『ハーバード大学で語られる世界戦略』(光文社)など。———-(ジャーナリスト、元ジャパンタイムズ執行役員・論説委員 大門 小百合)
「オリンピックという世界最大のスポーツイベントは、開催国にとって経済的な大惨事だ。メダルの数以外は!」と報じたのはブルームバーグ通信だ。今大会の日本の金メダル獲得数は27で、アメリカの39と中国の38に次ぐ。過去の研究から、五輪開催国は多くのメダルを獲得し、自国開催の次の大会でも多くのメダルを獲得していると記事は伝えている。■開催国はメダルラッシュにたとえば1992年のバルセロナ大会で、スペインは、全金メダルの5%を獲得し、世界のランキングでは6位。オーストラリアは、自国開催の前の大会の3.3%から2000年のシドニー大会では5.3%に躍進、そして、次のアテネ大会では5.7%と、さらメダル数を増やした。しかし、その後の北京大会では、4.6%に落ちているとのこと。ブラジルも似たような傾向を示しており、リオ大会の前では全体の1%しか獲得できなかった金メダルをリオでは2.3%に増やし、今回の東京大会では2.1%を獲得した。この法則に当てはめると、日本は次のパリ大会でもかなりのメダルが期待できるというわけだ。しかし、メダル獲得数にばかり注目するのは問題だという声も上がり始めている。日本オリンピック・アカデミーは、東京大会の組織委員会が公式ウェブサイトにチーム別(ほとんどが国別のチーム)のメダル獲得順位表を掲載しているのは、オリンピック憲章違反にもなりかねないと、有志による意見書を組織委員会に提出している。■「国対抗メダル競争」でいいのかオリンピック憲章には、「大会は個人間の競技であり、国家間のものではない」とする記述がある。スポーツによる国際平和を希求するには、国別対抗による過度なナショナリズムの高揚や国家間の対立を避けるべきという考え方が根底にある。五輪では、実は、メダルを一つも取れない国の方が多い。しかし、参加することに意義がある。今回初参加した難民選手団を見て、厳しい情勢の中でも力強く頑張っている人達に勇気づけられた人もいるだろう。私が印象に残っているのは、走り高跳びで、カタールの選手とイタリアの選手が、金メダルを分け合ったシーンだ。審判に優勝決定戦を勧められたが、カタールのムタズエサ・バルシム選手が「私たちに金メダルを2つもらえないか?」と提案し、2人の金メダリストが誕生した。金メダルは1つだけでなくてもよい。分かち合うことの喜びを世界に示した、素晴らしい出来事だったと思う。■「ジェンダー」「性の多様性」が大きなテーマに今回の五輪は、森前会長の女性蔑視発言もあり、ジェンダー意識、「性の多様性」や「性の扱い」も大きなテーマになった。体操競技予選で、ドイツ女子代表チームがビキニカットのレオタードに代わり、足首までの脚全体を覆う「ユニタード」を着用して競技を行ったことが話題になった。これには、スポーツを性の対象とすることに対する抗議の意味があった。性的マイノリティーの選手の活躍にも注目が集まった。ニュージーランドの重量挙げの選手であるローレル・ハバード選手は、トランスジェンダー選手として史上初のオリンピック出場を果たした。さまざまな批判がある中で、自分が自認する性でプレーすることが実現した画期的な出来事だ。■差別的な構造が五輪で表面化今大会に参加したLGBTQの選手は、公表されているだけで史上最多の182人。これは、2016年のリオ大会の56人の3倍にあたる。ただ、日本でのマイノリティーや多様性に対する理解については疑問が残る。「これまで、『スポーツの世界は別だから』とか『日本は違うから』という、なぞのロジックで封じ込められてきた、日本の社会やスポーツ界の差別的な構造が、五輪を機に表面化した」と話すのは、LGBTQの権利擁護団体であるプライドハウス東京の松中権さんだ。松中さんは、組織委員会の人権労働ワーキンググループの委員も務め、さまざまなアドバイスをしてきた。たとえば、ボランティアの着るユニフォームも、トランスジェンダーの人にサンプル段階で着てもらい、助言をもらい変更を加えたそうだ。また、組織委員会のダイバーシティ&インクルージョンのガイドブックを作り、職員の研修も手伝ってきた。組織委員会の内部にこうしたチームがいる一方、「人権や差別の問題は、そのチームだけの担当分野だ」と見なされ、問題意識が組織委員会全体に広がるまでには至らなかったという。「LGBTQの理解を深めてもらうため、本当はメディア向けに勉強会を開きたかったんですが、組織委員会に、それは難しいと言われました。一方、IOCとは直接話すことができ、ガイドブックを渡すこともできました。また、ハバードさんの試合前日には、国際重量挙げ連盟の人がプライドハウスに来てくれ、ガイドブックのURLの入ったポストカードをメディアの皆さんに配ってくれました」と、松中さんは言う。グローバルな組織と日本の組織の意識の差を感じたという。■「LGBTQ法見送り」「同性婚禁止」の国の五輪ブルームバーグ通信は、東京オリンピックが掲げる多様性と調和のビジョンに関連して、「東京オリンピックは、LGBTQの理解促進のための法案を通すことができず、同性婚に反対する勢力が権力の中枢に根付いている国で開催されている」と記事の中で皮肉った。松中さんによると、五輪期間中、プライドハウスには30社以上のグローバルメディアが取材にきたそうだ。彼らは大会の話だけでなく、前国会で与党の反対で提出に至らなかったLGBTQの法案についても、かなり関心を持って聞いてきたという。現在開催されているパラリンピックは、五輪以上に多様性と調和が重視されるべき大会だ。「LGBTQのことも、『自分のまわりにはいない』という誤った認識から、差別、偏見がなくならない構造がある。パラリンピックに関しても、『自分たちの家族や友人の中にも起こりうることなんだ』と感じられるよう、皆さんが意識を向けられればよいと思っています」と松中さんは話す。世界人口の15%に障害があると言われる中、今度はパラリンピックを通じ、日本はどんなメッセージを世界に発信することができるのだろうか。そして、今回の五輪、パラリンピックから、日本人は何を学ぶのだろう。東京大会の終了後、私たちの手元に残るのは、日本社会の変革という大きな宿題だ。———-大門 小百合(だいもん・さゆり)ジャーナリスト、元ジャパンタイムズ執行役員・論説委員上智大学外国語学部卒業後、1991年ジャパンタイムズ入社。政治、経済担当の記者を経て、2006年より報道部長。2013年より執行役員。同10月には同社117年の歴史で女性として初めての編集最高責任者となる。2000年、ニーマン特別研究員として米・ハーバード大学でジャーナリズム、アメリカ政治を研究。2005年、キングファイサル研究所研究員としてサウジアラビアのリヤドに滞在し、現地の女性たちについて取材、研究する。著書に『The Japan Times報道デスク発グローバル社会を生きる女性のための情報力』(ジャパンタイムズ)、国際情勢解説者である田中宇との共著『ハーバード大学で語られる世界戦略』(光文社)など。———-(ジャーナリスト、元ジャパンタイムズ執行役員・論説委員 大門 小百合)
今大会の日本の金メダル獲得数は27で、アメリカの39と中国の38に次ぐ。過去の研究から、五輪開催国は多くのメダルを獲得し、自国開催の次の大会でも多くのメダルを獲得していると記事は伝えている。■開催国はメダルラッシュにたとえば1992年のバルセロナ大会で、スペインは、全金メダルの5%を獲得し、世界のランキングでは6位。オーストラリアは、自国開催の前の大会の3.3%から2000年のシドニー大会では5.3%に躍進、そして、次のアテネ大会では5.7%と、さらメダル数を増やした。しかし、その後の北京大会では、4.6%に落ちているとのこと。ブラジルも似たような傾向を示しており、リオ大会の前では全体の1%しか獲得できなかった金メダルをリオでは2.3%に増やし、今回の東京大会では2.1%を獲得した。この法則に当てはめると、日本は次のパリ大会でもかなりのメダルが期待できるというわけだ。しかし、メダル獲得数にばかり注目するのは問題だという声も上がり始めている。日本オリンピック・アカデミーは、東京大会の組織委員会が公式ウェブサイトにチーム別(ほとんどが国別のチーム)のメダル獲得順位表を掲載しているのは、オリンピック憲章違反にもなりかねないと、有志による意見書を組織委員会に提出している。■「国対抗メダル競争」でいいのかオリンピック憲章には、「大会は個人間の競技であり、国家間のものではない」とする記述がある。スポーツによる国際平和を希求するには、国別対抗による過度なナショナリズムの高揚や国家間の対立を避けるべきという考え方が根底にある。五輪では、実は、メダルを一つも取れない国の方が多い。しかし、参加することに意義がある。今回初参加した難民選手団を見て、厳しい情勢の中でも力強く頑張っている人達に勇気づけられた人もいるだろう。私が印象に残っているのは、走り高跳びで、カタールの選手とイタリアの選手が、金メダルを分け合ったシーンだ。審判に優勝決定戦を勧められたが、カタールのムタズエサ・バルシム選手が「私たちに金メダルを2つもらえないか?」と提案し、2人の金メダリストが誕生した。金メダルは1つだけでなくてもよい。分かち合うことの喜びを世界に示した、素晴らしい出来事だったと思う。■「ジェンダー」「性の多様性」が大きなテーマに今回の五輪は、森前会長の女性蔑視発言もあり、ジェンダー意識、「性の多様性」や「性の扱い」も大きなテーマになった。体操競技予選で、ドイツ女子代表チームがビキニカットのレオタードに代わり、足首までの脚全体を覆う「ユニタード」を着用して競技を行ったことが話題になった。これには、スポーツを性の対象とすることに対する抗議の意味があった。性的マイノリティーの選手の活躍にも注目が集まった。ニュージーランドの重量挙げの選手であるローレル・ハバード選手は、トランスジェンダー選手として史上初のオリンピック出場を果たした。さまざまな批判がある中で、自分が自認する性でプレーすることが実現した画期的な出来事だ。■差別的な構造が五輪で表面化今大会に参加したLGBTQの選手は、公表されているだけで史上最多の182人。これは、2016年のリオ大会の56人の3倍にあたる。ただ、日本でのマイノリティーや多様性に対する理解については疑問が残る。「これまで、『スポーツの世界は別だから』とか『日本は違うから』という、なぞのロジックで封じ込められてきた、日本の社会やスポーツ界の差別的な構造が、五輪を機に表面化した」と話すのは、LGBTQの権利擁護団体であるプライドハウス東京の松中権さんだ。松中さんは、組織委員会の人権労働ワーキンググループの委員も務め、さまざまなアドバイスをしてきた。たとえば、ボランティアの着るユニフォームも、トランスジェンダーの人にサンプル段階で着てもらい、助言をもらい変更を加えたそうだ。また、組織委員会のダイバーシティ&インクルージョンのガイドブックを作り、職員の研修も手伝ってきた。組織委員会の内部にこうしたチームがいる一方、「人権や差別の問題は、そのチームだけの担当分野だ」と見なされ、問題意識が組織委員会全体に広がるまでには至らなかったという。「LGBTQの理解を深めてもらうため、本当はメディア向けに勉強会を開きたかったんですが、組織委員会に、それは難しいと言われました。一方、IOCとは直接話すことができ、ガイドブックを渡すこともできました。