【柳下雄太】フランスで「日本を特集する雑誌」が大人気になっている理由 即身仏から女子プロレスまで

日本ではあまり知られていないが、ここ数年日本を専門的に扱うメディアの数がフランスで増えている。
もともとあった月刊誌Zoom Japonにくわえ、日仏両言語で両国の文化事象をとりあげるRevue Kokoや、より時事に特化したJapon Infosなどがあげられるが、注目すべきなのが従来のステレオタイプ的な西洋における日本像からの脱却をめざし、2020年春に創刊したTEMPURA(季刊・発行部数5万部)である。
女子プロレスや即身仏についてのルポルタージュや、また平野啓一郎や川上未映子など現代日本を代表する作家の短編小説やインタビューを掲載するなど、掲載されている記事も充実している。
日本と同様不況の仏メディア業界で、類似の独立系雑誌ができては数ヶ月で潰れることも多い中、このような一見とがった内容で生き残りに成功しているTEMPURA は異彩を放つ。なぜこのような雑誌が今のフランスの読者に受け入れられているのか、編集長のエミール・パシャ・バレンシア氏にインタビューし実情を探った。
雑誌「TEMPURA」編集長のエミール・パシャ・バレンシア氏
成功する保証なんてなかった――なぜこのような雑誌を作ろうと思ったのですか?まず前提として、フランスにおける日本への関心というのは昔から存在しているのですが、ただこちらでみんなが抱いている日本に対してのステレオタイプ的なイメージを越えようとする雑誌というのが今までなかったのです。カルチャーに関する媒体はあるのですが、フランスで一般受けするありがちな日本のテーマ――伝統文化、マンガ、アニメ、食など――に記事の内容が偏っていました。だからフランスの読者も、もう少し日本の別の分野を扱った雑誌を読みたいのではと思ったのです。もちろん成功する保証なんかありませんよ。これは賭けでした。僕自身メディア業界に精通している訳ではなかったので、2018年にすでに別の雑誌で仕事をしていた友人にこんな雑誌を作りたいと相談したのですが、フランスのメディア業界の景気はいいとは言えないので、「日本専門誌を立ち上げるなんて君は正気か」と言われましたよ(笑)。僕がやりたかったのは、既存のフランスメディアがあまり取り上げない、現代の日本の諸問題――つまり等身大の日本ですね――そういうものを扱う雑誌作りです。そうすると、フェミニズムとか働き方の問題であるとか、フランス人の読者にも関係するテーマが出てくるわけです。こういった普遍的な問題に対して、日本の話を扱いながらフランスの現状に対し新しい視点を提示できればという思いもありました。外国でこれらの問題がどうなっているのか、知りたいという読者はいますから。つまりこの場合日本というのは、ある種の鏡なわけです。この鏡を見ることによって、フランスでは当たり前になっていて特に疑問に思わないことについて、「果たしてこれはこれでいいのだろうとか」と、頭を働かせることができる。TEMPURA 5号の表紙 例えばフランスでは男性間で衣服ですとかアクセサリーを褒めることはあまりないのですが、これは着る物に気を使うのは男らしくないという古い考えがどこかにあるからです。これに対し、日本では男性が同性の友人の服を褒めるのはごく普通のことです。両国間の差異によって、当たり前になっていて普段は気づかない自分たちの無意識の傾向が顕になるのです。なのでTEMPURAのコンセプトとしては、たとえ日本の社会問題であっても、他の国の読者にも関わってくる普遍的なテーマを扱うことにしています。これと同時に、ビジュアルの面でも読者にアピールするため、写真も自分たちで選んだアーティストを使ってしっかりしたものを載せることを心がけています。優秀な記者を使って真面目なテーマを扱いながら、装幀もきちんとしたかっこいい雑誌を作ろうというのが当初の目的でした。「等身大の日本」を見せたい――記事について、即身仏や女子プロレス、日本のフェミニズムの歴史から小笠原諸島の欧米系住民に関するルポまで、日本人でさえあまり詳しく知らないテーマが多いのですが、どうやって決めているのですか?記事のネタは僕が見つけてきたり、仕事をしている記者が持ち込んできたり、あるいは相談して決めたりいろいろですね。傾向としては芸者、ロボット、性に関するいわゆる「ウィアードジャパン(注1)」のような、ステレオタイプにはまらないようにしています。残念ながらフランスでは、ちゃんとしたメディアでもこういったテーマを取り上げてしまうことが多いので…。日本やアジアに関しては特にこういうエキゾチシズム、もっというとレイシズム的な見方がまだ残っていて、とんでもない言説が依然としてまかり通ってしまっている現状があります。ですのでフランスとの単純比較を避けて、社会構造や歴史に重点を置きつつ、あくまで等身大の日本を見せることを心がけています。その結果、セクシュアルマイノリティーや、社会における女性の地位、地方の問題など、どの国にもある普遍的な事象に言及することが多いです。僕がいつも興味深いと思うのは、ジャーナリストの伊藤詩織(注2)さんですとか、写真家の石川竜一(注3)さん、あるいは森美術館館長の片岡真美(注4)さんのように、個人で社会をより良くするために努力変えようとしている人たちについての話ですね。ジャーナリストの伊藤詩織さん[Photo by gettyimages] フランスでは日本は同質的な社会だと思われがちですが、全然そんなことはなくて、非常に多様な国だということを教えてくれます。日本の多様性を紹介するというのも、僕が本当にやりたかったことの一つです。一緒に仕事をする記者の中には、ルモンド紙などすでに他の媒体で特派員として書いている人も多いのですが、彼らのTEMPURAへの反応も非常に良いです。多分彼らも、フランスメディアが今までやってこなかったこのようなネタを発表する場所を探していたのではないでしょうか。――もうひとつ、TEMPURAの強みは、川上未映子さんや平野啓一郎さんなど、著名な作家の短編小説を載せていることがあると思うのですが、これはどうやって思いついたのですか?僕は文学が大好きなので、才能にあふれた現代の日本の作家を紹介したいと思ったのがきっかけです。これらの短編のうちいくつかは、うちの雑誌にしか載せていません。