「自分がなんで…」 白金高輪“硫酸”事件 顔に残る傷跡 被害者が語る“恐怖”と“謎”

2021年8月24日の夜、東京・港区の東京メトロ白金高輪駅で、帰宅途中だった22歳の男性が硫酸をかけられて重傷を負った事件。
被害に遭った男性がFNNの取材に応じ、初めてテレビカメラの前で当時の状況や現在の心境を語ってくれた。
取材は12月20日、茨城県内の男性の実家で行われた。
事件から4カ月近くが経過していたが、男性の顔は、今も右半分を中心に赤く腫れていて、硫酸がかかったという左手は一部分が黒っぽく変色していた。目には医療用コンタクトを入れているが視力は安定せず、満足に外にも出られないもどかしい日々を送っているという。
事件当時、男性は仕事を終えて帰宅途中だった。白金高輪駅の改札を出てエスカレーターを上がっていたところ、突然何者かに液体をかけられた。
被害者の男性:その時はイヤホンをして音楽を聴いていて、手元でスマホを見ていました。その時に後ろからドンドンドンドンと人が上ってくる音が聞こえて。自分がもう少しでエスカレーターを下りるというところでいきなりバシャッと…
その後、体の異変に気付いたのは一瞬だったという。
被害者の男性:口の中にちょっと入った時に酸っぱかったので、酸性の液体だなっていうのが瞬間的に分かって。それが分かった後に段々熱くなってきて痛みも出てきて、これは尋常じゃないなと感じました。また、掛けられた時に反射的に目をつぶって、そこがやけどの状態になったので目も開けられなかったです。
視界を奪われた中で必死に周囲に助けを求め、そのまま救急車で病院へ運ばれた。被害に遭った直後から、何か事件に巻き込まれたということは察しがついていたという。直近では、小田急線の車内で男が刃物を振り回し、乗客10人が重軽傷を負う無差別刺傷事件が起きたばかりだった。「駅関係だし無差別なのかな」。
しかし、次の日の夕方、「犯人の可能性がある」と警察官が持ってきた写真に映っていたのは、琉球大学時代の先輩である花森弘卓被告(25)だった。
男性は大学1年の時に、サークル活動で花森被告と知り合った。当時2年生だった花森被告を最初は先輩だと気付かずにタメ口で話していたが、敬語で話した方がいいか確認すると、「今更変えられても気分良くないからタメ口で継続してほしい」と返ってきたという。
被害者の男性:あまり活発にしゃべるようなタイプではなかったけど、僕が話題を振るとすごい返してくるような人で、1を聞いて10返ってくるような人。専門的なことを極めたい人なのかなという印象でした
特別仲が良いというわけではなかったが、悪い関係ではなかった。その年の夏休み頃から花森被告はサークルに来なくなり、自然と話したり連絡を取ることもなくなっていった。そんな中、月日は流れ、男性が大学4年の9月。卒論執筆に追われていたタイミングで、突然花森被告からLINEが来る。
被害者の男性:いきなり夜中にLINEが来て「沖縄に行くから泊めてくれ」と。なんでこの時期に沖縄に来るんだろうと思ったけど、昔のサークル仲間なので「しょうがないからいいよ」と。
1年生当時の感覚のままタメ口で返信すると、次の日の夜中に花森被告から長文のLINEが送られてきたという。
被害者の男性:「泊まるのは置いといてタメ口は何なんだ」と。社会人なんだから敬語くらい使えという内容で。自分としては仲良かった彼を泊めるつもりではあったんですけど、敬語を使えだの敬えだの言われると、そういう気まずい関係になった人を泊めるのは嫌だなと素直に思って。「申し訳ないけど予定が出来たので」と敬語で返して断りました
その後、花森被告から返信が来ることはなかったが、それからおよそ1カ月後に、男性の自宅に一通の手紙が届く。送り主には知らない外国人の名前が書かれていたが、内容から花森被告が送ったとみられ、男性はこの手紙を“絶縁状”と呼んでいるそうだ。
