習近平と抱き合う、へつらう、慰め合う… 自民党で出始めた岸田“中国外交”への不信感

総選挙で予想外の勝利を収めた岸田文雄首相。新型コロナウイルス対策を含めた経済対策を閣議決定し、いよいよ「岸田カラー」を発揮していく意欲に満ち溢れている。しかし、その思いとは裏腹に自民党が取り込みたい保守層は距離を置き始めている。ハト派政権の誕生は何をもたらすのか。
【写真】元グラドル候補「森下千里」辻立ち1600回「アベノミクスは経済成長において大きな成果をあげました。ただ、その恩恵がなかなかトリクルダウンして所得の低い人までおりてこなかった。市場と競争に全て任せていても、成長の果実は還元されません」

 11月10日発売の月刊誌「文藝春秋」12月号の対談で、作家の阿川佐和子氏から「安倍路線」との具体的な違いを問われ、このように断言した岸田首相。企業収益を給与アップ、消費拡大につなげて成長と分配の好循環を成し遂げると力説している。岸田文雄首相、習近平国家主席 9月の自民党総裁選で「新しい資本主義」を掲げ、小泉純一郎政権以降の新自由主義的政策からの転換、アベノミクスの修正を目指すと豪語したのは記憶に新しい。首相就任後の所信表明演説では「改革」という言葉も用いず、安倍晋三政権の看板政策だった「1億総活躍」「働き方改革実現」など4つの推進室を廃止するなど、岸田カラーの打ち出しに余念がない。「岸田首相は『経済成長』以外の安倍路線については転換すべきと考えているでしょう。党役員や閣僚人事で安倍氏の声を尊重しなかったのは、その一端です。声が大きい誰かの意見ばかりを聞いていたのでは『何のために30年ぶりにハト派・リベラルを包容する宏池会政権が誕生したのかわからない』と考えていると思いますよ。でも、面白くないと感じている人たちも自民党内にいるのは事実でしょう」(自民党を担当する全国紙政治部記者)。波紋を呼ぶ「10万円給付」 岸田氏は11月10日、公明党の山口那津男代表との会談で経済対策に盛り込む18歳以下の子供を対象とした10万円相当の給付について「960万円超」の世帯は除く所得制限を設けることで合意した。バラマキ批判が根強く、与党間調整の難航が予想された「10万円相当の給付」を衆院選公約に掲げた公明党に花をもたせ、自らの指導力もアピールした形だ。 だが、この所得制限は「世帯合算」ではなく、世帯で最も所得が高い人の金額を基準にするというもの。たとえば、共働き世帯で夫婦それぞれが「年収900万円」(計1800万円)であれば給付されるが、専業主婦と暮らす夫が「年収1000万円」であれば支給されないことになる。これには自民党の高市早苗政調会長が「大変不公平な状況が起きる」と異論を唱え、党内からも批判が噴出した。「首相が勝手に決めちゃうならば、政務調査会はいらないことになる」(自民党中堅)との不満も漏れる。 とはいえ、自民党総裁かつ国のトップに立った岸田首相の決定は重く、「政調の手の及ばない部分」(高市氏)であるのも事実だ。ちなみに、高市氏は先の総裁選でアベノミクスを継承・発展させると主張し、安倍元首相とは政治信条が近い保守派の政策通として知られる。保守層からの支持を拡大し、10月の総選挙で躍進した日本維新の会からも「18歳で区切る意味がよくわからない」(吉村洋文副代表)などの苦言が相次いだ。リベラル系とされる岸田首相と保守派の視点は元々合わないとの見方がもっぱらだ。「抱き合う、へつらう、慰め合う」対中姿勢 安倍政権時代に岩盤支持層といわれた保守層を中心とする「離反」は、とりわけ外交・安全保障面で目立っている。安倍政権で外相に就き、戦後歴代2位の在任期間(4年7カ月)を誇る岸田氏は、超党派の日中友好議員連盟会長を務めていた林芳正氏を外相に起用。