また、ハバードさんの試合前日には、国際重量挙げ連盟の人がプライドハウスに来てくれ、ガイドブックのURLの入ったポストカードをメディアの皆さんに配ってくれました」と、松中さんは言う。グローバルな組織と日本の組織の意識の差を感じたという。■「LGBTQ法見送り」「同性婚禁止」の国の五輪ブルームバーグ通信は、東京オリンピックが掲げる多様性と調和のビジョンに関連して、「東京オリンピックは、LGBTQの理解促進のための法案を通すことができず、同性婚に反対する勢力が権力の中枢に根付いている国で開催されている」と記事の中で皮肉った。松中さんによると、五輪期間中、プライドハウスには30社以上のグローバルメディアが取材にきたそうだ。彼らは大会の話だけでなく、前国会で与党の反対で提出に至らなかったLGBTQの法案についても、かなり関心を持って聞いてきたという。現在開催されているパラリンピックは、五輪以上に多様性と調和が重視されるべき大会だ。「LGBTQのことも、『自分のまわりにはいない』という誤った認識から、差別、偏見がなくならない構造がある。パラリンピックに関しても、『自分たちの家族や友人の中にも起こりうることなんだ』と感じられるよう、皆さんが意識を向けられればよいと思っています」と松中さんは話す。世界人口の15%に障害があると言われる中、今度はパラリンピックを通じ、日本はどんなメッセージを世界に発信することができるのだろうか。そして、今回の五輪、パラリンピックから、日本人は何を学ぶのだろう。東京大会の終了後、私たちの手元に残るのは、日本社会の変革という大きな宿題だ。———-大門 小百合(だいもん・さゆり)ジャーナリスト、元ジャパンタイムズ執行役員・論説委員上智大学外国語学部卒業後、1991年ジャパンタイムズ入社。政治、経済担当の記者を経て、2006年より報道部長。2013年より執行役員。同10月には同社117年の歴史で女性として初めての編集最高責任者となる。2000年、ニーマン特別研究員として米・ハーバード大学でジャーナリズム、アメリカ政治を研究。2005年、キングファイサル研究所研究員としてサウジアラビアのリヤドに滞在し、現地の女性たちについて取材、研究する。著書に『The Japan Times報道デスク発グローバル社会を生きる女性のための情報力』(ジャパンタイムズ)、国際情勢解説者である田中宇との共著『ハーバード大学で語られる世界戦略』(光文社)など。———-(ジャーナリスト、元ジャパンタイムズ執行役員・論説委員 大門 小百合)
たとえば1992年のバルセロナ大会で、スペインは、全金メダルの5%を獲得し、世界のランキングでは6位。オーストラリアは、自国開催の前の大会の3.3%から2000年のシドニー大会では5.3%に躍進、そして、次のアテネ大会では5.7%と、さらメダル数を増やした。しかし、その後の北京大会では、4.6%に落ちているとのこと。ブラジルも似たような傾向を示しており、リオ大会の前では全体の1%しか獲得できなかった金メダルをリオでは2.3%に増やし、今回の東京大会では2.1%を獲得した。この法則に当てはめると、日本は次のパリ大会でもかなりのメダルが期待できるというわけだ。しかし、メダル獲得数にばかり注目するのは問題だという声も上がり始めている。日本オリンピック・アカデミーは、東京大会の組織委員会が公式ウェブサイトにチーム別(ほとんどが国別のチーム)のメダル獲得順位表を掲載しているのは、オリンピック憲章違反にもなりかねないと、有志による意見書を組織委員会に提出している。■「国対抗メダル競争」でいいのかオリンピック憲章には、「大会は個人間の競技であり、国家間のものではない」とする記述がある。スポーツによる国際平和を希求するには、国別対抗による過度なナショナリズムの高揚や国家間の対立を避けるべきという考え方が根底にある。五輪では、実は、メダルを一つも取れない国の方が多い。しかし、参加することに意義がある。今回初参加した難民選手団を見て、厳しい情勢の中でも力強く頑張っている人達に勇気づけられた人もいるだろう。私が印象に残っているのは、走り高跳びで、カタールの選手とイタリアの選手が、金メダルを分け合ったシーンだ。審判に優勝決定戦を勧められたが、カタールのムタズエサ・バルシム選手が「私たちに金メダルを2つもらえないか?」と提案し、2人の金メダリストが誕生した。金メダルは1つだけでなくてもよい。分かち合うことの喜びを世界に示した、素晴らしい出来事だったと思う。■「ジェンダー」「性の多様性」が大きなテーマに今回の五輪は、森前会長の女性蔑視発言もあり、ジェンダー意識、「性の多様性」や「性の扱い」も大きなテーマになった。体操競技予選で、ドイツ女子代表チームがビキニカットのレオタードに代わり、足首までの脚全体を覆う「ユニタード」を着用して競技を行ったことが話題になった。これには、スポーツを性の対象とすることに対する抗議の意味があった。性的マイノリティーの選手の活躍にも注目が集まった。ニュージーランドの重量挙げの選手であるローレル・ハバード選手は、トランスジェンダー選手として史上初のオリンピック出場を果たした。さまざまな批判がある中で、自分が自認する性でプレーすることが実現した画期的な出来事だ。■差別的な構造が五輪で表面化今大会に参加したLGBTQの選手は、公表されているだけで史上最多の182人。これは、2016年のリオ大会の56人の3倍にあたる。ただ、日本でのマイノリティーや多様性に対する理解については疑問が残る。「これまで、『スポーツの世界は別だから』とか『日本は違うから』という、なぞのロジックで封じ込められてきた、日本の社会やスポーツ界の差別的な構造が、五輪を機に表面化した」と話すのは、LGBTQの権利擁護団体であるプライドハウス東京の松中権さんだ。松中さんは、組織委員会の人権労働ワーキンググループの委員も務め、さまざまなアドバイスをしてきた。たとえば、ボランティアの着るユニフォームも、トランスジェンダーの人にサンプル段階で着てもらい、助言をもらい変更を加えたそうだ。また、組織委員会のダイバーシティ&インクルージョンのガイドブックを作り、職員の研修も手伝ってきた。組織委員会の内部にこうしたチームがいる一方、「人権や差別の問題は、そのチームだけの担当分野だ」と見なされ、問題意識が組織委員会全体に広がるまでには至らなかったという。「LGBTQの理解を深めてもらうため、本当はメディア向けに勉強会を開きたかったんですが、組織委員会に、それは難しいと言われました。一方、IOCとは直接話すことができ、ガイドブックを渡すこともできました。また、ハバードさんの試合前日には、国際重量挙げ連盟の人がプライドハウスに来てくれ、ガイドブックのURLの入ったポストカードをメディアの皆さんに配ってくれました」と、松中さんは言う。グローバルな組織と日本の組織の意識の差を感じたという。■「LGBTQ法見送り」「同性婚禁止」の国の五輪ブルームバーグ通信は、東京オリンピックが掲げる多様性と調和のビジョンに関連して、「東京オリンピックは、LGBTQの理解促進のための法案を通すことができず、同性婚に反対する勢力が権力の中枢に根付いている国で開催されている」と記事の中で皮肉った。松中さんによると、五輪期間中、プライドハウスには30社以上のグローバルメディアが取材にきたそうだ。彼らは大会の話だけでなく、前国会で与党の反対で提出に至らなかったLGBTQの法案についても、かなり関心を持って聞いてきたという。現在開催されているパラリンピックは、五輪以上に多様性と調和が重視されるべき大会だ。「LGBTQのことも、『自分のまわりにはいない』という誤った認識から、差別、偏見がなくならない構造がある。パラリンピックに関しても、『自分たちの家族や友人の中にも起こりうることなんだ』と感じられるよう、皆さんが意識を向けられればよいと思っています」と松中さんは話す。世界人口の15%に障害があると言われる中、今度はパラリンピックを通じ、日本はどんなメッセージを世界に発信することができるのだろうか。そして、今回の五輪、パラリンピックから、日本人は何を学ぶのだろう。東京大会の終了後、私たちの手元に残るのは、日本社会の変革という大きな宿題だ。———-大門 小百合(だいもん・さゆり)ジャーナリスト、元ジャパンタイムズ執行役員・論説委員上智大学外国語学部卒業後、1991年ジャパンタイムズ入社。政治、経済担当の記者を経て、2006年より報道部長。2013年より執行役員。同10月には同社117年の歴史で女性として初めての編集最高責任者となる。2000年、ニーマン特別研究員として米・ハーバード大学でジャーナリズム、アメリカ政治を研究。2005年、キングファイサル研究所研究員としてサウジアラビアのリヤドに滞在し、現地の女性たちについて取材、研究する。著書に『The Japan Times報道デスク発グローバル社会を生きる女性のための情報力』(ジャパンタイムズ)、国際情勢解説者である田中宇との共著『ハーバード大学で語られる世界戦略』(光文社)など。———-(ジャーナリスト、元ジャパンタイムズ執行役員・論説委員 大門 小百合)
この法則に当てはめると、日本は次のパリ大会でもかなりのメダルが期待できるというわけだ。しかし、メダル獲得数にばかり注目するのは問題だという声も上がり始めている。日本オリンピック・アカデミーは、東京大会の組織委員会が公式ウェブサイトにチーム別(ほとんどが国別のチーム)のメダル獲得順位表を掲載しているのは、オリンピック憲章違反にもなりかねないと、有志による意見書を組織委員会に提出している。■「国対抗メダル競争」でいいのかオリンピック憲章には、「大会は個人間の競技であり、国家間のものではない」とする記述がある。スポーツによる国際平和を希求するには、国別対抗による過度なナショナリズムの高揚や国家間の対立を避けるべきという考え方が根底にある。五輪では、実は、メダルを一つも取れない国の方が多い。しかし、参加することに意義がある。今回初参加した難民選手団を見て、厳しい情勢の中でも力強く頑張っている人達に勇気づけられた人もいるだろう。私が印象に残っているのは、走り高跳びで、カタールの選手とイタリアの選手が、金メダルを分け合ったシーンだ。審判に優勝決定戦を勧められたが、カタールのムタズエサ・バルシム選手が「私たちに金メダルを2つもらえないか?」と提案し、2人の金メダリストが誕生した。金メダルは1つだけでなくてもよい。分かち合うことの喜びを世界に示した、素晴らしい出来事だったと思う。■「ジェンダー」「性の多様性」が大きなテーマに今回の五輪は、森前会長の女性蔑視発言もあり、ジェンダー意識、「性の多様性」や「性の扱い」も大きなテーマになった。体操競技予選で、ドイツ女子代表チームがビキニカットのレオタードに代わり、足首までの脚全体を覆う「ユニタード」を着用して競技を行ったことが話題になった。これには、スポーツを性の対象とすることに対する抗議の意味があった。性的マイノリティーの選手の活躍にも注目が集まった。ニュージーランドの重量挙げの選手であるローレル・ハバード選手は、トランスジェンダー選手として史上初のオリンピック出場を果たした。さまざまな批判がある中で、自分が自認する性でプレーすることが実現した画期的な出来事だ。■差別的な構造が五輪で表面化今大会に参加したLGBTQの選手は、公表されているだけで史上最多の182人。これは、2016年のリオ大会の56人の3倍にあたる。