彼らのアシスタントや、出版社、フランス著作権事務所(注5)にコネがあるので、そのおかげで掲載できました。こちらがちゃんとした媒体で、彼らの作品をフランス語で紹介したいという思いがあることを説明すれれば、作家の方も比較的すぐ協力してくれます。あとは一度有名な作家の方の短編を載せることができれば、雑誌への信用度が高まって、次からは初回ほど難しくはありません。日本のフェミニズムを特集したTEMPURA 7号 ――そもそもパシャさんはなぜ日本に興味を持ったのですか?実は僕はキューバで生まれてフランスで育ちました。当時キューバで住んでいた家の近所に、漁師に漁業の技術を教えにきていた日本人の家族がいたのです。僕の日本との出会いはここまで遡るのですが、2003年に日本に初めて旅行で行く機会がありフランスと違って日常生活のもろもろが非常に摩擦なく、スムーズに行くことにびっくりしました。これは日本を訪れたフランス人にありがちな感想なのですが、例えば電車が時間通りに来るとか、飲食店でのサービスの質ですとかが、非常に印象に残っています。この経験によって、日本はとても穏やかで安心できる国という印象を持ったので、この国への好奇心が更に刺激されました。この好奇心を満たすため、大学では人類学を専攻し、戦後日本におけるサラリーマン像について研究しました。結局一つの分野でずっと同じ内容を研究することに自分が向いていないと気がついて、博士課程の途中でやめましたが。なぜ「TEMPURA」なのか?――日本人からすると、「テンプラ」というのは食べ物の名前ですが、なぜこの言葉を雑誌名に選んだのですか?天ぷらというものには非常に面白い歴史があって、もともとは海外との交流にあまり積極的でなかった中世の日本に、ポルトガル人の宣教師が持ち込んだ食べ物でした。この話はとても象徴的だと僕は思っていて、つまり国境が閉まっていても、アイデアとか文化というのはそれを乗り越えて普及していくわけです。日本文化に関するフランス語の雑誌TEMPURAも、食べ物としての天ぷらの歴史に重なる、2つの国の架け橋のような存在になりたいということで、この名前をつけました。 ――この雑誌の読者にはどのような人がいるのですか?TEMPURAの読者は3つのカテゴリーに分けられます。まず一つ目は、漫画とかアニメが好きな、いわゆる「日本のファン」の人たち。それからフランスにはムック(注6)という本と雑誌の中間に当たるような媒体の市場があるのですが、ここの読者が二つ目。具体的には、長いルポルタージュや読み応えのある調査報道を、舞台となる国に関係なく好んで読む人たちです。だからこの人たちは、TEMPURAを読むことで日本のさまざまな問題を新たに認識していると思います。三つ目としては、僕らは日本のアーティスト、工芸家や写真家についての記事を載せることが多いので、必ずしも日本に詳しくなくてもこういう分野に興味がある人たち。読者の男女比は大体半々で、平均年齢は30~40代ですね。地理的に言うと、最初は読者がもっとパリに偏ると思ったのですが、意外とフランス全土で読まれています。あとはイタリアやアメリカ、カナダとかベルギーといった国にも読者がいます。――1冊15ユーロ(11月末のレートで1940円)、発行部数は5万部とのことですが、収益モデルはどうなっているんですか?定期購読している読者が5000人から6000人います。あとはキオスクや本屋、インターネットでも販売しています。これで大体5万部のうち6割から7割は売れます。収益モデルですが、雑誌の販売による売上が8割、残り1割が広告収入ですね。1冊で164ページあるのですが、広告は大体3から5ページくらいです。最近はコロナの影響もあって、広告を出す企業も雑誌に対して出稿を渋ることが多いので、できれば読者が払ってくれるお金だけでやっていきたいというのが僕の夢です。編集長としての仕事に集中できますしね。TEMPURA 6号の表紙 ゆくゆくは“日本語版”も出版したみたい――ご存じの通りフランスではメディア業界はずっと不況で、TEMPURAのような独立系雑誌ができてはつぶれるというのが繰り返されているのですが、立ち上げの時に不安というのはなかったのですか?もちろんありましたよ。うまくいくかもしれないというのは勘で感じていましたが、保証も何もありませんでした。だから創刊号が発行されて、キオスクで人がTEMPURAを買っているのを見た時は妙な気持ちでした。フランスではコロナによるロックダウンでキオスクと本屋が閉まっていた時期があって、雑誌の売り場がなくなってしまったので大変だったのですが、なんとか読者のおかげで生き残れました。この結果には正直自分自身も驚いています。――すでに7号が発売され、今年で創刊3年目に入りますが、今後やりたいことはありますか?まず今年初頭に、日本の食に関する初めての別冊を翻訳家の関口涼子さんと一緒に出します。ここでも、従来フランスで紹介されている寿司や懐石料理といったアングルとは別の視点から取り組みたいと思っています。あとは日本の現代文学に関する別冊もやりたいですね。今年中を目処に、より大きなマーケットにアクセスするために英語版も出したいと考えています。日本版も発行するつもりですが、2023年くらいになりそうです。ただ日本版をやるとなると、これまでと同じ装幀ではだめだと思うし、僕たちだけではできないでしょう。現地でいろいろな人と仕事をする必要があります。なのでコロナが一段落して国境が開いたら、できるだけ早い段階で日本に移住するつもりです。 【注釈】注1 いわゆる海外から見た「変な/おかしな日本人」系のテーマを扱う記事のこと注2 ジャーナリスト、映像作家。著書に「Black Box」(2017年)がある。注3 写真家。沖縄出身。木村伊兵衛賞を2015年に受賞。従来とは違った沖縄像を打ち出したことで注目を浴びた。注4 2003年より森美術館館長を務める世界的キュレーター。現代アートにおいて、男女アーティスト間の格差を是正するための取り組みで知られる。注5 フランス語の出版物の各種権利を扱う代理店。注6 mookとはbookとmagazineから取られた造語。広告は少なく、装幀も凝ったものが多く一冊数千円する。フランスでは2008年創刊のXXIをはじめ、この種の媒体で発行部数数万を誇るものが複数ある。
――なぜこのような雑誌を作ろうと思ったのですか?
