グラビアアイドルをネットで誹謗中傷して訴えられたオタク男性の告白

インターネット上の誹謗中傷への対策強化のため、刑法の侮辱罪が、懲役もある罰則の引き上げへと見直される見込みだ。女子プロレスラーの木村花さんの事件で男2人に略式命令がくだされ、9000円の科料だったことが報じられると、罰則が軽すぎるという声が上がっていたが、中傷に対して中川翔子さんをはじめ毅然と対応する芸能人も増えてきた。俳人で著作家の日野百草氏が、過去にネット上で誹謗中傷を実行し、相手に問い詰められ和解した経験をしている、かつての匿名掲示板住人に、貴重な加害者側の気持ちを聞いた。
【写真】木村花さんきっかけに対策が進められている
* * *「和解して、とくに生活に変わりはなかったです。昔の話ですが」
新宿西口の地下にある古い喫茶店、ようやく口を開いてくれた青井学人さん(40代、仮名)が少し視線を落とす。「ようやく口を開いてくれた」とは昨年来ずっと、過去の誹謗中傷をした事実と、それにより和解に至った経緯を話して欲しいとお願いしていたからだ。「古い話です」といなされていたが、今年になって話しましょうかとメールがあった。
「自分が名無しの一般人でよかった、というのが本音ですね」 青井さんは1990年代末期、中小出版社で短い期間ながらゲーム誌の編集アルバイトをしていた。退職後の一時期、ゲームライター的なこともしたがあまりうまくいかなかったという。筆者が接点を持ったのはここ数年なので、あくまで青井さんの言でしかない。「編集部ではバイトで、ライターでも無記名のゲーム紹介記事をやっただけ、自分の名前なんてどこにも載りませんでした。つまり名無しの一般人です。有名人だったら騒ぎになって、一生そのこと言われるじゃないですか。ニッチな世界で知られていても揶揄されたでしょう。でも自分みたいなその辺の人なら和解で終わりです」 一見、小太りで柔和な笑みだが、当時の青井さんは負けん気が強かったそうだ。しかし編集部では笑いものだったという。確かに新入りバイトが有名クリエイターや人気ゲームを批判しても理解は得られにくいだろう。短い業界体験、青井さん曰く「挫折」した。「だからネット掲示板だったわけです。匿名掲示板は平等です。誰が言ったか、ではなく何を言ったか、がすべてですから」 誰もが自由に言論を手にして、リアルのヒエラルキーと関係なしに自分の意見が受け入れられる――かつてのネット民は青井さんと同様、匿名掲示板に期待した。まさか訴えられるとは思いませんでした「短期間のゲーム誌バイトとライターかじっただけですけど、わかってないのは業界の連中で、自分は正しいと思ってました。実際、ネットの世界ではそれなりに受け入れられました。褒めるより叩くほうが受け入れられたので、自分に合ってました」 匿名だからこその同調と空気に飲み込まれた青井さん。2ちゃんねるはもちろん、当時乱立した数多の掲示板にどっぷり浸かった。とっくにゲームライターも自然廃業、業界とは関係ない立場だったが、やはり有名クリエイターを叩き、人気ゲームをこき下ろした。「高揚感が凄かったですね。社員編集の連中はバカにしたけど、掲示板の多くは賛同してくれる。俺の考えてることのほうがやっぱり正しかった、って。もちろん、いまはそんなヤバい奴じゃないですよ」 確かにいまの青井さんを見る限り、そんな時代があったとは信じがたい。筆者が後輩からゲーム仲間だと紹介されたとき、青井さんは痛いオタクだった、とは聞いていたが。「辛辣ですけど事実ですね。文系のくせにとか平気で言っちゃう奴でした」 青井さんは理系であることに一種のアイデンティティを持っていたそうで、私立理系大を出たあと新卒で大手ゲーム会社、出版社と受けたがすべて落ちたという。斜陽と揶揄する向きもあるが、その高い倍率と就職偏差値(ここでは便宜上使う)は昔もいまも揺るぎない。「だからバイトで(出版社に)潜り込んだんですけど、なんかダメでした。物作ったり文字書く側じゃないって気づいたのは結構あとです」 青井さんは関東近郊の実家暮らしという気軽さもあったのだろう、地元の和食レストランやカレー屋などのアルバイトを転々としながらライトノベル小説など書いてみたりフリーゲームなど作ってみたりしたが、どれも完成すらしなかったという。すでに2000年代も中盤、青井さんは実家住まいのフリーターとして過ごした。「いまは才能なかったってわかってますけど当時はヤバかった。黒歴史です。でもネットはそんな自分も受け入れてくれたんです。サイトで自分の小説の断片を出すと『すごい』『神』って言ってくれる人がいる。フリーゲームなんか企画の話だけで褒めてくれる。必ず誰かいて迎えてくれる。あのときの自分にしてみれば気持ちいい世界だったんです」 リアルで満たされない承認欲求がネットで満たされる、それは有名無名関係ないだろうが、リアルがあまりに危うい時期に溺れてしまうと抜け出せなくなる。ネット屋も商売、ソシャゲ屋もそうだが、それを承知で溺死者を出さない程度に承認欲求のプールに浸かってもらい、依存するよう仕向けている。それでも人によっては救われる面もある。「でも、まさか訴えられるとは思いませんでしたけどね」 厳密に言うと青井さんは訴えられる前に和解しているしSNS興隆以前の話である。それでも、かつて拙ルポ『「やめたいのにやめられない」ネット中傷を続ける女性の告白』でも言及したが、ネットで誹謗中傷をしていたと告白してくれる存在は貴重である。「相手は10代のグラビアアイドルとその事務所です」 そのころの青井さんはラノベやゲームと同時に10代の少女、とくに中高生のグラドルにハマっていた。「でも当時の(飲食店の)バイトなんて辞めさせられたりしませんでしたよ。わざわざ言わなきゃ誰もわかんないですから。その辺の人なんて、みんなそうだと思います」 木村花さんの事件もそうだが、一般人が中傷犯なら名前も出なければ有名人ほどに露骨な社会的制裁を受けることはまずない。多くは話題にすらならないだろう。自分だけじゃなく、他にもアンチはいましたから 青井さんは開き直っているわけではない。筆者が知る限りでも、一般の社会人でネットの誹謗中傷で訴えられて会社を辞めさせられた、地域にいられなくなったなんて話はない。みんな粛々と、何食わぬ顔で学校に行ったり働いたりしている。ましてや事情で働いていない人、引きこもりやニートはもちろん引退世代の高齢者なら訴えられたところで屁でもない。「和解といっても金銭はわずかで、彼女に対して誹謗中傷はしないという約束が主です。命どころか仕事をとられることもないです。やったもん勝ちですね」 有名人はもちろん、ネットのインフルエンサーなど、それなりに影響力があるから誹謗だ中傷だと話題になるだけであって、多くの無名の一般人なら現実には訴えられたところで大したことはないし、面倒だろうがそれだけ、というのが青井さんの感想だという。「彼女のこと、あることないこと書いたのがまずかった。それをうっかりリアルでしゃべったことも。最初はファンだったんですけどね」 青井さんがネットで誹謗中傷した少女はグラビアアイドルといってもメジャーな芸能人ではなく、露出度の高いマイクロビキニやふんどしを着せるようなイメージビデオに何作か出演しただけの少女だった。2000年代中盤、とくに過激な作品が乱発された時代だ。「イベントや撮影会に何度か行ったんですが、彼女の対応が気に入らなかったんでネットに書き込んだのが最初ですね、自分としてはネタでした」 秋葉原のビデオ店やパソコンショップにはこうした新人グラドル御用達の小さなイベント会場がある。また少数のファンを集めて小さな撮影会を開いたりもする。青井さんはそこで実際に会い、やがて幻滅した。恋愛感情か。「どうでしょう、かわいいとは思ってましたし、付き合えればそりゃ嬉しいでしょう。(その少女のビデオを)オカズに使ってたのも事実です」 消費対象かという筆者の言葉に、「そう、そんな軽い感じです」と大きくうなずいた。青井さんはこんな軽い感じで攻撃を始めたわけだ。あることないこと書きたてて。少しミソジニー(女性嫌悪)をこじらせていたのでは?「それはあるかもしれません。理想の少女を勝手に作って、勝手に憎悪したわけで。それに匿名ならバレませんから。自分だけじゃなく、他にもアンチはいましたから」 他にもいる、は常套文句だ。しかし匿名でも実際は匿名ではない。しかるべき手順で開示請求して、地道に辿れば足はつく。「でもね、わかってて言ってると思うんですけど、お金持ってて影響力も桁違いの芸能人なら本気出せばできるかもしれませんが、普通は無理ですよ」 残念ながらそのとおり、誹謗中傷に断固とした対応で臨むと宣言した中川翔子さんのような大物芸能人ならともかく、ニッチなグラドルやコスプレイヤー、地下アイドルなど事務所も小さく資力もないどころか無所属の場合、資金的にも個人レベルでは誹謗中傷に真っ向から立ち向かうのは現実的に難しい。小金井ストーカー殺人未遂事件のように警察が動くほどの目に見える犯罪被害でもない限り、泣き寝入りかスルーというのが実情だ。誹謗中傷の主戦場がSNSに移ったいまも、多くの被害者が苦しんでいる。ネットってその辺の一般人最強ですから「自分はその子とリアルで知り合ったから足がつきましたけど、まあ一切会ってなければ(特定は)無理なんじゃないかな、まして当時(2000年代)では珍しいと思います」 青井さんは撮影会などでリアルに接していたことや生来のおしゃべりが祟り、察した事務所関係者に問い詰められた末に訴えると脅されて和解となった。つまりは民法上の「訴え提起前の和解」であり、実際に裁判所に出頭した上で二度と誹謗中傷をしないこと、近寄らないこと、という誓約書を作成させられたという。微々たる額だが和解金も支払った。「多くはこうして和解だと思います。おかしな人でもない限り、これで二度とやらないでしょうし、自分もそうでした」 こうして青井さんは正式な裁判に持ち込まれずに済んだ。その後、相手の少女はもちろん、他にも同じような誹謗中傷行為はしていないのか。「してませんね。もう年ですから。それに結婚もしましたし、いまの仕事も長いです。家庭あるんで」 誹謗中傷をした本人は結婚して平穏に暮らし、された側は引退して行方知れず。青井さんの話では、そのグラドルにはリスカ、手首を傷つけた跡もあったという。自分のせいではない、元から病ンドルだったと語るが釈然としない。奥さんは知っているのか。「知ってます。妻もネット好きだしオタク同士で価値観も一緒です。もうバカなことすんなよ、とは言われてますが」 今日一番嬉しそうな笑顔、地獄のような「子ども社会人」だった青井さんを救ったのは奥さんだ。微笑ましい限りだが、それでもやはり釈然としないことを告げる。すると青井さんは顔をしかめ、改まって言葉を繋いだ。「仕事に影響があったならかわいそうですけど、もう和解しましたし、昔の話ですから」 彼を責めることが目的ではないが、少女の性格や仕事ぶりの「あることないこと」をネットに撒き散らした青井さんは偽計業務妨害罪でもおかしくない。元アイドルのラーメン店経営者に対して「反社とつながっている」と風説の流布を繰り返した50代の男もまさにそれだった。誹謗中傷には仕事に影響を与えるような妨害行為も多い。こいつは使うな、こいつはこういう奴だと取引先や媒体に匿名で連絡する。歪んだ正義と嫉妬、心理学では「引き下げ心理」とも呼ばれる。「それはあるかもしれません。あのころ、なにもかもうまくいかなかった男で、ゲームと少女だけが拠り所でしたから」 素直に認める青井さんだが、これも過去と割り切れているからこそ。理解ある奥さんもいて平穏に暮らしている。しかし被害者は割り切れていないかもしれない。やったほうは忘れても、やられたほうは忘れない。それでも青井さんの言うところの「その辺の一般人」である限りキャンセルカルチャーの心配はないし、青井さんの現在の仕事は具体的には書かないが万年人手不足の仕事でコロナ禍もあり、まずクビにはならない不人気職とのこと。このように誹謗中傷側から話を聞くとやったもん勝ち、本当に解決策はないのではと思わされる。あえて聞くが、かつての誹謗中傷者として、どうすれば誹謗中傷が無くなると思うか。「絶対に無くならないと思いますよ。実名制にしてもやる人はやるし、ネットってその辺の一般人最強ですから」 実名制は韓国も失敗した。確かに、日本でもFacebookの一部ユーザーなどは実名どころか顔から所属先まで晒して他者を攻撃していたりする。自営業や年金者に多い印象だが、前者はともかく後者はある意味で無敵、ほのぼのと孫の写真を晒したそばから誹謗中傷を繰り返している(それも全公開設定!)。無くならないというのが現実だろう。「個人的な考えですけど、中国の信用スコアとか効くんじゃないですか? たとえばネットなら誹謗中傷を繰り返せば手持ちのスコアが減るとか。それで就職とかローンとか、子どもの進学にも影響あるみたいな。それでお互い点を見ることができるシステムなら他人を気にする日本人に効くと思うんですけど、こいつは何点か~って点数見られる感じで」 こんな気持ち悪い全体主義、筆者は無論反対だが、これくらいしないと匿名の誹謗中傷、ネット上の暴力は無くならないと思わされるのもまた事実。2021年4月に改正プロバイダ責任制限法が成立、公布されたが、この程度ではかつての青井さんのようないわゆる「無敵の一般人」には効かないように思う。自分自身が幸せになればやめられると思う「自分はもうしてませんけど、いまも独身で仕事もだめだったら別のタゲ(ターゲットの意)を探していたと思います。みんなが幸せになればいいんでしょうけど、それは無理でしょう。だったら、誹謗中傷は無くならないでしょうね」 どこか他人事、誹謗中傷当事者の言葉だけに違和感しかないが、当たっているだけに筆者もこの話を終えたあと、さてどうルポを結実させようか考えてしまった。なのでせめて、青井さんとの一問一答が参考になればと改めて記す。なぜ誹謗中傷するのか、その心理の一例にはなるだろう。その公表は青井さんも望んでいる。匿名掲示板でもSNSでも誹謗中傷の心理そのものに違いはないだろう。 ――なぜ少女が苦しむほどに、あることないことを書き込んだのか「最初はファンだった。何度かイベントや撮影会で会ったが塩対応で態度が悪く、自分の思ったような子じゃなかった。よかれと思って年上としてアドバイスしたつもりが、気持ち悪がられて腹がたった。叩き始めると彼女のことばかり考えるようになった。純粋なファンのときより叩きはじめた後のほうが彼女のことばかり考えていたように思う」 ――少女の仕事や生活を脅かすとは思わなかったのか。「当時は彼女の活動が仕事だという感覚はなかった。自分の娯楽としか見ていなかった。際どい水着でおっさんに媚び売る子どもと、どこか下に見ていたのかもしれない。はっきりいってオカズだった」 ――和解したが誹謗中傷が引退のきっかけかもしれない、罪悪感はあるか。「そこは芸能人として見ていた。有名税だからという免罪符はあったと思う。罪悪なんて大げさな話ではなく、あくまでネタだった」 ――青井さんには過去かもしれないが彼女は忘れていないかもしれない。「それはキリがない。一生気にすることとは思わない。忘れて欲しいと思う」 ――誹謗中傷をしている人たちに先達として忠告することはあるか。「自分自身が幸せになればやめられると思う。ずっと不幸な人はわからない」 ――かつての加害者として誹謗中傷をされている人たちにアドバイスはあるか。「気にしないこと。それしかない。相手が名無しの一般人ならそれしかないと思う。訴えるのは自由だが実利は薄いと思う。罰則を厳しくしない国が悪い。法律の問題だと思う」 このような問答となったが、人それぞれに読み取れる部分は多いだろう。もちろん彼一人のサンプル、これがすべてと言わないが、多くの誹謗中傷側の感覚はお気軽なもので、自覚なしに追い詰める事例が大半のように思う。だからこそやっかいなのだ。いじめという名の犯罪行為同様、受けた側の傷に比べてあまりに軽い。拍子抜けするほどに。そして青井さんの言う「その辺の一般人」かつ無敵の人、それに準じるような人の場合、訴えたところで直接的な効果は薄い。裁判が終わってほとぼり冷めたらまた繰り返す危険人物すらいる。 中国の信用スコア、社会信用システムのようなディストピアは勘弁だが、それがコロナ禍の統制含め有効なのではという話もある。日本は憲法上そこまでできないし表現の自由との兼ね合いもあるが、被害者の苦しみを考えれば、さらなる開示の容易化と刑法の厳罰化の方向に進むのもまた現実だろう。 取材中、青井さんから謝罪の言葉は出なかった。これもまた現実だ。【プロフィール】日野百草(ひの・ひゃくそう)/本名:上崎洋一。1972年千葉県野田市生まれ。日本ペンクラブ会員。出版社を経てフリーランス。全国俳誌協会賞、日本詩歌句随筆評論協会賞奨励賞(評論部門)受賞。『誰も書けなかったパチンコ20兆円の闇』(宝島社・共著)、『ルポ 京アニを燃やした男』(第三書館)。近著『評伝 赤城さかえ 楸邨、波郷、兜太から愛された魂の俳人』(コールサック社)。
青井さんは1990年代末期、中小出版社で短い期間ながらゲーム誌の編集アルバイトをしていた。退職後の一時期、ゲームライター的なこともしたがあまりうまくいかなかったという。筆者が接点を持ったのはここ数年なので、あくまで青井さんの言でしかない。「編集部ではバイトで、ライターでも無記名のゲーム紹介記事をやっただけ、自分の名前なんてどこにも載りませんでした。つまり名無しの一般人です。有名人だったら騒ぎになって、一生そのこと言われるじゃないですか。ニッチな世界で知られていても揶揄されたでしょう。でも自分みたいなその辺の人なら和解で終わりです」 一見、小太りで柔和な笑みだが、当時の青井さんは負けん気が強かったそうだ。しかし編集部では笑いものだったという。確かに新入りバイトが有名クリエイターや人気ゲームを批判しても理解は得られにくいだろう。短い業界体験、青井さん曰く「挫折」した。「だからネット掲示板だったわけです。匿名掲示板は平等です。誰が言ったか、ではなく何を言ったか、がすべてですから」 誰もが自由に言論を手にして、リアルのヒエラルキーと関係なしに自分の意見が受け入れられる――かつてのネット民は青井さんと同様、匿名掲示板に期待した。まさか訴えられるとは思いませんでした「短期間のゲーム誌バイトとライターかじっただけですけど、わかってないのは業界の連中で、自分は正しいと思ってました。実際、ネットの世界ではそれなりに受け入れられました。褒めるより叩くほうが受け入れられたので、自分に合ってました」 匿名だからこその同調と空気に飲み込まれた青井さん。2ちゃんねるはもちろん、当時乱立した数多の掲示板にどっぷり浸かった。とっくにゲームライターも自然廃業、業界とは関係ない立場だったが、やはり有名クリエイターを叩き、人気ゲームをこき下ろした。「高揚感が凄かったですね。社員編集の連中はバカにしたけど、掲示板の多くは賛同してくれる。俺の考えてることのほうがやっぱり正しかった、って。もちろん、いまはそんなヤバい奴じゃないですよ」 確かにいまの青井さんを見る限り、そんな時代があったとは信じがたい。筆者が後輩からゲーム仲間だと紹介されたとき、青井さんは痛いオタクだった、とは聞いていたが。「辛辣ですけど事実ですね。文系のくせにとか平気で言っちゃう奴でした」 青井さんは理系であることに一種のアイデンティティを持っていたそうで、私立理系大を出たあと新卒で大手ゲーム会社、出版社と受けたがすべて落ちたという。斜陽と揶揄する向きもあるが、その高い倍率と就職偏差値(ここでは便宜上使う)は昔もいまも揺るぎない。「だからバイトで(出版社に)潜り込んだんですけど、なんかダメでした。物作ったり文字書く側じゃないって気づいたのは結構あとです」 青井さんは関東近郊の実家暮らしという気軽さもあったのだろう、地元の和食レストランやカレー屋などのアルバイトを転々としながらライトノベル小説など書いてみたりフリーゲームなど作ってみたりしたが、どれも完成すらしなかったという。すでに2000年代も中盤、青井さんは実家住まいのフリーターとして過ごした。「いまは才能なかったってわかってますけど当時はヤバかった。黒歴史です。でもネットはそんな自分も受け入れてくれたんです。サイトで自分の小説の断片を出すと『すごい』『神』って言ってくれる人がいる。フリーゲームなんか企画の話だけで褒めてくれる。必ず誰かいて迎えてくれる。あのときの自分にしてみれば気持ちいい世界だったんです」 リアルで満たされない承認欲求がネットで満たされる、それは有名無名関係ないだろうが、リアルがあまりに危うい時期に溺れてしまうと抜け出せなくなる。ネット屋も商売、ソシャゲ屋もそうだが、それを承知で溺死者を出さない程度に承認欲求のプールに浸かってもらい、依存するよう仕向けている。それでも人によっては救われる面もある。「でも、まさか訴えられるとは思いませんでしたけどね」 厳密に言うと青井さんは訴えられる前に和解しているしSNS興隆以前の話である。それでも、かつて拙ルポ『「やめたいのにやめられない」ネット中傷を続ける女性の告白』でも言及したが、ネットで誹謗中傷をしていたと告白してくれる存在は貴重である。「相手は10代のグラビアアイドルとその事務所です」 そのころの青井さんはラノベやゲームと同時に10代の少女、とくに中高生のグラドルにハマっていた。「でも当時の(飲食店の)バイトなんて辞めさせられたりしませんでしたよ。わざわざ言わなきゃ誰もわかんないですから。その辺の人なんて、みんなそうだと思います」 木村花さんの事件もそうだが、一般人が中傷犯なら名前も出なければ有名人ほどに露骨な社会的制裁を受けることはまずない。多くは話題にすらならないだろう。自分だけじゃなく、他にもアンチはいましたから 青井さんは開き直っているわけではない。筆者が知る限りでも、一般の社会人でネットの誹謗中傷で訴えられて会社を辞めさせられた、地域にいられなくなったなんて話はない。みんな粛々と、何食わぬ顔で学校に行ったり働いたりしている。ましてや事情で働いていない人、引きこもりやニートはもちろん引退世代の高齢者なら訴えられたところで屁でもない。「和解といっても金銭はわずかで、彼女に対して誹謗中傷はしないという約束が主です。命どころか仕事をとられることもないです。やったもん勝ちですね」 有名人はもちろん、ネットのインフルエンサーなど、それなりに影響力があるから誹謗だ中傷だと話題になるだけであって、多くの無名の一般人なら現実には訴えられたところで大したことはないし、面倒だろうがそれだけ、というのが青井さんの感想だという。「彼女のこと、あることないこと書いたのがまずかった。それをうっかりリアルでしゃべったことも。最初はファンだったんですけどね」 青井さんがネットで誹謗中傷した少女はグラビアアイドルといってもメジャーな芸能人ではなく、露出度の高いマイクロビキニやふんどしを着せるようなイメージビデオに何作か出演しただけの少女だった。2000年代中盤、とくに過激な作品が乱発された時代だ。「イベントや撮影会に何度か行ったんですが、彼女の対応が気に入らなかったんでネットに書き込んだのが最初ですね、自分としてはネタでした」 秋葉原のビデオ店やパソコンショップにはこうした新人グラドル御用達の小さなイベント会場がある。また少数のファンを集めて小さな撮影会を開いたりもする。青井さんはそこで実際に会い、やがて幻滅した。恋愛感情か。「どうでしょう、かわいいとは思ってましたし、付き合えればそりゃ嬉しいでしょう。(その少女のビデオを)オカズに使ってたのも事実です」 消費対象かという筆者の言葉に、「そう、そんな軽い感じです」と大きくうなずいた。青井さんはこんな軽い感じで攻撃を始めたわけだ。あることないこと書きたてて。少しミソジニー(女性嫌悪)をこじらせていたのでは?「それはあるかもしれません。理想の少女を勝手に作って、勝手に憎悪したわけで。それに匿名ならバレませんから。自分だけじゃなく、他にもアンチはいましたから」 他にもいる、は常套文句だ。しかし匿名でも実際は匿名ではない。しかるべき手順で開示請求して、地道に辿れば足はつく。「でもね、わかってて言ってると思うんですけど、お金持ってて影響力も桁違いの芸能人なら本気出せばできるかもしれませんが、普通は無理ですよ」 残念ながらそのとおり、誹謗中傷に断固とした対応で臨むと宣言した中川翔子さんのような大物芸能人ならともかく、ニッチなグラドルやコスプレイヤー、地下アイドルなど事務所も小さく資力もないどころか無所属の場合、資金的にも個人レベルでは誹謗中傷に真っ向から立ち向かうのは現実的に難しい。小金井ストーカー殺人未遂事件のように警察が動くほどの目に見える犯罪被害でもない限り、泣き寝入りかスルーというのが実情だ。誹謗中傷の主戦場がSNSに移ったいまも、多くの被害者が苦しんでいる。ネットってその辺の一般人最強ですから「自分はその子とリアルで知り合ったから足がつきましたけど、まあ一切会ってなければ(特定は)無理なんじゃないかな、まして当時(2000年代)では珍しいと思います」 青井さんは撮影会などでリアルに接していたことや生来のおしゃべりが祟り、察した事務所関係者に問い詰められた末に訴えると脅されて和解となった。つまりは民法上の「訴え提起前の和解」であり、実際に裁判所に出頭した上で二度と誹謗中傷をしないこと、近寄らないこと、という誓約書を作成させられたという。微々たる額だが和解金も支払った。「多くはこうして和解だと思います。おかしな人でもない限り、これで二度とやらないでしょうし、自分もそうでした」 こうして青井さんは正式な裁判に持ち込まれずに済んだ。その後、相手の少女はもちろん、他にも同じような誹謗中傷行為はしていないのか。「してませんね。もう年ですから。それに結婚もしましたし、いまの仕事も長いです。家庭あるんで」 誹謗中傷をした本人は結婚して平穏に暮らし、された側は引退して行方知れず。青井さんの話では、そのグラドルにはリスカ、手首を傷つけた跡もあったという。自分のせいではない、元から病ンドルだったと語るが釈然としない。奥さんは知っているのか。「知ってます。妻もネット好きだしオタク同士で価値観も一緒です。もうバカなことすんなよ、とは言われてますが」 今日一番嬉しそうな笑顔、地獄のような「子ども社会人」だった青井さんを救ったのは奥さんだ。微笑ましい限りだが、それでもやはり釈然としないことを告げる。すると青井さんは顔をしかめ、改まって言葉を繋いだ。「仕事に影響があったならかわいそうですけど、もう和解しましたし、昔の話ですから」 彼を責めることが目的ではないが、少女の性格や仕事ぶりの「あることないこと」をネットに撒き散らした青井さんは偽計業務妨害罪でもおかしくない。元アイドルのラーメン店経営者に対して「反社とつながっている」と風説の流布を繰り返した50代の男もまさにそれだった。誹謗中傷には仕事に影響を与えるような妨害行為も多い。こいつは使うな、こいつはこういう奴だと取引先や媒体に匿名で連絡する。歪んだ正義と嫉妬、心理学では「引き下げ心理」とも呼ばれる。「それはあるかもしれません。あのころ、なにもかもうまくいかなかった男で、ゲームと少女だけが拠り所でしたから」 素直に認める青井さんだが、これも過去と割り切れているからこそ。理解ある奥さんもいて平穏に暮らしている。しかし被害者は割り切れていないかもしれない。やったほうは忘れても、やられたほうは忘れない。それでも青井さんの言うところの「その辺の一般人」である限りキャンセルカルチャーの心配はないし、青井さんの現在の仕事は具体的には書かないが万年人手不足の仕事でコロナ禍もあり、まずクビにはならない不人気職とのこと。このように誹謗中傷側から話を聞くとやったもん勝ち、本当に解決策はないのではと思わされる。あえて聞くが、かつての誹謗中傷者として、どうすれば誹謗中傷が無くなると思うか。「絶対に無くならないと思いますよ。実名制にしてもやる人はやるし、ネットってその辺の一般人最強ですから」 実名制は韓国も失敗した。確かに、日本でもFacebookの一部ユーザーなどは実名どころか顔から所属先まで晒して他者を攻撃していたりする。自営業や年金者に多い印象だが、前者はともかく後者はある意味で無敵、ほのぼのと孫の写真を晒したそばから誹謗中傷を繰り返している(それも全公開設定!)。無くならないというのが現実だろう。「個人的な考えですけど、中国の信用スコアとか効くんじゃないですか? たとえばネットなら誹謗中傷を繰り返せば手持ちのスコアが減るとか。それで就職とかローンとか、子どもの進学にも影響あるみたいな。それでお互い点を見ることができるシステムなら他人を気にする日本人に効くと思うんですけど、こいつは何点か~って点数見られる感じで」 こんな気持ち悪い全体主義、筆者は無論反対だが、これくらいしないと匿名の誹謗中傷、ネット上の暴力は無くならないと思わされるのもまた事実。2021年4月に改正プロバイダ責任制限法が成立、公布されたが、この程度ではかつての青井さんのようないわゆる「無敵の一般人」には効かないように思う。自分自身が幸せになればやめられると思う「自分はもうしてませんけど、いまも独身で仕事もだめだったら別のタゲ(ターゲットの意)を探していたと思います。みんなが幸せになればいいんでしょうけど、それは無理でしょう。だったら、誹謗中傷は無くならないでしょうね」 どこか他人事、誹謗中傷当事者の言葉だけに違和感しかないが、当たっているだけに筆者もこの話を終えたあと、さてどうルポを結実させようか考えてしまった。なのでせめて、青井さんとの一問一答が参考になればと改めて記す。なぜ誹謗中傷するのか、その心理の一例にはなるだろう。その公表は青井さんも望んでいる。匿名掲示板でもSNSでも誹謗中傷の心理そのものに違いはないだろう。 ――なぜ少女が苦しむほどに、あることないことを書き込んだのか「最初はファンだった。何度かイベントや撮影会で会ったが塩対応で態度が悪く、自分の思ったような子じゃなかった。よかれと思って年上としてアドバイスしたつもりが、気持ち悪がられて腹がたった。叩き始めると彼女のことばかり考えるようになった。純粋なファンのときより叩きはじめた後のほうが彼女のことばかり考えていたように思う」 ――少女の仕事や生活を脅かすとは思わなかったのか。「当時は彼女の活動が仕事だという感覚はなかった。自分の娯楽としか見ていなかった。際どい水着でおっさんに媚び売る子どもと、どこか下に見ていたのかもしれない。はっきりいってオカズだった」 ――和解したが誹謗中傷が引退のきっかけかもしれない、罪悪感はあるか。「そこは芸能人として見ていた。有名税だからという免罪符はあったと思う。罪悪なんて大げさな話ではなく、あくまでネタだった」 ――青井さんには過去かもしれないが彼女は忘れていないかもしれない。「それはキリがない。一生気にすることとは思わない。忘れて欲しいと思う」 ――誹謗中傷をしている人たちに先達として忠告することはあるか。「自分自身が幸せになればやめられると思う。ずっと不幸な人はわからない」 ――かつての加害者として誹謗中傷をされている人たちにアドバイスはあるか。「気にしないこと。それしかない。相手が名無しの一般人ならそれしかないと思う。訴えるのは自由だが実利は薄いと思う。罰則を厳しくしない国が悪い。法律の問題だと思う」 このような問答となったが、人それぞれに読み取れる部分は多いだろう。もちろん彼一人のサンプル、これがすべてと言わないが、多くの誹謗中傷側の感覚はお気軽なもので、自覚なしに追い詰める事例が大半のように思う。だからこそやっかいなのだ。いじめという名の犯罪行為同様、受けた側の傷に比べてあまりに軽い。拍子抜けするほどに。そして青井さんの言う「その辺の一般人」かつ無敵の人、それに準じるような人の場合、訴えたところで直接的な効果は薄い。裁判が終わってほとぼり冷めたらまた繰り返す危険人物すらいる。 中国の信用スコア、社会信用システムのようなディストピアは勘弁だが、それがコロナ禍の統制含め有効なのではという話もある。日本は憲法上そこまでできないし表現の自由との兼ね合いもあるが、被害者の苦しみを考えれば、さらなる開示の容易化と刑法の厳罰化の方向に進むのもまた現実だろう。 取材中、青井さんから謝罪の言葉は出なかった。これもまた現実だ。【プロフィール】日野百草(ひの・ひゃくそう)/本名:上崎洋一。1972年千葉県野田市生まれ。日本ペンクラブ会員。出版社を経てフリーランス。全国俳誌協会賞、日本詩歌句随筆評論協会賞奨励賞(評論部門)受賞。『誰も書けなかったパチンコ20兆円の闇』(宝島社・共著)、『ルポ 京アニを燃やした男』(第三書館)。近著『評伝 赤城さかえ 楸邨、波郷、兜太から愛された魂の俳人』(コールサック社)。
「編集部ではバイトで、ライターでも無記名のゲーム紹介記事をやっただけ、自分の名前なんてどこにも載りませんでした。つまり名無しの一般人です。有名人だったら騒ぎになって、一生そのこと言われるじゃないですか。ニッチな世界で知られていても揶揄されたでしょう。でも自分みたいなその辺の人なら和解で終わりです」 一見、小太りで柔和な笑みだが、当時の青井さんは負けん気が強かったそうだ。しかし編集部では笑いものだったという。確かに新入りバイトが有名クリエイターや人気ゲームを批判しても理解は得られにくいだろう。短い業界体験、青井さん曰く「挫折」した。「だからネット掲示板だったわけです。匿名掲示板は平等です。誰が言ったか、ではなく何を言ったか、がすべてですから」 誰もが自由に言論を手にして、リアルのヒエラルキーと関係なしに自分の意見が受け入れられる――かつてのネット民は青井さんと同様、匿名掲示板に期待した。まさか訴えられるとは思いませんでした「短期間のゲーム誌バイトとライターかじっただけですけど、わかってないのは業界の連中で、自分は正しいと思ってました。実際、ネットの世界ではそれなりに受け入れられました。褒めるより叩くほうが受け入れられたので、自分に合ってました」 匿名だからこその同調と空気に飲み込まれた青井さん。2ちゃんねるはもちろん、当時乱立した数多の掲示板にどっぷり浸かった。とっくにゲームライターも自然廃業、業界とは関係ない立場だったが、やはり有名クリエイターを叩き、人気ゲームをこき下ろした。「高揚感が凄かったですね。社員編集の連中はバカにしたけど、掲示板の多くは賛同してくれる。俺の考えてることのほうがやっぱり正しかった、って。もちろん、いまはそんなヤバい奴じゃないですよ」 確かにいまの青井さんを見る限り、そんな時代があったとは信じがたい。筆者が後輩からゲーム仲間だと紹介されたとき、青井さんは痛いオタクだった、とは聞いていたが。「辛辣ですけど事実ですね。文系のくせにとか平気で言っちゃう奴でした」 青井さんは理系であることに一種のアイデンティティを持っていたそうで、私立理系大を出たあと新卒で大手ゲーム会社、出版社と受けたがすべて落ちたという。斜陽と揶揄する向きもあるが、その高い倍率と就職偏差値(ここでは便宜上使う)は昔もいまも揺るぎない。「だからバイトで(出版社に)潜り込んだんですけど、なんかダメでした。物作ったり文字書く側じゃないって気づいたのは結構あとです」 青井さんは関東近郊の実家暮らしという気軽さもあったのだろう、地元の和食レストランやカレー屋などのアルバイトを転々としながらライトノベル小説など書いてみたりフリーゲームなど作ってみたりしたが、どれも完成すらしなかったという。すでに2000年代も中盤、青井さんは実家住まいのフリーターとして過ごした。「いまは才能なかったってわかってますけど当時はヤバかった。黒歴史です。でもネットはそんな自分も受け入れてくれたんです。サイトで自分の小説の断片を出すと『すごい』『神』って言ってくれる人がいる。フリーゲームなんか企画の話だけで褒めてくれる。必ず誰かいて迎えてくれる。あのときの自分にしてみれば気持ちいい世界だったんです」 リアルで満たされない承認欲求がネットで満たされる、それは有名無名関係ないだろうが、リアルがあまりに危うい時期に溺れてしまうと抜け出せなくなる。ネット屋も商売、ソシャゲ屋もそうだが、それを承知で溺死者を出さない程度に承認欲求のプールに浸かってもらい、依存するよう仕向けている。それでも人によっては救われる面もある。「でも、まさか訴えられるとは思いませんでしたけどね」 厳密に言うと青井さんは訴えられる前に和解しているしSNS興隆以前の話である。それでも、かつて拙ルポ『「やめたいのにやめられない」ネット中傷を続ける女性の告白』でも言及したが、ネットで誹謗中傷をしていたと告白してくれる存在は貴重である。「相手は10代のグラビアアイドルとその事務所です」 そのころの青井さんはラノベやゲームと同時に10代の少女、とくに中高生のグラドルにハマっていた。「でも当時の(飲食店の)バイトなんて辞めさせられたりしませんでしたよ。わざわざ言わなきゃ誰もわかんないですから。その辺の人なんて、みんなそうだと思います」 木村花さんの事件もそうだが、一般人が中傷犯なら名前も出なければ有名人ほどに露骨な社会的制裁を受けることはまずない。多くは話題にすらならないだろう。自分だけじゃなく、他にもアンチはいましたから 青井さんは開き直っているわけではない。筆者が知る限りでも、一般の社会人でネットの誹謗中傷で訴えられて会社を辞めさせられた、地域にいられなくなったなんて話はない。みんな粛々と、何食わぬ顔で学校に行ったり働いたりしている。ましてや事情で働いていない人、引きこもりやニートはもちろん引退世代の高齢者なら訴えられたところで屁でもない。「和解といっても金銭はわずかで、彼女に対して誹謗中傷はしないという約束が主です。命どころか仕事をとられることもないです。やったもん勝ちですね」 有名人はもちろん、ネットのインフルエンサーなど、それなりに影響力があるから誹謗だ中傷だと話題になるだけであって、多くの無名の一般人なら現実には訴えられたところで大したことはないし、面倒だろうがそれだけ、というのが青井さんの感想だという。「彼女のこと、あることないこと書いたのがまずかった。それをうっかりリアルでしゃべったことも。最初はファンだったんですけどね」 青井さんがネットで誹謗中傷した少女はグラビアアイドルといってもメジャーな芸能人ではなく、露出度の高いマイクロビキニやふんどしを着せるようなイメージビデオに何作か出演しただけの少女だった。2000年代中盤、とくに過激な作品が乱発された時代だ。「イベントや撮影会に何度か行ったんですが、彼女の対応が気に入らなかったんでネットに書き込んだのが最初ですね、自分としてはネタでした」 秋葉原のビデオ店やパソコンショップにはこうした新人グラドル御用達の小さなイベント会場がある。また少数のファンを集めて小さな撮影会を開いたりもする。青井さんはそこで実際に会い、やがて幻滅した。恋愛感情か。「どうでしょう、かわいいとは思ってましたし、付き合えればそりゃ嬉しいでしょう。(その少女のビデオを)オカズに使ってたのも事実です」 消費対象かという筆者の言葉に、「そう、そんな軽い感じです」と大きくうなずいた。青井さんはこんな軽い感じで攻撃を始めたわけだ。あることないこと書きたてて。少しミソジニー(女性嫌悪)をこじらせていたのでは?「それはあるかもしれません。理想の少女を勝手に作って、勝手に憎悪したわけで。それに匿名ならバレませんから。自分だけじゃなく、他にもアンチはいましたから」 他にもいる、は常套文句だ。しかし匿名でも実際は匿名ではない。しかるべき手順で開示請求して、地道に辿れば足はつく。「でもね、わかってて言ってると思うんですけど、お金持ってて影響力も桁違いの芸能人なら本気出せばできるかもしれませんが、普通は無理ですよ」 残念ながらそのとおり、誹謗中傷に断固とした対応で臨むと宣言した中川翔子さんのような大物芸能人ならともかく、ニッチなグラドルやコスプレイヤー、地下アイドルなど事務所も小さく資力もないどころか無所属の場合、資金的にも個人レベルでは誹謗中傷に真っ向から立ち向かうのは現実的に難しい。小金井ストーカー殺人未遂事件のように警察が動くほどの目に見える犯罪被害でもない限り、泣き寝入りかスルーというのが実情だ。誹謗中傷の主戦場がSNSに移ったいまも、多くの被害者が苦しんでいる。ネットってその辺の一般人最強ですから「自分はその子とリアルで知り合ったから足がつきましたけど、まあ一切会ってなければ(特定は)無理なんじゃないかな、まして当時(2000年代)では珍しいと思います」 青井さんは撮影会などでリアルに接していたことや生来のおしゃべりが祟り、察した事務所関係者に問い詰められた末に訴えると脅されて和解となった。つまりは民法上の「訴え提起前の和解」であり、実際に裁判所に出頭した上で二度と誹謗中傷をしないこと、近寄らないこと、という誓約書を作成させられたという。微々たる額だが和解金も支払った。「多くはこうして和解だと思います。おかしな人でもない限り、これで二度とやらないでしょうし、自分もそうでした」 こうして青井さんは正式な裁判に持ち込まれずに済んだ。その後、相手の少女はもちろん、他にも同じような誹謗中傷行為はしていないのか。「してませんね。もう年ですから。それに結婚もしましたし、いまの仕事も長いです。家庭あるんで」 誹謗中傷をした本人は結婚して平穏に暮らし、された側は引退して行方知れず。青井さんの話では、そのグラドルにはリスカ、手首を傷つけた跡もあったという。自分のせいではない、元から病ンドルだったと語るが釈然としない。奥さんは知っているのか。「知ってます。妻もネット好きだしオタク同士で価値観も一緒です。もうバカなことすんなよ、とは言われてますが」 今日一番嬉しそうな笑顔、地獄のような「子ども社会人」だった青井さんを救ったのは奥さんだ。微笑ましい限りだが、それでもやはり釈然としないことを告げる。すると青井さんは顔をしかめ、改まって言葉を繋いだ。「仕事に影響があったならかわいそうですけど、もう和解しましたし、昔の話ですから」 彼を責めることが目的ではないが、少女の性格や仕事ぶりの「あることないこと」をネットに撒き散らした青井さんは偽計業務妨害罪でもおかしくない。元アイドルのラーメン店経営者に対して「反社とつながっている」と風説の流布を繰り返した50代の男もまさにそれだった。誹謗中傷には仕事に影響を与えるような妨害行為も多い。こいつは使うな、こいつはこういう奴だと取引先や媒体に匿名で連絡する。歪んだ正義と嫉妬、心理学では「引き下げ心理」とも呼ばれる。「それはあるかもしれません。あのころ、なにもかもうまくいかなかった男で、ゲームと少女だけが拠り所でしたから」 素直に認める青井さんだが、これも過去と割り切れているからこそ。理解ある奥さんもいて平穏に暮らしている。しかし被害者は割り切れていないかもしれない。やったほうは忘れても、やられたほうは忘れない。それでも青井さんの言うところの「その辺の一般人」である限りキャンセルカルチャーの心配はないし、青井さんの現在の仕事は具体的には書かないが万年人手不足の仕事でコロナ禍もあり、まずクビにはならない不人気職とのこと。このように誹謗中傷側から話を聞くとやったもん勝ち、本当に解決策はないのではと思わされる。あえて聞くが、かつての誹謗中傷者として、どうすれば誹謗中傷が無くなると思うか。「絶対に無くならないと思いますよ。実名制にしてもやる人はやるし、ネットってその辺の一般人最強ですから」 実名制は韓国も失敗した。確かに、日本でもFacebookの一部ユーザーなどは実名どころか顔から所属先まで晒して他者を攻撃していたりする。自営業や年金者に多い印象だが、前者はともかく後者はある意味で無敵、ほのぼのと孫の写真を晒したそばから誹謗中傷を繰り返している(それも全公開設定!)。無くならないというのが現実だろう。「個人的な考えですけど、中国の信用スコアとか効くんじゃないですか? たとえばネットなら誹謗中傷を繰り返せば手持ちのスコアが減るとか。それで就職とかローンとか、子どもの進学にも影響あるみたいな。それでお互い点を見ることができるシステムなら他人を気にする日本人に効くと思うんですけど、こいつは何点か~って点数見られる感じで」 こんな気持ち悪い全体主義、筆者は無論反対だが、これくらいしないと匿名の誹謗中傷、ネット上の暴力は無くならないと思わされるのもまた事実。2021年4月に改正プロバイダ責任制限法が成立、公布されたが、この程度ではかつての青井さんのようないわゆる「無敵の一般人」には効かないように思う。自分自身が幸せになればやめられると思う「自分はもうしてませんけど、いまも独身で仕事もだめだったら別のタゲ(ターゲットの意)を探していたと思います。みんなが幸せになればいいんでしょうけど、それは無理でしょう。だったら、誹謗中傷は無くならないでしょうね」 どこか他人事、誹謗中傷当事者の言葉だけに違和感しかないが、当たっているだけに筆者もこの話を終えたあと、さてどうルポを結実させようか考えてしまった。なのでせめて、青井さんとの一問一答が参考になればと改めて記す。なぜ誹謗中傷するのか、その心理の一例にはなるだろう。その公表は青井さんも望んでいる。匿名掲示板でもSNSでも誹謗中傷の心理そのものに違いはないだろう。 ――なぜ少女が苦しむほどに、あることないことを書き込んだのか「最初はファンだった。何度かイベントや撮影会で会ったが塩対応で態度が悪く、自分の思ったような子じゃなかった。よかれと思って年上としてアドバイスしたつもりが、気持ち悪がられて腹がたった。叩き始めると彼女のことばかり考えるようになった。純粋なファンのときより叩きはじめた後のほうが彼女のことばかり考えていたように思う」 ――少女の仕事や生活を脅かすとは思わなかったのか。「当時は彼女の活動が仕事だという感覚はなかった。自分の娯楽としか見ていなかった。際どい水着でおっさんに媚び売る子どもと、どこか下に見ていたのかもしれない。はっきりいってオカズだった」 ――和解したが誹謗中傷が引退のきっかけかもしれない、罪悪感はあるか。「そこは芸能人として見ていた。有名税だからという免罪符はあったと思う。罪悪なんて大げさな話ではなく、あくまでネタだった」 ――青井さんには過去かもしれないが彼女は忘れていないかもしれない。「それはキリがない。一生気にすることとは思わない。忘れて欲しいと思う」 ――誹謗中傷をしている人たちに先達として忠告することはあるか。「自分自身が幸せになればやめられると思う。ずっと不幸な人はわからない」 ――かつての加害者として誹謗中傷をされている人たちにアドバイスはあるか。「気にしないこと。それしかない。相手が名無しの一般人ならそれしかないと思う。訴えるのは自由だが実利は薄いと思う。罰則を厳しくしない国が悪い。法律の問題だと思う」 このような問答となったが、人それぞれに読み取れる部分は多いだろう。もちろん彼一人のサンプル、これがすべてと言わないが、多くの誹謗中傷側の感覚はお気軽なもので、自覚なしに追い詰める事例が大半のように思う。だからこそやっかいなのだ。いじめという名の犯罪行為同様、受けた側の傷に比べてあまりに軽い。拍子抜けするほどに。そして青井さんの言う「その辺の一般人」かつ無敵の人、それに準じるような人の場合、訴えたところで直接的な効果は薄い。裁判が終わってほとぼり冷めたらまた繰り返す危険人物すらいる。 中国の信用スコア、社会信用システムのようなディストピアは勘弁だが、それがコロナ禍の統制含め有効なのではという話もある。日本は憲法上そこまでできないし表現の自由との兼ね合いもあるが、被害者の苦しみを考えれば、さらなる開示の容易化と刑法の厳罰化の方向に進むのもまた現実だろう。 取材中、青井さんから謝罪の言葉は出なかった。これもまた現実だ。【プロフィール】日野百草(ひの・ひゃくそう)/本名:上崎洋一。1972年千葉県野田市生まれ。日本ペンクラブ会員。出版社を経てフリーランス。全国俳誌協会賞、日本詩歌句随筆評論協会賞奨励賞(評論部門)受賞。『誰も書けなかったパチンコ20兆円の闇』(宝島社・共著)、『ルポ 京アニを燃やした男』(第三書館)。近著『評伝 赤城さかえ 楸邨、波郷、兜太から愛された魂の俳人』(コールサック社)。
一見、小太りで柔和な笑みだが、当時の青井さんは負けん気が強かったそうだ。しかし編集部では笑いものだったという。確かに新入りバイトが有名クリエイターや人気ゲームを批判しても理解は得られにくいだろう。短い業界体験、青井さん曰く「挫折」した。「だからネット掲示板だったわけです。匿名掲示板は平等です。誰が言ったか、ではなく何を言ったか、がすべてですから」 誰もが自由に言論を手にして、リアルのヒエラルキーと関係なしに自分の意見が受け入れられる――かつてのネット民は青井さんと同様、匿名掲示板に期待した。まさか訴えられるとは思いませんでした「短期間のゲーム誌バイトとライターかじっただけですけど、わかってないのは業界の連中で、自分は正しいと思ってました。実際、ネットの世界ではそれなりに受け入れられました。褒めるより叩くほうが受け入れられたので、自分に合ってました」 匿名だからこその同調と空気に飲み込まれた青井さん。2ちゃんねるはもちろん、当時乱立した数多の掲示板にどっぷり浸かった。とっくにゲームライターも自然廃業、業界とは関係ない立場だったが、やはり有名クリエイターを叩き、人気ゲームをこき下ろした。「高揚感が凄かったですね。社員編集の連中はバカにしたけど、掲示板の多くは賛同してくれる。俺の考えてることのほうがやっぱり正しかった、って。もちろん、いまはそんなヤバい奴じゃないですよ」 確かにいまの青井さんを見る限り、そんな時代があったとは信じがたい。筆者が後輩からゲーム仲間だと紹介されたとき、青井さんは痛いオタクだった、とは聞いていたが。「辛辣ですけど事実ですね。文系のくせにとか平気で言っちゃう奴でした」 青井さんは理系であることに一種のアイデンティティを持っていたそうで、私立理系大を出たあと新卒で大手ゲーム会社、出版社と受けたがすべて落ちたという。斜陽と揶揄する向きもあるが、その高い倍率と就職偏差値(ここでは便宜上使う)は昔もいまも揺るぎない。「だからバイトで(出版社に)潜り込んだんですけど、なんかダメでした。物作ったり文字書く側じゃないって気づいたのは結構あとです」 青井さんは関東近郊の実家暮らしという気軽さもあったのだろう、地元の和食レストランやカレー屋などのアルバイトを転々としながらライトノベル小説など書いてみたりフリーゲームなど作ってみたりしたが、どれも完成すらしなかったという。すでに2000年代も中盤、青井さんは実家住まいのフリーターとして過ごした。「いまは才能なかったってわかってますけど当時はヤバかった。黒歴史です。でもネットはそんな自分も受け入れてくれたんです。サイトで自分の小説の断片を出すと『すごい』『神』って言ってくれる人がいる。フリーゲームなんか企画の話だけで褒めてくれる。必ず誰かいて迎えてくれる。あのときの自分にしてみれば気持ちいい世界だったんです」 リアルで満たされない承認欲求がネットで満たされる、それは有名無名関係ないだろうが、リアルがあまりに危うい時期に溺れてしまうと抜け出せなくなる。ネット屋も商売、ソシャゲ屋もそうだが、それを承知で溺死者を出さない程度に承認欲求のプールに浸かってもらい、依存するよう仕向けている。それでも人によっては救われる面もある。「でも、まさか訴えられるとは思いませんでしたけどね」 厳密に言うと青井さんは訴えられる前に和解しているしSNS興隆以前の話である。それでも、かつて拙ルポ『「やめたいのにやめられない」ネット中傷を続ける女性の告白』でも言及したが、ネットで誹謗中傷をしていたと告白してくれる存在は貴重である。「相手は10代のグラビアアイドルとその事務所です」 そのころの青井さんはラノベやゲームと同時に10代の少女、とくに中高生のグラドルにハマっていた。「でも当時の(飲食店の)バイトなんて辞めさせられたりしませんでしたよ。わざわざ言わなきゃ誰もわかんないですから。その辺の人なんて、みんなそうだと思います」 木村花さんの事件もそうだが、一般人が中傷犯なら名前も出なければ有名人ほどに露骨な社会的制裁を受けることはまずない。多くは話題にすらならないだろう。自分だけじゃなく、他にもアンチはいましたから 青井さんは開き直っているわけではない。筆者が知る限りでも、一般の社会人でネットの誹謗中傷で訴えられて会社を辞めさせられた、地域にいられなくなったなんて話はない。みんな粛々と、何食わぬ顔で学校に行ったり働いたりしている。ましてや事情で働いていない人、引きこもりやニートはもちろん引退世代の高齢者なら訴えられたところで屁でもない。「和解といっても金銭はわずかで、彼女に対して誹謗中傷はしないという約束が主です。命どころか仕事をとられることもないです。やったもん勝ちですね」 有名人はもちろん、ネットのインフルエンサーなど、それなりに影響力があるから誹謗だ中傷だと話題になるだけであって、多くの無名の一般人なら現実には訴えられたところで大したことはないし、面倒だろうがそれだけ、というのが青井さんの感想だという。「彼女のこと、あることないこと書いたのがまずかった。それをうっかりリアルでしゃべったことも。最初はファンだったんですけどね」 青井さんがネットで誹謗中傷した少女はグラビアアイドルといってもメジャーな芸能人ではなく、露出度の高いマイクロビキニやふんどしを着せるようなイメージビデオに何作か出演しただけの少女だった。2000年代中盤、とくに過激な作品が乱発された時代だ。「イベントや撮影会に何度か行ったんですが、彼女の対応が気に入らなかったんでネットに書き込んだのが最初ですね、自分としてはネタでした」 秋葉原のビデオ店やパソコンショップにはこうした新人グラドル御用達の小さなイベント会場がある。また少数のファンを集めて小さな撮影会を開いたりもする。青井さんはそこで実際に会い、やがて幻滅した。恋愛感情か。「どうでしょう、かわいいとは思ってましたし、付き合えればそりゃ嬉しいでしょう。(その少女のビデオを)オカズに使ってたのも事実です」 消費対象かという筆者の言葉に、「そう、そんな軽い感じです」と大きくうなずいた。青井さんはこんな軽い感じで攻撃を始めたわけだ。あることないこと書きたてて。少しミソジニー(女性嫌悪)をこじらせていたのでは?「それはあるかもしれません。理想の少女を勝手に作って、勝手に憎悪したわけで。それに匿名ならバレませんから。自分だけじゃなく、他にもアンチはいましたから」 他にもいる、は常套文句だ。しかし匿名でも実際は匿名ではない。しかるべき手順で開示請求して、地道に辿れば足はつく。「でもね、わかってて言ってると思うんですけど、お金持ってて影響力も桁違いの芸能人なら本気出せばできるかもしれませんが、普通は無理ですよ」 残念ながらそのとおり、誹謗中傷に断固とした対応で臨むと宣言した中川翔子さんのような大物芸能人ならともかく、ニッチなグラドルやコスプレイヤー、地下アイドルなど事務所も小さく資力もないどころか無所属の場合、資金的にも個人レベルでは誹謗中傷に真っ向から立ち向かうのは現実的に難しい。小金井ストーカー殺人未遂事件のように警察が動くほどの目に見える犯罪被害でもない限り、泣き寝入りかスルーというのが実情だ。誹謗中傷の主戦場がSNSに移ったいまも、多くの被害者が苦しんでいる。ネットってその辺の一般人最強ですから「自分はその子とリアルで知り合ったから足がつきましたけど、まあ一切会ってなければ(特定は)無理なんじゃないかな、まして当時(2000年代)では珍しいと思います」 青井さんは撮影会などでリアルに接していたことや生来のおしゃべりが祟り、察した事務所関係者に問い詰められた末に訴えると脅されて和解となった。つまりは民法上の「訴え提起前の和解」であり、実際に裁判所に出頭した上で二度と誹謗中傷をしないこと、近寄らないこと、という誓約書を作成させられたという。微々たる額だが和解金も支払った。「多くはこうして和解だと思います。おかしな人でもない限り、これで二度とやらないでしょうし、自分もそうでした」 こうして青井さんは正式な裁判に持ち込まれずに済んだ。その後、相手の少女はもちろん、他にも同じような誹謗中傷行為はしていないのか。「してませんね。もう年ですから。それに結婚もしましたし、いまの仕事も長いです。家庭あるんで」 誹謗中傷をした本人は結婚して平穏に暮らし、された側は引退して行方知れず。青井さんの話では、そのグラドルにはリスカ、手首を傷つけた跡もあったという。自分のせいではない、元から病ンドルだったと語るが釈然としない。奥さんは知っているのか。「知ってます。妻もネット好きだしオタク同士で価値観も一緒です。もうバカなことすんなよ、とは言われてますが」 今日一番嬉しそうな笑顔、地獄のような「子ども社会人」だった青井さんを救ったのは奥さんだ。微笑ましい限りだが、それでもやはり釈然としないことを告げる。すると青井さんは顔をしかめ、改まって言葉を繋いだ。「仕事に影響があったならかわいそうですけど、もう和解しましたし、昔の話ですから」 彼を責めることが目的ではないが、少女の性格や仕事ぶりの「あることないこと」をネットに撒き散らした青井さんは偽計業務妨害罪でもおかしくない。元アイドルのラーメン店経営者に対して「反社とつながっている」と風説の流布を繰り返した50代の男もまさにそれだった。誹謗中傷には仕事に影響を与えるような妨害行為も多い。こいつは使うな、こいつはこういう奴だと取引先や媒体に匿名で連絡する。歪んだ正義と嫉妬、心理学では「引き下げ心理」とも呼ばれる。「それはあるかもしれません。あのころ、なにもかもうまくいかなかった男で、ゲームと少女だけが拠り所でしたから」 素直に認める青井さんだが、これも過去と割り切れているからこそ。理解ある奥さんもいて平穏に暮らしている。しかし被害者は割り切れていないかもしれない。やったほうは忘れても、やられたほうは忘れない。それでも青井さんの言うところの「その辺の一般人」である限りキャンセルカルチャーの心配はないし、青井さんの現在の仕事は具体的には書かないが万年人手不足の仕事でコロナ禍もあり、まずクビにはならない不人気職とのこと。このように誹謗中傷側から話を聞くとやったもん勝ち、本当に解決策はないのではと思わされる。あえて聞くが、かつての誹謗中傷者として、どうすれば誹謗中傷が無くなると思うか。「絶対に無くならないと思いますよ。実名制にしてもやる人はやるし、ネットってその辺の一般人最強ですから」 実名制は韓国も失敗した。確かに、日本でもFacebookの一部ユーザーなどは実名どころか顔から所属先まで晒して他者を攻撃していたりする。自営業や年金者に多い印象だが、前者はともかく後者はある意味で無敵、ほのぼのと孫の写真を晒したそばから誹謗中傷を繰り返している(それも全公開設定!)。無くならないというのが現実だろう。「個人的な考えですけど、中国の信用スコアとか効くんじゃないですか? たとえばネットなら誹謗中傷を繰り返せば手持ちのスコアが減るとか。それで就職とかローンとか、子どもの進学にも影響あるみたいな。それでお互い点を見ることができるシステムなら他人を気にする日本人に効くと思うんですけど、こいつは何点か~って点数見られる感じで」 こんな気持ち悪い全体主義、筆者は無論反対だが、これくらいしないと匿名の誹謗中傷、ネット上の暴力は無くならないと思わされるのもまた事実。2021年4月に改正プロバイダ責任制限法が成立、公布されたが、この程度ではかつての青井さんのようないわゆる「無敵の一般人」には効かないように思う。自分自身が幸せになればやめられると思う「自分はもうしてませんけど、いまも独身で仕事もだめだったら別のタゲ(ターゲットの意)を探していたと思います。みんなが幸せになればいいんでしょうけど、それは無理でしょう。だったら、誹謗中傷は無くならないでしょうね」 どこか他人事、誹謗中傷当事者の言葉だけに違和感しかないが、当たっているだけに筆者もこの話を終えたあと、さてどうルポを結実させようか考えてしまった。なのでせめて、青井さんとの一問一答が参考になればと改めて記す。なぜ誹謗中傷するのか、その心理の一例にはなるだろう。その公表は青井さんも望んでいる。匿名掲示板でもSNSでも誹謗中傷の心理そのものに違いはないだろう。 ――なぜ少女が苦しむほどに、あることないことを書き込んだのか「最初はファンだった。何度かイベントや撮影会で会ったが塩対応で態度が悪く、自分の思ったような子じゃなかった。よかれと思って年上としてアドバイスしたつもりが、気持ち悪がられて腹がたった。叩き始めると彼女のことばかり考えるようになった。純粋なファンのときより叩きはじめた後のほうが彼女のことばかり考えていたように思う」 ――少女の仕事や生活を脅かすとは思わなかったのか。「当時は彼女の活動が仕事だという感覚はなかった。自分の娯楽としか見ていなかった。際どい水着でおっさんに媚び売る子どもと、どこか下に見ていたのかもしれない。はっきりいってオカズだった」 ――和解したが誹謗中傷が引退のきっかけかもしれない、罪悪感はあるか。「そこは芸能人として見ていた。有名税だからという免罪符はあったと思う。罪悪なんて大げさな話ではなく、あくまでネタだった」 ――青井さんには過去かもしれないが彼女は忘れていないかもしれない。「それはキリがない。一生気にすることとは思わない。忘れて欲しいと思う」 ――誹謗中傷をしている人たちに先達として忠告することはあるか。「自分自身が幸せになればやめられると思う。ずっと不幸な人はわからない」 ――かつての加害者として誹謗中傷をされている人たちにアドバイスはあるか。「気にしないこと。それしかない。相手が名無しの一般人ならそれしかないと思う。訴えるのは自由だが実利は薄いと思う。罰則を厳しくしない国が悪い。法律の問題だと思う」 このような問答となったが、人それぞれに読み取れる部分は多いだろう。もちろん彼一人のサンプル、これがすべてと言わないが、多くの誹謗中傷側の感覚はお気軽なもので、自覚なしに追い詰める事例が大半のように思う。だからこそやっかいなのだ。いじめという名の犯罪行為同様、受けた側の傷に比べてあまりに軽い。拍子抜けするほどに。そして青井さんの言う「その辺の一般人」かつ無敵の人、それに準じるような人の場合、訴えたところで直接的な効果は薄い。裁判が終わってほとぼり冷めたらまた繰り返す危険人物すらいる。 中国の信用スコア、社会信用システムのようなディストピアは勘弁だが、それがコロナ禍の統制含め有効なのではという話もある。日本は憲法上そこまでできないし表現の自由との兼ね合いもあるが、被害者の苦しみを考えれば、さらなる開示の容易化と刑法の厳罰化の方向に進むのもまた現実だろう。 取材中、青井さんから謝罪の言葉は出なかった。これもまた現実だ。【プロフィール】日野百草(ひの・ひゃくそう)/本名:上崎洋一。1972年千葉県野田市生まれ。日本ペンクラブ会員。出版社を経てフリーランス。全国俳誌協会賞、日本詩歌句随筆評論協会賞奨励賞(評論部門)受賞。『誰も書けなかったパチンコ20兆円の闇』(宝島社・共著)、『ルポ 京アニを燃やした男』(第三書館)。近著『評伝 赤城さかえ 楸邨、波郷、兜太から愛された魂の俳人』(コールサック社)。