ただ、日本でのマイノリティーや多様性に対する理解については疑問が残る。「これまで、『スポーツの世界は別だから』とか『日本は違うから』という、なぞのロジックで封じ込められてきた、日本の社会やスポーツ界の差別的な構造が、五輪を機に表面化した」と話すのは、LGBTQの権利擁護団体であるプライドハウス東京の松中権さんだ。松中さんは、組織委員会の人権労働ワーキンググループの委員も務め、さまざまなアドバイスをしてきた。たとえば、ボランティアの着るユニフォームも、トランスジェンダーの人にサンプル段階で着てもらい、助言をもらい変更を加えたそうだ。また、組織委員会のダイバーシティ&インクルージョンのガイドブックを作り、職員の研修も手伝ってきた。組織委員会の内部にこうしたチームがいる一方、「人権や差別の問題は、そのチームだけの担当分野だ」と見なされ、問題意識が組織委員会全体に広がるまでには至らなかったという。「LGBTQの理解を深めてもらうため、本当はメディア向けに勉強会を開きたかったんですが、組織委員会に、それは難しいと言われました。一方、IOCとは直接話すことができ、ガイドブックを渡すこともできました。また、ハバードさんの試合前日には、国際重量挙げ連盟の人がプライドハウスに来てくれ、ガイドブックのURLの入ったポストカードをメディアの皆さんに配ってくれました」と、松中さんは言う。グローバルな組織と日本の組織の意識の差を感じたという。■「LGBTQ法見送り」「同性婚禁止」の国の五輪ブルームバーグ通信は、東京オリンピックが掲げる多様性と調和のビジョンに関連して、「東京オリンピックは、LGBTQの理解促進のための法案を通すことができず、同性婚に反対する勢力が権力の中枢に根付いている国で開催されている」と記事の中で皮肉った。松中さんによると、五輪期間中、プライドハウスには30社以上のグローバルメディアが取材にきたそうだ。彼らは大会の話だけでなく、前国会で与党の反対で提出に至らなかったLGBTQの法案についても、かなり関心を持って聞いてきたという。現在開催されているパラリンピックは、五輪以上に多様性と調和が重視されるべき大会だ。「LGBTQのことも、『自分のまわりにはいない』という誤った認識から、差別、偏見がなくならない構造がある。パラリンピックに関しても、『自分たちの家族や友人の中にも起こりうることなんだ』と感じられるよう、皆さんが意識を向けられればよいと思っています」と松中さんは話す。世界人口の15%に障害があると言われる中、今度はパラリンピックを通じ、日本はどんなメッセージを世界に発信することができるのだろうか。そして、今回の五輪、パラリンピックから、日本人は何を学ぶのだろう。東京大会の終了後、私たちの手元に残るのは、日本社会の変革という大きな宿題だ。———-大門 小百合(だいもん・さゆり)ジャーナリスト、元ジャパンタイムズ執行役員・論説委員上智大学外国語学部卒業後、1991年ジャパンタイムズ入社。政治、経済担当の記者を経て、2006年より報道部長。2013年より執行役員。同10月には同社117年の歴史で女性として初めての編集最高責任者となる。2000年、ニーマン特別研究員として米・ハーバード大学でジャーナリズム、アメリカ政治を研究。2005年、キングファイサル研究所研究員としてサウジアラビアのリヤドに滞在し、現地の女性たちについて取材、研究する。著書に『The Japan Times報道デスク発グローバル社会を生きる女性のための情報力』(ジャパンタイムズ)、国際情勢解説者である田中宇との共著『ハーバード大学で語られる世界戦略』(光文社)など。———-(ジャーナリスト、元ジャパンタイムズ執行役員・論説委員 大門 小百合)
しかし、メダル獲得数にばかり注目するのは問題だという声も上がり始めている。日本オリンピック・アカデミーは、東京大会の組織委員会が公式ウェブサイトにチーム別(ほとんどが国別のチーム)のメダル獲得順位表を掲載しているのは、オリンピック憲章違反にもなりかねないと、有志による意見書を組織委員会に提出している。■「国対抗メダル競争」でいいのかオリンピック憲章には、「大会は個人間の競技であり、国家間のものではない」とする記述がある。スポーツによる国際平和を希求するには、国別対抗による過度なナショナリズムの高揚や国家間の対立を避けるべきという考え方が根底にある。五輪では、実は、メダルを一つも取れない国の方が多い。しかし、参加することに意義がある。今回初参加した難民選手団を見て、厳しい情勢の中でも力強く頑張っている人達に勇気づけられた人もいるだろう。私が印象に残っているのは、走り高跳びで、カタールの選手とイタリアの選手が、金メダルを分け合ったシーンだ。審判に優勝決定戦を勧められたが、カタールのムタズエサ・バルシム選手が「私たちに金メダルを2つもらえないか?」と提案し、2人の金メダリストが誕生した。金メダルは1つだけでなくてもよい。分かち合うことの喜びを世界に示した、素晴らしい出来事だったと思う。■「ジェンダー」「性の多様性」が大きなテーマに今回の五輪は、森前会長の女性蔑視発言もあり、ジェンダー意識、「性の多様性」や「性の扱い」も大きなテーマになった。体操競技予選で、ドイツ女子代表チームがビキニカットのレオタードに代わり、足首までの脚全体を覆う「ユニタード」を着用して競技を行ったことが話題になった。これには、スポーツを性の対象とすることに対する抗議の意味があった。性的マイノリティーの選手の活躍にも注目が集まった。ニュージーランドの重量挙げの選手であるローレル・ハバード選手は、トランスジェンダー選手として史上初のオリンピック出場を果たした。さまざまな批判がある中で、自分が自認する性でプレーすることが実現した画期的な出来事だ。■差別的な構造が五輪で表面化今大会に参加したLGBTQの選手は、公表されているだけで史上最多の182人。これは、2016年のリオ大会の56人の3倍にあたる。ただ、日本でのマイノリティーや多様性に対する理解については疑問が残る。「これまで、『スポーツの世界は別だから』とか『日本は違うから』という、なぞのロジックで封じ込められてきた、日本の社会やスポーツ界の差別的な構造が、五輪を機に表面化した」と話すのは、LGBTQの権利擁護団体であるプライドハウス東京の松中権さんだ。松中さんは、組織委員会の人権労働ワーキンググループの委員も務め、さまざまなアドバイスをしてきた。たとえば、ボランティアの着るユニフォームも、トランスジェンダーの人にサンプル段階で着てもらい、助言をもらい変更を加えたそうだ。また、組織委員会のダイバーシティ&インクルージョンのガイドブックを作り、職員の研修も手伝ってきた。組織委員会の内部にこうしたチームがいる一方、「人権や差別の問題は、そのチームだけの担当分野だ」と見なされ、問題意識が組織委員会全体に広がるまでには至らなかったという。「LGBTQの理解を深めてもらうため、本当はメディア向けに勉強会を開きたかったんですが、組織委員会に、それは難しいと言われました。一方、IOCとは直接話すことができ、ガイドブックを渡すこともできました。また、ハバードさんの試合前日には、国際重量挙げ連盟の人がプライドハウスに来てくれ、ガイドブックのURLの入ったポストカードをメディアの皆さんに配ってくれました」と、松中さんは言う。グローバルな組織と日本の組織の意識の差を感じたという。■「LGBTQ法見送り」「同性婚禁止」の国の五輪ブルームバーグ通信は、東京オリンピックが掲げる多様性と調和のビジョンに関連して、「東京オリンピックは、LGBTQの理解促進のための法案を通すことができず、同性婚に反対する勢力が権力の中枢に根付いている国で開催されている」と記事の中で皮肉った。松中さんによると、五輪期間中、プライドハウスには30社以上のグローバルメディアが取材にきたそうだ。彼らは大会の話だけでなく、前国会で与党の反対で提出に至らなかったLGBTQの法案についても、かなり関心を持って聞いてきたという。現在開催されているパラリンピックは、五輪以上に多様性と調和が重視されるべき大会だ。「LGBTQのことも、『自分のまわりにはいない』という誤った認識から、差別、偏見がなくならない構造がある。パラリンピックに関しても、『自分たちの家族や友人の中にも起こりうることなんだ』と感じられるよう、皆さんが意識を向けられればよいと思っています」と松中さんは話す。世界人口の15%に障害があると言われる中、今度はパラリンピックを通じ、日本はどんなメッセージを世界に発信することができるのだろうか。そして、今回の五輪、パラリンピックから、日本人は何を学ぶのだろう。東京大会の終了後、私たちの手元に残るのは、日本社会の変革という大きな宿題だ。———-大門 小百合(だいもん・さゆり)ジャーナリスト、元ジャパンタイムズ執行役員・論説委員上智大学外国語学部卒業後、1991年ジャパンタイムズ入社。政治、経済担当の記者を経て、2006年より報道部長。2013年より執行役員。同10月には同社117年の歴史で女性として初めての編集最高責任者となる。2000年、ニーマン特別研究員として米・ハーバード大学でジャーナリズム、アメリカ政治を研究。2005年、キングファイサル研究所研究員としてサウジアラビアのリヤドに滞在し、現地の女性たちについて取材、研究する。著書に『The Japan Times報道デスク発グローバル社会を生きる女性のための情報力』(ジャパンタイムズ)、国際情勢解説者である田中宇との共著『ハーバード大学で語られる世界戦略』(光文社)など。———-(ジャーナリスト、元ジャパンタイムズ執行役員・論説委員 大門 小百合)
オリンピック憲章には、「大会は個人間の競技であり、国家間のものではない」とする記述がある。スポーツによる国際平和を希求するには、国別対抗による過度なナショナリズムの高揚や国家間の対立を避けるべきという考え方が根底にある。五輪では、実は、メダルを一つも取れない国の方が多い。しかし、参加することに意義がある。今回初参加した難民選手団を見て、厳しい情勢の中でも力強く頑張っている人達に勇気づけられた人もいるだろう。私が印象に残っているのは、走り高跳びで、カタールの選手とイタリアの選手が、金メダルを分け合ったシーンだ。審判に優勝決定戦を勧められたが、カタールのムタズエサ・バルシム選手が「私たちに金メダルを2つもらえないか?」と提案し、2人の金メダリストが誕生した。金メダルは1つだけでなくてもよい。分かち合うことの喜びを世界に示した、素晴らしい出来事だったと思う。■「ジェンダー」「性の多様性」が大きなテーマに今回の五輪は、森前会長の女性蔑視発言もあり、ジェンダー意識、「性の多様性」や「性の扱い」も大きなテーマになった。体操競技予選で、ドイツ女子代表チームがビキニカットのレオタードに代わり、足首までの脚全体を覆う「ユニタード」を着用して競技を行ったことが話題になった。これには、スポーツを性の対象とすることに対する抗議の意味があった。性的マイノリティーの選手の活躍にも注目が集まった。ニュージーランドの重量挙げの選手であるローレル・ハバード選手は、トランスジェンダー選手として史上初のオリンピック出場を果たした。さまざまな批判がある中で、自分が自認する性でプレーすることが実現した画期的な出来事だ。■差別的な構造が五輪で表面化今大会に参加したLGBTQの選手は、公表されているだけで史上最多の182人。これは、2016年のリオ大会の56人の3倍にあたる。ただ、日本でのマイノリティーや多様性に対する理解については疑問が残る。