「孫の教育資金」に1500万円を「贈与」した、77歳の男性が、いま大後悔しているワケ

「『期間限定』という言葉に焦り、6年前に孫の教育資金として1500万円を贈与しました。払った贈与税はゼロです。あの頃は、お得に贈与ができて大成功だと思っていたのですが……」
こう言葉を濁すのは、都内に住む堀江啓二さん(77歳・仮名)だ。最大1500万円まで教育資金贈与が非課税になる特例がスタートしたのは、’15年のことだった。この年には8万5587人が制度を利用し、5196億円が贈与された。
「当時、高校3年生だった孫は医者になりたいと言っていました。私立に入れば6年間で2000万円はかかるそうで、贈与を決断したのです。
ところが、心変わりした孫は国立大学の文系に進学してしまいました。4年間通ってそのまま就職したので、贈与した資金は1000万円以上余っています」(堀江さん)
500万円までは習い事にも使えるが、新入社員の孫にはそんな余裕はない。堀江さんは嘆く。
Photo by iStock
「贈与をした時は知らなかったのですが、孫が30歳になった時点で余っている教育資金には贈与税がかかるそうです。知り合いの税理士によると、1000万円の使い残しでは約180万円が税金として持っていかれるとのこと。これではなんのために贈与したのか」教育資金贈与の特例は、’23年3月末に終了する予定となっている。だが、焦って多額の贈与をした挙げ句、余らせて税金を取られては元も子もない。どれだけの贈与を、いつやるか。期限に惑わされず「タイミング」を見極める賢さが必要だ。「教育資金贈与を使うとすれば、孫の海外留学が決まった時が最適でしょう。授業料の他に渡航費も対象になります。孫がただ国内の大学に進学する場合は、特例を使う必要はありません。祖父母が直接、入学金や学費を振り込めば、そもそも贈与税がかからないからです」(弁護士の眞鍋淳也氏)子供や孫が50歳になるまで使える結婚・子育て資金贈与の特例(1000万円まで)もあるが、’23年3月末までの期間限定で、「廃止は確実」(税理士・山本和義氏)だという。だがこれも、飛びつくと危険だ。教育資金と同様に余らせてしまった場合、贈与をした祖父母が亡くなった時に相続税がかかる。しかも孫に今年の4月1日以降に行った贈与は税額が1・2倍になる2割加算の対象だ。結婚式にかかった費用も、必要な範囲の金額をその都度支払うなら非課税だ。利用者数も令和元年は630人しかいないほどで、焦って使うような特例ではないのだ。工事が間に合わない!子供が家を新築、改築する際に使える住宅資金贈与の特例も、タイミングが命になってくる。今年12月31日までの契約であれば、最大1500万円まで贈与税が非課税になる制度で、「この年末までに特例の期限延長が決まる可能性が高い」(前出・山本氏)という。まず、住宅資金贈与は、タイミングが遅すぎてはいけない。子供が新居に住み始めてから贈与をしても、非課税の対象にはならないのだ。 一方、早すぎてもいけない。住宅資金の贈与を受けた子供は、翌年の3月15日までに工事を終えて、新居に住んでいなければならない。もし今年12月1日に焦って贈与をしても、来年の3月15日までに棟上げまで工事が進捗していないと原則、特例は使えない。仮に1500万円を贈与していれば、なんと366万円もの贈与税を納めるハメになってしまう。預貯金だけでなく、不動産の贈与で特例を活用する人もいる。たとえばおしどり贈与だ。結婚20年以上の夫婦であれば、自宅を2000万円まで非課税で贈与できる制度だ。令和元年は、9055人が利用した。「夫婦間の相続では、1億6000万円まで税金がかかりません(配偶者控除)。そのため、税制的にはおしどり贈与をしても得はない。むしろこの制度を使う人の多くは、妻に安心感を与えたいなど感情面の理由が大きいようです」(前出・山本氏)だが、ここでもタイミングの誤算が起きることがある。椎名博さん(68歳・仮名)は語る。「結婚30年を迎えた時に今までの感謝の気持ちも込めて、自宅を妻に贈与したんです。司法書士に頼んだので、税金と合わせて100万円近くかかりました。それでも、私の死後に、妻が名義変更の手間なしで住み続けられる安心は大きいだろうと思っていました」ところが昨年夏、妻にステージIVの肝臓がんが見つかった。治療も及ばず、冬を迎える前に椎名さんの妻は旅立った。