「だからネット掲示板だったわけです。匿名掲示板は平等です。誰が言ったか、ではなく何を言ったか、がすべてですから」 誰もが自由に言論を手にして、リアルのヒエラルキーと関係なしに自分の意見が受け入れられる――かつてのネット民は青井さんと同様、匿名掲示板に期待した。まさか訴えられるとは思いませんでした「短期間のゲーム誌バイトとライターかじっただけですけど、わかってないのは業界の連中で、自分は正しいと思ってました。実際、ネットの世界ではそれなりに受け入れられました。褒めるより叩くほうが受け入れられたので、自分に合ってました」 匿名だからこその同調と空気に飲み込まれた青井さん。2ちゃんねるはもちろん、当時乱立した数多の掲示板にどっぷり浸かった。とっくにゲームライターも自然廃業、業界とは関係ない立場だったが、やはり有名クリエイターを叩き、人気ゲームをこき下ろした。「高揚感が凄かったですね。社員編集の連中はバカにしたけど、掲示板の多くは賛同してくれる。俺の考えてることのほうがやっぱり正しかった、って。もちろん、いまはそんなヤバい奴じゃないですよ」 確かにいまの青井さんを見る限り、そんな時代があったとは信じがたい。筆者が後輩からゲーム仲間だと紹介されたとき、青井さんは痛いオタクだった、とは聞いていたが。「辛辣ですけど事実ですね。文系のくせにとか平気で言っちゃう奴でした」 青井さんは理系であることに一種のアイデンティティを持っていたそうで、私立理系大を出たあと新卒で大手ゲーム会社、出版社と受けたがすべて落ちたという。斜陽と揶揄する向きもあるが、その高い倍率と就職偏差値(ここでは便宜上使う)は昔もいまも揺るぎない。「だからバイトで(出版社に)潜り込んだんですけど、なんかダメでした。物作ったり文字書く側じゃないって気づいたのは結構あとです」 青井さんは関東近郊の実家暮らしという気軽さもあったのだろう、地元の和食レストランやカレー屋などのアルバイトを転々としながらライトノベル小説など書いてみたりフリーゲームなど作ってみたりしたが、どれも完成すらしなかったという。すでに2000年代も中盤、青井さんは実家住まいのフリーターとして過ごした。「いまは才能なかったってわかってますけど当時はヤバかった。黒歴史です。でもネットはそんな自分も受け入れてくれたんです。サイトで自分の小説の断片を出すと『すごい』『神』って言ってくれる人がいる。フリーゲームなんか企画の話だけで褒めてくれる。必ず誰かいて迎えてくれる。あのときの自分にしてみれば気持ちいい世界だったんです」 リアルで満たされない承認欲求がネットで満たされる、それは有名無名関係ないだろうが、リアルがあまりに危うい時期に溺れてしまうと抜け出せなくなる。ネット屋も商売、ソシャゲ屋もそうだが、それを承知で溺死者を出さない程度に承認欲求のプールに浸かってもらい、依存するよう仕向けている。それでも人によっては救われる面もある。「でも、まさか訴えられるとは思いませんでしたけどね」 厳密に言うと青井さんは訴えられる前に和解しているしSNS興隆以前の話である。それでも、かつて拙ルポ『「やめたいのにやめられない」ネット中傷を続ける女性の告白』でも言及したが、ネットで誹謗中傷をしていたと告白してくれる存在は貴重である。「相手は10代のグラビアアイドルとその事務所です」 そのころの青井さんはラノベやゲームと同時に10代の少女、とくに中高生のグラドルにハマっていた。「でも当時の(飲食店の)バイトなんて辞めさせられたりしませんでしたよ。わざわざ言わなきゃ誰もわかんないですから。その辺の人なんて、みんなそうだと思います」 木村花さんの事件もそうだが、一般人が中傷犯なら名前も出なければ有名人ほどに露骨な社会的制裁を受けることはまずない。多くは話題にすらならないだろう。自分だけじゃなく、他にもアンチはいましたから 青井さんは開き直っているわけではない。筆者が知る限りでも、一般の社会人でネットの誹謗中傷で訴えられて会社を辞めさせられた、地域にいられなくなったなんて話はない。みんな粛々と、何食わぬ顔で学校に行ったり働いたりしている。ましてや事情で働いていない人、引きこもりやニートはもちろん引退世代の高齢者なら訴えられたところで屁でもない。「和解といっても金銭はわずかで、彼女に対して誹謗中傷はしないという約束が主です。命どころか仕事をとられることもないです。やったもん勝ちですね」 有名人はもちろん、ネットのインフルエンサーなど、それなりに影響力があるから誹謗だ中傷だと話題になるだけであって、多くの無名の一般人なら現実には訴えられたところで大したことはないし、面倒だろうがそれだけ、というのが青井さんの感想だという。「彼女のこと、あることないこと書いたのがまずかった。それをうっかりリアルでしゃべったことも。最初はファンだったんですけどね」 青井さんがネットで誹謗中傷した少女はグラビアアイドルといってもメジャーな芸能人ではなく、露出度の高いマイクロビキニやふんどしを着せるようなイメージビデオに何作か出演しただけの少女だった。2000年代中盤、とくに過激な作品が乱発された時代だ。「イベントや撮影会に何度か行ったんですが、彼女の対応が気に入らなかったんでネットに書き込んだのが最初ですね、自分としてはネタでした」 秋葉原のビデオ店やパソコンショップにはこうした新人グラドル御用達の小さなイベント会場がある。また少数のファンを集めて小さな撮影会を開いたりもする。青井さんはそこで実際に会い、やがて幻滅した。恋愛感情か。「どうでしょう、かわいいとは思ってましたし、付き合えればそりゃ嬉しいでしょう。(その少女のビデオを)オカズに使ってたのも事実です」 消費対象かという筆者の言葉に、「そう、そんな軽い感じです」と大きくうなずいた。青井さんはこんな軽い感じで攻撃を始めたわけだ。あることないこと書きたてて。少しミソジニー(女性嫌悪)をこじらせていたのでは?「それはあるかもしれません。理想の少女を勝手に作って、勝手に憎悪したわけで。それに匿名ならバレませんから。自分だけじゃなく、他にもアンチはいましたから」 他にもいる、は常套文句だ。しかし匿名でも実際は匿名ではない。しかるべき手順で開示請求して、地道に辿れば足はつく。「でもね、わかってて言ってると思うんですけど、お金持ってて影響力も桁違いの芸能人なら本気出せばできるかもしれませんが、普通は無理ですよ」 残念ながらそのとおり、誹謗中傷に断固とした対応で臨むと宣言した中川翔子さんのような大物芸能人ならともかく、ニッチなグラドルやコスプレイヤー、地下アイドルなど事務所も小さく資力もないどころか無所属の場合、資金的にも個人レベルでは誹謗中傷に真っ向から立ち向かうのは現実的に難しい。小金井ストーカー殺人未遂事件のように警察が動くほどの目に見える犯罪被害でもない限り、泣き寝入りかスルーというのが実情だ。誹謗中傷の主戦場がSNSに移ったいまも、多くの被害者が苦しんでいる。ネットってその辺の一般人最強ですから「自分はその子とリアルで知り合ったから足がつきましたけど、まあ一切会ってなければ(特定は)無理なんじゃないかな、まして当時(2000年代)では珍しいと思います」 青井さんは撮影会などでリアルに接していたことや生来のおしゃべりが祟り、察した事務所関係者に問い詰められた末に訴えると脅されて和解となった。つまりは民法上の「訴え提起前の和解」であり、実際に裁判所に出頭した上で二度と誹謗中傷をしないこと、近寄らないこと、という誓約書を作成させられたという。微々たる額だが和解金も支払った。「多くはこうして和解だと思います。おかしな人でもない限り、これで二度とやらないでしょうし、自分もそうでした」 こうして青井さんは正式な裁判に持ち込まれずに済んだ。その後、相手の少女はもちろん、他にも同じような誹謗中傷行為はしていないのか。「してませんね。もう年ですから。それに結婚もしましたし、いまの仕事も長いです。家庭あるんで」 誹謗中傷をした本人は結婚して平穏に暮らし、された側は引退して行方知れず。青井さんの話では、そのグラドルにはリスカ、手首を傷つけた跡もあったという。自分のせいではない、元から病ンドルだったと語るが釈然としない。奥さんは知っているのか。「知ってます。妻もネット好きだしオタク同士で価値観も一緒です。もうバカなことすんなよ、とは言われてますが」 今日一番嬉しそうな笑顔、地獄のような「子ども社会人」だった青井さんを救ったのは奥さんだ。微笑ましい限りだが、それでもやはり釈然としないことを告げる。すると青井さんは顔をしかめ、改まって言葉を繋いだ。「仕事に影響があったならかわいそうですけど、もう和解しましたし、昔の話ですから」 彼を責めることが目的ではないが、少女の性格や仕事ぶりの「あることないこと」をネットに撒き散らした青井さんは偽計業務妨害罪でもおかしくない。元アイドルのラーメン店経営者に対して「反社とつながっている」と風説の流布を繰り返した50代の男もまさにそれだった。誹謗中傷には仕事に影響を与えるような妨害行為も多い。こいつは使うな、こいつはこういう奴だと取引先や媒体に匿名で連絡する。歪んだ正義と嫉妬、心理学では「引き下げ心理」とも呼ばれる。「それはあるかもしれません。あのころ、なにもかもうまくいかなかった男で、ゲームと少女だけが拠り所でしたから」 素直に認める青井さんだが、これも過去と割り切れているからこそ。理解ある奥さんもいて平穏に暮らしている。しかし被害者は割り切れていないかもしれない。やったほうは忘れても、やられたほうは忘れない。それでも青井さんの言うところの「その辺の一般人」である限りキャンセルカルチャーの心配はないし、青井さんの現在の仕事は具体的には書かないが万年人手不足の仕事でコロナ禍もあり、まずクビにはならない不人気職とのこと。このように誹謗中傷側から話を聞くとやったもん勝ち、本当に解決策はないのではと思わされる。あえて聞くが、かつての誹謗中傷者として、どうすれば誹謗中傷が無くなると思うか。「絶対に無くならないと思いますよ。実名制にしてもやる人はやるし、ネットってその辺の一般人最強ですから」 実名制は韓国も失敗した。確かに、日本でもFacebookの一部ユーザーなどは実名どころか顔から所属先まで晒して他者を攻撃していたりする。自営業や年金者に多い印象だが、前者はともかく後者はある意味で無敵、ほのぼのと孫の写真を晒したそばから誹謗中傷を繰り返している(それも全公開設定!)。無くならないというのが現実だろう。「個人的な考えですけど、中国の信用スコアとか効くんじゃないですか? たとえばネットなら誹謗中傷を繰り返せば手持ちのスコアが減るとか。それで就職とかローンとか、子どもの進学にも影響あるみたいな。それでお互い点を見ることができるシステムなら他人を気にする日本人に効くと思うんですけど、こいつは何点か~って点数見られる感じで」 こんな気持ち悪い全体主義、筆者は無論反対だが、これくらいしないと匿名の誹謗中傷、ネット上の暴力は無くならないと思わされるのもまた事実。2021年4月に改正プロバイダ責任制限法が成立、公布されたが、この程度ではかつての青井さんのようないわゆる「無敵の一般人」には効かないように思う。自分自身が幸せになればやめられると思う「自分はもうしてませんけど、いまも独身で仕事もだめだったら別のタゲ(ターゲットの意)を探していたと思います。みんなが幸せになればいいんでしょうけど、それは無理でしょう。だったら、誹謗中傷は無くならないでしょうね」 どこか他人事、誹謗中傷当事者の言葉だけに違和感しかないが、当たっているだけに筆者もこの話を終えたあと、さてどうルポを結実させようか考えてしまった。なのでせめて、青井さんとの一問一答が参考になればと改めて記す。なぜ誹謗中傷するのか、その心理の一例にはなるだろう。その公表は青井さんも望んでいる。匿名掲示板でもSNSでも誹謗中傷の心理そのものに違いはないだろう。 ――なぜ少女が苦しむほどに、あることないことを書き込んだのか「最初はファンだった。何度かイベントや撮影会で会ったが塩対応で態度が悪く、自分の思ったような子じゃなかった。よかれと思って年上としてアドバイスしたつもりが、気持ち悪がられて腹がたった。叩き始めると彼女のことばかり考えるようになった。純粋なファンのときより叩きはじめた後のほうが彼女のことばかり考えていたように思う」 ――少女の仕事や生活を脅かすとは思わなかったのか。「当時は彼女の活動が仕事だという感覚はなかった。自分の娯楽としか見ていなかった。際どい水着でおっさんに媚び売る子どもと、どこか下に見ていたのかもしれない。はっきりいってオカズだった」 ――和解したが誹謗中傷が引退のきっかけかもしれない、罪悪感はあるか。「そこは芸能人として見ていた。有名税だからという免罪符はあったと思う。罪悪なんて大げさな話ではなく、あくまでネタだった」 ――青井さんには過去かもしれないが彼女は忘れていないかもしれない。「それはキリがない。一生気にすることとは思わない。忘れて欲しいと思う」 ――誹謗中傷をしている人たちに先達として忠告することはあるか。「自分自身が幸せになればやめられると思う。ずっと不幸な人はわからない」 ――かつての加害者として誹謗中傷をされている人たちにアドバイスはあるか。「気にしないこと。それしかない。相手が名無しの一般人ならそれしかないと思う。訴えるのは自由だが実利は薄いと思う。罰則を厳しくしない国が悪い。法律の問題だと思う」 このような問答となったが、人それぞれに読み取れる部分は多いだろう。もちろん彼一人のサンプル、これがすべてと言わないが、多くの誹謗中傷側の感覚はお気軽なもので、自覚なしに追い詰める事例が大半のように思う。だからこそやっかいなのだ。いじめという名の犯罪行為同様、受けた側の傷に比べてあまりに軽い。拍子抜けするほどに。そして青井さんの言う「その辺の一般人」かつ無敵の人、それに準じるような人の場合、訴えたところで直接的な効果は薄い。裁判が終わってほとぼり冷めたらまた繰り返す危険人物すらいる。 中国の信用スコア、社会信用システムのようなディストピアは勘弁だが、それがコロナ禍の統制含め有効なのではという話もある。日本は憲法上そこまでできないし表現の自由との兼ね合いもあるが、被害者の苦しみを考えれば、さらなる開示の容易化と刑法の厳罰化の方向に進むのもまた現実だろう。 取材中、青井さんから謝罪の言葉は出なかった。これもまた現実だ。【プロフィール】日野百草(ひの・ひゃくそう)/本名:上崎洋一。1972年千葉県野田市生まれ。日本ペンクラブ会員。出版社を経てフリーランス。全国俳誌協会賞、日本詩歌句随筆評論協会賞奨励賞(評論部門)受賞。『誰も書けなかったパチンコ20兆円の闇』(宝島社・共著)、『ルポ 京アニを燃やした男』(第三書館)。近著『評伝 赤城さかえ 楸邨、波郷、兜太から愛された魂の俳人』(コールサック社)。
誰もが自由に言論を手にして、リアルのヒエラルキーと関係なしに自分の意見が受け入れられる――かつてのネット民は青井さんと同様、匿名掲示板に期待した。まさか訴えられるとは思いませんでした「短期間のゲーム誌バイトとライターかじっただけですけど、わかってないのは業界の連中で、自分は正しいと思ってました。実際、ネットの世界ではそれなりに受け入れられました。褒めるより叩くほうが受け入れられたので、自分に合ってました」 匿名だからこその同調と空気に飲み込まれた青井さん。2ちゃんねるはもちろん、当時乱立した数多の掲示板にどっぷり浸かった。とっくにゲームライターも自然廃業、業界とは関係ない立場だったが、やはり有名クリエイターを叩き、人気ゲームをこき下ろした。「高揚感が凄かったですね。社員編集の連中はバカにしたけど、掲示板の多くは賛同してくれる。俺の考えてることのほうがやっぱり正しかった、って。もちろん、いまはそんなヤバい奴じゃないですよ」 確かにいまの青井さんを見る限り、そんな時代があったとは信じがたい。筆者が後輩からゲーム仲間だと紹介されたとき、青井さんは痛いオタクだった、とは聞いていたが。「辛辣ですけど事実ですね。文系のくせにとか平気で言っちゃう奴でした」 青井さんは理系であることに一種のアイデンティティを持っていたそうで、私立理系大を出たあと新卒で大手ゲーム会社、出版社と受けたがすべて落ちたという。斜陽と揶揄する向きもあるが、その高い倍率と就職偏差値(ここでは便宜上使う)は昔もいまも揺るぎない。「だからバイトで(出版社に)潜り込んだんですけど、なんかダメでした。物作ったり文字書く側じゃないって気づいたのは結構あとです」 青井さんは関東近郊の実家暮らしという気軽さもあったのだろう、地元の和食レストランやカレー屋などのアルバイトを転々としながらライトノベル小説など書いてみたりフリーゲームなど作ってみたりしたが、どれも完成すらしなかったという。すでに2000年代も中盤、青井さんは実家住まいのフリーターとして過ごした。「いまは才能なかったってわかってますけど当時はヤバかった。黒歴史です。でもネットはそんな自分も受け入れてくれたんです。サイトで自分の小説の断片を出すと『すごい』『神』って言ってくれる人がいる。フリーゲームなんか企画の話だけで褒めてくれる。必ず誰かいて迎えてくれる。あのときの自分にしてみれば気持ちいい世界だったんです」 リアルで満たされない承認欲求がネットで満たされる、それは有名無名関係ないだろうが、リアルがあまりに危うい時期に溺れてしまうと抜け出せなくなる。ネット屋も商売、ソシャゲ屋もそうだが、それを承知で溺死者を出さない程度に承認欲求のプールに浸かってもらい、依存するよう仕向けている。それでも人によっては救われる面もある。「でも、まさか訴えられるとは思いませんでしたけどね」 厳密に言うと青井さんは訴えられる前に和解しているしSNS興隆以前の話である。それでも、かつて拙ルポ『「やめたいのにやめられない」ネット中傷を続ける女性の告白』でも言及したが、ネットで誹謗中傷をしていたと告白してくれる存在は貴重である。「相手は10代のグラビアアイドルとその事務所です」 そのころの青井さんはラノベやゲームと同時に10代の少女、とくに中高生のグラドルにハマっていた。「でも当時の(飲食店の)バイトなんて辞めさせられたりしませんでしたよ。わざわざ言わなきゃ誰もわかんないですから。その辺の人なんて、みんなそうだと思います」 木村花さんの事件もそうだが、一般人が中傷犯なら名前も出なければ有名人ほどに露骨な社会的制裁を受けることはまずない。多くは話題にすらならないだろう。自分だけじゃなく、他にもアンチはいましたから 青井さんは開き直っているわけではない。筆者が知る限りでも、一般の社会人でネットの誹謗中傷で訴えられて会社を辞めさせられた、地域にいられなくなったなんて話はない。みんな粛々と、何食わぬ顔で学校に行ったり働いたりしている。ましてや事情で働いていない人、引きこもりやニートはもちろん引退世代の高齢者なら訴えられたところで屁でもない。「和解といっても金銭はわずかで、彼女に対して誹謗中傷はしないという約束が主です。命どころか仕事をとられることもないです。やったもん勝ちですね」 有名人はもちろん、ネットのインフルエンサーなど、それなりに影響力があるから誹謗だ中傷だと話題になるだけであって、多くの無名の一般人なら現実には訴えられたところで大したことはないし、面倒だろうがそれだけ、というのが青井さんの感想だという。「彼女のこと、あることないこと書いたのがまずかった。それをうっかりリアルでしゃべったことも。最初はファンだったんですけどね」 青井さんがネットで誹謗中傷した少女はグラビアアイドルといってもメジャーな芸能人ではなく、露出度の高いマイクロビキニやふんどしを着せるようなイメージビデオに何作か出演しただけの少女だった。2000年代中盤、とくに過激な作品が乱発された時代だ。「イベントや撮影会に何度か行ったんですが、彼女の対応が気に入らなかったんでネットに書き込んだのが最初ですね、自分としてはネタでした」 秋葉原のビデオ店やパソコンショップにはこうした新人グラドル御用達の小さなイベント会場がある。また少数のファンを集めて小さな撮影会を開いたりもする。青井さんはそこで実際に会い、やがて幻滅した。恋愛感情か。「どうでしょう、かわいいとは思ってましたし、付き合えればそりゃ嬉しいでしょう。(その少女のビデオを)オカズに使ってたのも事実です」 消費対象かという筆者の言葉に、「そう、そんな軽い感じです」と大きくうなずいた。青井さんはこんな軽い感じで攻撃を始めたわけだ。あることないこと書きたてて。少しミソジニー(女性嫌悪)をこじらせていたのでは?「それはあるかもしれません。理想の少女を勝手に作って、勝手に憎悪したわけで。それに匿名ならバレませんから。自分だけじゃなく、他にもアンチはいましたから」 他にもいる、は常套文句だ。しかし匿名でも実際は匿名ではない。しかるべき手順で開示請求して、地道に辿れば足はつく。「でもね、わかってて言ってると思うんですけど、お金持ってて影響力も桁違いの芸能人なら本気出せばできるかもしれませんが、普通は無理ですよ」 残念ながらそのとおり、誹謗中傷に断固とした対応で臨むと宣言した中川翔子さんのような大物芸能人ならともかく、ニッチなグラドルやコスプレイヤー、地下アイドルなど事務所も小さく資力もないどころか無所属の場合、資金的にも個人レベルでは誹謗中傷に真っ向から立ち向かうのは現実的に難しい。小金井ストーカー殺人未遂事件のように警察が動くほどの目に見える犯罪被害でもない限り、泣き寝入りかスルーというのが実情だ。誹謗中傷の主戦場がSNSに移ったいまも、多くの被害者が苦しんでいる。ネットってその辺の一般人最強ですから「自分はその子とリアルで知り合ったから足がつきましたけど、まあ一切会ってなければ(特定は)無理なんじゃないかな、まして当時(2000年代)では珍しいと思います」 青井さんは撮影会などでリアルに接していたことや生来のおしゃべりが祟り、察した事務所関係者に問い詰められた末に訴えると脅されて和解となった。つまりは民法上の「訴え提起前の和解」であり、実際に裁判所に出頭した上で二度と誹謗中傷をしないこと、近寄らないこと、という誓約書を作成させられたという。微々たる額だが和解金も支払った。「多くはこうして和解だと思います。おかしな人でもない限り、これで二度とやらないでしょうし、自分もそうでした」 こうして青井さんは正式な裁判に持ち込まれずに済んだ。その後、相手の少女はもちろん、他にも同じような誹謗中傷行為はしていないのか。「してませんね。もう年ですから。それに結婚もしましたし、いまの仕事も長いです。家庭あるんで」 誹謗中傷をした本人は結婚して平穏に暮らし、された側は引退して行方知れず。青井さんの話では、そのグラドルにはリスカ、手首を傷つけた跡もあったという。自分のせいではない、元から病ンドルだったと語るが釈然としない。奥さんは知っているのか。「知ってます。妻もネット好きだしオタク同士で価値観も一緒です。もうバカなことすんなよ、とは言われてますが」 今日一番嬉しそうな笑顔、地獄のような「子ども社会人」だった青井さんを救ったのは奥さんだ。微笑ましい限りだが、それでもやはり釈然としないことを告げる。すると青井さんは顔をしかめ、改まって言葉を繋いだ。「仕事に影響があったならかわいそうですけど、もう和解しましたし、昔の話ですから」 彼を責めることが目的ではないが、少女の性格や仕事ぶりの「あることないこと」をネットに撒き散らした青井さんは偽計業務妨害罪でもおかしくない。元アイドルのラーメン店経営者に対して「反社とつながっている」と風説の流布を繰り返した50代の男もまさにそれだった。誹謗中傷には仕事に影響を与えるような妨害行為も多い。こいつは使うな、こいつはこういう奴だと取引先や媒体に匿名で連絡する。歪んだ正義と嫉妬、心理学では「引き下げ心理」とも呼ばれる。「それはあるかもしれません。あのころ、なにもかもうまくいかなかった男で、ゲームと少女だけが拠り所でしたから」 素直に認める青井さんだが、これも過去と割り切れているからこそ。理解ある奥さんもいて平穏に暮らしている。しかし被害者は割り切れていないかもしれない。やったほうは忘れても、やられたほうは忘れない。それでも青井さんの言うところの「その辺の一般人」である限りキャンセルカルチャーの心配はないし、青井さんの現在の仕事は具体的には書かないが万年人手不足の仕事でコロナ禍もあり、まずクビにはならない不人気職とのこと。このように誹謗中傷側から話を聞くとやったもん勝ち、本当に解決策はないのではと思わされる。あえて聞くが、かつての誹謗中傷者として、どうすれば誹謗中傷が無くなると思うか。「絶対に無くならないと思いますよ。実名制にしてもやる人はやるし、ネットってその辺の一般人最強ですから」 実名制は韓国も失敗した。確かに、日本でもFacebookの一部ユーザーなどは実名どころか顔から所属先まで晒して他者を攻撃していたりする。自営業や年金者に多い印象だが、前者はともかく後者はある意味で無敵、ほのぼのと孫の写真を晒したそばから誹謗中傷を繰り返している(それも全公開設定!)。無くならないというのが現実だろう。「個人的な考えですけど、中国の信用スコアとか効くんじゃないですか? たとえばネットなら誹謗中傷を繰り返せば手持ちのスコアが減るとか。それで就職とかローンとか、子どもの進学にも影響あるみたいな。それでお互い点を見ることができるシステムなら他人を気にする日本人に効くと思うんですけど、こいつは何点か~って点数見られる感じで」 こんな気持ち悪い全体主義、筆者は無論反対だが、これくらいしないと匿名の誹謗中傷、ネット上の暴力は無くならないと思わされるのもまた事実。2021年4月に改正プロバイダ責任制限法が成立、公布されたが、この程度ではかつての青井さんのようないわゆる「無敵の一般人」には効かないように思う。自分自身が幸せになればやめられると思う「自分はもうしてませんけど、いまも独身で仕事もだめだったら別のタゲ(ターゲットの意)を探していたと思います。みんなが幸せになればいいんでしょうけど、それは無理でしょう。だったら、誹謗中傷は無くならないでしょうね」 どこか他人事、誹謗中傷当事者の言葉だけに違和感しかないが、当たっているだけに筆者もこの話を終えたあと、さてどうルポを結実させようか考えてしまった。なのでせめて、青井さんとの一問一答が参考になればと改めて記す。なぜ誹謗中傷するのか、その心理の一例にはなるだろう。その公表は青井さんも望んでいる。匿名掲示板でもSNSでも誹謗中傷の心理そのものに違いはないだろう。 ――なぜ少女が苦しむほどに、あることないことを書き込んだのか「最初はファンだった。何度かイベントや撮影会で会ったが塩対応で態度が悪く、自分の思ったような子じゃなかった。よかれと思って年上としてアドバイスしたつもりが、気持ち悪がられて腹がたった。叩き始めると彼女のことばかり考えるようになった。純粋なファンのときより叩きはじめた後のほうが彼女のことばかり考えていたように思う」 ――少女の仕事や生活を脅かすとは思わなかったのか。「当時は彼女の活動が仕事だという感覚はなかった。自分の娯楽としか見ていなかった。際どい水着でおっさんに媚び売る子どもと、どこか下に見ていたのかもしれない。はっきりいってオカズだった」 ――和解したが誹謗中傷が引退のきっかけかもしれない、罪悪感はあるか。「そこは芸能人として見ていた。有名税だからという免罪符はあったと思う。罪悪なんて大げさな話ではなく、あくまでネタだった」 ――青井さんには過去かもしれないが彼女は忘れていないかもしれない。「それはキリがない。一生気にすることとは思わない。忘れて欲しいと思う」 ――誹謗中傷をしている人たちに先達として忠告することはあるか。「自分自身が幸せになればやめられると思う。ずっと不幸な人はわからない」 ――かつての加害者として誹謗中傷をされている人たちにアドバイスはあるか。「気にしないこと。それしかない。相手が名無しの一般人ならそれしかないと思う。訴えるのは自由だが実利は薄いと思う。罰則を厳しくしない国が悪い。法律の問題だと思う」 このような問答となったが、人それぞれに読み取れる部分は多いだろう。もちろん彼一人のサンプル、これがすべてと言わないが、多くの誹謗中傷側の感覚はお気軽なもので、自覚なしに追い詰める事例が大半のように思う。だからこそやっかいなのだ。いじめという名の犯罪行為同様、受けた側の傷に比べてあまりに軽い。拍子抜けするほどに。そして青井さんの言う「その辺の一般人」かつ無敵の人、それに準じるような人の場合、訴えたところで直接的な効果は薄い。裁判が終わってほとぼり冷めたらまた繰り返す危険人物すらいる。 中国の信用スコア、社会信用システムのようなディストピアは勘弁だが、それがコロナ禍の統制含め有効なのではという話もある。日本は憲法上そこまでできないし表現の自由との兼ね合いもあるが、被害者の苦しみを考えれば、さらなる開示の容易化と刑法の厳罰化の方向に進むのもまた現実だろう。 取材中、青井さんから謝罪の言葉は出なかった。これもまた現実だ。【プロフィール】日野百草(ひの・ひゃくそう)/本名:上崎洋一。1972年千葉県野田市生まれ。日本ペンクラブ会員。出版社を経てフリーランス。全国俳誌協会賞、日本詩歌句随筆評論協会賞奨励賞(評論部門)受賞。『誰も書けなかったパチンコ20兆円の闇』(宝島社・共著)、『ルポ 京アニを燃やした男』(第三書館)。近著『評伝 赤城さかえ 楸邨、波郷、兜太から愛された魂の俳人』(コールサック社)。
「短期間のゲーム誌バイトとライターかじっただけですけど、わかってないのは業界の連中で、自分は正しいと思ってました。実際、ネットの世界ではそれなりに受け入れられました。褒めるより叩くほうが受け入れられたので、自分に合ってました」 匿名だからこその同調と空気に飲み込まれた青井さん。2ちゃんねるはもちろん、当時乱立した数多の掲示板にどっぷり浸かった。とっくにゲームライターも自然廃業、業界とは関係ない立場だったが、やはり有名クリエイターを叩き、人気ゲームをこき下ろした。「高揚感が凄かったですね。社員編集の連中はバカにしたけど、掲示板の多くは賛同してくれる。俺の考えてることのほうがやっぱり正しかった、って。もちろん、いまはそんなヤバい奴じゃないですよ」 確かにいまの青井さんを見る限り、そんな時代があったとは信じがたい。筆者が後輩からゲーム仲間だと紹介されたとき、青井さんは痛いオタクだった、とは聞いていたが。「辛辣ですけど事実ですね。文系のくせにとか平気で言っちゃう奴でした」 青井さんは理系であることに一種のアイデンティティを持っていたそうで、私立理系大を出たあと新卒で大手ゲーム会社、出版社と受けたがすべて落ちたという。斜陽と揶揄する向きもあるが、その高い倍率と就職偏差値(ここでは便宜上使う)は昔もいまも揺るぎない。「だからバイトで(出版社に)潜り込んだんですけど、なんかダメでした。物作ったり文字書く側じゃないって気づいたのは結構あとです」 青井さんは関東近郊の実家暮らしという気軽さもあったのだろう、地元の和食レストランやカレー屋などのアルバイトを転々としながらライトノベル小説など書いてみたりフリーゲームなど作ってみたりしたが、どれも完成すらしなかったという。すでに2000年代も中盤、青井さんは実家住まいのフリーターとして過ごした。「いまは才能なかったってわかってますけど当時はヤバかった。黒歴史です。でもネットはそんな自分も受け入れてくれたんです。サイトで自分の小説の断片を出すと『すごい』『神』って言ってくれる人がいる。フリーゲームなんか企画の話だけで褒めてくれる。必ず誰かいて迎えてくれる。あのときの自分にしてみれば気持ちいい世界だったんです」 リアルで満たされない承認欲求がネットで満たされる、それは有名無名関係ないだろうが、リアルがあまりに危うい時期に溺れてしまうと抜け出せなくなる。ネット屋も商売、ソシャゲ屋もそうだが、それを承知で溺死者を出さない程度に承認欲求のプールに浸かってもらい、依存するよう仕向けている。それでも人によっては救われる面もある。「でも、まさか訴えられるとは思いませんでしたけどね」 厳密に言うと青井さんは訴えられる前に和解しているしSNS興隆以前の話である。それでも、かつて拙ルポ『「やめたいのにやめられない」ネット中傷を続ける女性の告白』でも言及したが、ネットで誹謗中傷をしていたと告白してくれる存在は貴重である。「相手は10代のグラビアアイドルとその事務所です」 そのころの青井さんはラノベやゲームと同時に10代の少女、とくに中高生のグラドルにハマっていた。「でも当時の(飲食店の)バイトなんて辞めさせられたりしませんでしたよ。わざわざ言わなきゃ誰もわかんないですから。その辺の人なんて、みんなそうだと思います」 木村花さんの事件もそうだが、一般人が中傷犯なら名前も出なければ有名人ほどに露骨な社会的制裁を受けることはまずない。多くは話題にすらならないだろう。自分だけじゃなく、他にもアンチはいましたから 青井さんは開き直っているわけではない。筆者が知る限りでも、一般の社会人でネットの誹謗中傷で訴えられて会社を辞めさせられた、地域にいられなくなったなんて話はない。みんな粛々と、何食わぬ顔で学校に行ったり働いたりしている。ましてや事情で働いていない人、引きこもりやニートはもちろん引退世代の高齢者なら訴えられたところで屁でもない。「和解といっても金銭はわずかで、彼女に対して誹謗中傷はしないという約束が主です。命どころか仕事をとられることもないです。やったもん勝ちですね」 有名人はもちろん、ネットのインフルエンサーなど、それなりに影響力があるから誹謗だ中傷だと話題になるだけであって、多くの無名の一般人なら現実には訴えられたところで大したことはないし、面倒だろうがそれだけ、というのが青井さんの感想だという。「彼女のこと、あることないこと書いたのがまずかった。それをうっかりリアルでしゃべったことも。最初はファンだったんですけどね」 青井さんがネットで誹謗中傷した少女はグラビアアイドルといってもメジャーな芸能人ではなく、露出度の高いマイクロビキニやふんどしを着せるようなイメージビデオに何作か出演しただけの少女だった。2000年代中盤、とくに過激な作品が乱発された時代だ。「イベントや撮影会に何度か行ったんですが、彼女の対応が気に入らなかったんでネットに書き込んだのが最初ですね、自分としてはネタでした」 秋葉原のビデオ店やパソコンショップにはこうした新人グラドル御用達の小さなイベント会場がある。また少数のファンを集めて小さな撮影会を開いたりもする。青井さんはそこで実際に会い、やがて幻滅した。恋愛感情か。「どうでしょう、かわいいとは思ってましたし、付き合えればそりゃ嬉しいでしょう。(その少女のビデオを)オカズに使ってたのも事実です」 消費対象かという筆者の言葉に、「そう、そんな軽い感じです」と大きくうなずいた。青井さんはこんな軽い感じで攻撃を始めたわけだ。あることないこと書きたてて。少しミソジニー(女性嫌悪)をこじらせていたのでは?「それはあるかもしれません。理想の少女を勝手に作って、勝手に憎悪したわけで。それに匿名ならバレませんから。自分だけじゃなく、他にもアンチはいましたから」 他にもいる、は常套文句だ。しかし匿名でも実際は匿名ではない。しかるべき手順で開示請求して、地道に辿れば足はつく。「でもね、わかってて言ってると思うんですけど、お金持ってて影響力も桁違いの芸能人なら本気出せばできるかもしれませんが、普通は無理ですよ」 残念ながらそのとおり、誹謗中傷に断固とした対応で臨むと宣言した中川翔子さんのような大物芸能人ならともかく、ニッチなグラドルやコスプレイヤー、地下アイドルなど事務所も小さく資力もないどころか無所属の場合、資金的にも個人レベルでは誹謗中傷に真っ向から立ち向かうのは現実的に難しい。小金井ストーカー殺人未遂事件のように警察が動くほどの目に見える犯罪被害でもない限り、泣き寝入りかスルーというのが実情だ。誹謗中傷の主戦場がSNSに移ったいまも、多くの被害者が苦しんでいる。ネットってその辺の一般人最強ですから「自分はその子とリアルで知り合ったから足がつきましたけど、まあ一切会ってなければ(特定は)無理なんじゃないかな、まして当時(2000年代)では珍しいと思います」 青井さんは撮影会などでリアルに接していたことや生来のおしゃべりが祟り、察した事務所関係者に問い詰められた末に訴えると脅されて和解となった。つまりは民法上の「訴え提起前の和解」であり、実際に裁判所に出頭した上で二度と誹謗中傷をしないこと、近寄らないこと、という誓約書を作成させられたという。微々たる額だが和解金も支払った。「多くはこうして和解だと思います。おかしな人でもない限り、これで二度とやらないでしょうし、自分もそうでした」 こうして青井さんは正式な裁判に持ち込まれずに済んだ。その後、相手の少女はもちろん、他にも同じような誹謗中傷行為はしていないのか。「してませんね。もう年ですから。それに結婚もしましたし、いまの仕事も長いです。家庭あるんで」 誹謗中傷をした本人は結婚して平穏に暮らし、された側は引退して行方知れず。青井さんの話では、そのグラドルにはリスカ、手首を傷つけた跡もあったという。自分のせいではない、元から病ンドルだったと語るが釈然としない。奥さんは知っているのか。「知ってます。妻もネット好きだしオタク同士で価値観も一緒です。もうバカなことすんなよ、とは言われてますが」 今日一番嬉しそうな笑顔、地獄のような「子ども社会人」だった青井さんを救ったのは奥さんだ。微笑ましい限りだが、それでもやはり釈然としないことを告げる。すると青井さんは顔をしかめ、改まって言葉を繋いだ。「仕事に影響があったならかわいそうですけど、もう和解しましたし、昔の話ですから」 彼を責めることが目的ではないが、少女の性格や仕事ぶりの「あることないこと」をネットに撒き散らした青井さんは偽計業務妨害罪でもおかしくない。元アイドルのラーメン店経営者に対して「反社とつながっている」と風説の流布を繰り返した50代の男もまさにそれだった。誹謗中傷には仕事に影響を与えるような妨害行為も多い。こいつは使うな、こいつはこういう奴だと取引先や媒体に匿名で連絡する。歪んだ正義と嫉妬、心理学では「引き下げ心理」とも呼ばれる。「それはあるかもしれません。あのころ、なにもかもうまくいかなかった男で、ゲームと少女だけが拠り所でしたから」 素直に認める青井さんだが、これも過去と割り切れているからこそ。理解ある奥さんもいて平穏に暮らしている。しかし被害者は割り切れていないかもしれない。やったほうは忘れても、やられたほうは忘れない。それでも青井さんの言うところの「その辺の一般人」である限りキャンセルカルチャーの心配はないし、青井さんの現在の仕事は具体的には書かないが万年人手不足の仕事でコロナ禍もあり、まずクビにはならない不人気職とのこと。このように誹謗中傷側から話を聞くとやったもん勝ち、本当に解決策はないのではと思わされる。あえて聞くが、かつての誹謗中傷者として、どうすれば誹謗中傷が無くなると思うか。「絶対に無くならないと思いますよ。実名制にしてもやる人はやるし、ネットってその辺の一般人最強ですから」 実名制は韓国も失敗した。確かに、日本でもFacebookの一部ユーザーなどは実名どころか顔から所属先まで晒して他者を攻撃していたりする。自営業や年金者に多い印象だが、前者はともかく後者はある意味で無敵、ほのぼのと孫の写真を晒したそばから誹謗中傷を繰り返している(それも全公開設定!)。無くならないというのが現実だろう。「個人的な考えですけど、中国の信用スコアとか効くんじゃないですか? たとえばネットなら誹謗中傷を繰り返せば手持ちのスコアが減るとか。それで就職とかローンとか、子どもの進学にも影響あるみたいな。それでお互い点を見ることができるシステムなら他人を気にする日本人に効くと思うんですけど、こいつは何点か~って点数見られる感じで」 こんな気持ち悪い全体主義、筆者は無論反対だが、これくらいしないと匿名の誹謗中傷、ネット上の暴力は無くならないと思わされるのもまた事実。2021年4月に改正プロバイダ責任制限法が成立、公布されたが、この程度ではかつての青井さんのようないわゆる「無敵の一般人」には効かないように思う。自分自身が幸せになればやめられると思う「自分はもうしてませんけど、いまも独身で仕事もだめだったら別のタゲ(ターゲットの意)を探していたと思います。みんなが幸せになればいいんでしょうけど、それは無理でしょう。だったら、誹謗中傷は無くならないでしょうね」 どこか他人事、誹謗中傷当事者の言葉だけに違和感しかないが、当たっているだけに筆者もこの話を終えたあと、さてどうルポを結実させようか考えてしまった。なのでせめて、青井さんとの一問一答が参考になればと改めて記す。なぜ誹謗中傷するのか、その心理の一例にはなるだろう。その公表は青井さんも望んでいる。匿名掲示板でもSNSでも誹謗中傷の心理そのものに違いはないだろう。 ――なぜ少女が苦しむほどに、あることないことを書き込んだのか「最初はファンだった。何度かイベントや撮影会で会ったが塩対応で態度が悪く、自分の思ったような子じゃなかった。よかれと思って年上としてアドバイスしたつもりが、気持ち悪がられて腹がたった。叩き始めると彼女のことばかり考えるようになった。純粋なファンのときより叩きはじめた後のほうが彼女のことばかり考えていたように思う」 ――少女の仕事や生活を脅かすとは思わなかったのか。「当時は彼女の活動が仕事だという感覚はなかった。自分の娯楽としか見ていなかった。際どい水着でおっさんに媚び売る子どもと、どこか下に見ていたのかもしれない。はっきりいってオカズだった」 ――和解したが誹謗中傷が引退のきっかけかもしれない、罪悪感はあるか。「そこは芸能人として見ていた。有名税だからという免罪符はあったと思う。罪悪なんて大げさな話ではなく、あくまでネタだった」 ――青井さんには過去かもしれないが彼女は忘れていないかもしれない。「それはキリがない。一生気にすることとは思わない。忘れて欲しいと思う」 ――誹謗中傷をしている人たちに先達として忠告することはあるか。「自分自身が幸せになればやめられると思う。ずっと不幸な人はわからない」 ――かつての加害者として誹謗中傷をされている人たちにアドバイスはあるか。「気にしないこと。それしかない。相手が名無しの一般人ならそれしかないと思う。訴えるのは自由だが実利は薄いと思う。罰則を厳しくしない国が悪い。法律の問題だと思う」 このような問答となったが、人それぞれに読み取れる部分は多いだろう。もちろん彼一人のサンプル、これがすべてと言わないが、多くの誹謗中傷側の感覚はお気軽なもので、自覚なしに追い詰める事例が大半のように思う。だからこそやっかいなのだ。いじめという名の犯罪行為同様、受けた側の傷に比べてあまりに軽い。拍子抜けするほどに。そして青井さんの言う「その辺の一般人」かつ無敵の人、それに準じるような人の場合、訴えたところで直接的な効果は薄い。裁判が終わってほとぼり冷めたらまた繰り返す危険人物すらいる。 中国の信用スコア、社会信用システムのようなディストピアは勘弁だが、それがコロナ禍の統制含め有効なのではという話もある。日本は憲法上そこまでできないし表現の自由との兼ね合いもあるが、被害者の苦しみを考えれば、さらなる開示の容易化と刑法の厳罰化の方向に進むのもまた現実だろう。 取材中、青井さんから謝罪の言葉は出なかった。これもまた現実だ。【プロフィール】日野百草(ひの・ひゃくそう)/本名:上崎洋一。1972年千葉県野田市生まれ。日本ペンクラブ会員。出版社を経てフリーランス。全国俳誌協会賞、日本詩歌句随筆評論協会賞奨励賞(評論部門)受賞。『誰も書けなかったパチンコ20兆円の闇』(宝島社・共著)、『ルポ 京アニを燃やした男』(第三書館)。近著『評伝 赤城さかえ 楸邨、波郷、兜太から愛された魂の俳人』(コールサック社)。
匿名だからこその同調と空気に飲み込まれた青井さん。2ちゃんねるはもちろん、当時乱立した数多の掲示板にどっぷり浸かった。とっくにゲームライターも自然廃業、業界とは関係ない立場だったが、やはり有名クリエイターを叩き、人気ゲームをこき下ろした。「高揚感が凄かったですね。社員編集の連中はバカにしたけど、掲示板の多くは賛同してくれる。俺の考えてることのほうがやっぱり正しかった、って。もちろん、いまはそんなヤバい奴じゃないですよ」 確かにいまの青井さんを見る限り、そんな時代があったとは信じがたい。筆者が後輩からゲーム仲間だと紹介されたとき、青井さんは痛いオタクだった、とは聞いていたが。「辛辣ですけど事実ですね。文系のくせにとか平気で言っちゃう奴でした」 青井さんは理系であることに一種のアイデンティティを持っていたそうで、私立理系大を出たあと新卒で大手ゲーム会社、出版社と受けたがすべて落ちたという。斜陽と揶揄する向きもあるが、その高い倍率と就職偏差値(ここでは便宜上使う)は昔もいまも揺るぎない。「だからバイトで(出版社に)潜り込んだんですけど、なんかダメでした。物作ったり文字書く側じゃないって気づいたのは結構あとです」 青井さんは関東近郊の実家暮らしという気軽さもあったのだろう、地元の和食レストランやカレー屋などのアルバイトを転々としながらライトノベル小説など書いてみたりフリーゲームなど作ってみたりしたが、どれも完成すらしなかったという。すでに2000年代も中盤、青井さんは実家住まいのフリーターとして過ごした。「いまは才能なかったってわかってますけど当時はヤバかった。黒歴史です。でもネットはそんな自分も受け入れてくれたんです。サイトで自分の小説の断片を出すと『すごい』『神』って言ってくれる人がいる。フリーゲームなんか企画の話だけで褒めてくれる。必ず誰かいて迎えてくれる。あのときの自分にしてみれば気持ちいい世界だったんです」 リアルで満たされない承認欲求がネットで満たされる、それは有名無名関係ないだろうが、リアルがあまりに危うい時期に溺れてしまうと抜け出せなくなる。ネット屋も商売、ソシャゲ屋もそうだが、それを承知で溺死者を出さない程度に承認欲求のプールに浸かってもらい、依存するよう仕向けている。それでも人によっては救われる面もある。「でも、まさか訴えられるとは思いませんでしたけどね」 厳密に言うと青井さんは訴えられる前に和解しているしSNS興隆以前の話である。それでも、かつて拙ルポ『「やめたいのにやめられない」ネット中傷を続ける女性の告白』でも言及したが、ネットで誹謗中傷をしていたと告白してくれる存在は貴重である。「相手は10代のグラビアアイドルとその事務所です」 そのころの青井さんはラノベやゲームと同時に10代の少女、とくに中高生のグラドルにハマっていた。「でも当時の(飲食店の)バイトなんて辞めさせられたりしませんでしたよ。わざわざ言わなきゃ誰もわかんないですから。その辺の人なんて、みんなそうだと思います」 木村花さんの事件もそうだが、一般人が中傷犯なら名前も出なければ有名人ほどに露骨な社会的制裁を受けることはまずない。多くは話題にすらならないだろう。自分だけじゃなく、他にもアンチはいましたから 青井さんは開き直っているわけではない。筆者が知る限りでも、一般の社会人でネットの誹謗中傷で訴えられて会社を辞めさせられた、地域にいられなくなったなんて話はない。みんな粛々と、何食わぬ顔で学校に行ったり働いたりしている。ましてや事情で働いていない人、引きこもりやニートはもちろん引退世代の高齢者なら訴えられたところで屁でもない。「和解といっても金銭はわずかで、彼女に対して誹謗中傷はしないという約束が主です。命どころか仕事をとられることもないです。やったもん勝ちですね」 有名人はもちろん、ネットのインフルエンサーなど、それなりに影響力があるから誹謗だ中傷だと話題になるだけであって、多くの無名の一般人なら現実には訴えられたところで大したことはないし、面倒だろうがそれだけ、というのが青井さんの感想だという。「彼女のこと、あることないこと書いたのがまずかった。それをうっかりリアルでしゃべったことも。最初はファンだったんですけどね」 青井さんがネットで誹謗中傷した少女はグラビアアイドルといってもメジャーな芸能人ではなく、露出度の高いマイクロビキニやふんどしを着せるようなイメージビデオに何作か出演しただけの少女だった。2000年代中盤、とくに過激な作品が乱発された時代だ。「イベントや撮影会に何度か行ったんですが、彼女の対応が気に入らなかったんでネットに書き込んだのが最初ですね、自分としてはネタでした」 秋葉原のビデオ店やパソコンショップにはこうした新人グラドル御用達の小さなイベント会場がある。また少数のファンを集めて小さな撮影会を開いたりもする。青井さんはそこで実際に会い、やがて幻滅した。恋愛感情か。「どうでしょう、かわいいとは思ってましたし、付き合えればそりゃ嬉しいでしょう。(その少女のビデオを)オカズに使ってたのも事実です」 消費対象かという筆者の言葉に、「そう、そんな軽い感じです」と大きくうなずいた。青井さんはこんな軽い感じで攻撃を始めたわけだ。あることないこと書きたてて。少しミソジニー(女性嫌悪)をこじらせていたのでは?「それはあるかもしれません。理想の少女を勝手に作って、勝手に憎悪したわけで。それに匿名ならバレませんから。自分だけじゃなく、他にもアンチはいましたから」 他にもいる、は常套文句だ。しかし匿名でも実際は匿名ではない。しかるべき手順で開示請求して、地道に辿れば足はつく。「でもね、わかってて言ってると思うんですけど、お金持ってて影響力も桁違いの芸能人なら本気出せばできるかもしれませんが、普通は無理ですよ」 残念ながらそのとおり、誹謗中傷に断固とした対応で臨むと宣言した中川翔子さんのような大物芸能人ならともかく、ニッチなグラドルやコスプレイヤー、地下アイドルなど事務所も小さく資力もないどころか無所属の場合、資金的にも個人レベルでは誹謗中傷に真っ向から立ち向かうのは現実的に難しい。小金井ストーカー殺人未遂事件のように警察が動くほどの目に見える犯罪被害でもない限り、泣き寝入りかスルーというのが実情だ。誹謗中傷の主戦場がSNSに移ったいまも、多くの被害者が苦しんでいる。ネットってその辺の一般人最強ですから「自分はその子とリアルで知り合ったから足がつきましたけど、まあ一切会ってなければ(特定は)無理なんじゃないかな、まして当時(2000年代)では珍しいと思います」 青井さんは撮影会などでリアルに接していたことや生来のおしゃべりが祟り、察した事務所関係者に問い詰められた末に訴えると脅されて和解となった。つまりは民法上の「訴え提起前の和解」であり、実際に裁判所に出頭した上で二度と誹謗中傷をしないこと、近寄らないこと、という誓約書を作成させられたという。微々たる額だが和解金も支払った。「多くはこうして和解だと思います。おかしな人でもない限り、これで二度とやらないでしょうし、自分もそうでした」 こうして青井さんは正式な裁判に持ち込まれずに済んだ。その後、相手の少女はもちろん、他にも同じような誹謗中傷行為はしていないのか。「してませんね。もう年ですから。それに結婚もしましたし、いまの仕事も長いです。家庭あるんで」 誹謗中傷をした本人は結婚して平穏に暮らし、された側は引退して行方知れず。青井さんの話では、そのグラドルにはリスカ、手首を傷つけた跡もあったという。自分のせいではない、元から病ンドルだったと語るが釈然としない。奥さんは知っているのか。「知ってます。妻もネット好きだしオタク同士で価値観も一緒です。もうバカなことすんなよ、とは言われてますが」 今日一番嬉しそうな笑顔、地獄のような「子ども社会人」だった青井さんを救ったのは奥さんだ。微笑ましい限りだが、それでもやはり釈然としないことを告げる。すると青井さんは顔をしかめ、改まって言葉を繋いだ。「仕事に影響があったならかわいそうですけど、もう和解しましたし、昔の話ですから」 彼を責めることが目的ではないが、少女の性格や仕事ぶりの「あることないこと」をネットに撒き散らした青井さんは偽計業務妨害罪でもおかしくない。元アイドルのラーメン店経営者に対して「反社とつながっている」と風説の流布を繰り返した50代の男もまさにそれだった。誹謗中傷には仕事に影響を与えるような妨害行為も多い。こいつは使うな、こいつはこういう奴だと取引先や媒体に匿名で連絡する。歪んだ正義と嫉妬、心理学では「引き下げ心理」とも呼ばれる。「それはあるかもしれません。あのころ、なにもかもうまくいかなかった男で、ゲームと少女だけが拠り所でしたから」 素直に認める青井さんだが、これも過去と割り切れているからこそ。理解ある奥さんもいて平穏に暮らしている。しかし被害者は割り切れていないかもしれない。やったほうは忘れても、やられたほうは忘れない。それでも青井さんの言うところの「その辺の一般人」である限りキャンセルカルチャーの心配はないし、青井さんの現在の仕事は具体的には書かないが万年人手不足の仕事でコロナ禍もあり、まずクビにはならない不人気職とのこと。このように誹謗中傷側から話を聞くとやったもん勝ち、本当に解決策はないのではと思わされる。あえて聞くが、かつての誹謗中傷者として、どうすれば誹謗中傷が無くなると思うか。「絶対に無くならないと思いますよ。実名制にしてもやる人はやるし、ネットってその辺の一般人最強ですから」 実名制は韓国も失敗した。確かに、日本でもFacebookの一部ユーザーなどは実名どころか顔から所属先まで晒して他者を攻撃していたりする。自営業や年金者に多い印象だが、前者はともかく後者はある意味で無敵、ほのぼのと孫の写真を晒したそばから誹謗中傷を繰り返している(それも全公開設定!)。無くならないというのが現実だろう。「個人的な考えですけど、中国の信用スコアとか効くんじゃないですか? たとえばネットなら誹謗中傷を繰り返せば手持ちのスコアが減るとか。それで就職とかローンとか、子どもの進学にも影響あるみたいな。それでお互い点を見ることができるシステムなら他人を気にする日本人に効くと思うんですけど、こいつは何点か~って点数見られる感じで」 こんな気持ち悪い全体主義、筆者は無論反対だが、これくらいしないと匿名の誹謗中傷、ネット上の暴力は無くならないと思わされるのもまた事実。2021年4月に改正プロバイダ責任制限法が成立、公布されたが、この程度ではかつての青井さんのようないわゆる「無敵の一般人」には効かないように思う。自分自身が幸せになればやめられると思う「自分はもうしてませんけど、いまも独身で仕事もだめだったら別のタゲ(ターゲットの意)を探していたと思います。みんなが幸せになればいいんでしょうけど、それは無理でしょう。だったら、誹謗中傷は無くならないでしょうね」 どこか他人事、誹謗中傷当事者の言葉だけに違和感しかないが、当たっているだけに筆者もこの話を終えたあと、さてどうルポを結実させようか考えてしまった。なのでせめて、青井さんとの一問一答が参考になればと改めて記す。なぜ誹謗中傷するのか、その心理の一例にはなるだろう。その公表は青井さんも望んでいる。匿名掲示板でもSNSでも誹謗中傷の心理そのものに違いはないだろう。 ――なぜ少女が苦しむほどに、あることないことを書き込んだのか「最初はファンだった。何度かイベントや撮影会で会ったが塩対応で態度が悪く、自分の思ったような子じゃなかった。よかれと思って年上としてアドバイスしたつもりが、気持ち悪がられて腹がたった。叩き始めると彼女のことばかり考えるようになった。純粋なファンのときより叩きはじめた後のほうが彼女のことばかり考えていたように思う」 ――少女の仕事や生活を脅かすとは思わなかったのか。「当時は彼女の活動が仕事だという感覚はなかった。自分の娯楽としか見ていなかった。際どい水着でおっさんに媚び売る子どもと、どこか下に見ていたのかもしれない。はっきりいってオカズだった」 ――和解したが誹謗中傷が引退のきっかけかもしれない、罪悪感はあるか。「そこは芸能人として見ていた。有名税だからという免罪符はあったと思う。罪悪なんて大げさな話ではなく、あくまでネタだった」 ――青井さんには過去かもしれないが彼女は忘れていないかもしれない。「それはキリがない。一生気にすることとは思わない。忘れて欲しいと思う」 ――誹謗中傷をしている人たちに先達として忠告することはあるか。「自分自身が幸せになればやめられると思う。ずっと不幸な人はわからない」 ――かつての加害者として誹謗中傷をされている人たちにアドバイスはあるか。「気にしないこと。それしかない。相手が名無しの一般人ならそれしかないと思う。訴えるのは自由だが実利は薄いと思う。罰則を厳しくしない国が悪い。法律の問題だと思う」 このような問答となったが、人それぞれに読み取れる部分は多いだろう。もちろん彼一人のサンプル、これがすべてと言わないが、多くの誹謗中傷側の感覚はお気軽なもので、自覚なしに追い詰める事例が大半のように思う。だからこそやっかいなのだ。いじめという名の犯罪行為同様、受けた側の傷に比べてあまりに軽い。拍子抜けするほどに。そして青井さんの言う「その辺の一般人」かつ無敵の人、それに準じるような人の場合、訴えたところで直接的な効果は薄い。裁判が終わってほとぼり冷めたらまた繰り返す危険人物すらいる。 中国の信用スコア、社会信用システムのようなディストピアは勘弁だが、それがコロナ禍の統制含め有効なのではという話もある。日本は憲法上そこまでできないし表現の自由との兼ね合いもあるが、被害者の苦しみを考えれば、さらなる開示の容易化と刑法の厳罰化の方向に進むのもまた現実だろう。 取材中、青井さんから謝罪の言葉は出なかった。これもまた現実だ。【プロフィール】日野百草(ひの・ひゃくそう)/本名:上崎洋一。1972年千葉県野田市生まれ。日本ペンクラブ会員。出版社を経てフリーランス。全国俳誌協会賞、日本詩歌句随筆評論協会賞奨励賞(評論部門)受賞。『誰も書けなかったパチンコ20兆円の闇』(宝島社・共著)、『ルポ 京アニを燃やした男』(第三書館)。近著『評伝 赤城さかえ 楸邨、波郷、兜太から愛された魂の俳人』(コールサック社)。
「高揚感が凄かったですね。社員編集の連中はバカにしたけど、掲示板の多くは賛同してくれる。俺の考えてることのほうがやっぱり正しかった、って。もちろん、いまはそんなヤバい奴じゃないですよ」 確かにいまの青井さんを見る限り、そんな時代があったとは信じがたい。筆者が後輩からゲーム仲間だと紹介されたとき、青井さんは痛いオタクだった、とは聞いていたが。「辛辣ですけど事実ですね。文系のくせにとか平気で言っちゃう奴でした」 青井さんは理系であることに一種のアイデンティティを持っていたそうで、私立理系大を出たあと新卒で大手ゲーム会社、出版社と受けたがすべて落ちたという。斜陽と揶揄する向きもあるが、その高い倍率と就職偏差値(ここでは便宜上使う)は昔もいまも揺るぎない。「だからバイトで(出版社に)潜り込んだんですけど、なんかダメでした。物作ったり文字書く側じゃないって気づいたのは結構あとです」 青井さんは関東近郊の実家暮らしという気軽さもあったのだろう、地元の和食レストランやカレー屋などのアルバイトを転々としながらライトノベル小説など書いてみたりフリーゲームなど作ってみたりしたが、どれも完成すらしなかったという。すでに2000年代も中盤、青井さんは実家住まいのフリーターとして過ごした。「いまは才能なかったってわかってますけど当時はヤバかった。黒歴史です。でもネットはそんな自分も受け入れてくれたんです。サイトで自分の小説の断片を出すと『すごい』『神』って言ってくれる人がいる。フリーゲームなんか企画の話だけで褒めてくれる。必ず誰かいて迎えてくれる。あのときの自分にしてみれば気持ちいい世界だったんです」 リアルで満たされない承認欲求がネットで満たされる、それは有名無名関係ないだろうが、リアルがあまりに危うい時期に溺れてしまうと抜け出せなくなる。ネット屋も商売、ソシャゲ屋もそうだが、それを承知で溺死者を出さない程度に承認欲求のプールに浸かってもらい、依存するよう仕向けている。それでも人によっては救われる面もある。「でも、まさか訴えられるとは思いませんでしたけどね」 厳密に言うと青井さんは訴えられる前に和解しているしSNS興隆以前の話である。それでも、かつて拙ルポ『「やめたいのにやめられない」ネット中傷を続ける女性の告白』でも言及したが、ネットで誹謗中傷をしていたと告白してくれる存在は貴重である。「相手は10代のグラビアアイドルとその事務所です」 そのころの青井さんはラノベやゲームと同時に10代の少女、とくに中高生のグラドルにハマっていた。「でも当時の(飲食店の)バイトなんて辞めさせられたりしませんでしたよ。わざわざ言わなきゃ誰もわかんないですから。その辺の人なんて、みんなそうだと思います」 木村花さんの事件もそうだが、一般人が中傷犯なら名前も出なければ有名人ほどに露骨な社会的制裁を受けることはまずない。多くは話題にすらならないだろう。自分だけじゃなく、他にもアンチはいましたから 青井さんは開き直っているわけではない。筆者が知る限りでも、一般の社会人でネットの誹謗中傷で訴えられて会社を辞めさせられた、地域にいられなくなったなんて話はない。みんな粛々と、何食わぬ顔で学校に行ったり働いたりしている。ましてや事情で働いていない人、引きこもりやニートはもちろん引退世代の高齢者なら訴えられたところで屁でもない。「和解といっても金銭はわずかで、彼女に対して誹謗中傷はしないという約束が主です。命どころか仕事をとられることもないです。やったもん勝ちですね」 有名人はもちろん、ネットのインフルエンサーなど、それなりに影響力があるから誹謗だ中傷だと話題になるだけであって、多くの無名の一般人なら現実には訴えられたところで大したことはないし、面倒だろうがそれだけ、というのが青井さんの感想だという。「彼女のこと、あることないこと書いたのがまずかった。それをうっかりリアルでしゃべったことも。最初はファンだったんですけどね」 青井さんがネットで誹謗中傷した少女はグラビアアイドルといってもメジャーな芸能人ではなく、露出度の高いマイクロビキニやふんどしを着せるようなイメージビデオに何作か出演しただけの少女だった。2000年代中盤、とくに過激な作品が乱発された時代だ。「イベントや撮影会に何度か行ったんですが、彼女の対応が気に入らなかったんでネットに書き込んだのが最初ですね、自分としてはネタでした」 秋葉原のビデオ店やパソコンショップにはこうした新人グラドル御用達の小さなイベント会場がある。また少数のファンを集めて小さな撮影会を開いたりもする。青井さんはそこで実際に会い、やがて幻滅した。恋愛感情か。「どうでしょう、かわいいとは思ってましたし、付き合えればそりゃ嬉しいでしょう。(その少女のビデオを)オカズに使ってたのも事実です」 消費対象かという筆者の言葉に、「そう、そんな軽い感じです」と大きくうなずいた。青井さんはこんな軽い感じで攻撃を始めたわけだ。あることないこと書きたてて。少しミソジニー(女性嫌悪)をこじらせていたのでは?「それはあるかもしれません。理想の少女を勝手に作って、勝手に憎悪したわけで。それに匿名ならバレませんから。自分だけじゃなく、他にもアンチはいましたから」 他にもいる、は常套文句だ。しかし匿名でも実際は匿名ではない。しかるべき手順で開示請求して、地道に辿れば足はつく。「でもね、わかってて言ってると思うんですけど、お金持ってて影響力も桁違いの芸能人なら本気出せばできるかもしれませんが、普通は無理ですよ」 残念ながらそのとおり、誹謗中傷に断固とした対応で臨むと宣言した中川翔子さんのような大物芸能人ならともかく、ニッチなグラドルやコスプレイヤー、地下アイドルなど事務所も小さく資力もないどころか無所属の場合、資金的にも個人レベルでは誹謗中傷に真っ向から立ち向かうのは現実的に難しい。小金井ストーカー殺人未遂事件のように警察が動くほどの目に見える犯罪被害でもない限り、泣き寝入りかスルーというのが実情だ。誹謗中傷の主戦場がSNSに移ったいまも、多くの被害者が苦しんでいる。ネットってその辺の一般人最強ですから「自分はその子とリアルで知り合ったから足がつきましたけど、まあ一切会ってなければ(特定は)無理なんじゃないかな、まして当時(2000年代)では珍しいと思います」 青井さんは撮影会などでリアルに接していたことや生来のおしゃべりが祟り、察した事務所関係者に問い詰められた末に訴えると脅されて和解となった。つまりは民法上の「訴え提起前の和解」であり、実際に裁判所に出頭した上で二度と誹謗中傷をしないこと、近寄らないこと、という誓約書を作成させられたという。微々たる額だが和解金も支払った。「多くはこうして和解だと思います。おかしな人でもない限り、これで二度とやらないでしょうし、自分もそうでした」 こうして青井さんは正式な裁判に持ち込まれずに済んだ。その後、相手の少女はもちろん、他にも同じような誹謗中傷行為はしていないのか。「してませんね。もう年ですから。それに結婚もしましたし、いまの仕事も長いです。家庭あるんで」 誹謗中傷をした本人は結婚して平穏に暮らし、された側は引退して行方知れず。青井さんの話では、そのグラドルにはリスカ、手首を傷つけた跡もあったという。自分のせいではない、元から病ンドルだったと語るが釈然としない。奥さんは知っているのか。「知ってます。妻もネット好きだしオタク同士で価値観も一緒です。もうバカなことすんなよ、とは言われてますが」 今日一番嬉しそうな笑顔、地獄のような「子ども社会人」だった青井さんを救ったのは奥さんだ。微笑ましい限りだが、それでもやはり釈然としないことを告げる。すると青井さんは顔をしかめ、改まって言葉を繋いだ。「仕事に影響があったならかわいそうですけど、もう和解しましたし、昔の話ですから」 彼を責めることが目的ではないが、少女の性格や仕事ぶりの「あることないこと」をネットに撒き散らした青井さんは偽計業務妨害罪でもおかしくない。元アイドルのラーメン店経営者に対して「反社とつながっている」と風説の流布を繰り返した50代の男もまさにそれだった。誹謗中傷には仕事に影響を与えるような妨害行為も多い。こいつは使うな、こいつはこういう奴だと取引先や媒体に匿名で連絡する。歪んだ正義と嫉妬、心理学では「引き下げ心理」とも呼ばれる。「それはあるかもしれません。あのころ、なにもかもうまくいかなかった男で、ゲームと少女だけが拠り所でしたから」 素直に認める青井さんだが、これも過去と割り切れているからこそ。理解ある奥さんもいて平穏に暮らしている。しかし被害者は割り切れていないかもしれない。やったほうは忘れても、やられたほうは忘れない。それでも青井さんの言うところの「その辺の一般人」である限りキャンセルカルチャーの心配はないし、青井さんの現在の仕事は具体的には書かないが万年人手不足の仕事でコロナ禍もあり、まずクビにはならない不人気職とのこと。このように誹謗中傷側から話を聞くとやったもん勝ち、本当に解決策はないのではと思わされる。あえて聞くが、かつての誹謗中傷者として、どうすれば誹謗中傷が無くなると思うか。「絶対に無くならないと思いますよ。実名制にしてもやる人はやるし、ネットってその辺の一般人最強ですから」 実名制は韓国も失敗した。確かに、日本でもFacebookの一部ユーザーなどは実名どころか顔から所属先まで晒して他者を攻撃していたりする。自営業や年金者に多い印象だが、前者はともかく後者はある意味で無敵、ほのぼのと孫の写真を晒したそばから誹謗中傷を繰り返している(それも全公開設定!)。無くならないというのが現実だろう。「個人的な考えですけど、中国の信用スコアとか効くんじゃないですか? たとえばネットなら誹謗中傷を繰り返せば手持ちのスコアが減るとか。それで就職とかローンとか、子どもの進学にも影響あるみたいな。それでお互い点を見ることができるシステムなら他人を気にする日本人に効くと思うんですけど、こいつは何点か~って点数見られる感じで」 こんな気持ち悪い全体主義、筆者は無論反対だが、これくらいしないと匿名の誹謗中傷、ネット上の暴力は無くならないと思わされるのもまた事実。2021年4月に改正プロバイダ責任制限法が成立、公布されたが、この程度ではかつての青井さんのようないわゆる「無敵の一般人」には効かないように思う。自分自身が幸せになればやめられると思う「自分はもうしてませんけど、いまも独身で仕事もだめだったら別のタゲ(ターゲットの意)を探していたと思います。みんなが幸せになればいいんでしょうけど、それは無理でしょう。だったら、誹謗中傷は無くならないでしょうね」 どこか他人事、誹謗中傷当事者の言葉だけに違和感しかないが、当たっているだけに筆者もこの話を終えたあと、さてどうルポを結実させようか考えてしまった。なのでせめて、青井さんとの一問一答が参考になればと改めて記す。なぜ誹謗中傷するのか、その心理の一例にはなるだろう。その公表は青井さんも望んでいる。匿名掲示板でもSNSでも誹謗中傷の心理そのものに違いはないだろう。 ――なぜ少女が苦しむほどに、あることないことを書き込んだのか「最初はファンだった。何度かイベントや撮影会で会ったが塩対応で態度が悪く、自分の思ったような子じゃなかった。よかれと思って年上としてアドバイスしたつもりが、気持ち悪がられて腹がたった。叩き始めると彼女のことばかり考えるようになった。純粋なファンのときより叩きはじめた後のほうが彼女のことばかり考えていたように思う」 ――少女の仕事や生活を脅かすとは思わなかったのか。「当時は彼女の活動が仕事だという感覚はなかった。自分の娯楽としか見ていなかった。際どい水着でおっさんに媚び売る子どもと、どこか下に見ていたのかもしれない。はっきりいってオカズだった」 ――和解したが誹謗中傷が引退のきっかけかもしれない、罪悪感はあるか。「そこは芸能人として見ていた。有名税だからという免罪符はあったと思う。罪悪なんて大げさな話ではなく、あくまでネタだった」 ――青井さんには過去かもしれないが彼女は忘れていないかもしれない。「それはキリがない。一生気にすることとは思わない。忘れて欲しいと思う」 ――誹謗中傷をしている人たちに先達として忠告することはあるか。「自分自身が幸せになればやめられると思う。ずっと不幸な人はわからない」 ――かつての加害者として誹謗中傷をされている人たちにアドバイスはあるか。「気にしないこと。それしかない。相手が名無しの一般人ならそれしかないと思う。訴えるのは自由だが実利は薄いと思う。罰則を厳しくしない国が悪い。法律の問題だと思う」 このような問答となったが、人それぞれに読み取れる部分は多いだろう。もちろん彼一人のサンプル、これがすべてと言わないが、多くの誹謗中傷側の感覚はお気軽なもので、自覚なしに追い詰める事例が大半のように思う。だからこそやっかいなのだ。いじめという名の犯罪行為同様、受けた側の傷に比べてあまりに軽い。拍子抜けするほどに。そして青井さんの言う「その辺の一般人」かつ無敵の人、それに準じるような人の場合、訴えたところで直接的な効果は薄い。裁判が終わってほとぼり冷めたらまた繰り返す危険人物すらいる。 中国の信用スコア、社会信用システムのようなディストピアは勘弁だが、それがコロナ禍の統制含め有効なのではという話もある。日本は憲法上そこまでできないし表現の自由との兼ね合いもあるが、被害者の苦しみを考えれば、さらなる開示の容易化と刑法の厳罰化の方向に進むのもまた現実だろう。 取材中、青井さんから謝罪の言葉は出なかった。これもまた現実だ。【プロフィール】日野百草(ひの・ひゃくそう)/本名:上崎洋一。1972年千葉県野田市生まれ。日本ペンクラブ会員。出版社を経てフリーランス。全国俳誌協会賞、日本詩歌句随筆評論協会賞奨励賞(評論部門)受賞。『誰も書けなかったパチンコ20兆円の闇』(宝島社・共著)、『ルポ 京アニを燃やした男』(第三書館)。近著『評伝 赤城さかえ 楸邨、波郷、兜太から愛された魂の俳人』(コールサック社)。