「これまで、『スポーツの世界は別だから』とか『日本は違うから』という、なぞのロジックで封じ込められてきた、日本の社会やスポーツ界の差別的な構造が、五輪を機に表面化した」と話すのは、LGBTQの権利擁護団体であるプライドハウス東京の松中権さんだ。松中さんは、組織委員会の人権労働ワーキンググループの委員も務め、さまざまなアドバイスをしてきた。たとえば、ボランティアの着るユニフォームも、トランスジェンダーの人にサンプル段階で着てもらい、助言をもらい変更を加えたそうだ。また、組織委員会のダイバーシティ&インクルージョンのガイドブックを作り、職員の研修も手伝ってきた。組織委員会の内部にこうしたチームがいる一方、「人権や差別の問題は、そのチームだけの担当分野だ」と見なされ、問題意識が組織委員会全体に広がるまでには至らなかったという。「LGBTQの理解を深めてもらうため、本当はメディア向けに勉強会を開きたかったんですが、組織委員会に、それは難しいと言われました。一方、IOCとは直接話すことができ、ガイドブックを渡すこともできました。また、ハバードさんの試合前日には、国際重量挙げ連盟の人がプライドハウスに来てくれ、ガイドブックのURLの入ったポストカードをメディアの皆さんに配ってくれました」と、松中さんは言う。グローバルな組織と日本の組織の意識の差を感じたという。■「LGBTQ法見送り」「同性婚禁止」の国の五輪ブルームバーグ通信は、東京オリンピックが掲げる多様性と調和のビジョンに関連して、「東京オリンピックは、LGBTQの理解促進のための法案を通すことができず、同性婚に反対する勢力が権力の中枢に根付いている国で開催されている」と記事の中で皮肉った。松中さんによると、五輪期間中、プライドハウスには30社以上のグローバルメディアが取材にきたそうだ。彼らは大会の話だけでなく、前国会で与党の反対で提出に至らなかったLGBTQの法案についても、かなり関心を持って聞いてきたという。現在開催されているパラリンピックは、五輪以上に多様性と調和が重視されるべき大会だ。「LGBTQのことも、『自分のまわりにはいない』という誤った認識から、差別、偏見がなくならない構造がある。パラリンピックに関しても、『自分たちの家族や友人の中にも起こりうることなんだ』と感じられるよう、皆さんが意識を向けられればよいと思っています」と松中さんは話す。世界人口の15%に障害があると言われる中、今度はパラリンピックを通じ、日本はどんなメッセージを世界に発信することができるのだろうか。そして、今回の五輪、パラリンピックから、日本人は何を学ぶのだろう。東京大会の終了後、私たちの手元に残るのは、日本社会の変革という大きな宿題だ。———-大門 小百合(だいもん・さゆり)ジャーナリスト、元ジャパンタイムズ執行役員・論説委員上智大学外国語学部卒業後、1991年ジャパンタイムズ入社。政治、経済担当の記者を経て、2006年より報道部長。2013年より執行役員。同10月には同社117年の歴史で女性として初めての編集最高責任者となる。2000年、ニーマン特別研究員として米・ハーバード大学でジャーナリズム、アメリカ政治を研究。2005年、キングファイサル研究所研究員としてサウジアラビアのリヤドに滞在し、現地の女性たちについて取材、研究する。著書に『The Japan Times報道デスク発グローバル社会を生きる女性のための情報力』(ジャパンタイムズ)、国際情勢解説者である田中宇との共著『ハーバード大学で語られる世界戦略』(光文社)など。———-(ジャーナリスト、元ジャパンタイムズ執行役員・論説委員 大門 小百合)
五輪では、実は、メダルを一つも取れない国の方が多い。しかし、参加することに意義がある。今回初参加した難民選手団を見て、厳しい情勢の中でも力強く頑張っている人達に勇気づけられた人もいるだろう。私が印象に残っているのは、走り高跳びで、カタールの選手とイタリアの選手が、金メダルを分け合ったシーンだ。審判に優勝決定戦を勧められたが、カタールのムタズエサ・バルシム選手が「私たちに金メダルを2つもらえないか?」と提案し、2人の金メダリストが誕生した。金メダルは1つだけでなくてもよい。分かち合うことの喜びを世界に示した、素晴らしい出来事だったと思う。■「ジェンダー」「性の多様性」が大きなテーマに今回の五輪は、森前会長の女性蔑視発言もあり、ジェンダー意識、「性の多様性」や「性の扱い」も大きなテーマになった。体操競技予選で、ドイツ女子代表チームがビキニカットのレオタードに代わり、足首までの脚全体を覆う「ユニタード」を着用して競技を行ったことが話題になった。これには、スポーツを性の対象とすることに対する抗議の意味があった。性的マイノリティーの選手の活躍にも注目が集まった。ニュージーランドの重量挙げの選手であるローレル・ハバード選手は、トランスジェンダー選手として史上初のオリンピック出場を果たした。さまざまな批判がある中で、自分が自認する性でプレーすることが実現した画期的な出来事だ。■差別的な構造が五輪で表面化今大会に参加したLGBTQの選手は、公表されているだけで史上最多の182人。これは、2016年のリオ大会の56人の3倍にあたる。ただ、日本でのマイノリティーや多様性に対する理解については疑問が残る。「これまで、『スポーツの世界は別だから』とか『日本は違うから』という、なぞのロジックで封じ込められてきた、日本の社会やスポーツ界の差別的な構造が、五輪を機に表面化した」と話すのは、LGBTQの権利擁護団体であるプライドハウス東京の松中権さんだ。松中さんは、組織委員会の人権労働ワーキンググループの委員も務め、さまざまなアドバイスをしてきた。たとえば、ボランティアの着るユニフォームも、トランスジェンダーの人にサンプル段階で着てもらい、助言をもらい変更を加えたそうだ。また、組織委員会のダイバーシティ&インクルージョンのガイドブックを作り、職員の研修も手伝ってきた。組織委員会の内部にこうしたチームがいる一方、「人権や差別の問題は、そのチームだけの担当分野だ」と見なされ、問題意識が組織委員会全体に広がるまでには至らなかったという。「LGBTQの理解を深めてもらうため、本当はメディア向けに勉強会を開きたかったんですが、組織委員会に、それは難しいと言われました。一方、IOCとは直接話すことができ、ガイドブックを渡すこともできました。また、ハバードさんの試合前日には、国際重量挙げ連盟の人がプライドハウスに来てくれ、ガイドブックのURLの入ったポストカードをメディアの皆さんに配ってくれました」と、松中さんは言う。グローバルな組織と日本の組織の意識の差を感じたという。■「LGBTQ法見送り」「同性婚禁止」の国の五輪ブルームバーグ通信は、東京オリンピックが掲げる多様性と調和のビジョンに関連して、「東京オリンピックは、LGBTQの理解促進のための法案を通すことができず、同性婚に反対する勢力が権力の中枢に根付いている国で開催されている」と記事の中で皮肉った。松中さんによると、五輪期間中、プライドハウスには30社以上のグローバルメディアが取材にきたそうだ。彼らは大会の話だけでなく、前国会で与党の反対で提出に至らなかったLGBTQの法案についても、かなり関心を持って聞いてきたという。現在開催されているパラリンピックは、五輪以上に多様性と調和が重視されるべき大会だ。「LGBTQのことも、『自分のまわりにはいない』という誤った認識から、差別、偏見がなくならない構造がある。パラリンピックに関しても、『自分たちの家族や友人の中にも起こりうることなんだ』と感じられるよう、皆さんが意識を向けられればよいと思っています」と松中さんは話す。世界人口の15%に障害があると言われる中、今度はパラリンピックを通じ、日本はどんなメッセージを世界に発信することができるのだろうか。そして、今回の五輪、パラリンピックから、日本人は何を学ぶのだろう。東京大会の終了後、私たちの手元に残るのは、日本社会の変革という大きな宿題だ。———-大門 小百合(だいもん・さゆり)ジャーナリスト、元ジャパンタイムズ執行役員・論説委員上智大学外国語学部卒業後、1991年ジャパンタイムズ入社。政治、経済担当の記者を経て、2006年より報道部長。2013年より執行役員。同10月には同社117年の歴史で女性として初めての編集最高責任者となる。2000年、ニーマン特別研究員として米・ハーバード大学でジャーナリズム、アメリカ政治を研究。2005年、キングファイサル研究所研究員としてサウジアラビアのリヤドに滞在し、現地の女性たちについて取材、研究する。著書に『The Japan Times報道デスク発グローバル社会を生きる女性のための情報力』(ジャパンタイムズ)、国際情勢解説者である田中宇との共著『ハーバード大学で語られる世界戦略』(光文社)など。———-(ジャーナリスト、元ジャパンタイムズ執行役員・論説委員 大門 小百合)
私が印象に残っているのは、走り高跳びで、カタールの選手とイタリアの選手が、金メダルを分け合ったシーンだ。審判に優勝決定戦を勧められたが、カタールのムタズエサ・バルシム選手が「私たちに金メダルを2つもらえないか?」と提案し、2人の金メダリストが誕生した。金メダルは1つだけでなくてもよい。分かち合うことの喜びを世界に示した、素晴らしい出来事だったと思う。■「ジェンダー」「性の多様性」が大きなテーマに今回の五輪は、森前会長の女性蔑視発言もあり、ジェンダー意識、「性の多様性」や「性の扱い」も大きなテーマになった。体操競技予選で、ドイツ女子代表チームがビキニカットのレオタードに代わり、足首までの脚全体を覆う「ユニタード」を着用して競技を行ったことが話題になった。これには、スポーツを性の対象とすることに対する抗議の意味があった。性的マイノリティーの選手の活躍にも注目が集まった。ニュージーランドの重量挙げの選手であるローレル・ハバード選手は、トランスジェンダー選手として史上初のオリンピック出場を果たした。さまざまな批判がある中で、自分が自認する性でプレーすることが実現した画期的な出来事だ。■差別的な構造が五輪で表面化今大会に参加したLGBTQの選手は、公表されているだけで史上最多の182人。これは、2016年のリオ大会の56人の3倍にあたる。ただ、日本でのマイノリティーや多様性に対する理解については疑問が残る。「これまで、『スポーツの世界は別だから』とか『日本は違うから』という、なぞのロジックで封じ込められてきた、日本の社会やスポーツ界の差別的な構造が、五輪を機に表面化した」と話すのは、LGBTQの権利擁護団体であるプライドハウス東京の松中権さんだ。松中さんは、組織委員会の人権労働ワーキンググループの委員も務め、さまざまなアドバイスをしてきた。たとえば、ボランティアの着るユニフォームも、トランスジェンダーの人にサンプル段階で着てもらい、助言をもらい変更を加えたそうだ。また、組織委員会のダイバーシティ&インクルージョンのガイドブックを作り、職員の研修も手伝ってきた。組織委員会の内部にこうしたチームがいる一方、「人権や差別の問題は、そのチームだけの担当分野だ」と見なされ、問題意識が組織委員会全体に広がるまでには至らなかったという。「LGBTQの理解を深めてもらうため、本当はメディア向けに勉強会を開きたかったんですが、組織委員会に、それは難しいと言われました。一方、IOCとは直接話すことができ、ガイドブックを渡すこともできました。