中国の新疆ウイグル自治区や香港での人権問題をめぐり制裁を科せるようにする「日本版マグニツキー法」(人権侵害制裁法)の制定を当面見送る方針と報じられるなど、対中姿勢に「抱き合う、へつらう、慰め合う」の弱腰だと批判されている。 岸田氏は、自民党総裁選に先立つ9月13日の記者会見で「権威主義的・独裁主義的体制が拡大している」と中国を牽制し、人権問題にも毅然と対応すると表明。台頭する中国をにらみ人権問題担当の首相補佐官や経済安全保障の担当閣僚を新設する考えを示し、保守派の支持を広げた。たしかに経済安保相に小林鷹之氏、首相補佐官に中谷元氏をそれぞれ起用したが、「親中派の代表格である林氏を外相にして、法制定も見送りとなれば、総裁選で勇ましい発言をしていたのは保守派の歓心を買うための方策にすぎなかったのではないかと疑いたくなる」(自民党関係者)との不信感を招いている。 10月8日には米豪露に続く4カ国目の首脳に習近平国家主席を選び、電話協議を行った岸田首相。「日中国交正常化50周年である来年を契機に、建設的かつ安定的な日中関係をともに構築していかなければならない」と強調し、習主席からは「善隣友好は国の宝」との前向きな姿勢を受け取った。「日本にとって中国は隣国であり、民間レベルでの経済的な結びつきは強い。対話を続けていく必要はありますが、言うべきことは、ハッキリ言っていきたい。尖閣諸島周辺の領海侵入やウイグルにおける人権問題など、看過できない問題には毅然とした対応をとっていきます」 月刊誌「WiLL」12月号のインタビューで、こう強調している岸田氏。米国のバイデン政権が対中包囲網の構築を急ぐ中、岸田首相はどのように関与していくのか。自民党ベテラン議員の一人は不安を隠さない。「岸田首相は維新が総選挙で躍進した理由をまったくわかっていない。自民党から保守票が逃げて維新にいってしまったんだよ。このままでは来年夏の参院選も難しい戦いになりかねない」。 中国と台湾のTPP加盟問題や、延期となっている習国家主席の国賓来日問題など、対中外交の「難問」は山積している。来年9月に迎える国交正常化50周年に向けて、岸田首相への保守層の疑念は続きそうである。取材・文 小倉健一 ITOMOS研究所所長デイリー新潮編集部
「アベノミクスは経済成長において大きな成果をあげました。ただ、その恩恵がなかなかトリクルダウンして所得の低い人までおりてこなかった。市場と競争に全て任せていても、成長の果実は還元されません」
11月10日発売の月刊誌「文藝春秋」12月号の対談で、作家の阿川佐和子氏から「安倍路線」との具体的な違いを問われ、このように断言した岸田首相。企業収益を給与アップ、消費拡大につなげて成長と分配の好循環を成し遂げると力説している。
9月の自民党総裁選で「新しい資本主義」を掲げ、小泉純一郎政権以降の新自由主義的政策からの転換、アベノミクスの修正を目指すと豪語したのは記憶に新しい。首相就任後の所信表明演説では「改革」という言葉も用いず、安倍晋三政権の看板政策だった「1億総活躍」「働き方改革実現」など4つの推進室を廃止するなど、岸田カラーの打ち出しに余念がない。
「岸田首相は『経済成長』以外の安倍路線については転換すべきと考えているでしょう。党役員や閣僚人事で安倍氏の声を尊重しなかったのは、その一端です。声が大きい誰かの意見ばかりを聞いていたのでは『何のために30年ぶりにハト派・リベラルを包容する宏池会政権が誕生したのかわからない』と考えていると思いますよ。でも、面白くないと感じている人たちも自民党内にいるのは事実でしょう」(自民党を担当する全国紙政治部記者)。
岸田氏は11月10日、公明党の山口那津男代表との会談で経済対策に盛り込む18歳以下の子供を対象とした10万円相当の給付について「960万円超」の世帯は除く所得制限を設けることで合意した。バラマキ批判が根強く、与党間調整の難航が予想された「10万円相当の給付」を衆院選公約に掲げた公明党に花をもたせ、自らの指導力もアピールした形だ。
