「担任が嫌なので、クラス替えをしてほしい」と何度も…中3生徒を自殺へと追いやった“不適切指導”の実態

「正しい指導であれば、息子がなくなることはなかった」
【画像】バスケ部に所属するなど、活発な生徒だったサトルさん(仮名) 鹿児島市の中学3年だったサトルさん(仮名、当時15)は、2018年9月の始業式の日、自宅で亡くなった。自殺だった。 この日は始業式で、宿題の提出を忘れたことで、40代の担任教諭から他の生徒とともに集団指導を受けた。その後、個別指導を受け、自宅に宿題を取りに行かせた。その矢先の出来事だった。こうした生徒指導を契機に児童生徒が自殺することは、時に「指導死」と呼ばれる。

亡くなったサトルさんの母親・アカネさん(仮名)自宅2階部屋のドアを開けるとぐったりしている息子が… サトルさんが亡くなった日、17時30分ごろに担任教諭からサトルさんの母親・アカネさん(仮名、40代)に電話が入った。「今日、宿題の確認をしたが、提出してない。家で宿題をしていますか? サトルさんが宿題をしてないので残しました。教室にカバンはあるのですが、いなくなりました。どこか、サトルさんが行きそうなところに心当たりはありませんか?」 アカネさんは担任の口調を「すごく怖い」と感じた。17時40分ごろ、アカネさんは自宅に電話をしたが、サトルさんの在宅を確認できていない。18時前後、担任はアカネさん宅へ向かった。アカネさんも帰宅。サトルさんに電話をしたが、出ることはなかった。通常、サトルさんは1階のリビングで勉強したりして、過ごすことが多い。1階にはいなかったが、玄関には靴があった。そのため、2階を探した。「宿題を提出していないから、塞ぎ込んでいるか、部屋に立てこもっているのかな?」 アカネさんはそう思っていた。2階には3つの部屋がある。一番手前の部屋のドアから、ヒモが見えた。開けると、ぐったりしているサトルさんがいた。近くには、スマホが置かれていた。後でわかるが、検索履歴を見ると、自殺の方法を調べていたことがわかった。「叱責だけで自殺するだろうか?」と思ったのはアカネさん自身だ。筆者も、サトルさんの生前の写真をみても想像がつかない。バスケットボール部の部員で、背が高い。釣りや自然が好きで活発な面がある。のちに作成された「調査報告書」でも、「野生児のよう」というほど、活動的な面がある。自殺を含む死に関する話題をしていた様子もない。ただ、不安な要素としてあがっていたのは担任のことだ。担任は「ごめんね」「みんな、一緒だったんです」「中3になってすぐ、『担任が嫌なので、クラス替えをしてほしい』と言っていました。『それはできないでしょ』と伝えたのですが、翌日も『担任の先生が嫌だ』と言っていたんです。私は『まだそんなこと言っているの? 社会に出たら、ウマの合わない人は出てくるよ。今年は先生とではなく、友達と思い出をつくりなさい』って言ったんです。その後、言わなくなりました」 それでも不安は続いたようで、友人とのLINEの中で、担任に対する不安を投稿していた。ただし、報告書には、LINEのことは書かれていない。サトルさんが亡くなったとき、担任は「ごめんね」「みんな、一緒だったんです」と言っていた。「なんでそんなことを言ったのか?」と言動が不思議に映った。「当初は、サトルはまじめなので、『宿題の未提出が自殺の原因なのだろか?』と思っていました。その後、校長は『進路で悩んでいた』と説明したんです。これでは辻褄が合わない。すると、地域の人から文科省が定めた『学校事故対応に関する指針』や『子供の自殺が起きたときの背景調査の指針』があることを教わりました。まずは学校で調査をしたのですが、どうしたら説明してくれるのだろうと思い、弁護士を探しました。弁護士の同席のもと、詳細調査をお願いしました」(アカネさん) そもそも、宿題はどんなものがあったのか。 調査報告書によると、始業式に提出しなければならない宿題は、(1)答え合わせをした理科のプリント、(2)数学のプリント集、(3)数学のワーク、(4)保健体育の「体話」(親子で取り組むストレッチ)、(5)特別活動の調べ(高校の体験入学のまとめ)、(6)標語、(7)夏休みのしおり(生活の記録)――。