SNSに厳しい制限、「辞めるなら契約書にサインしろ!」…美容師が直面する、退職時の「理不尽」

ここ数年で美容師の働き方は劇的に変化しています。今までと同じやり方では通用せず、新しいスタンスで働くことを選ぶ方が増えているのです。
【写真】この記事の写真を見る(2枚) かくいう僕も、11月から独立して、スペースを借りて営業する、フリーランスの「面貸し」美容師として働きはじめました。 今までの美容師の働き方とは何が変わったのか。そして僕の実体験から、美容師が今、何を求めているのか、紐解いていきます。

美容師としてのキャリアは、どこまで続くのか? 長く会社に勤めている多くの美容師には、今後のキャリアを考える頃が来ます。 現役美容師の平均年齢は30歳前後と言われ、離職には歯止めがかかっていません。ここまで続けてきた方たちであっても、リタイアすることが視野にちらつきます。「これから美容師として、どこまで成長できるだろうか」「自分は何歳まで美容師でいるだろうか……」※写真はイメージ iStock.com そもそも多くの美容師には「出世」という概念がありません。美容室の形態は、大きく分けて2つあります。「店舗展開をする美容室」と「小規模な美容室」です。「店舗展開をする美容室」に勤める美容師は、店長になる、エリアマネージャーになる、現場を離れて運営側に回るなど、役職に就くことでのキャリアの見通しがつくため、「出世」する方向性があります(もちろん現場主義の方も多いと思います)。 一方で「小規模な美容室」は、規模を拡大することをせず、土地に根ざした運営をしています。少人数のため、役職もほとんどありません。 そのため多くの美容師にとっての「出世」は、人気の美容師になって「売上を上げる」、歩合を沢山もらって「お給料を上げる」ことになります。いつか自分のお店を…… 10年前までの美容業界には、「美容室を開業する」ことが一人前の証であるかのように考えられていました。僕も若い頃は「いつか自分の理想のお店を開きたい」と夢描いていたものです。 しかし、ご存知の通り、美容室はとっくに飽和状態。街の中心部はどこもかしこも美容室です。 開業には、資金と銀行から融資されるだけの実績が必要なため、簡単ではありません。それでも「小さくても自分のお店を!」と1~3人ほどの少人数での開業が多くなったこともあり、小さなテナントに美容室が入っている姿も多く見られるようになりました。 ですが少人数での運営は、1日にこなせる来客数に限りがあるため、売上は頭打ちです。また美容室は利便性が重要視されるため、駅近や人気の地域など、家賃が高いテナントを選ぶ必要があることもネックです。 そのため、今から小規模な「美容室の開業」をするには、ハードルが高いのが現実です。退社時のご法度 また、僕自身は円満に退社しましたが、美容師の退社・独立にはトラブルが付き物です。それは「商品」である美容師をお客様が選ぶ「指名制」に起因しています。 ホストなどの水商売にも通ずる部分ですが、業界には昔から「近所での開業はアウト」「お客様は“お店の資産”だから、連れて行くな」といった退社時のご法度があります。 指名されるお客様を引き連れて開業したり、隣近所で美容室を開かれてしまうと、根こそぎ利益を奪われるに等しいのです。 そのため退社する美容師は、指名してくださっていたお客様に“次の勤め先”を伝えることができないケースが多いです。 店舗展開する美容室では、入社時にそれについての契約書が用意されることも珍しくありません。今でも「辞めるなら、“客を連れて行かない”という契約書にサインしろ」と社長から後付けで理不尽な要求をされた、と耳にすることもしばしば。 そのため昔から「お客様とプライベートなお付き合いはしてはいけない」「お客様と連絡先は交換してはいけない」といった規制をかける美容室も多くありました。SNS時代との価値観の乖離 多くの美容師は、InstagramやLINEなどのSNSをプライベートとは別のアカウントで利用しています。ですが、それは必ずしもアカウントを「使い分けている」わけではありません。辞める美容師がお客様を引き連れて行くことを防ぐために「会社側が規制している」場合もあります。 しかし、SNS時代では、お客様と繋がる方法はいくらでもあります。それを会社から咎められるのも、時代の価値観とは乖離してしまっています。 実際には、美容師は繰り返し「指名される」ことでお店にお客様を招いています。自分の独自性を支持してもらって対価を支払うお客様は、その「美容師さんのファン」である、とも考えられます。こういうふうに見ると、芸能人などのファン経済に近い側面があります。 YouTuberなどの活躍によって、ファン経済は市民権を得ました。