確かにいまの青井さんを見る限り、そんな時代があったとは信じがたい。筆者が後輩からゲーム仲間だと紹介されたとき、青井さんは痛いオタクだった、とは聞いていたが。「辛辣ですけど事実ですね。文系のくせにとか平気で言っちゃう奴でした」 青井さんは理系であることに一種のアイデンティティを持っていたそうで、私立理系大を出たあと新卒で大手ゲーム会社、出版社と受けたがすべて落ちたという。斜陽と揶揄する向きもあるが、その高い倍率と就職偏差値(ここでは便宜上使う)は昔もいまも揺るぎない。「だからバイトで(出版社に)潜り込んだんですけど、なんかダメでした。物作ったり文字書く側じゃないって気づいたのは結構あとです」 青井さんは関東近郊の実家暮らしという気軽さもあったのだろう、地元の和食レストランやカレー屋などのアルバイトを転々としながらライトノベル小説など書いてみたりフリーゲームなど作ってみたりしたが、どれも完成すらしなかったという。すでに2000年代も中盤、青井さんは実家住まいのフリーターとして過ごした。「いまは才能なかったってわかってますけど当時はヤバかった。黒歴史です。でもネットはそんな自分も受け入れてくれたんです。サイトで自分の小説の断片を出すと『すごい』『神』って言ってくれる人がいる。フリーゲームなんか企画の話だけで褒めてくれる。必ず誰かいて迎えてくれる。あのときの自分にしてみれば気持ちいい世界だったんです」 リアルで満たされない承認欲求がネットで満たされる、それは有名無名関係ないだろうが、リアルがあまりに危うい時期に溺れてしまうと抜け出せなくなる。ネット屋も商売、ソシャゲ屋もそうだが、それを承知で溺死者を出さない程度に承認欲求のプールに浸かってもらい、依存するよう仕向けている。それでも人によっては救われる面もある。「でも、まさか訴えられるとは思いませんでしたけどね」 厳密に言うと青井さんは訴えられる前に和解しているしSNS興隆以前の話である。それでも、かつて拙ルポ『「やめたいのにやめられない」ネット中傷を続ける女性の告白』でも言及したが、ネットで誹謗中傷をしていたと告白してくれる存在は貴重である。「相手は10代のグラビアアイドルとその事務所です」 そのころの青井さんはラノベやゲームと同時に10代の少女、とくに中高生のグラドルにハマっていた。「でも当時の(飲食店の)バイトなんて辞めさせられたりしませんでしたよ。わざわざ言わなきゃ誰もわかんないですから。その辺の人なんて、みんなそうだと思います」 木村花さんの事件もそうだが、一般人が中傷犯なら名前も出なければ有名人ほどに露骨な社会的制裁を受けることはまずない。多くは話題にすらならないだろう。自分だけじゃなく、他にもアンチはいましたから 青井さんは開き直っているわけではない。筆者が知る限りでも、一般の社会人でネットの誹謗中傷で訴えられて会社を辞めさせられた、地域にいられなくなったなんて話はない。みんな粛々と、何食わぬ顔で学校に行ったり働いたりしている。ましてや事情で働いていない人、引きこもりやニートはもちろん引退世代の高齢者なら訴えられたところで屁でもない。「和解といっても金銭はわずかで、彼女に対して誹謗中傷はしないという約束が主です。命どころか仕事をとられることもないです。やったもん勝ちですね」 有名人はもちろん、ネットのインフルエンサーなど、それなりに影響力があるから誹謗だ中傷だと話題になるだけであって、多くの無名の一般人なら現実には訴えられたところで大したことはないし、面倒だろうがそれだけ、というのが青井さんの感想だという。「彼女のこと、あることないこと書いたのがまずかった。それをうっかりリアルでしゃべったことも。最初はファンだったんですけどね」 青井さんがネットで誹謗中傷した少女はグラビアアイドルといってもメジャーな芸能人ではなく、露出度の高いマイクロビキニやふんどしを着せるようなイメージビデオに何作か出演しただけの少女だった。2000年代中盤、とくに過激な作品が乱発された時代だ。「イベントや撮影会に何度か行ったんですが、彼女の対応が気に入らなかったんでネットに書き込んだのが最初ですね、自分としてはネタでした」 秋葉原のビデオ店やパソコンショップにはこうした新人グラドル御用達の小さなイベント会場がある。また少数のファンを集めて小さな撮影会を開いたりもする。青井さんはそこで実際に会い、やがて幻滅した。恋愛感情か。「どうでしょう、かわいいとは思ってましたし、付き合えればそりゃ嬉しいでしょう。(その少女のビデオを)オカズに使ってたのも事実です」 消費対象かという筆者の言葉に、「そう、そんな軽い感じです」と大きくうなずいた。青井さんはこんな軽い感じで攻撃を始めたわけだ。あることないこと書きたてて。少しミソジニー(女性嫌悪)をこじらせていたのでは?「それはあるかもしれません。理想の少女を勝手に作って、勝手に憎悪したわけで。それに匿名ならバレませんから。自分だけじゃなく、他にもアンチはいましたから」 他にもいる、は常套文句だ。しかし匿名でも実際は匿名ではない。しかるべき手順で開示請求して、地道に辿れば足はつく。「でもね、わかってて言ってると思うんですけど、お金持ってて影響力も桁違いの芸能人なら本気出せばできるかもしれませんが、普通は無理ですよ」 残念ながらそのとおり、誹謗中傷に断固とした対応で臨むと宣言した中川翔子さんのような大物芸能人ならともかく、ニッチなグラドルやコスプレイヤー、地下アイドルなど事務所も小さく資力もないどころか無所属の場合、資金的にも個人レベルでは誹謗中傷に真っ向から立ち向かうのは現実的に難しい。小金井ストーカー殺人未遂事件のように警察が動くほどの目に見える犯罪被害でもない限り、泣き寝入りかスルーというのが実情だ。誹謗中傷の主戦場がSNSに移ったいまも、多くの被害者が苦しんでいる。ネットってその辺の一般人最強ですから「自分はその子とリアルで知り合ったから足がつきましたけど、まあ一切会ってなければ(特定は)無理なんじゃないかな、まして当時(2000年代)では珍しいと思います」 青井さんは撮影会などでリアルに接していたことや生来のおしゃべりが祟り、察した事務所関係者に問い詰められた末に訴えると脅されて和解となった。つまりは民法上の「訴え提起前の和解」であり、実際に裁判所に出頭した上で二度と誹謗中傷をしないこと、近寄らないこと、という誓約書を作成させられたという。微々たる額だが和解金も支払った。「多くはこうして和解だと思います。おかしな人でもない限り、これで二度とやらないでしょうし、自分もそうでした」 こうして青井さんは正式な裁判に持ち込まれずに済んだ。その後、相手の少女はもちろん、他にも同じような誹謗中傷行為はしていないのか。「してませんね。もう年ですから。それに結婚もしましたし、いまの仕事も長いです。家庭あるんで」 誹謗中傷をした本人は結婚して平穏に暮らし、された側は引退して行方知れず。青井さんの話では、そのグラドルにはリスカ、手首を傷つけた跡もあったという。自分のせいではない、元から病ンドルだったと語るが釈然としない。奥さんは知っているのか。「知ってます。妻もネット好きだしオタク同士で価値観も一緒です。もうバカなことすんなよ、とは言われてますが」 今日一番嬉しそうな笑顔、地獄のような「子ども社会人」だった青井さんを救ったのは奥さんだ。微笑ましい限りだが、それでもやはり釈然としないことを告げる。すると青井さんは顔をしかめ、改まって言葉を繋いだ。「仕事に影響があったならかわいそうですけど、もう和解しましたし、昔の話ですから」 彼を責めることが目的ではないが、少女の性格や仕事ぶりの「あることないこと」をネットに撒き散らした青井さんは偽計業務妨害罪でもおかしくない。元アイドルのラーメン店経営者に対して「反社とつながっている」と風説の流布を繰り返した50代の男もまさにそれだった。誹謗中傷には仕事に影響を与えるような妨害行為も多い。こいつは使うな、こいつはこういう奴だと取引先や媒体に匿名で連絡する。歪んだ正義と嫉妬、心理学では「引き下げ心理」とも呼ばれる。「それはあるかもしれません。あのころ、なにもかもうまくいかなかった男で、ゲームと少女だけが拠り所でしたから」 素直に認める青井さんだが、これも過去と割り切れているからこそ。理解ある奥さんもいて平穏に暮らしている。しかし被害者は割り切れていないかもしれない。やったほうは忘れても、やられたほうは忘れない。それでも青井さんの言うところの「その辺の一般人」である限りキャンセルカルチャーの心配はないし、青井さんの現在の仕事は具体的には書かないが万年人手不足の仕事でコロナ禍もあり、まずクビにはならない不人気職とのこと。このように誹謗中傷側から話を聞くとやったもん勝ち、本当に解決策はないのではと思わされる。あえて聞くが、かつての誹謗中傷者として、どうすれば誹謗中傷が無くなると思うか。「絶対に無くならないと思いますよ。実名制にしてもやる人はやるし、ネットってその辺の一般人最強ですから」 実名制は韓国も失敗した。確かに、日本でもFacebookの一部ユーザーなどは実名どころか顔から所属先まで晒して他者を攻撃していたりする。自営業や年金者に多い印象だが、前者はともかく後者はある意味で無敵、ほのぼのと孫の写真を晒したそばから誹謗中傷を繰り返している(それも全公開設定!)。無くならないというのが現実だろう。「個人的な考えですけど、中国の信用スコアとか効くんじゃないですか? たとえばネットなら誹謗中傷を繰り返せば手持ちのスコアが減るとか。それで就職とかローンとか、子どもの進学にも影響あるみたいな。それでお互い点を見ることができるシステムなら他人を気にする日本人に効くと思うんですけど、こいつは何点か~って点数見られる感じで」 こんな気持ち悪い全体主義、筆者は無論反対だが、これくらいしないと匿名の誹謗中傷、ネット上の暴力は無くならないと思わされるのもまた事実。2021年4月に改正プロバイダ責任制限法が成立、公布されたが、この程度ではかつての青井さんのようないわゆる「無敵の一般人」には効かないように思う。自分自身が幸せになればやめられると思う「自分はもうしてませんけど、いまも独身で仕事もだめだったら別のタゲ(ターゲットの意)を探していたと思います。みんなが幸せになればいいんでしょうけど、それは無理でしょう。だったら、誹謗中傷は無くならないでしょうね」 どこか他人事、誹謗中傷当事者の言葉だけに違和感しかないが、当たっているだけに筆者もこの話を終えたあと、さてどうルポを結実させようか考えてしまった。なのでせめて、青井さんとの一問一答が参考になればと改めて記す。なぜ誹謗中傷するのか、その心理の一例にはなるだろう。その公表は青井さんも望んでいる。匿名掲示板でもSNSでも誹謗中傷の心理そのものに違いはないだろう。 ――なぜ少女が苦しむほどに、あることないことを書き込んだのか「最初はファンだった。何度かイベントや撮影会で会ったが塩対応で態度が悪く、自分の思ったような子じゃなかった。よかれと思って年上としてアドバイスしたつもりが、気持ち悪がられて腹がたった。叩き始めると彼女のことばかり考えるようになった。純粋なファンのときより叩きはじめた後のほうが彼女のことばかり考えていたように思う」 ――少女の仕事や生活を脅かすとは思わなかったのか。「当時は彼女の活動が仕事だという感覚はなかった。自分の娯楽としか見ていなかった。際どい水着でおっさんに媚び売る子どもと、どこか下に見ていたのかもしれない。はっきりいってオカズだった」 ――和解したが誹謗中傷が引退のきっかけかもしれない、罪悪感はあるか。「そこは芸能人として見ていた。有名税だからという免罪符はあったと思う。罪悪なんて大げさな話ではなく、あくまでネタだった」 ――青井さんには過去かもしれないが彼女は忘れていないかもしれない。「それはキリがない。一生気にすることとは思わない。忘れて欲しいと思う」 ――誹謗中傷をしている人たちに先達として忠告することはあるか。「自分自身が幸せになればやめられると思う。ずっと不幸な人はわからない」 ――かつての加害者として誹謗中傷をされている人たちにアドバイスはあるか。「気にしないこと。それしかない。相手が名無しの一般人ならそれしかないと思う。訴えるのは自由だが実利は薄いと思う。罰則を厳しくしない国が悪い。法律の問題だと思う」 このような問答となったが、人それぞれに読み取れる部分は多いだろう。もちろん彼一人のサンプル、これがすべてと言わないが、多くの誹謗中傷側の感覚はお気軽なもので、自覚なしに追い詰める事例が大半のように思う。だからこそやっかいなのだ。いじめという名の犯罪行為同様、受けた側の傷に比べてあまりに軽い。拍子抜けするほどに。そして青井さんの言う「その辺の一般人」かつ無敵の人、それに準じるような人の場合、訴えたところで直接的な効果は薄い。裁判が終わってほとぼり冷めたらまた繰り返す危険人物すらいる。 中国の信用スコア、社会信用システムのようなディストピアは勘弁だが、それがコロナ禍の統制含め有効なのではという話もある。日本は憲法上そこまでできないし表現の自由との兼ね合いもあるが、被害者の苦しみを考えれば、さらなる開示の容易化と刑法の厳罰化の方向に進むのもまた現実だろう。 取材中、青井さんから謝罪の言葉は出なかった。これもまた現実だ。【プロフィール】日野百草(ひの・ひゃくそう)/本名:上崎洋一。1972年千葉県野田市生まれ。日本ペンクラブ会員。出版社を経てフリーランス。全国俳誌協会賞、日本詩歌句随筆評論協会賞奨励賞(評論部門)受賞。『誰も書けなかったパチンコ20兆円の闇』(宝島社・共著)、『ルポ 京アニを燃やした男』(第三書館)。近著『評伝 赤城さかえ 楸邨、波郷、兜太から愛された魂の俳人』(コールサック社)。
「辛辣ですけど事実ですね。文系のくせにとか平気で言っちゃう奴でした」 青井さんは理系であることに一種のアイデンティティを持っていたそうで、私立理系大を出たあと新卒で大手ゲーム会社、出版社と受けたがすべて落ちたという。斜陽と揶揄する向きもあるが、その高い倍率と就職偏差値(ここでは便宜上使う)は昔もいまも揺るぎない。「だからバイトで(出版社に)潜り込んだんですけど、なんかダメでした。物作ったり文字書く側じゃないって気づいたのは結構あとです」 青井さんは関東近郊の実家暮らしという気軽さもあったのだろう、地元の和食レストランやカレー屋などのアルバイトを転々としながらライトノベル小説など書いてみたりフリーゲームなど作ってみたりしたが、どれも完成すらしなかったという。すでに2000年代も中盤、青井さんは実家住まいのフリーターとして過ごした。「いまは才能なかったってわかってますけど当時はヤバかった。黒歴史です。でもネットはそんな自分も受け入れてくれたんです。サイトで自分の小説の断片を出すと『すごい』『神』って言ってくれる人がいる。フリーゲームなんか企画の話だけで褒めてくれる。必ず誰かいて迎えてくれる。あのときの自分にしてみれば気持ちいい世界だったんです」 リアルで満たされない承認欲求がネットで満たされる、それは有名無名関係ないだろうが、リアルがあまりに危うい時期に溺れてしまうと抜け出せなくなる。ネット屋も商売、ソシャゲ屋もそうだが、それを承知で溺死者を出さない程度に承認欲求のプールに浸かってもらい、依存するよう仕向けている。それでも人によっては救われる面もある。「でも、まさか訴えられるとは思いませんでしたけどね」 厳密に言うと青井さんは訴えられる前に和解しているしSNS興隆以前の話である。それでも、かつて拙ルポ『「やめたいのにやめられない」ネット中傷を続ける女性の告白』でも言及したが、ネットで誹謗中傷をしていたと告白してくれる存在は貴重である。「相手は10代のグラビアアイドルとその事務所です」 そのころの青井さんはラノベやゲームと同時に10代の少女、とくに中高生のグラドルにハマっていた。「でも当時の(飲食店の)バイトなんて辞めさせられたりしませんでしたよ。わざわざ言わなきゃ誰もわかんないですから。その辺の人なんて、みんなそうだと思います」 木村花さんの事件もそうだが、一般人が中傷犯なら名前も出なければ有名人ほどに露骨な社会的制裁を受けることはまずない。多くは話題にすらならないだろう。自分だけじゃなく、他にもアンチはいましたから 青井さんは開き直っているわけではない。筆者が知る限りでも、一般の社会人でネットの誹謗中傷で訴えられて会社を辞めさせられた、地域にいられなくなったなんて話はない。みんな粛々と、何食わぬ顔で学校に行ったり働いたりしている。ましてや事情で働いていない人、引きこもりやニートはもちろん引退世代の高齢者なら訴えられたところで屁でもない。「和解といっても金銭はわずかで、彼女に対して誹謗中傷はしないという約束が主です。命どころか仕事をとられることもないです。やったもん勝ちですね」 有名人はもちろん、ネットのインフルエンサーなど、それなりに影響力があるから誹謗だ中傷だと話題になるだけであって、多くの無名の一般人なら現実には訴えられたところで大したことはないし、面倒だろうがそれだけ、というのが青井さんの感想だという。「彼女のこと、あることないこと書いたのがまずかった。それをうっかりリアルでしゃべったことも。最初はファンだったんですけどね」 青井さんがネットで誹謗中傷した少女はグラビアアイドルといってもメジャーな芸能人ではなく、露出度の高いマイクロビキニやふんどしを着せるようなイメージビデオに何作か出演しただけの少女だった。2000年代中盤、とくに過激な作品が乱発された時代だ。「イベントや撮影会に何度か行ったんですが、彼女の対応が気に入らなかったんでネットに書き込んだのが最初ですね、自分としてはネタでした」 秋葉原のビデオ店やパソコンショップにはこうした新人グラドル御用達の小さなイベント会場がある。また少数のファンを集めて小さな撮影会を開いたりもする。青井さんはそこで実際に会い、やがて幻滅した。恋愛感情か。「どうでしょう、かわいいとは思ってましたし、付き合えればそりゃ嬉しいでしょう。(その少女のビデオを)オカズに使ってたのも事実です」 消費対象かという筆者の言葉に、「そう、そんな軽い感じです」と大きくうなずいた。青井さんはこんな軽い感じで攻撃を始めたわけだ。あることないこと書きたてて。少しミソジニー(女性嫌悪)をこじらせていたのでは?「それはあるかもしれません。理想の少女を勝手に作って、勝手に憎悪したわけで。それに匿名ならバレませんから。自分だけじゃなく、他にもアンチはいましたから」 他にもいる、は常套文句だ。しかし匿名でも実際は匿名ではない。しかるべき手順で開示請求して、地道に辿れば足はつく。「でもね、わかってて言ってると思うんですけど、お金持ってて影響力も桁違いの芸能人なら本気出せばできるかもしれませんが、普通は無理ですよ」 残念ながらそのとおり、誹謗中傷に断固とした対応で臨むと宣言した中川翔子さんのような大物芸能人ならともかく、ニッチなグラドルやコスプレイヤー、地下アイドルなど事務所も小さく資力もないどころか無所属の場合、資金的にも個人レベルでは誹謗中傷に真っ向から立ち向かうのは現実的に難しい。小金井ストーカー殺人未遂事件のように警察が動くほどの目に見える犯罪被害でもない限り、泣き寝入りかスルーというのが実情だ。誹謗中傷の主戦場がSNSに移ったいまも、多くの被害者が苦しんでいる。ネットってその辺の一般人最強ですから「自分はその子とリアルで知り合ったから足がつきましたけど、まあ一切会ってなければ(特定は)無理なんじゃないかな、まして当時(2000年代)では珍しいと思います」 青井さんは撮影会などでリアルに接していたことや生来のおしゃべりが祟り、察した事務所関係者に問い詰められた末に訴えると脅されて和解となった。つまりは民法上の「訴え提起前の和解」であり、実際に裁判所に出頭した上で二度と誹謗中傷をしないこと、近寄らないこと、という誓約書を作成させられたという。微々たる額だが和解金も支払った。「多くはこうして和解だと思います。おかしな人でもない限り、これで二度とやらないでしょうし、自分もそうでした」 こうして青井さんは正式な裁判に持ち込まれずに済んだ。その後、相手の少女はもちろん、他にも同じような誹謗中傷行為はしていないのか。「してませんね。もう年ですから。それに結婚もしましたし、いまの仕事も長いです。家庭あるんで」 誹謗中傷をした本人は結婚して平穏に暮らし、された側は引退して行方知れず。青井さんの話では、そのグラドルにはリスカ、手首を傷つけた跡もあったという。自分のせいではない、元から病ンドルだったと語るが釈然としない。奥さんは知っているのか。「知ってます。妻もネット好きだしオタク同士で価値観も一緒です。もうバカなことすんなよ、とは言われてますが」 今日一番嬉しそうな笑顔、地獄のような「子ども社会人」だった青井さんを救ったのは奥さんだ。微笑ましい限りだが、それでもやはり釈然としないことを告げる。すると青井さんは顔をしかめ、改まって言葉を繋いだ。「仕事に影響があったならかわいそうですけど、もう和解しましたし、昔の話ですから」 彼を責めることが目的ではないが、少女の性格や仕事ぶりの「あることないこと」をネットに撒き散らした青井さんは偽計業務妨害罪でもおかしくない。元アイドルのラーメン店経営者に対して「反社とつながっている」と風説の流布を繰り返した50代の男もまさにそれだった。誹謗中傷には仕事に影響を与えるような妨害行為も多い。こいつは使うな、こいつはこういう奴だと取引先や媒体に匿名で連絡する。歪んだ正義と嫉妬、心理学では「引き下げ心理」とも呼ばれる。「それはあるかもしれません。あのころ、なにもかもうまくいかなかった男で、ゲームと少女だけが拠り所でしたから」 素直に認める青井さんだが、これも過去と割り切れているからこそ。理解ある奥さんもいて平穏に暮らしている。しかし被害者は割り切れていないかもしれない。やったほうは忘れても、やられたほうは忘れない。それでも青井さんの言うところの「その辺の一般人」である限りキャンセルカルチャーの心配はないし、青井さんの現在の仕事は具体的には書かないが万年人手不足の仕事でコロナ禍もあり、まずクビにはならない不人気職とのこと。このように誹謗中傷側から話を聞くとやったもん勝ち、本当に解決策はないのではと思わされる。あえて聞くが、かつての誹謗中傷者として、どうすれば誹謗中傷が無くなると思うか。「絶対に無くならないと思いますよ。実名制にしてもやる人はやるし、ネットってその辺の一般人最強ですから」 実名制は韓国も失敗した。確かに、日本でもFacebookの一部ユーザーなどは実名どころか顔から所属先まで晒して他者を攻撃していたりする。自営業や年金者に多い印象だが、前者はともかく後者はある意味で無敵、ほのぼのと孫の写真を晒したそばから誹謗中傷を繰り返している(それも全公開設定!)。無くならないというのが現実だろう。「個人的な考えですけど、中国の信用スコアとか効くんじゃないですか? たとえばネットなら誹謗中傷を繰り返せば手持ちのスコアが減るとか。それで就職とかローンとか、子どもの進学にも影響あるみたいな。それでお互い点を見ることができるシステムなら他人を気にする日本人に効くと思うんですけど、こいつは何点か~って点数見られる感じで」 こんな気持ち悪い全体主義、筆者は無論反対だが、これくらいしないと匿名の誹謗中傷、ネット上の暴力は無くならないと思わされるのもまた事実。2021年4月に改正プロバイダ責任制限法が成立、公布されたが、この程度ではかつての青井さんのようないわゆる「無敵の一般人」には効かないように思う。自分自身が幸せになればやめられると思う「自分はもうしてませんけど、いまも独身で仕事もだめだったら別のタゲ(ターゲットの意)を探していたと思います。みんなが幸せになればいいんでしょうけど、それは無理でしょう。だったら、誹謗中傷は無くならないでしょうね」 どこか他人事、誹謗中傷当事者の言葉だけに違和感しかないが、当たっているだけに筆者もこの話を終えたあと、さてどうルポを結実させようか考えてしまった。なのでせめて、青井さんとの一問一答が参考になればと改めて記す。なぜ誹謗中傷するのか、その心理の一例にはなるだろう。その公表は青井さんも望んでいる。匿名掲示板でもSNSでも誹謗中傷の心理そのものに違いはないだろう。 ――なぜ少女が苦しむほどに、あることないことを書き込んだのか「最初はファンだった。何度かイベントや撮影会で会ったが塩対応で態度が悪く、自分の思ったような子じゃなかった。よかれと思って年上としてアドバイスしたつもりが、気持ち悪がられて腹がたった。叩き始めると彼女のことばかり考えるようになった。純粋なファンのときより叩きはじめた後のほうが彼女のことばかり考えていたように思う」 ――少女の仕事や生活を脅かすとは思わなかったのか。「当時は彼女の活動が仕事だという感覚はなかった。自分の娯楽としか見ていなかった。際どい水着でおっさんに媚び売る子どもと、どこか下に見ていたのかもしれない。はっきりいってオカズだった」 ――和解したが誹謗中傷が引退のきっかけかもしれない、罪悪感はあるか。「そこは芸能人として見ていた。有名税だからという免罪符はあったと思う。罪悪なんて大げさな話ではなく、あくまでネタだった」 ――青井さんには過去かもしれないが彼女は忘れていないかもしれない。「それはキリがない。一生気にすることとは思わない。忘れて欲しいと思う」 ――誹謗中傷をしている人たちに先達として忠告することはあるか。「自分自身が幸せになればやめられると思う。ずっと不幸な人はわからない」 ――かつての加害者として誹謗中傷をされている人たちにアドバイスはあるか。「気にしないこと。それしかない。相手が名無しの一般人ならそれしかないと思う。訴えるのは自由だが実利は薄いと思う。罰則を厳しくしない国が悪い。法律の問題だと思う」 このような問答となったが、人それぞれに読み取れる部分は多いだろう。もちろん彼一人のサンプル、これがすべてと言わないが、多くの誹謗中傷側の感覚はお気軽なもので、自覚なしに追い詰める事例が大半のように思う。だからこそやっかいなのだ。いじめという名の犯罪行為同様、受けた側の傷に比べてあまりに軽い。拍子抜けするほどに。そして青井さんの言う「その辺の一般人」かつ無敵の人、それに準じるような人の場合、訴えたところで直接的な効果は薄い。裁判が終わってほとぼり冷めたらまた繰り返す危険人物すらいる。 中国の信用スコア、社会信用システムのようなディストピアは勘弁だが、それがコロナ禍の統制含め有効なのではという話もある。日本は憲法上そこまでできないし表現の自由との兼ね合いもあるが、被害者の苦しみを考えれば、さらなる開示の容易化と刑法の厳罰化の方向に進むのもまた現実だろう。 取材中、青井さんから謝罪の言葉は出なかった。これもまた現実だ。【プロフィール】日野百草(ひの・ひゃくそう)/本名:上崎洋一。1972年千葉県野田市生まれ。日本ペンクラブ会員。出版社を経てフリーランス。全国俳誌協会賞、日本詩歌句随筆評論協会賞奨励賞(評論部門)受賞。『誰も書けなかったパチンコ20兆円の闇』(宝島社・共著)、『ルポ 京アニを燃やした男』(第三書館)。近著『評伝 赤城さかえ 楸邨、波郷、兜太から愛された魂の俳人』(コールサック社)。
青井さんは理系であることに一種のアイデンティティを持っていたそうで、私立理系大を出たあと新卒で大手ゲーム会社、出版社と受けたがすべて落ちたという。斜陽と揶揄する向きもあるが、その高い倍率と就職偏差値(ここでは便宜上使う)は昔もいまも揺るぎない。「だからバイトで(出版社に)潜り込んだんですけど、なんかダメでした。物作ったり文字書く側じゃないって気づいたのは結構あとです」 青井さんは関東近郊の実家暮らしという気軽さもあったのだろう、地元の和食レストランやカレー屋などのアルバイトを転々としながらライトノベル小説など書いてみたりフリーゲームなど作ってみたりしたが、どれも完成すらしなかったという。すでに2000年代も中盤、青井さんは実家住まいのフリーターとして過ごした。「いまは才能なかったってわかってますけど当時はヤバかった。黒歴史です。でもネットはそんな自分も受け入れてくれたんです。サイトで自分の小説の断片を出すと『すごい』『神』って言ってくれる人がいる。フリーゲームなんか企画の話だけで褒めてくれる。必ず誰かいて迎えてくれる。あのときの自分にしてみれば気持ちいい世界だったんです」 リアルで満たされない承認欲求がネットで満たされる、それは有名無名関係ないだろうが、リアルがあまりに危うい時期に溺れてしまうと抜け出せなくなる。ネット屋も商売、ソシャゲ屋もそうだが、それを承知で溺死者を出さない程度に承認欲求のプールに浸かってもらい、依存するよう仕向けている。それでも人によっては救われる面もある。「でも、まさか訴えられるとは思いませんでしたけどね」 厳密に言うと青井さんは訴えられる前に和解しているしSNS興隆以前の話である。それでも、かつて拙ルポ『「やめたいのにやめられない」ネット中傷を続ける女性の告白』でも言及したが、ネットで誹謗中傷をしていたと告白してくれる存在は貴重である。「相手は10代のグラビアアイドルとその事務所です」 そのころの青井さんはラノベやゲームと同時に10代の少女、とくに中高生のグラドルにハマっていた。「でも当時の(飲食店の)バイトなんて辞めさせられたりしませんでしたよ。わざわざ言わなきゃ誰もわかんないですから。その辺の人なんて、みんなそうだと思います」 木村花さんの事件もそうだが、一般人が中傷犯なら名前も出なければ有名人ほどに露骨な社会的制裁を受けることはまずない。多くは話題にすらならないだろう。自分だけじゃなく、他にもアンチはいましたから 青井さんは開き直っているわけではない。筆者が知る限りでも、一般の社会人でネットの誹謗中傷で訴えられて会社を辞めさせられた、地域にいられなくなったなんて話はない。みんな粛々と、何食わぬ顔で学校に行ったり働いたりしている。ましてや事情で働いていない人、引きこもりやニートはもちろん引退世代の高齢者なら訴えられたところで屁でもない。「和解といっても金銭はわずかで、彼女に対して誹謗中傷はしないという約束が主です。命どころか仕事をとられることもないです。やったもん勝ちですね」 有名人はもちろん、ネットのインフルエンサーなど、それなりに影響力があるから誹謗だ中傷だと話題になるだけであって、多くの無名の一般人なら現実には訴えられたところで大したことはないし、面倒だろうがそれだけ、というのが青井さんの感想だという。「彼女のこと、あることないこと書いたのがまずかった。それをうっかりリアルでしゃべったことも。最初はファンだったんですけどね」 青井さんがネットで誹謗中傷した少女はグラビアアイドルといってもメジャーな芸能人ではなく、露出度の高いマイクロビキニやふんどしを着せるようなイメージビデオに何作か出演しただけの少女だった。2000年代中盤、とくに過激な作品が乱発された時代だ。「イベントや撮影会に何度か行ったんですが、彼女の対応が気に入らなかったんでネットに書き込んだのが最初ですね、自分としてはネタでした」 秋葉原のビデオ店やパソコンショップにはこうした新人グラドル御用達の小さなイベント会場がある。また少数のファンを集めて小さな撮影会を開いたりもする。青井さんはそこで実際に会い、やがて幻滅した。恋愛感情か。「どうでしょう、かわいいとは思ってましたし、付き合えればそりゃ嬉しいでしょう。(その少女のビデオを)オカズに使ってたのも事実です」 消費対象かという筆者の言葉に、「そう、そんな軽い感じです」と大きくうなずいた。青井さんはこんな軽い感じで攻撃を始めたわけだ。あることないこと書きたてて。少しミソジニー(女性嫌悪)をこじらせていたのでは?「それはあるかもしれません。理想の少女を勝手に作って、勝手に憎悪したわけで。それに匿名ならバレませんから。自分だけじゃなく、他にもアンチはいましたから」 他にもいる、は常套文句だ。しかし匿名でも実際は匿名ではない。しかるべき手順で開示請求して、地道に辿れば足はつく。「でもね、わかってて言ってると思うんですけど、お金持ってて影響力も桁違いの芸能人なら本気出せばできるかもしれませんが、普通は無理ですよ」 残念ながらそのとおり、誹謗中傷に断固とした対応で臨むと宣言した中川翔子さんのような大物芸能人ならともかく、ニッチなグラドルやコスプレイヤー、地下アイドルなど事務所も小さく資力もないどころか無所属の場合、資金的にも個人レベルでは誹謗中傷に真っ向から立ち向かうのは現実的に難しい。小金井ストーカー殺人未遂事件のように警察が動くほどの目に見える犯罪被害でもない限り、泣き寝入りかスルーというのが実情だ。誹謗中傷の主戦場がSNSに移ったいまも、多くの被害者が苦しんでいる。ネットってその辺の一般人最強ですから「自分はその子とリアルで知り合ったから足がつきましたけど、まあ一切会ってなければ(特定は)無理なんじゃないかな、まして当時(2000年代)では珍しいと思います」 青井さんは撮影会などでリアルに接していたことや生来のおしゃべりが祟り、察した事務所関係者に問い詰められた末に訴えると脅されて和解となった。つまりは民法上の「訴え提起前の和解」であり、実際に裁判所に出頭した上で二度と誹謗中傷をしないこと、近寄らないこと、という誓約書を作成させられたという。微々たる額だが和解金も支払った。「多くはこうして和解だと思います。おかしな人でもない限り、これで二度とやらないでしょうし、自分もそうでした」 こうして青井さんは正式な裁判に持ち込まれずに済んだ。その後、相手の少女はもちろん、他にも同じような誹謗中傷行為はしていないのか。「してませんね。もう年ですから。それに結婚もしましたし、いまの仕事も長いです。家庭あるんで」 誹謗中傷をした本人は結婚して平穏に暮らし、された側は引退して行方知れず。青井さんの話では、そのグラドルにはリスカ、手首を傷つけた跡もあったという。自分のせいではない、元から病ンドルだったと語るが釈然としない。奥さんは知っているのか。「知ってます。妻もネット好きだしオタク同士で価値観も一緒です。もうバカなことすんなよ、とは言われてますが」 今日一番嬉しそうな笑顔、地獄のような「子ども社会人」だった青井さんを救ったのは奥さんだ。微笑ましい限りだが、それでもやはり釈然としないことを告げる。すると青井さんは顔をしかめ、改まって言葉を繋いだ。「仕事に影響があったならかわいそうですけど、もう和解しましたし、昔の話ですから」 彼を責めることが目的ではないが、少女の性格や仕事ぶりの「あることないこと」をネットに撒き散らした青井さんは偽計業務妨害罪でもおかしくない。元アイドルのラーメン店経営者に対して「反社とつながっている」と風説の流布を繰り返した50代の男もまさにそれだった。誹謗中傷には仕事に影響を与えるような妨害行為も多い。こいつは使うな、こいつはこういう奴だと取引先や媒体に匿名で連絡する。歪んだ正義と嫉妬、心理学では「引き下げ心理」とも呼ばれる。「それはあるかもしれません。あのころ、なにもかもうまくいかなかった男で、ゲームと少女だけが拠り所でしたから」 素直に認める青井さんだが、これも過去と割り切れているからこそ。理解ある奥さんもいて平穏に暮らしている。しかし被害者は割り切れていないかもしれない。やったほうは忘れても、やられたほうは忘れない。それでも青井さんの言うところの「その辺の一般人」である限りキャンセルカルチャーの心配はないし、青井さんの現在の仕事は具体的には書かないが万年人手不足の仕事でコロナ禍もあり、まずクビにはならない不人気職とのこと。このように誹謗中傷側から話を聞くとやったもん勝ち、本当に解決策はないのではと思わされる。あえて聞くが、かつての誹謗中傷者として、どうすれば誹謗中傷が無くなると思うか。「絶対に無くならないと思いますよ。実名制にしてもやる人はやるし、ネットってその辺の一般人最強ですから」 実名制は韓国も失敗した。確かに、日本でもFacebookの一部ユーザーなどは実名どころか顔から所属先まで晒して他者を攻撃していたりする。自営業や年金者に多い印象だが、前者はともかく後者はある意味で無敵、ほのぼのと孫の写真を晒したそばから誹謗中傷を繰り返している(それも全公開設定!)。無くならないというのが現実だろう。「個人的な考えですけど、中国の信用スコアとか効くんじゃないですか? たとえばネットなら誹謗中傷を繰り返せば手持ちのスコアが減るとか。それで就職とかローンとか、子どもの進学にも影響あるみたいな。それでお互い点を見ることができるシステムなら他人を気にする日本人に効くと思うんですけど、こいつは何点か~って点数見られる感じで」 こんな気持ち悪い全体主義、筆者は無論反対だが、これくらいしないと匿名の誹謗中傷、ネット上の暴力は無くならないと思わされるのもまた事実。2021年4月に改正プロバイダ責任制限法が成立、公布されたが、この程度ではかつての青井さんのようないわゆる「無敵の一般人」には効かないように思う。自分自身が幸せになればやめられると思う「自分はもうしてませんけど、いまも独身で仕事もだめだったら別のタゲ(ターゲットの意)を探していたと思います。みんなが幸せになればいいんでしょうけど、それは無理でしょう。だったら、誹謗中傷は無くならないでしょうね」 どこか他人事、誹謗中傷当事者の言葉だけに違和感しかないが、当たっているだけに筆者もこの話を終えたあと、さてどうルポを結実させようか考えてしまった。なのでせめて、青井さんとの一問一答が参考になればと改めて記す。なぜ誹謗中傷するのか、その心理の一例にはなるだろう。その公表は青井さんも望んでいる。匿名掲示板でもSNSでも誹謗中傷の心理そのものに違いはないだろう。 ――なぜ少女が苦しむほどに、あることないことを書き込んだのか「最初はファンだった。何度かイベントや撮影会で会ったが塩対応で態度が悪く、自分の思ったような子じゃなかった。よかれと思って年上としてアドバイスしたつもりが、気持ち悪がられて腹がたった。叩き始めると彼女のことばかり考えるようになった。純粋なファンのときより叩きはじめた後のほうが彼女のことばかり考えていたように思う」 ――少女の仕事や生活を脅かすとは思わなかったのか。「当時は彼女の活動が仕事だという感覚はなかった。自分の娯楽としか見ていなかった。際どい水着でおっさんに媚び売る子どもと、どこか下に見ていたのかもしれない。はっきりいってオカズだった」 ――和解したが誹謗中傷が引退のきっかけかもしれない、罪悪感はあるか。「そこは芸能人として見ていた。有名税だからという免罪符はあったと思う。罪悪なんて大げさな話ではなく、あくまでネタだった」 ――青井さんには過去かもしれないが彼女は忘れていないかもしれない。「それはキリがない。一生気にすることとは思わない。忘れて欲しいと思う」 ――誹謗中傷をしている人たちに先達として忠告することはあるか。「自分自身が幸せになればやめられると思う。ずっと不幸な人はわからない」 ――かつての加害者として誹謗中傷をされている人たちにアドバイスはあるか。「気にしないこと。それしかない。相手が名無しの一般人ならそれしかないと思う。訴えるのは自由だが実利は薄いと思う。罰則を厳しくしない国が悪い。法律の問題だと思う」 このような問答となったが、人それぞれに読み取れる部分は多いだろう。もちろん彼一人のサンプル、これがすべてと言わないが、多くの誹謗中傷側の感覚はお気軽なもので、自覚なしに追い詰める事例が大半のように思う。だからこそやっかいなのだ。いじめという名の犯罪行為同様、受けた側の傷に比べてあまりに軽い。拍子抜けするほどに。そして青井さんの言う「その辺の一般人」かつ無敵の人、それに準じるような人の場合、訴えたところで直接的な効果は薄い。裁判が終わってほとぼり冷めたらまた繰り返す危険人物すらいる。 中国の信用スコア、社会信用システムのようなディストピアは勘弁だが、それがコロナ禍の統制含め有効なのではという話もある。日本は憲法上そこまでできないし表現の自由との兼ね合いもあるが、被害者の苦しみを考えれば、さらなる開示の容易化と刑法の厳罰化の方向に進むのもまた現実だろう。 取材中、青井さんから謝罪の言葉は出なかった。これもまた現実だ。【プロフィール】日野百草(ひの・ひゃくそう)/本名:上崎洋一。1972年千葉県野田市生まれ。日本ペンクラブ会員。出版社を経てフリーランス。全国俳誌協会賞、日本詩歌句随筆評論協会賞奨励賞(評論部門)受賞。『誰も書けなかったパチンコ20兆円の闇』(宝島社・共著)、『ルポ 京アニを燃やした男』(第三書館)。近著『評伝 赤城さかえ 楸邨、波郷、兜太から愛された魂の俳人』(コールサック社)。
「だからバイトで(出版社に)潜り込んだんですけど、なんかダメでした。物作ったり文字書く側じゃないって気づいたのは結構あとです」 青井さんは関東近郊の実家暮らしという気軽さもあったのだろう、地元の和食レストランやカレー屋などのアルバイトを転々としながらライトノベル小説など書いてみたりフリーゲームなど作ってみたりしたが、どれも完成すらしなかったという。すでに2000年代も中盤、青井さんは実家住まいのフリーターとして過ごした。「いまは才能なかったってわかってますけど当時はヤバかった。黒歴史です。でもネットはそんな自分も受け入れてくれたんです。サイトで自分の小説の断片を出すと『すごい』『神』って言ってくれる人がいる。フリーゲームなんか企画の話だけで褒めてくれる。必ず誰かいて迎えてくれる。あのときの自分にしてみれば気持ちいい世界だったんです」 リアルで満たされない承認欲求がネットで満たされる、それは有名無名関係ないだろうが、リアルがあまりに危うい時期に溺れてしまうと抜け出せなくなる。ネット屋も商売、ソシャゲ屋もそうだが、それを承知で溺死者を出さない程度に承認欲求のプールに浸かってもらい、依存するよう仕向けている。それでも人によっては救われる面もある。「でも、まさか訴えられるとは思いませんでしたけどね」 厳密に言うと青井さんは訴えられる前に和解しているしSNS興隆以前の話である。それでも、かつて拙ルポ『「やめたいのにやめられない」ネット中傷を続ける女性の告白』でも言及したが、ネットで誹謗中傷をしていたと告白してくれる存在は貴重である。「相手は10代のグラビアアイドルとその事務所です」 そのころの青井さんはラノベやゲームと同時に10代の少女、とくに中高生のグラドルにハマっていた。「でも当時の(飲食店の)バイトなんて辞めさせられたりしませんでしたよ。わざわざ言わなきゃ誰もわかんないですから。その辺の人なんて、みんなそうだと思います」 木村花さんの事件もそうだが、一般人が中傷犯なら名前も出なければ有名人ほどに露骨な社会的制裁を受けることはまずない。多くは話題にすらならないだろう。自分だけじゃなく、他にもアンチはいましたから 青井さんは開き直っているわけではない。筆者が知る限りでも、一般の社会人でネットの誹謗中傷で訴えられて会社を辞めさせられた、地域にいられなくなったなんて話はない。みんな粛々と、何食わぬ顔で学校に行ったり働いたりしている。ましてや事情で働いていない人、引きこもりやニートはもちろん引退世代の高齢者なら訴えられたところで屁でもない。「和解といっても金銭はわずかで、彼女に対して誹謗中傷はしないという約束が主です。命どころか仕事をとられることもないです。やったもん勝ちですね」 有名人はもちろん、ネットのインフルエンサーなど、それなりに影響力があるから誹謗だ中傷だと話題になるだけであって、多くの無名の一般人なら現実には訴えられたところで大したことはないし、面倒だろうがそれだけ、というのが青井さんの感想だという。「彼女のこと、あることないこと書いたのがまずかった。それをうっかりリアルでしゃべったことも。最初はファンだったんですけどね」 青井さんがネットで誹謗中傷した少女はグラビアアイドルといってもメジャーな芸能人ではなく、露出度の高いマイクロビキニやふんどしを着せるようなイメージビデオに何作か出演しただけの少女だった。2000年代中盤、とくに過激な作品が乱発された時代だ。「イベントや撮影会に何度か行ったんですが、彼女の対応が気に入らなかったんでネットに書き込んだのが最初ですね、自分としてはネタでした」 秋葉原のビデオ店やパソコンショップにはこうした新人グラドル御用達の小さなイベント会場がある。また少数のファンを集めて小さな撮影会を開いたりもする。青井さんはそこで実際に会い、やがて幻滅した。恋愛感情か。「どうでしょう、かわいいとは思ってましたし、付き合えればそりゃ嬉しいでしょう。(その少女のビデオを)オカズに使ってたのも事実です」 消費対象かという筆者の言葉に、「そう、そんな軽い感じです」と大きくうなずいた。青井さんはこんな軽い感じで攻撃を始めたわけだ。あることないこと書きたてて。少しミソジニー(女性嫌悪)をこじらせていたのでは?「それはあるかもしれません。理想の少女を勝手に作って、勝手に憎悪したわけで。それに匿名ならバレませんから。自分だけじゃなく、他にもアンチはいましたから」 他にもいる、は常套文句だ。しかし匿名でも実際は匿名ではない。しかるべき手順で開示請求して、地道に辿れば足はつく。「でもね、わかってて言ってると思うんですけど、お金持ってて影響力も桁違いの芸能人なら本気出せばできるかもしれませんが、普通は無理ですよ」 残念ながらそのとおり、誹謗中傷に断固とした対応で臨むと宣言した中川翔子さんのような大物芸能人ならともかく、ニッチなグラドルやコスプレイヤー、地下アイドルなど事務所も小さく資力もないどころか無所属の場合、資金的にも個人レベルでは誹謗中傷に真っ向から立ち向かうのは現実的に難しい。小金井ストーカー殺人未遂事件のように警察が動くほどの目に見える犯罪被害でもない限り、泣き寝入りかスルーというのが実情だ。誹謗中傷の主戦場がSNSに移ったいまも、多くの被害者が苦しんでいる。ネットってその辺の一般人最強ですから「自分はその子とリアルで知り合ったから足がつきましたけど、まあ一切会ってなければ(特定は)無理なんじゃないかな、まして当時(2000年代)では珍しいと思います」 青井さんは撮影会などでリアルに接していたことや生来のおしゃべりが祟り、察した事務所関係者に問い詰められた末に訴えると脅されて和解となった。つまりは民法上の「訴え提起前の和解」であり、実際に裁判所に出頭した上で二度と誹謗中傷をしないこと、近寄らないこと、という誓約書を作成させられたという。微々たる額だが和解金も支払った。「多くはこうして和解だと思います。おかしな人でもない限り、これで二度とやらないでしょうし、自分もそうでした」 こうして青井さんは正式な裁判に持ち込まれずに済んだ。その後、相手の少女はもちろん、他にも同じような誹謗中傷行為はしていないのか。「してませんね。もう年ですから。それに結婚もしましたし、いまの仕事も長いです。家庭あるんで」 誹謗中傷をした本人は結婚して平穏に暮らし、された側は引退して行方知れず。青井さんの話では、そのグラドルにはリスカ、手首を傷つけた跡もあったという。自分のせいではない、元から病ンドルだったと語るが釈然としない。奥さんは知っているのか。「知ってます。妻もネット好きだしオタク同士で価値観も一緒です。もうバカなことすんなよ、とは言われてますが」 今日一番嬉しそうな笑顔、地獄のような「子ども社会人」だった青井さんを救ったのは奥さんだ。微笑ましい限りだが、それでもやはり釈然としないことを告げる。すると青井さんは顔をしかめ、改まって言葉を繋いだ。「仕事に影響があったならかわいそうですけど、もう和解しましたし、昔の話ですから」 彼を責めることが目的ではないが、少女の性格や仕事ぶりの「あることないこと」をネットに撒き散らした青井さんは偽計業務妨害罪でもおかしくない。元アイドルのラーメン店経営者に対して「反社とつながっている」と風説の流布を繰り返した50代の男もまさにそれだった。誹謗中傷には仕事に影響を与えるような妨害行為も多い。こいつは使うな、こいつはこういう奴だと取引先や媒体に匿名で連絡する。歪んだ正義と嫉妬、心理学では「引き下げ心理」とも呼ばれる。「それはあるかもしれません。あのころ、なにもかもうまくいかなかった男で、ゲームと少女だけが拠り所でしたから」 素直に認める青井さんだが、これも過去と割り切れているからこそ。理解ある奥さんもいて平穏に暮らしている。しかし被害者は割り切れていないかもしれない。やったほうは忘れても、やられたほうは忘れない。それでも青井さんの言うところの「その辺の一般人」である限りキャンセルカルチャーの心配はないし、青井さんの現在の仕事は具体的には書かないが万年人手不足の仕事でコロナ禍もあり、まずクビにはならない不人気職とのこと。このように誹謗中傷側から話を聞くとやったもん勝ち、本当に解決策はないのではと思わされる。あえて聞くが、かつての誹謗中傷者として、どうすれば誹謗中傷が無くなると思うか。「絶対に無くならないと思いますよ。実名制にしてもやる人はやるし、ネットってその辺の一般人最強ですから」 実名制は韓国も失敗した。確かに、日本でもFacebookの一部ユーザーなどは実名どころか顔から所属先まで晒して他者を攻撃していたりする。自営業や年金者に多い印象だが、前者はともかく後者はある意味で無敵、ほのぼのと孫の写真を晒したそばから誹謗中傷を繰り返している(それも全公開設定!)。無くならないというのが現実だろう。「個人的な考えですけど、中国の信用スコアとか効くんじゃないですか? たとえばネットなら誹謗中傷を繰り返せば手持ちのスコアが減るとか。それで就職とかローンとか、子どもの進学にも影響あるみたいな。それでお互い点を見ることができるシステムなら他人を気にする日本人に効くと思うんですけど、こいつは何点か~って点数見られる感じで」 こんな気持ち悪い全体主義、筆者は無論反対だが、これくらいしないと匿名の誹謗中傷、ネット上の暴力は無くならないと思わされるのもまた事実。2021年4月に改正プロバイダ責任制限法が成立、公布されたが、この程度ではかつての青井さんのようないわゆる「無敵の一般人」には効かないように思う。自分自身が幸せになればやめられると思う「自分はもうしてませんけど、いまも独身で仕事もだめだったら別のタゲ(ターゲットの意)を探していたと思います。みんなが幸せになればいいんでしょうけど、それは無理でしょう。だったら、誹謗中傷は無くならないでしょうね」 どこか他人事、誹謗中傷当事者の言葉だけに違和感しかないが、当たっているだけに筆者もこの話を終えたあと、さてどうルポを結実させようか考えてしまった。なのでせめて、青井さんとの一問一答が参考になればと改めて記す。なぜ誹謗中傷するのか、その心理の一例にはなるだろう。その公表は青井さんも望んでいる。匿名掲示板でもSNSでも誹謗中傷の心理そのものに違いはないだろう。 ――なぜ少女が苦しむほどに、あることないことを書き込んだのか「最初はファンだった。何度かイベントや撮影会で会ったが塩対応で態度が悪く、自分の思ったような子じゃなかった。よかれと思って年上としてアドバイスしたつもりが、気持ち悪がられて腹がたった。叩き始めると彼女のことばかり考えるようになった。純粋なファンのときより叩きはじめた後のほうが彼女のことばかり考えていたように思う」 ――少女の仕事や生活を脅かすとは思わなかったのか。「当時は彼女の活動が仕事だという感覚はなかった。自分の娯楽としか見ていなかった。際どい水着でおっさんに媚び売る子どもと、どこか下に見ていたのかもしれない。はっきりいってオカズだった」 ――和解したが誹謗中傷が引退のきっかけかもしれない、罪悪感はあるか。「そこは芸能人として見ていた。有名税だからという免罪符はあったと思う。罪悪なんて大げさな話ではなく、あくまでネタだった」 ――青井さんには過去かもしれないが彼女は忘れていないかもしれない。「それはキリがない。一生気にすることとは思わない。忘れて欲しいと思う」 ――誹謗中傷をしている人たちに先達として忠告することはあるか。「自分自身が幸せになればやめられると思う。ずっと不幸な人はわからない」 ――かつての加害者として誹謗中傷をされている人たちにアドバイスはあるか。「気にしないこと。それしかない。相手が名無しの一般人ならそれしかないと思う。訴えるのは自由だが実利は薄いと思う。罰則を厳しくしない国が悪い。法律の問題だと思う」 このような問答となったが、人それぞれに読み取れる部分は多いだろう。もちろん彼一人のサンプル、これがすべてと言わないが、多くの誹謗中傷側の感覚はお気軽なもので、自覚なしに追い詰める事例が大半のように思う。だからこそやっかいなのだ。いじめという名の犯罪行為同様、受けた側の傷に比べてあまりに軽い。拍子抜けするほどに。そして青井さんの言う「その辺の一般人」かつ無敵の人、それに準じるような人の場合、訴えたところで直接的な効果は薄い。裁判が終わってほとぼり冷めたらまた繰り返す危険人物すらいる。 中国の信用スコア、社会信用システムのようなディストピアは勘弁だが、それがコロナ禍の統制含め有効なのではという話もある。日本は憲法上そこまでできないし表現の自由との兼ね合いもあるが、被害者の苦しみを考えれば、さらなる開示の容易化と刑法の厳罰化の方向に進むのもまた現実だろう。 取材中、青井さんから謝罪の言葉は出なかった。これもまた現実だ。【プロフィール】日野百草(ひの・ひゃくそう)/本名:上崎洋一。1972年千葉県野田市生まれ。日本ペンクラブ会員。出版社を経てフリーランス。全国俳誌協会賞、日本詩歌句随筆評論協会賞奨励賞(評論部門)受賞。『誰も書けなかったパチンコ20兆円の闇』(宝島社・共著)、『ルポ 京アニを燃やした男』(第三書館)。近著『評伝 赤城さかえ 楸邨、波郷、兜太から愛された魂の俳人』(コールサック社)。
青井さんは関東近郊の実家暮らしという気軽さもあったのだろう、地元の和食レストランやカレー屋などのアルバイトを転々としながらライトノベル小説など書いてみたりフリーゲームなど作ってみたりしたが、どれも完成すらしなかったという。すでに2000年代も中盤、青井さんは実家住まいのフリーターとして過ごした。「いまは才能なかったってわかってますけど当時はヤバかった。黒歴史です。でもネットはそんな自分も受け入れてくれたんです。サイトで自分の小説の断片を出すと『すごい』『神』って言ってくれる人がいる。フリーゲームなんか企画の話だけで褒めてくれる。必ず誰かいて迎えてくれる。あのときの自分にしてみれば気持ちいい世界だったんです」 リアルで満たされない承認欲求がネットで満たされる、それは有名無名関係ないだろうが、リアルがあまりに危うい時期に溺れてしまうと抜け出せなくなる。ネット屋も商売、ソシャゲ屋もそうだが、それを承知で溺死者を出さない程度に承認欲求のプールに浸かってもらい、依存するよう仕向けている。それでも人によっては救われる面もある。「でも、まさか訴えられるとは思いませんでしたけどね」 厳密に言うと青井さんは訴えられる前に和解しているしSNS興隆以前の話である。それでも、かつて拙ルポ『「やめたいのにやめられない」ネット中傷を続ける女性の告白』でも言及したが、ネットで誹謗中傷をしていたと告白してくれる存在は貴重である。「相手は10代のグラビアアイドルとその事務所です」 そのころの青井さんはラノベやゲームと同時に10代の少女、とくに中高生のグラドルにハマっていた。「でも当時の(飲食店の)バイトなんて辞めさせられたりしませんでしたよ。わざわざ言わなきゃ誰もわかんないですから。その辺の人なんて、みんなそうだと思います」 木村花さんの事件もそうだが、一般人が中傷犯なら名前も出なければ有名人ほどに露骨な社会的制裁を受けることはまずない。多くは話題にすらならないだろう。自分だけじゃなく、他にもアンチはいましたから 青井さんは開き直っているわけではない。筆者が知る限りでも、一般の社会人でネットの誹謗中傷で訴えられて会社を辞めさせられた、地域にいられなくなったなんて話はない。みんな粛々と、何食わぬ顔で学校に行ったり働いたりしている。ましてや事情で働いていない人、引きこもりやニートはもちろん引退世代の高齢者なら訴えられたところで屁でもない。「和解といっても金銭はわずかで、彼女に対して誹謗中傷はしないという約束が主です。命どころか仕事をとられることもないです。やったもん勝ちですね」 有名人はもちろん、ネットのインフルエンサーなど、それなりに影響力があるから誹謗だ中傷だと話題になるだけであって、多くの無名の一般人なら現実には訴えられたところで大したことはないし、面倒だろうがそれだけ、というのが青井さんの感想だという。「彼女のこと、あることないこと書いたのがまずかった。それをうっかりリアルでしゃべったことも。最初はファンだったんですけどね」 青井さんがネットで誹謗中傷した少女はグラビアアイドルといってもメジャーな芸能人ではなく、露出度の高いマイクロビキニやふんどしを着せるようなイメージビデオに何作か出演しただけの少女だった。2000年代中盤、とくに過激な作品が乱発された時代だ。「イベントや撮影会に何度か行ったんですが、彼女の対応が気に入らなかったんでネットに書き込んだのが最初ですね、自分としてはネタでした」 秋葉原のビデオ店やパソコンショップにはこうした新人グラドル御用達の小さなイベント会場がある。また少数のファンを集めて小さな撮影会を開いたりもする。青井さんはそこで実際に会い、やがて幻滅した。恋愛感情か。「どうでしょう、かわいいとは思ってましたし、付き合えればそりゃ嬉しいでしょう。(その少女のビデオを)オカズに使ってたのも事実です」 消費対象かという筆者の言葉に、「そう、そんな軽い感じです」と大きくうなずいた。青井さんはこんな軽い感じで攻撃を始めたわけだ。あることないこと書きたてて。少しミソジニー(女性嫌悪)をこじらせていたのでは?「それはあるかもしれません。理想の少女を勝手に作って、勝手に憎悪したわけで。それに匿名ならバレませんから。自分だけじゃなく、他にもアンチはいましたから」 他にもいる、は常套文句だ。しかし匿名でも実際は匿名ではない。しかるべき手順で開示請求して、地道に辿れば足はつく。「でもね、わかってて言ってると思うんですけど、お金持ってて影響力も桁違いの芸能人なら本気出せばできるかもしれませんが、普通は無理ですよ」 残念ながらそのとおり、誹謗中傷に断固とした対応で臨むと宣言した中川翔子さんのような大物芸能人ならともかく、ニッチなグラドルやコスプレイヤー、地下アイドルなど事務所も小さく資力もないどころか無所属の場合、資金的にも個人レベルでは誹謗中傷に真っ向から立ち向かうのは現実的に難しい。小金井ストーカー殺人未遂事件のように警察が動くほどの目に見える犯罪被害でもない限り、泣き寝入りかスルーというのが実情だ。誹謗中傷の主戦場がSNSに移ったいまも、多くの被害者が苦しんでいる。ネットってその辺の一般人最強ですから「自分はその子とリアルで知り合ったから足がつきましたけど、まあ一切会ってなければ(特定は)無理なんじゃないかな、まして当時(2000年代)では珍しいと思います」 青井さんは撮影会などでリアルに接していたことや生来のおしゃべりが祟り、察した事務所関係者に問い詰められた末に訴えると脅されて和解となった。つまりは民法上の「訴え提起前の和解」であり、実際に裁判所に出頭した上で二度と誹謗中傷をしないこと、近寄らないこと、という誓約書を作成させられたという。微々たる額だが和解金も支払った。「多くはこうして和解だと思います。おかしな人でもない限り、これで二度とやらないでしょうし、自分もそうでした」 こうして青井さんは正式な裁判に持ち込まれずに済んだ。その後、相手の少女はもちろん、他にも同じような誹謗中傷行為はしていないのか。「してませんね。もう年ですから。それに結婚もしましたし、いまの仕事も長いです。家庭あるんで」 誹謗中傷をした本人は結婚して平穏に暮らし、された側は引退して行方知れず。青井さんの話では、そのグラドルにはリスカ、手首を傷つけた跡もあったという。自分のせいではない、元から病ンドルだったと語るが釈然としない。奥さんは知っているのか。「知ってます。妻もネット好きだしオタク同士で価値観も一緒です。もうバカなことすんなよ、とは言われてますが」 今日一番嬉しそうな笑顔、地獄のような「子ども社会人」だった青井さんを救ったのは奥さんだ。微笑ましい限りだが、それでもやはり釈然としないことを告げる。すると青井さんは顔をしかめ、改まって言葉を繋いだ。「仕事に影響があったならかわいそうですけど、もう和解しましたし、昔の話ですから」 彼を責めることが目的ではないが、少女の性格や仕事ぶりの「あることないこと」をネットに撒き散らした青井さんは偽計業務妨害罪でもおかしくない。元アイドルのラーメン店経営者に対して「反社とつながっている」と風説の流布を繰り返した50代の男もまさにそれだった。誹謗中傷には仕事に影響を与えるような妨害行為も多い。こいつは使うな、こいつはこういう奴だと取引先や媒体に匿名で連絡する。歪んだ正義と嫉妬、心理学では「引き下げ心理」とも呼ばれる。「それはあるかもしれません。あのころ、なにもかもうまくいかなかった男で、ゲームと少女だけが拠り所でしたから」 素直に認める青井さんだが、これも過去と割り切れているからこそ。理解ある奥さんもいて平穏に暮らしている。しかし被害者は割り切れていないかもしれない。やったほうは忘れても、やられたほうは忘れない。それでも青井さんの言うところの「その辺の一般人」である限りキャンセルカルチャーの心配はないし、青井さんの現在の仕事は具体的には書かないが万年人手不足の仕事でコロナ禍もあり、まずクビにはならない不人気職とのこと。このように誹謗中傷側から話を聞くとやったもん勝ち、本当に解決策はないのではと思わされる。あえて聞くが、かつての誹謗中傷者として、どうすれば誹謗中傷が無くなると思うか。「絶対に無くならないと思いますよ。実名制にしてもやる人はやるし、ネットってその辺の一般人最強ですから」 実名制は韓国も失敗した。確かに、日本でもFacebookの一部ユーザーなどは実名どころか顔から所属先まで晒して他者を攻撃していたりする。自営業や年金者に多い印象だが、前者はともかく後者はある意味で無敵、ほのぼのと孫の写真を晒したそばから誹謗中傷を繰り返している(それも全公開設定!)。無くならないというのが現実だろう。「個人的な考えですけど、中国の信用スコアとか効くんじゃないですか? たとえばネットなら誹謗中傷を繰り返せば手持ちのスコアが減るとか。それで就職とかローンとか、子どもの進学にも影響あるみたいな。それでお互い点を見ることができるシステムなら他人を気にする日本人に効くと思うんですけど、こいつは何点か~って点数見られる感じで」 こんな気持ち悪い全体主義、筆者は無論反対だが、これくらいしないと匿名の誹謗中傷、ネット上の暴力は無くならないと思わされるのもまた事実。2021年4月に改正プロバイダ責任制限法が成立、公布されたが、この程度ではかつての青井さんのようないわゆる「無敵の一般人」には効かないように思う。自分自身が幸せになればやめられると思う「自分はもうしてませんけど、いまも独身で仕事もだめだったら別のタゲ(ターゲットの意)を探していたと思います。みんなが幸せになればいいんでしょうけど、それは無理でしょう。だったら、誹謗中傷は無くならないでしょうね」 どこか他人事、誹謗中傷当事者の言葉だけに違和感しかないが、当たっているだけに筆者もこの話を終えたあと、さてどうルポを結実させようか考えてしまった。なのでせめて、青井さんとの一問一答が参考になればと改めて記す。なぜ誹謗中傷するのか、その心理の一例にはなるだろう。その公表は青井さんも望んでいる。匿名掲示板でもSNSでも誹謗中傷の心理そのものに違いはないだろう。 ――なぜ少女が苦しむほどに、あることないことを書き込んだのか「最初はファンだった。何度かイベントや撮影会で会ったが塩対応で態度が悪く、自分の思ったような子じゃなかった。よかれと思って年上としてアドバイスしたつもりが、気持ち悪がられて腹がたった。叩き始めると彼女のことばかり考えるようになった。純粋なファンのときより叩きはじめた後のほうが彼女のことばかり考えていたように思う」 ――少女の仕事や生活を脅かすとは思わなかったのか。「当時は彼女の活動が仕事だという感覚はなかった。自分の娯楽としか見ていなかった。際どい水着でおっさんに媚び売る子どもと、どこか下に見ていたのかもしれない。はっきりいってオカズだった」 ――和解したが誹謗中傷が引退のきっかけかもしれない、罪悪感はあるか。「そこは芸能人として見ていた。有名税だからという免罪符はあったと思う。罪悪なんて大げさな話ではなく、あくまでネタだった」 ――青井さんには過去かもしれないが彼女は忘れていないかもしれない。「それはキリがない。一生気にすることとは思わない。忘れて欲しいと思う」 ――誹謗中傷をしている人たちに先達として忠告することはあるか。「自分自身が幸せになればやめられると思う。ずっと不幸な人はわからない」 ――かつての加害者として誹謗中傷をされている人たちにアドバイスはあるか。「気にしないこと。それしかない。相手が名無しの一般人ならそれしかないと思う。訴えるのは自由だが実利は薄いと思う。罰則を厳しくしない国が悪い。法律の問題だと思う」 このような問答となったが、人それぞれに読み取れる部分は多いだろう。もちろん彼一人のサンプル、これがすべてと言わないが、多くの誹謗中傷側の感覚はお気軽なもので、自覚なしに追い詰める事例が大半のように思う。だからこそやっかいなのだ。いじめという名の犯罪行為同様、受けた側の傷に比べてあまりに軽い。拍子抜けするほどに。そして青井さんの言う「その辺の一般人」かつ無敵の人、それに準じるような人の場合、訴えたところで直接的な効果は薄い。裁判が終わってほとぼり冷めたらまた繰り返す危険人物すらいる。 中国の信用スコア、社会信用システムのようなディストピアは勘弁だが、それがコロナ禍の統制含め有効なのではという話もある。日本は憲法上そこまでできないし表現の自由との兼ね合いもあるが、被害者の苦しみを考えれば、さらなる開示の容易化と刑法の厳罰化の方向に進むのもまた現実だろう。 取材中、青井さんから謝罪の言葉は出なかった。これもまた現実だ。【プロフィール】日野百草(ひの・ひゃくそう)/本名:上崎洋一。1972年千葉県野田市生まれ。日本ペンクラブ会員。出版社を経てフリーランス。全国俳誌協会賞、日本詩歌句随筆評論協会賞奨励賞(評論部門)受賞。『誰も書けなかったパチンコ20兆円の闇』(宝島社・共著)、『ルポ 京アニを燃やした男』(第三書館)。近著『評伝 赤城さかえ 楸邨、波郷、兜太から愛された魂の俳人』(コールサック社)。
「いまは才能なかったってわかってますけど当時はヤバかった。黒歴史です。でもネットはそんな自分も受け入れてくれたんです。サイトで自分の小説の断片を出すと『すごい』『神』って言ってくれる人がいる。フリーゲームなんか企画の話だけで褒めてくれる。必ず誰かいて迎えてくれる。あのときの自分にしてみれば気持ちいい世界だったんです」 リアルで満たされない承認欲求がネットで満たされる、それは有名無名関係ないだろうが、リアルがあまりに危うい時期に溺れてしまうと抜け出せなくなる。ネット屋も商売、ソシャゲ屋もそうだが、それを承知で溺死者を出さない程度に承認欲求のプールに浸かってもらい、依存するよう仕向けている。それでも人によっては救われる面もある。「でも、まさか訴えられるとは思いませんでしたけどね」 厳密に言うと青井さんは訴えられる前に和解しているしSNS興隆以前の話である。それでも、かつて拙ルポ『「やめたいのにやめられない」ネット中傷を続ける女性の告白』でも言及したが、ネットで誹謗中傷をしていたと告白してくれる存在は貴重である。「相手は10代のグラビアアイドルとその事務所です」 そのころの青井さんはラノベやゲームと同時に10代の少女、とくに中高生のグラドルにハマっていた。「でも当時の(飲食店の)バイトなんて辞めさせられたりしませんでしたよ。わざわざ言わなきゃ誰もわかんないですから。その辺の人なんて、みんなそうだと思います」 木村花さんの事件もそうだが、一般人が中傷犯なら名前も出なければ有名人ほどに露骨な社会的制裁を受けることはまずない。多くは話題にすらならないだろう。自分だけじゃなく、他にもアンチはいましたから 青井さんは開き直っているわけではない。筆者が知る限りでも、一般の社会人でネットの誹謗中傷で訴えられて会社を辞めさせられた、地域にいられなくなったなんて話はない。みんな粛々と、何食わぬ顔で学校に行ったり働いたりしている。ましてや事情で働いていない人、引きこもりやニートはもちろん引退世代の高齢者なら訴えられたところで屁でもない。「和解といっても金銭はわずかで、彼女に対して誹謗中傷はしないという約束が主です。命どころか仕事をとられることもないです。やったもん勝ちですね」 有名人はもちろん、ネットのインフルエンサーなど、それなりに影響力があるから誹謗だ中傷だと話題になるだけであって、多くの無名の一般人なら現実には訴えられたところで大したことはないし、面倒だろうがそれだけ、というのが青井さんの感想だという。「彼女のこと、あることないこと書いたのがまずかった。それをうっかりリアルでしゃべったことも。最初はファンだったんですけどね」 青井さんがネットで誹謗中傷した少女はグラビアアイドルといってもメジャーな芸能人ではなく、露出度の高いマイクロビキニやふんどしを着せるようなイメージビデオに何作か出演しただけの少女だった。2000年代中盤、とくに過激な作品が乱発された時代だ。「イベントや撮影会に何度か行ったんですが、彼女の対応が気に入らなかったんでネットに書き込んだのが最初ですね、自分としてはネタでした」 秋葉原のビデオ店やパソコンショップにはこうした新人グラドル御用達の小さなイベント会場がある。また少数のファンを集めて小さな撮影会を開いたりもする。青井さんはそこで実際に会い、やがて幻滅した。恋愛感情か。「どうでしょう、かわいいとは思ってましたし、付き合えればそりゃ嬉しいでしょう。(その少女のビデオを)オカズに使ってたのも事実です」 消費対象かという筆者の言葉に、「そう、そんな軽い感じです」と大きくうなずいた。青井さんはこんな軽い感じで攻撃を始めたわけだ。あることないこと書きたてて。少しミソジニー(女性嫌悪)をこじらせていたのでは?「それはあるかもしれません。理想の少女を勝手に作って、勝手に憎悪したわけで。それに匿名ならバレませんから。自分だけじゃなく、他にもアンチはいましたから」 他にもいる、は常套文句だ。しかし匿名でも実際は匿名ではない。しかるべき手順で開示請求して、地道に辿れば足はつく。「でもね、わかってて言ってると思うんですけど、お金持ってて影響力も桁違いの芸能人なら本気出せばできるかもしれませんが、普通は無理ですよ」 残念ながらそのとおり、誹謗中傷に断固とした対応で臨むと宣言した中川翔子さんのような大物芸能人ならともかく、ニッチなグラドルやコスプレイヤー、地下アイドルなど事務所も小さく資力もないどころか無所属の場合、資金的にも個人レベルでは誹謗中傷に真っ向から立ち向かうのは現実的に難しい。小金井ストーカー殺人未遂事件のように警察が動くほどの目に見える犯罪被害でもない限り、泣き寝入りかスルーというのが実情だ。誹謗中傷の主戦場がSNSに移ったいまも、多くの被害者が苦しんでいる。ネットってその辺の一般人最強ですから「自分はその子とリアルで知り合ったから足がつきましたけど、まあ一切会ってなければ(特定は)無理なんじゃないかな、まして当時(2000年代)では珍しいと思います」 青井さんは撮影会などでリアルに接していたことや生来のおしゃべりが祟り、察した事務所関係者に問い詰められた末に訴えると脅されて和解となった。つまりは民法上の「訴え提起前の和解」であり、実際に裁判所に出頭した上で二度と誹謗中傷をしないこと、近寄らないこと、という誓約書を作成させられたという。微々たる額だが和解金も支払った。「多くはこうして和解だと思います。おかしな人でもない限り、これで二度とやらないでしょうし、自分もそうでした」 こうして青井さんは正式な裁判に持ち込まれずに済んだ。その後、相手の少女はもちろん、他にも同じような誹謗中傷行為はしていないのか。「してませんね。もう年ですから。それに結婚もしましたし、いまの仕事も長いです。家庭あるんで」 誹謗中傷をした本人は結婚して平穏に暮らし、された側は引退して行方知れず。青井さんの話では、そのグラドルにはリスカ、手首を傷つけた跡もあったという。自分のせいではない、元から病ンドルだったと語るが釈然としない。奥さんは知っているのか。「知ってます。妻もネット好きだしオタク同士で価値観も一緒です。もうバカなことすんなよ、とは言われてますが」 今日一番嬉しそうな笑顔、地獄のような「子ども社会人」だった青井さんを救ったのは奥さんだ。微笑ましい限りだが、それでもやはり釈然としないことを告げる。すると青井さんは顔をしかめ、改まって言葉を繋いだ。「仕事に影響があったならかわいそうですけど、もう和解しましたし、昔の話ですから」 彼を責めることが目的ではないが、少女の性格や仕事ぶりの「あることないこと」をネットに撒き散らした青井さんは偽計業務妨害罪でもおかしくない。元アイドルのラーメン店経営者に対して「反社とつながっている」と風説の流布を繰り返した50代の男もまさにそれだった。誹謗中傷には仕事に影響を与えるような妨害行為も多い。こいつは使うな、こいつはこういう奴だと取引先や媒体に匿名で連絡する。歪んだ正義と嫉妬、心理学では「引き下げ心理」とも呼ばれる。「それはあるかもしれません。あのころ、なにもかもうまくいかなかった男で、ゲームと少女だけが拠り所でしたから」 素直に認める青井さんだが、これも過去と割り切れているからこそ。理解ある奥さんもいて平穏に暮らしている。しかし被害者は割り切れていないかもしれない。やったほうは忘れても、やられたほうは忘れない。それでも青井さんの言うところの「その辺の一般人」である限りキャンセルカルチャーの心配はないし、青井さんの現在の仕事は具体的には書かないが万年人手不足の仕事でコロナ禍もあり、まずクビにはならない不人気職とのこと。このように誹謗中傷側から話を聞くとやったもん勝ち、本当に解決策はないのではと思わされる。あえて聞くが、かつての誹謗中傷者として、どうすれば誹謗中傷が無くなると思うか。「絶対に無くならないと思いますよ。実名制にしてもやる人はやるし、ネットってその辺の一般人最強ですから」 実名制は韓国も失敗した。確かに、日本でもFacebookの一部ユーザーなどは実名どころか顔から所属先まで晒して他者を攻撃していたりする。自営業や年金者に多い印象だが、前者はともかく後者はある意味で無敵、ほのぼのと孫の写真を晒したそばから誹謗中傷を繰り返している(それも全公開設定!)。無くならないというのが現実だろう。「個人的な考えですけど、中国の信用スコアとか効くんじゃないですか? たとえばネットなら誹謗中傷を繰り返せば手持ちのスコアが減るとか。それで就職とかローンとか、子どもの進学にも影響あるみたいな。それでお互い点を見ることができるシステムなら他人を気にする日本人に効くと思うんですけど、こいつは何点か~って点数見られる感じで」 こんな気持ち悪い全体主義、筆者は無論反対だが、これくらいしないと匿名の誹謗中傷、ネット上の暴力は無くならないと思わされるのもまた事実。2021年4月に改正プロバイダ責任制限法が成立、公布されたが、この程度ではかつての青井さんのようないわゆる「無敵の一般人」には効かないように思う。自分自身が幸せになればやめられると思う「自分はもうしてませんけど、いまも独身で仕事もだめだったら別のタゲ(ターゲットの意)を探していたと思います。みんなが幸せになればいいんでしょうけど、それは無理でしょう。だったら、誹謗中傷は無くならないでしょうね」 どこか他人事、誹謗中傷当事者の言葉だけに違和感しかないが、当たっているだけに筆者もこの話を終えたあと、さてどうルポを結実させようか考えてしまった。なのでせめて、青井さんとの一問一答が参考になればと改めて記す。なぜ誹謗中傷するのか、その心理の一例にはなるだろう。その公表は青井さんも望んでいる。匿名掲示板でもSNSでも誹謗中傷の心理そのものに違いはないだろう。 ――なぜ少女が苦しむほどに、あることないことを書き込んだのか「最初はファンだった。何度かイベントや撮影会で会ったが塩対応で態度が悪く、自分の思ったような子じゃなかった。よかれと思って年上としてアドバイスしたつもりが、気持ち悪がられて腹がたった。叩き始めると彼女のことばかり考えるようになった。純粋なファンのときより叩きはじめた後のほうが彼女のことばかり考えていたように思う」 ――少女の仕事や生活を脅かすとは思わなかったのか。「当時は彼女の活動が仕事だという感覚はなかった。自分の娯楽としか見ていなかった。際どい水着でおっさんに媚び売る子どもと、どこか下に見ていたのかもしれない。はっきりいってオカズだった」 ――和解したが誹謗中傷が引退のきっかけかもしれない、罪悪感はあるか。「そこは芸能人として見ていた。有名税だからという免罪符はあったと思う。罪悪なんて大げさな話ではなく、あくまでネタだった」 ――青井さんには過去かもしれないが彼女は忘れていないかもしれない。「それはキリがない。一生気にすることとは思わない。忘れて欲しいと思う」 ――誹謗中傷をしている人たちに先達として忠告することはあるか。「自分自身が幸せになればやめられると思う。ずっと不幸な人はわからない」 ――かつての加害者として誹謗中傷をされている人たちにアドバイスはあるか。「気にしないこと。それしかない。相手が名無しの一般人ならそれしかないと思う。訴えるのは自由だが実利は薄いと思う。罰則を厳しくしない国が悪い。法律の問題だと思う」 このような問答となったが、人それぞれに読み取れる部分は多いだろう。もちろん彼一人のサンプル、これがすべてと言わないが、多くの誹謗中傷側の感覚はお気軽なもので、自覚なしに追い詰める事例が大半のように思う。だからこそやっかいなのだ。いじめという名の犯罪行為同様、受けた側の傷に比べてあまりに軽い。拍子抜けするほどに。そして青井さんの言う「その辺の一般人」かつ無敵の人、それに準じるような人の場合、訴えたところで直接的な効果は薄い。裁判が終わってほとぼり冷めたらまた繰り返す危険人物すらいる。 中国の信用スコア、社会信用システムのようなディストピアは勘弁だが、それがコロナ禍の統制含め有効なのではという話もある。日本は憲法上そこまでできないし表現の自由との兼ね合いもあるが、被害者の苦しみを考えれば、さらなる開示の容易化と刑法の厳罰化の方向に進むのもまた現実だろう。 取材中、青井さんから謝罪の言葉は出なかった。これもまた現実だ。【プロフィール】日野百草(ひの・ひゃくそう)/本名:上崎洋一。1972年千葉県野田市生まれ。日本ペンクラブ会員。出版社を経てフリーランス。全国俳誌協会賞、日本詩歌句随筆評論協会賞奨励賞(評論部門)受賞。『誰も書けなかったパチンコ20兆円の闇』(宝島社・共著)、『ルポ 京アニを燃やした男』(第三書館)。近著『評伝 赤城さかえ 楸邨、波郷、兜太から愛された魂の俳人』(コールサック社)。