また、ハバードさんの試合前日には、国際重量挙げ連盟の人がプライドハウスに来てくれ、ガイドブックのURLの入ったポストカードをメディアの皆さんに配ってくれました」と、松中さんは言う。グローバルな組織と日本の組織の意識の差を感じたという。■「LGBTQ法見送り」「同性婚禁止」の国の五輪ブルームバーグ通信は、東京オリンピックが掲げる多様性と調和のビジョンに関連して、「東京オリンピックは、LGBTQの理解促進のための法案を通すことができず、同性婚に反対する勢力が権力の中枢に根付いている国で開催されている」と記事の中で皮肉った。松中さんによると、五輪期間中、プライドハウスには30社以上のグローバルメディアが取材にきたそうだ。彼らは大会の話だけでなく、前国会で与党の反対で提出に至らなかったLGBTQの法案についても、かなり関心を持って聞いてきたという。現在開催されているパラリンピックは、五輪以上に多様性と調和が重視されるべき大会だ。「LGBTQのことも、『自分のまわりにはいない』という誤った認識から、差別、偏見がなくならない構造がある。パラリンピックに関しても、『自分たちの家族や友人の中にも起こりうることなんだ』と感じられるよう、皆さんが意識を向けられればよいと思っています」と松中さんは話す。世界人口の15%に障害があると言われる中、今度はパラリンピックを通じ、日本はどんなメッセージを世界に発信することができるのだろうか。そして、今回の五輪、パラリンピックから、日本人は何を学ぶのだろう。東京大会の終了後、私たちの手元に残るのは、日本社会の変革という大きな宿題だ。———-大門 小百合(だいもん・さゆり)ジャーナリスト、元ジャパンタイムズ執行役員・論説委員上智大学外国語学部卒業後、1991年ジャパンタイムズ入社。政治、経済担当の記者を経て、2006年より報道部長。2013年より執行役員。同10月には同社117年の歴史で女性として初めての編集最高責任者となる。2000年、ニーマン特別研究員として米・ハーバード大学でジャーナリズム、アメリカ政治を研究。2005年、キングファイサル研究所研究員としてサウジアラビアのリヤドに滞在し、現地の女性たちについて取材、研究する。著書に『The Japan Times報道デスク発グローバル社会を生きる女性のための情報力』(ジャパンタイムズ)、国際情勢解説者である田中宇との共著『ハーバード大学で語られる世界戦略』(光文社)など。———-(ジャーナリスト、元ジャパンタイムズ執行役員・論説委員 大門 小百合)
今回の五輪は、森前会長の女性蔑視発言もあり、ジェンダー意識、「性の多様性」や「性の扱い」も大きなテーマになった。体操競技予選で、ドイツ女子代表チームがビキニカットのレオタードに代わり、足首までの脚全体を覆う「ユニタード」を着用して競技を行ったことが話題になった。これには、スポーツを性の対象とすることに対する抗議の意味があった。性的マイノリティーの選手の活躍にも注目が集まった。ニュージーランドの重量挙げの選手であるローレル・ハバード選手は、トランスジェンダー選手として史上初のオリンピック出場を果たした。さまざまな批判がある中で、自分が自認する性でプレーすることが実現した画期的な出来事だ。■差別的な構造が五輪で表面化今大会に参加したLGBTQの選手は、公表されているだけで史上最多の182人。これは、2016年のリオ大会の56人の3倍にあたる。ただ、日本でのマイノリティーや多様性に対する理解については疑問が残る。「これまで、『スポーツの世界は別だから』とか『日本は違うから』という、なぞのロジックで封じ込められてきた、日本の社会やスポーツ界の差別的な構造が、五輪を機に表面化した」と話すのは、LGBTQの権利擁護団体であるプライドハウス東京の松中権さんだ。松中さんは、組織委員会の人権労働ワーキンググループの委員も務め、さまざまなアドバイスをしてきた。たとえば、ボランティアの着るユニフォームも、トランスジェンダーの人にサンプル段階で着てもらい、助言をもらい変更を加えたそうだ。また、組織委員会のダイバーシティ&インクルージョンのガイドブックを作り、職員の研修も手伝ってきた。組織委員会の内部にこうしたチームがいる一方、「人権や差別の問題は、そのチームだけの担当分野だ」と見なされ、問題意識が組織委員会全体に広がるまでには至らなかったという。「LGBTQの理解を深めてもらうため、本当はメディア向けに勉強会を開きたかったんですが、組織委員会に、それは難しいと言われました。一方、IOCとは直接話すことができ、ガイドブックを渡すこともできました。また、ハバードさんの試合前日には、国際重量挙げ連盟の人がプライドハウスに来てくれ、ガイドブックのURLの入ったポストカードをメディアの皆さんに配ってくれました」と、松中さんは言う。グローバルな組織と日本の組織の意識の差を感じたという。■「LGBTQ法見送り」「同性婚禁止」の国の五輪ブルームバーグ通信は、東京オリンピックが掲げる多様性と調和のビジョンに関連して、「東京オリンピックは、LGBTQの理解促進のための法案を通すことができず、同性婚に反対する勢力が権力の中枢に根付いている国で開催されている」と記事の中で皮肉った。松中さんによると、五輪期間中、プライドハウスには30社以上のグローバルメディアが取材にきたそうだ。彼らは大会の話だけでなく、前国会で与党の反対で提出に至らなかったLGBTQの法案についても、かなり関心を持って聞いてきたという。現在開催されているパラリンピックは、五輪以上に多様性と調和が重視されるべき大会だ。「LGBTQのことも、『自分のまわりにはいない』という誤った認識から、差別、偏見がなくならない構造がある。パラリンピックに関しても、『自分たちの家族や友人の中にも起こりうることなんだ』と感じられるよう、皆さんが意識を向けられればよいと思っています」と松中さんは話す。世界人口の15%に障害があると言われる中、今度はパラリンピックを通じ、日本はどんなメッセージを世界に発信することができるのだろうか。そして、今回の五輪、パラリンピックから、日本人は何を学ぶのだろう。東京大会の終了後、私たちの手元に残るのは、日本社会の変革という大きな宿題だ。———-大門 小百合(だいもん・さゆり)ジャーナリスト、元ジャパンタイムズ執行役員・論説委員上智大学外国語学部卒業後、1991年ジャパンタイムズ入社。政治、経済担当の記者を経て、2006年より報道部長。2013年より執行役員。同10月には同社117年の歴史で女性として初めての編集最高責任者となる。2000年、ニーマン特別研究員として米・ハーバード大学でジャーナリズム、アメリカ政治を研究。2005年、キングファイサル研究所研究員としてサウジアラビアのリヤドに滞在し、現地の女性たちについて取材、研究する。著書に『The Japan Times報道デスク発グローバル社会を生きる女性のための情報力』(ジャパンタイムズ)、国際情勢解説者である田中宇との共著『ハーバード大学で語られる世界戦略』(光文社)など。———-(ジャーナリスト、元ジャパンタイムズ執行役員・論説委員 大門 小百合)
体操競技予選で、ドイツ女子代表チームがビキニカットのレオタードに代わり、足首までの脚全体を覆う「ユニタード」を着用して競技を行ったことが話題になった。これには、スポーツを性の対象とすることに対する抗議の意味があった。性的マイノリティーの選手の活躍にも注目が集まった。ニュージーランドの重量挙げの選手であるローレル・ハバード選手は、トランスジェンダー選手として史上初のオリンピック出場を果たした。さまざまな批判がある中で、自分が自認する性でプレーすることが実現した画期的な出来事だ。■差別的な構造が五輪で表面化今大会に参加したLGBTQの選手は、公表されているだけで史上最多の182人。これは、2016年のリオ大会の56人の3倍にあたる。ただ、日本でのマイノリティーや多様性に対する理解については疑問が残る。「これまで、『スポーツの世界は別だから』とか『日本は違うから』という、なぞのロジックで封じ込められてきた、日本の社会やスポーツ界の差別的な構造が、五輪を機に表面化した」と話すのは、LGBTQの権利擁護団体であるプライドハウス東京の松中権さんだ。松中さんは、組織委員会の人権労働ワーキンググループの委員も務め、さまざまなアドバイスをしてきた。たとえば、ボランティアの着るユニフォームも、トランスジェンダーの人にサンプル段階で着てもらい、助言をもらい変更を加えたそうだ。また、組織委員会のダイバーシティ&インクルージョンのガイドブックを作り、職員の研修も手伝ってきた。組織委員会の内部にこうしたチームがいる一方、「人権や差別の問題は、そのチームだけの担当分野だ」と見なされ、問題意識が組織委員会全体に広がるまでには至らなかったという。「LGBTQの理解を深めてもらうため、本当はメディア向けに勉強会を開きたかったんですが、組織委員会に、それは難しいと言われました。一方、IOCとは直接話すことができ、ガイドブックを渡すこともできました。また、ハバードさんの試合前日には、国際重量挙げ連盟の人がプライドハウスに来てくれ、ガイドブックのURLの入ったポストカードをメディアの皆さんに配ってくれました」と、松中さんは言う。グローバルな組織と日本の組織の意識の差を感じたという。■「LGBTQ法見送り」「同性婚禁止」の国の五輪ブルームバーグ通信は、東京オリンピックが掲げる多様性と調和のビジョンに関連して、「東京オリンピックは、LGBTQの理解促進のための法案を通すことができず、同性婚に反対する勢力が権力の中枢に根付いている国で開催されている」と記事の中で皮肉った。松中さんによると、五輪期間中、プライドハウスには30社以上のグローバルメディアが取材にきたそうだ。彼らは大会の話だけでなく、前国会で与党の反対で提出に至らなかったLGBTQの法案についても、かなり関心を持って聞いてきたという。現在開催されているパラリンピックは、五輪以上に多様性と調和が重視されるべき大会だ。「LGBTQのことも、『自分のまわりにはいない』という誤った認識から、差別、偏見がなくならない構造がある。パラリンピックに関しても、『自分たちの家族や友人の中にも起こりうることなんだ』と感じられるよう、皆さんが意識を向けられればよいと思っています」と松中さんは話す。世界人口の15%に障害があると言われる中、今度はパラリンピックを通じ、日本はどんなメッセージを世界に発信することができるのだろうか。そして、今回の五輪、パラリンピックから、日本人は何を学ぶのだろう。東京大会の終了後、私たちの手元に残るのは、日本社会の変革という大きな宿題だ。———-大門 小百合(だいもん・さゆり)ジャーナリスト、元ジャパンタイムズ執行役員・論説委員上智大学外国語学部卒業後、1991年ジャパンタイムズ入社。政治、経済担当の記者を経て、2006年より報道部長。2013年より執行役員。同10月には同社117年の歴史で女性として初めての編集最高責任者となる。2000年、ニーマン特別研究員として米・ハーバード大学でジャーナリズム、アメリカ政治を研究。2005年、キングファイサル研究所研究員としてサウジアラビアのリヤドに滞在し、現地の女性たちについて取材、研究する。著書に『The Japan Times報道デスク発グローバル社会を生きる女性のための情報力』(ジャパンタイムズ)、国際情勢解説者である田中宇との共著『ハーバード大学で語られる世界戦略』(光文社)など。———-(ジャーナリスト、元ジャパンタイムズ執行役員・論説委員 大門 小百合)