まず前提として、フランスにおける日本への関心というのは昔から存在しているのですが、ただこちらでみんなが抱いている日本に対してのステレオタイプ的なイメージを越えようとする雑誌というのが今までなかったのです。
カルチャーに関する媒体はあるのですが、フランスで一般受けするありがちな日本のテーマ――伝統文化、マンガ、アニメ、食など――に記事の内容が偏っていました。だからフランスの読者も、もう少し日本の別の分野を扱った雑誌を読みたいのではと思ったのです。
もちろん成功する保証なんかありませんよ。これは賭けでした。僕自身メディア業界に精通している訳ではなかったので、2018年にすでに別の雑誌で仕事をしていた友人にこんな雑誌を作りたいと相談したのですが、フランスのメディア業界の景気はいいとは言えないので、「日本専門誌を立ち上げるなんて君は正気か」と言われましたよ(笑)。
僕がやりたかったのは、既存のフランスメディアがあまり取り上げない、現代の日本の諸問題――つまり等身大の日本ですね――そういうものを扱う雑誌作りです。そうすると、フェミニズムとか働き方の問題であるとか、フランス人の読者にも関係するテーマが出てくるわけです。こういった普遍的な問題に対して、日本の話を扱いながらフランスの現状に対し新しい視点を提示できればという思いもありました。
外国でこれらの問題がどうなっているのか、知りたいという読者はいますから。つまりこの場合日本というのは、ある種の鏡なわけです。この鏡を見ることによって、フランスでは当たり前になっていて特に疑問に思わないことについて、「果たしてこれはこれでいいのだろうとか」と、頭を働かせることができる。
TEMPURA 5号の表紙
例えばフランスでは男性間で衣服ですとかアクセサリーを褒めることはあまりないのですが、これは着る物に気を使うのは男らしくないという古い考えがどこかにあるからです。これに対し、日本では男性が同性の友人の服を褒めるのはごく普通のことです。両国間の差異によって、当たり前になっていて普段は気づかない自分たちの無意識の傾向が顕になるのです。なのでTEMPURAのコンセプトとしては、たとえ日本の社会問題であっても、他の国の読者にも関わってくる普遍的なテーマを扱うことにしています。これと同時に、ビジュアルの面でも読者にアピールするため、写真も自分たちで選んだアーティストを使ってしっかりしたものを載せることを心がけています。優秀な記者を使って真面目なテーマを扱いながら、装幀もきちんとしたかっこいい雑誌を作ろうというのが当初の目的でした。「等身大の日本」を見せたい――記事について、即身仏や女子プロレス、日本のフェミニズムの歴史から小笠原諸島の欧米系住民に関するルポまで、日本人でさえあまり詳しく知らないテーマが多いのですが、どうやって決めているのですか?記事のネタは僕が見つけてきたり、仕事をしている記者が持ち込んできたり、あるいは相談して決めたりいろいろですね。傾向としては芸者、ロボット、性に関するいわゆる「ウィアードジャパン(注1)」のような、ステレオタイプにはまらないようにしています。残念ながらフランスでは、ちゃんとしたメディアでもこういったテーマを取り上げてしまうことが多いので…。日本やアジアに関しては特にこういうエキゾチシズム、もっというとレイシズム的な見方がまだ残っていて、とんでもない言説が依然としてまかり通ってしまっている現状があります。ですのでフランスとの単純比較を避けて、社会構造や歴史に重点を置きつつ、あくまで等身大の日本を見せることを心がけています。その結果、セクシュアルマイノリティーや、社会における女性の地位、地方の問題など、どの国にもある普遍的な事象に言及することが多いです。僕がいつも興味深いと思うのは、ジャーナリストの伊藤詩織(注2)さんですとか、写真家の石川竜一(注3)さん、あるいは森美術館館長の片岡真美(注4)さんのように、個人で社会をより良くするために努力変えようとしている人たちについての話ですね。ジャーナリストの伊藤詩織さん[Photo by gettyimages] フランスでは日本は同質的な社会だと思われがちですが、全然そんなことはなくて、非常に多様な国だということを教えてくれます。日本の多様性を紹介するというのも、僕が本当にやりたかったことの一つです。一緒に仕事をする記者の中には、ルモンド紙などすでに他の媒体で特派員として書いている人も多いのですが、彼らのTEMPURAへの反応も非常に良いです。多分彼らも、フランスメディアが今までやってこなかったこのようなネタを発表する場所を探していたのではないでしょうか。――もうひとつ、TEMPURAの強みは、川上未映子さんや平野啓一郎さんなど、著名な作家の短編小説を載せていることがあると思うのですが、これはどうやって思いついたのですか?僕は文学が大好きなので、才能にあふれた現代の日本の作家を紹介したいと思ったのがきっかけです。これらの短編のうちいくつかは、うちの雑誌にしか載せていません。彼らのアシスタントや、出版社、フランス著作権事務所(注5)にコネがあるので、そのおかげで掲載できました。こちらがちゃんとした媒体で、彼らの作品をフランス語で紹介したいという思いがあることを説明すれれば、作家の方も比較的すぐ協力してくれます。あとは一度有名な作家の方の短編を載せることができれば、雑誌への信用度が高まって、次からは初回ほど難しくはありません。日本のフェミニズムを特集したTEMPURA 7号 ――そもそもパシャさんはなぜ日本に興味を持ったのですか?実は僕はキューバで生まれてフランスで育ちました。当時キューバで住んでいた家の近所に、漁師に漁業の技術を教えにきていた日本人の家族がいたのです。僕の日本との出会いはここまで遡るのですが、2003年に日本に初めて旅行で行く機会がありフランスと違って日常生活のもろもろが非常に摩擦なく、スムーズに行くことにびっくりしました。これは日本を訪れたフランス人にありがちな感想なのですが、例えば電車が時間通りに来るとか、飲食店でのサービスの質ですとかが、非常に印象に残っています。この経験によって、日本はとても穏やかで安心できる国という印象を持ったので、この国への好奇心が更に刺激されました。