高い費用を負担して妻名義に変えた家は、再び椎名さんの名義に戻った。「仲が良い夫婦ほど、おしどり贈与を検討しがちです。しかしそれにかかるコストや、妻が先に亡くなる可能性を考慮すべきでしょう」(司法書士・内藤卓氏)一方、子供に不動産を贈与する場合は、相続時精算課税制度を使う場合が多い。これは2500万円まで非課税で財産を渡せる制度だ。ただし、財産をあげた人が亡くなると、相続の時に課税され、「精算」される。 「都内の土地など、これから価値が上がりそうな不動産であれば、この制度を使うと節税をすることができます。たとえば2500万円で贈与した土地が、相続時には3500万円に価値が上昇していたとします。ただの相続であれば、3500万円に相続税を課される。しかし相続時精算課税制度を使っていれば、贈与があった時点の2500万円分しか、相続税を負担する必要がない」(TSPコンサルティング代表・佐藤毅史氏)ただしこの制度を使うにも、適切なタイミングがある。実は一度、相続時精算課税制度を使うと、同じ相手への暦年贈与が使えなくなってしまう。暦年贈与が確実に存続している’22年末まで相続時精算課税制度を待ったほうが、トータルの税額を考えると得だ。焦らずに、やるべき贈与を見極めていくために、富裕層たちの節税対策が参考になる。それを後編の「お金持ちだけが知っている「相続税を半分にする」節税の裏ワザ」でみていこう。『週刊現代』2021年11月13・20日号より
「贈与をした時は知らなかったのですが、孫が30歳になった時点で余っている教育資金には贈与税がかかるそうです。知り合いの税理士によると、1000万円の使い残しでは約180万円が税金として持っていかれるとのこと。これではなんのために贈与したのか」
教育資金贈与の特例は、’23年3月末に終了する予定となっている。だが、焦って多額の贈与をした挙げ句、余らせて税金を取られては元も子もない。
どれだけの贈与を、いつやるか。期限に惑わされず「タイミング」を見極める賢さが必要だ。
「教育資金贈与を使うとすれば、孫の海外留学が決まった時が最適でしょう。授業料の他に渡航費も対象になります。
孫がただ国内の大学に進学する場合は、特例を使う必要はありません。祖父母が直接、入学金や学費を振り込めば、そもそも贈与税がかからないからです」(弁護士の眞鍋淳也氏)
子供や孫が50歳になるまで使える結婚・子育て資金贈与の特例(1000万円まで)もあるが、’23年3月末までの期間限定で、「廃止は確実」(税理士・山本和義氏)だという。
だがこれも、飛びつくと危険だ。教育資金と同様に余らせてしまった場合、贈与をした祖父母が亡くなった時に相続税がかかる。しかも孫に今年の4月1日以降に行った贈与は税額が1・2倍になる2割加算の対象だ。
結婚式にかかった費用も、必要な範囲の金額をその都度支払うなら非課税だ。利用者数も令和元年は630人しかいないほどで、焦って使うような特例ではないのだ。
子供が家を新築、改築する際に使える住宅資金贈与の特例も、タイミングが命になってくる。今年12月31日までの契約であれば、最大1500万円まで贈与税が非課税になる制度で、「この年末までに特例の期限延長が決まる可能性が高い」(前出・山本氏)という。
まず、住宅資金贈与は、タイミングが遅すぎてはいけない。子供が新居に住み始めてから贈与をしても、非課税の対象にはならないのだ。
一方、早すぎてもいけない。住宅資金の贈与を受けた子供は、翌年の3月15日までに工事を終えて、新居に住んでいなければならない。もし今年12月1日に焦って贈与をしても、来年の3月15日までに棟上げまで工事が進捗していないと原則、特例は使えない。仮に1500万円を贈与していれば、なんと366万円もの贈与税を納めるハメになってしまう。預貯金だけでなく、不動産の贈与で特例を活用する人もいる。たとえばおしどり贈与だ。結婚20年以上の夫婦であれば、自宅を2000万円まで非課税で贈与できる制度だ。令和元年は、9055人が利用した。「夫婦間の相続では、1億6000万円まで税金がかかりません(配偶者控除)。そのため、税制的にはおしどり贈与をしても得はない。むしろこの制度を使う人の多くは、妻に安心感を与えたいなど感情面の理由が大きいようです」(前出・山本氏)だが、ここでもタイミングの誤算が起きることがある。