だが、この所得制限は「世帯合算」ではなく、世帯で最も所得が高い人の金額を基準にするというもの。たとえば、共働き世帯で夫婦それぞれが「年収900万円」(計1800万円)であれば給付されるが、専業主婦と暮らす夫が「年収1000万円」であれば支給されないことになる。これには自民党の高市早苗政調会長が「大変不公平な状況が起きる」と異論を唱え、党内からも批判が噴出した。「首相が勝手に決めちゃうならば、政務調査会はいらないことになる」(自民党中堅)との不満も漏れる。
とはいえ、自民党総裁かつ国のトップに立った岸田首相の決定は重く、「政調の手の及ばない部分」(高市氏)であるのも事実だ。ちなみに、高市氏は先の総裁選でアベノミクスを継承・発展させると主張し、安倍元首相とは政治信条が近い保守派の政策通として知られる。保守層からの支持を拡大し、10月の総選挙で躍進した日本維新の会からも「18歳で区切る意味がよくわからない」(吉村洋文副代表)などの苦言が相次いだ。リベラル系とされる岸田首相と保守派の視点は元々合わないとの見方がもっぱらだ。
安倍政権時代に岩盤支持層といわれた保守層を中心とする「離反」は、とりわけ外交・安全保障面で目立っている。安倍政権で外相に就き、戦後歴代2位の在任期間(4年7カ月)を誇る岸田氏は、超党派の日中友好議員連盟会長を務めていた林芳正氏を外相に起用。中国の新疆ウイグル自治区や香港での人権問題をめぐり制裁を科せるようにする「日本版マグニツキー法」(人権侵害制裁法)の制定を当面見送る方針と報じられるなど、対中姿勢に「抱き合う、へつらう、慰め合う」の弱腰だと批判されている。
岸田氏は、自民党総裁選に先立つ9月13日の記者会見で「権威主義的・独裁主義的体制が拡大している」と中国を牽制し、人権問題にも毅然と対応すると表明。台頭する中国をにらみ人権問題担当の首相補佐官や経済安全保障の担当閣僚を新設する考えを示し、保守派の支持を広げた。たしかに経済安保相に小林鷹之氏、首相補佐官に中谷元氏をそれぞれ起用したが、「親中派の代表格である林氏を外相にして、法制定も見送りとなれば、総裁選で勇ましい発言をしていたのは保守派の歓心を買うための方策にすぎなかったのではないかと疑いたくなる」(自民党関係者)との不信感を招いている。
10月8日には米豪露に続く4カ国目の首脳に習近平国家主席を選び、電話協議を行った岸田首相。「日中国交正常化50周年である来年を契機に、建設的かつ安定的な日中関係をともに構築していかなければならない」と強調し、習主席からは「善隣友好は国の宝」との前向きな姿勢を受け取った。
「日本にとって中国は隣国であり、民間レベルでの経済的な結びつきは強い。対話を続けていく必要はありますが、言うべきことは、ハッキリ言っていきたい。尖閣諸島周辺の領海侵入やウイグルにおける人権問題など、看過できない問題には毅然とした対応をとっていきます」
月刊誌「WiLL」12月号のインタビューで、こう強調している岸田氏。米国のバイデン政権が対中包囲網の構築を急ぐ中、岸田首相はどのように関与していくのか。自民党ベテラン議員の一人は不安を隠さない。「岸田首相は維新が総選挙で躍進した理由をまったくわかっていない。自民党から保守票が逃げて維新にいってしまったんだよ。このままでは来年夏の参院選も難しい戦いになりかねない」。
中国と台湾のTPP加盟問題や、延期となっている習国家主席の国賓来日問題など、対中外交の「難問」は山積している。来年9月に迎える国交正常化50周年に向けて、岸田首相への保守層の疑念は続きそうである。
取材・文 小倉健一 ITOMOS研究所所長
デイリー新潮編集部