この好奇心を満たすため、大学では人類学を専攻し、戦後日本におけるサラリーマン像について研究しました。結局一つの分野でずっと同じ内容を研究することに自分が向いていないと気がついて、博士課程の途中でやめましたが。なぜ「TEMPURA」なのか?――日本人からすると、「テンプラ」というのは食べ物の名前ですが、なぜこの言葉を雑誌名に選んだのですか?天ぷらというものには非常に面白い歴史があって、もともとは海外との交流にあまり積極的でなかった中世の日本に、ポルトガル人の宣教師が持ち込んだ食べ物でした。この話はとても象徴的だと僕は思っていて、つまり国境が閉まっていても、アイデアとか文化というのはそれを乗り越えて普及していくわけです。日本文化に関するフランス語の雑誌TEMPURAも、食べ物としての天ぷらの歴史に重なる、2つの国の架け橋のような存在になりたいということで、この名前をつけました。 ――この雑誌の読者にはどのような人がいるのですか?TEMPURAの読者は3つのカテゴリーに分けられます。まず一つ目は、漫画とかアニメが好きな、いわゆる「日本のファン」の人たち。それからフランスにはムック(注6)という本と雑誌の中間に当たるような媒体の市場があるのですが、ここの読者が二つ目。具体的には、長いルポルタージュや読み応えのある調査報道を、舞台となる国に関係なく好んで読む人たちです。だからこの人たちは、TEMPURAを読むことで日本のさまざまな問題を新たに認識していると思います。三つ目としては、僕らは日本のアーティスト、工芸家や写真家についての記事を載せることが多いので、必ずしも日本に詳しくなくてもこういう分野に興味がある人たち。読者の男女比は大体半々で、平均年齢は30~40代ですね。地理的に言うと、最初は読者がもっとパリに偏ると思ったのですが、意外とフランス全土で読まれています。あとはイタリアやアメリカ、カナダとかベルギーといった国にも読者がいます。――1冊15ユーロ(11月末のレートで1940円)、発行部数は5万部とのことですが、収益モデルはどうなっているんですか?定期購読している読者が5000人から6000人います。あとはキオスクや本屋、インターネットでも販売しています。これで大体5万部のうち6割から7割は売れます。収益モデルですが、雑誌の販売による売上が8割、残り1割が広告収入ですね。1冊で164ページあるのですが、広告は大体3から5ページくらいです。最近はコロナの影響もあって、広告を出す企業も雑誌に対して出稿を渋ることが多いので、できれば読者が払ってくれるお金だけでやっていきたいというのが僕の夢です。編集長としての仕事に集中できますしね。TEMPURA 6号の表紙 ゆくゆくは“日本語版”も出版したみたい――ご存じの通りフランスではメディア業界はずっと不況で、TEMPURAのような独立系雑誌ができてはつぶれるというのが繰り返されているのですが、立ち上げの時に不安というのはなかったのですか?もちろんありましたよ。うまくいくかもしれないというのは勘で感じていましたが、保証も何もありませんでした。だから創刊号が発行されて、キオスクで人がTEMPURAを買っているのを見た時は妙な気持ちでした。フランスではコロナによるロックダウンでキオスクと本屋が閉まっていた時期があって、雑誌の売り場がなくなってしまったので大変だったのですが、なんとか読者のおかげで生き残れました。この結果には正直自分自身も驚いています。――すでに7号が発売され、今年で創刊3年目に入りますが、今後やりたいことはありますか?まず今年初頭に、日本の食に関する初めての別冊を翻訳家の関口涼子さんと一緒に出します。ここでも、従来フランスで紹介されている寿司や懐石料理といったアングルとは別の視点から取り組みたいと思っています。あとは日本の現代文学に関する別冊もやりたいですね。今年中を目処に、より大きなマーケットにアクセスするために英語版も出したいと考えています。日本版も発行するつもりですが、2023年くらいになりそうです。ただ日本版をやるとなると、これまでと同じ装幀ではだめだと思うし、僕たちだけではできないでしょう。現地でいろいろな人と仕事をする必要があります。なのでコロナが一段落して国境が開いたら、できるだけ早い段階で日本に移住するつもりです。 【注釈】注1 いわゆる海外から見た「変な/おかしな日本人」系のテーマを扱う記事のこと注2 ジャーナリスト、映像作家。著書に「Black Box」(2017年)がある。注3 写真家。沖縄出身。木村伊兵衛賞を2015年に受賞。従来とは違った沖縄像を打ち出したことで注目を浴びた。注4 2003年より森美術館館長を務める世界的キュレーター。現代アートにおいて、男女アーティスト間の格差を是正するための取り組みで知られる。注5 フランス語の出版物の各種権利を扱う代理店。注6 mookとはbookとmagazineから取られた造語。広告は少なく、装幀も凝ったものが多く一冊数千円する。フランスでは2008年創刊のXXIをはじめ、この種の媒体で発行部数数万を誇るものが複数ある。
例えばフランスでは男性間で衣服ですとかアクセサリーを褒めることはあまりないのですが、これは着る物に気を使うのは男らしくないという古い考えがどこかにあるからです。これに対し、日本では男性が同性の友人の服を褒めるのはごく普通のことです。両国間の差異によって、当たり前になっていて普段は気づかない自分たちの無意識の傾向が顕になるのです。
なのでTEMPURAのコンセプトとしては、たとえ日本の社会問題であっても、他の国の読者にも関わってくる普遍的なテーマを扱うことにしています。
これと同時に、ビジュアルの面でも読者にアピールするため、写真も自分たちで選んだアーティストを使ってしっかりしたものを載せることを心がけています。優秀な記者を使って真面目なテーマを扱いながら、装幀もきちんとしたかっこいい雑誌を作ろうというのが当初の目的でした。
――記事について、即身仏や女子プロレス、日本のフェミニズムの歴史から小笠原諸島の欧米系住民に関するルポまで、日本人でさえあまり詳しく知らないテーマが多いのですが、どうやって決めているのですか?
