「10万円給付」迷走から見える「政治の不作為のツケ」

昨秋にまとめた経済対策の「目玉」の一つとして、岸田政権が進める国民向けの10万円給付は、その是非や手法に多くの疑問がつきつけられ、政権の対応も迷走した。
財政学者で現金給付の仕組みに詳しい佐藤主光(もとひろ)・一橋大教授は「政治の不作為のツケが回った」と語る。なぜ混乱を招いたのか、そこから何を学ぶべきなのか。
■一回限りの分配、効果に疑問符
――「成長と分配の好循環」「格差是正」をうたう岸田政権が給付金を打ち出した意味をどう見ますか。
「所得格差は構造的な問題なので、一回限りの給付金による分配では解消しません。政権はアベノミクス以来ずっと『短期決戦・一挙解決』志向で、今回も大きな対策を1回打つことで、景気浮揚や格差縮小が進むと期待しているように見えます。でも、そんなことはあり得ません。構造を改革しなければ好循環も見込めません」
――10万円を給付する対象は、18歳以下の子どもがいる子育て世帯や住民税の非課税世帯です。
「さまざまな目的が混在していることが、大きな問題です。格差是正や生活困窮者への支援という目的を重視するなら、収入が急減した人や、所得がもともと低い人をターゲットとし、十分な支援を行うのが本来の姿です。しかし、そうなってはおらず、景気対策ももう一つの目的となりました。2020年に全国民に一律10万円の特別定額給付金を配った時は、多くが貯蓄に回り、消費喚起の効果はかなり限定的でした。今回も景気対策としては疑問ですね」
■支給の基準に不合理
――子育て世帯の給付では所得制限をつけるべきかどうかで議論がありました。
「もともと日本人の中には、みな一律であることが公平だという意識があります。でも、それはおかしな話だと思います。なぜなら、コロナの影響は一律ではないからです。産業で打撃を受けたのは観光や宿泊、飲食などで、製造業は全体的にもうかっています。人々の収入も、雇用が安定した正社員や年金生活者では減っておらず、困っているのは仕事がなくなった非正規雇用やフリーランス、自営業の人たちです」