このほか、(8)通知表も、保護者のコメントを挿入して提出することになっていた。このうち、提出したのは、(1)と(3)。(2)は紛失したと担任に報告。このほかは、忘れているのか、していないのか確認していない。 帰りの会が終わった後、宿題未提出の人を対象に、集団指導が行われた。このときは6人が対象だ。このとき、サトルさんに担任は「持ってきなさい。提出期限は今日だよね。ちゃんとやって出しなさい」と指導した。このときの様子を、別のクラスの生徒が見ていたが、担任について「急に怒鳴ったり、静かになったりで、何を言っているのかわからなかった」と証言している。 その後、特に宿題を忘れがちだった別の生徒と、宿題を滅多に忘れないサトルさんが個別指導の対象となった。担任は別の生徒には「お前がこんな調子で宿題をしなかったら、内申書を書かないぞ」と言ったという。机を叩いたりもした。担任は調査の中で、持っていた名簿の上を数度指で軽く叩いたが、威圧的ではないと証言した。このときの指導では、担任は「だったら、ちゃんと出せや、こら」などとの言葉遣いをしていた。 サトルさんへの指導になったのは13時30分ごろ。14時15分からは職員会議だった。担任が「いったいどのような夏休みを過ごしたのね?」と鹿児島弁で聞くと、サトルさんは「勉強をあまりしませんでした」と返事をした。周囲の証言では、指導後5分ほどしてから、怒鳴り声が聞こえたという。 担任の怒鳴り声については、調査委が入手した音声データがある。この指導場面ではないが、怒鳴り声はわかるものの、何を話しているかは聞き取れない。報告書では「地声が大きかったことから、扉が開いた際に、これらの声が3年職員室外に聞こえた可能性がある』とも書かれている。暴言については、複数の保護者が問題視しており、改善を求めていたとの報道もあった。 調査委は自殺の要因になった要素を検討しているが、性格などの個人的な因子、家庭要因、宿題未提出そのもの、進学への不安について検討をしているが、自殺の直接原因とは認めていない。担任の指導が「自死に影響を与えた可能性は否定できない」 一方、担任の指導について、「普通の生徒であっても萎縮するほどの声量であり、怒られることに慣れていないサトルさんにとっては(中略)大きく動揺する出来事であった」「大声で責めるのみで、改善策を考えさせようとした様子は見受けられない」などとして、「自死に影響を与えた可能性は否定できない」と、因果関係を示唆した。 この日は始業式の当日。宿題や進路の不安を抱えて登校している。そのなかで指導中、サトルさんは涙を流した。そのことが羞恥心を高めた。「宿題を当日中に提出できないと再度厳しい叱責を伴う指導が予測され、サトルさんはそのようなストレスも感じていた」とも分析した。 その上で、(1)大声などで生徒に恐怖感情を与え、教師の意に沿う行動をさせる指導、(2)宿題を自宅にとりに帰らせる指導、(3)スタンプラリー(指導を受ける際、1人の教師からの指導が終わるとサインをもらい、さらに別の教師からの指導を次々と受けていくというもの)、(4)連帯責任(自殺前年、バスケットボール部に問題が起きた。サトルさんは関与していないが、連帯責任として清掃作業を強いられたことがあり、調査委は不適切とした)――は改善すべきとしている。「報告書を読んでいると、サトルの頭の中が真っ白になっているのではと感じます。ただ、書かれていない箇所もあります。例えば、合唱コンクールがあったのですが、優勝しないと許されず、サトルのクラスだけが朝練をしていました。それでクラスの統制をとっていました」(アカネさん)「正しい指導であれば、息子がなくなることはなかった」 冒頭の言葉は、アカネさんが、2021年12月21日に文部科学省の記者クラブで発言した言葉だ。 この日、アカネさんは、「安全な生徒指導を考える会」のメンバーの1人として、初等中等教育局児童生徒課長らに要望書を手渡した。基本書とされる「生徒指導提要」(以下、提要)の改訂議論が進む中で、不適切指導に関する記述が不十分なことから、末松信介文科大臣宛に、(1)児童生徒には適切な指導を受ける権利があること(2)生徒指導を行う際には、児童生徒に弁明と意見表明の機会を与えることの重要性(3)指導の手順や配慮が実行されることの重要性(4)不適切指導が児童生徒に対し心理的な影響を与え、不登校や自殺につながることがあること を指摘しつつ、不適切指導を受けた当事者や家族(遺族)の声を聞くことを要望した。