リアルで満たされない承認欲求がネットで満たされる、それは有名無名関係ないだろうが、リアルがあまりに危うい時期に溺れてしまうと抜け出せなくなる。ネット屋も商売、ソシャゲ屋もそうだが、それを承知で溺死者を出さない程度に承認欲求のプールに浸かってもらい、依存するよう仕向けている。それでも人によっては救われる面もある。「でも、まさか訴えられるとは思いませんでしたけどね」 厳密に言うと青井さんは訴えられる前に和解しているしSNS興隆以前の話である。それでも、かつて拙ルポ『「やめたいのにやめられない」ネット中傷を続ける女性の告白』でも言及したが、ネットで誹謗中傷をしていたと告白してくれる存在は貴重である。「相手は10代のグラビアアイドルとその事務所です」 そのころの青井さんはラノベやゲームと同時に10代の少女、とくに中高生のグラドルにハマっていた。「でも当時の(飲食店の)バイトなんて辞めさせられたりしませんでしたよ。わざわざ言わなきゃ誰もわかんないですから。その辺の人なんて、みんなそうだと思います」 木村花さんの事件もそうだが、一般人が中傷犯なら名前も出なければ有名人ほどに露骨な社会的制裁を受けることはまずない。多くは話題にすらならないだろう。自分だけじゃなく、他にもアンチはいましたから 青井さんは開き直っているわけではない。筆者が知る限りでも、一般の社会人でネットの誹謗中傷で訴えられて会社を辞めさせられた、地域にいられなくなったなんて話はない。みんな粛々と、何食わぬ顔で学校に行ったり働いたりしている。ましてや事情で働いていない人、引きこもりやニートはもちろん引退世代の高齢者なら訴えられたところで屁でもない。「和解といっても金銭はわずかで、彼女に対して誹謗中傷はしないという約束が主です。命どころか仕事をとられることもないです。やったもん勝ちですね」 有名人はもちろん、ネットのインフルエンサーなど、それなりに影響力があるから誹謗だ中傷だと話題になるだけであって、多くの無名の一般人なら現実には訴えられたところで大したことはないし、面倒だろうがそれだけ、というのが青井さんの感想だという。「彼女のこと、あることないこと書いたのがまずかった。それをうっかりリアルでしゃべったことも。最初はファンだったんですけどね」 青井さんがネットで誹謗中傷した少女はグラビアアイドルといってもメジャーな芸能人ではなく、露出度の高いマイクロビキニやふんどしを着せるようなイメージビデオに何作か出演しただけの少女だった。2000年代中盤、とくに過激な作品が乱発された時代だ。「イベントや撮影会に何度か行ったんですが、彼女の対応が気に入らなかったんでネットに書き込んだのが最初ですね、自分としてはネタでした」 秋葉原のビデオ店やパソコンショップにはこうした新人グラドル御用達の小さなイベント会場がある。また少数のファンを集めて小さな撮影会を開いたりもする。青井さんはそこで実際に会い、やがて幻滅した。恋愛感情か。「どうでしょう、かわいいとは思ってましたし、付き合えればそりゃ嬉しいでしょう。(その少女のビデオを)オカズに使ってたのも事実です」 消費対象かという筆者の言葉に、「そう、そんな軽い感じです」と大きくうなずいた。青井さんはこんな軽い感じで攻撃を始めたわけだ。あることないこと書きたてて。少しミソジニー(女性嫌悪)をこじらせていたのでは?「それはあるかもしれません。理想の少女を勝手に作って、勝手に憎悪したわけで。それに匿名ならバレませんから。自分だけじゃなく、他にもアンチはいましたから」 他にもいる、は常套文句だ。しかし匿名でも実際は匿名ではない。しかるべき手順で開示請求して、地道に辿れば足はつく。「でもね、わかってて言ってると思うんですけど、お金持ってて影響力も桁違いの芸能人なら本気出せばできるかもしれませんが、普通は無理ですよ」 残念ながらそのとおり、誹謗中傷に断固とした対応で臨むと宣言した中川翔子さんのような大物芸能人ならともかく、ニッチなグラドルやコスプレイヤー、地下アイドルなど事務所も小さく資力もないどころか無所属の場合、資金的にも個人レベルでは誹謗中傷に真っ向から立ち向かうのは現実的に難しい。小金井ストーカー殺人未遂事件のように警察が動くほどの目に見える犯罪被害でもない限り、泣き寝入りかスルーというのが実情だ。誹謗中傷の主戦場がSNSに移ったいまも、多くの被害者が苦しんでいる。ネットってその辺の一般人最強ですから「自分はその子とリアルで知り合ったから足がつきましたけど、まあ一切会ってなければ(特定は)無理なんじゃないかな、まして当時(2000年代)では珍しいと思います」 青井さんは撮影会などでリアルに接していたことや生来のおしゃべりが祟り、察した事務所関係者に問い詰められた末に訴えると脅されて和解となった。つまりは民法上の「訴え提起前の和解」であり、実際に裁判所に出頭した上で二度と誹謗中傷をしないこと、近寄らないこと、という誓約書を作成させられたという。微々たる額だが和解金も支払った。「多くはこうして和解だと思います。おかしな人でもない限り、これで二度とやらないでしょうし、自分もそうでした」 こうして青井さんは正式な裁判に持ち込まれずに済んだ。その後、相手の少女はもちろん、他にも同じような誹謗中傷行為はしていないのか。「してませんね。もう年ですから。それに結婚もしましたし、いまの仕事も長いです。家庭あるんで」 誹謗中傷をした本人は結婚して平穏に暮らし、された側は引退して行方知れず。青井さんの話では、そのグラドルにはリスカ、手首を傷つけた跡もあったという。自分のせいではない、元から病ンドルだったと語るが釈然としない。奥さんは知っているのか。「知ってます。妻もネット好きだしオタク同士で価値観も一緒です。もうバカなことすんなよ、とは言われてますが」 今日一番嬉しそうな笑顔、地獄のような「子ども社会人」だった青井さんを救ったのは奥さんだ。微笑ましい限りだが、それでもやはり釈然としないことを告げる。すると青井さんは顔をしかめ、改まって言葉を繋いだ。「仕事に影響があったならかわいそうですけど、もう和解しましたし、昔の話ですから」 彼を責めることが目的ではないが、少女の性格や仕事ぶりの「あることないこと」をネットに撒き散らした青井さんは偽計業務妨害罪でもおかしくない。元アイドルのラーメン店経営者に対して「反社とつながっている」と風説の流布を繰り返した50代の男もまさにそれだった。誹謗中傷には仕事に影響を与えるような妨害行為も多い。こいつは使うな、こいつはこういう奴だと取引先や媒体に匿名で連絡する。歪んだ正義と嫉妬、心理学では「引き下げ心理」とも呼ばれる。「それはあるかもしれません。あのころ、なにもかもうまくいかなかった男で、ゲームと少女だけが拠り所でしたから」 素直に認める青井さんだが、これも過去と割り切れているからこそ。理解ある奥さんもいて平穏に暮らしている。しかし被害者は割り切れていないかもしれない。やったほうは忘れても、やられたほうは忘れない。それでも青井さんの言うところの「その辺の一般人」である限りキャンセルカルチャーの心配はないし、青井さんの現在の仕事は具体的には書かないが万年人手不足の仕事でコロナ禍もあり、まずクビにはならない不人気職とのこと。このように誹謗中傷側から話を聞くとやったもん勝ち、本当に解決策はないのではと思わされる。あえて聞くが、かつての誹謗中傷者として、どうすれば誹謗中傷が無くなると思うか。「絶対に無くならないと思いますよ。実名制にしてもやる人はやるし、ネットってその辺の一般人最強ですから」 実名制は韓国も失敗した。確かに、日本でもFacebookの一部ユーザーなどは実名どころか顔から所属先まで晒して他者を攻撃していたりする。自営業や年金者に多い印象だが、前者はともかく後者はある意味で無敵、ほのぼのと孫の写真を晒したそばから誹謗中傷を繰り返している(それも全公開設定!)。無くならないというのが現実だろう。「個人的な考えですけど、中国の信用スコアとか効くんじゃないですか? たとえばネットなら誹謗中傷を繰り返せば手持ちのスコアが減るとか。それで就職とかローンとか、子どもの進学にも影響あるみたいな。それでお互い点を見ることができるシステムなら他人を気にする日本人に効くと思うんですけど、こいつは何点か~って点数見られる感じで」 こんな気持ち悪い全体主義、筆者は無論反対だが、これくらいしないと匿名の誹謗中傷、ネット上の暴力は無くならないと思わされるのもまた事実。2021年4月に改正プロバイダ責任制限法が成立、公布されたが、この程度ではかつての青井さんのようないわゆる「無敵の一般人」には効かないように思う。自分自身が幸せになればやめられると思う「自分はもうしてませんけど、いまも独身で仕事もだめだったら別のタゲ(ターゲットの意)を探していたと思います。みんなが幸せになればいいんでしょうけど、それは無理でしょう。だったら、誹謗中傷は無くならないでしょうね」 どこか他人事、誹謗中傷当事者の言葉だけに違和感しかないが、当たっているだけに筆者もこの話を終えたあと、さてどうルポを結実させようか考えてしまった。なのでせめて、青井さんとの一問一答が参考になればと改めて記す。なぜ誹謗中傷するのか、その心理の一例にはなるだろう。その公表は青井さんも望んでいる。匿名掲示板でもSNSでも誹謗中傷の心理そのものに違いはないだろう。 ――なぜ少女が苦しむほどに、あることないことを書き込んだのか「最初はファンだった。何度かイベントや撮影会で会ったが塩対応で態度が悪く、自分の思ったような子じゃなかった。よかれと思って年上としてアドバイスしたつもりが、気持ち悪がられて腹がたった。叩き始めると彼女のことばかり考えるようになった。純粋なファンのときより叩きはじめた後のほうが彼女のことばかり考えていたように思う」 ――少女の仕事や生活を脅かすとは思わなかったのか。「当時は彼女の活動が仕事だという感覚はなかった。自分の娯楽としか見ていなかった。際どい水着でおっさんに媚び売る子どもと、どこか下に見ていたのかもしれない。はっきりいってオカズだった」 ――和解したが誹謗中傷が引退のきっかけかもしれない、罪悪感はあるか。「そこは芸能人として見ていた。有名税だからという免罪符はあったと思う。罪悪なんて大げさな話ではなく、あくまでネタだった」 ――青井さんには過去かもしれないが彼女は忘れていないかもしれない。「それはキリがない。一生気にすることとは思わない。忘れて欲しいと思う」 ――誹謗中傷をしている人たちに先達として忠告することはあるか。「自分自身が幸せになればやめられると思う。ずっと不幸な人はわからない」 ――かつての加害者として誹謗中傷をされている人たちにアドバイスはあるか。「気にしないこと。それしかない。相手が名無しの一般人ならそれしかないと思う。訴えるのは自由だが実利は薄いと思う。罰則を厳しくしない国が悪い。法律の問題だと思う」 このような問答となったが、人それぞれに読み取れる部分は多いだろう。もちろん彼一人のサンプル、これがすべてと言わないが、多くの誹謗中傷側の感覚はお気軽なもので、自覚なしに追い詰める事例が大半のように思う。だからこそやっかいなのだ。いじめという名の犯罪行為同様、受けた側の傷に比べてあまりに軽い。拍子抜けするほどに。そして青井さんの言う「その辺の一般人」かつ無敵の人、それに準じるような人の場合、訴えたところで直接的な効果は薄い。裁判が終わってほとぼり冷めたらまた繰り返す危険人物すらいる。 中国の信用スコア、社会信用システムのようなディストピアは勘弁だが、それがコロナ禍の統制含め有効なのではという話もある。日本は憲法上そこまでできないし表現の自由との兼ね合いもあるが、被害者の苦しみを考えれば、さらなる開示の容易化と刑法の厳罰化の方向に進むのもまた現実だろう。 取材中、青井さんから謝罪の言葉は出なかった。これもまた現実だ。【プロフィール】日野百草(ひの・ひゃくそう)/本名:上崎洋一。1972年千葉県野田市生まれ。日本ペンクラブ会員。出版社を経てフリーランス。全国俳誌協会賞、日本詩歌句随筆評論協会賞奨励賞(評論部門)受賞。『誰も書けなかったパチンコ20兆円の闇』(宝島社・共著)、『ルポ 京アニを燃やした男』(第三書館)。近著『評伝 赤城さかえ 楸邨、波郷、兜太から愛された魂の俳人』(コールサック社)。
「でも、まさか訴えられるとは思いませんでしたけどね」 厳密に言うと青井さんは訴えられる前に和解しているしSNS興隆以前の話である。それでも、かつて拙ルポ『「やめたいのにやめられない」ネット中傷を続ける女性の告白』でも言及したが、ネットで誹謗中傷をしていたと告白してくれる存在は貴重である。「相手は10代のグラビアアイドルとその事務所です」 そのころの青井さんはラノベやゲームと同時に10代の少女、とくに中高生のグラドルにハマっていた。「でも当時の(飲食店の)バイトなんて辞めさせられたりしませんでしたよ。わざわざ言わなきゃ誰もわかんないですから。その辺の人なんて、みんなそうだと思います」 木村花さんの事件もそうだが、一般人が中傷犯なら名前も出なければ有名人ほどに露骨な社会的制裁を受けることはまずない。多くは話題にすらならないだろう。自分だけじゃなく、他にもアンチはいましたから 青井さんは開き直っているわけではない。筆者が知る限りでも、一般の社会人でネットの誹謗中傷で訴えられて会社を辞めさせられた、地域にいられなくなったなんて話はない。みんな粛々と、何食わぬ顔で学校に行ったり働いたりしている。ましてや事情で働いていない人、引きこもりやニートはもちろん引退世代の高齢者なら訴えられたところで屁でもない。「和解といっても金銭はわずかで、彼女に対して誹謗中傷はしないという約束が主です。命どころか仕事をとられることもないです。やったもん勝ちですね」 有名人はもちろん、ネットのインフルエンサーなど、それなりに影響力があるから誹謗だ中傷だと話題になるだけであって、多くの無名の一般人なら現実には訴えられたところで大したことはないし、面倒だろうがそれだけ、というのが青井さんの感想だという。「彼女のこと、あることないこと書いたのがまずかった。それをうっかりリアルでしゃべったことも。最初はファンだったんですけどね」 青井さんがネットで誹謗中傷した少女はグラビアアイドルといってもメジャーな芸能人ではなく、露出度の高いマイクロビキニやふんどしを着せるようなイメージビデオに何作か出演しただけの少女だった。2000年代中盤、とくに過激な作品が乱発された時代だ。「イベントや撮影会に何度か行ったんですが、彼女の対応が気に入らなかったんでネットに書き込んだのが最初ですね、自分としてはネタでした」 秋葉原のビデオ店やパソコンショップにはこうした新人グラドル御用達の小さなイベント会場がある。また少数のファンを集めて小さな撮影会を開いたりもする。青井さんはそこで実際に会い、やがて幻滅した。恋愛感情か。「どうでしょう、かわいいとは思ってましたし、付き合えればそりゃ嬉しいでしょう。(その少女のビデオを)オカズに使ってたのも事実です」 消費対象かという筆者の言葉に、「そう、そんな軽い感じです」と大きくうなずいた。青井さんはこんな軽い感じで攻撃を始めたわけだ。あることないこと書きたてて。少しミソジニー(女性嫌悪)をこじらせていたのでは?「それはあるかもしれません。理想の少女を勝手に作って、勝手に憎悪したわけで。それに匿名ならバレませんから。自分だけじゃなく、他にもアンチはいましたから」 他にもいる、は常套文句だ。しかし匿名でも実際は匿名ではない。しかるべき手順で開示請求して、地道に辿れば足はつく。「でもね、わかってて言ってると思うんですけど、お金持ってて影響力も桁違いの芸能人なら本気出せばできるかもしれませんが、普通は無理ですよ」 残念ながらそのとおり、誹謗中傷に断固とした対応で臨むと宣言した中川翔子さんのような大物芸能人ならともかく、ニッチなグラドルやコスプレイヤー、地下アイドルなど事務所も小さく資力もないどころか無所属の場合、資金的にも個人レベルでは誹謗中傷に真っ向から立ち向かうのは現実的に難しい。小金井ストーカー殺人未遂事件のように警察が動くほどの目に見える犯罪被害でもない限り、泣き寝入りかスルーというのが実情だ。誹謗中傷の主戦場がSNSに移ったいまも、多くの被害者が苦しんでいる。ネットってその辺の一般人最強ですから「自分はその子とリアルで知り合ったから足がつきましたけど、まあ一切会ってなければ(特定は)無理なんじゃないかな、まして当時(2000年代)では珍しいと思います」 青井さんは撮影会などでリアルに接していたことや生来のおしゃべりが祟り、察した事務所関係者に問い詰められた末に訴えると脅されて和解となった。つまりは民法上の「訴え提起前の和解」であり、実際に裁判所に出頭した上で二度と誹謗中傷をしないこと、近寄らないこと、という誓約書を作成させられたという。微々たる額だが和解金も支払った。「多くはこうして和解だと思います。おかしな人でもない限り、これで二度とやらないでしょうし、自分もそうでした」 こうして青井さんは正式な裁判に持ち込まれずに済んだ。その後、相手の少女はもちろん、他にも同じような誹謗中傷行為はしていないのか。「してませんね。もう年ですから。それに結婚もしましたし、いまの仕事も長いです。家庭あるんで」 誹謗中傷をした本人は結婚して平穏に暮らし、された側は引退して行方知れず。青井さんの話では、そのグラドルにはリスカ、手首を傷つけた跡もあったという。自分のせいではない、元から病ンドルだったと語るが釈然としない。奥さんは知っているのか。「知ってます。妻もネット好きだしオタク同士で価値観も一緒です。もうバカなことすんなよ、とは言われてますが」 今日一番嬉しそうな笑顔、地獄のような「子ども社会人」だった青井さんを救ったのは奥さんだ。微笑ましい限りだが、それでもやはり釈然としないことを告げる。すると青井さんは顔をしかめ、改まって言葉を繋いだ。「仕事に影響があったならかわいそうですけど、もう和解しましたし、昔の話ですから」 彼を責めることが目的ではないが、少女の性格や仕事ぶりの「あることないこと」をネットに撒き散らした青井さんは偽計業務妨害罪でもおかしくない。元アイドルのラーメン店経営者に対して「反社とつながっている」と風説の流布を繰り返した50代の男もまさにそれだった。誹謗中傷には仕事に影響を与えるような妨害行為も多い。こいつは使うな、こいつはこういう奴だと取引先や媒体に匿名で連絡する。歪んだ正義と嫉妬、心理学では「引き下げ心理」とも呼ばれる。「それはあるかもしれません。あのころ、なにもかもうまくいかなかった男で、ゲームと少女だけが拠り所でしたから」 素直に認める青井さんだが、これも過去と割り切れているからこそ。理解ある奥さんもいて平穏に暮らしている。しかし被害者は割り切れていないかもしれない。やったほうは忘れても、やられたほうは忘れない。それでも青井さんの言うところの「その辺の一般人」である限りキャンセルカルチャーの心配はないし、青井さんの現在の仕事は具体的には書かないが万年人手不足の仕事でコロナ禍もあり、まずクビにはならない不人気職とのこと。このように誹謗中傷側から話を聞くとやったもん勝ち、本当に解決策はないのではと思わされる。あえて聞くが、かつての誹謗中傷者として、どうすれば誹謗中傷が無くなると思うか。「絶対に無くならないと思いますよ。実名制にしてもやる人はやるし、ネットってその辺の一般人最強ですから」 実名制は韓国も失敗した。確かに、日本でもFacebookの一部ユーザーなどは実名どころか顔から所属先まで晒して他者を攻撃していたりする。自営業や年金者に多い印象だが、前者はともかく後者はある意味で無敵、ほのぼのと孫の写真を晒したそばから誹謗中傷を繰り返している(それも全公開設定!)。無くならないというのが現実だろう。「個人的な考えですけど、中国の信用スコアとか効くんじゃないですか? たとえばネットなら誹謗中傷を繰り返せば手持ちのスコアが減るとか。それで就職とかローンとか、子どもの進学にも影響あるみたいな。それでお互い点を見ることができるシステムなら他人を気にする日本人に効くと思うんですけど、こいつは何点か~って点数見られる感じで」 こんな気持ち悪い全体主義、筆者は無論反対だが、これくらいしないと匿名の誹謗中傷、ネット上の暴力は無くならないと思わされるのもまた事実。2021年4月に改正プロバイダ責任制限法が成立、公布されたが、この程度ではかつての青井さんのようないわゆる「無敵の一般人」には効かないように思う。自分自身が幸せになればやめられると思う「自分はもうしてませんけど、いまも独身で仕事もだめだったら別のタゲ(ターゲットの意)を探していたと思います。みんなが幸せになればいいんでしょうけど、それは無理でしょう。だったら、誹謗中傷は無くならないでしょうね」 どこか他人事、誹謗中傷当事者の言葉だけに違和感しかないが、当たっているだけに筆者もこの話を終えたあと、さてどうルポを結実させようか考えてしまった。なのでせめて、青井さんとの一問一答が参考になればと改めて記す。なぜ誹謗中傷するのか、その心理の一例にはなるだろう。その公表は青井さんも望んでいる。匿名掲示板でもSNSでも誹謗中傷の心理そのものに違いはないだろう。 ――なぜ少女が苦しむほどに、あることないことを書き込んだのか「最初はファンだった。何度かイベントや撮影会で会ったが塩対応で態度が悪く、自分の思ったような子じゃなかった。よかれと思って年上としてアドバイスしたつもりが、気持ち悪がられて腹がたった。叩き始めると彼女のことばかり考えるようになった。純粋なファンのときより叩きはじめた後のほうが彼女のことばかり考えていたように思う」 ――少女の仕事や生活を脅かすとは思わなかったのか。「当時は彼女の活動が仕事だという感覚はなかった。自分の娯楽としか見ていなかった。際どい水着でおっさんに媚び売る子どもと、どこか下に見ていたのかもしれない。はっきりいってオカズだった」 ――和解したが誹謗中傷が引退のきっかけかもしれない、罪悪感はあるか。「そこは芸能人として見ていた。有名税だからという免罪符はあったと思う。罪悪なんて大げさな話ではなく、あくまでネタだった」 ――青井さんには過去かもしれないが彼女は忘れていないかもしれない。「それはキリがない。一生気にすることとは思わない。忘れて欲しいと思う」 ――誹謗中傷をしている人たちに先達として忠告することはあるか。「自分自身が幸せになればやめられると思う。ずっと不幸な人はわからない」 ――かつての加害者として誹謗中傷をされている人たちにアドバイスはあるか。「気にしないこと。それしかない。相手が名無しの一般人ならそれしかないと思う。訴えるのは自由だが実利は薄いと思う。罰則を厳しくしない国が悪い。法律の問題だと思う」 このような問答となったが、人それぞれに読み取れる部分は多いだろう。もちろん彼一人のサンプル、これがすべてと言わないが、多くの誹謗中傷側の感覚はお気軽なもので、自覚なしに追い詰める事例が大半のように思う。だからこそやっかいなのだ。いじめという名の犯罪行為同様、受けた側の傷に比べてあまりに軽い。拍子抜けするほどに。そして青井さんの言う「その辺の一般人」かつ無敵の人、それに準じるような人の場合、訴えたところで直接的な効果は薄い。裁判が終わってほとぼり冷めたらまた繰り返す危険人物すらいる。 中国の信用スコア、社会信用システムのようなディストピアは勘弁だが、それがコロナ禍の統制含め有効なのではという話もある。日本は憲法上そこまでできないし表現の自由との兼ね合いもあるが、被害者の苦しみを考えれば、さらなる開示の容易化と刑法の厳罰化の方向に進むのもまた現実だろう。 取材中、青井さんから謝罪の言葉は出なかった。これもまた現実だ。【プロフィール】日野百草(ひの・ひゃくそう)/本名:上崎洋一。1972年千葉県野田市生まれ。日本ペンクラブ会員。出版社を経てフリーランス。全国俳誌協会賞、日本詩歌句随筆評論協会賞奨励賞(評論部門)受賞。『誰も書けなかったパチンコ20兆円の闇』(宝島社・共著)、『ルポ 京アニを燃やした男』(第三書館)。近著『評伝 赤城さかえ 楸邨、波郷、兜太から愛された魂の俳人』(コールサック社)。
厳密に言うと青井さんは訴えられる前に和解しているしSNS興隆以前の話である。それでも、かつて拙ルポ『「やめたいのにやめられない」ネット中傷を続ける女性の告白』でも言及したが、ネットで誹謗中傷をしていたと告白してくれる存在は貴重である。「相手は10代のグラビアアイドルとその事務所です」 そのころの青井さんはラノベやゲームと同時に10代の少女、とくに中高生のグラドルにハマっていた。「でも当時の(飲食店の)バイトなんて辞めさせられたりしませんでしたよ。わざわざ言わなきゃ誰もわかんないですから。その辺の人なんて、みんなそうだと思います」 木村花さんの事件もそうだが、一般人が中傷犯なら名前も出なければ有名人ほどに露骨な社会的制裁を受けることはまずない。多くは話題にすらならないだろう。自分だけじゃなく、他にもアンチはいましたから 青井さんは開き直っているわけではない。筆者が知る限りでも、一般の社会人でネットの誹謗中傷で訴えられて会社を辞めさせられた、地域にいられなくなったなんて話はない。みんな粛々と、何食わぬ顔で学校に行ったり働いたりしている。ましてや事情で働いていない人、引きこもりやニートはもちろん引退世代の高齢者なら訴えられたところで屁でもない。「和解といっても金銭はわずかで、彼女に対して誹謗中傷はしないという約束が主です。命どころか仕事をとられることもないです。やったもん勝ちですね」 有名人はもちろん、ネットのインフルエンサーなど、それなりに影響力があるから誹謗だ中傷だと話題になるだけであって、多くの無名の一般人なら現実には訴えられたところで大したことはないし、面倒だろうがそれだけ、というのが青井さんの感想だという。「彼女のこと、あることないこと書いたのがまずかった。それをうっかりリアルでしゃべったことも。最初はファンだったんですけどね」 青井さんがネットで誹謗中傷した少女はグラビアアイドルといってもメジャーな芸能人ではなく、露出度の高いマイクロビキニやふんどしを着せるようなイメージビデオに何作か出演しただけの少女だった。2000年代中盤、とくに過激な作品が乱発された時代だ。「イベントや撮影会に何度か行ったんですが、彼女の対応が気に入らなかったんでネットに書き込んだのが最初ですね、自分としてはネタでした」 秋葉原のビデオ店やパソコンショップにはこうした新人グラドル御用達の小さなイベント会場がある。また少数のファンを集めて小さな撮影会を開いたりもする。青井さんはそこで実際に会い、やがて幻滅した。恋愛感情か。「どうでしょう、かわいいとは思ってましたし、付き合えればそりゃ嬉しいでしょう。(その少女のビデオを)オカズに使ってたのも事実です」 消費対象かという筆者の言葉に、「そう、そんな軽い感じです」と大きくうなずいた。青井さんはこんな軽い感じで攻撃を始めたわけだ。あることないこと書きたてて。少しミソジニー(女性嫌悪)をこじらせていたのでは?「それはあるかもしれません。理想の少女を勝手に作って、勝手に憎悪したわけで。それに匿名ならバレませんから。自分だけじゃなく、他にもアンチはいましたから」 他にもいる、は常套文句だ。しかし匿名でも実際は匿名ではない。しかるべき手順で開示請求して、地道に辿れば足はつく。「でもね、わかってて言ってると思うんですけど、お金持ってて影響力も桁違いの芸能人なら本気出せばできるかもしれませんが、普通は無理ですよ」 残念ながらそのとおり、誹謗中傷に断固とした対応で臨むと宣言した中川翔子さんのような大物芸能人ならともかく、ニッチなグラドルやコスプレイヤー、地下アイドルなど事務所も小さく資力もないどころか無所属の場合、資金的にも個人レベルでは誹謗中傷に真っ向から立ち向かうのは現実的に難しい。小金井ストーカー殺人未遂事件のように警察が動くほどの目に見える犯罪被害でもない限り、泣き寝入りかスルーというのが実情だ。誹謗中傷の主戦場がSNSに移ったいまも、多くの被害者が苦しんでいる。ネットってその辺の一般人最強ですから「自分はその子とリアルで知り合ったから足がつきましたけど、まあ一切会ってなければ(特定は)無理なんじゃないかな、まして当時(2000年代)では珍しいと思います」 青井さんは撮影会などでリアルに接していたことや生来のおしゃべりが祟り、察した事務所関係者に問い詰められた末に訴えると脅されて和解となった。つまりは民法上の「訴え提起前の和解」であり、実際に裁判所に出頭した上で二度と誹謗中傷をしないこと、近寄らないこと、という誓約書を作成させられたという。微々たる額だが和解金も支払った。「多くはこうして和解だと思います。おかしな人でもない限り、これで二度とやらないでしょうし、自分もそうでした」 こうして青井さんは正式な裁判に持ち込まれずに済んだ。その後、相手の少女はもちろん、他にも同じような誹謗中傷行為はしていないのか。「してませんね。もう年ですから。それに結婚もしましたし、いまの仕事も長いです。家庭あるんで」 誹謗中傷をした本人は結婚して平穏に暮らし、された側は引退して行方知れず。青井さんの話では、そのグラドルにはリスカ、手首を傷つけた跡もあったという。自分のせいではない、元から病ンドルだったと語るが釈然としない。奥さんは知っているのか。「知ってます。妻もネット好きだしオタク同士で価値観も一緒です。もうバカなことすんなよ、とは言われてますが」 今日一番嬉しそうな笑顔、地獄のような「子ども社会人」だった青井さんを救ったのは奥さんだ。微笑ましい限りだが、それでもやはり釈然としないことを告げる。すると青井さんは顔をしかめ、改まって言葉を繋いだ。「仕事に影響があったならかわいそうですけど、もう和解しましたし、昔の話ですから」 彼を責めることが目的ではないが、少女の性格や仕事ぶりの「あることないこと」をネットに撒き散らした青井さんは偽計業務妨害罪でもおかしくない。元アイドルのラーメン店経営者に対して「反社とつながっている」と風説の流布を繰り返した50代の男もまさにそれだった。誹謗中傷には仕事に影響を与えるような妨害行為も多い。こいつは使うな、こいつはこういう奴だと取引先や媒体に匿名で連絡する。歪んだ正義と嫉妬、心理学では「引き下げ心理」とも呼ばれる。「それはあるかもしれません。あのころ、なにもかもうまくいかなかった男で、ゲームと少女だけが拠り所でしたから」 素直に認める青井さんだが、これも過去と割り切れているからこそ。理解ある奥さんもいて平穏に暮らしている。しかし被害者は割り切れていないかもしれない。やったほうは忘れても、やられたほうは忘れない。それでも青井さんの言うところの「その辺の一般人」である限りキャンセルカルチャーの心配はないし、青井さんの現在の仕事は具体的には書かないが万年人手不足の仕事でコロナ禍もあり、まずクビにはならない不人気職とのこと。このように誹謗中傷側から話を聞くとやったもん勝ち、本当に解決策はないのではと思わされる。あえて聞くが、かつての誹謗中傷者として、どうすれば誹謗中傷が無くなると思うか。「絶対に無くならないと思いますよ。実名制にしてもやる人はやるし、ネットってその辺の一般人最強ですから」 実名制は韓国も失敗した。確かに、日本でもFacebookの一部ユーザーなどは実名どころか顔から所属先まで晒して他者を攻撃していたりする。自営業や年金者に多い印象だが、前者はともかく後者はある意味で無敵、ほのぼのと孫の写真を晒したそばから誹謗中傷を繰り返している(それも全公開設定!)。無くならないというのが現実だろう。「個人的な考えですけど、中国の信用スコアとか効くんじゃないですか? たとえばネットなら誹謗中傷を繰り返せば手持ちのスコアが減るとか。それで就職とかローンとか、子どもの進学にも影響あるみたいな。それでお互い点を見ることができるシステムなら他人を気にする日本人に効くと思うんですけど、こいつは何点か~って点数見られる感じで」 こんな気持ち悪い全体主義、筆者は無論反対だが、これくらいしないと匿名の誹謗中傷、ネット上の暴力は無くならないと思わされるのもまた事実。2021年4月に改正プロバイダ責任制限法が成立、公布されたが、この程度ではかつての青井さんのようないわゆる「無敵の一般人」には効かないように思う。自分自身が幸せになればやめられると思う「自分はもうしてませんけど、いまも独身で仕事もだめだったら別のタゲ(ターゲットの意)を探していたと思います。みんなが幸せになればいいんでしょうけど、それは無理でしょう。だったら、誹謗中傷は無くならないでしょうね」 どこか他人事、誹謗中傷当事者の言葉だけに違和感しかないが、当たっているだけに筆者もこの話を終えたあと、さてどうルポを結実させようか考えてしまった。なのでせめて、青井さんとの一問一答が参考になればと改めて記す。なぜ誹謗中傷するのか、その心理の一例にはなるだろう。その公表は青井さんも望んでいる。匿名掲示板でもSNSでも誹謗中傷の心理そのものに違いはないだろう。 ――なぜ少女が苦しむほどに、あることないことを書き込んだのか「最初はファンだった。何度かイベントや撮影会で会ったが塩対応で態度が悪く、自分の思ったような子じゃなかった。よかれと思って年上としてアドバイスしたつもりが、気持ち悪がられて腹がたった。叩き始めると彼女のことばかり考えるようになった。純粋なファンのときより叩きはじめた後のほうが彼女のことばかり考えていたように思う」 ――少女の仕事や生活を脅かすとは思わなかったのか。「当時は彼女の活動が仕事だという感覚はなかった。自分の娯楽としか見ていなかった。際どい水着でおっさんに媚び売る子どもと、どこか下に見ていたのかもしれない。はっきりいってオカズだった」 ――和解したが誹謗中傷が引退のきっかけかもしれない、罪悪感はあるか。「そこは芸能人として見ていた。有名税だからという免罪符はあったと思う。罪悪なんて大げさな話ではなく、あくまでネタだった」 ――青井さんには過去かもしれないが彼女は忘れていないかもしれない。「それはキリがない。一生気にすることとは思わない。忘れて欲しいと思う」 ――誹謗中傷をしている人たちに先達として忠告することはあるか。「自分自身が幸せになればやめられると思う。ずっと不幸な人はわからない」 ――かつての加害者として誹謗中傷をされている人たちにアドバイスはあるか。「気にしないこと。それしかない。相手が名無しの一般人ならそれしかないと思う。訴えるのは自由だが実利は薄いと思う。罰則を厳しくしない国が悪い。法律の問題だと思う」 このような問答となったが、人それぞれに読み取れる部分は多いだろう。もちろん彼一人のサンプル、これがすべてと言わないが、多くの誹謗中傷側の感覚はお気軽なもので、自覚なしに追い詰める事例が大半のように思う。だからこそやっかいなのだ。いじめという名の犯罪行為同様、受けた側の傷に比べてあまりに軽い。拍子抜けするほどに。そして青井さんの言う「その辺の一般人」かつ無敵の人、それに準じるような人の場合、訴えたところで直接的な効果は薄い。裁判が終わってほとぼり冷めたらまた繰り返す危険人物すらいる。 中国の信用スコア、社会信用システムのようなディストピアは勘弁だが、それがコロナ禍の統制含め有効なのではという話もある。日本は憲法上そこまでできないし表現の自由との兼ね合いもあるが、被害者の苦しみを考えれば、さらなる開示の容易化と刑法の厳罰化の方向に進むのもまた現実だろう。 取材中、青井さんから謝罪の言葉は出なかった。これもまた現実だ。【プロフィール】日野百草(ひの・ひゃくそう)/本名:上崎洋一。1972年千葉県野田市生まれ。日本ペンクラブ会員。出版社を経てフリーランス。全国俳誌協会賞、日本詩歌句随筆評論協会賞奨励賞(評論部門)受賞。『誰も書けなかったパチンコ20兆円の闇』(宝島社・共著)、『ルポ 京アニを燃やした男』(第三書館)。近著『評伝 赤城さかえ 楸邨、波郷、兜太から愛された魂の俳人』(コールサック社)。
「相手は10代のグラビアアイドルとその事務所です」 そのころの青井さんはラノベやゲームと同時に10代の少女、とくに中高生のグラドルにハマっていた。「でも当時の(飲食店の)バイトなんて辞めさせられたりしませんでしたよ。わざわざ言わなきゃ誰もわかんないですから。その辺の人なんて、みんなそうだと思います」 木村花さんの事件もそうだが、一般人が中傷犯なら名前も出なければ有名人ほどに露骨な社会的制裁を受けることはまずない。多くは話題にすらならないだろう。自分だけじゃなく、他にもアンチはいましたから 青井さんは開き直っているわけではない。筆者が知る限りでも、一般の社会人でネットの誹謗中傷で訴えられて会社を辞めさせられた、地域にいられなくなったなんて話はない。みんな粛々と、何食わぬ顔で学校に行ったり働いたりしている。ましてや事情で働いていない人、引きこもりやニートはもちろん引退世代の高齢者なら訴えられたところで屁でもない。「和解といっても金銭はわずかで、彼女に対して誹謗中傷はしないという約束が主です。命どころか仕事をとられることもないです。やったもん勝ちですね」 有名人はもちろん、ネットのインフルエンサーなど、それなりに影響力があるから誹謗だ中傷だと話題になるだけであって、多くの無名の一般人なら現実には訴えられたところで大したことはないし、面倒だろうがそれだけ、というのが青井さんの感想だという。「彼女のこと、あることないこと書いたのがまずかった。それをうっかりリアルでしゃべったことも。最初はファンだったんですけどね」 青井さんがネットで誹謗中傷した少女はグラビアアイドルといってもメジャーな芸能人ではなく、露出度の高いマイクロビキニやふんどしを着せるようなイメージビデオに何作か出演しただけの少女だった。2000年代中盤、とくに過激な作品が乱発された時代だ。「イベントや撮影会に何度か行ったんですが、彼女の対応が気に入らなかったんでネットに書き込んだのが最初ですね、自分としてはネタでした」 秋葉原のビデオ店やパソコンショップにはこうした新人グラドル御用達の小さなイベント会場がある。また少数のファンを集めて小さな撮影会を開いたりもする。青井さんはそこで実際に会い、やがて幻滅した。恋愛感情か。「どうでしょう、かわいいとは思ってましたし、付き合えればそりゃ嬉しいでしょう。(その少女のビデオを)オカズに使ってたのも事実です」 消費対象かという筆者の言葉に、「そう、そんな軽い感じです」と大きくうなずいた。青井さんはこんな軽い感じで攻撃を始めたわけだ。あることないこと書きたてて。少しミソジニー(女性嫌悪)をこじらせていたのでは?「それはあるかもしれません。理想の少女を勝手に作って、勝手に憎悪したわけで。それに匿名ならバレませんから。自分だけじゃなく、他にもアンチはいましたから」 他にもいる、は常套文句だ。しかし匿名でも実際は匿名ではない。しかるべき手順で開示請求して、地道に辿れば足はつく。「でもね、わかってて言ってると思うんですけど、お金持ってて影響力も桁違いの芸能人なら本気出せばできるかもしれませんが、普通は無理ですよ」 残念ながらそのとおり、誹謗中傷に断固とした対応で臨むと宣言した中川翔子さんのような大物芸能人ならともかく、ニッチなグラドルやコスプレイヤー、地下アイドルなど事務所も小さく資力もないどころか無所属の場合、資金的にも個人レベルでは誹謗中傷に真っ向から立ち向かうのは現実的に難しい。小金井ストーカー殺人未遂事件のように警察が動くほどの目に見える犯罪被害でもない限り、泣き寝入りかスルーというのが実情だ。誹謗中傷の主戦場がSNSに移ったいまも、多くの被害者が苦しんでいる。ネットってその辺の一般人最強ですから「自分はその子とリアルで知り合ったから足がつきましたけど、まあ一切会ってなければ(特定は)無理なんじゃないかな、まして当時(2000年代)では珍しいと思います」 青井さんは撮影会などでリアルに接していたことや生来のおしゃべりが祟り、察した事務所関係者に問い詰められた末に訴えると脅されて和解となった。つまりは民法上の「訴え提起前の和解」であり、実際に裁判所に出頭した上で二度と誹謗中傷をしないこと、近寄らないこと、という誓約書を作成させられたという。微々たる額だが和解金も支払った。「多くはこうして和解だと思います。おかしな人でもない限り、これで二度とやらないでしょうし、自分もそうでした」 こうして青井さんは正式な裁判に持ち込まれずに済んだ。その後、相手の少女はもちろん、他にも同じような誹謗中傷行為はしていないのか。「してませんね。もう年ですから。それに結婚もしましたし、いまの仕事も長いです。家庭あるんで」 誹謗中傷をした本人は結婚して平穏に暮らし、された側は引退して行方知れず。青井さんの話では、そのグラドルにはリスカ、手首を傷つけた跡もあったという。自分のせいではない、元から病ンドルだったと語るが釈然としない。奥さんは知っているのか。「知ってます。妻もネット好きだしオタク同士で価値観も一緒です。もうバカなことすんなよ、とは言われてますが」 今日一番嬉しそうな笑顔、地獄のような「子ども社会人」だった青井さんを救ったのは奥さんだ。微笑ましい限りだが、それでもやはり釈然としないことを告げる。すると青井さんは顔をしかめ、改まって言葉を繋いだ。「仕事に影響があったならかわいそうですけど、もう和解しましたし、昔の話ですから」 彼を責めることが目的ではないが、少女の性格や仕事ぶりの「あることないこと」をネットに撒き散らした青井さんは偽計業務妨害罪でもおかしくない。元アイドルのラーメン店経営者に対して「反社とつながっている」と風説の流布を繰り返した50代の男もまさにそれだった。誹謗中傷には仕事に影響を与えるような妨害行為も多い。こいつは使うな、こいつはこういう奴だと取引先や媒体に匿名で連絡する。歪んだ正義と嫉妬、心理学では「引き下げ心理」とも呼ばれる。「それはあるかもしれません。あのころ、なにもかもうまくいかなかった男で、ゲームと少女だけが拠り所でしたから」 素直に認める青井さんだが、これも過去と割り切れているからこそ。理解ある奥さんもいて平穏に暮らしている。しかし被害者は割り切れていないかもしれない。やったほうは忘れても、やられたほうは忘れない。それでも青井さんの言うところの「その辺の一般人」である限りキャンセルカルチャーの心配はないし、青井さんの現在の仕事は具体的には書かないが万年人手不足の仕事でコロナ禍もあり、まずクビにはならない不人気職とのこと。このように誹謗中傷側から話を聞くとやったもん勝ち、本当に解決策はないのではと思わされる。あえて聞くが、かつての誹謗中傷者として、どうすれば誹謗中傷が無くなると思うか。「絶対に無くならないと思いますよ。実名制にしてもやる人はやるし、ネットってその辺の一般人最強ですから」 実名制は韓国も失敗した。確かに、日本でもFacebookの一部ユーザーなどは実名どころか顔から所属先まで晒して他者を攻撃していたりする。自営業や年金者に多い印象だが、前者はともかく後者はある意味で無敵、ほのぼのと孫の写真を晒したそばから誹謗中傷を繰り返している(それも全公開設定!)。無くならないというのが現実だろう。「個人的な考えですけど、中国の信用スコアとか効くんじゃないですか? たとえばネットなら誹謗中傷を繰り返せば手持ちのスコアが減るとか。それで就職とかローンとか、子どもの進学にも影響あるみたいな。それでお互い点を見ることができるシステムなら他人を気にする日本人に効くと思うんですけど、こいつは何点か~って点数見られる感じで」 こんな気持ち悪い全体主義、筆者は無論反対だが、これくらいしないと匿名の誹謗中傷、ネット上の暴力は無くならないと思わされるのもまた事実。2021年4月に改正プロバイダ責任制限法が成立、公布されたが、この程度ではかつての青井さんのようないわゆる「無敵の一般人」には効かないように思う。自分自身が幸せになればやめられると思う「自分はもうしてませんけど、いまも独身で仕事もだめだったら別のタゲ(ターゲットの意)を探していたと思います。みんなが幸せになればいいんでしょうけど、それは無理でしょう。だったら、誹謗中傷は無くならないでしょうね」 どこか他人事、誹謗中傷当事者の言葉だけに違和感しかないが、当たっているだけに筆者もこの話を終えたあと、さてどうルポを結実させようか考えてしまった。なのでせめて、青井さんとの一問一答が参考になればと改めて記す。なぜ誹謗中傷するのか、その心理の一例にはなるだろう。その公表は青井さんも望んでいる。匿名掲示板でもSNSでも誹謗中傷の心理そのものに違いはないだろう。 ――なぜ少女が苦しむほどに、あることないことを書き込んだのか「最初はファンだった。何度かイベントや撮影会で会ったが塩対応で態度が悪く、自分の思ったような子じゃなかった。よかれと思って年上としてアドバイスしたつもりが、気持ち悪がられて腹がたった。叩き始めると彼女のことばかり考えるようになった。純粋なファンのときより叩きはじめた後のほうが彼女のことばかり考えていたように思う」 ――少女の仕事や生活を脅かすとは思わなかったのか。「当時は彼女の活動が仕事だという感覚はなかった。自分の娯楽としか見ていなかった。際どい水着でおっさんに媚び売る子どもと、どこか下に見ていたのかもしれない。はっきりいってオカズだった」 ――和解したが誹謗中傷が引退のきっかけかもしれない、罪悪感はあるか。「そこは芸能人として見ていた。有名税だからという免罪符はあったと思う。罪悪なんて大げさな話ではなく、あくまでネタだった」 ――青井さんには過去かもしれないが彼女は忘れていないかもしれない。「それはキリがない。一生気にすることとは思わない。忘れて欲しいと思う」 ――誹謗中傷をしている人たちに先達として忠告することはあるか。「自分自身が幸せになればやめられると思う。ずっと不幸な人はわからない」 ――かつての加害者として誹謗中傷をされている人たちにアドバイスはあるか。「気にしないこと。それしかない。相手が名無しの一般人ならそれしかないと思う。訴えるのは自由だが実利は薄いと思う。罰則を厳しくしない国が悪い。法律の問題だと思う」 このような問答となったが、人それぞれに読み取れる部分は多いだろう。もちろん彼一人のサンプル、これがすべてと言わないが、多くの誹謗中傷側の感覚はお気軽なもので、自覚なしに追い詰める事例が大半のように思う。だからこそやっかいなのだ。いじめという名の犯罪行為同様、受けた側の傷に比べてあまりに軽い。拍子抜けするほどに。そして青井さんの言う「その辺の一般人」かつ無敵の人、それに準じるような人の場合、訴えたところで直接的な効果は薄い。裁判が終わってほとぼり冷めたらまた繰り返す危険人物すらいる。 中国の信用スコア、社会信用システムのようなディストピアは勘弁だが、それがコロナ禍の統制含め有効なのではという話もある。日本は憲法上そこまでできないし表現の自由との兼ね合いもあるが、被害者の苦しみを考えれば、さらなる開示の容易化と刑法の厳罰化の方向に進むのもまた現実だろう。 取材中、青井さんから謝罪の言葉は出なかった。これもまた現実だ。【プロフィール】日野百草(ひの・ひゃくそう)/本名:上崎洋一。1972年千葉県野田市生まれ。日本ペンクラブ会員。出版社を経てフリーランス。全国俳誌協会賞、日本詩歌句随筆評論協会賞奨励賞(評論部門)受賞。『誰も書けなかったパチンコ20兆円の闇』(宝島社・共著)、『ルポ 京アニを燃やした男』(第三書館)。近著『評伝 赤城さかえ 楸邨、波郷、兜太から愛された魂の俳人』(コールサック社)。
そのころの青井さんはラノベやゲームと同時に10代の少女、とくに中高生のグラドルにハマっていた。「でも当時の(飲食店の)バイトなんて辞めさせられたりしませんでしたよ。わざわざ言わなきゃ誰もわかんないですから。その辺の人なんて、みんなそうだと思います」 木村花さんの事件もそうだが、一般人が中傷犯なら名前も出なければ有名人ほどに露骨な社会的制裁を受けることはまずない。多くは話題にすらならないだろう。自分だけじゃなく、他にもアンチはいましたから 青井さんは開き直っているわけではない。筆者が知る限りでも、一般の社会人でネットの誹謗中傷で訴えられて会社を辞めさせられた、地域にいられなくなったなんて話はない。みんな粛々と、何食わぬ顔で学校に行ったり働いたりしている。ましてや事情で働いていない人、引きこもりやニートはもちろん引退世代の高齢者なら訴えられたところで屁でもない。「和解といっても金銭はわずかで、彼女に対して誹謗中傷はしないという約束が主です。命どころか仕事をとられることもないです。やったもん勝ちですね」 有名人はもちろん、ネットのインフルエンサーなど、それなりに影響力があるから誹謗だ中傷だと話題になるだけであって、多くの無名の一般人なら現実には訴えられたところで大したことはないし、面倒だろうがそれだけ、というのが青井さんの感想だという。「彼女のこと、あることないこと書いたのがまずかった。それをうっかりリアルでしゃべったことも。最初はファンだったんですけどね」 青井さんがネットで誹謗中傷した少女はグラビアアイドルといってもメジャーな芸能人ではなく、露出度の高いマイクロビキニやふんどしを着せるようなイメージビデオに何作か出演しただけの少女だった。2000年代中盤、とくに過激な作品が乱発された時代だ。「イベントや撮影会に何度か行ったんですが、彼女の対応が気に入らなかったんでネットに書き込んだのが最初ですね、自分としてはネタでした」 秋葉原のビデオ店やパソコンショップにはこうした新人グラドル御用達の小さなイベント会場がある。また少数のファンを集めて小さな撮影会を開いたりもする。青井さんはそこで実際に会い、やがて幻滅した。恋愛感情か。「どうでしょう、かわいいとは思ってましたし、付き合えればそりゃ嬉しいでしょう。(その少女のビデオを)オカズに使ってたのも事実です」 消費対象かという筆者の言葉に、「そう、そんな軽い感じです」と大きくうなずいた。青井さんはこんな軽い感じで攻撃を始めたわけだ。あることないこと書きたてて。少しミソジニー(女性嫌悪)をこじらせていたのでは?「それはあるかもしれません。理想の少女を勝手に作って、勝手に憎悪したわけで。それに匿名ならバレませんから。自分だけじゃなく、他にもアンチはいましたから」 他にもいる、は常套文句だ。しかし匿名でも実際は匿名ではない。しかるべき手順で開示請求して、地道に辿れば足はつく。「でもね、わかってて言ってると思うんですけど、お金持ってて影響力も桁違いの芸能人なら本気出せばできるかもしれませんが、普通は無理ですよ」 残念ながらそのとおり、誹謗中傷に断固とした対応で臨むと宣言した中川翔子さんのような大物芸能人ならともかく、ニッチなグラドルやコスプレイヤー、地下アイドルなど事務所も小さく資力もないどころか無所属の場合、資金的にも個人レベルでは誹謗中傷に真っ向から立ち向かうのは現実的に難しい。小金井ストーカー殺人未遂事件のように警察が動くほどの目に見える犯罪被害でもない限り、泣き寝入りかスルーというのが実情だ。誹謗中傷の主戦場がSNSに移ったいまも、多くの被害者が苦しんでいる。ネットってその辺の一般人最強ですから「自分はその子とリアルで知り合ったから足がつきましたけど、まあ一切会ってなければ(特定は)無理なんじゃないかな、まして当時(2000年代)では珍しいと思います」 青井さんは撮影会などでリアルに接していたことや生来のおしゃべりが祟り、察した事務所関係者に問い詰められた末に訴えると脅されて和解となった。つまりは民法上の「訴え提起前の和解」であり、実際に裁判所に出頭した上で二度と誹謗中傷をしないこと、近寄らないこと、という誓約書を作成させられたという。微々たる額だが和解金も支払った。「多くはこうして和解だと思います。おかしな人でもない限り、これで二度とやらないでしょうし、自分もそうでした」 こうして青井さんは正式な裁判に持ち込まれずに済んだ。その後、相手の少女はもちろん、他にも同じような誹謗中傷行為はしていないのか。「してませんね。もう年ですから。それに結婚もしましたし、いまの仕事も長いです。家庭あるんで」 誹謗中傷をした本人は結婚して平穏に暮らし、された側は引退して行方知れず。青井さんの話では、そのグラドルにはリスカ、手首を傷つけた跡もあったという。自分のせいではない、元から病ンドルだったと語るが釈然としない。奥さんは知っているのか。「知ってます。妻もネット好きだしオタク同士で価値観も一緒です。もうバカなことすんなよ、とは言われてますが」 今日一番嬉しそうな笑顔、地獄のような「子ども社会人」だった青井さんを救ったのは奥さんだ。微笑ましい限りだが、それでもやはり釈然としないことを告げる。すると青井さんは顔をしかめ、改まって言葉を繋いだ。「仕事に影響があったならかわいそうですけど、もう和解しましたし、昔の話ですから」 彼を責めることが目的ではないが、少女の性格や仕事ぶりの「あることないこと」をネットに撒き散らした青井さんは偽計業務妨害罪でもおかしくない。元アイドルのラーメン店経営者に対して「反社とつながっている」と風説の流布を繰り返した50代の男もまさにそれだった。誹謗中傷には仕事に影響を与えるような妨害行為も多い。こいつは使うな、こいつはこういう奴だと取引先や媒体に匿名で連絡する。歪んだ正義と嫉妬、心理学では「引き下げ心理」とも呼ばれる。「それはあるかもしれません。あのころ、なにもかもうまくいかなかった男で、ゲームと少女だけが拠り所でしたから」 素直に認める青井さんだが、これも過去と割り切れているからこそ。理解ある奥さんもいて平穏に暮らしている。しかし被害者は割り切れていないかもしれない。やったほうは忘れても、やられたほうは忘れない。それでも青井さんの言うところの「その辺の一般人」である限りキャンセルカルチャーの心配はないし、青井さんの現在の仕事は具体的には書かないが万年人手不足の仕事でコロナ禍もあり、まずクビにはならない不人気職とのこと。このように誹謗中傷側から話を聞くとやったもん勝ち、本当に解決策はないのではと思わされる。あえて聞くが、かつての誹謗中傷者として、どうすれば誹謗中傷が無くなると思うか。「絶対に無くならないと思いますよ。実名制にしてもやる人はやるし、ネットってその辺の一般人最強ですから」 実名制は韓国も失敗した。確かに、日本でもFacebookの一部ユーザーなどは実名どころか顔から所属先まで晒して他者を攻撃していたりする。自営業や年金者に多い印象だが、前者はともかく後者はある意味で無敵、ほのぼのと孫の写真を晒したそばから誹謗中傷を繰り返している(それも全公開設定!)。無くならないというのが現実だろう。「個人的な考えですけど、中国の信用スコアとか効くんじゃないですか? たとえばネットなら誹謗中傷を繰り返せば手持ちのスコアが減るとか。それで就職とかローンとか、子どもの進学にも影響あるみたいな。それでお互い点を見ることができるシステムなら他人を気にする日本人に効くと思うんですけど、こいつは何点か~って点数見られる感じで」 こんな気持ち悪い全体主義、筆者は無論反対だが、これくらいしないと匿名の誹謗中傷、ネット上の暴力は無くならないと思わされるのもまた事実。2021年4月に改正プロバイダ責任制限法が成立、公布されたが、この程度ではかつての青井さんのようないわゆる「無敵の一般人」には効かないように思う。自分自身が幸せになればやめられると思う「自分はもうしてませんけど、いまも独身で仕事もだめだったら別のタゲ(ターゲットの意)を探していたと思います。みんなが幸せになればいいんでしょうけど、それは無理でしょう。だったら、誹謗中傷は無くならないでしょうね」 どこか他人事、誹謗中傷当事者の言葉だけに違和感しかないが、当たっているだけに筆者もこの話を終えたあと、さてどうルポを結実させようか考えてしまった。なのでせめて、青井さんとの一問一答が参考になればと改めて記す。なぜ誹謗中傷するのか、その心理の一例にはなるだろう。その公表は青井さんも望んでいる。匿名掲示板でもSNSでも誹謗中傷の心理そのものに違いはないだろう。 ――なぜ少女が苦しむほどに、あることないことを書き込んだのか「最初はファンだった。何度かイベントや撮影会で会ったが塩対応で態度が悪く、自分の思ったような子じゃなかった。よかれと思って年上としてアドバイスしたつもりが、気持ち悪がられて腹がたった。叩き始めると彼女のことばかり考えるようになった。純粋なファンのときより叩きはじめた後のほうが彼女のことばかり考えていたように思う」 ――少女の仕事や生活を脅かすとは思わなかったのか。「当時は彼女の活動が仕事だという感覚はなかった。自分の娯楽としか見ていなかった。際どい水着でおっさんに媚び売る子どもと、どこか下に見ていたのかもしれない。はっきりいってオカズだった」 ――和解したが誹謗中傷が引退のきっかけかもしれない、罪悪感はあるか。「そこは芸能人として見ていた。有名税だからという免罪符はあったと思う。罪悪なんて大げさな話ではなく、あくまでネタだった」 ――青井さんには過去かもしれないが彼女は忘れていないかもしれない。「それはキリがない。一生気にすることとは思わない。忘れて欲しいと思う」 ――誹謗中傷をしている人たちに先達として忠告することはあるか。「自分自身が幸せになればやめられると思う。ずっと不幸な人はわからない」 ――かつての加害者として誹謗中傷をされている人たちにアドバイスはあるか。「気にしないこと。それしかない。相手が名無しの一般人ならそれしかないと思う。訴えるのは自由だが実利は薄いと思う。罰則を厳しくしない国が悪い。法律の問題だと思う」 このような問答となったが、人それぞれに読み取れる部分は多いだろう。もちろん彼一人のサンプル、これがすべてと言わないが、多くの誹謗中傷側の感覚はお気軽なもので、自覚なしに追い詰める事例が大半のように思う。だからこそやっかいなのだ。いじめという名の犯罪行為同様、受けた側の傷に比べてあまりに軽い。拍子抜けするほどに。そして青井さんの言う「その辺の一般人」かつ無敵の人、それに準じるような人の場合、訴えたところで直接的な効果は薄い。裁判が終わってほとぼり冷めたらまた繰り返す危険人物すらいる。 中国の信用スコア、社会信用システムのようなディストピアは勘弁だが、それがコロナ禍の統制含め有効なのではという話もある。日本は憲法上そこまでできないし表現の自由との兼ね合いもあるが、被害者の苦しみを考えれば、さらなる開示の容易化と刑法の厳罰化の方向に進むのもまた現実だろう。 取材中、青井さんから謝罪の言葉は出なかった。これもまた現実だ。【プロフィール】日野百草(ひの・ひゃくそう)/本名:上崎洋一。1972年千葉県野田市生まれ。日本ペンクラブ会員。出版社を経てフリーランス。全国俳誌協会賞、日本詩歌句随筆評論協会賞奨励賞(評論部門)受賞。『誰も書けなかったパチンコ20兆円の闇』(宝島社・共著)、『ルポ 京アニを燃やした男』(第三書館)。近著『評伝 赤城さかえ 楸邨、波郷、兜太から愛された魂の俳人』(コールサック社)。
