妻の不倫を疑い、尾行した夫 トイレで着替え“別人”になった彼女が向かった想定外の場所は

地下アイドルにはまって借金をし、路上で身を売っていた女性教師が懲戒免職になったと話題になったが、実際、アイドルに夢中になる女性は少なくない。妻がそうなったとき、夫としてはどういう態度をとるのが現実的なのだろうか。 【亀山早苗/フリーライター】
斉藤弘樹さん(42歳・仮名=以下同)は、2歳年下の女性と社内結婚して13年。11歳のひとり娘がいる。
「妻は優秀な社員で、幹部候補として会社からも期待されていると噂になっていたほどでした。だけど本人は『仕事だけの人生を送ってきてもう疲れた』と。結婚したら会社を辞めたいと言っていました。僕は当時まだ収入も少なかった。でも辞めたいならいいよと言いました。彼女は『ありがとう。少しゆっくりしたい』と泣いていたんです。バリバリ働いているように見えたものの、つらかったんだろうなと思ったのを覚えています」
妻は自ら専業主婦の道を選び、3年後に出産。ひとり娘を溺愛した。弘樹さんはそんな妻を微笑ましく思いながらも、「このままだと過干渉になって娘が苦労するなと思った」そうだ。そこで娘が小学校に入ったのを機に、「何かパートでも始めてみたら?」とやんわり妻に言ってみた。
「妻は『私もそう思ってた。これから学費もかかるし、私もがんばるね』って。前向きでいい人なんです。たいしたことない給料でもうまくやりくりしてくれて……。当時は妻には感謝の気持ちしかありませんでした」
ところがパートに出るようになってから、少しずつ妻の態度に変化が見られるようになってきた。
「最初はパート仲間と飲みに行く、カラオケに行くと月に1回くらい帰宅が遅くなったんです。まあ、月に1度くらいならと思っていたんですが、それが月に2度になり、毎週になった。それでも僕が早く帰れるときならかまわないと思っていました」
ただ、週に3回、1日5時間ほどだったパートの仕事が、いつしか週5日のフルタイムになっていた。多忙だった弘樹さんがたまたま高熱を出し、社内の医務室でインフルエンザだと診断されて早退したら、家に娘がひとりでいたのだ。夕方5時頃のことだった。
「ママはどうしたのと聞いたら、『毎日、お仕事だよ』と。妻が帰宅したので、どういうことかと尋ねて、すでにフルタイムで働いていると初めて聞かされました。娘は習い事もしていましたが、ママ友が送り迎えしてくれているんだそうです。昼間の家庭に関して、僕は何も知らなかった。そこで、フルタイムで働かなければいけないほど家計が逼迫しているなら、ふたりで家計を見直そうと妻に提案したんです。でも妻は『大丈夫だから』と。いや、娘が寂しい思いをするのは僕もせつないと言ったけど、妻は聞く耳をもたなかった。そのあたりから何か変だなと思っていたんです」
残業だから遅くなると告げた日、夜、家に電話をしてみると娘が出た。「ママは今日、遅いって」と娘が言う。やはり何かあるのだ、もしかしたら妻が浮気をしているのかもしれない。水を向けても妻は話さないだろう。弘樹さんは考え抜いたあげく、妻のパート先を張った。
「初日はまっすぐ帰っていました。ところが翌日、妻はパート先から出てきて、家とは反対にある最寄り駅方向へ自転車を走らせたんです。僕は必死で走ってあとを追いました。途中で見失ったけど、これは駅に行くに違いないと思った。そうしたら改札で妻を発見。妻は改札を入ったあと都心へ行く電車に乗りました」
バレないように顔を隠しながら尾行した。妻が降り立ったのは都内のターミナル駅。そこで妻はトイレに入ってしばらく出てこなかった。出てきた妻を見て弘樹さんはびっくりしたという。濃い化粧に派手なワンピースを着た彼女が、自分の妻だと一瞬、判断できなかったからだ。
「浮気しているんだと確信したのと同時に、きれいだなとも思いました。妻が他人に見えた。いや、そんなことをしている場合じゃない、とにかく後を追わなければ、とさらに追跡しました」
荷物をロッカーに預けて妻が向かった先は、繁華街のライブハウスだ。ここで密会なのかと彼が怪しんでいると、続々と若い女性たちが入っていく。チケットを売っている男性に聞いて初めて「男性ユニットの地下アイドルのライブ」と知った。