「不適切指導が未然に防げるように検討してほしいという思いで要望しました」(考える会) もともとの提要は2010年に作成された。有識者による協力者会議で議論が進められており、文科省は郵送かメールでの要望書を受け付けていた。すでに、5団体が要望書を提出している。ただ、「考える会」も要望書を作成していたものの、文科省への手渡し及び、直接の説明にこだわっていた。「手渡すことで、私たちの思いを文科省に伝える機会が得られると思っていました」(同前) 一方、自民党の「チルドレンファースト勉強会」では、「こども庁」の設置に向けた勉強会を重ねた。その中で、指導死遺族から、生徒指導が理由、あるいはきっかけで自殺や不登校に至る現実について話を聞いていた。総裁選前、地方議員たちが「こども庁の設置を求める要望書」を提出。「学校現場で生じている課題」として、いじめや自殺、教員のわいせつ行為、体罰とともに「指導死」を盛り込んだ。 そのため、「考える会」では、同勉強会の呼びかけ人の1人、山田太郎参議院議員に連絡をとるなどして、文科省への要望書の手渡しでの提出を模索した。山田議員は、児童生徒課長らが同席する機会を作り、同日、「指導死」で子どもを亡くした遺族を同席させた中での要望書提出が実現した。アカネさんの姿もあった。「宿題忘れて叱責されるのは理解できるが、正しい指導であれば、提要が浸透していれば、少なくとも亡くならなかったと思う。さらに充実させて浸透させていただければ、児童生徒も教師も守れるようになると思います」(アカネさん) 要望書の手渡しにも同席した。児童生徒課長は、提要の議論の中で、不適切指導の項目を含めることを検討するとした。「指導死」という言葉は、指導死親の会の大貫隆志氏の造語だ。「不適切な指導」には「体罰」も含まれるが、体罰や暴力のない指導(暴言や人間関係の切り離し、長時間の事情聴取、トイレに行かせない、1人にさせる)も含まれている。しかし、「指導死」の正式な統計はなく、文科省は公式には「指導死」という言葉を使用していない。党の文書の中だが、「指導死」が政治課題の一つとして取り上げられたのは、初めてのことだ。 サトルさんへの指導には体罰も厳しい懲戒もない。しかし、生徒に対する暴言を含めた指導が、自殺を招く結果になった。不適切な指導をいかになくせるか。文科省には、その明確な指針を示すことが求められている。写真=渋井哲也(渋井 哲也)
鹿児島市の中学3年だったサトルさん(仮名、当時15)は、2018年9月の始業式の日、自宅で亡くなった。自殺だった。
この日は始業式で、宿題の提出を忘れたことで、40代の担任教諭から他の生徒とともに集団指導を受けた。その後、個別指導を受け、自宅に宿題を取りに行かせた。その矢先の出来事だった。こうした生徒指導を契機に児童生徒が自殺することは、時に「指導死」と呼ばれる。
亡くなったサトルさんの母親・アカネさん(仮名)
サトルさんが亡くなった日、17時30分ごろに担任教諭からサトルさんの母親・アカネさん(仮名、40代)に電話が入った。
「今日、宿題の確認をしたが、提出してない。家で宿題をしていますか? サトルさんが宿題をしてないので残しました。教室にカバンはあるのですが、いなくなりました。どこか、サトルさんが行きそうなところに心当たりはありませんか?」
アカネさんは担任の口調を「すごく怖い」と感じた。17時40分ごろ、アカネさんは自宅に電話をしたが、サトルさんの在宅を確認できていない。18時前後、担任はアカネさん宅へ向かった。アカネさんも帰宅。サトルさんに電話をしたが、出ることはなかった。通常、サトルさんは1階のリビングで勉強したりして、過ごすことが多い。1階にはいなかったが、玄関には靴があった。そのため、2階を探した。
「宿題を提出していないから、塞ぎ込んでいるか、部屋に立てこもっているのかな?」
アカネさんはそう思っていた。2階には3つの部屋がある。一番手前の部屋のドアから、ヒモが見えた。開けると、ぐったりしているサトルさんがいた。近くには、スマホが置かれていた。後でわかるが、検索履歴を見ると、自殺の方法を調べていたことがわかった。