「でも当時の(飲食店の)バイトなんて辞めさせられたりしませんでしたよ。わざわざ言わなきゃ誰もわかんないですから。その辺の人なんて、みんなそうだと思います」 木村花さんの事件もそうだが、一般人が中傷犯なら名前も出なければ有名人ほどに露骨な社会的制裁を受けることはまずない。多くは話題にすらならないだろう。自分だけじゃなく、他にもアンチはいましたから 青井さんは開き直っているわけではない。筆者が知る限りでも、一般の社会人でネットの誹謗中傷で訴えられて会社を辞めさせられた、地域にいられなくなったなんて話はない。みんな粛々と、何食わぬ顔で学校に行ったり働いたりしている。ましてや事情で働いていない人、引きこもりやニートはもちろん引退世代の高齢者なら訴えられたところで屁でもない。「和解といっても金銭はわずかで、彼女に対して誹謗中傷はしないという約束が主です。命どころか仕事をとられることもないです。やったもん勝ちですね」 有名人はもちろん、ネットのインフルエンサーなど、それなりに影響力があるから誹謗だ中傷だと話題になるだけであって、多くの無名の一般人なら現実には訴えられたところで大したことはないし、面倒だろうがそれだけ、というのが青井さんの感想だという。「彼女のこと、あることないこと書いたのがまずかった。それをうっかりリアルでしゃべったことも。最初はファンだったんですけどね」 青井さんがネットで誹謗中傷した少女はグラビアアイドルといってもメジャーな芸能人ではなく、露出度の高いマイクロビキニやふんどしを着せるようなイメージビデオに何作か出演しただけの少女だった。2000年代中盤、とくに過激な作品が乱発された時代だ。「イベントや撮影会に何度か行ったんですが、彼女の対応が気に入らなかったんでネットに書き込んだのが最初ですね、自分としてはネタでした」 秋葉原のビデオ店やパソコンショップにはこうした新人グラドル御用達の小さなイベント会場がある。また少数のファンを集めて小さな撮影会を開いたりもする。青井さんはそこで実際に会い、やがて幻滅した。恋愛感情か。「どうでしょう、かわいいとは思ってましたし、付き合えればそりゃ嬉しいでしょう。(その少女のビデオを)オカズに使ってたのも事実です」 消費対象かという筆者の言葉に、「そう、そんな軽い感じです」と大きくうなずいた。青井さんはこんな軽い感じで攻撃を始めたわけだ。あることないこと書きたてて。少しミソジニー(女性嫌悪)をこじらせていたのでは?「それはあるかもしれません。理想の少女を勝手に作って、勝手に憎悪したわけで。それに匿名ならバレませんから。自分だけじゃなく、他にもアンチはいましたから」 他にもいる、は常套文句だ。しかし匿名でも実際は匿名ではない。しかるべき手順で開示請求して、地道に辿れば足はつく。「でもね、わかってて言ってると思うんですけど、お金持ってて影響力も桁違いの芸能人なら本気出せばできるかもしれませんが、普通は無理ですよ」 残念ながらそのとおり、誹謗中傷に断固とした対応で臨むと宣言した中川翔子さんのような大物芸能人ならともかく、ニッチなグラドルやコスプレイヤー、地下アイドルなど事務所も小さく資力もないどころか無所属の場合、資金的にも個人レベルでは誹謗中傷に真っ向から立ち向かうのは現実的に難しい。小金井ストーカー殺人未遂事件のように警察が動くほどの目に見える犯罪被害でもない限り、泣き寝入りかスルーというのが実情だ。誹謗中傷の主戦場がSNSに移ったいまも、多くの被害者が苦しんでいる。ネットってその辺の一般人最強ですから「自分はその子とリアルで知り合ったから足がつきましたけど、まあ一切会ってなければ(特定は)無理なんじゃないかな、まして当時(2000年代)では珍しいと思います」 青井さんは撮影会などでリアルに接していたことや生来のおしゃべりが祟り、察した事務所関係者に問い詰められた末に訴えると脅されて和解となった。つまりは民法上の「訴え提起前の和解」であり、実際に裁判所に出頭した上で二度と誹謗中傷をしないこと、近寄らないこと、という誓約書を作成させられたという。微々たる額だが和解金も支払った。「多くはこうして和解だと思います。おかしな人でもない限り、これで二度とやらないでしょうし、自分もそうでした」 こうして青井さんは正式な裁判に持ち込まれずに済んだ。その後、相手の少女はもちろん、他にも同じような誹謗中傷行為はしていないのか。「してませんね。もう年ですから。それに結婚もしましたし、いまの仕事も長いです。家庭あるんで」 誹謗中傷をした本人は結婚して平穏に暮らし、された側は引退して行方知れず。青井さんの話では、そのグラドルにはリスカ、手首を傷つけた跡もあったという。自分のせいではない、元から病ンドルだったと語るが釈然としない。奥さんは知っているのか。「知ってます。妻もネット好きだしオタク同士で価値観も一緒です。もうバカなことすんなよ、とは言われてますが」 今日一番嬉しそうな笑顔、地獄のような「子ども社会人」だった青井さんを救ったのは奥さんだ。微笑ましい限りだが、それでもやはり釈然としないことを告げる。すると青井さんは顔をしかめ、改まって言葉を繋いだ。「仕事に影響があったならかわいそうですけど、もう和解しましたし、昔の話ですから」 彼を責めることが目的ではないが、少女の性格や仕事ぶりの「あることないこと」をネットに撒き散らした青井さんは偽計業務妨害罪でもおかしくない。元アイドルのラーメン店経営者に対して「反社とつながっている」と風説の流布を繰り返した50代の男もまさにそれだった。誹謗中傷には仕事に影響を与えるような妨害行為も多い。こいつは使うな、こいつはこういう奴だと取引先や媒体に匿名で連絡する。歪んだ正義と嫉妬、心理学では「引き下げ心理」とも呼ばれる。「それはあるかもしれません。あのころ、なにもかもうまくいかなかった男で、ゲームと少女だけが拠り所でしたから」 素直に認める青井さんだが、これも過去と割り切れているからこそ。理解ある奥さんもいて平穏に暮らしている。しかし被害者は割り切れていないかもしれない。やったほうは忘れても、やられたほうは忘れない。それでも青井さんの言うところの「その辺の一般人」である限りキャンセルカルチャーの心配はないし、青井さんの現在の仕事は具体的には書かないが万年人手不足の仕事でコロナ禍もあり、まずクビにはならない不人気職とのこと。このように誹謗中傷側から話を聞くとやったもん勝ち、本当に解決策はないのではと思わされる。あえて聞くが、かつての誹謗中傷者として、どうすれば誹謗中傷が無くなると思うか。「絶対に無くならないと思いますよ。実名制にしてもやる人はやるし、ネットってその辺の一般人最強ですから」 実名制は韓国も失敗した。確かに、日本でもFacebookの一部ユーザーなどは実名どころか顔から所属先まで晒して他者を攻撃していたりする。自営業や年金者に多い印象だが、前者はともかく後者はある意味で無敵、ほのぼのと孫の写真を晒したそばから誹謗中傷を繰り返している(それも全公開設定!)。無くならないというのが現実だろう。「個人的な考えですけど、中国の信用スコアとか効くんじゃないですか? たとえばネットなら誹謗中傷を繰り返せば手持ちのスコアが減るとか。それで就職とかローンとか、子どもの進学にも影響あるみたいな。それでお互い点を見ることができるシステムなら他人を気にする日本人に効くと思うんですけど、こいつは何点か~って点数見られる感じで」 こんな気持ち悪い全体主義、筆者は無論反対だが、これくらいしないと匿名の誹謗中傷、ネット上の暴力は無くならないと思わされるのもまた事実。2021年4月に改正プロバイダ責任制限法が成立、公布されたが、この程度ではかつての青井さんのようないわゆる「無敵の一般人」には効かないように思う。自分自身が幸せになればやめられると思う「自分はもうしてませんけど、いまも独身で仕事もだめだったら別のタゲ(ターゲットの意)を探していたと思います。みんなが幸せになればいいんでしょうけど、それは無理でしょう。だったら、誹謗中傷は無くならないでしょうね」 どこか他人事、誹謗中傷当事者の言葉だけに違和感しかないが、当たっているだけに筆者もこの話を終えたあと、さてどうルポを結実させようか考えてしまった。なのでせめて、青井さんとの一問一答が参考になればと改めて記す。なぜ誹謗中傷するのか、その心理の一例にはなるだろう。その公表は青井さんも望んでいる。匿名掲示板でもSNSでも誹謗中傷の心理そのものに違いはないだろう。 ――なぜ少女が苦しむほどに、あることないことを書き込んだのか「最初はファンだった。何度かイベントや撮影会で会ったが塩対応で態度が悪く、自分の思ったような子じゃなかった。よかれと思って年上としてアドバイスしたつもりが、気持ち悪がられて腹がたった。叩き始めると彼女のことばかり考えるようになった。純粋なファンのときより叩きはじめた後のほうが彼女のことばかり考えていたように思う」 ――少女の仕事や生活を脅かすとは思わなかったのか。「当時は彼女の活動が仕事だという感覚はなかった。自分の娯楽としか見ていなかった。際どい水着でおっさんに媚び売る子どもと、どこか下に見ていたのかもしれない。はっきりいってオカズだった」 ――和解したが誹謗中傷が引退のきっかけかもしれない、罪悪感はあるか。「そこは芸能人として見ていた。有名税だからという免罪符はあったと思う。罪悪なんて大げさな話ではなく、あくまでネタだった」 ――青井さんには過去かもしれないが彼女は忘れていないかもしれない。「それはキリがない。一生気にすることとは思わない。忘れて欲しいと思う」 ――誹謗中傷をしている人たちに先達として忠告することはあるか。「自分自身が幸せになればやめられると思う。ずっと不幸な人はわからない」 ――かつての加害者として誹謗中傷をされている人たちにアドバイスはあるか。「気にしないこと。それしかない。相手が名無しの一般人ならそれしかないと思う。訴えるのは自由だが実利は薄いと思う。罰則を厳しくしない国が悪い。法律の問題だと思う」 このような問答となったが、人それぞれに読み取れる部分は多いだろう。もちろん彼一人のサンプル、これがすべてと言わないが、多くの誹謗中傷側の感覚はお気軽なもので、自覚なしに追い詰める事例が大半のように思う。だからこそやっかいなのだ。いじめという名の犯罪行為同様、受けた側の傷に比べてあまりに軽い。拍子抜けするほどに。そして青井さんの言う「その辺の一般人」かつ無敵の人、それに準じるような人の場合、訴えたところで直接的な効果は薄い。裁判が終わってほとぼり冷めたらまた繰り返す危険人物すらいる。 中国の信用スコア、社会信用システムのようなディストピアは勘弁だが、それがコロナ禍の統制含め有効なのではという話もある。日本は憲法上そこまでできないし表現の自由との兼ね合いもあるが、被害者の苦しみを考えれば、さらなる開示の容易化と刑法の厳罰化の方向に進むのもまた現実だろう。 取材中、青井さんから謝罪の言葉は出なかった。これもまた現実だ。【プロフィール】日野百草(ひの・ひゃくそう)/本名:上崎洋一。1972年千葉県野田市生まれ。日本ペンクラブ会員。出版社を経てフリーランス。全国俳誌協会賞、日本詩歌句随筆評論協会賞奨励賞(評論部門)受賞。『誰も書けなかったパチンコ20兆円の闇』(宝島社・共著)、『ルポ 京アニを燃やした男』(第三書館)。近著『評伝 赤城さかえ 楸邨、波郷、兜太から愛された魂の俳人』(コールサック社)。
木村花さんの事件もそうだが、一般人が中傷犯なら名前も出なければ有名人ほどに露骨な社会的制裁を受けることはまずない。多くは話題にすらならないだろう。自分だけじゃなく、他にもアンチはいましたから 青井さんは開き直っているわけではない。筆者が知る限りでも、一般の社会人でネットの誹謗中傷で訴えられて会社を辞めさせられた、地域にいられなくなったなんて話はない。みんな粛々と、何食わぬ顔で学校に行ったり働いたりしている。ましてや事情で働いていない人、引きこもりやニートはもちろん引退世代の高齢者なら訴えられたところで屁でもない。「和解といっても金銭はわずかで、彼女に対して誹謗中傷はしないという約束が主です。命どころか仕事をとられることもないです。やったもん勝ちですね」 有名人はもちろん、ネットのインフルエンサーなど、それなりに影響力があるから誹謗だ中傷だと話題になるだけであって、多くの無名の一般人なら現実には訴えられたところで大したことはないし、面倒だろうがそれだけ、というのが青井さんの感想だという。「彼女のこと、あることないこと書いたのがまずかった。それをうっかりリアルでしゃべったことも。最初はファンだったんですけどね」 青井さんがネットで誹謗中傷した少女はグラビアアイドルといってもメジャーな芸能人ではなく、露出度の高いマイクロビキニやふんどしを着せるようなイメージビデオに何作か出演しただけの少女だった。2000年代中盤、とくに過激な作品が乱発された時代だ。「イベントや撮影会に何度か行ったんですが、彼女の対応が気に入らなかったんでネットに書き込んだのが最初ですね、自分としてはネタでした」 秋葉原のビデオ店やパソコンショップにはこうした新人グラドル御用達の小さなイベント会場がある。また少数のファンを集めて小さな撮影会を開いたりもする。青井さんはそこで実際に会い、やがて幻滅した。恋愛感情か。「どうでしょう、かわいいとは思ってましたし、付き合えればそりゃ嬉しいでしょう。(その少女のビデオを)オカズに使ってたのも事実です」 消費対象かという筆者の言葉に、「そう、そんな軽い感じです」と大きくうなずいた。青井さんはこんな軽い感じで攻撃を始めたわけだ。あることないこと書きたてて。少しミソジニー(女性嫌悪)をこじらせていたのでは?「それはあるかもしれません。理想の少女を勝手に作って、勝手に憎悪したわけで。それに匿名ならバレませんから。自分だけじゃなく、他にもアンチはいましたから」 他にもいる、は常套文句だ。しかし匿名でも実際は匿名ではない。しかるべき手順で開示請求して、地道に辿れば足はつく。「でもね、わかってて言ってると思うんですけど、お金持ってて影響力も桁違いの芸能人なら本気出せばできるかもしれませんが、普通は無理ですよ」 残念ながらそのとおり、誹謗中傷に断固とした対応で臨むと宣言した中川翔子さんのような大物芸能人ならともかく、ニッチなグラドルやコスプレイヤー、地下アイドルなど事務所も小さく資力もないどころか無所属の場合、資金的にも個人レベルでは誹謗中傷に真っ向から立ち向かうのは現実的に難しい。小金井ストーカー殺人未遂事件のように警察が動くほどの目に見える犯罪被害でもない限り、泣き寝入りかスルーというのが実情だ。誹謗中傷の主戦場がSNSに移ったいまも、多くの被害者が苦しんでいる。ネットってその辺の一般人最強ですから「自分はその子とリアルで知り合ったから足がつきましたけど、まあ一切会ってなければ(特定は)無理なんじゃないかな、まして当時(2000年代)では珍しいと思います」 青井さんは撮影会などでリアルに接していたことや生来のおしゃべりが祟り、察した事務所関係者に問い詰められた末に訴えると脅されて和解となった。つまりは民法上の「訴え提起前の和解」であり、実際に裁判所に出頭した上で二度と誹謗中傷をしないこと、近寄らないこと、という誓約書を作成させられたという。微々たる額だが和解金も支払った。「多くはこうして和解だと思います。おかしな人でもない限り、これで二度とやらないでしょうし、自分もそうでした」 こうして青井さんは正式な裁判に持ち込まれずに済んだ。その後、相手の少女はもちろん、他にも同じような誹謗中傷行為はしていないのか。「してませんね。もう年ですから。それに結婚もしましたし、いまの仕事も長いです。家庭あるんで」 誹謗中傷をした本人は結婚して平穏に暮らし、された側は引退して行方知れず。青井さんの話では、そのグラドルにはリスカ、手首を傷つけた跡もあったという。自分のせいではない、元から病ンドルだったと語るが釈然としない。奥さんは知っているのか。「知ってます。妻もネット好きだしオタク同士で価値観も一緒です。もうバカなことすんなよ、とは言われてますが」 今日一番嬉しそうな笑顔、地獄のような「子ども社会人」だった青井さんを救ったのは奥さんだ。微笑ましい限りだが、それでもやはり釈然としないことを告げる。すると青井さんは顔をしかめ、改まって言葉を繋いだ。「仕事に影響があったならかわいそうですけど、もう和解しましたし、昔の話ですから」 彼を責めることが目的ではないが、少女の性格や仕事ぶりの「あることないこと」をネットに撒き散らした青井さんは偽計業務妨害罪でもおかしくない。元アイドルのラーメン店経営者に対して「反社とつながっている」と風説の流布を繰り返した50代の男もまさにそれだった。誹謗中傷には仕事に影響を与えるような妨害行為も多い。こいつは使うな、こいつはこういう奴だと取引先や媒体に匿名で連絡する。歪んだ正義と嫉妬、心理学では「引き下げ心理」とも呼ばれる。「それはあるかもしれません。あのころ、なにもかもうまくいかなかった男で、ゲームと少女だけが拠り所でしたから」 素直に認める青井さんだが、これも過去と割り切れているからこそ。理解ある奥さんもいて平穏に暮らしている。しかし被害者は割り切れていないかもしれない。やったほうは忘れても、やられたほうは忘れない。それでも青井さんの言うところの「その辺の一般人」である限りキャンセルカルチャーの心配はないし、青井さんの現在の仕事は具体的には書かないが万年人手不足の仕事でコロナ禍もあり、まずクビにはならない不人気職とのこと。このように誹謗中傷側から話を聞くとやったもん勝ち、本当に解決策はないのではと思わされる。あえて聞くが、かつての誹謗中傷者として、どうすれば誹謗中傷が無くなると思うか。「絶対に無くならないと思いますよ。実名制にしてもやる人はやるし、ネットってその辺の一般人最強ですから」 実名制は韓国も失敗した。確かに、日本でもFacebookの一部ユーザーなどは実名どころか顔から所属先まで晒して他者を攻撃していたりする。自営業や年金者に多い印象だが、前者はともかく後者はある意味で無敵、ほのぼのと孫の写真を晒したそばから誹謗中傷を繰り返している(それも全公開設定!)。無くならないというのが現実だろう。「個人的な考えですけど、中国の信用スコアとか効くんじゃないですか? たとえばネットなら誹謗中傷を繰り返せば手持ちのスコアが減るとか。それで就職とかローンとか、子どもの進学にも影響あるみたいな。それでお互い点を見ることができるシステムなら他人を気にする日本人に効くと思うんですけど、こいつは何点か~って点数見られる感じで」 こんな気持ち悪い全体主義、筆者は無論反対だが、これくらいしないと匿名の誹謗中傷、ネット上の暴力は無くならないと思わされるのもまた事実。2021年4月に改正プロバイダ責任制限法が成立、公布されたが、この程度ではかつての青井さんのようないわゆる「無敵の一般人」には効かないように思う。自分自身が幸せになればやめられると思う「自分はもうしてませんけど、いまも独身で仕事もだめだったら別のタゲ(ターゲットの意)を探していたと思います。みんなが幸せになればいいんでしょうけど、それは無理でしょう。だったら、誹謗中傷は無くならないでしょうね」 どこか他人事、誹謗中傷当事者の言葉だけに違和感しかないが、当たっているだけに筆者もこの話を終えたあと、さてどうルポを結実させようか考えてしまった。なのでせめて、青井さんとの一問一答が参考になればと改めて記す。なぜ誹謗中傷するのか、その心理の一例にはなるだろう。その公表は青井さんも望んでいる。匿名掲示板でもSNSでも誹謗中傷の心理そのものに違いはないだろう。 ――なぜ少女が苦しむほどに、あることないことを書き込んだのか「最初はファンだった。何度かイベントや撮影会で会ったが塩対応で態度が悪く、自分の思ったような子じゃなかった。よかれと思って年上としてアドバイスしたつもりが、気持ち悪がられて腹がたった。叩き始めると彼女のことばかり考えるようになった。純粋なファンのときより叩きはじめた後のほうが彼女のことばかり考えていたように思う」 ――少女の仕事や生活を脅かすとは思わなかったのか。「当時は彼女の活動が仕事だという感覚はなかった。自分の娯楽としか見ていなかった。際どい水着でおっさんに媚び売る子どもと、どこか下に見ていたのかもしれない。はっきりいってオカズだった」 ――和解したが誹謗中傷が引退のきっかけかもしれない、罪悪感はあるか。「そこは芸能人として見ていた。有名税だからという免罪符はあったと思う。罪悪なんて大げさな話ではなく、あくまでネタだった」 ――青井さんには過去かもしれないが彼女は忘れていないかもしれない。「それはキリがない。一生気にすることとは思わない。忘れて欲しいと思う」 ――誹謗中傷をしている人たちに先達として忠告することはあるか。「自分自身が幸せになればやめられると思う。ずっと不幸な人はわからない」 ――かつての加害者として誹謗中傷をされている人たちにアドバイスはあるか。「気にしないこと。それしかない。相手が名無しの一般人ならそれしかないと思う。訴えるのは自由だが実利は薄いと思う。罰則を厳しくしない国が悪い。法律の問題だと思う」 このような問答となったが、人それぞれに読み取れる部分は多いだろう。もちろん彼一人のサンプル、これがすべてと言わないが、多くの誹謗中傷側の感覚はお気軽なもので、自覚なしに追い詰める事例が大半のように思う。だからこそやっかいなのだ。いじめという名の犯罪行為同様、受けた側の傷に比べてあまりに軽い。拍子抜けするほどに。そして青井さんの言う「その辺の一般人」かつ無敵の人、それに準じるような人の場合、訴えたところで直接的な効果は薄い。裁判が終わってほとぼり冷めたらまた繰り返す危険人物すらいる。 中国の信用スコア、社会信用システムのようなディストピアは勘弁だが、それがコロナ禍の統制含め有効なのではという話もある。日本は憲法上そこまでできないし表現の自由との兼ね合いもあるが、被害者の苦しみを考えれば、さらなる開示の容易化と刑法の厳罰化の方向に進むのもまた現実だろう。 取材中、青井さんから謝罪の言葉は出なかった。これもまた現実だ。【プロフィール】日野百草(ひの・ひゃくそう)/本名:上崎洋一。1972年千葉県野田市生まれ。日本ペンクラブ会員。出版社を経てフリーランス。全国俳誌協会賞、日本詩歌句随筆評論協会賞奨励賞(評論部門)受賞。『誰も書けなかったパチンコ20兆円の闇』(宝島社・共著)、『ルポ 京アニを燃やした男』(第三書館)。近著『評伝 赤城さかえ 楸邨、波郷、兜太から愛された魂の俳人』(コールサック社)。
青井さんは開き直っているわけではない。筆者が知る限りでも、一般の社会人でネットの誹謗中傷で訴えられて会社を辞めさせられた、地域にいられなくなったなんて話はない。みんな粛々と、何食わぬ顔で学校に行ったり働いたりしている。ましてや事情で働いていない人、引きこもりやニートはもちろん引退世代の高齢者なら訴えられたところで屁でもない。「和解といっても金銭はわずかで、彼女に対して誹謗中傷はしないという約束が主です。命どころか仕事をとられることもないです。やったもん勝ちですね」 有名人はもちろん、ネットのインフルエンサーなど、それなりに影響力があるから誹謗だ中傷だと話題になるだけであって、多くの無名の一般人なら現実には訴えられたところで大したことはないし、面倒だろうがそれだけ、というのが青井さんの感想だという。「彼女のこと、あることないこと書いたのがまずかった。それをうっかりリアルでしゃべったことも。最初はファンだったんですけどね」 青井さんがネットで誹謗中傷した少女はグラビアアイドルといってもメジャーな芸能人ではなく、露出度の高いマイクロビキニやふんどしを着せるようなイメージビデオに何作か出演しただけの少女だった。2000年代中盤、とくに過激な作品が乱発された時代だ。「イベントや撮影会に何度か行ったんですが、彼女の対応が気に入らなかったんでネットに書き込んだのが最初ですね、自分としてはネタでした」 秋葉原のビデオ店やパソコンショップにはこうした新人グラドル御用達の小さなイベント会場がある。また少数のファンを集めて小さな撮影会を開いたりもする。青井さんはそこで実際に会い、やがて幻滅した。恋愛感情か。「どうでしょう、かわいいとは思ってましたし、付き合えればそりゃ嬉しいでしょう。(その少女のビデオを)オカズに使ってたのも事実です」 消費対象かという筆者の言葉に、「そう、そんな軽い感じです」と大きくうなずいた。青井さんはこんな軽い感じで攻撃を始めたわけだ。あることないこと書きたてて。少しミソジニー(女性嫌悪)をこじらせていたのでは?「それはあるかもしれません。理想の少女を勝手に作って、勝手に憎悪したわけで。それに匿名ならバレませんから。自分だけじゃなく、他にもアンチはいましたから」 他にもいる、は常套文句だ。しかし匿名でも実際は匿名ではない。しかるべき手順で開示請求して、地道に辿れば足はつく。「でもね、わかってて言ってると思うんですけど、お金持ってて影響力も桁違いの芸能人なら本気出せばできるかもしれませんが、普通は無理ですよ」 残念ながらそのとおり、誹謗中傷に断固とした対応で臨むと宣言した中川翔子さんのような大物芸能人ならともかく、ニッチなグラドルやコスプレイヤー、地下アイドルなど事務所も小さく資力もないどころか無所属の場合、資金的にも個人レベルでは誹謗中傷に真っ向から立ち向かうのは現実的に難しい。小金井ストーカー殺人未遂事件のように警察が動くほどの目に見える犯罪被害でもない限り、泣き寝入りかスルーというのが実情だ。誹謗中傷の主戦場がSNSに移ったいまも、多くの被害者が苦しんでいる。ネットってその辺の一般人最強ですから「自分はその子とリアルで知り合ったから足がつきましたけど、まあ一切会ってなければ(特定は)無理なんじゃないかな、まして当時(2000年代)では珍しいと思います」 青井さんは撮影会などでリアルに接していたことや生来のおしゃべりが祟り、察した事務所関係者に問い詰められた末に訴えると脅されて和解となった。つまりは民法上の「訴え提起前の和解」であり、実際に裁判所に出頭した上で二度と誹謗中傷をしないこと、近寄らないこと、という誓約書を作成させられたという。微々たる額だが和解金も支払った。「多くはこうして和解だと思います。おかしな人でもない限り、これで二度とやらないでしょうし、自分もそうでした」 こうして青井さんは正式な裁判に持ち込まれずに済んだ。その後、相手の少女はもちろん、他にも同じような誹謗中傷行為はしていないのか。「してませんね。もう年ですから。それに結婚もしましたし、いまの仕事も長いです。家庭あるんで」 誹謗中傷をした本人は結婚して平穏に暮らし、された側は引退して行方知れず。青井さんの話では、そのグラドルにはリスカ、手首を傷つけた跡もあったという。自分のせいではない、元から病ンドルだったと語るが釈然としない。奥さんは知っているのか。「知ってます。妻もネット好きだしオタク同士で価値観も一緒です。もうバカなことすんなよ、とは言われてますが」 今日一番嬉しそうな笑顔、地獄のような「子ども社会人」だった青井さんを救ったのは奥さんだ。微笑ましい限りだが、それでもやはり釈然としないことを告げる。すると青井さんは顔をしかめ、改まって言葉を繋いだ。「仕事に影響があったならかわいそうですけど、もう和解しましたし、昔の話ですから」 彼を責めることが目的ではないが、少女の性格や仕事ぶりの「あることないこと」をネットに撒き散らした青井さんは偽計業務妨害罪でもおかしくない。元アイドルのラーメン店経営者に対して「反社とつながっている」と風説の流布を繰り返した50代の男もまさにそれだった。誹謗中傷には仕事に影響を与えるような妨害行為も多い。こいつは使うな、こいつはこういう奴だと取引先や媒体に匿名で連絡する。歪んだ正義と嫉妬、心理学では「引き下げ心理」とも呼ばれる。「それはあるかもしれません。あのころ、なにもかもうまくいかなかった男で、ゲームと少女だけが拠り所でしたから」 素直に認める青井さんだが、これも過去と割り切れているからこそ。理解ある奥さんもいて平穏に暮らしている。しかし被害者は割り切れていないかもしれない。やったほうは忘れても、やられたほうは忘れない。それでも青井さんの言うところの「その辺の一般人」である限りキャンセルカルチャーの心配はないし、青井さんの現在の仕事は具体的には書かないが万年人手不足の仕事でコロナ禍もあり、まずクビにはならない不人気職とのこと。このように誹謗中傷側から話を聞くとやったもん勝ち、本当に解決策はないのではと思わされる。あえて聞くが、かつての誹謗中傷者として、どうすれば誹謗中傷が無くなると思うか。「絶対に無くならないと思いますよ。実名制にしてもやる人はやるし、ネットってその辺の一般人最強ですから」 実名制は韓国も失敗した。確かに、日本でもFacebookの一部ユーザーなどは実名どころか顔から所属先まで晒して他者を攻撃していたりする。自営業や年金者に多い印象だが、前者はともかく後者はある意味で無敵、ほのぼのと孫の写真を晒したそばから誹謗中傷を繰り返している(それも全公開設定!)。無くならないというのが現実だろう。「個人的な考えですけど、中国の信用スコアとか効くんじゃないですか? たとえばネットなら誹謗中傷を繰り返せば手持ちのスコアが減るとか。それで就職とかローンとか、子どもの進学にも影響あるみたいな。それでお互い点を見ることができるシステムなら他人を気にする日本人に効くと思うんですけど、こいつは何点か~って点数見られる感じで」 こんな気持ち悪い全体主義、筆者は無論反対だが、これくらいしないと匿名の誹謗中傷、ネット上の暴力は無くならないと思わされるのもまた事実。2021年4月に改正プロバイダ責任制限法が成立、公布されたが、この程度ではかつての青井さんのようないわゆる「無敵の一般人」には効かないように思う。自分自身が幸せになればやめられると思う「自分はもうしてませんけど、いまも独身で仕事もだめだったら別のタゲ(ターゲットの意)を探していたと思います。みんなが幸せになればいいんでしょうけど、それは無理でしょう。だったら、誹謗中傷は無くならないでしょうね」 どこか他人事、誹謗中傷当事者の言葉だけに違和感しかないが、当たっているだけに筆者もこの話を終えたあと、さてどうルポを結実させようか考えてしまった。なのでせめて、青井さんとの一問一答が参考になればと改めて記す。なぜ誹謗中傷するのか、その心理の一例にはなるだろう。その公表は青井さんも望んでいる。匿名掲示板でもSNSでも誹謗中傷の心理そのものに違いはないだろう。 ――なぜ少女が苦しむほどに、あることないことを書き込んだのか「最初はファンだった。何度かイベントや撮影会で会ったが塩対応で態度が悪く、自分の思ったような子じゃなかった。よかれと思って年上としてアドバイスしたつもりが、気持ち悪がられて腹がたった。叩き始めると彼女のことばかり考えるようになった。純粋なファンのときより叩きはじめた後のほうが彼女のことばかり考えていたように思う」 ――少女の仕事や生活を脅かすとは思わなかったのか。「当時は彼女の活動が仕事だという感覚はなかった。自分の娯楽としか見ていなかった。際どい水着でおっさんに媚び売る子どもと、どこか下に見ていたのかもしれない。はっきりいってオカズだった」 ――和解したが誹謗中傷が引退のきっかけかもしれない、罪悪感はあるか。「そこは芸能人として見ていた。有名税だからという免罪符はあったと思う。罪悪なんて大げさな話ではなく、あくまでネタだった」 ――青井さんには過去かもしれないが彼女は忘れていないかもしれない。「それはキリがない。一生気にすることとは思わない。忘れて欲しいと思う」 ――誹謗中傷をしている人たちに先達として忠告することはあるか。「自分自身が幸せになればやめられると思う。ずっと不幸な人はわからない」 ――かつての加害者として誹謗中傷をされている人たちにアドバイスはあるか。「気にしないこと。それしかない。相手が名無しの一般人ならそれしかないと思う。訴えるのは自由だが実利は薄いと思う。罰則を厳しくしない国が悪い。法律の問題だと思う」 このような問答となったが、人それぞれに読み取れる部分は多いだろう。もちろん彼一人のサンプル、これがすべてと言わないが、多くの誹謗中傷側の感覚はお気軽なもので、自覚なしに追い詰める事例が大半のように思う。だからこそやっかいなのだ。いじめという名の犯罪行為同様、受けた側の傷に比べてあまりに軽い。拍子抜けするほどに。そして青井さんの言う「その辺の一般人」かつ無敵の人、それに準じるような人の場合、訴えたところで直接的な効果は薄い。裁判が終わってほとぼり冷めたらまた繰り返す危険人物すらいる。 中国の信用スコア、社会信用システムのようなディストピアは勘弁だが、それがコロナ禍の統制含め有効なのではという話もある。日本は憲法上そこまでできないし表現の自由との兼ね合いもあるが、被害者の苦しみを考えれば、さらなる開示の容易化と刑法の厳罰化の方向に進むのもまた現実だろう。 取材中、青井さんから謝罪の言葉は出なかった。これもまた現実だ。【プロフィール】日野百草(ひの・ひゃくそう)/本名:上崎洋一。1972年千葉県野田市生まれ。日本ペンクラブ会員。出版社を経てフリーランス。全国俳誌協会賞、日本詩歌句随筆評論協会賞奨励賞(評論部門)受賞。『誰も書けなかったパチンコ20兆円の闇』(宝島社・共著)、『ルポ 京アニを燃やした男』(第三書館)。近著『評伝 赤城さかえ 楸邨、波郷、兜太から愛された魂の俳人』(コールサック社)。
「和解といっても金銭はわずかで、彼女に対して誹謗中傷はしないという約束が主です。命どころか仕事をとられることもないです。やったもん勝ちですね」 有名人はもちろん、ネットのインフルエンサーなど、それなりに影響力があるから誹謗だ中傷だと話題になるだけであって、多くの無名の一般人なら現実には訴えられたところで大したことはないし、面倒だろうがそれだけ、というのが青井さんの感想だという。「彼女のこと、あることないこと書いたのがまずかった。それをうっかりリアルでしゃべったことも。最初はファンだったんですけどね」 青井さんがネットで誹謗中傷した少女はグラビアアイドルといってもメジャーな芸能人ではなく、露出度の高いマイクロビキニやふんどしを着せるようなイメージビデオに何作か出演しただけの少女だった。2000年代中盤、とくに過激な作品が乱発された時代だ。「イベントや撮影会に何度か行ったんですが、彼女の対応が気に入らなかったんでネットに書き込んだのが最初ですね、自分としてはネタでした」 秋葉原のビデオ店やパソコンショップにはこうした新人グラドル御用達の小さなイベント会場がある。また少数のファンを集めて小さな撮影会を開いたりもする。青井さんはそこで実際に会い、やがて幻滅した。恋愛感情か。「どうでしょう、かわいいとは思ってましたし、付き合えればそりゃ嬉しいでしょう。(その少女のビデオを)オカズに使ってたのも事実です」 消費対象かという筆者の言葉に、「そう、そんな軽い感じです」と大きくうなずいた。青井さんはこんな軽い感じで攻撃を始めたわけだ。あることないこと書きたてて。少しミソジニー(女性嫌悪)をこじらせていたのでは?「それはあるかもしれません。理想の少女を勝手に作って、勝手に憎悪したわけで。それに匿名ならバレませんから。自分だけじゃなく、他にもアンチはいましたから」 他にもいる、は常套文句だ。しかし匿名でも実際は匿名ではない。しかるべき手順で開示請求して、地道に辿れば足はつく。「でもね、わかってて言ってると思うんですけど、お金持ってて影響力も桁違いの芸能人なら本気出せばできるかもしれませんが、普通は無理ですよ」 残念ながらそのとおり、誹謗中傷に断固とした対応で臨むと宣言した中川翔子さんのような大物芸能人ならともかく、ニッチなグラドルやコスプレイヤー、地下アイドルなど事務所も小さく資力もないどころか無所属の場合、資金的にも個人レベルでは誹謗中傷に真っ向から立ち向かうのは現実的に難しい。小金井ストーカー殺人未遂事件のように警察が動くほどの目に見える犯罪被害でもない限り、泣き寝入りかスルーというのが実情だ。誹謗中傷の主戦場がSNSに移ったいまも、多くの被害者が苦しんでいる。ネットってその辺の一般人最強ですから「自分はその子とリアルで知り合ったから足がつきましたけど、まあ一切会ってなければ(特定は)無理なんじゃないかな、まして当時(2000年代)では珍しいと思います」 青井さんは撮影会などでリアルに接していたことや生来のおしゃべりが祟り、察した事務所関係者に問い詰められた末に訴えると脅されて和解となった。つまりは民法上の「訴え提起前の和解」であり、実際に裁判所に出頭した上で二度と誹謗中傷をしないこと、近寄らないこと、という誓約書を作成させられたという。微々たる額だが和解金も支払った。「多くはこうして和解だと思います。おかしな人でもない限り、これで二度とやらないでしょうし、自分もそうでした」 こうして青井さんは正式な裁判に持ち込まれずに済んだ。その後、相手の少女はもちろん、他にも同じような誹謗中傷行為はしていないのか。「してませんね。もう年ですから。それに結婚もしましたし、いまの仕事も長いです。家庭あるんで」 誹謗中傷をした本人は結婚して平穏に暮らし、された側は引退して行方知れず。青井さんの話では、そのグラドルにはリスカ、手首を傷つけた跡もあったという。自分のせいではない、元から病ンドルだったと語るが釈然としない。奥さんは知っているのか。「知ってます。妻もネット好きだしオタク同士で価値観も一緒です。もうバカなことすんなよ、とは言われてますが」 今日一番嬉しそうな笑顔、地獄のような「子ども社会人」だった青井さんを救ったのは奥さんだ。微笑ましい限りだが、それでもやはり釈然としないことを告げる。すると青井さんは顔をしかめ、改まって言葉を繋いだ。「仕事に影響があったならかわいそうですけど、もう和解しましたし、昔の話ですから」 彼を責めることが目的ではないが、少女の性格や仕事ぶりの「あることないこと」をネットに撒き散らした青井さんは偽計業務妨害罪でもおかしくない。元アイドルのラーメン店経営者に対して「反社とつながっている」と風説の流布を繰り返した50代の男もまさにそれだった。誹謗中傷には仕事に影響を与えるような妨害行為も多い。こいつは使うな、こいつはこういう奴だと取引先や媒体に匿名で連絡する。歪んだ正義と嫉妬、心理学では「引き下げ心理」とも呼ばれる。「それはあるかもしれません。あのころ、なにもかもうまくいかなかった男で、ゲームと少女だけが拠り所でしたから」 素直に認める青井さんだが、これも過去と割り切れているからこそ。理解ある奥さんもいて平穏に暮らしている。しかし被害者は割り切れていないかもしれない。やったほうは忘れても、やられたほうは忘れない。それでも青井さんの言うところの「その辺の一般人」である限りキャンセルカルチャーの心配はないし、青井さんの現在の仕事は具体的には書かないが万年人手不足の仕事でコロナ禍もあり、まずクビにはならない不人気職とのこと。このように誹謗中傷側から話を聞くとやったもん勝ち、本当に解決策はないのではと思わされる。あえて聞くが、かつての誹謗中傷者として、どうすれば誹謗中傷が無くなると思うか。「絶対に無くならないと思いますよ。実名制にしてもやる人はやるし、ネットってその辺の一般人最強ですから」 実名制は韓国も失敗した。確かに、日本でもFacebookの一部ユーザーなどは実名どころか顔から所属先まで晒して他者を攻撃していたりする。自営業や年金者に多い印象だが、前者はともかく後者はある意味で無敵、ほのぼのと孫の写真を晒したそばから誹謗中傷を繰り返している(それも全公開設定!)。無くならないというのが現実だろう。「個人的な考えですけど、中国の信用スコアとか効くんじゃないですか? たとえばネットなら誹謗中傷を繰り返せば手持ちのスコアが減るとか。それで就職とかローンとか、子どもの進学にも影響あるみたいな。それでお互い点を見ることができるシステムなら他人を気にする日本人に効くと思うんですけど、こいつは何点か~って点数見られる感じで」 こんな気持ち悪い全体主義、筆者は無論反対だが、これくらいしないと匿名の誹謗中傷、ネット上の暴力は無くならないと思わされるのもまた事実。2021年4月に改正プロバイダ責任制限法が成立、公布されたが、この程度ではかつての青井さんのようないわゆる「無敵の一般人」には効かないように思う。自分自身が幸せになればやめられると思う「自分はもうしてませんけど、いまも独身で仕事もだめだったら別のタゲ(ターゲットの意)を探していたと思います。みんなが幸せになればいいんでしょうけど、それは無理でしょう。だったら、誹謗中傷は無くならないでしょうね」 どこか他人事、誹謗中傷当事者の言葉だけに違和感しかないが、当たっているだけに筆者もこの話を終えたあと、さてどうルポを結実させようか考えてしまった。なのでせめて、青井さんとの一問一答が参考になればと改めて記す。なぜ誹謗中傷するのか、その心理の一例にはなるだろう。その公表は青井さんも望んでいる。匿名掲示板でもSNSでも誹謗中傷の心理そのものに違いはないだろう。 ――なぜ少女が苦しむほどに、あることないことを書き込んだのか「最初はファンだった。何度かイベントや撮影会で会ったが塩対応で態度が悪く、自分の思ったような子じゃなかった。よかれと思って年上としてアドバイスしたつもりが、気持ち悪がられて腹がたった。叩き始めると彼女のことばかり考えるようになった。純粋なファンのときより叩きはじめた後のほうが彼女のことばかり考えていたように思う」 ――少女の仕事や生活を脅かすとは思わなかったのか。「当時は彼女の活動が仕事だという感覚はなかった。自分の娯楽としか見ていなかった。際どい水着でおっさんに媚び売る子どもと、どこか下に見ていたのかもしれない。はっきりいってオカズだった」 ――和解したが誹謗中傷が引退のきっかけかもしれない、罪悪感はあるか。「そこは芸能人として見ていた。有名税だからという免罪符はあったと思う。罪悪なんて大げさな話ではなく、あくまでネタだった」 ――青井さんには過去かもしれないが彼女は忘れていないかもしれない。「それはキリがない。一生気にすることとは思わない。忘れて欲しいと思う」 ――誹謗中傷をしている人たちに先達として忠告することはあるか。「自分自身が幸せになればやめられると思う。ずっと不幸な人はわからない」 ――かつての加害者として誹謗中傷をされている人たちにアドバイスはあるか。「気にしないこと。それしかない。相手が名無しの一般人ならそれしかないと思う。訴えるのは自由だが実利は薄いと思う。罰則を厳しくしない国が悪い。法律の問題だと思う」 このような問答となったが、人それぞれに読み取れる部分は多いだろう。もちろん彼一人のサンプル、これがすべてと言わないが、多くの誹謗中傷側の感覚はお気軽なもので、自覚なしに追い詰める事例が大半のように思う。だからこそやっかいなのだ。いじめという名の犯罪行為同様、受けた側の傷に比べてあまりに軽い。拍子抜けするほどに。そして青井さんの言う「その辺の一般人」かつ無敵の人、それに準じるような人の場合、訴えたところで直接的な効果は薄い。裁判が終わってほとぼり冷めたらまた繰り返す危険人物すらいる。 中国の信用スコア、社会信用システムのようなディストピアは勘弁だが、それがコロナ禍の統制含め有効なのではという話もある。日本は憲法上そこまでできないし表現の自由との兼ね合いもあるが、被害者の苦しみを考えれば、さらなる開示の容易化と刑法の厳罰化の方向に進むのもまた現実だろう。 取材中、青井さんから謝罪の言葉は出なかった。これもまた現実だ。【プロフィール】日野百草(ひの・ひゃくそう)/本名:上崎洋一。1972年千葉県野田市生まれ。日本ペンクラブ会員。出版社を経てフリーランス。全国俳誌協会賞、日本詩歌句随筆評論協会賞奨励賞(評論部門)受賞。『誰も書けなかったパチンコ20兆円の闇』(宝島社・共著)、『ルポ 京アニを燃やした男』(第三書館)。近著『評伝 赤城さかえ 楸邨、波郷、兜太から愛された魂の俳人』(コールサック社)。
有名人はもちろん、ネットのインフルエンサーなど、それなりに影響力があるから誹謗だ中傷だと話題になるだけであって、多くの無名の一般人なら現実には訴えられたところで大したことはないし、面倒だろうがそれだけ、というのが青井さんの感想だという。「彼女のこと、あることないこと書いたのがまずかった。それをうっかりリアルでしゃべったことも。最初はファンだったんですけどね」 青井さんがネットで誹謗中傷した少女はグラビアアイドルといってもメジャーな芸能人ではなく、露出度の高いマイクロビキニやふんどしを着せるようなイメージビデオに何作か出演しただけの少女だった。2000年代中盤、とくに過激な作品が乱発された時代だ。「イベントや撮影会に何度か行ったんですが、彼女の対応が気に入らなかったんでネットに書き込んだのが最初ですね、自分としてはネタでした」 秋葉原のビデオ店やパソコンショップにはこうした新人グラドル御用達の小さなイベント会場がある。また少数のファンを集めて小さな撮影会を開いたりもする。青井さんはそこで実際に会い、やがて幻滅した。恋愛感情か。「どうでしょう、かわいいとは思ってましたし、付き合えればそりゃ嬉しいでしょう。(その少女のビデオを)オカズに使ってたのも事実です」 消費対象かという筆者の言葉に、「そう、そんな軽い感じです」と大きくうなずいた。青井さんはこんな軽い感じで攻撃を始めたわけだ。あることないこと書きたてて。少しミソジニー(女性嫌悪)をこじらせていたのでは?「それはあるかもしれません。理想の少女を勝手に作って、勝手に憎悪したわけで。それに匿名ならバレませんから。自分だけじゃなく、他にもアンチはいましたから」 他にもいる、は常套文句だ。しかし匿名でも実際は匿名ではない。しかるべき手順で開示請求して、地道に辿れば足はつく。「でもね、わかってて言ってると思うんですけど、お金持ってて影響力も桁違いの芸能人なら本気出せばできるかもしれませんが、普通は無理ですよ」 残念ながらそのとおり、誹謗中傷に断固とした対応で臨むと宣言した中川翔子さんのような大物芸能人ならともかく、ニッチなグラドルやコスプレイヤー、地下アイドルなど事務所も小さく資力もないどころか無所属の場合、資金的にも個人レベルでは誹謗中傷に真っ向から立ち向かうのは現実的に難しい。小金井ストーカー殺人未遂事件のように警察が動くほどの目に見える犯罪被害でもない限り、泣き寝入りかスルーというのが実情だ。誹謗中傷の主戦場がSNSに移ったいまも、多くの被害者が苦しんでいる。ネットってその辺の一般人最強ですから「自分はその子とリアルで知り合ったから足がつきましたけど、まあ一切会ってなければ(特定は)無理なんじゃないかな、まして当時(2000年代)では珍しいと思います」 青井さんは撮影会などでリアルに接していたことや生来のおしゃべりが祟り、察した事務所関係者に問い詰められた末に訴えると脅されて和解となった。つまりは民法上の「訴え提起前の和解」であり、実際に裁判所に出頭した上で二度と誹謗中傷をしないこと、近寄らないこと、という誓約書を作成させられたという。微々たる額だが和解金も支払った。「多くはこうして和解だと思います。おかしな人でもない限り、これで二度とやらないでしょうし、自分もそうでした」 こうして青井さんは正式な裁判に持ち込まれずに済んだ。その後、相手の少女はもちろん、他にも同じような誹謗中傷行為はしていないのか。「してませんね。もう年ですから。それに結婚もしましたし、いまの仕事も長いです。家庭あるんで」 誹謗中傷をした本人は結婚して平穏に暮らし、された側は引退して行方知れず。青井さんの話では、そのグラドルにはリスカ、手首を傷つけた跡もあったという。自分のせいではない、元から病ンドルだったと語るが釈然としない。奥さんは知っているのか。「知ってます。妻もネット好きだしオタク同士で価値観も一緒です。もうバカなことすんなよ、とは言われてますが」 今日一番嬉しそうな笑顔、地獄のような「子ども社会人」だった青井さんを救ったのは奥さんだ。微笑ましい限りだが、それでもやはり釈然としないことを告げる。すると青井さんは顔をしかめ、改まって言葉を繋いだ。「仕事に影響があったならかわいそうですけど、もう和解しましたし、昔の話ですから」 彼を責めることが目的ではないが、少女の性格や仕事ぶりの「あることないこと」をネットに撒き散らした青井さんは偽計業務妨害罪でもおかしくない。元アイドルのラーメン店経営者に対して「反社とつながっている」と風説の流布を繰り返した50代の男もまさにそれだった。誹謗中傷には仕事に影響を与えるような妨害行為も多い。こいつは使うな、こいつはこういう奴だと取引先や媒体に匿名で連絡する。歪んだ正義と嫉妬、心理学では「引き下げ心理」とも呼ばれる。「それはあるかもしれません。あのころ、なにもかもうまくいかなかった男で、ゲームと少女だけが拠り所でしたから」 素直に認める青井さんだが、これも過去と割り切れているからこそ。理解ある奥さんもいて平穏に暮らしている。しかし被害者は割り切れていないかもしれない。やったほうは忘れても、やられたほうは忘れない。それでも青井さんの言うところの「その辺の一般人」である限りキャンセルカルチャーの心配はないし、青井さんの現在の仕事は具体的には書かないが万年人手不足の仕事でコロナ禍もあり、まずクビにはならない不人気職とのこと。このように誹謗中傷側から話を聞くとやったもん勝ち、本当に解決策はないのではと思わされる。あえて聞くが、かつての誹謗中傷者として、どうすれば誹謗中傷が無くなると思うか。「絶対に無くならないと思いますよ。実名制にしてもやる人はやるし、ネットってその辺の一般人最強ですから」 実名制は韓国も失敗した。確かに、日本でもFacebookの一部ユーザーなどは実名どころか顔から所属先まで晒して他者を攻撃していたりする。自営業や年金者に多い印象だが、前者はともかく後者はある意味で無敵、ほのぼのと孫の写真を晒したそばから誹謗中傷を繰り返している(それも全公開設定!)。無くならないというのが現実だろう。「個人的な考えですけど、中国の信用スコアとか効くんじゃないですか? たとえばネットなら誹謗中傷を繰り返せば手持ちのスコアが減るとか。それで就職とかローンとか、子どもの進学にも影響あるみたいな。それでお互い点を見ることができるシステムなら他人を気にする日本人に効くと思うんですけど、こいつは何点か~って点数見られる感じで」 こんな気持ち悪い全体主義、筆者は無論反対だが、これくらいしないと匿名の誹謗中傷、ネット上の暴力は無くならないと思わされるのもまた事実。2021年4月に改正プロバイダ責任制限法が成立、公布されたが、この程度ではかつての青井さんのようないわゆる「無敵の一般人」には効かないように思う。自分自身が幸せになればやめられると思う「自分はもうしてませんけど、いまも独身で仕事もだめだったら別のタゲ(ターゲットの意)を探していたと思います。みんなが幸せになればいいんでしょうけど、それは無理でしょう。だったら、誹謗中傷は無くならないでしょうね」 どこか他人事、誹謗中傷当事者の言葉だけに違和感しかないが、当たっているだけに筆者もこの話を終えたあと、さてどうルポを結実させようか考えてしまった。なのでせめて、青井さんとの一問一答が参考になればと改めて記す。なぜ誹謗中傷するのか、その心理の一例にはなるだろう。その公表は青井さんも望んでいる。匿名掲示板でもSNSでも誹謗中傷の心理そのものに違いはないだろう。 ――なぜ少女が苦しむほどに、あることないことを書き込んだのか「最初はファンだった。何度かイベントや撮影会で会ったが塩対応で態度が悪く、自分の思ったような子じゃなかった。よかれと思って年上としてアドバイスしたつもりが、気持ち悪がられて腹がたった。叩き始めると彼女のことばかり考えるようになった。純粋なファンのときより叩きはじめた後のほうが彼女のことばかり考えていたように思う」 ――少女の仕事や生活を脅かすとは思わなかったのか。「当時は彼女の活動が仕事だという感覚はなかった。自分の娯楽としか見ていなかった。際どい水着でおっさんに媚び売る子どもと、どこか下に見ていたのかもしれない。はっきりいってオカズだった」 ――和解したが誹謗中傷が引退のきっかけかもしれない、罪悪感はあるか。「そこは芸能人として見ていた。有名税だからという免罪符はあったと思う。罪悪なんて大げさな話ではなく、あくまでネタだった」 ――青井さんには過去かもしれないが彼女は忘れていないかもしれない。「それはキリがない。一生気にすることとは思わない。忘れて欲しいと思う」 ――誹謗中傷をしている人たちに先達として忠告することはあるか。「自分自身が幸せになればやめられると思う。ずっと不幸な人はわからない」 ――かつての加害者として誹謗中傷をされている人たちにアドバイスはあるか。「気にしないこと。それしかない。相手が名無しの一般人ならそれしかないと思う。訴えるのは自由だが実利は薄いと思う。罰則を厳しくしない国が悪い。法律の問題だと思う」 このような問答となったが、人それぞれに読み取れる部分は多いだろう。もちろん彼一人のサンプル、これがすべてと言わないが、多くの誹謗中傷側の感覚はお気軽なもので、自覚なしに追い詰める事例が大半のように思う。だからこそやっかいなのだ。いじめという名の犯罪行為同様、受けた側の傷に比べてあまりに軽い。拍子抜けするほどに。そして青井さんの言う「その辺の一般人」かつ無敵の人、それに準じるような人の場合、訴えたところで直接的な効果は薄い。裁判が終わってほとぼり冷めたらまた繰り返す危険人物すらいる。 中国の信用スコア、社会信用システムのようなディストピアは勘弁だが、それがコロナ禍の統制含め有効なのではという話もある。日本は憲法上そこまでできないし表現の自由との兼ね合いもあるが、被害者の苦しみを考えれば、さらなる開示の容易化と刑法の厳罰化の方向に進むのもまた現実だろう。 取材中、青井さんから謝罪の言葉は出なかった。これもまた現実だ。【プロフィール】日野百草(ひの・ひゃくそう)/本名:上崎洋一。1972年千葉県野田市生まれ。日本ペンクラブ会員。出版社を経てフリーランス。全国俳誌協会賞、日本詩歌句随筆評論協会賞奨励賞(評論部門)受賞。『誰も書けなかったパチンコ20兆円の闇』(宝島社・共著)、『ルポ 京アニを燃やした男』(第三書館)。近著『評伝 赤城さかえ 楸邨、波郷、兜太から愛された魂の俳人』(コールサック社)。
「彼女のこと、あることないこと書いたのがまずかった。それをうっかりリアルでしゃべったことも。最初はファンだったんですけどね」 青井さんがネットで誹謗中傷した少女はグラビアアイドルといってもメジャーな芸能人ではなく、露出度の高いマイクロビキニやふんどしを着せるようなイメージビデオに何作か出演しただけの少女だった。2000年代中盤、とくに過激な作品が乱発された時代だ。「イベントや撮影会に何度か行ったんですが、彼女の対応が気に入らなかったんでネットに書き込んだのが最初ですね、自分としてはネタでした」 秋葉原のビデオ店やパソコンショップにはこうした新人グラドル御用達の小さなイベント会場がある。また少数のファンを集めて小さな撮影会を開いたりもする。青井さんはそこで実際に会い、やがて幻滅した。恋愛感情か。「どうでしょう、かわいいとは思ってましたし、付き合えればそりゃ嬉しいでしょう。(その少女のビデオを)オカズに使ってたのも事実です」 消費対象かという筆者の言葉に、「そう、そんな軽い感じです」と大きくうなずいた。青井さんはこんな軽い感じで攻撃を始めたわけだ。あることないこと書きたてて。少しミソジニー(女性嫌悪)をこじらせていたのでは?「それはあるかもしれません。理想の少女を勝手に作って、勝手に憎悪したわけで。それに匿名ならバレませんから。自分だけじゃなく、他にもアンチはいましたから」 他にもいる、は常套文句だ。しかし匿名でも実際は匿名ではない。しかるべき手順で開示請求して、地道に辿れば足はつく。「でもね、わかってて言ってると思うんですけど、お金持ってて影響力も桁違いの芸能人なら本気出せばできるかもしれませんが、普通は無理ですよ」 残念ながらそのとおり、誹謗中傷に断固とした対応で臨むと宣言した中川翔子さんのような大物芸能人ならともかく、ニッチなグラドルやコスプレイヤー、地下アイドルなど事務所も小さく資力もないどころか無所属の場合、資金的にも個人レベルでは誹謗中傷に真っ向から立ち向かうのは現実的に難しい。小金井ストーカー殺人未遂事件のように警察が動くほどの目に見える犯罪被害でもない限り、泣き寝入りかスルーというのが実情だ。誹謗中傷の主戦場がSNSに移ったいまも、多くの被害者が苦しんでいる。ネットってその辺の一般人最強ですから「自分はその子とリアルで知り合ったから足がつきましたけど、まあ一切会ってなければ(特定は)無理なんじゃないかな、まして当時(2000年代)では珍しいと思います」 青井さんは撮影会などでリアルに接していたことや生来のおしゃべりが祟り、察した事務所関係者に問い詰められた末に訴えると脅されて和解となった。つまりは民法上の「訴え提起前の和解」であり、実際に裁判所に出頭した上で二度と誹謗中傷をしないこと、近寄らないこと、という誓約書を作成させられたという。微々たる額だが和解金も支払った。「多くはこうして和解だと思います。おかしな人でもない限り、これで二度とやらないでしょうし、自分もそうでした」 こうして青井さんは正式な裁判に持ち込まれずに済んだ。その後、相手の少女はもちろん、他にも同じような誹謗中傷行為はしていないのか。「してませんね。もう年ですから。それに結婚もしましたし、いまの仕事も長いです。家庭あるんで」 誹謗中傷をした本人は結婚して平穏に暮らし、された側は引退して行方知れず。青井さんの話では、そのグラドルにはリスカ、手首を傷つけた跡もあったという。自分のせいではない、元から病ンドルだったと語るが釈然としない。奥さんは知っているのか。「知ってます。妻もネット好きだしオタク同士で価値観も一緒です。もうバカなことすんなよ、とは言われてますが」 今日一番嬉しそうな笑顔、地獄のような「子ども社会人」だった青井さんを救ったのは奥さんだ。微笑ましい限りだが、それでもやはり釈然としないことを告げる。すると青井さんは顔をしかめ、改まって言葉を繋いだ。「仕事に影響があったならかわいそうですけど、もう和解しましたし、昔の話ですから」 彼を責めることが目的ではないが、少女の性格や仕事ぶりの「あることないこと」をネットに撒き散らした青井さんは偽計業務妨害罪でもおかしくない。元アイドルのラーメン店経営者に対して「反社とつながっている」と風説の流布を繰り返した50代の男もまさにそれだった。誹謗中傷には仕事に影響を与えるような妨害行為も多い。こいつは使うな、こいつはこういう奴だと取引先や媒体に匿名で連絡する。歪んだ正義と嫉妬、心理学では「引き下げ心理」とも呼ばれる。「それはあるかもしれません。あのころ、なにもかもうまくいかなかった男で、ゲームと少女だけが拠り所でしたから」 素直に認める青井さんだが、これも過去と割り切れているからこそ。理解ある奥さんもいて平穏に暮らしている。しかし被害者は割り切れていないかもしれない。やったほうは忘れても、やられたほうは忘れない。それでも青井さんの言うところの「その辺の一般人」である限りキャンセルカルチャーの心配はないし、青井さんの現在の仕事は具体的には書かないが万年人手不足の仕事でコロナ禍もあり、まずクビにはならない不人気職とのこと。このように誹謗中傷側から話を聞くとやったもん勝ち、本当に解決策はないのではと思わされる。あえて聞くが、かつての誹謗中傷者として、どうすれば誹謗中傷が無くなると思うか。「絶対に無くならないと思いますよ。実名制にしてもやる人はやるし、ネットってその辺の一般人最強ですから」 実名制は韓国も失敗した。確かに、日本でもFacebookの一部ユーザーなどは実名どころか顔から所属先まで晒して他者を攻撃していたりする。自営業や年金者に多い印象だが、前者はともかく後者はある意味で無敵、ほのぼのと孫の写真を晒したそばから誹謗中傷を繰り返している(それも全公開設定!)。無くならないというのが現実だろう。「個人的な考えですけど、中国の信用スコアとか効くんじゃないですか? たとえばネットなら誹謗中傷を繰り返せば手持ちのスコアが減るとか。それで就職とかローンとか、子どもの進学にも影響あるみたいな。それでお互い点を見ることができるシステムなら他人を気にする日本人に効くと思うんですけど、こいつは何点か~って点数見られる感じで」 こんな気持ち悪い全体主義、筆者は無論反対だが、これくらいしないと匿名の誹謗中傷、ネット上の暴力は無くならないと思わされるのもまた事実。2021年4月に改正プロバイダ責任制限法が成立、公布されたが、この程度ではかつての青井さんのようないわゆる「無敵の一般人」には効かないように思う。自分自身が幸せになればやめられると思う「自分はもうしてませんけど、いまも独身で仕事もだめだったら別のタゲ(ターゲットの意)を探していたと思います。みんなが幸せになればいいんでしょうけど、それは無理でしょう。だったら、誹謗中傷は無くならないでしょうね」 どこか他人事、誹謗中傷当事者の言葉だけに違和感しかないが、当たっているだけに筆者もこの話を終えたあと、さてどうルポを結実させようか考えてしまった。なのでせめて、青井さんとの一問一答が参考になればと改めて記す。なぜ誹謗中傷するのか、その心理の一例にはなるだろう。その公表は青井さんも望んでいる。匿名掲示板でもSNSでも誹謗中傷の心理そのものに違いはないだろう。 ――なぜ少女が苦しむほどに、あることないことを書き込んだのか「最初はファンだった。何度かイベントや撮影会で会ったが塩対応で態度が悪く、自分の思ったような子じゃなかった。よかれと思って年上としてアドバイスしたつもりが、気持ち悪がられて腹がたった。叩き始めると彼女のことばかり考えるようになった。純粋なファンのときより叩きはじめた後のほうが彼女のことばかり考えていたように思う」 ――少女の仕事や生活を脅かすとは思わなかったのか。「当時は彼女の活動が仕事だという感覚はなかった。自分の娯楽としか見ていなかった。際どい水着でおっさんに媚び売る子どもと、どこか下に見ていたのかもしれない。はっきりいってオカズだった」 ――和解したが誹謗中傷が引退のきっかけかもしれない、罪悪感はあるか。「そこは芸能人として見ていた。有名税だからという免罪符はあったと思う。罪悪なんて大げさな話ではなく、あくまでネタだった」 ――青井さんには過去かもしれないが彼女は忘れていないかもしれない。「それはキリがない。一生気にすることとは思わない。忘れて欲しいと思う」 ――誹謗中傷をしている人たちに先達として忠告することはあるか。「自分自身が幸せになればやめられると思う。ずっと不幸な人はわからない」 ――かつての加害者として誹謗中傷をされている人たちにアドバイスはあるか。「気にしないこと。それしかない。相手が名無しの一般人ならそれしかないと思う。訴えるのは自由だが実利は薄いと思う。罰則を厳しくしない国が悪い。法律の問題だと思う」 このような問答となったが、人それぞれに読み取れる部分は多いだろう。もちろん彼一人のサンプル、これがすべてと言わないが、多くの誹謗中傷側の感覚はお気軽なもので、自覚なしに追い詰める事例が大半のように思う。だからこそやっかいなのだ。いじめという名の犯罪行為同様、受けた側の傷に比べてあまりに軽い。拍子抜けするほどに。そして青井さんの言う「その辺の一般人」かつ無敵の人、それに準じるような人の場合、訴えたところで直接的な効果は薄い。裁判が終わってほとぼり冷めたらまた繰り返す危険人物すらいる。 中国の信用スコア、社会信用システムのようなディストピアは勘弁だが、それがコロナ禍の統制含め有効なのではという話もある。日本は憲法上そこまでできないし表現の自由との兼ね合いもあるが、被害者の苦しみを考えれば、さらなる開示の容易化と刑法の厳罰化の方向に進むのもまた現実だろう。 取材中、青井さんから謝罪の言葉は出なかった。これもまた現実だ。【プロフィール】日野百草(ひの・ひゃくそう)/本名:上崎洋一。1972年千葉県野田市生まれ。日本ペンクラブ会員。出版社を経てフリーランス。全国俳誌協会賞、日本詩歌句随筆評論協会賞奨励賞(評論部門)受賞。『誰も書けなかったパチンコ20兆円の闇』(宝島社・共著)、『ルポ 京アニを燃やした男』(第三書館)。近著『評伝 赤城さかえ 楸邨、波郷、兜太から愛された魂の俳人』(コールサック社)。
青井さんがネットで誹謗中傷した少女はグラビアアイドルといってもメジャーな芸能人ではなく、露出度の高いマイクロビキニやふんどしを着せるようなイメージビデオに何作か出演しただけの少女だった。2000年代中盤、とくに過激な作品が乱発された時代だ。「イベントや撮影会に何度か行ったんですが、彼女の対応が気に入らなかったんでネットに書き込んだのが最初ですね、自分としてはネタでした」 秋葉原のビデオ店やパソコンショップにはこうした新人グラドル御用達の小さなイベント会場がある。また少数のファンを集めて小さな撮影会を開いたりもする。青井さんはそこで実際に会い、やがて幻滅した。恋愛感情か。「どうでしょう、かわいいとは思ってましたし、付き合えればそりゃ嬉しいでしょう。(その少女のビデオを)オカズに使ってたのも事実です」 消費対象かという筆者の言葉に、「そう、そんな軽い感じです」と大きくうなずいた。青井さんはこんな軽い感じで攻撃を始めたわけだ。あることないこと書きたてて。少しミソジニー(女性嫌悪)をこじらせていたのでは?「それはあるかもしれません。理想の少女を勝手に作って、勝手に憎悪したわけで。それに匿名ならバレませんから。自分だけじゃなく、他にもアンチはいましたから」 他にもいる、は常套文句だ。しかし匿名でも実際は匿名ではない。しかるべき手順で開示請求して、地道に辿れば足はつく。「でもね、わかってて言ってると思うんですけど、お金持ってて影響力も桁違いの芸能人なら本気出せばできるかもしれませんが、普通は無理ですよ」 残念ながらそのとおり、誹謗中傷に断固とした対応で臨むと宣言した中川翔子さんのような大物芸能人ならともかく、ニッチなグラドルやコスプレイヤー、地下アイドルなど事務所も小さく資力もないどころか無所属の場合、資金的にも個人レベルでは誹謗中傷に真っ向から立ち向かうのは現実的に難しい。小金井ストーカー殺人未遂事件のように警察が動くほどの目に見える犯罪被害でもない限り、泣き寝入りかスルーというのが実情だ。誹謗中傷の主戦場がSNSに移ったいまも、多くの被害者が苦しんでいる。ネットってその辺の一般人最強ですから「自分はその子とリアルで知り合ったから足がつきましたけど、まあ一切会ってなければ(特定は)無理なんじゃないかな、まして当時(2000年代)では珍しいと思います」 青井さんは撮影会などでリアルに接していたことや生来のおしゃべりが祟り、察した事務所関係者に問い詰められた末に訴えると脅されて和解となった。つまりは民法上の「訴え提起前の和解」であり、実際に裁判所に出頭した上で二度と誹謗中傷をしないこと、近寄らないこと、という誓約書を作成させられたという。微々たる額だが和解金も支払った。「多くはこうして和解だと思います。おかしな人でもない限り、これで二度とやらないでしょうし、自分もそうでした」 こうして青井さんは正式な裁判に持ち込まれずに済んだ。その後、相手の少女はもちろん、他にも同じような誹謗中傷行為はしていないのか。「してませんね。もう年ですから。それに結婚もしましたし、いまの仕事も長いです。家庭あるんで」 誹謗中傷をした本人は結婚して平穏に暮らし、された側は引退して行方知れず。青井さんの話では、そのグラドルにはリスカ、手首を傷つけた跡もあったという。自分のせいではない、元から病ンドルだったと語るが釈然としない。奥さんは知っているのか。「知ってます。妻もネット好きだしオタク同士で価値観も一緒です。もうバカなことすんなよ、とは言われてますが」 今日一番嬉しそうな笑顔、地獄のような「子ども社会人」だった青井さんを救ったのは奥さんだ。微笑ましい限りだが、それでもやはり釈然としないことを告げる。すると青井さんは顔をしかめ、改まって言葉を繋いだ。「仕事に影響があったならかわいそうですけど、もう和解しましたし、昔の話ですから」 彼を責めることが目的ではないが、少女の性格や仕事ぶりの「あることないこと」をネットに撒き散らした青井さんは偽計業務妨害罪でもおかしくない。元アイドルのラーメン店経営者に対して「反社とつながっている」と風説の流布を繰り返した50代の男もまさにそれだった。誹謗中傷には仕事に影響を与えるような妨害行為も多い。こいつは使うな、こいつはこういう奴だと取引先や媒体に匿名で連絡する。歪んだ正義と嫉妬、心理学では「引き下げ心理」とも呼ばれる。「それはあるかもしれません。あのころ、なにもかもうまくいかなかった男で、ゲームと少女だけが拠り所でしたから」 素直に認める青井さんだが、これも過去と割り切れているからこそ。理解ある奥さんもいて平穏に暮らしている。しかし被害者は割り切れていないかもしれない。やったほうは忘れても、やられたほうは忘れない。それでも青井さんの言うところの「その辺の一般人」である限りキャンセルカルチャーの心配はないし、青井さんの現在の仕事は具体的には書かないが万年人手不足の仕事でコロナ禍もあり、まずクビにはならない不人気職とのこと。このように誹謗中傷側から話を聞くとやったもん勝ち、本当に解決策はないのではと思わされる。あえて聞くが、かつての誹謗中傷者として、どうすれば誹謗中傷が無くなると思うか。「絶対に無くならないと思いますよ。実名制にしてもやる人はやるし、ネットってその辺の一般人最強ですから」 実名制は韓国も失敗した。確かに、日本でもFacebookの一部ユーザーなどは実名どころか顔から所属先まで晒して他者を攻撃していたりする。自営業や年金者に多い印象だが、前者はともかく後者はある意味で無敵、ほのぼのと孫の写真を晒したそばから誹謗中傷を繰り返している(それも全公開設定!)。無くならないというのが現実だろう。「個人的な考えですけど、中国の信用スコアとか効くんじゃないですか? たとえばネットなら誹謗中傷を繰り返せば手持ちのスコアが減るとか。それで就職とかローンとか、子どもの進学にも影響あるみたいな。それでお互い点を見ることができるシステムなら他人を気にする日本人に効くと思うんですけど、こいつは何点か~って点数見られる感じで」 こんな気持ち悪い全体主義、筆者は無論反対だが、これくらいしないと匿名の誹謗中傷、ネット上の暴力は無くならないと思わされるのもまた事実。2021年4月に改正プロバイダ責任制限法が成立、公布されたが、この程度ではかつての青井さんのようないわゆる「無敵の一般人」には効かないように思う。自分自身が幸せになればやめられると思う「自分はもうしてませんけど、いまも独身で仕事もだめだったら別のタゲ(ターゲットの意)を探していたと思います。みんなが幸せになればいいんでしょうけど、それは無理でしょう。だったら、誹謗中傷は無くならないでしょうね」 どこか他人事、誹謗中傷当事者の言葉だけに違和感しかないが、当たっているだけに筆者もこの話を終えたあと、さてどうルポを結実させようか考えてしまった。なのでせめて、青井さんとの一問一答が参考になればと改めて記す。なぜ誹謗中傷するのか、その心理の一例にはなるだろう。その公表は青井さんも望んでいる。匿名掲示板でもSNSでも誹謗中傷の心理そのものに違いはないだろう。 ――なぜ少女が苦しむほどに、あることないことを書き込んだのか「最初はファンだった。何度かイベントや撮影会で会ったが塩対応で態度が悪く、自分の思ったような子じゃなかった。よかれと思って年上としてアドバイスしたつもりが、気持ち悪がられて腹がたった。叩き始めると彼女のことばかり考えるようになった。純粋なファンのときより叩きはじめた後のほうが彼女のことばかり考えていたように思う」 ――少女の仕事や生活を脅かすとは思わなかったのか。「当時は彼女の活動が仕事だという感覚はなかった。自分の娯楽としか見ていなかった。際どい水着でおっさんに媚び売る子どもと、どこか下に見ていたのかもしれない。はっきりいってオカズだった」 ――和解したが誹謗中傷が引退のきっかけかもしれない、罪悪感はあるか。「そこは芸能人として見ていた。有名税だからという免罪符はあったと思う。罪悪なんて大げさな話ではなく、あくまでネタだった」 ――青井さんには過去かもしれないが彼女は忘れていないかもしれない。「それはキリがない。一生気にすることとは思わない。忘れて欲しいと思う」 ――誹謗中傷をしている人たちに先達として忠告することはあるか。「自分自身が幸せになればやめられると思う。ずっと不幸な人はわからない」 ――かつての加害者として誹謗中傷をされている人たちにアドバイスはあるか。「気にしないこと。それしかない。相手が名無しの一般人ならそれしかないと思う。訴えるのは自由だが実利は薄いと思う。罰則を厳しくしない国が悪い。法律の問題だと思う」 このような問答となったが、人それぞれに読み取れる部分は多いだろう。もちろん彼一人のサンプル、これがすべてと言わないが、多くの誹謗中傷側の感覚はお気軽なもので、自覚なしに追い詰める事例が大半のように思う。だからこそやっかいなのだ。いじめという名の犯罪行為同様、受けた側の傷に比べてあまりに軽い。拍子抜けするほどに。そして青井さんの言う「その辺の一般人」かつ無敵の人、それに準じるような人の場合、訴えたところで直接的な効果は薄い。裁判が終わってほとぼり冷めたらまた繰り返す危険人物すらいる。 中国の信用スコア、社会信用システムのようなディストピアは勘弁だが、それがコロナ禍の統制含め有効なのではという話もある。日本は憲法上そこまでできないし表現の自由との兼ね合いもあるが、被害者の苦しみを考えれば、さらなる開示の容易化と刑法の厳罰化の方向に進むのもまた現実だろう。 取材中、青井さんから謝罪の言葉は出なかった。これもまた現実だ。【プロフィール】日野百草(ひの・ひゃくそう)/本名:上崎洋一。1972年千葉県野田市生まれ。日本ペンクラブ会員。出版社を経てフリーランス。全国俳誌協会賞、日本詩歌句随筆評論協会賞奨励賞(評論部門)受賞。『誰も書けなかったパチンコ20兆円の闇』(宝島社・共著)、『ルポ 京アニを燃やした男』(第三書館)。近著『評伝 赤城さかえ 楸邨、波郷、兜太から愛された魂の俳人』(コールサック社)。
