限界集落に「世界一美しいコンビニ」、詰めかける観光客…住民「元気が戻った」

徳島県の山深くにある限界集落のコンビニエンスストアに、世界の注目が集まっている。
豊かな自然をいかした建物のデザインと、過疎問題の解決を目指す理念が評価され、世界3大デザイン賞の一つで最高賞を受賞。「世界一美しいコンビニ」を見ようと多くの観光客が訪れ、集落ににぎわいが戻っている。

徳島市から車で約2時間半、標高1000メートル超の山々に囲まれた那賀町木頭(きとう)地区に「未来コンビニ」はある。
店内外に立ち並ぶ鮮やかな黄色のY字形の柱は、特産の「木頭ゆず」の幹や枝をイメージ。天井の高さは3・8メートル、幅20メートルの壁一面に大きなガラスが張られ、店内にいながら、降り注ぐ日差しや雨音を感じられる。
店内には市販の食料品や日用品のほか、木頭ゆずで作ったポン酢などの特産品も並ぶ。商品棚は、子どもやお年寄りも手に取りやすいよう通常より低く作られ、併設されたカフェは住民の憩いの場になっている。
週末には駐車場に県外ナンバーの車やバイクが並び、地区に暮らす女性(69)は「木頭に元気が戻った」と目を細める。

木頭地区は、過疎化が急激に進んでいる。合併前の木頭村だった1965年に4000人を超えていた人口は約1000人に減り、65歳以上の高齢者が人口の58%に上っている。最寄りのスーパーまで車で1時間かかり、週1、2回巡回してくる移動スーパーに頼る高齢者も多かった。
未来コンビニは、そうした「買い物難民」対策として、地区出身で、電子書籍を手がけるIT企業「メディアドゥ」(東証1部上場、東京)の藤田恭嗣社長(48)が発案。廃校になった学校跡地を町から10年間無償で借り受け、2020年4月にオープンした。
藤田氏は13年以降、地区に木頭ゆずの加工販売に取り組む会社を設立するなどふるさとの再生に取り組んできた。コンビニの目的は「便利さ」だけでない。地区内外の人が交流し、刺激を受けた子どもたちが「未来」に希望を持てるようにとの願いも込めた。
そのデザインと理念が高く評価され、昨年8月、世界3大デザイン賞の一つとされるドイツの「レッド・ドットデザイン賞」リテール(小売り)デザイン部門で、最高賞を受賞。11月にも、国内で最も権威のある「日本空間デザイン賞」で全部門を通じてのグランプリに選ばれ、これまで国内外で「10冠」に輝いた。

デザインを担当した「コクヨ」(大阪市)の佐藤航さん(42)は「限界集落でも『誰ひとり取り残さない』という持続可能な概念が評価されたのだろう」と話す。
受賞後、県内外から観光客が訪れ、オープンから昨年11月までの来店客は延べ約5万2000人に上る。
都会のコンビニと違い、多くの住民と店員は顔見知りだ。「キノコが採れた」と差し入れに訪れる住民も。カフェスペースには子ども向けの絵本が並び、親子でくつろげる。店長の小畑賀史さん(37)は「子どもが集まると、お年寄りも集まり、笑顔があふれる」と話す。
学校の遠足や体験学習の場にもなっている。昨年11月に町外から体験学習で訪れた県立名西高1年の女子生徒(16)は「もし自分が育った町にこんなすてきなお店があれば、誇りを持てると思う」と話す。
広島市出身で地域おこし協力隊を経て移住した同店マネジャーの植木弥生さん(39)は「人と人がつながる世界で唯一のコンビニ。ここで育った子どもたちに木頭の未来をつくってほしい」と願っている。(坂下結子)