「叱責だけで自殺するだろうか?」と思ったのはアカネさん自身だ。筆者も、サトルさんの生前の写真をみても想像がつかない。バスケットボール部の部員で、背が高い。釣りや自然が好きで活発な面がある。のちに作成された「調査報告書」でも、「野生児のよう」というほど、活動的な面がある。自殺を含む死に関する話題をしていた様子もない。ただ、不安な要素としてあがっていたのは担任のことだ。
「中3になってすぐ、『担任が嫌なので、クラス替えをしてほしい』と言っていました。『それはできないでしょ』と伝えたのですが、翌日も『担任の先生が嫌だ』と言っていたんです。私は『まだそんなこと言っているの? 社会に出たら、ウマの合わない人は出てくるよ。今年は先生とではなく、友達と思い出をつくりなさい』って言ったんです。その後、言わなくなりました」
それでも不安は続いたようで、友人とのLINEの中で、担任に対する不安を投稿していた。ただし、報告書には、LINEのことは書かれていない。サトルさんが亡くなったとき、担任は「ごめんね」「みんな、一緒だったんです」と言っていた。「なんでそんなことを言ったのか?」と言動が不思議に映った。「当初は、サトルはまじめなので、『宿題の未提出が自殺の原因なのだろか?』と思っていました。その後、校長は『進路で悩んでいた』と説明したんです。これでは辻褄が合わない。すると、地域の人から文科省が定めた『学校事故対応に関する指針』や『子供の自殺が起きたときの背景調査の指針』があることを教わりました。まずは学校で調査をしたのですが、どうしたら説明してくれるのだろうと思い、弁護士を探しました。弁護士の同席のもと、詳細調査をお願いしました」(アカネさん) そもそも、宿題はどんなものがあったのか。 調査報告書によると、始業式に提出しなければならない宿題は、(1)答え合わせをした理科のプリント、(2)数学のプリント集、(3)数学のワーク、(4)保健体育の「体話」(親子で取り組むストレッチ)、(5)特別活動の調べ(高校の体験入学のまとめ)、(6)標語、(7)夏休みのしおり(生活の記録)――。このほか、(8)通知表も、保護者のコメントを挿入して提出することになっていた。このうち、提出したのは、(1)と(3)。(2)は紛失したと担任に報告。このほかは、忘れているのか、していないのか確認していない。 帰りの会が終わった後、宿題未提出の人を対象に、集団指導が行われた。このときは6人が対象だ。このとき、サトルさんに担任は「持ってきなさい。提出期限は今日だよね。ちゃんとやって出しなさい」と指導した。このときの様子を、別のクラスの生徒が見ていたが、担任について「急に怒鳴ったり、静かになったりで、何を言っているのかわからなかった」と証言している。 その後、特に宿題を忘れがちだった別の生徒と、宿題を滅多に忘れないサトルさんが個別指導の対象となった。担任は別の生徒には「お前がこんな調子で宿題をしなかったら、内申書を書かないぞ」と言ったという。机を叩いたりもした。担任は調査の中で、持っていた名簿の上を数度指で軽く叩いたが、威圧的ではないと証言した。このときの指導では、担任は「だったら、ちゃんと出せや、こら」などとの言葉遣いをしていた。 サトルさんへの指導になったのは13時30分ごろ。14時15分からは職員会議だった。担任が「いったいどのような夏休みを過ごしたのね?」と鹿児島弁で聞くと、サトルさんは「勉強をあまりしませんでした」と返事をした。周囲の証言では、指導後5分ほどしてから、怒鳴り声が聞こえたという。 担任の怒鳴り声については、調査委が入手した音声データがある。この指導場面ではないが、怒鳴り声はわかるものの、何を話しているかは聞き取れない。報告書では「地声が大きかったことから、扉が開いた際に、これらの声が3年職員室外に聞こえた可能性がある』とも書かれている。暴言については、複数の保護者が問題視しており、改善を求めていたとの報道もあった。 調査委は自殺の要因になった要素を検討しているが、性格などの個人的な因子、家庭要因、宿題未提出そのもの、進学への不安について検討をしているが、自殺の直接原因とは認めていない。