なんだ、そういうことか。そんな趣味が妻にあったとは思わなかったが、そのくらいならいいだろうと踵を返そうとしたとき、女性同士の会話が聞こえた。
「今月、10万も使っちゃったよ。私なんて15万近いよ。ヤバいね、キャバクラ行くしかないかなと。思わずその女性たちに、『そんなにアイドルにお金を使ってるの?』と尋ねちゃいました。ふたりは怪訝な顔をしていましたが、『いや、実は娘がこのアイドルにはまっていて、お小遣いが足りないみたいで』ととっさに言ったら、『チェキ券とかもあるしね』って。アイドルとツーショットで写真が撮れるチケットだそうです。チケットは数千円だけど、中には高価なものをプレゼントする女性もいるとか。『若い子がはまるとヤバいと思う』と女性たちが教えてくれました」
若い子だけではない、主婦がはまるともっとヤバいだろと弘樹さんは内心、ツッコミを入れていたという。
その場でライブハウスの外観を写真に撮り、帰宅した妻にそれを見せた。いいかげん白状しろよと冗談交じりに迫ると、妻は「趣味よ。若い子を応援したいだけ」と淡々と言った。
「その言い方からして、実は単なる趣味ではないとわかりました。妻はあるユニットの誰かひとりを好きになっていたようです。自分の収入の大半をつぎ込んでいたんじゃないでしょうか。怪しいと思ったので、妻がいないときに家計簿みたいなものを探したんですが、どうしても見つからない。代わりに妻名義の銀行の通帳を見つけました。パートの収入が振り込まれると即日全額引き出している。それだけではなくて、ときおり妻の実家から母親名義でお金が振り込まれている。どういうことか悩みました」
地下アイドルのことがどうしても頭から離れず、弘樹さんは「恥を忍んで」探偵事務所に調査を依頼した。本当は自身の妹か女友だちに頼もうと思ったのだが、どうしてもプライドが邪魔してできなかったのだという。
「調査はすぐに上がってきました。妻は週に一度はライブに出かけ、チケットやグッズなどを買っている。しかもプレゼントもしていましたね。1度に5万円程度のものをあげてもいる。後ろからハグされている写真とか、妻がアイドルにすがるように胸に顔を埋めている隠し撮りなどもあり、調査結果を見て、なんともいえない気持ちになりました。これで妻が楽しいと心から思っているなら、僕はそれを辞めさせることはできない。ただ、実家からの振り込みも気になるし、娘に気持ちがいっていないように思えるのも気になる。それに、妻がアイドルにはまった時期と、僕との夜の生活を拒否するようになった時期が重なるんですよ。それも引っかかりました。妻の母親に相談してみようかとも思いましたが、やはりここは本人にぶつかってみるしかないと覚悟して口火を切ったんです」
アイドルにお金を貢いでいるのか、家計はどうなっているのか。怒らないから腹を割って話してほしい。弘樹さんは心を込め、妻を慮って言ったつもりだった。だが妻は心を開こうとはしなかった。
「僕もついイラッとして、よほど後ろめたいことがあるのか。そういえば最近は全然、夜の生活にも応じてくれないよね、他で満たされているということか、という内容のことを言ってしまったんです。妻は『あなたのそういうところが耐えられないの』と泣き出しました。夜遅かったから大丈夫だと思っていたけど、ふと気配を感じて振り返ると、娘がじっと僕たちを見ていた。声をかけようとしたら娘は自分の部屋にさっと入っていって。娘のためにも僕たちは理解しあったほうがいいと思うんだよと妻に言いました」
そこで妻がようやく少しだけ話したのは、パート先の友人に連れられて行って地下アイドルが好きになったのは本当だし、それなりにプレゼントはしているが家計に影響があるほどではない。娘のことは第一に考えているつもりだけど、私は家庭の奴隷にはなりたくない、と。
「家庭の奴隷ってどういう意味なのか、家族はみんな対等だろと言ったけど、妻はそれ以上話そうとはしませんでした。とにかく娘をひとりにする時間はなるべく作りたくないから、遅くなるときは言ってほしい、僕がなんとかするからと言うしかなかった。妻はこくりと頷きましたが、笑顔はありませんでした」
自分が妻に何をしたのか。“奴隷”という強烈な言葉に弘樹さんは打ちひしがれた。