「イベントや撮影会に何度か行ったんですが、彼女の対応が気に入らなかったんでネットに書き込んだのが最初ですね、自分としてはネタでした」 秋葉原のビデオ店やパソコンショップにはこうした新人グラドル御用達の小さなイベント会場がある。また少数のファンを集めて小さな撮影会を開いたりもする。青井さんはそこで実際に会い、やがて幻滅した。恋愛感情か。「どうでしょう、かわいいとは思ってましたし、付き合えればそりゃ嬉しいでしょう。(その少女のビデオを)オカズに使ってたのも事実です」 消費対象かという筆者の言葉に、「そう、そんな軽い感じです」と大きくうなずいた。青井さんはこんな軽い感じで攻撃を始めたわけだ。あることないこと書きたてて。少しミソジニー(女性嫌悪)をこじらせていたのでは?「それはあるかもしれません。理想の少女を勝手に作って、勝手に憎悪したわけで。それに匿名ならバレませんから。自分だけじゃなく、他にもアンチはいましたから」 他にもいる、は常套文句だ。しかし匿名でも実際は匿名ではない。しかるべき手順で開示請求して、地道に辿れば足はつく。「でもね、わかってて言ってると思うんですけど、お金持ってて影響力も桁違いの芸能人なら本気出せばできるかもしれませんが、普通は無理ですよ」 残念ながらそのとおり、誹謗中傷に断固とした対応で臨むと宣言した中川翔子さんのような大物芸能人ならともかく、ニッチなグラドルやコスプレイヤー、地下アイドルなど事務所も小さく資力もないどころか無所属の場合、資金的にも個人レベルでは誹謗中傷に真っ向から立ち向かうのは現実的に難しい。小金井ストーカー殺人未遂事件のように警察が動くほどの目に見える犯罪被害でもない限り、泣き寝入りかスルーというのが実情だ。誹謗中傷の主戦場がSNSに移ったいまも、多くの被害者が苦しんでいる。ネットってその辺の一般人最強ですから「自分はその子とリアルで知り合ったから足がつきましたけど、まあ一切会ってなければ(特定は)無理なんじゃないかな、まして当時(2000年代)では珍しいと思います」 青井さんは撮影会などでリアルに接していたことや生来のおしゃべりが祟り、察した事務所関係者に問い詰められた末に訴えると脅されて和解となった。つまりは民法上の「訴え提起前の和解」であり、実際に裁判所に出頭した上で二度と誹謗中傷をしないこと、近寄らないこと、という誓約書を作成させられたという。微々たる額だが和解金も支払った。「多くはこうして和解だと思います。おかしな人でもない限り、これで二度とやらないでしょうし、自分もそうでした」 こうして青井さんは正式な裁判に持ち込まれずに済んだ。その後、相手の少女はもちろん、他にも同じような誹謗中傷行為はしていないのか。「してませんね。もう年ですから。それに結婚もしましたし、いまの仕事も長いです。家庭あるんで」 誹謗中傷をした本人は結婚して平穏に暮らし、された側は引退して行方知れず。青井さんの話では、そのグラドルにはリスカ、手首を傷つけた跡もあったという。自分のせいではない、元から病ンドルだったと語るが釈然としない。奥さんは知っているのか。「知ってます。妻もネット好きだしオタク同士で価値観も一緒です。もうバカなことすんなよ、とは言われてますが」 今日一番嬉しそうな笑顔、地獄のような「子ども社会人」だった青井さんを救ったのは奥さんだ。微笑ましい限りだが、それでもやはり釈然としないことを告げる。すると青井さんは顔をしかめ、改まって言葉を繋いだ。「仕事に影響があったならかわいそうですけど、もう和解しましたし、昔の話ですから」 彼を責めることが目的ではないが、少女の性格や仕事ぶりの「あることないこと」をネットに撒き散らした青井さんは偽計業務妨害罪でもおかしくない。元アイドルのラーメン店経営者に対して「反社とつながっている」と風説の流布を繰り返した50代の男もまさにそれだった。誹謗中傷には仕事に影響を与えるような妨害行為も多い。こいつは使うな、こいつはこういう奴だと取引先や媒体に匿名で連絡する。歪んだ正義と嫉妬、心理学では「引き下げ心理」とも呼ばれる。「それはあるかもしれません。あのころ、なにもかもうまくいかなかった男で、ゲームと少女だけが拠り所でしたから」 素直に認める青井さんだが、これも過去と割り切れているからこそ。理解ある奥さんもいて平穏に暮らしている。しかし被害者は割り切れていないかもしれない。やったほうは忘れても、やられたほうは忘れない。それでも青井さんの言うところの「その辺の一般人」である限りキャンセルカルチャーの心配はないし、青井さんの現在の仕事は具体的には書かないが万年人手不足の仕事でコロナ禍もあり、まずクビにはならない不人気職とのこと。このように誹謗中傷側から話を聞くとやったもん勝ち、本当に解決策はないのではと思わされる。あえて聞くが、かつての誹謗中傷者として、どうすれば誹謗中傷が無くなると思うか。「絶対に無くならないと思いますよ。実名制にしてもやる人はやるし、ネットってその辺の一般人最強ですから」 実名制は韓国も失敗した。確かに、日本でもFacebookの一部ユーザーなどは実名どころか顔から所属先まで晒して他者を攻撃していたりする。自営業や年金者に多い印象だが、前者はともかく後者はある意味で無敵、ほのぼのと孫の写真を晒したそばから誹謗中傷を繰り返している(それも全公開設定!)。無くならないというのが現実だろう。「個人的な考えですけど、中国の信用スコアとか効くんじゃないですか? たとえばネットなら誹謗中傷を繰り返せば手持ちのスコアが減るとか。それで就職とかローンとか、子どもの進学にも影響あるみたいな。それでお互い点を見ることができるシステムなら他人を気にする日本人に効くと思うんですけど、こいつは何点か~って点数見られる感じで」 こんな気持ち悪い全体主義、筆者は無論反対だが、これくらいしないと匿名の誹謗中傷、ネット上の暴力は無くならないと思わされるのもまた事実。2021年4月に改正プロバイダ責任制限法が成立、公布されたが、この程度ではかつての青井さんのようないわゆる「無敵の一般人」には効かないように思う。自分自身が幸せになればやめられると思う「自分はもうしてませんけど、いまも独身で仕事もだめだったら別のタゲ(ターゲットの意)を探していたと思います。みんなが幸せになればいいんでしょうけど、それは無理でしょう。だったら、誹謗中傷は無くならないでしょうね」 どこか他人事、誹謗中傷当事者の言葉だけに違和感しかないが、当たっているだけに筆者もこの話を終えたあと、さてどうルポを結実させようか考えてしまった。なのでせめて、青井さんとの一問一答が参考になればと改めて記す。なぜ誹謗中傷するのか、その心理の一例にはなるだろう。その公表は青井さんも望んでいる。匿名掲示板でもSNSでも誹謗中傷の心理そのものに違いはないだろう。 ――なぜ少女が苦しむほどに、あることないことを書き込んだのか「最初はファンだった。何度かイベントや撮影会で会ったが塩対応で態度が悪く、自分の思ったような子じゃなかった。よかれと思って年上としてアドバイスしたつもりが、気持ち悪がられて腹がたった。叩き始めると彼女のことばかり考えるようになった。純粋なファンのときより叩きはじめた後のほうが彼女のことばかり考えていたように思う」 ――少女の仕事や生活を脅かすとは思わなかったのか。「当時は彼女の活動が仕事だという感覚はなかった。自分の娯楽としか見ていなかった。際どい水着でおっさんに媚び売る子どもと、どこか下に見ていたのかもしれない。はっきりいってオカズだった」 ――和解したが誹謗中傷が引退のきっかけかもしれない、罪悪感はあるか。「そこは芸能人として見ていた。有名税だからという免罪符はあったと思う。罪悪なんて大げさな話ではなく、あくまでネタだった」 ――青井さんには過去かもしれないが彼女は忘れていないかもしれない。「それはキリがない。一生気にすることとは思わない。忘れて欲しいと思う」 ――誹謗中傷をしている人たちに先達として忠告することはあるか。「自分自身が幸せになればやめられると思う。ずっと不幸な人はわからない」 ――かつての加害者として誹謗中傷をされている人たちにアドバイスはあるか。「気にしないこと。それしかない。相手が名無しの一般人ならそれしかないと思う。訴えるのは自由だが実利は薄いと思う。罰則を厳しくしない国が悪い。法律の問題だと思う」 このような問答となったが、人それぞれに読み取れる部分は多いだろう。もちろん彼一人のサンプル、これがすべてと言わないが、多くの誹謗中傷側の感覚はお気軽なもので、自覚なしに追い詰める事例が大半のように思う。だからこそやっかいなのだ。いじめという名の犯罪行為同様、受けた側の傷に比べてあまりに軽い。拍子抜けするほどに。そして青井さんの言う「その辺の一般人」かつ無敵の人、それに準じるような人の場合、訴えたところで直接的な効果は薄い。裁判が終わってほとぼり冷めたらまた繰り返す危険人物すらいる。 中国の信用スコア、社会信用システムのようなディストピアは勘弁だが、それがコロナ禍の統制含め有効なのではという話もある。日本は憲法上そこまでできないし表現の自由との兼ね合いもあるが、被害者の苦しみを考えれば、さらなる開示の容易化と刑法の厳罰化の方向に進むのもまた現実だろう。 取材中、青井さんから謝罪の言葉は出なかった。これもまた現実だ。【プロフィール】日野百草(ひの・ひゃくそう)/本名:上崎洋一。1972年千葉県野田市生まれ。日本ペンクラブ会員。出版社を経てフリーランス。全国俳誌協会賞、日本詩歌句随筆評論協会賞奨励賞(評論部門)受賞。『誰も書けなかったパチンコ20兆円の闇』(宝島社・共著)、『ルポ 京アニを燃やした男』(第三書館)。近著『評伝 赤城さかえ 楸邨、波郷、兜太から愛された魂の俳人』(コールサック社)。
秋葉原のビデオ店やパソコンショップにはこうした新人グラドル御用達の小さなイベント会場がある。また少数のファンを集めて小さな撮影会を開いたりもする。青井さんはそこで実際に会い、やがて幻滅した。恋愛感情か。「どうでしょう、かわいいとは思ってましたし、付き合えればそりゃ嬉しいでしょう。(その少女のビデオを)オカズに使ってたのも事実です」 消費対象かという筆者の言葉に、「そう、そんな軽い感じです」と大きくうなずいた。青井さんはこんな軽い感じで攻撃を始めたわけだ。あることないこと書きたてて。少しミソジニー(女性嫌悪)をこじらせていたのでは?「それはあるかもしれません。理想の少女を勝手に作って、勝手に憎悪したわけで。それに匿名ならバレませんから。自分だけじゃなく、他にもアンチはいましたから」 他にもいる、は常套文句だ。しかし匿名でも実際は匿名ではない。しかるべき手順で開示請求して、地道に辿れば足はつく。「でもね、わかってて言ってると思うんですけど、お金持ってて影響力も桁違いの芸能人なら本気出せばできるかもしれませんが、普通は無理ですよ」 残念ながらそのとおり、誹謗中傷に断固とした対応で臨むと宣言した中川翔子さんのような大物芸能人ならともかく、ニッチなグラドルやコスプレイヤー、地下アイドルなど事務所も小さく資力もないどころか無所属の場合、資金的にも個人レベルでは誹謗中傷に真っ向から立ち向かうのは現実的に難しい。小金井ストーカー殺人未遂事件のように警察が動くほどの目に見える犯罪被害でもない限り、泣き寝入りかスルーというのが実情だ。誹謗中傷の主戦場がSNSに移ったいまも、多くの被害者が苦しんでいる。ネットってその辺の一般人最強ですから「自分はその子とリアルで知り合ったから足がつきましたけど、まあ一切会ってなければ(特定は)無理なんじゃないかな、まして当時(2000年代)では珍しいと思います」 青井さんは撮影会などでリアルに接していたことや生来のおしゃべりが祟り、察した事務所関係者に問い詰められた末に訴えると脅されて和解となった。つまりは民法上の「訴え提起前の和解」であり、実際に裁判所に出頭した上で二度と誹謗中傷をしないこと、近寄らないこと、という誓約書を作成させられたという。微々たる額だが和解金も支払った。「多くはこうして和解だと思います。おかしな人でもない限り、これで二度とやらないでしょうし、自分もそうでした」 こうして青井さんは正式な裁判に持ち込まれずに済んだ。その後、相手の少女はもちろん、他にも同じような誹謗中傷行為はしていないのか。「してませんね。もう年ですから。それに結婚もしましたし、いまの仕事も長いです。家庭あるんで」 誹謗中傷をした本人は結婚して平穏に暮らし、された側は引退して行方知れず。青井さんの話では、そのグラドルにはリスカ、手首を傷つけた跡もあったという。自分のせいではない、元から病ンドルだったと語るが釈然としない。奥さんは知っているのか。「知ってます。妻もネット好きだしオタク同士で価値観も一緒です。もうバカなことすんなよ、とは言われてますが」 今日一番嬉しそうな笑顔、地獄のような「子ども社会人」だった青井さんを救ったのは奥さんだ。微笑ましい限りだが、それでもやはり釈然としないことを告げる。すると青井さんは顔をしかめ、改まって言葉を繋いだ。「仕事に影響があったならかわいそうですけど、もう和解しましたし、昔の話ですから」 彼を責めることが目的ではないが、少女の性格や仕事ぶりの「あることないこと」をネットに撒き散らした青井さんは偽計業務妨害罪でもおかしくない。元アイドルのラーメン店経営者に対して「反社とつながっている」と風説の流布を繰り返した50代の男もまさにそれだった。誹謗中傷には仕事に影響を与えるような妨害行為も多い。こいつは使うな、こいつはこういう奴だと取引先や媒体に匿名で連絡する。歪んだ正義と嫉妬、心理学では「引き下げ心理」とも呼ばれる。「それはあるかもしれません。あのころ、なにもかもうまくいかなかった男で、ゲームと少女だけが拠り所でしたから」 素直に認める青井さんだが、これも過去と割り切れているからこそ。理解ある奥さんもいて平穏に暮らしている。しかし被害者は割り切れていないかもしれない。やったほうは忘れても、やられたほうは忘れない。それでも青井さんの言うところの「その辺の一般人」である限りキャンセルカルチャーの心配はないし、青井さんの現在の仕事は具体的には書かないが万年人手不足の仕事でコロナ禍もあり、まずクビにはならない不人気職とのこと。このように誹謗中傷側から話を聞くとやったもん勝ち、本当に解決策はないのではと思わされる。あえて聞くが、かつての誹謗中傷者として、どうすれば誹謗中傷が無くなると思うか。「絶対に無くならないと思いますよ。実名制にしてもやる人はやるし、ネットってその辺の一般人最強ですから」 実名制は韓国も失敗した。確かに、日本でもFacebookの一部ユーザーなどは実名どころか顔から所属先まで晒して他者を攻撃していたりする。自営業や年金者に多い印象だが、前者はともかく後者はある意味で無敵、ほのぼのと孫の写真を晒したそばから誹謗中傷を繰り返している(それも全公開設定!)。無くならないというのが現実だろう。「個人的な考えですけど、中国の信用スコアとか効くんじゃないですか? たとえばネットなら誹謗中傷を繰り返せば手持ちのスコアが減るとか。それで就職とかローンとか、子どもの進学にも影響あるみたいな。それでお互い点を見ることができるシステムなら他人を気にする日本人に効くと思うんですけど、こいつは何点か~って点数見られる感じで」 こんな気持ち悪い全体主義、筆者は無論反対だが、これくらいしないと匿名の誹謗中傷、ネット上の暴力は無くならないと思わされるのもまた事実。2021年4月に改正プロバイダ責任制限法が成立、公布されたが、この程度ではかつての青井さんのようないわゆる「無敵の一般人」には効かないように思う。自分自身が幸せになればやめられると思う「自分はもうしてませんけど、いまも独身で仕事もだめだったら別のタゲ(ターゲットの意)を探していたと思います。みんなが幸せになればいいんでしょうけど、それは無理でしょう。だったら、誹謗中傷は無くならないでしょうね」 どこか他人事、誹謗中傷当事者の言葉だけに違和感しかないが、当たっているだけに筆者もこの話を終えたあと、さてどうルポを結実させようか考えてしまった。なのでせめて、青井さんとの一問一答が参考になればと改めて記す。なぜ誹謗中傷するのか、その心理の一例にはなるだろう。その公表は青井さんも望んでいる。匿名掲示板でもSNSでも誹謗中傷の心理そのものに違いはないだろう。 ――なぜ少女が苦しむほどに、あることないことを書き込んだのか「最初はファンだった。何度かイベントや撮影会で会ったが塩対応で態度が悪く、自分の思ったような子じゃなかった。よかれと思って年上としてアドバイスしたつもりが、気持ち悪がられて腹がたった。叩き始めると彼女のことばかり考えるようになった。純粋なファンのときより叩きはじめた後のほうが彼女のことばかり考えていたように思う」 ――少女の仕事や生活を脅かすとは思わなかったのか。「当時は彼女の活動が仕事だという感覚はなかった。自分の娯楽としか見ていなかった。際どい水着でおっさんに媚び売る子どもと、どこか下に見ていたのかもしれない。はっきりいってオカズだった」 ――和解したが誹謗中傷が引退のきっかけかもしれない、罪悪感はあるか。「そこは芸能人として見ていた。有名税だからという免罪符はあったと思う。罪悪なんて大げさな話ではなく、あくまでネタだった」 ――青井さんには過去かもしれないが彼女は忘れていないかもしれない。「それはキリがない。一生気にすることとは思わない。忘れて欲しいと思う」 ――誹謗中傷をしている人たちに先達として忠告することはあるか。「自分自身が幸せになればやめられると思う。ずっと不幸な人はわからない」 ――かつての加害者として誹謗中傷をされている人たちにアドバイスはあるか。「気にしないこと。それしかない。相手が名無しの一般人ならそれしかないと思う。訴えるのは自由だが実利は薄いと思う。罰則を厳しくしない国が悪い。法律の問題だと思う」 このような問答となったが、人それぞれに読み取れる部分は多いだろう。もちろん彼一人のサンプル、これがすべてと言わないが、多くの誹謗中傷側の感覚はお気軽なもので、自覚なしに追い詰める事例が大半のように思う。だからこそやっかいなのだ。いじめという名の犯罪行為同様、受けた側の傷に比べてあまりに軽い。拍子抜けするほどに。そして青井さんの言う「その辺の一般人」かつ無敵の人、それに準じるような人の場合、訴えたところで直接的な効果は薄い。裁判が終わってほとぼり冷めたらまた繰り返す危険人物すらいる。 中国の信用スコア、社会信用システムのようなディストピアは勘弁だが、それがコロナ禍の統制含め有効なのではという話もある。日本は憲法上そこまでできないし表現の自由との兼ね合いもあるが、被害者の苦しみを考えれば、さらなる開示の容易化と刑法の厳罰化の方向に進むのもまた現実だろう。 取材中、青井さんから謝罪の言葉は出なかった。これもまた現実だ。【プロフィール】日野百草(ひの・ひゃくそう)/本名:上崎洋一。1972年千葉県野田市生まれ。日本ペンクラブ会員。出版社を経てフリーランス。全国俳誌協会賞、日本詩歌句随筆評論協会賞奨励賞(評論部門)受賞。『誰も書けなかったパチンコ20兆円の闇』(宝島社・共著)、『ルポ 京アニを燃やした男』(第三書館)。近著『評伝 赤城さかえ 楸邨、波郷、兜太から愛された魂の俳人』(コールサック社)。
「どうでしょう、かわいいとは思ってましたし、付き合えればそりゃ嬉しいでしょう。(その少女のビデオを)オカズに使ってたのも事実です」 消費対象かという筆者の言葉に、「そう、そんな軽い感じです」と大きくうなずいた。青井さんはこんな軽い感じで攻撃を始めたわけだ。あることないこと書きたてて。少しミソジニー(女性嫌悪)をこじらせていたのでは?「それはあるかもしれません。理想の少女を勝手に作って、勝手に憎悪したわけで。それに匿名ならバレませんから。自分だけじゃなく、他にもアンチはいましたから」 他にもいる、は常套文句だ。しかし匿名でも実際は匿名ではない。しかるべき手順で開示請求して、地道に辿れば足はつく。「でもね、わかってて言ってると思うんですけど、お金持ってて影響力も桁違いの芸能人なら本気出せばできるかもしれませんが、普通は無理ですよ」 残念ながらそのとおり、誹謗中傷に断固とした対応で臨むと宣言した中川翔子さんのような大物芸能人ならともかく、ニッチなグラドルやコスプレイヤー、地下アイドルなど事務所も小さく資力もないどころか無所属の場合、資金的にも個人レベルでは誹謗中傷に真っ向から立ち向かうのは現実的に難しい。小金井ストーカー殺人未遂事件のように警察が動くほどの目に見える犯罪被害でもない限り、泣き寝入りかスルーというのが実情だ。誹謗中傷の主戦場がSNSに移ったいまも、多くの被害者が苦しんでいる。ネットってその辺の一般人最強ですから「自分はその子とリアルで知り合ったから足がつきましたけど、まあ一切会ってなければ(特定は)無理なんじゃないかな、まして当時(2000年代)では珍しいと思います」 青井さんは撮影会などでリアルに接していたことや生来のおしゃべりが祟り、察した事務所関係者に問い詰められた末に訴えると脅されて和解となった。つまりは民法上の「訴え提起前の和解」であり、実際に裁判所に出頭した上で二度と誹謗中傷をしないこと、近寄らないこと、という誓約書を作成させられたという。微々たる額だが和解金も支払った。「多くはこうして和解だと思います。おかしな人でもない限り、これで二度とやらないでしょうし、自分もそうでした」 こうして青井さんは正式な裁判に持ち込まれずに済んだ。その後、相手の少女はもちろん、他にも同じような誹謗中傷行為はしていないのか。「してませんね。もう年ですから。それに結婚もしましたし、いまの仕事も長いです。家庭あるんで」 誹謗中傷をした本人は結婚して平穏に暮らし、された側は引退して行方知れず。青井さんの話では、そのグラドルにはリスカ、手首を傷つけた跡もあったという。自分のせいではない、元から病ンドルだったと語るが釈然としない。奥さんは知っているのか。「知ってます。妻もネット好きだしオタク同士で価値観も一緒です。もうバカなことすんなよ、とは言われてますが」 今日一番嬉しそうな笑顔、地獄のような「子ども社会人」だった青井さんを救ったのは奥さんだ。微笑ましい限りだが、それでもやはり釈然としないことを告げる。すると青井さんは顔をしかめ、改まって言葉を繋いだ。「仕事に影響があったならかわいそうですけど、もう和解しましたし、昔の話ですから」 彼を責めることが目的ではないが、少女の性格や仕事ぶりの「あることないこと」をネットに撒き散らした青井さんは偽計業務妨害罪でもおかしくない。元アイドルのラーメン店経営者に対して「反社とつながっている」と風説の流布を繰り返した50代の男もまさにそれだった。誹謗中傷には仕事に影響を与えるような妨害行為も多い。こいつは使うな、こいつはこういう奴だと取引先や媒体に匿名で連絡する。歪んだ正義と嫉妬、心理学では「引き下げ心理」とも呼ばれる。「それはあるかもしれません。あのころ、なにもかもうまくいかなかった男で、ゲームと少女だけが拠り所でしたから」 素直に認める青井さんだが、これも過去と割り切れているからこそ。理解ある奥さんもいて平穏に暮らしている。しかし被害者は割り切れていないかもしれない。やったほうは忘れても、やられたほうは忘れない。それでも青井さんの言うところの「その辺の一般人」である限りキャンセルカルチャーの心配はないし、青井さんの現在の仕事は具体的には書かないが万年人手不足の仕事でコロナ禍もあり、まずクビにはならない不人気職とのこと。このように誹謗中傷側から話を聞くとやったもん勝ち、本当に解決策はないのではと思わされる。あえて聞くが、かつての誹謗中傷者として、どうすれば誹謗中傷が無くなると思うか。「絶対に無くならないと思いますよ。実名制にしてもやる人はやるし、ネットってその辺の一般人最強ですから」 実名制は韓国も失敗した。確かに、日本でもFacebookの一部ユーザーなどは実名どころか顔から所属先まで晒して他者を攻撃していたりする。自営業や年金者に多い印象だが、前者はともかく後者はある意味で無敵、ほのぼのと孫の写真を晒したそばから誹謗中傷を繰り返している(それも全公開設定!)。無くならないというのが現実だろう。「個人的な考えですけど、中国の信用スコアとか効くんじゃないですか? たとえばネットなら誹謗中傷を繰り返せば手持ちのスコアが減るとか。それで就職とかローンとか、子どもの進学にも影響あるみたいな。それでお互い点を見ることができるシステムなら他人を気にする日本人に効くと思うんですけど、こいつは何点か~って点数見られる感じで」 こんな気持ち悪い全体主義、筆者は無論反対だが、これくらいしないと匿名の誹謗中傷、ネット上の暴力は無くならないと思わされるのもまた事実。2021年4月に改正プロバイダ責任制限法が成立、公布されたが、この程度ではかつての青井さんのようないわゆる「無敵の一般人」には効かないように思う。自分自身が幸せになればやめられると思う「自分はもうしてませんけど、いまも独身で仕事もだめだったら別のタゲ(ターゲットの意)を探していたと思います。みんなが幸せになればいいんでしょうけど、それは無理でしょう。だったら、誹謗中傷は無くならないでしょうね」 どこか他人事、誹謗中傷当事者の言葉だけに違和感しかないが、当たっているだけに筆者もこの話を終えたあと、さてどうルポを結実させようか考えてしまった。なのでせめて、青井さんとの一問一答が参考になればと改めて記す。なぜ誹謗中傷するのか、その心理の一例にはなるだろう。その公表は青井さんも望んでいる。匿名掲示板でもSNSでも誹謗中傷の心理そのものに違いはないだろう。 ――なぜ少女が苦しむほどに、あることないことを書き込んだのか「最初はファンだった。何度かイベントや撮影会で会ったが塩対応で態度が悪く、自分の思ったような子じゃなかった。よかれと思って年上としてアドバイスしたつもりが、気持ち悪がられて腹がたった。叩き始めると彼女のことばかり考えるようになった。純粋なファンのときより叩きはじめた後のほうが彼女のことばかり考えていたように思う」 ――少女の仕事や生活を脅かすとは思わなかったのか。「当時は彼女の活動が仕事だという感覚はなかった。自分の娯楽としか見ていなかった。際どい水着でおっさんに媚び売る子どもと、どこか下に見ていたのかもしれない。はっきりいってオカズだった」 ――和解したが誹謗中傷が引退のきっかけかもしれない、罪悪感はあるか。「そこは芸能人として見ていた。有名税だからという免罪符はあったと思う。罪悪なんて大げさな話ではなく、あくまでネタだった」 ――青井さんには過去かもしれないが彼女は忘れていないかもしれない。「それはキリがない。一生気にすることとは思わない。忘れて欲しいと思う」 ――誹謗中傷をしている人たちに先達として忠告することはあるか。「自分自身が幸せになればやめられると思う。ずっと不幸な人はわからない」 ――かつての加害者として誹謗中傷をされている人たちにアドバイスはあるか。「気にしないこと。それしかない。相手が名無しの一般人ならそれしかないと思う。訴えるのは自由だが実利は薄いと思う。罰則を厳しくしない国が悪い。法律の問題だと思う」 このような問答となったが、人それぞれに読み取れる部分は多いだろう。もちろん彼一人のサンプル、これがすべてと言わないが、多くの誹謗中傷側の感覚はお気軽なもので、自覚なしに追い詰める事例が大半のように思う。だからこそやっかいなのだ。いじめという名の犯罪行為同様、受けた側の傷に比べてあまりに軽い。拍子抜けするほどに。そして青井さんの言う「その辺の一般人」かつ無敵の人、それに準じるような人の場合、訴えたところで直接的な効果は薄い。裁判が終わってほとぼり冷めたらまた繰り返す危険人物すらいる。 中国の信用スコア、社会信用システムのようなディストピアは勘弁だが、それがコロナ禍の統制含め有効なのではという話もある。日本は憲法上そこまでできないし表現の自由との兼ね合いもあるが、被害者の苦しみを考えれば、さらなる開示の容易化と刑法の厳罰化の方向に進むのもまた現実だろう。 取材中、青井さんから謝罪の言葉は出なかった。これもまた現実だ。【プロフィール】日野百草(ひの・ひゃくそう)/本名:上崎洋一。1972年千葉県野田市生まれ。日本ペンクラブ会員。出版社を経てフリーランス。全国俳誌協会賞、日本詩歌句随筆評論協会賞奨励賞(評論部門)受賞。『誰も書けなかったパチンコ20兆円の闇』(宝島社・共著)、『ルポ 京アニを燃やした男』(第三書館)。近著『評伝 赤城さかえ 楸邨、波郷、兜太から愛された魂の俳人』(コールサック社)。
消費対象かという筆者の言葉に、「そう、そんな軽い感じです」と大きくうなずいた。青井さんはこんな軽い感じで攻撃を始めたわけだ。あることないこと書きたてて。少しミソジニー(女性嫌悪)をこじらせていたのでは?「それはあるかもしれません。理想の少女を勝手に作って、勝手に憎悪したわけで。それに匿名ならバレませんから。自分だけじゃなく、他にもアンチはいましたから」 他にもいる、は常套文句だ。しかし匿名でも実際は匿名ではない。しかるべき手順で開示請求して、地道に辿れば足はつく。「でもね、わかってて言ってると思うんですけど、お金持ってて影響力も桁違いの芸能人なら本気出せばできるかもしれませんが、普通は無理ですよ」 残念ながらそのとおり、誹謗中傷に断固とした対応で臨むと宣言した中川翔子さんのような大物芸能人ならともかく、ニッチなグラドルやコスプレイヤー、地下アイドルなど事務所も小さく資力もないどころか無所属の場合、資金的にも個人レベルでは誹謗中傷に真っ向から立ち向かうのは現実的に難しい。小金井ストーカー殺人未遂事件のように警察が動くほどの目に見える犯罪被害でもない限り、泣き寝入りかスルーというのが実情だ。誹謗中傷の主戦場がSNSに移ったいまも、多くの被害者が苦しんでいる。ネットってその辺の一般人最強ですから「自分はその子とリアルで知り合ったから足がつきましたけど、まあ一切会ってなければ(特定は)無理なんじゃないかな、まして当時(2000年代)では珍しいと思います」 青井さんは撮影会などでリアルに接していたことや生来のおしゃべりが祟り、察した事務所関係者に問い詰められた末に訴えると脅されて和解となった。つまりは民法上の「訴え提起前の和解」であり、実際に裁判所に出頭した上で二度と誹謗中傷をしないこと、近寄らないこと、という誓約書を作成させられたという。微々たる額だが和解金も支払った。「多くはこうして和解だと思います。おかしな人でもない限り、これで二度とやらないでしょうし、自分もそうでした」 こうして青井さんは正式な裁判に持ち込まれずに済んだ。その後、相手の少女はもちろん、他にも同じような誹謗中傷行為はしていないのか。「してませんね。もう年ですから。それに結婚もしましたし、いまの仕事も長いです。家庭あるんで」 誹謗中傷をした本人は結婚して平穏に暮らし、された側は引退して行方知れず。青井さんの話では、そのグラドルにはリスカ、手首を傷つけた跡もあったという。自分のせいではない、元から病ンドルだったと語るが釈然としない。奥さんは知っているのか。「知ってます。妻もネット好きだしオタク同士で価値観も一緒です。もうバカなことすんなよ、とは言われてますが」 今日一番嬉しそうな笑顔、地獄のような「子ども社会人」だった青井さんを救ったのは奥さんだ。微笑ましい限りだが、それでもやはり釈然としないことを告げる。すると青井さんは顔をしかめ、改まって言葉を繋いだ。「仕事に影響があったならかわいそうですけど、もう和解しましたし、昔の話ですから」 彼を責めることが目的ではないが、少女の性格や仕事ぶりの「あることないこと」をネットに撒き散らした青井さんは偽計業務妨害罪でもおかしくない。元アイドルのラーメン店経営者に対して「反社とつながっている」と風説の流布を繰り返した50代の男もまさにそれだった。誹謗中傷には仕事に影響を与えるような妨害行為も多い。こいつは使うな、こいつはこういう奴だと取引先や媒体に匿名で連絡する。歪んだ正義と嫉妬、心理学では「引き下げ心理」とも呼ばれる。「それはあるかもしれません。あのころ、なにもかもうまくいかなかった男で、ゲームと少女だけが拠り所でしたから」 素直に認める青井さんだが、これも過去と割り切れているからこそ。理解ある奥さんもいて平穏に暮らしている。しかし被害者は割り切れていないかもしれない。やったほうは忘れても、やられたほうは忘れない。それでも青井さんの言うところの「その辺の一般人」である限りキャンセルカルチャーの心配はないし、青井さんの現在の仕事は具体的には書かないが万年人手不足の仕事でコロナ禍もあり、まずクビにはならない不人気職とのこと。このように誹謗中傷側から話を聞くとやったもん勝ち、本当に解決策はないのではと思わされる。あえて聞くが、かつての誹謗中傷者として、どうすれば誹謗中傷が無くなると思うか。「絶対に無くならないと思いますよ。実名制にしてもやる人はやるし、ネットってその辺の一般人最強ですから」 実名制は韓国も失敗した。確かに、日本でもFacebookの一部ユーザーなどは実名どころか顔から所属先まで晒して他者を攻撃していたりする。自営業や年金者に多い印象だが、前者はともかく後者はある意味で無敵、ほのぼのと孫の写真を晒したそばから誹謗中傷を繰り返している(それも全公開設定!)。無くならないというのが現実だろう。「個人的な考えですけど、中国の信用スコアとか効くんじゃないですか? たとえばネットなら誹謗中傷を繰り返せば手持ちのスコアが減るとか。それで就職とかローンとか、子どもの進学にも影響あるみたいな。それでお互い点を見ることができるシステムなら他人を気にする日本人に効くと思うんですけど、こいつは何点か~って点数見られる感じで」 こんな気持ち悪い全体主義、筆者は無論反対だが、これくらいしないと匿名の誹謗中傷、ネット上の暴力は無くならないと思わされるのもまた事実。2021年4月に改正プロバイダ責任制限法が成立、公布されたが、この程度ではかつての青井さんのようないわゆる「無敵の一般人」には効かないように思う。自分自身が幸せになればやめられると思う「自分はもうしてませんけど、いまも独身で仕事もだめだったら別のタゲ(ターゲットの意)を探していたと思います。みんなが幸せになればいいんでしょうけど、それは無理でしょう。だったら、誹謗中傷は無くならないでしょうね」 どこか他人事、誹謗中傷当事者の言葉だけに違和感しかないが、当たっているだけに筆者もこの話を終えたあと、さてどうルポを結実させようか考えてしまった。なのでせめて、青井さんとの一問一答が参考になればと改めて記す。なぜ誹謗中傷するのか、その心理の一例にはなるだろう。その公表は青井さんも望んでいる。匿名掲示板でもSNSでも誹謗中傷の心理そのものに違いはないだろう。 ――なぜ少女が苦しむほどに、あることないことを書き込んだのか「最初はファンだった。何度かイベントや撮影会で会ったが塩対応で態度が悪く、自分の思ったような子じゃなかった。よかれと思って年上としてアドバイスしたつもりが、気持ち悪がられて腹がたった。叩き始めると彼女のことばかり考えるようになった。純粋なファンのときより叩きはじめた後のほうが彼女のことばかり考えていたように思う」 ――少女の仕事や生活を脅かすとは思わなかったのか。「当時は彼女の活動が仕事だという感覚はなかった。自分の娯楽としか見ていなかった。際どい水着でおっさんに媚び売る子どもと、どこか下に見ていたのかもしれない。はっきりいってオカズだった」 ――和解したが誹謗中傷が引退のきっかけかもしれない、罪悪感はあるか。「そこは芸能人として見ていた。有名税だからという免罪符はあったと思う。罪悪なんて大げさな話ではなく、あくまでネタだった」 ――青井さんには過去かもしれないが彼女は忘れていないかもしれない。「それはキリがない。一生気にすることとは思わない。忘れて欲しいと思う」 ――誹謗中傷をしている人たちに先達として忠告することはあるか。「自分自身が幸せになればやめられると思う。ずっと不幸な人はわからない」 ――かつての加害者として誹謗中傷をされている人たちにアドバイスはあるか。「気にしないこと。それしかない。相手が名無しの一般人ならそれしかないと思う。訴えるのは自由だが実利は薄いと思う。罰則を厳しくしない国が悪い。法律の問題だと思う」 このような問答となったが、人それぞれに読み取れる部分は多いだろう。もちろん彼一人のサンプル、これがすべてと言わないが、多くの誹謗中傷側の感覚はお気軽なもので、自覚なしに追い詰める事例が大半のように思う。だからこそやっかいなのだ。いじめという名の犯罪行為同様、受けた側の傷に比べてあまりに軽い。拍子抜けするほどに。そして青井さんの言う「その辺の一般人」かつ無敵の人、それに準じるような人の場合、訴えたところで直接的な効果は薄い。裁判が終わってほとぼり冷めたらまた繰り返す危険人物すらいる。 中国の信用スコア、社会信用システムのようなディストピアは勘弁だが、それがコロナ禍の統制含め有効なのではという話もある。日本は憲法上そこまでできないし表現の自由との兼ね合いもあるが、被害者の苦しみを考えれば、さらなる開示の容易化と刑法の厳罰化の方向に進むのもまた現実だろう。 取材中、青井さんから謝罪の言葉は出なかった。これもまた現実だ。【プロフィール】日野百草(ひの・ひゃくそう)/本名:上崎洋一。1972年千葉県野田市生まれ。日本ペンクラブ会員。出版社を経てフリーランス。全国俳誌協会賞、日本詩歌句随筆評論協会賞奨励賞(評論部門)受賞。『誰も書けなかったパチンコ20兆円の闇』(宝島社・共著)、『ルポ 京アニを燃やした男』(第三書館)。近著『評伝 赤城さかえ 楸邨、波郷、兜太から愛された魂の俳人』(コールサック社)。
「それはあるかもしれません。理想の少女を勝手に作って、勝手に憎悪したわけで。それに匿名ならバレませんから。自分だけじゃなく、他にもアンチはいましたから」 他にもいる、は常套文句だ。しかし匿名でも実際は匿名ではない。しかるべき手順で開示請求して、地道に辿れば足はつく。「でもね、わかってて言ってると思うんですけど、お金持ってて影響力も桁違いの芸能人なら本気出せばできるかもしれませんが、普通は無理ですよ」 残念ながらそのとおり、誹謗中傷に断固とした対応で臨むと宣言した中川翔子さんのような大物芸能人ならともかく、ニッチなグラドルやコスプレイヤー、地下アイドルなど事務所も小さく資力もないどころか無所属の場合、資金的にも個人レベルでは誹謗中傷に真っ向から立ち向かうのは現実的に難しい。小金井ストーカー殺人未遂事件のように警察が動くほどの目に見える犯罪被害でもない限り、泣き寝入りかスルーというのが実情だ。誹謗中傷の主戦場がSNSに移ったいまも、多くの被害者が苦しんでいる。ネットってその辺の一般人最強ですから「自分はその子とリアルで知り合ったから足がつきましたけど、まあ一切会ってなければ(特定は)無理なんじゃないかな、まして当時(2000年代)では珍しいと思います」 青井さんは撮影会などでリアルに接していたことや生来のおしゃべりが祟り、察した事務所関係者に問い詰められた末に訴えると脅されて和解となった。つまりは民法上の「訴え提起前の和解」であり、実際に裁判所に出頭した上で二度と誹謗中傷をしないこと、近寄らないこと、という誓約書を作成させられたという。微々たる額だが和解金も支払った。「多くはこうして和解だと思います。おかしな人でもない限り、これで二度とやらないでしょうし、自分もそうでした」 こうして青井さんは正式な裁判に持ち込まれずに済んだ。その後、相手の少女はもちろん、他にも同じような誹謗中傷行為はしていないのか。「してませんね。もう年ですから。それに結婚もしましたし、いまの仕事も長いです。家庭あるんで」 誹謗中傷をした本人は結婚して平穏に暮らし、された側は引退して行方知れず。青井さんの話では、そのグラドルにはリスカ、手首を傷つけた跡もあったという。自分のせいではない、元から病ンドルだったと語るが釈然としない。奥さんは知っているのか。「知ってます。妻もネット好きだしオタク同士で価値観も一緒です。もうバカなことすんなよ、とは言われてますが」 今日一番嬉しそうな笑顔、地獄のような「子ども社会人」だった青井さんを救ったのは奥さんだ。微笑ましい限りだが、それでもやはり釈然としないことを告げる。すると青井さんは顔をしかめ、改まって言葉を繋いだ。「仕事に影響があったならかわいそうですけど、もう和解しましたし、昔の話ですから」 彼を責めることが目的ではないが、少女の性格や仕事ぶりの「あることないこと」をネットに撒き散らした青井さんは偽計業務妨害罪でもおかしくない。元アイドルのラーメン店経営者に対して「反社とつながっている」と風説の流布を繰り返した50代の男もまさにそれだった。誹謗中傷には仕事に影響を与えるような妨害行為も多い。こいつは使うな、こいつはこういう奴だと取引先や媒体に匿名で連絡する。歪んだ正義と嫉妬、心理学では「引き下げ心理」とも呼ばれる。「それはあるかもしれません。あのころ、なにもかもうまくいかなかった男で、ゲームと少女だけが拠り所でしたから」 素直に認める青井さんだが、これも過去と割り切れているからこそ。理解ある奥さんもいて平穏に暮らしている。しかし被害者は割り切れていないかもしれない。やったほうは忘れても、やられたほうは忘れない。それでも青井さんの言うところの「その辺の一般人」である限りキャンセルカルチャーの心配はないし、青井さんの現在の仕事は具体的には書かないが万年人手不足の仕事でコロナ禍もあり、まずクビにはならない不人気職とのこと。このように誹謗中傷側から話を聞くとやったもん勝ち、本当に解決策はないのではと思わされる。あえて聞くが、かつての誹謗中傷者として、どうすれば誹謗中傷が無くなると思うか。「絶対に無くならないと思いますよ。実名制にしてもやる人はやるし、ネットってその辺の一般人最強ですから」 実名制は韓国も失敗した。確かに、日本でもFacebookの一部ユーザーなどは実名どころか顔から所属先まで晒して他者を攻撃していたりする。自営業や年金者に多い印象だが、前者はともかく後者はある意味で無敵、ほのぼのと孫の写真を晒したそばから誹謗中傷を繰り返している(それも全公開設定!)。無くならないというのが現実だろう。「個人的な考えですけど、中国の信用スコアとか効くんじゃないですか? たとえばネットなら誹謗中傷を繰り返せば手持ちのスコアが減るとか。それで就職とかローンとか、子どもの進学にも影響あるみたいな。それでお互い点を見ることができるシステムなら他人を気にする日本人に効くと思うんですけど、こいつは何点か~って点数見られる感じで」 こんな気持ち悪い全体主義、筆者は無論反対だが、これくらいしないと匿名の誹謗中傷、ネット上の暴力は無くならないと思わされるのもまた事実。2021年4月に改正プロバイダ責任制限法が成立、公布されたが、この程度ではかつての青井さんのようないわゆる「無敵の一般人」には効かないように思う。自分自身が幸せになればやめられると思う「自分はもうしてませんけど、いまも独身で仕事もだめだったら別のタゲ(ターゲットの意)を探していたと思います。みんなが幸せになればいいんでしょうけど、それは無理でしょう。だったら、誹謗中傷は無くならないでしょうね」 どこか他人事、誹謗中傷当事者の言葉だけに違和感しかないが、当たっているだけに筆者もこの話を終えたあと、さてどうルポを結実させようか考えてしまった。なのでせめて、青井さんとの一問一答が参考になればと改めて記す。なぜ誹謗中傷するのか、その心理の一例にはなるだろう。その公表は青井さんも望んでいる。匿名掲示板でもSNSでも誹謗中傷の心理そのものに違いはないだろう。 ――なぜ少女が苦しむほどに、あることないことを書き込んだのか「最初はファンだった。何度かイベントや撮影会で会ったが塩対応で態度が悪く、自分の思ったような子じゃなかった。よかれと思って年上としてアドバイスしたつもりが、気持ち悪がられて腹がたった。叩き始めると彼女のことばかり考えるようになった。純粋なファンのときより叩きはじめた後のほうが彼女のことばかり考えていたように思う」 ――少女の仕事や生活を脅かすとは思わなかったのか。「当時は彼女の活動が仕事だという感覚はなかった。自分の娯楽としか見ていなかった。際どい水着でおっさんに媚び売る子どもと、どこか下に見ていたのかもしれない。はっきりいってオカズだった」 ――和解したが誹謗中傷が引退のきっかけかもしれない、罪悪感はあるか。「そこは芸能人として見ていた。有名税だからという免罪符はあったと思う。罪悪なんて大げさな話ではなく、あくまでネタだった」 ――青井さんには過去かもしれないが彼女は忘れていないかもしれない。「それはキリがない。一生気にすることとは思わない。忘れて欲しいと思う」 ――誹謗中傷をしている人たちに先達として忠告することはあるか。「自分自身が幸せになればやめられると思う。ずっと不幸な人はわからない」 ――かつての加害者として誹謗中傷をされている人たちにアドバイスはあるか。「気にしないこと。それしかない。相手が名無しの一般人ならそれしかないと思う。訴えるのは自由だが実利は薄いと思う。罰則を厳しくしない国が悪い。法律の問題だと思う」 このような問答となったが、人それぞれに読み取れる部分は多いだろう。もちろん彼一人のサンプル、これがすべてと言わないが、多くの誹謗中傷側の感覚はお気軽なもので、自覚なしに追い詰める事例が大半のように思う。だからこそやっかいなのだ。いじめという名の犯罪行為同様、受けた側の傷に比べてあまりに軽い。拍子抜けするほどに。そして青井さんの言う「その辺の一般人」かつ無敵の人、それに準じるような人の場合、訴えたところで直接的な効果は薄い。裁判が終わってほとぼり冷めたらまた繰り返す危険人物すらいる。 中国の信用スコア、社会信用システムのようなディストピアは勘弁だが、それがコロナ禍の統制含め有効なのではという話もある。日本は憲法上そこまでできないし表現の自由との兼ね合いもあるが、被害者の苦しみを考えれば、さらなる開示の容易化と刑法の厳罰化の方向に進むのもまた現実だろう。 取材中、青井さんから謝罪の言葉は出なかった。これもまた現実だ。【プロフィール】日野百草(ひの・ひゃくそう)/本名:上崎洋一。1972年千葉県野田市生まれ。日本ペンクラブ会員。出版社を経てフリーランス。全国俳誌協会賞、日本詩歌句随筆評論協会賞奨励賞(評論部門)受賞。『誰も書けなかったパチンコ20兆円の闇』(宝島社・共著)、『ルポ 京アニを燃やした男』(第三書館)。近著『評伝 赤城さかえ 楸邨、波郷、兜太から愛された魂の俳人』(コールサック社)。
他にもいる、は常套文句だ。しかし匿名でも実際は匿名ではない。しかるべき手順で開示請求して、地道に辿れば足はつく。「でもね、わかってて言ってると思うんですけど、お金持ってて影響力も桁違いの芸能人なら本気出せばできるかもしれませんが、普通は無理ですよ」 残念ながらそのとおり、誹謗中傷に断固とした対応で臨むと宣言した中川翔子さんのような大物芸能人ならともかく、ニッチなグラドルやコスプレイヤー、地下アイドルなど事務所も小さく資力もないどころか無所属の場合、資金的にも個人レベルでは誹謗中傷に真っ向から立ち向かうのは現実的に難しい。小金井ストーカー殺人未遂事件のように警察が動くほどの目に見える犯罪被害でもない限り、泣き寝入りかスルーというのが実情だ。誹謗中傷の主戦場がSNSに移ったいまも、多くの被害者が苦しんでいる。ネットってその辺の一般人最強ですから「自分はその子とリアルで知り合ったから足がつきましたけど、まあ一切会ってなければ(特定は)無理なんじゃないかな、まして当時(2000年代)では珍しいと思います」 青井さんは撮影会などでリアルに接していたことや生来のおしゃべりが祟り、察した事務所関係者に問い詰められた末に訴えると脅されて和解となった。つまりは民法上の「訴え提起前の和解」であり、実際に裁判所に出頭した上で二度と誹謗中傷をしないこと、近寄らないこと、という誓約書を作成させられたという。微々たる額だが和解金も支払った。「多くはこうして和解だと思います。おかしな人でもない限り、これで二度とやらないでしょうし、自分もそうでした」 こうして青井さんは正式な裁判に持ち込まれずに済んだ。その後、相手の少女はもちろん、他にも同じような誹謗中傷行為はしていないのか。「してませんね。もう年ですから。それに結婚もしましたし、いまの仕事も長いです。家庭あるんで」 誹謗中傷をした本人は結婚して平穏に暮らし、された側は引退して行方知れず。青井さんの話では、そのグラドルにはリスカ、手首を傷つけた跡もあったという。自分のせいではない、元から病ンドルだったと語るが釈然としない。奥さんは知っているのか。「知ってます。妻もネット好きだしオタク同士で価値観も一緒です。もうバカなことすんなよ、とは言われてますが」 今日一番嬉しそうな笑顔、地獄のような「子ども社会人」だった青井さんを救ったのは奥さんだ。微笑ましい限りだが、それでもやはり釈然としないことを告げる。すると青井さんは顔をしかめ、改まって言葉を繋いだ。「仕事に影響があったならかわいそうですけど、もう和解しましたし、昔の話ですから」 彼を責めることが目的ではないが、少女の性格や仕事ぶりの「あることないこと」をネットに撒き散らした青井さんは偽計業務妨害罪でもおかしくない。元アイドルのラーメン店経営者に対して「反社とつながっている」と風説の流布を繰り返した50代の男もまさにそれだった。誹謗中傷には仕事に影響を与えるような妨害行為も多い。こいつは使うな、こいつはこういう奴だと取引先や媒体に匿名で連絡する。歪んだ正義と嫉妬、心理学では「引き下げ心理」とも呼ばれる。「それはあるかもしれません。あのころ、なにもかもうまくいかなかった男で、ゲームと少女だけが拠り所でしたから」 素直に認める青井さんだが、これも過去と割り切れているからこそ。理解ある奥さんもいて平穏に暮らしている。しかし被害者は割り切れていないかもしれない。やったほうは忘れても、やられたほうは忘れない。それでも青井さんの言うところの「その辺の一般人」である限りキャンセルカルチャーの心配はないし、青井さんの現在の仕事は具体的には書かないが万年人手不足の仕事でコロナ禍もあり、まずクビにはならない不人気職とのこと。このように誹謗中傷側から話を聞くとやったもん勝ち、本当に解決策はないのではと思わされる。あえて聞くが、かつての誹謗中傷者として、どうすれば誹謗中傷が無くなると思うか。「絶対に無くならないと思いますよ。実名制にしてもやる人はやるし、ネットってその辺の一般人最強ですから」 実名制は韓国も失敗した。確かに、日本でもFacebookの一部ユーザーなどは実名どころか顔から所属先まで晒して他者を攻撃していたりする。自営業や年金者に多い印象だが、前者はともかく後者はある意味で無敵、ほのぼのと孫の写真を晒したそばから誹謗中傷を繰り返している(それも全公開設定!)。無くならないというのが現実だろう。「個人的な考えですけど、中国の信用スコアとか効くんじゃないですか? たとえばネットなら誹謗中傷を繰り返せば手持ちのスコアが減るとか。それで就職とかローンとか、子どもの進学にも影響あるみたいな。それでお互い点を見ることができるシステムなら他人を気にする日本人に効くと思うんですけど、こいつは何点か~って点数見られる感じで」 こんな気持ち悪い全体主義、筆者は無論反対だが、これくらいしないと匿名の誹謗中傷、ネット上の暴力は無くならないと思わされるのもまた事実。2021年4月に改正プロバイダ責任制限法が成立、公布されたが、この程度ではかつての青井さんのようないわゆる「無敵の一般人」には効かないように思う。自分自身が幸せになればやめられると思う「自分はもうしてませんけど、いまも独身で仕事もだめだったら別のタゲ(ターゲットの意)を探していたと思います。みんなが幸せになればいいんでしょうけど、それは無理でしょう。だったら、誹謗中傷は無くならないでしょうね」 どこか他人事、誹謗中傷当事者の言葉だけに違和感しかないが、当たっているだけに筆者もこの話を終えたあと、さてどうルポを結実させようか考えてしまった。なのでせめて、青井さんとの一問一答が参考になればと改めて記す。なぜ誹謗中傷するのか、その心理の一例にはなるだろう。その公表は青井さんも望んでいる。匿名掲示板でもSNSでも誹謗中傷の心理そのものに違いはないだろう。 ――なぜ少女が苦しむほどに、あることないことを書き込んだのか「最初はファンだった。何度かイベントや撮影会で会ったが塩対応で態度が悪く、自分の思ったような子じゃなかった。よかれと思って年上としてアドバイスしたつもりが、気持ち悪がられて腹がたった。叩き始めると彼女のことばかり考えるようになった。純粋なファンのときより叩きはじめた後のほうが彼女のことばかり考えていたように思う」 ――少女の仕事や生活を脅かすとは思わなかったのか。「当時は彼女の活動が仕事だという感覚はなかった。自分の娯楽としか見ていなかった。際どい水着でおっさんに媚び売る子どもと、どこか下に見ていたのかもしれない。はっきりいってオカズだった」 ――和解したが誹謗中傷が引退のきっかけかもしれない、罪悪感はあるか。「そこは芸能人として見ていた。有名税だからという免罪符はあったと思う。罪悪なんて大げさな話ではなく、あくまでネタだった」 ――青井さんには過去かもしれないが彼女は忘れていないかもしれない。「それはキリがない。一生気にすることとは思わない。忘れて欲しいと思う」 ――誹謗中傷をしている人たちに先達として忠告することはあるか。「自分自身が幸せになればやめられると思う。ずっと不幸な人はわからない」 ――かつての加害者として誹謗中傷をされている人たちにアドバイスはあるか。「気にしないこと。それしかない。相手が名無しの一般人ならそれしかないと思う。訴えるのは自由だが実利は薄いと思う。罰則を厳しくしない国が悪い。法律の問題だと思う」 このような問答となったが、人それぞれに読み取れる部分は多いだろう。もちろん彼一人のサンプル、これがすべてと言わないが、多くの誹謗中傷側の感覚はお気軽なもので、自覚なしに追い詰める事例が大半のように思う。だからこそやっかいなのだ。いじめという名の犯罪行為同様、受けた側の傷に比べてあまりに軽い。拍子抜けするほどに。そして青井さんの言う「その辺の一般人」かつ無敵の人、それに準じるような人の場合、訴えたところで直接的な効果は薄い。裁判が終わってほとぼり冷めたらまた繰り返す危険人物すらいる。 中国の信用スコア、社会信用システムのようなディストピアは勘弁だが、それがコロナ禍の統制含め有効なのではという話もある。日本は憲法上そこまでできないし表現の自由との兼ね合いもあるが、被害者の苦しみを考えれば、さらなる開示の容易化と刑法の厳罰化の方向に進むのもまた現実だろう。 取材中、青井さんから謝罪の言葉は出なかった。これもまた現実だ。【プロフィール】日野百草(ひの・ひゃくそう)/本名:上崎洋一。1972年千葉県野田市生まれ。日本ペンクラブ会員。出版社を経てフリーランス。全国俳誌協会賞、日本詩歌句随筆評論協会賞奨励賞(評論部門)受賞。『誰も書けなかったパチンコ20兆円の闇』(宝島社・共著)、『ルポ 京アニを燃やした男』(第三書館)。近著『評伝 赤城さかえ 楸邨、波郷、兜太から愛された魂の俳人』(コールサック社)。
「でもね、わかってて言ってると思うんですけど、お金持ってて影響力も桁違いの芸能人なら本気出せばできるかもしれませんが、普通は無理ですよ」 残念ながらそのとおり、誹謗中傷に断固とした対応で臨むと宣言した中川翔子さんのような大物芸能人ならともかく、ニッチなグラドルやコスプレイヤー、地下アイドルなど事務所も小さく資力もないどころか無所属の場合、資金的にも個人レベルでは誹謗中傷に真っ向から立ち向かうのは現実的に難しい。小金井ストーカー殺人未遂事件のように警察が動くほどの目に見える犯罪被害でもない限り、泣き寝入りかスルーというのが実情だ。誹謗中傷の主戦場がSNSに移ったいまも、多くの被害者が苦しんでいる。ネットってその辺の一般人最強ですから「自分はその子とリアルで知り合ったから足がつきましたけど、まあ一切会ってなければ(特定は)無理なんじゃないかな、まして当時(2000年代)では珍しいと思います」 青井さんは撮影会などでリアルに接していたことや生来のおしゃべりが祟り、察した事務所関係者に問い詰められた末に訴えると脅されて和解となった。つまりは民法上の「訴え提起前の和解」であり、実際に裁判所に出頭した上で二度と誹謗中傷をしないこと、近寄らないこと、という誓約書を作成させられたという。微々たる額だが和解金も支払った。「多くはこうして和解だと思います。おかしな人でもない限り、これで二度とやらないでしょうし、自分もそうでした」 こうして青井さんは正式な裁判に持ち込まれずに済んだ。その後、相手の少女はもちろん、他にも同じような誹謗中傷行為はしていないのか。「してませんね。もう年ですから。それに結婚もしましたし、いまの仕事も長いです。家庭あるんで」 誹謗中傷をした本人は結婚して平穏に暮らし、された側は引退して行方知れず。青井さんの話では、そのグラドルにはリスカ、手首を傷つけた跡もあったという。自分のせいではない、元から病ンドルだったと語るが釈然としない。奥さんは知っているのか。「知ってます。妻もネット好きだしオタク同士で価値観も一緒です。もうバカなことすんなよ、とは言われてますが」 今日一番嬉しそうな笑顔、地獄のような「子ども社会人」だった青井さんを救ったのは奥さんだ。微笑ましい限りだが、それでもやはり釈然としないことを告げる。すると青井さんは顔をしかめ、改まって言葉を繋いだ。「仕事に影響があったならかわいそうですけど、もう和解しましたし、昔の話ですから」 彼を責めることが目的ではないが、少女の性格や仕事ぶりの「あることないこと」をネットに撒き散らした青井さんは偽計業務妨害罪でもおかしくない。元アイドルのラーメン店経営者に対して「反社とつながっている」と風説の流布を繰り返した50代の男もまさにそれだった。誹謗中傷には仕事に影響を与えるような妨害行為も多い。こいつは使うな、こいつはこういう奴だと取引先や媒体に匿名で連絡する。歪んだ正義と嫉妬、心理学では「引き下げ心理」とも呼ばれる。「それはあるかもしれません。あのころ、なにもかもうまくいかなかった男で、ゲームと少女だけが拠り所でしたから」 素直に認める青井さんだが、これも過去と割り切れているからこそ。理解ある奥さんもいて平穏に暮らしている。しかし被害者は割り切れていないかもしれない。やったほうは忘れても、やられたほうは忘れない。それでも青井さんの言うところの「その辺の一般人」である限りキャンセルカルチャーの心配はないし、青井さんの現在の仕事は具体的には書かないが万年人手不足の仕事でコロナ禍もあり、まずクビにはならない不人気職とのこと。このように誹謗中傷側から話を聞くとやったもん勝ち、本当に解決策はないのではと思わされる。あえて聞くが、かつての誹謗中傷者として、どうすれば誹謗中傷が無くなると思うか。「絶対に無くならないと思いますよ。実名制にしてもやる人はやるし、ネットってその辺の一般人最強ですから」 実名制は韓国も失敗した。確かに、日本でもFacebookの一部ユーザーなどは実名どころか顔から所属先まで晒して他者を攻撃していたりする。自営業や年金者に多い印象だが、前者はともかく後者はある意味で無敵、ほのぼのと孫の写真を晒したそばから誹謗中傷を繰り返している(それも全公開設定!)。無くならないというのが現実だろう。「個人的な考えですけど、中国の信用スコアとか効くんじゃないですか? たとえばネットなら誹謗中傷を繰り返せば手持ちのスコアが減るとか。それで就職とかローンとか、子どもの進学にも影響あるみたいな。それでお互い点を見ることができるシステムなら他人を気にする日本人に効くと思うんですけど、こいつは何点か~って点数見られる感じで」 こんな気持ち悪い全体主義、筆者は無論反対だが、これくらいしないと匿名の誹謗中傷、ネット上の暴力は無くならないと思わされるのもまた事実。2021年4月に改正プロバイダ責任制限法が成立、公布されたが、この程度ではかつての青井さんのようないわゆる「無敵の一般人」には効かないように思う。自分自身が幸せになればやめられると思う「自分はもうしてませんけど、いまも独身で仕事もだめだったら別のタゲ(ターゲットの意)を探していたと思います。みんなが幸せになればいいんでしょうけど、それは無理でしょう。だったら、誹謗中傷は無くならないでしょうね」 どこか他人事、誹謗中傷当事者の言葉だけに違和感しかないが、当たっているだけに筆者もこの話を終えたあと、さてどうルポを結実させようか考えてしまった。なのでせめて、青井さんとの一問一答が参考になればと改めて記す。なぜ誹謗中傷するのか、その心理の一例にはなるだろう。その公表は青井さんも望んでいる。匿名掲示板でもSNSでも誹謗中傷の心理そのものに違いはないだろう。 ――なぜ少女が苦しむほどに、あることないことを書き込んだのか「最初はファンだった。何度かイベントや撮影会で会ったが塩対応で態度が悪く、自分の思ったような子じゃなかった。よかれと思って年上としてアドバイスしたつもりが、気持ち悪がられて腹がたった。叩き始めると彼女のことばかり考えるようになった。純粋なファンのときより叩きはじめた後のほうが彼女のことばかり考えていたように思う」 ――少女の仕事や生活を脅かすとは思わなかったのか。「当時は彼女の活動が仕事だという感覚はなかった。自分の娯楽としか見ていなかった。際どい水着でおっさんに媚び売る子どもと、どこか下に見ていたのかもしれない。はっきりいってオカズだった」 ――和解したが誹謗中傷が引退のきっかけかもしれない、罪悪感はあるか。「そこは芸能人として見ていた。有名税だからという免罪符はあったと思う。罪悪なんて大げさな話ではなく、あくまでネタだった」 ――青井さんには過去かもしれないが彼女は忘れていないかもしれない。「それはキリがない。一生気にすることとは思わない。忘れて欲しいと思う」 ――誹謗中傷をしている人たちに先達として忠告することはあるか。「自分自身が幸せになればやめられると思う。ずっと不幸な人はわからない」 ――かつての加害者として誹謗中傷をされている人たちにアドバイスはあるか。「気にしないこと。それしかない。相手が名無しの一般人ならそれしかないと思う。訴えるのは自由だが実利は薄いと思う。罰則を厳しくしない国が悪い。法律の問題だと思う」 このような問答となったが、人それぞれに読み取れる部分は多いだろう。もちろん彼一人のサンプル、これがすべてと言わないが、多くの誹謗中傷側の感覚はお気軽なもので、自覚なしに追い詰める事例が大半のように思う。だからこそやっかいなのだ。いじめという名の犯罪行為同様、受けた側の傷に比べてあまりに軽い。拍子抜けするほどに。そして青井さんの言う「その辺の一般人」かつ無敵の人、それに準じるような人の場合、訴えたところで直接的な効果は薄い。裁判が終わってほとぼり冷めたらまた繰り返す危険人物すらいる。 中国の信用スコア、社会信用システムのようなディストピアは勘弁だが、それがコロナ禍の統制含め有効なのではという話もある。日本は憲法上そこまでできないし表現の自由との兼ね合いもあるが、被害者の苦しみを考えれば、さらなる開示の容易化と刑法の厳罰化の方向に進むのもまた現実だろう。 取材中、青井さんから謝罪の言葉は出なかった。これもまた現実だ。【プロフィール】日野百草(ひの・ひゃくそう)/本名:上崎洋一。1972年千葉県野田市生まれ。日本ペンクラブ会員。出版社を経てフリーランス。全国俳誌協会賞、日本詩歌句随筆評論協会賞奨励賞(評論部門)受賞。『誰も書けなかったパチンコ20兆円の闇』(宝島社・共著)、『ルポ 京アニを燃やした男』(第三書館)。近著『評伝 赤城さかえ 楸邨、波郷、兜太から愛された魂の俳人』(コールサック社)。
残念ながらそのとおり、誹謗中傷に断固とした対応で臨むと宣言した中川翔子さんのような大物芸能人ならともかく、ニッチなグラドルやコスプレイヤー、地下アイドルなど事務所も小さく資力もないどころか無所属の場合、資金的にも個人レベルでは誹謗中傷に真っ向から立ち向かうのは現実的に難しい。小金井ストーカー殺人未遂事件のように警察が動くほどの目に見える犯罪被害でもない限り、泣き寝入りかスルーというのが実情だ。誹謗中傷の主戦場がSNSに移ったいまも、多くの被害者が苦しんでいる。ネットってその辺の一般人最強ですから「自分はその子とリアルで知り合ったから足がつきましたけど、まあ一切会ってなければ(特定は)無理なんじゃないかな、まして当時(2000年代)では珍しいと思います」 青井さんは撮影会などでリアルに接していたことや生来のおしゃべりが祟り、察した事務所関係者に問い詰められた末に訴えると脅されて和解となった。つまりは民法上の「訴え提起前の和解」であり、実際に裁判所に出頭した上で二度と誹謗中傷をしないこと、近寄らないこと、という誓約書を作成させられたという。微々たる額だが和解金も支払った。「多くはこうして和解だと思います。おかしな人でもない限り、これで二度とやらないでしょうし、自分もそうでした」 こうして青井さんは正式な裁判に持ち込まれずに済んだ。その後、相手の少女はもちろん、他にも同じような誹謗中傷行為はしていないのか。「してませんね。もう年ですから。それに結婚もしましたし、いまの仕事も長いです。家庭あるんで」 誹謗中傷をした本人は結婚して平穏に暮らし、された側は引退して行方知れず。青井さんの話では、そのグラドルにはリスカ、手首を傷つけた跡もあったという。自分のせいではない、元から病ンドルだったと語るが釈然としない。奥さんは知っているのか。「知ってます。妻もネット好きだしオタク同士で価値観も一緒です。もうバカなことすんなよ、とは言われてますが」 今日一番嬉しそうな笑顔、地獄のような「子ども社会人」だった青井さんを救ったのは奥さんだ。微笑ましい限りだが、それでもやはり釈然としないことを告げる。すると青井さんは顔をしかめ、改まって言葉を繋いだ。「仕事に影響があったならかわいそうですけど、もう和解しましたし、昔の話ですから」 彼を責めることが目的ではないが、少女の性格や仕事ぶりの「あることないこと」をネットに撒き散らした青井さんは偽計業務妨害罪でもおかしくない。元アイドルのラーメン店経営者に対して「反社とつながっている」と風説の流布を繰り返した50代の男もまさにそれだった。誹謗中傷には仕事に影響を与えるような妨害行為も多い。こいつは使うな、こいつはこういう奴だと取引先や媒体に匿名で連絡する。歪んだ正義と嫉妬、心理学では「引き下げ心理」とも呼ばれる。「それはあるかもしれません。あのころ、なにもかもうまくいかなかった男で、ゲームと少女だけが拠り所でしたから」 素直に認める青井さんだが、これも過去と割り切れているからこそ。理解ある奥さんもいて平穏に暮らしている。しかし被害者は割り切れていないかもしれない。やったほうは忘れても、やられたほうは忘れない。それでも青井さんの言うところの「その辺の一般人」である限りキャンセルカルチャーの心配はないし、青井さんの現在の仕事は具体的には書かないが万年人手不足の仕事でコロナ禍もあり、まずクビにはならない不人気職とのこと。このように誹謗中傷側から話を聞くとやったもん勝ち、本当に解決策はないのではと思わされる。あえて聞くが、かつての誹謗中傷者として、どうすれば誹謗中傷が無くなると思うか。「絶対に無くならないと思いますよ。実名制にしてもやる人はやるし、ネットってその辺の一般人最強ですから」 実名制は韓国も失敗した。確かに、日本でもFacebookの一部ユーザーなどは実名どころか顔から所属先まで晒して他者を攻撃していたりする。自営業や年金者に多い印象だが、前者はともかく後者はある意味で無敵、ほのぼのと孫の写真を晒したそばから誹謗中傷を繰り返している(それも全公開設定!)。無くならないというのが現実だろう。「個人的な考えですけど、中国の信用スコアとか効くんじゃないですか? たとえばネットなら誹謗中傷を繰り返せば手持ちのスコアが減るとか。それで就職とかローンとか、子どもの進学にも影響あるみたいな。それでお互い点を見ることができるシステムなら他人を気にする日本人に効くと思うんですけど、こいつは何点か~って点数見られる感じで」 こんな気持ち悪い全体主義、筆者は無論反対だが、これくらいしないと匿名の誹謗中傷、ネット上の暴力は無くならないと思わされるのもまた事実。2021年4月に改正プロバイダ責任制限法が成立、公布されたが、この程度ではかつての青井さんのようないわゆる「無敵の一般人」には効かないように思う。自分自身が幸せになればやめられると思う「自分はもうしてませんけど、いまも独身で仕事もだめだったら別のタゲ(ターゲットの意)を探していたと思います。みんなが幸せになればいいんでしょうけど、それは無理でしょう。だったら、誹謗中傷は無くならないでしょうね」 どこか他人事、誹謗中傷当事者の言葉だけに違和感しかないが、当たっているだけに筆者もこの話を終えたあと、さてどうルポを結実させようか考えてしまった。なのでせめて、青井さんとの一問一答が参考になればと改めて記す。なぜ誹謗中傷するのか、その心理の一例にはなるだろう。その公表は青井さんも望んでいる。匿名掲示板でもSNSでも誹謗中傷の心理そのものに違いはないだろう。 ――なぜ少女が苦しむほどに、あることないことを書き込んだのか「最初はファンだった。何度かイベントや撮影会で会ったが塩対応で態度が悪く、自分の思ったような子じゃなかった。よかれと思って年上としてアドバイスしたつもりが、気持ち悪がられて腹がたった。叩き始めると彼女のことばかり考えるようになった。純粋なファンのときより叩きはじめた後のほうが彼女のことばかり考えていたように思う」 ――少女の仕事や生活を脅かすとは思わなかったのか。「当時は彼女の活動が仕事だという感覚はなかった。自分の娯楽としか見ていなかった。際どい水着でおっさんに媚び売る子どもと、どこか下に見ていたのかもしれない。はっきりいってオカズだった」 ――和解したが誹謗中傷が引退のきっかけかもしれない、罪悪感はあるか。「そこは芸能人として見ていた。有名税だからという免罪符はあったと思う。罪悪なんて大げさな話ではなく、あくまでネタだった」 ――青井さんには過去かもしれないが彼女は忘れていないかもしれない。「それはキリがない。一生気にすることとは思わない。忘れて欲しいと思う」 ――誹謗中傷をしている人たちに先達として忠告することはあるか。「自分自身が幸せになればやめられると思う。ずっと不幸な人はわからない」 ――かつての加害者として誹謗中傷をされている人たちにアドバイスはあるか。「気にしないこと。それしかない。相手が名無しの一般人ならそれしかないと思う。訴えるのは自由だが実利は薄いと思う。罰則を厳しくしない国が悪い。法律の問題だと思う」 このような問答となったが、人それぞれに読み取れる部分は多いだろう。もちろん彼一人のサンプル、これがすべてと言わないが、多くの誹謗中傷側の感覚はお気軽なもので、自覚なしに追い詰める事例が大半のように思う。だからこそやっかいなのだ。いじめという名の犯罪行為同様、受けた側の傷に比べてあまりに軽い。拍子抜けするほどに。そして青井さんの言う「その辺の一般人」かつ無敵の人、それに準じるような人の場合、訴えたところで直接的な効果は薄い。裁判が終わってほとぼり冷めたらまた繰り返す危険人物すらいる。 中国の信用スコア、社会信用システムのようなディストピアは勘弁だが、それがコロナ禍の統制含め有効なのではという話もある。日本は憲法上そこまでできないし表現の自由との兼ね合いもあるが、被害者の苦しみを考えれば、さらなる開示の容易化と刑法の厳罰化の方向に進むのもまた現実だろう。 取材中、青井さんから謝罪の言葉は出なかった。これもまた現実だ。【プロフィール】日野百草(ひの・ひゃくそう)/本名:上崎洋一。1972年千葉県野田市生まれ。日本ペンクラブ会員。出版社を経てフリーランス。全国俳誌協会賞、日本詩歌句随筆評論協会賞奨励賞(評論部門)受賞。『誰も書けなかったパチンコ20兆円の闇』(宝島社・共著)、『ルポ 京アニを燃やした男』(第三書館)。近著『評伝 赤城さかえ 楸邨、波郷、兜太から愛された魂の俳人』(コールサック社)。