担任の指導が「自死に影響を与えた可能性は否定できない」 一方、担任の指導について、「普通の生徒であっても萎縮するほどの声量であり、怒られることに慣れていないサトルさんにとっては(中略)大きく動揺する出来事であった」「大声で責めるのみで、改善策を考えさせようとした様子は見受けられない」などとして、「自死に影響を与えた可能性は否定できない」と、因果関係を示唆した。 この日は始業式の当日。宿題や進路の不安を抱えて登校している。そのなかで指導中、サトルさんは涙を流した。そのことが羞恥心を高めた。「宿題を当日中に提出できないと再度厳しい叱責を伴う指導が予測され、サトルさんはそのようなストレスも感じていた」とも分析した。 その上で、(1)大声などで生徒に恐怖感情を与え、教師の意に沿う行動をさせる指導、(2)宿題を自宅にとりに帰らせる指導、(3)スタンプラリー(指導を受ける際、1人の教師からの指導が終わるとサインをもらい、さらに別の教師からの指導を次々と受けていくというもの)、(4)連帯責任(自殺前年、バスケットボール部に問題が起きた。サトルさんは関与していないが、連帯責任として清掃作業を強いられたことがあり、調査委は不適切とした)――は改善すべきとしている。「報告書を読んでいると、サトルの頭の中が真っ白になっているのではと感じます。ただ、書かれていない箇所もあります。例えば、合唱コンクールがあったのですが、優勝しないと許されず、サトルのクラスだけが朝練をしていました。それでクラスの統制をとっていました」(アカネさん)「正しい指導であれば、息子がなくなることはなかった」 冒頭の言葉は、アカネさんが、2021年12月21日に文部科学省の記者クラブで発言した言葉だ。 この日、アカネさんは、「安全な生徒指導を考える会」のメンバーの1人として、初等中等教育局児童生徒課長らに要望書を手渡した。基本書とされる「生徒指導提要」(以下、提要)の改訂議論が進む中で、不適切指導に関する記述が不十分なことから、末松信介文科大臣宛に、(1)児童生徒には適切な指導を受ける権利があること(2)生徒指導を行う際には、児童生徒に弁明と意見表明の機会を与えることの重要性(3)指導の手順や配慮が実行されることの重要性(4)不適切指導が児童生徒に対し心理的な影響を与え、不登校や自殺につながることがあること を指摘しつつ、不適切指導を受けた当事者や家族(遺族)の声を聞くことを要望した。「不適切指導が未然に防げるように検討してほしいという思いで要望しました」(考える会) もともとの提要は2010年に作成された。有識者による協力者会議で議論が進められており、文科省は郵送かメールでの要望書を受け付けていた。すでに、5団体が要望書を提出している。ただ、「考える会」も要望書を作成していたものの、文科省への手渡し及び、直接の説明にこだわっていた。「手渡すことで、私たちの思いを文科省に伝える機会が得られると思っていました」(同前) 一方、自民党の「チルドレンファースト勉強会」では、「こども庁」の設置に向けた勉強会を重ねた。その中で、指導死遺族から、生徒指導が理由、あるいはきっかけで自殺や不登校に至る現実について話を聞いていた。総裁選前、地方議員たちが「こども庁の設置を求める要望書」を提出。「学校現場で生じている課題」として、いじめや自殺、教員のわいせつ行為、体罰とともに「指導死」を盛り込んだ。 そのため、「考える会」では、同勉強会の呼びかけ人の1人、山田太郎参議院議員に連絡をとるなどして、文科省への要望書の手渡しでの提出を模索した。山田議員は、児童生徒課長らが同席する機会を作り、同日、「指導死」で子どもを亡くした遺族を同席させた中での要望書提出が実現した。アカネさんの姿もあった。「宿題忘れて叱責されるのは理解できるが、正しい指導であれば、提要が浸透していれば、少なくとも亡くならなかったと思う。さらに充実させて浸透させていただければ、児童生徒も教師も守れるようになると思います」(アカネさん) 要望書の手渡しにも同席した。児童生徒課長は、提要の議論の中で、不適切指導の項目を含めることを検討するとした。「指導死」という言葉は、指導死親の会の大貫隆志氏の造語だ。