それから弘樹さんは、娘のことを気にしながらも、妻にはなかなか声をかけられずにいた。妻の生活は変わらない。ときには「今日は出張で一泊します」という連絡が当日の昼に入ってくることもあった。出張というのは、つまりはアイドルの追っかけで地方に一泊するという意味だ。わかっているなら早く言えばいいのに、妻には妻の葛藤があるのだろうか、いつも当日に伝えてくる。弘樹さんが仕事でどうしても早く帰れないときは、近所に住む娘の友だちの母親に連絡するしかなかった。
「そんな日々が続いていくうち、僕は何のために生きているんだろうと思うようなっていきました。ちょうど仕事がうまくいかなかったこともあって、なんだか虚しくてたまらない。とうとう、娘のために僕の母親に事情を話して時間がある限り、来てもらうことにしました。娘と母は気が合うようでしたが、妻と母は合わない。それがわかっていたから、母にはとにかく妻には当たり障りなく接してほしいと頼んで……。娘のことだけ考えてもらうようにしました。母は不穏な雰囲気を感じとったのかわかってくれた」
弘樹さんもなるべく早く帰るよう心がけたが、職場にも家庭にも居場所がないとしか思えない。酒が飲めない弘樹さんは、あるときふと吸い寄せられるように風俗店に足を踏み入れた。
「その日、相手をしてくれた女性が優しくて。なんてことのない世間話をしただけなんですが……。心にあった鉛のような重いものが少し軽くなりました」
それから彼はその女性の元へ通うようになった。自分にも少しだけ非日常のホッとできる時間がほしかった。それだけだった。
「ただ、そのことを知った妻が自分の母親に言いつけたんです。僕がうっかり手帳に挟んでおいた割引券を見つけ、探偵事務所に頼んだようです。義母は大騒ぎしました。もともと妻は僕の給料が足りないという理由で、母親から生活費を援助してもらっていた。それが立証されたようなものなので、義母は僕の母親にまでその話をして……。僕は義母に例のアイドルとの写真などを見せましたが、『アイドルにはまるより、風俗にはまるほうがタチが悪い』と言われました。妻は自分の立場をよくするために僕を陥れたんでしょう」
そもそも、夫婦仲はそれほど悪いわけではなかったはずだ。それなのにどうしてそんなことになったのか、弘樹さんにはまったくわからなかった。
「妻は、仕事を辞めたのは僕のせいだと思っていたんです。いつからそんな誤解が生じたのかはわからない。ただ、妻は自分が幹部候補だったことを思い出していたんでしょう。自分が勤めていれば、今の僕より出世していたはず。それなのにどうしてこんな男と結婚したんだろうと後悔していたみたいです。会社を辞めたいと泣いたのはきみだと僕は言ったけど、彼女はそんなことは言ってないと。昔のことを言い合っても埒が明かない」
話は一気に離婚の方向に行きかけていた。だがそこへこのコロナ禍が訪れた。そして離婚の話は停滞したままだ。弘樹さんは風俗通いをやめ、妻もアイドルの追っかけをしなくなっている。
「娘の学校も一時期、休校になりました。妻は職場から自宅待機を言い渡された。僕も週に3回の出社になった。急にいろいろなことが変わって、娘の気持ちが不安定になったので、僕も妻も娘のことを第一に考えようと、そこだけは意見が一致したんです」
夫婦の関係が破綻していることを娘には感じてほしくなかった。だから今は、夫婦はごく普通に暮らし、ごく普通に会話も交わしている。
「妻は『おとうさんのいびきが大きすぎて眠れないから部屋は別にした』と娘に説明したようです。それ以外は元通りの生活ですが、欺瞞に満ちた仮面夫婦であるのは確かですよね。この先、僕らがどういう道を選択するのかはわからないけど、ここまで来たら娘が20歳になるまではこのままでもいいのかもしれない。そんなふうに思っています」
コロナ禍でもがんばった弘樹さんの社内の評価はまた上がっている。いつか、妻が考えるより出世した形で自分から離婚を切りだそう。弘樹さんにとって、今はそれだけが支えとなっている。
亀山早苗(かめやま・さなえ)フリーライター。男女関係、特に不倫について20年以上取材を続け、『不倫の恋で苦しむ男たち』『夫の不倫で苦しむ妻たち』『人はなぜ不倫をするのか』『復讐手帖─愛が狂気に変わるとき─』など著書多数。
デイリー新潮編集部