「自分はその子とリアルで知り合ったから足がつきましたけど、まあ一切会ってなければ(特定は)無理なんじゃないかな、まして当時(2000年代)では珍しいと思います」 青井さんは撮影会などでリアルに接していたことや生来のおしゃべりが祟り、察した事務所関係者に問い詰められた末に訴えると脅されて和解となった。つまりは民法上の「訴え提起前の和解」であり、実際に裁判所に出頭した上で二度と誹謗中傷をしないこと、近寄らないこと、という誓約書を作成させられたという。微々たる額だが和解金も支払った。「多くはこうして和解だと思います。おかしな人でもない限り、これで二度とやらないでしょうし、自分もそうでした」 こうして青井さんは正式な裁判に持ち込まれずに済んだ。その後、相手の少女はもちろん、他にも同じような誹謗中傷行為はしていないのか。「してませんね。もう年ですから。それに結婚もしましたし、いまの仕事も長いです。家庭あるんで」 誹謗中傷をした本人は結婚して平穏に暮らし、された側は引退して行方知れず。青井さんの話では、そのグラドルにはリスカ、手首を傷つけた跡もあったという。自分のせいではない、元から病ンドルだったと語るが釈然としない。奥さんは知っているのか。「知ってます。妻もネット好きだしオタク同士で価値観も一緒です。もうバカなことすんなよ、とは言われてますが」 今日一番嬉しそうな笑顔、地獄のような「子ども社会人」だった青井さんを救ったのは奥さんだ。微笑ましい限りだが、それでもやはり釈然としないことを告げる。すると青井さんは顔をしかめ、改まって言葉を繋いだ。「仕事に影響があったならかわいそうですけど、もう和解しましたし、昔の話ですから」 彼を責めることが目的ではないが、少女の性格や仕事ぶりの「あることないこと」をネットに撒き散らした青井さんは偽計業務妨害罪でもおかしくない。元アイドルのラーメン店経営者に対して「反社とつながっている」と風説の流布を繰り返した50代の男もまさにそれだった。誹謗中傷には仕事に影響を与えるような妨害行為も多い。こいつは使うな、こいつはこういう奴だと取引先や媒体に匿名で連絡する。歪んだ正義と嫉妬、心理学では「引き下げ心理」とも呼ばれる。「それはあるかもしれません。あのころ、なにもかもうまくいかなかった男で、ゲームと少女だけが拠り所でしたから」 素直に認める青井さんだが、これも過去と割り切れているからこそ。理解ある奥さんもいて平穏に暮らしている。しかし被害者は割り切れていないかもしれない。やったほうは忘れても、やられたほうは忘れない。それでも青井さんの言うところの「その辺の一般人」である限りキャンセルカルチャーの心配はないし、青井さんの現在の仕事は具体的には書かないが万年人手不足の仕事でコロナ禍もあり、まずクビにはならない不人気職とのこと。このように誹謗中傷側から話を聞くとやったもん勝ち、本当に解決策はないのではと思わされる。あえて聞くが、かつての誹謗中傷者として、どうすれば誹謗中傷が無くなると思うか。「絶対に無くならないと思いますよ。実名制にしてもやる人はやるし、ネットってその辺の一般人最強ですから」 実名制は韓国も失敗した。確かに、日本でもFacebookの一部ユーザーなどは実名どころか顔から所属先まで晒して他者を攻撃していたりする。自営業や年金者に多い印象だが、前者はともかく後者はある意味で無敵、ほのぼのと孫の写真を晒したそばから誹謗中傷を繰り返している(それも全公開設定!)。無くならないというのが現実だろう。「個人的な考えですけど、中国の信用スコアとか効くんじゃないですか? たとえばネットなら誹謗中傷を繰り返せば手持ちのスコアが減るとか。それで就職とかローンとか、子どもの進学にも影響あるみたいな。それでお互い点を見ることができるシステムなら他人を気にする日本人に効くと思うんですけど、こいつは何点か~って点数見られる感じで」 こんな気持ち悪い全体主義、筆者は無論反対だが、これくらいしないと匿名の誹謗中傷、ネット上の暴力は無くならないと思わされるのもまた事実。2021年4月に改正プロバイダ責任制限法が成立、公布されたが、この程度ではかつての青井さんのようないわゆる「無敵の一般人」には効かないように思う。自分自身が幸せになればやめられると思う「自分はもうしてませんけど、いまも独身で仕事もだめだったら別のタゲ(ターゲットの意)を探していたと思います。みんなが幸せになればいいんでしょうけど、それは無理でしょう。だったら、誹謗中傷は無くならないでしょうね」 どこか他人事、誹謗中傷当事者の言葉だけに違和感しかないが、当たっているだけに筆者もこの話を終えたあと、さてどうルポを結実させようか考えてしまった。なのでせめて、青井さんとの一問一答が参考になればと改めて記す。なぜ誹謗中傷するのか、その心理の一例にはなるだろう。その公表は青井さんも望んでいる。匿名掲示板でもSNSでも誹謗中傷の心理そのものに違いはないだろう。 ――なぜ少女が苦しむほどに、あることないことを書き込んだのか「最初はファンだった。何度かイベントや撮影会で会ったが塩対応で態度が悪く、自分の思ったような子じゃなかった。よかれと思って年上としてアドバイスしたつもりが、気持ち悪がられて腹がたった。叩き始めると彼女のことばかり考えるようになった。純粋なファンのときより叩きはじめた後のほうが彼女のことばかり考えていたように思う」 ――少女の仕事や生活を脅かすとは思わなかったのか。「当時は彼女の活動が仕事だという感覚はなかった。自分の娯楽としか見ていなかった。際どい水着でおっさんに媚び売る子どもと、どこか下に見ていたのかもしれない。はっきりいってオカズだった」 ――和解したが誹謗中傷が引退のきっかけかもしれない、罪悪感はあるか。「そこは芸能人として見ていた。有名税だからという免罪符はあったと思う。罪悪なんて大げさな話ではなく、あくまでネタだった」 ――青井さんには過去かもしれないが彼女は忘れていないかもしれない。「それはキリがない。一生気にすることとは思わない。忘れて欲しいと思う」 ――誹謗中傷をしている人たちに先達として忠告することはあるか。「自分自身が幸せになればやめられると思う。ずっと不幸な人はわからない」 ――かつての加害者として誹謗中傷をされている人たちにアドバイスはあるか。「気にしないこと。それしかない。相手が名無しの一般人ならそれしかないと思う。訴えるのは自由だが実利は薄いと思う。罰則を厳しくしない国が悪い。法律の問題だと思う」 このような問答となったが、人それぞれに読み取れる部分は多いだろう。もちろん彼一人のサンプル、これがすべてと言わないが、多くの誹謗中傷側の感覚はお気軽なもので、自覚なしに追い詰める事例が大半のように思う。だからこそやっかいなのだ。いじめという名の犯罪行為同様、受けた側の傷に比べてあまりに軽い。拍子抜けするほどに。そして青井さんの言う「その辺の一般人」かつ無敵の人、それに準じるような人の場合、訴えたところで直接的な効果は薄い。裁判が終わってほとぼり冷めたらまた繰り返す危険人物すらいる。 中国の信用スコア、社会信用システムのようなディストピアは勘弁だが、それがコロナ禍の統制含め有効なのではという話もある。日本は憲法上そこまでできないし表現の自由との兼ね合いもあるが、被害者の苦しみを考えれば、さらなる開示の容易化と刑法の厳罰化の方向に進むのもまた現実だろう。 取材中、青井さんから謝罪の言葉は出なかった。これもまた現実だ。【プロフィール】日野百草(ひの・ひゃくそう)/本名:上崎洋一。1972年千葉県野田市生まれ。日本ペンクラブ会員。出版社を経てフリーランス。全国俳誌協会賞、日本詩歌句随筆評論協会賞奨励賞(評論部門)受賞。『誰も書けなかったパチンコ20兆円の闇』(宝島社・共著)、『ルポ 京アニを燃やした男』(第三書館)。近著『評伝 赤城さかえ 楸邨、波郷、兜太から愛された魂の俳人』(コールサック社)。
青井さんは撮影会などでリアルに接していたことや生来のおしゃべりが祟り、察した事務所関係者に問い詰められた末に訴えると脅されて和解となった。つまりは民法上の「訴え提起前の和解」であり、実際に裁判所に出頭した上で二度と誹謗中傷をしないこと、近寄らないこと、という誓約書を作成させられたという。微々たる額だが和解金も支払った。「多くはこうして和解だと思います。おかしな人でもない限り、これで二度とやらないでしょうし、自分もそうでした」 こうして青井さんは正式な裁判に持ち込まれずに済んだ。その後、相手の少女はもちろん、他にも同じような誹謗中傷行為はしていないのか。「してませんね。もう年ですから。それに結婚もしましたし、いまの仕事も長いです。家庭あるんで」 誹謗中傷をした本人は結婚して平穏に暮らし、された側は引退して行方知れず。青井さんの話では、そのグラドルにはリスカ、手首を傷つけた跡もあったという。自分のせいではない、元から病ンドルだったと語るが釈然としない。奥さんは知っているのか。「知ってます。妻もネット好きだしオタク同士で価値観も一緒です。もうバカなことすんなよ、とは言われてますが」 今日一番嬉しそうな笑顔、地獄のような「子ども社会人」だった青井さんを救ったのは奥さんだ。微笑ましい限りだが、それでもやはり釈然としないことを告げる。すると青井さんは顔をしかめ、改まって言葉を繋いだ。「仕事に影響があったならかわいそうですけど、もう和解しましたし、昔の話ですから」 彼を責めることが目的ではないが、少女の性格や仕事ぶりの「あることないこと」をネットに撒き散らした青井さんは偽計業務妨害罪でもおかしくない。元アイドルのラーメン店経営者に対して「反社とつながっている」と風説の流布を繰り返した50代の男もまさにそれだった。誹謗中傷には仕事に影響を与えるような妨害行為も多い。こいつは使うな、こいつはこういう奴だと取引先や媒体に匿名で連絡する。歪んだ正義と嫉妬、心理学では「引き下げ心理」とも呼ばれる。「それはあるかもしれません。あのころ、なにもかもうまくいかなかった男で、ゲームと少女だけが拠り所でしたから」 素直に認める青井さんだが、これも過去と割り切れているからこそ。理解ある奥さんもいて平穏に暮らしている。しかし被害者は割り切れていないかもしれない。やったほうは忘れても、やられたほうは忘れない。それでも青井さんの言うところの「その辺の一般人」である限りキャンセルカルチャーの心配はないし、青井さんの現在の仕事は具体的には書かないが万年人手不足の仕事でコロナ禍もあり、まずクビにはならない不人気職とのこと。このように誹謗中傷側から話を聞くとやったもん勝ち、本当に解決策はないのではと思わされる。あえて聞くが、かつての誹謗中傷者として、どうすれば誹謗中傷が無くなると思うか。「絶対に無くならないと思いますよ。実名制にしてもやる人はやるし、ネットってその辺の一般人最強ですから」 実名制は韓国も失敗した。確かに、日本でもFacebookの一部ユーザーなどは実名どころか顔から所属先まで晒して他者を攻撃していたりする。自営業や年金者に多い印象だが、前者はともかく後者はある意味で無敵、ほのぼのと孫の写真を晒したそばから誹謗中傷を繰り返している(それも全公開設定!)。無くならないというのが現実だろう。「個人的な考えですけど、中国の信用スコアとか効くんじゃないですか? たとえばネットなら誹謗中傷を繰り返せば手持ちのスコアが減るとか。それで就職とかローンとか、子どもの進学にも影響あるみたいな。それでお互い点を見ることができるシステムなら他人を気にする日本人に効くと思うんですけど、こいつは何点か~って点数見られる感じで」 こんな気持ち悪い全体主義、筆者は無論反対だが、これくらいしないと匿名の誹謗中傷、ネット上の暴力は無くならないと思わされるのもまた事実。2021年4月に改正プロバイダ責任制限法が成立、公布されたが、この程度ではかつての青井さんのようないわゆる「無敵の一般人」には効かないように思う。自分自身が幸せになればやめられると思う「自分はもうしてませんけど、いまも独身で仕事もだめだったら別のタゲ(ターゲットの意)を探していたと思います。みんなが幸せになればいいんでしょうけど、それは無理でしょう。だったら、誹謗中傷は無くならないでしょうね」 どこか他人事、誹謗中傷当事者の言葉だけに違和感しかないが、当たっているだけに筆者もこの話を終えたあと、さてどうルポを結実させようか考えてしまった。なのでせめて、青井さんとの一問一答が参考になればと改めて記す。なぜ誹謗中傷するのか、その心理の一例にはなるだろう。その公表は青井さんも望んでいる。匿名掲示板でもSNSでも誹謗中傷の心理そのものに違いはないだろう。 ――なぜ少女が苦しむほどに、あることないことを書き込んだのか「最初はファンだった。何度かイベントや撮影会で会ったが塩対応で態度が悪く、自分の思ったような子じゃなかった。よかれと思って年上としてアドバイスしたつもりが、気持ち悪がられて腹がたった。叩き始めると彼女のことばかり考えるようになった。純粋なファンのときより叩きはじめた後のほうが彼女のことばかり考えていたように思う」 ――少女の仕事や生活を脅かすとは思わなかったのか。「当時は彼女の活動が仕事だという感覚はなかった。自分の娯楽としか見ていなかった。際どい水着でおっさんに媚び売る子どもと、どこか下に見ていたのかもしれない。はっきりいってオカズだった」 ――和解したが誹謗中傷が引退のきっかけかもしれない、罪悪感はあるか。「そこは芸能人として見ていた。有名税だからという免罪符はあったと思う。罪悪なんて大げさな話ではなく、あくまでネタだった」 ――青井さんには過去かもしれないが彼女は忘れていないかもしれない。「それはキリがない。一生気にすることとは思わない。忘れて欲しいと思う」 ――誹謗中傷をしている人たちに先達として忠告することはあるか。「自分自身が幸せになればやめられると思う。ずっと不幸な人はわからない」 ――かつての加害者として誹謗中傷をされている人たちにアドバイスはあるか。「気にしないこと。それしかない。相手が名無しの一般人ならそれしかないと思う。訴えるのは自由だが実利は薄いと思う。罰則を厳しくしない国が悪い。法律の問題だと思う」 このような問答となったが、人それぞれに読み取れる部分は多いだろう。もちろん彼一人のサンプル、これがすべてと言わないが、多くの誹謗中傷側の感覚はお気軽なもので、自覚なしに追い詰める事例が大半のように思う。だからこそやっかいなのだ。いじめという名の犯罪行為同様、受けた側の傷に比べてあまりに軽い。拍子抜けするほどに。そして青井さんの言う「その辺の一般人」かつ無敵の人、それに準じるような人の場合、訴えたところで直接的な効果は薄い。裁判が終わってほとぼり冷めたらまた繰り返す危険人物すらいる。 中国の信用スコア、社会信用システムのようなディストピアは勘弁だが、それがコロナ禍の統制含め有効なのではという話もある。日本は憲法上そこまでできないし表現の自由との兼ね合いもあるが、被害者の苦しみを考えれば、さらなる開示の容易化と刑法の厳罰化の方向に進むのもまた現実だろう。 取材中、青井さんから謝罪の言葉は出なかった。これもまた現実だ。【プロフィール】日野百草(ひの・ひゃくそう)/本名:上崎洋一。1972年千葉県野田市生まれ。日本ペンクラブ会員。出版社を経てフリーランス。全国俳誌協会賞、日本詩歌句随筆評論協会賞奨励賞(評論部門)受賞。『誰も書けなかったパチンコ20兆円の闇』(宝島社・共著)、『ルポ 京アニを燃やした男』(第三書館)。近著『評伝 赤城さかえ 楸邨、波郷、兜太から愛された魂の俳人』(コールサック社)。
「多くはこうして和解だと思います。おかしな人でもない限り、これで二度とやらないでしょうし、自分もそうでした」 こうして青井さんは正式な裁判に持ち込まれずに済んだ。その後、相手の少女はもちろん、他にも同じような誹謗中傷行為はしていないのか。「してませんね。もう年ですから。それに結婚もしましたし、いまの仕事も長いです。家庭あるんで」 誹謗中傷をした本人は結婚して平穏に暮らし、された側は引退して行方知れず。青井さんの話では、そのグラドルにはリスカ、手首を傷つけた跡もあったという。自分のせいではない、元から病ンドルだったと語るが釈然としない。奥さんは知っているのか。「知ってます。妻もネット好きだしオタク同士で価値観も一緒です。もうバカなことすんなよ、とは言われてますが」 今日一番嬉しそうな笑顔、地獄のような「子ども社会人」だった青井さんを救ったのは奥さんだ。微笑ましい限りだが、それでもやはり釈然としないことを告げる。すると青井さんは顔をしかめ、改まって言葉を繋いだ。「仕事に影響があったならかわいそうですけど、もう和解しましたし、昔の話ですから」 彼を責めることが目的ではないが、少女の性格や仕事ぶりの「あることないこと」をネットに撒き散らした青井さんは偽計業務妨害罪でもおかしくない。元アイドルのラーメン店経営者に対して「反社とつながっている」と風説の流布を繰り返した50代の男もまさにそれだった。誹謗中傷には仕事に影響を与えるような妨害行為も多い。こいつは使うな、こいつはこういう奴だと取引先や媒体に匿名で連絡する。歪んだ正義と嫉妬、心理学では「引き下げ心理」とも呼ばれる。「それはあるかもしれません。あのころ、なにもかもうまくいかなかった男で、ゲームと少女だけが拠り所でしたから」 素直に認める青井さんだが、これも過去と割り切れているからこそ。理解ある奥さんもいて平穏に暮らしている。しかし被害者は割り切れていないかもしれない。やったほうは忘れても、やられたほうは忘れない。それでも青井さんの言うところの「その辺の一般人」である限りキャンセルカルチャーの心配はないし、青井さんの現在の仕事は具体的には書かないが万年人手不足の仕事でコロナ禍もあり、まずクビにはならない不人気職とのこと。このように誹謗中傷側から話を聞くとやったもん勝ち、本当に解決策はないのではと思わされる。あえて聞くが、かつての誹謗中傷者として、どうすれば誹謗中傷が無くなると思うか。「絶対に無くならないと思いますよ。実名制にしてもやる人はやるし、ネットってその辺の一般人最強ですから」 実名制は韓国も失敗した。確かに、日本でもFacebookの一部ユーザーなどは実名どころか顔から所属先まで晒して他者を攻撃していたりする。自営業や年金者に多い印象だが、前者はともかく後者はある意味で無敵、ほのぼのと孫の写真を晒したそばから誹謗中傷を繰り返している(それも全公開設定!)。無くならないというのが現実だろう。「個人的な考えですけど、中国の信用スコアとか効くんじゃないですか? たとえばネットなら誹謗中傷を繰り返せば手持ちのスコアが減るとか。それで就職とかローンとか、子どもの進学にも影響あるみたいな。それでお互い点を見ることができるシステムなら他人を気にする日本人に効くと思うんですけど、こいつは何点か~って点数見られる感じで」 こんな気持ち悪い全体主義、筆者は無論反対だが、これくらいしないと匿名の誹謗中傷、ネット上の暴力は無くならないと思わされるのもまた事実。2021年4月に改正プロバイダ責任制限法が成立、公布されたが、この程度ではかつての青井さんのようないわゆる「無敵の一般人」には効かないように思う。自分自身が幸せになればやめられると思う「自分はもうしてませんけど、いまも独身で仕事もだめだったら別のタゲ(ターゲットの意)を探していたと思います。みんなが幸せになればいいんでしょうけど、それは無理でしょう。だったら、誹謗中傷は無くならないでしょうね」 どこか他人事、誹謗中傷当事者の言葉だけに違和感しかないが、当たっているだけに筆者もこの話を終えたあと、さてどうルポを結実させようか考えてしまった。なのでせめて、青井さんとの一問一答が参考になればと改めて記す。なぜ誹謗中傷するのか、その心理の一例にはなるだろう。その公表は青井さんも望んでいる。匿名掲示板でもSNSでも誹謗中傷の心理そのものに違いはないだろう。 ――なぜ少女が苦しむほどに、あることないことを書き込んだのか「最初はファンだった。何度かイベントや撮影会で会ったが塩対応で態度が悪く、自分の思ったような子じゃなかった。よかれと思って年上としてアドバイスしたつもりが、気持ち悪がられて腹がたった。叩き始めると彼女のことばかり考えるようになった。純粋なファンのときより叩きはじめた後のほうが彼女のことばかり考えていたように思う」 ――少女の仕事や生活を脅かすとは思わなかったのか。「当時は彼女の活動が仕事だという感覚はなかった。自分の娯楽としか見ていなかった。際どい水着でおっさんに媚び売る子どもと、どこか下に見ていたのかもしれない。はっきりいってオカズだった」 ――和解したが誹謗中傷が引退のきっかけかもしれない、罪悪感はあるか。「そこは芸能人として見ていた。有名税だからという免罪符はあったと思う。罪悪なんて大げさな話ではなく、あくまでネタだった」 ――青井さんには過去かもしれないが彼女は忘れていないかもしれない。「それはキリがない。一生気にすることとは思わない。忘れて欲しいと思う」 ――誹謗中傷をしている人たちに先達として忠告することはあるか。「自分自身が幸せになればやめられると思う。ずっと不幸な人はわからない」 ――かつての加害者として誹謗中傷をされている人たちにアドバイスはあるか。「気にしないこと。それしかない。相手が名無しの一般人ならそれしかないと思う。訴えるのは自由だが実利は薄いと思う。罰則を厳しくしない国が悪い。法律の問題だと思う」 このような問答となったが、人それぞれに読み取れる部分は多いだろう。もちろん彼一人のサンプル、これがすべてと言わないが、多くの誹謗中傷側の感覚はお気軽なもので、自覚なしに追い詰める事例が大半のように思う。だからこそやっかいなのだ。いじめという名の犯罪行為同様、受けた側の傷に比べてあまりに軽い。拍子抜けするほどに。そして青井さんの言う「その辺の一般人」かつ無敵の人、それに準じるような人の場合、訴えたところで直接的な効果は薄い。裁判が終わってほとぼり冷めたらまた繰り返す危険人物すらいる。 中国の信用スコア、社会信用システムのようなディストピアは勘弁だが、それがコロナ禍の統制含め有効なのではという話もある。日本は憲法上そこまでできないし表現の自由との兼ね合いもあるが、被害者の苦しみを考えれば、さらなる開示の容易化と刑法の厳罰化の方向に進むのもまた現実だろう。 取材中、青井さんから謝罪の言葉は出なかった。これもまた現実だ。【プロフィール】日野百草(ひの・ひゃくそう)/本名:上崎洋一。1972年千葉県野田市生まれ。日本ペンクラブ会員。出版社を経てフリーランス。全国俳誌協会賞、日本詩歌句随筆評論協会賞奨励賞(評論部門)受賞。『誰も書けなかったパチンコ20兆円の闇』(宝島社・共著)、『ルポ 京アニを燃やした男』(第三書館)。近著『評伝 赤城さかえ 楸邨、波郷、兜太から愛された魂の俳人』(コールサック社)。
こうして青井さんは正式な裁判に持ち込まれずに済んだ。その後、相手の少女はもちろん、他にも同じような誹謗中傷行為はしていないのか。「してませんね。もう年ですから。それに結婚もしましたし、いまの仕事も長いです。家庭あるんで」 誹謗中傷をした本人は結婚して平穏に暮らし、された側は引退して行方知れず。青井さんの話では、そのグラドルにはリスカ、手首を傷つけた跡もあったという。自分のせいではない、元から病ンドルだったと語るが釈然としない。奥さんは知っているのか。「知ってます。妻もネット好きだしオタク同士で価値観も一緒です。もうバカなことすんなよ、とは言われてますが」 今日一番嬉しそうな笑顔、地獄のような「子ども社会人」だった青井さんを救ったのは奥さんだ。微笑ましい限りだが、それでもやはり釈然としないことを告げる。すると青井さんは顔をしかめ、改まって言葉を繋いだ。「仕事に影響があったならかわいそうですけど、もう和解しましたし、昔の話ですから」 彼を責めることが目的ではないが、少女の性格や仕事ぶりの「あることないこと」をネットに撒き散らした青井さんは偽計業務妨害罪でもおかしくない。元アイドルのラーメン店経営者に対して「反社とつながっている」と風説の流布を繰り返した50代の男もまさにそれだった。誹謗中傷には仕事に影響を与えるような妨害行為も多い。こいつは使うな、こいつはこういう奴だと取引先や媒体に匿名で連絡する。歪んだ正義と嫉妬、心理学では「引き下げ心理」とも呼ばれる。「それはあるかもしれません。あのころ、なにもかもうまくいかなかった男で、ゲームと少女だけが拠り所でしたから」 素直に認める青井さんだが、これも過去と割り切れているからこそ。理解ある奥さんもいて平穏に暮らしている。しかし被害者は割り切れていないかもしれない。やったほうは忘れても、やられたほうは忘れない。それでも青井さんの言うところの「その辺の一般人」である限りキャンセルカルチャーの心配はないし、青井さんの現在の仕事は具体的には書かないが万年人手不足の仕事でコロナ禍もあり、まずクビにはならない不人気職とのこと。このように誹謗中傷側から話を聞くとやったもん勝ち、本当に解決策はないのではと思わされる。あえて聞くが、かつての誹謗中傷者として、どうすれば誹謗中傷が無くなると思うか。「絶対に無くならないと思いますよ。実名制にしてもやる人はやるし、ネットってその辺の一般人最強ですから」 実名制は韓国も失敗した。確かに、日本でもFacebookの一部ユーザーなどは実名どころか顔から所属先まで晒して他者を攻撃していたりする。自営業や年金者に多い印象だが、前者はともかく後者はある意味で無敵、ほのぼのと孫の写真を晒したそばから誹謗中傷を繰り返している(それも全公開設定!)。無くならないというのが現実だろう。「個人的な考えですけど、中国の信用スコアとか効くんじゃないですか? たとえばネットなら誹謗中傷を繰り返せば手持ちのスコアが減るとか。それで就職とかローンとか、子どもの進学にも影響あるみたいな。それでお互い点を見ることができるシステムなら他人を気にする日本人に効くと思うんですけど、こいつは何点か~って点数見られる感じで」 こんな気持ち悪い全体主義、筆者は無論反対だが、これくらいしないと匿名の誹謗中傷、ネット上の暴力は無くならないと思わされるのもまた事実。2021年4月に改正プロバイダ責任制限法が成立、公布されたが、この程度ではかつての青井さんのようないわゆる「無敵の一般人」には効かないように思う。自分自身が幸せになればやめられると思う「自分はもうしてませんけど、いまも独身で仕事もだめだったら別のタゲ(ターゲットの意)を探していたと思います。みんなが幸せになればいいんでしょうけど、それは無理でしょう。だったら、誹謗中傷は無くならないでしょうね」 どこか他人事、誹謗中傷当事者の言葉だけに違和感しかないが、当たっているだけに筆者もこの話を終えたあと、さてどうルポを結実させようか考えてしまった。なのでせめて、青井さんとの一問一答が参考になればと改めて記す。なぜ誹謗中傷するのか、その心理の一例にはなるだろう。その公表は青井さんも望んでいる。匿名掲示板でもSNSでも誹謗中傷の心理そのものに違いはないだろう。 ――なぜ少女が苦しむほどに、あることないことを書き込んだのか「最初はファンだった。何度かイベントや撮影会で会ったが塩対応で態度が悪く、自分の思ったような子じゃなかった。よかれと思って年上としてアドバイスしたつもりが、気持ち悪がられて腹がたった。叩き始めると彼女のことばかり考えるようになった。純粋なファンのときより叩きはじめた後のほうが彼女のことばかり考えていたように思う」 ――少女の仕事や生活を脅かすとは思わなかったのか。「当時は彼女の活動が仕事だという感覚はなかった。自分の娯楽としか見ていなかった。際どい水着でおっさんに媚び売る子どもと、どこか下に見ていたのかもしれない。はっきりいってオカズだった」 ――和解したが誹謗中傷が引退のきっかけかもしれない、罪悪感はあるか。「そこは芸能人として見ていた。有名税だからという免罪符はあったと思う。罪悪なんて大げさな話ではなく、あくまでネタだった」 ――青井さんには過去かもしれないが彼女は忘れていないかもしれない。「それはキリがない。一生気にすることとは思わない。忘れて欲しいと思う」 ――誹謗中傷をしている人たちに先達として忠告することはあるか。「自分自身が幸せになればやめられると思う。ずっと不幸な人はわからない」 ――かつての加害者として誹謗中傷をされている人たちにアドバイスはあるか。「気にしないこと。それしかない。相手が名無しの一般人ならそれしかないと思う。訴えるのは自由だが実利は薄いと思う。罰則を厳しくしない国が悪い。法律の問題だと思う」 このような問答となったが、人それぞれに読み取れる部分は多いだろう。もちろん彼一人のサンプル、これがすべてと言わないが、多くの誹謗中傷側の感覚はお気軽なもので、自覚なしに追い詰める事例が大半のように思う。だからこそやっかいなのだ。いじめという名の犯罪行為同様、受けた側の傷に比べてあまりに軽い。拍子抜けするほどに。そして青井さんの言う「その辺の一般人」かつ無敵の人、それに準じるような人の場合、訴えたところで直接的な効果は薄い。裁判が終わってほとぼり冷めたらまた繰り返す危険人物すらいる。 中国の信用スコア、社会信用システムのようなディストピアは勘弁だが、それがコロナ禍の統制含め有効なのではという話もある。日本は憲法上そこまでできないし表現の自由との兼ね合いもあるが、被害者の苦しみを考えれば、さらなる開示の容易化と刑法の厳罰化の方向に進むのもまた現実だろう。 取材中、青井さんから謝罪の言葉は出なかった。これもまた現実だ。【プロフィール】日野百草(ひの・ひゃくそう)/本名:上崎洋一。1972年千葉県野田市生まれ。日本ペンクラブ会員。出版社を経てフリーランス。全国俳誌協会賞、日本詩歌句随筆評論協会賞奨励賞(評論部門)受賞。『誰も書けなかったパチンコ20兆円の闇』(宝島社・共著)、『ルポ 京アニを燃やした男』(第三書館)。近著『評伝 赤城さかえ 楸邨、波郷、兜太から愛された魂の俳人』(コールサック社)。
「してませんね。もう年ですから。それに結婚もしましたし、いまの仕事も長いです。家庭あるんで」 誹謗中傷をした本人は結婚して平穏に暮らし、された側は引退して行方知れず。青井さんの話では、そのグラドルにはリスカ、手首を傷つけた跡もあったという。自分のせいではない、元から病ンドルだったと語るが釈然としない。奥さんは知っているのか。「知ってます。妻もネット好きだしオタク同士で価値観も一緒です。もうバカなことすんなよ、とは言われてますが」 今日一番嬉しそうな笑顔、地獄のような「子ども社会人」だった青井さんを救ったのは奥さんだ。微笑ましい限りだが、それでもやはり釈然としないことを告げる。すると青井さんは顔をしかめ、改まって言葉を繋いだ。「仕事に影響があったならかわいそうですけど、もう和解しましたし、昔の話ですから」 彼を責めることが目的ではないが、少女の性格や仕事ぶりの「あることないこと」をネットに撒き散らした青井さんは偽計業務妨害罪でもおかしくない。元アイドルのラーメン店経営者に対して「反社とつながっている」と風説の流布を繰り返した50代の男もまさにそれだった。誹謗中傷には仕事に影響を与えるような妨害行為も多い。こいつは使うな、こいつはこういう奴だと取引先や媒体に匿名で連絡する。歪んだ正義と嫉妬、心理学では「引き下げ心理」とも呼ばれる。「それはあるかもしれません。あのころ、なにもかもうまくいかなかった男で、ゲームと少女だけが拠り所でしたから」 素直に認める青井さんだが、これも過去と割り切れているからこそ。理解ある奥さんもいて平穏に暮らしている。しかし被害者は割り切れていないかもしれない。やったほうは忘れても、やられたほうは忘れない。それでも青井さんの言うところの「その辺の一般人」である限りキャンセルカルチャーの心配はないし、青井さんの現在の仕事は具体的には書かないが万年人手不足の仕事でコロナ禍もあり、まずクビにはならない不人気職とのこと。このように誹謗中傷側から話を聞くとやったもん勝ち、本当に解決策はないのではと思わされる。あえて聞くが、かつての誹謗中傷者として、どうすれば誹謗中傷が無くなると思うか。「絶対に無くならないと思いますよ。実名制にしてもやる人はやるし、ネットってその辺の一般人最強ですから」 実名制は韓国も失敗した。確かに、日本でもFacebookの一部ユーザーなどは実名どころか顔から所属先まで晒して他者を攻撃していたりする。自営業や年金者に多い印象だが、前者はともかく後者はある意味で無敵、ほのぼのと孫の写真を晒したそばから誹謗中傷を繰り返している(それも全公開設定!)。無くならないというのが現実だろう。「個人的な考えですけど、中国の信用スコアとか効くんじゃないですか? たとえばネットなら誹謗中傷を繰り返せば手持ちのスコアが減るとか。それで就職とかローンとか、子どもの進学にも影響あるみたいな。それでお互い点を見ることができるシステムなら他人を気にする日本人に効くと思うんですけど、こいつは何点か~って点数見られる感じで」 こんな気持ち悪い全体主義、筆者は無論反対だが、これくらいしないと匿名の誹謗中傷、ネット上の暴力は無くならないと思わされるのもまた事実。2021年4月に改正プロバイダ責任制限法が成立、公布されたが、この程度ではかつての青井さんのようないわゆる「無敵の一般人」には効かないように思う。自分自身が幸せになればやめられると思う「自分はもうしてませんけど、いまも独身で仕事もだめだったら別のタゲ(ターゲットの意)を探していたと思います。みんなが幸せになればいいんでしょうけど、それは無理でしょう。だったら、誹謗中傷は無くならないでしょうね」 どこか他人事、誹謗中傷当事者の言葉だけに違和感しかないが、当たっているだけに筆者もこの話を終えたあと、さてどうルポを結実させようか考えてしまった。なのでせめて、青井さんとの一問一答が参考になればと改めて記す。なぜ誹謗中傷するのか、その心理の一例にはなるだろう。その公表は青井さんも望んでいる。匿名掲示板でもSNSでも誹謗中傷の心理そのものに違いはないだろう。 ――なぜ少女が苦しむほどに、あることないことを書き込んだのか「最初はファンだった。何度かイベントや撮影会で会ったが塩対応で態度が悪く、自分の思ったような子じゃなかった。よかれと思って年上としてアドバイスしたつもりが、気持ち悪がられて腹がたった。叩き始めると彼女のことばかり考えるようになった。純粋なファンのときより叩きはじめた後のほうが彼女のことばかり考えていたように思う」 ――少女の仕事や生活を脅かすとは思わなかったのか。「当時は彼女の活動が仕事だという感覚はなかった。自分の娯楽としか見ていなかった。際どい水着でおっさんに媚び売る子どもと、どこか下に見ていたのかもしれない。はっきりいってオカズだった」 ――和解したが誹謗中傷が引退のきっかけかもしれない、罪悪感はあるか。「そこは芸能人として見ていた。有名税だからという免罪符はあったと思う。罪悪なんて大げさな話ではなく、あくまでネタだった」 ――青井さんには過去かもしれないが彼女は忘れていないかもしれない。「それはキリがない。一生気にすることとは思わない。忘れて欲しいと思う」 ――誹謗中傷をしている人たちに先達として忠告することはあるか。「自分自身が幸せになればやめられると思う。ずっと不幸な人はわからない」 ――かつての加害者として誹謗中傷をされている人たちにアドバイスはあるか。「気にしないこと。それしかない。相手が名無しの一般人ならそれしかないと思う。訴えるのは自由だが実利は薄いと思う。罰則を厳しくしない国が悪い。法律の問題だと思う」 このような問答となったが、人それぞれに読み取れる部分は多いだろう。もちろん彼一人のサンプル、これがすべてと言わないが、多くの誹謗中傷側の感覚はお気軽なもので、自覚なしに追い詰める事例が大半のように思う。だからこそやっかいなのだ。いじめという名の犯罪行為同様、受けた側の傷に比べてあまりに軽い。拍子抜けするほどに。そして青井さんの言う「その辺の一般人」かつ無敵の人、それに準じるような人の場合、訴えたところで直接的な効果は薄い。裁判が終わってほとぼり冷めたらまた繰り返す危険人物すらいる。 中国の信用スコア、社会信用システムのようなディストピアは勘弁だが、それがコロナ禍の統制含め有効なのではという話もある。日本は憲法上そこまでできないし表現の自由との兼ね合いもあるが、被害者の苦しみを考えれば、さらなる開示の容易化と刑法の厳罰化の方向に進むのもまた現実だろう。 取材中、青井さんから謝罪の言葉は出なかった。これもまた現実だ。【プロフィール】日野百草(ひの・ひゃくそう)/本名:上崎洋一。1972年千葉県野田市生まれ。日本ペンクラブ会員。出版社を経てフリーランス。全国俳誌協会賞、日本詩歌句随筆評論協会賞奨励賞(評論部門)受賞。『誰も書けなかったパチンコ20兆円の闇』(宝島社・共著)、『ルポ 京アニを燃やした男』(第三書館)。近著『評伝 赤城さかえ 楸邨、波郷、兜太から愛された魂の俳人』(コールサック社)。
誹謗中傷をした本人は結婚して平穏に暮らし、された側は引退して行方知れず。青井さんの話では、そのグラドルにはリスカ、手首を傷つけた跡もあったという。自分のせいではない、元から病ンドルだったと語るが釈然としない。奥さんは知っているのか。「知ってます。妻もネット好きだしオタク同士で価値観も一緒です。もうバカなことすんなよ、とは言われてますが」 今日一番嬉しそうな笑顔、地獄のような「子ども社会人」だった青井さんを救ったのは奥さんだ。微笑ましい限りだが、それでもやはり釈然としないことを告げる。すると青井さんは顔をしかめ、改まって言葉を繋いだ。「仕事に影響があったならかわいそうですけど、もう和解しましたし、昔の話ですから」 彼を責めることが目的ではないが、少女の性格や仕事ぶりの「あることないこと」をネットに撒き散らした青井さんは偽計業務妨害罪でもおかしくない。元アイドルのラーメン店経営者に対して「反社とつながっている」と風説の流布を繰り返した50代の男もまさにそれだった。誹謗中傷には仕事に影響を与えるような妨害行為も多い。こいつは使うな、こいつはこういう奴だと取引先や媒体に匿名で連絡する。歪んだ正義と嫉妬、心理学では「引き下げ心理」とも呼ばれる。「それはあるかもしれません。あのころ、なにもかもうまくいかなかった男で、ゲームと少女だけが拠り所でしたから」 素直に認める青井さんだが、これも過去と割り切れているからこそ。理解ある奥さんもいて平穏に暮らしている。しかし被害者は割り切れていないかもしれない。やったほうは忘れても、やられたほうは忘れない。それでも青井さんの言うところの「その辺の一般人」である限りキャンセルカルチャーの心配はないし、青井さんの現在の仕事は具体的には書かないが万年人手不足の仕事でコロナ禍もあり、まずクビにはならない不人気職とのこと。このように誹謗中傷側から話を聞くとやったもん勝ち、本当に解決策はないのではと思わされる。あえて聞くが、かつての誹謗中傷者として、どうすれば誹謗中傷が無くなると思うか。「絶対に無くならないと思いますよ。実名制にしてもやる人はやるし、ネットってその辺の一般人最強ですから」 実名制は韓国も失敗した。確かに、日本でもFacebookの一部ユーザーなどは実名どころか顔から所属先まで晒して他者を攻撃していたりする。自営業や年金者に多い印象だが、前者はともかく後者はある意味で無敵、ほのぼのと孫の写真を晒したそばから誹謗中傷を繰り返している(それも全公開設定!)。無くならないというのが現実だろう。「個人的な考えですけど、中国の信用スコアとか効くんじゃないですか? たとえばネットなら誹謗中傷を繰り返せば手持ちのスコアが減るとか。それで就職とかローンとか、子どもの進学にも影響あるみたいな。それでお互い点を見ることができるシステムなら他人を気にする日本人に効くと思うんですけど、こいつは何点か~って点数見られる感じで」 こんな気持ち悪い全体主義、筆者は無論反対だが、これくらいしないと匿名の誹謗中傷、ネット上の暴力は無くならないと思わされるのもまた事実。2021年4月に改正プロバイダ責任制限法が成立、公布されたが、この程度ではかつての青井さんのようないわゆる「無敵の一般人」には効かないように思う。自分自身が幸せになればやめられると思う「自分はもうしてませんけど、いまも独身で仕事もだめだったら別のタゲ(ターゲットの意)を探していたと思います。みんなが幸せになればいいんでしょうけど、それは無理でしょう。だったら、誹謗中傷は無くならないでしょうね」 どこか他人事、誹謗中傷当事者の言葉だけに違和感しかないが、当たっているだけに筆者もこの話を終えたあと、さてどうルポを結実させようか考えてしまった。なのでせめて、青井さんとの一問一答が参考になればと改めて記す。なぜ誹謗中傷するのか、その心理の一例にはなるだろう。その公表は青井さんも望んでいる。匿名掲示板でもSNSでも誹謗中傷の心理そのものに違いはないだろう。 ――なぜ少女が苦しむほどに、あることないことを書き込んだのか「最初はファンだった。何度かイベントや撮影会で会ったが塩対応で態度が悪く、自分の思ったような子じゃなかった。よかれと思って年上としてアドバイスしたつもりが、気持ち悪がられて腹がたった。叩き始めると彼女のことばかり考えるようになった。純粋なファンのときより叩きはじめた後のほうが彼女のことばかり考えていたように思う」 ――少女の仕事や生活を脅かすとは思わなかったのか。「当時は彼女の活動が仕事だという感覚はなかった。自分の娯楽としか見ていなかった。際どい水着でおっさんに媚び売る子どもと、どこか下に見ていたのかもしれない。はっきりいってオカズだった」 ――和解したが誹謗中傷が引退のきっかけかもしれない、罪悪感はあるか。「そこは芸能人として見ていた。有名税だからという免罪符はあったと思う。罪悪なんて大げさな話ではなく、あくまでネタだった」 ――青井さんには過去かもしれないが彼女は忘れていないかもしれない。「それはキリがない。一生気にすることとは思わない。忘れて欲しいと思う」 ――誹謗中傷をしている人たちに先達として忠告することはあるか。「自分自身が幸せになればやめられると思う。ずっと不幸な人はわからない」 ――かつての加害者として誹謗中傷をされている人たちにアドバイスはあるか。「気にしないこと。それしかない。相手が名無しの一般人ならそれしかないと思う。訴えるのは自由だが実利は薄いと思う。罰則を厳しくしない国が悪い。法律の問題だと思う」 このような問答となったが、人それぞれに読み取れる部分は多いだろう。もちろん彼一人のサンプル、これがすべてと言わないが、多くの誹謗中傷側の感覚はお気軽なもので、自覚なしに追い詰める事例が大半のように思う。だからこそやっかいなのだ。いじめという名の犯罪行為同様、受けた側の傷に比べてあまりに軽い。拍子抜けするほどに。そして青井さんの言う「その辺の一般人」かつ無敵の人、それに準じるような人の場合、訴えたところで直接的な効果は薄い。裁判が終わってほとぼり冷めたらまた繰り返す危険人物すらいる。 中国の信用スコア、社会信用システムのようなディストピアは勘弁だが、それがコロナ禍の統制含め有効なのではという話もある。日本は憲法上そこまでできないし表現の自由との兼ね合いもあるが、被害者の苦しみを考えれば、さらなる開示の容易化と刑法の厳罰化の方向に進むのもまた現実だろう。 取材中、青井さんから謝罪の言葉は出なかった。これもまた現実だ。【プロフィール】日野百草(ひの・ひゃくそう)/本名:上崎洋一。1972年千葉県野田市生まれ。日本ペンクラブ会員。出版社を経てフリーランス。全国俳誌協会賞、日本詩歌句随筆評論協会賞奨励賞(評論部門)受賞。『誰も書けなかったパチンコ20兆円の闇』(宝島社・共著)、『ルポ 京アニを燃やした男』(第三書館)。近著『評伝 赤城さかえ 楸邨、波郷、兜太から愛された魂の俳人』(コールサック社)。
「知ってます。妻もネット好きだしオタク同士で価値観も一緒です。もうバカなことすんなよ、とは言われてますが」 今日一番嬉しそうな笑顔、地獄のような「子ども社会人」だった青井さんを救ったのは奥さんだ。微笑ましい限りだが、それでもやはり釈然としないことを告げる。すると青井さんは顔をしかめ、改まって言葉を繋いだ。「仕事に影響があったならかわいそうですけど、もう和解しましたし、昔の話ですから」 彼を責めることが目的ではないが、少女の性格や仕事ぶりの「あることないこと」をネットに撒き散らした青井さんは偽計業務妨害罪でもおかしくない。元アイドルのラーメン店経営者に対して「反社とつながっている」と風説の流布を繰り返した50代の男もまさにそれだった。誹謗中傷には仕事に影響を与えるような妨害行為も多い。こいつは使うな、こいつはこういう奴だと取引先や媒体に匿名で連絡する。歪んだ正義と嫉妬、心理学では「引き下げ心理」とも呼ばれる。「それはあるかもしれません。あのころ、なにもかもうまくいかなかった男で、ゲームと少女だけが拠り所でしたから」 素直に認める青井さんだが、これも過去と割り切れているからこそ。理解ある奥さんもいて平穏に暮らしている。しかし被害者は割り切れていないかもしれない。やったほうは忘れても、やられたほうは忘れない。それでも青井さんの言うところの「その辺の一般人」である限りキャンセルカルチャーの心配はないし、青井さんの現在の仕事は具体的には書かないが万年人手不足の仕事でコロナ禍もあり、まずクビにはならない不人気職とのこと。このように誹謗中傷側から話を聞くとやったもん勝ち、本当に解決策はないのではと思わされる。あえて聞くが、かつての誹謗中傷者として、どうすれば誹謗中傷が無くなると思うか。「絶対に無くならないと思いますよ。実名制にしてもやる人はやるし、ネットってその辺の一般人最強ですから」 実名制は韓国も失敗した。確かに、日本でもFacebookの一部ユーザーなどは実名どころか顔から所属先まで晒して他者を攻撃していたりする。自営業や年金者に多い印象だが、前者はともかく後者はある意味で無敵、ほのぼのと孫の写真を晒したそばから誹謗中傷を繰り返している(それも全公開設定!)。無くならないというのが現実だろう。「個人的な考えですけど、中国の信用スコアとか効くんじゃないですか? たとえばネットなら誹謗中傷を繰り返せば手持ちのスコアが減るとか。それで就職とかローンとか、子どもの進学にも影響あるみたいな。それでお互い点を見ることができるシステムなら他人を気にする日本人に効くと思うんですけど、こいつは何点か~って点数見られる感じで」 こんな気持ち悪い全体主義、筆者は無論反対だが、これくらいしないと匿名の誹謗中傷、ネット上の暴力は無くならないと思わされるのもまた事実。2021年4月に改正プロバイダ責任制限法が成立、公布されたが、この程度ではかつての青井さんのようないわゆる「無敵の一般人」には効かないように思う。自分自身が幸せになればやめられると思う「自分はもうしてませんけど、いまも独身で仕事もだめだったら別のタゲ(ターゲットの意)を探していたと思います。みんなが幸せになればいいんでしょうけど、それは無理でしょう。だったら、誹謗中傷は無くならないでしょうね」 どこか他人事、誹謗中傷当事者の言葉だけに違和感しかないが、当たっているだけに筆者もこの話を終えたあと、さてどうルポを結実させようか考えてしまった。なのでせめて、青井さんとの一問一答が参考になればと改めて記す。なぜ誹謗中傷するのか、その心理の一例にはなるだろう。その公表は青井さんも望んでいる。匿名掲示板でもSNSでも誹謗中傷の心理そのものに違いはないだろう。 ――なぜ少女が苦しむほどに、あることないことを書き込んだのか「最初はファンだった。何度かイベントや撮影会で会ったが塩対応で態度が悪く、自分の思ったような子じゃなかった。よかれと思って年上としてアドバイスしたつもりが、気持ち悪がられて腹がたった。叩き始めると彼女のことばかり考えるようになった。純粋なファンのときより叩きはじめた後のほうが彼女のことばかり考えていたように思う」 ――少女の仕事や生活を脅かすとは思わなかったのか。「当時は彼女の活動が仕事だという感覚はなかった。自分の娯楽としか見ていなかった。際どい水着でおっさんに媚び売る子どもと、どこか下に見ていたのかもしれない。はっきりいってオカズだった」 ――和解したが誹謗中傷が引退のきっかけかもしれない、罪悪感はあるか。「そこは芸能人として見ていた。有名税だからという免罪符はあったと思う。罪悪なんて大げさな話ではなく、あくまでネタだった」 ――青井さんには過去かもしれないが彼女は忘れていないかもしれない。「それはキリがない。一生気にすることとは思わない。忘れて欲しいと思う」 ――誹謗中傷をしている人たちに先達として忠告することはあるか。「自分自身が幸せになればやめられると思う。ずっと不幸な人はわからない」 ――かつての加害者として誹謗中傷をされている人たちにアドバイスはあるか。「気にしないこと。それしかない。相手が名無しの一般人ならそれしかないと思う。訴えるのは自由だが実利は薄いと思う。罰則を厳しくしない国が悪い。法律の問題だと思う」 このような問答となったが、人それぞれに読み取れる部分は多いだろう。もちろん彼一人のサンプル、これがすべてと言わないが、多くの誹謗中傷側の感覚はお気軽なもので、自覚なしに追い詰める事例が大半のように思う。だからこそやっかいなのだ。いじめという名の犯罪行為同様、受けた側の傷に比べてあまりに軽い。拍子抜けするほどに。そして青井さんの言う「その辺の一般人」かつ無敵の人、それに準じるような人の場合、訴えたところで直接的な効果は薄い。裁判が終わってほとぼり冷めたらまた繰り返す危険人物すらいる。 中国の信用スコア、社会信用システムのようなディストピアは勘弁だが、それがコロナ禍の統制含め有効なのではという話もある。日本は憲法上そこまでできないし表現の自由との兼ね合いもあるが、被害者の苦しみを考えれば、さらなる開示の容易化と刑法の厳罰化の方向に進むのもまた現実だろう。 取材中、青井さんから謝罪の言葉は出なかった。これもまた現実だ。【プロフィール】日野百草(ひの・ひゃくそう)/本名:上崎洋一。1972年千葉県野田市生まれ。日本ペンクラブ会員。出版社を経てフリーランス。全国俳誌協会賞、日本詩歌句随筆評論協会賞奨励賞(評論部門)受賞。『誰も書けなかったパチンコ20兆円の闇』(宝島社・共著)、『ルポ 京アニを燃やした男』(第三書館)。近著『評伝 赤城さかえ 楸邨、波郷、兜太から愛された魂の俳人』(コールサック社)。
今日一番嬉しそうな笑顔、地獄のような「子ども社会人」だった青井さんを救ったのは奥さんだ。微笑ましい限りだが、それでもやはり釈然としないことを告げる。すると青井さんは顔をしかめ、改まって言葉を繋いだ。「仕事に影響があったならかわいそうですけど、もう和解しましたし、昔の話ですから」 彼を責めることが目的ではないが、少女の性格や仕事ぶりの「あることないこと」をネットに撒き散らした青井さんは偽計業務妨害罪でもおかしくない。元アイドルのラーメン店経営者に対して「反社とつながっている」と風説の流布を繰り返した50代の男もまさにそれだった。誹謗中傷には仕事に影響を与えるような妨害行為も多い。こいつは使うな、こいつはこういう奴だと取引先や媒体に匿名で連絡する。歪んだ正義と嫉妬、心理学では「引き下げ心理」とも呼ばれる。「それはあるかもしれません。あのころ、なにもかもうまくいかなかった男で、ゲームと少女だけが拠り所でしたから」 素直に認める青井さんだが、これも過去と割り切れているからこそ。理解ある奥さんもいて平穏に暮らしている。しかし被害者は割り切れていないかもしれない。やったほうは忘れても、やられたほうは忘れない。それでも青井さんの言うところの「その辺の一般人」である限りキャンセルカルチャーの心配はないし、青井さんの現在の仕事は具体的には書かないが万年人手不足の仕事でコロナ禍もあり、まずクビにはならない不人気職とのこと。このように誹謗中傷側から話を聞くとやったもん勝ち、本当に解決策はないのではと思わされる。あえて聞くが、かつての誹謗中傷者として、どうすれば誹謗中傷が無くなると思うか。「絶対に無くならないと思いますよ。実名制にしてもやる人はやるし、ネットってその辺の一般人最強ですから」 実名制は韓国も失敗した。確かに、日本でもFacebookの一部ユーザーなどは実名どころか顔から所属先まで晒して他者を攻撃していたりする。自営業や年金者に多い印象だが、前者はともかく後者はある意味で無敵、ほのぼのと孫の写真を晒したそばから誹謗中傷を繰り返している(それも全公開設定!)。無くならないというのが現実だろう。「個人的な考えですけど、中国の信用スコアとか効くんじゃないですか? たとえばネットなら誹謗中傷を繰り返せば手持ちのスコアが減るとか。それで就職とかローンとか、子どもの進学にも影響あるみたいな。それでお互い点を見ることができるシステムなら他人を気にする日本人に効くと思うんですけど、こいつは何点か~って点数見られる感じで」 こんな気持ち悪い全体主義、筆者は無論反対だが、これくらいしないと匿名の誹謗中傷、ネット上の暴力は無くならないと思わされるのもまた事実。2021年4月に改正プロバイダ責任制限法が成立、公布されたが、この程度ではかつての青井さんのようないわゆる「無敵の一般人」には効かないように思う。自分自身が幸せになればやめられると思う「自分はもうしてませんけど、いまも独身で仕事もだめだったら別のタゲ(ターゲットの意)を探していたと思います。みんなが幸せになればいいんでしょうけど、それは無理でしょう。だったら、誹謗中傷は無くならないでしょうね」 どこか他人事、誹謗中傷当事者の言葉だけに違和感しかないが、当たっているだけに筆者もこの話を終えたあと、さてどうルポを結実させようか考えてしまった。なのでせめて、青井さんとの一問一答が参考になればと改めて記す。なぜ誹謗中傷するのか、その心理の一例にはなるだろう。その公表は青井さんも望んでいる。匿名掲示板でもSNSでも誹謗中傷の心理そのものに違いはないだろう。 ――なぜ少女が苦しむほどに、あることないことを書き込んだのか「最初はファンだった。何度かイベントや撮影会で会ったが塩対応で態度が悪く、自分の思ったような子じゃなかった。よかれと思って年上としてアドバイスしたつもりが、気持ち悪がられて腹がたった。叩き始めると彼女のことばかり考えるようになった。純粋なファンのときより叩きはじめた後のほうが彼女のことばかり考えていたように思う」 ――少女の仕事や生活を脅かすとは思わなかったのか。「当時は彼女の活動が仕事だという感覚はなかった。自分の娯楽としか見ていなかった。際どい水着でおっさんに媚び売る子どもと、どこか下に見ていたのかもしれない。はっきりいってオカズだった」 ――和解したが誹謗中傷が引退のきっかけかもしれない、罪悪感はあるか。「そこは芸能人として見ていた。有名税だからという免罪符はあったと思う。罪悪なんて大げさな話ではなく、あくまでネタだった」 ――青井さんには過去かもしれないが彼女は忘れていないかもしれない。「それはキリがない。一生気にすることとは思わない。忘れて欲しいと思う」 ――誹謗中傷をしている人たちに先達として忠告することはあるか。「自分自身が幸せになればやめられると思う。ずっと不幸な人はわからない」 ――かつての加害者として誹謗中傷をされている人たちにアドバイスはあるか。「気にしないこと。それしかない。相手が名無しの一般人ならそれしかないと思う。訴えるのは自由だが実利は薄いと思う。罰則を厳しくしない国が悪い。法律の問題だと思う」 このような問答となったが、人それぞれに読み取れる部分は多いだろう。もちろん彼一人のサンプル、これがすべてと言わないが、多くの誹謗中傷側の感覚はお気軽なもので、自覚なしに追い詰める事例が大半のように思う。だからこそやっかいなのだ。いじめという名の犯罪行為同様、受けた側の傷に比べてあまりに軽い。拍子抜けするほどに。そして青井さんの言う「その辺の一般人」かつ無敵の人、それに準じるような人の場合、訴えたところで直接的な効果は薄い。裁判が終わってほとぼり冷めたらまた繰り返す危険人物すらいる。 中国の信用スコア、社会信用システムのようなディストピアは勘弁だが、それがコロナ禍の統制含め有効なのではという話もある。日本は憲法上そこまでできないし表現の自由との兼ね合いもあるが、被害者の苦しみを考えれば、さらなる開示の容易化と刑法の厳罰化の方向に進むのもまた現実だろう。 取材中、青井さんから謝罪の言葉は出なかった。これもまた現実だ。【プロフィール】日野百草(ひの・ひゃくそう)/本名:上崎洋一。1972年千葉県野田市生まれ。日本ペンクラブ会員。出版社を経てフリーランス。全国俳誌協会賞、日本詩歌句随筆評論協会賞奨励賞(評論部門)受賞。『誰も書けなかったパチンコ20兆円の闇』(宝島社・共著)、『ルポ 京アニを燃やした男』(第三書館)。近著『評伝 赤城さかえ 楸邨、波郷、兜太から愛された魂の俳人』(コールサック社)。
「仕事に影響があったならかわいそうですけど、もう和解しましたし、昔の話ですから」 彼を責めることが目的ではないが、少女の性格や仕事ぶりの「あることないこと」をネットに撒き散らした青井さんは偽計業務妨害罪でもおかしくない。元アイドルのラーメン店経営者に対して「反社とつながっている」と風説の流布を繰り返した50代の男もまさにそれだった。誹謗中傷には仕事に影響を与えるような妨害行為も多い。こいつは使うな、こいつはこういう奴だと取引先や媒体に匿名で連絡する。歪んだ正義と嫉妬、心理学では「引き下げ心理」とも呼ばれる。「それはあるかもしれません。あのころ、なにもかもうまくいかなかった男で、ゲームと少女だけが拠り所でしたから」 素直に認める青井さんだが、これも過去と割り切れているからこそ。理解ある奥さんもいて平穏に暮らしている。しかし被害者は割り切れていないかもしれない。やったほうは忘れても、やられたほうは忘れない。それでも青井さんの言うところの「その辺の一般人」である限りキャンセルカルチャーの心配はないし、青井さんの現在の仕事は具体的には書かないが万年人手不足の仕事でコロナ禍もあり、まずクビにはならない不人気職とのこと。このように誹謗中傷側から話を聞くとやったもん勝ち、本当に解決策はないのではと思わされる。あえて聞くが、かつての誹謗中傷者として、どうすれば誹謗中傷が無くなると思うか。「絶対に無くならないと思いますよ。実名制にしてもやる人はやるし、ネットってその辺の一般人最強ですから」 実名制は韓国も失敗した。確かに、日本でもFacebookの一部ユーザーなどは実名どころか顔から所属先まで晒して他者を攻撃していたりする。自営業や年金者に多い印象だが、前者はともかく後者はある意味で無敵、ほのぼのと孫の写真を晒したそばから誹謗中傷を繰り返している(それも全公開設定!)。無くならないというのが現実だろう。「個人的な考えですけど、中国の信用スコアとか効くんじゃないですか? たとえばネットなら誹謗中傷を繰り返せば手持ちのスコアが減るとか。それで就職とかローンとか、子どもの進学にも影響あるみたいな。それでお互い点を見ることができるシステムなら他人を気にする日本人に効くと思うんですけど、こいつは何点か~って点数見られる感じで」 こんな気持ち悪い全体主義、筆者は無論反対だが、これくらいしないと匿名の誹謗中傷、ネット上の暴力は無くならないと思わされるのもまた事実。2021年4月に改正プロバイダ責任制限法が成立、公布されたが、この程度ではかつての青井さんのようないわゆる「無敵の一般人」には効かないように思う。自分自身が幸せになればやめられると思う「自分はもうしてませんけど、いまも独身で仕事もだめだったら別のタゲ(ターゲットの意)を探していたと思います。みんなが幸せになればいいんでしょうけど、それは無理でしょう。だったら、誹謗中傷は無くならないでしょうね」 どこか他人事、誹謗中傷当事者の言葉だけに違和感しかないが、当たっているだけに筆者もこの話を終えたあと、さてどうルポを結実させようか考えてしまった。なのでせめて、青井さんとの一問一答が参考になればと改めて記す。なぜ誹謗中傷するのか、その心理の一例にはなるだろう。その公表は青井さんも望んでいる。匿名掲示板でもSNSでも誹謗中傷の心理そのものに違いはないだろう。 ――なぜ少女が苦しむほどに、あることないことを書き込んだのか「最初はファンだった。何度かイベントや撮影会で会ったが塩対応で態度が悪く、自分の思ったような子じゃなかった。よかれと思って年上としてアドバイスしたつもりが、気持ち悪がられて腹がたった。叩き始めると彼女のことばかり考えるようになった。純粋なファンのときより叩きはじめた後のほうが彼女のことばかり考えていたように思う」 ――少女の仕事や生活を脅かすとは思わなかったのか。「当時は彼女の活動が仕事だという感覚はなかった。自分の娯楽としか見ていなかった。際どい水着でおっさんに媚び売る子どもと、どこか下に見ていたのかもしれない。はっきりいってオカズだった」 ――和解したが誹謗中傷が引退のきっかけかもしれない、罪悪感はあるか。「そこは芸能人として見ていた。有名税だからという免罪符はあったと思う。罪悪なんて大げさな話ではなく、あくまでネタだった」 ――青井さんには過去かもしれないが彼女は忘れていないかもしれない。「それはキリがない。一生気にすることとは思わない。忘れて欲しいと思う」 ――誹謗中傷をしている人たちに先達として忠告することはあるか。「自分自身が幸せになればやめられると思う。ずっと不幸な人はわからない」 ――かつての加害者として誹謗中傷をされている人たちにアドバイスはあるか。「気にしないこと。それしかない。相手が名無しの一般人ならそれしかないと思う。訴えるのは自由だが実利は薄いと思う。罰則を厳しくしない国が悪い。法律の問題だと思う」 このような問答となったが、人それぞれに読み取れる部分は多いだろう。もちろん彼一人のサンプル、これがすべてと言わないが、多くの誹謗中傷側の感覚はお気軽なもので、自覚なしに追い詰める事例が大半のように思う。だからこそやっかいなのだ。いじめという名の犯罪行為同様、受けた側の傷に比べてあまりに軽い。拍子抜けするほどに。そして青井さんの言う「その辺の一般人」かつ無敵の人、それに準じるような人の場合、訴えたところで直接的な効果は薄い。裁判が終わってほとぼり冷めたらまた繰り返す危険人物すらいる。 中国の信用スコア、社会信用システムのようなディストピアは勘弁だが、それがコロナ禍の統制含め有効なのではという話もある。日本は憲法上そこまでできないし表現の自由との兼ね合いもあるが、被害者の苦しみを考えれば、さらなる開示の容易化と刑法の厳罰化の方向に進むのもまた現実だろう。 取材中、青井さんから謝罪の言葉は出なかった。これもまた現実だ。【プロフィール】日野百草(ひの・ひゃくそう)/本名:上崎洋一。1972年千葉県野田市生まれ。日本ペンクラブ会員。出版社を経てフリーランス。全国俳誌協会賞、日本詩歌句随筆評論協会賞奨励賞(評論部門)受賞。『誰も書けなかったパチンコ20兆円の闇』(宝島社・共著)、『ルポ 京アニを燃やした男』(第三書館)。近著『評伝 赤城さかえ 楸邨、波郷、兜太から愛された魂の俳人』(コールサック社)。