「不適切な指導」には「体罰」も含まれるが、体罰や暴力のない指導(暴言や人間関係の切り離し、長時間の事情聴取、トイレに行かせない、1人にさせる)も含まれている。しかし、「指導死」の正式な統計はなく、文科省は公式には「指導死」という言葉を使用していない。党の文書の中だが、「指導死」が政治課題の一つとして取り上げられたのは、初めてのことだ。 サトルさんへの指導には体罰も厳しい懲戒もない。しかし、生徒に対する暴言を含めた指導が、自殺を招く結果になった。不適切な指導をいかになくせるか。文科省には、その明確な指針を示すことが求められている。写真=渋井哲也(渋井 哲也)
それでも不安は続いたようで、友人とのLINEの中で、担任に対する不安を投稿していた。ただし、報告書には、LINEのことは書かれていない。サトルさんが亡くなったとき、担任は「ごめんね」「みんな、一緒だったんです」と言っていた。「なんでそんなことを言ったのか?」と言動が不思議に映った。
「当初は、サトルはまじめなので、『宿題の未提出が自殺の原因なのだろか?』と思っていました。その後、校長は『進路で悩んでいた』と説明したんです。これでは辻褄が合わない。すると、地域の人から文科省が定めた『学校事故対応に関する指針』や『子供の自殺が起きたときの背景調査の指針』があることを教わりました。まずは学校で調査をしたのですが、どうしたら説明してくれるのだろうと思い、弁護士を探しました。弁護士の同席のもと、詳細調査をお願いしました」(アカネさん)
そもそも、宿題はどんなものがあったのか。
調査報告書によると、始業式に提出しなければならない宿題は、(1)答え合わせをした理科のプリント、(2)数学のプリント集、(3)数学のワーク、(4)保健体育の「体話」(親子で取り組むストレッチ)、(5)特別活動の調べ(高校の体験入学のまとめ)、(6)標語、(7)夏休みのしおり(生活の記録)――。このほか、(8)通知表も、保護者のコメントを挿入して提出することになっていた。このうち、提出したのは、(1)と(3)。(2)は紛失したと担任に報告。このほかは、忘れているのか、していないのか確認していない。
帰りの会が終わった後、宿題未提出の人を対象に、集団指導が行われた。このときは6人が対象だ。このとき、サトルさんに担任は「持ってきなさい。提出期限は今日だよね。ちゃんとやって出しなさい」と指導した。このときの様子を、別のクラスの生徒が見ていたが、担任について「急に怒鳴ったり、静かになったりで、何を言っているのかわからなかった」と証言している。
その後、特に宿題を忘れがちだった別の生徒と、宿題を滅多に忘れないサトルさんが個別指導の対象となった。担任は別の生徒には「お前がこんな調子で宿題をしなかったら、内申書を書かないぞ」と言ったという。机を叩いたりもした。担任は調査の中で、持っていた名簿の上を数度指で軽く叩いたが、威圧的ではないと証言した。このときの指導では、担任は「だったら、ちゃんと出せや、こら」などとの言葉遣いをしていた。
サトルさんへの指導になったのは13時30分ごろ。14時15分からは職員会議だった。担任が「いったいどのような夏休みを過ごしたのね?」と鹿児島弁で聞くと、サトルさんは「勉強をあまりしませんでした」と返事をした。周囲の証言では、指導後5分ほどしてから、怒鳴り声が聞こえたという。
担任の怒鳴り声については、調査委が入手した音声データがある。この指導場面ではないが、怒鳴り声はわかるものの、何を話しているかは聞き取れない。報告書では「地声が大きかったことから、扉が開いた際に、これらの声が3年職員室外に聞こえた可能性がある』とも書かれている。暴言については、複数の保護者が問題視しており、改善を求めていたとの報道もあった。
調査委は自殺の要因になった要素を検討しているが、性格などの個人的な因子、家庭要因、宿題未提出そのもの、進学への不安について検討をしているが、自殺の直接原因とは認めていない。
一方、担任の指導について、「普通の生徒であっても萎縮するほどの声量であり、怒られることに慣れていないサトルさんにとっては(中略)大きく動揺する出来事であった」「大声で責めるのみで、改善策を考えさせようとした様子は見受けられない」などとして、「自死に影響を与えた可能性は否定できない」と、因果関係を示唆した。