記事のネタは僕が見つけてきたり、仕事をしている記者が持ち込んできたり、あるいは相談して決めたりいろいろですね。傾向としては芸者、ロボット、性に関するいわゆる「ウィアードジャパン(注1)」のような、ステレオタイプにはまらないようにしています。
残念ながらフランスでは、ちゃんとしたメディアでもこういったテーマを取り上げてしまうことが多いので…。日本やアジアに関しては特にこういうエキゾチシズム、もっというとレイシズム的な見方がまだ残っていて、とんでもない言説が依然としてまかり通ってしまっている現状があります。ですのでフランスとの単純比較を避けて、社会構造や歴史に重点を置きつつ、あくまで等身大の日本を見せることを心がけています。
その結果、セクシュアルマイノリティーや、社会における女性の地位、地方の問題など、どの国にもある普遍的な事象に言及することが多いです。僕がいつも興味深いと思うのは、ジャーナリストの伊藤詩織(注2)さんですとか、写真家の石川竜一(注3)さん、あるいは森美術館館長の片岡真美(注4)さんのように、個人で社会をより良くするために努力変えようとしている人たちについての話ですね。
ジャーナリストの伊藤詩織さん[Photo by gettyimages]
フランスでは日本は同質的な社会だと思われがちですが、全然そんなことはなくて、非常に多様な国だということを教えてくれます。日本の多様性を紹介するというのも、僕が本当にやりたかったことの一つです。一緒に仕事をする記者の中には、ルモンド紙などすでに他の媒体で特派員として書いている人も多いのですが、彼らのTEMPURAへの反応も非常に良いです。多分彼らも、フランスメディアが今までやってこなかったこのようなネタを発表する場所を探していたのではないでしょうか。――もうひとつ、TEMPURAの強みは、川上未映子さんや平野啓一郎さんなど、著名な作家の短編小説を載せていることがあると思うのですが、これはどうやって思いついたのですか?僕は文学が大好きなので、才能にあふれた現代の日本の作家を紹介したいと思ったのがきっかけです。これらの短編のうちいくつかは、うちの雑誌にしか載せていません。彼らのアシスタントや、出版社、フランス著作権事務所(注5)にコネがあるので、そのおかげで掲載できました。こちらがちゃんとした媒体で、彼らの作品をフランス語で紹介したいという思いがあることを説明すれれば、作家の方も比較的すぐ協力してくれます。あとは一度有名な作家の方の短編を載せることができれば、雑誌への信用度が高まって、次からは初回ほど難しくはありません。日本のフェミニズムを特集したTEMPURA 7号 ――そもそもパシャさんはなぜ日本に興味を持ったのですか?実は僕はキューバで生まれてフランスで育ちました。当時キューバで住んでいた家の近所に、漁師に漁業の技術を教えにきていた日本人の家族がいたのです。僕の日本との出会いはここまで遡るのですが、2003年に日本に初めて旅行で行く機会がありフランスと違って日常生活のもろもろが非常に摩擦なく、スムーズに行くことにびっくりしました。これは日本を訪れたフランス人にありがちな感想なのですが、例えば電車が時間通りに来るとか、飲食店でのサービスの質ですとかが、非常に印象に残っています。この経験によって、日本はとても穏やかで安心できる国という印象を持ったので、この国への好奇心が更に刺激されました。この好奇心を満たすため、大学では人類学を専攻し、戦後日本におけるサラリーマン像について研究しました。結局一つの分野でずっと同じ内容を研究することに自分が向いていないと気がついて、博士課程の途中でやめましたが。なぜ「TEMPURA」なのか?――日本人からすると、「テンプラ」というのは食べ物の名前ですが、なぜこの言葉を雑誌名に選んだのですか?天ぷらというものには非常に面白い歴史があって、もともとは海外との交流にあまり積極的でなかった中世の日本に、ポルトガル人の宣教師が持ち込んだ食べ物でした。この話はとても象徴的だと僕は思っていて、つまり国境が閉まっていても、アイデアとか文化というのはそれを乗り越えて普及していくわけです。日本文化に関するフランス語の雑誌TEMPURAも、食べ物としての天ぷらの歴史に重なる、2つの国の架け橋のような存在になりたいということで、この名前をつけました。 ――この雑誌の読者にはどのような人がいるのですか?TEMPURAの読者は3つのカテゴリーに分けられます。まず一つ目は、漫画とかアニメが好きな、いわゆる「日本のファン」の人たち。それからフランスにはムック(注6)という本と雑誌の中間に当たるような媒体の市場があるのですが、ここの読者が二つ目。具体的には、長いルポルタージュや読み応えのある調査報道を、舞台となる国に関係なく好んで読む人たちです。だからこの人たちは、TEMPURAを読むことで日本のさまざまな問題を新たに認識していると思います。三つ目としては、僕らは日本のアーティスト、工芸家や写真家についての記事を載せることが多いので、必ずしも日本に詳しくなくてもこういう分野に興味がある人たち。読者の男女比は大体半々で、平均年齢は30~40代ですね。地理的に言うと、最初は読者がもっとパリに偏ると思ったのですが、意外とフランス全土で読まれています。あとはイタリアやアメリカ、カナダとかベルギーといった国にも読者がいます。――1冊15ユーロ(11月末のレートで1940円)、発行部数は5万部とのことですが、収益モデルはどうなっているんですか?定期購読している読者が5000人から6000人います。あとはキオスクや本屋、インターネットでも販売しています。これで大体5万部のうち6割から7割は売れます。収益モデルですが、雑誌の販売による売上が8割、残り1割が広告収入ですね。1冊で164ページあるのですが、広告は大体3から5ページくらいです。最近はコロナの影響もあって、広告を出す企業も雑誌に対して出稿を渋ることが多いので、できれば読者が払ってくれるお金だけでやっていきたいというのが僕の夢です。編集長としての仕事に集中できますしね。TEMPURA 6号の表紙 ゆくゆくは“日本語版”も出版したみたい――ご存じの通りフランスではメディア業界はずっと不況で、TEMPURAのような独立系雑誌ができてはつぶれるというのが繰り返されているのですが、立ち上げの時に不安というのはなかったのですか?もちろんありましたよ。うまくいくかもしれないというのは勘で感じていましたが、保証も何もありませんでした。だから創刊号が発行されて、キオスクで人がTEMPURAを買っているのを見た時は妙な気持ちでした。フランスではコロナによるロックダウンでキオスクと本屋が閉まっていた時期があって、雑誌の売り場がなくなってしまったので大変だったのですが、なんとか読者のおかげで生き残れました。この結果には正直自分自身も驚いています。――すでに7号が発売され、今年で創刊3年目に入りますが、今後やりたいことはありますか?まず今年初頭に、日本の食に関する初めての別冊を翻訳家の関口涼子さんと一緒に出します。ここでも、従来フランスで紹介されている寿司や懐石料理といったアングルとは別の視点から取り組みたいと思っています。あとは日本の現代文学に関する別冊もやりたいですね。今年中を目処に、より大きなマーケットにアクセスするために英語版も出したいと考えています。日本版も発行するつもりですが、2023年くらいになりそうです。ただ日本版をやるとなると、これまでと同じ装幀ではだめだと思うし、僕たちだけではできないでしょう。現地でいろいろな人と仕事をする必要があります。なのでコロナが一段落して国境が開いたら、できるだけ早い段階で日本に移住するつもりです。 【注釈】注1 いわゆる海外から見た「変な/おかしな日本人」系のテーマを扱う記事のこと注2 ジャーナリスト、映像作家。著書に「Black Box」(2017年)がある。注3 写真家。沖縄出身。木村伊兵衛賞を2015年に受賞。従来とは違った沖縄像を打ち出したことで注目を浴びた。注4 2003年より森美術館館長を務める世界的キュレーター。現代アートにおいて、男女アーティスト間の格差を是正するための取り組みで知られる。注5 フランス語の出版物の各種権利を扱う代理店。注6 mookとはbookとmagazineから取られた造語。広告は少なく、装幀も凝ったものが多く一冊数千円する。フランスでは2008年創刊のXXIをはじめ、この種の媒体で発行部数数万を誇るものが複数ある。
フランスでは日本は同質的な社会だと思われがちですが、全然そんなことはなくて、非常に多様な国だということを教えてくれます。日本の多様性を紹介するというのも、僕が本当にやりたかったことの一つです。
一緒に仕事をする記者の中には、ルモンド紙などすでに他の媒体で特派員として書いている人も多いのですが、彼らのTEMPURAへの反応も非常に良いです。多分彼らも、フランスメディアが今までやってこなかったこのようなネタを発表する場所を探していたのではないでしょうか。
――もうひとつ、TEMPURAの強みは、川上未映子さんや平野啓一郎さんなど、著名な作家の短編小説を載せていることがあると思うのですが、これはどうやって思いついたのですか?