被害者の男性:支離滅裂な内容も多々あったけど、沖縄行きの理由とか、タメ口に対して目上への礼儀がなっていないとか。自分がお前にしたことは取り消すから、お前が自分にしたことも取り消せという内容で、これをもって縁を切りますということが書いてありました
この一件があって以降2人は全く連絡を取らなくなるが、男性が就職に伴って上京した後の2021年7月、六本木で再び花森被告と遭遇する。終電間際の夜中に、花森被告の方から声をかけてきたという。
被害者の男性:すごい偶然だなと思いました。酔っ払いが絡んできたと思ったけど、顔を見たら彼だった。向こうも関係性が悪くなったという認識はあって、謝罪し合うような状況になって、この件は終わりと彼の方から言ってきた。自分としては心に残っていたものがフッと終わったというか、とりあえず関係が多少は修復できたんだなと思いました
しかし、その一ヶ月後に男性は花森被告に硫酸をかけられ、重傷を負うことになる。病室で警察から「犯人の可能性がある」と花森被告の画像を見せられた時、疑問が拭えなかったという。
被害者の男性:一番最初に浮かんだのは「なんで?」という言葉。六本木で話してから1カ月経って硫酸をかけられて、「なんでなんだろう」「1カ月前に言っていたのはなんだったんだろう」と疑問が湧いてきました
男性は上京後、不動産会社の新人営業マンとして奔走する毎日を送っていた。課題を克服していくプロセスが楽しく、事件当日も直前まで先輩に相談に乗ってもらい、仕事に対するモチベーションはかなり高まっていた。
事件直後も、今のうちに投資の勉強をして、早く治して職場復帰しようと考えていた。しかし、警察から話を聞いたり報道を見たりする度に、そのモチベーションは徐々に挫かれてしまったという。
被害者の男性:彼はかなり執念深いと聞くと、やっぱり東京に戻るのはリスクが高いというか。自分自身というよりは周りの人にすごく迷惑をかけてしまうなという思いが強くて。また、彼が社会に復帰した時に、新しい仕事にも慣れてある程度のものを築いたところでもしリセットにされたらと考えると、モチベーションが上がらなくなってしまった
事件後は、人との関わりを控えるようになり、人混みも避けるようになったほか、自分の後ろに人がいると心拍数が上がるようになった。精神的な傷跡も残る中で一番の不安は、やはり花森被告が社会復帰した時だという。
被害者の男性:彼が社会に戻った時にまた尾行されて、今度は家族とかにも危害が加わるんじゃないか。また、僕のせいで服役する事になったと捉えられると、より恨みが増して彼が社会に出てくると、今度は本当に殺されるんじゃないかなと。そこが一番怖い
身体的にも精神的にも厳しい状況が続く中、男性は取材を通して、救助を手伝ってくれた方など、様々な方への感謝をしきりに口にしていた。
被害者の男性:普通に話ができる状態なのは、周りの方が支えてくださったおかげ。顔がすごい熱いという話をしていたらペットボトル何本かの水をいただいて、駅員さんもそれを見て、バケツで水いっぱい持ってきてくださって。そういった方々に支えられて、持ちこたえられたんだなというのは痛切に感じる。こういう場を借りて改めてお礼を言いたいです
この経験を経て、「何かあった時に、人に手を差し伸べられるような人になりたい」と話してくれた男性。取材を通して2時間ほど話しただけではあるが、とても人から恨みを買うような人には見えなかった。
それだけに、私の頭の中にも、“なぜこの人がこんな目に遭わなければならなかったのか”という思いが強く残った。警視庁の調べに対し花森被告は、「男性の態度に不満があった」と話しているということだが、男性には思い当たる節がなく、なぜ自分が狙われたのか今もまだ理解できずにいる。
被害者の男性:自分が何でこうなったのかというのがいまいち腑に落ちていないというか。理由がいまいち分からないままこうなっているので、そこの理由を教えてもらいたいです
(フジテレビ社会部・警視庁担当 石竹爽馬)