性的マイノリティーの選手の活躍にも注目が集まった。ニュージーランドの重量挙げの選手であるローレル・ハバード選手は、トランスジェンダー選手として史上初のオリンピック出場を果たした。さまざまな批判がある中で、自分が自認する性でプレーすることが実現した画期的な出来事だ。■差別的な構造が五輪で表面化今大会に参加したLGBTQの選手は、公表されているだけで史上最多の182人。これは、2016年のリオ大会の56人の3倍にあたる。ただ、日本でのマイノリティーや多様性に対する理解については疑問が残る。「これまで、『スポーツの世界は別だから』とか『日本は違うから』という、なぞのロジックで封じ込められてきた、日本の社会やスポーツ界の差別的な構造が、五輪を機に表面化した」と話すのは、LGBTQの権利擁護団体であるプライドハウス東京の松中権さんだ。松中さんは、組織委員会の人権労働ワーキンググループの委員も務め、さまざまなアドバイスをしてきた。たとえば、ボランティアの着るユニフォームも、トランスジェンダーの人にサンプル段階で着てもらい、助言をもらい変更を加えたそうだ。また、組織委員会のダイバーシティ&インクルージョンのガイドブックを作り、職員の研修も手伝ってきた。組織委員会の内部にこうしたチームがいる一方、「人権や差別の問題は、そのチームだけの担当分野だ」と見なされ、問題意識が組織委員会全体に広がるまでには至らなかったという。「LGBTQの理解を深めてもらうため、本当はメディア向けに勉強会を開きたかったんですが、組織委員会に、それは難しいと言われました。一方、IOCとは直接話すことができ、ガイドブックを渡すこともできました。また、ハバードさんの試合前日には、国際重量挙げ連盟の人がプライドハウスに来てくれ、ガイドブックのURLの入ったポストカードをメディアの皆さんに配ってくれました」と、松中さんは言う。グローバルな組織と日本の組織の意識の差を感じたという。■「LGBTQ法見送り」「同性婚禁止」の国の五輪ブルームバーグ通信は、東京オリンピックが掲げる多様性と調和のビジョンに関連して、「東京オリンピックは、LGBTQの理解促進のための法案を通すことができず、同性婚に反対する勢力が権力の中枢に根付いている国で開催されている」と記事の中で皮肉った。松中さんによると、五輪期間中、プライドハウスには30社以上のグローバルメディアが取材にきたそうだ。彼らは大会の話だけでなく、前国会で与党の反対で提出に至らなかったLGBTQの法案についても、かなり関心を持って聞いてきたという。現在開催されているパラリンピックは、五輪以上に多様性と調和が重視されるべき大会だ。「LGBTQのことも、『自分のまわりにはいない』という誤った認識から、差別、偏見がなくならない構造がある。パラリンピックに関しても、『自分たちの家族や友人の中にも起こりうることなんだ』と感じられるよう、皆さんが意識を向けられればよいと思っています」と松中さんは話す。世界人口の15%に障害があると言われる中、今度はパラリンピックを通じ、日本はどんなメッセージを世界に発信することができるのだろうか。そして、今回の五輪、パラリンピックから、日本人は何を学ぶのだろう。東京大会の終了後、私たちの手元に残るのは、日本社会の変革という大きな宿題だ。———-大門 小百合(だいもん・さゆり)ジャーナリスト、元ジャパンタイムズ執行役員・論説委員上智大学外国語学部卒業後、1991年ジャパンタイムズ入社。政治、経済担当の記者を経て、2006年より報道部長。2013年より執行役員。同10月には同社117年の歴史で女性として初めての編集最高責任者となる。2000年、ニーマン特別研究員として米・ハーバード大学でジャーナリズム、アメリカ政治を研究。2005年、キングファイサル研究所研究員としてサウジアラビアのリヤドに滞在し、現地の女性たちについて取材、研究する。著書に『The Japan Times報道デスク発グローバル社会を生きる女性のための情報力』(ジャパンタイムズ)、国際情勢解説者である田中宇との共著『ハーバード大学で語られる世界戦略』(光文社)など。———-(ジャーナリスト、元ジャパンタイムズ執行役員・論説委員 大門 小百合)
今大会に参加したLGBTQの選手は、公表されているだけで史上最多の182人。これは、2016年のリオ大会の56人の3倍にあたる。ただ、日本でのマイノリティーや多様性に対する理解については疑問が残る。「これまで、『スポーツの世界は別だから』とか『日本は違うから』という、なぞのロジックで封じ込められてきた、日本の社会やスポーツ界の差別的な構造が、五輪を機に表面化した」と話すのは、LGBTQの権利擁護団体であるプライドハウス東京の松中権さんだ。松中さんは、組織委員会の人権労働ワーキンググループの委員も務め、さまざまなアドバイスをしてきた。たとえば、ボランティアの着るユニフォームも、トランスジェンダーの人にサンプル段階で着てもらい、助言をもらい変更を加えたそうだ。また、組織委員会のダイバーシティ&インクルージョンのガイドブックを作り、職員の研修も手伝ってきた。組織委員会の内部にこうしたチームがいる一方、「人権や差別の問題は、そのチームだけの担当分野だ」と見なされ、問題意識が組織委員会全体に広がるまでには至らなかったという。「LGBTQの理解を深めてもらうため、本当はメディア向けに勉強会を開きたかったんですが、組織委員会に、それは難しいと言われました。一方、IOCとは直接話すことができ、ガイドブックを渡すこともできました。また、ハバードさんの試合前日には、国際重量挙げ連盟の人がプライドハウスに来てくれ、ガイドブックのURLの入ったポストカードをメディアの皆さんに配ってくれました」と、松中さんは言う。グローバルな組織と日本の組織の意識の差を感じたという。■「LGBTQ法見送り」「同性婚禁止」の国の五輪ブルームバーグ通信は、東京オリンピックが掲げる多様性と調和のビジョンに関連して、「東京オリンピックは、LGBTQの理解促進のための法案を通すことができず、同性婚に反対する勢力が権力の中枢に根付いている国で開催されている」と記事の中で皮肉った。松中さんによると、五輪期間中、プライドハウスには30社以上のグローバルメディアが取材にきたそうだ。彼らは大会の話だけでなく、前国会で与党の反対で提出に至らなかったLGBTQの法案についても、かなり関心を持って聞いてきたという。現在開催されているパラリンピックは、五輪以上に多様性と調和が重視されるべき大会だ。「LGBTQのことも、『自分のまわりにはいない』という誤った認識から、差別、偏見がなくならない構造がある。パラリンピックに関しても、『自分たちの家族や友人の中にも起こりうることなんだ』と感じられるよう、皆さんが意識を向けられればよいと思っています」と松中さんは話す。世界人口の15%に障害があると言われる中、今度はパラリンピックを通じ、日本はどんなメッセージを世界に発信することができるのだろうか。そして、今回の五輪、パラリンピックから、日本人は何を学ぶのだろう。東京大会の終了後、私たちの手元に残るのは、日本社会の変革という大きな宿題だ。———-大門 小百合(だいもん・さゆり)ジャーナリスト、元ジャパンタイムズ執行役員・論説委員上智大学外国語学部卒業後、1991年ジャパンタイムズ入社。政治、経済担当の記者を経て、2006年より報道部長。2013年より執行役員。同10月には同社117年の歴史で女性として初めての編集最高責任者となる。2000年、ニーマン特別研究員として米・ハーバード大学でジャーナリズム、アメリカ政治を研究。2005年、キングファイサル研究所研究員としてサウジアラビアのリヤドに滞在し、現地の女性たちについて取材、研究する。著書に『The Japan Times報道デスク発グローバル社会を生きる女性のための情報力』(ジャパンタイムズ)、国際情勢解説者である田中宇との共著『ハーバード大学で語られる世界戦略』(光文社)など。———-(ジャーナリスト、元ジャパンタイムズ執行役員・論説委員 大門 小百合)
ただ、日本でのマイノリティーや多様性に対する理解については疑問が残る。「これまで、『スポーツの世界は別だから』とか『日本は違うから』という、なぞのロジックで封じ込められてきた、日本の社会やスポーツ界の差別的な構造が、五輪を機に表面化した」と話すのは、LGBTQの権利擁護団体であるプライドハウス東京の松中権さんだ。松中さんは、組織委員会の人権労働ワーキンググループの委員も務め、さまざまなアドバイスをしてきた。たとえば、ボランティアの着るユニフォームも、トランスジェンダーの人にサンプル段階で着てもらい、助言をもらい変更を加えたそうだ。また、組織委員会のダイバーシティ&インクルージョンのガイドブックを作り、職員の研修も手伝ってきた。組織委員会の内部にこうしたチームがいる一方、「人権や差別の問題は、そのチームだけの担当分野だ」と見なされ、問題意識が組織委員会全体に広がるまでには至らなかったという。「LGBTQの理解を深めてもらうため、本当はメディア向けに勉強会を開きたかったんですが、組織委員会に、それは難しいと言われました。一方、IOCとは直接話すことができ、ガイドブックを渡すこともできました。また、ハバードさんの試合前日には、国際重量挙げ連盟の人がプライドハウスに来てくれ、ガイドブックのURLの入ったポストカードをメディアの皆さんに配ってくれました」と、松中さんは言う。グローバルな組織と日本の組織の意識の差を感じたという。■「LGBTQ法見送り」「同性婚禁止」の国の五輪ブルームバーグ通信は、東京オリンピックが掲げる多様性と調和のビジョンに関連して、「東京オリンピックは、LGBTQの理解促進のための法案を通すことができず、同性婚に反対する勢力が権力の中枢に根付いている国で開催されている」と記事の中で皮肉った。松中さんによると、五輪期間中、プライドハウスには30社以上のグローバルメディアが取材にきたそうだ。彼らは大会の話だけでなく、前国会で与党の反対で提出に至らなかったLGBTQの法案についても、かなり関心を持って聞いてきたという。現在開催されているパラリンピックは、五輪以上に多様性と調和が重視されるべき大会だ。「LGBTQのことも、『自分のまわりにはいない』という誤った認識から、差別、偏見がなくならない構造がある。パラリンピックに関しても、『自分たちの家族や友人の中にも起こりうることなんだ』と感じられるよう、皆さんが意識を向けられればよいと思っています」と松中さんは話す。世界人口の15%に障害があると言われる中、今度はパラリンピックを通じ、日本はどんなメッセージを世界に発信することができるのだろうか。そして、今回の五輪、パラリンピックから、日本人は何を学ぶのだろう。東京大会の終了後、私たちの手元に残るのは、日本社会の変革という大きな宿題だ。———-大門 小百合(だいもん・さゆり)ジャーナリスト、元ジャパンタイムズ執行役員・論説委員上智大学外国語学部卒業後、1991年ジャパンタイムズ入社。政治、経済担当の記者を経て、2006年より報道部長。2013年より執行役員。同10月には同社117年の歴史で女性として初めての編集最高責任者となる。2000年、ニーマン特別研究員として米・ハーバード大学でジャーナリズム、アメリカ政治を研究。2005年、キングファイサル研究所研究員としてサウジアラビアのリヤドに滞在し、現地の女性たちについて取材、研究する。著書に『The Japan Times報道デスク発グローバル社会を生きる女性のための情報力』(ジャパンタイムズ)、国際情勢解説者である田中宇との共著『ハーバード大学で語られる世界戦略』(光文社)など。———-(ジャーナリスト、元ジャパンタイムズ執行役員・論説委員 大門 小百合)