僕は文学が大好きなので、才能にあふれた現代の日本の作家を紹介したいと思ったのがきっかけです。これらの短編のうちいくつかは、うちの雑誌にしか載せていません。彼らのアシスタントや、出版社、フランス著作権事務所(注5)にコネがあるので、そのおかげで掲載できました。
こちらがちゃんとした媒体で、彼らの作品をフランス語で紹介したいという思いがあることを説明すれれば、作家の方も比較的すぐ協力してくれます。あとは一度有名な作家の方の短編を載せることができれば、雑誌への信用度が高まって、次からは初回ほど難しくはありません。
日本のフェミニズムを特集したTEMPURA 7号
――そもそもパシャさんはなぜ日本に興味を持ったのですか?実は僕はキューバで生まれてフランスで育ちました。当時キューバで住んでいた家の近所に、漁師に漁業の技術を教えにきていた日本人の家族がいたのです。僕の日本との出会いはここまで遡るのですが、2003年に日本に初めて旅行で行く機会がありフランスと違って日常生活のもろもろが非常に摩擦なく、スムーズに行くことにびっくりしました。これは日本を訪れたフランス人にありがちな感想なのですが、例えば電車が時間通りに来るとか、飲食店でのサービスの質ですとかが、非常に印象に残っています。この経験によって、日本はとても穏やかで安心できる国という印象を持ったので、この国への好奇心が更に刺激されました。この好奇心を満たすため、大学では人類学を専攻し、戦後日本におけるサラリーマン像について研究しました。結局一つの分野でずっと同じ内容を研究することに自分が向いていないと気がついて、博士課程の途中でやめましたが。なぜ「TEMPURA」なのか?――日本人からすると、「テンプラ」というのは食べ物の名前ですが、なぜこの言葉を雑誌名に選んだのですか?天ぷらというものには非常に面白い歴史があって、もともとは海外との交流にあまり積極的でなかった中世の日本に、ポルトガル人の宣教師が持ち込んだ食べ物でした。この話はとても象徴的だと僕は思っていて、つまり国境が閉まっていても、アイデアとか文化というのはそれを乗り越えて普及していくわけです。日本文化に関するフランス語の雑誌TEMPURAも、食べ物としての天ぷらの歴史に重なる、2つの国の架け橋のような存在になりたいということで、この名前をつけました。 ――この雑誌の読者にはどのような人がいるのですか?TEMPURAの読者は3つのカテゴリーに分けられます。まず一つ目は、漫画とかアニメが好きな、いわゆる「日本のファン」の人たち。それからフランスにはムック(注6)という本と雑誌の中間に当たるような媒体の市場があるのですが、ここの読者が二つ目。具体的には、長いルポルタージュや読み応えのある調査報道を、舞台となる国に関係なく好んで読む人たちです。だからこの人たちは、TEMPURAを読むことで日本のさまざまな問題を新たに認識していると思います。三つ目としては、僕らは日本のアーティスト、工芸家や写真家についての記事を載せることが多いので、必ずしも日本に詳しくなくてもこういう分野に興味がある人たち。読者の男女比は大体半々で、平均年齢は30~40代ですね。地理的に言うと、最初は読者がもっとパリに偏ると思ったのですが、意外とフランス全土で読まれています。あとはイタリアやアメリカ、カナダとかベルギーといった国にも読者がいます。――1冊15ユーロ(11月末のレートで1940円)、発行部数は5万部とのことですが、収益モデルはどうなっているんですか?定期購読している読者が5000人から6000人います。あとはキオスクや本屋、インターネットでも販売しています。これで大体5万部のうち6割から7割は売れます。収益モデルですが、雑誌の販売による売上が8割、残り1割が広告収入ですね。1冊で164ページあるのですが、広告は大体3から5ページくらいです。最近はコロナの影響もあって、広告を出す企業も雑誌に対して出稿を渋ることが多いので、できれば読者が払ってくれるお金だけでやっていきたいというのが僕の夢です。編集長としての仕事に集中できますしね。TEMPURA 6号の表紙 ゆくゆくは“日本語版”も出版したみたい――ご存じの通りフランスではメディア業界はずっと不況で、TEMPURAのような独立系雑誌ができてはつぶれるというのが繰り返されているのですが、立ち上げの時に不安というのはなかったのですか?もちろんありましたよ。うまくいくかもしれないというのは勘で感じていましたが、保証も何もありませんでした。だから創刊号が発行されて、キオスクで人がTEMPURAを買っているのを見た時は妙な気持ちでした。フランスではコロナによるロックダウンでキオスクと本屋が閉まっていた時期があって、雑誌の売り場がなくなってしまったので大変だったのですが、なんとか読者のおかげで生き残れました。この結果には正直自分自身も驚いています。――すでに7号が発売され、今年で創刊3年目に入りますが、今後やりたいことはありますか?まず今年初頭に、日本の食に関する初めての別冊を翻訳家の関口涼子さんと一緒に出します。ここでも、従来フランスで紹介されている寿司や懐石料理といったアングルとは別の視点から取り組みたいと思っています。あとは日本の現代文学に関する別冊もやりたいですね。今年中を目処に、より大きなマーケットにアクセスするために英語版も出したいと考えています。日本版も発行するつもりですが、2023年くらいになりそうです。ただ日本版をやるとなると、これまでと同じ装幀ではだめだと思うし、僕たちだけではできないでしょう。現地でいろいろな人と仕事をする必要があります。なのでコロナが一段落して国境が開いたら、できるだけ早い段階で日本に移住するつもりです。 【注釈】注1 いわゆる海外から見た「変な/おかしな日本人」系のテーマを扱う記事のこと注2 ジャーナリスト、映像作家。著書に「Black Box」(2017年)がある。注3 写真家。沖縄出身。木村伊兵衛賞を2015年に受賞。従来とは違った沖縄像を打ち出したことで注目を浴びた。注4 2003年より森美術館館長を務める世界的キュレーター。現代アートにおいて、男女アーティスト間の格差を是正するための取り組みで知られる。注5 フランス語の出版物の各種権利を扱う代理店。注6 mookとはbookとmagazineから取られた造語。広告は少なく、装幀も凝ったものが多く一冊数千円する。フランスでは2008年創刊のXXIをはじめ、この種の媒体で発行部数数万を誇るものが複数ある。
――そもそもパシャさんはなぜ日本に興味を持ったのですか?