この日は始業式の当日。宿題や進路の不安を抱えて登校している。そのなかで指導中、サトルさんは涙を流した。そのことが羞恥心を高めた。「宿題を当日中に提出できないと再度厳しい叱責を伴う指導が予測され、サトルさんはそのようなストレスも感じていた」とも分析した。
その上で、(1)大声などで生徒に恐怖感情を与え、教師の意に沿う行動をさせる指導、(2)宿題を自宅にとりに帰らせる指導、(3)スタンプラリー(指導を受ける際、1人の教師からの指導が終わるとサインをもらい、さらに別の教師からの指導を次々と受けていくというもの)、(4)連帯責任(自殺前年、バスケットボール部に問題が起きた。サトルさんは関与していないが、連帯責任として清掃作業を強いられたことがあり、調査委は不適切とした)――は改善すべきとしている。
「報告書を読んでいると、サトルの頭の中が真っ白になっているのではと感じます。ただ、書かれていない箇所もあります。例えば、合唱コンクールがあったのですが、優勝しないと許されず、サトルのクラスだけが朝練をしていました。それでクラスの統制をとっていました」(アカネさん)
冒頭の言葉は、アカネさんが、2021年12月21日に文部科学省の記者クラブで発言した言葉だ。
この日、アカネさんは、「安全な生徒指導を考える会」のメンバーの1人として、初等中等教育局児童生徒課長らに要望書を手渡した。基本書とされる「生徒指導提要」(以下、提要)の改訂議論が進む中で、不適切指導に関する記述が不十分なことから、末松信介文科大臣宛に、(1)児童生徒には適切な指導を受ける権利があること(2)生徒指導を行う際には、児童生徒に弁明と意見表明の機会を与えることの重要性(3)指導の手順や配慮が実行されることの重要性(4)不適切指導が児童生徒に対し心理的な影響を与え、不登校や自殺につながることがあること を指摘しつつ、不適切指導を受けた当事者や家族(遺族)の声を聞くことを要望した。「不適切指導が未然に防げるように検討してほしいという思いで要望しました」(考える会) もともとの提要は2010年に作成された。有識者による協力者会議で議論が進められており、文科省は郵送かメールでの要望書を受け付けていた。すでに、5団体が要望書を提出している。ただ、「考える会」も要望書を作成していたものの、文科省への手渡し及び、直接の説明にこだわっていた。「手渡すことで、私たちの思いを文科省に伝える機会が得られると思っていました」(同前) 一方、自民党の「チルドレンファースト勉強会」では、「こども庁」の設置に向けた勉強会を重ねた。その中で、指導死遺族から、生徒指導が理由、あるいはきっかけで自殺や不登校に至る現実について話を聞いていた。総裁選前、地方議員たちが「こども庁の設置を求める要望書」を提出。「学校現場で生じている課題」として、いじめや自殺、教員のわいせつ行為、体罰とともに「指導死」を盛り込んだ。 そのため、「考える会」では、同勉強会の呼びかけ人の1人、山田太郎参議院議員に連絡をとるなどして、文科省への要望書の手渡しでの提出を模索した。山田議員は、児童生徒課長らが同席する機会を作り、同日、「指導死」で子どもを亡くした遺族を同席させた中での要望書提出が実現した。アカネさんの姿もあった。「宿題忘れて叱責されるのは理解できるが、正しい指導であれば、提要が浸透していれば、少なくとも亡くならなかったと思う。さらに充実させて浸透させていただければ、児童生徒も教師も守れるようになると思います」(アカネさん) 要望書の手渡しにも同席した。児童生徒課長は、提要の議論の中で、不適切指導の項目を含めることを検討するとした。「指導死」という言葉は、指導死親の会の大貫隆志氏の造語だ。「不適切な指導」には「体罰」も含まれるが、体罰や暴力のない指導(暴言や人間関係の切り離し、長時間の事情聴取、トイレに行かせない、1人にさせる)も含まれている。しかし、「指導死」の正式な統計はなく、文科省は公式には「指導死」という言葉を使用していない。党の文書の中だが、「指導死」が政治課題の一つとして取り上げられたのは、初めてのことだ。 サトルさんへの指導には体罰も厳しい懲戒もない。しかし、生徒に対する暴言を含めた指導が、自殺を招く結果になった。不適切な指導をいかになくせるか。文科省には、その明確な指針を示すことが求められている。写真=渋井哲也(渋井 哲也)