椎名博さん(68歳・仮名)は語る。「結婚30年を迎えた時に今までの感謝の気持ちも込めて、自宅を妻に贈与したんです。司法書士に頼んだので、税金と合わせて100万円近くかかりました。それでも、私の死後に、妻が名義変更の手間なしで住み続けられる安心は大きいだろうと思っていました」ところが昨年夏、妻にステージIVの肝臓がんが見つかった。治療も及ばず、冬を迎える前に椎名さんの妻は旅立った。高い費用を負担して妻名義に変えた家は、再び椎名さんの名義に戻った。「仲が良い夫婦ほど、おしどり贈与を検討しがちです。しかしそれにかかるコストや、妻が先に亡くなる可能性を考慮すべきでしょう」(司法書士・内藤卓氏)一方、子供に不動産を贈与する場合は、相続時精算課税制度を使う場合が多い。これは2500万円まで非課税で財産を渡せる制度だ。ただし、財産をあげた人が亡くなると、相続の時に課税され、「精算」される。 「都内の土地など、これから価値が上がりそうな不動産であれば、この制度を使うと節税をすることができます。たとえば2500万円で贈与した土地が、相続時には3500万円に価値が上昇していたとします。ただの相続であれば、3500万円に相続税を課される。しかし相続時精算課税制度を使っていれば、贈与があった時点の2500万円分しか、相続税を負担する必要がない」(TSPコンサルティング代表・佐藤毅史氏)ただしこの制度を使うにも、適切なタイミングがある。実は一度、相続時精算課税制度を使うと、同じ相手への暦年贈与が使えなくなってしまう。暦年贈与が確実に存続している’22年末まで相続時精算課税制度を待ったほうが、トータルの税額を考えると得だ。焦らずに、やるべき贈与を見極めていくために、富裕層たちの節税対策が参考になる。それを後編の「お金持ちだけが知っている「相続税を半分にする」節税の裏ワザ」でみていこう。『週刊現代』2021年11月13・20日号より
一方、早すぎてもいけない。住宅資金の贈与を受けた子供は、翌年の3月15日までに工事を終えて、新居に住んでいなければならない。もし今年12月1日に焦って贈与をしても、来年の3月15日までに棟上げまで工事が進捗していないと原則、特例は使えない。仮に1500万円を贈与していれば、なんと366万円もの贈与税を納めるハメになってしまう。預貯金だけでなく、不動産の贈与で特例を活用する人もいる。たとえばおしどり贈与だ。結婚20年以上の夫婦であれば、自宅を2000万円まで非課税で贈与できる制度だ。令和元年は、9055人が利用した。「夫婦間の相続では、1億6000万円まで税金がかかりません(配偶者控除)。そのため、税制的にはおしどり贈与をしても得はない。むしろこの制度を使う人の多くは、妻に安心感を与えたいなど感情面の理由が大きいようです」(前出・山本氏)だが、ここでもタイミングの誤算が起きることがある。椎名博さん(68歳・仮名)は語る。「結婚30年を迎えた時に今までの感謝の気持ちも込めて、自宅を妻に贈与したんです。司法書士に頼んだので、税金と合わせて100万円近くかかりました。それでも、私の死後に、妻が名義変更の手間なしで住み続けられる安心は大きいだろうと思っていました」ところが昨年夏、妻にステージIVの肝臓がんが見つかった。治療も及ばず、冬を迎える前に椎名さんの妻は旅立った。高い費用を負担して妻名義に変えた家は、再び椎名さんの名義に戻った。「仲が良い夫婦ほど、おしどり贈与を検討しがちです。しかしそれにかかるコストや、妻が先に亡くなる可能性を考慮すべきでしょう」(司法書士・内藤卓氏)一方、子供に不動産を贈与する場合は、相続時精算課税制度を使う場合が多い。これは2500万円まで非課税で財産を渡せる制度だ。ただし、財産をあげた人が亡くなると、相続の時に課税され、「精算」される。 「都内の土地など、これから価値が上がりそうな不動産であれば、この制度を使うと節税をすることができます。たとえば2500万円で贈与した土地が、相続時には3500万円に価値が上昇していたとします。ただの相続であれば、3500万円に相続税を課される。しかし相続時精算課税制度を使っていれば、贈与があった時点の2500万円分しか、相続税を負担する必要がない」(TSPコンサルティング代表・佐藤毅史氏)ただしこの制度を使うにも、適切なタイミングがある。実は一度、相続時精算課税制度を使うと、同じ相手への暦年贈与が使えなくなってしまう。暦年贈与が確実に存続している’22年末まで相続時精算課税制度を待ったほうが、トータルの税額を考えると得だ。焦らずに、やるべき贈与を見極めていくために、富裕層たちの節税対策が参考になる。それを後編の「お金持ちだけが知っている「相続税を半分にする」節税の裏ワザ」でみていこう。『週刊現代』2021年11月13・20日号より
