電車内の犯罪対策「最も難しい」 地下鉄サリン事件以降も残る課題

東京都調布市内を走る京王線の車内で乗客17人が重軽傷を負った事件から14日で2週間。
鉄道の安全対策の現在地について、関西大社会安全学部の安部誠治教授(交通政策論)に聞いた。

鉄道の安全対策については、脱線などの事故防止、地震や津波などの自然災害対策、人為的な犯罪対策の三つの視点が必要だ。
事故防止や自然災害対策については、乗客ら107人が亡くなった2005年のJR宝塚線(福知山線)の脱線事故、阪神大震災や東日本大震災などの経験を経て、鉄道会社も資金を投じて対策を練ってきた。最後に残ったのが最も難しい犯罪対策だ。
1995年の地下鉄サリン事件をきっかけに、鉄道各社はゴミ箱を撤去したり、透明化して不審物を発見しやすくしたりするなどしたが、それ以上の対策はとられていない。
過去、深刻な列車火災事故が相次ぎ、これに対してかなり対策が講じられてきた。不燃性の材料を使った車両の整備などだ。また、痴漢対策として女性専用車両も設けられた。しかし、今年8月の小田急線、先月の京王線で発生した刺傷事件のような非常事態への備えは必ずしも十分ではない。
非常警報装置(非常ボタン)も、痴漢の発見や気分が悪くなった人のためのSOSとして使われるのが主な利用方法だ。非常ボタンを押すと、車掌につながるものもあれば、車両自体を止めてしまうものもある。様々な種類の車両があるため、鉄道会社でマニュアルもばらばら。統一した対策がなく、乗客もどうしたらいいのかわからないというのが現状だ。
在来線は駅間も短く、満員状態になることもあるため、乗務員が車内を巡回することが難しい。監視カメラも導入されつつあるが、非常事態の覚知は非常ボタンに頼らざるを得ないのが現状だ。密室の車内で起きる刃物事件などを100%防ぐのは難しいが、被害を軽減するため、鉄道会社で非常ボタンの使用方法から避難行動まで、統一したマニュアルを整備することなどを検討して欲しい。
自然災害対策の一環ではあるが、三重から和歌山を結ぶJR西日本の紀勢線は、特急列車の座席の網袋に津波が来た時の避難方法を記したリーフレットを入れている。航空機内の安全リーフレットのようなもの。緊急時に、乗客の避難を円滑に行うための手段だ。事件に備えて、このようなマニュアルを列車の見えるところに貼るなど、一歩一歩できることをやらなければいけない。
また乗客は、この機会に自分が通勤や通学で乗る電車だけでもいいので、非常ボタンがどこにあるのか確認して欲しい。(聞き手・江戸川夏樹)
あべ・せいじ 52年生まれ。専門は交通政策、公益事業論。著書に「踏切事故はなぜなくならないか」(編著)。