「これまで、『スポーツの世界は別だから』とか『日本は違うから』という、なぞのロジックで封じ込められてきた、日本の社会やスポーツ界の差別的な構造が、五輪を機に表面化した」と話すのは、LGBTQの権利擁護団体であるプライドハウス東京の松中権さんだ。松中さんは、組織委員会の人権労働ワーキンググループの委員も務め、さまざまなアドバイスをしてきた。たとえば、ボランティアの着るユニフォームも、トランスジェンダーの人にサンプル段階で着てもらい、助言をもらい変更を加えたそうだ。また、組織委員会のダイバーシティ&インクルージョンのガイドブックを作り、職員の研修も手伝ってきた。組織委員会の内部にこうしたチームがいる一方、「人権や差別の問題は、そのチームだけの担当分野だ」と見なされ、問題意識が組織委員会全体に広がるまでには至らなかったという。「LGBTQの理解を深めてもらうため、本当はメディア向けに勉強会を開きたかったんですが、組織委員会に、それは難しいと言われました。一方、IOCとは直接話すことができ、ガイドブックを渡すこともできました。また、ハバードさんの試合前日には、国際重量挙げ連盟の人がプライドハウスに来てくれ、ガイドブックのURLの入ったポストカードをメディアの皆さんに配ってくれました」と、松中さんは言う。グローバルな組織と日本の組織の意識の差を感じたという。■「LGBTQ法見送り」「同性婚禁止」の国の五輪ブルームバーグ通信は、東京オリンピックが掲げる多様性と調和のビジョンに関連して、「東京オリンピックは、LGBTQの理解促進のための法案を通すことができず、同性婚に反対する勢力が権力の中枢に根付いている国で開催されている」と記事の中で皮肉った。松中さんによると、五輪期間中、プライドハウスには30社以上のグローバルメディアが取材にきたそうだ。彼らは大会の話だけでなく、前国会で与党の反対で提出に至らなかったLGBTQの法案についても、かなり関心を持って聞いてきたという。現在開催されているパラリンピックは、五輪以上に多様性と調和が重視されるべき大会だ。「LGBTQのことも、『自分のまわりにはいない』という誤った認識から、差別、偏見がなくならない構造がある。パラリンピックに関しても、『自分たちの家族や友人の中にも起こりうることなんだ』と感じられるよう、皆さんが意識を向けられればよいと思っています」と松中さんは話す。世界人口の15%に障害があると言われる中、今度はパラリンピックを通じ、日本はどんなメッセージを世界に発信することができるのだろうか。そして、今回の五輪、パラリンピックから、日本人は何を学ぶのだろう。東京大会の終了後、私たちの手元に残るのは、日本社会の変革という大きな宿題だ。———-大門 小百合(だいもん・さゆり)ジャーナリスト、元ジャパンタイムズ執行役員・論説委員上智大学外国語学部卒業後、1991年ジャパンタイムズ入社。政治、経済担当の記者を経て、2006年より報道部長。2013年より執行役員。同10月には同社117年の歴史で女性として初めての編集最高責任者となる。2000年、ニーマン特別研究員として米・ハーバード大学でジャーナリズム、アメリカ政治を研究。2005年、キングファイサル研究所研究員としてサウジアラビアのリヤドに滞在し、現地の女性たちについて取材、研究する。著書に『The Japan Times報道デスク発グローバル社会を生きる女性のための情報力』(ジャパンタイムズ)、国際情勢解説者である田中宇との共著『ハーバード大学で語られる世界戦略』(光文社)など。———-(ジャーナリスト、元ジャパンタイムズ執行役員・論説委員 大門 小百合)
松中さんは、組織委員会の人権労働ワーキンググループの委員も務め、さまざまなアドバイスをしてきた。たとえば、ボランティアの着るユニフォームも、トランスジェンダーの人にサンプル段階で着てもらい、助言をもらい変更を加えたそうだ。また、組織委員会のダイバーシティ&インクルージョンのガイドブックを作り、職員の研修も手伝ってきた。組織委員会の内部にこうしたチームがいる一方、「人権や差別の問題は、そのチームだけの担当分野だ」と見なされ、問題意識が組織委員会全体に広がるまでには至らなかったという。「LGBTQの理解を深めてもらうため、本当はメディア向けに勉強会を開きたかったんですが、組織委員会に、それは難しいと言われました。一方、IOCとは直接話すことができ、ガイドブックを渡すこともできました。また、ハバードさんの試合前日には、国際重量挙げ連盟の人がプライドハウスに来てくれ、ガイドブックのURLの入ったポストカードをメディアの皆さんに配ってくれました」と、松中さんは言う。グローバルな組織と日本の組織の意識の差を感じたという。■「LGBTQ法見送り」「同性婚禁止」の国の五輪ブルームバーグ通信は、東京オリンピックが掲げる多様性と調和のビジョンに関連して、「東京オリンピックは、LGBTQの理解促進のための法案を通すことができず、同性婚に反対する勢力が権力の中枢に根付いている国で開催されている」と記事の中で皮肉った。松中さんによると、五輪期間中、プライドハウスには30社以上のグローバルメディアが取材にきたそうだ。彼らは大会の話だけでなく、前国会で与党の反対で提出に至らなかったLGBTQの法案についても、かなり関心を持って聞いてきたという。現在開催されているパラリンピックは、五輪以上に多様性と調和が重視されるべき大会だ。「LGBTQのことも、『自分のまわりにはいない』という誤った認識から、差別、偏見がなくならない構造がある。パラリンピックに関しても、『自分たちの家族や友人の中にも起こりうることなんだ』と感じられるよう、皆さんが意識を向けられればよいと思っています」と松中さんは話す。世界人口の15%に障害があると言われる中、今度はパラリンピックを通じ、日本はどんなメッセージを世界に発信することができるのだろうか。そして、今回の五輪、パラリンピックから、日本人は何を学ぶのだろう。東京大会の終了後、私たちの手元に残るのは、日本社会の変革という大きな宿題だ。———-大門 小百合(だいもん・さゆり)ジャーナリスト、元ジャパンタイムズ執行役員・論説委員上智大学外国語学部卒業後、1991年ジャパンタイムズ入社。政治、経済担当の記者を経て、2006年より報道部長。2013年より執行役員。同10月には同社117年の歴史で女性として初めての編集最高責任者となる。2000年、ニーマン特別研究員として米・ハーバード大学でジャーナリズム、アメリカ政治を研究。2005年、キングファイサル研究所研究員としてサウジアラビアのリヤドに滞在し、現地の女性たちについて取材、研究する。著書に『The Japan Times報道デスク発グローバル社会を生きる女性のための情報力』(ジャパンタイムズ)、国際情勢解説者である田中宇との共著『ハーバード大学で語られる世界戦略』(光文社)など。———-(ジャーナリスト、元ジャパンタイムズ執行役員・論説委員 大門 小百合)
たとえば、ボランティアの着るユニフォームも、トランスジェンダーの人にサンプル段階で着てもらい、助言をもらい変更を加えたそうだ。また、組織委員会のダイバーシティ&インクルージョンのガイドブックを作り、職員の研修も手伝ってきた。組織委員会の内部にこうしたチームがいる一方、「人権や差別の問題は、そのチームだけの担当分野だ」と見なされ、問題意識が組織委員会全体に広がるまでには至らなかったという。「LGBTQの理解を深めてもらうため、本当はメディア向けに勉強会を開きたかったんですが、組織委員会に、それは難しいと言われました。一方、IOCとは直接話すことができ、ガイドブックを渡すこともできました。また、ハバードさんの試合前日には、国際重量挙げ連盟の人がプライドハウスに来てくれ、ガイドブックのURLの入ったポストカードをメディアの皆さんに配ってくれました」と、松中さんは言う。グローバルな組織と日本の組織の意識の差を感じたという。■「LGBTQ法見送り」「同性婚禁止」の国の五輪ブルームバーグ通信は、東京オリンピックが掲げる多様性と調和のビジョンに関連して、「東京オリンピックは、LGBTQの理解促進のための法案を通すことができず、同性婚に反対する勢力が権力の中枢に根付いている国で開催されている」と記事の中で皮肉った。松中さんによると、五輪期間中、プライドハウスには30社以上のグローバルメディアが取材にきたそうだ。彼らは大会の話だけでなく、前国会で与党の反対で提出に至らなかったLGBTQの法案についても、かなり関心を持って聞いてきたという。現在開催されているパラリンピックは、五輪以上に多様性と調和が重視されるべき大会だ。「LGBTQのことも、『自分のまわりにはいない』という誤った認識から、差別、偏見がなくならない構造がある。パラリンピックに関しても、『自分たちの家族や友人の中にも起こりうることなんだ』と感じられるよう、皆さんが意識を向けられればよいと思っています」と松中さんは話す。世界人口の15%に障害があると言われる中、今度はパラリンピックを通じ、日本はどんなメッセージを世界に発信することができるのだろうか。そして、今回の五輪、パラリンピックから、日本人は何を学ぶのだろう。東京大会の終了後、私たちの手元に残るのは、日本社会の変革という大きな宿題だ。———-大門 小百合(だいもん・さゆり)ジャーナリスト、元ジャパンタイムズ執行役員・論説委員上智大学外国語学部卒業後、1991年ジャパンタイムズ入社。政治、経済担当の記者を経て、2006年より報道部長。2013年より執行役員。同10月には同社117年の歴史で女性として初めての編集最高責任者となる。2000年、ニーマン特別研究員として米・ハーバード大学でジャーナリズム、アメリカ政治を研究。2005年、キングファイサル研究所研究員としてサウジアラビアのリヤドに滞在し、現地の女性たちについて取材、研究する。著書に『The Japan Times報道デスク発グローバル社会を生きる女性のための情報力』(ジャパンタイムズ)、国際情勢解説者である田中宇との共著『ハーバード大学で語られる世界戦略』(光文社)など。———-(ジャーナリスト、元ジャパンタイムズ執行役員・論説委員 大門 小百合)