一方、早すぎてもいけない。住宅資金の贈与を受けた子供は、翌年の3月15日までに工事を終えて、新居に住んでいなければならない。
もし今年12月1日に焦って贈与をしても、来年の3月15日までに棟上げまで工事が進捗していないと原則、特例は使えない。仮に1500万円を贈与していれば、なんと366万円もの贈与税を納めるハメになってしまう。
預貯金だけでなく、不動産の贈与で特例を活用する人もいる。たとえばおしどり贈与だ。結婚20年以上の夫婦であれば、自宅を2000万円まで非課税で贈与できる制度だ。令和元年は、9055人が利用した。
「夫婦間の相続では、1億6000万円まで税金がかかりません(配偶者控除)。そのため、税制的にはおしどり贈与をしても得はない。むしろこの制度を使う人の多くは、妻に安心感を与えたいなど感情面の理由が大きいようです」(前出・山本氏)
だが、ここでもタイミングの誤算が起きることがある。椎名博さん(68歳・仮名)は語る。
「結婚30年を迎えた時に今までの感謝の気持ちも込めて、自宅を妻に贈与したんです。司法書士に頼んだので、税金と合わせて100万円近くかかりました。それでも、私の死後に、妻が名義変更の手間なしで住み続けられる安心は大きいだろうと思っていました」
ところが昨年夏、妻にステージIVの肝臓がんが見つかった。治療も及ばず、冬を迎える前に椎名さんの妻は旅立った。高い費用を負担して妻名義に変えた家は、再び椎名さんの名義に戻った。
「仲が良い夫婦ほど、おしどり贈与を検討しがちです。しかしそれにかかるコストや、妻が先に亡くなる可能性を考慮すべきでしょう」(司法書士・内藤卓氏)
一方、子供に不動産を贈与する場合は、相続時精算課税制度を使う場合が多い。これは2500万円まで非課税で財産を渡せる制度だ。ただし、財産をあげた人が亡くなると、相続の時に課税され、「精算」される。
「都内の土地など、これから価値が上がりそうな不動産であれば、この制度を使うと節税をすることができます。たとえば2500万円で贈与した土地が、相続時には3500万円に価値が上昇していたとします。ただの相続であれば、3500万円に相続税を課される。しかし相続時精算課税制度を使っていれば、贈与があった時点の2500万円分しか、相続税を負担する必要がない」(TSPコンサルティング代表・佐藤毅史氏)ただしこの制度を使うにも、適切なタイミングがある。実は一度、相続時精算課税制度を使うと、同じ相手への暦年贈与が使えなくなってしまう。暦年贈与が確実に存続している’22年末まで相続時精算課税制度を待ったほうが、トータルの税額を考えると得だ。焦らずに、やるべき贈与を見極めていくために、富裕層たちの節税対策が参考になる。それを後編の「お金持ちだけが知っている「相続税を半分にする」節税の裏ワザ」でみていこう。『週刊現代』2021年11月13・20日号より
「都内の土地など、これから価値が上がりそうな不動産であれば、この制度を使うと節税をすることができます。たとえば2500万円で贈与した土地が、相続時には3500万円に価値が上昇していたとします。
ただの相続であれば、3500万円に相続税を課される。しかし相続時精算課税制度を使っていれば、贈与があった時点の2500万円分しか、相続税を負担する必要がない」(TSPコンサルティング代表・佐藤毅史氏)
ただしこの制度を使うにも、適切なタイミングがある。実は一度、相続時精算課税制度を使うと、同じ相手への暦年贈与が使えなくなってしまう。暦年贈与が確実に存続している’22年末まで相続時精算課税制度を待ったほうが、トータルの税額を考えると得だ。
焦らずに、やるべき贈与を見極めていくために、富裕層たちの節税対策が参考になる。それを後編の「お金持ちだけが知っている「相続税を半分にする」節税の裏ワザ」でみていこう。
『週刊現代』2021年11月13・20日号より