実は僕はキューバで生まれてフランスで育ちました。当時キューバで住んでいた家の近所に、漁師に漁業の技術を教えにきていた日本人の家族がいたのです。僕の日本との出会いはここまで遡るのですが、2003年に日本に初めて旅行で行く機会がありフランスと違って日常生活のもろもろが非常に摩擦なく、スムーズに行くことにびっくりしました。
これは日本を訪れたフランス人にありがちな感想なのですが、例えば電車が時間通りに来るとか、飲食店でのサービスの質ですとかが、非常に印象に残っています。この経験によって、日本はとても穏やかで安心できる国という印象を持ったので、この国への好奇心が更に刺激されました。
この好奇心を満たすため、大学では人類学を専攻し、戦後日本におけるサラリーマン像について研究しました。結局一つの分野でずっと同じ内容を研究することに自分が向いていないと気がついて、博士課程の途中でやめましたが。
――日本人からすると、「テンプラ」というのは食べ物の名前ですが、なぜこの言葉を雑誌名に選んだのですか?
天ぷらというものには非常に面白い歴史があって、もともとは海外との交流にあまり積極的でなかった中世の日本に、ポルトガル人の宣教師が持ち込んだ食べ物でした。
この話はとても象徴的だと僕は思っていて、つまり国境が閉まっていても、アイデアとか文化というのはそれを乗り越えて普及していくわけです。日本文化に関するフランス語の雑誌TEMPURAも、食べ物としての天ぷらの歴史に重なる、2つの国の架け橋のような存在になりたいということで、この名前をつけました。
――この雑誌の読者にはどのような人がいるのですか?TEMPURAの読者は3つのカテゴリーに分けられます。まず一つ目は、漫画とかアニメが好きな、いわゆる「日本のファン」の人たち。それからフランスにはムック(注6)という本と雑誌の中間に当たるような媒体の市場があるのですが、ここの読者が二つ目。具体的には、長いルポルタージュや読み応えのある調査報道を、舞台となる国に関係なく好んで読む人たちです。だからこの人たちは、TEMPURAを読むことで日本のさまざまな問題を新たに認識していると思います。三つ目としては、僕らは日本のアーティスト、工芸家や写真家についての記事を載せることが多いので、必ずしも日本に詳しくなくてもこういう分野に興味がある人たち。読者の男女比は大体半々で、平均年齢は30~40代ですね。地理的に言うと、最初は読者がもっとパリに偏ると思ったのですが、意外とフランス全土で読まれています。あとはイタリアやアメリカ、カナダとかベルギーといった国にも読者がいます。――1冊15ユーロ(11月末のレートで1940円)、発行部数は5万部とのことですが、収益モデルはどうなっているんですか?定期購読している読者が5000人から6000人います。あとはキオスクや本屋、インターネットでも販売しています。これで大体5万部のうち6割から7割は売れます。収益モデルですが、雑誌の販売による売上が8割、残り1割が広告収入ですね。1冊で164ページあるのですが、広告は大体3から5ページくらいです。最近はコロナの影響もあって、広告を出す企業も雑誌に対して出稿を渋ることが多いので、できれば読者が払ってくれるお金だけでやっていきたいというのが僕の夢です。編集長としての仕事に集中できますしね。TEMPURA 6号の表紙 ゆくゆくは“日本語版”も出版したみたい――ご存じの通りフランスではメディア業界はずっと不況で、TEMPURAのような独立系雑誌ができてはつぶれるというのが繰り返されているのですが、立ち上げの時に不安というのはなかったのですか?もちろんありましたよ。うまくいくかもしれないというのは勘で感じていましたが、保証も何もありませんでした。だから創刊号が発行されて、キオスクで人がTEMPURAを買っているのを見た時は妙な気持ちでした。フランスではコロナによるロックダウンでキオスクと本屋が閉まっていた時期があって、雑誌の売り場がなくなってしまったので大変だったのですが、なんとか読者のおかげで生き残れました。この結果には正直自分自身も驚いています。――すでに7号が発売され、今年で創刊3年目に入りますが、今後やりたいことはありますか?まず今年初頭に、日本の食に関する初めての別冊を翻訳家の関口涼子さんと一緒に出します。ここでも、従来フランスで紹介されている寿司や懐石料理といったアングルとは別の視点から取り組みたいと思っています。あとは日本の現代文学に関する別冊もやりたいですね。今年中を目処に、より大きなマーケットにアクセスするために英語版も出したいと考えています。日本版も発行するつもりですが、2023年くらいになりそうです。ただ日本版をやるとなると、これまでと同じ装幀ではだめだと思うし、僕たちだけではできないでしょう。現地でいろいろな人と仕事をする必要があります。なのでコロナが一段落して国境が開いたら、できるだけ早い段階で日本に移住するつもりです。 【注釈】注1 いわゆる海外から見た「変な/おかしな日本人」系のテーマを扱う記事のこと注2 ジャーナリスト、映像作家。著書に「Black Box」(2017年)がある。注3 写真家。沖縄出身。木村伊兵衛賞を2015年に受賞。従来とは違った沖縄像を打ち出したことで注目を浴びた。注4 2003年より森美術館館長を務める世界的キュレーター。現代アートにおいて、男女アーティスト間の格差を是正するための取り組みで知られる。注5 フランス語の出版物の各種権利を扱う代理店。注6 mookとはbookとmagazineから取られた造語。広告は少なく、装幀も凝ったものが多く一冊数千円する。フランスでは2008年創刊のXXIをはじめ、この種の媒体で発行部数数万を誇るものが複数ある。
――この雑誌の読者にはどのような人がいるのですか?