「自分をフォローしてくれるファン」を手厚く歓迎してビジネスに繋げる部分など、我々美容師と共通しているところが沢山あります。 そして何より「辞めるから」と繋がりを絶たれて被害を被るのは、そのお客様です。「また一から探さなければならないのか」と、ステキな美容師さんとお別れして残念に思った経験がある方も少なくないはずです。「営業時間」という時代錯誤 美容室に勤める美容師が仕事をする「営業時間」は、お店に駐在するように決められています。これは「営業時間 = 拘束時間」として会社からお給料を頂くためです。 そのため「営業時間はお店の仕事をしないといけない」という概念が根強く、様々な事情に対応しにくい働き方です。そして「小規模な美容室」であるほど、昨今の働き方改革は取り入れにくく、そこで働く美容師は副業や家事などに比重を置くことができません。 僕自身、「小規模の美容室」で働いていました。僕が執筆を始めたのは、社員として働きながら「もう一足の草鞋を得たい」と、働き方改革をする上での模索でした。 そのため、このお仕事をいただく以前から「仕事の手の空いた時間で執筆を進めたい」と社長と交渉を続けていました。ですが「営業時間はお店の仕事をしないといけない」という規則から、“特別待遇”を得ることはできませんでした(詳しい話はコチラから)。とはいえ、フリーランスは不安定 僕自身はポジティブにフリーランスを選択しましたが、反面でフリーランスという選択肢“しかなかった”とも考えています。 フリーランスは社員の頃とは違い、経済的に不安定です。今後いつ未曾有のパンデミックや、甚大な自然災害が起きるかもわかりません。フリーランスは美容師のあるべき姿とも思えますが、様々な事情で踏み込めない美容師も多いはずです。 働き方の多様化は望ましいことですが、フリーランス美容師が増えることのデメリットも、いくつか予想されます。現場の美容師さんたちの不安を解消できるような仕組みが、少しずつでも出来上がっていくことを期待しています。(操作イトウ)
かくいう僕も、11月から独立して、スペースを借りて営業する、フリーランスの「面貸し」美容師として働きはじめました。
今までの美容師の働き方とは何が変わったのか。そして僕の実体験から、美容師が今、何を求めているのか、紐解いていきます。
長く会社に勤めている多くの美容師には、今後のキャリアを考える頃が来ます。
現役美容師の平均年齢は30歳前後と言われ、離職には歯止めがかかっていません。ここまで続けてきた方たちであっても、リタイアすることが視野にちらつきます。
「これから美容師として、どこまで成長できるだろうか」
「自分は何歳まで美容師でいるだろうか……」
※写真はイメージ iStock.com
そもそも多くの美容師には「出世」という概念がありません。美容室の形態は、大きく分けて2つあります。「店舗展開をする美容室」と「小規模な美容室」です。
「店舗展開をする美容室」に勤める美容師は、店長になる、エリアマネージャーになる、現場を離れて運営側に回るなど、役職に就くことでのキャリアの見通しがつくため、「出世」する方向性があります(もちろん現場主義の方も多いと思います)。
一方で「小規模な美容室」は、規模を拡大することをせず、土地に根ざした運営をしています。少人数のため、役職もほとんどありません。
そのため多くの美容師にとっての「出世」は、人気の美容師になって「売上を上げる」、歩合を沢山もらって「お給料を上げる」ことになります。
10年前までの美容業界には、「美容室を開業する」ことが一人前の証であるかのように考えられていました。僕も若い頃は「いつか自分の理想のお店を開きたい」と夢描いていたものです。
しかし、ご存知の通り、美容室はとっくに飽和状態。街の中心部はどこもかしこも美容室です。
開業には、資金と銀行から融資されるだけの実績が必要なため、簡単ではありません。それでも「小さくても自分のお店を!」と1~3人ほどの少人数での開業が多くなったこともあり、小さなテナントに美容室が入っている姿も多く見られるようになりました。
ですが少人数での運営は、1日にこなせる来客数に限りがあるため、売上は頭打ちです。また美容室は利便性が重要視されるため、駅近や人気の地域など、家賃が高いテナントを選ぶ必要があることもネックです。
そのため、今から小規模な「美容室の開業」をするには、ハードルが高いのが現実です。
また、僕自身は円満に退社しましたが、美容師の退社・独立にはトラブルが付き物です。それは「商品」である美容師をお客様が選ぶ「指名制」に起因しています。
ホストなどの水商売にも通ずる部分ですが、業界には昔から「近所での開業はアウト」「お客様は“お店の資産”だから、連れて行くな」といった退社時のご法度があります。