この日、アカネさんは、「安全な生徒指導を考える会」のメンバーの1人として、初等中等教育局児童生徒課長らに要望書を手渡した。基本書とされる「生徒指導提要」(以下、提要)の改訂議論が進む中で、不適切指導に関する記述が不十分なことから、末松信介文科大臣宛に、
(1)児童生徒には適切な指導を受ける権利があること
(2)生徒指導を行う際には、児童生徒に弁明と意見表明の機会を与えることの重要性
(3)指導の手順や配慮が実行されることの重要性
(4)不適切指導が児童生徒に対し心理的な影響を与え、不登校や自殺につながることがあること
を指摘しつつ、不適切指導を受けた当事者や家族(遺族)の声を聞くことを要望した。
「不適切指導が未然に防げるように検討してほしいという思いで要望しました」(考える会)
もともとの提要は2010年に作成された。有識者による協力者会議で議論が進められており、文科省は郵送かメールでの要望書を受け付けていた。すでに、5団体が要望書を提出している。ただ、「考える会」も要望書を作成していたものの、文科省への手渡し及び、直接の説明にこだわっていた。
「手渡すことで、私たちの思いを文科省に伝える機会が得られると思っていました」(同前)
一方、自民党の「チルドレンファースト勉強会」では、「こども庁」の設置に向けた勉強会を重ねた。その中で、指導死遺族から、生徒指導が理由、あるいはきっかけで自殺や不登校に至る現実について話を聞いていた。総裁選前、地方議員たちが「こども庁の設置を求める要望書」を提出。「学校現場で生じている課題」として、いじめや自殺、教員のわいせつ行為、体罰とともに「指導死」を盛り込んだ。
そのため、「考える会」では、同勉強会の呼びかけ人の1人、山田太郎参議院議員に連絡をとるなどして、文科省への要望書の手渡しでの提出を模索した。山田議員は、児童生徒課長らが同席する機会を作り、同日、「指導死」で子どもを亡くした遺族を同席させた中での要望書提出が実現した。アカネさんの姿もあった。
「宿題忘れて叱責されるのは理解できるが、正しい指導であれば、提要が浸透していれば、少なくとも亡くならなかったと思う。さらに充実させて浸透させていただければ、児童生徒も教師も守れるようになると思います」(アカネさん)
要望書の手渡しにも同席した。児童生徒課長は、提要の議論の中で、不適切指導の項目を含めることを検討するとした。「指導死」という言葉は、指導死親の会の大貫隆志氏の造語だ。「不適切な指導」には「体罰」も含まれるが、体罰や暴力のない指導(暴言や人間関係の切り離し、長時間の事情聴取、トイレに行かせない、1人にさせる)も含まれている。しかし、「指導死」の正式な統計はなく、文科省は公式には「指導死」という言葉を使用していない。党の文書の中だが、「指導死」が政治課題の一つとして取り上げられたのは、初めてのことだ。 サトルさんへの指導には体罰も厳しい懲戒もない。しかし、生徒に対する暴言を含めた指導が、自殺を招く結果になった。不適切な指導をいかになくせるか。文科省には、その明確な指針を示すことが求められている。写真=渋井哲也(渋井 哲也)
要望書の手渡しにも同席した。児童生徒課長は、提要の議論の中で、不適切指導の項目を含めることを検討するとした。
「指導死」という言葉は、指導死親の会の大貫隆志氏の造語だ。「不適切な指導」には「体罰」も含まれるが、体罰や暴力のない指導(暴言や人間関係の切り離し、長時間の事情聴取、トイレに行かせない、1人にさせる)も含まれている。しかし、「指導死」の正式な統計はなく、文科省は公式には「指導死」という言葉を使用していない。党の文書の中だが、「指導死」が政治課題の一つとして取り上げられたのは、初めてのことだ。
サトルさんへの指導には体罰も厳しい懲戒もない。しかし、生徒に対する暴言を含めた指導が、自殺を招く結果になった。不適切な指導をいかになくせるか。文科省には、その明確な指針を示すことが求められている。
写真=渋井哲也(渋井 哲也)
(渋井 哲也)