心のSOSサインに注意「人の名前や顔が覚えられない、何を食べてもおいしくない」

コロナ禍も2年がたとうとするなか、仕事も遊びもやる気が起きない。……というか、なんか毎日ダルいし、カラダが重い。そんな倦怠感を払拭するには、どうすればいいのか? 中年の日々を覆う“疲れ”を吹き飛ばす極意を探った! 今回は「心の疲れ」について。
◆見失った心を取り戻すには
走り続けられた青年期を過ぎ、一度立ち止まって人生を問い直す中年期は、戸惑いや心の揺れを感じやすい。大人のうつ病や発達障害を専門とする早稲田メンタルクリニック院長の益田裕介氏は、中年期における男性の心の変化をこう解説する。
「出世競争の敗北、急激な体力低下、生涯未婚のリスクなど、社会的、身体的な変化が一気に押し寄せることで、急に攻撃的になったり、卑屈になったり、保守的になったりするメンタルの歪みは、この時期、よく見られる傾向です」
◆SOSのサイン
さらに、外出自粛やリモートワークが続いたことで、疲労感や自己否定感を覚えやすくなり、いっそう心を病む中年も目立つという。
「コロナ前は、残業やパワハラといった労働環境が原因のメンタル不調を訴える中年男性が多かった。しかしコロナ禍では、『人との交流が著しく減ったことによる社会的孤立』『早期退職制度でのリストラや非正規雇用の先にある貧困』『夫婦仲の悪化』など、生活環境の変化や先行きの不透明さから生じる過度な不安、恐怖を抱えて相談に訪れるケースが増えています。
休んでも疲れが取れない、人の名前や顔が覚えられない、何を食べてもおいしくないなどは、体のSOSサイン。うつ状態や適応障害の前兆で、早急に手を打つ必要があります」
◆現代特有の中年の危機
こうした現代特有の中年の危機を、臨床心理士の東畑開人氏はこのように指摘する。
「価値観が多様化し、先行き不透明な状況では『わかりやすい話』がバズります。コスパの良さや生産性、データなど一見わかりやすい物事や物言いが信奉され、私的な会話ですら相手を『論破』する場と変容しがちです。
そうした新自由主義的な振る舞いは、ビジネスの世界では一定の説得力を持ちますが、プライベートにまで侵食するとなると問題。中年期に本当に向き合うべき個としての『小さな物語』はムダとして追いやられ、誰かの語る『大きな物語』に気を取られることで、心が見失われていきます」
◆悩みや不安のもとは…
実際、東畑氏の元を訪れる中年男性の心を診察すると、その悩みや不安のもとは、家族や職場の人間関係といった「小さな物語」にあることが、ほとんどだという。
「しかし、カウンセリングの場ですら、私的な葛藤を口にすることに『こんな些細な話をしていいんですか?』と戸惑う人が多い。それこそ本人の心の本質に迫るものなのに、自制する癖がついているのです。言うなれば“ワーク・アズ・ライフ”ではなく“ライフ・アズ・ワーク”。今の時代は、生きることがビジネス的な価値観の下に置かれてしまいがちです。
たとえば、子供にコーチングすることで追い込んでしまうエリートビジネスマンの家庭などが象徴的。それでは、自分だけでなく、周囲の心も失われていくだけです」
◆消えかけた中年の心。取り戻すカギは「友達」
では、中年が見失った心を取り戻すには?
「周囲を敵と見なす“孤立”ではなく、自分自身と向き合う“孤独”な時間を持つこと。すると、自分とは異なる他者に対して『お前もいろいろあるんだな』と理解し合えるかもしれない。そうしたことで、心が取り戻されていきます」

「相手と深い関係を築くには、一見ムダと思われる話を断片的に積み重ねていくことが大切。古くから『うら寂しい』など心は“うら”と表されていました。つまり、心(うら)は、あえて出すものではなく、ふと“漏れる”もの。そのためには、時間が要る。人間関係を一発で築くライフハックなど存在せず、やはり長い時間をかけて醸成することです」
◆大事なのは…
東畑氏はフロイトの「人生で大切なのは、愛することと働くこと」という言葉を引き、こう語る。
「ここで大事なのは、愛することであって、愛されることではない点です。家族や友達など誰かを能動的に大事にすることには価値がある。それは手間も時間もかかるし、ビジネス的な利害関係や二項対立では決して割り切れない。
しかし、そこにこそ、心を取り戻すヒントがあります。青年期は自分の強さを磨く時期ですが、中年期は自分の弱さと向き合う時期。強いところも弱いところもある自身の複雑さこそ、心というものの特性なのです」
一見、ムダに見える時間や関係にこそ「心」は宿るのだ。
◆<中年はなぜ心を病んでしまうのか?>
・ビジネス的な価値観がプライベートを侵食(社会人としての勝ち負けが見えてくる)・未婚や離婚のリスク・体力や気力の低下・在宅ワークでの倦怠感や自己否定
↓ ↓ ↓ ↓ ↓
自分自身の「小さな物語」と向き合えない。ムダを共有できる友人がいない。周囲が敵となり、社会から孤立
◆【精神科医 益田裕介氏】早稲田メンタルクリニック院長。「こころの病気」をテーマに配信しているYouTube「精神科医がこころの病気を解説するCh」がわかりやすいと好評
◆【臨床心理士 東畑開人氏】’83年生まれ。白金高輪カウンセリングルームを主宰。精神科クリニック勤務後、十文字学園女子大学准教授。新刊『心はどこへ消えた?』(文藝春秋)が話題
<取材・文/週刊SPA!編集部 写真提供/文藝春秋(東畑開人氏)>