指名されるお客様を引き連れて開業したり、隣近所で美容室を開かれてしまうと、根こそぎ利益を奪われるに等しいのです。
そのため退社する美容師は、指名してくださっていたお客様に“次の勤め先”を伝えることができないケースが多いです。
店舗展開する美容室では、入社時にそれについての契約書が用意されることも珍しくありません。今でも「辞めるなら、“客を連れて行かない”という契約書にサインしろ」と社長から後付けで理不尽な要求をされた、と耳にすることもしばしば。
そのため昔から「お客様とプライベートなお付き合いはしてはいけない」「お客様と連絡先は交換してはいけない」といった規制をかける美容室も多くありました。
多くの美容師は、InstagramやLINEなどのSNSをプライベートとは別のアカウントで利用しています。ですが、それは必ずしもアカウントを「使い分けている」わけではありません。辞める美容師がお客様を引き連れて行くことを防ぐために「会社側が規制している」場合もあります。
しかし、SNS時代では、お客様と繋がる方法はいくらでもあります。それを会社から咎められるのも、時代の価値観とは乖離してしまっています。
実際には、美容師は繰り返し「指名される」ことでお店にお客様を招いています。自分の独自性を支持してもらって対価を支払うお客様は、その「美容師さんのファン」である、とも考えられます。こういうふうに見ると、芸能人などのファン経済に近い側面があります。
YouTuberなどの活躍によって、ファン経済は市民権を得ました。「自分をフォローしてくれるファン」を手厚く歓迎してビジネスに繋げる部分など、我々美容師と共通しているところが沢山あります。
そして何より「辞めるから」と繋がりを絶たれて被害を被るのは、そのお客様です。「また一から探さなければならないのか」と、ステキな美容師さんとお別れして残念に思った経験がある方も少なくないはずです。
美容室に勤める美容師が仕事をする「営業時間」は、お店に駐在するように決められています。これは「営業時間 = 拘束時間」として会社からお給料を頂くためです。
そのため「営業時間はお店の仕事をしないといけない」という概念が根強く、様々な事情に対応しにくい働き方です。そして「小規模な美容室」であるほど、昨今の働き方改革は取り入れにくく、そこで働く美容師は副業や家事などに比重を置くことができません。
僕自身、「小規模の美容室」で働いていました。僕が執筆を始めたのは、社員として働きながら「もう一足の草鞋を得たい」と、働き方改革をする上での模索でした。 そのため、このお仕事をいただく以前から「仕事の手の空いた時間で執筆を進めたい」と社長と交渉を続けていました。ですが「営業時間はお店の仕事をしないといけない」という規則から、“特別待遇”を得ることはできませんでした(詳しい話はコチラから)。とはいえ、フリーランスは不安定 僕自身はポジティブにフリーランスを選択しましたが、反面でフリーランスという選択肢“しかなかった”とも考えています。 フリーランスは社員の頃とは違い、経済的に不安定です。今後いつ未曾有のパンデミックや、甚大な自然災害が起きるかもわかりません。フリーランスは美容師のあるべき姿とも思えますが、様々な事情で踏み込めない美容師も多いはずです。 働き方の多様化は望ましいことですが、フリーランス美容師が増えることのデメリットも、いくつか予想されます。現場の美容師さんたちの不安を解消できるような仕組みが、少しずつでも出来上がっていくことを期待しています。(操作イトウ)
僕自身、「小規模の美容室」で働いていました。僕が執筆を始めたのは、社員として働きながら「もう一足の草鞋を得たい」と、働き方改革をする上での模索でした。
そのため、このお仕事をいただく以前から「仕事の手の空いた時間で執筆を進めたい」と社長と交渉を続けていました。ですが「営業時間はお店の仕事をしないといけない」という規則から、“特別待遇”を得ることはできませんでした(詳しい話はコチラから)。
僕自身はポジティブにフリーランスを選択しましたが、反面でフリーランスという選択肢“しかなかった”とも考えています。
フリーランスは社員の頃とは違い、経済的に不安定です。今後いつ未曾有のパンデミックや、甚大な自然災害が起きるかもわかりません。フリーランスは美容師のあるべき姿とも思えますが、様々な事情で踏み込めない美容師も多いはずです。
働き方の多様化は望ましいことですが、フリーランス美容師が増えることのデメリットも、いくつか予想されます。現場の美容師さんたちの不安を解消できるような仕組みが、少しずつでも出来上がっていくことを期待しています。
(操作イトウ)