「LGBTQの理解を深めてもらうため、本当はメディア向けに勉強会を開きたかったんですが、組織委員会に、それは難しいと言われました。一方、IOCとは直接話すことができ、ガイドブックを渡すこともできました。また、ハバードさんの試合前日には、国際重量挙げ連盟の人がプライドハウスに来てくれ、ガイドブックのURLの入ったポストカードをメディアの皆さんに配ってくれました」と、松中さんは言う。グローバルな組織と日本の組織の意識の差を感じたという。■「LGBTQ法見送り」「同性婚禁止」の国の五輪ブルームバーグ通信は、東京オリンピックが掲げる多様性と調和のビジョンに関連して、「東京オリンピックは、LGBTQの理解促進のための法案を通すことができず、同性婚に反対する勢力が権力の中枢に根付いている国で開催されている」と記事の中で皮肉った。松中さんによると、五輪期間中、プライドハウスには30社以上のグローバルメディアが取材にきたそうだ。彼らは大会の話だけでなく、前国会で与党の反対で提出に至らなかったLGBTQの法案についても、かなり関心を持って聞いてきたという。現在開催されているパラリンピックは、五輪以上に多様性と調和が重視されるべき大会だ。「LGBTQのことも、『自分のまわりにはいない』という誤った認識から、差別、偏見がなくならない構造がある。パラリンピックに関しても、『自分たちの家族や友人の中にも起こりうることなんだ』と感じられるよう、皆さんが意識を向けられればよいと思っています」と松中さんは話す。世界人口の15%に障害があると言われる中、今度はパラリンピックを通じ、日本はどんなメッセージを世界に発信することができるのだろうか。そして、今回の五輪、パラリンピックから、日本人は何を学ぶのだろう。東京大会の終了後、私たちの手元に残るのは、日本社会の変革という大きな宿題だ。———-大門 小百合(だいもん・さゆり)ジャーナリスト、元ジャパンタイムズ執行役員・論説委員上智大学外国語学部卒業後、1991年ジャパンタイムズ入社。政治、経済担当の記者を経て、2006年より報道部長。2013年より執行役員。同10月には同社117年の歴史で女性として初めての編集最高責任者となる。2000年、ニーマン特別研究員として米・ハーバード大学でジャーナリズム、アメリカ政治を研究。2005年、キングファイサル研究所研究員としてサウジアラビアのリヤドに滞在し、現地の女性たちについて取材、研究する。著書に『The Japan Times報道デスク発グローバル社会を生きる女性のための情報力』(ジャパンタイムズ)、国際情勢解説者である田中宇との共著『ハーバード大学で語られる世界戦略』(光文社)など。———-(ジャーナリスト、元ジャパンタイムズ執行役員・論説委員 大門 小百合)
ブルームバーグ通信は、東京オリンピックが掲げる多様性と調和のビジョンに関連して、「東京オリンピックは、LGBTQの理解促進のための法案を通すことができず、同性婚に反対する勢力が権力の中枢に根付いている国で開催されている」と記事の中で皮肉った。松中さんによると、五輪期間中、プライドハウスには30社以上のグローバルメディアが取材にきたそうだ。彼らは大会の話だけでなく、前国会で与党の反対で提出に至らなかったLGBTQの法案についても、かなり関心を持って聞いてきたという。現在開催されているパラリンピックは、五輪以上に多様性と調和が重視されるべき大会だ。「LGBTQのことも、『自分のまわりにはいない』という誤った認識から、差別、偏見がなくならない構造がある。パラリンピックに関しても、『自分たちの家族や友人の中にも起こりうることなんだ』と感じられるよう、皆さんが意識を向けられればよいと思っています」と松中さんは話す。世界人口の15%に障害があると言われる中、今度はパラリンピックを通じ、日本はどんなメッセージを世界に発信することができるのだろうか。そして、今回の五輪、パラリンピックから、日本人は何を学ぶのだろう。東京大会の終了後、私たちの手元に残るのは、日本社会の変革という大きな宿題だ。———-大門 小百合(だいもん・さゆり)ジャーナリスト、元ジャパンタイムズ執行役員・論説委員上智大学外国語学部卒業後、1991年ジャパンタイムズ入社。政治、経済担当の記者を経て、2006年より報道部長。2013年より執行役員。同10月には同社117年の歴史で女性として初めての編集最高責任者となる。2000年、ニーマン特別研究員として米・ハーバード大学でジャーナリズム、アメリカ政治を研究。2005年、キングファイサル研究所研究員としてサウジアラビアのリヤドに滞在し、現地の女性たちについて取材、研究する。著書に『The Japan Times報道デスク発グローバル社会を生きる女性のための情報力』(ジャパンタイムズ)、国際情勢解説者である田中宇との共著『ハーバード大学で語られる世界戦略』(光文社)など。———-(ジャーナリスト、元ジャパンタイムズ執行役員・論説委員 大門 小百合)
松中さんによると、五輪期間中、プライドハウスには30社以上のグローバルメディアが取材にきたそうだ。彼らは大会の話だけでなく、前国会で与党の反対で提出に至らなかったLGBTQの法案についても、かなり関心を持って聞いてきたという。現在開催されているパラリンピックは、五輪以上に多様性と調和が重視されるべき大会だ。「LGBTQのことも、『自分のまわりにはいない』という誤った認識から、差別、偏見がなくならない構造がある。パラリンピックに関しても、『自分たちの家族や友人の中にも起こりうることなんだ』と感じられるよう、皆さんが意識を向けられればよいと思っています」と松中さんは話す。世界人口の15%に障害があると言われる中、今度はパラリンピックを通じ、日本はどんなメッセージを世界に発信することができるのだろうか。そして、今回の五輪、パラリンピックから、日本人は何を学ぶのだろう。東京大会の終了後、私たちの手元に残るのは、日本社会の変革という大きな宿題だ。———-大門 小百合(だいもん・さゆり)ジャーナリスト、元ジャパンタイムズ執行役員・論説委員上智大学外国語学部卒業後、1991年ジャパンタイムズ入社。政治、経済担当の記者を経て、2006年より報道部長。2013年より執行役員。同10月には同社117年の歴史で女性として初めての編集最高責任者となる。2000年、ニーマン特別研究員として米・ハーバード大学でジャーナリズム、アメリカ政治を研究。2005年、キングファイサル研究所研究員としてサウジアラビアのリヤドに滞在し、現地の女性たちについて取材、研究する。著書に『The Japan Times報道デスク発グローバル社会を生きる女性のための情報力』(ジャパンタイムズ)、国際情勢解説者である田中宇との共著『ハーバード大学で語られる世界戦略』(光文社)など。———-(ジャーナリスト、元ジャパンタイムズ執行役員・論説委員 大門 小百合)
現在開催されているパラリンピックは、五輪以上に多様性と調和が重視されるべき大会だ。「LGBTQのことも、『自分のまわりにはいない』という誤った認識から、差別、偏見がなくならない構造がある。パラリンピックに関しても、『自分たちの家族や友人の中にも起こりうることなんだ』と感じられるよう、皆さんが意識を向けられればよいと思っています」と松中さんは話す。世界人口の15%に障害があると言われる中、今度はパラリンピックを通じ、日本はどんなメッセージを世界に発信することができるのだろうか。そして、今回の五輪、パラリンピックから、日本人は何を学ぶのだろう。東京大会の終了後、私たちの手元に残るのは、日本社会の変革という大きな宿題だ。———-大門 小百合(だいもん・さゆり)ジャーナリスト、元ジャパンタイムズ執行役員・論説委員上智大学外国語学部卒業後、1991年ジャパンタイムズ入社。政治、経済担当の記者を経て、2006年より報道部長。2013年より執行役員。同10月には同社117年の歴史で女性として初めての編集最高責任者となる。2000年、ニーマン特別研究員として米・ハーバード大学でジャーナリズム、アメリカ政治を研究。2005年、キングファイサル研究所研究員としてサウジアラビアのリヤドに滞在し、現地の女性たちについて取材、研究する。著書に『The Japan Times報道デスク発グローバル社会を生きる女性のための情報力』(ジャパンタイムズ)、国際情勢解説者である田中宇との共著『ハーバード大学で語られる世界戦略』(光文社)など。———-(ジャーナリスト、元ジャパンタイムズ執行役員・論説委員 大門 小百合)
「LGBTQのことも、『自分のまわりにはいない』という誤った認識から、差別、偏見がなくならない構造がある。パラリンピックに関しても、『自分たちの家族や友人の中にも起こりうることなんだ』と感じられるよう、皆さんが意識を向けられればよいと思っています」と松中さんは話す。世界人口の15%に障害があると言われる中、今度はパラリンピックを通じ、日本はどんなメッセージを世界に発信することができるのだろうか。そして、今回の五輪、パラリンピックから、日本人は何を学ぶのだろう。東京大会の終了後、私たちの手元に残るのは、日本社会の変革という大きな宿題だ。———-大門 小百合(だいもん・さゆり)ジャーナリスト、元ジャパンタイムズ執行役員・論説委員上智大学外国語学部卒業後、1991年ジャパンタイムズ入社。政治、経済担当の記者を経て、2006年より報道部長。2013年より執行役員。同10月には同社117年の歴史で女性として初めての編集最高責任者となる。2000年、ニーマン特別研究員として米・ハーバード大学でジャーナリズム、アメリカ政治を研究。2005年、キングファイサル研究所研究員としてサウジアラビアのリヤドに滞在し、現地の女性たちについて取材、研究する。著書に『The Japan Times報道デスク発グローバル社会を生きる女性のための情報力』(ジャパンタイムズ)、国際情勢解説者である田中宇との共著『ハーバード大学で語られる世界戦略』(光文社)など。———-(ジャーナリスト、元ジャパンタイムズ執行役員・論説委員 大門 小百合)
世界人口の15%に障害があると言われる中、今度はパラリンピックを通じ、日本はどんなメッセージを世界に発信することができるのだろうか。そして、今回の五輪、パラリンピックから、日本人は何を学ぶのだろう。東京大会の終了後、私たちの手元に残るのは、日本社会の変革という大きな宿題だ。———-大門 小百合(だいもん・さゆり)ジャーナリスト、元ジャパンタイムズ執行役員・論説委員上智大学外国語学部卒業後、1991年ジャパンタイムズ入社。政治、経済担当の記者を経て、2006年より報道部長。2013年より執行役員。同10月には同社117年の歴史で女性として初めての編集最高責任者となる。2000年、ニーマン特別研究員として米・ハーバード大学でジャーナリズム、アメリカ政治を研究。2005年、キングファイサル研究所研究員としてサウジアラビアのリヤドに滞在し、現地の女性たちについて取材、研究する。著書に『The Japan Times報道デスク発グローバル社会を生きる女性のための情報力』(ジャパンタイムズ)、国際情勢解説者である田中宇との共著『ハーバード大学で語られる世界戦略』(光文社)など。———-(ジャーナリスト、元ジャパンタイムズ執行役員・論説委員 大門 小百合)
———-大門 小百合(だいもん・さゆり)ジャーナリスト、元ジャパンタイムズ執行役員・論説委員上智大学外国語学部卒業後、1991年ジャパンタイムズ入社。政治、経済担当の記者を経て、2006年より報道部長。2013年より執行役員。同10月には同社117年の歴史で女性として初めての編集最高責任者となる。2000年、ニーマン特別研究員として米・ハーバード大学でジャーナリズム、アメリカ政治を研究。2005年、キングファイサル研究所研究員としてサウジアラビアのリヤドに滞在し、現地の女性たちについて取材、研究する。著書に『The Japan Times報道デスク発グローバル社会を生きる女性のための情報力』(ジャパンタイムズ)、国際情勢解説者である田中宇との共著『ハーバード大学で語られる世界戦略』(光文社)など。———-(ジャーナリスト、元ジャパンタイムズ執行役員・論説委員 大門 小百合)
(ジャーナリスト、元ジャパンタイムズ執行役員・論説委員 大門 小百合)