TEMPURAの読者は3つのカテゴリーに分けられます。まず一つ目は、漫画とかアニメが好きな、いわゆる「日本のファン」の人たち。
それからフランスにはムック(注6)という本と雑誌の中間に当たるような媒体の市場があるのですが、ここの読者が二つ目。具体的には、長いルポルタージュや読み応えのある調査報道を、舞台となる国に関係なく好んで読む人たちです。だからこの人たちは、TEMPURAを読むことで日本のさまざまな問題を新たに認識していると思います。
三つ目としては、僕らは日本のアーティスト、工芸家や写真家についての記事を載せることが多いので、必ずしも日本に詳しくなくてもこういう分野に興味がある人たち。読者の男女比は大体半々で、平均年齢は30~40代ですね。地理的に言うと、最初は読者がもっとパリに偏ると思ったのですが、意外とフランス全土で読まれています。あとはイタリアやアメリカ、カナダとかベルギーといった国にも読者がいます。
――1冊15ユーロ(11月末のレートで1940円)、発行部数は5万部とのことですが、収益モデルはどうなっているんですか?
定期購読している読者が5000人から6000人います。あとはキオスクや本屋、インターネットでも販売しています。これで大体5万部のうち6割から7割は売れます。収益モデルですが、雑誌の販売による売上が8割、残り1割が広告収入ですね。
1冊で164ページあるのですが、広告は大体3から5ページくらいです。最近はコロナの影響もあって、広告を出す企業も雑誌に対して出稿を渋ることが多いので、できれば読者が払ってくれるお金だけでやっていきたいというのが僕の夢です。編集長としての仕事に集中できますしね。
TEMPURA 6号の表紙
ゆくゆくは“日本語版”も出版したみたい――ご存じの通りフランスではメディア業界はずっと不況で、TEMPURAのような独立系雑誌ができてはつぶれるというのが繰り返されているのですが、立ち上げの時に不安というのはなかったのですか?もちろんありましたよ。うまくいくかもしれないというのは勘で感じていましたが、保証も何もありませんでした。だから創刊号が発行されて、キオスクで人がTEMPURAを買っているのを見た時は妙な気持ちでした。フランスではコロナによるロックダウンでキオスクと本屋が閉まっていた時期があって、雑誌の売り場がなくなってしまったので大変だったのですが、なんとか読者のおかげで生き残れました。この結果には正直自分自身も驚いています。――すでに7号が発売され、今年で創刊3年目に入りますが、今後やりたいことはありますか?まず今年初頭に、日本の食に関する初めての別冊を翻訳家の関口涼子さんと一緒に出します。ここでも、従来フランスで紹介されている寿司や懐石料理といったアングルとは別の視点から取り組みたいと思っています。あとは日本の現代文学に関する別冊もやりたいですね。今年中を目処に、より大きなマーケットにアクセスするために英語版も出したいと考えています。日本版も発行するつもりですが、2023年くらいになりそうです。ただ日本版をやるとなると、これまでと同じ装幀ではだめだと思うし、僕たちだけではできないでしょう。現地でいろいろな人と仕事をする必要があります。なのでコロナが一段落して国境が開いたら、できるだけ早い段階で日本に移住するつもりです。 【注釈】注1 いわゆる海外から見た「変な/おかしな日本人」系のテーマを扱う記事のこと注2 ジャーナリスト、映像作家。著書に「Black Box」(2017年)がある。注3 写真家。沖縄出身。木村伊兵衛賞を2015年に受賞。従来とは違った沖縄像を打ち出したことで注目を浴びた。注4 2003年より森美術館館長を務める世界的キュレーター。現代アートにおいて、男女アーティスト間の格差を是正するための取り組みで知られる。注5 フランス語の出版物の各種権利を扱う代理店。注6 mookとはbookとmagazineから取られた造語。広告は少なく、装幀も凝ったものが多く一冊数千円する。フランスでは2008年創刊のXXIをはじめ、この種の媒体で発行部数数万を誇るものが複数ある。
――ご存じの通りフランスではメディア業界はずっと不況で、TEMPURAのような独立系雑誌ができてはつぶれるというのが繰り返されているのですが、立ち上げの時に不安というのはなかったのですか?
もちろんありましたよ。うまくいくかもしれないというのは勘で感じていましたが、保証も何もありませんでした。だから創刊号が発行されて、キオスクで人がTEMPURAを買っているのを見た時は妙な気持ちでした。
フランスではコロナによるロックダウンでキオスクと本屋が閉まっていた時期があって、雑誌の売り場がなくなってしまったので大変だったのですが、なんとか読者のおかげで生き残れました。この結果には正直自分自身も驚いています。
――すでに7号が発売され、今年で創刊3年目に入りますが、今後やりたいことはありますか?
まず今年初頭に、日本の食に関する初めての別冊を翻訳家の関口涼子さんと一緒に出します。ここでも、従来フランスで紹介されている寿司や懐石料理といったアングルとは別の視点から取り組みたいと思っています。
あとは日本の現代文学に関する別冊もやりたいですね。今年中を目処に、より大きなマーケットにアクセスするために英語版も出したいと考えています。日本版も発行するつもりですが、2023年くらいになりそうです。
ただ日本版をやるとなると、これまでと同じ装幀ではだめだと思うし、僕たちだけではできないでしょう。現地でいろいろな人と仕事をする必要があります。なのでコロナが一段落して国境が開いたら、できるだけ早い段階で日本に移住するつもりです。
【注釈】注1 いわゆる海外から見た「変な/おかしな日本人」系のテーマを扱う記事のこと注2 ジャーナリスト、映像作家。著書に「Black Box」(2017年)がある。注3 写真家。沖縄出身。木村伊兵衛賞を2015年に受賞。従来とは違った沖縄像を打ち出したことで注目を浴びた。注4 2003年より森美術館館長を務める世界的キュレーター。現代アートにおいて、男女アーティスト間の格差を是正するための取り組みで知られる。注5 フランス語の出版物の各種権利を扱う代理店。注6 mookとはbookとmagazineから取られた造語。広告は少なく、装幀も凝ったものが多く一冊数千円する。フランスでは2008年創刊のXXIをはじめ、この種の媒体で発行部数数万を誇るものが複数ある。
【注釈】注1 いわゆる海外から見た「変な/おかしな日本人」系のテーマを扱う記事のこと注2 ジャーナリスト、映像作家。著書に「Black Box」(2017年)がある。注3 写真家。沖縄出身。木村伊兵衛賞を2015年に受賞。従来とは違った沖縄像を打ち出したことで注目を浴びた。注4 2003年より森美術館館長を務める世界的キュレーター。現代アートにおいて、男女アーティスト間の格差を是正するための取り組みで知られる。注5 フランス語の出版物の各種権利を扱う代理店。注6 mookとはbookとmagazineから取られた造語。広告は少なく、装幀も凝ったものが多く一冊数千円する。フランスでは2008年創刊のXXIをはじめ、この種の媒体で発行部数数万を誇るものが複数ある。