彼を責めることが目的ではないが、少女の性格や仕事ぶりの「あることないこと」をネットに撒き散らした青井さんは偽計業務妨害罪でもおかしくない。元アイドルのラーメン店経営者に対して「反社とつながっている」と風説の流布を繰り返した50代の男もまさにそれだった。誹謗中傷には仕事に影響を与えるような妨害行為も多い。こいつは使うな、こいつはこういう奴だと取引先や媒体に匿名で連絡する。歪んだ正義と嫉妬、心理学では「引き下げ心理」とも呼ばれる。「それはあるかもしれません。あのころ、なにもかもうまくいかなかった男で、ゲームと少女だけが拠り所でしたから」 素直に認める青井さんだが、これも過去と割り切れているからこそ。理解ある奥さんもいて平穏に暮らしている。しかし被害者は割り切れていないかもしれない。やったほうは忘れても、やられたほうは忘れない。それでも青井さんの言うところの「その辺の一般人」である限りキャンセルカルチャーの心配はないし、青井さんの現在の仕事は具体的には書かないが万年人手不足の仕事でコロナ禍もあり、まずクビにはならない不人気職とのこと。このように誹謗中傷側から話を聞くとやったもん勝ち、本当に解決策はないのではと思わされる。あえて聞くが、かつての誹謗中傷者として、どうすれば誹謗中傷が無くなると思うか。「絶対に無くならないと思いますよ。実名制にしてもやる人はやるし、ネットってその辺の一般人最強ですから」 実名制は韓国も失敗した。確かに、日本でもFacebookの一部ユーザーなどは実名どころか顔から所属先まで晒して他者を攻撃していたりする。自営業や年金者に多い印象だが、前者はともかく後者はある意味で無敵、ほのぼのと孫の写真を晒したそばから誹謗中傷を繰り返している(それも全公開設定!)。無くならないというのが現実だろう。「個人的な考えですけど、中国の信用スコアとか効くんじゃないですか? たとえばネットなら誹謗中傷を繰り返せば手持ちのスコアが減るとか。それで就職とかローンとか、子どもの進学にも影響あるみたいな。それでお互い点を見ることができるシステムなら他人を気にする日本人に効くと思うんですけど、こいつは何点か~って点数見られる感じで」 こんな気持ち悪い全体主義、筆者は無論反対だが、これくらいしないと匿名の誹謗中傷、ネット上の暴力は無くならないと思わされるのもまた事実。2021年4月に改正プロバイダ責任制限法が成立、公布されたが、この程度ではかつての青井さんのようないわゆる「無敵の一般人」には効かないように思う。自分自身が幸せになればやめられると思う「自分はもうしてませんけど、いまも独身で仕事もだめだったら別のタゲ(ターゲットの意)を探していたと思います。みんなが幸せになればいいんでしょうけど、それは無理でしょう。だったら、誹謗中傷は無くならないでしょうね」 どこか他人事、誹謗中傷当事者の言葉だけに違和感しかないが、当たっているだけに筆者もこの話を終えたあと、さてどうルポを結実させようか考えてしまった。なのでせめて、青井さんとの一問一答が参考になればと改めて記す。なぜ誹謗中傷するのか、その心理の一例にはなるだろう。その公表は青井さんも望んでいる。匿名掲示板でもSNSでも誹謗中傷の心理そのものに違いはないだろう。 ――なぜ少女が苦しむほどに、あることないことを書き込んだのか「最初はファンだった。何度かイベントや撮影会で会ったが塩対応で態度が悪く、自分の思ったような子じゃなかった。よかれと思って年上としてアドバイスしたつもりが、気持ち悪がられて腹がたった。叩き始めると彼女のことばかり考えるようになった。純粋なファンのときより叩きはじめた後のほうが彼女のことばかり考えていたように思う」 ――少女の仕事や生活を脅かすとは思わなかったのか。「当時は彼女の活動が仕事だという感覚はなかった。自分の娯楽としか見ていなかった。際どい水着でおっさんに媚び売る子どもと、どこか下に見ていたのかもしれない。はっきりいってオカズだった」 ――和解したが誹謗中傷が引退のきっかけかもしれない、罪悪感はあるか。「そこは芸能人として見ていた。有名税だからという免罪符はあったと思う。罪悪なんて大げさな話ではなく、あくまでネタだった」 ――青井さんには過去かもしれないが彼女は忘れていないかもしれない。「それはキリがない。一生気にすることとは思わない。忘れて欲しいと思う」 ――誹謗中傷をしている人たちに先達として忠告することはあるか。「自分自身が幸せになればやめられると思う。ずっと不幸な人はわからない」 ――かつての加害者として誹謗中傷をされている人たちにアドバイスはあるか。「気にしないこと。それしかない。相手が名無しの一般人ならそれしかないと思う。訴えるのは自由だが実利は薄いと思う。罰則を厳しくしない国が悪い。法律の問題だと思う」 このような問答となったが、人それぞれに読み取れる部分は多いだろう。もちろん彼一人のサンプル、これがすべてと言わないが、多くの誹謗中傷側の感覚はお気軽なもので、自覚なしに追い詰める事例が大半のように思う。だからこそやっかいなのだ。いじめという名の犯罪行為同様、受けた側の傷に比べてあまりに軽い。拍子抜けするほどに。そして青井さんの言う「その辺の一般人」かつ無敵の人、それに準じるような人の場合、訴えたところで直接的な効果は薄い。裁判が終わってほとぼり冷めたらまた繰り返す危険人物すらいる。 中国の信用スコア、社会信用システムのようなディストピアは勘弁だが、それがコロナ禍の統制含め有効なのではという話もある。日本は憲法上そこまでできないし表現の自由との兼ね合いもあるが、被害者の苦しみを考えれば、さらなる開示の容易化と刑法の厳罰化の方向に進むのもまた現実だろう。 取材中、青井さんから謝罪の言葉は出なかった。これもまた現実だ。【プロフィール】日野百草(ひの・ひゃくそう)/本名:上崎洋一。1972年千葉県野田市生まれ。日本ペンクラブ会員。出版社を経てフリーランス。全国俳誌協会賞、日本詩歌句随筆評論協会賞奨励賞(評論部門)受賞。『誰も書けなかったパチンコ20兆円の闇』(宝島社・共著)、『ルポ 京アニを燃やした男』(第三書館)。近著『評伝 赤城さかえ 楸邨、波郷、兜太から愛された魂の俳人』(コールサック社)。
「それはあるかもしれません。あのころ、なにもかもうまくいかなかった男で、ゲームと少女だけが拠り所でしたから」 素直に認める青井さんだが、これも過去と割り切れているからこそ。理解ある奥さんもいて平穏に暮らしている。しかし被害者は割り切れていないかもしれない。やったほうは忘れても、やられたほうは忘れない。それでも青井さんの言うところの「その辺の一般人」である限りキャンセルカルチャーの心配はないし、青井さんの現在の仕事は具体的には書かないが万年人手不足の仕事でコロナ禍もあり、まずクビにはならない不人気職とのこと。このように誹謗中傷側から話を聞くとやったもん勝ち、本当に解決策はないのではと思わされる。あえて聞くが、かつての誹謗中傷者として、どうすれば誹謗中傷が無くなると思うか。「絶対に無くならないと思いますよ。実名制にしてもやる人はやるし、ネットってその辺の一般人最強ですから」 実名制は韓国も失敗した。確かに、日本でもFacebookの一部ユーザーなどは実名どころか顔から所属先まで晒して他者を攻撃していたりする。自営業や年金者に多い印象だが、前者はともかく後者はある意味で無敵、ほのぼのと孫の写真を晒したそばから誹謗中傷を繰り返している(それも全公開設定!)。無くならないというのが現実だろう。「個人的な考えですけど、中国の信用スコアとか効くんじゃないですか? たとえばネットなら誹謗中傷を繰り返せば手持ちのスコアが減るとか。それで就職とかローンとか、子どもの進学にも影響あるみたいな。それでお互い点を見ることができるシステムなら他人を気にする日本人に効くと思うんですけど、こいつは何点か~って点数見られる感じで」 こんな気持ち悪い全体主義、筆者は無論反対だが、これくらいしないと匿名の誹謗中傷、ネット上の暴力は無くならないと思わされるのもまた事実。2021年4月に改正プロバイダ責任制限法が成立、公布されたが、この程度ではかつての青井さんのようないわゆる「無敵の一般人」には効かないように思う。自分自身が幸せになればやめられると思う「自分はもうしてませんけど、いまも独身で仕事もだめだったら別のタゲ(ターゲットの意)を探していたと思います。みんなが幸せになればいいんでしょうけど、それは無理でしょう。だったら、誹謗中傷は無くならないでしょうね」 どこか他人事、誹謗中傷当事者の言葉だけに違和感しかないが、当たっているだけに筆者もこの話を終えたあと、さてどうルポを結実させようか考えてしまった。なのでせめて、青井さんとの一問一答が参考になればと改めて記す。なぜ誹謗中傷するのか、その心理の一例にはなるだろう。その公表は青井さんも望んでいる。匿名掲示板でもSNSでも誹謗中傷の心理そのものに違いはないだろう。 ――なぜ少女が苦しむほどに、あることないことを書き込んだのか「最初はファンだった。何度かイベントや撮影会で会ったが塩対応で態度が悪く、自分の思ったような子じゃなかった。よかれと思って年上としてアドバイスしたつもりが、気持ち悪がられて腹がたった。叩き始めると彼女のことばかり考えるようになった。純粋なファンのときより叩きはじめた後のほうが彼女のことばかり考えていたように思う」 ――少女の仕事や生活を脅かすとは思わなかったのか。「当時は彼女の活動が仕事だという感覚はなかった。自分の娯楽としか見ていなかった。際どい水着でおっさんに媚び売る子どもと、どこか下に見ていたのかもしれない。はっきりいってオカズだった」 ――和解したが誹謗中傷が引退のきっかけかもしれない、罪悪感はあるか。「そこは芸能人として見ていた。有名税だからという免罪符はあったと思う。罪悪なんて大げさな話ではなく、あくまでネタだった」 ――青井さんには過去かもしれないが彼女は忘れていないかもしれない。「それはキリがない。一生気にすることとは思わない。忘れて欲しいと思う」 ――誹謗中傷をしている人たちに先達として忠告することはあるか。「自分自身が幸せになればやめられると思う。ずっと不幸な人はわからない」 ――かつての加害者として誹謗中傷をされている人たちにアドバイスはあるか。「気にしないこと。それしかない。相手が名無しの一般人ならそれしかないと思う。訴えるのは自由だが実利は薄いと思う。罰則を厳しくしない国が悪い。法律の問題だと思う」 このような問答となったが、人それぞれに読み取れる部分は多いだろう。もちろん彼一人のサンプル、これがすべてと言わないが、多くの誹謗中傷側の感覚はお気軽なもので、自覚なしに追い詰める事例が大半のように思う。だからこそやっかいなのだ。いじめという名の犯罪行為同様、受けた側の傷に比べてあまりに軽い。拍子抜けするほどに。そして青井さんの言う「その辺の一般人」かつ無敵の人、それに準じるような人の場合、訴えたところで直接的な効果は薄い。裁判が終わってほとぼり冷めたらまた繰り返す危険人物すらいる。 中国の信用スコア、社会信用システムのようなディストピアは勘弁だが、それがコロナ禍の統制含め有効なのではという話もある。日本は憲法上そこまでできないし表現の自由との兼ね合いもあるが、被害者の苦しみを考えれば、さらなる開示の容易化と刑法の厳罰化の方向に進むのもまた現実だろう。 取材中、青井さんから謝罪の言葉は出なかった。これもまた現実だ。【プロフィール】日野百草(ひの・ひゃくそう)/本名:上崎洋一。1972年千葉県野田市生まれ。日本ペンクラブ会員。出版社を経てフリーランス。全国俳誌協会賞、日本詩歌句随筆評論協会賞奨励賞(評論部門)受賞。『誰も書けなかったパチンコ20兆円の闇』(宝島社・共著)、『ルポ 京アニを燃やした男』(第三書館)。近著『評伝 赤城さかえ 楸邨、波郷、兜太から愛された魂の俳人』(コールサック社)。
素直に認める青井さんだが、これも過去と割り切れているからこそ。理解ある奥さんもいて平穏に暮らしている。しかし被害者は割り切れていないかもしれない。やったほうは忘れても、やられたほうは忘れない。それでも青井さんの言うところの「その辺の一般人」である限りキャンセルカルチャーの心配はないし、青井さんの現在の仕事は具体的には書かないが万年人手不足の仕事でコロナ禍もあり、まずクビにはならない不人気職とのこと。このように誹謗中傷側から話を聞くとやったもん勝ち、本当に解決策はないのではと思わされる。あえて聞くが、かつての誹謗中傷者として、どうすれば誹謗中傷が無くなると思うか。「絶対に無くならないと思いますよ。実名制にしてもやる人はやるし、ネットってその辺の一般人最強ですから」 実名制は韓国も失敗した。確かに、日本でもFacebookの一部ユーザーなどは実名どころか顔から所属先まで晒して他者を攻撃していたりする。自営業や年金者に多い印象だが、前者はともかく後者はある意味で無敵、ほのぼのと孫の写真を晒したそばから誹謗中傷を繰り返している(それも全公開設定!)。無くならないというのが現実だろう。「個人的な考えですけど、中国の信用スコアとか効くんじゃないですか? たとえばネットなら誹謗中傷を繰り返せば手持ちのスコアが減るとか。それで就職とかローンとか、子どもの進学にも影響あるみたいな。それでお互い点を見ることができるシステムなら他人を気にする日本人に効くと思うんですけど、こいつは何点か~って点数見られる感じで」 こんな気持ち悪い全体主義、筆者は無論反対だが、これくらいしないと匿名の誹謗中傷、ネット上の暴力は無くならないと思わされるのもまた事実。2021年4月に改正プロバイダ責任制限法が成立、公布されたが、この程度ではかつての青井さんのようないわゆる「無敵の一般人」には効かないように思う。自分自身が幸せになればやめられると思う「自分はもうしてませんけど、いまも独身で仕事もだめだったら別のタゲ(ターゲットの意)を探していたと思います。みんなが幸せになればいいんでしょうけど、それは無理でしょう。だったら、誹謗中傷は無くならないでしょうね」 どこか他人事、誹謗中傷当事者の言葉だけに違和感しかないが、当たっているだけに筆者もこの話を終えたあと、さてどうルポを結実させようか考えてしまった。なのでせめて、青井さんとの一問一答が参考になればと改めて記す。なぜ誹謗中傷するのか、その心理の一例にはなるだろう。その公表は青井さんも望んでいる。匿名掲示板でもSNSでも誹謗中傷の心理そのものに違いはないだろう。 ――なぜ少女が苦しむほどに、あることないことを書き込んだのか「最初はファンだった。何度かイベントや撮影会で会ったが塩対応で態度が悪く、自分の思ったような子じゃなかった。よかれと思って年上としてアドバイスしたつもりが、気持ち悪がられて腹がたった。叩き始めると彼女のことばかり考えるようになった。純粋なファンのときより叩きはじめた後のほうが彼女のことばかり考えていたように思う」 ――少女の仕事や生活を脅かすとは思わなかったのか。「当時は彼女の活動が仕事だという感覚はなかった。自分の娯楽としか見ていなかった。際どい水着でおっさんに媚び売る子どもと、どこか下に見ていたのかもしれない。はっきりいってオカズだった」 ――和解したが誹謗中傷が引退のきっかけかもしれない、罪悪感はあるか。「そこは芸能人として見ていた。有名税だからという免罪符はあったと思う。罪悪なんて大げさな話ではなく、あくまでネタだった」 ――青井さんには過去かもしれないが彼女は忘れていないかもしれない。「それはキリがない。一生気にすることとは思わない。忘れて欲しいと思う」 ――誹謗中傷をしている人たちに先達として忠告することはあるか。「自分自身が幸せになればやめられると思う。ずっと不幸な人はわからない」 ――かつての加害者として誹謗中傷をされている人たちにアドバイスはあるか。「気にしないこと。それしかない。相手が名無しの一般人ならそれしかないと思う。訴えるのは自由だが実利は薄いと思う。罰則を厳しくしない国が悪い。法律の問題だと思う」 このような問答となったが、人それぞれに読み取れる部分は多いだろう。もちろん彼一人のサンプル、これがすべてと言わないが、多くの誹謗中傷側の感覚はお気軽なもので、自覚なしに追い詰める事例が大半のように思う。だからこそやっかいなのだ。いじめという名の犯罪行為同様、受けた側の傷に比べてあまりに軽い。拍子抜けするほどに。そして青井さんの言う「その辺の一般人」かつ無敵の人、それに準じるような人の場合、訴えたところで直接的な効果は薄い。裁判が終わってほとぼり冷めたらまた繰り返す危険人物すらいる。 中国の信用スコア、社会信用システムのようなディストピアは勘弁だが、それがコロナ禍の統制含め有効なのではという話もある。日本は憲法上そこまでできないし表現の自由との兼ね合いもあるが、被害者の苦しみを考えれば、さらなる開示の容易化と刑法の厳罰化の方向に進むのもまた現実だろう。 取材中、青井さんから謝罪の言葉は出なかった。これもまた現実だ。【プロフィール】日野百草(ひの・ひゃくそう)/本名:上崎洋一。1972年千葉県野田市生まれ。日本ペンクラブ会員。出版社を経てフリーランス。全国俳誌協会賞、日本詩歌句随筆評論協会賞奨励賞(評論部門)受賞。『誰も書けなかったパチンコ20兆円の闇』(宝島社・共著)、『ルポ 京アニを燃やした男』(第三書館)。近著『評伝 赤城さかえ 楸邨、波郷、兜太から愛された魂の俳人』(コールサック社)。
「絶対に無くならないと思いますよ。実名制にしてもやる人はやるし、ネットってその辺の一般人最強ですから」 実名制は韓国も失敗した。確かに、日本でもFacebookの一部ユーザーなどは実名どころか顔から所属先まで晒して他者を攻撃していたりする。自営業や年金者に多い印象だが、前者はともかく後者はある意味で無敵、ほのぼのと孫の写真を晒したそばから誹謗中傷を繰り返している(それも全公開設定!)。無くならないというのが現実だろう。「個人的な考えですけど、中国の信用スコアとか効くんじゃないですか? たとえばネットなら誹謗中傷を繰り返せば手持ちのスコアが減るとか。それで就職とかローンとか、子どもの進学にも影響あるみたいな。それでお互い点を見ることができるシステムなら他人を気にする日本人に効くと思うんですけど、こいつは何点か~って点数見られる感じで」 こんな気持ち悪い全体主義、筆者は無論反対だが、これくらいしないと匿名の誹謗中傷、ネット上の暴力は無くならないと思わされるのもまた事実。2021年4月に改正プロバイダ責任制限法が成立、公布されたが、この程度ではかつての青井さんのようないわゆる「無敵の一般人」には効かないように思う。自分自身が幸せになればやめられると思う「自分はもうしてませんけど、いまも独身で仕事もだめだったら別のタゲ(ターゲットの意)を探していたと思います。みんなが幸せになればいいんでしょうけど、それは無理でしょう。だったら、誹謗中傷は無くならないでしょうね」 どこか他人事、誹謗中傷当事者の言葉だけに違和感しかないが、当たっているだけに筆者もこの話を終えたあと、さてどうルポを結実させようか考えてしまった。なのでせめて、青井さんとの一問一答が参考になればと改めて記す。なぜ誹謗中傷するのか、その心理の一例にはなるだろう。その公表は青井さんも望んでいる。匿名掲示板でもSNSでも誹謗中傷の心理そのものに違いはないだろう。 ――なぜ少女が苦しむほどに、あることないことを書き込んだのか「最初はファンだった。何度かイベントや撮影会で会ったが塩対応で態度が悪く、自分の思ったような子じゃなかった。よかれと思って年上としてアドバイスしたつもりが、気持ち悪がられて腹がたった。叩き始めると彼女のことばかり考えるようになった。純粋なファンのときより叩きはじめた後のほうが彼女のことばかり考えていたように思う」 ――少女の仕事や生活を脅かすとは思わなかったのか。「当時は彼女の活動が仕事だという感覚はなかった。自分の娯楽としか見ていなかった。際どい水着でおっさんに媚び売る子どもと、どこか下に見ていたのかもしれない。はっきりいってオカズだった」 ――和解したが誹謗中傷が引退のきっかけかもしれない、罪悪感はあるか。「そこは芸能人として見ていた。有名税だからという免罪符はあったと思う。罪悪なんて大げさな話ではなく、あくまでネタだった」 ――青井さんには過去かもしれないが彼女は忘れていないかもしれない。「それはキリがない。一生気にすることとは思わない。忘れて欲しいと思う」 ――誹謗中傷をしている人たちに先達として忠告することはあるか。「自分自身が幸せになればやめられると思う。ずっと不幸な人はわからない」 ――かつての加害者として誹謗中傷をされている人たちにアドバイスはあるか。「気にしないこと。それしかない。相手が名無しの一般人ならそれしかないと思う。訴えるのは自由だが実利は薄いと思う。罰則を厳しくしない国が悪い。法律の問題だと思う」 このような問答となったが、人それぞれに読み取れる部分は多いだろう。もちろん彼一人のサンプル、これがすべてと言わないが、多くの誹謗中傷側の感覚はお気軽なもので、自覚なしに追い詰める事例が大半のように思う。だからこそやっかいなのだ。いじめという名の犯罪行為同様、受けた側の傷に比べてあまりに軽い。拍子抜けするほどに。そして青井さんの言う「その辺の一般人」かつ無敵の人、それに準じるような人の場合、訴えたところで直接的な効果は薄い。裁判が終わってほとぼり冷めたらまた繰り返す危険人物すらいる。 中国の信用スコア、社会信用システムのようなディストピアは勘弁だが、それがコロナ禍の統制含め有効なのではという話もある。日本は憲法上そこまでできないし表現の自由との兼ね合いもあるが、被害者の苦しみを考えれば、さらなる開示の容易化と刑法の厳罰化の方向に進むのもまた現実だろう。 取材中、青井さんから謝罪の言葉は出なかった。これもまた現実だ。【プロフィール】日野百草(ひの・ひゃくそう)/本名:上崎洋一。1972年千葉県野田市生まれ。日本ペンクラブ会員。出版社を経てフリーランス。全国俳誌協会賞、日本詩歌句随筆評論協会賞奨励賞(評論部門)受賞。『誰も書けなかったパチンコ20兆円の闇』(宝島社・共著)、『ルポ 京アニを燃やした男』(第三書館)。近著『評伝 赤城さかえ 楸邨、波郷、兜太から愛された魂の俳人』(コールサック社)。
実名制は韓国も失敗した。確かに、日本でもFacebookの一部ユーザーなどは実名どころか顔から所属先まで晒して他者を攻撃していたりする。自営業や年金者に多い印象だが、前者はともかく後者はある意味で無敵、ほのぼのと孫の写真を晒したそばから誹謗中傷を繰り返している(それも全公開設定!)。無くならないというのが現実だろう。「個人的な考えですけど、中国の信用スコアとか効くんじゃないですか? たとえばネットなら誹謗中傷を繰り返せば手持ちのスコアが減るとか。それで就職とかローンとか、子どもの進学にも影響あるみたいな。それでお互い点を見ることができるシステムなら他人を気にする日本人に効くと思うんですけど、こいつは何点か~って点数見られる感じで」 こんな気持ち悪い全体主義、筆者は無論反対だが、これくらいしないと匿名の誹謗中傷、ネット上の暴力は無くならないと思わされるのもまた事実。2021年4月に改正プロバイダ責任制限法が成立、公布されたが、この程度ではかつての青井さんのようないわゆる「無敵の一般人」には効かないように思う。自分自身が幸せになればやめられると思う「自分はもうしてませんけど、いまも独身で仕事もだめだったら別のタゲ(ターゲットの意)を探していたと思います。みんなが幸せになればいいんでしょうけど、それは無理でしょう。だったら、誹謗中傷は無くならないでしょうね」 どこか他人事、誹謗中傷当事者の言葉だけに違和感しかないが、当たっているだけに筆者もこの話を終えたあと、さてどうルポを結実させようか考えてしまった。なのでせめて、青井さんとの一問一答が参考になればと改めて記す。なぜ誹謗中傷するのか、その心理の一例にはなるだろう。その公表は青井さんも望んでいる。匿名掲示板でもSNSでも誹謗中傷の心理そのものに違いはないだろう。 ――なぜ少女が苦しむほどに、あることないことを書き込んだのか「最初はファンだった。何度かイベントや撮影会で会ったが塩対応で態度が悪く、自分の思ったような子じゃなかった。よかれと思って年上としてアドバイスしたつもりが、気持ち悪がられて腹がたった。叩き始めると彼女のことばかり考えるようになった。純粋なファンのときより叩きはじめた後のほうが彼女のことばかり考えていたように思う」 ――少女の仕事や生活を脅かすとは思わなかったのか。「当時は彼女の活動が仕事だという感覚はなかった。自分の娯楽としか見ていなかった。際どい水着でおっさんに媚び売る子どもと、どこか下に見ていたのかもしれない。はっきりいってオカズだった」 ――和解したが誹謗中傷が引退のきっかけかもしれない、罪悪感はあるか。「そこは芸能人として見ていた。有名税だからという免罪符はあったと思う。罪悪なんて大げさな話ではなく、あくまでネタだった」 ――青井さんには過去かもしれないが彼女は忘れていないかもしれない。「それはキリがない。一生気にすることとは思わない。忘れて欲しいと思う」 ――誹謗中傷をしている人たちに先達として忠告することはあるか。「自分自身が幸せになればやめられると思う。ずっと不幸な人はわからない」 ――かつての加害者として誹謗中傷をされている人たちにアドバイスはあるか。「気にしないこと。それしかない。相手が名無しの一般人ならそれしかないと思う。訴えるのは自由だが実利は薄いと思う。罰則を厳しくしない国が悪い。法律の問題だと思う」 このような問答となったが、人それぞれに読み取れる部分は多いだろう。もちろん彼一人のサンプル、これがすべてと言わないが、多くの誹謗中傷側の感覚はお気軽なもので、自覚なしに追い詰める事例が大半のように思う。だからこそやっかいなのだ。いじめという名の犯罪行為同様、受けた側の傷に比べてあまりに軽い。拍子抜けするほどに。そして青井さんの言う「その辺の一般人」かつ無敵の人、それに準じるような人の場合、訴えたところで直接的な効果は薄い。裁判が終わってほとぼり冷めたらまた繰り返す危険人物すらいる。 中国の信用スコア、社会信用システムのようなディストピアは勘弁だが、それがコロナ禍の統制含め有効なのではという話もある。日本は憲法上そこまでできないし表現の自由との兼ね合いもあるが、被害者の苦しみを考えれば、さらなる開示の容易化と刑法の厳罰化の方向に進むのもまた現実だろう。 取材中、青井さんから謝罪の言葉は出なかった。これもまた現実だ。【プロフィール】日野百草(ひの・ひゃくそう)/本名:上崎洋一。1972年千葉県野田市生まれ。日本ペンクラブ会員。出版社を経てフリーランス。全国俳誌協会賞、日本詩歌句随筆評論協会賞奨励賞(評論部門)受賞。『誰も書けなかったパチンコ20兆円の闇』(宝島社・共著)、『ルポ 京アニを燃やした男』(第三書館)。近著『評伝 赤城さかえ 楸邨、波郷、兜太から愛された魂の俳人』(コールサック社)。
「個人的な考えですけど、中国の信用スコアとか効くんじゃないですか? たとえばネットなら誹謗中傷を繰り返せば手持ちのスコアが減るとか。それで就職とかローンとか、子どもの進学にも影響あるみたいな。それでお互い点を見ることができるシステムなら他人を気にする日本人に効くと思うんですけど、こいつは何点か~って点数見られる感じで」 こんな気持ち悪い全体主義、筆者は無論反対だが、これくらいしないと匿名の誹謗中傷、ネット上の暴力は無くならないと思わされるのもまた事実。2021年4月に改正プロバイダ責任制限法が成立、公布されたが、この程度ではかつての青井さんのようないわゆる「無敵の一般人」には効かないように思う。自分自身が幸せになればやめられると思う「自分はもうしてませんけど、いまも独身で仕事もだめだったら別のタゲ(ターゲットの意)を探していたと思います。みんなが幸せになればいいんでしょうけど、それは無理でしょう。だったら、誹謗中傷は無くならないでしょうね」 どこか他人事、誹謗中傷当事者の言葉だけに違和感しかないが、当たっているだけに筆者もこの話を終えたあと、さてどうルポを結実させようか考えてしまった。なのでせめて、青井さんとの一問一答が参考になればと改めて記す。なぜ誹謗中傷するのか、その心理の一例にはなるだろう。その公表は青井さんも望んでいる。匿名掲示板でもSNSでも誹謗中傷の心理そのものに違いはないだろう。 ――なぜ少女が苦しむほどに、あることないことを書き込んだのか「最初はファンだった。何度かイベントや撮影会で会ったが塩対応で態度が悪く、自分の思ったような子じゃなかった。よかれと思って年上としてアドバイスしたつもりが、気持ち悪がられて腹がたった。叩き始めると彼女のことばかり考えるようになった。純粋なファンのときより叩きはじめた後のほうが彼女のことばかり考えていたように思う」 ――少女の仕事や生活を脅かすとは思わなかったのか。「当時は彼女の活動が仕事だという感覚はなかった。自分の娯楽としか見ていなかった。際どい水着でおっさんに媚び売る子どもと、どこか下に見ていたのかもしれない。はっきりいってオカズだった」 ――和解したが誹謗中傷が引退のきっかけかもしれない、罪悪感はあるか。「そこは芸能人として見ていた。有名税だからという免罪符はあったと思う。罪悪なんて大げさな話ではなく、あくまでネタだった」 ――青井さんには過去かもしれないが彼女は忘れていないかもしれない。「それはキリがない。一生気にすることとは思わない。忘れて欲しいと思う」 ――誹謗中傷をしている人たちに先達として忠告することはあるか。「自分自身が幸せになればやめられると思う。ずっと不幸な人はわからない」 ――かつての加害者として誹謗中傷をされている人たちにアドバイスはあるか。「気にしないこと。それしかない。相手が名無しの一般人ならそれしかないと思う。訴えるのは自由だが実利は薄いと思う。罰則を厳しくしない国が悪い。法律の問題だと思う」 このような問答となったが、人それぞれに読み取れる部分は多いだろう。もちろん彼一人のサンプル、これがすべてと言わないが、多くの誹謗中傷側の感覚はお気軽なもので、自覚なしに追い詰める事例が大半のように思う。だからこそやっかいなのだ。いじめという名の犯罪行為同様、受けた側の傷に比べてあまりに軽い。拍子抜けするほどに。そして青井さんの言う「その辺の一般人」かつ無敵の人、それに準じるような人の場合、訴えたところで直接的な効果は薄い。裁判が終わってほとぼり冷めたらまた繰り返す危険人物すらいる。 中国の信用スコア、社会信用システムのようなディストピアは勘弁だが、それがコロナ禍の統制含め有効なのではという話もある。日本は憲法上そこまでできないし表現の自由との兼ね合いもあるが、被害者の苦しみを考えれば、さらなる開示の容易化と刑法の厳罰化の方向に進むのもまた現実だろう。 取材中、青井さんから謝罪の言葉は出なかった。これもまた現実だ。【プロフィール】日野百草(ひの・ひゃくそう)/本名:上崎洋一。1972年千葉県野田市生まれ。日本ペンクラブ会員。出版社を経てフリーランス。全国俳誌協会賞、日本詩歌句随筆評論協会賞奨励賞(評論部門)受賞。『誰も書けなかったパチンコ20兆円の闇』(宝島社・共著)、『ルポ 京アニを燃やした男』(第三書館)。近著『評伝 赤城さかえ 楸邨、波郷、兜太から愛された魂の俳人』(コールサック社)。
こんな気持ち悪い全体主義、筆者は無論反対だが、これくらいしないと匿名の誹謗中傷、ネット上の暴力は無くならないと思わされるのもまた事実。2021年4月に改正プロバイダ責任制限法が成立、公布されたが、この程度ではかつての青井さんのようないわゆる「無敵の一般人」には効かないように思う。自分自身が幸せになればやめられると思う「自分はもうしてませんけど、いまも独身で仕事もだめだったら別のタゲ(ターゲットの意)を探していたと思います。みんなが幸せになればいいんでしょうけど、それは無理でしょう。だったら、誹謗中傷は無くならないでしょうね」 どこか他人事、誹謗中傷当事者の言葉だけに違和感しかないが、当たっているだけに筆者もこの話を終えたあと、さてどうルポを結実させようか考えてしまった。なのでせめて、青井さんとの一問一答が参考になればと改めて記す。なぜ誹謗中傷するのか、その心理の一例にはなるだろう。その公表は青井さんも望んでいる。匿名掲示板でもSNSでも誹謗中傷の心理そのものに違いはないだろう。 ――なぜ少女が苦しむほどに、あることないことを書き込んだのか「最初はファンだった。何度かイベントや撮影会で会ったが塩対応で態度が悪く、自分の思ったような子じゃなかった。よかれと思って年上としてアドバイスしたつもりが、気持ち悪がられて腹がたった。叩き始めると彼女のことばかり考えるようになった。純粋なファンのときより叩きはじめた後のほうが彼女のことばかり考えていたように思う」 ――少女の仕事や生活を脅かすとは思わなかったのか。「当時は彼女の活動が仕事だという感覚はなかった。自分の娯楽としか見ていなかった。際どい水着でおっさんに媚び売る子どもと、どこか下に見ていたのかもしれない。はっきりいってオカズだった」 ――和解したが誹謗中傷が引退のきっかけかもしれない、罪悪感はあるか。「そこは芸能人として見ていた。有名税だからという免罪符はあったと思う。罪悪なんて大げさな話ではなく、あくまでネタだった」 ――青井さんには過去かもしれないが彼女は忘れていないかもしれない。「それはキリがない。一生気にすることとは思わない。忘れて欲しいと思う」 ――誹謗中傷をしている人たちに先達として忠告することはあるか。「自分自身が幸せになればやめられると思う。ずっと不幸な人はわからない」 ――かつての加害者として誹謗中傷をされている人たちにアドバイスはあるか。「気にしないこと。それしかない。相手が名無しの一般人ならそれしかないと思う。訴えるのは自由だが実利は薄いと思う。罰則を厳しくしない国が悪い。法律の問題だと思う」 このような問答となったが、人それぞれに読み取れる部分は多いだろう。もちろん彼一人のサンプル、これがすべてと言わないが、多くの誹謗中傷側の感覚はお気軽なもので、自覚なしに追い詰める事例が大半のように思う。だからこそやっかいなのだ。いじめという名の犯罪行為同様、受けた側の傷に比べてあまりに軽い。拍子抜けするほどに。そして青井さんの言う「その辺の一般人」かつ無敵の人、それに準じるような人の場合、訴えたところで直接的な効果は薄い。裁判が終わってほとぼり冷めたらまた繰り返す危険人物すらいる。 中国の信用スコア、社会信用システムのようなディストピアは勘弁だが、それがコロナ禍の統制含め有効なのではという話もある。日本は憲法上そこまでできないし表現の自由との兼ね合いもあるが、被害者の苦しみを考えれば、さらなる開示の容易化と刑法の厳罰化の方向に進むのもまた現実だろう。 取材中、青井さんから謝罪の言葉は出なかった。これもまた現実だ。【プロフィール】日野百草(ひの・ひゃくそう)/本名:上崎洋一。1972年千葉県野田市生まれ。日本ペンクラブ会員。出版社を経てフリーランス。全国俳誌協会賞、日本詩歌句随筆評論協会賞奨励賞(評論部門)受賞。『誰も書けなかったパチンコ20兆円の闇』(宝島社・共著)、『ルポ 京アニを燃やした男』(第三書館)。近著『評伝 赤城さかえ 楸邨、波郷、兜太から愛された魂の俳人』(コールサック社)。
「自分はもうしてませんけど、いまも独身で仕事もだめだったら別のタゲ(ターゲットの意)を探していたと思います。みんなが幸せになればいいんでしょうけど、それは無理でしょう。だったら、誹謗中傷は無くならないでしょうね」 どこか他人事、誹謗中傷当事者の言葉だけに違和感しかないが、当たっているだけに筆者もこの話を終えたあと、さてどうルポを結実させようか考えてしまった。なのでせめて、青井さんとの一問一答が参考になればと改めて記す。なぜ誹謗中傷するのか、その心理の一例にはなるだろう。その公表は青井さんも望んでいる。匿名掲示板でもSNSでも誹謗中傷の心理そのものに違いはないだろう。 ――なぜ少女が苦しむほどに、あることないことを書き込んだのか「最初はファンだった。何度かイベントや撮影会で会ったが塩対応で態度が悪く、自分の思ったような子じゃなかった。よかれと思って年上としてアドバイスしたつもりが、気持ち悪がられて腹がたった。叩き始めると彼女のことばかり考えるようになった。純粋なファンのときより叩きはじめた後のほうが彼女のことばかり考えていたように思う」 ――少女の仕事や生活を脅かすとは思わなかったのか。「当時は彼女の活動が仕事だという感覚はなかった。自分の娯楽としか見ていなかった。際どい水着でおっさんに媚び売る子どもと、どこか下に見ていたのかもしれない。はっきりいってオカズだった」 ――和解したが誹謗中傷が引退のきっかけかもしれない、罪悪感はあるか。「そこは芸能人として見ていた。有名税だからという免罪符はあったと思う。罪悪なんて大げさな話ではなく、あくまでネタだった」 ――青井さんには過去かもしれないが彼女は忘れていないかもしれない。「それはキリがない。一生気にすることとは思わない。忘れて欲しいと思う」 ――誹謗中傷をしている人たちに先達として忠告することはあるか。「自分自身が幸せになればやめられると思う。ずっと不幸な人はわからない」 ――かつての加害者として誹謗中傷をされている人たちにアドバイスはあるか。「気にしないこと。それしかない。相手が名無しの一般人ならそれしかないと思う。訴えるのは自由だが実利は薄いと思う。罰則を厳しくしない国が悪い。法律の問題だと思う」 このような問答となったが、人それぞれに読み取れる部分は多いだろう。もちろん彼一人のサンプル、これがすべてと言わないが、多くの誹謗中傷側の感覚はお気軽なもので、自覚なしに追い詰める事例が大半のように思う。だからこそやっかいなのだ。いじめという名の犯罪行為同様、受けた側の傷に比べてあまりに軽い。拍子抜けするほどに。そして青井さんの言う「その辺の一般人」かつ無敵の人、それに準じるような人の場合、訴えたところで直接的な効果は薄い。裁判が終わってほとぼり冷めたらまた繰り返す危険人物すらいる。 中国の信用スコア、社会信用システムのようなディストピアは勘弁だが、それがコロナ禍の統制含め有効なのではという話もある。日本は憲法上そこまでできないし表現の自由との兼ね合いもあるが、被害者の苦しみを考えれば、さらなる開示の容易化と刑法の厳罰化の方向に進むのもまた現実だろう。 取材中、青井さんから謝罪の言葉は出なかった。これもまた現実だ。【プロフィール】日野百草(ひの・ひゃくそう)/本名:上崎洋一。1972年千葉県野田市生まれ。日本ペンクラブ会員。出版社を経てフリーランス。全国俳誌協会賞、日本詩歌句随筆評論協会賞奨励賞(評論部門)受賞。『誰も書けなかったパチンコ20兆円の闇』(宝島社・共著)、『ルポ 京アニを燃やした男』(第三書館)。近著『評伝 赤城さかえ 楸邨、波郷、兜太から愛された魂の俳人』(コールサック社)。
どこか他人事、誹謗中傷当事者の言葉だけに違和感しかないが、当たっているだけに筆者もこの話を終えたあと、さてどうルポを結実させようか考えてしまった。なのでせめて、青井さんとの一問一答が参考になればと改めて記す。なぜ誹謗中傷するのか、その心理の一例にはなるだろう。その公表は青井さんも望んでいる。匿名掲示板でもSNSでも誹謗中傷の心理そのものに違いはないだろう。 ――なぜ少女が苦しむほどに、あることないことを書き込んだのか「最初はファンだった。何度かイベントや撮影会で会ったが塩対応で態度が悪く、自分の思ったような子じゃなかった。よかれと思って年上としてアドバイスしたつもりが、気持ち悪がられて腹がたった。叩き始めると彼女のことばかり考えるようになった。純粋なファンのときより叩きはじめた後のほうが彼女のことばかり考えていたように思う」 ――少女の仕事や生活を脅かすとは思わなかったのか。「当時は彼女の活動が仕事だという感覚はなかった。自分の娯楽としか見ていなかった。際どい水着でおっさんに媚び売る子どもと、どこか下に見ていたのかもしれない。はっきりいってオカズだった」 ――和解したが誹謗中傷が引退のきっかけかもしれない、罪悪感はあるか。「そこは芸能人として見ていた。有名税だからという免罪符はあったと思う。罪悪なんて大げさな話ではなく、あくまでネタだった」 ――青井さんには過去かもしれないが彼女は忘れていないかもしれない。「それはキリがない。一生気にすることとは思わない。忘れて欲しいと思う」 ――誹謗中傷をしている人たちに先達として忠告することはあるか。「自分自身が幸せになればやめられると思う。ずっと不幸な人はわからない」 ――かつての加害者として誹謗中傷をされている人たちにアドバイスはあるか。「気にしないこと。それしかない。相手が名無しの一般人ならそれしかないと思う。訴えるのは自由だが実利は薄いと思う。罰則を厳しくしない国が悪い。法律の問題だと思う」 このような問答となったが、人それぞれに読み取れる部分は多いだろう。もちろん彼一人のサンプル、これがすべてと言わないが、多くの誹謗中傷側の感覚はお気軽なもので、自覚なしに追い詰める事例が大半のように思う。だからこそやっかいなのだ。いじめという名の犯罪行為同様、受けた側の傷に比べてあまりに軽い。拍子抜けするほどに。そして青井さんの言う「その辺の一般人」かつ無敵の人、それに準じるような人の場合、訴えたところで直接的な効果は薄い。裁判が終わってほとぼり冷めたらまた繰り返す危険人物すらいる。 中国の信用スコア、社会信用システムのようなディストピアは勘弁だが、それがコロナ禍の統制含め有効なのではという話もある。日本は憲法上そこまでできないし表現の自由との兼ね合いもあるが、被害者の苦しみを考えれば、さらなる開示の容易化と刑法の厳罰化の方向に進むのもまた現実だろう。 取材中、青井さんから謝罪の言葉は出なかった。これもまた現実だ。【プロフィール】日野百草(ひの・ひゃくそう)/本名:上崎洋一。1972年千葉県野田市生まれ。日本ペンクラブ会員。出版社を経てフリーランス。全国俳誌協会賞、日本詩歌句随筆評論協会賞奨励賞(評論部門)受賞。『誰も書けなかったパチンコ20兆円の闇』(宝島社・共著)、『ルポ 京アニを燃やした男』(第三書館)。近著『評伝 赤城さかえ 楸邨、波郷、兜太から愛された魂の俳人』(コールサック社)。
――なぜ少女が苦しむほどに、あることないことを書き込んだのか「最初はファンだった。何度かイベントや撮影会で会ったが塩対応で態度が悪く、自分の思ったような子じゃなかった。よかれと思って年上としてアドバイスしたつもりが、気持ち悪がられて腹がたった。叩き始めると彼女のことばかり考えるようになった。純粋なファンのときより叩きはじめた後のほうが彼女のことばかり考えていたように思う」 ――少女の仕事や生活を脅かすとは思わなかったのか。「当時は彼女の活動が仕事だという感覚はなかった。自分の娯楽としか見ていなかった。際どい水着でおっさんに媚び売る子どもと、どこか下に見ていたのかもしれない。はっきりいってオカズだった」 ――和解したが誹謗中傷が引退のきっかけかもしれない、罪悪感はあるか。「そこは芸能人として見ていた。有名税だからという免罪符はあったと思う。罪悪なんて大げさな話ではなく、あくまでネタだった」 ――青井さんには過去かもしれないが彼女は忘れていないかもしれない。「それはキリがない。一生気にすることとは思わない。忘れて欲しいと思う」 ――誹謗中傷をしている人たちに先達として忠告することはあるか。「自分自身が幸せになればやめられると思う。ずっと不幸な人はわからない」 ――かつての加害者として誹謗中傷をされている人たちにアドバイスはあるか。「気にしないこと。それしかない。相手が名無しの一般人ならそれしかないと思う。訴えるのは自由だが実利は薄いと思う。罰則を厳しくしない国が悪い。法律の問題だと思う」 このような問答となったが、人それぞれに読み取れる部分は多いだろう。もちろん彼一人のサンプル、これがすべてと言わないが、多くの誹謗中傷側の感覚はお気軽なもので、自覚なしに追い詰める事例が大半のように思う。だからこそやっかいなのだ。いじめという名の犯罪行為同様、受けた側の傷に比べてあまりに軽い。拍子抜けするほどに。そして青井さんの言う「その辺の一般人」かつ無敵の人、それに準じるような人の場合、訴えたところで直接的な効果は薄い。裁判が終わってほとぼり冷めたらまた繰り返す危険人物すらいる。 中国の信用スコア、社会信用システムのようなディストピアは勘弁だが、それがコロナ禍の統制含め有効なのではという話もある。日本は憲法上そこまでできないし表現の自由との兼ね合いもあるが、被害者の苦しみを考えれば、さらなる開示の容易化と刑法の厳罰化の方向に進むのもまた現実だろう。 取材中、青井さんから謝罪の言葉は出なかった。これもまた現実だ。【プロフィール】日野百草(ひの・ひゃくそう)/本名:上崎洋一。1972年千葉県野田市生まれ。日本ペンクラブ会員。出版社を経てフリーランス。全国俳誌協会賞、日本詩歌句随筆評論協会賞奨励賞(評論部門)受賞。『誰も書けなかったパチンコ20兆円の闇』(宝島社・共著)、『ルポ 京アニを燃やした男』(第三書館)。近著『評伝 赤城さかえ 楸邨、波郷、兜太から愛された魂の俳人』(コールサック社)。
「最初はファンだった。何度かイベントや撮影会で会ったが塩対応で態度が悪く、自分の思ったような子じゃなかった。よかれと思って年上としてアドバイスしたつもりが、気持ち悪がられて腹がたった。叩き始めると彼女のことばかり考えるようになった。純粋なファンのときより叩きはじめた後のほうが彼女のことばかり考えていたように思う」 ――少女の仕事や生活を脅かすとは思わなかったのか。「当時は彼女の活動が仕事だという感覚はなかった。自分の娯楽としか見ていなかった。際どい水着でおっさんに媚び売る子どもと、どこか下に見ていたのかもしれない。はっきりいってオカズだった」 ――和解したが誹謗中傷が引退のきっかけかもしれない、罪悪感はあるか。「そこは芸能人として見ていた。有名税だからという免罪符はあったと思う。罪悪なんて大げさな話ではなく、あくまでネタだった」 ――青井さんには過去かもしれないが彼女は忘れていないかもしれない。「それはキリがない。一生気にすることとは思わない。忘れて欲しいと思う」 ――誹謗中傷をしている人たちに先達として忠告することはあるか。「自分自身が幸せになればやめられると思う。ずっと不幸な人はわからない」 ――かつての加害者として誹謗中傷をされている人たちにアドバイスはあるか。「気にしないこと。それしかない。相手が名無しの一般人ならそれしかないと思う。訴えるのは自由だが実利は薄いと思う。罰則を厳しくしない国が悪い。法律の問題だと思う」 このような問答となったが、人それぞれに読み取れる部分は多いだろう。もちろん彼一人のサンプル、これがすべてと言わないが、多くの誹謗中傷側の感覚はお気軽なもので、自覚なしに追い詰める事例が大半のように思う。だからこそやっかいなのだ。いじめという名の犯罪行為同様、受けた側の傷に比べてあまりに軽い。拍子抜けするほどに。そして青井さんの言う「その辺の一般人」かつ無敵の人、それに準じるような人の場合、訴えたところで直接的な効果は薄い。裁判が終わってほとぼり冷めたらまた繰り返す危険人物すらいる。 中国の信用スコア、社会信用システムのようなディストピアは勘弁だが、それがコロナ禍の統制含め有効なのではという話もある。日本は憲法上そこまでできないし表現の自由との兼ね合いもあるが、被害者の苦しみを考えれば、さらなる開示の容易化と刑法の厳罰化の方向に進むのもまた現実だろう。 取材中、青井さんから謝罪の言葉は出なかった。これもまた現実だ。【プロフィール】日野百草(ひの・ひゃくそう)/本名:上崎洋一。1972年千葉県野田市生まれ。日本ペンクラブ会員。出版社を経てフリーランス。全国俳誌協会賞、日本詩歌句随筆評論協会賞奨励賞(評論部門)受賞。『誰も書けなかったパチンコ20兆円の闇』(宝島社・共著)、『ルポ 京アニを燃やした男』(第三書館)。近著『評伝 赤城さかえ 楸邨、波郷、兜太から愛された魂の俳人』(コールサック社)。
――少女の仕事や生活を脅かすとは思わなかったのか。「当時は彼女の活動が仕事だという感覚はなかった。自分の娯楽としか見ていなかった。際どい水着でおっさんに媚び売る子どもと、どこか下に見ていたのかもしれない。はっきりいってオカズだった」 ――和解したが誹謗中傷が引退のきっかけかもしれない、罪悪感はあるか。「そこは芸能人として見ていた。有名税だからという免罪符はあったと思う。罪悪なんて大げさな話ではなく、あくまでネタだった」 ――青井さんには過去かもしれないが彼女は忘れていないかもしれない。「それはキリがない。一生気にすることとは思わない。忘れて欲しいと思う」 ――誹謗中傷をしている人たちに先達として忠告することはあるか。「自分自身が幸せになればやめられると思う。ずっと不幸な人はわからない」 ――かつての加害者として誹謗中傷をされている人たちにアドバイスはあるか。「気にしないこと。それしかない。相手が名無しの一般人ならそれしかないと思う。訴えるのは自由だが実利は薄いと思う。罰則を厳しくしない国が悪い。法律の問題だと思う」 このような問答となったが、人それぞれに読み取れる部分は多いだろう。もちろん彼一人のサンプル、これがすべてと言わないが、多くの誹謗中傷側の感覚はお気軽なもので、自覚なしに追い詰める事例が大半のように思う。だからこそやっかいなのだ。いじめという名の犯罪行為同様、受けた側の傷に比べてあまりに軽い。拍子抜けするほどに。そして青井さんの言う「その辺の一般人」かつ無敵の人、それに準じるような人の場合、訴えたところで直接的な効果は薄い。裁判が終わってほとぼり冷めたらまた繰り返す危険人物すらいる。 中国の信用スコア、社会信用システムのようなディストピアは勘弁だが、それがコロナ禍の統制含め有効なのではという話もある。日本は憲法上そこまでできないし表現の自由との兼ね合いもあるが、被害者の苦しみを考えれば、さらなる開示の容易化と刑法の厳罰化の方向に進むのもまた現実だろう。 取材中、青井さんから謝罪の言葉は出なかった。これもまた現実だ。【プロフィール】日野百草(ひの・ひゃくそう)/本名:上崎洋一。1972年千葉県野田市生まれ。日本ペンクラブ会員。出版社を経てフリーランス。全国俳誌協会賞、日本詩歌句随筆評論協会賞奨励賞(評論部門)受賞。『誰も書けなかったパチンコ20兆円の闇』(宝島社・共著)、『ルポ 京アニを燃やした男』(第三書館)。近著『評伝 赤城さかえ 楸邨、波郷、兜太から愛された魂の俳人』(コールサック社)。
「当時は彼女の活動が仕事だという感覚はなかった。自分の娯楽としか見ていなかった。際どい水着でおっさんに媚び売る子どもと、どこか下に見ていたのかもしれない。はっきりいってオカズだった」 ――和解したが誹謗中傷が引退のきっかけかもしれない、罪悪感はあるか。「そこは芸能人として見ていた。有名税だからという免罪符はあったと思う。罪悪なんて大げさな話ではなく、あくまでネタだった」 ――青井さんには過去かもしれないが彼女は忘れていないかもしれない。「それはキリがない。一生気にすることとは思わない。忘れて欲しいと思う」 ――誹謗中傷をしている人たちに先達として忠告することはあるか。「自分自身が幸せになればやめられると思う。ずっと不幸な人はわからない」 ――かつての加害者として誹謗中傷をされている人たちにアドバイスはあるか。「気にしないこと。それしかない。相手が名無しの一般人ならそれしかないと思う。訴えるのは自由だが実利は薄いと思う。罰則を厳しくしない国が悪い。法律の問題だと思う」 このような問答となったが、人それぞれに読み取れる部分は多いだろう。もちろん彼一人のサンプル、これがすべてと言わないが、多くの誹謗中傷側の感覚はお気軽なもので、自覚なしに追い詰める事例が大半のように思う。だからこそやっかいなのだ。いじめという名の犯罪行為同様、受けた側の傷に比べてあまりに軽い。拍子抜けするほどに。そして青井さんの言う「その辺の一般人」かつ無敵の人、それに準じるような人の場合、訴えたところで直接的な効果は薄い。裁判が終わってほとぼり冷めたらまた繰り返す危険人物すらいる。 中国の信用スコア、社会信用システムのようなディストピアは勘弁だが、それがコロナ禍の統制含め有効なのではという話もある。日本は憲法上そこまでできないし表現の自由との兼ね合いもあるが、被害者の苦しみを考えれば、さらなる開示の容易化と刑法の厳罰化の方向に進むのもまた現実だろう。 取材中、青井さんから謝罪の言葉は出なかった。これもまた現実だ。【プロフィール】日野百草(ひの・ひゃくそう)/本名:上崎洋一。1972年千葉県野田市生まれ。日本ペンクラブ会員。出版社を経てフリーランス。全国俳誌協会賞、日本詩歌句随筆評論協会賞奨励賞(評論部門)受賞。『誰も書けなかったパチンコ20兆円の闇』(宝島社・共著)、『ルポ 京アニを燃やした男』(第三書館)。近著『評伝 赤城さかえ 楸邨、波郷、兜太から愛された魂の俳人』(コールサック社)。
――和解したが誹謗中傷が引退のきっかけかもしれない、罪悪感はあるか。「そこは芸能人として見ていた。有名税だからという免罪符はあったと思う。罪悪なんて大げさな話ではなく、あくまでネタだった」 ――青井さんには過去かもしれないが彼女は忘れていないかもしれない。「それはキリがない。一生気にすることとは思わない。忘れて欲しいと思う」 ――誹謗中傷をしている人たちに先達として忠告することはあるか。「自分自身が幸せになればやめられると思う。ずっと不幸な人はわからない」 ――かつての加害者として誹謗中傷をされている人たちにアドバイスはあるか。「気にしないこと。それしかない。相手が名無しの一般人ならそれしかないと思う。訴えるのは自由だが実利は薄いと思う。罰則を厳しくしない国が悪い。法律の問題だと思う」 このような問答となったが、人それぞれに読み取れる部分は多いだろう。もちろん彼一人のサンプル、これがすべてと言わないが、多くの誹謗中傷側の感覚はお気軽なもので、自覚なしに追い詰める事例が大半のように思う。だからこそやっかいなのだ。いじめという名の犯罪行為同様、受けた側の傷に比べてあまりに軽い。拍子抜けするほどに。そして青井さんの言う「その辺の一般人」かつ無敵の人、それに準じるような人の場合、訴えたところで直接的な効果は薄い。裁判が終わってほとぼり冷めたらまた繰り返す危険人物すらいる。 中国の信用スコア、社会信用システムのようなディストピアは勘弁だが、それがコロナ禍の統制含め有効なのではという話もある。日本は憲法上そこまでできないし表現の自由との兼ね合いもあるが、被害者の苦しみを考えれば、さらなる開示の容易化と刑法の厳罰化の方向に進むのもまた現実だろう。 取材中、青井さんから謝罪の言葉は出なかった。これもまた現実だ。【プロフィール】日野百草(ひの・ひゃくそう)/本名:上崎洋一。1972年千葉県野田市生まれ。日本ペンクラブ会員。出版社を経てフリーランス。全国俳誌協会賞、日本詩歌句随筆評論協会賞奨励賞(評論部門)受賞。『誰も書けなかったパチンコ20兆円の闇』(宝島社・共著)、『ルポ 京アニを燃やした男』(第三書館)。近著『評伝 赤城さかえ 楸邨、波郷、兜太から愛された魂の俳人』(コールサック社)。
「そこは芸能人として見ていた。有名税だからという免罪符はあったと思う。罪悪なんて大げさな話ではなく、あくまでネタだった」 ――青井さんには過去かもしれないが彼女は忘れていないかもしれない。「それはキリがない。一生気にすることとは思わない。忘れて欲しいと思う」 ――誹謗中傷をしている人たちに先達として忠告することはあるか。「自分自身が幸せになればやめられると思う。ずっと不幸な人はわからない」 ――かつての加害者として誹謗中傷をされている人たちにアドバイスはあるか。「気にしないこと。それしかない。相手が名無しの一般人ならそれしかないと思う。訴えるのは自由だが実利は薄いと思う。罰則を厳しくしない国が悪い。法律の問題だと思う」 このような問答となったが、人それぞれに読み取れる部分は多いだろう。もちろん彼一人のサンプル、これがすべてと言わないが、多くの誹謗中傷側の感覚はお気軽なもので、自覚なしに追い詰める事例が大半のように思う。だからこそやっかいなのだ。いじめという名の犯罪行為同様、受けた側の傷に比べてあまりに軽い。拍子抜けするほどに。そして青井さんの言う「その辺の一般人」かつ無敵の人、それに準じるような人の場合、訴えたところで直接的な効果は薄い。裁判が終わってほとぼり冷めたらまた繰り返す危険人物すらいる。 中国の信用スコア、社会信用システムのようなディストピアは勘弁だが、それがコロナ禍の統制含め有効なのではという話もある。日本は憲法上そこまでできないし表現の自由との兼ね合いもあるが、被害者の苦しみを考えれば、さらなる開示の容易化と刑法の厳罰化の方向に進むのもまた現実だろう。 取材中、青井さんから謝罪の言葉は出なかった。これもまた現実だ。【プロフィール】日野百草(ひの・ひゃくそう)/本名:上崎洋一。1972年千葉県野田市生まれ。日本ペンクラブ会員。出版社を経てフリーランス。全国俳誌協会賞、日本詩歌句随筆評論協会賞奨励賞(評論部門)受賞。『誰も書けなかったパチンコ20兆円の闇』(宝島社・共著)、『ルポ 京アニを燃やした男』(第三書館)。近著『評伝 赤城さかえ 楸邨、波郷、兜太から愛された魂の俳人』(コールサック社)。
――青井さんには過去かもしれないが彼女は忘れていないかもしれない。「それはキリがない。一生気にすることとは思わない。忘れて欲しいと思う」 ――誹謗中傷をしている人たちに先達として忠告することはあるか。「自分自身が幸せになればやめられると思う。ずっと不幸な人はわからない」 ――かつての加害者として誹謗中傷をされている人たちにアドバイスはあるか。「気にしないこと。それしかない。相手が名無しの一般人ならそれしかないと思う。訴えるのは自由だが実利は薄いと思う。罰則を厳しくしない国が悪い。法律の問題だと思う」 このような問答となったが、人それぞれに読み取れる部分は多いだろう。もちろん彼一人のサンプル、これがすべてと言わないが、多くの誹謗中傷側の感覚はお気軽なもので、自覚なしに追い詰める事例が大半のように思う。だからこそやっかいなのだ。いじめという名の犯罪行為同様、受けた側の傷に比べてあまりに軽い。拍子抜けするほどに。そして青井さんの言う「その辺の一般人」かつ無敵の人、それに準じるような人の場合、訴えたところで直接的な効果は薄い。裁判が終わってほとぼり冷めたらまた繰り返す危険人物すらいる。 中国の信用スコア、社会信用システムのようなディストピアは勘弁だが、それがコロナ禍の統制含め有効なのではという話もある。日本は憲法上そこまでできないし表現の自由との兼ね合いもあるが、被害者の苦しみを考えれば、さらなる開示の容易化と刑法の厳罰化の方向に進むのもまた現実だろう。 取材中、青井さんから謝罪の言葉は出なかった。これもまた現実だ。【プロフィール】日野百草(ひの・ひゃくそう)/本名:上崎洋一。1972年千葉県野田市生まれ。日本ペンクラブ会員。出版社を経てフリーランス。全国俳誌協会賞、日本詩歌句随筆評論協会賞奨励賞(評論部門)受賞。『誰も書けなかったパチンコ20兆円の闇』(宝島社・共著)、『ルポ 京アニを燃やした男』(第三書館)。近著『評伝 赤城さかえ 楸邨、波郷、兜太から愛された魂の俳人』(コールサック社)。
「それはキリがない。一生気にすることとは思わない。忘れて欲しいと思う」 ――誹謗中傷をしている人たちに先達として忠告することはあるか。「自分自身が幸せになればやめられると思う。ずっと不幸な人はわからない」 ――かつての加害者として誹謗中傷をされている人たちにアドバイスはあるか。「気にしないこと。それしかない。相手が名無しの一般人ならそれしかないと思う。訴えるのは自由だが実利は薄いと思う。罰則を厳しくしない国が悪い。法律の問題だと思う」 このような問答となったが、人それぞれに読み取れる部分は多いだろう。もちろん彼一人のサンプル、これがすべてと言わないが、多くの誹謗中傷側の感覚はお気軽なもので、自覚なしに追い詰める事例が大半のように思う。だからこそやっかいなのだ。いじめという名の犯罪行為同様、受けた側の傷に比べてあまりに軽い。拍子抜けするほどに。そして青井さんの言う「その辺の一般人」かつ無敵の人、それに準じるような人の場合、訴えたところで直接的な効果は薄い。裁判が終わってほとぼり冷めたらまた繰り返す危険人物すらいる。 中国の信用スコア、社会信用システムのようなディストピアは勘弁だが、それがコロナ禍の統制含め有効なのではという話もある。日本は憲法上そこまでできないし表現の自由との兼ね合いもあるが、被害者の苦しみを考えれば、さらなる開示の容易化と刑法の厳罰化の方向に進むのもまた現実だろう。 取材中、青井さんから謝罪の言葉は出なかった。これもまた現実だ。【プロフィール】日野百草(ひの・ひゃくそう)/本名:上崎洋一。1972年千葉県野田市生まれ。日本ペンクラブ会員。出版社を経てフリーランス。全国俳誌協会賞、日本詩歌句随筆評論協会賞奨励賞(評論部門)受賞。『誰も書けなかったパチンコ20兆円の闇』(宝島社・共著)、『ルポ 京アニを燃やした男』(第三書館)。近著『評伝 赤城さかえ 楸邨、波郷、兜太から愛された魂の俳人』(コールサック社)。
――誹謗中傷をしている人たちに先達として忠告することはあるか。「自分自身が幸せになればやめられると思う。ずっと不幸な人はわからない」 ――かつての加害者として誹謗中傷をされている人たちにアドバイスはあるか。「気にしないこと。それしかない。相手が名無しの一般人ならそれしかないと思う。訴えるのは自由だが実利は薄いと思う。罰則を厳しくしない国が悪い。法律の問題だと思う」 このような問答となったが、人それぞれに読み取れる部分は多いだろう。もちろん彼一人のサンプル、これがすべてと言わないが、多くの誹謗中傷側の感覚はお気軽なもので、自覚なしに追い詰める事例が大半のように思う。だからこそやっかいなのだ。いじめという名の犯罪行為同様、受けた側の傷に比べてあまりに軽い。拍子抜けするほどに。そして青井さんの言う「その辺の一般人」かつ無敵の人、それに準じるような人の場合、訴えたところで直接的な効果は薄い。裁判が終わってほとぼり冷めたらまた繰り返す危険人物すらいる。 中国の信用スコア、社会信用システムのようなディストピアは勘弁だが、それがコロナ禍の統制含め有効なのではという話もある。日本は憲法上そこまでできないし表現の自由との兼ね合いもあるが、被害者の苦しみを考えれば、さらなる開示の容易化と刑法の厳罰化の方向に進むのもまた現実だろう。 取材中、青井さんから謝罪の言葉は出なかった。これもまた現実だ。【プロフィール】日野百草(ひの・ひゃくそう)/本名:上崎洋一。1972年千葉県野田市生まれ。日本ペンクラブ会員。出版社を経てフリーランス。全国俳誌協会賞、日本詩歌句随筆評論協会賞奨励賞(評論部門)受賞。『誰も書けなかったパチンコ20兆円の闇』(宝島社・共著)、『ルポ 京アニを燃やした男』(第三書館)。近著『評伝 赤城さかえ 楸邨、波郷、兜太から愛された魂の俳人』(コールサック社)。
「自分自身が幸せになればやめられると思う。ずっと不幸な人はわからない」 ――かつての加害者として誹謗中傷をされている人たちにアドバイスはあるか。「気にしないこと。それしかない。相手が名無しの一般人ならそれしかないと思う。訴えるのは自由だが実利は薄いと思う。罰則を厳しくしない国が悪い。法律の問題だと思う」 このような問答となったが、人それぞれに読み取れる部分は多いだろう。もちろん彼一人のサンプル、これがすべてと言わないが、多くの誹謗中傷側の感覚はお気軽なもので、自覚なしに追い詰める事例が大半のように思う。だからこそやっかいなのだ。いじめという名の犯罪行為同様、受けた側の傷に比べてあまりに軽い。拍子抜けするほどに。そして青井さんの言う「その辺の一般人」かつ無敵の人、それに準じるような人の場合、訴えたところで直接的な効果は薄い。裁判が終わってほとぼり冷めたらまた繰り返す危険人物すらいる。 中国の信用スコア、社会信用システムのようなディストピアは勘弁だが、それがコロナ禍の統制含め有効なのではという話もある。日本は憲法上そこまでできないし表現の自由との兼ね合いもあるが、被害者の苦しみを考えれば、さらなる開示の容易化と刑法の厳罰化の方向に進むのもまた現実だろう。 取材中、青井さんから謝罪の言葉は出なかった。これもまた現実だ。【プロフィール】日野百草(ひの・ひゃくそう)/本名:上崎洋一。1972年千葉県野田市生まれ。日本ペンクラブ会員。出版社を経てフリーランス。全国俳誌協会賞、日本詩歌句随筆評論協会賞奨励賞(評論部門)受賞。『誰も書けなかったパチンコ20兆円の闇』(宝島社・共著)、『ルポ 京アニを燃やした男』(第三書館)。近著『評伝 赤城さかえ 楸邨、波郷、兜太から愛された魂の俳人』(コールサック社)。
――かつての加害者として誹謗中傷をされている人たちにアドバイスはあるか。「気にしないこと。それしかない。相手が名無しの一般人ならそれしかないと思う。訴えるのは自由だが実利は薄いと思う。罰則を厳しくしない国が悪い。法律の問題だと思う」 このような問答となったが、人それぞれに読み取れる部分は多いだろう。もちろん彼一人のサンプル、これがすべてと言わないが、多くの誹謗中傷側の感覚はお気軽なもので、自覚なしに追い詰める事例が大半のように思う。だからこそやっかいなのだ。いじめという名の犯罪行為同様、受けた側の傷に比べてあまりに軽い。拍子抜けするほどに。そして青井さんの言う「その辺の一般人」かつ無敵の人、それに準じるような人の場合、訴えたところで直接的な効果は薄い。裁判が終わってほとぼり冷めたらまた繰り返す危険人物すらいる。 中国の信用スコア、社会信用システムのようなディストピアは勘弁だが、それがコロナ禍の統制含め有効なのではという話もある。日本は憲法上そこまでできないし表現の自由との兼ね合いもあるが、被害者の苦しみを考えれば、さらなる開示の容易化と刑法の厳罰化の方向に進むのもまた現実だろう。 取材中、青井さんから謝罪の言葉は出なかった。これもまた現実だ。【プロフィール】日野百草(ひの・ひゃくそう)/本名:上崎洋一。1972年千葉県野田市生まれ。日本ペンクラブ会員。出版社を経てフリーランス。全国俳誌協会賞、日本詩歌句随筆評論協会賞奨励賞(評論部門)受賞。『誰も書けなかったパチンコ20兆円の闇』(宝島社・共著)、『ルポ 京アニを燃やした男』(第三書館)。近著『評伝 赤城さかえ 楸邨、波郷、兜太から愛された魂の俳人』(コールサック社)。
「気にしないこと。それしかない。相手が名無しの一般人ならそれしかないと思う。訴えるのは自由だが実利は薄いと思う。罰則を厳しくしない国が悪い。法律の問題だと思う」 このような問答となったが、人それぞれに読み取れる部分は多いだろう。もちろん彼一人のサンプル、これがすべてと言わないが、多くの誹謗中傷側の感覚はお気軽なもので、自覚なしに追い詰める事例が大半のように思う。だからこそやっかいなのだ。いじめという名の犯罪行為同様、受けた側の傷に比べてあまりに軽い。拍子抜けするほどに。そして青井さんの言う「その辺の一般人」かつ無敵の人、それに準じるような人の場合、訴えたところで直接的な効果は薄い。裁判が終わってほとぼり冷めたらまた繰り返す危険人物すらいる。 中国の信用スコア、社会信用システムのようなディストピアは勘弁だが、それがコロナ禍の統制含め有効なのではという話もある。日本は憲法上そこまでできないし表現の自由との兼ね合いもあるが、被害者の苦しみを考えれば、さらなる開示の容易化と刑法の厳罰化の方向に進むのもまた現実だろう。 取材中、青井さんから謝罪の言葉は出なかった。これもまた現実だ。【プロフィール】日野百草(ひの・ひゃくそう)/本名:上崎洋一。1972年千葉県野田市生まれ。日本ペンクラブ会員。出版社を経てフリーランス。全国俳誌協会賞、日本詩歌句随筆評論協会賞奨励賞(評論部門)受賞。『誰も書けなかったパチンコ20兆円の闇』(宝島社・共著)、『ルポ 京アニを燃やした男』(第三書館)。近著『評伝 赤城さかえ 楸邨、波郷、兜太から愛された魂の俳人』(コールサック社)。
このような問答となったが、人それぞれに読み取れる部分は多いだろう。もちろん彼一人のサンプル、これがすべてと言わないが、多くの誹謗中傷側の感覚はお気軽なもので、自覚なしに追い詰める事例が大半のように思う。だからこそやっかいなのだ。いじめという名の犯罪行為同様、受けた側の傷に比べてあまりに軽い。拍子抜けするほどに。そして青井さんの言う「その辺の一般人」かつ無敵の人、それに準じるような人の場合、訴えたところで直接的な効果は薄い。裁判が終わってほとぼり冷めたらまた繰り返す危険人物すらいる。 中国の信用スコア、社会信用システムのようなディストピアは勘弁だが、それがコロナ禍の統制含め有効なのではという話もある。日本は憲法上そこまでできないし表現の自由との兼ね合いもあるが、被害者の苦しみを考えれば、さらなる開示の容易化と刑法の厳罰化の方向に進むのもまた現実だろう。 取材中、青井さんから謝罪の言葉は出なかった。これもまた現実だ。【プロフィール】日野百草(ひの・ひゃくそう)/本名:上崎洋一。1972年千葉県野田市生まれ。日本ペンクラブ会員。出版社を経てフリーランス。全国俳誌協会賞、日本詩歌句随筆評論協会賞奨励賞(評論部門)受賞。『誰も書けなかったパチンコ20兆円の闇』(宝島社・共著)、『ルポ 京アニを燃やした男』(第三書館)。近著『評伝 赤城さかえ 楸邨、波郷、兜太から愛された魂の俳人』(コールサック社)。
中国の信用スコア、社会信用システムのようなディストピアは勘弁だが、それがコロナ禍の統制含め有効なのではという話もある。日本は憲法上そこまでできないし表現の自由との兼ね合いもあるが、被害者の苦しみを考えれば、さらなる開示の容易化と刑法の厳罰化の方向に進むのもまた現実だろう。 取材中、青井さんから謝罪の言葉は出なかった。これもまた現実だ。【プロフィール】日野百草(ひの・ひゃくそう)/本名:上崎洋一。1972年千葉県野田市生まれ。日本ペンクラブ会員。出版社を経てフリーランス。全国俳誌協会賞、日本詩歌句随筆評論協会賞奨励賞(評論部門)受賞。『誰も書けなかったパチンコ20兆円の闇』(宝島社・共著)、『ルポ 京アニを燃やした男』(第三書館)。近著『評伝 赤城さかえ 楸邨、波郷、兜太から愛された魂の俳人』(コールサック社)。
取材中、青井さんから謝罪の言葉は出なかった。これもまた現実だ。【プロフィール】日野百草(ひの・ひゃくそう)/本名:上崎洋一。1972年千葉県野田市生まれ。日本ペンクラブ会員。出版社を経てフリーランス。全国俳誌協会賞、日本詩歌句随筆評論協会賞奨励賞(評論部門)受賞。『誰も書けなかったパチンコ20兆円の闇』(宝島社・共著)、『ルポ 京アニを燃やした男』(第三書館)。近著『評伝 赤城さかえ 楸邨、波郷、兜太から愛された魂の俳人』(コールサック社)。
【プロフィール】日野百草(ひの・ひゃくそう)/本名:上崎洋一。1972年千葉県野田市生まれ。日本ペンクラブ会員。出版社を経てフリーランス。全国俳誌協会賞、日本詩歌句随筆評論協会賞奨励賞(評論部門)受賞。『誰も書けなかったパチンコ20兆円の闇』(宝島社・共著)、『ルポ 京アニを燃やした男』(第三書館)。近著『評伝 赤城さかえ 楸邨、波郷、兜太から愛された魂の俳人』(コールサック社)。